(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000628
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】含フッ素アルキレンジアミン化合物、又はその塩の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 209/14 20060101AFI20231226BHJP
C07C 211/15 20060101ALI20231226BHJP
C07C 209/62 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
C07C209/14
C07C211/15
C07C209/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099419
(22)【出願日】2022-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000252300
【氏名又は名称】富士フイルム和光純薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 孝之
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC52
4H006BD70
(57)【要約】
【課題】含フッ素アルキレンジアミン化合物、又はその塩を高収率で得ることができる、含フッ素アルキレンジアミン化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】
下記一般式(1)で表される化合物と下記一般式(2)で表される化合物とを反応させ、下記一般式(3)で表される化合物を得ることを含む、含フッ素アルキレンジアミン化合物、又はその塩の製造方法。
【化1】
上記式中、R
1は、水素原子又は置換基を示し、R
2~R
4はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基又はアリール基を示し、Y
1及びY
2は脱離基を示す。
nは4~8である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物と下記一般式(2)で表される化合物とを反応させ、下記一般式(3)で表される化合物を得ることを含む、含フッ素アルキレンジアミン化合物の製造方法。
【化1】
上記式中、R
1は、水素原子又は置換基を示し、R
2~R
4はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基又はアリール基を示し、Y
1及びY
2は脱離基を示す。
nは4~8である。
【請求項2】
前記反応を塩基性条件で行う、請求項1に記載の含フッ素アルキレンジアミン化合物の製造方法。
【請求項3】
上記Y1及び上記Y2が、ともに、トリフルオロメチルスルホニルオキシ基である、請求項1に記載の含フッ素アルキレンジアミン化合物の製造方法。
【請求項4】
上記nが4である、請求項1に記載の含フッ素アルキレンジアミン化合物の製造方法。
【請求項5】
上記R1が水素原子である、請求項1に記載の含フッ素アルキレンジアミン化合物の製造方法。
【請求項6】
上記一般式(2)で表される化合物が、tert-ブチルアミン、2-メチルブタン-2-アミン、2-メチルペンタン-2-アミン、2-メチルヘキサン-2-アミン、tert-オクチルアミン、4-エチル-2-メチルヘキサン-2-アミン、1-メチル-1-フェニルエチルアミン及びトリチルアミンのうちの少なくとも1種である、請求項5に記載の含フッ素アルキレンジアミン化合物の製造方法。
【請求項7】
上記一般式(2)で表される化合物が、tert-オクチルアミンである、請求項6に記載の含フッ素アルキレンジアミン化合物の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の含フッ素アルキレンジアミン化合物の製造方法で得られた上記一般式(3)で表される化合物と酸化合物とを反応させ、下記一般式(4)で表される化合物又はその塩を得ることを含む、含フッ素アルキレンジアミン化合物又はその塩の製造方法。
【化2】
上記式中、R
1及びnは上記のR
1及びnと同義である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素アルキレンジアミン化合物、又はその塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素アミノメチル化合物(Rf-CH2NH2で表される化合物。Rfは含フッ素アルキル基を示す。)は、様々な化成品、医農薬等の基礎原料として有用な化合物である。
含フッ素アミノメチル化合物の一般的な合成方法としては、(i)アミド化合物の還元反応、(ii)ニトリル化合物の還元反応、(iii)トリフルオロメタンスルニルオキシ基等の脱離基を有する化合物について、(iii-1)アミン化合物による置換反応、(iii-2)ジフタルイミド化合物を得た後にヒドラジンと反応させる方法、(iii-3)ジアジド化合物を得た後に水素添加を行う方法が知られている。しかし、化合物の構造によっては、大量製造に適用できない場合がある等、より安全で汎用的な代替法の開発が望まれていた。
【0003】
含フッ素アミノメチル化合物のうち、含フッ素アルキル基が置換基としてアミノ基を有する、含フッ素アルキレンジアミン化合物の合成方法として、例えば、非特許文献1及び特許文献1に記載の方法が知られている程度であった。
すなわち、非特許文献1には、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロヘキサン-1,6-ジイルビス(トリフルオロメタンスルホナート)からジフタルイミド化合物又はジアジド化合物を得た後、ジフタルイミド化合物についてはヒドラジンとの反応により、ジアジド化合物については水素添加反応により、含フッ素アルキレンジアミン化合物を合成する方法が知られている。特許文献1には、水素化ホウ素化合物及びアルミニウム塩の存在下に含フッ素脂肪族ジアミドを還元して含フッ素脂肪族ジアミン塩酸塩を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】X.Wu et al.,Jounal of Fluoride Chemistry, 2012年, 第135巻, p.292-302
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の非特許文献1及び特許文献1に記載の方法では収率が低く、目的とする含フッ素アルキルレンジアミン化合物を選択的にかつ効率的に得ることができていなかった。具体的には、非特許文献1に記載の方法では、ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)エステル化合物からジフタルイミド化合物を経てジアミン化合物を合成する方法では、2工程での収率は89%×76%=68%であり、ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)エステル化合物からジアジド化合物を経てジアミン化合物を合成する方法では、ジアジド化合物の収率は>99%であるものの、ジアジド化合物の水素添加反応の収率は高くても59%であり、2工程での収率はおよそ59%であった。また、特許文献1に記載の方法では、テトラフルオロブタンジアミン、オクタフルオロヘキサンジアミン、デカフルオロヘプタンジアミン、ヘキサデカフルオロデカンジアミンそれぞれの塩酸塩の収率は、50~70%であった。
【0007】
本発明は、含フッ素アルキレンジアミン化合物を高収率で得ることができる、含フッ素アルキレンジアミン化合物、又はその塩の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、含フッ素アルキレンジアミン化合物の合成法について検討を重ねた結果、トリフルオロメタンスルニルオキシ基等の脱離基を有する化合物の、アミン化合物による置換反応において、アミン化合物として安価なアンモニア水又はベンジルアミン等を用いた場合に、目的とする含フッ素アルキレンジアミン化合物がほとんど得られず、これが、副反応である環化反応の進行に起因していること、特定のアミン化合物を用いることにより、目的とする含フッ素アルキレンジアミン化合物を高収率で製造できることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づき更に検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0009】
すなわち、上記の課題は以下の手段により解決された。
<1>
下記一般式(1)で表される化合物と下記一般式(2)で表される化合物とを反応させ、下記一般式(3)で表される化合物を得ることを含む、含フッ素アルキレンジアミン化合物の製造方法。
【化1】
上記式中、R
1は、水素原子又は置換基を示し、R
2~R
4はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基又はアリール基を示し、Y
1及びY
2は脱離基を示す。
nは4~8である。
<2>
上記反応を塩基性条件で行う、<1>に記載の含フッ素アルキレンジアミン化合物の製造方法。
<3>
前記Y
1及び前記Y
2が、ともに、トリフルオロメチルスルホニルオキシ基である、<1>又は<2>に記載の含フッ素アルキレンジアミン化合物の製造方法。
<4>
前記nが4である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の含フッ素アルキレンジアミン化合物の製造方法。
<5>
前記R
1が水素原子である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の含フッ素アルキレンジアミン化合物の製造方法。
<6>
前記一般式(2)で表される化合物が、tert-ブチルアミン、2-メチルブタン-2-アミン、2-メチルペンタン-2-アミン、2-メチルヘキサン-2-アミン、tert-オクチルアミン、4-エチル-2-メチルヘキサン-2-アミン、1-メチル-1-フェニルエチルアミン及びトリチルアミンのうちの少なくとも1種である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の含フッ素アルキレンジアミン化合物の製造方法。
<7>
前記一般式(2)で表される化合物が、tert-オクチルアミンである、<6>に記載の含フッ素アルキレンジアミン化合物の製造方法。
<8>
<1>~<7>のいずれか1つに記載の含フッ素アルキレンジアミン化合物の製造方法で得られた前記一般式(3)で表される化合物と酸化合物とを反応させ、下記一般式(4)で表される化合物又はその塩を得ることを含む、含フッ素アルキレンジアミン化合物又はその塩の製造方法。
【化2】
上記式中、R
1及びnは前記のR
1及びnと同義である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の含フッ素アルキレンジアミン化合物、又はその塩の製造方法は、含フッ素アルキレンジアミン化合物、又はその塩を高収率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。なお、本発明において、反応条件、原料化合物等の使用量等について数値範囲を段階的に複数設定して説明する場合、数値範囲を形成する上限値及び下限値は、特定の数値範囲として「~」の前後に記載された特定の組み合わせに限定されず、各数値範囲を形成する上限値及び下限値の数値を適宜組み合わせることができる。
本発明において、特段の断りがない限り、本発明の製造方法に用いられる各化合物(各一般式で表される化合物、塩基化合物、酸化合物、溶媒)は、それぞれ、1種使用されていてもよく、2種以上使用されていてもよい。また、各化合物の使用量の記載においては、特段の断りがない限り、化合物を2種以上使用する場合には合計量を意味する。
本発明において化合物の表示(例えば、化合物と末尾に付して呼ぶとき)については、この化合物そのもののほか、その塩、そのイオンを含む意味に用いる。また、本発明の効果を損なわない範囲で、置換基を導入するなど一部を変化させた誘導体を含む意味である。
本発明において、置換又は無置換を明記していない置換基、連結基等(以下、置換基等と省略する。)については、本発明の効果を損なわない範囲で、その基に適宜の置換基を有していてもよい意味である。例えば、「アルキル基」という場合は、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)と、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)とを包含する。このことは置換又は無置換を明記していない化合物についても同義である。
本発明において、特定の符号で示された置換基等が複数あるとき、又は複数の置換基等を同時に規定するときには、それぞれの置換基等は互いに同一でも異なっていてもよいことを意味する。また、特に断らない場合であっても、複数の置換基等が隣接するときにはそれらが互いに連結したり縮環したりして環を構成(形成)していてもよい意味である。
本発明において、ある基の炭素数を規定する場合、この炭素数は、本発明ないし本明細書において特段の断りのない限りは、基全体の炭素数を意味する。つまり、この基がさらに置換基を有する形態である場合、この置換基を含めた全体の炭素数を意味する。
【0012】
[含フッ素アルキレンジアミン化合物、又はその塩の製造方法]
<一般式(3)で表される含フッ素アルキレンジアミン化合物の製造方法>
本発明の含フッ素アルキレンジアミン化合物の製造方法(本発明の製造方法ということがある。)は、後記一般式(1)で表される化合物と後記一般式(2)で表される化合物とを反応させ、後記一般式(3)で表される含フッ素アルキレンジアミン化合物を得ることを含む、製造方法である。
本発明の製造方法では、一般式(1)で表される化合物におけるY1及びY2が脱離基として機能し、一般式(2)で表される化合物におけるアミノ基の窒素原子がY1及びY2が結合している炭素原子に求核攻撃する求核置換反応によって、一般式(3)で表される含フッ素アルキレンジアミン化合物を高収率で得ることができる。この理由は推定ではあるが、-CR1R2R3で表される嵩高い置換基を有する、一般式(2)で表されるアミン化合物を用いることにより、副反応である環化反応を抑制でき、目的物である一般式(3)で表される含フッ素アルキレンジアミン化合物を高選択的に得られるためと考えられる(後述の実施例1及び2と比較例1及び2との対比を参照)。
他方、含フッ素アルコールのスルホン酸エステル化合物のアミン化合物による置換反応により含フッ素アルキルモノアミン化合物を得る方法として、上記一般式(2)で表される化合物を用いた例も知られている。しかし、得られた含フッ素アルキルモノアミン化合物の収率はいずれも低く、例えば、K. J. Bruemmer et al.,Jounal of the American Chemical Society, 2017年, 第139巻, p.5338-5350のScheme2では14%、米国特許出願公開第2014/128372号明細書のExample 94において38%、米国特許出願公開第2016/115128号明細書のp.72の記載において30%であった。
以下に、一般式(3)で表される含フッ素アルキレンジアミン化合物の製造方法について詳しく説明する。
【0013】
【0014】
上記式中、R1は、水素原子又は置換基を示し、R2~R4はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基又はアリール基を示し、Y1及びY2は脱離基を示す。
nは4~8である。
【0015】
Y1及びY2は脱離基を示す。
Y1及びY2として採り得る脱離基としては、上記置換反応において脱離基として機能し、一般式(3)で表される含フッ素アルキレンジアミン化合物を得ることができる限り特に制限されず、例えば、Cl、Br、I、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アリーロイルオキシ基(アリールカルボニルオキシ基とも称す。)、アルキルスルホニルオキシ基(アルキルスルホネートとも称す)、アリールスルホニルオキシ基(アリールスルホネートとも称す)が挙げられる。
Y1及びY2として採り得るアルコキシ基におけるアルキル基は直鎖状、分岐状又は環状のいずれでもよい。上記アルコキシ基の炭素数は、1~20が好ましく、1~12がより好ましく、1~10がさらに好ましく、1~8が特に好ましく、なかでも1~6が好ましい。
Y1及びY2として採り得るアリールオキシ基におけるアリール基については、後述のR2~R4として採り得るアリール基の記載を適用することができる。Y1及びY2として採り得るアリールオキシ基の炭素数は、6~26が好ましく、6~18がより好ましく、6~12がさらに好ましく、6~8が特に好ましい。
Y1及びY2として採り得るアシルオキシ基としては、アルキルカルボニルオキシ基が好ましい。アルキルカルボニルオキシ基におけるアルキル基は直鎖状、分岐状又は環状のいずれでもよく、直鎖状又は分岐状が好ましい。上記アルキルカルボニルオキシ基の炭素数は、2~20が好ましく、2~12がより好ましく、2~10がさらに好ましく、2~8が特に好ましく、なかでも2~6が好ましい。具体的には、アセチルオキシ基が好ましい。
Y1及びY2として採り得るアリーロイルオキシ基におけるアリール基については、後述のR2~R4として採り得るアリール基の記載を適用することができる。Y1及びY2として採り得るアリーロイルオキシ基の炭素数は、7~26が好ましく、7~18がより好ましく、7~12がさらに好ましい。具体的には、ベンゾイルオキシ基が好ましい。
Y1及びY2として採り得るアルキルスルホニルオキシ基におけるアルキル基は直鎖状、分岐状又は環状のいずれでもよい。Y1及びY2として採り得るアルキルスルホニルオキシ基の炭素数は、1~20が好ましく、1~12がより好ましく、1~10がさらに好ましく、1~8が特に好ましく、なかでも1~6が好ましい。例えば、置換基としてフッ素原子等を有していることも好ましい。具体的には、メタンスルホニルオキシ基(メタンスルホネート基:-OSO2CH3)、トリフルオロメチルスルホニルオキシ基(トリフルオロメタンスルホネート基:-OSO2CF3)が好ましい。
Y1及びY2として採り得るアリールスルホニルオキシ基におけるアリール基については、後述のR2~R4として採り得るアリール基の記載を適用することができる。Y1及びY2として採り得る上記アリールスルホニルオキシ基の炭素数は、6~26が好ましく、6~18がより好ましく、6~12がさらに好ましい。例えば、置換基としてアルキル基、ニトロ基等を有していることも好ましい。具体的には、p-トルエンスルホニルオキシ基(p-トルエンスルホネート基:-OSO2Ph-p-CH3)、2-ニトロベンゼンスルホニルオキシ基(-OSO2Ph-2-NO2)が挙げられる。
Y1及びY2としては、Cl、Br、I、アルキルスルホニルオキシ基又はアリールスルホニルオキシ基が好ましく、Cl、Br、I、メタンスルホニルオキシ基、トリフルオロメチルスルホニルオキシ基又はp-トルエンスルホニルオキシ基がより好ましく、トリフルオロメチルスルホニルオキシ基がさらに好ましい。
【0016】
nは、ジフルオロメチレン基の繰り返し数を意味し、4~8であり、4~6であることが好ましく、4であることがより好ましい。
上記一般式(1)で表される化合物は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0017】
R1は、水素原子又は置換基を示す。
R1として採り得る置換基としては、一般式(3)で表される含フッ素アルキレンジアミン化合物を得ることができる限り特に制限されず、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、オクチル基等が挙げられる。
R1としては、後述する製造方法により、一般式(4)で表される含フッ素アルキレンジアミン化合物又はその塩として、第1級アミノ基を2つ有する、含フッ素アルキレンジアミン化合物又はその塩を得る観点から、水素原子であることが好ましい。
【0018】
R2~R4は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基又はアリール基を示す。
R2~R4として採り得るアルキル基、アルケニル基及びアルキニル基は、直鎖状、分岐状又は環状のいずれでもよく、直鎖状又は分岐状が好ましい。
R2~R4として採り得るアルキル基の炭素数は、1~20が好ましく、1~12がより好ましく、1~10がさらに好ましく、1~8が特に好ましく、なかでも1~6が好ましい。具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、2,2-ジメチルプロピル、2-エチルブチルが好ましい。
R2~R4として採り得るアルケニル基の炭素数は、2~20が好ましく、2~12がより好ましく、2~10がさらに好ましく、2~8が特に好ましく、なかでも2~6が好ましく、なかでも2~4が好ましい。具体的には、ビニルが好ましい。
R2~R4として採り得るアルキニル基の炭素数は、2~20が好ましく、2~12がより好ましく、2~10がさらに好ましく、2~8が特に好ましく、なかでも2~6が好ましく、なかでも2~4が好ましい。具体的には、エチニルが好ましい。
R2~R4として採り得るアリール基としては、芳香族炭化水素環の環構成原子が結合部となる基であればよく、芳香族炭化水素環からなる基、芳香族炭化水素環とその他の環とからなる基等を包含する。この他の環としては、例えば、芳香族複素環、非芳香族環(不飽和脂肪族炭化水素環、不飽和脂肪族複素環を含む。)、飽和脂肪族炭化水素環、飽和脂肪族複素環等が挙げられる。アリール基は、単環構造でも複環構造(縮合環構造、橋掛け環構造、スピロ環構造等)でもよい。
R2~R4として採り得るアリール基の炭素数は、6~26が好ましく、6~18がより好ましく、6~12がさらに好ましく、6~8が特に好ましく、なかでも6が好ましい。具体的には、フェニルが好ましい。
R2~R4としては、R2~R4の少なくとも2つがアルキル基であることが好ましく、R2~R4のうち2つがアルキル基であって、残り1つがアルキル基、アルキニル基又はアリール基であることがより好ましく、R2~R4のうち2つがメチル基であって、残り1つがアルキル基、アルキニル基又はアリール基であることが更に好ましく、R2~R4のうち2つがメチル基であって、残り1つがアルキル基であることが特に好ましい。
なお、R2~R4の全てがアリール基であることも好ましい。
【0019】
上記一般式(2)で表される化合物としては、tert-ブチルアミン、2-メチルブタン-2-アミン、2-メチルペンタン-2-アミン、2-メチルヘキサン-2-アミン、tert-オクチルアミン、4-エチル-2-メチルヘキサン-2-アミン、1-メチル-1-フェニルエチルアミン、トリチルアミン及び1,1-ジメチルプロパギルアミンのうちの少なくとも1種であることが好ましく、tert-ブチルアミン、2-メチルブタン-2-アミン、2-メチルペンタン-2-アミン、2-メチルヘキサン-2-アミン、tert-オクチルアミン、4-エチル-2-メチルヘキサン-2-アミン、1-メチル-1-フェニルエチルアミン及びトリチルアミンのうちの少なくとも1種であることがより好ましく、tert-ブチルアミン、2-メチルブタン-2-アミン、2-メチルペンタン-2-アミン、2-メチルヘキサン-2-アミン、tert-オクチルアミン、4-エチル-2-メチルヘキサン-2-アミン、及び1-メチル-1-フェニルエチルアミンのうちの少なくとも1種であることが更に好ましく、tert-オクチルアミンであることが特に好ましい。
上記一般式(2)で表される化合物は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0020】
上記の一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物の入手方法に特に制限はなく、商業的に入手してもよく、合成により製造してもよい。合成により製造する場合は、その製造方法としては特に制限はなく、常法により、合成することができる。
【0021】
上記一般式(2)で表される化合物の使用量は、上記一般式(1)で表される化合物100モル%に対して、通常、200モル%以上であればよく、200~1500モル%が好ましく、220~1400モル%がより好ましい。
【0022】
上記求核置換反応は、反応を効率的に進行させる観点から、塩基性条件下で行うことが好ましい。
上記求核置換反応において、上記一般式(1)で表される化合物100モル%に対して上記一般式(2)で表される化合物を200モル%を越える量使用した場合には、200モル%を越える分の一般式(2)で表される化合物は塩基として作用し得る。そのため、一般式(2)で表される化合物を200モル%を越える量(例えば220モル%以上)用いることも好ましい。
一方、反応をより効率的に進行させる観点からは、上記一般式(2)で表される化合物以外の塩基化合物を用いて、塩基性条件とすることが好ましい。
塩基性条件とするために使用する塩基化合物としては、通常、求核置換反応において用いられる塩基化合物を特に制限することなく用いることができる。例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム、リン酸三カリウム、リン酸三ナトリウム等が挙げられる。なお、塩基性条件とするために使用する塩基化合物には、上記一般式(2)で表される化合物は含まれないものとする。
塩基化合物は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
上記塩基化合物の使用量は、上記一般式(1)で表される化合物100モル%に対して、通常、10~1000モル%であればよく、100~1000モル%が好ましく、200~800モル%がより好ましい。
【0023】
(溶媒)
上記の一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物との上記置換反応において使用する溶媒としては、通常、求核置換反応において用いられる有機溶媒を特に制限することなく用いることができる。一般式(2)で表される化合物は立体的に嵩高い求核剤であるため、求核性を向上させる観点から、非プロトン性極性溶媒を用いることが好ましい。
例えば、アセトニトリル、DMSO(ジメチルスルホキシド)、DMF(ジメチルホルムアミド)、酢酸エチル、ジクロロメタン、THF(テトラヒドロフラン)、アセトン、DMAc(ジメチルアセトアミド)、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)、NEP(N-エチル-2-ピロリドン)、DMI(1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン)等が好ましく挙げられる。
有機溶媒は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
溶媒の使用量は、使用する上記一般式(1)で表される化合物及び上記一般式(2)で表される化合物にあわせて適宜調整することができ、例えば、上記一般式(1)で表される化合物及び上記一般式(2)で表される化合物の含有量の合計100質量%に対して、100~2000質量%となる量とすることができ、100~1000質量%となる量が好ましい。
【0024】
(反応条件)
上記求核置換反応の反応条件は、使用する上記一般式(1)で表される化合物及び上記一般式(2)で表される化合物、溶媒、塩基化合物、反応スケール等にあわせて適宜調整することができ、例えば、反応温度は50~150℃とすることができ、60~100℃が好ましく、反応時間は2~24時間とすることができ、6~12時間が好ましい。
【0025】
<一般式(4)で表される含フッ素アルキレンジアミン化合物又はその塩の製造方法>
本発明においては、本発明の製造方法で得られた前述の一般式(3)で表される含フッ素アルキレンジアミン化合物と酸化合物とを反応させ、下記一般式(4)で表される含フッ素アルキレンジアミン化合物又はその塩を得ることを含む製造方法も、含フッ素アルキレンジアミン化合物又はその塩の製造方法として好ましく挙げられる。この製造方法は、一般式(3)で表される含フッ素アルキレンジアミン化合物の酸化合物による分解(好ましくは熱分解)反応により、対応する一般式(4)で表される含フッ素アルキレンジアミン化合物又はその塩を高収率で得ることができる。
【0026】
【0027】
上記式中におけるR1及びnは、それぞれ上記一般式(3)におけるR1及びnと同義である。
【0028】
上記一般式(4)で表される含フッ素アルキレンジアミン化合物の塩としては、上記酸化合物による分解反応において使用する酸化合物との塩が挙げられる。酸化合物については、下記酸化合物に係る記載を適用することができる。
塩の種類は1種類でもよく、2種類以上混在していてもよい。
例えば、一般式(4)で表される化合物のメタンスルホン酸塩が挙げられる。
【0029】
(酸化合物)
上記酸化合物による分解反応において使用する酸化合物としては、メタンスルホン酸、 塩酸、硫酸、p-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等が挙げられる。
酸化合物は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
上記酸化合物の使用量は、上記一般式(3)で表される化合物100モル%に対して、通常、200~3000モル%であればよく、400~1500モル%が好ましい。
【0030】
(溶媒)
上記酸化合物による分解反応においては、溶媒を使用してもよく、溶媒を使用しなくてもよい。溶媒を使用しない場合には、例えば、酸化合物の融液が溶媒の役割を担うことが可能である。
溶媒を使用する場合について、以下に説明する。
使用する溶媒としては、通常、酸化合物による分解反応において用いられる有機溶媒を特に制限することなく用いることができる。例えば、トルエン、キシレン、テトラリン(1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン)、デカリン(デカヒドロナフタレン)等が好ましく挙げられる。
有機溶媒は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
溶媒の使用量は、使用する上記一般式(3)で表される化合物及び酸化合物にあわせて適宜調整することができ、例えば、上記一般式(3)で表される化合物の含有量100質量%に対して、100~2000質量%となる量とすることができ、100~1000質量%となる量が好ましい。
【0031】
(反応条件)
上記酸化合物による分解反応の反応条件は特に限定されないが、加熱することが好ましい。
例えば、反応温度は60~150℃とすることができ、80~120℃が好ましい。
また、反応時間は2~24時間とすることができ、6~12時間が好ましい。
【0032】
(その他の工程)
本発明の製造方法においては、上記求核置換反応終了後、上記一般式(3)で表される化合物を単離、回収してもよく、上記酸化合物による分解反応終了後、上記一般式(4)で表される化合物又はその塩として単離、回収してもよい。
これらの単離、回収の際に、精製する工程を行うこともできる。精製法としては、通常の方法を適用することができ、例えば、晶析精製が挙げられる。
本発明の製造方法では、カラム精製等の煩雑な方法を採ることなく、目的とする一般式(3)で表される化合物又は一般式(4)で表される化合物もしくはその塩を精製することができ、高収率で得ることができる。
【0033】
本発明の製造方法で得られる含フッ素アルキレンジアミン化合物は、種々の用途に用いることができ、例えば、化成品、医農薬等の基礎原料としての用途が挙げられる。特に、本発明の製造方法は、安全に、高収率で目的とする含フッ素アルキレンジアミン化合物を得られるため、例えば、工業的な製造において有用である。
例えば、本発明の製造方法により得られる一般式(4)で表される含フッ素アルキレンジアミン化合物又はその塩を原料として、ホスゲンとの反応により、アミノ基をイソシアナト基に置き換えた含フッ素アルキレンジイソシアナート化合物を得ることができる。この反応は、例えば、国際公開第2021/033505号に記載のフロー式反応を利用して行うことができる。
【実施例0034】
以下に、実施例に基づき本発明について更に詳細に説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。以下の実施例において組成を表す「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。室温とは25℃を意味する。
本発明において、収率は、反応に使用した含フッ素アルキレン基を有する原料化合物のモル量に対する、得られた含フッ素アルキレン基ジアミン化合物のモル量の百分率:(得られた化合物/原料化合物)×100(%)を示す。得られた化合物についてNMR(Nuclear Magnetic Resonance)測定を行い、化合物の構造を確認し、また、化合物が混合物である場合にはその組成比を算出した。
なお、一般式(1)で表される化合物を化合物(1)、一般式(2)で表される化合物を化合物(2)、一般式(3)で表される化合物を化合物(3)、一般式(4)で表される化合物を化合物(4)と、それぞれ略すことがある。Mwは分子量を示す。
【0035】
[実施例1]化合物(1)と化合物(2)の反応による化合物(3)の合成
2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロ-N,N’-ビス(2,4,4-トリメチルペンタン-2-イル)ヘキサン-1,6-ジアミンの合成
【0036】
【0037】
2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロヘキサン-1,6-ジイルビス(トリフルオロメタンスルホナート)105.2g(Mw525.9、0.200mol)及び炭酸カリウム138g(Mw138.2、0.998mol)のアセトニトリル316ml溶液に室温にて2,4,4-トリメチルペンタン-2-アミン(tert-オクチルアミン)113.8g(Mw129.2、0.880mol)を滴下し、還流温度にて7時間撹拌した。45℃に冷却後、トルエン400ml及び水400mlを加え、その温度で3分撹拌して静置したところ3層に分離した。最上層を10%酢酸水溶液400ml、飽和重曹水400ml、水400mlでそれぞれ2回ずつ洗浄した。有機層にメタノール400mlを添加後、減圧にて濃縮することにより無色の油状物134.8gを得た。NMRを確認したところ、目的の2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロ-N,N’-ビス(2,4,4-トリメチルペンタン-2-イル)ヘキサン-1,6-ジアミン95.0g(Mw484.5、0.196mol)の他にトルエン39.8g含有していた。目的物の収率は98%であった
1H NMR(400MHz,DMSOd6):δ=3.17(m,4H),1.74(t,J=8.6Hz,2H),1.36(s,4H),1.07(s,12H),0.98(s,18H)
19F NMR(400MHz,DMSOd6):δ=-117.6(s,4F),-122.9(s,4F)
【0038】
[参考例1]化合物(3)の熱分解による化合物(4)の塩の合成
2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロヘキサン-1,6-ジアミン・2スルホン酸塩の合成
【0039】
【0040】
上記で得られた2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロ-N,N’-ビス(2,4,4-トリメチルペンタン-2-イル)ヘキサン-1,6-ジアミンの油状物134.8gをトルエン100mlに溶解した。この溶液をメタンスルホン酸(MsOH)140ml(Mw96.1、1.48g/cm3、2.15mol)に85℃にて滴下し、100℃にて9時間撹拌した。30℃に冷却後、アセトニトリル670mlを滴下したところ白色の結晶が析出した。2℃にて30分撹拌後、減圧にて濾過し、冷却したアセトニトリル1200mlでかけ洗いをし、シャーレ上、室温にて一晩乾燥することにより、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロヘキサン-1,6-ジアミンの2スルホン酸塩85.4g(Mw452.3、0.188mol、化合物(1)から化合物(4)を得る2工程での収率94.4%)を得た。
1H NMR(400MHz,DMSOd6):δ=8.84(bs,6H),3.95(t,J=17.4Hz,4H),2.37(s,6H)
19F NMR(376MHz,DMSOd6):δ=-116.3(s,4F),-123.0~-123.2(m,4F)
【0041】
[実施例2]化合物(1)と化合物(2)の反応による化合物(3)の合成
【0042】
【0043】
2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロヘキサン-1,6-ジイルビス(トリフルオロメタンスルホナート)10.0g(Mw525.9、19.0mmol)及び炭酸カリウム15.7g(Mw138.2、113mmol)のアセトニトリル40ml溶液に室温にてt-ブチルアミン18.1g(Mw73.1、247mmol)を滴下し、55℃にて6時間撹拌した。45℃に冷却後、酢酸エチル100ml及び水100mlを加え、その温度で1分撹拌して静置した。最上層を10%酢酸水溶液100ml、飽和重曹水100ml、水100mlでそれぞれ2回ずつ洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧にて濃縮することにより無色の油状物7.0gを得た。NMRを確認したところ、目的のN,N’-ジ-t-ブチル-2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロヘキサン-1,6-ジアミン(Mw372.2、18.8mmol)であり、このものとしての収率は99%であった。
1H NMR(400MHz,DMSOd6):δ=3.14(m,4H),1.96(t,J=7.4Hz,2H),1.02(s,18H)
19F NMR(400MHz,DMSOd6):δ=-117.9~-118.0(m,4F),-122.7~-123.0(m,4F)
【0044】
[参考例2]化合物(3)の熱分解による化合物(4)の塩の合成
2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロヘキサン-1,6-ジアミン・2スルホン酸塩の合成
【0045】
【0046】
上記で得られたN,N’-ジ-t-ブチル-2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロヘキサン-1,6-ジアミン3.2g(Mw372.2、8.5mmol)とメタンスルホン酸(MsOH)8ml(Mw96.1、1.48g/cm3、120mmol)を130℃にて10時間撹拌した。30℃に冷却後、アセトニトリル40mlを滴下したところ白色の結晶が析出した。2℃にて30分撹拌後、減圧にて濾過し、冷却したアセトニトリル80mlでかけ洗いをし、シャーレ上、室温にて一晩乾燥することにより、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロヘキサン-1,6-ジアミンの2スルホン酸塩3.5g(Mw452.3、7.7mmol、収率90%)を得た。
1H NMR(400MHz,DMSOd6):δ=8.84(bs,6H),3.95(t,J=17.4Hz,4H),2.37(s,6H)
19F NMR(376MHz,DMSOd6):δ=-116.3(s,4F),-123.0~-123.2(m,4F)
【0047】
[比較例1]化合物(1)とアンモニア水との反応
【0048】
【0049】
2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロヘキサン-1,6-ジイルビス(トリフルオロメタンスルホナート)0.53gのジメチルスルホキシド(DMSO)5ml溶液に室温にて28%アンモニア水1mlを加え、室温にて13時間撹拌した。反応液を少量取って19F-NMRを確認したところ、所望の化合物2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロヘキサン-1,6-ジアミンではなく、3,3,4,4,5,5,6,6-オクタフルオロアゼパンであった。
19F NMR(376MHz,DMSOd6):δ=-112.9~-113.0(m,4F),-126.9(s,4F)
【0050】
[比較例2]化合物(1)とベンジルアミンとの反応
【0051】
【0052】
ベンジルアミン(BnNH2)2.1g(Mw107.1、19mmol)及び炭酸カリウム0.83g(Mw138.2、6.0mmol)のジメチルアセトアミド(DMAc)10ml溶液に2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロヘキサン-1,6-ジイルビス(トリフルオロメタンスルホナート)0.53g(Mw525.9、1.0mmol)を添加し、室温にて30分及び100℃で2時間撹拌した(室温で30分反応させた後の反応物と100℃で2時間で反応させた後の反応物の様子はほぼ同じであることを、NMRにより確認した)。室温に冷却後、酢酸エチル100ml/水100mlで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧にて濃縮することにより、無色の油状物1.96gを得た。この油状物のNMRを測定したところ、N,N’-ジベンジル-2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロヘキサン-1,6-ジアミン(所望の化合物):1-ベンジル-3,3,4,4,5,5,6,6-オクタフルオロアゼパン≒83:17(モル比)の混合物であることを確認した。
N,N’-ジベンジル-2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロヘキサン-1,6-ジアミンのNMR
19F NMR(376MHz,CDCl3):δ=-118.3~-118.4(m,4F),-124.3(s,4F)
1-ベンジル-3,3,4,4,5,5,6,6-オクタフルオロアゼパンのNMR
19F NMR(376MHz,CDCl3):δ=-113.5(s,4F),-128.7(s,4F)
【0053】
[比較例3]化合物(1)とジベンジルアミンとの反応
【0054】
【0055】
ジベンジルアミン(BnNH2)0.4ml(Mw197.2、1.0g/cm3、2mmol)及び炭酸カリウム0.41g(Mw138.2、2.9mmol)のジメチルアセトアミド10ml溶液に2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロヘキサン-1,6-ジイルビス(トリフルオロメタンスルホナート)0.53g(Mw525.9、1.0mmol)を添加し、50℃で2時間撹拌した。反応液を少量サンプリングしてNMRを測定したところ、反応は進行していないことを確認した。そこで、130℃に昇温し、その温度で更に90分撹拌した。反応液を少量サンプリングしてNMRを測定したところ、複雑な混合物となっており、上記の所望の化合物を選択的に得られていないことを確認した。
【0056】
[比較例4]2,2,3,3-テトラフルオロブタン-1,4-ジイルビス(トリフルオロメタンスルホナート)と化合物(2)の反応
【0057】
【0058】
2,2,3,3-テトラフルオロブタン-1,4-ジイルビス(トリフルオロメタンスルホナート)2.13g(Mw425.9、5.00mmol)及び炭酸カリウム3.35g(Mw138.2、24.2mmol)のアセトニトリル8ml溶液に室温にて2,4,4-トリメチルペンタン-2-アミン2.84g(Mw129.2、21.9mmol)を滴下し、還流温度にて8時間撹拌した。45℃に冷却後、トルエン20ml及び水20mlを加え、その温度で3分撹拌して静置した。最上層を10%酢酸水溶液20ml、飽和重曹水20ml、水20mlでそれぞれ2回ずつ洗浄した。有機層にメタノール20mlを添加後、減圧にて濃縮することにより無色の油状物1.21gを得た。NMRを確認したところ、所望の化合物2,2,3,3-テトラフルオロ-N,N’-ビス(2,4,4-トリメチルペンタン-2-イル)ブタン-1,4-ジアミンではなく、3,3,4,4-テトラフルオロ-1-(2,4,4-トリメチルペンタン-2-イル)ピロリジンであり、このものとしての収率は95%であった。
1H NMR(400MHz,DMSOd6):δ=3.16(t,J=7.2Hz,4H),1.36(s,2H),1.04(s,6H),0.98(s,9H)
19F NMR(400MHz,DMSOd6):δ=-116.9~-117.0(m,4F)
【0059】
[比較例5]2,2,3,3,4,4-ヘキサフルオロペンタン-1,4-ジイルビス(トリフルオロメタンスルホナート)と化合物(2)の反応
【0060】
【0061】
2,2,3,3,4,4-ヘキサフルオロペンタン-1,4-ジイルビス(トリフルオロメタンスルホナート)4.76g(Mw475.9、10.0mmol)及び炭酸カリウム6.95g(Mw138.2、50.2mmol)のアセトニトリル20ml溶液に室温にて2,4,4-トリメチルペンタン-2-アミン5.68g(Mw129.2、43.9mmol)を滴下し、還流温度にて8時間撹拌した。45℃に冷却後、トルエン50ml及び水50mlを加え、その温度で3分撹拌して静置した。最上層を10%酢酸水溶液50ml、飽和重曹水50ml、水50mlでそれぞれ2回ずつ洗浄した。有機層にメタノール50mlを添加後、減圧にて濃縮することにより無色の油状物3.0gを得た。NMRを確認したところ、所望の化合物2,2,3,3,4,4-ヘキサフルオロ-N,N’-ビス(2,4,4-トリメチルペンタン-2-イル)ペンタン-1,5-ジアミンではなく、3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロ-1-(2,4,4-トリメチルペンタン-2-イル)ピペリジンと推察され、このものとしての収率は97%であった。
1H NMR(400MHz,DMSOd6):δ=3.21(t,J=9.6Hz,4H),1.40(s,2H),1.14(s,6H),0.97(s,9H)
19F NMR(400MHz,DMSOd6):δ=-121.6(brs,6F)
【0062】
比較例1~3に記載するように、求核剤としてアンモニア水、ベンジルアミン又はジベンジルアミンを用いた場合には、目的とする一般式(3)で表される含フッ素アルキレンジアミン化合物は得られないか(比較例1及び3)、収率83%で得られても、副生成物である環化化合物との混合物であった(比較例2)。
また、比較例4及び5に記載するように、上記一般式(1)で表される化合物におけるジフルオロメチレン基の繰り返し数nが2又は3である化合物を原料として用いた場合には、目的物は得られず、副生成物である環化化合物が収率95%又は97%で得られたと考えられる。
これに対して、上記一般式(1)で表される、ジフルオロメチレン基の繰り返し数nが4である化合物を原料とし、-CR1R2R3で表される嵩高い置換基を有する、上記一般式(2)で表されるアミン化合物を求核剤として用いた実施例1及び2では、目的とする一般式(3)で表される含フッ素アルキレンジアミン化合物を収率98%又は99%と収率で得ることができた。このように、本発明の製造方法は、含フッ素アルキレンジアミン化合物を高収率で製造することができる。