(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062759
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】水質制御方法および水質制御装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/00 20230101AFI20240501BHJP
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C02F 1/52 20230101ALI20240501BHJP
C02F 1/56 20230101ALI20240501BHJP
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C02F 1/62 20230101ALI20240501BHJP
C02F 1/64 20230101ALI20240501BHJP
【FI】
C02F1/00 T
C02F1/42 B
C02F1/52 K
C02F1/52 Z
C02F1/56 K
C02F1/56 Z
C02F1/66 510A
C02F1/66 510K
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C02F1/66 540A
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C02F1/28 C
C02F1/28 J
C02F1/28 M
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C02F1/72
C02F1/76
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C02F1/62 E
C02F1/62 Z
C02F1/64 Z
C02F1/42 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170821
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 利正
(72)【発明者】
【氏名】堤口 覚
(72)【発明者】
【氏名】森 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】菅野 真貴
【テーマコード(参考)】
4D015
4D025
4D038
4D050
4D624
【Fターム(参考)】
4D015BA19
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(57)【要約】
【課題】制御対象化学種を含む処理対象水の水質の制御において、より長期間の連続処理が可能であり、制御用物質に由来する廃棄物の発生量を低減可能な水質制御方法および水質制御装置を提供する。
【解決手段】水質制御方法は、制御対象化学種を放出または捕捉する第1制御用物質に処理対象水を接触させる第1工程と、第1工程の後に、制御対象化学種を放出または捕捉できる残量が第1制御用物質よりも小さい第2制御用物質に処理対象水を接触させる第2工程とを含む。水質制御装置1は、処理対象水の通水経路に配置されており、制御対象化学種を放出または捕捉する第1制御用物質4と、処理対象水の通水経路において第1制御用物質4よりも下流側に配置されており、制御対象化学種を放出または捕捉できる残量が第1制御用物質4よりも小さい第2制御用物質6とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象化学種を放出または捕捉する制御用物質に処理対象水を接触させて水質を制御する水質制御方法であって、
制御対象化学種を放出または捕捉する第1制御用物質に処理対象水を接触させる第1工程と、
前記第1工程の後に、前記制御対象化学種を放出または捕捉できる残量が前記第1制御用物質よりも小さい第2制御用物質に前記処理対象水を接触させる第2工程と、を含む水質制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の水質制御方法であって、
前記第2工程の後に、水質が制御された前記処理対象水に含まれる分離対象化学種を分離する分離工程を含む水質制御方法。
【請求項3】
請求項1に記載の水質制御方法であって、
前記第1制御用物質または前記第2制御用物質が、前記処理対象水への溶解によって前記制御対象化学種を放出する物質である水質制御方法。
【請求項4】
請求項1に記載の水質制御方法であって、
前記第1制御用物質または前記第2制御用物質が、前記制御対象化学種を吸着によって捕捉する物質である水質制御方法。
【請求項5】
請求項1に記載の水質制御方法であって、
前記第1制御用物質または前記第2制御用物質が、前記制御対象化学種を前記処理対象水とのイオン交換反応または相間分配によって放出または捕捉する物質である水質制御方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の水質制御方法であって、
前記制御対象化学種として、水素イオン(H+)、ヒドロニウムイオン(H3O+)および水酸化物イオン(OH-)のうちの一種以上を制御する水質制御方法。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の水質制御方法であって、
前記制御対象化学種として、二酸化炭素(CO2)、炭酸(H2CO3)、炭酸水素イオン(HCO3
-)、炭酸イオン(CO3
2-)、二酸化ケイ素(SiO2)、ケイ酸(H4SiO4)、ケイ酸イオン(H3SiO4
-,H2SiO4
2-,HSiO4
3-,SiO4
4-)、塩化物イオン(Cl-)、硫酸イオン(SO4
2-)および硝酸イオン(NO3
-)のうちの一種以上を制御する水質制御方法。
【請求項8】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の水質制御方法であって、
前記制御対象化学種として、リチウムイオン(Li+)、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、ルビジウムイオン(Rb+)、セシウムイオン(Cs+)、ベリリウムイオン(Be2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、カルシウムイオン(Ca2+)、ストロンチウムイオン(Sr2+)、バリウムイオン(Ba2+)およびアンモニウムイオン(NH4
+)のうちの一種以上を制御する水質制御方法。
【請求項9】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の水質制御方法であって、
前記第1制御用物質または前記第2制御用物質として、2族元素水酸化物、2族元素酸化物、2族元素炭酸塩、遷移金属水酸化物、遷移金属酸化物、ハイドロタルサイト、ケイチタン酸化合物、チタン酸化合物、イオン交換樹脂、キレート樹脂、ゼオライト、疎水性液体、および、気体のうちの一種以上を用いる水質制御方法。
【請求項10】
請求項2に記載の水質制御方法であって、
前記分離工程において、吸着処理、イオン交換処理、沈殿処理および酸化還元処理のうちの一種以上を行う水質制御方法。
【請求項11】
請求項2に記載の水質制御方法であって、
前記分離対象化学種として、ヒ素(As)、水銀(Hg)、カドミウム(Cd)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、鉄(Fe)、鉛(Pb)、錫(Sn)、ベリリウム(Be)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、放射性セシウム(Cs)、放射性ストロンチウム(Sr)、放射性コバルト(Co)、放射性ヨウ素(I)、放射性セシウム(Cs)、放射性ルテニウム(Ru)、ウラン(U)、プルトニウム(Pu)、アメリシウム(Am)およびキュリウム(Cm)のうちの一種以上を含む化学種を分離する水質制御方法。
【請求項12】
請求項2に記載の水質制御方法であって、
前記分離工程において、吸着材または固定相として、水酸化物、酸化物、炭酸塩、活性炭、イオン交換樹脂、キレート樹脂、ゼオライト、ケイチタン酸化合物、および、チタン酸化合物のうちの一種以上を用いる水質制御方法。
【請求項13】
請求項2に記載の水質制御方法であって、
前記分離工程において、沈殿剤として、水酸化物、炭酸塩、カルシウム塩、鉄系凝集剤、アルミ系凝集剤、および、有機高分子凝集剤のうちの一種以上を用いる水質制御方法。
【請求項14】
請求項2に記載の水質制御方法であって、
前記分離工程において、酸化還元剤として、過酸化水素、次亜塩素酸化合物、亜塩素酸化合物、塩素酸化合物、過塩素酸化合物、硝酸化合物、過マンガン酸化合物、クロム酸化合物、鉄化合物、亜硫酸化合物、チオ硫酸化合物、ギ酸化合物、シュウ酸化合物、アスコルビン酸化合物、および、ヒドラジンのうちの一種以上を用いる水質制御方法。
【請求項15】
制御対象化学種を放出または捕捉する制御用物質に処理対象水を接触させて水質を制御する水質制御装置であって、
前記処理対象水の通水経路に配置されており、制御対象化学種を放出または捕捉する第1制御用物質と、
前記処理対象水の通水経路において前記第1制御用物質よりも下流側に配置されており、前記制御対象化学種を放出または捕捉できる残量が前記第1制御用物質よりも小さい第2制御用物質と、を備える水質制御装置。
【請求項16】
請求項15に記載の水質制御装置であって、
前記第1制御用物質は、第1処理槽に収容されており、
前記第2制御用物質は、前記第1処理槽の下流側に接続された第2処理槽に収容されており、
制御用物質の交換時には、上流側に配置された第1処理槽が下流側に繰り下げられると共に、上流側に新規の処理槽が配置され、
制御用物質の交換後には、繰り下げられた第1処理槽に収容された制御用物質が新規の処理槽に収容された制御用物質と共に利用されて水質が制御される水質制御装置。
【請求項17】
請求項15に記載の水質制御装置であって、
前記第1制御用物質は、処理槽の内部の上流側に収容されており、
前記第2制御用物質は、前記処理槽の内部の下流側に収容されており、
制御用物質の交換時には、上流側に新規の制御用物質が収容され、
制御用物質の交換後には、上流側に収容された新規の制御用物質が下流側に収容された制御用物質と共に利用されて水質が制御される水質制御装置。
【請求項18】
請求項15に記載の水質制御装置であって、
前記処理対象水の通水経路において前記第2制御用物質よりも下流側に配置されており、前記処理対象水に含まれる分離対象化学種を分離する分離槽を備える水質制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水質制御方法および水質制御装置に係り、特に、処理対象水に含まれるイオン等の化学種の濃度や活量を調整して処理対象水の水質を制御する水質制御方法および水質制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の分野で生じる廃水や廃液には、工業的に重要であるが有害な重金属等が含まれている。例えば、半導体中のヒ素や、蛍光灯中の水銀等は、これらを含む廃棄物を処理する際に、廃棄物から生じた廃液中などから回収する必要がある。
【0003】
所定の化学種を回収する方法の一つに吸着処理がある。吸着処理は、所定の化学種を吸着材に吸着させて分離する処理方法である。吸着処理では、廃棄物を酸などに溶解させた後、得られた廃液を吸着材と接触させる。廃液に含まれるイオン等の所定の化学種は、吸着材に選択的に吸着して廃液から除去ないし回収される。
【0004】
一般に、分離対象となる化学種に応じて、適切な種類の吸着材を適切な条件下で用いる必要がある。例えば、ヒ素は、廃液中にヒ酸の状態で存在している。ヒ酸イオンは、水酸化セリウムに選択的に吸着することが知られている。水酸化セリウムは、pH9程度の弱アルカリ性条件下で、ヒ酸イオンの吸着性能が高くなる。
【0005】
吸着材による吸着性能は、分離対象となる化学種を含む処理対象水の水質、例えば、pHに応じて変化する。処理対象水に含まれる化学種を分離する際には、吸着材による吸着性能を確保するために、処理対象水のpH等を所定の範囲内に制御する前処理が必要とされる。
【0006】
通常、分離処理に供される処理対象水の性状は一定ではない。例えば、半導体廃棄物からヒ素を回収する場合、廃棄物の特性は、半導体を製造するメーカや半導体の型番に応じて異なる。また、廃棄物に混在している物質の種類もその都度に異なる。廃棄物を溶解させて得られる廃液等は、分離処理毎にpHや成分が異なるのが普通である。
【0007】
一般に、処理対象水のpHを制御する前処理は、分離処理を行う分離処理槽よりも前段側のバッファタンクで行われている。廃棄物から得られた廃液は、バッファタンクに一旦溜め置かれ、バッファタンク内に酸溶液やアルカリ溶液が添加されている。バッファタンクで前処理を行う場合、処理対象水のpHが所定の範囲内に調整されるまでは、後段側への送水が停止される。そのため、後段側で行われる分離処理は、間欠的な処理となる。
【0008】
従来、分離処理の停止時間の短縮や、分離処理槽の稼働率の向上が求められている。これらへの対策としては、バッファタンクの容量を大きくして、一回の分離処理当たりの処理量を増加させる方法がある。しかし、バッファタンクの容量を大きくすると、処理設備の規模が大きくなり、設備コストや運転コストが増大するため、対策が制限されている。
【0009】
また、処理対象水のpHをアルカリ溶液の添加によって調整する場合、バッファタンク内の注入点の近傍で局所的なpHの上昇が起こる。鉄イオン、カルシウムイオン等の金属イオンが処理対象水に含まれている場合、局所的なpHの上昇によって、金属水酸化物、金属炭酸塩等が析出し易くなる。
【0010】
処理対象水に析出物が生じると、ヒ素などの分離対象化学種が、析出物の内部に取り込まれる、または、表面に吸着される場合がある。分離対象化学種は、析出物に取り込まれた状態、または、析出物に吸着された状態で分離処理槽に送られることになるため、分離対象化学種の分離効率が低下するという問題を生じる。その一方で、処理対象水に添加するアルカリ溶液を低濃度にすると、処理対象水を所定のpHに調整するまでに、多量のアルカリ溶液が必要になる。多量のアルカリ溶液を調製するコストや廃液が増大するという問題を生じる。
【0011】
従来、このような問題を回避するために、pH調整作用等を示す作用物質を充填した充填塔に処理対象水を通水する技術が利用されている。特許文献1には、農薬排水の処理方法が記載されている。この処理方法では、農薬排水をpH緩衝能力のある炭酸塩鉱物を充填した処理槽に通水している。特許文献1では、酸性雨等によってpHが酸性側に変化した農薬排水であっても安定に、且つ所望の汚染濃度まで適切に農薬排水を処理できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1のように、処理対象水の水質の制御において、充填塔に処理対象水を通水する技術を利用すると、処理対象水をバッファタンクに溜め置く必要がないため、後段側で行われる分離処理を連続的に行うことができる。また、バッファタンクが不要になるため、処理設備の規模を縮小できる。また、処理対象水のpH等の水質を、急激に変化させることなく徐々に調整できるため、後段側で問題となる析出物等を低減できる。
【0014】
しかし、水質の制御に用いる制御用物質は、通水の継続によって消耗ないし劣化する。そのため、このような技術を用いる場合であっても、或る時点で制御用物質を交換する必要がある。制御用物質の交換時には、後段側で行われる連続的な分離処理等を中断しなければならない。
【0015】
水質の制御に用いる制御用物質の交換頻度が多いと、後段側で行われる連続的な分離処理等も中断することになり、処理対象水の処理量や処理設備の稼働率が低下するという問題を生じる。また、使用済みの制御用物質が廃棄物になることもある。制御用物質の交換頻度が多いと、使用によって消耗した使用済みの制御用物質に由来する廃棄物が増加して、廃棄処理のコストや環境への影響が増大してしまう。
【0016】
そこで、本発明は、制御対象化学種を含む処理対象水の水質の制御において、より長期間の連続処理が可能であり、制御用物質に由来する廃棄物の発生量を低減可能な水質制御方法および水質制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するため、本発明に係る水質制御方法は、制御対象化学種を放出または捕捉する制御用物質に処理対象水を接触させて水質を制御する水質制御方法であって、制御対象化学種を放出または捕捉する第1制御用物質に処理対象水を接触させる第1工程と、前記第1工程の後に、前記制御対象化学種を放出または捕捉できる残量が前記第1制御用物質よりも小さい第2制御用物質に前記処理対象水を接触させる第2工程と、を含む。
【0018】
また、本発明に係る水質制御装置は、制御対象化学種を放出または捕捉する制御用物質に処理対象水を接触させて水質を制御する水質制御装置であって、前記処理対象水の通水経路に配置されており、制御対象化学種を放出または捕捉する第1制御用物質と、前記処理対象水の通水経路において前記第1制御用物質よりも下流側に配置されており、前記制御対象化学種を放出または捕捉できる残量が前記第1制御用物質よりも小さい第2制御用物質と、を備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、制御対象化学種を含む処理対象水の水質の制御において、より長期間の連続処理が可能であり、制御用物質に由来する廃棄物の発生量を低減可能な水質制御方法および水質制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1実施形態に係る水質制御装置の概略構成を示す図である。
【
図2】処理対象水の通水時間と制御用物質によるpHの変化との関係の評価結果を示す図である。
【
図3】処理対象水の通水時間に対する制御用物質の挙動を示す図である。
【
図4】第2実施形態に係る水質制御装置の概略構成を示す図である。
【
図5】第2実施形態に係る水質制御装置の運用を示すフローチャートである。
【
図6】処理対象水の通水量と制御用物質によるpHの変化との関係の評価結果を示す図である。
【
図7】第3実施形態に係る水質制御装置の概略構成を示す図である。
【
図8】第3実施形態に係る水質制御装置の運用を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態に係る水質制御方法および水質制御装置について、図を参照しながら説明する。なお、以下の各図において共通する構成については同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0022】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る水質制御装置の概略構成を示す図である。
図1に示すように、第1実施形態に係る水質制御装置1は、送水装置2と、配管3と、第1制御用物質4と、配管5と、第2制御用物質6と、配管7と、回収部8と、を備えている。
【0023】
水質制御装置1は、処理対象水の水質を制御する装置である。水質制御装置1では、制御対象化学種を放出または捕捉する制御用物質に処理対象水を接触させて水質を制御する。水質としては、処理対象水のpHや、処理対象水に含まれる所定の化学種の濃度や活量が制御対象となる。
【0024】
処理対象水は、制御対象となる化学種を含む限り、成分や溶媒が、特に限定されるものではない。処理対象水の具体例としては、廃棄物処理場、排水処理場、半導体工場等の工場、金属精錬所、鉱山や、火力発電所、地熱発電所、原子力発電所等の発電所や、原子燃料の加工場や再処理場等の原子力関連設備や、放射性汚染水の処理場等や、これらの跡地で発生する廃水や廃液の他、地下水等が挙げられる。
【0025】
水質制御装置1において、第1制御用物質4や第2制御用物質6は、不図示の処理槽に収容される。これらの制御用物質は、処理槽の内部において、処理対象水を通水可能な充填層を形成する。充填層は、例えば、粒子状、粗粒状、ブロック状等の制御用物質の充填や、多孔質状の制御用物質の充填や、液体状やガス状の制御用物質の充填によって形成できる。
【0026】
処理槽は、内部に形成された充填層に処理対象水を通水する充填塔の方式とされる。処理槽は、充填層に処理対象水を通水可能である限り、タンク、カラム等の容器や、単段式、多段式等の処理塔等、適宜の槽形態として形成できる。処理槽は、例えば、制御用物質が固体である場合、処理対象水を上部側から下部側に向けて通水する方式に設けることができる。
【0027】
送水装置2は、処理対象水を後段側に向けて送水可能な送水手段や、大量の処理対象水を一時的に溜めるタンク等で構成される。処理対象水の送水は、ポンプ、水頭圧等の適宜の送水手段によって行うことができる。回収部8は、水質が制御された処理対象水を回収するためのタンク等で構成される。
【0028】
図1において、送水装置2は、配管3を介して、第1制御用物質4が収容された処理槽に接続されている。第1制御用物質4が収容された処理槽は、配管5を介して、第2制御用物質6が収容された処理槽に接続されている。第2制御用物質6が収容された処理槽は、配管7を介して、回収部8に接続されている。
【0029】
第1制御用物質4および第2制御用物質6は、それぞれ、所定の制御対象化学種を放出する作用を示す物質、または、所定の制御対象化学種を捕捉する作用を示す物質で構成される。第1制御用物質4および第2制御用物質6によって、処理対象水の水質が調整される。
【0030】
制御対象化学種とは、処理対象水の水質を制御する際に濃度や活量を調整することが求められる制御対象となる化学種を意味する。制御対象化学種は、イオン、化合物、分子、原子団、原子等、適宜の化学種であってよい。制御対象化学種としては、一回の連続処理において、一種の化学種を制御対象としてもよいし、複数種の化学種を制御対象としてもよい。例えば、処理対象水のpHを調整する場合、水素イオン、水酸化物イオン等の複数種の化学種が制御対象となり得る。
【0031】
制御対象化学種を放出する作用の具体例としては、処理対象水への溶解によるイオンの解離や、処理対象水との反応による化合物や分子の生成や、処理対象水の水相と制御用物質の液相との相間におけるイオン交換によるイオンの放出や、処理対象水の水相と制御用物質の液相との相間における相間分配によるイオン、化合物、分子等の放出等が挙げられる。
【0032】
制御対象化学種を捕捉する作用の具体例としては、制御対象化学種の化学吸着や、制御対象化学種の物理吸着や、制御対象化学種の吸収や、制御対象化学種の収着や、処理対象水の水相と制御用物質の液相との相間におけるイオン交換によるイオンの捕捉や、処理対象水の水相と制御用物質の液相との相間における相間分配によるイオン、化合物、分子等の捕捉等が挙げられる。
【0033】
制御対象化学種の具体例としては、処理対象水のpHを変化させる化学種や、汚染物質や毒性物質である化学種や、処理槽の後段側で行われる分離処理を阻害する阻害物質である化学種等が挙げられる。pHを変化させる化学種としては、水素イオン、水酸化物イオンや、これらのイオンを解離する化学種や、これらのイオンを結合する化学種や、これらのイオンが関与する平衡反応を移動させる化学種等が挙げられる。
【0034】
例えば、制御対象化学種としては、水素イオン(H+)、ヒドロニウムイオン(H3O+)、および、水酸化物イオン(OH-)のうちの一種以上を制御対象とすることができる。これらの濃度や活量を制御すると、処理対象水のpHを高い応答性で直接的に制御できる。また、処理対象水の初期pHが極端な場合であっても、処理対象水のpHを広範囲な目標値に制御できる。
【0035】
また、制御対象化学種としては、二酸化炭素(CO2)、炭酸(H2CO3)、炭酸水素イオン(HCO3
-)、炭酸イオン(CO3
2-)等の炭酸類や、二酸化ケイ素(SiO2)、オルトケイ酸(H4SiO4)、ケイ酸イオン(H3SiO4
-,H2SiO4
2-,HSiO4
3-,SiO4
4-)等のケイ酸類や、塩化物イオン(Cl-)、硫酸イオン(SO4
2-)、および、硝酸イオン(NO3
-)のうちの一種以上を制御対象とすることができる。これらの濃度や活量を制御すると、処理対象水のpHや、汚染物質や阻害物質となり得る析出物、カチオン、アニオン等を量的に制御できる。
【0036】
また、制御対象化学種としては、リチウムイオン(Li+)、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、ルビジウムイオン(Rb+)、セシウムイオン(Cs+)等の1族イオンや、ベリリウムイオン(Be2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、カルシウムイオン(Ca2+)、ストロンチウムイオン(Sr2+)、バリウムイオン(Ba2+)等の2族イオン、および、アンモニウムイオン(NH4
+)のうちの一種以上を制御対象とすることができる。これらの濃度や活量を制御すると、処理対象水のpHや、汚染物質や阻害物質となり得る析出物、カチオン、アニオン等を量的に制御できる。
【0037】
図1に示すように、第1制御用物質4は、処理対象水の通水経路において、第2制御用物質6よりも上流側に配置される。第2制御用物質6は、処理対象水の通水経路において、第1制御用物質4よりも下流側に配置される。処理対象水は、送水装置2から送水されると、第1制御用物質4に接触した後に、第2制御用物質6に接触して、水質が制御された処理対象水が得られる。
【0038】
第2制御用物質6としては、制御対象化学種を放出する作用を示す物質を用いる場合、制御対象化学種を放出できる残量が第1制御用物質4よりも小さい物質を用いる必要がある。また、制御対象化学種を捕捉する作用を示す物質を用いる場合、制御対象化学種を捕捉できる残量が第1制御用物質4よりも小さい物質を用いる必要がある。
【0039】
反対に、第1制御用物質4としては、制御対象化学種を放出または捕捉できる残量が第2制御用物質6よりも大きい物質を用いる必要がある。このような制御対象化学種を放出ないし捕捉できる残量に関する相対関係を形成すると、制御用物質の全体において水質を制御する作用の持続性を向上させることができる。
【0040】
なお、第1制御用物質4および第2制御用物質6としては、処理対象水の通水開始時から通水停止時までの一回の連続処理において、制御対象化学種を放出する作用および捕捉する作用のうち、互いに同じ方向の作用を生じる物質や、互いに同じ方向のpHの変化を生じる物質を用いるものとする。
【0041】
第1制御用物質4および第2制御用物質6としては、互いに同じ方向の作用や互いに同じ方向のpHの変化を生じる限り、互いに同じ種類の物質を用いてもよいし、互いに異なる種類の物質を用いてもよい。第1制御用物質4および第2制御用物質6としては、それぞれ、一種の物質を用いてもよいし、複数種の物質による混合物を用いてもよい。
【0042】
制御用物質の制御対象化学種を放出できる残量や、制御用物質の制御対象化学種を捕捉できる残量は、制御用物質の化学組成分析や、制御用物質を用いた実測による放出量や捕捉量の測定等によって確認できる。制御対象化学種を放出ないし捕捉できる残量に関する相対関係は、制御用物質に対する処理対象水の通水開始時や、一時的な通水停止後の通水再開時に充足していればよい。
【0043】
本実施形態に係る水質制御方法は、制御対象化学種を放出または捕捉する制御用物質に処理対象水を接触させて水質を制御する水質制御方法であって、
図1に示すような構成の水質制御装置1において行われる。
【0044】
本実施形態に係る水質制御方法は、制御対象化学種を放出または捕捉する第1制御用物質に処理対象水を接触させる第1工程と、第1工程の後に、制御対象化学種を放出できる残量または捕捉できる残量が第1制御用物質よりも小さい第2制御用物質に処理対象水を接触させる第2工程と、を含む。
【0045】
処理対象水は、送水装置2によって、配管3を介して第1制御用物質4が収容された処理槽に通水される。第1制御用物質4が収容された処理槽では、第1制御用物質4に処理対象水が接触する。接触によって、第1制御用物質4から制御対象化学種が放出されて、処理対象水の制御対象化学種の濃度や活量が上昇する。或いは、第1制御用物質4に制御対象化学種が捕捉されて、処理対象水の制御対象化学種の濃度や活量が低下する。
【0046】
続いて、処理対象水は、配管5を介して第2制御用物質6が収容された処理槽に通水される。第2制御用物質6が収容された処理槽では、第2制御用物質6に処理対象水が接触する。接触によって、第2制御用物質6から制御対象化学種が放出されて、処理対象水の制御対象化学種の濃度や活量が上昇する。或いは、第2制御用物質6に制御対象化学種が捕捉されて、処理対象水の制御対象化学種の濃度や活量が低下する。
【0047】
続いて、処理対象水は、配管7を介して回収部8に回収される。処理対象水は、制御用物質に接触した後に、制御対象化学種の濃度や活量が測定されてもよい。回収部8や配管7には、pH計、イオン選択性センサ、酸化還元電位センサ、温度センサ、圧力センサ等を設置できる。
【0048】
回収された処理対象水は、第1制御用物質4および第2制御用物質6への接触によって、制御対象化学種の濃度や活量が調整されて、所望の水質に制御された状態になる。例えば、汚染物質である化学種や、後段側で行われる分離処理を阻害する阻害物質である化学種が低減される。或いは、水素イオンの濃度の調整や、水酸化物イオンの濃度の調整や、水素イオンや水酸化物イオンが関与する平衡反応の移動によってpHが調整される。
【0049】
第1制御用物質4および第2制御用物質6としては、それぞれ、2族元素水酸化物、2族元素酸化物、2族元素炭酸塩、遷移金属水酸化物、遷移金属酸化物、ハイドロタルサイト、ケイチタン酸化合物、チタン酸化合物、イオン交換樹脂、キレート樹脂、ゼオライト、疎水性液体、および、気体のうちの一種以上を用いることが好ましい。
【0050】
2族元素水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。2族元素酸化物としては、酸化マグネシウム、酸化カルシウム等が挙げられる。2族元素炭酸塩としては、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。遷移金属水酸化物としては、水酸化マンガン(II)、水酸化鉄(II)、水酸化鉄(III)等が挙げられる。遷移金属酸化物としては、酸化チタン、酸化ジルコニウム、二酸化マンガン、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、四酸化三鉄、酸化ニッケル、酸化亜鉛、酸化銅等が挙げられる。
【0051】
ハイドロタルサイトとしては、天然ハイドロタルサイト、合成ハイドロタルサイト等が挙げられる。ケイチタン酸化合物としては、ケイチタン酸ナトリウム、ケイチタン酸カリウム等が挙げられる。チタン酸化合物としては、チタン酸ナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム等が挙げられる。イオン交換樹脂としては、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂等が挙げられる。
【0052】
キレート樹脂としては、イミノジ酢酸系キレート樹脂、アミノリン酸系キレート樹脂等が挙げられる。ゼオライトとしては、天然ゼオライト、合成ゼオライト等が挙げられる。疎水性液体としては、鉱油、合成油、植物油、動物油、ベンジン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン等が挙げられる。気体としては、アンモニア、二酸化炭素、二酸化窒素、塩素、フッ素、オゾン等が挙げられる。
【0053】
これらの制御用物質を用いると、処理対象水への溶解によって水素イオンや水酸化物イオン等の制御対象化学種を放出する作用や、制御対象化学種を化学吸着や物理吸着によって捕捉する作用や、制御対象化学種を処理対象水とのイオン交換反応によって放出または捕捉する作用や、制御対象化学種を処理対象水との相間分配によって放出または捕捉する溶媒抽出のような作用等を得ることができる。
【0054】
水質制御装置1は、回収部8に代えて、分離処理を行う分離部を備えてもよい。分離部では、第1制御用物質に処理対象水を接触させる第1工程、および、第2制御用物質に処理対象水を接触させる第2工程の後に、水質が制御された処理対象水に含まれる分離対象化学種を分離する分離処理を行う。水質が制御された後に分離処理を行うと、処理対象水に含まれる分離対象化学種を効率的に除去ないし回収できる。
【0055】
分離対象化学種とは、処理対象水から分離して除去ないし回収することが求められる分離対象となる化学種を意味する。分離対象化学種を分離することによって、処理対象水の浄化や、処理対象水に含まれる有用物質の再利用が可能になる。分離対象化学種は、イオン、化合物、分子、原子団、原子等、適宜の化学種であってよい。分離対象化学種としては、一回の連続処理において、一種の化学種を分離対象としてもよいし、複数種の化学種を分離対象としてもよい。
【0056】
分離対象化学種としては、ヒ素(As)、水銀(Hg)、カドミウム(Cd)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、鉄(Fe)等の重金属元素や、鉛(Pb)、錫(Sn)、ベリリウム(Be)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)等の両性元素や、放射性セシウム(Cs)、放射性ストロンチウム(Sr)、放射性コバルト(Co)、放射性ヨウ素(I)、放射性セシウム(Cs)、放射性ルテニウム(Ru)、ウラン(U)、プルトニウム(Pu)、アメリシウム(Am)およびキュリウム(Cm)等の放射性元素のうちの一種以上を分離対象とすることが好ましい。これらを分離対象とすると、pHの調整等の吸着処理等によって選択的で効率的な分離が可能であるため、制御用物質の組み合わせを用いた前処理がより有効になる。
【0057】
分離対象化学種を分離する分離処理としては、分離対象化学種を物理吸着ないし化学吸着を利用して分離する吸着処理、分離対象化学種をイオン交換反応を利用して分離するイオン交換処理、分離対象化学種を沈殿反応や凝集反応を利用して分離する沈殿処理、および、分離対象化学種を酸化還元反応を利用して分離する酸化還元処理のうちの一種以上を行うことが好ましい。分離処理としては、一種の処理を行ってもよいし、複数種の処理を組み合わせて行ってもよい。
【0058】
分離処理として吸着処理やイオン交換処理を行う場合、吸着材または固定相として、水酸化物、酸化物、炭酸塩、活性炭、イオン交換樹脂、キレート樹脂、ゼオライト、ケイチタン酸化合物、および、チタン酸化合物のうちの一種以上を用いることが好ましい。
【0059】
水酸化物としては、水酸化セリウム、水酸化マンガン(II)、水酸化鉄(II)、水酸化鉄(III)等が挙げられる。酸化物としては、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、四酸化三鉄等が挙げられる。炭酸塩としては、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。イオン交換樹脂としては、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂等が挙げられる。キレート樹脂としては、イミノジ酢酸系キレート樹脂、アミノリン酸系キレート樹脂等が挙げられる。ゼオライトとしては、天然ゼオライト、合成ゼオライト等が挙げられる。ケイチタン酸化合物としては、ケイチタン酸ナトリウム、ケイチタン酸カリウム等が挙げられる。チタン酸化合物としては、チタン酸ナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム等が挙げられる。
【0060】
また、分離処理として沈殿処理を行う場合、沈殿剤として、水酸化物、炭酸塩、カルシウム塩、鉄系凝集剤、アルミ系凝集剤、および、有機高分子凝集剤のうちの一種以上を用いることが好ましい。
【0061】
水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。カルシウム塩としては、炭酸カルシウム、塩化カルシウム等が挙げられる。鉄系凝集剤としては、塩化鉄(III)、塩化鉄(II)、ポリ硫酸第二鉄等が挙げられる。アルミ系凝集剤としては、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム等が挙げられる。有機高分子凝集剤としては、カチオン系高分子凝集剤、アニオン系高分子凝集剤、ノニオン系高分子凝集剤等が挙げられる。
【0062】
分離処理として酸化還元処理を行う場合、酸化還元剤として、過酸化水素、次亜塩素酸化合物、亜塩素酸化合物、塩素酸化合物、過塩素酸化合物、硝酸化合物、過マンガン酸化合物、クロム酸化合物、鉄化合物、亜硫酸化合物、チオ硫酸化合物、ギ酸化合物、シュウ酸化合物、アスコルビン酸化合物、および、ヒドラジンのうちの一種以上を用いることが好ましい。
【0063】
次亜塩素酸化合物としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウム等が挙げられる。亜塩素酸化合物としては、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム等が挙げられる。塩素酸化合物としては、塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム、塩素酸カルシウム、塩素酸バリウム、塩素酸アンモニウム等が挙げられる。過塩素酸化合物としては、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸カルシウム、過塩素酸マグネシウム、過塩素酸アンモニウム等が挙げられる。硝酸化合物としては、硝酸、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸カルシウム、硝酸エステル等が挙げられる。過マンガン酸化合物としては、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸アンモニウム等が挙げられる。クロム酸化合物としては、クロム酸ナトリウム、クロム酸カリウム、クロム酸アンモニウム等が挙げられる。鉄化合物としては、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)等が挙げられる。亜硫酸化合物としては、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸マグネシウム、亜硫酸アンモニウム等が挙げられる。チオ硫酸化合物としては、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸カルシウム、チオ硫酸アンモニウム等が挙げられる。シュウ酸化合物としては、シュウ酸、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸アンモニウム等が挙げられる。アスコルビン酸化合物としては、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸リン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0064】
ここで、水質制御装置1の構成を用いた水質を制御する処理の具体例を示す。
【0065】
処理対象水は、廃棄物処理施設で生じるヒ素を含む廃液である。処理対象水の水質を制御する目的は、吸着材として用いる水酸化セリウムの吸着能を適切に発揮させることである。水酸化セリウムは、pH9程度の弱アルカリ性条件下で、廃液中に存在するヒ酸を選択的に吸着する吸着能を示すため、処理対象水をpH8~10の範囲内に制御する。制御対象化学種は、水酸化物イオンである。分離対象化学種は、ヒ酸である。
【0066】
図2は、処理対象水の通水時間と制御用物質によるpHの変化との関係の評価結果を示す図である。
図2には、
図1に示す構成の水質制御装置において、処理対象水を制御用物質に通水したときの通水時間に対するpHの変化を測定した結果を示す。制御用物質としては、運用条件毎に同量の酸化マグネシウムを用いた。
【0067】
図2において、一点鎖線は、制御用物質に接触する前の処理対象水の測定結果を示す。点線は、第1制御用物質として新品の酸化マグネシウムを用い、第2制御用物質を用いなかった運用条件(a)の測定結果を示す。破線は、第1制御用物質として使用済品の酸化マグネシウムを用い、第2制御用物質として新品の酸化マグネシウムを用いた運用条件(b)の測定結果を示す。実線は、第1制御用物質として新品の酸化マグネシウムを用い、第2制御用物質として使用済品の酸化マグネシウムを用いた運用条件(c)の測定結果を示す。
【0068】
酸化マグネシウムは、次の式(1)のように溶解によって水酸化物イオンを放出する。
MgO + H2O → Mg2+ + 2OH- ・・・(1)
使用済品の酸化マグネシウムは、制御対象化学種である水酸化物イオンを放出できる残量が、新品の酸化マグネシウムよりも小さい状態である。
【0069】
図3は、処理対象水の通水時間に対する制御用物質の挙動を示す図である。
図3には、
図2に示した各運用条件(a)~(c)について、酸化マグネシウムによる水酸化物イオンを放出できる残量の時間的な挙動を示す。
図3の左図は、運用条件(a)の場合の挙動である。
図3の中央図は、運用条件(b)の場合の挙動である。
図3の右図は、運用条件(c)の場合の挙動である。
【0070】
図3において、各グラフは、酸化マグネシウムの水酸化物イオンを放出できる残量を試算した結果を示す。上段のグラフは、通水初期についての試算結果を示す。下段のグラフは、通水後期についての試算結果を示す。運用条件(b)および(c)については、左側のグラフが第1制御用物質についての残量を示し、右側のグラフが第2制御用物質についての残量を示す。
【0071】
各グラフの縦軸は、酸化マグネシウムの水酸化物イオンを放出できる残量を示す。各グラフの横軸は、処理槽に充填された酸化マグネシウムの通水経路上における位置を示す。各グラフの淡色の網掛けは、通水の開始直後における状態である。各グラフの濃色の網掛けは、通水の終了直前における状態である。
【0072】
図2の点線で示すように、新品のみを1段で用いた基準となる運用条件(a)では、制御用物質に接触する前のpHと比較して、通水後のpHが上昇した。これは、処理対象水の接触によって酸化マグネシウムが溶解し、水酸化物イオンの放出が起こったためである。運用条件(a)では、通水時間が経過すると、pHが次第に低下した。これは、酸化マグネシウムの溶解が進み、水酸化物イオンの放出量が低下していったためである。
図3に示すように、酸化マグネシウムは、入口側から優先的に消費される。
【0073】
図2の破線で示すように、第1制御用物質として使用済品、第2制御用物質として新品を用いた運用条件(b)では、運用条件(a)と比較して、通水時間の全体において、通水後のpHが上昇した。これは、新品よりも上流に使用済品を追加したことによって、新品だけでなく使用済品からも水酸化物イオンの放出が起こったためである。
【0074】
また、運用条件(b)では、運用条件(a)と比較して、通水初期において、制御用物質に接触した後のpHが大きく上昇した。これは、新品よりも上流に追加された使用済品が、通水初期に新品よりも優先的に水酸化物イオンを放出したためである。
図3に示すように、運用条件(b)では、通水初期に使用済品が先に消費されるため、使用済品の寄与が加わって通水初期のpHが大きく上昇する。
【0075】
図2の実線で示すように、第1制御用物質として新品、第2制御用物質として使用済品を用いた運用条件(c)では、運用条件(a)と比較して、通水時間の全体において、通水後のpHが上昇した。これは、新品よりも下流に使用済品を追加したことによって、新品だけでなく使用済品からも水酸化物イオンの放出が起こったためである。
【0076】
また、運用条件(c)では、運用条件(a)と比較して、通水後期において、制御用物質に接触した後のpHが大きく上昇した。これは、新品よりも下流に追加された使用済品が、通水後期に新品よりも優先的に水酸化物イオンを放出したためである。
図3に示すように、運用条件(c)では、通水初期に新品が先に消費されるため、使用済品が消耗し難くなり、残存した使用済品の寄与が加わって通水後期のpHが大きく上昇する。
【0077】
運用条件(c)では、通水初期において、第1制御用物質が優先的に水酸化物イオンを放出し、第2制御用物質に水酸化物イオン濃度が高くなった処理対象水が接触する。そのため、第2制御用物質は、化学平衡によって水酸化物イオンを放出し難くなる。一方、通水後期においては、消耗した第1制御用物質が水酸化物イオンを放出し難くなり、第2制御用物質に水酸化物イオン濃度が低くなった処理対象水が接触する。その結果、第2制御用物質は、化学平衡によって水酸化物イオンを放出し易くなる。
【0078】
なお、運用条件(a)~(c)では、第1制御用物質および第2制御用物質として、いずれも酸化マグネシウムを用いている。しかし、第1制御用物質および第2制御用物質としては、制御対象化学種を放出できる残量や制御対象化学種を捕捉できる残量が下流側の制御用物質よりも上流側の制御用物質で大きくなる組み合わせである限り、異なる種類の制御用物質の組み合わせを用いることもできる。
【0079】
このような水質制御装置1や水質制御方法によると、制御対象化学種を放出または捕捉する第1制御用物質に処理対象水を接触させた後に、制御対象化学種を放出できる残量または捕捉できる残量が第1制御用物質よりも小さい第2制御用物質に処理対象水を接触させるため、制御用物質の全体による作用の持続性を向上させることができる。第1制御用物質および第2制御用物質について、互いに同量の制御用物質を用いた場合であっても、制御用物質による水質を制御する作用を長期間にわたって得ることができる。
【0080】
水質の制御に用いる制御用物質は、通水の継続によって消耗ないし劣化する。しかし、このような制御対象化学種を放出ないし捕捉できる残量に関する相対関係を形成すると、制御用物質の交換の時間間隔の延長や、制御用物質の交換の頻度の低減が可能である。制御用物質の交換時には、処理対象水の通水や後段側で行われる連続的な分離処理等を頻繁に中断しなくて済む。また、使用によって消耗ないし劣化した制御用物質が頻繁には発生しなくなる。よって、処理対象水の水質の制御において、より長期間の連続処理が可能であり、制御用物質に由来する廃棄物の発生量を低減することが可能になる。
【0081】
また、制御用物質に処理対象水を接触させた後に、処理対象水に含まれる分離対象化学種を分離する分離処理を行う場合には、pHの調整や阻害物質の低減が行われた処理対象水が分離処理されるため、分離処理に用いられる吸着材等の分離手段の性能を適切に得ることができる。適正な性能を示す分離手段によって、分離対象化学種の除去ないし回収を効率的に行うことができる。また、分離対象化学種の除去ないし回収を化学種選択的に行うことができる。
【0082】
また、制御用物質に処理対象水を接触させた後に、処理対象水を外部や環境中等に排水する場合には、処理対象水に含まれる重金属等の汚染物質の濃度を継続的に制御できるため、排水基準に適合した排水を安定的に続けることができる。また、処理対象水を外部や環境中等に排水することなくタンクに保管する場合には、処理対象水の水質を継続的に適正化できるため、保管用タンクの腐食や劣化を抑制できる。また、保管用タンクの材質の選定の自由度を拡張することができる。
【0083】
<第2実施形態>
図4は、第2実施形態に係る水質制御装置の概略構成を示す図である。
図4に示すように、第2実施形態に係る水質制御装置1Aは、送水装置2と、配管3と、第1制御用物質4を収容した第1制御用物質容器(第1処理槽)4Aと、配管5と、第2制御用物質6を収容した第2制御用物質容器(第2処理槽)6Aと、配管7と、回収部8と、交換用容器(新規の処理槽)9と、を備えている。
【0084】
第2実施形態に係る水質制御装置1Aが、前記の水質制御装置1と異なる点は、制御用物質が交換式の制御用物質容器に収容されており、制御用物質の交換時に容器単位で制御用物質の交換が行われる点である。水質制御装置1Aの他の主要な構成や動作は、前記の水質制御装置1の場合と同様である。
【0085】
制御用物質は、第1制御用物質容器4Aや第2制御用物質容器6Aや交換用容器9の内部において、処理対象水を通水可能な充填層を形成する。第1制御用物質容器4Aや第2制御用物質容器6Aや交換用容器9は、制御用物質で形成された充填層に処理対象水を通水する充填塔の方式とされる。これらの容器は、充填層に処理対象水を通水可能である限り、適宜の容器形態とすることができる。
【0086】
図4において、送水装置2は、配管3を介して第1制御用物質4が収容された第1制御用物質容器4Aに接続されている。第1制御用物質4が収容された第1制御用物質容器4Aは、配管5を介して第2制御用物質6が収容された第2制御用物質容器6Aに接続されている。第2制御用物質6が収容された第2制御用物質容器6Aは、配管7を介して回収部8に接続されている。
【0087】
交換用容器9には、所定の制御対象化学種を放出する作用を示す物質、または、所定の制御対象化学種を捕捉する作用を示す物質が、消耗していない新品の状態で用意される。第1制御用物質容器4A、第2制御用物質容器6Aおよび交換用容器9は、互いに交換可能な着脱式の構造に設けられる。交換用容器9は、制御用物質の交換時に、消耗していない新品の制御用物質を収容した制御用物質容器として導入される。
【0088】
第1制御用物質容器4A、第2制御用物質容器6Aおよび交換用容器9は、充填層に処理対象水を通水可能である限り、ステンレス鋼、鉄鋼、ニッケル合金等の適宜の材料で、円筒状、矩形筒状、多角筒状等の適宜の形状に設けることができる。これらの容器は、通水入口、通水出口の他に、開閉自在な排気口を備えてもよい。これらの容器は、同一の制御用物質について単段式に設けられてもよいし、多段式に設けられてもよい。
【0089】
図5は、第2実施形態に係る水質制御装置の運用を示すフローチャートである。
図5に示すように、第2実施形態に係る水質制御装置1Aでは、制御対象化学種の濃度に基づいて、制御用物質を収容した制御用物質容器の交換時期を判定できる。
【0090】
図5に示す運用において、制御用物質容器の交換は、制御対象化学種を放出できる残量または制御対象化学種を捕捉できる残量が下流側の制御用物質よりも上流側の制御用物質で大きくなる相対関係が維持されるように行う。
【0091】
処理対象水の水質の制御時には、はじめに、処理対象水の制御対象化学種の目標濃度範囲を設定する(ステップS1)。制御対象化学種の目標濃度範囲は、例えば、回収部8の入口における濃度の目標範囲として設定できる。
【0092】
続いて、制御用物質への処理対象水の通水を開始する(ステップS2)。処理対象水の通水開始時において、制御用物質容器は、制御対象化学種を放出できる残量または制御対象化学種を捕捉できる残量が下流側の制御用物質よりも上流側の制御用物質で大きくなるように配置される。
【0093】
続いて、制御用物質への処理対象水の通水を行っている間に、処理対象水の制御対象化学種の濃度が設定した目標濃度範囲内であるか否かを判定する(ステップS3)。制御対象化学種の濃度は、回収部8の入口や配管7等において、連続的または間欠的に測定することができる。
【0094】
ステップS3における判定の結果、制御対象化学種の濃度が目標濃度範囲外であるとき(ステップS3;No)、処理をステップS4に進め、制御用物質への処理対象水の通水を停止する(ステップS4)。例えば、制御用物質として酸化マグネシウムを用いた場合、水酸化物イオンの放出量が低下し、回収部8の入口におけるpHが目標濃度範囲の下限よりも低くなったとき、処理対象水の通水を停止する。
【0095】
続いて、処理対象水の通水を停止している間に、制御用物質を制御用物質容器ごと交換する(ステップS5)。制御用物質の作用が消耗によって低下しているため、消耗した使用済品の制御用物質が収容された制御用物質容器を、新品の制御用物質が収容された制御用物質容器に交換する。
【0096】
制御用物質容器の交換時には、
図4に示すように、上流側に配置された第1制御用物質容器4Aが下流側に繰り下げられると共に、上流側に新品の制御用物質が収容された新規の交換用容器9が配置される。また、下流側に配置されていた第2制御用物質容器6Aを廃棄することができる。制御用物質容器の交換後には、繰り下げられた第1制御用物質容器4Aに収容された制御用物質が新規の交換用容器9に収容された制御用物質と共に利用されて水質が制御される。
【0097】
制御用物質容器の交換を行うと、処理対象水は、新しく交換された新品の第1制御用物質に接触した後に、制御対象化学種を放出できる残量または捕捉できる残量が第1制御用物質よりも小さい使用済品の第2制御用物質に接触することになる。制御対象化学種を放出ないし捕捉できる残量に関する相対関係が維持されるため、制御用物質による作用をより持続的に得ることができる。
【0098】
続いて、制御用物質容器を交換した後に、処理をステップS2に戻し、処理対象水の通水を再開する(ステップS2)。
【0099】
一方、ステップS3における判定の結果、制御対象化学種の濃度が目標濃度範囲内であるとき(ステップS3;Yes)、処理をステップS6に進め、目標処理量の通水が完了したか否かを判定する(ステップS6)。
【0100】
ステップS6における判定の結果、目標処理量の通水が完了していないとき(ステップS6;No)、処理をステップS3に戻し、処理対象水の通水を継続したまま、処理対象水の制御対象化学種の濃度の再判定を行う(ステップS3)。
【0101】
一方、ステップS6における判定の結果、目標処理量の通水が完了しているとき(ステップS6;Yes)、処理をステップS7に進め、処理対象水の通水を終了する(ステップS7)。
【0102】
このような運用によると、処理対象水を連続処理する間に、制御用物質の下流側で測定された制御対象化学種の濃度に基づいて、制御用物質容器の交換時期を判定できる。制御対象化学種を放出または捕捉できる残量が互いに異なる制御用物質の組み合わせについて、制御用物質の交換時期を、予め所定時期に定めることなく、連続処理中の実測に基づいて定めることができる。そのため、制御用物質を交換しながら、新品の制御用物質を上流側に配置する運用を持続的に行って、制御用物質を全体としての使用量当たりで有効利用できる。また、従来の繰り上げを行うメリーゴーランド運用とは異なり、制御用物質の繰り下げを行うため、制御用物質の全体による作用の持続性を向上させて、制御用物質の交換の時間間隔を延長できる。
【0103】
図6は、処理対象水の通水量と制御用物質によるpHの変化との関係の評価結果を示す図である。
図6には、
図1に示す構成の水質制御装置において、処理対象水を制御用物質に通水したときの通水量に対するpHの変化を測定した結果を示す。制御用物質としては、運用条件毎に同量の酸化マグネシウムを用いた。pHが7.0である処理対象水を通水して、制御用物質に接触した後のpHを測定した。水質の制御目標範囲は、pH8.0~10.0とした。
【0104】
図6において、点線は、第1制御用物質として新品の酸化マグネシウムを用い、第2制御用物質を用いなかった運用条件(a)の測定結果を示す。実線は、第1制御用物質として新品の酸化マグネシウムを用い、第2制御用物質として使用済品の酸化マグネシウムを用いた運用条件(c)の測定結果を示す。
【0105】
運用条件(a)では、回収部8に流入する処理対象水のpHが制御目標範囲の下限を下回ると、使用していた第1制御用物質容器を廃棄して、新しい第1制御用物質容器を配置する。運用条件(c)では、回収部8に流入する処理対象水のpHが制御目標範囲の下限を下回ると、使用していた第2制御用物質容器を廃棄して、使用していた第1制御用物質容器をくり下げて下流側に配置し新しい第2制御用物質容器として利用し、上流側に新しい第1制御用物質容器を配置する。つまり、運用条件(a)と運用条件(c)のいずれも、回収部8に流入する処理対象水のpHが制御目標範囲の下限を下回ると、使用していた制御用物質容器を1つ廃棄し、新しい制御用物質容器を1つ設置することになる。
【0106】
図6に示すように、処理対象水のpHが制御目標範囲内となる通水量の範囲は、運用条件(a)の場合と比較して、運用条件(c)の場合に約1.2倍まで増大した。よって、
図4に示す水質制御装置1Aで、
図5に示すような運用を行うと、制御用物質の交換時期を延長して、制御用物質を全体として有効利用し、多量の処理対象水を連続的に処理できる。
【0107】
このような水質制御装置1Aや水質制御方法によると、制御対象化学種を放出または捕捉する第1制御用物質に処理対象水を接触させた後に、制御対象化学種を放出できる残量または捕捉できる残量が第1制御用物質よりも小さい第2制御用物質に処理対象水を接触させるため、前記の水質制御装置1や水質制御方法と同様の効果を得ることができる。
【0108】
また、このような水質制御装置1Aや水質制御方法によると、制御用物質の交換を制御用物質容器ごと行うため、上流側で使用した制御用物質を下流側で再使用することが容易になる。制御対象化学種を放出ないし捕捉できる残量に関する相対関係を、制御用物質を無駄にすることなく容易に維持できる。また、制御用物質に由来する廃棄物の発生量を最小限に低減できる。
【0109】
<第3実施形態>
図7は、第3実施形態に係る水質制御装置の概略構成を示す図である。
図7に示すように、第3実施形態に係る水質制御装置1Bは、送水装置2と、配管3と、第1制御用物質4Bと、配管5と、第2制御用物質6Bと、配管7と、回収部8と、制御用物質容器(処理槽)10と、を備えている。
【0110】
第3実施形態に係る水質制御装置1Bが、前記の水質制御装置1と異なる点は、第1制御用物質および第2制御用物質が同一の制御用物質容器に収容されている点である。水質制御装置1Bの他の主要な構成や動作は、前記の水質制御装置1の場合と同様である。
【0111】
制御用物質は、単一の制御用物質容器10の内部において、処理対象水を通水可能な充填層を形成する。制御用物質容器10は、制御用物質で形成された充填層に処理対象水を通水する充填塔の方式とされる。制御用物質容器10は、充填層に処理対象水を通水可能である限り、適宜の容器形態とすることができる。
【0112】
図7において、送水装置2は、配管3を介して第1制御用物質4Bおよび第2制御用物質6Bが収容された制御用物質容器10に接続されている。第1制御用物質4Bおよび第2制御用物質6Bが収容された制御用物質容器10は、配管7を介して回収部8に接続されている。
【0113】
制御用物質容器10には、制御対象化学種を放出または捕捉できる残量が相対的に大きい第1制御用物質4Bと、制御対象化学種を放出または捕捉できる残量が相対的に小さい第2制御用物質6Bとが、処理対象水の通水方向に分けて用意される。制御用物質容器10は、上部等を開閉自在な構造に設けられる。
【0114】
制御用物質容器10は、充填層に処理対象水を通水可能である限り、ステンレス鋼、鉄鋼、ニッケル合金等の適宜の材料で、円筒状、矩形筒状、多角筒状等の適宜の形状に設けることができる。制御用物質容器10は、通水入口、通水出口の他に、開閉自在な排気口や、制御用物質の取出口を備えてもよい。制御用物質容器10は、第1制御用物質4Bと第2制御用物質6Bとの間に、処理対象水の通水を許容する仕切部材等を備えてもよいし、制御用物質同士の収容位置が区画される限り、仕切部材等を備えなくてもよい。
【0115】
図8は、第3実施形態に係る水質制御装置の運用を示すフローチャートである。
図8に示すように、第3実施形態に係る水質制御装置1Bでは、制御対象化学種の濃度に基づいて、制御用物質の交換時期および制御用物質の交換方法を判定できる。
【0116】
図8に示す運用において、制御用物質容器の交換は、制御対象化学種を放出できる残量または制御対象化学種を捕捉できる残量が下流側の制御用物質よりも上流側の制御用物質で大きくなる相対関係が維持されるように行う。制御用物質の交換は、制御用物質を収容した制御用物質容器ごとの交換、または、制御用物質の追加によって行うことができる。
【0117】
処理対象水の水質の制御時には、
図5に示す運用と同様に、はじめに、制御対象化学種の目標濃度範囲の設定(ステップS1)、処理対象水の通水の開始(ステップS2)、制御対象化学種の濃度の判定(ステップS3)を行う。
【0118】
ステップS3における判定の結果、制御対象化学種の濃度が目標濃度範囲外であるとき(ステップS3;No)、処理をステップS4に進め、制御用物質への処理対象水の通水を停止する(ステップS4)。
【0119】
続いて、処理対象水の通水を停止している間に、制御用物質容器に制御用物質を追加することが可能な空き容量があるか否かを判定する(ステップS5A)。例えば、制御用物質が固体であり、制御用物質容器10が、処理対象水を上部側から下部側に向けて通水する方式である場合、容器内の上部に収容空間が残っているか否かを判定する。
【0120】
ステップS5Aにおける判定の結果、制御用物質容器に空き容量があるとき(ステップS5A;Yes)、処理をステップS5Bに進め、制御用物質容器に消耗していない新品の制御用物質を追加する(ステップS5B)。新品の制御用物質は、使用済品の制御用物質よりも上流側に位置するように、容器内の上部等に追加する。制御用物質の交換後には、上流側に収容された新規の制御用物質が下流側に収容された制御用物質と共に利用されて水質が制御される。制御用物質容器10の構造や、制御用物質の種類によっては、下流側に位置する使用済品の制御用物質を取り出してもよい。
【0121】
一方、ステップS5Aにおける判定の結果、制御用物質容器に空き容量がないとき(ステップS5B;No)、処理をステップS5Cに進め、制御用物質容器を交換する(ステップS5C)。使用済品の制御用物質を制御用物質容器ごと廃棄し、廃棄された制御用物質容器が配置されていた場所に、新規の制御用物質容器を配置する。新規の制御用物質容器としては、制御用物質を追加することが可能な空き容量があり、なおかつ、新品の制御用物質が内蔵された制御用物質容器、または、少なくとも上流側に新品の制御用物質が収容されており、制御対象化学種を放出ないし捕捉できる残量に関する相対関係を満たす制御用物質容器を配置することができる。
【0122】
続いて、制御用物質を追加または制御用物質容器を交換した後に、処理をステップS2に戻し、処理対象水の通水を再開する(ステップS2)。
【0123】
一方、ステップS3における判定の結果、制御対象化学種の濃度が目標濃度範囲内であるとき(ステップS3;Yes)、処理をステップS6に進め、
図5に示す運用と同様に、目標処理量の通水が完了したか否かを判定する(ステップS6)。
【0124】
このような運用によると、処理対象水を連続処理する間に、制御用物質の下流側で測定された制御対象化学種の濃度に基づいて、制御用物質の追加時期や制御用物質容器の交換時期を判定できる。また、制御用物質容器の空き容量に基づいて、制御用物質の追加と制御用物質容器の交換を判定できる。そのため、制御用物質を交換しながら、新品の制御用物質を上流側に配置する運用を持続的に行って、制御用物質を全体としての使用量当たりで有効利用できる。
【0125】
このような水質制御装置1Bや水質制御方法によると、制御対象化学種を放出または捕捉する第1制御用物質に処理対象水を接触させた後に、制御対象化学種を放出できる残量または捕捉できる残量が第1制御用物質よりも小さい第2制御用物質に処理対象水を接触させるため、前記の水質制御装置1や水質制御方法と同様の効果を得ることができる。
【0126】
また、このような水質制御装置1Bや水質制御方法によると、制御用物質を単一の制御用物質容器に収容するため、消耗していない新品の制御用物質を追加する対応や、消耗した制御用物質を収容した制御用物質容器を交換する対応によって、制御対象化学種を放出ないし捕捉できる残量に関する相対関係を、制御用物質を無駄にすることなく容易に維持できる。また、複数の制御用物質容器を設置する場所がない場合であっても、制御対象化学種を放出ないし捕捉できる残量に関する相対関係を容易に作出できる。
【0127】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、本発明は、必ずしも前記の実施形態が備える全ての構成を備えるものに限定されない。或る実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えたり、或る実施形態の構成の一部を他の形態に追加したり、或る実施形態の構成の一部を省略したりすることができる。
【0128】
例えば、前記の水質制御装置1,1A,1Bや、前記の水質制御方法は、第1制御用物質と第2制御用物質を用いる2段の構成とされている。しかし、制御用物質や、制御用物質を収容する制御用物質容器は、3段以上の構成とすることもできる。前記の第1制御用物質や第2制御用物質は、3段以上の構成において、いずれの段に該当してもよい。
【0129】
すなわち、3段以上の構成とする場合、制御対象化学種を放出ないし捕捉できる残量に関する相対関係は、通水経路の上流側に位置する前段側と下流側に位置する後段側との間に形成されればよい。制御対象化学種を放出ないし捕捉できる残量は、下流側で大きくなる相対関係を含まない限り、隣接する一部の制御用物質同士の間では同等の残量とされてもよい。
【符号の説明】
【0130】
1,1A,1B:水質制御装置
2:送水装置
3,5,7:配管
4,4B:第1制御用物質
4A:第1制御用物質容器(処理槽)
6,6B:第2制御用物質
6A:第2制御用物質容器(処理槽)
8:回収部
9:交換用容器(処理槽)
10:制御用物質容器(処理槽)