(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062727
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】軟磁性粉末、金属粉末、圧粉磁心、磁性素子および電子機器
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20240501BHJP
B22F 1/08 20220101ALI20240501BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20240501BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240501BHJP
B22F 1/07 20220101ALI20240501BHJP
【FI】
B22F1/00 Y
B22F1/08
C22C33/02 M
C22C38/00 303S
B22F1/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170764
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 真侑
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA24
4K018BA16
4K018BB05
4K018BB07
4K018BD01
4K018CA11
4K018DA11
4K018HA04
4K018KA44
4K018KA61
4K018KA62
(57)【要約】
【課題】耐酸化性に優れ、かつ、密度および透磁率が高い成形体を製造可能な軟磁性粉末、熱処理によって前記軟磁性粉末を効率よく製造可能な金属粉末、前記軟磁性粉末を含む圧粉磁心、前記圧粉磁心を備える磁性素子、および、前記磁性素子を備える電子機器を提供すること。
【解決手段】原子数比における組成式FexCuaNbb(Si1-y(B1-zCrz)y)100-x-a-b
[a、b、x、y、zは、
0.3≦a≦2.0、
2.0≦b≦4.0、
75.5≦x≦79.5、
0.55≦y≦0.91、
0.015≦z≦0.185、
を満たす。]
で表される組成および不純物で構成され、
X線回折法により測定される結晶子径が6.0nm以上13.0nm以下であることを特徴とする軟磁性粉末。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子数比における組成式FexCuaNbb(Si1-y(B1-zCrz)y)100-x-a-b
[a、b、x、y、zは、
0.3≦a≦2.0、
2.0≦b≦4.0、
75.5≦x≦79.5、
0.55≦y≦0.91、
0.015≦z≦0.185、
を満たす。]
で表される組成および不純物で構成され、
X線回折法により測定される結晶子径が6.0nm以上13.0nm以下であることを特徴とする軟磁性粉末。
【請求項2】
Siの含有率が4.0原子%以上8.0原子%以下であり、
Bの含有率が9.0原子%以上13.5原子%以下であり、
Crの含有率が0.5原子%以上2.2原子%以下である請求項1に記載の軟磁性粉末。
【請求項3】
外径14mm、内径8mm、厚さ3mmのリング状をなす成形体に成形され、
前記成形体に7回巻き付けられた線径0.6mmの導線を用い、測定周波数1MHzで透磁率が測定されたとき、
前記透磁率が24.0以上である請求項1に記載の軟磁性粉末。
【請求項4】
酸素含有率が、1500ppm以下である請求項1または2に記載の軟磁性粉末。
【請求項5】
振動試料型磁力計を用いて測定される最大磁化をMm[emu/g]とし、
真密度をρ[g/cm3]とするとき、
4π/10000×ρ×Mm=Bsで求められる飽和磁束密度Bs[T]は、1.25T以上である請求項1または2に記載の軟磁性粉末。
【請求項6】
2質量%のエポキシ樹脂と混合され、得られた混合物を294MPaの圧力でプレス成形して得られる成形体は、密度が4.99g/cm3以上である請求項1または2に記載の軟磁性粉末。
【請求項7】
熱処理に供されることにより結晶化する金属粉末であって、
原子数比における組成式FexCuaNbb(Si1-y(B1-zCrz)y)100-x-a-b
[a、b、x、y、zは、
0.3≦a≦2.0、
2.0≦b≦4.0、
75.5≦x≦79.5、
0.55≦y≦0.91、
0.015≦z≦0.185、
を満たす。]
で表される組成および不純物で構成され、
示差走査熱量測定により取得されるDSC曲線が、第1発熱ピークと、前記第1発熱ピークよりも高温側に位置する第2発熱ピークと、を有し、
前記第1発熱ピークと前記第2発熱ピークの温度差が、125℃以上180℃以下であることを特徴とする金属粉末。
【請求項8】
請求項1または2に記載の軟磁性粉末を含むことを特徴とする圧粉磁心。
【請求項9】
請求項8に記載の圧粉磁心を備えることを特徴とする磁性素子。
【請求項10】
請求項9に記載の磁性素子を備えることを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性粉末、金属粉末、圧粉磁心、磁性素子および電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁性素子を備える各種モバイル機器において、小型化や高出力化を図るためには、スイッチング電源の変換周波数の高周波対応および高電流対応が必要になる。それに伴って、スイッチング電源に用いられる磁性素子についても小型化や高出力化が求められている。
【0003】
特許文献1には、Fe100-a-b-c-d-e-f-g-hCuaSibBcMdM’eXfAlgTih(原子%)で表される組成を有し、粒径1nm以上30nm以下の結晶組織を40体積%以上含有する軟磁性粉末が開示されている。また、前述した組成式のMはNbであり、M’はCrであることも開示されている。このような軟磁性粉末は、透磁率が高く、小型化が図られた磁性素子を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の軟磁性粉末は、組成によっては酸化しやすく、成形時の密度を十分に高められないという課題を有する。成形体の密度は、圧粉磁心を有する磁性素子の透磁率に影響を及ぼす。そこで、耐酸化性に優れ、かつ、密度および透磁率が高い成形体を製造可能な軟磁性粉末の実現が課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の適用例に係る軟磁性粉末は、
原子数比における組成式FexCuaNbb(Si1-y(B1-zCrz)y)100-x-a-b
[a、b、x、y、zは、
0.3≦a≦2.0、
2.0≦b≦4.0、
75.5≦x≦79.5、
0.55≦y≦0.91、
0.015≦z≦0.185、
を満たす。]
で表される組成および不純物で構成され、
X線回折法により測定される結晶子径が6.0nm以上13.0nm以下である。
【0007】
本発明の適用例に係る金属粉末は、
熱処理に供されることにより結晶化する金属粉末であって、
原子数比における組成式FexCuaNbb(Si1-y(B1-zCrz)y)100-x-a-b
[a、b、x、y、zは、
0.3≦a≦2.0、
2.0≦b≦4.0、
75.5≦x≦79.5、
0.55≦y≦0.91、
0.015≦z≦0.185、
を満たす。]
で表される組成および不純物で構成され、
示差走査熱量測定により取得されるDSC曲線が、第1発熱ピークと、前記第1発熱ピークよりも高温側に位置する第2発熱ピークと、を有し、
前記第1発熱ピークと前記第2発熱ピークの温度差が、125℃以上180℃以下である。
【0008】
本発明の適用例に係る圧粉磁心は、
本発明の適用例に係る軟磁性粉末を含む。
【0009】
本発明の適用例に係る磁性素子は、
本発明の適用例に係る圧粉磁心を備える。
【0010】
本発明の適用例に係る電子機器は、
本発明の適用例に係る磁性素子を備える。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る金属粉末から取得されたDSC曲線の一例である。
【
図2】トロイダルタイプのコイル部品を模式的に示す平面図である。
【
図3】閉磁路タイプのコイル部品を模式的に示す透過斜視図である。
【
図4】実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるモバイル型のパーソナルコンピューターの構成を示す斜視図である。
【
図5】実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるスマートフォンの構成を示す平面図である。
【
図6】実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるディジタルスチルカメラの構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の軟磁性粉末、金属粉末、圧粉磁心、磁性素子および電子機器について、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0013】
1.軟磁性粉末
実施形態に係る軟磁性粉末は、軟磁性を示す金属粉末である。かかる軟磁性粉末は、いかなる用途にも適用可能であるが、例えば、バインダーを介して粒子同士が結着され、圧粉磁心や電磁波吸収材等の各種圧粉体を製造するのに用いられる。
【0014】
実施形態に係る軟磁性粉末は、原子数比における組成式FexCuaNbb(Si1-y(B1-zCrz)y)100-x-a-b
[a、b、x、y、zは、
0.3≦a≦2.0、
2.0≦b≦4.0、
75.5≦x≦79.5、
0.55≦y≦0.91、
0.015≦z≦0.185、
を満たす。]
で表される組成および不純物で構成される。
【0015】
また、実施形態に係る軟磁性粉末は、X線回折法により測定される結晶子径が6.0nm以上13.0nm以下である。
【0016】
このような軟磁性粉末では、Crが添加されているとともに、その添加量が最適化されている。これにより、軟磁性粉末の耐酸化性を高めることができる。その結果、軟磁性粉末が圧粉されたとき、酸化物によって圧粉体の密度が低下するのを抑制することができる。また、軟磁性粉末において、結晶子径が過小または過大にならないように制御することができる。その結果、軟磁性粉末の保磁力の上昇を抑えつつ、透磁率を高めることができる。
【0017】
以下、実施形態に係る軟磁性粉末について詳述する。
1.1.組成
Fe(鉄)は、実施形態に係る軟磁性粉末の基本的な磁気特性や機械的特性に大きな影響を与える。
【0018】
Feの含有率xは、75.5原子%以上79.5原子%以下とされるが、好ましくは76.0原子%以上78.5原子%以下とされ、より好ましくは76.5原子%以上78.0原子%以下とされる。なお、Feの含有率xが前記下限値を下回ると、軟磁性粉末の飽和磁束密度が低下する。一方、Feの含有率xが前記上限値を上回ると、軟磁性粉末の製造時に非晶質組織を安定的に形成することができないため、結晶子径が過大になり、保磁力の上昇を招く。
【0019】
Cu(銅)は、実施形態に係る軟磁性粉末を原材料から製造するとき、Feと分離する傾向がある。このため、Cuを含むことで組成に揺らぎが生じ、粒子中には部分的に結晶化し易い領域が生じる。その結果、比較的結晶化し易い体心立方格子のFe相の析出が促され、前述したような結晶子径を有する結晶粒が形成されやすくなる。
【0020】
Cuの含有率aは、0.3原子%以上2.0原子%以下とされるが、好ましくは0.5原子%以上1.5原子%以下とされ、より好ましくは0.7原子%以上1.3原子%以下とされる。なお、Cuの含有率aが前記下限値を下回ると、結晶粒の微細化が損なわれ、前述した範囲の結晶子径の結晶粒を形成することができない。一方、Cuの含有率aが前記上限値を上回ると、軟磁性粉末の機械的特性が低下し、脆くなる。
【0021】
Nb(ニオブ)は、非晶質組織を多く含む状態から熱処理に供されたとき、Cuとともに結晶粒の微細化に寄与する。このため、前述したような結晶子径を有する結晶粒が形成されやすくなる。
【0022】
Nbの含有率bは、2.0原子%以上4.0原子%以下とされるが、好ましくは2.5原子%以上3.5原子%以下とされ、より好ましくは2.7原子%以上3.3原子%以下とされる。なお、Nbの含有率bが前記下限値を下回ると、結晶粒の微細化が損なわれ、前述した範囲の結晶子径の結晶粒を形成することができない。一方、Nbの含有率bが前記上限値を上回ると、軟磁性粉末の機械的特性が低下し、脆くなる。また、軟磁性粉末の透磁率が低下する。
【0023】
Si(ケイ素)は、実施形態に係る軟磁性粉末を原材料から製造するとき、非晶質化を促進する。このため、実施形態に係る軟磁性粉末を製造するときは、一旦、均質な非晶質組織が形成され、その後、それを結晶化させることによって、より均一な結晶子径の結晶粒が形成され易くなる。均一な結晶子径は、各結晶粒における結晶磁気異方性の平均化に寄与するため、保磁力を低下させるとともに透磁率を高めることができ、軟磁性の向上に寄与する。
【0024】
B(ホウ素)は、実施形態に係る軟磁性粉末を原材料から製造するとき、非晶質化を促進する。このため、実施形態に係る軟磁性粉末を製造するときは、一旦、均質な非晶質組織が形成され、その後、それを結晶化させることによって、より均一な結晶子径の結晶粒が形成され易くなる。その結果、保磁力を低下させるとともに透磁率を高めることができ、軟磁性の向上を図ることができる。また、SiとBとを併用することによって、両者の原子半径の差に基づき、相乗的に非晶質化を促進することができる。
【0025】
Cr(クロム)は、軟磁性粉末の耐酸化性を高める。これにより、軟磁性粉末が圧粉されたとき、酸化物によって圧粉体の密度が低下するのを抑制することができる。その結果、成形体の状態で測定される透磁率および飽和磁束密度を高めることができる。また、Crの含有率が最適化されることにより、軟磁性粉末において、結晶子径が過小または過大にならないように制御することができる。その結果、軟磁性粉末の保磁力の上昇を抑えつつ、透磁率を高めることができる。
【0026】
ここで、Si、BおよびCrの合計含有率(Si+B+Cr)を1とし、この合計含有率(Si+B+Cr)に対するBおよびCrの合計含有率(B+Cr)の割合をyとする。
【0027】
このyは、0.55≦y≦0.91を満たすが、好ましくは0.60≦y≦0.90を満たし、より好ましくは0.65≦y≦0.80を満たす。これにより、SiとBおよびCrとの量的バランスをとることができる。その結果、軟磁性粉末の耐酸化性と透磁率の双方をバランスよく高めることができる。
【0028】
なお、yが前記下限値を下回ると、耐酸化性が低下するとともに、結晶子径が過小になって透磁率が低下する。一方、yが前記上限値を上回ると、結晶子径が過大になって保磁力が上昇する。
【0029】
また、合計含有率(B+Cr)に対するCrの含有率の割合をzとする。
このzは、0.015≦z≦0.185を満たすが、好ましくは0.030≦z≦0.150を満たし、より好ましくは0.045≦z≦0.120を満たす。これにより、BとCrとの量的バランスをとることができる。その結果、軟磁性粉末の耐酸化性と透磁率の双方をバランスよく高めることができる。
【0030】
なお、zが前記下限値を下回ると、耐酸化性が低下するとともに、結晶子径が過小になって透磁率が低下する。一方、zが前記上限値を上回ると、結晶子径が過大になって保磁力が上昇する。
【0031】
なお、Siの含有率は、好ましくは1.5原子%以上14.0原子%以下とされ、より好ましくは3.0原子%以上10.0原子%以下とされ、さらに好ましくは4.0原子%以上8.0原子%以下とされる。これにより、軟磁性粉末の透磁率をより高め、かつ、保磁力をより低下させることができる。
【0032】
また、Bの含有率は、好ましくは5.0原子%以上17.0原子%以下とされ、より好ましくは7.0原子%以上16.0原子%以下とされ、さらに好ましくは9.0原子%以上13.5原子%以下とされる。これにより、軟磁性粉末の透磁率をより高め、かつ、保磁力をより低下させることができる。
【0033】
また、Crの含有率は、好ましくは0.3原子%以上2.7原子%以下とされ、より好ましくは0.5原子%以上2.2原子%以下とされ、さらに好ましくは0.8原子%以上1.8原子%以下とされる。これにより、軟磁性粉末の耐酸化性をより高めることができ、酸化物の生成をより少なく抑えることができる。その結果、酸化物に伴う圧粉体の密度の低下を抑制し、成形体の透磁率および飽和磁束密度をより高めることができる。また、各粒子が含む結晶粒の結晶子径を適切に制御することができ、低保磁力と高透磁率とのバランスをより最適化することができる。
【0034】
実施形態に係る軟磁性粉末は、上記の組成式FexCuaNbb(Si1-y(B1-zCrz)y)100-x-a-bで表される組成の他、不純物を含んでいてもよい。不純物としては、上記以外のあらゆる元素が挙げられるが、不純物の含有率の合計が0.50原子%以下であるのが好ましい。この範囲内であれば、不純物が混入しても上記効果を阻害しにくいため、含有が許容される。
【0035】
また、不純物に含まれる各元素の含有率は、それぞれ0.05原子%以下であるのが好ましい。この範囲内であれば、不純物が上記の効果を阻害しにくいため、含有が許容される。
【0036】
また、不純物のうち、特に酸素含有率は、1500ppm以下であるのが好ましく、800ppm以下であるのがより好ましい。酸素含有率が前記範囲内であれば、成形体の密度を低下させる原因となる酸化物の生成を特に少なく抑えることができる。
【0037】
以上、実施形態に係る軟磁性粉末について説明したが、上記組成および不純物は、以下のような分析手法により特定される。
【0038】
分析手法としては、例えば、JIS G 1257:2000に規定された鉄及び鋼-原子吸光分析法、JIS G 1258:2007に規定された鉄及び鋼-ICP発光分光分析法、JIS G 1253:2002に規定された鉄及び鋼-スパーク放電発光分光分析法、JIS G 1256:1997に規定された鉄及び鋼-蛍光X線分析法、JIS G 1211~G 1237に規定された重量・滴定・吸光光度法等が挙げられる。
【0039】
具体的には、例えばSPECTRO社製固体発光分光分析装置、特にスパーク放電発光分光分析装置、モデル:SPECTROLAB、タイプ:LAVMB08Aや、株式会社リガク製ICP装置CIROS120型が挙げられる。
【0040】
また、特にC(炭素)およびS(硫黄)の特定に際しては、JIS G 1211:2011に規定された酸素気流燃焼(高周波誘導加熱炉燃焼)-赤外線吸収法も用いられる。具体的には、LECO社製炭素・硫黄分析装置、CS-200が挙げられる。
【0041】
また、特にN(窒素)およびO(酸素)の特定に際しては、JIS G 1228:1997に規定された鉄および鋼の窒素定量方法、JIS Z 2613:2006に規定された金属材料の酸素定量方法通則も用いられる。具体的には、LECO社製酸素・窒素分析装置、TC-300/EF-300、LECO社製酸素・窒素・水素分析装置、ONH836等が挙げられる。
【0042】
1.2.結晶子径
実施形態に係る軟磁性粉末は、X線回折法により測定される結晶子径が6.0nm以上13.0nm以下である。結晶子径がこのような範囲内にあれば、軟磁性粉末の結晶子径が最適化されているため、軟磁性粉末の透磁率を高めることができる。また、各結晶粒における結晶磁気異方性が平均化され易く、低保磁力の軟磁性粉末が得られる。さらに、透磁率が高くなることで、高電流下でも飽和しにくくなるため、軟磁性粉末の飽和磁束密度を高めやすくなる。
【0043】
なお、軟磁性粉末における結晶子径は、好ましくは7.0nm以上12.0nm以下とされ、より好ましくは8.0nm以上11.0nm以下とされる。
【0044】
X線回折法による結晶子径の測定は、軟磁性粉末および標準試料についてそれぞれX線回折パターンを取得し、Fe由来の回折線幅を見積もった後、シェラー法により結晶子径を算出する方法で行う。標準試料について取得したX線回折パターンは、装置由来の回折線幅を見積もるために用いる。この回折線幅により、軟磁性粉末(被検試料)から算出される結晶子径を補正することができる。
【0045】
実施形態に係る軟磁性粉末を構成する各粒子は、上述した結晶子径の結晶粒を含有しているが、非晶質組織をさらに含有していてもよい。結晶粒と非晶質組織とが併存することにより、軟磁性粉末の磁歪をより小さくすることができる。その結果、透磁率が特に高い軟磁性粉末が得られる。また、併せて、磁化を制御し易い軟磁性粉末が得られる。
【0046】
1.3.各種特性
実施形態に係る軟磁性粉末の平均粒径は、特に限定されないが、1μm以上50μm以下であるのが好ましく、10μm以上45μm以下であるのがより好ましく、20μm以上40μm以下であるのがさらに好ましい。このような平均粒径の軟磁性粉末を用いることにより、渦電流が流れる経路を短くすることができるので、軟磁性粉末の粒子内において発生する渦電流損失を十分に抑制可能な磁性素子を製造することができる。また、圧粉体における軟磁性粉末の充填率を高めることができ、圧粉磁心の透磁率および飽和磁束密度を高めることができる。
【0047】
また、軟磁性粉末の平均粒径が10μm以上である場合、実施形態に係る軟磁性粉末より平均粒径が小さい軟磁性粉末と混合することにより、より高い成形体密度を実現できる。これにより、圧粉磁心の飽和磁束密度や透磁率をより高めやすくなる。
【0048】
軟磁性粉末の平均粒径とは、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて取得された軟磁性粉末の体積基準での累積粒度分布において、頻度の累積が小径側から50%である粒子径D50のことをいう。
【0049】
軟磁性粉末の平均粒径が前記下限値を下回ると、軟磁性粉末が細かくなり過ぎるため、軟磁性粉末の充填性が低下し易くなるおそれがある。これにより、圧粉磁心の成形密度が低下するため、軟磁性粉末が有する組成や機械的特性によっては、圧粉磁心の透磁率や飽和磁束密度が低下するおそれがある。一方、軟磁性粉末の平均粒径が前記上限値を上回ると、軟磁性粉末が有する組成や機械的特性によっては、粒子内において発生する渦電流損失を十分に抑制することができず、磁性素子の鉄損が増加するおそれがある。
【0050】
実施形態に係る軟磁性粉末の保磁力は、特に限定されないが、2.00[Oe]未満(160[A/m]未満)であるのが好ましく、0.10[Oe]以上1.67[Oe]以下(39.9[A/m]以上133[A/m]以下)であるのがより好ましい。このように保磁力が小さい軟磁性粉末を用いることにより、高周波下であってもヒステリシス損失を十分に抑制可能な磁性素子を製造することができる。
【0051】
軟磁性粉末の保磁力は、例えば、株式会社玉川製作所製、TM-VSM1230-MHHLのような振動試料型磁力計により測定することができる。
【0052】
実施形態に係る軟磁性粉末は、成形体としたときの透磁率が測定周波数1MHzにおいて24.0以上であるのが好ましく、25.0以上であるのがより好ましい。このような軟磁性粉末は、直流重畳特性に優れ、高周波数下での電磁変換効率が高く、小型化が図られた磁性素子の実現に寄与する。なお、この透磁率は、軟磁性粉末に対して2質量%の割合で添加されるエポキシ樹脂とともに、軟磁性粉末を成形圧力294MPa(3t/cm2)で圧粉して外径14mm、内径8mm、厚さ3mmのリング状とした後、このリング状の成形体に線径0.6mmの導線を7回巻き付けた状態で測定される。透磁率の測定には、例えば、アジレント・テクノロジー株式会社製 4194Aのようなインピーダンスアナライザーが用いられる。そして、測定周波数を1MHzとし、閉磁路磁心コイルの自己インダクタンスから求められる実効透磁率を測定値とする。
【0053】
実施形態に係る軟磁性粉末の飽和磁束密度は、1.25[T]以上であるのが好ましく、1.30[T]以上であるのがより好ましい。これにより、高電流でも飽和しにくい磁性素子が得られる。
【0054】
軟磁性粉末の飽和磁束密度は、例えば、以下の方法により測定される。
まず、全自動ガス置換式密度計、マイクロメリティックス社製、AccuPyc1330により、軟磁性粉末の真比重ρを測定する。次に、振動試料型磁力計、株式会社玉川製作所製VSMシステム、TM-VSM1230-MHHLにより、軟磁性粉末の最大磁化Mmを測定する。そして、以下の式により、飽和磁束密度Bsを算出する。
Bs=4π/10000×ρ×Mm
【0055】
実施形態に係る軟磁性粉末は、2質量%のエポキシ樹脂と混合され、得られた混合物を294MPaの圧力でプレス成形して得られる成形体の密度が、4.99g/cm3以上であるのが好ましく、5.01g/cm3以上5.20g/cm3以下であるのがより好ましい。成形体の密度が前記範囲内であれば、成形体において、酸化物の占有率が十分に抑えられ、その結果、合金の占有率を十分に確保できる。これにより、磁性素子の透磁率および飽和磁束密度をより高めることができる。
【0056】
なお、実施形態に係る軟磁性粉末は、他の軟磁性粉末や非軟磁性粉末と混合され、混合粉末として各種の用途に用いられてもよい。
【0057】
1.4.実施形態に係る軟磁性粉末が奏する効果
以上のように、本実施形態に係る軟磁性粉末は、
原子数比における組成式FexCuaNbb(Si1-y(B1-zCrz)y)100-x-a-b
[a、b、x、y、zは、
0.3≦a≦2.0、
2.0≦b≦4.0、
75.5≦x≦79.5、
0.55≦y≦0.91、
0.015≦z≦0.185、
を満たす。]
で表される組成および不純物で構成され、
X線回折法により測定される結晶子径が6.0nm以上13.0nm以下である。
【0058】
このような構成によれば、耐酸化性に優れるとともに、結晶子径が最適化されているため、密度および透磁率が高い成形体を製造可能な軟磁性粉末が得られる。
【0059】
また、軟磁性粉末は、Siの含有率が4.0原子%以上8.0原子%以下であり、Bの含有率が9.0原子%以上13.5原子%以下であり、Crの含有率が0.5原子%以上2.2原子%以下であることが好ましい。これにより、透磁率が特に高い成形体を製造可能な軟磁性粉末が得られる。
【0060】
また、軟磁性粉末が外径14mm、内径8mm、厚さ3mmのリング状をなす成形体に成形され、この成形体に7回巻き付けられた線径0.6mmの導線を用い、測定周波数1MHzで透磁率が測定されたとき、透磁率が24.0以上であることが好ましい。
【0061】
これにより、直流重畳特性に優れ、高周波数下での電磁変換効率が高く、小型化が図られた磁性素子の実現に寄与する軟磁性粉末が得られる。
【0062】
また、軟磁性粉末の酸素含有率は、1500ppm以下であることが好ましい。これにより、成形体の密度を低下させる原因となる酸化物の生成を特に少なく抑えることができる。
【0063】
また、軟磁性粉末は、振動試料型磁力計を用いて測定される最大磁化をMm[emu/g]とし、真密度をρ[g/cm3]とするとき、4π/10000×ρ×Mm=Bsで求められる飽和磁束密度Bs[T]は、1.25T以上であることが好ましい。これにより、高電流でも飽和しにくい磁性素子を製造可能な軟磁性粉末が得られる。
【0064】
また、軟磁性粉末が2質量%のエポキシ樹脂と混合され、得られた混合物を294MPaの圧力でプレス成形して得られる成形体は、密度が4.99g/cm3以上であることが好ましい。これにより、成形体において、酸化物の占有率が十分に抑えられ、その結果、合金の占有率を十分に確保できる。これにより、磁性素子の透磁率および飽和磁束密度をより高めることができる。
【0065】
2.軟磁性粉末の製造方法
次に、前述した軟磁性粉末の製造方法の一例について説明する。
【0066】
2.1.製造方法の概要
軟磁性粉末は、いかなる方法で製造された粉末であってもよい。製造方法の例としては、例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、回転水流アトマイズ法等の各種アトマイズ法の他、粉砕法等が挙げられる。このうち、アトマイズ法が好ましく用いられる。アトマイズ法によれば、粒子形状がより真球に近く、かつ、酸化物等の形成が少ない、良質な金属粉末を効率よく製造することができる。したがって、アトマイズ法により、比表面積がより小さい金属粉末を製造することができる。
【0067】
アトマイズ法は、溶融金属を、高速で噴射された液体または気体に衝突させることにより、溶湯を微粉化するとともに冷却して、金属粉末を製造する方法である。アトマイズ法では、溶融金属が微細化された後、固化に至る過程で球形化が進むため、より真球に近い粒子を製造することができる。
【0068】
このうち、水アトマイズ法は、冷却液として水等の液体を使用し、これを一点に集束する逆円錐状に噴射するとともに、この集束点に向けて溶融金属を流下させ、衝突させることにより、溶融金属から金属粉末を製造する方法である。
【0069】
また、回転水流アトマイズ法は、冷却用筒体の内周面に沿って冷却液を供給し、内周面に沿って旋回させる一方、溶融金属に液体または気体のジェットを吹き付け、飛散させた溶融金属を冷却液中に取り込むことにより、金属粉末を製造する方法である。
【0070】
さらに、ガスアトマイズ法は、冷却媒として気体(ガス)を使用し、これを一点に集束する逆円錐状に噴射するとともに、この集束点に向けて溶融金属を流下させ、衝突させることにより、溶融金属から金属粉末を製造する方法である。
【0071】
このようにして得られた金属粉末の各粒子は、非晶質組織で構成されている。このような金属粉末に後述する結晶化処理(熱処理)を施すことで、前述した軟磁性粉末が得られる。
【0072】
実施形態に係る金属粉末は、結晶化処理に供されることを前提とした金属粉末であって、前述した軟磁性粉末と同様の組成および不純物で構成されている。
【0073】
このような金属粉末について、示差走査熱量測定によりDSC(Differential Scanning Calorimeter)曲線を取得する。なお、示差走査熱量測定における試料の質量は20mg、測定雰囲気は窒素雰囲気とする。
【0074】
図1は、実施形態に係る金属粉末から取得されたDSC曲線の一例である。
図1に示すDSC曲線L1~L5は、それぞれ、第1発熱ピークP1と、第2発熱ピークP2と、を有している。第2発熱ピークP2は、第1発熱ピークP1よりも高温側に位置している。なお、DSC曲線L1~L5は、後述するサンプルNo.3、5、6、7、8の金属粉末から取得されたDSC曲線である。具体的には、DSC曲線L1、L2、L3、L4、L5は、Crの含有率が0.0原子%、0.5原子%、1.0原子%、1.5原子%、2.0原子%である組成を有する金属粉末から取得されたものである。
【0075】
第1発熱ピークP1は、ピークトップの温度Tx1が450℃以上550℃以下の範囲内にあるピークである。第1発熱ピークP1は、前述した軟磁性粉末が有する結晶粒が生成するときに生じる発熱に伴うピークである。したがって、この第1発熱ピークP1は、軟磁性粉末の製造において必要な結晶化によるピークであるといえる。このような必要な結晶化により、例えば体心立方格子(Bcc-Fe)構造を持つ結晶粒が生成される。以下、これを単に「結晶粒」ともいう。
【0076】
第2発熱ピークP2は、ピークトップの温度Tx2が600℃以上700℃以下の範囲内にあるピークである。第2発熱ピークP2は、前述した軟磁性粉末が有する結晶粒とは別の結晶組織が生成するときに生じる発熱に伴うピークである。この結晶組織は、例えばFe-B系合金を主成分とし、軟磁性粉末の軟磁性を悪化させる原因となる。このため、この第2発熱ピークP2は、軟磁性粉末の製造において不必要な結晶組織によるピークであるといえる。以下、これを「不必要な結晶組織」ともいう。
【0077】
そして、実施形態に係る金属粉末では、第1発熱ピークP1と第2発熱ピークP2の温度差Tx2-Tx1が、125℃以上180℃以下である。このような構成によれば、この温度差が十分に確保されているため、金属粉末に対し、第1発熱ピークP1の温度と第2発熱ピークP2の温度との間で熱処理を施したとき、金属粉末に対して前述した結晶粒の生成に必要な熱量を与えやすくなる。このため、より高い温度で結晶化処理を行うことが可能になることで、不必要な結晶組織の生成を避けつつ、結晶粒を適度に成長させることができる。その結果、結晶子径が前述した範囲内に制御された軟磁性粉末を製造しやすくなる。
【0078】
また、第1発熱ピークP1と第2発熱ピークP2の温度差Tx2-Tx1は、好ましくは130℃以上165℃以下とされ、より好ましくは135℃以上155℃以下とされる。
【0079】
なお、この温度差が前記下限値を下回ると、前述した結晶子径の範囲に入る十分な量の結晶粒を生成しようとするとき、つまり、第1発熱ピークP1の温度よりも十分に高い温度で熱処理を行うとき、意図せず、第2発熱ピークP2に対応する結晶化も生じてしまう。一方、この温度差が前記上限値を上回ってもよいが、第2発熱ピークP2の温度によっては、第1発熱ピークP1の温度が低くなりすぎる。この場合、結晶粒の粒径がバラつきやすくなり、生成する結晶粒の結晶子径が前記範囲外に外れやすくなる。
【0080】
なお、この温度差は、金属粉末の組成、とりわけCrの含有率によって左右される。
図1に示すように、Crの含有率が0原子%から2.0原子%まで変化すると、それに伴って温度差も拡大する傾向がある。また、金属粉末における非晶質組織の状態にも影響を受けると考えられ、例えば非晶質組織を形成するときの冷却速度が遅いと、温度差が狭くなる傾向がある。このため、金属粉末を製造するときには、溶融金属からの冷却速度が速い製造方法、例えば、アトマイズ法の中でも回転水流アトマイズ法が好ましく用いられる。
【0081】
以上のような金属粉末に対し、結晶化処理(熱処理)を施す。これにより、非晶質組織の少なくとも一部が結晶化して結晶粒が形成される。
【0082】
結晶化処理は、非晶質組織を含む軟磁性粉末に熱処理を施すことにより行うことができる。熱処理の温度は、特に限定されないが、520℃以上640℃以下であるのが好ましく、530℃以上630℃以下であるのがより好ましく、540℃以上620℃以下であるのがさらに好ましい。また、熱処理の時間は、前記温度で維持する時間を1分以上180分以下とするのが好ましく、3分以上120分以下とするのがより好ましく、5分以上60分以下とするのがさらに好ましい。熱処理の温度および時間をそれぞれ前記範囲内に設定することにより、より適切で均一な結晶子径の結晶粒を生成することができる。
【0083】
なお、熱処理の温度または時間が前記下限値を下回ると、軟磁性粉末が有する組成等によっては、結晶化が不十分になって、結晶子径が過小になったり、結晶子径の均一性が劣ったりするおそれがある。一方、熱処理の温度または時間が前記上限値を上回ると、軟磁性粉末が有する組成等によっては、結晶化が進み過ぎて、結晶子径が過大になったり、結晶子径の均一性が劣ったりするおそれがある。
【0084】
結晶化処理の雰囲気は、特に限定されないが、窒素、アルゴンのような不活性ガス雰囲気、水素、アンモニア分解ガスのような還元性ガス雰囲気、またはこれらの減圧雰囲気であるのが好ましい。これにより、金属の酸化を抑制しつつ、結晶化させることができ、磁気特性に優れた軟磁性粉末が得られる。
【0085】
結晶化処理の雰囲気の酸素濃度は、酸化物の生成量に影響を及ぼす。そこで、結晶化処理の雰囲気の酸素濃度を、体積比で1000ppm以下にすることが好ましく、5ppm以上500ppm以下にすることがより好ましく、10ppm以上200ppm以下にすることがさらに好ましい。これにより、酸化物の生成を抑えることができ、密度の高い圧粉体を製造し得る軟磁性粉末が得られる。
【0086】
結晶化処理における降温速度は、1℃/分以上100℃/分以下であるのが好ましく、2℃/分以上30℃/分以下であるのがより好ましく、4℃/分以上20℃/分以下であるのがさらに好ましい。降温速度を前記範囲内に設定することにより、軟磁性粉末の結晶子径を前記範囲内に制御しやすくなる。また、結晶子径のバラつきを抑えることもできる。なお、降温速度が前記下限値を下回ると、軟磁性粉末の結晶子径が過大になりやすく、一方、降温速度が前記上限値を上回ると、軟磁性粉末の結晶子径のバラつきが大きくなるおそれがある。
【0087】
以上のようにして本実施形態に係る軟磁性粉末を製造することができる。
【0088】
また、製造した軟磁性粉末に対し、必要に応じて、分級を行ってもよい。分級の方法としては、例えば、ふるい分け分級、慣性分級、遠心分級のような乾式分級、沈降分級のような湿式分級等が挙げられる。
【0089】
また、必要に応じて、得られた軟磁性粉末の各粒子表面に絶縁膜を成膜するようにしてもよい。この絶縁膜の構成材料としては、例えば、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛、リン酸マンガン、リン酸カドミウムのようなリン酸塩、ケイ酸ナトリウムのようなケイ酸塩等の無機材料、シリカ、アルミナ、マグネシア、ジルコニア、チタニア等のセラミック材料、ホウケイ酸ガラス、シリカガラスのようなガラス材料等が挙げられる。
【0090】
2.2.実施形態に係る金属粉末が奏する効果
以上のように、実施形態に係る金属粉末は、熱処理に供されることにより結晶化する金属粉末であって、
原子数比における組成式FexCuaNbb(Si1-y(B1-zCrz)y)100-x-a-b
[a、b、x、y、zは、
0.3≦a≦2.0、
2.0≦b≦4.0、
75.5≦x≦79.5、
0.55≦y≦0.91、
0.015≦z≦0.185、
を満たす。]
で表される組成および不純物で構成され、
示差走査熱量測定により取得されるDSC曲線が、第1発熱ピークと、前記第1発熱ピークよりも高温側に位置する第2発熱ピークと、を有し、
前記第1発熱ピークと前記第2発熱ピークの温度差が、125℃以上180℃以下である。
【0091】
このような構成によれば、より高い温度で結晶化処理を行うことが可能になるため、不必要な結晶組織の生成を避けつつ、結晶粒を適度に成長させ得る金属粉末が得られる。これにより、結晶子径が最適な範囲内に制御された軟磁性粉末を製造可能な金属粉末が得られる。
【0092】
3.圧粉磁心および磁性素子
次に、実施形態に係る圧粉磁心および磁性素子について説明する。
【0093】
実施形態に係る磁性素子は、例えば、チョークコイル、インダクター、ノイズフィルター、リアクトル、トランス、モーター、アクチュエーター、電磁弁、発電機等のような、磁心を備えた各種磁性素子に適用可能である。また、実施形態に係る圧粉磁心は、これらの磁性素子が備える磁心に適用可能である。
【0094】
以下、磁性素子の一例として、2種類のコイル部品を代表に説明する。
3.1.トロイダルタイプ
まず、実施形態に係る磁性素子の一例であるトロイダルタイプのコイル部品について説明する。
図2は、トロイダルタイプのコイル部品10を模式的に示す平面図である。
【0095】
図2に示すコイル部品10は、リング状の圧粉磁心11と、この圧粉磁心11に巻き回された導線12と、を有する。
【0096】
圧粉磁心11は、実施形態に係る軟磁性粉末とバインダーとを混合し、得られた混合物を成形型に供給するとともに、加圧・成形して得られる。すなわち、圧粉磁心11は、実施形態に係る軟磁性粉末を含む圧粉体である。このような圧粉磁心11は、成形密度が高く、透磁率が高い。このため、圧粉磁心11を電子機器等に搭載したとき、電子機器等の高性能化および小型化を図ることができる。なお、バインダーは、必要に応じて添加されればよく、省略されてもよい。
【0097】
また、このような圧粉磁心11を備える磁性素子としてのコイル部品10は、高透磁率化が図られたものとなる。
【0098】
圧粉磁心11の作製に用いられるバインダーの構成材料としては、例えば、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等の有機材料、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛、リン酸マンガン、リン酸カドミウムのようなリン酸塩、ケイ酸ナトリウムのようなケイ酸塩等の無機材料等が挙げられるが、特に、熱硬化性ポリイミドまたはエポキシ系樹脂が好ましい。これらの樹脂材料は、加熱されることによって容易に硬化するとともに、耐熱性に優れたものである。したがって、圧粉磁心11の製造容易性および耐熱性を高めることができる。
【0099】
また、軟磁性粉末に対するバインダーの割合は、作製する圧粉磁心11の目的とする飽和磁束密度や機械的特性、許容される渦電流損失等に応じて若干異なるが、0.5質量%以上5質量%以下程度であるのが好ましく、1質量%以上3質量%以下程度であるのがより好ましい。これにより、軟磁性粉末の各粒子同士を十分に結着させつつ、飽和磁束密度や透磁率といった磁気特性に優れた圧粉磁心11を得ることができる。混合物中には、必要に応じて、任意の目的で各種添加剤を添加するようにしてもよい。
【0100】
導線12の構成材料としては、導電性の高い材料が挙げられ、例えば、Cu、Al、Ag、Au、Ni等を含む金属材料が挙げられる。また、導線12の表面には、必要に応じて絶縁膜が設けられる。
【0101】
なお、圧粉磁心11の形状は、
図2に示すリング状に限定されず、例えばリングの一部が欠損した形状であってもよく、長手方向の形状が直線状である形状であってもよい。
【0102】
また、圧粉磁心11は、必要に応じて、前述した実施形態に係る軟磁性粉末以外の軟磁性粉末や非磁性粉末を含んでいてもよい。
【0103】
3.2.閉磁路タイプ
次に、実施形態に係る磁性素子の一例である閉磁路タイプのコイル部品について説明する。
図3は、閉磁路タイプのコイル部品20を模式的に示す透過斜視図である。
【0104】
以下、閉磁路タイプのコイル部品20について説明するが、以下の説明では、トロイダルタイプのコイル部品10との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0105】
本実施形態に係るコイル部品20は、
図3に示すように、コイル状に成形された導線22を、圧粉磁心21の内部に埋設してなるものである。すなわち、コイル部品20は、導線22を圧粉磁心21でモールドしてなる。この圧粉磁心21は、前述した圧粉磁心11と同様の構成を有する。
【0106】
このような形態のコイル部品20は、比較的小型のものが容易に得られる。そして、小型で高透磁率化が図られたコイル部品20が得られる。
【0107】
また、導線22が圧粉磁心21の内部に埋設されているため、導線22と圧粉磁心21との間に隙間が生じ難い。このため、圧粉磁心21の磁歪による振動を抑制し、この振動に伴う騒音の発生を抑制することもできる。
【0108】
なお、圧粉磁心21は、必要に応じて、前述した実施形態に係る軟磁性粉末以外の軟磁性粉末や非磁性粉末を含んでいてもよい。
【0109】
4.電子機器
次いで、実施形態に係る磁性素子を備える電子機器について、
図4~
図6に基づいて説明する。
【0110】
図4は、実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるモバイル型のパーソナルコンピューター1100の構成を示す斜視図である。
図4に示すパーソナルコンピューター1100は、キーボード1102を備えた本体部1104と、表示部100を備えた表示ユニット1106と、を備える。表示ユニット1106は、本体部1104に対しヒンジ構造部を介して回動可能に支持されている。このようなパーソナルコンピューター1100には、例えばスイッチング電源用のチョークコイルやインダクター、モーター等の磁性素子1000が内蔵されている。
【0111】
図5は、実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるスマートフォン1200の構成を示す平面図である。
図5に示すスマートフォン1200は、複数の操作ボタン1202、受話口1204および送話口1206を備える。また、操作ボタン1202と受話口1204との間には、表示部100が配置されている。このようなスマートフォン1200には、例えばインダクター、ノイズフィルター、モーター等の磁性素子1000が内蔵されている。
【0112】
図6は、実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるディジタルスチルカメラ1300の構成を示す斜視図である。ディジタルスチルカメラ1300は、被写体の光像をCCD(Charge Coupled Device)等の撮像素子により光電変換して撮像信号を生成する。
【0113】
図6に示すディジタルスチルカメラ1300は、ケース1302の背面に設けられた表示部100を備える。表示部100は、被写体を電子画像として表示するファインダーとして機能する。また、ケース1302の正面側、すなわち図中裏面側には、光学レンズやCCDなどを含む受光ユニット1304が設けられている。
【0114】
撮影者が表示部100に表示された被写体像を確認し、シャッターボタン1306を押下すると、その時点におけるCCDの撮像信号が、メモリー1308に転送・格納される。このようなディジタルスチルカメラ1300にも、例えばインダクター、ノイズフィルター等の磁性素子1000が内蔵されている。
【0115】
実施形態に係る電子機器としては、
図4のパーソナルコンピューター、
図5のスマートフォン、
図6のディジタルスチルカメラの他に、例えば、携帯電話、タブレット端末、時計、インクジェットプリンターのようなインクジェット式吐出装置、ラップトップ型パーソナルコンピューター、テレビ、ビデオカメラ、ビデオテープレコーダー、カーナビゲーション装置、ページャー、電子手帳、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニター、電子双眼鏡、POS端末、電子体温計、血圧計、血糖計、心電図計測装置、超音波診断装置、電子内視鏡のような医療機器、魚群探知機、各種測定機器、車両、航空機、船舶の計器類、自動車制御機器、航空機制御機器、鉄道車両制御機器、船舶制御機器のような移動体制御機器類、フライトシミュレーター等が挙げられる。
【0116】
このような電子機器は、実施形態に係る磁性素子を備えている。これにより、高透磁率という磁性素子の効果を享受し、電子機器の高出力化および小型化を図ることができる。
【0117】
以上、本発明の軟磁性粉末、金属粉末、圧粉磁心、磁性素子および電子機器について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0118】
例えば、前記実施形態では、本発明の軟磁性粉末の用途例として圧粉磁心等の圧粉体を挙げて説明したが、用途例はこれに限定されず、例えば磁性流体、磁気ヘッド等の磁性デバイスであってもよい。また、圧粉磁心や磁性素子の形状も、図示したものに限定されず、いかなる形状であってもよい。
【実施例0119】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
5.成形体の製造
5.1.サンプルNo.1
まず、原材料を高周波誘導炉で溶融するとともに、回転水流アトマイズ法により粉末化して金属粉末を得た。
【0120】
次に、得られた金属粉末に対し、窒素雰囲気において加熱する結晶化処理を施した。熱処理における加熱温度は、表1に示す通りである。また、加熱後の降温速度は、10℃/分であった。なお、表1に示す加熱温度は、あらかじめ軟磁性粉末の保磁力が極小になるときの加熱温度を探索して求めた値である。
【0121】
次いで、風力分級機により分級を行った。得られた軟磁性粉末が有する組成を表1に示す。
【0122】
次に、得られた軟磁性粉末について、粒度分布測定を行った。そして、粒度分布から軟磁性粉末の平均粒径を求めたところ、20μmであった。
【0123】
次に、得られた軟磁性粉末と、バインダーであるエポキシ樹脂を混合して、混合物を得た。なお、エポキシ樹脂の添加量は、軟磁性粉末100質量部に対して2質量部(軟磁性粉末の2質量%)とした。
【0124】
次に、得られた混合物を撹拌したのち、短時間乾燥させ、塊状の乾燥体を得た。次いで、この乾燥体を、目開き600μmのふるいにかけ、乾燥体を粉砕して、造粒粉末を得た。得られた造粒粉末を50℃で1時間乾燥させた。
【0125】
次に、得られた造粒粉末を、成形型に充填し、下記の成形条件で形成するとともに、下記の硬化条件により、バインダーを硬化させ、成形体を得た。
【0126】
<成形条件>
・成形方法 :プレス成形
・成形体の形状:リング状
・成形体の寸法:外径14mm、内径8mm、厚さ3mm
・成形圧力 :3t/cm2(294MPa)
【0127】
<バインダーの硬化条件>
・加熱温度 :150℃
・加熱時間 :0.5時間
・加熱雰囲気 :大気
【0128】
5.2.サンプルNo.2~15
軟磁性粉末の製造条件および熱処理条件を表1に示すように変更した以外は、サンプルNo.1と同様にして成形体を得た。
【0129】
【0130】
なお、表1においては、各サンプルNo.の金属粉末および軟磁性粉末のうち、本発明に相当するものについては「実施例」、本発明に相当しないものについては「比較例」と示した。
【0131】
6.金属粉末、軟磁性粉末および成形体(圧粉磁心)の評価
6.1.金属粉末の結晶化温度
各実施例および各比較例の金属粉末について、示差走査熱量測定(DSC)を行い、取得したDSC曲線から、第1発熱ピークのピークトップの温度Tx1、および、第2発熱ピークのピークトップの温度Tx2を、それぞれ結晶化温度として求めた。求めた結晶化温度および温度差Tx2-Tx1を表1に示す。
【0132】
6.2.軟磁性粉末の結晶子径
各実施例および各比較例の軟磁性粉末について、X線回折法により、結晶子径を測定した。測定結果を表2に示す。
【0133】
6.3.軟磁性粉末の酸素含有率
各実施例および各比較例の軟磁性粉末について、酸素含有率を測定した。酸素含有率の測定には、LECO社製酸素・窒素・水素分析装置、ONH836を用いた。測定結果を表2に示す。
【0134】
6.4.成形体の密度
各実施例および各比較例の軟磁性粉末を用いて製造された成形体について、密度を測定した。そして、測定した成形体の密度を、以下の評価基準に照らして評価した。測定結果を表2に示す。
【0135】
A:成形体の密度が5.01g/cm3以上である
B:成形体の密度が4.99g/cm3以上5.01g/cm3未満である
C:成形体の密度が4.99g/cm3未満である
【0136】
6.5.軟磁性粉末の保磁力
各実施例および各比較例の軟磁性粉末について、保磁力を測定した。そして、測定した保磁力を、以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表2に示す。
【0137】
A:保磁力が0.90Oe未満
B:保磁力が0.90Oe以上1.33Oe未満
C:保磁力が1.33Oe以上1.67Oe未満
D:保磁力が1.67Oe以上2.00Oe未満
E:保磁力が2.00Oe以上2.33Oe未満
F:保磁力が2.33Oe以上
【0138】
6.6.軟磁性粉末の飽和磁束密度
各実施例および各比較例で得られた軟磁性粉末について、それぞれの飽和磁束密度を算出した。算出結果を表2に示す。
【0139】
6.7.成形体の透磁率
各実施例および各比較例で得られた軟磁性粉末を用いて製造された成形体について、透磁率を測定した。測定結果を表2に示す。
【0140】
なお、表2においては、各サンプルNo.の軟磁性粉末および成形体のうち、本発明に相当するものについては「実施例」、本発明に相当しないものについては「比較例」と示した。
【0141】
【0142】
表2から明らかなように、各実施例の軟磁性粉末では、Feの含有率が高くても、耐酸化性に優れ、酸素含有率が比較的低く抑えられていた。また、各実施例の軟磁性粉末を用いて製造された成形体については、密度および透磁率が高いことが認められた。
【0143】
また、各実施例の金属粉末では、温度差Tx2-Tx1が十分に広いことが認められた。このため、各実施例の金属粉末に対しては、より高温での結晶化処理が可能になり、その結果、不必要な結晶組織の生成を抑えつつ、過大にならない程度に結晶子径を大きくする制御が容易になるといえる。よって、本発明の金属粉末を用いることにより、結晶化処理を経ても酸素含有率の上昇が抑えられ、かつ、透磁率の高い成形体を製造可能な軟磁性粉末を容易に製造可能であることが認められた。
【0144】
なお、回転水流アトマイズ法に代えて、水アトマイズ法を用いた場合も、上記と同様の傾向を持つ結果が得られた。
10…コイル部品、11…圧粉磁心、12…導線、20…コイル部品、21…圧粉磁心、22…導線、100…表示部、1000…磁性素子、1100…パーソナルコンピューター、1102…キーボード、1104…本体部、1106…表示ユニット、1200…スマートフォン、1202…操作ボタン、1204…受話口、1206…送話口、1300…ディジタルスチルカメラ、1302…ケース、1304…受光ユニット、1306…シャッターボタン、1308…メモリー、P1…第1発熱ピーク、P2…第2発熱ピーク、Tx1…温度、Tx2…温度