(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062732
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】金属溶湯炉
(51)【国際特許分類】
C22B 9/16 20060101AFI20240501BHJP
F27B 3/20 20060101ALI20240501BHJP
F27D 1/18 20060101ALI20240501BHJP
F27D 11/02 20060101ALI20240501BHJP
C22C 1/02 20060101ALI20240501BHJP
C22B 21/06 20060101ALN20240501BHJP
【FI】
C22B9/16
F27B3/20
F27D1/18 A
F27D11/02 A
C22C1/02 503J
C22B21/06
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170778
(22)【出願日】2022-10-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】391003727
【氏名又は名称】株式会社トウネツ
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】望月 城也太
(72)【発明者】
【氏名】下戸 司
【テーマコード(参考)】
4K001
4K045
4K051
4K063
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001BA22
4K001BA23
4K045AA04
4K045BA03
4K045DA02
4K045RA09
4K045RA12
4K045RB19
4K045RB29
4K051AA03
4K051AA05
4K051AB09
4K051MA01
4K063AA04
4K063AA12
4K063AA13
4K063BA03
4K063CA01
4K063FA10
4K063FA14
4K063FA16
4K063FA18
(57)【要約】
【課題】金属材料を金属溶湯内で溶解する際に、溶解時間を早くすること。
【解決手段】前記課題を解決する金属溶湯炉1は、金属溶湯MMを収容し、流動する金属溶湯MMの液中で金属材料を溶解させること及び当該金属溶湯MMを昇温させることの少なくとも一方を行う金属溶解室13を備え、前記金属溶解室13の内部には前記金属溶湯MMを加熱する細長状の溶湯加熱体2を備え、前記溶湯加熱体2は前記金属溶解室13の側壁部13Dsから下方DSへ向かって延出して設けられており、 前記溶湯加熱体2の下方DSに位置する前記金属溶解室13の底面13Db1は、前記溶湯加熱体2と所定の間隔を空けながら、前記溶湯加熱体2と同方向に傾斜している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属溶湯を収容し、流動する金属溶湯の液中で金属材料を溶解させること及び当該金属溶湯を昇温させることの少なくとも一方を行う金属溶解室を備えた金属溶湯炉において、
前記金属溶解室の内部には前記金属溶湯を加熱する細長状の溶湯加熱体を備え、
前記溶湯加熱体は前記金属溶解室の側壁部から下方へ向かって延出して設けられており、
前記溶湯加熱体の下方に位置する前記金属溶解室の底面は、前記溶湯加熱体と所定の間隔を空けながら、前記溶湯加熱体と同方向に傾斜していることを特徴とする金属溶湯炉。
【請求項2】
前記金属溶解室の底面は、
前記溶湯加熱体の下方に位置し、前記溶湯加熱体と略平行に傾斜した傾斜面と、
前記傾斜面の下端部から側方へ延出する側方延出面と、を有し、
前記側方延出面の上は金属溶湯に含まれる不要物が集積される不要物集積部である請求項1記載の金属溶湯炉。
【請求項3】
前記金属溶解室の上部に前記金属溶解室を覆う蓋が設けられ、
前記溶湯加熱体の上方に位置する前記金属溶解室の蓋は、前溶湯加熱体と所定の間隔を空けながら、前記溶湯加熱体と同方向に傾斜している請求項1記載の金属溶湯炉。
【請求項4】
金属溶湯を収容し、流動する金属溶湯の液中で金属材料を溶解させること及び当該金属溶湯を昇温させることの少なくとも一方を行う金属溶解室を備えた金属溶湯炉において、
前記金属溶解室の内部には前記金属溶湯を加熱する細長状の溶湯加熱体を備え、
前記溶湯加熱体は前記金属溶解室の側壁部から下方へ向かって延出して設けられており、
前記金属溶解室の上部に前記金属溶解室を覆う蓋が設けられ、
前記溶湯加熱体の上方に位置する前記金属溶解室の蓋は、前溶湯加熱体と所定の間隔を空けながら、前記溶湯加熱体と同方向に傾斜していることを特徴とする金属溶湯炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム、アルミニウム合金などの非鉄金属等の金属を溶解させたり、また、溶解した金属(以下、「金属溶湯」という。)を昇温させる金属溶湯炉に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム、アルミニウム合金などの非鉄金属等の金属を溶解させたり、また、金属溶湯を昇温させる従来の方法は、溶解炉内にインゴットやリターン材、スクラップ(例えばブリケット材、切粉をいう。以下同じ。)等を投入し、ヒーターやバーナーを用いてそれらを金属溶湯の液中で溶解させたり、金属溶湯を昇温させるものが主流である。
【0003】
例えば、特許文献1には、バーナーからの燃焼ガス(火炎)の熱によって金属材料を溶解させて溶融材料にし、当該溶融材料を昇温させる溶解炉が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の方法は、インゴットやリターン材、スクラップ等の金属材料にヒーターやバーナーの熱が十分伝達していたとは言えず、金属材料を溶解させたり、金属溶湯を昇温させるのに時間がかかるという問題があった。
【0006】
したがって、本発明の課題は、金属材料を、空気に触れることなく金属溶湯内で溶解させる(以下、「液中無酸化溶解」ともいう。)際に、溶解時間を早くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段の態様は次のとおりである。
【0008】
(第1の態様)
金属溶湯を収容し、流動する金属溶湯の液中で金属材料を溶解させること及び当該金属溶湯を昇温させることの少なくとも一方を行う金属溶解室を備えた金属溶湯炉において、
前記金属溶解室の内部には前記金属溶湯を加熱する細長状の溶湯加熱体を備え、
前記溶湯加熱体は前記金属溶解室の側壁部から下方へ向かって延出して設けられており、
前記溶湯加熱体の下方に位置する前記金属溶解室の底面は、前記溶湯加熱体と所定の間隔を空けながら、前記溶湯加熱体と同方向に傾斜していることを特徴とする金属溶湯炉。
【0009】
(作用効果)
第1の態様の金属溶湯炉によれば、溶湯加熱体と金属溶解室の底面との間の所定の間隔を空けた隙間における金属溶湯の流動速度が速くなるため、溶湯加熱体から金属溶湯への熱伝達効率を高めることができる。その結果、金属溶湯内の金属材料の溶解時間を速くすることができる。
【0010】
また、従来の溶湯加熱体を縦置きした略立方体や略直方体等の金属溶解室では、金属溶解室内に溶湯加熱体を収容するために、金属溶解室の高さをある程度高くせざるを得なかった。しかし、金属溶解室の高さが高くなると、金属溶解室と既存設備(例えばダイカストマシンの給湯設備をいい、この給湯設備は最大約1200mm程度の高さを有する。以下同じ。)を併設した際に、金属溶解室の高さが前記既存設備よりも高くなることが少なくなかった。このように金属溶解室と前記既存設備に高さの差が生じた場合、既存設備の稼働効率が悪くなるおそれがあった。
【0011】
このような不都合が生じることを防ぐため、金属溶解室の高さを低くするとともに幅を広くして、従前の金属溶解室と同程度の容量の金属溶解室とし、かつ、その金属溶解室に長さが短く径が太い溶湯加熱体(従前の溶湯加熱体と同程度の加熱能力にするために径太くする必要がある)を縦置きする方法も考えられる。しかし、そのような溶湯加熱体は特注品となるため、従前の溶湯加熱体と比べて著しく高価であり(10倍程度の価格)、イニシャルコストが増えるという不都合がある。
【0012】
他方、従来の溶湯加熱体を横置きするタイプの金属溶解室では、金属溶解室の幅を広くしなければならないため、必然的に金属溶解室の底面の面積が大きくなる。金属の溶解が進むにつれて、不要物が金属溶解室の底面に貯まるが、金属溶解室の底面の面積が大きい場合、不要物が金属溶解室の底面の至るところに散在することになるため、不要物の回収に手間がかかるという不都合がある。
【0013】
以上の不都合を解消するため、第1の態様では、溶湯加熱体を斜めに配置する構造、すなわち溶湯加熱体を金属溶解室の側壁部から下方へ向かって延出するように設けた。このような構造にすることで、溶湯加熱体を縦置きするタイプの従来の金属溶解室よりも、金属溶解室の高さを低くすることができる。その結果、既存設備等の稼働効率の低下という不都合が生じることを防ぐことができる。また、溶湯加熱体を横置きするタイプの従来の金属溶解室よりも、金属溶解室の底面の面積を小さくすることができるため、金属溶解室の底面に貯まる不要物の回収の手間を少なくすることができる。
【0014】
それとともに、第一実施形態では、金属溶解室の底面を溶湯加熱体と所定の間隔を空けながら、溶湯加熱体と同方向に傾斜させている。このように、金属溶解室の底面を傾斜させることで、前述の不要物が金属溶解室の底面のうちの一番低い部分に集まるため、金属溶解室の底面に貯まる不要物の回収の手間をより少なくすることができる。
【0015】
さらに、金属溶解室の底面を傾斜させることで、従来の略立方体や略直方体等の金属溶解室と比べて、金属溶解室の容積を減らすことができ、金属溶解室に収容される金属溶湯の量を減らすことができる。したがって、溶湯加熱体の出力が従来と同じであれば、金属溶湯が減った分の溶湯加熱体の熱を金属溶湯の昇温に利用でき、結果、金属溶湯の昇温時間を短縮することができる。
【0016】
(第2の態様)
前記金属溶解室の底面は、
前記溶湯加熱体の下方に位置し、前記溶湯加熱体と略平行に傾斜した傾斜面と、
前記傾斜面の下端部から側方へ延出する側方延出面と、を有し、
前記側方延出面の上は金属溶湯に含まれる不要物が集積される不要物集積部である前記第1の態様の金属溶湯炉。
【0017】
(作用効果)
従来の金属溶湯炉は、次のような問題もあった。すなわち、インゴットやリターン材、スクラップ等を金属溶湯炉に投入する際、外部の空気と金属溶湯炉内の金属溶湯が接触する。また、金属溶解室の上蓋と金属溶湯の間の空間に充満した空気が金属溶湯と接触する。以上のように空気と金属溶湯が接触すると、金属溶湯内に酸化物が発生してしまう。さらに、インゴット等には銅、鉄、亜鉛などの重金属が含まれているため、インゴット等が溶解したときに副生成物が生じてしまう。これらの酸化物や副生成物は、時間の経過とともに金属溶解室の底面に散在して蓄積されるため、柄杓などを用いてこれらを回収する際に手間がかかるという問題があった。
【0018】
金属溶湯に含まれる不要な物(前述の酸化物や副生成物をいい、以下「不要物」という。)は、時間の経過とともに、徐々に重力によって金属溶解室の底面に落下する。このとき、第2の態様のように、金属溶解室の底面の一部を傾斜させることにより、不要物を傾斜面の下端部から側方へ延出する側方延出面の上に滞留させることができる。すなわち、不要物が金属溶解室の底面全体に散在するのではなく、自然に側方延出面の上に集積される。そのため、柄杓などを用いて不要物を回収する際に、側方延出面の上に集積されたこれらの不要物を掬い取れば良いため、不要物の回収効率を上げることができる。
【0019】
(第3の態様)
前記金属溶解室の上部に前記金属溶解室を覆う蓋が設けられ、
前記溶湯加熱体の上方に位置する前記金属溶解室の蓋は、前溶湯加熱体と所定の間隔を空けながら、前記溶湯加熱体と同方向に傾斜している前記第1の態様の金属溶湯炉。
【0020】
(作用効果)
第3の態様の金属溶湯炉によれば、溶湯加熱体と金属溶解室の蓋との間の隙間における金属溶湯の流動速度が速くなるため、溶湯加熱体から金属溶湯への熱伝達効率を高めることができる。その結果、金属溶湯内の金属材料の溶解時間をより速くすることができる。
【0021】
また、前記金属溶解室の蓋が前記溶湯加熱体と同方向に傾斜しているため、従来のような略立方体や略直方体等の金属溶解室と比べて、金属溶解室の容積が減り、これにより収容される金属溶湯の量を減らすことができる。したがって、溶湯加熱体の出力が従来と同じであれば、金属溶湯が減った分の溶湯加熱体の熱を金属溶湯の昇温に利用でき、結果、金属溶湯の昇温時間を短縮することができる。
【0022】
(第4の態様)
金属溶湯を収容し、流動する金属溶湯の液中で金属材料を溶解させること及び当該金属溶湯を昇温させることの少なくとも一方を行う金属溶解室を備えた金属溶湯炉において、
前記金属溶解室の内部には前記金属溶湯を加熱する細長状の溶湯加熱体を備え、
前記溶湯加熱体は前記金属溶解室の側壁部から下方へ向かって延出して設けられており、
前記金属溶解室の上部に前記金属溶解室を覆う蓋が設けられ、
前記溶湯加熱体の上方に位置する前記金属溶解室の蓋は、前溶湯加熱体と所定の間隔を空けながら、前記溶湯加熱体と同方向に傾斜していることを特徴とする金属溶湯炉。
【0023】
(作用効果)
第4の態様の金属溶湯炉によれば、溶湯加熱体と金属溶解室の蓋との間の所定の間隔を空けた隙間における金属溶湯の流動速度が速くなるため、溶湯加熱体から金属溶湯への熱伝達効率を高めることができる。その結果、金属溶湯内の金属材料の溶解時間を速くすることができる。
【0024】
また、前記金属溶解室の蓋が前記溶湯加熱体と同方向に傾斜しているため、従来のような略立方体や略直方体等の金属溶解室と比べて、金属溶解室の容積が減り、これにより収容される金属溶湯の量が減らすことができる。したがって、溶湯加熱体の出力が従来と同じであれば、金属溶湯が減った分の溶湯加熱体の熱を金属溶湯の昇温に利用でき、結果、金属溶湯の昇温時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、金属材料を金属溶湯内で溶解させる際に、溶解時間を早くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】第一実施形態に係る金属溶湯炉を示した概略平面図である。
【
図2】
図1の金属溶解室のZ1-Z1線の断面図である。
【
図3】流れ生成装置および流れ生成室の一例を示した概略断面図である。
【
図4】第二実施形態に係る金属溶湯炉を示した概略平面図である。
【
図5】
図4の金属溶解室のZ2-Z2線の断面図である
【
図6】第三実施形態に係る金属溶湯炉を示した概略平面図である。
【
図7】比較例に係る金属溶解室を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0028】
以下、本発明に係る金属溶湯炉1の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明及び図面は、本発明の実施形態の一例を示したものにすぎず、本発明の内容をこの実施形態に限定して解釈すべきでない。
【0029】
(第一実施形態)
本発明に係る金属溶湯炉1の第一実施形態を
図1に示す。この金属溶湯炉1は、インゴットを投入するインゴット投入室11と、リターン材を投入するリターン材投入室12と、流動する金属溶湯MMの液中で金属材料を溶解させること及び金属溶湯MMを昇温させることの少なくとも一方を行う金属溶解室13と、金属溶湯MMを流動させる流れ生成装置4を備えた流れ生成室14と、金属溶湯MM内の残り滓を除去する残滓除去室15と、金属材料を溶解した金属溶湯MMが出湯する出湯室16とを有する。
【0030】
なお、前記金属溶解室13で行う金属材料の溶解については、流動する金属溶湯MMによってインゴット投入室11内やリターン材投入室12内で完全に溶解し切れなかったインゴットと、流動する金属溶湯MMによりリターン材投入室12内で完全に溶解し切れなかったリターン材を金属溶解室13で溶解させる。
【0031】
(金属溶湯MMの流れ)
インゴット投入室11、リターン材投入室12、金属溶解室13、流れ生成室14および残滓除去室15は、この順序で環状に配置されている。以下において、金属溶湯MMの流れを詳述する。
【0032】
まず、インゴットがインゴット投入室11の金属溶湯MM内に投入され、流動する金属溶湯MMによりインゴット投入室11内で溶解したインゴット及びインゴット投入室11内で完全には溶解し切れていないインゴットを含む金属溶湯MMは第一搬送路W1と通ってリターン材投入室12へ流れる。そして、リターン材投入室12内で新たにリターン材が金属溶湯MM内に投入される。このリターン材は、鋳造過程で発生した不要部分のため、色々な形状をしている。リターン材投入室12にリターン材を投入する前に、ブレーカー装置で、予めリターン材を破砕し、破砕されたリターン材をコンベアにより移送し、リターン材投入室12に投入する。流動する金属溶湯MMによりリターン材投入室12内で溶解したリターン材及びリターン材投入室12内で完全には溶解し切れていないリターン材を含む金属溶湯MMは、第二搬送路W2を通って金属溶解室13へ流れる。
【0033】
金属溶解室13では、溶湯加熱体2(例えばヒーター)によって金属溶湯MMが加熱され、(1)金属溶湯MM中の完全に溶解し切れていないインゴット及びリターン材の少なくとも一方を溶解すること、(2)金属溶湯MMを昇温させること、の少なくとも一方を行う。
【0034】
金属溶解室13内の一部の金属溶湯MMは、第三搬送路W3を通って流れ生成室14へ流れる。流れ生成室14では、流れ生成装置4により、インゴット投入室11、リターン材投入室12、金属溶解室13、流れ生成室14、残滓除去室15、インゴット投入室11…の順に流れる金属溶湯MMの循環流を生成する。流れ生成室14内の金属溶湯MMは、第四搬送路W4を通って残滓除去室15へ流れる。
【0035】
以上のように、インゴット投入室11、リターン材投入室12、金属溶解室13、流れ生成室14、残滓除去室15、の間で、金属溶湯MMを循環させることが好ましい。金属溶湯MMを循環させる目的は次のようなものである。
【0036】
すなわち、インゴットやリターン材(以下、「対象物」という。)は、固体のままで金属溶湯MMの液中に投入され、金属溶湯MM内で対象物自体は空気に触れていない無酸化状態になる。そして、金属溶湯MMが対象物全体を取り囲むので、金属溶湯MMの熱が対象物に均一に伝わることになり、対象物が溶解し始める。その際、対象物全体を取り囲んだ部分(周辺)の金属溶湯MMは温度が下がり、金属溶湯MMは不均一な温度分布になる。この不均一な温度分布を解消し、均一な温度を保つ目的で、金属溶湯MMを循環させる。
【0037】
ここで、流れ生成装置4の構成について詳述する。
図3に流れ生成装置4の一例の概要を示した。この流れ生成装置4は、流れ生成室14の外側に設けられたモータ4Aと、流れ生成室14の上方USから下方DSへ向かって延出し、前記モータ4Aによって回転する回転軸4Bと、流れ生成室14の下部に位置し、前記回転軸4Bの下端部に設けられた撹拌翼4Cとを有する。回転軸4Bは、流れ生成室14の内部に位置する従動軸4Baと流れ生成室14の外側上方に位置する出力軸4Bbとを有している。また、モータ4Aの上部にも別の回転軸4Aaが設けられている。前記出力軸4Bbと回転軸4Aaにはそれぞれギア4Ga、4Gbが取り付けられており、これらのギア4Ga、4Gbはベルト4Vで連結されている。以上のような構造により、モータ4Aが撹拌翼4Cを回転させるようになっている。
図3では撹拌翼4Cが時計回りに回転するようになっているが、金属溶湯MMの流れを反対にしたい場合は、撹拌翼4Cの回転方向OTを逆方向(反時計回り)にすればよい。
【0038】
流れ生成室14の下部側壁の一方側(図面左側)には、金属溶解室13から流れ生成室14へ流入する金属溶湯MMの供給口14Aが設けられており、流れ生成室14の下部側壁の他方側(図面右側)には、流れ生成室14から残滓除去室15へ流出する金属溶湯MMの排出口14Bが設けられている。また、流れ生成室14の上方には蓋14Cが設けられており、流れ生成室14内の金属溶湯MMが外部に零れ落ちないようになっている。なお、
図3の例では、断熱材20を図示していないが、金属溶湯MMの温度低下を防ぐため、流れ生成室14の容器14Dの外側に断熱材20を設けることが好ましい。
【0039】
また、
図3の流れ生成装置4および流れ生成室14の構成はあくまでも一例を示したものであり、これらの構成は適宜変更してもよい。例えばモータ4Aを出力軸4Bbに直接取り付けたり、撹拌翼4Cの形状をスクリュー型やプロペラ型等にしたり(
図3の攪拌翼4Cはパドル型である)、攪拌翼4Cを用いずにノズルから窒素などの気体を噴き込む形態にしてもよい。また、攪拌翼4C、供給口14Aおよび排出口14Bの位置は、金属溶湯MMを効率よく流動させるために同じ高さにすることが好ましいが、これらの高さを
図3に示した位置よりも上側USに配置してもよい。
【0040】
さらに、
図3の流れ生成室14の容器14Dの内空間では、撹拌翼4Cにより生成された金属溶湯MMの流れが渦流となるので、この渦流を妨げない形状として、流れ生成室14の容器14Dの内空間を略円筒型にすることが好ましい。
【0041】
以上のような流れ生成室14から排出された金属溶湯MMは、残滓除去室15にて、金属溶湯MM中の残滓(金属溶湯MMの液面に生成した酸化保護膜や金属溶湯MM中に浮遊する酸化物等)を柄杓で掬い取られるなどして除去される。または、予め粉末状の金属溶解用フラックスを撒いて、当該フラックスに残滓を吸着させて除去してもよい。残滓が除去された金属溶湯MMは、第五搬送路W5を通ってインゴット投入室11へと流れる。インゴット投入室11に戻った金属溶湯MMのその後の流れについては、前述と同様であるため、ここでは記載を省略する。
【0042】
また、金属溶解室13内のインゴットおよびリターン材が溶解した金属溶湯MMの一部は、第六搬送路W6を通って出湯室16へと流れる。出湯室16内の一部の金属溶湯MMは、適宜のタイミングで後段の鋳造機やダイカストマシン等へ出湯される。なお、出湯室16内の金属溶湯MMの温度が低下することを防止するため、出湯室16の内部にもヒーター等の溶湯加熱体2を設けることが好ましい。
【0043】
以上のとおり、金属溶湯MMは、インゴット投入室11、リターン材投入室12、金属溶解室13、流れ生成室14、残滓除去室15、出湯室16の各室を流動する。これらの各室は相互に繋がっているため、インゴットやリターン材を投入したり、金属溶湯MMの一部が出湯したりしても、インゴット投入室11、リターン材投入室12、金属溶解室13、流れ生成室14、残滓除去室15、出湯室16の各室の金属溶湯MMの湯面MLは変動せずに一定である。
【0044】
また、金属溶湯MMの循環流の方向MRについては、前述の説明では、金属溶湯MMが
図1の反時計回りに流動する旨を述べたが、金属溶湯MMを時計回りに流動させてもよい。すなわち、金属溶湯MMが、インゴット投入室11、残滓除去室15、流れ生成室14、金属溶解室13、リターン材投入室12、インゴット投入室11…の順に流れるようにしてもよい。ただし、金属溶湯MMの出湯に備えるため、インゴット投入室11に投入されたインゴットのうち、インゴット投入室11内で完全には溶解し切れていないインゴットやリターン材投入室12に投入されたリターン材のうち、リターン材投入室12内で完全には溶解し切れていないリターン材をいち早く金属溶湯MM内で液中無酸化溶解させることが好ましい。このような観点からすると、インゴットやリターン材がいち早く金属溶解室13に流れ着くようにすることが好ましいため、
図1のように金属溶湯MMを反時計回りに流動させることが好ましい。なお、金属溶湯MMが流れる方向は、流れ生成装置4によって変更することができ、例えば前述の回転翼4Cの回転方向を逆方向にすればよい。
【0045】
(金属溶解室13)
次に、金属溶解室13について詳述する。金属溶解室13は金属溶解室容器13Dの内部の空間であり、金属溶解室13内に金属溶湯MMが保持される。金属溶湯MMの内部にはインゴット投入室11内で完全には溶解し切れていなかったインゴットやリターン材投入室12内で完全には溶解し切れていなかったリターン材が含まれている。金属溶湯MMを出湯室16から出湯する前に、金属溶湯MM中のインゴット投入室11内で完全には溶解し切れていなかったインゴットやリターン材投入室12内で完全には溶解し切れていなかったリターン材を溶解させる必要がある。そのため、金属溶解室13内には、金属溶湯MMを加熱して金属溶湯MM内のインゴット投入室11内で完全には溶解し切れていなかったインゴットやリターン材投入室12内で完全には溶解し切れていなかったリターン材を溶解するために用いる溶湯加熱体2が設けられている。
【0046】
溶湯加熱体2は特に限定されるものではないが、金属溶湯室13内での金属溶湯MMの流動を妨げないものが好ましく、板状の加熱体よりも流動する際の抵抗が少ないため、細長状の加熱体が好ましい。具体的には、チューブバーナーやチューブヒーターなどのチューブ状のものを用いることが好ましい。
【0047】
溶湯加熱体2の基端部は金属溶解室13の側壁部分に設けられている。
図2の例では、溶湯加熱体2の基端部は、金属溶解室容器13Dの側壁13Ds(図面左側の側壁)上部と、金属溶解室容器13Dの外側に位置する断熱材13Eの側壁(図面左側の側壁)上部に、金属溶解室容器13Dや断熱材13Eを貫通させて取り付けられている。そして、溶湯加熱体2は金属溶解室13の側壁部分から金属溶解室13の下方へ向かって延出している。
図2の例において、溶湯加熱体2は、金属溶解室容器13Dの側壁13Ds(図面左側の側壁)上部から、反対側の床部13Db(図面右側の床部)へ向かって延出して設けられている。もしくは、溶湯加熱体2は、金属溶解室容器13Dの側壁13Ds(図面左側の側壁)上部から、反対側の側壁13Ds(図面右側の側壁)の下部へ向かって延出して設けられているともいえる。
【0048】
この溶湯加熱体2の傾斜角度は任意に定めることができるが、溶湯加熱体2の軸線2xと仮想水平線2yの間の俯角の角度αを20~45度とすることが好ましく、30~40度とすることがより好ましい。
【0049】
前記角度αが20度よりも小さいと、金属溶解室13の高さを抑えることができる。その結果、前述のように、既存設備等の稼働効率が低下してしまうという不都合の発生を防ぐことができるという利点がある。
【0050】
しかし、金属溶解室13の高さを低くしすぎると、リターン材投入室12や流れ生成室14の高さを変更する必要が生じてしまう。リターン材投入室12や流れ生成室14の高さを変えないと、各部屋12、13、14の高さが大きく異なるため、金属溶解室13と連結しているリターン材投入室12や流れ生成室14の各搬送路(第二搬送路W2及び第三搬送路W3)の形状が歪になり、金属溶湯MMが流動しにくくなるためである。
【0051】
また、リターン材投入室12や流れ生成室14の高さよりも金属溶解室13の高さを低くしすぎると(例えば、金属溶解室13の高さをリターン材投入室12の高さよりも著しく低くすると)、金属溶解室13に金属溶湯MMが流入しすぎて、金属溶解室13から金属溶湯MMが溢れて出てしまうおそれがある。
【0052】
以上のことから、金属溶解室13の高さを低くしすぎることも好ましいことではなく、ある程度以上の高さにする必要がある。このように、溶湯加熱体2の前記角度αを小さくしすぎることについては、そもそもそのようなニーズがない。
【0053】
他方、溶湯加熱体2の前記角度αが小さくなるにつれて、溶湯加熱体2の延出方向が水平に近くなるため、溶湯加熱体2を収容するために金属溶解室13の幅を長くする必要が生じる。その結果、金属溶解室13を設置するために広い場所が必要になってしまうという不都合が生じる。また、金属溶解室の幅が長くなると、金属溶解室の底面の面積が大きくなる傾向がある。金属溶解室の底面の面積が大きいと、金属溶解室の底面の至るところに不要物が散在した状態になり、それらの不要物の回収に労力がかかるという不都合がある。
【0054】
以上のことから、溶湯加熱体2の前記角度αは20度以上にすることが好ましい。
【0055】
他方、前記角度αが45度よりも大きいと、溶湯加熱体2を収容する金属溶解室13の高さを抑えることができず、前述のように、既存設備等の稼働効率が低下してしまうという不都合が発生する可能性がある。
【0056】
以上のような、操業上の不都合があることから、前記角度αは45度以下にすることが好ましい。
【0057】
図2の例では、金属溶解室容器13Dの左右の側壁13Dsはほぼ垂直であり、図面右側の床部13Dbはほぼ水平である。他方、金属溶湯室容器13Dの図面左側の床部13Dbは、前記溶湯加熱体2と同様に、図面左側から右側へ向かって下方に傾斜している。この金属溶湯室容器13Dの床部13Dbの傾斜床面13Db1の傾斜角度β(傾斜床面13Db1の延長線13Dxと仮想水平線13Dyの間の俯角の角度β)は、前記溶湯加熱体2の傾斜角度αとほぼ同じにすることが好ましい。例えば、溶湯加熱体2の傾斜角度αが35度である場合は、傾斜床面13Db1の傾斜角度βも33~37度程度にすることが好ましく、35度にすることが最も好ましい。前述の各傾斜角度α、βを揃えることにより、溶湯加熱体2と傾斜床面13Db1をほぼ平行にすることができるため、溶湯加熱体2の表面と床部13Db(傾斜床面13Db1)との間の距離X(溶湯加熱体2の軸線2xと直角方向における距離)が、どの箇所においてもほぼ同じにある。その結果、溶湯加熱体2と傾斜床面13Db1の間の空間Yを流動する金属溶湯MMに対して溶湯加熱体2から熱を均一に伝えることができるため、インゴット投入室11内で完全には溶解し切れていなかったインゴットやリターン材投入室12内で完全には溶解し切れていなかったリターン材が未溶解のままで残存することを防ぐことができる。
【0058】
すなわち、熱発生源である溶湯加熱体2に近づくほど金属溶湯MM中のインゴット投入室11内で完全には溶解し切れていなかったインゴットやリターン材投入室12内で完全には溶解し切れていなかったリターン材は溶解しやすくなる傾向があり、特に溶湯加熱体2の表面と傾斜床面13Db1の間の空間Yは、溶湯加熱体2から発された熱が傾斜床面13Db1に当たって反射して再度溶湯加熱体2に戻るため、他の空間(例えば
図2における溶湯加熱体2よりも右上の空間)に比べて高温になり、インゴット投入室11内で完全には溶解し切れていなかったインゴットやリターン材投入室12内で完全には溶解し切れていなかったリターン材を溶解しやすい空間(以下、溶解し切れていなかったインゴット等を溶解させ易い空間という意味合いで「易溶解空間Y」という。)になっている。そして、溶湯加熱体2の表面と傾斜床面13Db1の間の距離Xを溶湯加熱体2の軸方向のどの位置においてもほぼ同じにすることで、前述の易溶解空間Yにおける温度がどの箇所においてもほぼ同じになるため、易溶解空間Y内においてインゴット投入室11内で完全には溶解し切れていなかったインゴットやリターン材投入室12内で完全には溶解し切れていなかったリターン材を溶解しやすい箇所と溶解しづらい箇所が生じにくくなる。その結果、インゴット投入室11内で完全には溶解し切れていなかったインゴットやリターン材投入室12内で完全には溶解し切れていなかったリターン材が未溶解のままで残存し続ける状態が生じることを避けることができる。
【0059】
また、
図2に示す金属溶解室13は、
図7に示したような金属溶解室13の床部13Dbが傾斜していない場合と比べて、溶湯加熱体2からその下方の床部13Db(もしくは
図7における左側壁13Ds。以下同じ。)までの間の距離Xが短くになる。その結果、
図2に示す金属溶解室13では、易溶解空間Yを流れる金属溶湯MMの流速が、
図7に示す金属溶解室13よりも速くなる。多くの金属溶湯MMを易溶解空間Yに速い速度で流すことによって、易溶解空間Y側の溶湯加熱体2の表面に接触する金属溶湯MMの量が増えることになり、溶湯加熱体2からの熱が金属溶湯MMに伝わりやすくなる。これにより、金属溶湯MM内の、インゴット投入室11内で完全には溶解し切れていなかったインゴットやリターン材投入室12内で完全には溶解し切れていなかったリターン材をより早く溶解させることができる。
【0060】
さらには、金属溶解室13の床部13Dbを傾斜させることで、易溶解空間Yを流れる金属溶湯MMの速度を速くすることができるため、易溶解空間Y側の溶湯加熱体2の表面に接触する金属溶湯MMの量を多くすることができる。その結果、溶湯加熱体2からの熱が金属溶湯MMに伝わりやすくなり、インゴットやリターン材といった金属材料を投入することによって、一時的に下がった当該金属材料周辺の金属溶湯の温度を昇温させる時間を短縮することができ、金属溶湯MMを迅速に昇温させることができる。そして、この第一実施形態等の金属溶解室13によれば、対象物周辺の金属溶湯MMの下がった温度を短時間で昇温させることができるので、金属溶湯MMの熱が対象物に伝わることを促進することができる。
【0061】
図2のように金属溶解室容器13Dに傾斜床面13Db1を設けた場合において、溶湯加熱体2の表面から前記傾斜床面13Db1までの距離Xは7~13cmにすることが好ましく、10~11cmにすることがより好ましい。前記距離Xが7cmよりも短いと、易溶解空間Yが小さくなりすぎるため、単位時間当たりにおける易溶解空間Y内を流れる金属溶湯MMの量が少なくなり、結果として金属溶解室13内のインゴット投入室11内で完全には溶解し切れていなかったインゴットやリターン材投入室12内で完全には溶解し切れていなかったリターン材の溶解スピードが遅くなるおそれがある。他方、前記距離Xが13cmよりも長いと、易溶解空間Yが大きくなりすぎるため、易溶解空間Yの温度が上げにくくなり、結果として金属溶解室13内のインゴット投入室11内で完全には溶解し切れていなかったインゴットやリターン材投入室12内で完全には溶解し切れていなかったリターン材の溶解スピードが遅くなるおそれがある。また、易溶解空間Yを流れる金属溶湯MMの速度が上がらないため、易溶解空間Y側の溶湯加熱体2の表面に接触する金属溶湯MMの量が少なくなることから、溶湯加熱体2からの熱が金属溶湯MMに伝わりにくくなり、金属溶湯MMを昇温させることができないおそれがある。
【0062】
なお、
図7に示す比較例において、正確には、溶湯加熱体2からその下方の床部13Dbまでの間の距離は千差万別である。このような場合における前記距離Xとは、溶湯加熱体2からその下方の床部13Dbまでの間の平均距離をいう。
【0063】
図2のように、金属溶解室容器13Dの床部13Dbは、傾斜床面13Db1の下端部から側方へ延出する側方延出面13Db2を有している。この側方延出面13Db2は、傾斜床面13Db1の下端部からほぼ水平に横方向に延出している。
【0064】
金属溶解室13の蓋部13Cと金属溶湯MMの湯面MLの間の空間ARに充満した空気が金属溶湯MMと接触すると、金属溶湯MM内に酸化物が生じる。さらに、インゴットやリターン材には銅、鉄、亜鉛などの重金属が含まれているため、インゴットやリターン材が溶解したときに副生成物が生じる。これらの酸化物や副生成物(以下、不要な物という意味合いで「不要物」という。)は、時間の経過とともに、徐々に重力によって金属溶解室13の床部13Dbの上に蓄積される。
【0065】
図2のように、金属溶解室13の床部13Dbに傾斜床面13Db1を設けることにより、傾斜床面13Db1に落下した不要物は傾斜床面13Db1の傾斜に沿って転げ落ち、側方延出面13Db2の上に滞留する。すなわち、不要物は金属溶解室13の底面全体に散在するのではなく、ごく自然に側方延出面13Db2の上に集まるようになる。したがって、蓋部13Cに設けた開口部13Caを開けて、その開口部13Caから金属溶解室13内に柄杓などを挿入にして、不要物を掻き揚げて回収する際に、側方延出面13Db2の上に集積された不要物を掬い取れば良いため、
図7のように傾斜床面13Db1を設けない場合と比べて、不要物の回収効率を高めることができる。
【0066】
また、
図1や
図2に示すように、側方延出面13Db2に一段と窪んだ部分(溝部13Db3)を設けるとよい。このような溝部13Db3を設けることで、不要物を回収する際、側方延出面13Db2の上の不要物をこの溝部13Db3内に落とし、その後に柄杓をこの溝部13Db3の内部に入れて、柄杓をこの溝部13Db3の延出方向に沿って移動させると、容易に不要物を回収することができる。
【0067】
なお、第一実施形態は残滓除去室15を設置する形態であるが、残滓の除去の頻度は少なく、例えば1回/月程度ということもある。そのため、実際には残滓除去室15は必ずしも設置する必要はなく、
図6に示す第三実施形態のように残滓除去室15を設置しなくてもよい。残滓除去室15を設けなくても、インゴット投入室11、リターン投入室12、金属溶解室13等の設備でも残滓を柄杓で掬い取ることにより、金属溶湯MM中の残滓を除去することもできる。また、残滓を柄杓で掬い取る代わりに、前記各設備に予め粉末状の金属溶解用フラックスを撒いて、当該フラックスに残滓を吸着させて除去することも可能である。
【0068】
(第二実施形態)
図4に第二実施形態に係る金属溶湯炉1を示した。なお、以下の説明においては、第一実施形態と同じ部分については説明を省略し、異なる部分のみを説明する。
【0069】
第二実施形態では、流れ生成室14の後段に残滓除去室15を設けず、残滓除去室15の代わりにスクラップを溶解するためのスクラップ溶解室17を設けたことを特徴とする。
【0070】
スクラップであるブリケットは、加工より発生する切削屑や切粉等を圧縮して固形化したものであり、油分や水分を含むため、そのまま溶解すると質の高い金属溶湯とならない。すなわち、スクラップをインゴットやリターン材と同じように溶解させて金属溶湯にすることは難しく、予め乾燥させるなどして水分や油分を蒸発させる前処理を行うのが望ましい。
【0071】
また、ブリケットは、金属溶湯と比べた場合、比重が小さく表面積が大きいため湯面に浮きやすく溶解に際して一部が酸化されやすい。切粉も同様に、比重が小さく表面積が大きいため金属溶湯の湯面に浮遊しやすく一部が酸化されやすい。
【0072】
そのため、流れ生成室14における流れ生成装置4により渦流を発生させ、この渦流を、第七搬送路W7を介して、スクラップ溶解室17に流れ込ませる。スクラップ溶解室17では、流れてきた渦流を存続させた状態で、スクラップを投入する。投入されたスクラップは、渦中心部において渦底に引き込まれる。これにより、スクラップは、金属溶湯の湯面に浮遊することがないので外気と接触し難く酸化物が形成され難くなる。
【0073】
なお、第七搬送路W7は、流れ生成装置4により発生した渦流の接線方向に設置することが好ましい。これにより、渦流の流速が減速することなくスクラップ溶解室17に流れ込ませることができる。
【0074】
また、スクラップ溶解室17の形状は矩形の箱型でもよいが、流れ生成室14より流れてきた渦流の流れを存続させるため、スクラップ溶解室17の内空間が略円筒型または略円錐型であることと好ましい。
【0075】
流動する金属溶湯MMによりスクラップ溶解室17内で溶解したスクラップ及びスクラップ溶解室17内で完全には溶解し切れていないスクラップを含む金属溶湯MMは、スクラップ溶解室17の底部から第八搬送路W8を通ってインゴット投入室11へと流れる。
【0076】
したがって、インゴット投入室11には、完全に溶解し切れていないスクラップを含む金属溶湯MMがスクラップ溶解室17から流れ込むことになる。完全に溶解し切れていないスクラップは、比重が小さく表面積が大きいためインゴット投入室11内の金属溶湯MMの湯面に浮遊するおそれがある。この浮遊を防止するため、例えば、本出願人所有の特許第6829491号に記載の多数の貫通孔を有する板状の金属溶解用スクリーン板をインゴット投入室11の金属溶湯MM中に設置し、比重の小さいスクラップを所定の大きさに溶解するまで湯面へ浮上しないようにし、当該金属溶解用スクリーン板の下の領域に保持するようにすることが好ましい。
【0077】
なお、
図4には示していないが、金属溶湯炉1の設置面積が大きくなることが許されるのであれば、
図4のスクラップ溶解室17とインゴット投入室11の間に、
図1のような残滓除去室15を設けることもできる。この残滓除去室15を設けることで、金属溶湯MM内の残滓を除去することができ、結果として清浄な金属溶湯MMを得ることができるからである。しかし、前述したように、残滓の除去の頻度は少ないので、
図4の形態が実際的である。金属溶湯MM中の残滓を除去するのは、インゴット投入室11、リターン投入室12、金属溶解室13等の設備でも残滓を柄杓で掬い取ることができる。また、残滓を柄杓で掬い取る代わりに、前記設備において、予め粉末状の金属溶解用フラックスを撒いて、残滓が生成しないようすることも可能である。
【0078】
図5に第二実施形態に係る金属溶解室13を示した。
図5に示す金属溶解室13は、第二実施形態の金属溶湯炉1に限定して用いられるものではなく、第一実施形態などの他の金属溶湯炉1にも用いることもできる。同様に、
図2に示す金属溶解室13も第一実施形態の金属溶湯炉1に限定して用いられるものではなく、第二実施形態などの他の金属溶湯炉1にも用いることもできる。
【0079】
図5の金属溶解室13は
図2の金属溶解室13とほぼ同じであるため、同じ部分については説明を省略し、異なる部分のみを説明する。
図5の金属溶解室13は、金属溶解室13を覆う蓋部13Cの下面13Cbが傾斜していることを特徴とする。具体的には、溶湯加熱体2の上方に位置する蓋部13Cの下面13Cbが、溶湯加熱体2と所定の間隔を空けながら、溶湯加熱体2と同方向に傾斜している。以下、この点について詳述する。
【0080】
図5の例では、金属溶解室13を覆う蓋部13Cの下面13Cbの一部が、溶湯加熱体2と同様に、図面左側から右側へ向かって下方に傾斜している。以下において、溶湯加熱体2とほぼ同じ方向に傾斜している蓋部13Cの下面13Cbを同方向傾斜下面13Cb1といい、溶湯加熱体2と異なる方向に傾斜している蓋部13Cの下面13Cbを異方向傾斜または水平下面13Cb2という。この同方向傾斜下面13Cb1の傾斜角度θ(同方向傾斜下面13Cb1の延長線13Cxと仮想水平線13Cyの間の俯角の角度θ)は、前記溶湯加熱体2の傾斜角度αとほぼ同じにすることが好ましい。例えば、溶湯加熱体2の傾斜角度αが35度である場合は、同方向傾斜下面13Cb1の傾斜角度θも33~37度程度にすることが好ましく、35度にすることが最も好ましい。前述の各傾斜角度α、θを揃えることにより、溶湯加熱体2と蓋部13Cの同方向傾斜下面13Cb1をほぼ平行にすることができるため、溶湯加熱体2の表面と蓋部13Cの同方向傾斜下面13Cb1との間の距離P(溶湯加熱体2の軸線2xと直角方向における距離)が、どの箇所においてもほぼ同じになる。その結果、溶湯加熱体2と蓋部13Cの同方向傾斜下面13Cb1の間の空間Qを流動する金属溶湯MMに対して溶湯加熱体2から熱を均一に伝えることができるため、インゴット投入室11内で完全には溶解し切れていなかったインゴットや、リターン材投入室12内で完全には溶解し切れていなかったリターン材や、スクラップ溶解室17内で完全には溶解し切れていなかったスクラップが未溶解のままで残存することを防ぐことができる。すなわち、溶湯加熱体2の表面と蓋部13Cの同方向傾斜下面13Cb1の間の空間Qは、前述した易溶解空間Yと同様に、易溶解空間Qということができる。この易溶解空間Qを設けたことによって、インゴット投入室11内で完全には溶解し切れていなかったインゴットや、リターン材投入室12内で完全には溶解し切れていなかったリターン材や、スクラップ溶解室17内で完全には溶解し切れていなかったスクラップが溶解しやすくなる作用については、易溶解空間Yと同様であるため、ここでは詳細な記載を省略する。なお、溶湯加熱体2の上方にある易溶解空間Qを上方易溶解空間Qといい、溶湯加熱体2の下方にある易溶解空間Yを下方易溶解空間Yという。
【0081】
また、
図5のように蓋部13Cに同方向傾斜下面13Cb1を設けた場合において、溶湯加熱体2の表面から前記同方向傾斜下面13Cb1までの距離Pは7~13cmにすることが好ましく、10~11cmにすることがより好ましい。前記距離Pが7cmよりも短いと、易溶解空間Qが小さくなりすぎるため、単位時間当たりにおける易溶解空間Q内を流れる金属溶湯MMの量が少なくなり、結果として金属溶解室13内のインゴット投入室11内で完全には溶解し切れていなかったインゴットや、リターン材投入室12内で完全には溶解し切れていなかったリターン材や、スクラップ溶解室17内で完全には溶解し切れていなかったスクラップの溶解スピードが遅くなるおそれがある。他方、前記距離Pが13cmよりも長いと、易溶解空間Qが大きくなりすぎるため、易溶解空間Qの温度が上げにくくなり、結果として金属溶解室13内のインゴット投入室11内で完全には溶解し切れていなかったインゴットや、リターン材投入室12内で完全には溶解し切れていなかったリターン材や、スクラップ溶解室17内で完全には溶解し切れていなかったスクラップの溶解スピードが遅くなるおそれがある。また、易溶解空間Qを流れる金属溶湯MMの速度が上がらないため、易溶解空間Q側の溶湯加熱体2の表面に接触する金属溶湯MMの量が少なくなることから、溶湯加熱体2からの熱が金属溶湯MMに伝わりにくくなり、金属溶湯MMを昇温させることができないおそれがある。
【0082】
(比較例)
図7に比較例に係る金属溶解室13を示した。この
図7の比較例は、
図2や
図5の実施形態と比較して、
図2や
図5の構成の効果を説明するために表したものであり、従来の公知となっている金属溶解室13を表したものではない。
【産業上の利用可能性】
【0083】
溶湯としてはアルミニウム又はアルミニウム合金のほか他の金属溶湯MMでもよい。
【0084】
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることができる。例えば、本発明の金属溶湯炉1は、溶解保持炉、溶解炉、保持炉、低圧鋳造炉等にも採用可能である。
【符号の説明】
【0085】
1…金属溶湯炉、2…溶湯加熱体、2x…溶湯加熱体の軸線、2y…(溶湯加熱体の)仮想水平線、4…流れ生成装置、4A…モータ、4Aa…(モータの)回転軸、4B…回転軸、4Ba…従動軸、4Bb…出力軸、4C…攪拌翼、4Ga…(出力軸に取り付けられた)ギア、4Gb…(モータの回転軸に取り付けられた)ギア、4V…ベルト、11…インゴット投入室、12…リターン材投入室、13…金属溶解室、13C…蓋部、13Ca…(蓋部の)開口部、13Cb…蓋部の下面、13Cb1…同方向傾斜下面、13Cb2…異方向傾斜または水平下面、13Cx…同方向傾斜下面の延長線、13Cy…(同方向傾斜下面の)仮想水平線、13D…金属溶解室容器、13Db…(金属溶解室容器の)床部、13Db1…傾斜床面、13Db2…側方延出面、13Db3…溝部、13Dx…傾斜床面の延長線、13Ds…(金属溶解室容器の)側壁、13Dy…(傾斜床面の)仮想水平線、13E…断熱材、14…流れ生成室、14A…金属溶湯の供給口、14B…金属溶湯の排出口、14C…(流れ生成室の)蓋(部)、14D…(流れ生成室の)容器、15…残滓除去室、16…出湯室、17…スクラップ溶解室、AR…蓋部の下面と金属溶湯の油面との間の空間、ML…湯面、MM…金属溶湯、MR…金属溶湯の循環方向、OT…(撹拌翼の)回転方向、P…溶湯加熱体の上方表面と蓋部の同方向傾斜下面との間の距離、Q…易溶解空間(上方易溶解空間)、W1…第一搬送路、W2…第二搬送路、W3…第三搬送路、W4…第四搬送路、W5…第五搬送路、W6…第六搬送路、W7…第七搬送路、W8…第八搬送路、W9…第九搬送路、X…溶湯加熱体の下方表面と傾斜床面との間の距離、Y…易溶解空間(下方易溶解空間)、α…溶湯加熱体の傾斜角度、β…傾斜床面の傾斜角度、θ…同方向傾斜下面の傾斜角度、DD…奥行き方向、FS…前側、BS…後側、HD…高さ方向、DS…下側(下方)、US…上側(上方)、WD…幅方向、LS…左側、RS…右側
【手続補正書】
【提出日】2023-02-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属溶湯を収容し、流動する金属溶湯の液中で金属材料を溶解させること及び当該金属溶湯を昇温させることの少なくとも一方を行う金属溶解室を備えた金属溶湯炉において、
前記金属溶解室の内部には前記金属溶湯を加熱する細長状の溶湯加熱体を備え、
前記溶湯加熱体は前記金属溶解室の側壁部から下方へ向かって延出して設けられており、
前記溶湯加熱体の下方に位置する前記金属溶解室の底面は、前記溶湯加熱体と所定の間隔を空けながら、前記溶湯加熱体と同方向に傾斜しており、
前記溶湯加熱体の表面と前記傾斜床面の間に易溶解空間が形成されており、
当該易溶解空間を流動する前記金属溶湯が前記溶湯加熱体の表面と接触することによって前記溶湯加熱体の熱が前記金属溶湯に伝えられる構成とした、ことを特徴とする金属溶湯炉。
【請求項2】
前記金属溶解室の底面は、
前記溶湯加熱体の下方に位置し、前記溶湯加熱体と略平行に傾斜した傾斜面と、
前記傾斜面の下端部から側方へ延出する側方延出面と、を有し、
前記側方延出面の上は金属溶湯に含まれる不要物が集積される不要物集積部であり、
前記溶湯加熱体の傾斜角度および前記傾斜面の傾斜角度は、ともに20~45度の範囲内である、請求項1記載の金属溶湯炉。
【請求項3】
前記金属溶解室の上部に前記金属溶解室を覆う蓋が設けられ、
前記溶湯加熱体の上方に位置する前記金属溶解室の蓋は、前溶湯加熱体と所定の間隔を空けながら、前記溶湯加熱体と同方向に傾斜している請求項1記載の金属溶湯炉。
【請求項4】
金属溶湯を収容し、流動する金属溶湯の液中で金属材料を溶解させること及び当該金属溶湯を昇温させることの少なくとも一方を行う金属溶解室を備えた金属溶湯炉において、
前記金属溶解室の内部には前記金属溶湯を加熱する細長状の溶湯加熱体を備え、
前記溶湯加熱体は前記金属溶解室の側壁部から下方へ向かって延出して設けられており、
前記金属溶解室の上部に前記金属溶解室を覆う蓋が設けられ、
前記溶湯加熱体の上方に位置する前記金属溶解室の蓋は、前溶湯加熱体と所定の間隔を空けながら、前記溶湯加熱体と同方向に傾斜していることを特徴とする金属溶湯炉。
【手続補正書】
【提出日】2023-04-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属溶湯を収容し、流動する金属溶湯の液中で金属材料を溶解させること及び当該金属溶湯を昇温させることの少なくとも一方を行う金属溶解室を備えた金属溶湯炉において、
前記金属溶解室の内部には前記金属溶湯を加熱する細長状の溶湯加熱体を備え、
前記溶湯加熱体は前記金属溶解室の側壁部から下方へ向かって延出して設けられており、
前記溶湯加熱体の下方に位置する前記金属溶解室の底面は、前記溶湯加熱体と所定の間隔を空けながら、前記溶湯加熱体と同方向に傾斜する傾斜床面を有しており、
前記溶湯加熱体の表面と前記傾斜床面の間に易溶解空間が形成されており、
当該易溶解空間を流動する前記金属溶湯が前記溶湯加熱体の表面と接触することによって前記溶湯加熱体の熱が前記金属溶湯に伝えられる構成とした、ことを特徴とする金属溶湯炉。
【請求項2】
前記金属溶解室の底面は、
前記溶湯加熱体の下方に位置し、前記溶湯加熱体と略平行に傾斜した前記傾斜床面と、
前記傾斜床面の下端部から側方へ延出する側方延出面と、を有し、
前記側方延出面の上は金属溶湯に含まれる不要物が集積される不要物集積部であり、
前記溶湯加熱体の傾斜角度および前記傾斜床面の傾斜角度は、ともに20~45度の範囲内である、請求項1記載の金属溶湯炉。
【請求項3】
前記金属溶解室の上部に前記金属溶解室を覆う蓋部が設けられ、
前記金属溶解室の蓋部のうちの前記溶湯加熱体の上方に位置する部分の下面が、前溶湯加熱体と所定の間隔を空けながら、前記溶湯加熱体と同方向に傾斜している請求項1記載の金属溶湯炉。
【請求項4】
金属溶湯を収容し、流動する金属溶湯の液中で金属材料を溶解させること及び当該金属溶湯を昇温させることの少なくとも一方を行う金属溶解室を備えた金属溶湯炉において、
前記金属溶解室の内部には前記金属溶湯を加熱する細長状の溶湯加熱体を備え、
前記溶湯加熱体は前記金属溶解室の側壁部から下方へ向かって延出して設けられており、
前記金属溶解室の上部に前記金属溶解室を覆う蓋部が設けられ、
前記金属溶解室の蓋部のうちの前記溶湯加熱体の上方に位置する部分の下面が、前溶湯加熱体と所定の間隔を空けながら、前記溶湯加熱体と同方向に傾斜していることを特徴とする金属溶湯炉。
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正3】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】