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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062676
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】アンテナモジュール
(51)【国際特許分類】
   H01Q 23/00 20060101AFI20240501BHJP
   H01Q 1/52 20060101ALI20240501BHJP
   H01Q 13/08 20060101ALI20240501BHJP
   H01Q 21/06 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
H01Q23/00
H01Q1/52
H01Q13/08
H01Q21/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170676
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】手塚 謙一
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 青空
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼根 晋
(72)【発明者】
【氏名】二俣 陽介
(72)【発明者】
【氏名】深沢 康文
【テーマコード(参考)】
5J021
5J045
5J046
【Fターム(参考)】
5J021AA02
5J021AB06
5J021FA23
5J021JA08
5J045AA27
5J045AB02
5J045DA10
5J046AA06
5J046AB13
5J046UA03
(57)【要約】
【課題】良好な外観を有するアンテナモジュールを提供する。
【解決手段】アンテナモジュール1によれば、給電電極13H,13Vを備える誘電体層2の外層側に、高い破壊靱性値を有する誘電体層3(又は誘電体層4)を配置することができる。高い破壊靱性値を有する材料は、亀裂が進展しにくい材料である。従って、アンテナモジュール1の外層側には、チッピング等が発生しにくい誘電体層を配置することができる。従って、チッピング等を抑制して、アンテナモジュールの外観を良好にすることができる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1の放射電極、及び前記第1の放射電極と結合する第1の給電電極を備えるアンテナモジュールであって、
前記第1の給電電極を備える第1の誘電体層と、
前記第1の給電電極の厚み方向における、前記第1の誘電体層の一方側に配置される第2の誘電体層と、を備え、
前記第2の誘電体層の破壊靱性値は、前記第1の誘電体層の破壊靱性値より大きい、アンテナモジュール。
【請求項2】
前記第2の誘電体層のヤング率は、第1の誘電体層のヤング率より大きい、請求項1に記載のアンテナモジュール。
【請求項3】
前記第1の給電電極よりも前記厚み方向における他方側に配置されるグランド電極を更に備える、請求項1に記載のアンテナモジュール。
【請求項4】
前記第1の放射電極は、前記第2の誘電体層に配置される、請求項1に記載のアンテナモジュール。
【請求項5】
前記第1の放射電極は、前記第1の誘電体層の前記一方側の主面上に配置され、前記第2の誘電体層で覆われている、請求項1に記載のアンテナモジュール。
【請求項6】
前記厚み方向における前記第1の誘電体層の他方側に配置される第3の誘電体層を更に備える、請求項1に記載のアンテナモジュール。
【請求項7】
前記第3の誘電体層は、フィルタ回路パターンを有する、請求項6に記載のアンテナモジュール。
【請求項8】
前記第3の誘電体層の破壊靭性値は、前記第1の誘電体層の破壊靭性値より大きい、請求項6に記載のアンテナモジュール。
【請求項9】
前記第3の誘電体層のヤング率は、前記第1の誘電体層のヤング率より大きい、請求項6に記載のアンテナモジュール。
【請求項10】
前記第1の放射電極、及び前記第1の給電電極の周囲に配置される複数の柱状のグランド導体を備える、請求項1に記載のアンテナモジュール。
【請求項11】
前記複数のグランド導体の前記厚み方向における前記一方側の端部は、前記第2の誘電体層に覆われている、請求項10に記載のアンテナモジュール。
【請求項12】
第2の放射電極、及び前記第2の放射電極と結合する第2の給電電極を更に備え、
前記第1の誘電体層は、前記第2の給電電極を有する、請求項1に記載のアンテナモジュール。
【請求項13】
前記厚み方向における前記第1の誘電体層の他方側に配置される第3の誘電体層を更に備え、
前記第1の誘電体層は、前記第1の給電電極及び前記第2の給電電極と、前記第3の誘電体層との間に分配回路パターンを有する、請求項12に記載のアンテナモジュール。
【請求項14】
前記第2の誘電体層と前記第3の誘電体層は、同じ誘電体から構成される、請求項6に記載のアンテナモジュール。
【請求項15】
前記第1の誘電体層、前記第2の誘電体層、及び前記第3の誘電体層は、低温焼成セラミックから構成される、請求項6に記載のアンテナモジュール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アンテナモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アンテナモジュールとして、特許文献1に記載されたものが知られている。このアンテナモジュールは、給電電極が設けられた誘電体層と、他の回路(ハイパスフィルタ回路)が設けられた誘電体層と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2018/074377号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述のようなアンテナモジュールにおいては、誘電体層にチッピング等が発生することで、外観が損なわれるという問題が生じる。
【0005】
そこで、本開示は、良好な外観を有するアンテナモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係るアンテナモジュールは、少なくとも第1の放射電極、及び第1の放射電極と結合する第1の給電電極を備えるアンテナモジュールであって、第1の給電電極を備える第1の誘電体層と、第1の給電電極の厚み方向における、第1の誘電体層の一方側に配置される第2の誘電体層と、を備え、第2の誘電体層の破壊靱性値は、第1の誘電体層の破壊靱性値より大きい。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一側面によれば、良好な外観を有するアンテナモジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施形態によるアンテナモジュールの外観を示す略斜視図である。
図2】本開示の一実施形態によるアンテナモジュールの外観を示す略斜視図である。
図3】本実施形態によるアンテナモジュールの内部構造を説明するための模式図である。
図4】アンテナモジュールから誘電体層を削除した状態を示す略斜視図である。
図5】放電電極及び給電電極付近の様子を示す断面図である。
図6】誘電体層の層構成を示す概略断面図である。
図7】誘電体層の層構成を示す概略断面図である。
図8】各誘電体層に用いる誘電体の特性を示す表である。
図9】各誘電体層に用いる誘電体のチッピングの様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0010】
図1は、本開示の一実施形態によるアンテナモジュール1の外観を示す略斜視図であり、放射面側から見た状態を示している。図2は、本開示の一実施形態によるアンテナモジュール1の外観を示す略斜視図であり、実装面側から見た状態を示している。 図3は、アンテナモジュール1の内部構造を説明するための模式図であり、マザーボード5に実装した状態を模式的に示している。図4は、アンテナモジュール1から誘電体層2~4を削除した状態を示す略斜視図である。
【0011】
以下、添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。
【0012】
図1及び図2は、本開示の一実施形態によるアンテナモジュール1の外観を示す略斜視図であり、図1は放射面側から見た状態、図2は実装面側から見た状態を示している。
【0013】
図1及び図2に示すように、本実施形態によるアンテナモジュール1は、アンテナ層ANTと、フィルタ層FILと、フィルタ層FILとアンテナ層ANTの間に積層された分配層DIVとを有している。
【0014】
アンテナ層ANTは、誘電体層2,3と、誘電体層3に埋め込まれた放射電極10A(第1の放射電極),放射電極10B(第2の放射電極)を有している。本実施形態では、放射電極10A,10Bは、誘電体層3に配置される。また、アンテナ層ANTは、積層方向(z方向)から見た平面視で、放射電極10Aを取り囲む複数のグランド導体11Aと、放射電極10Bを取り囲む複数のグランド導体11Bを有している。グランド導体11A,11Bは、誘電体層2を貫通するよう、z方向に延在する柱状の導体である。複数のグランド導体11Aは、所定のxy平面にてリング状のグランドリング12Aに接続され、複数のグランド導体11Bは、所定のxy平面にてリング状のグランドリング12Bに接続されている。複数のグランド導体11A,11Bに囲まれた空間には、後述する給電電極が設けられる。このように、グランド導体11Aは、放射電極10A、及び給電電極13V,13Hの周囲に配置される。グランド導体11Bは、放射電極10B、及び給電電極14V,14Hの周囲に配置される。複数のグランド導体11A,11Bのz方向における正側の端部は、誘電体層3に覆われている。
【0015】
分配層DIVは、誘電体層2と、誘電体層2に埋め込まれた導体パターンによって構成される。フィルタ層FILは、誘電体層4と、誘電体層4に埋め込まれた導体パターンによって構成される。フィルタ層FIL及び分配層DIVの詳細については後述する。フィルタ層FILはマザーボードに対する実装面を構成する。実装面には、信号端子40V,40Hと、複数のグランド端子40Gが設けられている。信号端子40Vは垂直偏波のアンテナ信号を入出力するための端子であり、信号端子40Hは水平偏波のアンテナ信号を入出力するための端子である。グランド端子40Gにはグランド電位が与えられる。
【0016】
図3は、本実施形態によるアンテナモジュール1の内部構造を説明するための模式図であり、マザーボード5に実装した状態を模式的に示している。
【0017】
図3に示すように、フィルタ層FILと分配層DIVの間には、グランド電極G1が設けられ、分配層DIVとアンテナ層ANTの間には、グランド電極G2が設けられている。グランド電極G1は誘電体層4に埋め込まれている。グランド電極G2は、誘電体層4と誘電体層2の界面に設けられている。
【0018】
フィルタ層FILにはフィルタ回路パターン30Vが設けられている。フィルタ回路パターン30Vはバンドパスフィルタであり、信号端子40Vに接続される。フィルタ回路パターン30Vは、積層方向から見た平面視で複数のグランド導体31に取り囲まれている。グランド導体31は、誘電体層4を貫通するよう、z方向に延在する柱状の導体である。図3には示されていないが、フィルタ層FILには、信号端子40Hに接続された別のフィルタ回路パターンも含まれている。
【0019】
分配層DIVは、分配回路パターン20Vが設けられている。分配回路パターン20Vは、フィルタ回路パターン30Vから給電されるアンテナ信号を放射電極10A,10Bに分配する回路である。分配回路パターン20Vは、積層方向から見た平面視で複数のグランド導体21に取り囲まれている。グランド導体21は、誘電体層2を貫通するよう、z方向に延在する柱状の導体である。図3には示されていないが、分配層DIVには、別のフィルタ回路パターンに接続された別の分配回路パターンも含まれている。誘電体層2は、後述の給電電極13V,13H及び給電電極14V,14Hと、誘電体層4との間に分配回路パターン20Vを有する。
【0020】
図4は、アンテナモジュール1から誘電体層2~4を削除した状態を示す略斜視図である。
【0021】
図4に示すように、複数のグランド導体11Aに囲まれた空間には、z方向から見て放射電極10Aと重なる給電電極13V,13H(第1の給電電極)が設けられている。給電電極13V,13Hは、放射電極10Aと結合する。誘電体層2が、給電電極13V,13Hを有する。このうち、給電電極13Vはy方向を長手方向とする導体パターンであり、放射電極10Aに垂直偏波のアンテナ信号SVを供給する。一方、給電電極13Hはx方向を長手方向とする導体パターンであり、放射電極10Aに水平偏波のアンテナ信号SHを供給する。給電電極13V,13Hは、それぞれ導体パターンの一方の端部寄りの位置において、フィルタ回路パターン30V及び分配回路パターン20V(図3参照)を介してアンテナ信号が供給される。そのため、放射電極10Aに対する給電電極13Vの給電位置は、放射電極10Aに対する給電電極13Hの給電位置と90°異なっている。
【0022】
同様に、複数のグランド導体11Bに囲まれた空間には、z方向から見て放射電極10Bと重なる給電電極14V,14H(第2の給電電極)が設けられている。給電電極14V,14Hは、放射電極10Bと結合する。誘電体層2が、給電電極14V,14Hを有する。このうち、給電電極14Vはy方向を長手方向とする導体パターンであり、放射電極10Bに垂直偏波のアンテナ信号SVを供給する。一方、給電電極14Hはx方向を長手方向とする導体パターンであり、放射電極10Bに水平偏波のアンテナ信号SHを供給する。給電電極14V,14Hは、それぞれ導体パターンの一方の端部寄りの位置において、フィルタ回路パターン30及び分配回路パターン20V(図3参照)を介してアンテナ信号が供給される。そのため、放射電極10Bに対する給電電極14Vの給電位置は、放射電極10Bに対する給電電極14Hの給電位置と90°異なっている。
【0023】
アンテナ層ANTの下方には、大面積のグランド電極G1~G3が設けられている。グランド電極G1~G3は、給電電極13V,13H及び給電電極14V,14Hよりもz軸方向の負側に配置される。グランド電極G1とグランド電極G2に挟まれた領域は分配層DIVである。グランド電極G1とグランド電極G2は、複数のグランド導体21によって接続されている。ここで、グランド電極G1,G2はいずれも、z方向から見た平面視で、複数のグランド導体11Aに囲まれた空間と重なる領域S1と、複数のグランド導体11Bに囲まれた空間と重なる領域S2と、領域S1と領域S2を接続する領域S3を有している。そして、領域S3のy方向における幅は、領域S1,S2のy方向における幅よりも狭い。これにより、グランド電極G1,G2を介した放射電極10A,10Bの相互干渉が低減することから、放射電極10Aと放射電極10Bの独立性が高められる。
【0024】
グランド電極G1とグランド電極G3に挟まれた領域はフィルタ層FILである。グランド電極G1とグランド電極G3は、複数のグランド導体31によって接続されている。グランド電極G3のy方向における幅は一定であっても構わない。
【0025】
図5を参照して、誘電体層3における放射電極10Aの位置について説明する。図5(a)に示すように、放射電極10Aは、誘電体層3に配置される。このときは、誘電体層3は二層以上の層構造によって構成される。また、図5(b)に示すように、放射電極10Aは、誘電体層2のz方向における正側の主面2a上に配置されてよい。
【0026】
次に、図6(a)を参照して、誘電体層2,3,4について説明する。誘電体層3は、誘電体層2のz方向における正側に配置される。誘電体層4は、誘電体層4のz方向における負側に配置される。誘電体層2の一部及び誘電体層3によってアンテナ層ANTが構成される。誘電体層2の他の一部によって分配層DIVが構成される。誘電体層4によってフィルタ層FILが構成される。本実施形態では、誘電体層2が請求項における「第1の誘電体層」の一例であり、誘電体層3が請求項における「第2の誘電体層」の一例であり、誘電体層4が請求項における「第3の誘電体層」の一例である。また、z方向における正側が請求項における「給電電極の厚み方向における一方側」の一例であり、z方向における負側が請求項における「給電電極の厚み方向における他方側」の一例である。
【0027】
誘電体層4を構成する誘電体材料は、誘電体層2を構成する誘電体材料よりも高い誘電率を有していてよい。誘電体層3を構成する誘電体材料は、誘電体層4を構成する誘電体材料と同じであってもよい。
【0028】
誘電体層3の破壊靱性値は、誘電体層2の破壊靱性値より大きい。また、誘電体層4の破壊靭性値は、誘電体層2の破壊靭性値より大きい。破壊靱性とは、材料に亀裂が入り進展するときに、材料がどれくらい抵抗できるのかという特性である。一般的にねばり強さととらえられる。ファインセラミックスの破壊靱性値の測定方法は、「JIS R 1607」に規定される。誘電体層2の破壊靱性値は、0.5~2.5の範囲であってよい。誘電体層3,4の破壊靱性値は、誘電体層2の破壊靱性値よりも1.5倍~2.5倍大きくてよい。なお、破壊靭性値については、アンテナモジュール1の製品を直接測定して求めてもよいが、製品サイズによっては、直接測定することに替えて、誘電体層の成分を分析して得られた組成に基づいて測定用の誘電体層を作製し、作製した誘電体層を測定して破壊靭性値を求めてもよい。
【0029】
誘電体層3のヤング率は、誘電体層2のヤング率より大きい。また、誘電体層4のヤング率は、誘電体層2のヤング率より大きい。材料力学による「フックの法則」では、応力とひずみとの間に比例関係があると定められ、ヤング率をEとして垂直応力をσ、縦ひずみをεとしたときに「σ=Eε」の関係式が成り立つ。ヤング率が大きいということは剛性が高く(変形しにくい)、加工精度が良くなることを示す。誘電体層2のヤング率は、30~80の範囲であってよい。誘電体層3,4のヤング率は、誘電体層2のヤング率よりも1.5倍~4倍大きくてよい。
【0030】
誘電体層2,3,4の材料として、セラミック材料が採用される。誘電体層2,3,4は、低温焼成セラミック(LTCC)から構成されてよい。誘電体層の破壊靭性値を大きくする方法として、誘電体層に用いられるセラミック材料内の気孔を少なくして高密度化する方法、誘電体層に粒子形状が板状または柱状となるセラミック材料を用いる方法、誘電体層に用いられるセラミック材料のヤング率を大きくする方法などがある。一例として、誘電体層3,4に用いられるセラミック材料の気孔を、誘電体層2に用いられるセラミック材料の気孔より少なくして高密度化することが挙げられる。これにより、誘電体層3,4の破壊靭性値を誘電体層2の破壊靭性値より大きくすることができる。また、誘電体層に用いられるセラミック材料内の気孔を少なくして高密度化する方法、誘電体層に粒子形状が板状または柱状となるセラミック材料を用いる方法は、誘電体層のヤング率を大きくすることができる。
【0031】
アンテナモジュール1における層構成は特に限定されず、図6(b)に示す構成を採用してもよい。図6(b)に示すアンテナモジュール1では、誘電体層3によってアンテナ層ANTが構成される。誘電体層2によって分配層DIVが構成される。誘電体層4によってフィルタ層FILが構成される。
【0032】
アンテナモジュール1の誘電体層は二種類の層で構成されてもよい。例えば、図6(c)に示す構成を採用してもよい。図6(c)に示すアンテナモジュール1では、誘電体層2によってアンテナ層ANTが構成される。誘電体層2によって分配層DIVが構成される。誘電体層4によってフィルタ層FILが構成される。この場合、誘電体層2が請求項における「第1の誘電体層」の一例であり、誘電体層4が請求項における「第2の誘電体層」の一例である。また、z方向における負側が請求項における「給電電極の厚み方向における一方側」の一例であり、z方向における正側が請求項における「給電電極の厚み方向における他方側」の一例である。当該関係は、後述の図7(b)のアンテナモジュール1においても成り立つ。
【0033】
アンテナモジュール1では、分配層DIVは省略されてよい。例えば、図7(a)(b)を示す構成を採用してもよい。図7(a)に示すアンテナモジュール1では、誘電体層3及び誘電体層2によってアンテナ層ANTが構成される。誘電体層4によってフィルタ層FILが構成される。図7(b)に示すアンテナモジュール1では、誘電体層2によってアンテナ層ANTが構成される。誘電体層4によってフィルタ層FILが構成される。
【0034】
アンテナモジュール1では、分配層DIV及びフィルタ層FILは省略されてよい。例えば、図7(c)を示す構成を採用してもよい。図7(c)に示すアンテナモジュール1では、誘電体層3及び誘電体層2によってアンテナ層ANTが構成される。このように、本明細書における「アンテナモジュール」には、アンテナ層ANTのみによって構成される製品も含まれる。
【0035】
次に、本実施形態に係るアンテナモジュール1の作用・効果について説明する。
【0036】
アンテナモジュール1は、少なくとも放射電極10A、及び放射電極10Aと結合する給電電極13H,13Vを備えるアンテナモジュール1であって、給電電極13H,13Vを備える誘電体層2と、給電電極13H,13Vの厚み方向における、誘電体層2の一方側に配置される誘電体層3(又は誘電体層4)と、を備え、誘電体層3(又は誘電体層4)の破壊靱性値は、誘電体層2の破壊靱性値より大きい。
【0037】
このアンテナモジュール1によれば、給電電極13H,13Vを備える誘電体層2の外層側に、高い破壊靱性値を有する誘電体層3(又は誘電体層4)を配置することができる。高い破壊靱性値を有する材料は、亀裂が進展しにくい材料である。従って、アンテナモジュール1の外層側には、チッピング等が発生しにくい誘電体層を配置することができる。従って、チッピング等を抑制して、アンテナモジュールの外観を良好にすることができる。
【0038】
誘電体層3(又は誘電体層4)のヤング率は、誘電体層2のヤング率より大きくてよい。高いヤング率を有する材料は、剛性が高く変形しにくいため加工精度が良い材料である。従って、アンテナモジュール1の外層側には、加工精度が良くチッピング等が発生しにくい誘電体層を配置することができる。従って、チッピング等を抑制して、アンテナモジュールの外観を良好にすることができる。
【0039】
アンテナモジュール1は、給電電極13H,13Vよりも厚み方向における他方側に配置されるグランド電極G1,G2,G3を更に備えてよい。この場合、誘電体層2に対して、グランド電極G1,G2,G3と反対側に破壊靱性値が高い誘電体層3を配置することができ、アンテナモジュール1の表層側におけるチッピング等を抑制して、アンテナモジュール1の外観を良好にすることができる。
【0040】
放射電極10Aは、誘電体層3に配置されてよい。この場合、高い破壊靱性値を有する誘電体層3の内部に放射電極10Aが配置される。そのため、表層に近い位置に放射電極10Aが配置されることで高い放射効率を実現することができる。
【0041】
放射電極10Aは、誘電体層2の一方側の主面2a上に配置され、誘電体層3で覆われてよい。この場合、誘電体層2の主面2a上の放射電極10Aを高い破壊靱性値を有する誘電体層3で覆うことができる。そのため、放射電極10Aを外部からの衝撃から十分に保護することができる。
【0042】
アンテナモジュール1は、厚み方向における誘電体層2の他方側に配置される誘電体層4を更に備えてよい。この場合、アンテナモジュール1は、誘電体層3の反対側に、他の回路等を設けることが可能となる。
【0043】
誘電体層4は、フィルタ回路パターン30Vを有してよい。この場合、余分な伝送路を削減できることから、アンテナモジュール1の伝送損失を抑えることができる。
【0044】
誘電体層4の破壊靭性値は、誘電体層2の破壊靭性値より大きくてよい。この場合、誘電体層2が、高い破壊靱性値を有する誘電体層3,4で両側から挟まれる。そのため、アンテナモジュール1の両側の外観を良好にすることができる。
【0045】
誘電体層4のヤング率は、誘電体層2のヤング率より大きくてよい。この場合、アンテナモジュール1の他方側の外層側には、加工精度が良くチッピング等が発生しにくい誘電体層を配置することができる。
【0046】
アンテナモジュール1は、放射電極10A、及び給電電極13H,13Vの周囲に配置される複数の柱状のグランド導体11Aを備えてよい。この場合、放射電極10A及び給電電極13H,13Vを含むアンテナ素子をアレー状に配置した際に周囲の他のアンテナ素子とのアイソレーションを高めることができる。
【0047】
複数のグランド導体11Aの厚み方向における一方側の端部は、誘電体層3に覆われていてよい。この場合、高い破壊靱性値を有する誘電体層3が、グランド導体11Aの端部を覆うことができる。
【0048】
アンテナモジュール1は、放射電極10B、及び放射電極10Bと結合する給電電極14H,14Vを更に備え、誘電体層2は、給電電極14H,14Vを有してよい。この場合、アンテナモジュール1は、二組の放射電極及び給電電極を有することができる。
【0049】
アンテナモジュール1は、厚み方向における誘電体層2の他方側に配置される誘電体層4を更に備え、誘電体層2は、給電電極13H,13V及び給電電極14H,14Vと、誘電体層4との間に分配回路パターン20Vを有してよい。この場合、アンテナモジュール1に複数のアンテナ素子を一体化できることから、アンテナモジュール1とアンテナ信号を供給するICとの接続構造を簡素化できる。
【0050】
誘電体層3と誘電体層4は、同じ誘電体から構成されてよい。この場合、複数の誘電体層を形成するために準備する誘電体の種類を低減できる。
【0051】
誘電体層2、誘電体層3、及び誘電体層4は、低温焼成セラミックから構成されてよい。この場合、アンテナモジュール1をミリ波帯で使用する場合に低損失を図ることができる。
【0052】
図8を参照して、誘電体層3,4及び誘電体層2のチッピングの発生の難さについて説明する。図8の「誘電率」には、誘電体層3,4に用いる誘電体、及び誘電体層2に用いる誘電体の比誘電率が記載される。「剛性(ヤング率)」には、誘電体層3,4に用いる誘電体、及び誘電体層2に用いる誘電体のヤング率が記載される。ヤング率は、JIS R 1602に基づいて測定される。具体的に、静的弾性率試験方法でヤング率を測定した。「破壊靱性値」には、誘電体層3,4に用いる誘電体、及び誘電体層2に用いる誘電体の破壊靱性値が記載される。破壊靱性値は、JIS R 1607に基づいて測定される。具体的に、破壊靭性試験方法で破壊靱性値を測定した。図9(a)は、誘電体層3,4に用いる誘電体を長方形に切断したときに四方の端部に発生したチッピングの様子を示す。図9(b)は、誘電体層3,4に用いる誘電体を長方形に切断したときに四方の端部に発生したチッピングの様子を示す。図9(b)において丸囲んだ箇所に示すように、誘電体層2に用いる誘電体においては、大きなチッピングが確認された。これに対し、図9(a)に示すように、誘電体層3,4に示す誘電体においては、チッピングが抑制できることが確認された。
【0053】
本開示は上述の実施形態に限定されるものではない。
【0054】
例えば、図1~3に示すアンテナモジュール1の各導体の形状や配置は一例にすぎず、適宜変更してもよい。
【0055】
本開示に係る技術には、以下の構成例が含まれるが、これに限定されるものではない。
【0056】
[形態1]
少なくとも第1の放射電極、及び前記第1の放射電極と結合する第1の給電電極を備えるアンテナモジュールであって、
前記第1の給電電極を備える第1の誘電体層と、
前記第1の給電電極の厚み方向における、前記第1の誘電体層の一方側に配置される第2の誘電体層と、を備え、
前記第2の誘電体層の破壊靱性値は、前記第1の誘電体層の破壊靱性値より大きい、アンテナモジュール。
[形態2]
前記第2の誘電体層のヤング率は、第1の誘電体層のヤング率より大きい、形態1に記載のアンテナモジュール。
[形態3]
前記第1の給電電極よりも前記厚み方向における他方側に配置されるグランド電極を更に備える、形態1又は2に記載のアンテナモジュール。
[形態4]
前記第1の放射電極は、前記第2の誘電体層に配置される、形態1~3の何れか一項に記載のアンテナモジュール。
[形態5]
前記第1の放射電極は、前記第1の誘電体層の前記一方側の主面上に配置され、前記第2の誘電体層で覆われている、形態1~4の何れか一項に記載のアンテナモジュール。
[形態6]
前記厚み方向における前記第1の誘電体層の他方側に配置される第3の誘電体層を更に備える、形態1~5の何れか一項に記載のアンテナモジュール。
[形態7]
前記第3の誘電体層は、フィルタ回路パターンを有する、形態6に記載のアンテナモジュール。
[形態8]
前記第3の誘電体層の破壊靭性値は、前記第1の誘電体層の破壊靭性値より大きい、形態6又は7に記載のアンテナモジュール。
[形態9]
前記第3の誘電体層のヤング率は、前記第1の誘電体層のヤング率より大きい、形態6~8の何れか一項に記載のアンテナモジュール。
[形態10]
前記第1の放射電極、及び前記第1の給電電極の周囲に配置される複数の柱状のグランド導体を備える、形態1~9の何れか一項に記載のアンテナモジュール。
[形態11]
前記複数のグランド導体の前記厚み方向における前記一方側の端部は、前記第2の誘電体層に覆われている、形態10の何れか一項に記載のアンテナモジュール。
[形態12]
第2の放射電極、及び前記第2の放射電極と結合する第2の給電電極を更に備え、
前記第1の誘電体層は、前記第2の給電電極を有する、形態1~11の何れか一項に記載のアンテナモジュール。
[形態13]
前記厚み方向における前記第1の誘電体層の他方側に配置される第3の誘電体層を更に備え、
前記第1の誘電体層は、前記第1の給電電極及び前記第2の給電電極と、前記第3の誘電体層との間に分配回路パターンを有する、形態12に記載のアンテナモジュール。
[形態14]
前記第2の誘電体層と前記第3の誘電体層は、同じ誘電体から構成される、形態6~8の何れか一項に記載のアンテナモジュール。
[形態15]
前記第1の誘電体層、前記第2の誘電体層、及び前記第3の誘電体層は、低温焼成セラミックから構成される、形態6~8の何れか一項に記載のアンテナモジュール。
【符号の説明】
【0057】
1…アンテナモジュール、2…誘電体層(第1の誘電体層)、3…誘電体層(第2の誘電体層)、4…誘電体層(第3の誘電体層、第2の誘電体層)、10A…放射電極(第1の放射電極)、10B…放射電極(第2の放射電極)、11A…グランド導体、13H,13V…給電電極(第1の給電電極)、14H,14V…給電電極(第2の給電電極)、20V…分配回路パターン、30V…フィルタ回路パターン、G1,G2,G3…グランド電極、DIV…分配層、FIL…フィルタ層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9