(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062677
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】インストルメントパネルのガーニッシュ
(51)【国際特許分類】
B60K 37/00 20240101AFI20240501BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20240501BHJP
B29C 45/27 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
B60K37/00 Z
B29C45/00
B29C45/27
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170678
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【弁理士】
【氏名又は名称】網屋 美湖
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 拓也
(72)【発明者】
【氏名】岩本 宗士
【テーマコード(参考)】
3D344
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
3D344AA07
3D344AC04
3D344AD02
4F202AA13
4F202AH25
4F202AR07
4F202AR12
4F202CA11
4F202CB01
4F202CK06
4F206AA13
4F206AH25
4F206AR076
4F206JA07
4F206JF01
4F206JL02
4F206JQ81
(57)【要約】
【課題】 PC/ABS樹脂で成形しても優れた耐衝撃性を備えることができる、インストルメントパネルのガーニッシュを提供する。
【解決手段】 インストルメントパネルの中央に配設された車載機器の周囲を覆う枠体状のガーニッシュ10は、上部枠体11、下部枠体12、および左右側部枠体13、14で画成された中央の開口部を有し、各枠体の外周縁部と内周縁部は車載機器側に突出しており、PC/ABS樹脂によって形成されており、ゲート痕17、18は、上部枠体11と下部枠体12において、その外周縁部と内周縁部との間に車載機器側に突出して設けられている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インストルメントパネルの中央に配設された車載機器の周囲を覆う枠体状のガーニッシュであって、
前記ガーニッシュの上部枠体、下部枠体、および左右側部枠体で画成された中央の開口部を有し、
前記上部枠体、前記下部枠体、および前記左右側部枠体のそれぞれの外周縁部と内周縁部は車載機器側に突出しており、
ポリカーボネートとアクリロニトリル-ブタジエン-スチレンのポリマーアロイ(PC/ABS樹脂)によって形成されており、
ゲート痕が、前記上部枠体、前記下部枠体、および前記左右側部枠体のうちの少なくとも1つの枠体において、外周縁部と内周縁部との間に車載機器側に突出して設けられている、インストルメントパネルのガーニッシュ。
【請求項2】
前記ゲート痕が、前記枠体に対して徐々に広がる形状を有する請求項1に記載のインストルメントパネルのガーニッシュ。
【請求項3】
前記ゲート痕の高さが、前記枠体の内周縁部より高く、外周縁部より低い請求項1に記載のインストルメントパネルのガーニッシュ。
【請求項4】
前記ゲート痕が、前記上部枠体に設けられており、前記上部枠体の外周縁部と内周縁部の中心よりも内周縁部側に設けられている請求項1に記載のインストルメントパネルのガーニッシュ。
【請求項5】
前記ゲート痕が、前記下部枠体に設けられており、前記下部枠体の外周縁部と内周縁部の中心よりも外周縁部側に設けられている請求項1に記載のインストルメントパネルのガーニッシュ。
【請求項6】
ウェルドラインが角部に位置する請求項1に記載のインストルメントパネルのガーニッシュ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インストルメントパネルのガーニッシュに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のインストルメントパネルには、オーディオ機器や空調操作部など種々の機器が配置されるが、これらの車載機器は、一般に、メンテナンスや交換が可能なように取外し可能な状態で固定されるとともに、それらの取付け部の周囲の合わせ部は、室内の外観を良好に維持するために、インストルメントパネル本体と別体のガーニッシュで覆われている。したがって、このガーニッシュもインストルメントパネル本体に取外し可能に設けられており、車載機器の取外しに先立ち、ガーニッシュを取り外すことで、車載機器の取付け部が露見するように構成されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ガーニッシュの周縁をパネル本体、他のガーニッシュ等の取付部材の縁部に重合わせて取付けるインストルメントパネルにおいて、上記取付部材の縁部にリブを立設し、このリブに上記ガーニッシュの周縁を引掛けてガーニッシュを取付けたことを特徴とするインストルメントパネルが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガーニッシュには耐衝撃性が求められることから、ガーニッシュの成形には、耐衝撃性に優れた樹脂材料を用いる必要がある。耐衝撃性に優れた樹脂材料は種々あり、ポリカーボネートとアクリロニトリル-ブタジエン-スチレンのポリマーアロイ(以下、「PC/ABS樹脂」と呼ぶ)も高い耐衝撃性を有することが知られている。しかしながら、本願発明者らは、PC/ABS樹脂でガーニッシュを成形すると、想定の耐衝撃性が得られないという知見を得た。
【0006】
そこで本発明は、上記の問題点に鑑み、PC/ABS樹脂で成形しても優れた耐衝撃性を備えることができる、インストルメントパネルのガーニッシュを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、インストルメントパネルの中央に配設された車載機器の周囲を覆う枠体状のガーニッシュであって、前記ガーニッシュの上部枠体、下部枠体、および左右側部枠体で画成された中央の開口部を有し、前記上部枠体、前記下部枠体、および前記左右側部枠体のそれぞれの外周縁部と内周縁部は車載機器側に突出しており、ポリカーボネートとアクリロニトリル-ブタジエン-スチレンのポリマーアロイ(PC/ABS樹脂)によって形成されており、ゲート痕が、前記上部枠体、前記下部枠体、および前記左右側部枠体のうちの少なくとも1つの枠体において、外周縁部と内周縁部との間に車載機器側に突出して設けられている。
【発明の効果】
【0008】
このように本発明によれば、インストルメントパネルのガーニッシュは、PC/ABS樹脂で成形しても優れた耐衝撃性を備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係るガーニッシュが取り付けられたインストルメントパネルの一例を模式的に示す正面図である。
【
図2】
図1に示すインストルメントパネルに取り付けられたガーニッシュを示す正面側斜視図である。
【
図3】
図2に示すガーニッシュのインストルメントパネルへの取付方法を説明する背面側斜視図である。
【
図4】
図2に示すガーニッシュの背面側斜視図である。
【
図5】
図4に示すガーニッシュの上部枠体に位置するゲート痕付近の拡大斜視図である。
【
図6】
図4に示すガーニッシュの下部枠体に位置するゲート痕付近の拡大斜視図である。
【
図8】
図5に示す上部枠体のVIII-VIII線に沿った断面図である。
【
図9】
図8に示すゲート痕の形成を説明する断面図である。
【
図10】
図6に示す下部枠体のX-X線に沿った断面図である。
【
図11】試験例1でのTD方向の試験片の採取箇所を示す平面図である。
【
図12】試験例1でのMD方向の試験片の採取箇所を示す平面図である。
【
図13】試験例1でのシャルピー衝撃試験による試験片の破壊形態の観察結果を示す平面図である。
【
図14】試験例3でのサブマリンゲートで成形する試験片の採取箇所を示す平面図である。
【
図15】試験例3でのサイドゲートで成形する試験片の採取箇所を示す平面図である。
【
図16】試験例3でのシャルピー衝撃試験による試験片の破壊形態を観察した結果を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明に係るインストルメントパネルのガーニッシュの一実施の形態について説明する。
【0011】
図1は、車室内の前部に設けられた右ハンドル車のインストルメントパネルの一例である。
図1に示すように、インストルメントパネル本体1には、向かって右側に、スピードメータ、燃料計等の計器盤(図示省略)が配設され、その周囲を覆う意匠パネル、所謂、クラスターパネル2が設けられ、向かって左側に上部側の収納ボックス3が設けられている。向かって中央にはカーナビゲイションシステム4が組み付けられ、その周囲を覆う意匠パネル、所謂、ガーニッシュ10が配設されている。ガーニッシュ10の下部側に、エアコンあるいはヒータ等の空調装置の意匠パネル、所謂、ヒーターコントロールパネル5が配設されている。また、ガーニッシュ10の両側には、車室内中央の空調装置の吹き出し口となるセンタールーバー機構7が設けられている。
【0012】
クラスターパネル2、収納ボックス3、ガーニッシュ10、ヒーターコントロールパネル5は、それぞれ樹脂成形で、センタールーバー機構7よりも室内側に突出する位置に配置されており、かつ内部断面に空洞部が設けられて衝撃を吸収する緩衝作用を持たせるように構成されている。
【0013】
図2に示すように、ガーニッシュ10はカーナビゲイションシステム4のディスプレイを囲む薄い枠体であり、インストルメントパネル本体1が室内側に突出するように構成されている。
図3に示すように、ガーニッシュ10は、車室内側から見て、上部枠体11、下部枠体12、右側部枠体13および左側部枠体14から主に構成されており、これらで中央の開口を画成している。ガーニッシュ10の長手方向は、車両幅方向に沿っており、すなわち、上部枠体11および下部枠体12は左右側部枠体13、14よりも長くなっている。
【0014】
ガーニッシュ10のインストルメントパネル本体への取り付けは、ガーニッシュ10に突設された位置決めピン15が、インストルメントパネル本体のブラケット6の位置決め孔7に挿通し、ガーニッシュ10の取付孔(図示省略)にスクリュ17を挿入して締め付け固定されている。また、ガーニッシュ10のクリップ16をインストルメントパネル本体の係止孔(図示省略)に挿し込むことで、固定されている。
【0015】
図4に示すように、ガーニッシュ10の上部枠体11、下部枠体12、右側部枠体13、左側部枠体14は、それぞれの外周縁部と内周縁部(すなわち開口側の周縁部)は車載機器側(すなわち車室内と反対側)に突出している。本実施の形態のガーニッシュ10は、
PC/ABS樹脂によって形成されており、上部枠体11および下部枠体12には、車載機器側に射出成形によるゲート痕17、18がそれぞれ突出して設けられている。
【0016】
図5に示すように、上部枠体11のゲート痕17は、上部枠体11の車載機器側に突出した外周縁部11aや内周縁部11bではなく、これらの間に位置している。サブマリンゲートでガーニッシュ10を成形することで、このような位置にゲート痕17ができる。ゲート痕17の外周縁部11aおよび内周縁部11bからの距離は、2mm以上が好ましく、4mm以上がより好ましい。このように外周縁部11aおよび内周縁部11bから離れた位置のゲート口からPC/ABS樹脂を用いて射出成形することで、ガーニッシュ10の耐衝撃性を顕著に向上させることができる。
【0017】
ゲート痕17は、上部枠体11の外周縁部11aと内周縁部11bの中心よりも内周縁部11b側に設けられていることが好ましい。ゲート痕17は耐衝撃性低下の原因となり得るが、万が一、事故などによって乗員者がガーニッシュ10に衝突する場合、上部枠体11の上側の方に衝突しやすいと考えられることから、ゲート痕を下側の内周縁部11bに設けることで、ガーニッシュ10の破壊が起こりにくくなる。
【0018】
上部枠体11のゲート痕17は略板形状を有しており、その幅方向がガーニッシュ10の長手方向に沿っており、また、上部枠体11側に向かって徐々に幅が広がる形状となっている。このような形状のゲート痕17となるゲート口で射出成形することによって、ガーニッシュ10に割れが発生するのを防ぐことができる。
【0019】
同様に、
図6に示すように、サブマリンゲートで成形することで、下部枠体12のゲート痕18は、下部枠体12の車載機器側に突出した外周縁部12aや内周縁部12bではなく、これらの間に位置している。ゲート痕18の外周縁部12aおよび内周縁部12bからの距離は、2mm以上が好ましく、4mm以上がより好ましい。このように外周縁部21aおよび内周縁部12bから離れた位置のゲート口からPC/ABS樹脂を用いて射出成形することで、ガーニッシュ10の耐衝撃性を顕著に向上させることができる。
【0020】
ゲート痕18は、下部枠体12の外周縁部12aと内周縁部12bの中心よりも外周縁部11a側に設けられていることが好ましい。上述したように、ゲート痕18は耐衝撃性低下の原因となり得るが、万が一、事故などによって乗員者がガーニッシュ10に衝突する場合、下部枠体11の上側の方に衝突しやすいと考えられることから、ゲート痕を下側の外周縁部11aに設けることで、ガーニッシュ10の破壊が起こりにくくなる。
【0021】
下部枠体12のゲート痕18の形状も、上記と同様に略板形状を有しており、その幅方向がガーニッシュ10の長手方向に沿っており、また、下部枠体12側に向かって徐々に幅が広がる形状となっている。
【0022】
このようにガーニッシュ10に2つのゲート痕17、18が存在するのは、射出成形によって2つのゲート口から1つのガーニッシュ10が成形されるからである。このようにゲート痕17、18に位置する2つのゲート口で射出成形すると、
図7に示すように、溶融樹脂が合流するウェルドライン20a、20bがガーニッシュ10の角部に形成される。このようにウェルドライン20をガーニッシュ10の角部に形成することで、樹脂の合流角度が広がり、ウェルドライン20部分の外観を向上させることができる。
【0023】
図8に示すように、上部枠体11のゲート痕17の高さは、上部枠体の内周縁部11bの高さBよりも高い。このように外周縁部11bより高くすることで、射出成形の型抜けを行うタイミングで自動的にゲートカットできる、又はニッパー等でゲートカットを行う場合、その作業空間を確保できる。また、上部枠体11のゲート痕17の高さは、上部枠体の外周縁部11aの高さAよりは低い。このように外周縁部11aより低くすることで、車載機器側の設計空間を確保することができる。
【0024】
ゲート痕17の形成について、
図9を参照して説明すると、ガーニッシュ10はサブマリンゲート20を用いて射出成形されるものである。これにより、上部枠体11の突出した外周縁部11aおよび内周縁部11bではなく、その間の部分に金型(図示省略)のゲート口を位置させることができる。よって、金型を抜いた直後は、
図9のようにゲート痕17aは上部枠体の外周縁部11aよりも高いが、ニッパー等によって、上部枠体の外周縁部11aよりも低い位置Cでカットすることができる。なお、上述したように、ゲート痕は型抜き時に自動的にカットすることもできる。なお、下部枠体12のゲート痕18も、同様に形成され、カットすることができる。
【0025】
図10に示すように、下部枠体12のゲート痕18の高さは、下部枠体の内周縁部12bの高さBよりも高い。このように内周縁部12bより高くすることで、射出成形の型抜けを行うタイミングで自動的にゲートカットできる、又はニッパー等でゲートカットを行う場合、その作業空間を確保できる。また、下部枠体12のゲート痕18の高さは、下部枠体の外周縁部12aの高さAよりは低い。このように外周縁部12aより低くすることで、車載機器側の設計空間を確保することができる。
【実施例0026】
[試験例1]
射出成形によってPC/ABS樹脂製(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、MB2215R)の平板成形品(180mm×250mm×厚さ3mm、ファインゲート平板)を作製し、この平板成形品から樹脂流動方向(MD方向)および垂直方向(TD方向)の短冊試験片(10mm×70mm×厚さ3mm)を自動試料成形機にて切り出した。TD方向の試験片の採取箇所を
図11に示し、MD方向の試験片の採取箇所を
図12に示す。
【0027】
図11に示すように、平板成形品30は、射出成形機のゲート口32から矢印方向に樹脂が流動して成形されたものである。TD方向の短冊試験片31は、この流動方向に対して、短冊試験片の長手方向が垂直となるように切り出した試験片である。平板成形品30のゲート口32側の端面からTD方向の最初の試験片(TD1)の中心線までの距離aは、20mmとした。一方、
図12に示すように、MD方向の短冊試験片41は、その長手方向が、矢印で示す流動方向となるように平板成形品30から切り出した試験片である。平板成形品30の中心線からMD方向の最初の試験片(MD1)の中心線までの距離bは、67.5mmとした。
【0028】
TD方向、MD方向のいずれの試験片も、残り幅8mmになるようにノッチ加工(R=0.25)を行った。そして、シャルピー衝撃試験を行い、各試験片のシャルピー衝撃値を測定した。なお、シャルピー衝撃試験は、シャルピー衝撃試験機(東洋精機社製、型式IMPACT TESTER IT)を用いて、JIS K 7111に準拠して行った。試験温度は23℃、ハンマーは4Jとした。
【0029】
その結果、
図13に示すように、MD方向の試験片41は、すべて部分破壊(P破壊)となった。なお、図中の矢印は、シャルピー衝撃試験におけるハンマーの打撃方向であり、樹脂流動方向とは逆方向とした。また、MD方向の試験片(MD1~MD10)のシャルピー衝撃値は安定して高い値を示した。試験片採取箇所への依存性は見られなかった。一方、TD方向の試験片は、採取箇所の依存性が見られ、射出成形のゲート口から離れた流動末端あたりの部分の試験片(TD12~TD14)はP破壊またはヒンジ破壊(H破壊)であったが、
図13に示すように、ゲート口に近い部分のTD方向の試験片31(TD1~TD11)は、完全破壊(C破壊)であった。また、シャルピー衝撃値も、ゲート口付近および中央部が低く、流動末端側になるほど高い衝撃値を示した。MD方向の試験片のシャルピー衝撃値の平均を100とすると、最高値の試験片(TD14)でも66しかなく、平均では34と非常に低いシャルピー衝撃値であった。
【0030】
このようにMD方向とTD方向では試験片の破壊形態が異なり、また、TD方向の試験片はMD方向の試験片の半分以下のシャルピー衝撃値であったことから、PC/ABS樹脂で耐衝撃性の高い部品を成形するためには、TD方向でも高い耐衝撃値を維持するための方策が求められる。
【0031】
[試験例2]
PC/ABS樹脂に替えて、PC樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、S-3000R)を使用した点を除き、試験例1と同様に、MD方向およびTD方向の各試験片のシャルピー衝撃値を測定した。
【0032】
その結果、PC樹脂では、試験例1のPC/ABS樹脂のような樹脂の流動方向に依存する異方性は見らなかった。PC樹脂のシャルピー衝撃値は、試験例1のMD方向の試験片のシャルピー衝撃値の平均を100とすると、MD方向の試験片が平均で142で、TD方向の試験片が平均で144であった。PC樹脂では全ての試験片がP破壊であった。この結果から、PC/ABS樹脂の異方性は、ABS樹脂に由来するものと考えられ、特にABS樹脂中のゴムの配向に起因するものと推測される。
【0033】
[試験例3]
サブマリンゲートを用いて試験片内にゲート口が位置するTD方向の短冊試験片を作製して、シャルピー衝撃試験を行った。先ず、平板成形品は、
図14に示すように、サブマリンゲート62(ゲート口:6mm×2.5mm)を用いて平板成形品60の端面よりも内側にサブマリンゲート62のゲート口63が位置するようにして成形した。なお、PC/ABS樹脂はテクノUMG社製、CK43-D4を用いた。成形機は日本製鋼所社製のJSW180ton、金型は1点ゲート平板形状金型を用い、置き駒(図示省略)部分のPL面(金型の合わせ面)の形状を変更することで、ゲート口63と平板成形品60の端面との間の距離L(以下、「ゲート距離」と呼ぶ)を変更した。試験片61は、
図14に示すように、TD方向の短冊試験片(80mm×10mm×厚さ3mm)となるようにし、また、平板成形品60の端面に沿って切り出した。
【0034】
ゲート距離Lが0mm、2mm、4.4mmとなる3種類の試験片をそれぞれ5つ作製し、試験例1、2と同様にシャルピー衝撃試験機を用いてJIS K 7111に準拠してシャルピー衝撃試験を行った。なお、試験例3ではノッチなしとし、またハンマーは7.5Jとした。
【0035】
また、比較として、
図15に示すように、サイドゲート72を用いて試験片71の端部にゲート口73が位置するTD方向の短冊試験片を5つ作製して、上記と同様の条件にてシャルピー衝撃試験を行った。それぞれの試験片の結果を表1に示す。なお、表1中のシャルピー衝撃値は各種5つの試験片の測定結果の平均であるが、測定値(単位:kJ/m
2)ではなく、試験例1のMD方向の試験片のシャルピー衝撃値の平均を100とする相対値である。また、サブマリンゲートで成形したゲート距離Lが0mm及び2mmの試験片について、シャルピー衝撃試験による破壊形態の観察結果を
図16に示す。
【0036】
【0037】
図16に示すように、サブマリンゲートで成形したゲート距離Lが0mmの試験片50も、ゲート距離Lが2mmの試験片52もすべて完全破壊(C破壊)であったが、ゲート距離Lが0mmの試験片50は、亀裂発生部分に塑性変形した領域がほとんど見られず、耐衝撃性も低かった。一方、ゲート距離Lが2mmの試験片52は、亀裂発生部分に塑性変形53が見られ、耐衝撃性も表1に示すようにゲート距離Lが0mmの試験片よりも2倍以上高かった。
【0038】
図16には示していないが、ゲート距離Lが4.4mmの試験片にも亀裂発生部分に塑性変形が見られ、耐衝撃性は表1に示すように顕著に高かった。一方、サイドゲートで成形した試験片(当然ゲート距離Lは0mm)は、
図16には示していないが、亀裂発生部分に塑性変形した領域はほとんど見られず、表1に示すように耐衝撃性も低かった。
【0039】
これらの結果から、サブマリンゲートで成形した試験片は、ゲート口から試験片の端までの間で幅方向の流動が発生することで、幅方向の引張変形に対する耐衝撃性が向上したのではないかと推測される。ゲート距離が長くなることで、幅方向の変形に強い領域が大きくなると推測される。