(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062758
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂シート及びこれを用いた繊維強化積層体
(51)【国際特許分類】
B29C 70/50 20060101AFI20240501BHJP
D06M 15/227 20060101ALI20240501BHJP
D06M 15/248 20060101ALI20240501BHJP
D06M 15/263 20060101ALI20240501BHJP
D06M 15/564 20060101ALI20240501BHJP
B29C 70/20 20060101ALI20240501BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20240501BHJP
B32B 5/10 20060101ALI20240501BHJP
B29K 101/12 20060101ALN20240501BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20240501BHJP
【FI】
B29C70/50
D06M15/227
D06M15/248
D06M15/263
D06M15/564
B29C70/20
C08J5/04
B32B5/10
B29K101:12
B29K105:08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170818
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】中村 崇
【テーマコード(参考)】
4F072
4F100
4F205
4L033
【Fターム(参考)】
4F072AA08
4F072AB09
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4F072AD09
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4F100AA01B
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4F100AK15A
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4F100AK25A
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4F100AK51A
4F100AK51C
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4L033AA09
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4L033AC15
4L033CA12
4L033CA15
4L033CA18
4L033CA50
(57)【要約】
【課題】 被着基材に貼り付けられた場合に、被着基材と繊維強化樹脂シートとを含む繊維強化積層体の強度を高めることができる繊維強化樹脂シートを提供する。
【解決手段】本発明は、一態様において、連続繊維が一方向に引き揃えられた開繊シートとマトリックス樹脂とを含む、繊維強化樹脂シートであり、前記マトリックス樹脂は熱可塑性樹脂であり、前記繊維強化樹脂シートの体積を100体積%としたときの前記連続繊維の体積比率(Vf)が、10体積%以上60体積%以下である、繊維強化樹脂シートに関する。前記マトリックス樹脂は、好ましくは熱可塑性樹脂エマルジョンが乾燥したものである。被着基材は、好ましくは、樹脂、木材および金属から選ばれる少なくとも1種を含む被着基材に熱接着または接着剤により固着される強度補強材である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続繊維が一方向に引き揃えられた開繊シートとマトリックス樹脂とを含む、繊維強化樹脂シートであり、
前記マトリックス樹脂は熱可塑性樹脂であり、
前記繊維強化樹脂シートの体積を100体積%としたときの前記連続繊維の体積比率(Vf)が、10体積%以上60体積%以下である、繊維強化樹脂シート。
【請求項2】
前記繊維強化樹脂シートは、樹脂、木材、および無機材料から選ばれる少なくとも1種を含む被着基材に熱接着または接着剤により固着される強度補強材である、請求項1に記載の繊維強化樹脂シート。
【請求項3】
前記マトリックス樹脂は、熱可塑性樹脂エマルジョンが乾燥したものである、請求項1または2に記載の繊維強化樹脂シート。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂は、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリプロピレン樹脂、およびポリエチレン樹脂ンから選ばれる1種又は2種以上の樹脂である請求項1から3のいずれかの項に記載の繊維強化樹脂シート。
【請求項5】
前記連続繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、バサルト繊維及び弾性率が380cN/dtex以上の高弾性率繊維からなる群から選ばれる少なくとも一つの連続繊維である請求項1から4のいずれかの項に記載の繊維強化樹脂シート。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかの項に記載の繊維強化樹脂シートの製造方法であって、
連続繊維に熱可塑性樹脂エマルジョンを付着する樹脂付着工程と、
多数本の連続繊維からなる連続繊維束を開繊かつ拡幅し、一方向に配列した薄膜状の開繊シートを形成するシート形成工程と、
前記熱可塑性樹脂エマルジョンを乾燥させる乾燥工程と、を含み、
前記繊維強化樹脂シートの体積を100体積%としたときの前記連続繊維の体積比率(Vf)が、10体積%以上60体積%以下である、繊維強化樹脂シートの製造方法に関する。
【請求項7】
被着基材と、前記被着基材の一方または両方の主面に貼り付けられた請求項1~5のいずれかの項に記載の繊維強化樹脂シートと、を含む、繊維強化積層体。
【請求項8】
前記被着基材の一方または両方の主面に、1枚の繊維強化樹脂シートが貼り付けられている、請求項7に記載の繊維強化積層体。
【請求項9】
前記被着基材が、樹脂板であり、
前記繊維強化樹脂シートは、前記樹脂板に熱接着されている、請求項7に記載の繊維強化積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂シート及びこれを用いた繊維強化積層体等に関する。
【背景技術】
【0002】
木質系の材料、プラスチック材料、金属材料、コンクリート、セラミックス等の無機材料等は、産業用途や建材等の様々な用途で基材として用いられている。MDF(Medium Density Fiberboard)等の木質系の建材は、木材と同様に大気条件の変化に伴い、その含水率と寸法が変化する。そのため、寸法の安定性の向上とともに強度向上にも寄与する強度補強材が提案されている。また、塩化ビニル樹脂は、難燃性であり、断熱性、耐薬品性、電気絶縁性、耐衝撃性等に優れ、軽量で加工性もよいことから、例えば、建物内装の材料として多用されている。サッシ等の耐衝撃性が要求される用途にも使用されることから、さらなる強度向上が求められている。
【0003】
下記特許文献1には、木質系合板用の強度補強材が開示されている。この強度補強材は、木質系合板に貼り合わされることにより、合板の寸法安定性を高めるとともに強度の向上に寄与する。当該強度補強材は、特定の太さのガラス繊維束が特定の密度で縦方向および横方向に配列されたネット状のシートと紙との2層構造をしている。ネット状のシートは、ポリアクリル酸エチルエステルエマルジョン等の接着剤溶液に浸漬された後、絞られ、その後乾燥されることにより形成される。
【0004】
特許文献2には、プラスチック等の強化材として補強繊維布帛が開示されている。当該補強繊維布帛は、縦糸と横糸により製織されており、縦糸と横糸はそれぞれ補強繊維のマルチフィラメント糸が扁平形状に開繊拡幅され糸幅が3mm以上の糸からなる。また、縦糸と横糸を形成しているマルチフィラメント糸の各フィラメントの間には、熱可塑性樹脂が部分的に存在しており、この熱可塑性樹脂の融着によってフィラメント同士が互いに接合されている。熱可塑性樹脂原料として、熱可塑性樹脂粒子が液相中に分散した熱可塑性樹脂エマルジョンが使用される。熱可塑性樹脂エマルジョンの塗布量は、最終的に得られる補強繊維布帛の目開きを抑制できる限り少ない程好ましく、布帛中の熱可塑性樹脂の含有量が10重量%以下、好ましくは5重量%以下となる量である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-52316号公報
【特許文献2】特開2001-226850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記ガラス繊維のネットは、MDFや樹脂板等の被着基材の収縮抑制には効果的に作用するが、曲げに対する強度向上効果は不十分であり、さらなる改善が求められている。
【0007】
本発明は、被着基材に貼り付けられたときに、被着基材と繊維強化樹脂シートとを含む繊維強化積層体の強度を高めることができる繊維強化樹脂シートを提供する。また、本発明は、前記繊維強化樹脂シートと被着基材とを含む繊維強化積層体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、一態様において、
連続繊維が一方向に引き揃えられた開繊シートとマトリックス樹脂とを含む、繊維強化樹脂シートであり、
前記マトリックス樹脂は熱可塑性樹脂であり、
前記繊維強化樹脂シートの体積を100体積%としたときの前記連続繊維の体積比率(Vf)が、10体積%以上60体積%以下である、繊維強化樹脂シートに関する。
【0009】
本発明は、一態様において、本発明の繊維強化樹脂シートの製造方法であって、
連続繊維に熱可塑性樹脂エマルジョンを付着する樹脂付着工程と、
多数本の連続繊維からなる連続繊維束を開繊かつ拡幅し、前記連続繊維を一方向に配列した薄膜状の開繊シートを形成するシート形成工程と、
前記熱可塑性樹脂エマルジョンを乾燥させる乾燥工程と、を含み、
前記繊維強化樹脂シートの体積を100体積%としたときの前記連続繊維の体積比率(Vf)が、10体積%以上60体積%以下である、繊維強化樹脂シートの製造方法に関する。
【0010】
本発明は、一態様において、
被着基材と、前記被着基材の一方または両方の主面に貼り付けられた本発明の繊維強化樹脂シートと、を含む、繊維強化積層体に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の繊維強化樹脂シートは、被着基材に貼り付けられた場合に、被着基材と繊維強化樹脂シートとを含む繊維強化積層体の強度を高めることができる。
本発明の繊維強化積層体は、本発明の繊維強化樹脂シートを含んでいるので、強度が高い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一態様の繊維強化樹脂シートの模式的斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の一態様の繊維強化樹脂シートの模式的斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明の一態様の繊維強化樹脂シートの製造方法を示す模式的工程図である。
【
図4】
図4は、本発明の一態様の繊維強化積層体の模式的斜視図である。
【
図5】
図5は、本発明の一態様の繊維強化積層体の模式的斜視図である。
【
図6】
図6は、本発明の一態様の繊維強化積層体の模式的斜視図である。
【
図7】
図7は、3点曲げ試験を説明する模式図である。
【
図8】
図8は、実施例1の繊維強化樹脂シートの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[繊維強化樹脂シート]
本発明は、一態様において、連続繊維束が開繊および拡幅され複数の連続繊維が一方向に引き揃えられた開繊シートとマトリックス樹脂とを含む、繊維強化樹脂シートである。当該繊維強化樹脂シートは、樹脂、木材、金属および金属以外の無機材料から選ばれる少なくとも1種を含む被着基材に熱接着または接着剤により固着される強度補強材である。被着基材としては、例えば、建材であり、具体的には、パーティクイルボード、ベニア合板、MDF等の木質系板、塩化ビニル樹脂やオレフィン系樹脂等の樹脂板、塩化ビニル樹脂シートラミネート金属板、ポリオレフィン樹脂シートラミネート金属板、コンクリートやセラミックス等の無機材料からなる板等が挙げられる。
【0014】
前記連続繊維は、長繊維であり、繊維強化樹脂シートを構成する補強繊維である。連続繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、バサルト繊維及び弾性率が380cN/dtex以上の高弾性率繊維から選ばれる少なくとも一つの連続繊維を含んでいると好ましい。前記高弾性率繊維としては、例えばアラミド繊維、とくにパラ系アラミド繊維(弾性率:380~980cN/dtex)、ポリアリレート繊維(弾性率:600~741cN/dtex)、ヘテロ環ポリマー繊維(PBO,弾性率:1060~2200cN/dtex)、高分子量ポリエチレン繊維(弾性率:883~1413cN/dtex)、ポリビニルアルコール繊維(PVA,強度:14~18cN/dtex)などがある。これらの繊維は樹脂強化繊維として有用であり、繊維強化樹脂シートの用途に応じて選択することができる。特に、コスト、軽量、および難燃性等の観点からガラス繊維が有用である。
【0015】
繊維強化樹脂シートにおいて、連続繊維束が開繊および拡幅されて連続繊維が一方向に引き揃えられた開繊シートが主たる強化繊維である。繊維強化樹脂シートには、主たる強化繊維以外の繊維が補助繊維として、連続繊維の長手方向(配向方向またはMD方向とも言う。)とは異なる角度で配置されていてもよい。補助繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド(パラ系、メタ系を含む)繊維、ポリアリレート繊維、ポリ(p-フェニレンベンゾビスオキザール)(PBO)繊維、ポリ(p-フェニレンベンゾビスチアゾール)(PBZT)繊維、高分子量ポリエチレン繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、又はポリビニルアルコール繊維等が挙げられる。また、開繊シートには、連続繊維を横切る方向に配向されたブリッジファイバーがさらに含まれていてもよい。ブリッジファイバーは、連続繊維束(フィラメント群)の開繊時または開繊後に連続繊維から発生させることができる。補助繊維およびブリッジファイバーは、熱可塑性樹脂によって、連続繊維に接着固定される。
【0016】
前記連続繊維束を構成する連続繊維には、撚りがかかっていてもよいが、繊維強化樹脂シートの製造過程で開繊シートに前記熱可塑性樹脂のエマルジョンがしみ込み易いという理由から、無撚りのロービング糸であると好ましい。
【0017】
前記連続繊維束を構成する連続繊維の太さ(単繊維直径)は、繊維強化樹脂シートの製造過程で開繊シートに前記熱可塑性樹脂のエマルジョンがしみ込み易いという理由から、太いと好ましく、具体的には、好ましくは5~50μm、より好ましくは7~30μmである。
【0018】
繊維強化樹脂シートの体積を100体積%としたときの前記連続繊維の体積比率(Vf)は、被着基材と繊維強化樹脂シートとを含む繊維強化積層体の強度の向上の観点から、好ましくは10体積%以上、より好ましくは15体積%以上であり、被着基材との接着性向上の観点から、好ましくは60体積%以下、より好ましくは50体積%以下である。
【0019】
繊維強化樹脂シートを構成する熱可塑性樹脂の種類は、被着基材の材料に応じて適宜選択すればよいが、塩化ビニル系樹脂、エチレンビニルアルコール系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリプロピレン樹脂やポリエチレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂から選ばれる1種もしくは2種以上が好ましく、塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、およびポリオレフィン系樹脂から選ばれる1種もしくは2種以上がより好ましく、塩化ビニル系樹脂およびアクリル系樹脂から選ばれる1種もしくは2種以上がさらに好ましい。塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル単独重合体の他、塩化ビニルを主成分とし、塩化ビニルと共重合可能な他の単量体との共重合体など、塩化ビニルを主な構成単位とする樹脂が挙げられる。塩化ビニルと共重合可能な他の単量体としては、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル等の1種又は2種以上が挙げられる。ポリアクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル基を有する単量を主な構成単位とする樹脂であり、アクリル樹脂の他、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリアクリル酸メチル樹脂等が挙げられる。
【0020】
繊維強化樹脂シート中の熱可塑性樹脂の含有量は、被着基材との接着性向上の観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、被着基材と繊維強化樹脂シートとを含む繊維強化積層体の強度の向上の観点から、好ましくは70質量%以下、より好まし50質量%以下である。
【0021】
連続繊維束が開繊および拡幅され連続繊維が一方向に引き揃えられた開繊シートの単位面積あたりの質量は、被着基材と繊維強化樹脂シートとを含む繊維強化積層体の強度の向上の観点から、好ましくは30g/m2以上、より好ましくは50g/m2以上であり、熱可塑性樹脂の付着性の観点から、好ましくは400g/m2以下、より好ましくは300g/m2以下である。
【0022】
繊維強化樹脂シートの単位面積あたりの質量は、繊維強化樹脂シートのハンドリング性および維強化樹脂シート自体の強度保持の観点から、好ましくは40g/m2以上、より好ましくは50g/m2以上であり、繊維強化樹脂シートのドレープ性の観点から、好ましくは500g/m2以下、より好ましくは400g/m2以下である。
【0023】
繊維強化樹脂シートの厚さは、繊維強化樹脂シートのハンドリング性および維強化樹脂シート自体の強度保持の観点から、好ましくは0.01mm以上、より好ましくは0.5mm以上であり、繊維強化樹脂シートのドレープ性の観点から、好ましくは2mm以下、より好ましくは1mm以下である。
【0024】
次に、
図1~
図2を用いて、繊維強化樹脂シートの一例について、連続繊維がガラス繊維である場合を例に挙げてより詳細に説明する。
図1は、前記繊維強化樹脂シート1の一例の模式的斜視図、
図2は、
図1に示した繊維強化樹脂シート1の模式的断面図である。
【0025】
図1において、繊維強化樹脂シート1は、ガラス繊維2が一方向に配列した開繊シート3を含む。開繊シート3は薄膜状である。ガラス繊維2は、モノフィラメント糸である。隣り合うガラス繊維2は、その間に入り込んだ熱可塑性樹脂4によって互いに接合されており、熱可塑性樹脂4と薄膜状の開繊シート3は一体化されている。熱可塑性樹脂4は、繊維強化樹脂シート1におけるマトリックス樹脂である。また、熱可塑性樹脂4は、隣り合うガラス繊維2間のみならずガラス繊維の上下にも付着されて、ガラス繊維2はその全周が熱可塑性樹脂4によってコーティングされていてもよい。
【0026】
図3は、繊維強化樹脂シートの製造方法を示す模式的工程図である。クリール(架台)に多数個の供給ボビン7を設置し、各ボビン7からガラス繊維ロービング8を引き出し、熱可塑性樹脂エマルジョンの供給部9に供給する(樹脂付着工程)。供給部9としては、ロービング8に対して熱可塑性樹脂エマルジョン92を、ロール塗布法、浸漬法、またはスプレー法等により付着させることができる装置であれば特に制限はないが、
図3に示すように、均一な塗布が行い易いという理由から、塗布ローラー91を具備し、ロールコート法やロールタッチ法で、熱可塑性樹脂エマルジョンを塗布できる供給部9が好ましい。ロービング8の塗布ローラー91との接触長や、塗布ローラー91の回転数、熱可塑性樹脂エマルジョンの固形分濃度等を調整することにより、ロービング8への熱可塑性樹脂エマルジョン92の付着量を調整できる。熱可塑性樹脂エマルジョンの付着量は、繊維強化樹脂シートの体積を100体積%としたときの乾燥後の熱可塑性樹脂エマルジョン(即ち、熱可塑性樹脂)の体積比率(Vf)が、40体積%以上90体積%以下、好ましくは50体積%以上85体積%以下となる量とする。
【0027】
次いで、熱可塑性樹脂エマルジョンが塗布されたロービング8は、開繊拡幅部11にて、開繊かつ拡幅されて薄膜状とされる(シート形成工程)。開繊拡幅部11による開繊かつ拡幅方法としては、ロール開繊法、気流吸引開繊法、気流吹付開繊法、振動バーを利用する方法および超音波開繊法から選ばれる少なくとも一種の方法が好ましく、なかでも、前記ロービング8を複数の開繊ロールの間を通過させることで開繊かつ拡幅が行えるロール開繊法が好ましい。このように、連続繊維への熱可塑性樹脂エマルジョンの付着と、連続繊維の開繊および拡幅処理は、連続的に行われるのが好ましい。次いで、熱可塑性樹脂エマルジョンが付着され、開繊かつ拡幅されたロービング8(すなわち、熱可塑性樹脂エマルジョンが付着された開繊シート)は、乾燥器12内に供給され、乾燥器12内で熱可塑性樹脂エマルジョンの液体成分を気化させる。乾燥器内の雰囲気温度は100~200℃が適切である。熱可塑性樹脂エマルジョンは乾燥することにより繊維強化樹脂シートのマトリックス樹脂となる(乾燥工程)。次いで、巻き取り機13により巻き取られる。
【0028】
尚、樹脂付着工程とシート形成工程は、どちらを先に行ってもよいが、柔らかい繊維強化樹脂シートが得られやすいという理由から、樹脂付着工程とシート形成工程はこの順で行うのが好ましい。
【0029】
熱可塑性樹脂エマルジョンの固形分濃度は、所望のVf値が得られやすいという理由から、好ましくは5~70質量%、より好ましくは20~65質量%の範囲内の値である。液相中に分散している熱可塑性樹脂粒子の粒径は、フィラメントの直径よりも小さいものが好ましい。
【0030】
熱可塑製樹脂エマルジョンは、合成時に乳化したもの、あるいは合成後に乳化したもののいずれであってもよい。ポリマー組成は、被着基材の材料に応じて適宜選択すればよい。熱可塑性樹脂エマルジョンの溶媒は水であるが少量であればアルコール等の有機溶媒が含まれていてもよい。また、熱可塑製樹脂エマルジョンには、メラミン樹脂等のブロッキング防止剤、架橋剤、難燃剤等が含まれていてもよい。
【0031】
[繊維強化積層体]
本発明は、一態様において、MDF等の木質系板や塩化ビニル樹脂(PVC)板等の被着基材の一方または両方の主面に、本発明の繊維強化樹脂シートが貼り付けられた繊維強化積層体に関する。繊維強化樹脂シートの貼り付け枚数は、各主面において、複数枚であってもよいが、強度向上効果対費用の観点、および、生産性の観点から、好ましくは1枚である。被着基材の一方または両方に、繊維強化樹脂シートを複数枚積層する場合、0°,45°,90°と任意の角度で積層してもよい。
【0032】
繊維強化樹脂シートは、被着基材の種類に応じて、熱または接着剤を用いて被着基材に接着固定される。被着基材の繊維強化樹脂シートとの接合面が樹脂材料からなる場合、例えば、2枚の繊維強化樹脂シートの間に被着基材が配置された積層体を、熱プレスすることにより被着基材を構成する樹脂が溶融しそれが固化することによりこれらが接合される。被着基材の繊維強化樹脂シートとの接合面が木質材などの熱だけでは接着が難しい材料である場合、繊維強化樹脂シートと被着基材とは、接着剤を用いた接着により互いに接合される。接着剤としては、例えば、常温で硬化するエポキシ系接着剤や、加熱硬化型接着剤等が挙げられる。接着剤の塗布量は、50~300g/m2程度が適当である。繊維強化樹脂シートが被着基材に熱または接着剤を用いて接着された後、好ましくは加圧された状態で、所定時間、好ましくは1日以上養生させることで、被着基材と繊維強化樹脂シートの接合強度を高めることができる。本発明の繊維強化積層体は、その使用用途に応じて、例えば、繊維強化樹脂シートの上方に配置され、繊維強化積層体の一方の最外層となる、表面化粧層をさらに含んでいてもよい。表面化粧層の材料について特に制限はなくポリエチレン等の公知の材料でよい。
【0033】
図4は、本発明の一態様の繊維強化積層体10の模式的斜視図である。
図4において、1は繊維強化樹脂シートであり、15は、樹脂板(被着基材)である。1対の繊維強化樹脂シート1は、各々、被着基材の主面に熱接着されている。樹脂板は、例えば、塩化ビニル樹脂板であり、繊維強化樹脂シート1に含まれる熱可塑性樹脂は、例えば、アクリル樹脂と塩化ビニル樹脂の混合物であり、連続繊維はガラス繊維である。
【0034】
図5は、本発明の別の一態様の繊維強化積層体10の模式的斜視図である。
図5において、1は繊維強化樹脂シートであり、15は、MDF等の木質系板(被着基材)である。繊維強化樹脂シート1と木質系板とは接着剤16により接着されている。接着剤16はエポキシ樹脂系接着剤であり、繊維強化樹脂シート1に含まれる熱可塑性樹脂は、例えば、100質量%アクリル樹脂であり、連続繊維はガラス繊維である。
【0035】
図6は、本発明の別の一態様の繊維強化積層体10の模式的斜視図である。
図6に示された繊維強化積層体10は、一方の繊維強化樹脂シート1の上に表面化粧層17が配置されていること以外は、
図4に示した繊維強化積層体10と同構成である。表面化粧層17は、例えば、ポリエチレンシートである。
【実施例0036】
1.各種パラメーターの測定方法
以下実施例を用いて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。各種パラメーターの測定方法は次のとおりである。
【0037】
<3点曲げ試験>
下記サンプルの曲げ弾性率は、JIS K 7017-1999に準拠し、下記の測定装置を用いて下記条件で測定した。具体的には、
図7に示す3点曲げ試験を行い、荷重と圧支点の変位量を測定し、これらの値を用いて曲げ弾性率および曲げ強度を算出した。n数(試験数)は3とし、表3および4にはその平均値を示した。
・状態調節:温度23℃、相対湿度50%RHの雰囲気下で48時間以上静置後に実施。
・試験:3点曲げ試験(JIS K7017準拠)
・装置:精密万能試験機AG-50kNXDplus(島津製作所社製)
・治具:圧子=R5(角の丸み5mm)、支点=R2(角の丸み2mm)
・下部支持間隔:37.5mm
・試験速度:2mm/min
【0038】
[サンプル]
(1)繊維強化積層体、
サンプル長さ(L)が、補強繊維の長手方向(繊維方向)と同方向の下記サイズのサンプルを用意した。
サンプル長さ(L):250mm
サンプル幅(B):50mm
サンプル厚さ(H)は各サンプルで異なり表3又は表4に示している。
(2)PVC板、MDFまたはこれらの被着基材に接着剤が塗布されたもの
サンプル長さ(L):250mm
サンプル幅(B):50mm
サンプル厚さ(H)は各サンプルで異なり表2又は表3に示している。
【0039】
<繊維強化樹脂シートの引張試験>
JIS K 7161-1:2014に準拠し、下記の条件にて、下記繊維強化樹脂シートAの引張特性を評価した。サンプルの、補強繊維の長手方向(繊維方向)と同方向の長さは250mm、幅は50mmとした。試験長は100mm、試験速度は1mm/minとした。n数(試験数)は5であり、表2にはその平均値を示した。
【0040】
<ガラス転移温度(Tg)>
熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、ISO11357に規定された示差走査熱量測定(DSC)、10℃/minによる値である。
【0041】
2.繊維強化樹脂シートの作製
[実施例1:繊維強化樹脂シートA]
連続繊維束として、ガラス繊維束(日東紡社製、商品名“RS240PE-535FC”、2400tex、単繊維直径14μm、無撚り)を使用した。また、水系エマルジョンとして、アクリル樹脂エマルジョン(Tg=-18℃)、樹脂固形分の濃度は50質量%)を用意した。次に水系エマルジョンをガラス繊維束に含浸させた後、ガラス繊維束を開繊および拡幅して開繊幅100mmの開繊シートとし、次いで、130℃に設定されたホットプレートに押し付けて、開繊シートから水系エマルジョンの液体成分を気化させ、繊維強化樹脂シートAを得た。
図8に、繊維強化樹脂シートAの写真を示している。
繊維強化樹脂シートAにおける繊維体積の割合(Vf)は32体積%であり、繊維強化樹脂シートの厚さは0.3mm、繊維強化樹脂シートAの単位面積あたりの質量は290g/m
2であった。その内、ガラス繊維の単位面積あたりの質量は、240g/m
2であった。
【0042】
[実施例2:繊維強化樹脂シートB]
アクリル樹脂エマルジョンにかえて、アクリル樹脂エマルジョン(Tg=-18℃)と塩化ビニル系樹脂エマルジョン(住化ケムテックス社製、商品名“S-830”)との混合物を用いたこと以外は、[実施例1:繊維強化樹脂シートA]と同様にして、繊維強化樹脂シートBを作製した。アクリル樹脂エマルジョンと塩化ビニル系樹脂エマルジョンの混合割合は、アクリル樹脂70質量%、塩化ビニル系樹脂30質量%となるようにし、水で希釈された水系エマルジョンの樹脂固形分の濃度は50質量%とした。
繊維強化樹脂シートBにおける繊維体積の割合(Vf)は30体積%であり、繊維強化樹脂シートの厚さは0.1mm、繊維強化樹脂シートBの単位面積あたりの質量は300g/m2であった。その内、ガラス繊維の単位面積あたりの質量は、240g/m2であった。
【0043】
[実施例3:繊維強化樹脂シートC]
アクリル樹脂エマルジョンにかえて、塩化ビニル系樹脂エマルジョン(住化ケムテックス社製、商品名“S-830”)を用いたこと以外は、[実施例1:繊維強化樹脂シートA]と同様にして、繊維強化樹脂シートCを作製した。水系エマルジョンの樹脂固形分の濃度は50質量%とした。
繊維強化樹脂シートCにおける繊維体積の割合(Vf)は30体積%であり、繊維強化樹脂シートの厚さは0.1mm、繊維強化樹脂シートの単位面積あたりの質量は300g/m2であった。その内、ガラス繊維の単位面積あたりの質量は、240g/m2であった。
【0044】
繊維強化樹脂シートA~Cの組成等について下記表1にまとめて示した。
【表1】
【0045】
上記繊維強化樹脂シートAについて、上記<繊維強化樹脂シートの引張試験>に記載の方法で測定した、各種引張特性を下記表2に示している。
【0046】
【0047】
3.繊維強化積層体の作製
3-1.被着基材がPVC板である場合
[実施例4]
上記(1)に記載の方法で繊維強化樹脂シートBを2枚用意し、2枚の繊維強化樹脂シートBの間に、PVC板(積水成型工業社製、商品名“エビスロン”、厚さ3.0mm)を配置して積層体を得、これを160℃で3分間熱プレスして一体化させた。熱プレス時の加圧は0MPaとして実質行わず、繊維強化樹脂シートBとPVC板とを十分に接触させる程度とした。
【0048】
[実施例5]
繊維強化樹脂シートCを用いたこと以外は、[実施例4]と同様にして、実施例5の繊維強化積層体を作製した。
【0049】
[比較例1]
未補強のPVC板(積水成形工業社製、商品名“エスビロン”、厚さ3.0mm)を比較例1とした。
【0050】
3-2.被着基材がMDFである場合
[実施例6]
MDF(厚さ2.5mm)の両主面に各々エポキシ樹脂系接着剤(コニシ社製、商品名“ボンドEセット”)を塗布し、各主面に、上記繊維強化樹脂シートAを貼り合わせ、プレス機にて接触させる程度の圧力で挟んだ状態で一日養生させた。エポキシ樹脂系接着剤の塗布量は200g/m2とした。
【0051】
[比較例2]
実施例6で用いたMDF(厚さ2.5mm)と同じMDF板を比較例2とした。
【0052】
[比較例3]
実施例6で用いたMDF(厚さ2.5mm)の両主面に各々エポキシ樹脂系接着剤(コニシ社製、商品名“ボンドEセット)を塗布し、室温下で一日養生させた。エポキシ樹脂系接着剤の塗布量は200g/m2とした。
【0053】
[実施例7]
実施例6で用いたMDF(厚さ2.5mm)と同じMDFの両主面に各々ポリ酢酸ビニル系接着剤(コニシ社製、商品名“ボンド”)を塗布し、各主面に、上記繊維強化樹脂シートAを貼り合わせ、プレス機にて接触させる程度の圧力で挟んだ状態で一日養生させた。ポリ酢酸ビニル系接着剤の塗布量は200g/m2とした。
【0054】
[比較例4]
実施例6で用いたMDF(厚さ2.5mm)と同じMDFの両主面に各々ポリ酢酸ビニル系接着剤(コニシ社製、商品名“ボンド”)を塗布し、室温下で一日養生させた。ポリ酢酸ビニル系接着剤の塗布量は200g/m2とした。
【0055】
実施例4および5の繊維強化積層体および比較例1のPVC板について、上記<3点曲げ試験>に記載の方法で、曲げ弾性率、曲げ強度を算出した。結果は下記表3に示している。
【0056】
【0057】
表3に示されるように、実施例4及び5の繊維強化積層体の曲げ弾性率および曲げ強度は、比較例1の繊維強化積層体のそれよりも、顕著に高くなっている。
【0058】
次に、実施例6及び7の繊維強化積層体および比較例2~4の比較対象物について、上記<3点曲げ試験>に記載の方法で、曲げ弾性率、曲げ強度を算出した。結果は下記表4に示している。
【0059】
【0060】
表4に示されるように、実施例6の繊維強化積層体の曲げ弾性率および曲げ強度は、比較例2、3の繊維強化積層体のそれよりも、高いことが確認できた。また、実施例7の繊維強化積層体の曲げ弾性率および曲げ強度は、比較例4の繊維強化積層体のそれよりも、高いことが確認できた。
本発明の繊維強化樹脂シートは、例えば、建築分野、航空・宇宙分野、スポーツ用途、自動車、風車ブレードなどの高い機械的特性や耐衝撃性が要求される分野の繊維強化材として有用である。