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特開2024-62735血圧計、血圧測定方法およびコロトコフ音検出装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062735
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】血圧計、血圧測定方法およびコロトコフ音検出装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/022 20060101AFI20240501BHJP
【FI】
A61B5/022 200A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170781
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】503246015
【氏名又は名称】オムロンヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100122286
【弁理士】
【氏名又は名称】仲倉 幸典
(72)【発明者】
【氏名】角田 亘
(72)【発明者】
【氏名】内藤 晃誠
(72)【発明者】
【氏名】澤野井 幸哉
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA08
4C017AC01
4C017AC32
4C017EE01
4C017FF08
(57)【要約】
【課題】被測定部位が発生する音からコロトコフ音をS/N比良く抽出すること。
【解決手段】カフと流体流通可能に連結されたエア配管37dの管壁の一部として又はその管壁に連なって、エア配管37d内の空気の圧力を一方の面62aに受けるように配置されたダイヤフラム62を備える。ダイヤフラム62は、カフの加圧過程または減圧過程で、エア配管37d内の空気の圧力を遮断する一方、被測定部位からエア配管37d内の空気を通して伝わってきた音のうちコロトコフ音の周波数帯域の音をこのダイヤフラム62を通して透過させる。ダイヤフラム62に関して一方の面62aと反対の他方の面62bの側に、ダイヤフラム62を周壁の一部として含んで配置されたチャンバCmを備える。チャンバCmの周壁のうちダイヤフラム62以外の部分に、チャンバCm内の空気に面して設けられた音検出デバイスを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定部位が発生するコロトコフ音に基づいて血圧を測定する血圧計であって、
上記被測定部位に装着されるように構成された押圧用カフと、
ポンプと、
上記カフと上記ポンプとを流体流通可能に連結するエア配管と、
上記被測定部位を圧迫するために上記ポンプによって上記エア配管を通して上記カフに空気を供給して加圧し、または、上記カフから上記エア配管を通して上記空気を排出して減圧する圧力制御部と、
上記エア配管の管壁の一部として又は上記管壁に連なって、上記エア配管内の空気の圧力を一方の面に受けるように配置されたダイヤフラムを備え、上記ダイヤフラムは、上記圧力制御部による上記カフの加圧過程または減圧過程で、上記エア配管内の空気の圧力を遮断する一方、上記被測定部位から上記エア配管内の空気を通して伝わってきた音のうち上記コロトコフ音の周波数帯域の音をこのダイヤフラムを通して透過させるように構成され、
上記ダイヤフラムに関して上記一方の面と反対の他方の面の側に、上記ダイヤフラムを周壁の一部として含んで配置されたチャンバを備え、上記ダイヤフラムを透過した音は、上記チャンバ内を占める空気に伝わるようになっており、
上記チャンバの上記周壁のうち上記ダイヤフラム以外の部分に、上記チャンバ内の空気に面して設けられた音検出デバイスを備え、上記音検出デバイスは、上記ダイヤフラムを透過した音を、上記チャンバ内を占める空気を介して受けて電気信号に変換するようになっており、
上記電気信号に基づいて、上記被測定部位の血圧を算出する血圧算出部を備えた
ことを特徴とする血圧計。
【請求項2】
請求項1に記載の血圧計において、
上記チャンバの上記周壁のうち上記ダイヤフラム以外の部分に、上記チャンバの内外を流体流通可能に連通する圧力緩和用の孔が設けられ、上記圧力緩和用の孔は、上記チャンバ内の空気の圧力が大気圧から変化するのを抑えるように働く
ことを特徴とする血圧計。
【請求項3】
請求項2に記載の血圧計において、
上記圧力緩和用の孔は、細長い管路または細長い溝の形態を有する
ことを特徴とする血圧計。
【請求項4】
請求項3に記載の血圧計において、
上記細長い管路または上記細長い溝の内部に、通気性および遮音性を有する遮音材が収容されている
ことを特徴とする血圧計。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか一つに記載の血圧計において、
上記ダイヤフラムは、上記コロトコフ音の周波数帯域に合った固有振動数をもつように設定されている
ことを特徴とする血圧計。
【請求項6】
請求項1から4までのいずれか一つに記載の血圧計において、
上記チャンバは、上記コロトコフ音の周波数帯域に合った共振周波数をもつように設定されている
ことを特徴とする血圧計。
【請求項7】
請求項1から4までのいずれか一つに記載の血圧計において、
上記ダイヤフラムは合成樹脂からなっている
ことを特徴とする血圧計。
【請求項8】
請求項1から4までのいずれか一つに記載の血圧計において、
上記音検出デバイスが出力する上記電気信号に、上記コロトコフ音を抽出するための閾値を設定する閾値設定部を備え、
上記血圧算出部は、上記電気信号のうち上記閾値を超える信号のみに基づいて、上記被測定部位の血圧を算出する
ことを特徴とする血圧計。
【請求項9】
請求項1に記載の血圧計によって、被測定部位が発生するコロトコフ音に基づいて血圧を測定する血圧測定方法であって、
上記被測定部位に上記押圧用カフが装着された状態で、上記圧力制御部が、上記被測定部位を圧迫するために上記ポンプによって上記エア配管を通して上記カフに空気を供給して加圧し、または、上記カフから上記エア配管を通して上記空気を排出して減圧し、
上記圧力制御部による上記カフの加圧過程または減圧過程で、上記ダイヤフラムが、上記エア配管内の空気の圧力を一方の面に受けて、上記エア配管内の空気の圧力を遮断するとともに、上記被測定部位から上記エア配管内の空気を通して伝わってきた音のうち上記コロトコフ音の周波数帯域の音をこのダイヤフラムを通して透過させ、その結果、上記ダイヤフラムを透過した音は、上記チャンバ内を占める空気に伝わり、
上記音検出デバイスは、上記ダイヤフラムを透過した音を、上記チャンバ内を占める空気を介して受けて電気信号に変換し、
上記血圧算出部は、上記電気信号に基づいて、上記被測定部位の血圧を算出する
ことを特徴とする血圧測定方法。
【請求項10】
請求項1に記載の血圧計に含まれ、上記被測定部位が発生する音からコロトコフ音を抽出するコロトコフ音検出装置であって、
上記エア配管の管壁の一部として又は上記管壁に連なって、上記エア配管内の空気の圧力を一方の面に受けるように配置されたダイヤフラムを備え、上記ダイヤフラムは、上記圧力制御部による上記カフの加圧過程または減圧過程で、上記エア配管内の空気の圧力を遮断する一方、上記被測定部位から上記エア配管内の空気を通して伝わってきた音のうち上記コロトコフ音の周波数帯域の音をこのダイヤフラムを通して透過させるように構成され、
上記ダイヤフラムに関して上記一方の面と反対の他方の面の側に、上記ダイヤフラムを周壁の一部として含んで配置されたチャンバを備え、上記ダイヤフラムを透過した音は、上記チャンバ内を占める空気に伝わるようになっており、
上記チャンバの上記周壁のうち上記ダイヤフラム以外の部分に、上記チャンバ内の空気に面して設けられた音検出デバイスを備え、上記音検出デバイスは、上記ダイヤフラムを透過した音を、上記チャンバ内を占める空気を介して受けて電気信号に変換するようになっている
ことを特徴とするコロトコフ音検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は血圧計および血圧測定方法に関し、より詳しくは、被測定部位が発生するコロトコフ音に基づいて血圧を測定する血圧計および血圧測定方法に関する。また、この発明は、そのような血圧計に含まれ、被測定部位が発生する音からコロトコフ音を抽出するコロトコフ音検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のコロトコフ音検出装置(および血圧計)としては、例えば特許文献1(特開昭58-180132号公報)の第2図に開示されているように、人体の上腕などに巻装して加圧されるカフ帯から集音された音によって振動し、コロトコフ音の存在する周波数帯域内に機械的共振点を有する振動膜(金属膜)と、この振動膜の機械的振動を電気信号に変換する手段とを備えたものが知られている。この構成は、コンデンサマイクロフォンとして把握される。同文献では、上記振動膜の機械的な共振特性によってコロトコフ音以外の雑音成分を除去して、コロトコフ音のみを抽出することができる、と述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭58-180132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、被測定部位が発生する音(広義には、空気などの弾性的な媒質中を伝播する波として定義される)には、コロトコフ音(周波数帯域;20Hz~500Hz程度)に加えて、被測定部位を通る動脈の脈波振動である圧脈波(周波数帯域;数十Hz程度)も含まれている。両者の周波数帯域はオーバラップしており、しかも、コロトコフ音の振幅よりも圧脈波の振幅の方が大きい。このため、実際には、特許文献1に記載の構成では、被測定部位が発生する音からコロトコフ音のみを抽出することが難しい、という問題がある。
【0005】
そこで、この発明の課題は、被測定部位が発生するコロトコフ音に基づいて血圧を測定する血圧計および血圧測定方法であって、被測定部位が発生する音からコロトコフ音をS/N比(信号対ノイズ比)良く抽出でき、したがって血圧測定の精度を高め得るものを提供することにある。また、この発明の課題は、そのような血圧計に含まれ、被測定部位が発生する音からコロトコフ音をS/N比良く抽出できるコロトコフ音検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、この開示の血圧計は、
被測定部位が発生するコロトコフ音に基づいて血圧を測定する血圧計であって、
上記被測定部位に装着されるように構成された押圧用カフと、
ポンプと、
上記カフと上記ポンプとを流体流通可能に連結するエア配管と、
上記被測定部位を圧迫するために上記ポンプによって上記エア配管を通して上記カフに空気を供給して加圧し、または、上記カフから上記エア配管を通して上記空気を排出して減圧する圧力制御部と、
上記エア配管の管壁の一部として又は上記管壁に連なって、上記エア配管内の空気の圧力を一方の面に受けるように配置されたダイヤフラムを備え、上記ダイヤフラムは、上記圧力制御部による上記カフの加圧過程または減圧過程で、上記エア配管内の空気の圧力を遮断する一方、上記被測定部位から上記エア配管内の空気を通して伝わってきた音のうち上記コロトコフ音の周波数帯域の音をこのダイヤフラムを通して透過させるように構成され、
上記ダイヤフラムに関して上記一方の面と反対の他方の面の側に、上記ダイヤフラムを周壁の一部として含んで配置されたチャンバを備え、上記ダイヤフラムを透過した音は、上記チャンバ内を占める空気に伝わるようになっており、
上記チャンバの上記周壁のうち上記ダイヤフラム以外の部分に、上記チャンバ内の空気に面して設けられた音検出デバイスを備え、上記音検出デバイスは、上記ダイヤフラムを透過した音を、上記チャンバ内を占める空気を介して受けて電気信号に変換するようになっており、
上記電気信号に基づいて、上記被測定部位の血圧を算出する血圧算出部を備えた
ことを特徴とする。
【0007】
ここで、ダイヤフラムの「一方の面」と「他方の面」は、上記ダイヤフラムの広がりをもつ両面を指す。
【0008】
ダイヤフラムが上記エア配管の「管壁に連なって」配置されたとは、例えば、上記エア配管から分岐した別の配管の管壁に連なって配置された態様を含む。
【0009】
この開示の血圧計では、被測定部位に押圧用カフが装着された状態で、圧力制御部が、上記被測定部位を圧迫するために上記ポンプによって上記エア配管を通して上記カフに空気を供給して加圧し、または、上記カフから上記エア配管を通して上記空気を排出して減圧する。上記ダイヤフラムは、上記圧力制御部による上記カフの加圧過程または減圧過程で、上記エア配管内の空気の圧力を一方の面に受けて、上記エア配管内の空気の圧力を遮断する。一方、上記ダイヤフラムは、上記被測定部位から上記エア配管内の空気を通して伝わってきた音のうち上記コロトコフ音の周波数帯域の音をこのダイヤフラムを通して透過させる。この結果、上記ダイヤフラムを透過した音は、上記チャンバ内を占める空気に伝わる。上記音検出デバイスは、上記ダイヤフラムを透過した音を、上記チャンバ内を占める空気を介して受けて電気信号に変換する。上記血圧算出部は、上記電気信号に基づいて、上記被測定部位の血圧を算出する。
【0010】
ここで、この血圧計では、上記ダイヤフラムは、上記エア配管内の空気の圧力を遮断するので、被測定部位が発生する音から、動脈の脈波振動(周波数帯域;数十Hz程度)である圧脈波の影響を低減できる。しかも、上記音検出デバイスは、上記ダイヤフラムを透過した音を、上記チャンバ内を占める空気を介して受ける、言い換えれば、上記ダイヤフラム(圧脈波を直接受ける)から離間した位置で受ける。したがって、さらに圧脈波の影響を低減できる。これにより、この血圧計によれば、被測定部位が発生する音からコロトコフ音をS/N比良く抽出できる。したがって、血圧測定の精度を高めることができる。
【0011】
仮に上記チャンバが密閉されている場合は、上記カフの加圧過程または減圧過程で上記エア配管内の空気の圧力が徐々に変化するのに伴って上記ダイヤフラムが撓んで、上記チャンバ内の空気の圧力が変化する。上記チャンバ内を占める空気にこのような圧力の変化があると、例えば上記音検出デバイスがコンデンサマイクロフォンである場合、マイクロフォンの感度が変化するため、好ましくない。また、コンデンサマイクロフォンのダイナミックレンジとしてカフ圧の変化(0~300mmHg程度)に相当する幅が必要となるため、コロトコフ音の分解能が低下する。また、上記音検出デバイスとしての耐久性、信頼性にも悪影響が生ずる。
【0012】
そこで、一実施形態の血圧計では、
上記チャンバの上記周壁のうち上記ダイヤフラム以外の部分に、上記チャンバの内外を流体流通可能に連通する圧力緩和用の孔が設けられ、上記圧力緩和用の孔は、上記チャンバ内の空気の圧力が大気圧から変化するのを抑えるように働く
ことを特徴とする。
【0013】
この一実施形態の血圧計では、上記チャンバの上記周壁のうち上記ダイヤフラム以外の部分に、上記チャンバの内外を流体流通可能に連通する圧力緩和用の孔が設けられている。したがって、上記カフの加圧過程または減圧過程で上記エア配管内の空気の圧力が徐々に変化するのに伴って上記ダイヤフラムが撓んで、上記チャンバ内の空気の圧力が変化しようとするとき、上記圧力緩和用の孔は、上記チャンバ内の空気の圧力が大気圧から変化するのを抑えるように働く。したがって、上記エア配管内の空気の圧力が変化したとしても、その圧力変化(負荷)によって上記音検出デバイスの感度、分解能、耐久性、信頼性に悪影響が生ずるのを、防止できる。
【0014】
また、上記音検出デバイスとしては、コンデンサマイクロフォンだけでなく、例えばダイナミックマイクロフォン、MEMS(Micro Electronics Mechanical System)マイクロフォンなどの様々な型式のマイクロフォンを採用でき、マイクロフォン選択の自由度が増す。
【0015】
仮に上記圧力緩和用の孔が広い開口である場合は、上記チャンバ外から上記広い開口を通して上記チャンバ内にノイズ音が入り易い。このため、上記コロトコフ音のS/N比が低下する可能性がある。
【0016】
そこで、一実施形態の血圧計では、
上記圧力緩和用の孔は、細長い管路または細長い溝の形態を有する
ことを特徴とする。
【0017】
この一実施形態の血圧計では、上記圧力緩和用の孔は、細長い管路または細長い溝の形態を有する。したがって、上記圧力緩和用の孔が、例えば広い開口である場合に比して、上記チャンバ外から上記チャンバ内にノイズ音が入り難くなる。したがって、上記圧力緩和用の孔のせいで上記コロトコフ音のS/N比が低下するのを、防止できる。
【0018】
一実施形態の血圧計では、
上記細長い管路または上記細長い溝の内部に、通気性および遮音性を有する遮音材が収容されている
ことを特徴とする。
【0019】
ここで、「通気性および遮音性を有する遮音材」としては、典型的には、ポリウレタンフォームなどの多孔質材が挙げられる。
【0020】
この一実施形態の血圧計では、上記細長い管路または上記細長い溝の内部に収容された上記遮音材は、通気性を有する。したがって、上記チャンバ内の空気の圧力が大気圧から変化するのを抑えるという上記圧力緩和用の孔の機能が、上記遮音材の存在によって失われることは無い。また、上記遮音材は、遮音性を有するので、上記細長い管路または上記細長い溝の内部に空気のみが存在する場合に比して、上記チャンバ外から上記細長い管路または上記細長い溝を通して上記チャンバ内にノイズ音が入り難くなる。したがって、上記圧力緩和用の孔のせいで上記コロトコフ音のS/N比が低下するのを、防止できる。
【0021】
一実施形態の血圧計では、
上記ダイヤフラムは、上記コロトコフ音の周波数帯域に合った固有振動数をもつように設定されている
ことを特徴とする。
【0022】
この一実施形態の血圧計では、上記ダイヤフラムは、上記コロトコフ音の周波数帯域に合った固有振動数をもつように設定されている。したがって、上記ダイヤフラムは、上記被測定部位から上記エア配管内の空気を通して伝わってきた音のうち上記コロトコフ音の周波数帯域をもつ音を選択的に透過できる。したがって、上記コロトコフ音のS/N比をさらに改善でき、血圧測定の精度をさらに高めることができる。
【0023】
一実施形態の血圧計では、
上記チャンバは、上記コロトコフ音の周波数帯域に合った共振周波数をもつように設定されている
ことを特徴とする。
【0024】
この一実施形態の血圧計では、上記チャンバは、上記コロトコフ音の周波数帯域に合った共振周波数をもつように設定されている。したがって、上記チャンバは、上記ダイヤフラムを透過した音のうち上記コロトコフ音の周波数帯域をもつ音を選択的に増幅できる。したがって、上記コロトコフ音のS/N比をさらに改善でき、血圧測定の精度をさらに高めることができる。
【0025】
一実施形態の血圧計では、
上記ダイヤフラムは合成樹脂からなっている
ことを特徴とする。
【0026】
この一実施形態の血圧計では、上記ダイヤフラムは、合成樹脂からなっているので、金属からなる場合に比して、軽くなり、また、製造段階で加工容易になる。
【0027】
一実施形態の血圧計では、
上記音検出デバイスが出力する上記電気信号に、上記コロトコフ音を抽出するための閾値を設定する閾値設定部を備え、
上記血圧算出部は、上記電気信号のうち上記閾値を超える信号のみに基づいて、上記被測定部位の血圧を算出する
ことを特徴とする。
【0028】
この一実施形態の血圧計では、上記閾値設定部は、上記音検出デバイスが出力する上記電気信号に、上記コロトコフ音を抽出するための閾値を設定する。上記血圧算出部は、上記電気信号のうち上記閾値を超える信号のみに基づいて、上記被測定部位の血圧を算出する。したがって、上記音検出デバイスが出力する上記電気信号から、例えば背景ノイズを除去できる。したがって、上記コロトコフ音のS/N比をさらに改善でき、血圧測定の精度をさらに高めることができる。
【0029】
別の局面では、この開示の血圧測定方法は、
上記血圧計によって、被測定部位が発生するコロトコフ音に基づいて血圧を測定する血圧測定方法であって、
上記被測定部位に上記押圧用カフが装着された状態で、上記圧力制御部が、上記被測定部位を圧迫するために上記ポンプによって上記エア配管を通して上記カフに空気を供給して加圧し、または、上記カフから上記エア配管を通して上記空気を排出して減圧し、
上記圧力制御部による上記カフの加圧過程または減圧過程で、上記ダイヤフラムが、上記エア配管内の空気の圧力を一方の面に受けて、上記エア配管内の空気の圧力を遮断するとともに、上記被測定部位から上記エア配管内の空気を通して伝わってきた音のうち上記コロトコフ音の周波数帯域の音をこのダイヤフラムを通して透過させ、その結果、上記ダイヤフラムを透過した音は、上記チャンバ内を占める空気に伝わり、
上記音検出デバイスは、上記ダイヤフラムを透過した音を、上記チャンバ内を占める空気を介して受けて電気信号に変換し、
上記血圧算出部は、上記電気信号に基づいて、上記被測定部位の血圧を算出する
ことを特徴とする。
【0030】
この開示の血圧測定方法によれば、被測定部位が発生する音からコロトコフ音をS/N比良く抽出でき、したがって血圧測定の精度を高めることができる。
【0031】
さらに別の局面では、この開示のコロトコフ音検出装置は、
上記血圧計に含まれ、上記被測定部位が発生する音からコロトコフ音を抽出するコロトコフ音検出装置であって、
上記エア配管の管壁の一部として又は上記管壁に連なって、上記エア配管内の空気の圧力を一方の面に受けるように配置されたダイヤフラムを備え、上記ダイヤフラムは、上記圧力制御部による上記カフの加圧過程または減圧過程で、上記エア配管内の空気の圧力を遮断する一方、上記被測定部位から上記エア配管内の空気を通して伝わってきた音のうち上記コロトコフ音の周波数帯域の音をこのダイヤフラムを通して透過させるように構成され、
上記ダイヤフラムに関して上記一方の面と反対の他方の面の側に、上記ダイヤフラムを周壁の一部として含んで配置されたチャンバを備え、上記ダイヤフラムを透過した音は、上記チャンバ内を占める空気に伝わるようになっており、
上記チャンバの上記周壁のうち上記ダイヤフラム以外の部分に、上記チャンバ内の空気に面して設けられた音検出デバイスを備え、上記音検出デバイスは、上記ダイヤフラムを透過した音を、上記チャンバ内を占める空気を介して受けて電気信号に変換するようになっている
ことを特徴とする。
【0032】
この開示のコロトコフ音検出装置によれば、被測定部位が発生する音からコロトコフ音をS/N比良く抽出できる。
【発明の効果】
【0033】
以上より明らかなように、この開示の血圧計および血圧測定方法によれば、被測定部位が発生する音からコロトコフ音をS/N比良く抽出でき、したがって血圧測定の精度を高めることができる。また、この開示のコロトコフ音検出装置によれば、被測定部位が発生する音からコロトコフ音をS/N比良く抽出できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】この発明の一実施形態の血圧計のブロック構成を示す図である。
図2図2(A)は、上記血圧計に含まれたコロトコフ音検出装置の断面構造を示す斜視図である。図2(B)は、上記コロトコフ音検出装置に含まれたチャンバの共振周波数を設定するためのモデルを示す図である。
図3図3(A)、図3(B)、図3(C)は、それぞれ、上記チャンバの内外を流体流通可能に連通する圧力緩和用の孔をなす細管の様々な態様を示す図である。図3(D)は、図3(C)に示す細管において、その細管の内部に遮音材を収容したことによるノイズ低減の検証結果を示す図である。
図4】上記血圧計の押圧用カフが被測定部位としての上腕に装着された状態を示す図である。
図5】上記血圧計による血圧測定のフローを示す図である。
図6図6(A)、図6(B)は、血圧測定中における上記コロトコフ音検出装置の動作を模式的に説明する図である。
図7】上記血圧計(実施例)における上記コロトコフ音検出装置が出力する音信号を例示する図である。
図8】比較例のコロトコフ音検出装置が出力する音信号を例示する図である。
図9図9(A)、図9(B)は、それぞれ、上記圧力緩和用の孔の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0036】
(血圧計の概略構成)
図1は、この発明の一実施形態の血圧計1のブロック構成を示している。この血圧計1は、大別して、被測定部位(この例では、上腕)を取り巻いて装着される押圧用カフ(以下、単に「カフ」と呼ぶ。)20と、このカフ20に対してエア配管37を介して流体流通可能に接続された本体10とを備えている。
【0037】
カフ20は、袋体21を備え、この袋体21は、細長い帯状の外布と内布とを対向させ、それらの周縁部を縫製(または溶着)して構成されている。この袋体21の内部に、被測定部位を圧迫するための流体袋22が収容されている。
【0038】
本体10は、制御部110と、表示器50と、操作部52と、メモリ51と、電源部53と、圧力センサ31と、ポンプ32と、弁33と、被測定部位が発生する音からコロトコフ音を抽出するためのコロトコフ音検出装置60とを搭載している。さらに、本体10は、圧力センサ31からのアナログ出力をデジタル信号に変換するA/D変換回路310と、ポンプ32を駆動するポンプ駆動回路320と、弁33を駆動する弁駆動回路330と、コロトコフ音検出装置60からのアナログ出力をデジタル信号に変換するA/D変換回路410とを搭載している。圧力センサ31、ポンプ32、弁33、コロトコフ音検出装置60には、それぞれエア配管37a,37b,37c,37dが流体流通可能に接続されている。それらのエア配管37a,37b,37c,37dは、本体10内で1本のエア配管37に合流し、このエア配管37がカフ20内の流体袋22に対して流体流通可能に接続されている。以下では、エア配管37a,37b,37c,37dを含めて適宜エア配管37と総称する。また、コロトコフ音検出装置60の出力は、電気信号である音信号Ksとして、配線71によってA/D変換回路410へ伝えられるようになっている。
【0039】
表示器50は、この例では、ディスプレイおよびインジケータ等を含み、制御部110からの制御信号に従って所定の情報(例えば、血圧測定結果など)を表示する。
【0040】
操作部52は、ユーザの指示に応じた操作信号を制御部110に入力する。この例では、操作部52は、血圧の測定開始/停止の指示を受け付けるための測定スイッチ52Aと、メモリ51に記憶されている血圧値の測定結果のデータを呼び出す指示を受け付けるためのメモリスイッチ52Bとを含んでいる。
【0041】
メモリ51は、記憶部として、血圧計1を制御するためのプログラムのデータ、血圧計1の各種機能を設定するための設定データ、および血圧値の測定結果のデータなどを記憶する。また、メモリ51は、プログラムが実行されるときのワークメモリなどとして用いられる。
【0042】
制御部110は、CPU(Central Processing Unit)を含み、この血圧計1全体の動作を制御する。具体的には、制御部110は、メモリ51に記憶された血圧計1を制御するためのプログラムに従って圧力制御部として働いて、操作部52からの操作信号に応じて、ポンプ32や弁33を駆動する制御を行う。また、制御部110は、閾値設定部および血圧算出部として働いて、コロトコフ音検出装置60が出力する音信号Ksに基づいて上記被測定部位の血圧値を算出し、表示器50およびメモリ51を制御する。具体的な血圧測定の仕方については後述する。
【0043】
電源部53は、制御部110、圧力センサ31、ポンプ32、弁33、表示器50、メモリ51、A/D変換回路310,410、ポンプ駆動回路320、弁駆動回路330、および後述するマイクロフォン40の各部に電力を供給する。マイクロフォン40には、配線71を通して電力が供給される。
【0044】
圧力センサ31は、この例ではピエゾ抵抗式圧力センサであり、エア配管37を通してカフ20(この例では、流体袋22)の圧力(これを「カフ圧Pc」と呼ぶ。)を受けて、ピエゾ抵抗効果による電気抵抗の変化に基づく電気信号値を、A/D変換回路310を通して制御部110へ出力する。制御部110は、圧力センサ31からの電気信号値に応じてカフ圧Pcを検出する。
【0045】
ポンプ32は、カフ圧Pcを加圧するために、エア配管37を通して流体袋22に空気を供給する。弁33は、エア配管37を通して流体袋22内の空気を排出し、または封入して、カフ圧Pcを制御するために開閉される。ポンプ駆動回路320は、ポンプ32を制御部110から与えられる制御信号に基づいて駆動する。弁駆動回路330は、弁33を制御部110から与えられる制御信号に基づいて開閉する。
【0046】
コロトコフ音検出装置60は、この例では、概ね、略短円筒状のケース61と、ケース61内を横断して設けられたダイヤフラム62と、音検出デバイスとしてのマイクロフォン40と、圧力緩和用の孔をなす細管63とを含んでいる。
【0047】
図2(A)は、コロトコフ音検出装置60の断面構造を例示している。このコロトコフ音検出装置60は、下ケース61Aと上ケース61Bとを含むケース61を備えている。図2(A)は、理解の容易のために、ケース61を鉛直な平面で半分に切断した縦断面を示している。なお、「下」、「上」、「鉛直」および後述の「水平」という用語は、説明の便宜のためのものであり、ケース61は、一体として、血圧計1の本体10内でいずれの向きにも配置され得る。
【0048】
下ケース61Aは、エア配管37dの周りに嵌合する円筒部61A1と、この円筒部61A1の上端から水平に広がる略矩形板状の外形をもつ板部61A2と、この板部61A2の上面に、平坦な底をもつ円形状の窪みとして設けられた凹部61A3と、板部61A2の端辺(図2(A)における右側の辺)から屈曲して上方に延びる縁部61A4とを含んでいる。円筒部61A1は、エア配管37dの周りに気密に嵌合している。凹部61A3が板部61A2上に作る空間Cdは、円筒部61A1を介して、エア配管37d(したがって、エア配管37)と流体流通可能に連通している。この例では、板部61A2の水平方向の寸法は、約50mmに設定されている。
【0049】
上ケース61Bは、下ケース61Aの板部61A2と対向して略平行に広がる略矩形状の板部61B1と、この板部61B1から円形のドーム状に上方へ隆起したドーム部61B2と、ドーム部61B2の略中央から上方へ延在する円筒部61B3と、板部61B1の端辺(図2(A)における左側の辺)から屈曲して下方に延びる縁部61B4とを含んでいる。この例では、板部61B1の水平方向の寸法は、下ケース61Aの板部61A2におけるのと同様に、約50mmに設定されている。ドーム部61B2の水平方向の位置および寸法は、下ケース61Aの凹部61A3の水平方向の位置および寸法の寸法と、実質的に一致している。円筒部61B3には、この例ではエア配管38が気密に嵌合して挿入されている。エア配管38の上端には、マイクロフォン40が気密に取り付けられている。また、この例では、エア配管38の途中に細管63が取り付けられている。板部61B1の内周縁と61B1iとドーム部61B2の内縁と61B1iとが作る空間Cm(後述のチャンバをなす)は、円筒部61B3とエア配管38とを介して、マイクロフォン40と流体流通可能に連通している。
【0050】
下ケース61Aの板部61A2と上ケース61Bの板部61B1との間には、空間Cdと空間Cmとを仕切るように横断して、略円形の膜状のダイヤフラム62が設けられている。この例では、ダイヤフラム62の周縁部62eは、下ケース61Aの板部61A2と上ケース61Bの板部61B1とによって挟持されている。これにより、ダイヤフラム62のうち周縁部62e以外の部分は、図2(A)中に矢印Bsで示すように、上下に振動可能になっている。ダイヤフラム62の周縁部62eは、下ケース61Aの板部61A2および/または上ケース61Bの板部61B1に接着剤によって接着されていてもよい。この例では、ダイヤフラム62は、合成樹脂としてのポリウレタンシート(厚さ0.3mm)からなっている。この例では、ダイヤフラム62の有効半径(空間Cd,Cmの水平方向の半径と実質的に等しい。)Rは、R=16.5mmに設定されている。したがって、このダイヤフラム62は、金属からなる場合に比して、軽くなり、また、製造段階で加工容易になる。また、この例では、ダイヤフラム62の固有振動数は、コロトコフ音の周波数帯域(20Hz~500Hz程度)に合うように設定されている。したがって、ダイヤフラム62は、コロトコフ音の周波数帯域をもつ音を選択的に透過できる。
【0051】
下ケース61Aの縁部61A4と上ケース61Bの縁部61B4は、下ケース61Aと上ケース61Bとを組み立てる際に、下ケース61Aと上ケース61Bとを互いに水平面内で位置合わせする便宜のために設けられている。これらの縁部61A4,61B4のおかげで、下ケース61Aの凹部61A3と上ケース61Bのドーム部61B2とを同心に容易に位置合わせすることができる。
【0052】
この例では、ダイヤフラム62の上面62bと、板部61B1の内周縁61B1iと、ドーム部61B2の内面61B2iと、円筒部61B3と、エア配管38とが、チャンバ(簡単のため、空間Cmと同じ符号で表す。)を構成している。この例では、チャンバCmは、コロトコフ音の周波数帯域(20Hz~500Hz程度)に合った共振周波数をもつように設定されている。
【0053】
具体的には、図2(B)は、上ケース61Bの円筒部61B3とエア配管38とを省略して、チャンバCmが直接マイクロフォン40と流体流通可能に連通する構成にした場合における、ヘルムホルツ共鳴(Helmholtz Resonance)のモデルを示している(なお、その場合、細管63は、図1中に示すように、上ケース61Bのドーム部61B2に直接取り付けられ、または、ドーム部61B2と一体に形成されてもよい。)。図2(B)中で、Sはダイヤフラム62の有効面積(実際に振動する部分の面積、単位m2)、VはチャンバCmの内容積(単位m3)、Lは等価ネック長(単位m)を表している。この場合、チャンバCmの共振周波数fは、ヘルムホルツ共鳴の理論によって、
f=(c/2π)(S/VL)1/2 …(Eq.1)
によって算出される。ここで、cは音速を表し、c≒340m/secである。この例では、式(Eq.1)に基づいて、チャンバCmの共振周波数fがコロトコフ音の周波数帯域(20Hz~500Hz程度)に合うように設定されている。
【0054】
したがって、チャンバCmは、ダイヤフラム62を透過した音のうちコロトコフ音の周波数帯域をもつ音を選択的に増幅できる。
【0055】
マイクロフォン40は、ダイヤフラム62を透過した音を、チャンバCm内を占める空気を介して受けて電気信号である音信号Ksに変換する。音信号Ksには、主にコロトコフ音を表す成分が含まれている。その音信号Ksは、コロトコフ音検出装置60の出力として、配線71、A/D変換回路410を介して、制御部110へ伝えられるようになっている。
【0056】
圧力緩和用の孔をなす細管63は、この例では、円筒状の外形を有している。図3(A)に示すように、細管63の内部には、チャンバCmの内外を流体流通可能に連通する圧力緩和用の孔63oが設けられている。この例では、孔63oは、ストレートに延びる細長い管路の形態になっている。この例では、細管63の軸方向寸法Lは、数mm~数cm程度に設定されている。また、孔63oの内径Diは、約0.1mm~数mm程度に設定されている。
【0057】
カフ20の加圧過程または減圧過程でエア配管37(および空間Cd)内の空気の圧力が徐々に変化するのに伴ってダイヤフラム62が撓んで、チャンバCm内の空気の圧力が変化しようとするとき、孔63oは、図3(A)中に矢印Aiで示すように、チャンバCmの内外で空気を流通させて、チャンバCm内の空気の圧力が大気圧(雰囲気の圧力)Amから変化するのを抑えるように働く。したがって、エア配管37(および空間Cd)内の空気の圧力が変化したとしても、その圧力変化(負荷)によってマイクロフォン40の感度、分解能、耐久性、信頼性に悪影響が生ずるのを、防止できる。
【0058】
ここで、圧力緩和用の孔63oは、細長い管路の形態になっている。したがって、孔63oが、例えば広い開口(図示せず)である場合に比して、チャンバCm外から孔63oを通してチャンバCm内にノイズ音が入り難くなる。したがって、圧力緩和用の孔のせいでコロトコフ音のS/N比が低下するのを、防止できる。なお、図3(A)の例では、孔63oはストレートになっているが、これに限られるものではない。例えば図3(B)に示す細管63Bでは、その内部に設けられた圧力緩和用の孔63oBは、ジグザグに往復する細長い管路の形態になっている。この場合でも、孔63oBは、矢印AiBで示すように、チャンバCmの内外で空気を流通させて、チャンバCm内の空気の圧力が大気圧Amから変化するのを抑えるように働く。したがって、エア配管37(および空間Cd)内の空気の圧力が変化したとしても、その圧力変化(負荷)によってマイクロフォン40の感度、分解能、耐久性、信頼性等に悪影響が生ずるのを、防止できる。しかも、図3(A)の例に比して、チャンバCm外から孔63oBを通してチャンバCm内にノイズ音が入り難くなる。したがって、圧力緩和用の孔のせいでコロトコフ音のS/N比が低下するのを、さらに防止できる。
【0059】
また、図3(C)に示す細管63Cでは、その内部に設けられた圧力緩和用の孔63oCは、ストレートに延びる細長い管路の形態になっている。しかし、孔63oCの内部に、通気性および遮音性を有する遮音材として、この例では多孔質材であるポリウレタンフォーム64が収容されている。このポリウレタンフォーム64は、矢印AiCで示すように、通気性を有する。したがって、チャンバCm内の空気の圧力が大気圧Amから変化するのを抑えるという孔63oCの機能が、ポリウレタンフォーム64の存在によって失われることは無い。また、ポリウレタンフォーム64は、遮音性を有するので、孔63oCの内部に空気のみが存在する場合に比して、チャンバCm外から孔63oCを通してチャンバCm内にノイズ音が入り難くなる。したがって、孔63oCのせいでコロトコフ音のS/N比が低下するのを、さらに防止できる。例えば、図3(D)は、細管63Cの軸方向寸法Lが2mm、孔63oCの内径Diが約0.2mmである場合に、孔63oCの内部にポリウレタンフォーム64を収容することによって、チャンバCm内のノイズ音がどの程度低減されるかを検証した結果を示している。この例では、孔63oCの内部にポリウレタンフォーム64を収容する前(時刻txの前)は、チャンバCm内の背景ノイズレベル(ピーク・ツゥ・ピーク)Ap-pは、約0.11Vであった。これに対して、孔63oCの内部にポリウレタンフォーム64を収容した後(時刻txの後)は、チャンバCm内の背景ノイズレベルAp-pは、約0.02Vまで低減された。このように、ポリウレタンフォーム64の存在によって、チャンバCm内のノイズ音を効果的に低減できることを検証できた。
【0060】
(血圧測定方法)
血圧測定に際して、図4に示すように、カフ20は、ユーザの被測定部位(この例では、上腕)90を取り巻いて装着される(なお、図4では、簡単のため、内布の図示が省略されている。)。被測定部位90には動脈91が通っているものとする。被測定部位90が発生する音には、コロトコフ音(周波数帯域;20Hz~500Hz程度)に加えて、被測定部位90を通る動脈91の脈波振動である圧脈波(周波数帯域;数十Hz程度)dVも含まれている。被測定部位90が発生する音は、流体袋22が作る空間Ccから、エア配管37を通して、本体10内のコロトコフ音検出装置60(の空間Cd)に伝わるようになっている。
【0061】
図5は、ユーザが血圧計1によって血圧測定を行う際の動作フローを示している。
【0062】
カフ20が被測定部位に装着された装着状態で、ユーザが本体10に設けられた操作部52の測定スイッチ52Aによって測定開始を指示すると、制御部110は、初期化を行う(図5のステップS1)。具体的には、制御部110は、処理用メモリ領域を初期化するとともに、ポンプ32をオフ(停止)し、弁33を開いた状態で、圧力センサ31の0mmHg調整(大気圧を0mmHgに設定する。)を行う。この初期状態では、図6(A)に示すように、コロトコフ音検出装置60のダイヤフラム62は、平坦な状態にある。
【0063】
次に、制御部110は圧力制御部として働いて、弁駆動回路330を介して弁33を閉じ(図5のステップS2)、続いて、ポンプ駆動回路320を介してポンプ32をオン(駆動)して、カフ20(流体袋22)の加圧を開始する(ステップS3)。すなわち、制御部110は、ポンプ32からエア配管37を通してカフ20内の流体袋22に流体として空気を供給する。これとともに、圧力センサ31は、カフ圧Pcを、エア配管37を通して受ける。制御部110は、圧力センサ31の出力に基づいて、ポンプ32による加圧速度を制御する。
【0064】
この加圧過程では、図6(B)に示すように、コロトコフ音検出装置60のダイヤフラム62は、エア配管37(特に、エア配管37d)内の空気の圧力を一方の面(空間Cd側の面)62aに受けて、他方の面62bの側へ凸に撓む。これにより、エア配管37内の空気の圧力を遮断する。また、ダイヤフラム62が撓むせいで、チャンバCm内の空気の圧力が変化しようとするとき、細管63の圧力緩和用の孔63oは、矢印Aiで示すように、チャンバCmの内外で空気を流通させて、チャンバCm内の空気の圧力が大気圧Amから変化するのを抑えるように働く。
【0065】
次に、図5のステップS4で、制御部110は、圧力センサ31の出力に基づいて、カフ圧Pcが予め定められた値(所定圧)に達したか否かを判断する。ここで、この所定圧は、ユーザの想定される血圧値を十分上回るように、例えば180mmHgというように定められていてもよいし、前回測定されたユーザの血圧値プラス40mmHgというように定められていてもよい。制御部110は、カフ圧Pcが上記所定圧に達するまで、加圧を継続し、カフ圧Pcが上記所定圧に達すると(ステップS4でYES)、ポンプ32を停止する(ステップS5)。続いて、制御部110は、弁駆動回路330を介して弁33を徐々に開く(ステップS6)。これにより、カフ圧Pcを略一定速度で減圧してゆく。
【0066】
この減圧過程で、図6(B)に示すように、ダイヤフラム62は、エア配管37内の空気の圧力を一方の面62aに受けて、エア配管37内の空気の圧力を遮断するとともに、矢印Bsで示すように振動して、コロトコフ音の周波数帯域の音をこのダイヤフラム62を通して透過させる。この結果、ダイヤフラム62を透過した音は、チャンバCm内を占める空気に伝わる。マイクロフォン40は、ダイヤフラム62を透過した音を、チャンバCm内を占める空気を介して受けて、電気信号である音信号Ksに変換し、配線71を介して出力する。
【0067】
ここで、ダイヤフラム62は、エア配管37内の空気の圧力を遮断するので、被測定部位90が発生する音から、動脈91の脈波振動である圧脈波dVの影響を低減できる。しかも、マイクロフォン40は、ダイヤフラム62を透過した音を、チャンバCm内を占める空気を介して受ける、言い換えれば、ダイヤフラム62(圧脈波を直接受ける)から離間した位置で受ける。したがって、さらに圧脈波dVの影響を低減できる。これにより、被測定部位90が発生する音から圧脈波dVによるノイズを除去できる。
【0068】
また、ダイヤフラム62は、コロトコフ音の周波数帯域に合った固有振動数をもつように設定されているので、被測定部位90からエア配管37(および空間Cd)内の空気を通して伝わってきた音のうちコロトコフ音の周波数帯域をもつ音を選択的に透過できる。さらに、チャンバCmは、コロトコフ音の周波数帯域に合った共振周波数をもつように設定されているので、ダイヤフラム62を透過した音のうちコロトコフ音の周波数帯域をもつ音を選択的に増幅できる。したがって、コロトコフ音をS/N比良く抽出できる。
【0069】
この減圧過程で、図5のステップS7(コロトコフ音抽出処理)に示すように、制御部110は、コロトコフ音検出装置60(のマイクロフォン40)が出力する音信号Ksを、A/D変換回路410を介して取得し、その音信号Ksからコロトコフ音を表す信号(これを「コロトコフ音信号Kc」と呼ぶ。)を抽出する。
【0070】
具体的には、図7は、コロトコフ音検出装置60が出力する音信号Ksを例示している。図7中の山状の曲線は、カフ圧Pcを表している。この例では、加圧開始から約17秒後にカフ圧Pcが所定圧180mmHgに達し、その時点から減圧過程が開始されている。この例では、音信号Ksには、背景ノイズレベルAp-p(この例では、約0.02V)を超えるパルス状の複数のコロトコフ音信号Kcが含まれている。この例では、制御部110は閾値設定部として働いて、音信号Ksに対して背景ノイズレベルAp-pを超える閾値TH(この例では、約0.06V)を設定する。そして、制御部110は、音信号Ksのうち閾値THを超える信号のみを、コロトコフ音信号Kcとして抽出する。これにより、音信号Ksから背景ノイズを除去できる。したがって、上記コロトコフ音のS/N比をさらに改善できる。これとともに、制御部110の制御によって、メモリ51が、抽出されたコロトコフ音信号Kcの振幅と、そのコロトコフ音信号Kcが発生した時刻とを対応付けて、記憶してゆく。
【0071】
この後、図5のステップS8で、制御部110は血圧算出部として働いて、メモリ51に記憶されているコロトコフ音信号Kcに基づいて、被測定部位の血圧を算出する。具体的には、上記減圧過程で、最初にコロトコフ音信号Kcが現れた時刻のカフ圧Pcを収縮期血圧SYS(Systolic Blood Pressure)として決定し、また、最後にコロトコフ音信号Kcが現れた時刻のカフ圧Pcを拡張期血圧DIA(Diastolic Blood Pressure)として決定する。
【0072】
このようにして血圧値(収縮期血圧SYSと拡張期血圧DIA)の算出ができたら(ステップS9でYES)、制御部110は圧力制御部として働いて、ポンプ32をオフし、弁33を開いて、カフ20(流体袋22)内の空気を急速排気する制御を行う(ステップS10)。この後、制御部110は、算出した血圧値を表示器50へ表示し、メモリ51へ保存する制御を行う。
【0073】
このように、この血圧測定方法によれば、被測定部位90が発生する音からコロトコフ音をS/N比良く抽出でき、したがって血圧測定の精度を高めることができる。
【0074】
本発明者は、比較例として、特許文献1(特開昭58-180132号公報)の第2図に沿ったコロトコフ音検出装置を含む血圧計を作製した。なお、その血圧計のうちコロトコフ音検出装置以外の部分については、上述の血圧計1におけるのと同じ構成にした。図8は、そのコロトコフ音検出装置が出力する音信号Ks′を例示している。この図8の例でも、加圧開始から約17秒後にカフ圧Pcが所定圧180mmHgに達し、その時点から減圧過程が開始されている。この比較例の音信号Ks′では、図7の検証結果と比較すれば分かるように、コロトコフ音信号Kcに相当する信号がノイズに埋もれてしまっている。このため、この比較例では、被測定部位が発生する音からコロトコフ音のみを抽出することが難しい、と言える。
【0075】
なお、上述の減圧過程(図5のステップS6~S9)では、コロトコフ音検出装置60のダイヤフラム62は、図6(B)のように他方の面62bの側へ凸に撓んだ状態から、次第に図6(A)に示す平坦な状態に戻ろうとする。これによってチャンバCm内の空気の圧力が変化しようとするとき、細管63の圧力緩和用の孔63oは、矢印Aiで示すように、チャンバCmの内外で空気を流通させて、チャンバCm内の空気の圧力が大気圧Amから変化するのを抑えるように働く。
【0076】
したがって、加圧過程(図5のステップS3~S4)だけでなく減圧過程(図5のステップS6~S9)でも、チャンバCm内の空気の圧力が大気圧Amから変化するのが抑えられる。この結果、エア配管37内の空気の圧力変化(負荷)によってマイクロフォン40の感度、分解能、耐久性、信頼性に悪影響が生ずるのを、防止できる。また、マイクロフォン40としては、コンデンサマイクロフォンだけでなく、例えばダイナミックマイクロフォン、MEMS(Micro Electronics Mechanical System)マイクロフォンなどの様々な型式のマイクロフォンを採用でき、マイクロフォン選択の自由度が増す。
【0077】
(変形例)
上の例では、チャンバCmのための圧力緩和用の孔63o,63oB,63oCは、細管63,63B,63Cの内部に設けられた細長い管路の形態にあるものとしたが、これに限られるものではない。圧力緩和用の孔は、例えば、図9(A)中に示す細長い溝41d,61B2d、または、図9(B)中に示す細長い溝61B1dの形態にあってもよい。なお、図9(A)、図9(B)において、既述の構成要素に対応する構成要素には同じ符号を付して、重複する説明を省略する。
【0078】
図9(A)、図9(B)に示すコロトコフ音検出装置60′,60″の例では、それぞれ、図2(A)の例に対して、上ケース61Bの円筒部61B3とエア配管38とが省略されている。それに代えて、上ケース61Bのドーム部61B2の頂部に貫通孔61B2oが設けられ、さらに、ドーム部61B2の頂面に、貫通孔41oを有する基板41を介して、偏平な略直方体状の外形をもつ市販のMEMSマイクロフォン40Aが密接して取り付けられている。チャンバCmは、ドーム部61B2の貫通孔61B2oと基板41の貫通孔41oとを介して、マイクロフォン40Aと流体流通可能に連通している。したがって、マイクロフォン40Aは、ダイヤフラム62を透過した音を、チャンバCm内を占める空気を介して受けて電気信号である音信号Ksに変換して出力することができる。なお、マイクロフォン40Aの平面方向(偏平に広がる方向)の寸法は数mm角である。
【0079】
図9(A)に示すコロトコフ音検出装置60′の例では、チャンバCmのための圧力緩和用の孔は、上ケース61Bのドーム部61B2の頂面に形成された細長い溝61B2dと、基板41の下面(ドーム部61B2と接する面)のうち上記細長い溝61B2dに重なって対応する位置に形成された細長い溝41dとからなっている。カフ20の加圧過程または減圧過程でエア配管37(および空間Cd)内の空気の圧力が徐々に変化するのに伴ってダイヤフラム62が撓んで、チャンバCm内の空気の圧力が変化しようとするとき、これらの細長い溝41d,61B2dは、図9(A)中に矢印AiDで示すように、ドーム部61B2の貫通孔61B2oを介してチャンバCmの内外で空気を流通させて、チャンバCm内の空気の圧力が大気圧Amから変化するのを抑えるように働く。したがって、エア配管37(および空間Cd)内の空気の圧力が変化したとしても、その圧力変化(負荷)によってマイクロフォン40Aの感度、分解能、耐久性、信頼性に悪影響が生ずるのを、防止できる。なお、細長い溝41d,61B2dのうちの一方を省略してもよい。
【0080】
図9(B)に示すコロトコフ音検出装置60″の例では、チャンバCmのための圧力緩和用の孔は、上ケース61Bの板部61B1の下面(ダイヤフラム62と接する面)に形成された細長い溝61B1dからなっている。カフ20の加圧過程または減圧過程でエア配管37(および空間Cd)内の空気の圧力が徐々に変化するのに伴ってダイヤフラム62が撓んで、チャンバCm内の空気の圧力が変化しようとするとき、この細長い溝61B1dは、図9(B)中に矢印AiEで示すように、チャンバCmの内外で空気を流通させて、チャンバCm内の空気の圧力が大気圧Amから変化するのを抑えるように働く。したがって、エア配管37(および空間Cd)内の空気の圧力が変化したとしても、その圧力変化(負荷)によってマイクロフォン40Aの感度、分解能、耐久性、信頼性に悪影響が生ずるのを、防止できる。
【0081】
なお、図9(A)中に示す細長い溝41d,61B2d、図9(B)中に示す細長い溝61B1dに、通気性および遮音性を有する遮音材(例えば、ポリウレタンフォーム)を収容してもよい。これにより、上記細長い溝41d,61B2dまたは61B1dのせいで上記コロトコフ音のS/N比が低下するのを、防止できる。
【0082】
なお、血圧計1による血圧測定は、減圧過程ではなく、加圧過程で行われてもよい。
【0083】
また、被測定部位は上腕に限られるものではなく、手首などの上腕以外の上肢、または、足首などの下肢であってもよい。
【0084】
以上の実施形態は例示であり、この発明の範囲から離れることなく様々な変形が可能である。上述した複数の実施の形態は、それぞれ単独で成立し得るものであるが、実施の形態同士の組みあわせも可能である。また、異なる実施の形態の中の種々の特徴も、それぞれ単独で成立し得るものであるが、異なる実施の形態の中の特徴同士の組みあわせも可能である。
【符号の説明】
【0085】
1 血圧計
10 本体
20 カフ
22 流体袋
31 圧力センサ
32 ポンプ
33 弁
40,40A マイクロフォン
41 基板
41d,61B1d,61B2d 細長い溝
60,60′,60″ コロトコフ音検出装置
62 ダイヤフラム
63,63A,63B,63C 細管
63o,63oB,63oC 圧力緩和用の孔
64 ポリウレタンフォーム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9