(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062741
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】ロボットおよびその制御方法
(51)【国際特許分類】
G05D 1/43 20240101AFI20240501BHJP
【FI】
G05D1/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170787
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】506310865
【氏名又は名称】CYBERDYNE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山海 嘉之
【テーマコード(参考)】
5H301
【Fターム(参考)】
5H301AA01
5H301AA10
5H301BB11
5H301BB14
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC10
5H301GG06
5H301GG08
5H301GG09
5H301GG12
5H301HH10
5H301HH19
(57)【要約】
【課題】対象空間内の走行環境に対して問題解決または状況改善のための適切な対処を施すことが可能なロボットおよびその制御方法を提案する。
【解決手段】
ロボット本体に設けられ、走行時の走行環境に関する環境情報を環境地図における位置情報と対応付けて取得する環境情報取得部と、環境情報取得部により取得される環境情報を蓄積しておき、当該蓄積結果に基づいて、対象空間における走行環境の状況を検知する環境状況検知部と、環境状況検知部により検知された走行環境の状況の時系列変化に基づいて、当該走行環境に対する問題解決または状況改善のための対処要否との関係を解析する対処要否解析部と、対処要否解析部による解析結果に基づいて、対象空間における走行環境の状況の時系列変化に応じた対処必要度を評価する対処必要度評価部とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自律走行式または操縦走行式で対象空間を移動するロボットにおいて、
ロボット本体を前記対象空間内の所望方向に所望速度で走行駆動する走行駆動部と、
前記ロボット本体の走行環境に対して自己の位置を推定すると同時に、前記対象空間を含む平面的または立体的な環境地図を作成する環境地図作成部と、
前記ロボット本体に設けられ、走行時の前記走行環境に関する環境情報を前記環境地図における位置情報と対応付けて取得する環境情報取得部と、
前記環境情報取得部により取得される前記環境情報を蓄積しておき、当該蓄積結果に基づいて、前記対象空間における前記走行環境の状況を検知する環境状況検知部と、
前記環境状況検知部により検知された前記走行環境の状況の時系列変化に基づいて、当該走行環境に対する問題解決または状況改善のための対処要否との関係を解析する対処要否解析部と、
前記対処要否解析部による解析結果に基づいて、前記対象空間における前記走行環境の状況の時系列変化に応じた対処必要度を評価する対処必要度評価部と
を備えることを特徴とするロボット。
【請求項2】
前記走行環境を前記環境地図における位置情報と対応付けて撮像する環境撮像部と、
前記環境撮像部による撮像時に、前記走行環境における人間の存在有無を判別する人間判別部と、
前記人物判別部により判別された前記人間に関する人間情報を認識する人間情報認識部と、を備え、
前記対処要否解析部は、前記環境状況検知部により検知された前記走行環境の状況の時系列変化と、前記人間情報認識部により認識された前記人間情報とに基づいて、当該走行環境に対する問題解決または状況改善のための対処要否との関係を解析する
ことを特徴とする請求項1に記載のロボット。
【請求項3】
前記走行環境を前記環境地図における位置情報と対応付けて撮像する環境撮像部と、
前記環境撮像部による撮像時に、前記走行環境における特定の果樹を検知する対象検知部と、
前記果樹に実る複数の果実に関する生育状態を認識する生育状態認識部と、を備え、
前記対処要否解析部は、前記環境状況検知部により検知された前記走行環境の状況の時系列変化と、前記生育状態認識部により認識された前記生育状態とに基づいて、当該走行環境に対する問題解決または状況改善のための対処要否との関係を解析する
ことを特徴とする請求項1に記載のロボット。
【請求項4】
前記対象空間に関するBIM(Building Information Modeling)データが存在する場合、当該BIMデータと前記環境地図作成部により作成された前記環境地図とを比較した後、当該比較結果に基づいて、前記環境地図作成部による前記環境地図の作成手法を校正する地図作成校正部と、
前記地図作成校正部による校正結果に基づいて、前記ロボット本体ごとの特性の差異を解消するとともに、前記BIMデータに対して補完または修正が必要な可能性を探索するための改善データを生成するデータ生成部と
を備えることを特徴とする請求項1から3までのいずれか一項に記載のロボット。
【請求項5】
自律走行式または操縦走行式で対象空間を移動するロボットの制御方法において、
ロボット本体の走行環境に対して自己の位置を推定すると同時に、前記対象空間を含む平面的または立体的な環境地図を作成する第1ステップと、
前記ロボット本体を前記対象空間内の所望方向に所望速度で走行駆動させながら、走行時の前記走行環境に関する環境情報を前記環境地図における位置情報と対応付けて取得する第2ステップと、
前記第2ステップにより取得される前記環境情報を蓄積しておき、当該蓄積結果に基づいて、前記対象空間における前記走行環境の状況を検知する第3ステップと、
前記第3ステップにより検知された前記走行環境の状況の時系列変化に基づいて、当該走行環境に対する問題解決または状況改善のための対処要否との関係を解析する第4ステップと、
前記第4ステップによる解析結果に基づいて、前記対象空間における前記走行環境の状況の時系列変化に応じた対処必要度を評価する第5ステップと
を備えることを特徴とするロボットの制御方法。
【請求項6】
前記走行環境を前記環境地図における位置情報と対応付けて撮像しながら、撮像時に、前記走行環境における人間の存在有無を判別する第6ステップと、
前記第6ステップにより判別された前記人間に関する人間情報を認識する第7ステップと、を備え、
前記第5ステップは、前記第3ステップにより検知された前記走行環境の状況の時系列変化と、前記第7ステップにより認識された前記人間情報とに基づいて、当該走行環境に対する問題解決または状況改善のための対処要否との関係を解析する
ことを特徴とする請求項5に記載のロボットの制御方法。
【請求項7】
前記走行環境を前記環境地図における位置情報と対応付けて撮像しながら、撮像時に、前記走行環境における特定の果樹を検知する第8ステップと、
前記果樹に実る複数の果実に関する生育状態を認識する第9ステップと、を備え、
前記第5ステップは、前記第3ステップにより検知された前記走行環境の状況の時系列変化と、前記第9ステップにより認識された前記生育状態とに基づいて、当該走行環境に対する問題解決または状況改善のための対処要否との関係を解析する
ことを特徴とする請求項5に記載のロボットの制御方法。
【請求項8】
前記対象空間に関するBIM(Building Information Modeling)データが存在する場合、当該BIMデータと前記環境地図作成部により作成された前記環境地図とを比較した後、当該比較結果に基づいて、前記環境地図作成部による前記環境地図の作成手法を校正する第10ステップと、
前記第10ステップによる校正結果に基づいて、前記ロボット本体ごとの特性の差異を解消するとともに、前記BIMデータに対して補完または修正が必要な可能性を探索するための改善データを生成する第11ステップと
を備えることを特徴とする請求項5から7までのいずれか一項に記載のロボットの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットおよびその制御方法に関し、自律走行式または操縦走行式で対象空間を移動するロボットおよびその制御方法に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動清掃ロボットなどの自律移動可能なロボットには、外部環境に対して自己の位置を推定すると同時に環境地図を作成するSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術が搭載されたものが数多く提案されている。
【0003】
このSLAM技術を用いた自律移動ロボットは、高精度に自己の位置を推定しながら、実空間内に存在する物体の3次元位置を表現する環境地図を動的に生成することにより、自己の移動経路を特定して環境内を自律的に移動するようになされている。
【0004】
近年の空港やショッピングモール等の大型施設では、空港内のサービス向上や管理・運営の強化などを目的として、上述の自律移動ロボットの導入が推進されている。具体的には、第1に、施設利用者に対する安全性や利便性を前提とした良質なサービスの提供、第2に、施設従業員が健康的に働きやすい環境の創出、第3に、施設内のダイナミックな保守管理のサポート、に寄与できることが期待される。
【0005】
従来から、移動体の走行環境(道路環境、交通情報および気象状況)を分析して、当該移動体の走行環境の移動のしやすさを定量的に評価する走行環境評価システムが提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
また、所定の環境内を検出範囲としたレーダ検出情報と、環境内を検出範囲とした温度検出情報とに基づいて、環境内の物体に対して人間か他の物体かを識別した後、人間か他の物体かの識別結果情報に基づいて、環境内に配置された電気機器を制御する制御システムが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2014/167701号公報
【特許文献2】特開2022-23342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に記載の走行環境評価システムでは、走行環境情報の識別結果に基づいて、移動体の移動のしやすさや移動のしにくさに関する定量的な情報を提供することが可能であるが、道路環境、交通環境および気象状況のような比較的短時間先の情報しか分析対象としないため、施設内の管理や運営の強化を目的とするような自律移動ロボットの走行環境評価システムには実用上不十分である。
【0009】
また、特許文献2に記載の制御システムでは、所定の環境内で検出した人間を識別して電気機器を適切に制御することが可能であるが、単に環境内に人間が存在することを検知してエアコン等の電気機器を制御するに過ぎない。
【0010】
実際に大型施設等の対象空間内の走行環境に対して問題解決または状況改善のための適切な対処を施すためには、走行環境の状況が時系列的にどのように変化したかを把握する必要があるため、単に通過するだけの道路環境では不十分である一方、施設内全体を隈なく定点観察するには制御規模が増大しすぎて実用上十分ではないという問題がある。
【0011】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、対象空間内の走行環境に対して問題解決または状況改善のための適切な対処を施すことが可能なロボットおよびその制御方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するため本発明においては、自律走行式または操縦走行式で対象空間を移動するロボットにおいて、ロボット本体を対象空間内の所望方向に所望速度で走行駆動する走行駆動部と、ロボット本体の走行環境に対して自己の位置を推定すると同時に、対象空間を含む平面的または立体的な環境地図を作成する環境地図作成部と、ロボット本体に設けられ、走行時の走行環境に関する環境情報を環境地図における位置情報と対応付けて取得する環境情報取得部と、環境情報取得部により取得される環境情報を蓄積しておき、当該蓄積結果に基づいて、対象空間における走行環境の状況を検知する環境状況検知部と、環境状況検知部により検知された走行環境の状況の時系列変化に基づいて、当該走行環境に対する問題解決または状況改善のための対処要否との関係を解析する対処要否解析部と、対処要否解析部による解析結果に基づいて、対象空間における走行環境の状況の時系列変化に応じた対処必要度を評価する対処必要度評価部とを備えるようにした。
【0013】
この結果、ロボットでは、対象空間における走行環境の状況の時系列変化に応じた対処必要度を評価することにより、当該走行環境の状況に変化があった箇所を抽出した後、当該箇所に対して問題解決または状況改善のための対処が必要と判断した場合に、適切な対処を施すことが可能となる。
【0014】
また本発明においては、走行環境を環境地図における位置情報と対応付けて撮像する環境撮像部と、環境撮像部による撮像時に、走行環境における人間の存在有無を判別する人間判別部と、人物判別部により判別された人間に関する人間情報を認識する人間情報認識部と、を備え、対処要否解析部は、環境状況検知部により検知された走行環境の状況の時系列変化と、人間情報認識部により認識された人間情報とに基づいて、当該走行環境に対する問題解決または状況改善のための対処要否との関係を解析するようにした。
【0015】
このように、ロボットでは、走行環境の状況の時系列変化と人間情報とに基づいて、当該走行環境に対する問題解決または状況改善のための対処要否との関係を解析することにより、その解析結果に基づき走行環境の状況の時系列変化に応じた対処必要度を評価する際、走行環境の状況変化と人間との相関関係の高さに応じた評価をすることが可能となる。
【0016】
さらに本発明においては、走行環境を環境地図における位置情報と対応付けて撮像する環境撮像部と、環境撮像部による撮像時に、走行環境における特定の果樹を検知する対象検知部と、果樹に実る複数の果実に関する生育状態を認識する生育状態認識部と、を備え、対処要否解析部は、環境状況検知部により検知された走行環境の状況の時系列変化と、生育状態認識部により認識された生育状態とに基づいて、当該走行環境に対する問題解決または状況改善のための対処要否との関係を解析するようにした。
【0017】
このように、ロボットでは、走行環境の状況の時系列変化と生育状態とに基づいて、当該走行環境に対する問題解決または状況改善のための対処要否との関係を解析することにより、その解析結果に基づき走行環境の状況の時系列変化に応じた対処必要度を評価する際、走行環境の状況変化と生育状態との相関関係の高さに応じた評価をすることが可能となる。
【0018】
さらに本発明においては、対象空間に関するBIM(Building Information Modeling)データが存在する場合、当該BIMデータと環境地図作成部により作成された環境地図とを比較した後、当該比較結果に基づいて、環境地図作成部による環境地図の作成手法を校正する地図作成校正部と、地図作成校正部による校正結果に基づいて、ロボット本体ごとの特性の差異を解消するとともに、BIMデータに対して補完または修正が必要な可能性を探索するための改善データを生成するデータ生成部とを備えるようにした。
【0019】
このように、ロボットでは、BIMデータに対する環境地図の校正結果に基づいて、ロボット本体ごとの特性の差異を解消するとともに、BIMデータ自体に補完または修正が必要な可能性を探索することにより、ロボットが常に適切な空間認知をすることが可能となる。
【0020】
さらに本発明においては、自律走行式または操縦走行式で対象空間を移動するロボットの制御方法において、ロボット本体の走行環境に対して自己の位置を推定すると同時に、対象空間を含む平面的または立体的な環境地図を作成する第1ステップと、ロボット本体を対象空間内の所望方向に所望速度で走行駆動させながら、走行時の走行環境に関する環境情報を環境地図における位置情報と対応付けて取得する第2ステップと、第2ステップにより取得される環境情報を蓄積しておき、当該蓄積結果に基づいて、対象空間における走行環境の状況を検知する第3ステップと、第3ステップにより検知された走行環境の状況の時系列変化に基づいて、当該走行環境に対する問題解決または状況改善のための対処要否との関係を解析する第4ステップと、第4ステップによる解析結果に基づいて、対象空間における走行環境の状況の時系列変化に応じた対処必要度を評価する第5ステップとを備えるようにした。
【0021】
この結果、ロボットの制御方法では、対象空間における走行環境の状況の時系列変化に応じた対処必要度を評価することにより、当該走行環境の状況に変化があった箇所を抽出した後、当該箇所に対して問題解決または状況改善のための対処が必要と判断した場合に、適切な対処を施すことが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように本発明によれば、対象空間における走行環境の状況に変化があった箇所に対して、適切な問題解決または状況改善のための対処を施すことが可能なロボットおよびその制御方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係るロボットの外観構成を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るロボットの外観構成を示す斜視図である。
【
図4】
図3に示す統括制御部の制御機能を表すブロック図である。
【
図5】人間情報を併用する場合のロボットの制御系を示すブロック図である。
【
図6】
図5に示す統括制御部の制御機能を表すブロック図である。
【
図7】果実の育成状態を併用する場合のロボットの制御系を示すブロック図である。
【
図8】
図7に示す統括制御部の制御機能を表すブロック図である。
【
図9】BIMデータを活用する場合のロボットの制御系を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面について、本発明の一実施例を詳細する。
【0025】
(1)本実施の形態によるロボットの構成
図1および
図2は、本実施の形態によるロボット1を示す。ロボット1は、
図1に示すように、全体として略立方体形状を有するロボット本体(駆動フレーム)2を有し、自己の移動経路を自律的にまたは外部操作に応じて走行可能な二輪駆動型の四輪移動体である。
【0026】
ロボット本体2の下部には、
図2に示すように、前側に左右一対の駆動輪3A、3Bが設けられ、かつ、後側にロボットの走行に応じて走行方向又は当該走行方向と交差する方向に回転自在な左右一対のオムニホイール4A、4Bを備える。
【0027】
左右の駆動輪3A、3Bはそれぞれ駆動モータ33A、33B(
図3参照)によってそれぞれ独立して回転駆動し、駆動輪3A、3Bの前進回転或いは後進回転によって前進及び後進し、駆動輪3A、3Bの前進回転速度に差を与えることによって前進しつつ右或いは左に走行する。また、駆動輪3A、3Bを互いに逆方向に回転駆動することによってロボット1がスピン、即ちその位置で方向転換する。
【0028】
図1に示すようにロボット本体2は、前進方向および鉛直方向からなる平面を断面とする略コ字状の立体形状を有し、当該略コ字状を形成する切込み空間2Sの前部中央位置には、斜め前方方向及び左右方向の障害物の検知を行うレーザレンジセンサ10が上段部および下段部を橋架するように設けられている。
【0029】
またロボット本体2における上段部の前面には、3次元スキャン可能なRGB-Dセンサ11および3D距離画像センサ12が設けられている。具体的にレーザレンジセンサ10は、設置位置から見た対象物(障害物)に照射し、その反射光を受光して距離を算出する。これを一定角度間隔で距離を測定することにより、平面上に扇状の距離情報を最大30m、角度240度の範囲で得ることができる。
【0030】
またRGB-Dセンサ11は、RGBカラーカメラ機能に加えて、当該カメラから見た対象物(障害物)までの距離を計測できる深度センサを有し、対象物の3次元スキャンを行うことができる。この深度センサは赤外線センサからなり、構造化光の単一のパターンを対象物に投影した状態で対象を撮影し、そのパラメータを用いて三角測量により画像上の各点のデプスを算出する。
【0031】
RGB-Dセンサ11をロボット本体2の上段部の中央に設置したのは、ほぼ床面に近い高さでは垂直視野が確保できないためであり、床面から0.6[m]~1.8[m]の高さ確保が必要となる。
【0032】
3D距離画像センサ12は、LEDパルスを照射し、対象物からの反射光の到達時間を画素単位で計測すると同時に取得した画像情報を重畳することにより、対象物までの距離情報を画素単位で算出する。この3D距離画像センサ12は、上述のRGB-Dセンサ11よりも高精度の検出能力を有し、かつレーザレンジセンサ10よりも視野角が広いことから、屋外向けの補完センサとして必要である。
【0033】
ロボット2では、レーザレンジセンサ10、RGB-Dセンサ11および3D距離画像センサ12を用いて、外部環境に対して自己の位置を推定すると同時に環境地図を作成するSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術を実現するようになされている。
【0034】
このSLAM技術を用いたロボット1は、高精度に自己の位置を推定しながら、実空間内に存在する物体の3次元位置を表現する環境地図を動的に生成することにより、自己の移動経路を特定して環境内を自律的に移動することが可能である。
【0035】
またロボット1には、
図1および
図2に示すように、ロボット本体2にバキューム清掃可能な清掃システム20が内蔵されている。この清掃システム20は、ロボット本体2の下段部の底面前側に清掃ブラシユニット21が取り付けられるとともに、ロボット本体2の上段部にダストボックス22およびファン駆動用のモータ(図示せず)等が内蔵されている。
【0036】
ダストボックス22の吸塵口(図示せず)にはフィルタが取り付けられ、モータ駆動によるファンの回転に応じて清掃ブラシユニットから吸引された塵等を含む空気から当該塵等のみを分離するようになされている。このフィルタを介してファンにより吸引された空気は、ロボット本体2の背面部に設けられた排気口から排出される。
【0037】
清掃ブラシユニット21は、ロボット本体2の下段部において、底面前縁部に沿うようにノズル部23が取り付けられ、当該ノズル部23の開口から露出するようにロールブラシ24がロボット1の走行に伴って回転自在に軸支されている。
【0038】
ノズル部23の開口の後段には、進行方向に対して横長のへら状のスクレーパ25がロールブラシ24に押し当てられるように取り付けられ、ロールブラシ24に付着した塵等の汚れを掻き取るようになされている。
【0039】
このように清掃システム20では、モータの駆動に応じたファンの回転により吸引力が発生し、ダストボックス22を介して通風管を経て清掃ブラシユニット21のノズル部23に伝わる。清掃ブラシユニット21では、ロボット1の走行に伴いロールブラシ24を回転させながら、ノズル部23の開口から塵等を含む空気を通風管を介してダストボックス22に導き、塵等のみを当該ダストボックス22内に蓄積させるとともに、空気をファンの後段に流して排出口から排出することにより、バッキューム清掃を行い得る。
【0040】
ロボット本体2の下段部の前面には、その前面を覆うようにバンパー26が設けられており、当該バンパー26に対して所定レベル以上の押圧力が加えられたときに、障害物の接触を検知する接触センサ(図示せず)がバンパー26の内側に設けられている。接触センサにより障害物との接触が検知されると、ロボット1は非常停止状態となるように制御される。
【0041】
図1に示すように、ロボット本体2の上段部の四隅には、それぞれLEDインジケータ27A~27Dが設けられている。各LEDインジケータ27A~27Dは、ロボット1の各種状態(モードごとの制御状態やバッテリ残量状態、センサ検知状態、走行時の不具合やトラブル等の警告など)を所定の発光色と点灯パターンとにより提示するようになされている。なお、図示しないが、ロボット本体2には上述のロボット1の各種状態を音声により提示するためのスピーカ28(
図3)が搭載されている。
【0042】
ロボット本体2の背面部には、二次電池またはキャパシタからなる比較的大容量の駆動用バッテリ(図示せず)が内蔵されており、ロボット1の駆動源のみならず、外部端子(図示せず)を介して各種装置の接続時における供給電源として利用するようになされている。この駆動用バッテリは、着脱自在に装填可能なカートリッジ式に構成されている。
【0043】
(2)ロボットの内部の回路構成
図3にロボット1の内部の回路構成を示す。自律的にまたは外部操作に応じて床面を走行するロボット1において、ロボット全体2の制御を司る統括制御部(走行制御部)30は、CPU(Central Processing Unit)やメモリ等が搭載されたMCM(Multi-Chip Module)からなるマイクロコンピュータを主体として構成されている。
【0044】
統括制御部30による制御の下、走行駆動部31は、左右のモータドライバ32A、32Bを制御して駆動モータ33A、33Bの回転を制御することにより、ロボット本体2を床面の所望方向に所望速度で走行駆動する。
【0045】
環境地図作成部34は、ロボット本体の走行環境に対して自己の位置を推定すると同時に、対象空間を含む平面的または立体的な環境地図を作成する。すなわち、環境地図作成部は、予め設定された走行経路情報を記憶する目標走行経路記憶部35からの走行経路情報と、レーザレンジセンサ10、RGB-Dセンサ11および3D距離画像センサ12による各検出信号とに基づいて、走行環境に対して自己の位置を推定すると同時に、床面を含む平面的または立体的な環境地図を作成しながら、走行経路の適否や変更の要否を判断するとともに、走行障害物の有無を判断する。
【0046】
実際にロボット1は、上述したSLAM技術を利用して、施設内の人間が歩行可能な対象エリアの環境地図を自動的に作成する。具体的にはロボット1は、レーザレンジセンサ10および3D距離画像センサ11から得られる対象物との距離情報および角度情報に基づいて、2次元格子で区切ったグリッド上の局所地図を移動環境を示すエリアとして設定していきながら、所望の対象エリア全体を表す環境地図を作成する。
【0047】
それと同時にロボット1の一対の駆動輪3A、3Bに対応するエンコーダ(図示せず)から読み出された回転角度に基づいて、自機の走行量を演算し、次の居所地図と現時点までに作成された環境地図とのマッチングおよび自機の走行量から自己位置を推定する。
【0048】
またロボット1においては、走行時の空間の環境情報としての温度、湿度、気圧、音圧、騒音、照度および電磁波を取得するための複合的なセンサを有する環境情報取得部36が、ロボット本体2に設けられている。
【0049】
この環境情報取得部36は、走行時の空間の環境情報のみならず、走行時の路面の環境情報(地図情報、走行経路、床面の凸凹情報、床面傾斜、ゴミ情報およびカーペットの状態など)も環境地図作成部34により取得する。このように環境情報取得部36は、これら走行時の走行環境に関する環境情報を環境地図における位置情報と対応付けて取得する。
【0050】
さらに環境情報取得部36は、対象空間における施設内の管理・運営機能(例えば、エレベータ、空調システムおよび照明システム等)とも連動するようになされている。
【0051】
統括制御部30は、
図4に示すように、環境状況検知部37、対処要否解析部38および対処必要度評価部39を制御機能として有している。まず、統括制御部(環境状況検知部37)30は、環境情報取得部36により取得される環境情報を環境情報記憶部40に順次記憶し、当該環境情報記憶部40から読み出した蓄積結果に基づいて、対象空間における走行環境の状況を検知する。
【0052】
続いて統括制御部(対処要否解析部38)30は、検知した走行環境の状況の時系列変化に基づいて、当該走行環境に対する問題解決または状況改善のための対処要否との関係を解析する。具体的に対象空間における走行環境の変化としては、床面の汚れ、カビ繁殖の進行、常時存在しない物体、眩しい反射光などが挙げられる。
【0053】
そして統括制御部(対処必要度評価部39)30は、当該解析結果に基づいて、対象空間における走行環境の状況の時系列変化に応じた対処必要度(人間の快適度確保、汚染の未然回避など)を評価する。
【0054】
この結果、ロボット1では、対象空間における走行環境の状況の時系列変化に応じた対処必要度を評価することにより、当該走行環境の状況に変化があった箇所を抽出した後、当該箇所に対して問題解決または状況改善のための対処が必要と判断した場合に、適切な対処を施すことが可能となる。
【0055】
(3)人間情報を併用した対処必要度の評価方法
またロボット1においては、
図3との対応部分に同一符号を付した
図5に示すように、ロボット本体2の走行環境を撮像カメラ(環境撮像部)41を有し、統括制御部50の制御に応じて、走行環境を環境地図における位置情報と対応付けて撮像する。
【0056】
統括制御部50は、
図6に示すように、環境状況検知部37、対処要否解析部38および対処必要度評価部39に加えて、人間判別部51および人間情報認識部52を制御機能として有している。
【0057】
統括制御部(人間判別部51)50は、撮像カメラ(環境撮像部)41による撮像時に、走行環境における人間の存在有無を判別する。そして、統括制御部(人間情報認識部52)50は、判別した人間に関する人間情報(人間の動作、顔表情および感情など)を認識する。
【0058】
この人間情報は、撮像結果から得られる情報のみならず、判別された人間の生理状態(非接触計測に基づく脈拍数、体温、酸素飽和度、体温分布など)を含めるようにしてもよい。
【0059】
実際に統括制御部(人間情報認識部52)50には、対象空間(施設)内の人間に対して、各自の生体状態を検出するための生体情報検出センサ53が接続されている。生体情報検出センサは、非侵襲にて光やレーザを用いた計測手段を有し、人間の生体情報として、血圧、動脈硬化、心電、呼吸、嚥下、睡眠等を検出し得る。
【0060】
非侵襲による血圧測定方法については、本願発明者による国際出願2015/068787号公報に記載された血流に基づく血圧算出装置を適用することができる。また非侵襲による血流測定方法および動脈硬化測定方法については、本願発明者による特登5283700号公報に記載された光を用いた非接触の血管状態計測装置を適用することができる。
【0061】
さらに脳波や脳活動の計測方法については、本願発明者による特登5717064号公報および特登5295584号公報に記載された頭部血流計測に基づく脳波検出装置を適用することができる。
【0062】
統括制御部(対処要否解析部38)50は、検知した走行環境の状況の時系列変化と、人間情報認識部52により認識された人間情報とに基づいて、当該走行環境に対する問題解決または状況改善のための対処要否との関係を解析する。
【0063】
このように、ロボット1では、走行環境の状況の時系列変化と人間情報とに基づいて、当該走行環境に対する問題解決または状況改善のための対処要否との関係を解析することにより、その解析結果に基づき走行環境の状況の時系列変化に応じた対処必要度を評価する際、走行環境の状況変化と人間との相関関係の高さに応じた評価をすることが可能となる。
【0064】
(4)果実の生育状態を併用した対処必要度の評価方法
またロボット1においては、
図3との対応部分に同一符号を付した
図7に示すように、対象空間が果樹の栽培を行う果樹エリアを含む場合、ロボット本体2の走行環境を撮像カメラ(環境撮像部)36を有し、統括制御部60の制御に応じて、走行環境を環境地図における位置情報と対応付けて撮像する。
【0065】
統括制御部60は、
図8に示すように、環境状況検知部37、対処要否解析部38および対処必要度評価部39に加えて、対象検知部61および生育状態認識部62を制御機能として有している。
【0066】
統括制御部(対象検知部61)60は、撮像カメラ(環境撮像部)41による撮像時に、走行環境における特定の果樹を検知する。そして、統括制御部(生育状態認識部62)60は、対象検知部61により検知された果樹に実る複数の果実に関する生育状態を認識する。
【0067】
統括制御部(対処要否解析部38)60は、検知した走行環境の状況の時系列変化と、生育状態認識部62により認識された生育状態とに基づいて、当該走行環境に対する問題解決または状況改善のための対処要否との関係を解析する。
【0068】
このように、ロボット1では、走行環境の状況の時系列変化と生育状態とに基づいて、当該走行環境に対する問題解決または状況改善のための対処要否との関係を解析することにより、その解析結果に基づき走行環境の状況の時系列変化に応じた対処必要度を評価する際、走行環境の状況変化と生育状態との相関関係の高さに応じた評価をすることが可能となる。
【0069】
(5)BIMデータの改善検討
さらにロボット1においては、
図3との対応部分に同一符号を付した
図9に示すように、対象空間に関するBIM(Building Information Modeling)データ(建設会社や施設サービス会社等の管理側が作成したデータ)が存在する場合、地図作成校正部70は、当該BIMデータと環境地図作成部34により作成された環境地図(ロボット1により構築されたBIMデータ)とを比較した後、当該比較結果に基づいて、環境地図作成部34による環境地図の作成手法を校正する。
【0070】
そしてデータ生成部71は、地図作成校正部70による校正結果に基づいて、ロボット本体2ごとの特性の差異を解消するとともに、BIMデータに対して補完または修正が必要な可能性を探索するための改善データを生成する。
【0071】
このように、ロボット1では、BIMデータに対する環境地図の校正結果に基づいて、ロボット本体2ごとの特性の差異を解消するとともに、BIMデータ自体に補完または修正が必要な可能性を探索することにより、ロボット1が常に適切な空間認知をすることが可能となる。ロボット1は、BIMデータ自体に補完または修正が必要な可能性を探索した結果(改善データ)を、建設会社や施設サービス会社等の管理側にフィードバックするようにしてもよい。
【0072】
(6)他の実施の形態
なお上述の実施の形態においては、ロボット1として、清掃システム20が内蔵された自律移動体を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、対象空間における走行環境の状況の時系列変化に応じた対処必要度を評価することができれば、ロボット本体に搭載または内蔵する機能システムは必要に応じて種々のものを適用するようにしてもよい。
【0073】
また本実施の形態においては、対象空間を清掃対象を兼ねた施設内を設定した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、ロボット1が自律走行式または操縦走行式で対象空間を移動することができれば、複数の人間が存在する場所や、果樹の栽培を行う場所など、種々の場所を対象空間とするようにしてもよい。
【0074】
さらに本実施の形態においては、ロボットに搭載される環境地図作成部34として、レーザレンジセンサ10、RGB-Dセンサ11および3D距離画像センサ12によるSLAM技術を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、環境地図を作成しながら、走行経路の適否や変更の要否を判断するとともに、走行障害物の有無を判断することができれば、ビジョンセンサ(撮像カメラなど)や、レーダー(マイクロ波等の電波)、レーザ光または超音波を用いた非接触計測手段などを用いるようにしても良い。
【符号の説明】
【0075】
1…ロボット、2…ロボット本体、2S…切込み空間、3A、3B…駆動輪、4A、4B…オムニホイール、10…レーザレンジセンサ、11…RGB-Dセンサ、12…3D距離画像センサ、20…清掃システム、21…清掃ブラシユニット、22…ダストボックス、23…ノズル部、24…ロールブラシ、25…スクレーパ、26…バンパー、27A~27D…LEDインジケータ、28…スピーカ、30、50、60…統括制御部、31…走行駆動部、32A、32B…モータドライバ、33A、33B…駆動モータ、34…環境地図作成部、35…目標走行経路記憶部、36…環境情報取得部、37…環境状況検知部、38…対処要否解析部、39…対処必要度評価部、40…環境情報記憶部、41…撮像カメラ(環境撮像部)、51…人間判別部、52…人間情報認識部、53…生体情報検出センサ、61…対象検知部、62…生育状態認識部、70…地図作成校正部、71…データ生成部。