IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝エネルギーシステムズ株式会社の特許一覧

特開2024-62678情報処理装置、情報処理方法およびプログラム
<>
  • 特開-情報処理装置、情報処理方法およびプログラム 図1
  • 特開-情報処理装置、情報処理方法およびプログラム 図2
  • 特開-情報処理装置、情報処理方法およびプログラム 図3
  • 特開-情報処理装置、情報処理方法およびプログラム 図4
  • 特開-情報処理装置、情報処理方法およびプログラム 図5
  • 特開-情報処理装置、情報処理方法およびプログラム 図6
  • 特開-情報処理装置、情報処理方法およびプログラム 図7
  • 特開-情報処理装置、情報処理方法およびプログラム 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062678
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20240101AFI20240501BHJP
   H02J 3/00 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
G06Q50/06
H02J3/00 180
H02J3/00 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170679
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福原 竜馬
(72)【発明者】
【氏名】進 博正
(72)【発明者】
【氏名】木村 功太朗
(72)【発明者】
【氏名】坂田 将典
【テーマコード(参考)】
5G066
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5G066AA02
5L049CC06
5L050CC06
(57)【要約】
【課題】電力などの市場での取引対象の最適な入札量の決定を効率的に支援する。
【解決手段】情報処理装置は、処理部を備える。処理部は、取引対象の入札量を分割した複数の分割量と、分割量ごとの単価と、を含む1つ以上の入札シナリオ、および、入札価格に対する約定の確率を表す第1確率モデルを用いて、分割量の約定を模擬し、入札シナリオごとの、分割量の約定量を予測し、約定量を用いて、入札シナリオごとの約定についての第1収益を評価する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
取引対象の入札量を分割した複数の分割量と、前記分割量ごとの単価と、を含む1つ以上の入札シナリオ、および、入札価格に対する約定の確率を表す第1確率モデルを用いて、前記分割量の約定を模擬し、前記入札シナリオごとの、前記分割量の約定量を予測し、
前記約定量を用いて、前記入札シナリオごとの約定についての第1収益を評価する、
処理部、
を備える情報処理装置。
【請求項2】
前記処理部は、
前記入札シナリオと、前記入札価格に対する、前記入札量が取引される確率を表す第2確率モデルと、を用いて、前記分割量の取引を模擬し、前記分割量の取引量を予測し、
予測された前記取引量を用いて、前記入札シナリオごとの取引についての第2収益を評価する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記処理部は、
予測された前記約定量を上限として、前記取引量を予測する、
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記処理部は、
前記第1収益と前記第2収益とを合算した収益を求める、
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記処理部は、
前記入札量と、前記入札量の分割方法と、前記単価の算出方法と、を含む入札パラメータを用いて、前記分割方法に従い前記入札量を分割した複数の前記分割量を算出し、前記算出方法に従い前記分割量ごとの前記単価を算出し、算出した複数の前記分割量と前記単価とを含む1つ以上の前記入札シナリオを生成する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記処理部は、
前記入札シナリオごとに、前記約定の模擬を複数回実行して複数の前記約定量を予測し、
複数の前記約定量を用いて、前記入札シナリオごとに、複数の前記第1収益を評価し、
入札シナリオごとの複数の前記第1収益の統計量を含む出力情報の出力を制御する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記処理部は、
入札の対象期間ごとの落札された価格を含む実績情報を用いて、前記第1確率モデルを算出する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記処理部は、
前記実績情報と、気象情報と、を用いて、前記第1確率モデルを算出する、
請求項7に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記取引対象は、電力であり、
前記入札量は、発電された電力量である、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項10】
前記処理部は、
前記約定量を予測する約定予測部と、
前記第1収益を評価する第1評価部と、
を備える、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項11】
前記処理部は、
前記第1収益に基づく出力情報の出力を制御する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項12】
情報処理装置で実行される情報処理方法であって、
取引対象の入札量を分割した複数の分割量と、前記分割量ごとの単価と、を含む1つ以上の入札シナリオ、および、入札価格に対する約定の確率を表す第1確率モデルを用いて、前記分割量の約定を模擬し、前記入札シナリオごとの、前記分割量の約定量を予測する約定予測ステップと、
前記約定量を用いて、前記入札シナリオごとの約定についての第1収益を評価する第1評価ステップと、
を含む情報処理方法。
【請求項13】
コンピュータに、
取引対象の入札量を分割した複数の分割量と、前記分割量ごとの単価と、を含む1つ以上の入札シナリオ、および、入札価格に対する約定の確率を表す第1確率モデルを用いて、前記分割量の約定を模擬し、前記入札シナリオごとの、前記分割量の約定量を予測する約定予測ステップと、
前記約定量を用いて、前記入札シナリオごとの約定についての第1収益を評価する第1評価ステップと、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、情報処理装置、情報処理方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
発電事業者などが発電した電力を取引するための電力取引市場が知られている。例えば日本では、日本卸電力取引所(JEPX:Japan Electric Power Exchange)が開設する複数の市場で電力が取り引きされる。また、このような電力取引市場の他に、一般送配電事業者(TSO:Transmission System Operator)が周波数制御および需給バランス調整を行うための調整力について、より効率的な需給運用の実現を目指すため、広域的な調整力の調達を行う需給調整市場が開設されている。
【0003】
電力を取引する発電事業者および小売事業者は、自社の調整力(調整電源)を戦略的に市場に供出することで、収益最大化となる発電機の運用が求められる。需給調整市場は2021年に開設された新しい市場のため、最適な入札計画を立案する技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7026033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、電力などの市場での取引対象の最適な入札量の決定を効率的に支援することができる情報処理装置、情報処理方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の情報処理装置は、処理部を備える。処理部は、取引対象の入札量を分割した複数の分割量と、分割量ごとの単価と、を含む1つ以上の入札シナリオ、および、入札価格に対する約定の確率を表す第1確率モデルを用いて、分割量の約定を模擬し、入札シナリオごとの、分割量の約定量を予測し、約定量を用いて、入札シナリオごとの約定についての第1収益を評価する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】電力の入札量を複数に分割して入札する例を説明するための図。
図2】発動量の単価および料金の例を説明するための図。
図3】実施形態にかかる情報処理装置のブロック図。
図4】確率分布の例を示す図。
図5】入札シナリオの一例を示す図。
図6】出力情報の一例を示す図。
図7】実施形態における入札支援処理のフローチャート。
図8】実施形態にかかる情報処理装置のハードウェア構成図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる情報処理装置の好適な実施形態を詳細に説明する。以下では、市場および当該市場での取引対象を、需給調整市場および電力とする例を説明するが、市場および取引対象はこれらに限られない。
【0009】
最初に、需給調整市場の概要について説明する。需給調整市場は、効率的な需給運用の実現を目指し、広域的な調整力の調達を行うために2021年4月に開設された市場である。2021年4月の段階では三次調整力(2)のみを対象として市場が開設され、以降、より応動時間の短い調整力へと商品を拡大する予定となっている。
【0010】
需給調整市場は、調整力(ΔkWともいう)のためのΔkW市場と、調整力のうち発動の指令に応じて供給される電力(kWhともいう)のためのkWh市場の2つの市場による2段階のオークション方式となっている。また、需給調整市場は、複数の価格(マルチプライス)で取り引きされるオークション方式となっている。
【0011】
ΔkW市場は、例えば前日までにΔkWを事前に調達(予約)するための市場である。事前に調達されたΔkWに対して、需給調整のために発動が指令されると、指令に応じて電力が供給される。kWh市場は、kWhの価格を登録し、価格の安い順に稼働指令を行うための市場である。
【0012】
以下では、需給調整市場でΔkWの売買が成立することを約定といい、約定された調整力の量を約定量といい、発動が指令された量を発動量という場合がある。
【0013】
上記のように、需給調整市場はマルチプライスかつ2段階オークションとなっており、収益を最大化する入札を行うためには、入札する電力量(入札量)を最適に分割し単価を設定する必要がある。
【0014】
例えば、過去の需給調整市場での取引の実績情報が得られれば、実績情報から、入札価格と落札確率との関係を表すモデルを推定することができる。また、このようなモデルを用いて、収益の期待値を算出することができる。
【0015】
例えば、ΔkW市場での収益の期待値を最大化する観点では、推定されたモデルを用いて、期待値が最大となる価格にすべての札を入れることが最適な戦略となる。しかし、ΔkW市場での収益期待値を最大化することは、kWh市場も含めたすべての収益最適化の観点で必ずしも最適とはならない。需給調整市場は、ΔkW市場で約定した電源に対してkWh市場で発動指令が下る2段階オークションとなっているため、たとえ低価格であったとしてもΔkW市場で約定することがkWh市場での収益につながる可能性があるからである。
【0016】
次に、需給調整市場における入札の手順の概要を説明する。
(A1)発電機を特定する「電源等コード」、約定希望ΔkW、最小約定希望量、および、ΔkWの入札単価を登録し、入札する。なお、最小約定希望量は、約定可能な最低ΔkWを表す。
(A2)通信設備が専用線オンラインの場合は5000kW、簡易指令システムの場合は1000kWと最低入札量が定められており、約定希望ΔkWおよび最小約定希望量はこの値以上に設定する必要がある。
(A3)同一発電機において異なる入札単価で分割して入札することも可能である。
【0017】
図1は、電力の入札量(供出可能量)を複数に分割して入札する例を説明するための図である。図1は、ある電源Paが供出可能な6000kWの電力(入札量)を、以下のように3つの電力に分割する例を示す。
・kWあたりの単価が8円である1000kW
・kWあたりの単価が10円である2000kW
・kWあたりの単価が15円である3000kW
【0018】
次に、需給調整市場でのΔkWの約定の手順の概要を説明する。ただし、最小約定希望量の制約、および、連系線の運用容量制約等により、ΔkWの入札単価の安い順に約定しないことがある。
(B1)(一部制約のある場合を除いて)ΔkWの入札単価の安いものから約定する。
(B2)マルチプライスオークションのため、入札単価がそのまま約定単価となる。
(B3)需給調整市場システムに登録されている上げ調整単価(V1)および下げ調整単価(V2)は、約定の処理には影響しない。
【0019】
次に、発動量の料金(調整電力量料金)について説明する。発動量(kWh)の料金の単価は、以下のように決定される。
(C1)毎週火曜日の14時までに、当該週の土曜日から翌週の金曜日までの単価を登録する。
(C2)単価を変更する場合は、各30分コマの実需給の開始時刻の1時間前までに行う。
(C3)発電機の場合は、運転パターンごとに最大10パターンに区分し、かつ、出力帯ごとに最大20通りに区分した単価を登録する。
(C4)発電リソースの場合は、最低出力から最大出力までの間において、常に上位の出力帯の単価が下位の出力帯の単価を上回るように登録する。
【0020】
図2は、発動量の単価および料金(調整力費用)の例を説明するための図である。図2の例では、以下のように出力帯ごとの単価が設定されている。なお、30分コマとは、時間コマの一例である。時間コマとは、調整力の入札の対象となる期間(対象期間)の単位を表す。
・0~20kWh:3円
・20~30kWh:4円
・30~40kWh:5円
・40~50kWh:8円
【0021】
例えば20~30kWhの出力帯、および、30~40kWhの出力帯の調整力が発動された場合、発動量の料金は90円(=10×4+10×5)となる。
【0022】
このように、需給調整市場の入札では、ΔkW市場の入札単価(以下、調整力単価という)、および、kWh市場の入札単価(以下、発動量単価という)の2つの単価を適切に決定することが望ましい。
【0023】
本実施形態にかかる情報処理装置は、需給調整市場についての1つ以上の入札シナリオそれぞれに対して、調整力単価および発動量単価をそれぞれ入力として、約定確率分布、発動確率分布、および、期待収益を予測し、シナリオを評価する。また、本実施形態にかかる情報処理装置は、約定確率、発動確率およびシナリオ評価の結果を可視化して出力する。これにより、利用者のロバストな入札計画の作成における意思決定を支援する。すなわち、電力などの市場での取引対象の最適な入札量の決定を効率的に支援することができる。なお、本実施形態では、市場で取引対象(電力)が取り引きされる量を表す取引量は、入札量のうち発動された量を表す発動量に相当する。
【0024】
図3は、本実施形態にかかる情報処理装置100の構成の一例を示すブロック図である。図1に示すように、情報処理装置100は、受付部101と、モデル算出部102と、生成部103と、モデル記憶部151と、シナリオ記憶部152と、約定予測部111と、発動予測部112(取引予測部の一例)と、発動量評価部113(第2評価部の一例)と、調整力評価部114(第1評価部の一例)と、出力制御部121と、を備えている。
【0025】
受付部101は、情報処理装置100で用いられる各種データの入力を受け付ける。例えば受付部101は、モデル算出部102が確率モデルを算出するために用いる情報、および、生成部103がシナリオを生成するために用いる情報の入力を受け付ける。入力される各情報はどのような形式であってもよいが、例えばCSV(Comma Separated Values)形式である。
【0026】
確率モデルを算出するために用いる情報は、例えば、電源情報、気象情報、および、実績情報である。電源情報は、例えば、入札する電力を発電する電源(発電機等)のスペックなどである。気象情報は、例えば気象庁から入手する気象実績および気象予報についての情報を含む。実績情報は、需給調整市場で過去に取り引きされた情報である。実績情報は、例えば、ΔkW市場およびkWh市場それぞれでの、対象期間(時間コマ)ごとの落札された価格を含む。実績情報は、例えば、送配電網協議会のウェブサイト、日本卸電力取引所ウェブサイト、および、インバランス料金情報公表ウェブサイトなどの公開情報であってもよいし、電力の取引者(発電事業者、小売事業者等)が自社で管理する電源の入札から得た情報であってもよい。
【0027】
シナリオを生成するために用いる情報は、例えば、入札パラメータである。調整力についての入札パラメータは、例えば、調整力の値(入札量の一例)と、調整力の分割方法、単価の算出方法を含む。分割方法は、例えば調整力の分割数である。算出方法は、例えば、分割した調整力(以下、分割量)それぞれに対して設定できる単価のリストまたは範囲である。以下に、調整力についての入札パラメータの例を示す。
・分割方法:分割数は2、3または4
・算出方法:単価のリスト=6円、8円、10円および12円
【0028】
発動量についての入札パラメータは、例えば、出力帯数と、発動量の単価の算出方法と、を含む。以下に、発動量についての入札パラメータの例を示す。
・出力帯数:3または4
・算出方法:単価の範囲=0~80円
【0029】
モデル算出部102は、実績情報を用いて、ΔkW市場についての入札価格(調整力単価など)と落札確率(約定確率)との関係を表す約定確率モデル(第1確率モデル)を算出する。また、モデル算出部102は、実績情報を用いて、kWh市場についての入札価格(発動量単価など)と落札確率(発動確率)との関係を表す発動確率モデル(第2確率モデル)を算出する。
【0030】
モデル算出部102は、さらに気象情報および電源情報の少なくとも一方を用いて各確率モデルを算出してもよい。市場の実績情報のみでなく気象情報を利用することで、確率モデルをより高精度に算出可能となる。なお、確率モデルの算出に気象情報が用いられない場合、受付部101は、気象情報を受け付けないように構成されてもよい。
【0031】
約定確率モデルおよび発動確率モデルは、ΔkW市場の実績情報を使用するか、kWh市場の実績情報を使用するかが異なるのみで、同様の手順で算出することができる。以下では、約定確率モデルを例に、確率モデルの算出方法を説明する。
【0032】
入札価格(調整力単価)が非常に小さい時には、ほとんど100%の確率で落札(約定)され、入札価格が非常に大きい時には、ほとんど全く落札されないと考えられる。このような傾向を考慮すると、約定確率モデルは、図4に示すような確率分布G(p)で表すことができる。
【0033】
モデル算出部102は、約定確率モデルを表す確率分布を、どのような方法で算出してもよいが、例えばロジスティック回帰により算出できる。ロジスティック回帰の算出式は、以下の(1)式で表される。
y=σ(w+wp+w...) ・・・(1)
【0034】
ここで、yはロジスティック回帰の出力、pは入札価格、wは学習するパラメータ(iは1以上の整数)、xは入札価格以外の説明変数である。例えば、説明変数に入札価格pと気温Tとを使うことができる。このとき、算出式は以下の(2)式で表される。
y=σ(w+wp+wT) ・・・(2)
となる。
【0035】
まず、モデル算出部102は、実績情報および気象情報を用いて、最尤法により、パラメータwを決定する。例えばモデル算出部102は、実績情報から得られる落札価格および気象情報から得られる気温に対する落札成否の交差エントロピー誤差を最小とするように、パラメータwを決定する。交差エントロピー誤差は以下の(3)式で表される。
【数1】
ただし、tおよびyは、n番目の実績データの落札の成否と、対応する落札価格と気温から算出したロジスティック回帰の出力である。なお、学習方法は最尤法に限られず、他の方法であってもよい。
【0036】
モデル算出部102は、パラメータと入札価格と対象期間の気象予報値などの説明変数を以下の(4)式に代入することで、対象期間の約定確率モデルを算出する。
P=G(p)=σ(w+wp+w...) ・・・(4)
【0037】
ここで、σは標準シグモイド関数であり、例えば以下の(5)式で表される。
σ(x)=1/(1+e-x) ・・・(5)
【0038】
このように、約定確率モデルは、入札価格pの関数である。モデル算出部102は、算出した約定確率モデルを、モデル記憶部151に記憶する。モデル算出部102は、発動確率モデルも同様の手法で算出し、算出した発動確率モデルを、モデル記憶部151に記憶する。
【0039】
生成部103は、入札パラメータを用いて、1つ以上の入札シナリオを生成する。例えば生成部103は、入札パラメータで指定された分割方法に従い調整力(入札量)を分割した複数の分割量を算出し、単価の算出方法に従い分割量ごとの単価(調整力単価)を算出する。また、生成部103は、発動量について、単価の算出方法に従い出力帯数ごとの単価(発動量単価)を算出する。生成部103は、算出した複数の分割量、調整力単価、出力帯、および、発動量単価を含む1つ以上の入札シナリオを生成する。
【0040】
このとき、生成部103は、例えば、分割方法で指定される複数の分割数からランダムに1つの分割数を選択し、選択した分割数に従い分割した分割量それぞれに対する単価を、単価のリストからランダムに選択する。同様に、生成部103は、複数の出力帯数からランダムに選択した出力帯数それぞれに対する単価を、単価のリストまたは単価の範囲からランダムに選択する。
【0041】
生成部103は、このような処理を繰り返すことで、1つ以上の入札シナリオを作成する。生成部103は、生成した入札シナリオをシナリオ記憶部152に記憶する。図5は、入札シナリオの一例を示す図である。シナリオIDは、シナリオを識別する識別情報である。図5では、1つのシナリオのみが例示されているが、複数のシナリオが生成され、シナリオ記憶部152に記憶されてもよい。
【0042】
モデル記憶部151は、モデル算出部102により算出された約定確率モデル、および、発動確率モデルを記憶する。シナリオ記憶部152は、生成部103により生成された入札シナリオを記憶する。
【0043】
なお、各記憶部(モデル記憶部151、シナリオ記憶部152)は、フラッシュメモリ、メモリカード、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、および、光ディスクなどの一般的に利用されているあらゆる記憶媒体により構成することができる。各記憶部は、物理的に異なる記憶媒体としてもよいし、物理的に同一の記憶媒体の異なる記憶領域として実現してもよい。さらに各記憶部のそれぞれは、物理的に異なる複数の記憶媒体により実現してもよい。
【0044】
なお、確率モデル(約定確率モデル、発動確率モデル)の算出、および、入札シナリオの生成の少なくとも一方は、情報処理装置100とは異なる他の装置により実行されてもよい。この場合、他の装置で算出された確率モデルまたは生成された入札シナリオは、例えば受付部101により入力が受け付けられ、モデル記憶部151またはシナリオ記憶部152に記憶されてもよい。
【0045】
約定予測部111は、1つ以上の入札シナリオと約定確率モデルとを用いて、分割量の約定を模擬し、入札シナリオごとの分割量の約定量を予測する。約定の模擬とは、例えば、約定確率モデルに従う確率に基づいて、約定するか否かを決定することを意味する。例えば約定予測部111は、入札シナリオごとに、対象期間内での約定の模擬を複数回実行して複数の約定量を確率的に予測して出力する。
【0046】
約定の模擬には、例えば、モンテカルロ法を適用できる。例えば約定予測部111は、入札シナリオに定められた調整力単価に基づく入札価格pにより落札(約定)されるか否かを、乱数および約定確率モデルを用いて模擬する。
【0047】
発動予測部112は、1つ以上の入札シナリオと発動確率モデルとを用いて、分割量の発動を模擬し、分割量の発動量(取引量)を予測する。発動の模擬とは、例えば、発動確率モデルに従う確率に基づいて、発動するか否かを決定することを意味する。例えば発動予測部112は、入札シナリオごとに、対象期間内での発動の模擬を複数回実行して複数の発動量を確率的に予測して出力する。
【0048】
約定の模擬と同様に、発動の模擬には、例えば、モンテカルロ法を適用できる。例えば発動予測部112は、入札シナリオに定められた発動量単価に基づく入札価格pにより落札(発動)されるか否かを、乱数および発動確率モデルを用いて模擬する。
【0049】
発動の模擬は、約定の模擬とは独立に行ってもよいし、約定の模擬結果を利用して行ってもよい。約定の模擬結果を利用するとは、例えば、約定された調整力の上限を考慮し、発動量が調整力の上限を超えないように、発動を模擬することを表す。すなわち発動予測部112は、約定予測部111により予測された約定量に時間コマの時間(例えば30分)を乗算した発動量を、時間コマごとの発動量の上限として発動量を予測してもよい。これにより、調整力単価の設定が発動量についての収益に与える影響を考慮し、より尤もらしい発動の模擬結果を得ることが可能となる。
【0050】
発動量評価部113は、発動予測部112により予測された発動量を用いて、入札シナリオごとの取引(発動)についての収益(第2収益)を評価する。発動量評価部113は、例えば、入札シナリオに定められた発動量単価それぞれについて、落札された場合は発動量単価×出力帯の値を収益の期待値とし、落札されなかった場合は0円を収益の期待値として算出する。発動量評価部113は、発動量単価ごとの収益の期待値の合計を、当該入札シナリオ全体に対する収益の期待値として算出する。
【0051】
発動量評価部113は、複数回実行した発動の模擬それぞれに対して得られる収益の期待値(入札シナリオ全体に対する収益の期待値)の分散または分位数(4分位数など)などの統計量を算出してもよい。発動量評価部113は、複数の収益の期待値を表す近似的な確率分布を算出してもよい。
【0052】
調整力評価部114は、約定予測部111により予測された約定量を用いて、入札シナリオごとの約定についての収益(第1収益)を評価する。調整力評価部114は、例えば、入札シナリオに定められた調整力単価それぞれについて、落札された場合は調整力単価×分割量の値を収益の期待値とし、落札されなかった場合は0円を収益の期待値として算出する。調整力評価部114は、調整力単価ごとの収益の期待値の合計を、当該入札シナリオ全体に対する収益の期待値として算出する。
【0053】
調整力評価部114は、複数回実行した約定の模擬それぞれに対して得られる収益の期待値(入札シナリオ全体に対する収益の期待値)の分散または分位数(4分位数など)などの統計量を算出してもよい。調整力評価部114は、複数の収益の期待値を表す近似的な確率分布を算出してもよい。
【0054】
調整力評価部114は、調整力の約定量を上限とした発動量での収益と、調整力の約定による収益と、を合算し、合算した値についての統計量および確率分布を求めてもよい。
【0055】
出力制御部121は、情報処理装置100で用いられる各種データの出力を制御する。例えば出力制御部121は、調整力評価部114により評価された収益、および、発動量評価部113により評価された収益、の少なくとも一方に基づく出力情報の出力を制御する。出力情報は、例えば、収益の期待値、期待値の統計量(分散など)、および、約定確率分布および発動確率分布の統計値の一部または全部である。例えば出力制御部121は、モデル算出部102で求めた入札価格に対する約定確率分布および発動確率分布を求め、出力情報に含めて出力することができる。
【0056】
出力情報の出力方法はどのような方法であってもよいが、例えば、液晶ディスプレイなどの表示装置に表示する方法、外部のサーバなどの装置にネットワークを介して送信する方法、および、プリンタなどに印刷する方法などを適用できる。
【0057】
図6は、出力される出力情報の一例を示す図である。図6の出力情報は、シナリオIDごとの収益の期待値と分散とを含む例である。利用者は、出力された出力情報を参照することにより、最適な入札量の意思決定を行うことが可能となる。出力情報は、図5に示すような入札シナリオを含んでもよい。これにより、利用者は、収益の期待値および分散に対応する入札シナリオの内容を確認することができる。
【0058】
上記各部(受付部101、モデル算出部102、生成部103、約定予測部111、発動予測部112、発動量評価部113、調整力評価部114、および、出力制御部121)の少なくとも一部は、1つの処理部により実現されてもよい。上記各部は、例えば、1または複数のプロセッサにより実現される。例えば上記各部は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサにプログラムを実行させること、すなわちソフトウェアにより実現してもよい。上記各部は、専用のIC(Integrated Circuit)などのプロセッサ、すなわちハードウェアにより実現してもよい。上記各部は、ソフトウェアおよびハードウェアを併用して実現してもよい。複数のプロセッサを用いる場合、各プロセッサは、各部のうち1つを実現してもよいし、各部のうち2つ以上を実現してもよい。
【0059】
次に、本実施形態にかかる情報処理装置100による入札支援処理について説明する。図7は、本実施形態における入札支援処理の一例を示すフローチャートである。
【0060】
情報処理装置100が確率モデルの算出、および、入札シナリオの生成を実行する場合は、それぞれステップS101およびS102が実行される。
【0061】
まず、モデル算出部102は、実績情報、気象情報および電源情報を用いて、約定確率モデルおよび発動確率モデルを算出する(ステップS101)。生成部103は、入札パラメータを用いて、1つ以上の入札シナリオを生成する(ステップS102)。
【0062】
約定予測部111は、入札シナリオのうち、未処理の入札シナリオを取得する(ステップS103)。約定予測部111は、取得した入札シナリオについて、約定確率モデルを用いて約定量を予測する(ステップS104)。発動予測部112は、取得した入札シナリオについて、発動確率モデルを用いて発動量を予測する(ステップS105)。
【0063】
発動量評価部113は、発動予測部112により予測された発動量による収益を評価する(ステップS106)。調整力評価部114は、約定予測部111により予測された約定量による収益を評価する(ステップS107)。
【0064】
調整力評価部114は、すべての入札シナリオを処理したか否かを判定する(ステップS108)。すべての入札シナリオを処理していない場合(ステップS108:No)、ステップS103に戻り、次の未処理の入札シナリオについて処理が繰り返される。
【0065】
すべての入札シナリオを処理した場合(ステップS108:Yes)、出力制御部121は、シナリオごとの収益の期待値を含む出力情報を出力し(ステップS109)、入札支援処理を終了する。
【0066】
このように、本実施形態にかかる情報処理装置は、需給調整市場について入札シナリオそれぞれに対して、約定確率分布、発動確率分布、および、期待収益を評価して出力する。これにより、利用者による入札量の意思決定を効率的に支援することができる。
【0067】
次に、実施形態にかかる情報処理装置のハードウェア構成について図8を用いて説明する。図8は、実施形態にかかる情報処理装置のハードウェア構成例を示す説明図である。
【0068】
実施形態にかかる情報処理装置は、CPU51などの制御装置と、ROM(Read Only Memory)52やRAM53などの記憶装置と、ネットワークに接続して通信を行う通信I/F54と、各部を接続するバス61を備えている。
【0069】
実施形態にかかる情報処理装置で実行されるプログラムは、ROM52等に予め組み込まれて提供される。
【0070】
実施形態にかかる情報処理装置で実行されるプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、フレキシブルディスク(FD)、CD-R(Compact Disk Recordable)、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録してコンピュータプログラムプロダクトとして提供されるように構成してもよい。
【0071】
さらに、実施形態にかかる情報処理装置で実行されるプログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。また、実施形態にかかる情報処理装置で実行されるプログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成してもよい。
【0072】
実施形態にかかる情報処理装置で実行されるプログラムは、コンピュータを上述した情報処理装置の各部として機能させうる。このコンピュータは、CPU51がコンピュータ読取可能な記憶媒体からプログラムを主記憶装置上に読み出して実行することができる。
【0073】
実施形態の構成例について以下に記載する。
(構成例1)
取引対象の入札量を分割した複数の分割量と、前記分割量ごとの単価と、を含む1つ以上の入札シナリオ、および、入札価格に対する約定の確率を表す第1確率モデルを用いて、前記分割量の約定を模擬し、前記入札シナリオごとの、前記分割量の約定量を予測し、
前記約定量を用いて、前記入札シナリオごとの約定についての第1収益を評価する、
処理部、
を備える情報処理装置。
(構成例2)
前記処理部は、
前記入札シナリオと、前記入札価格に対する、前記入札量が取引される確率を表す第2確率モデルと、を用いて、前記分割量の取引を模擬し、前記分割量の取引量を予測し、
予測された前記取引量を用いて、前記入札シナリオごとの取引についての第2収益を評価する、
構成例1に記載の情報処理装置。
(構成例3)
前記処理部は、
予測された前記約定量を上限として、前記取引量を予測する、
構成例2に記載の情報処理装置。
(構成例4)
前記処理部は、
前記第1収益と前記第2収益とを合算した収益を求める、
構成例2に記載の情報処理装置。
(構成例5)
前記処理部は、
前記入札量と、前記入札量の分割方法と、前記単価の算出方法と、を含む入札パラメータを用いて、前記分割方法に従い前記入札量を分割した複数の前記分割量を算出し、前記算出方法に従い前記分割量ごとの前記単価を算出し、算出した複数の前記分割量と前記単価とを含む1つ以上の前記入札シナリオを生成する、
構成例1から4のいずれか1つに記載の情報処理装置。
(構成例6)
前記処理部は、
前記入札シナリオごとに、前記約定の模擬を複数回実行して複数の前記約定量を予測し、
複数の前記約定量を用いて、前記入札シナリオごとに、複数の前記第1収益を評価し、
入札シナリオごとの複数の前記第1収益の統計量を含む出力情報の出力を制御する、
構成例1から5のいずれか1つに記載の情報処理装置。
(構成例7)
前記処理部は、
入札の対象期間ごとの落札された価格を含む実績情報を用いて、前記第1確率モデルを算出する、
構成例1から6のいずれか1つに記載の情報処理装置。
(構成例8)
前記処理部は、
前記実績情報と、気象情報と、を用いて、前記第1確率モデルを算出する、
構成例7に記載の情報処理装置。
(構成例9)
前記取引対象は、電力であり、
前記入札量は、発電された電力量である、
構成例1から8のいずれか1つに記載の情報処理装置。
(構成例10)
前記処理部は、
前記約定量を予測する約定予測部と、
前記第1収益を評価する第1評価部と、
を備える、
構成例1から9のいずれか1つに記載の情報処理装置。
(構成例11)
前記処理部は、
前記第1収益に基づく出力情報の出力を制御する、
構成例1から10のいずれか1つに記載の情報処理装置。
(構成例12)
情報処理装置で実行される情報処理方法であって、
取引対象の入札量を分割した複数の分割量と、前記分割量ごとの単価と、を含む1つ以上の入札シナリオ、および、入札価格に対する約定の確率を表す第1確率モデルを用いて、前記分割量の約定を模擬し、前記入札シナリオごとの、前記分割量の約定量を予測する約定予測ステップと、
前記約定量を用いて、前記入札シナリオごとの約定についての第1収益を評価する第1評価ステップと、
を含む情報処理方法。
(構成例13)
コンピュータに、
取引対象の入札量を分割した複数の分割量と、前記分割量ごとの単価と、を含む1つ以上の入札シナリオ、および、入札価格に対する約定の確率を表す第1確率モデルを用いて、前記分割量の約定を模擬し、前記入札シナリオごとの、前記分割量の約定量を予測する約定予測ステップと、
前記約定量を用いて、前記入札シナリオごとの約定についての第1収益を評価する第1評価ステップと、
を実行させるためのプログラム。
【0074】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0075】
100 情報処理装置
101 受付部
102 モデル算出部
103 生成部
111 約定予測部
112 発動予測部
113 発動量評価部
114 調整力評価部
121 出力制御部
151 モデル記憶部
152 シナリオ記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8