(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006279
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】熱処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/26 20060101AFI20240110BHJP
H01L 21/268 20060101ALI20240110BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H01L21/26 J
H01L21/268 J
H01L21/265 602B
H01L21/265 602C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022107017
(22)【出願日】2022-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】山田 隆泰
(72)【発明者】
【氏名】繁桝 翔伍
(57)【要約】
【課題】基板を効率良く加熱することができる熱処理装置を提供する。
【解決手段】半導体ウェハーWを収容するチャンバー6の上側に複数のフラッシュランプFLを備えたフラッシュ加熱部5が設けられるとともに、下側に複数の複数のVCSEL(垂直共振器型面発光レーザー)45を備える補助加熱部4が設けられる。VCSEL45からの光照射によって半導体ウェハーWを予備加熱した後、フラッシュランプFLから半導体ウェハーWの表面にフラッシュ光を照射して当該表面を瞬間的に昇温する。VCSEL45は、LEDと比較しても相対的に高い強度の光を出射することが可能である。このため、複数のVCSEL45から光照射を行えば、半導体ウェハーWに照射される光の強度も高くすることができ、半導体ウェハーWを効率良く加熱することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に光を照射することによって該基板を加熱する熱処理装置であって、
基板を収容するチャンバーと、
前記チャンバー内にて前記基板を保持する保持部と、
前記チャンバーの一方側に設けられ、前記保持部に保持された前記基板に光を照射する補助光源と、
前記チャンバーの他方側に設けられ、前記保持部に保持された前記基板にフラッシュ光を照射するフラッシュランプと、
を備え、
前記補助光源は、複数の垂直共振器型面発光レーザーを備えることを特徴とする熱処理装置。
【請求項2】
請求項1記載の熱処理装置において、
前記補助光源は、異なる波長の光を照射する垂直共振器型面発光レーザーを含むことを特徴とする熱処理装置。
【請求項3】
請求項1記載の熱処理装置において、
前記チャンバーと前記補助光源との間に、前記複数の垂直共振器型面発光レーザーのそれぞれから出射された光を均一化するホモジナイザーをさらに備えることを特徴する熱処理装置。
【請求項4】
請求項3記載の熱処理装置において、
前記ホモジナイザーは、前記複数の垂直共振器型面発光レーザーに1対1で対応する光学素子を束ねた板状であることを特徴とする熱処理装置。
【請求項5】
請求項1記載の熱処理装置において、
前記補助光源は、複数のLEDランプをさらに含み、
前記複数の垂直共振器型面発光レーザーは、前記複数のLEDランプの周囲を囲むように環状に配置されることを特徴とする熱処理装置。
【請求項6】
請求項5記載の熱処理装置において、
前記補助光源は、異なる波長の光を照射する垂直共振器型面発光レーザーおよび異なる波長の光を照射するLEDランプを含むことを特徴とする熱処理装置。
【請求項7】
請求項5記載の熱処理装置において、
前記補助光源は、環状に配置された前記複数の垂直共振器型面発光レーザーの周囲に、照射方向が前記保持部に保持された前記基板に向くように傾斜して設けられた追加の垂直共振器型面発光レーザーをさらに有することを特徴とする熱処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に光を照射することによって該基板を加熱する熱処理装置に関する。処理対象となる基板には、例えば、半導体ウェハー、液晶表示装置用基板、flat panel display(FPD)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、または、太陽電池用基板などが含まれる。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいて、極めて短時間で半導体ウェハーを加熱するフラッシュランプアニール(FLA)が注目されている。フラッシュランプアニールは、キセノンフラッシュランプ(以下、単に「フラッシュランプ」とするときにはキセノンフラッシュランプを意味する)を使用して半導体ウェハーの表面にフラッシュ光を照射することにより、半導体ウェハーの表面のみを極めて短時間(数ミリ秒以下)に昇温させる熱処理技術である。
【0003】
キセノンフラッシュランプの放射分光分布は紫外域から近赤外域であり、従来のハロゲンランプよりも波長が短く、シリコンの半導体ウェハーの基礎吸収帯とほぼ一致している。よって、キセノンフラッシュランプから半導体ウェハーにフラッシュ光を照射したときには、透過光が少なく半導体ウェハーを急速に昇温することが可能である。また、数ミリ秒以下の極めて短時間のフラッシュ光照射であれば、半導体ウェハーの表面近傍のみを選択的に昇温できることも判明している。
【0004】
このようなフラッシュランプアニールは、極短時間の加熱が必要とされる処理、例えば典型的には半導体ウェハーに注入された不純物の活性化に利用される。イオン注入法によって不純物が注入された半導体ウェハーの表面にフラッシュランプからフラッシュ光を照射すれば、当該半導体ウェハーの表面を極短時間だけ活性化温度にまで昇温することができ、不純物を深く拡散させることなく、不純物活性化のみを実行することができるのである。
【0005】
このようなフラッシュランプアニールを実行する装置として、典型的には半導体ウェハーを収容するチャンバーの上方にフラッシュランプを設けるとともに、下方にハロゲンランプを設けた熱処理装置が使用される(例えば、特許文献1)。特許文献1に開示の装置においては、ハロゲンランプからの光照射によって半導体ウェハーを予備加熱した後、その半導体ウェハーの表面にフラッシュランプからフラッシュ光を照射している。ハロゲンランプによって予備加熱を行うのは、フラッシュ光照射のみでは半導体ウェハーの表面が目標温度にまで到達しにくいためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ハロゲンランプによって予備加熱を行った場合には、ハロゲンランプが点灯してから目標出力に到達するまでに一定の時間を要する一方でハロゲンランプが消灯した後も暫時熱放射が続くため、半導体ウェハーに注入された不純物の拡散長が比較的長くなるという問題があった。
【0008】
また、ハロゲンランプは比較的波長の長い赤外光を主として放射する。シリコンの半導体ウェハーの分光吸収率においては、500℃以下の低温域では1μm以上の長波長の赤外光の吸収率が低い。すなわち、500℃以下の半導体ウェハーは、ハロゲンランプから照射された赤外光をあまり吸収しないため、予備加熱の初期段階では非効率的な加熱が行われることとなる。
【0009】
これらの課題を解決する手法として複数のLEDランプを用いて半導体ウェハーの予備加熱を行うことが考えられる。LEDランプは、ハロゲンランプに比較して出力の立ち上がりおよび立ち下がりが高速である。また、LEDランプは主に可視光を放射する。よって、500℃以下の比較的低温の半導体ウェハーであっても、LEDランプから照射された光の吸収率は高く、LEDランプを用いれば予備加熱の初期段階においても効率良く加熱処理を行うことができる。
【0010】
ところが、個々のLEDランプ自体の出力が比較的弱いため、半導体ウェハーに照射される光の強度も比較的低くなる。その結果、LEDランプを用いた半導体ウェハーの加熱効率は十分なものではなかった。また、高い照射強度を得るためには、相当に多数のLEDランプを一定エリアに配置しなければならなかった。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、基板を効率良く加熱することができる熱処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、基板に光を照射することによって該基板を加熱する熱処理装置において、基板を収容するチャンバーと、前記チャンバー内にて前記基板を保持する保持部と、前記チャンバーの一方側に設けられ、前記保持部に保持された前記基板に光を照射する補助光源と、前記チャンバーの他方側に設けられ、前記保持部に保持された前記基板にフラッシュ光を照射するフラッシュランプと、を備え、前記補助光源は、複数の垂直共振器型面発光レーザーを備えることを特徴とする。
【0013】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明に係る熱処理装置において、前記補助光源は、異なる波長の光を照射する垂直共振器型面発光レーザーを含むことを特徴とする。
【0014】
また、請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明に係る熱処理装置において、前記チャンバーと前記補助光源との間に、前記複数の垂直共振器型面発光レーザーのそれぞれから出射された光を均一化するホモジナイザーをさらに備えることを特徴する。
【0015】
また、請求項4の発明は、請求項3の発明に係る熱処理装置において、前記ホモジナイザーは、前記複数の垂直共振器型面発光レーザーに1対1で対応する光学素子を束ねた板状であることを特徴とする。
【0016】
また、請求項5の発明は、請求項1から請求項4のいずれかの発明に係る熱処理装置において、前記補助光源は、複数のLEDランプをさらに含み、前記複数の垂直共振器型面発光レーザーは、前記複数のLEDランプの周囲を囲むように環状に配置されることを特徴とする。
【0017】
また、請求項6の発明は、請求項5の発明に係る熱処理装置において、前記補助光源は、異なる波長の光を照射する垂直共振器型面発光レーザーおよび異なる波長の光を照射するLEDランプを含むことを特徴とする。
【0018】
また、請求項7の発明は、請求項5の発明に係る熱処理装置において、前記補助光源は、環状に配置された前記複数の垂直共振器型面発光レーザーの周囲に、照射方向が前記保持部に保持された前記基板に向くように傾斜して設けられた追加の垂直共振器型面発光レーザーをさらに有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1から請求項7の発明によれば、補助光源は、複数の垂直共振器型面発光レーザーを備えるため、基板に照射する光の強度を高くすることができ、基板を効率良く加熱することができる。
【0020】
特に、請求項2の発明によれば、補助光源は、異なる波長の光を照射する垂直共振器型面発光レーザーを含むため、基板の一部に特定波長の光に対する吸収率が低い部分が存在していたとしても、基板の全面を均一に加熱することができる。
【0021】
特に、請求項3の発明によれば、複数の垂直共振器型面発光レーザーのそれぞれから出射された光を均一化するホモジナイザーをさらに備えるため、基板の被照射面における照度分布を均一にすることができ、基板の面内温度分布も均一にすることができる。
【0022】
特に、請求項5の発明によれば、補助光源は、複数のLEDランプをさらに含み、複数の垂直共振器型面発光レーザーは、複数のLEDランプの周囲を囲むように環状に配置されるため、温度低下が生じやすい基板の周縁部に垂直共振器型面発光レーザーから指向性の高い光を照射して当該周縁部を強く加熱することができ、基板の面内温度分布を均一にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】第1実施形態の熱処理装置の構成を示す縦断面図である。
【
図7】複数のVCSELの配置を示す平面図である。
【
図8】第2実施形態の熱処理装置の構成を示す縦断面図である。
【
図9】ホモジナイザーによる光の分布の均一化を模式的に説明する図である。
【
図10】VCSELから出射された光の強度分布を示す図である。
【
図11】ホモジナイザーを通過した光の強度分布を示す図である。
【
図12】第3実施形態の熱処理装置の構成を示す縦断面図である。
【
図13】第3実施形態の補助加熱部における複数のVCSELおよび複数のLEDランプの配置を示す平面図である。
【
図14】LEDランプおよびVCSELの混合光源による半導体ウェハーの加熱を模式的に説明する図である。
【
図15】第4実施形態の補助加熱部の構成を示す側面図である。
【
図16】第4実施形態の補助加熱部における複数のVCSELおよび複数のLEDランプの配置を示す平面図である。
【
図17】第5実施形態の熱処理装置の構成を模式的に示す図である。
【
図18】
図17の熱処理装置によって熱処理を行う半導体ウェハーの温度変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下において、相対的または絶対的な位置関係を示す表現(例えば、「一方向に」、「一方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」、「同軸」、など)は、特に断らない限り、その位置関係を厳密に表すのみならず、公差もしくは同程度の機能が得られる範囲で相対的に角度または距離に関して変位された状態も表すものとする。また、等しい状態であることを示す表現(例えば、「同一」、「等しい」、「均質」、など)は、特に断らない限り、定量的に厳密に等しい状態を表すのみならず、公差もしくは同程度の機能が得られる差が存在する状態も表すものとする。また、形状を示す表現(例えば、「円形状」、「四角形状」、「円筒形状」、など)は、特に断らない限り、幾何学的に厳密にその形状を表すのみならず、同程度の効果が得られる範囲の形状を表すものとし、例えば凹凸または面取りなどを有していてもよい。また、構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、「有する」、といった各表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的表現ではない。また、「A、BおよびCのうちの少なくとも一つ」という表現には、「Aのみ」、「Bのみ」、「Cのみ」、「A、BおよびCのうち任意の2つ」、「A、BおよびCの全て」が含まれる。
【0025】
<第1実施形態>
図1は、本発明に係る熱処理装置1の構成を示す縦断面図である。
図1の熱処理装置1は、基板として円板形状の半導体ウェハーWに対してフラッシュ光照射を行うことによってその半導体ウェハーWを加熱するフラッシュランプアニール装置である。処理対象となる半導体ウェハーWのサイズは特に限定されるものではないが、例えばφ300mmやφ450mmである。なお、
図1および以降の各図においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数を誇張または簡略化して描いている。
【0026】
熱処理装置1は、半導体ウェハーWを収容するチャンバー6と、複数のフラッシュランプFLを内蔵するフラッシュ加熱部5と、複数のVCSEL(垂直共振器型面発光レーザー:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)45を備える補助加熱部4と、を備える。チャンバー6の上側にフラッシュ加熱部5が設けられるとともに、下側に補助加熱部4が設けられている。また、熱処理装置1は、チャンバー6の内部に、半導体ウェハーWを水平姿勢に保持する保持部7と、保持部7と装置外部との間で半導体ウェハーWの受け渡しを行う移載機構10と、を備える。さらに、熱処理装置1は、補助加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6に設けられた各動作機構を制御して半導体ウェハーWの熱処理を実行させる制御部3を備える。
【0027】
チャンバー6は、筒状のチャンバー側部61の上下に石英製のチャンバー窓を装着して構成されている。チャンバー側部61は上下が開口された概略筒形状を有しており、上側開口には上側チャンバー窓63が装着されて閉塞され、下側開口には下側チャンバー窓64が装着されて閉塞されている。チャンバー6の天井部を構成する上側チャンバー窓63は、石英により形成された円板形状部材であり、フラッシュ加熱部5から出射されたフラッシュ光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。また、チャンバー6の床部を構成する下側チャンバー窓64も、石英により形成された円板形状部材であり、補助加熱部4からの光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。
【0028】
また、チャンバー側部61の内側の壁面の上部には反射リング68が装着され、下部には反射リング69が装着されている。反射リング68,69は、ともに円環状に形成されている。上側の反射リング68は、チャンバー側部61の上側から嵌め込むことによって装着される。一方、下側の反射リング69は、チャンバー側部61の下側から嵌め込んで図示省略のビスで留めることによって装着される。すなわち、反射リング68,69は、ともに着脱自在にチャンバー側部61に装着されるものである。チャンバー6の内側空間、すなわち上側チャンバー窓63、下側チャンバー窓64、チャンバー側部61および反射リング68,69によって囲まれる空間が熱処理空間65として規定される。
【0029】
チャンバー側部61に反射リング68,69が装着されることによって、チャンバー6の内壁面に凹部62が形成される。すなわち、チャンバー側部61の内壁面のうち反射リング68,69が装着されていない中央部分と、反射リング68の下端面と、反射リング69の上端面とで囲まれた凹部62が形成される。凹部62は、チャンバー6の内壁面に水平方向に沿って円環状に形成され、半導体ウェハーWを保持する保持部7を囲繞する。チャンバー側部61および反射リング68,69は、強度と耐熱性に優れた金属材料(例えば、ステンレススチール)にて形成されている。
【0030】
また、チャンバー側部61には、チャンバー6に対して半導体ウェハーWの搬入および搬出を行うための搬送開口部(炉口)66が形設されている。搬送開口部66は、ゲートバルブ185によって開閉可能とされている。搬送開口部66は凹部62の外周面に連通接続されている。このため、ゲートバルブ185が搬送開口部66を開放しているときには、搬送開口部66から凹部62を通過して熱処理空間65への半導体ウェハーWの搬入および熱処理空間65からの半導体ウェハーWの搬出を行うことができる。また、ゲートバルブ185が搬送開口部66を閉鎖するとチャンバー6内の熱処理空間65が密閉空間とされる。
【0031】
さらに、チャンバー側部61には、貫通孔61aが穿設されている。チャンバー側部61の外壁面の貫通孔61aが設けられている部位には放射温度計20が取り付けられている。貫通孔61aは、後述するサセプタ74に保持された半導体ウェハーWの下面から放射された赤外光を放射温度計20に導くための円筒状の孔である。貫通孔61aは、その貫通方向の軸がサセプタ74に保持された半導体ウェハーWの主面と交わるように、水平方向に対して傾斜して設けられている。よって、放射温度計20はサセプタ74の斜め下方に設けられることとなる。貫通孔61aの熱処理空間65に臨む側の端部には、放射温度計20が測定可能な波長領域の赤外光を透過させるフッ化バリウム材料からなる透明窓21が装着されている。
【0032】
また、チャンバー6の内壁上部には熱処理空間65に処理ガスを供給するガス供給孔81が形設されている。ガス供給孔81は、凹部62よりも上側位置に形設されており、反射リング68に設けられていても良い。ガス供給孔81はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間82を介してガス供給管83に連通接続されている。ガス供給管83は処理ガス供給源85に接続されている。また、ガス供給管83の経路途中にはバルブ84が介挿されている。バルブ84が開放されると、処理ガス供給源85から緩衝空間82に処理ガスが送給される。緩衝空間82に流入した処理ガスは、ガス供給孔81よりも流体抵抗の小さい緩衝空間82内を拡がるように流れてガス供給孔81から熱処理空間65内へと供給される。処理ガスとしては、例えば窒素(N2)等の不活性ガス、または、水素(H2)、アンモニア(NH3)等の反応性ガス、或いはそれらを混合した混合ガスを用いることができる(本実施形態では窒素ガス)。
【0033】
一方、チャンバー6の内壁下部には熱処理空間65内の気体を排気するガス排気孔86が形設されている。ガス排気孔86は、凹部62よりも下側位置に形設されており、反射リング69に設けられていても良い。ガス排気孔86はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間87を介してガス排気管88に連通接続されている。ガス排気管88は排気部190に接続されている。また、ガス排気管88の経路途中にはバルブ89が介挿されている。バルブ89が開放されると、熱処理空間65の気体がガス排気孔86から緩衝空間87を経てガス排気管88へと排出される。なお、ガス供給孔81およびガス排気孔86は、チャンバー6の周方向に沿って複数設けられていても良いし、スリット状のものであっても良い。また、処理ガス供給源85および排気部190は、熱処理装置1に設けられた機構であっても良いし、熱処理装置1が設置される工場のユーティリティであっても良い。
【0034】
図2は、保持部7の全体外観を示す斜視図である。保持部7は、基台リング71、連結部72およびサセプタ74を備えて構成される。基台リング71、連結部72およびサセプタ74はいずれも石英にて形成されている。すなわち、保持部7の全体が石英にて形成されている。
【0035】
基台リング71は円環形状から一部が欠落した円弧形状の石英部材である。この欠落部分は、後述する移載機構10の移載アーム11と基台リング71との干渉を防ぐために設けられている。基台リング71は凹部62の底面に載置されることによって、チャンバー6の壁面に支持されることとなる(
図1参照)。基台リング71の上面に、その円環形状の周方向に沿って複数の連結部72(本実施形態では4個)が立設される。連結部72も石英の部材であり、溶接によって基台リング71に固着される。
【0036】
サセプタ74は基台リング71に設けられた4個の連結部72によって支持される。
図3は、サセプタ74の平面図である。また、
図4は、サセプタ74の断面図である。サセプタ74は、保持プレート75、ガイドリング76および複数の基板支持ピン77を備える。保持プレート75は、石英にて形成された略円形の平板状部材である。保持プレート75の直径は半導体ウェハーWの直径よりも大きい。すなわち、保持プレート75は、半導体ウェハーWよりも大きな平面サイズを有する。
【0037】
保持プレート75の上面周縁部にガイドリング76が設置されている。ガイドリング76は、半導体ウェハーWの直径よりも大きな内径を有する円環形状の部材である。例えば、半導体ウェハーWの直径がφ300mmの場合、ガイドリング76の内径はφ320mmである。ガイドリング76の内周は、保持プレート75から上方に向けて広くなるようなテーパ面とされている。ガイドリング76は、保持プレート75と同様の石英にて形成される。ガイドリング76は、保持プレート75の上面に溶着するようにしても良いし、別途加工したピンなどによって保持プレート75に固定するようにしても良い。或いは、保持プレート75とガイドリング76とを一体の部材として加工するようにしても良い。
【0038】
保持プレート75の上面のうちガイドリング76よりも内側の領域が半導体ウェハーWを保持する平面状の保持面75aとされる。保持プレート75の保持面75aには、複数の基板支持ピン77が立設されている。本実施形態においては、保持面75aの外周円(ガイドリング76の内周円)と同心円の周上に沿って30°毎に計12個の基板支持ピン77が立設されている。12個の基板支持ピン77を配置した円の径(対向する基板支持ピン77間の距離)は半導体ウェハーWの径よりも小さく、半導体ウェハーWの径がφ300mmであればφ270mm~φ280mm(本実施形態ではφ270mm)である。それぞれの基板支持ピン77は石英にて形成されている。複数の基板支持ピン77は、保持プレート75の上面に溶接によって設けるようにしても良いし、保持プレート75と一体に加工するようにしても良い。
【0039】
図2に戻り、基台リング71に立設された4個の連結部72とサセプタ74の保持プレート75の周縁部とが溶接によって固着される。すなわち、サセプタ74と基台リング71とは連結部72によって固定的に連結されている。このような保持部7の基台リング71がチャンバー6の壁面に支持されることによって、保持部7がチャンバー6に装着される。保持部7がチャンバー6に装着された状態においては、サセプタ74の保持プレート75は水平姿勢(法線が鉛直方向と一致する姿勢)となる。すなわち、保持プレート75の保持面75aは水平面となる。
【0040】
チャンバー6に搬入された半導体ウェハーWは、チャンバー6に装着された保持部7のサセプタ74の上に水平姿勢にて載置されて保持される。このとき、半導体ウェハーWは保持プレート75上に立設された12個の基板支持ピン77によって支持されてサセプタ74に保持される。より厳密には、12個の基板支持ピン77の上端部が半導体ウェハーWの下面に接触して当該半導体ウェハーWを支持する。12個の基板支持ピン77の高さ(基板支持ピン77の上端から保持プレート75の保持面75aまでの距離)は均一であるため、12個の基板支持ピン77によって半導体ウェハーWを水平姿勢に支持することができる。
【0041】
また、半導体ウェハーWは複数の基板支持ピン77によって保持プレート75の保持面75aから所定の間隔を隔てて支持されることとなる。基板支持ピン77の高さよりもガイドリング76の厚さの方が大きい。従って、複数の基板支持ピン77によって支持された半導体ウェハーWの水平方向の位置ずれはガイドリング76によって防止される。
【0042】
また、
図2および
図3に示すように、サセプタ74の保持プレート75には、上下に貫通して開口部78が形成されている。開口部78は、放射温度計20が半導体ウェハーWの下面から放射される放射光(赤外光)を受光するために設けられている。すなわち、放射温度計20が開口部78およびチャンバー側部61の貫通孔61aに装着された透明窓21を介して半導体ウェハーWの下面から放射された光を受光して当該半導体ウェハーWの温度を測定する。さらに、サセプタ74の保持プレート75には、後述する移載機構10のリフトピン12が半導体ウェハーWの受け渡しのために貫通する4個の貫通孔79が穿設されている。
【0043】
図5は、移載機構10の平面図である。また、
図6は、移載機構10の側面図である。移載機構10は、2本の移載アーム11を備える。移載アーム11は、概ね円環状の凹部62に沿うような円弧形状とされている。それぞれの移載アーム11には2本のリフトピン12が立設されている。移載アーム11およびリフトピン12は石英にて形成されている。各移載アーム11は水平移動機構13によって回動可能とされている。水平移動機構13は、一対の移載アーム11を保持部7に対して半導体ウェハーWの移載を行う移載動作位置(
図5の実線位置)と保持部7に保持された半導体ウェハーWと平面視で重ならない退避位置(
図5の二点鎖線位置)との間で水平移動させる。水平移動機構13としては、個別のモータによって各移載アーム11をそれぞれ回動させるものであっても良いし、リンク機構を用いて1個のモータによって一対の移載アーム11を連動させて回動させるものであっても良い。
【0044】
また、一対の移載アーム11は、昇降機構14によって水平移動機構13とともに昇降移動される。昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて上昇させると、計4本のリフトピン12がサセプタ74に穿設された貫通孔79(
図2,3参照)を通過し、リフトピン12の上端がサセプタ74の上面から突き出る。一方、昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて下降させてリフトピン12を貫通孔79から抜き取り、水平移動機構13が一対の移載アーム11を開くように移動させると各移載アーム11が退避位置に移動する。一対の移載アーム11の退避位置は、保持部7の基台リング71の直上である。基台リング71は凹部62の底面に載置されているため、移載アーム11の退避位置は凹部62の内側となる。なお、移載機構10の駆動部(水平移動機構13および昇降機構14)が設けられている部位の近傍にも図示省略の排気機構が設けられており、移載機構10の駆動部周辺の雰囲気がチャンバー6の外部に排出されるように構成されている。
【0045】
図1に戻り、チャンバー6の上方に設けられたフラッシュ加熱部5は、筐体51の内側に、複数本(本実施形態では30本)のキセノンフラッシュランプFLからなる光源と、その光源の上方を覆うように設けられたリフレクタ52と、を備えて構成される。また、フラッシュ加熱部5の筐体51の底部にはランプ光放射窓53が装着されている。フラッシュ加熱部5の床部を構成するランプ光放射窓53は、石英により形成された板状の石英窓である。フラッシュ加熱部5がチャンバー6の上方に設置されることにより、ランプ光放射窓53が上側チャンバー窓63と相対向することとなる。フラッシュランプFLはチャンバー6の上方からランプ光放射窓53および上側チャンバー窓63を介して熱処理空間65にフラッシュ光を照射する。
【0046】
複数のフラッシュランプFLは、それぞれが長尺の円筒形状を有する棒状ランプであり、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように平面状に配列されている。よって、フラッシュランプFLの配列によって形成される平面も水平面である。複数のフラッシュランプFLが配列される領域は半導体ウェハーWの平面サイズよりも大きい。
【0047】
キセノンフラッシュランプFLは、その内部にキセノンガスが封入されその両端部にコンデンサーに接続された陽極および陰極が配設された円筒形状のガラス管(放電管)と、該ガラス管の外周面上に付設されたトリガー電極とを備える。キセノンガスは電気的には絶縁体であることから、コンデンサーに電荷が蓄積されていたとしても通常の状態ではガラス管内に電気は流れない。しかしながら、トリガー電極に高電圧を印加して絶縁を破壊した場合には、コンデンサーに蓄えられた電気がガラス管内に瞬時に流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。このようなキセノンフラッシュランプFLにおいては、予めコンデンサーに蓄えられていた静電エネルギーが0.1ミリセカンドないし100ミリセカンドという極めて短い光パルスに変換されることから、ハロゲンランプの如き連続点灯の光源に比べて極めて強い光を照射し得るという特徴を有する。すなわち、フラッシュランプFLは、1秒未満の極めて短い時間で瞬間的に発光するパルス発光ランプである。なお、フラッシュランプFLの発光時間は、フラッシュランプFLに電力供給を行うランプ電源のコイル定数によって調整することができる。
【0048】
また、リフレクタ52は、複数のフラッシュランプFLの上方にそれら全体を覆うように設けられている。リフレクタ52の基本的な機能は、複数のフラッシュランプFLから出射されたフラッシュ光を熱処理空間65の側に反射するというものである。リフレクタ52はアルミニウム合金板にて形成されており、その表面(フラッシュランプFLに臨む側の面)はブラスト処理により粗面化加工が施されている。
【0049】
チャンバー6の下方に設けられた補助加熱部4は、筐体41の内側に複数個のVCSEL45を内蔵している。補助加熱部4は、複数のVCSEL45によってチャンバー6の下方から下側チャンバー窓64を介して熱処理空間65への光照射を行って半導体ウェハーWを加熱する補助光源である。
【0050】
図7は、複数のVCSEL45の配置を示す平面図である。補助加熱部4には、多数ののVCSEL45が配置されるのであるが、
図7では図示の便宜上個数を簡略化して描いている。従来のハロゲンランプが棒状ランプであったのに対して、各VCSEL45は点光源である。複数のVCSEL45は、保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)配列されている。よって、複数のVCSEL45の配列によって形成される平面は水平面である。
【0051】
また、
図7に示すように、複数のVCSEL45は同心円状に配置される。より詳細には、保持部7に保持される半導体ウェハーWの中心軸CXと同軸の同心円状に複数のVCSEL45は配置される。各同心円において、複数のVCSEL45は均等な間隔で配置される。例えば、
図7に示す例では、内側から二番目の同心円においては、8個のVCSEL45が45°間隔で均等に配置される。
【0052】
VCSEL(垂直共振器型面発光レーザー)45は、半導体レーザーの一種であり、半導体基板の表面に対して垂直方向に光を出射する。VCSEL45は、LEDと比較して高い強度の光を出射することが可能であるとともに、指向性の高い光を出射する。第1実施形態の複数のVCSEL45は、波長940nmの光を照射する。また、VCSEL45は、少なくとも1秒以上連続して発光する連続点灯ランプでもある。
【0053】
複数のVCSEL45のそれぞれには電力供給部49(
図1)から電極供給がなされることによって、当該VCSEL45が発光する。電力供給部49は、制御部3の制御に従って、複数のVCSEL45のそれぞれに供給する電力を個別に調整する。すなわち、電力供給部49は、補助加熱部4に配置された複数のVCSEL45のそれぞれの発光強度および発光時間を個別に調整することができる。
【0054】
制御部3は、熱処理装置1に設けられた上記の種々の動作機構を制御する。制御部3のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部3は、各種演算処理を行う回路であるCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクを備えている。制御部3のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって熱処理装置1における処理が進行する。
【0055】
上記の構成以外にも熱処理装置1は、半導体ウェハーWの熱処理時にVCSEL45およびフラッシュランプFLから発生する熱エネルギーによる補助加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6の過剰な温度上昇を防止するため、様々な冷却用の構造を備えている。例えば、チャンバー6の壁体には水冷管(図示省略)が設けられている。また、補助加熱部4およびフラッシュ加熱部5は、内部に気体流を形成して排熱する空冷構造とされている。また、上側チャンバー窓63とランプ光放射窓53との間隙にも空気が供給され、フラッシュ加熱部5および上側チャンバー窓63を冷却する。
【0056】
次に、熱処理装置1における処理動作について説明する。ここでは、製品となる通常の半導体ウェハー(プロダクトウェハー)Wに対する典型的な熱処理動作について説明する。処理対象となる半導体ウェハーWは、前工程としてのイオン注入によって不純物が注入されたシリコン(Si)の半導体基板である。その不純物の活性化が熱処理装置1によるアニール処理により実行される。以下に説明する半導体ウェハーWの処理手順は、制御部3が熱処理装置1の各動作機構を制御することにより進行する。
【0057】
まず、半導体ウェハーWの処理に先立って給気のためのバルブ84が開放されるとともに、排気用のバルブ89が開放されてチャンバー6内に対する給排気が開始される。バルブ84が開放されると、ガス供給孔81から熱処理空間65に窒素ガスが供給される。また、バルブ89が開放されると、ガス排気孔86からチャンバー6内の気体が排気される。これにより、チャンバー6内の熱処理空間65の上部から供給された窒素ガスが下方へと流れ、熱処理空間65の下部から排気される。
【0058】
続いて、ゲートバルブ185が開いて搬送開口部66が開放され、装置外部の搬送ロボットにより搬送開口部66を介して処理対象となる半導体ウェハーWがチャンバー6内の熱処理空間65に搬入される。このときには、半導体ウェハーWの搬入にともなって装置外部の雰囲気を巻き込むおそれがあるが、チャンバー6には窒素ガスが供給され続けているため、搬送開口部66から窒素ガスが流出して、そのような外部雰囲気の巻き込みを最小限に抑制することができる。
【0059】
搬送ロボットによって搬入された半導体ウェハーWは保持部7の直上位置まで進出して停止する。そして、移載機構10の一対の移載アーム11が退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12が貫通孔79を通ってサセプタ74の保持プレート75の上面から突き出て半導体ウェハーWを受け取る。このとき、リフトピン12は基板支持ピン77の上端よりも上方にまで上昇する。
【0060】
半導体ウェハーWがリフトピン12に載置された後、搬送ロボットが熱処理空間65から退出し、ゲートバルブ185によって搬送開口部66が閉鎖される。そして、一対の移載アーム11が下降することにより、半導体ウェハーWは移載機構10から保持部7のサセプタ74に受け渡されて水平姿勢にて下方より保持される。半導体ウェハーWは、保持プレート75上に立設された複数の基板支持ピン77によって支持されてサセプタ74に保持される。また、半導体ウェハーWは、パターン形成がなされて不純物が注入された表面を上面として保持部7に保持される。複数の基板支持ピン77によって支持された半導体ウェハーWの裏面(表面とは反対側の主面)と保持プレート75の保持面75aとの間には所定の間隔が形成される。サセプタ74の下方にまで下降した一対の移載アーム11は水平移動機構13によって退避位置、すなわち凹部62の内側に退避する。
【0061】
半導体ウェハーWが石英にて形成された保持部7のサセプタ74によって水平姿勢にて下方より保持された後、補助加熱部4の複数のVCSEL45から光が照射されて予備加熱(アシスト加熱)が開始される。複数のVCSEL45から出射された光は、石英にて形成された下側チャンバー窓64およびサセプタ74を透過して半導体ウェハーWの下面に照射される。VCSEL45からの光照射を受けることによって半導体ウェハーWが予備加熱されて温度が上昇する。なお、移載機構10の移載アーム11は凹部62の内側に退避しているため、VCSEL45による加熱の障害となることは無い。
【0062】
VCSEL45からの光照射によって昇温する半導体ウェハーWの温度は放射温度計20によって測定される。測定された半導体ウェハーWの温度は制御部3に伝達される。制御部3は、VCSEL45からの光照射によって昇温する半導体ウェハーWの温度が所定の予備加熱温度T1に到達したか否かを監視しつつ、電力供給部49を制御してVCSEL45の出力を調整する。すなわち、制御部3は、放射温度計20による測定値に基づいて、半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1となるようにVCSEL45の出力をフィードバック制御する。予備加熱温度T1は、半導体ウェハーWに添加された不純物が熱により拡散する恐れのない、200℃ないし800℃程度、好ましくは350℃ないし600℃程度とされる(本実施の形態では600℃)。
【0063】
半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達した後、制御部3は半導体ウェハーWをその予備加熱温度T1に暫時維持する。具体的には、放射温度計20によって測定される半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達した時点にて制御部3がVCSEL45の出力を調整し、半導体ウェハーWの温度をほぼ予備加熱温度T1に維持している。
【0064】
半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達して所定時間が経過した時点でフラッシュ加熱部5のフラッシュランプFLがサセプタ74に保持された半導体ウェハーWの表面にフラッシュ光照射を行う。このとき、フラッシュランプFLから放射されるフラッシュ光の一部は直接にチャンバー6内へと向かい、他の一部は一旦リフレクタ52により反射されてからチャンバー6内へと向かい、これらのフラッシュ光の照射により半導体ウェハーWのフラッシュ加熱が行われる。
【0065】
フラッシュ加熱は、フラッシュランプFLからのフラッシュ光(閃光)照射により行われるため、半導体ウェハーWの表面温度を短時間で上昇することができる。すなわち、フラッシュランプFLから照射されるフラッシュ光は、予めコンデンサーに蓄えられていた静電エネルギーが極めて短い光パルスに変換された、照射時間が0.1ミリセカンド以上100ミリセカンド以下程度の極めて短く強い閃光である。そして、フラッシュランプFLからのフラッシュ光照射によりフラッシュ加熱される半導体ウェハーWの表面温度は、瞬間的に1000℃以上の処理温度T2まで上昇し、半導体ウェハーWに注入された不純物が活性化された後、表面温度が急速に下降する。このように、熱処理装置1では、半導体ウェハーWの表面温度を極めて短時間で昇降することができるため、半導体ウェハーWに注入された不純物の熱による拡散を抑制しつつ不純物の活性化を行うことができる。なお、不純物の活性化に必要な時間はその熱拡散に必要な時間に比較して極めて短いため、0.1ミリセカンドないし100ミリセカンド程度の拡散が生じない短時間であっても活性化は完了する。
【0066】
フラッシュ加熱処理が終了した後、所定時間経過後にVCSEL45からの光照射も停止する。これにより、半導体ウェハーWが予備加熱温度T1から急速に降温する。降温中の半導体ウェハーWの温度は放射温度計20によって測定され、その測定結果は制御部3に伝達される。制御部3は、放射温度計20の測定結果より半導体ウェハーWの温度が所定温度まで降温したか否かを監視する。そして、半導体ウェハーWの温度が所定以下にまで降温した後、移載機構10の一対の移載アーム11が再び退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12がサセプタ74の上面から突き出て熱処理後の半導体ウェハーWをサセプタ74から受け取る。続いて、ゲートバルブ185により閉鎖されていた搬送開口部66が開放され、リフトピン12上に載置された半導体ウェハーWが装置外部の搬送ロボットによりチャンバー6から搬出され、半導体ウェハーWの加熱処理が完了する。
【0067】
第1実施形態においては、VCSEL45からの光照射によって半導体ウェハーWを予備加熱温度T1に予備加熱した後、フラッシュランプFLから半導体ウェハーWの表面にフラッシュ光を照射して当該表面を処理温度T2にまで昇温している。VCSEL45は、LEDと比較しても相対的に高い強度の光を出射することが可能である。このため、複数のVCSEL45から光照射を行えば、予備加熱時に半導体ウェハーWに照射される光の強度も高くすることができ、半導体ウェハーWを効率良く加熱することができる。また、VCSEL45は比較的に高い強度の光を出射するため、補助加熱部4をLEDランプで構成する場合に比較して、補助加熱部4に設置するVCSEL45の個数を少なくすることが可能となる。
【0068】
第1実施形態においては、複数のVCSEL45から照射する光の波長を940nmの単一波長としていたが、これに代えて、複数のVCSEL45から異なる複数の波長の光を照射するようにしても良い。すなわち、補助加熱部4に、出射光の波長が異なる複数種類のVCSEL45を設けるようにしても良い。複数のVCSEL45から単一波長の光を照射すると、半導体ウェハーWの一部にその波長の光に対する吸収率の低い膜が形成されているような場合には当該一部の温度のみ相対的に低温となって温度分布の面内均一性が損なわれるおそれがある。複数のVCSEL45から複数波長の光を照射するようにすれば、半導体ウェハーWの一部に特定波長の光に対する吸収率の低い膜が形成されているような場合であっても、半導体ウェハーWの全面を均一に加熱して温度分布の面内均一性を高めることができる。
【0069】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
図8は、第2実施形態の熱処理装置1aの構成を示す縦断面図である。
図8において、第1実施形態(
図1)と同一の要素については同一の符号を付している。第2実施形態の熱処理装置1aが第1実施形態の熱処理装置1と相違するのは、複数のVCSEL45のそれぞれから出射された光の分布を均一化するホモジナイザー48を設けている点である。
【0070】
ホモジナイザー48は、複数のVCSEL45とチャンバー6の下側チャンバー窓64との間に設けられた石英の板状部材である。但し、ホモジナイザー48は、板状部材ではあるものの、一枚板ではなく、複数の回折光学素子48aを束ね合わせた結果として板状の形態を有するものである。
【0071】
図9は、ホモジナイザー48による光の分布の均一化を模式的に説明する図である。平面状に並べた複数の回折光学素子48aを束ねて板状のホモジナイザー48が形成される。それぞれの回折光学素子48aは、六面が研磨された石英の四角柱部材(石英ロッド)である。ホモジナイザー48を構成する複数の回折光学素子48aは複数のVCSEL45と1対1で対応して設けられている。従って、各VCSEL45から出射された光はいずれか1つの回折光学素子48aに入射することとなる。
【0072】
図10は、VCSEL45から出射された光の強度分布を示す図である。既述したように、VCSEL45は比較的指向性の高い光を出射するため、その出射光の光軸中心近傍での強度が最も高く、光軸から離れるに従って強度が低くなる。このため、VCSEL45から出射された光の強度分布は
図10に示すようなガウシアン分布に近いものとなる。その結果、複数のVCSEL45から直接半導体ウェハーWに光を照射したときには、半導体ウェハーWの被照射面に局所的に照度の高い領域とそうではない領域とが現出し、斑点状の照度ムラが生じるおそれがある。そうすると、予備加熱時の半導体ウェハーWの面内温度分布も不均一なものとなる。
【0073】
図9に示すように、各VCSEL45から出射された光が対応する回折光学素子48aの下面から入射すると、その光は回折光学素子48a内で全反射を繰り返し、回折光学素子48aの上面では光が重なり合って均一化される。
図11は、ホモジナイザー48を通過した光の強度分布を示す図である。VCSEL45から出射された光は指向性が高かったものの、その光が回折光学素子48aによって均一化されることにより、ホモジナイザー48を通過した光の強度分布は
図11に示すような均一なものとなる。
【0074】
複数のVCSEL45から出射されてホモジナイザー48を通過した光が半導体ウェハーWに照射されることにより、半導体ウェハーWの被照射面における照度ムラが解消されて照度分布は均一なものとなる。その結果、予備加熱時の半導体ウェハーWの面内温度分布も均一になる。
【0075】
ホモジナイザー48を設けている点以外の第2実施形態の熱処理装置1aの構成は第1実施形態の熱処理装置1と同じである。また、第2実施形態の熱処理装置1aにおける半導体ウェハーWの処理手順も第1実施形態と同様である。
【0076】
第2実施形態においては、チャンバー6と複数のVCSEL45との間に、複数のVCSEL45のそれぞれから出射された光を均一化するホモジナイザー48を設けている。これにより、ホモジナイザー48の上面では均一な照度分布を得ることができ、半導体ウェハーWの被照射面における照度分布も均一となって半導体ウェハーWの面内温度分布も均一にすることができる。
【0077】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
図12は、第3実施形態の熱処理装置1bの構成を示す縦断面図である。
図12において、第1実施形態(
図1)と同一の要素については同一の符号を付している。第3実施形態の熱処理装置1bが第1実施形態の熱処理装置1と相違するのは、補助加熱部4にVCSEL45およびLED(Light Emitting Diode)ランプ47が設けられている点である。
【0078】
第3実施形態の補助加熱部4は、複数のVCSEL45および複数のLEDランプ47を備える。LEDランプ47は、発光ダイオードを含んでいる。発光ダイオードは、ダイオードの一種であり、順方向に電圧を加えた際にエレクトロルミネセンス効果によって発光する。
【0079】
図13は、補助加熱部4における複数のVCSEL45および複数のLEDランプ47の配置を示す平面図である。複数のLEDランプ47は円形の領域に均一な密度で配置されている。その複数のLEDランプ47が配置された円形の領域の周囲を囲む円環状の領域に複数のVCSEL45が均一な密度で配置されている。すなわち、第3実施形態の補助加熱部4においては、中心部に複数のLEDランプ47が配置されるとともに、周縁部に複数のVCSEL45が配置されているのである。
【0080】
図14は、LEDランプ47およびVCSEL45の混合光源による半導体ウェハーWの加熱を模式的に説明する図である。VCSEL45がほんど拡がらない指向性の高い光を出射するのに対してLEDランプ47から出射された光はは比較的拡がる傾向を示す。複数のLEDランプ47のみによって半導体ウェハーWの予備加熱を行ったときには、半導体ウェハーWの中央部に比べて周縁部の温度が相対的に低くなる傾向が認められる。
【0081】
第3実施形態においては、補助加熱部4の中心部に複数のLEDランプ47が配置されるとともに、周縁部に複数のVCSEL45が配置されている。すなわち、予備加熱時に温度が低くなりやすい半導体ウェハーWの周縁部に対向するように複数のVCSEL45が配置されるとともに、半導体ウェハーWの中央部に対向するように複数のLEDランプ47が配置されている。これにより、予備加熱時に温度が低くなりやすい半導体ウェハーWの周縁部にVCSEL45から指向性の高い光を照射して当該周縁部の照度を相対的に高めることができる。その結果、温度が低くなりやすい半導体ウェハーWの周縁部が強く加熱され、当該周縁部の温度低下を解消して予備加熱時における半導体ウェハーWの面内温度分布を均一にすることが可能となる。
【0082】
補助加熱部4にVCSEL45およびLEDランプ47を設けている点以外の第3実施形態の熱処理装置1bの構成は第1実施形態の熱処理装置1と同じである。また、第3実施形態の熱処理装置1bにおける半導体ウェハーWの処理手順も第1実施形態と同様である。
【0083】
第3実施形態においては、補助光源である補助加熱部4にVCSEL45に加えてLEDランプ47を設け、複数のLEDランプ47の周囲を囲むように環状に複数のVCSEL45を配置している。これにより、予備加熱時に温度低下が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部にVCSEL45から指向性の高い光を照射して当該周縁部を強く加熱することができ、予備加熱時における半導体ウェハーWの面内温度分布を均一にすることができる。
【0084】
一般にVCSEL45の単価はLEDランプ47の単価よりも高額なのであるが、温度低下が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部のみに対してVCSEL45を設け、その他の部分に対しては安価なLEDランプ47を設けることにより、コスト上昇を抑制しつつ半導体ウェハーWの面内温度分布の均一性を達成することができる。
【0085】
複数のVCSEL45および複数のLEDランプ47のうちの少なくとも一方は異なる複数の波長の光を照射するようにしても良い。すなわち、補助加熱部4に、出射光の波長が異なる複数種類のVCSEL45および/または出射光の波長が異なる複数種類のLEDランプ47を設けるようにしても良い。第1実施形態と同様に、複数のVCSEL45および/または複数のLEDランプ47から複数波長の光を照射するようにすれば、半導体ウェハーWの一部に特定波長の光に対する吸収率の低い膜が形成されているような場合であっても、半導体ウェハーWの全面を均一に加熱して温度分布の面内均一性を高めることができる。
【0086】
<第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態について説明する。
図15は、第4実施形態の補助加熱部4の構成を示す側面図である。また、
図16は、第4実施形態の補助加熱部4における複数のVCSEL45および複数のLEDランプ47の配置を示す平面図である。
【0087】
第4実施形態においては、第3実施形態の補助加熱部4の周囲にさらに追加のVCSEL45を配置している。追加の複数のVCSEL45は、保持部7に保持される半導体ウェハーWよりも外側の領域に傾斜して設けられる。より詳細には、第3実施形態と同様に、複数のLEDランプ47は円形の領域に均一な密度で配置される。その複数のLEDランプ47が配置された円形の領域の周囲を囲む円環状の領域に複数のVCSEL45が均一な密度で配置される。さらに、その複数のVCSEL45が配置された円環状の領域の周囲に追加の複数のVCSEL45が配置される。半導体ウェハーWよりも外側の領域に設けられた追加の複数のVCSEL45は、その照射方向が半導体ウェハーWの下面周縁部に向くように傾斜して配列される。追加の複数のVCSEL45を設けている点以外の第4実施形態の構成おより処理手順は第3実施形態と同じである。
【0088】
第4実施形態においては、第3実施形態と同様に、予備加熱時に温度低下が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部にVCSEL45から指向性の高い光を照射して当該周縁部を強く加熱することができ、予備加熱時における半導体ウェハーWの面内温度分布を均一にすることができる。さらに、第4実施形態においては、追加のVCSEL45から半導体ウェハーWの面内に追加の光照射を行うことによって、半導体ウェハーWをより効率良く加熱することができる。
【0089】
<第5実施形態>
次に、本発明の第5実施形態について説明する。
図17は、第5実施形態の熱処理装置100の構成を模式的に示す図である。第5実施形態の熱処理装置100は、フラッシュランプを備えておらず、複数のVCSEL45を備えた高速熱処理装置(RTP装置:Rapid Thermal Processing)である。
【0090】
熱処理装置100は、半導体ウェハーWを収容するチャンバー110の上側に上部加熱部150を備えるとともに、チャンバー110の下側に下部加熱部140を備える。チャンバー110内には、石英のサセプタ170が設けられる。チャンバー110内において、処理対象となる半導体ウェハーWはサセプタ170によって支持される。また、第1実施形態と同様に、チャンバー110の上下には光を透過する石英窓(図示省略)が設けられている。
【0091】
下部加熱部140は、第1実施形態の補助加熱部4と同様に、複数のVCSEL45を備える。同じく、上部加熱部150も複数のVCSEL45を備える。熱処理装置100は、複数のVCSEL45によってチャンバー110の上下から光照射を行って半導体ウェハーWを加熱する。
【0092】
図18は、熱処理装置100によって熱処理を行う半導体ウェハーWの温度変化を示す図である。チャンバー110内にてサセプタ170に保持された半導体ウェハーWに対して上部加熱部150および下部加熱部140から複数のVCSEL45によって光を照射する。半導体ウェハーWは上下から光照射を受けて昇温する。
【0093】
上下から複数のVCSEL45を用いた光照射を行うことによって、半導体ウェハーWは100℃/秒~200℃/秒の昇温速度で昇温する。複数のVCSEL45からの光照射を開始してから数秒が経過した時点で半導体ウェハーWの温度はピーク温度T3に到達する。ピーク温度T3は、例えば900℃~1000℃である。半導体ウェハーWの温度がピーク温度T3に到達した時点で複数のVCSEL45が停止して半導体ウェハーWの温度が急速に降温する。これに代えて、半導体ウェハーWの温度をピーク温度T3に一定時間(例えば、数秒程度)維持するようにしても良い。
【0094】
第5実施形態においては、LEDと比較しても相対的に高い強度の光を出射することがVCSEL45からの光照射によって半導体ウェハーWを加熱している。このため、半導体ウェハーWを効率良く加熱することができる。
【0095】
<変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。第1実施形態においては、複数のVCSEL45を同心円状に配置していたが、これに限定されるものではなく、例えば、複数のVCSEL45を等間隔で格子状に配置するようにしても良い。
【0096】
また、第3実施形態および第4実施形態において、円環状に設けた複数のVCSEL45の上方に第2実施形態のようなホモジナイザーを設けるようにしても良い。これにより、半導体ウェハーWの周縁部における照度分布をより均一なものとすることができる。
【0097】
また、第3実施形態および第4実施形態においては、複数のLEDランプ47の周囲に円環状に複数のVCSEL45を配置していたが、これに限定されるものではなく、加熱処理時に温度低下が生じやすい半導体ウェハーWの部分に対向してVCSEL45を設けるようにすれば良い。
【0098】
また、第5実施形態において、チャンバー110の上側または下側のいずれか一方のみに複数のVCSEL45を備えた加熱部を設けるようにしても良い。また、第5実施形態の複数のVCSEL45に対して第2実施形態のようなホモジナイザーを設けるようにしても良い。さらに、第5実施形態において、第3実施形態および第4実施形態のように複数のVCSEL45と複数のLEDランプを用いて半導体ウェハーWの急速加熱処理を行うようにしても良い。
【0099】
また、上記実施形態においては、フラッシュ加熱部5に30本のフラッシュランプFLを備えるようにしていたが、これに限定されるものではなく、フラッシュランプFLの本数は任意の数とすることができる。また、フラッシュランプFLはキセノンフラッシュランプに限定されるものではなく、クリプトンフラッシュランプであっても良い。
【符号の説明】
【0100】
1,1a,1b,100 熱処理装置
3 制御部
4 補助加熱部
5 フラッシュ加熱部
6,110 チャンバー
7 保持部
10 移載機構
20 放射温度計
45 VCSEL
47 LEDランプ
48 ホモジナイザー
48a 回折光学素子
49 電力供給部
65 熱処理空間
74,170 サセプタ
FL フラッシュランプ
W 半導体ウェハー