(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062792
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】不等径ワークの加工方法及び加工プログラム、合成Y軸付き加工装置
(51)【国際特許分類】
B23B 1/00 20060101AFI20240501BHJP
G05B 19/18 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
B23B1/00 N
G05B19/18 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170876
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(71)【出願人】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 健人
(72)【発明者】
【氏名】山田 敦也
(72)【発明者】
【氏名】田中(齊藤) 梓
【テーマコード(参考)】
3C045
3C269
【Fターム(参考)】
3C045AA10
3C045EA04
3C269AB02
3C269BB03
3C269CC01
3C269EF02
3C269EF25
3C269QB17
(57)【要約】
【課題】両端部と中間部との外径が互いに異なる不等径ワークを、バックラッシュの影響なく旋削加工可能とする。
【解決手段】主軸と、Z軸方向へ移動可能な往復台と、Xs軸方向へ移動可能な横送り台と、Xs軸から所定角度傾斜するYs軸方向へ移動可能な刃物台と、NC装置と、を含み、NC装置により横送り台と刃物台とがXs軸方向及びYs軸方向へ同時に移動することで、刃物台が、Z軸及びXs軸と直交するY軸方向へ移動可能な合成Y軸付き旋盤を用い、刃物台に、Y軸・Z軸平面上で直線状に延びるインサート7aを有する工具7を装着し、ワークWを回転させながら、インサート7aを、ワークWの接線方向から傾斜した姿勢でZ軸及びY軸方向へ移動させると共に、Xs軸方向へ往復移動させてワークWの外周を旋削することで、ワークWを、両端部とその間の中央部21との外径が互いに異なる不等径ワーク20に加工する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを把持してZ軸方向を軸線として回転する主軸と、前記Z軸方向へZ軸送り機構を介して移動可能な第1の移動体と、前記第1の移動体上で前記Z軸と直交するX軸方向へX軸送り機構を介して移動可能な第2の移動体と、前記第2の移動体上で前記X軸から所定角度傾斜するYs軸方向へYs軸送り機構を介して移動可能な第3の移動体と、前記主軸、前記Z軸送り機構、前記X軸送り機構、前記Ys軸送り機構をそれぞれ制御する制御装置と、を含み、前記制御装置により前記第2の移動体と前記第3の移動体とが前記X軸方向及び前記Ys軸方向へ同時に移動することで、前記第3の移動体が、前記Z軸及び前記X軸と直交するY軸方向へ移動可能な合成Y軸付き加工装置を用い、
前記第3の移動体に、前記Y軸・前記Z軸平面上で直線状に延びる刃先を有する工具を装着し、
前記主軸に把持させた棒状のワークを回転させながら、前記刃先を、前記ワークの接線方向から傾斜した姿勢で前記Z軸方向及び前記Y軸方向へ移動させると共に、前記X軸方向へ往復移動させて前記ワークの外周を旋削することで、前記ワークを、両端部とその間の中間部との外径が互いに異なる不等径に加工することを特徴とする不等径ワークの加工方法。
【請求項2】
前記X軸方向の目標位置をXi、前記Y軸方向の目標位置をYi、前記Ys軸の傾斜角度をθとして、前記Y軸方向への移動が+方向の場合は、Xi<Yi/tanθの関係を満たし、前記Y軸方向への移動が-方向の場合は、Xi>Yi/tanθの関係を満たすように前記X軸及び前記Y軸の各目標位置をそれぞれ設定することを特徴とする請求項1に記載の不等径ワークの加工方法。
【請求項3】
ワークを把持してZ軸方向を軸線として回転する主軸と、前記Z軸方向へZ軸送り機構を介して移動可能な第1の移動体と、前記第1の移動体上で前記Z軸と直交するX軸方向へX軸送り機構を介して移動可能な第2の移動体と、前記第2の移動体上で前記X軸から所定角度傾斜するYs軸方向へYs軸送り機構を介して移動可能な第3の移動体と、前記主軸、前記Z軸送り機構、前記X軸送り機構、前記Ys軸送り機構をそれぞれ制御する制御装置と、を含み、前記制御装置により前記第2の移動体と前記第3の移動体とが前記X軸方向及び前記Ys軸方向へ同時に移動することで、前記第3の移動体が、前記Z軸及び前記X軸と直交するY軸方向へ移動可能な合成Y軸付き加工装置の前記制御装置に、前記Y軸・前記Z軸平面上で直線状に延びる刃先を有する工具を前記第3の移動体に装着した状態で、請求項1又は2に記載の不等径ワークの加工方法を実行させるための加工プログラム。
【請求項4】
ワークを把持してZ軸方向を軸線として回転する主軸と、前記Z軸方向へZ軸送り機構を介して移動可能な第1の移動体と、前記第1の移動体上で前記Z軸と直交するX軸方向へX軸送り機構を介して移動可能な第2の移動体と、前記第2の移動体上で前記X軸から所定角度傾斜するYs軸方向へYs軸送り機構を介して移動可能な第3の移動体と、前記主軸、前記Z軸送り機構、前記X軸送り機構、前記Ys軸送り機構をそれぞれ制御する制御装置と、を含み、前記制御装置により前記第2の移動体と前記第3の移動体とが前記X軸方向及び前記Ys軸方向へ同時に移動することで、前記第3の移動体が、前記Z軸及び前記X軸と直交するY軸方向へ移動可能な合成Y軸付き加工装置であって、
前記第3の移動体に、前記Y軸・前記Z軸平面上で直線状に延びる刃先を有する工具を装着した状態で、
前記制御装置は、前記主軸に把持させた棒状のワークを回転させながら、前記刃先を、前記ワークの接線方向から傾斜した姿勢で前記Z軸方向及び前記Y軸方向へ移動させると共に、前記X軸方向へ往復移動させて前記ワークの外周を旋削することで、前記ワークを、両端部とその間の中間部との外径が互いに異なる不等径に加工可能であることを特徴とする合成Y軸付き加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、棒状のワークを、両端部と中間部とで外径が異なる不等径ワークに旋削加工するための加工方法及び加工プログラム、合成Y軸付き加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷ロールや給紙ロール、ローラコンベヤのローラといった棒状のワークが旋盤等の工作機械で旋削加工されている。このワークは、例えば特許文献1に開示されるように、主軸に保持させて回転させながら、旋削バイト等の工具を、ワークの径方向となるX軸方向に移動させて切り込み、そのまま工具をワークの軸線方向と平行なZ軸方向に移動させることで旋削加工される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワークには、外径が軸方向全長に亘って等径とならず、
図7(A)に示すように、軸方向の両端部から中央へ向かうに従って連続的に小径となり、全長に亘ってV字状にくびれるテーパ状の不等径ワークW1や、
図7(B)に示すように、全長に亘ってU字状にくびれる不等径ワークW2がある。
このような不等径ワークW1,W2を旋削加工する場合、旋盤のNC装置は、工具の切刃30を、点線矢印で示すように、Z軸方向に移動させながらX軸送り機構によってワークの径方向内側となるX-方向へ数値Nだけ切り込ませた後、中央部で反転させて径方向外側となるX+方向へ移動させることになる。すると、反転動作があるポイントでのX軸送り機構のバックラッシュにより、段差が発生したり、動作遅れによる形状不良が発生したりするおそれがあるため、バックラッシュを考慮して数値Nの補正を行う必要があった。これは、中央部がくびれずに両端部よりも径方向外側へ膨らむ不等径ワークの場合も同様である。
【0005】
そこで、本開示は、両端部と中間部との外径が互いに異なる不等径ワークを、バックラッシュの影響なく旋削加工可能となる加工方法及び加工プログラム、合成Y軸付き加工装置を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本開示の第1の構成は、不等径ワークの加工方法であって、
ワークを把持してZ軸方向を軸線として回転する主軸と、前記Z軸方向へZ軸送り機構を介して移動可能な第1の移動体と、前記第1の移動体上で前記Z軸と直交するX軸方向へX軸送り機構を介して移動可能な第2の移動体と、前記第2の移動体上で前記X軸から所定角度傾斜するYs軸方向へYs軸送り機構を介して移動可能な第3の移動体と、前記主軸、前記Z軸送り機構、前記X軸送り機構、前記Ys軸送り機構をそれぞれ制御する制御装置と、を含み、前記制御装置により前記第2の移動体と前記第3の移動体とが前記X軸方向及び前記Ys軸方向へ同時に移動することで、前記第3の移動体が、前記Z軸及び前記X軸と直交するY軸方向へ移動可能な合成Y軸付き加工装置を用い、
前記第3の移動体に、前記Y軸・前記Z軸平面上で直線状に延びる刃先を有する工具を装着し、
前記主軸に把持させた棒状のワークを回転させながら、前記刃先を、前記ワークの接線方向から傾斜した姿勢で前記Z軸方向及び前記Y軸方向へ移動させると共に、前記X軸方向へ往復移動させて前記ワークの外周を旋削することで、前記ワークを、両端部とその間の中間部との外径が互いに異なる不等径に加工することを特徴とする。
本開示の第1の構成の別の態様は、上記構成において、前記X軸方向の目標位置をXi、前記Y軸方向の目標位置をYi、前記Ys軸の傾斜角度をθとして、前記Y軸方向への移動が+方向の場合は、Xi<Yi/tanθの関係を満たし、前記Y軸方向への移動が-方向の場合は、Xi>Yi/tanθの関係を満たすように前記X軸及び前記Y軸の各目標位置をそれぞれ設定することを特徴とする。
上記目的を達成するために、本開示の第2の構成は、不等径ワークの加工プログラムであって、
ワークを把持してZ軸方向を軸線として回転する主軸と、前記Z軸方向へZ軸送り機構を介して移動可能な第1の移動体と、前記第1の移動体上で前記Z軸と直交するX軸方向へX軸送り機構を介して移動可能な第2の移動体と、前記第2の移動体上で前記X軸から所定角度傾斜するYs軸方向へYs軸送り機構を介して移動可能な第3の移動体と、前記主軸、前記Z軸送り機構、前記X軸送り機構、前記Ys軸送り機構をそれぞれ制御する制御装置と、を含み、前記制御装置により前記第2の移動体と前記第3の移動体とが前記X軸方向及び前記Ys軸方向へ同時に移動することで、前記第3の移動体が、前記Z軸及び前記X軸と直交するY軸方向へ移動可能な合成Y軸付き加工装置の前記制御装置に、前記Y軸・前記Z軸平面上で直線状に延びる刃先を有する工具を前記第3の移動体に装着した状態で、第1の構成の何れかに記載の不等径ワークの加工方法を実行させることを特徴とする。
上記目的を達成するために、本開示の第3の構成は、ワークを把持してZ軸方向を軸線として回転する主軸と、前記Z軸方向へZ軸送り機構を介して移動可能な第1の移動体と、前記第1の移動体上で前記Z軸と直交するX軸方向へX軸送り機構を介して移動可能な第2の移動体と、前記第2の移動体上で前記X軸から所定角度傾斜するYs軸方向へYs軸送り機構を介して移動可能な第3の移動体と、前記主軸、前記Z軸送り機構、前記X軸送り機構、前記Ys軸送り機構をそれぞれ制御する制御装置と、を含み、前記制御装置により前記第2の移動体と前記第3の移動体とが前記X軸方向及び前記Ys軸方向へ同時に移動することで、前記第3の移動体が、前記Z軸及び前記X軸と直交するY軸方向へ移動可能な合成Y軸付き加工装置であって、
前記第3の移動体に、前記Y軸・前記Z軸平面上で直線状に延びる刃先を有する工具を装着した状態で、
前記制御装置は、前記主軸に把持させた棒状のワークを回転させながら、前記刃先を、前記ワークの接線方向から傾斜した姿勢で前記Z軸方向及び前記Y軸方向へ移動させると共に、前記X軸方向へ往復移動させて前記ワークの外周を旋削することで、前記ワークを、両端部とその間の中間部との外径が互いに異なる不等径に加工可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、両端部と中間部との外径が互いに異なる不等径ワークを、バックラッシュの影響なく旋削加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】ワークの説明図で、(A)はX軸方向から見た状態、(B)はZ軸方向から見た状態をそれぞれ示す。
【
図4】合成Y軸によるインサートの移動を示す説明図である。
【
図5】(A)(B)は不等径ワークの他の例を示す説明図である。
【
図6】プログラムにより指令する目標位置のXs軸の反転の有無を示す説明図で、(A)はY軸移動が+方向の場合、(B)はY軸移動が-方向の場合をそれぞれ示す。
【
図7】(A)(B)は従来の不等径ワークの加工方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本開示の第3の構成に係る合成Y軸付き加工装置の一例である合成Y軸付き旋盤(以下単に「旋盤」という。)1の概略を示している。
旋盤1は、ベッド2上に、図示しないZ軸送り機構によってZ軸方向(紙面直交方向)に移動可能な往復台3を備えている。往復台3上には、図示しないX軸送り機構によってXs軸方向に移動可能な横送り台4が設けられている(一般的にXZ2軸での旋削加工の場合は横送り台4はX軸方向に移動可能に設けられるが、横送り台4の送り指令は、X軸方向のプログラム指令による横送り台4への送り指令と、Y軸方向のプログラム指令による横送り台4への送り指令との合算となっているため、X軸方向のプログラム指令と横送り台4への送り指令とを区別して説明する都合上、以下本形態では横送り台4の送り軸を「Xs軸」と表記する)。
横送り台4上には、図示しないYs軸送り機構によって、Xs軸方向に対して所定角度(例えば30°)で傾斜するYs軸方向に移動可能な刃物台5が設けられている。刃物台5には、工具7が装着されるタレット6が設けられている。
ベッド2上に設けられた図示しない主軸台には、Z軸方向を軸線として回転する主軸8が設けられている。主軸8の先端には、チャック9が設けられて、棒状の一例である円柱状のワークWを同軸で把持可能となっている。
【0010】
旋盤1に設けたNC装置10は、プログラム解釈部11と動作指令部12と記憶部13とを備えている。プログラム解釈部11は、図示しない入力手段から入力された加工プログラムを主軸回転指令、各軸の送り機構の動作指令に解釈する。動作指令部12は、プログラム解釈部11から送られた指令に基づいて主軸モータや各軸の送り機構のモータ等を制御する。記憶部13は、加工プログラム及び、ワークの形状データ等の加工情報を記憶する。
NC装置10により、往復台3のZ軸方向への移動、横送り台4のXs軸方向への移動、刃物台5のYs軸方向への移動がそれぞれ制御されることで刃物台5(工具の刃先位置)の移動が制御される。このXs軸及びYs軸の直線2軸合成によって、刃物台5は、Y軸方向へ移動可能となっている。
この2軸合成でのXs軸方向の成分をXyとし、その移動量をLXyとすると、
図2に示すように、刃物台5を現在位置(X
O、Y
O)から目標位置(Xi、Yi’)までY+方向へΔYiだけ移動させる場合、横送り台4をXs-方向へ移動量LXyで、刃物台5をYs+方向へ移動量LYsでそれぞれ移動させることになる。このときの実際のXs軸の移動量LXs=LXyとなる。
【0011】
この旋盤1を用いて本開示の第1の構成に係る不等径ワークの加工方法を説明する。
図3(A)に二点鎖線で示すように、不等径ワーク20は、Z軸方向へ延びる円柱状であるが、外径が軸方向全長に亘って等径とならず、軸方向の両端から中央部21へ向かうに従って連続的に小径となり、全長に亘ってV字状にくびれるテーパ形状となっている。
ここで使用される工具7は、
図3(B)に示すように、Y軸・Z軸平面上で直線状に延びるインサート7aを有している。旋盤1では、工具7を用いて、いわゆるハードスカイビング加工と称される加工方法と同様の加工を行う。すなわち、
図3(A)に示すように、NC装置10は、加工プログラムに基づいて、全長に亘って等径となる円柱状のワークWの接線方向に対してインサート7aを所定角度傾斜させて、インサート7aの一端側の加工開始点aを、回転するワークWの外周面に接触させる。そして、Y軸及びZ軸の指令により、インサート7aを、矢印で示すようにY軸・Z軸方向へ移動させながらワークWとの接触点をインサート7aに沿って他端側の加工終了点cまで移動させることで、ワークWの外周面を全長に亘って旋削する。
【0012】
このとき、中間点bが最小径の中央部21となるようにワークWに対して径方向内側にΔXiだけ切り込むことから、NC装置10は、Xs軸の指令も行う。
図4に示すように、加工開始点aを(Xi、Yi)、中間点bを(Xi’、Yi’)とすると、加工開始点aから中間点bまでは、Y方向のみに移動させる
図2の場合と比較して、ΔXiの分の移動量が加わる。よって、Xs軸は、移動量(LXy+ΔXi=LXs)でXs-方向へ移動する。Ys軸は、
図2と同様にYs+方向へ移動量LYsで移動する。よって、インサート7aは、Y+及びZ-方向へ移動しながらXs-方向へΔXiだけ移動する。このΔXiがテーパ量となる。こうしてワークWは、加工開始点aから徐々に小径となるテーパ状に旋削され、中間点bで最小径となる。
【0013】
中間点bから加工終了点c(Xi、Yi”)までは、Xs+の指令が加わる。しかし、Xs軸は、Xs-方向への移動に変わりはなく、Y方向のみに移動させる
図2の場合と比較して、Xs+側へのΔXi分だけ移動量が少なくなる。すなわち、Xs軸の移動量は(LXy-ΔXi=LXs)となる。Ys軸は、Ys+方向へ移動量LYsで移動する。よって、インサート7aは、Y+及びZ-方向へ移動しながらXs+方向へΔXiだけ移動する。こうしてワークWは、加工終了点cへ向かうに従って徐々に大径となるテーパ状に旋削され、不等径ワーク20が得られる。
【0014】
ここでのXs軸は、加工開始点aから中間点bへはXi-方向、中間点bから加工終了点cへはXi+方向となって反転指令されてインサート7aはXi軸方向で往復移動しているものの、X軸送り機構の実際の送り方向は常にXs-方向で、移動量が変化するのみとなっている。よって、往復移動がある中間点bでのX軸送り機構のバックラッシュが生じることはない。
なお、Xs軸の移動に際し、実際のXs軸の送り速度が0となるとバックラッシュの影響を受けるため、実際のXs軸の送り速度(Y軸指令によるXs軸の動作速度+Xi軸指令によるXs軸の動作速度)が0より大きくなるように加工プログラムを設定する必要がある。
また、Y軸の移動速度は、一定速度としてもよいし、X軸送り機構の反転が発生しなければ一定速度でなくてもよい。
【0015】
このように、上記形態の不等径ワーク20の加工方法及び加工プログラムは、ワークWを把持してZ軸方向を軸線として回転する主軸8と、Z軸方向へZ軸送り機構を介して移動可能な往復台3(第1の移動体の一例)と、往復台3上でZ軸と直交するXs軸方向へX軸送り機構を介して移動可能な横送り台4(第2の移動体の一例)と、横送り台4上でXs軸から所定角度傾斜するYs軸方向へYs軸送り機構を介して移動可能な刃物台5(第3の移動体)と、主軸8、Z軸送り機構、X軸送り機構、Ys軸送り機構をそれぞれ制御するNC装置10(制御装置の一例)と、を含み、NC装置10により横送り台4と刃物台5とがXs軸方向及びYs軸方向へ同時に移動することで、刃物台5が、Z軸及びXs軸と直交するY軸方向へ移動可能な旋盤1を用いる。
そして、刃物台5に、Y軸・Z軸平面上で直線状に延びるインサート7a(刃先の一例)を有する工具7を装着し、主軸8に把持させた円柱状のワークWを回転させながら、インサート7aを、ワークWの接線方向から傾斜した姿勢でZ軸方向及びY軸方向へ移動させると共に、Xs軸方向へ往復移動させてワークWの外周を旋削することで、ワークWを、両端部とその間の中央部21との外径が互いに異なる不等径ワーク20に加工する。
この構成によれば、両端部と中間部との外径が互いに異なる不等径ワーク20を、バックラッシュの影響なく旋削加工することができる。
【0016】
なお、上記形態では、全長に亘ってV字状にくびれる不等径ワークを加工する方法で説明しているが、
図7(B)に示すように、全長に亘ってU字状にくびれる不等径ワークW2を加工する場合も同様である。
また、中央部がくびれる不等径ワークでなく、
図5(A)に示すように、両端から中央部21へ向かうに従って徐々に大径となり、全長が逆V字状に膨出する不等径ワーク20aや、
図5(B)に示すように、両端から中央部21へ向かうに従って徐々に大径となり、全長が逆U字状に膨出する不等径ワーク20bであっても本開示の適用は可能である。この場合、Xi軸の目標位置は、上記形態と逆にXi+方向からXi-方向に反転指令されることになるが、実際の動作はXs-方向のみとなる。Xi軸の目標位置が+方向でもY軸の移動方向が変わらないのであれば、Xs軸の実際の動作はXs-方向のみである。
上記形態では、Y軸は+方向に移動させているが、ワークや工具等の加工条件によっては、Y軸を-方向に移動させて不等径ワークを加工してもよい。Y軸の移動方向が-方向である場合は、実際のXs軸方向の動作は+方向のみとなる。
【0017】
そして、Y軸の移動が+方向となる上記形態において、Y軸目標位置Yiに対してXs軸目標位置XiがYiのXs軸成分を越える場合、例えば、Xi>Yi/tanθ(θはYs軸の傾斜角度)となった場合、実際の動作でXs軸の反転が発生するため、Xi<Yi/tanθとなる範囲でΔXi及びΔYiを移動させる必要がある。この範囲を、
図3に示すように中央部がくびれる不等径ワークの残り半分、中間点bから加工終了点cへの移動をする場合で具体的に説明する。
まず、
図6(A)のパターン(A1)に示すように、θが45°であって、目標位置cの座標(Xi、Yi)が(4,5)である場合、 目標位置Xiは+であっても、LXsは-1となる。よって、ワークの外面はテーパとなる。
次に、パターン(A2)のように目標位置cが(5,5)であると、LXsは0となり、送り速度も0となる。よって、この状態を境にしてXi<Yiであれば、Xs軸の動作方向は-方向のままとなる。
よって、パターン(A3)のように目標位置cが(6,5)、すなわち(Xi>Yi)であると、LXsは+1となり、反転することになる。
【0018】
逆に、Y軸の移動が-方向となる場合、Xi<Yi/tanθとなった場合、実際の動作でXs軸の反転が発生するため、Xi>Yi/tanθとなる範囲でΔXi及びΔYiを移動させる必要がある。
まず、
図6(B)のパターン(B1)に示すように、θが45°であって、目標位置cの(Xi、Yi)が(-4,-5)であると、目標位置Xiは-であっても、LXsは+1となる。よって、ワークの外面はテーパとなる。
次に、パターン(B2)のように目標位置cが(-5,-5)であると、LXsは0となり、送り速度も0となる。よって、この状態を境にしてXi>Yiであれば、Xs軸の動作方向は+方向のままとなる。
よって、パターン(B3)のように目標位置cが(-6,-5)、すなわち(Xi<Yi)であると、LXsは-1となり、反転することになる。
【0019】
さらに、上記形態では、ワークの中央部がくびれる或いは膨出する不等径ワークを説明しているが、くびれ或いは膨出部分が中央部から一方の端部寄りとなっている不等径ワークであっても本開示の採用による加工は可能である。すなわち、本開示での不等径ワークの中間部は、中央部に限定されない。
また、ワークの全体がくびれる或いは膨出する不等径ワークに限らず、ワークの中央部のみや端部寄りの一部が部分的にくびれる或いは膨出する不等径ワークも本開示の採用による加工は可能である。
同様に合成Y軸付き加工装置の構成も上記形態の旋盤に限定されない。例えばワークと工具との位置関係が逆になるような装置であってもよい。
上記形態では、位置指令による加工動作を説明しているが、Xs+方向では速度Vx>0、Xs-方向ではVx<0を維持するのであれば、例えば速度指令による加工動作でも本開示は実現可能であり、具体的な指令の仕方は適宜変更して差し支えない。
【符号の説明】
【0020】
1・・合成Y軸付き旋盤、2・・ベッド、3・・往復台、4・・横送り台、5・・刃物台、6・・タレット、7・・工具、7a・・インサート、8・・主軸、9・・チャック、10・・NC装置、11・・プログラム解釈部、12・・動作指令部、13・・記憶部、、20,20a,20b・・不等径ワーク、21・・中央部。