(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006276
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】耐火被覆材
(51)【国際特許分類】
A62C 2/00 20060101AFI20240110BHJP
D21H 13/38 20060101ALI20240110BHJP
F16L 59/04 20060101ALI20240110BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
A62C2/00 X
D21H13/38
F16L59/04
E04B1/94 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022107006
(22)【出願日】2022-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592140300
【氏名又は名称】丸三製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】城島 裕介
(72)【発明者】
【氏名】依田 篤士
(72)【発明者】
【氏名】若山 恵英
(72)【発明者】
【氏名】小林 貴也
(72)【発明者】
【氏名】林 尚輝
【テーマコード(参考)】
2E001
3H036
4L055
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001FA01
2E001FA02
2E001GA12
2E001HA31
2E001HA32
2E001HD11
3H036AA09
3H036AB15
3H036AB24
3H036AC01
3H036AE01
4L055AF01
4L055AF13
4L055AF17
4L055AF50
4L055AH01
4L055EA04
4L055EA08
4L055EA16
4L055EA32
4L055FA11
4L055GA21
(57)【要約】
【課題】軽量で、鉄骨材の骨組みを被覆し易く、かつ、低コストで製造可能な耐火被覆材を提供する。
【解決手段】耐火被覆材1は、鉄骨造の骨組みを被覆する耐火被覆材であって、生体溶解性ファイバ単独、又は、前記生体溶解性ファイバとロックウールとによる混合ウールからなる人造鉱物短繊維50~99質量%と、有機質繊維からなる有機質結合剤1~11質量%と、を含む組成物の水分スラリーを湿式抄造して得られるものである。前記組成物は、粒度分布が0.2~8mmである加熱膨張性無機質粉末を、0質量%を超えて11質量%以下の割合で含む。耐火被覆材1のかさ密度は、0.13g/cm
3以上で、かつ0.18g/cm
3未満である。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨造の骨組みを被覆する耐火被覆材であって、
生体溶解性ファイバ単独、又は、前記生体溶解性ファイバとロックウールとによる混合ウールからなる人造鉱物短繊維50~99質量%と、
有機質繊維からなる有機質結合剤1~11質量%と、を含む組成物の水分スラリーを湿式抄造して得られる
ことを特徴とする耐火被覆材。
【請求項2】
前記組成物は、粒度分布が0.2~8mmである加熱膨張性無機質粉末を、0質量%以上、11質量%以下の割合で含むことを特徴とする耐火被覆材。
【請求項3】
前記耐火被覆材のかさ密度は、0.13g/cm3以上で、かつ0.18g/cm3未満である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の耐火被覆材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、耐火被覆材に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、鉄骨耐火被覆工事の7割は半湿式耐火被覆により行われる。乾式の耐火被覆工法も存在するが、普及率は2割以下である。半湿式耐火被覆工事はコストに優れるが、作業者の保護具着用、作業エリアの養生及び清掃が行われるため、付帯作業が多く作業環境及び作業効率が低い。一方、乾式耐火被覆は、コストが高いが、合番作業(他の種類の工事との同時並行作業)が可能であり、作業環境及び作業効率に優れる。
特許文献1の請求項1には「ロックウール又はセラミックウールの、単独又は混合ウールからなる人造鉱物短繊維50~90wt%、粒度分布が0.2~8mmである加熱膨張性無機質粉末5~25wt%、焼結性無機質材5~10wt%、有機質樹脂又は有機質樹脂と熱融着性有機質繊維からなる有機質結合剤2~10wt%組成物の水分スラリーを湿式抄造して得られることを特徴とする加熱膨張型無機質繊維フェルト。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
薄型耐火被覆のメリットとしては、搬送時に大量に運搬可能となる、現場での仮置きスペースが縮小できる、切断等の現場での加工が容易になる、等の事項が挙げられる。このため、最終的に耐火被覆工事の作業環境の改善及び作業効率の向上が可能となる。
本開示が解決しようとする課題は、軽量で、鉄骨材の骨組みを被覆し易く、かつ、低コストで製造可能な耐火被覆材の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の耐火被覆材は、鉄骨造の骨組みを被覆する耐火被覆材であって、生体溶解性ファイバ単独、又は、前記生体溶解性ファイバとロックウールとによる混合ウールからなる人造鉱物短繊維50~99質量%と、有機質繊維からなる有機質結合剤1~11質量%と、を含む組成物の水分スラリーを湿式抄造して得られる。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、軽量で、鉄骨材の骨組みを被覆し易く、かつ、低コストで製造可能な耐火被覆材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1A】本開示の耐火被覆材の一方面側からの斜視図である。
【
図1B】本開示の耐火被覆材の他方面側からの斜視図である。
【
図2】本開示の耐火被覆材を構成する材料割合を示す図である。
【
図3】加熱試験中の実施例1、比較例1,2の耐火被覆材の温度、及び炉内温度の変化を示したグラフである。
【
図4A】実施例1において、加熱前の耐火被覆材を真上から撮影した図面代用写真である。
【
図4B】実施例1において、加熱前の耐火被覆材を斜め上から撮影した図面代用写真である。
【
図5A】実施例1において、加熱後の耐火被覆材を真上から撮影した図面代用写真である。
【
図5B】実施例1において、加熱後の耐火被覆材を斜め上から撮影した図面代用写真である。
【
図6A】実施例2において、加熱前の耐火被覆材を真上から撮影した図面代用写真である。
【
図6B】実施例2において、加熱前の耐火被覆材を斜め上から撮影した図面代用写真である。
【
図7A】実施例2において、加熱後の耐火被覆材を真上から撮影した図面代用写真である。
【
図7B】実施例2において、加熱後の耐火被覆材を斜め上から撮影した図面代用写真である。
【
図8A】比較例1において、加熱前の耐火被覆材を真上から撮影した図面代用写真である。
【
図8B】比較例1において、加熱前の耐火被覆材を斜め上から撮影した図面代用写真である。
【
図9A】比較例1において、加熱後の耐火被覆材を真上から撮影した図面代用写真である。
【
図9B】比較例1において、加熱後の耐火被覆材を斜め上から撮影した図面代用写真である。
【
図10A】比較例2において、加熱前の耐火被覆材を真上から撮影した図面代用写真である。
【
図10B】比較例2において、加熱前の耐火被覆材を斜め上から撮影した図面代用写真である。
【
図11A】比較例2において、加熱後の耐火被覆材を真上から撮影した図面代用写真である。
【
図11B】比較例2において、加熱後の耐火被覆材を斜め上から撮影した図面代用写真である。
【0008】
以下、図面を参照しながら本開示を実施するための形態(実施形態と称する)を説明する。以下の一の実施形態の説明の中で、適宜、一の実施形態に適用可能な別の実施形態の説明も行う。本開示は以下の実施形態に限られず、異なる実施形態同士を組み合わせたり、本開示の効果を著しく損なわない範囲で任意に変形したりできる。また、同じ部材については同じ符号を付すものとし、重複する説明は省略する。更に、同じ機能を有するものは同じ名称を付すものとする。図示の内容は、あくまで模式的なものであり、図示の都合上、本開示の効果を著しく損なわない範囲で実際の構成から変更したり、図面間で一部の部材の図示を省略したり変形したりすることがある。
【0009】
図1Aは、本開示の耐火被覆材1の一方面側からの斜視図である。耐火被覆材1は、鉄骨造の骨組を被覆するものである。耐火被覆材1は、例えばロール状に巻回されて構成でき、図示の例では、その一部を正方形状に切断した耐火被覆材1が示される。耐火被覆材1は、耐火被覆材1を構成する原料を含む組成物(以下、原料組成物という)の水分スラリーを湿式抄造して得られる。原料組成物は、水を分散媒として、少なくとも人造鉱物短繊維(以下、「鉱物繊維」という)と、有機質結合剤(以下、単に「結合剤」という)と、を下記割合で含む。従って、耐火被覆材1の製造方法は、当該原料組成物の水分スラリーを湿式抄造する工程を含む。
【0010】
鉱物繊維は、生体溶解性ファイバ単独、又は、生体溶解性ファイバとロックウールとによる混合ウールからなる。鉱物繊維は、生体溶解性ファイバ及びロックウール以外の成分を含んでもよい。生体溶解性ファイバは、生体内で溶解され易い繊維である。生体溶解性ファイバは、何れも生体分解性の例えば、SiO2-CaO-MgO系、SiO2-CaO-MgOSiO2-CaO-MgO系等の少なくとも1種の繊維を使用できる。
ロックウールは、例えば、原料鉱物を繊維化したものである。具体的には例えば、SiO2-CaO-MgO-Al2O3系、SiO2-Al2O3系等の少なくとも1種のロックウールが挙げられる。ロックウールは、例えば、原料鉱物の混合物をキュポラ炉又は電気炉で溶融し、例えばブローイング法、高速回転体によるスピニング法等で繊維化して得られる。原料鉱物の組成としては、例えばSiO235~55質量%、Al2O310~20質量%、MgO5~40質量%、CaO0.5~40質量%、FeO0~10質量%、Cr2O3、Na2O、K2O、TiO2、MnO等の微量成分0~10質量%にできる。
なお、本明細書の記載において、特に断らない限り、「~」で結ばれる数値範囲には、上限及び下限として明示した2つの数値が含まれるものとする。
鉱物繊維が混合ウールである場合、鉱物繊維は、生体溶解性ファイバを主成分として含むことが好ましい。ここでいう主成分とは、混合ウールにおいて、生体溶解性ファイバの含有量が最も多いことをいう。
【0011】
鉱物繊維の繊維長は、例えば、0.1mm以上20mm以下である。また、鉱物繊維の繊維径は、例えば、0.1mm以上2mm以下である。繊維長及び繊維径は、例えば、電子顕微鏡に基づく観察により測定できる。
結合剤は、有機質繊維からなる。結合剤は、有機質繊維以外の成分を含んでもよい。有機質繊維は、例えば、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレンポリプロピレン複合繊維等の少なくとも1種の繊維が挙げられる。
原料組成物は、鉱物繊維を50~99質量%の割合で含み、結合剤を1~11質量%の割合で含む。ただし、鉱物繊維及び結合剤の双方が少なくとも含まれるように、各原料の含有量を調整することが好ましい。また、原料組成物が、後記する加熱膨張性無機質粉末(以下、単に「無機粉末」という)を更に含む場合、鉱物繊維、結合剤及び無機粉末が含まれるように、各原料の含有量を調整することが好ましい。
鉱物繊維は、中でも、80~99質量%の割合で含まれることが好ましい。鉱物繊維をこの割合で含むことで、可燃性の成分の質量減少による耐火性能の低下を小さくできる。結合剤は、上記のように1~11質量%の割合で含まれることが好ましい。結合剤がこの範囲で含まれることで、耐火被覆材1の不燃性を確保できる。
原料組成物は、無機粉末を更に含むことが好ましい。無機粉末は、原料組成物において、0質量%以上、例えば11質量%以下、中でも10質量%以下の割合で含まれることが好ましい。この割合で含まれることで、耐火性能を発揮するための厚さ方向の膨張の効果を発揮し、性能を阻害する平面方向の収縮については小さくできる。ただし、無機粉末は含まれなくてもよい。また、無機粉末は、乾燥状態で粉末であり、無機粉末を構成する加熱膨張性無機質成分(以下、単に「無機成分」という)は、原料組成物中において水中に分散している。無機粉末は、無機粉末は火炎、熱等により膨張し、耐火被覆材を目地材、シール材等に使用した場合の間隙部の密閉性を高めることで、目地部の防耐火性を維持できる。
無機粉末は、例えば、未焼成バーミキュライト粉末、シラス、真珠岩、黒曜石の粉末、天然のグラファイトを濃硫酸、過酸化水素混酸等の酸処理されて得られる熱膨張性黒鉛等の少なくとも1種が挙げられる。
無機粉末の粒度分布は、例えば、0.2~8mmであることが好ましい。即ち、無機粉末の粒径は、0.2~8mmの間に含まれることが好ましい。この範囲にすることで、発泡膨張時の膨張性を高くできるとともに、原料組成物の湿式抄造の施工性を向上できる。特に、施工性の向上により、耐火被覆材1の均一性及び表面平滑性を高めることができ、外観及び品質を高めることができる。粒度分布は、例えば、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いて測定できる。
【0012】
耐火被覆材1は、原料組成物の水分スラリーを湿式抄造して得られる。湿式抄造は、水分スラリーに網(ネット)を入れて漉き上げ、漉き上げた例えば薄いシートを乾燥させる方法である。湿式抄造により、耐火被覆材1が得られる。得られる耐火被覆材1では、上記鉱物繊維、上記結合剤、及び適宜使用される上記無機成分が一様に分散している。従って、上記耐火被覆材1は、上記原料組成物における揮発可能な成分(例えば水等)を除く各成分を全体に分散させた例えばフェルト状のものである。
耐火被覆材1のかさ密度は、0.13g/cm3以上で、かつ0.18g/cm3未満であることが好ましい。かさ密度がこの範囲にあることで、耐火性、曲げ易さを表す強度、及び扱い易さを表す作業性を向上できる。
耐火被覆材1の目付は、例えば1300~1700g/m2である。目付がこの範囲にあることで、耐火性能と作業性とを両立できる。なお、目付は、1m2の耐火被覆材1の質量を測定することで決定できる。
【0013】
耐火被覆材1は、加熱時に厚さ方向に膨張することで、耐火性能を向上できる。厚さ方向の膨張率は、大きなことが好ましく、これらの数値に限定されないものの具体的には例えば、100%以上が好ましく、150%以上がより好ましく、200%以上が特に好ましい。上限値としては特に制限されないが、例えば300%以下、好ましくは250%以下、より好ましくは200%以下である。膨張率がこの範囲にあることで、耐火性能を特に向上できる。また、平面方向の収縮を抑制して、性能低下を抑制できる。厚さ方向の膨張率は、加熱後の厚さを加熱前の厚さで除算することで算出できる。
ただし、加熱時に厚さ方向に膨張しない、即ち、膨張率が100%以下であっても、耐火被覆材1が加熱前から十分な厚さを有していれば、耐火被覆材1は耐火性能を十分に発揮できる。加熱前の耐火被覆材1の厚さとしては、6mm以上が好ましく、7mm以上がより好ましく、8mm以上が特に好ましい。上限値としては特に制限されないが、例えば15mm以下、好ましくは10mm以下である。加熱前の耐火被覆材1の厚さをこの範囲にすることで、膨張率が100%以下であり、膨張しない場合であっても、耐火性能を発揮できる。
加熱後の厚さは、長期にわたって十分な耐火性能を発揮させる観点からは、厚いことが好ましい。具体的には例えば、加熱後の耐火被覆材1の厚さとしては、5mm以上が好ましく、10mm以上がより好ましく、15mm以上が特に好ましい。上限値としては特に制限されないが、例えば30mm以下、好ましくは20mm以下である。加熱後の耐火被覆材1の厚さをこの範囲にすることで、長期にわたって十分な耐火性能を発揮できる。
なお、耐火被覆材1の厚さは、平面方向全域で同じ厚さであることが好ましいが、必ずしも同じでなくてもよい。同じでない場合であっても、平面方向全域で上記範囲を満たすことが好ましい。
また、耐火被覆材1は、加熱時に平面方向に収縮し得る。収縮により、耐火被覆材1に隙間が生じ得る。そして、隙間を通じた入熱に起因する性能低下の抑制のためには、収縮率は小さいことが好ましい。平面方向の収縮率は、4%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、2%以下が特に好ましい。収縮率の下限としては、特に制限されないが、0%(即ち、全く収縮しない)が好ましいが、0%より大きくてもよい。収縮率をこの範囲にすることで、収縮に伴い生じる隙間からの入熱を抑制して、断熱効果を大きくできる。平面方向の収縮率は、{1-(加熱後の幅)/(加熱前の幅))×100の式を用いて算出できる。
【0014】
図1Bは、本開示の耐火被覆材1の他方面側からの斜視図である。耐火被覆材1は、ガイド線2を備える。ガイド線2を備えることで、例えばガイド線2に沿ってハサミ等の刃物で切断でき、耐火被覆材1を所望の形状に成型し易くできる。ガイド線2は、図示の例では、格子状のグリッドである。ガイド線2は、例えば耐火被覆材1の表面への印刷又はマーキングにより形成できる。ガイド線2は、印刷又はマーキングを施した紙、不織布等の媒体を、耐火被覆材1に貼り付けることで耐火被覆材1に備えられてもよい。
本開示の耐火被覆材1によれば、詳細は実施例を挙げて後記するが、軽量で、鉄骨材の骨組みを被覆し易く、かつ、低コストに製造できる。そして、このような耐火被覆材1によれば、鉄骨耐火被覆工事の作業環境及び作業効率を向上できる。粉塵が飛ぶ半湿式耐火被覆の作業環境や作業前後の養生や清掃の負担を軽減できる。薄い耐火被覆材1を使用することで、作業性を向上でき、材料の保管及び運搬に関するコストを削減できる。
また、無機粉末を含むことで、加熱時に膨張し、十分な耐火性能を発揮できる。湿式抄造により得られるため、薄く軽くハンドリング性能を向上できる。生体溶解性ファイバを少なくとも主成分として含むため、健康リスクを軽減できる。ガイド線2を備えることで、施工現場で容易に切断できる。ガイド線2がグリッド線であることで、直角や三角定規を使わなくとも、傾くことなく直角に切断できる。ロール状の耐火被覆材1を一定長さに切断する際、定規及びスケール等を使用せずに、一定長さに切断できる。
【実施例0015】
以下、実施例を挙げて、本開示を更に具体的に説明する。以下の実施例では、耐火性、曲げ易さを表す強度、及び扱い易さを表す作業性について性能確認試験を行った。また、本開示の耐火被覆材1の材料コストについて、従来品(特許文献1に記載の耐火被覆材)と比較し、建設資材として採用可能か、検証した。更に、本開示の耐火被覆材1について、性能及び材料コストに基づき、耐火被覆材1を形成する原料毎に混合割合の有効範囲を検証し、各材料の質量割合を規定した。
鉱物繊維として、生体分解性SiO
2-CaO-MgOSiO
2-CaO-MgO系ファイバ(繊維長10mm、繊維径1mm)、結合剤としてポリプロピレン、無機粉末として未焼成バーミキュライト粉末を準備した。無機粉末の粒度分布は0.2~8mmである。鉱物繊維、結合剤、及び無機粉末を下記表1に示す割合で水に分散させて、実施例1,2及び比較例1,2の原料組成物を調製した。なお、表1における含有量は、原料組成物に対する割合である。原料組成物の水分スラリーを湿式抄造することで、実施例1,2及び比較例1,2の耐火被覆材1を作製した。
【表1】
【0016】
参考として、本開示の内容及び特許文献1に記載の内容を下記表2に示す。
【表2】
【0017】
図2は、本開示の耐火被覆材を構成する材料割合を示す図である。
図2には、参考として、上記表2に示す範囲も図示している。
実施例1,2及び比較例1,2の耐火被覆材について、かさ密度及び目付を測定した。また、耐火性能、作業性、コスト、及び強度(曲げ易さ)について評価した。耐火性能は加熱試験での到達温度に沿って評価した。作業性は既存の巻き付け工法と比較し取付、加工のし易さを比較し評価した。コストは既存(上記従来品)の巻き付け可能な耐火被覆材との比較により評価した。強度は材料を曲げた際の柔軟性とで入隅の割れをもとに評価した。これらの評価結果を、下記の記号の意味に沿って、表3に示した。なお、参考として、本開示の内容及び特許文献1に記載の内容も下記表4に示す。
・耐火性能
◎ 500℃未満
○ 500℃以上550℃未満
× 550℃以上
・作業性(既存の巻き付け耐火被覆との作業性の比較)
◎ 同等より高い
○ 同等
△ 同等より低い
・コスト(既存の巻付け耐火被覆材と比べて)
◎ 同等又は安い
○ 少し高い
△ 高い
× 大幅に高い
・強度
◎ 柔軟性があり、曲げに耐えられる
○ 柔軟性はあるが、繰り返し曲げると割れる
△ 柔軟性が低く割れ易い
【表3】
【表4】
【0018】
また、実施例1及び比較例1の耐火被覆材1に対し加熱試験を行った。加熱試験は、小型壁炉を用いた加熱により行った。まず、小型壁炉に耐火被覆材(試験体)を平置きし、加熱面となる表面(上面)以外を耐熱のブランケットで養生した。加熱温度はISO834に準拠した標準加熱時間-温度曲線での温度であり、加熱時間は60分とした。到達温度の測定は、対象の耐火被覆材の加熱面を表としたときの裏の面の温度を測定することで行った。到達温度は低いことが好ましい。加熱試験中の実施例1及び比較例1の耐火被覆材1の温度、及び炉内温度の変化を示したグラフを
図3に示す。また、加熱開始から60分経過後に到達した温度(到達温度)を、上記表3に示す。
更に、加熱前後で、それぞれ耐火被覆材1の厚さ及び幅を測定するとともに、それぞれ耐火被覆材1の様子を撮影した。加熱前後の厚さ及び幅の変化に基づき、加熱試験による厚さ方向の膨張率及び平面方向の収縮率を算出した。
実施例1の耐火被覆材1の撮影は、真上方向及び斜め方向の2方向から行った。加熱試験前に真上方向から撮影した写真が
図4A、斜め方向から撮影した写真が
図4B、加熱試験後に真上方向から撮影した写真が
図5A、斜め方向から撮影した写真が
図5Bである。実施例2の耐火被覆材1について、加熱試験前に真上方向から撮影した写真が
図6A、斜め方向から撮影した写真が
図6B、加熱試験後に真上方向から撮影した写真が
図7A、斜め方向から撮影した写真が
図7Bである。比較例1の耐火被覆材1について、加熱試験前に真上方向から撮影した写真が
図8A、斜め方向から撮影した写真が
図8B、加熱試験後に真上方向から撮影した写真が
図9A、斜め方向から撮影した写真が
図9Bである。比較例2の耐火被覆材1について、加熱試験前に真上方向から撮影した写真が
図10A、斜め方向から撮影した写真が
図10B、加熱試験後に真上方向から撮影した写真が
図11A、斜め方向から撮影した写真が
図11Bである。
加熱試験に関する結果を下記表5に示す。
【表5】
【0019】
表3、表5及び
図4A~
図11Bに示すように、実施例1及び2では、比較例1,2と比べて、耐火性能に優れていた。従って、耐火被覆材1が有する基本的性能である耐火性能が何れも丸(○)以上であり、良好であることが示された。また、作業性(扱いやすさ)について、実施例1及び2では、丸(○)以上の結果が得られた。このため、比較例1~3と同じ大きさであるにもかかわらず軽量であり、作業性(取り扱い性)に優れることがわかった。更に、強度(曲げ易さ)については、実施例1及び2の耐火被覆材1は、丸(○)以上の結果が得られた。このため、実施例1及び2の耐火被覆材1は曲げ易く、鉄骨材の骨組みを被覆し易いことがわかった。コストについても、実施例1及び2では、いずれも丸以上の結果が示された。一方で、比較例1,2では、耐火性能、作業性、コスト又は強度の内の少なくとも1つの項目でバツ(×)又は三角(△)の結果となっており、これらの項目について改善の余地があることがわかる。
【0020】
また、表5に示す膨張率、収縮率及び到達温度の結果から、以下のことがいえる。即ち、耐火性能を発揮するには、上記のように、厚さが一定以上であることが好ましい。ただし、加熱前の厚さが小さくても、加熱後の厚さが確保できれば(即ち膨張率が大きければ)、到達温度を下げることができる。更に、平面方向の収縮率が大きくなると、厚さ方向の膨張率が大きくても、上記のように隙間からの入熱により到達温度が大きくなる。従って、例えば無機粉末の配合による厚さ方向の膨張は断熱に有効であるが、過剰となると平面方向の収縮が大きくなり、性能の低下につながる。
表3及び表5に示すように、膨張率が大きくなった実施例1及び比較例2では、耐火性能が丸以上であったと考えられる。しかし、比較例2では厚さ方向の膨張率が過剰となり、平面方向の収縮率が大きくなった結果、到達温度が高くなった。このため、比較例2の耐火性能は、実施例1の耐火性能よりも低い。なお、比較例2の耐火被覆材は、かさ密度が大きく曲げにくいために、作業性の点で三角(△)評価であり、コストの点でバツ(×)評価となった。
また、実施例1及び2を比較すると、実施例2の膨張率は実施例1の膨張率よりも小さかった。従って、耐火性能は、何れも丸以上であるものの、実施例1の方がより良好であった。一方で、実施例2及び比較例1を比べると、膨張率はほぼ同じであるが、耐火性能に大きな差が生じた。これは、加熱前の厚さが、比較例1の方が薄く、断熱性能が劣ったためと考えられる。比較例1では無機粉末が使用されておらず、耐火被覆材の厚みを実施例2程度に確保できなかったため、比較例1の方が薄くなったと考えられる。
さらに、実施例1及び比較例2を比較すると、いずれも加熱前の厚さは同じであった。また、比較例2では、鉱物繊維、結合剤、無機粉末を一定容積の容器に一定の方法で充填し、粒子間の空隙も含めた体積を、粉体の重量を除した「かさ密度」が大きく、かつ曲げ難いために、扱い易さを表す作業性の点で課題があった。
従って、実施例1,2に示す本開示の耐火被覆材1によれば、軽量で、鉄骨材の骨組みを被覆し易く、かつ、低コストで製造可能な耐火被覆材を提供できる。
また、上記の実施例では、鉱物繊維として生体溶解性ファイバ単体を用いて耐火被覆材を作製して、性能確認試験を行い、耐火被覆材の構成とその成分割合を規定したが、鉱物繊維として、生体溶解性ファイバとロックウールとによる混合ウールからなる人造鉱物短繊維を使用しても、特許文献1に記載されるように、耐火被覆材として有効であることを確認している。