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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062754
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】触覚提示装置、及び、触覚提示方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/01 20060101AFI20240501BHJP
   G05B 11/36 20060101ALI20240501BHJP
   G05B 13/04 20060101ALI20240501BHJP
   G05B 11/32 20060101ALI20240501BHJP
   B06B 1/04 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
G06F3/01 560
G05B11/36 501C
G05B13/04
G05B11/32 F
B06B1/04 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170814
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】涌田 宏
【テーマコード(参考)】
5D107
5E555
5H004
【Fターム(参考)】
5D107AA01
5D107BB08
5D107CD02
5D107DD03
5D107DE01
5E555AA08
5E555AA76
5E555BA05
5E555BA06
5E555BA20
5E555BA23
5E555BA32
5E555BB05
5E555BB06
5E555BB20
5E555BB23
5E555BB32
5E555BC01
5E555DA24
5E555DD06
5E555EA09
5E555FA00
5H004GA09
5H004GB16
5H004GB20
5H004KB32
5H004LA11
5H004LA13
(57)【要約】
【課題】アクチュエータを含む振動系が複数の共振周波数を有する場合に、良好な触覚を提示可能な触覚提示装置を提供する。
【解決手段】触覚提示装置(100)は、入力信号に応じて振動するアクチュエータ(140)と、前記アクチュエータに接続され、前記アクチュエータの振動に応じて加振される加振対象(130)と、前記アクチュエータの駆動制御を行うコントローラ(150)とを備え、前記アクチュエータと前記加振対象とを含む振動系は、複数の共振周波数を有し、前記コントローラは、前記複数の共振周波数に基づいて予め生成された補正モデル(152)を用いて、入力される駆動信号を補正して前記入力信号として前記アクチュエータに出力する、又は、前記補正モデルを用いて予め生成された信号を前記入力信号として前記アクチュエータに出力する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号に応じて振動するアクチュエータと、
前記アクチュエータに接続され、前記アクチュエータの振動に応じて加振される加振対象と、
前記アクチュエータの駆動制御を行うコントローラと
を備え、
前記アクチュエータと前記加振対象とを含む振動系は、複数の共振周波数を有し、
前記コントローラは、前記複数の共振周波数に基づいて予め生成された補正モデルを用いて、駆動信号を補正して前記入力信号として前記アクチュエータに出力する、又は、前記補正モデルを用いて予め生成された信号を前記入力信号として前記アクチュエータに出力する、触覚提示装置。
【請求項2】
前記補正モデルは、前記入力信号を入力とし、前記加振対象の応答特性を出力とする伝達関数に対する逆伝達関数に基づくモデルである、請求項1に記載の触覚提示装置。
【請求項3】
前記補正モデルは、前記逆伝達関数に含まれる不安定極を安定極に置換した疑似的な逆伝達関数に基づくモデル、又は、前記伝達関数に含まれる不安定零点を安定零点に置換した疑似的な伝達関数に対する逆伝達関数に基づくモデルである、請求項2に記載の触覚提示装置。
【請求項4】
前記安定極は、前記不安定極の実部の正負を反転したものであり、
前記安定零点は、前記不安定零点の実部の正負を反転したものである、請求項3に記載の触覚提示装置。
【請求項5】
前記補正モデルは、前記複数の共振周波数による前記応答特性への影響を低減する補正モデルである、請求項1に記載の触覚提示装置。
【請求項6】
前記補正モデルは、第1周波数以下のゲインの上限値を設定するフィルタを含む、又は、前記第1周波数以下のゲインの上限値を設定するフィルタによって制限された補正モデルである、請求項1に記載の触覚提示装置。
【請求項7】
前記第1周波数は、30Hz以上100Hz以下である、請求項6に記載の触覚提示装置。
【請求項8】
前記ゲインの上限値は、20dB以上30dB以下である、請求項6に記載の触覚提示装置。
【請求項9】
前記補正モデルは、第2周波数をカットオフ周波数とするローパスフィルタを含む、又は、前記第2周波数をカットオフ周波数とするローパスフィルタによって制限された補正モデルである、請求項1に記載の触覚提示装置。
【請求項10】
前記第2周波数は、500Hz以上1kHz以下である、請求項9に記載の触覚提示装置。
【請求項11】
前記加振対象に接続された固定部をさらに備え、
前記複数の共振周波数は、前記アクチュエータと前記加振対象とを含む第1振動系の共振周波数と、前記加振対象と前記固定部とを含む第2振動系の共振周波数とを含む、請求項1に記載の触覚提示装置。
【請求項12】
前記加振対象は、複数の操作位置を有する操作面を含み、
前記コントローラは、前記複数の操作位置それぞれに応じた複数の補正モデルのうち、前記複数の操作位置のうちの操作が行われた操作位置に対応する補正モデルを選択して用いる、請求項1に記載の触覚提示装置。
【請求項13】
アクチュエータと、前記アクチュエータの振動に応じて加振される加振対象とを備え、前記アクチュエータと前記加振対象とを含む振動系が複数の共振周波数を有する装置を制御する方法であって、
前記複数の共振周波数に基づいて予め生成された補正モデルを用いて、駆動信号を補正して前記アクチュエータに出力する、又は、前記補正モデルを用いて予め生成された信号を前記入力信号として前記アクチュエータに出力する、触覚提示方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、触覚提示装置、及び、触覚提示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、触覚アクチュエータと、運動センサと、制御回路と、を有する触覚操作可能デバイスがある。制御回路は、触覚効果のための所望の動きと、触覚アクチュエータの過渡的挙動を表すモデルとに基づいて、触覚アクチュエータの駆動信号を決定する。制御回路は、触覚アクチュエータに適用されている駆動信号に基づいて触覚アクチュエータによって出力される動きをさらに測定する。制御回路は、測定された動きと所望の動きとの差を示す運動誤差を決定し、運動誤差に基づいて駆動信号を調整して、調整された駆動信号を生成する。調整された駆動信号は触覚アクチュエータに適用され、触覚効果を生成する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-077415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、アクチュエータを含む振動系が複数の共振周波数を有する場合には、各共振周波数の振動の影響が生じるため、良好な触覚を提示することは容易ではない。しかしながら、従来の触覚操作可能デバイスにおいては、アクチュエータを含む振動系が複数の共振周波数を有する場合については十分に考慮されていない。
【0005】
そこで、アクチュエータを含む振動系が複数の共振周波数を有する場合に、良好な触覚を提示可能な触覚提示装置、及び、触覚提示方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の実施形態の触覚提示装置は、入力信号に応じて振動するアクチュエータと、前記アクチュエータに接続され、前記アクチュエータの振動に応じて加振される加振対象と、前記アクチュエータの駆動制御を行うコントローラとを備え、前記アクチュエータと前記加振対象とを含む振動系は、複数の共振周波数を有し、前記コントローラは、前記複数の共振周波数に基づいて予め生成された補正モデルを用いて、入力される駆動信号を補正して前記入力信号として前記アクチュエータに出力する、又は、前記補正モデルを用いて予め生成された信号を前記入力信号として前記アクチュエータに出力する。
【0007】
本開示の実施形態の触覚提示方法は、アクチュエータと、前記アクチュエータの振動に応じて加振される加振対象とを備え、前記アクチュエータと前記加振対象とを含む振動系が複数の共振周波数を有する装置を制御する方法であって、前記複数の共振周波数に基づいて予め生成された補正モデルを用いて、駆動信号を補正して前記アクチュエータに出力する、又は、前記補正モデルを用いて予め生成された信号を前記入力信号として前記アクチュエータに出力する。
【発明の効果】
【0008】
アクチュエータを含む振動系が複数の共振周波数を有する場合に、良好な触覚を提示可能な触覚提示装置、及び、触覚提示方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の触覚提示装置の構成の一例を示す図である。
図2A】触覚提示装置の機械系の構成をバネとダンパーで等価的に表したシミュレーションモデルを示す図である。
図2B】触覚提示装置の機械系の現実の構成例をバネとダンパーで等価的に表した図である。
図3】理想的な触覚提示装置と現実の触覚提示装置におけるゲインと位相の周波数特性の一例を示す図である。
図4】アクチュエータ単独と触覚提示装置とにおける振動の加速度の周波数特性の一例を示す図である。
図5】疑似逆伝達関数を構成するための方法を説明する図である。
図6】人体の手の表面にあるパチニ小体で感じ取ることができる変位の最小値の周波数特性(実線)と、パチニ小体で感じ取ることができる加速度の最小値の周波数特性(破線)とを示す図である。
図7】触覚提示装置の構成の一例を示すブロック図である。
図8A】触覚提示装置の疑似逆伝達関数から求まる疑似逆フィルタ特性の一例を示す図である。
図8B】疑似逆フィルタの疑似逆フィルタ特性の一例を示す図である。
図9】触覚提示装置のアクチュエータが振動を開始した直後におけるパネルの振動の一例を示す図である。
図10】安定化対象のシステムのゲインと位相の一例を示す図である。
図11A】理想的な触覚提示装置の出力のゲイン及び位相の周波数特性を示す図である。
図11B】上記理想的な触覚提示装置に入力する駆動信号(上側)と上記理想的な触覚提示装置が発生する振動の加速度(下側)との時間変化の様子を示す図である
図11C】実施形態の触覚提示装置のアクチュエータが振動を開始した直後におけるパネルの振動の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の触覚提示装置、及び、触覚提示方法を適用した実施形態について説明する。
【0011】
以下では、XYZ座標系を定義して説明する。X軸に平行な方向(X方向)、Y軸に平行な方向(Y方向)、Z軸に平行な方向(Z方向)は、互いに直交する。また、以下では、説明の便宜上、-Z方向側を下側又は下、+Z方向側を上側又は上と称す場合があるが、普遍的な上下関係を表すものではない。また、平面視とはXY面視することをいう。
【0012】
また、以下では構成が分かりやすくなるように各部の長さ、太さ、厚さ等を誇張して示す場合がある。また、平行、上下等の文言は、実施形態の効果を損なわない程度のずれを許容するものとする。
【0013】
<実施形態>
図1は、実施形態の触覚提示装置100の構成の一例を示す図である。触覚提示装置100は、固定部110、弾性部材120、パネル130、アクチュエータ140、及び、コントローラ150を含む。
【0014】
パネル130は、加振対象の一例である。アクチュエータ140とパネル130とを含む振動系は、第1振動系の一例である。パネル130と固定部110とを含む振動系は、第2振動系の一例である。触覚提示装置100全体の振動系は、アクチュエータ140とパネル130とを含む振動系(第1振動系の一例)と、パネル130と固定部110とを含む振動系(第2振動系の一例)とを含む。アクチュエータ140とパネル130とを含む振動系(第1振動系の一例)と、パネル130と固定部110とを含む振動系(第2振動系の一例)とでは共振周波数が異なる。すなわち、触覚提示装置100全体の振動系は、少なくとも2つの共振周波数を有する。
【0015】
触覚提示装置100は、個人で利用するタブレットコンピュータ、スマートフォン、ゲーム機等の電子機器に搭載されていて、電子機器の操作部に設けられていてもよい。また、触覚提示装置100は、車両、電車、又は航空機等の移動体に搭載される電子機器の操作部に設けられていてもよい。また、触覚提示装置100は、例えば、店舗や施設等に配置され不特定多数の利用者が利用するタブレット型の入力装置やATM(Automatic Teller Machine)等の電子機器の入力部に設けられてもよい。
【0016】
固定部110は、触覚提示装置100が設けられる電子機器に固定される部分である。固定部110には、弾性部材120を介してパネル130が取り付けられている。また、固定部110にはアクチュエータ140が取り付けられていてもよい。
【0017】
弾性部材120は、固定部110に対してパネル130を弾性的に保持する部材であり、ゴム等の弾性を有する部材を含む。弾性部材120は、固定部110とパネル130との間で振動を緩和する懸架装置であってもよい。
【0018】
パネル130は、一例として、操作者からの接触操作を受け付ける部分であり、上面は操作面130Aである。図1には、操作面130Aにおける操作位置A~Dを示す。パネル130は、タッチパネルと一体的に構成されていてもよい。操作面130Aは、例えば樹脂製又はガラス製の板状部材の上面である。
【0019】
アクチュエータ140は、固定部110に固定される下端と、パネル130の下面に接着等で固定される上端とを有する。アクチュエータ140は、一例として、LRA(Linear Resonant Actuator)であるが、LRA以外の振動蓄積型の振動素子であってもよい。また、アクチュエータ140は、振動蓄積型ではない、ボイスコイルモータ等の直動アクチュエータであってもよい。すなわち、第1振動系は共振周波数を持たず、第2振動系が異なる複数の共振周波数を持っていてもよい。アクチュエータ140は、コントローラ150によって駆動制御が行われ、パネル130を振動させる。アクチュエータ140は、固定部110に固定されていなくてもよく、その場合、パネル130の下面に懸架され得る。
【0020】
コントローラ150は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、入出力インターフェース、及び内部バス等を含むコンピュータによって実現される。一例として、コントローラ150は、MCU(Micro Controller Unit)で構成される。コントローラ150は、アクチュエータ140の駆動制御を行う。パネル130がタッチパネルを含む場合には、コントローラ150は、例えば、タッチパネルの検出結果に応じてアクチュエータ140の駆動制御を行うことが可能であり、操作面130Aにおける操作位置A~Dのいずれの操作位置に対して操作が行われたかに応じて、アクチュエータ140の駆動制御を行うことが可能である。
【0021】
図2Aは、図1に示した触覚提示装置100の機械系の構成をバネとダンパーで等価的に表したシミュレーションモデルを示す図である。
【0022】
図2Aに示すシミュレーションモデルでは、パネルが固定部に対してバネK1とダンパーC1で結合されており、パネルにはバネK2とダンパーC2を介してアクチュエータが結合されている。バネK1及びK2は、それぞれ、ばね定数がK1及びK2のバネである。ダンパーC1及びC2は、それぞれ、減衰率がC1及びC2のダンパーである。パネル及びアクチュエータはそれぞれ質量m1及びm2を有する。図2Aに示すシミュレーションモデルは、アクチュエータとパネルとを含む第1振動系の共振周波数と、パネルと固定部とを含む第2振動系の共振周波数との2つの共振周波数を有する。
【0023】
図2Bは、図1に示した触覚提示装置100の機械系の現実の構成例をバネとダンパーで等価的に表した図である。図2Bに示す現実の構成例は、図2Aに示すシミュレーションモデルのように簡易化したものではなく、より現実的な構成にしたものである。ただし、現実には、触覚提示装置100は、図2Bに示す現実の構成例よりも、さらに複雑な構成であり得る。
【0024】
図2Bに示す現実の構成例では、パネルが固定部に対してバネK1とダンパーC1で結合されており、パネルにはバネK2とダンパーC2を介してアクチュエータが結合されている。また、アクチュエータには部材AがバネK3とダンパーC3を介して結合されており、部材AはバネK4とダンパーC4を介して固定部に結合されている。バネK1~K4は、それぞれ、ばね定数がK1~K4のバネである。ダンパーC1~C4は、それぞれ、減衰率がC1~C4のダンパーである。図2Bに示す構成例では、バネK1~K4、ダンパーC1~C4、パネル(質量m1')、アクチュエータ(質量m2')、及び部材A(質量m3)を含む振動系において、複数の共振が生じるため、パネルに生じる振動は、3つ以上の共振周波数を有することになる。触覚提示装置100は、共振周波数の数がさらに多いさらに複雑な構成例で説明することも可能である。ここで、部材Aは、触覚提示装置100の構成要素の1つであり、固定部110、弾性部材120、パネル130、又はアクチュエータ140の一部であってもよい。すなわち、触覚提示装置100の構成要素のうち、弾性部材120以外の各構成要素も、粘弾性を有し得る。
【0025】
<理想的な触覚提示装置と現実の触覚提示装置におけるゲインと位相の周波数特性>
図3は、理想的な触覚提示装置と現実の触覚提示装置におけるゲインと位相の周波数特性の一例を示す図である。理想的な触覚提示装置とは、図3に示す理想的な特性を有する触覚提示装置である。また、以下では、特に断らない限り、現実の触覚提示装置としては、図2Aに示すシミュレーションモデルを用いる。図3の上側には加速度のゲインの周波数特性を示し、図3の下側には理想的な触覚提示装置と現実の触覚提示装置における位相の周波数特性を示す。また、図3において、理想的な触覚提示装置の特性を破線で示し、現実の触覚提示装置の特性を実線で示す。ここでの現実の触覚提示装置の特性は、図2Aに示すシミュレーションモデルによって実現され得る。図3は、アクチュエータ140に入力される駆動信号が周波数に依らず一定である場合の特性を示す。
【0026】
図3の上側に破線で示すように、理想的な触覚提示装置の加速度は、周波数の変化に対して滑らかに変化する特性を有する。一方、図3の上側に実線で示すように、現実の触覚提示装置の加速度は、複数(図3では一例として2つ)の周波数においてピークを有する。すなわち、現実の触覚提示装置では複数の共振周波数が存在する。
【0027】
また、図3の下側に破線で示すように、理想的な触覚提示装置の位相は、周波数の変化に対して滑らかに変化する特性を有する。一方、図3の下側に実線で示すように、現実の触覚提示装置の位相は、共振周波数付近で大きく変動する。
【0028】
<逆フィルタ>
現実の触覚提示装置の加速度の周波数特性を理想的な加速度の周波数特性に補正するには、図3に示す現実の触覚提示装置の加速度の周波数特性の逆特性を有する逆フィルタを用いることができる。これにより、逆フィルタの出力をフラットな特性にすることができる。また、図3に示す現実の触覚提示装置の位相の周波数特性の逆特性を有する逆フィルタを用いることで、位相についても逆フィルタの出力をフラットな特性にできる。
【0029】
しかしながら、図3に示す現実の触覚提示装置の加速度の周波数特性は、低周波数側のゲインが非常に低いため、逆特性は、周波数が低い側において、無限に大きなゲインが必要になる。このように低周波数側において無限に大きなゲインを有する逆フィルタは、実現が困難であるという問題がある。
【0030】
<現実の触覚提示装置の伝達関数>
図4は、アクチュエータ140単独と触覚提示装置100とにおける振動の加速度の周波数特性の一例を示す図である。触覚提示装置100は、図2Aに示すシミュレーションモデルのような構成ではなく、図2Bに示すように、より複雑な機械系の構成を有する。図4では、アクチュエータ140単独の振動の加速度の周波数特性を破線で示し、触覚提示装置100のパネル130の振動の加速度の周波数特性を実線で示す。
【0031】
図4に示す例では、アクチュエータ140単独の振動の加速度は、共振周波数である約120Hzにピークを取り、共振周波数よりも周波数が低い側と高い側では滑らかに低下する特性を有する。これに対して、図4に示すように、パネル130は、現実には複数の共振周波数を持つことがあり、触覚提示装置100のパネル130の振動の加速度は、10個以上の共振周波数それぞれにピークを有する複雑な特性を有する。
【0032】
このような触覚提示装置100において得られる、アクチュエータ140に入力される駆動信号を入力として、パネル130の振動を出力とした場合の伝達関数は、一例として、次式(1)で表されるように、分母及び分子ともに複数の項を乗じた形の関数になる。
【数1】
【0033】
ここで、式(1)で示したような一般化された伝達関数の逆伝達関数を導出することを考えて、図5の様な形式をもつ伝達関数を考えるとする。、式(1)の分子に示す(s-a3)の項をゼロにするsは、s=a3(a3>0)であり、不安定ゼロ点になる。このような不安定ゼロ点を有する伝達関数から逆フィルタを求めると、分母に(s-a3)の項が存在することになり、不安定極を含む逆フィルタとなる。不安定極を含む系は発振するため、アクチュエータ140を安定的かつ滑らかに駆動することは困難になる。
【0034】
そこで、実施形態の触覚提示装置100は、理想的な応答特性を実現するために、逆フィルタを修正した擬似的な逆フィルタ(以下、「疑似逆フィルタ」と称す)を用いる。疑似逆フィルタは、アクチュエータ140に入力される駆動信号を補正する補正モデルの一例である。
【0035】
<疑似逆フィルタ>
図5は、疑似逆伝達関数を構成するための方法を説明する図である。図5の左側には、触覚提示装置100の不安定ゼロ点と安定極を含んだ最小の伝達関数及び伝達関数と、伝達関数の時間変化特性とを示す。このような伝達関数は、sが1のときに分子の(-2s+2)がゼロになるため、不安定ゼロ点を有するものである。
【0036】
図5の中央には、触覚提示装置100の逆伝達関数と、逆伝達関数の時間変化特性とを示す。逆伝達関数は、図5の左側の触覚提示装置100の伝達関数の逆関数であるため、(-s-2)/(-2s+2)である。このような伝達関数は、sが1のときに分母の(2s-2)がゼロになるため、不安定極を有するものである。不安定極を含む逆伝達関数を用いると発振するため、アクチュエータ140を安定的かつ滑らかに駆動することは困難になる。
【0037】
図5の右側には、触覚提示装置100の疑似逆フィルタのベースになる疑似逆伝達関数と、疑似逆伝達関数の時間変化特性とを示す。疑似逆伝達関数は、図5の中央の逆伝達関数の分母の実部の正負を反転させた構成を有する。このため、疑似逆伝達関数は(-s-2)/(2s+2)である。このような疑似逆伝達関数は、sが-1のときに分母の(2s+2)がゼロになるため、安定極を有するものである。
【0038】
触覚提示装置100の疑似逆フィルタは、このような疑似逆伝達関数の作り方に基づいて作成されている。すなわち、触覚提示装置100の疑似逆フィルタは、逆伝達関数に含まれる不安定極を安定極に置換した疑似的な逆伝達関数に基づくモデルである。
【0039】
なお、触覚提示装置100の疑似逆フィルタは、伝達関数に含まれる不安定零点を安定零点に置換した疑似的な伝達関数に対する逆伝達関数に基づくモデルであってもよい。この場合に、安定零点は、不安定零点の実部の正負を反転したものとして実現してもよい。
【0040】
以上のようにして得られる疑似逆フィルタは、複数の共振周波数による応答特性への影響を低減する補正モデルである。
【0041】
図6は、人体の手の表面にあるパチニ小体で感じ取ることができる変位の最小値の周波数特性(実線)と、パチニ小体で感じ取ることができる加速度の最小値の周波数特性(破線)とを示す図である。
【0042】
パチニ小体で感じ取ることができる変位は、手で触れている物体の変位を表すため、パチニ小体で感じ取ることができる変位の最小値の周波数特性(実線)は、パチニ小体で感じ取ることができる振動感を表す。実線の特性から分かるように、パチニ小体で感じ取ることができる変位の周波数の下限は図6で示すように30Hz以下まであることが知られている。また、パチニ小体で感じ取ることができる変位の周波数は250Hzをピークとして感度が低下する事が知られており、振動知覚帯域としては1kHz程度まであることが知られている。
【0043】
また、破線で示す加速度の周波数特性は、実線で示す変位の周波数特性から導き出した特性である。パチニ小体で感じ取ることができる加速度は、手で触れている物体の振動を表している。図6で示す様に、250Hz以下では振動を知覚する為に必要な最小加速度はほぼ一定の値をもつ。この特性から、パチニ小体は加速度の知覚特性を持つことが知られている。一方250Hzより高い周波数では、近くに必要な加速度が急激に増加する。100Hzを基準とすると、600Hzでは必要な加速度が20倍程度必要となり、800Hzでは70倍程度必要となる。その為、有効な振動知覚帯域の上限の目安は500Hz~700Hzであると知られている。
【0044】
また、100Hz以下の周波数では、他の触覚受容器が活性化するため、振動覚として有効に作用するパチニ小体の周波数範囲は、100~700Hz程度であることが判る。このことから、振動覚に有効な100~500Hzの振動帯域を確保するために、一例として30Hz以下を遮断すると共に、700Hz以上を遮断することとする。
【0045】
<触覚提示装置100の構成>
図7は、触覚提示装置100の構成の一例を示すブロック図である。図7に示すように、コントローラ150は、目標駆動信号出力部151、疑似逆フィルタ152、LPF(Low Pass Filter)153、及びDAC(Digital to Analog Converter)154を有する。
【0046】
目標駆動信号出力部151は、メモリに格納された目標駆動信号を読み出して出力する。目標駆動信号は、アクチュエータ140を駆動する際にコントローラ150がアクチュエータ140に出力する駆動信号の目標値を有する信号である。
【0047】
疑似逆フィルタ152は、図5を用いて説明したように逆伝達関数の分母の実部の正負を反転させた構成の疑似逆伝達関数に基づく疑似逆フィルタであり、安定極を有する。また、疑似逆フィルタ152は、HPF(High Pass Filter)を内蔵し、疑似逆フィルタ特性でゲインを補正することと、HPFでゲインの低周波数側の成分を遮断することとを行う。疑似逆フィルタ152に含まれるHPFのカットオフ周波数は、第1周波数の一例である。
【0048】
疑似逆フィルタ152に含まれるHPFのカットオフ周波数は、一例として、20Hz~100Hzの範囲の周波数に設定されることが好ましく、ここでは一例として30Hzである。また、疑似逆フィルタ152のHPFのカットオフ周波数以下におけるゲインの上限値は、20dB以上30dB以下であるため、低周波数側のゲインを確実に低減できる。
【0049】
LPF153は、疑似逆フィルタ152を通過した信号の高周波数成分を遮断するために設けられている。LPF153のカットオフ周波数は、第2周波数の一例である。LPF153のカットオフ周波数は、一例として、500Hz以上であることが好ましく、ここでは一例として、700Hzである。
【0050】
触覚提示装置100が操作面130Aに提示する振動は、主に人体の手の表面にあるパチニ小体で感じ取られる。パチニ小体で感じ取ることができる周波数の上限は、500Hz~1kHz程度である。このため、LPF153は、駆動信号のうち、パチニ小体で感じ取ることができない高周波数成分を遮断するために設けられている。
【0051】
DAC154は、LPF153の出力側に設けられており、LPF153を通過した駆動信号をアナログ変換してドライブアンプ141に出力する。この結果、ドライブアンプ141を介して供給される駆動信号によってアクチュエータ140が駆動され、パネル130を含む振動機構142が振動する。なお、図7には、振動機構142の振動を検出するための加速度センサ10を示す。
【0052】
なお、ここでは疑似逆フィルタ152がHPFを有し、疑似逆フィルタ152の後段にLPF153が設けられる構成について説明したが、疑似逆フィルタ152は、HPFに加えて、LPF153に相当するLPFを有していてもよい。また、HPFは、疑似逆フィルタ152の外部(疑似逆フィルタ152の前段又は後段)に設けられていてもよい。また、LPF153は疑似逆フィルタ152の前段に設けられていてもよい。
【0053】
また、疑似逆フィルタ152がHPFを内蔵するのではなく、疑似逆フィルタ152の疑似逆フィルタ特性が、HPFのような低周波成分の遮断特性を有していてもよい。すなわち、疑似逆フィルタ152は、第1周波数以下のゲインの上限値を設定するハイパスフィルタによって制限された補正モデルであってもよい。
【0054】
また、疑似逆フィルタ152の疑似逆フィルタ特性が、LPFのような高周波成分の遮断機能を有していてもよい。すなわち、第2周波数をカットオフ周波数とするローパスフィルタによって制限された補正モデルであってもよい。
【0055】
また、予め電子計算機等で演算することで、目標駆動信号を入力したときに生成するDAC154への入力信号をリアルタイムで演算することなくメモリ等に格納しておいてもよい。この場合には、コントローラ150は、目標駆動信号出力部151、疑似逆フィルタ152、及びLPF153を有していなくてよく、目標駆動信号出力部151、疑似逆フィルタ152、及びLPF153の代わりに上述のように予め演算した入力信号を格納するメモリを有し、メモリから入力信号を読み出してDAC154に出力する構成であってもよい。このような場合にも、コントローラ150が目標駆動信号出力部151、疑似逆フィルタ152、及びLPF153を有する場合と同様の効果が得られる。
【0056】
<疑似逆フィルタ152の疑似逆フィルタ特性>
図8Aは、触覚提示装置100の疑似逆伝達関数から求まる疑似逆フィルタ特性の一例を示す図である。図8Bは、疑似逆フィルタ152の疑似逆フィルタ特性の一例を示す図である。
【0057】
図5を用いて示したような処理を行うことにより、触覚提示装置100の伝達関数から逆伝達関数を求め、さらに逆伝達関数の不安定極を無くす符号処理を行うことによって疑似逆伝達関数を求めることができる。図8Aに示す触覚提示装置100の疑似逆フィルタ特性は、このようにして求めた疑似逆伝達関数から導出されるものである。不安定極を無くす符号処理は、一例として、図5の中央の逆伝達関数の分母の実部の正負を図5の右側の疑似逆伝達関数の分母のように反転させる処理である。
【0058】
図8Bに示す疑似逆フィルタ152の疑似逆フィルタ特性は、図8Aに示す疑似逆伝達関数のゲインに対して、HPFによる低周波数側のゲインの抑制と、LPF高周波成分の遮断とを行うことによって得られたものである。
【0059】
なお、図1に示すパネル130の操作面130Aにおける操作位置A~Dは、アクチュエータ140、固定部110、及び弾性部材120との位置関係が異なる。このため、操作位置A~Dにおけるパネル130の振動特性が無視できない程度に大きく異なる場合が有り得る。振動特性が無視できない程度に大きく異なるとは、例えば、図8A又は図8Bに示す疑似逆フィルタ特性のゲインが異なることで、操作位置A~Dによって提示される触覚の違いを利用者が知覚できる程度に異なることをいう。
【0060】
このような場合には、コントローラ150が複数の操作位置A~Dに応じた複数の疑似逆フィルタ152を有し、パネル130のタッチパネルの出力に基づいて、複数の操作位置A~Dのうちの操作が行われた操作位置に対応する疑似逆フィルタ152を選択して用いるようにしてもよい。
【0061】
<パネル130の加速度の時間変化>
図9は、触覚提示装置100のアクチュエータ140が振動を開始した直後におけるパネル130の振動の一例を示す図である。図9において、横軸は時間(秒)を表し、縦軸は振動の加速度(m/s)を表す。
【0062】
図9には、パネル130の加速度の時間変化を実線で示す。また、図9には、比較用に、理想の触覚提示装置におけるパネルの加速度の時間変化を破線で示すとともに、疑似逆フィルタ152を用いない場合のパネル130の加速度の時間変化を一点鎖線で示す。なお、アクチュエータ140は、時刻0(秒)において駆動を開始する。
【0063】
実線で示す触覚提示装置100のパネル130の加速度の時間変化は、破線で示す理想の触覚提示装置におけるパネルの加速度の時間変化と略一致しており、アクチュエータ140の駆動開始直後の約0.015秒程度で振動が収束している。また、一点鎖線で示す疑似逆フィルタ152を用いない場合のパネル130の加速度の時間変化は、実線で示す触覚提示装置100のパネル130の加速度よりも振幅が大きく、かつ、約0.1秒経過しても振動が収束していない。
【0064】
このように、触覚提示装置100は、疑似逆フィルタ152を用いることで、理想の触覚提示装置と同等の良好な振動特性を得られることを確認できた。
【0065】
<ゲインと位相>
図10は、安定化対象のシステムのゲインと位相の一例を示す図である。図10の上側には、ゲインの周波数特性を示し、下側には位相の周波数特性を示す。ゲインの周波数特性において、実線は安定化対象のシステムのゲインの周波数特性を表し、一点鎖線は、疑似逆フィルタ152のゲインの周波数特性を表し、破線は、疑似逆フィルタ152と安定化対象のシステムとを直列接続したときの出力のゲインの周波数特性を表す。
【0066】
図10の上側に示すように、破線で示す疑似逆フィルタ152と安定化対象のシステムを直列接続したときの出力は、低周波数側から高周波数側まで0dBでフラットであった。これは、実線で示す安定化対象のシステムの周波数特性と、一点鎖線で示す疑似逆フィルタ152の疑似逆フィルタ特性とを掛け合わせて得られるからである。一点鎖線で示す疑似逆フィルタ152の疑似逆フィルタ特性が、実線で示す安定化対象のシステムの周波数特性の逆特性になっていることから、結果的に、安定化対象のシステムと、疑似逆フィルタ152とを直列接続をした時の出力(破線)のゲインはフラットになる。
【0067】
また、図10の下側において、実線は安定化対象のシステムの位相の周波数特性を表し、一点鎖線は、疑似逆フィルタ152の位相の疑似逆フィルタ特性を表し、破線は、安定化対象のシステムの不安定ゼロ点を安定化したときの位相の周波数特性を表す。図10の下側の一点鎖線は、安定化対象のシステムと、疑似逆フィルタ152を直列接続したときの位相特性を示しており、疑似逆フィルタを用いたとしても、位相変動は大きくなく、いずれの位相も安定していることを確認できた。また、本例では不安定ゼロ点を安定化した疑似逆フィルタを提案したが、一点鎖線の様に若干の位相変動が発生する。位相変動を安定化する為、本疑似逆フィルタの構成を基に、非線形最適化法等を用いて最適化を図ってもよい。
【0068】
<効果>
触覚提示装置100は、入力信号に応じて振動するアクチュエータ140と、アクチュエータ140に接続され、アクチュエータ140の振動に応じて加振されるパネル130と、アクチュエータ140の駆動制御を行うコントローラ150とを備え、アクチュエータ140とパネル130とを含む振動系は、複数の共振周波数を有し、コントローラ150は、複数の共振周波数に基づいて予め生成された補正モデル(疑似逆フィルタ152)を用いて、入力される駆動信号を補正して入力信号としてアクチュエータ140に出力する、又は、補正モデル(疑似逆フィルタ152)を用いて予め生成された信号を入力信号としてアクチュエータ140に出力する。このため、アクチュエータ140に入力される駆動信号は、複数の共振周波数に基づいて予め生成された補正モデルによって補正されている。
【0069】
したがって、アクチュエータ140を含む振動系が複数の共振周波数を有する場合に、良好な触覚を提示可能な触覚提示装置100を提供することができる。また、疑似逆フィルタ152は、複数の共振周波数に基づいて予め生成された補正モデルであり、フィードバック制御で補正モデルを生成する必要がないため、応答性が良好な触覚提示装置100を提供できる。
【0070】
また、補正モデルは、入力信号を入力とし、パネル130の応答特性を出力とする伝達関数に対する逆伝達関数に基づくモデルである。このため、アクチュエータ140の入力に対するパネル130の振動を出力とする伝達関数の逆伝達関数に基づく補正モデルを用いて、複数の共振周波数を有する振動系のゲインを適切に補正することができる。
【0071】
また、補正モデルは、逆伝達関数に含まれる不安定極を安定極に置換した疑似的な逆伝達関数に基づくモデル、又は、伝達関数に含まれる不安定零点を安定零点に置換した疑似的な伝達関数に対する逆伝達関数に基づくモデルである。このため、システムの発振を抑制でき、周波数の変化に対する安定的なゲインが得られ、良好な触覚を提示可能な触覚提示装置100を提供することができる。
【0072】
また、安定極は、不安定極の実部の正負を反転したものであり、安定零点は、不安定零点の実部の正負を反転したものである。このため、容易に実現可能な補正モデルによって、システム(例えば、触覚提示装置100全体の振動系)の発振を抑制でき、周波数の変化に対する安定的なゲインが得られ、良好な触覚を提示可能な触覚提示装置100を提供することができる。
【0073】
また、疑似逆フィルタ152は、複数の共振周波数による応答特性への影響を低減する補正モデルである。このため、アクチュエータ140を滑らかに駆動することができ、より良好な触覚を提示可能な触覚提示装置100を提供することができる。
【0074】
また、疑似逆フィルタ152は、第1周波数以下のゲインの上限値を設定するハイパスフィルタを含む、又は、第1周波数以下のゲインの上限値を設定するハイパスフィルタによって制限された補正モデルである。このため、疑似逆フィルタ特性の低周波数側において無限にゲインが大きい部分を遮断することができ、疑似逆フィルタ152を実現しやすくできる。
【0075】
また、HPFのカットオフ周波数は、30Hz以上100Hz以下であるので、30Hz以上100Hz以下の低周波数側において無限にゲインが大きい部分を遮断することができ、疑似逆フィルタ152を実現しやすくできる。
【0076】
また、ゲインの上限値は、20dB以上30dB以下であるので、低周波数側のゲインを確実に低減できる。
【0077】
また、補正モデルは、第2周波数をカットオフ周波数とするローパスフィルタを含む、又は、第2周波数をカットオフ周波数とするローパスフィルタによって制限された補正モデルである。このため、疑似逆フィルタ特性の高周波数側において、人体のパチニ小体で知覚できないような高周波成分のゲインを低減でき、疑似逆フィルタ152をより容易に実現することができる。
【0078】
第2周波数は、500Hz以上1kHz以下であるので、人体のパチニ小体で知覚できないような高周波成分のゲインを効果的低減できる。
【0079】
パネル130に接続された固定部110をさらに備え、複数の共振周波数は、アクチュエータ140とパネル130とを含む第1振動系の共振周波数と、パネル130と固定部110とを含む第2振動系の共振周波数とを含む。このような第1振動系の共振周波数と第2振動系の共振周波数とを有する触覚提示装置100全体の振動系において、良好な触覚を提示可能な触覚提示装置100を提供することができる。
【0080】
また、パネル130は、複数の操作位置A~Dを有する操作面130Aを含み、コントローラ150は、複数の操作位置A~Dに応じた複数の補正モデルを有し、複数の操作位置のうちの操作が行われた操作位置に対応する補正モデルを選択して用いる。このため、複数の操作位置A~Dに対応して設定された良好な触覚を提示可能な触覚提示装置100を提供することができる。
【0081】
<Q値による特性の違い>
図11Aは、図3に示す理想的な触覚提示装置の出力のゲイン及び位相の周波数特性を示す図である。図11Aには、Q値を1~5の5段階に設定した場合の上記理想的な触覚提示装置の出力のゲイン及び位相の周波数特性を示す。
【0082】
図11Bは、上記理想的な触覚提示装置に入力する駆動信号(上側)と上記理想的な触覚提示装置が発生する振動の加速度(下側)との時間変化の様子を示す図である。上記理想的な触覚提示装置が発生する加速度については、Q値を1~5の5段階に設定した場合の特性を示す。
【0083】
図11Cは、触覚提示装置100のアクチュエータ140が振動を開始した直後におけるパネル130の振動の一例を示す図である。図11Cには、Q値を1~5の5段階に設定した場合のパネル130の振動の時間変化特性を示す。図11Cにおいて、横軸は時間(秒)を表し、縦軸は振動の加速度(m/s)を表す。
【0084】
Q値が大きいほど、疑似逆フィルタ152の出力のゲイン及び位相(図11A参照)の変化分は大きくなるとともに、アクチュエータ140の振動の加速度(図11B参照)の振幅は大きくなり、パネル130の振動の加速度(図11C参照)は大きくなっている。なお、Q値を6以上にした場合には、パネル130の振動の加速度(図11C参照)は、より大きくなったが、パネル130の振動の減衰には、より長い時間を要した。
【0085】
パネル130の振動の加速度(図11C参照)に着目すると、振動が開始してから収まるまでの減衰時間は、2~3周期以内であることが好ましい。このような観点から、Q値は5以下であることが好ましい。
【0086】
以上、本開示の例示的な実施形態の触覚提示装置、及び、触覚提示方法について説明したが、本開示は、具体的に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【0087】
以上の実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
(付記1)
入力信号に応じて振動するアクチュエータと、
前記アクチュエータに接続され、前記アクチュエータの振動に応じて加振される加振対象と、
前記アクチュエータの駆動制御を行うコントローラと
を備え、
前記アクチュエータと前記加振対象とを含む振動系は、複数の共振周波数を有し、
前記コントローラは、前記複数の共振周波数に基づいて予め生成された補正モデルを用いて、駆動信号を補正して前記入力信号として前記アクチュエータに出力する、又は、前記補正モデルを用いて予め生成された信号を前記入力信号として前記アクチュエータに出力する、触覚提示装置。
(付記2)
前記補正モデルは、前記入力信号を入力とし、前記加振対象の応答特性を出力とする伝達関数に対する逆伝達関数に基づくモデルである、付記1に記載の触覚提示装置。
(付記3)
前記補正モデルは、前記逆伝達関数に含まれる不安定極を安定極に置換した疑似的な逆伝達関数に基づくモデル、又は、前記伝達関数に含まれる不安定零点を安定零点に置換した疑似的な伝達関数に対する逆伝達関数に基づくモデルである、付記2に記載の触覚提示装置。
(付記4)
前記安定極は、前記不安定極の実部の正負を反転したものであり、
前記安定零点は、前記不安定零点の実部の正負を反転したものである、付記3に記載の触覚提示装置。
(付記5)
前記補正モデルは、前記複数の共振周波数による前記応答特性への影響を低減する補正モデルである、付記1乃至4のいずれか1項に記載の触覚提示装置。
(付記6)
前記補正モデルは、第1周波数以下のゲインの上限値を設定するフィルタを含む、又は、前記第1周波数以下のゲインの上限値を設定するフィルタによって制限された補正モデルである、付記1乃至5のいずれか1項に記載の触覚提示装置。
(付記7)
前記第1周波数は、30Hz以上100Hz以下である、付記6に記載の触覚提示装置。
(付記8)
前記ゲインの上限値は、20dB以上30dB以下である、付記6に記載の触覚提示装置。
(付記9)
前記補正モデルは、第2周波数をカットオフ周波数とするローパスフィルタを含む、又は、前記第2周波数をカットオフ周波数とするローパスフィルタによって制限された補正モデルである、付記1乃至8のいずれか1項に記載の触覚提示装置。
(付記10)
前記第2周波数は、500Hz以上1kHz以下である、付記9に記載の触覚提示装置。
(付記11)
前記加振対象に接続された固定部をさらに備え、
前記複数の共振周波数は、前記アクチュエータと前記加振対象とを含む第1振動系の共振周波数と、前記加振対象と前記固定部とを含む第2振動系の共振周波数とを含む、付記1乃至10のいずれか1項に記載の触覚提示装置。
(付記12)
前記加振対象は、複数の操作位置を有する操作面を含み、
前記コントローラは、前記複数の操作位置に応じた複数の補正モデルを有し、前記複数の操作位置のうちの操作が行われた操作位置に対応する補正モデルを選択して用いる、付記1乃至11のいずれか1項に記載の触覚提示装置。
(付記13)
アクチュエータと、前記アクチュエータの振動に応じて加振される加振対象とを備え、前記アクチュエータと前記加振対象とを含む振動系が複数の共振周波数を有する装置を制御する方法であって、
前記複数の共振周波数に基づいて予め生成された補正モデルを用いて、駆動信号を補正して前記アクチュエータに出力する、又は、前記補正モデルを用いて予め生成された信号を前記入力信号として前記アクチュエータに出力する、触覚提示方法。
【符号の説明】
【0088】
100 触覚提示装置
110 固定部
120 弾性部材
130 パネル
130A 操作面
140 アクチュエータ
141 ドライブアンプ
142 振動機構
150 コントローラ
151 目標駆動信号出力部
152 疑似逆フィルタ
153 LPF
154 DAC
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11A
図11B
図11C