(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062747
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】網
(51)【国際特許分類】
D04C 1/06 20060101AFI20240501BHJP
【FI】
D04C1/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170800
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】523419521
【氏名又は名称】エム・エーライフマテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北山 秀超
(72)【発明者】
【氏名】小林 是則
【テーマコード(参考)】
4L046
【Fターム(参考)】
4L046AA01
4L046AA07
4L046AA24
4L046BA00
4L046BB00
(57)【要約】
【課題】熱融着していないにも関わらず格子の形状の安定性に優れ、かつ、紐状部材の破断が抑制された網を提供する。
【解決手段】複数の紐状部材が格子状に編まれてなる網であって、前記複数の紐状部材の各々は、樹脂を含み、かつ、90°折り曲げ時の戻り角が30°以下であり、前記網は、前記複数の紐状部材が熱融着されることなく結ばれることなく絡んでいる絡み部を含む、網。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の紐状部材が格子状に編まれてなる網であって、
前記複数の紐状部材の各々は、樹脂を含有し、かつ、90°折り曲げ時の戻り角が30°以下であり、
前記網は、前記複数の紐状部材が熱融着されることなく結ばれることなく絡んでいる絡み部を含む、
網。
【請求項2】
前記複数の紐状部材の各々が、前記樹脂を含有する繊維状部材を含む、請求項1に記載の網。
【請求項3】
前記複数の紐状部材の各々は、複数の繊維状部材を含み、
前記絡み部において、前記複数の紐状部材の各々における前記複数の繊維状部材同士が絡んでいる、
請求項1に記載の網。
【請求項4】
前記複数の紐状部材が、紐状部材A及び紐状部材Bを含み、
前記紐状部材Aが、繊維状部材A1及び繊維状部材A2を含み、
前記紐状部材Bが、繊維状部材B1及び繊維状部材B2を含み、
絡み部は、前記紐状部材A及び前記紐状部材Bが熱融着されることなく結ばれることなく絡んでいる絡み部ABを含み、
前記絡み部ABにおいて、前記繊維状部材A1及び前記繊維状部材A2と、前記繊維状部材B1及び前記繊維状部材B2と、が絡んでおり、
前記絡み部ABを平面視した場合に、前記繊維状部材A1及び前記繊維状部材A2の各々が、前記繊維状部材B1及び前記繊維状部材B2の各々に対し、1回以上交差する、
請求項1に記載の網。
【請求項5】
前記樹脂が、ポリオレフィンである、請求項1に記載の網。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、網に関する。
【背景技術】
【0002】
網(ネット)及び網の応用品は、医療、衛生、漁業、農業、建設、土木、スポーツ等、あらゆる分野で用いられている。
例えば特許文献1には、生理用品、衛生用品などの繊維製品の賦形材として有用な可撓性、柔軟性、賦形性に優れたネット状形状保持体として、無機充填剤粉末を0.1~60質量%の割合で含有する高密度ポリエチレン組成物からなる、交絡部が熱融着されたネット状物であって、目付けが5~200g/m2、糸間ピッチが1~25mm、90度折り曲げ時における4時間後の最小戻り角度が30度以下であるネット状形状保持体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術に対し、樹脂を含む紐状部材を用い、熱融着をすることなく網の格子を形成することが求められる場合がある。
しかし、熱融着を用いずに網の格子を形成した場合、格子の形状の安定性が不足する場合(例えば、格子の形状が崩れやすい等、格子の形状を保持しにくい場合)があることが判明した。
その一方で、格子の形状の安定性を高めようとして、複数の上記紐状部材同士を結んで網の格子を形成する場合、結ぶ際に紐状部材が破断する場合があることが判明した。
【0005】
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、熱融着していないにも関わらず格子の形状の安定性に優れ、かつ、紐状部材の破断が抑制された網を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 複数の紐状部材が格子状に編まれてなる網であって、
前記複数の紐状部材の各々は、樹脂を含み、かつ、90°折り曲げ時の戻り角が30°以下であり、
前記網は、前記複数の紐状部材が熱融着されることなく結ばれることなく絡んでいる絡み部を含む、
網。
<2> 前記複数の紐状部材の各々は、前記樹脂を含有する繊維状部材を含む、<1>に記載の網。
<3> 前記複数の紐状部材の各々は、複数の繊維状部材を含み、
前記絡み部において、前記複数の紐状部材の各々における前記複数の繊維状部材同士が絡んでいる、
<1>又は<2>に記載の網。
<4> 前記複数の紐状部材が、紐状部材A及び紐状部材Bを含み、
前記紐状部材Aが、繊維状部材A1及び繊維状部材A2を含み、
前記紐状部材Bが、繊維状部材B1及び繊維状部材B2を含み、
絡み部は、前記紐状部材A及び前記紐状部材Bが熱融着されることなく結ばれることなく絡んでいる絡み部ABを含み、
前記絡み部ABにおいて、前記繊維状部材A1及び前記繊維状部材A2と、前記繊維状部材B1及び前記繊維状部材B2と、が絡んでおり、
前記絡み部ABを平面視した場合に、前記繊維状部材A1及び前記繊維状部材A2の各々が、前記繊維状部材B1と1回以上交差し、かつ、前記繊維状部材B2と1回以上交差する、
<1>~<3>のいずれか1つに記載の網。
<5> 前記樹脂が、ポリオレフィンである、<1>~<4>のいずれか1つに記載の網。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一実施形態によれば、熱融着していないにも関わらず格子の形状の安定性に優れ、かつ、紐状部材の破断が抑制された網が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示における90°折り曲げ時の戻り角の一例を示す概念図である。
【
図2】複数の紐状部材同士を結んで製造される網の一例(比較形態)を示す概念図である。
【
図5】本開示の網の更に別の一例である、シングル無結節網の例を示す概念図である。
【
図6】本開示の網の更に別の一例である、ダブル無結節網の例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に記載する構成要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されるものではない。
本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。本開示において含有成分量を示す「%」は、特に断らない限り質量基準である。
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において、組成物に含まれる各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0010】
〔網〕
本開示の網は、
複数の紐状部材が格子状に編まれてなる網であって、
複数の紐状部材の各々は、樹脂を含み、かつ、90°折り曲げ時の戻り角が30°以下であり、
上記網は、複数の紐状部材が熱融着されることなく結ばれることなく絡んでいる絡み部を含む。
【0011】
本開示の網は、熱融着していないにも関わらず格子の形状の安定性に優れ(即ち、格子の形状が崩れにくく)、かつ、紐状部材の破断が抑制されている。
【0012】
本開示の網による上記効果は、
網を構成する複数の紐状部材の各々が、90°折り曲げ時の戻り角が30°以下である性質(以下、「特定の形状保持性」ともいう)を有することと、
この特定の形状保持性を有する複数の紐状部材を、結ぶことなく絡ませることと、
の組み合わせによって得られる効果である。
即ち、特定の形状保持性を有する複数の紐状部材を、結ぶことなく絡ませることにより、紐状部材の破断を抑制しつつ、形成される格子の安定性を向上させることができる(即ち、格子の形状が保持されやすくなる)。
【0013】
従来、形状保持性を持たない複数の紐状部材を用いて網を製造(即ち、格子を形成)する場合、形状保持性を持たない複数の紐状部材同士を結んで網を製造することがあった。
図2に、複数の紐状部材同士を結んで製造される網の一例(比較例)を示す。このように複数の紐状部材同士を結んで製造される網は、一般に、「有結節網」、「蛙又網」等と称されている。
本発明者等の検討の結果、特定の形状保持性を有する複数の紐状部材を用いて網を形成する場合には、
図2のように複数の紐状部材同士を結んで網を製造すると、紐状部材が破断する場合があることが判明した。この理由は、複数の紐状部材同士を結んで網を製造した場合、紐状部材の曲げが大きくなりすぎ、紐状部材に無理な力が加わり、曲げに追従できない場合があるためと考えられる。
その一方で、特定の形状保持性を有する複数の紐状部材を、破断しない程度に緩く結んだだけでは、格子の形状を保持しにくく、格子の形状が崩れやすい(即ち、格子の形状の安定性が低い)ことも判明した。
これらの結果を踏まえ、本発明者等は、特定の形状保持性を有する複数の紐状部材を用いて網を製造する場合には、特定の形状保持性を有する複数の紐状部材を、結ぶことなく絡ませることにより、紐状部材の破断を抑制でき、かつ、格子の形状の安定性を向上させることができるとの知見を得た。
本開示の網は、上記の知見に基づく。
【0014】
<紐状部材>
本開示の網は、複数の紐状部材が格子状に編まれてなる網である。
以下、本開示の網を形成する紐状部材について説明する。
紐状部材については、例えば、特許第4056354号公報における熱可塑性樹脂製糸状物(A)の記載を適宜参照してもよい。
【0015】
紐状部材は、樹脂を含み、かつ、90°折り曲げ時の戻り角が30°以下である(即ち、特定の形状保持性を有する)。
ここで、特定の形状保持性の指標である90°折り曲げ時の戻り角とは、長さ20cmの紐状部材を
図1(a)で示すように90°に曲げた後、5分間放置したときにスプリングバックする角度、すなわち
図1(b)で示す角度θをいう。
【0016】
紐状部材において、上記戻り角が30°以下であることにより、変形後にその形状を保持する形状保持性が確保される。
かかる特定の形状保持性を有する複数の紐状部材を、熱融着することなく結ぶことなく絡ませて絡み部を形成しながら、格子状に編むことにより、格子の形状の安定性に優れ(即ち、格子の形状が崩れにくく)、かつ、紐状部材の破断が抑制された、本開示の網が得られる。
【0017】
上記戻り角は、好ましくは20°以下、より好ましくは10°以下である。
上記戻り角は、0°であってもよいし0°超であってもよい(即ち、0°以上である)。
【0018】
紐状部材は、樹脂を含有する。
紐状部材は、好ましくは、樹脂を主成分として含有する。
ここで、樹脂を主成分として含有するとは、含有量(質量%)が最も多い成分が樹脂であることを意味する。
紐状部材における樹脂の含有量は、紐状部材の全量に対し、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは80質量%以上である。
【0019】
紐状部材は、樹脂以外の成分を含有してもよい。
樹脂以外の成分としては、例えば、加工助剤、着色顔料、帯電防止剤、無機充填剤、難燃剤、等が挙げられる。
【0020】
紐状部材に含有される樹脂としては、
熱可塑性樹脂が好ましく、
ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド、又はポリフェニレンオキサイドがより好ましく、
ポリオレフィンが更に好ましく、
ポリエチレンが更に好ましく、
高密度ポリエチレンが更に好ましい。
紐状部材に含有される樹脂は、1種のみであってもよいし2種以上であってもよい。
【0021】
以下、紐状部材に含まれ得る高密度ポリエチレンの好ましい態様ついて説明する。
高密度ポリエチレンの密度は、好ましくは940kg/m3以上、より好ましくは950kg/m3~970kg/m3、更に好ましくは955kg/m3~970kg/m3である。
高密度ポリエチレンとしては、エチレンの単独重合体であってもよいし、エチレンとα-オレフィン(例えば炭素数3~6のα-オレフィン、好ましくは、プロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリ-4-メチル-1-ペンテン、更に好ましくはプロピレン)との共重合体であってもよい。紐状部材への成形加工性の観点から、エチレンとα-オレフィンとの共重合体が好ましい。
高密度ポリエチレンの、190℃、2160g荷重に基づくメルトフローレートは、好ましくは0.1g/10分~1.0g/10分、より好ましくは0.2g/10分~0.5g/10分である。
高密度ポリエチレンは、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)に基づく分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))が、好ましくは5~20、より好ましくは6~15である。
高密度ポリエチレンは、例えば、中低圧法において、触媒、重合温度、及び分子量調節剤の各々の使用量等の重合条件を適宜選択することによって1段階で製造するか、又は、条件を異にして各段で分子量の異なる重合体を多段階で製造することによって得ることができる。
【0022】
以下、紐状部材の好ましい態様について説明する。
以下の紐状部材の好ましい態様は、後述する繊維状部材の好ましい態様でもある。
【0023】
紐状部材の断面形状に制限はない。
本開示において、紐状部材の断面形状は、紐状部材の長さ方向に対して垂直な断面の形状を意味する。
紐状部材の断面形状としては、楕円形状(注:円形状を包含する)、平板形状、多角形状(例えば、三角形状、四角形状、五角形状、六角形状、等)、異形状(例えば、星形状、歯車形状、等)等が挙げられる。
多角形は、正多角形であってもよいし、扁平の多角形であってもよい。
【0024】
紐状部材の断面形状は、格子の形状の安定性の効果及び/又は紐状部材の破断抑制の効果をより効果的に得る観点から、楕円形状又は多角形状が好ましく、楕円形状がより好ましく、略円形状が更に好ましい。
ここで、略円形状とは、アスペクト比〔長軸径/短軸径〕が1.0~1.5である楕円形状を意味する。なお、アスペクト比が1.0である場合は円形状である。
【0025】
紐状部材は、溶融押出成形後に延伸されて得られた部材であることが好ましく、溶融押出成形後に、5倍~20倍(更に好ましくは7倍~15倍)の延伸倍率にて延伸されて得られた部材であることがより好ましい。
【0026】
紐状部材は、例えば、溶融押出成形によって紐状成形体を製造し、得られた紐状成形体を、100℃以下(好ましくは(85℃~100℃)の温度で、延伸することによって製造され得る。
延伸後、必要に応じ、例えば150℃以下(好ましくは120℃~140℃)のアニールが施されてもよい。
【0027】
紐状成形体を得るための溶融押出成形については、例えば、特開昭34-4185号公報、特開平2-293407号公報、特開平3-124573号公報、特開平7-238417号公報、特開平10-264961号公報等の公知文献を適宜参照できる。
【0028】
紐状部材の太さは、好ましくは0.1mm~10mm、より好ましくは0.2mm~5mmである。
ここで、紐状部材の太さは、紐状部材の断面形状の外接楕円の長軸径を意味する。
【0029】
紐状部材は、樹脂を含有する繊維状部材を含むことが好ましい。
この場合の紐状部材としては、例えば、樹脂を含有する一本の繊維状部材(即ち、モノフィラメント)及び複数の繊維状部材の束(即ち、マルチフィラメント)が挙げられる。紐状部材がマルチフィラメントである場合、複数の繊維状部材のうちの少なくとも1本に樹脂が含有されていればよい。
ここで、「紐状部材」は、網の格子を形成する部材を指し、「繊維状部材」は、紐状部材を形成する一本以上の部材を指す。
紐状部材がモノフィラメントである態様は、紐状部材及び網の製造工程が簡易であるという利点を有する。
紐状部材がマルチフィラメントである態様は、紐状部材が、曲げに対する追従性に優れるという利点を有する。
紐状部材がマルチフィラメントである態様において、複数の繊維状部材の各々の好ましい態様は、上述した紐状部材の好ましい態様と同様である。
マルチフィラメントである態様の紐状部材は、上述した紐状部材の好ましい特徴を備える複数の繊維状部材を束にする(好ましくは撚り合わせる)ことによって、製造してもよい。
【0030】
また、紐状部材は、単一素材からなる部材であってもよいし、複数の素材からなる部材であってもよい。
単一素材からなる紐状部材としては、単一素材からなる一本の繊維状部材(即ち、モノフィラメント)及び同一の素材からなる複数の繊維状部材の束(即ち、マルチフィラメント)が挙げられる。
複数の素材からなる紐状部材としては、例えば、複数の素材からなる一本の繊維状部材及び異なる素材からなる複数の繊維状部材の束が挙げられる。
異なる素材からなる複数の繊維状部材の束としては、例えば、
樹脂を含有する繊維状部材と樹脂を含有しない繊維状部材(例えば、ステンレス糸などの金属糸)とからなる束、
異なる樹脂を含有する複数の繊維状部材からなる束、
等が挙げられる。
【0031】
紐状部材は、前述した高密度ポリエチレンを含有する繊維状部材を含むことが好ましい。
この場合、紐状部材は、高密度ポリエチレンを含有する繊維状部材以外の他の部材を含んでいてもよい。
他の部材としては、汎用繊維(ナイロン、ポリエステル、再生ポリエステル、ポリエチレン、再生ポリエチレン、マルチフィラメント糸)、スーパー繊維、金属糸(例えばステンレス糸)、等が挙げられる。
【0032】
<絡み部>
本開示の網は、複数の上記紐状部材が熱融着されることなく結ばれることなく絡んでいる絡み部を含む。
【0033】
本開示において、「結ばれることなく」とは、結び目を形成することなく、という意味である。
本開示において、結び目とは、紐状部材を曲げて形成される輪を意味する。
本開示において、結び目(即ち、輪)が形成されているか否かは、紐状部材の曲げ部から見た一方の側と他方の側とが、接触しているかどうかで判別する。紐状部材の曲げ部から見た一方の側と他方の側とが接触している場合には、結び目が形成されている(即ち、結ばれている)ことを意味し、接触していない場合には、結び目が形成されていないことを意味する。
【0034】
例えば、
図2に示す比較形態に係る網において、
図2では、4つの結び目が図示されている。結び目の一つに注目すると、組み合わされた2本の紐状部材の各々において、曲げ部からみた一方の側と他方の側とが接触していることがわかる(
図2中、接触部C1参照)。
これに対し、後述する
図3に示す実施形態に係る網では、4つの絡み部12(即ち、撚り部)において、各紐状部材は、らせん状に曲げられているにすぎず、輪を形成していない(即ち、曲げ部からみた一方の側と他方の側とが接触していない)。
また、後述する
図4に示す実施形態に係る網は、紐状部材が、2本の繊維状部材を撚り合わせた部材である例である。
図4中の紐状部材(2本の繊維状部材を撚り合わせた部材)も、輪を形成していない。
【0035】
絡み部は、複数の紐状部材が撚られた撚り部であってもよい。
ここで、撚るとは、複数の紐状部材をねじって組み合わせることを意味する。
撚り部である絡み部の構造は、らせん状の複数の紐状部材が組み合わされた構造となっている。
絡み部が撚り部である態様は、製造が容易(即ち、絡み部の形成が容易)であるという利点を有する。
【0036】
図3は、本開示の網の一例を示す概念図である。
この一例に係る網10は、撚り部である絡み部を含む態様の実施形態である。
図3に示されるように、網10は、複数の紐状部材11が格子状に編まれてなる網である。網10は、複数の紐状部材11が撚られた撚り部12を含む。
【0037】
本開示の網の好ましい態様として、網を構成する複数の紐状部材の各々が、複数の繊維状部材を含み(例えば、複数の繊維状部材が撚られてなる部材であり)、絡み部において、複数の紐状部材の各々における複数の繊維状部材同士が絡んでいる態様も挙げられる。
この態様は、以下の利点を有する。
・絡み部の強度により優れる。
・絡み部の交差ズレを抑制できる。
・網の一部が破損した場合であっても絡み部が解けにくい。
【0038】
図4は、本開示の網の別の一例を示す概念図である。
図4に示されるように、この一例に係る網20は、複数の紐状部材21が格子状に編まれてなる網である。複数の紐状部材21の各々は、樹脂を含む複数の繊維状部材21A及び21Bが撚られてなる。
網20における絡み部22では、複数の紐状部材21の各々における複数の繊維状部材21A及び21B同士が絡んでいる。詳細には、絡み部22では、一つの紐状部材21における複数の繊維状部材21A及び21Bと、別の紐状部材21における複数の繊維状部材21A及び21Bと、が絡んでいる。
【0039】
本開示では、
図4に示す一例のように、複数の紐状部材の各々における複数の繊維状部材同士が絡んだ絡み部を含む網を、「無結節網」と称する。
【0040】
無結節網である場合の本開示の網の好ましい態様は、
複数の紐状部材が、紐状部材A及び紐状部材Bを含み、
紐状部材Aが、繊維状部材A1及び繊維状部材A2を含み、
紐状部材Bが、繊維状部材B1及び繊維状部材B2を含み、
絡み部は、紐状部材A及び紐状部材Bが熱融着されることなく結ばれることなく絡んでいる絡み部ABを含み、
絡み部ABにおいて、繊維状部材A1及び繊維状部材A2と、繊維状部材B1及び繊維状部材B2と、が絡んでおり、
絡み部ABを平面視した場合に、繊維状部材A1及び繊維状部材A2の各々が、繊維状部材B1及び繊維状部材B2の各々に対し、1回以上交差する
態様である。
【0041】
上記好ましい態様において、繊維状部材A1及び繊維状部材A2の各々は、繊維状部材B1及び繊維状部材B2の各々に対し、2回以上交差することが好ましい。
これにより、絡み部の交差ズレをより効果的に抑制でき、かつ、網の一部が破損した場合であっても絡み部がより解けにくい。
【0042】
以下、上記好ましい態様において、繊維状部材A1及び繊維状部材A2の各々が、繊維状部材B1及び繊維状部材B2の各々に対し、1回交差する態様を、本開示では、「シングル無結節網」と称することがあり、繊維状部材A1及び繊維状部材A2の各々が、繊維状部材B1及び繊維状部材B2の各々に対し、2回交差する態様を、本開示では、「ダブル無結節網」と称することがある。
【0043】
図5は、本開示の網がシングル無結節網である場合の一例を示す概念図である。
図5に示されるように、この一例に係る網30は、紐状部材Aとしての紐状部材30A及び紐状部材Bとしての紐状部材30Bを含む。
紐状部材30Aは、繊維状部材A1としての繊維状部材30A1及び繊維状部材A2としての繊維状部材30A2が撚られてなる部材である。
紐状部材30Bは、繊維状部材B1としての繊維状部材30B1及び繊維状部材B2としての繊維状部材30B2が撚られてなる部材である。
網30は、紐状部材30A及び紐状部材30Bが熱融着されることなく結ばれることなく絡んでいる、絡み部ABとしての絡み部30ABを含む。
絡み部30ABでは、繊維状部材30A1及び繊維状部材30A2と、繊維状部材30B1及び繊維状部材30B2と、が絡んでいる。
絡み部30ABを平面視した場合、繊維状部材30A1及び繊維状部材30A2の各々が、繊維状部材30B1及び繊維状部材30B2の各々に対し、1回ずつ交差している。 詳細には、繊維状部材30A1は、繊維状部材30B1及び繊維状部材30B2の各々に対し、1回ずつ交差している。
繊維状部材30A2は、繊維状部材30B1及び繊維状部材30B2の各々に対し、1回ずつ交差している。
【0044】
図6は、本開示の網がダブル無結節網である場合の一例を示す概念図である。
図6に示されるように、この一例に係る網40は、紐状部材Aとしての紐状部材40A及び紐状部材Bとしての紐状部材40Bを含む。
紐状部材40Aは、繊維状部材A1としての繊維状部材40A1及び繊維状部材A2としての繊維状部材40A2を含む。
紐状部材40Bは、繊維状部材B1としての繊維状部材40B1及び繊維状部材B2としての繊維状部材40B2を含む。
網40は、紐状部材40A及び紐状部材40Bが熱融着されることなく結ばれることなく絡んでいる、絡み部ABとしての絡み部40ABを含む。
絡み部40ABでは、繊維状部材40A1及び繊維状部材40A2と、繊維状部材40B1及び繊維状部材40B2と、が絡んでいる。
絡み部40ABを平面視した場合、繊維状部材40A1及び繊維状部材40A2の各々が、繊維状部材40B1及び繊維状部材40B2の各々に対し、2回ずつ交差している。 詳細には、繊維状部材40A1は、繊維状部材40B1及び繊維状部材40B2の各々に対し、2回ずつ交差している。
繊維状部材40A2は、繊維状部材40B1及び繊維状部材40B2の各々に対し、2回ずつ交差している。
【0045】
<格子の形状等>
本開示の網における格子の形状は、
図3及び
図4における一例中の格子の形状である四角形には限定されず、紐状部材によって画定される形状であれば、どのような形状であってもよい。
格子の形状としては、四角形(例えば、長方形(注:正方形の概念を含む)、平行四辺形(例えばひし形)、台形、等)、四角形以外の多角形(例えば六角形)、楕円形状(円形状)、異形状、等が挙げられる。
【0046】
格子の一辺の長さは、好ましくは1mm~1000mm、より好ましくは5mm~500mm、更に好ましくは10mm~300mmである。
【0047】
<用途>
本開示の網の用途には特に制限はない。
本開示の網は、医療、衛生、衣類、漁業、農業、建設、土木、スポーツ等、あらゆる分野において使用可能である。
より具体的な用途としては、例えば、落石ネット、ダムの放水口手前に設置するネット、動物用保護ネット、防獣ネット、農業用柵、等が挙げられる。
【0048】
以上で説明した本開示の網は、特定の形状保持性(即ち、90°折り曲げ時の戻り角が30°以下である性質)を有する複数の紐状部材を用いて製造される。
このため、本開示の網自体も、形状保持性を有し得る。
即ち、本開示の網は、形状保持性を有する網として利用され得る。この場合、本開示の網の一部を切断して他の網と絡めて使用することもできる。
【0049】
本開示の網は、樹脂を含む紐状部材を用いて製造されるので、金属製の網と比較して、軽量である、ヒートシール可能である、といった利点も有する。
【実施例0050】
以下、本開示の実施例を示すが、本開示は以下の実施例には限定されない。
【0051】
〔比較例1〕
<紐状部材X1の製造>
特許第3810698号の段落0020(実施例1)を参考にして、平板形状である紐状部材X1を複数製造した。
詳細を以下に示す。
下記条件にて溶融紡糸及び延伸を行い、紐状部材X1を得た。
【0052】
-溶融紡糸及び延伸の条件(平板形状)-
押出機:30mmφ(L/D=28、圧縮比2.3)
ダイ開口:30mm×3.6mm
成形温度(シリンダー及びダイ):290℃
冷却槽:1400mm
引取り速度:4m/分
延伸槽:95℃水槽(長さ1700mm)
アニール槽:140℃電熱オーブン(長さ2000mm)
巻取り速度:52m/分
延伸倍率:16倍
【0053】
得られた紐状部材X1の形状は、幅4.0mm、厚さ0.64mmの長尺平板形状であった。
紐状部材X1は、特定の形状保持性(即ち、90°折り曲げ時の戻り角が30°以下である性質)を有することを確認した。
【0054】
<網の製造>
複数の紐状部材X1を用い、複数の紐状部材X1同士を結んで網を製造した。
その結果、紐状部材X1が破断し、網を製造できなかった。
次に、紐状部材X1が破断しない程度の弱い力で複数の紐状部材X1同士を結んで網を製造した。
その結果、結び目での締まりが弱く、格子の形状が安定しなかった。
図7に、比較例1で製造した網の写真を示す。
【0055】
〔比較例2〕
<紐状部材X2の製造>
特許第3810698号の段落0027(実施例6)を参考にして、断面形状が略円形状である紐状部材X2を複数製造した。
詳細を以下に示す。
【0056】
-溶融紡糸及び延伸の条件(断面形状が略円形状)-
押出機:30mmφ(L/D=28、圧縮比2.3)
ダイ開口:3.5mmφ
成形温度(シリンダー及びダイ):290℃
冷却槽:1400mm
引取り速度:2.6m/分
延伸槽:95℃水槽
巻取り速度:39m/分
延伸倍率:12倍
【0057】
得られた紐状部材X2の断面形状は、長軸径1.2mm、アスペクト比〔長軸径/短軸径〕1.1の略円形状であった。
紐状部材X2は、特定の形状保持性(即ち、90°折り曲げ時の戻り角が30°以下である性質)を有することを確認した。
【0058】
<網の製造>
紐状部材X1を紐状部材X2に変更したこと以外は比較例1と同様にして網を形成した。
その結果、比較例1と同様に、紐状部材が切れるか、又は、格子の形状が安定しなかった。
【0059】
〔実施例1〕
比較例2で製造した紐状部材X2を2本撚り合わせ、マルチフィラメントである紐状部材Aを形成した。
同様に、比較例2で製造した紐状部材X2を2本撚り合わせ、マルチフィラメントである紐状部材Bを形成した。
これらの紐状部材A及びBを用い、前述したダブル無結節網(
図6参照)を製造した。
ダブル無結節網における格子の一辺は、50mmとした。
図8に、実施例1で製造した網の写真を示す。
実施例1では、紐状部材A1及びを破断させずに、格子の形状の安定性に優れた網を製造することができた。