(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062802
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】船舶制御システム、外力ベクトル推定装置、船舶制御システムの制御方法、船舶制御システムの制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B63B 79/40 20200101AFI20240501BHJP
B63H 25/04 20060101ALI20240501BHJP
B63H 21/21 20060101ALI20240501BHJP
G08G 3/00 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
B63B79/40
B63H25/04 D
B63H25/04 J
B63H21/21
G08G3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170897
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003388
【氏名又は名称】東京計器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】川谷 聖
(72)【発明者】
【氏名】田中 広樹
(72)【発明者】
【氏名】榊原 隆嗣
(72)【発明者】
【氏名】川崎 直行
(72)【発明者】
【氏名】山口 涼
(72)【発明者】
【氏名】植竹 啓延
(72)【発明者】
【氏名】島田 直毅
(72)【発明者】
【氏名】阿部 健太
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA25
5H181BB04
5H181BB15
5H181FF04
5H181FF13
(57)【要約】
【課題】外力ベクトルの影響を減らすことが可能な船舶制御システムの技術を提供することを目的とする。
【解決手段】ある態様の船舶制御システム100は、船舶1の目標船位および目標船首方向を含む航路指令Esを出力する航路指令部50と、船舶1の実船位と実船首方向を含む船舶情報Jsを検知する情報検知部21と、船舶情報Jsと、船舶1の船体運動に関する船体運動モデルと、を用いて、船舶1が受ける外力ベクトルVeを推定する外力ベクトル推定部28と、航路指令Esと、船舶情報Jsと、外力ベクトルVeと、に基づいて船舶の主機74の回転数と舵角の少なくとも一方を制御する制御指令部15と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の目標船位および目標船首方向を含む航路指令を出力する航路指令部と、
前記船舶の実船位と実船首方向を含む船舶情報を検知する情報検知部と、
前記船舶情報と、前記船舶の船体運動に関する船体運動モデルと、を用いて、前記船舶が受ける外力ベクトルを推定する外力ベクトル推定部と、
前記航路指令と、前記船舶情報と、前記外力ベクトルと、に基づいて前記船舶の主機の回転数と舵角の少なくとも一方を制御する制御指令部と、
を備える船舶制御システム。
【請求項2】
前記外力ベクトル推定部は、外力がかかっていない状態の船体運動モデルを用いて前記外力ベクトルを推定する、請求項1に記載の船舶制御システム。
【請求項3】
前記外力ベクトル推定部は、前記船舶の前後方向の実船速と実加減速度を用いて外力ベクトルを推定する、請求項2に記載の船舶制御システム。
【請求項4】
前記外力ベクトル推定部は、前記船舶の前後方向に直交する方向の実船速と実加減速度を用いて外力ベクトルを推定する、請求項2に記載の船舶制御システム。
【請求項5】
前記船舶が、風、および潮流の少なくとも一つから受ける外力の計測結果を用いて前記外力ベクトルを推定する、請求項1に記載の船舶制御システム。
【請求項6】
前記外力ベクトル推定部は、外力ベクトルの時系列データに対する周波数分析を用いて、風、潮流の少なくとも1つの成分を分離する、請求項1に記載の船舶制御システム。
【請求項7】
前記外力ベクトル推定部は、通信手段を介して、前記船体運動モデルを生成または更新する処理の一部または全部を船舶外の装置を用いて実行する、請求項1に記載の船舶制御システム。
【請求項8】
船舶の実船位と実船首方向を含む船舶情報と、前記船舶の船体運動に関する船体運動モデルと、を用いて、前記船舶が受ける外力ベクトルを推定する外力ベクトル推定部を備える外力ベクトル推定装置。
【請求項9】
船舶の目標船位および目標船首方向を含む航路指令を出力するステップと、
前記船舶の実船位と実船首方向を含む船舶情報を検知するステップと、
前記船舶情報と、前記船舶の船体運動に関する船体運動モデルと、を用いて、前記船舶が受ける外力ベクトルを推定するステップと、
前記航路指令と、前記船舶情報と、前記外力ベクトルと、に基づいて前記船舶の主機の回転数と舵角の少なくとも一方を制御するステップと、
を含む船舶制御システムの制御方法。
【請求項10】
船舶の目標船位および目標船首方向を含む航路指令を出力するステップと、
前記船舶の実船位と実船首方向を含む船舶情報を検知するステップと、
前記船舶情報と、前記船舶の船体運動に関する船体運動モデルと、を用いて、前記船舶が受ける外力ベクトルを推定するステップと、
前記航路指令と、前記船舶情報と、前記外力ベクトルと、に基づいて前記船舶の主機の回転数と舵角の少なくとも一方を制御するステップと、
をコンピュータに実行させる船舶制御システムの制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶制御システム、外力ベクトル推定装置、船舶制御システムの制御方法、および船舶制御システムの制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、船舶の自動操縦方法が記載されている。この方法は、船舶の実際位置と予定位置とのずれを定期的に算出し、経時的に得られる上記ずれ量を統計的に処理して船舶に作用する外力を推定する。この方法では、上記外力と実際位置と予定航路上の目標位置とから船舶の次の操舵指令を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、船舶の実際位置と予定位置との位置ずれがある程度大きくなってから補正をするため制御の誤差が大きくなる。また、外力ベクトルの影響が考慮されないので、外力ベクトルによる制御の誤差が大きくなる。制御の誤差が大きいと、それに応じて補正のための燃料消費量が増えるとう問題がある。
【0005】
本発明は、こうした課題に鑑みてなされたものであり、外力ベクトルの影響を減らすことが可能な船舶制御システムの技術を提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の船舶制御システムは、船舶の目標船位および目標船首方向を含む航路指令を出力する航路指令部と、船舶の実船位と実船首方向を含む船舶情報を検知する情報検知部と、船舶情報と、船舶の船体運動に関する船体運動モデルと、を用いて、船舶が受ける外力ベクトルを推定する外力ベクトル推定部と、航路指令と、船舶情報と、外力ベクトルと、に基づいて船舶の主機の回転数と舵角の少なくとも一方を制御する制御指令部と、を備える。
【0007】
なお、以上の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、プログラム、プログラムを記録した一時的なまたは一時的でない記憶媒体、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、外力ベクトルの影響を減らすことが可能な船舶制御システムの技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る船舶制御システムが適用された船舶を概略的に示す図である。
【
図2】
図1の船舶制御システムを概略的に示すブロック図である。
【
図3】
図1の船舶制御システムの情報の流れを示す図である。
【
図4】実施形態の船体運動モデル同定部の動作を示す動作ブロック図である。
【
図5】風による旋回モーメントの発生例を説明する説明図である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係る船舶制御システムの制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書で開示した実施形態のうち、複数の物体で構成されているものは、当該複数の物体を一体化してもよく、逆に一つの物体で構成されているものを複数の物体に分けることができる。一体化されているか否かにかかわらず、発明の目的を達成できるように構成されていればよい。
【0011】
本明細書で開示した実施形態のうち、複数の機能が分散して設けられているものは、当該複数の機能の一部または全部を集約して設けても良く、逆に複数の機能が集約して設けられているものを、当該複数の機能の一部または全部が分散するように設けることができる。機能が集約されているか分散されているかにかかわらず、発明の目的を達成できるように構成されていればよい。
【0012】
また、共通点のある別々の構成要素には、名称の冒頭に「第1、第2」等と付して区別し、総称するときはこれらを省略する。また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0013】
ある態様の船舶制御システムは、船舶の目標船位および目標船首方向を含む航路指令を出力する航路指令部と、前記船舶の実船位と実船首方向を含む船舶情報を検知する情報検知部と、前記船舶情報と、前記船舶の船体運動に関する船体運動モデルと、を用いて、前記船舶が受ける外力ベクトルを推定する外力ベクトル推定部と、前記航路指令と、前記船舶情報と、前記外力ベクトルと、に基づいて前記船舶の主機の回転数と舵角の少なくとも一方を制御する制御指令部と、を備える。
【0014】
この構成によれば、外力ベクトルを用いて船舶を制御するので、外力による船舶の位置や姿勢の乱れを制御により抑制できる。
【0015】
一例として、前記外力ベクトル推定部は、外力がかかっていない状態の船体運動モデルを用いて前記外力ベクトルを推定する。この場合、風や潮流など頻繁に変化する外力が少ない状態の船体運動モデルで外力ベクトルが推定されるので、外力ベクトルの不要な変動を低減できる。
【0016】
一例として、前記外力ベクトル推定部は、前記船舶の前後方向の実船速と実加減速度を用いて外力ベクトルを推定する。この場合、前後方向に作用する外力を用いて外力ベクトルを推定できる。
【0017】
一例として、前記外力ベクトル推定部は、前記船舶の前後方向に直交する方向の実船速と実加減速度を用いて外力ベクトルを推定する。この場合、横方向に作用する外力を用いて外力ベクトルを推定できる。
【0018】
一例として、前記船舶が、風、および潮流の少なくとも一つから受ける外力の計測結果を用いて前記外力ベクトルを推定する。この場合、取得した潮流、風速、風向の計測結果から外力を計算できるので、精度よく外力ベクトルを推定できる。
【0019】
一例として、前記外力ベクトル推定部は、外力ベクトルの時系列データに対する周波数分析を用いて、風、潮流の少なくとも1つの成分を分離する。この場合、分離された成分毎に異なる係数を乗じた結果を用いて制御できる。また、風の成分を分離することにより、風による旋回モーメントの影響を把握できる。
【0020】
一例として、前記外力ベクトル推定部は、通信手段を介して、前記船体運動モデルを生成または更新する処理の一部または全部を船舶外の装置を用いて実行する。この場合、船舶上の情報処理量を減らせるので低コスト化に有利である。
【0021】
ある態様の外力ベクトル推定装置は、船舶の実船位と実船首方向を含む船舶情報と、前記船舶の船体運動に関する船体運動モデルと、を用いて、前記船舶が受ける外力ベクトルを推定する外力ベクトル推定部を備える。
【0022】
この構成によれば、外力ベクトルを用いて制御することが可能なり、外力による船舶の位置や姿勢の乱れを制御により抑制できる。
【0023】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態及び変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0024】
[第1実施形態]
以下、
図1~
図5を参照して、本発明の第1実施形態に係る船舶制御システム100を説明する。
図1は、第1実施形態に係る船舶制御システム100が適用された船舶1を概略的に示す図である。
図2は、船舶制御システム100を概略的に示すブロック図である。
図3は、船舶制御システム100の情報の流れを示す図である。
【0025】
図2、
図3のブロック図に示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのプロセッサ、CPU、メモリをはじめとする素子や電子回路、機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0026】
実施形態では、船舶1は、船体90と、情報検知手段88と、情報処理部10と、航路指令部50と、主機74と、操舵機76とを備える。船舶制御システム100は、船舶1に設けられる。主機74は、船舶1を推進させるエンジンであって、プロペラ75を回転させて船体90に推進力を付与する。主機74は、船体90を推進させ得るものであればよく、この例ではディーゼルエンジンである。主機74は、主機74を運転するために、主機74の回転数やトルクに応じた量の燃料を消費する。主機74には、主機74の負荷変動に対する回転速度の変動を抑制するために燃料投入量を微調整するガバナ(不図示)が設けられてもよい。
【0027】
操舵機76は、船舶1を旋回するために船体に設けられた舵77を回転させる動力操舵機構である。操舵機76は、電動機などの動力源の動力を用いて舵角を変化させる。
【0028】
情報検知手段88は、GPS受信機11と、ジャイロ12と、潮流センサ13と、風向風速センサ14と、主機センサ78と、舵角センサ79とを含む。
【0029】
GPS受信機11は、衛星電波を用いて受信機の現在位置を算出し、算出された現在位置を実船位として情報処理部10の情報検知部21へ提供する。GPS受信機11は、衛星電波を用いて受信機の現在位置を算出可能なものであればよく、特定のシステムに限定されない。実施形態のGPS受信機11は、複数個の衛星のうち、上空にある数個の衛星からの測位用の信号を受信して、受信機の現在位置を算出する全地球測位システム(Global Positioning System)である。ジャイロ12は、船舶1の姿勢を取得し、取得した姿勢から船舶1の実船首方向を特定し、特定した実船首方向を情報処理部10の情報検知部21へ提供する。
【0030】
潮流センサ13は、船舶1に影響する潮流を計測可能なデバイスであり、計測した潮流を環境条件検知部23に提供する。風向風速センサ14は、船舶1に影響する風向と風速を計測可能なデバイスであり、計測した風向と風速を情報処理部10の環境条件検知部23に提供する。
【0031】
主機センサ78は、主機74の実回転数と、主機74の軸馬力とを取得し、取得した実回転数および軸馬力を情報処理部10の推進情報検知部24に提供する。主機74の軸馬力は、プロペラ軸に設けられる軸馬力計により計測できる。舵角センサ79は、操舵機76から舵77の実舵角を取得し、取得した実舵角を情報処理部10の推進情報検知部24に提供する。
【0032】
航路指令部50は、航海計画に基づいて、船舶1の目標船位E1および目標船首方向E2を含む航路指令Esを出力する。この例の航路指令部50は、船舶1の目標船位E1、目標船首方向E2、および目標到達時刻E3を生成して、情報処理部10の制御指令部15に提供する。
【0033】
情報処理部10は、情報検知部21と、制御指令部15と、主機制御部18と、操舵制御部19と、船体運動モデル同定部26と、記憶部29とを含む。
【0034】
情報検知部21は、船舶1の実船位J1と実船首方向J2を含む船舶情報Jsを検知する。この例の情報検知部21は、船舶情報検知部22と、環境条件検知部23と、推進情報検知部24とを含む。船舶情報検知部22は、GPS受信機11から船舶1の実船位J1を取得し、ジャイロ12から実船首方向J2を取得する。環境条件検知部23は、船舶1が、風、および潮流の少なくとも一つから受ける外力を取得する。この例の環境条件検知部23は、随時、潮流センサ13から潮流の速度および潮流方向を、風向風速センサ14から風速および風向を取得する。潮流センサ13および風向風速センサ14を備えることは必須ではない。推進情報検知部24は、主機センサ78から主機74の実回転数と、主機74の軸馬力とを取得し、舵角センサ79から舵77の実舵角を取得する。
【0035】
制御指令部15は、航路指令Esと、船舶情報Jsと、外力ベクトルVeとに基づいて船舶1の主機74の回転数と舵角の少なくとも一方を制御する。実施形態の制御指令部15は、船舶1の実船位J1および実船首方向J2が、航路指令部50から提供される目標船位E1および目標船首方向E2に近づくように主機74と操舵機76を制御するとともに、外力ベクトルVeを用いて回転数指令および舵角指令を補正する。制御指令部15は、補正された回転数指令Npを主機制御部18に提供し、補正された舵角指令Apを操舵制御部19に提供する。
【0036】
記憶部29は、情報検知部21で取得した入力情報J1~J6の時系列データ、船体運動モデル同定部26の各計算結果の時系列データを記憶する。また、記憶部29は、船舶制御システム100の制御プログラムP100を格納する。
【0037】
船体運動モデル同定部26(以下、単に同定部26ということがある)は、船舶情報Jsと、船舶1の船体運動に関する船体運動モデルを用いて、船舶1が受ける外力ベクトルVeを推定する。つまり、同定部26は、外力ベクトル推定部28としても機能し、外力ベクトル推定装置60を構成する。この例の同定部26は、潮流や風による外力ベクトルを推定する。船体運動モデルは、船舶1の加減速と旋回などに関する船体運動モデルである。
【0038】
図4、
図5を参照して、同定部26の動作の一例を説明する。
図4は、同定部26の動作S110を示す動作ブロック図である。
図5は、風による旋回モーメントの発生例を説明する説明図である。
図4の例では、動作S110は、複数の動作ブロックを含む。
【0039】
入力情報ブロック(動作ブロック1)では、同定部26は、情報検知部21から入力情報J1~J6を取得する。ここで、同定部26は、船舶情報検知部22から実船位J1、実船首方向J2および実時刻を取得する。また、同定部26は、推進情報検知部24から主機74の実回転数J4、主機74の実軸馬力J5、および実舵角J6を取得する。
【0040】
外力ベクトルVeを精度よく推定するために、外力ベクトル推定部28は、船舶1が、風、および潮流の少なくとも一つから受ける外力の計測結果を用いて外力ベクトルVeを推定してもよい。具体的には、同定部26は、潮流センサ1および風向風速センサ14を有しており、環境条件検知部23は、潮流センサ1および風向風速センサ14で計測した潮流、風向、風速に関する環境情報J3を取得する。
【0041】
データ加工ブロック(動作ブロック2)では、同定部26は、入力情報を用いてデータ加工を行う。同定部26は、上述の入力情報J1~J6を用いて以下の計算を行う。
【0042】
外力ベクトル推定部28は、船舶1の前後方向の実船速と実加減速度を用いて外力ベクトルVeを推定する。また、外力ベクトル推定部28は、船舶1の前後方向に直交する方向の実船速と実加減速度を用いて外力ベクトルVeを推定する。このため、同定部26は、下記の計算1と、計算2を実行する。
(計算1)同定部26は、実船位J1の時間微分により前後方向の実船速と実加減速度、前後方向に直交する方向(以下、横方向という)の実船速と実加減速度を計算する。
(計算2)同定部26は、船首方向の時間微分により実回頭速度と船首方向の実加減速度を計算する。
【0043】
(計算3)同定部26は、主機74が発生する主機推進力を計算する。例えば、主機推進力は、推進情報検知部24から取得した主機74の実回転数J4と、主機74の実軸馬力J5と、プロペラ75の特性から算出できる。
(計算4)同定部26は、前後方向の船体抵抗および慣性質量を計算する。
【0044】
(計算5)同定部26は、横方向の船体抵抗および慣性質量を計算する(動作ブロック7)。船舶1では、横方向の船体抵抗および慣性質量は、船舶1の旋回前後で外力ベクトルに対する船舶1の相対的な対向角度が変化するときの、前後および横方向の実船速と実加減速度のデータから推定できる。また、船舶がスラスタを搭載している場合、横方向の船体抵抗および慣性質量は、スラスタを作動させた際の前後および横方向の実船速と実加減速度のデータから推定できる。
(計算6)同定部26は、舵77により発生する回頭モーメントを計算する。
【0045】
同定部26は、計算1~計算6の計算結果を用いて、主機と舵による船体運動モデルを同定する(動作ブロック3)。主機と舵による船体運動モデルは、例えば、入力情報J1~J6および計算1~計算6の計算結果を用いて機械学習により同定できる。また、入力情報J1~J6または計算1~計算6の結果が変化した場合、同定部26は、船体運動モデルを更新できる(動作ブロック4)。
【0046】
(計算7)同定部26は、回頭方向の船体抵抗および慣性モーメントを計算する。ここで、計算7の回頭方向の船体抵抗および慣性モーメントに関する計算モデルは、計算2の実回頭速度と船首方向の実加減速度の時系列データ、および計算6の回頭モーメントの時系列データとにより作成できる。
【0047】
(計算8)同定部26は、潮流や風による外力ベクトルVeを計算する(動作ブロック5)。ここで、計算8の潮流や風による外力ベクトルVeは、計算3の主機推進力、および計算6の回頭モーメントから計算される船舶1の加減速度、および回頭加減速度と、実際の加減速度から船舶1にどのような外力が加えられているかどうかにより計算できる。実施形態では、潮流センサ13および風向風速センサ14を搭載しており、環境条件検知部23を介して取得した潮流、風速、風向の計測結果から潮流や風による外力を計算できる。
【0048】
また、計算8の潮流や風による外力ベクトルVeは、簡便には潮流と風の影響を分離する必要はなく、各時点で船舶1に作用する外力を総括し、ベクトルVeを力の大きさと向きとして把握できればよい。この場合、変針点での旋回時にあらかじめ外力ベクトルの変化を想定して主機74の出力を制御することが可能となり、船速の無駄な加減速が発生しなくなることで、燃料消費量を削減できる。
【0049】
また、計算8について、潮流の影響と風の影響とを分離してモデル化することも可能である。例えば、風向風速センサ14で計測した風向と風速データから、風による外力ベクトル(以下、風外力ベクトルという)のモデルを同定できる。この場合、潮流の影響が小さい場合のデータを抽出するか、もしくは風向が変化する際の外力ベクトルをモニターすることにより、風外力ベクトルのモデルを同定できる。
【0050】
潮流や風などの外力は頻繁に変動する。このように頻繁に変動する外力を含んだデータから同定された船体運動モデルには不要な変動が含まれる。この変動は、この船体運動モデルを用いて推定された外力ベクトルVeを用いる制御の誤差要因となり得る。そこで、実施形態では、外力ベクトル推定部28は、外力がかかっていない状態の船体運動モデルを用いて外力ベクトルVeを推定する。特に、同定部26は、前後方向および横方向の船速・加減速度、および主機74の推進力の時系列データのデータ群から潮や風の影響がない場合を抽出して船体運動モデルを作成する。この場合、船体運動モデルにおける外力の変動の影響を減らし、外力ベクトルVeを用いる制御の誤差を減らすことができる。
【0051】
また、計算1の前後方向の加減速度は、潮流や風の影響が無ければ、計算3の主機74が発生する主機推進力と、計算4の前後方向の船体抵抗および慣性質量とのバランスで決まる。このため、計算1の各方向の実船速および実加減速度のデータと、計算3の主機74の実回転数J4および実軸馬力J5の時系列データとを記憶部29に記憶し、この時系列データのうち潮流や風の影響がない場合をデータ抽出し(動作ブロック6)、計算4の前後方向の船体抵抗および慣性質量の計算モデルを作成できる。
【0052】
実施形態では、潮流センサ13および風向風速センサ14を搭載しており、環境条件検知部23を介して取得した潮流、風速、風向の計測結果を加味した上で計算1の各方向の実船速および実加減速度の時系列データと、計算3の主機74の実回転数J4および実軸馬力J5の時系列データとにより、計算4の前後方向の船体抵抗および慣性質量の計算モデルを作成することが可能である。この場合、計算4の計算モデルの作成の頻度が増加するので、より迅速に潮流や風の状態の変化を捉えることが可能になり、また、計算4の計算モデルの精度向上が期待できる。
【0053】
さらに、風外力ベクトルと、トータルの外力ベクトルVeを用いて合成することにより、潮流による外力ベクトル(以下、潮流外力ベクトルという)を分離してモデル化できる。
【0054】
風外力ベクトルおよび潮流外力ベクトルは、船舶1に旋回モーメントを発生させる場合がある。
図5を参照して、風外力ベクトルによる旋回モーメントの発生例を説明する。
図5は、風による旋回モーメントの発生例を説明する説明図である。
図5(A)は、側方視の船舶1の模式図であり、
図5(B)は、上方視の船舶1の模式図である。船舶1は、船体90の船尾に寄った側に上方に突出する船上構造物92を有する。
【0055】
例えば、船舶1には、船上構造物92に風が当たることにより、風が当たる相対角度に応じて、風により発生する旋回モーメント(以下、風旋回モーメントIwという)が矢印のように発生する。
図5の例では、船上構造物92が船尾側に寄って配置されているため、風に船尾側が強く押され、船舶1には、上方視で時計回りのモーメントが発生する。この風旋回モーメントIwは、風外力ベクトルの大きさFwと、風と船舶1の相対対向角度θwにより式1で表すことができる。
Iw=f(Fw、θw) ・・(式1)
【0056】
潮流により発生する旋回モーメントについても、風旋回モーメントと同様である。外力ベクトルVeを潮流と風とに分離し、更に旋回モーメントも考慮することで、より高い精度で外力の影響を把握できる。このように求められた外力ベクトルVeは、制御指令部15に提供され、制御指令部15において指令値Np、Apの生成に使用される。
【0057】
制御指令部15は、航路指令部50より入力される目標船位E1、目標船首方向E2、目標到達時刻E3に対し、実船位J1および実船首方向J2からの短期航路計画を策定する。短期航路計画では、微小時間後の推定船位および推定船首方向が規定され、また逐次更新される。
【0058】
図2に示すように、制御指令部15は、生成部16と、補正部17を有する。生成部16は、微小時間後に目標船位、目標船首方向となるように、主機74を制御するための基本回転数指令Nsを生成し、操舵機76を制御するための基本舵角指令Asを生成する。補正部17は、外力ベクトルVeが船位変化や船首方向変化に及ぼす影響に基づいて、基本回転数指令Nsおよび基本舵角指令Asを補正し、補正結果である回転数指令Npを主機制御部18に提供し、舵角指令Apを操舵制御部19に提供する。
【0059】
この結果、外力ベクトルVeを用いて主機74の回転数指令および舵角指令を補正するから、船舶1の位置や姿勢の制御の誤差を抑制できる。また、前述の通り、変針点での旋回後の外力との相対的な対向角度の変化を考慮して旋回中の主機74および操舵機76を制御するから、無駄な船速の変化を抑制し燃料消費量を低減できる。
【0060】
以上が第1実施形態の説明である。
【0061】
以下、
図6を参照して、本発明の第2、第3実施形態を説明する。
図6は、第2実施形態の船舶制御システムの制御方法を示すフローチャートであり、第3実施形態の制御プログラムにも適用される。第2、第3実施形態の図面及び説明では、第1実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第1実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0062】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態は、船舶制御システム100の制御方法S210である。この方法S210は、船舶1の目標船位E1および目標船首方向E2を含む航路指令Esを出力するステップ(S211)と、船舶1の実船位J1と実船首方向J2を含む船舶情報Jsを検知するステップ(S212)と、船舶情報Jsと、船舶1の船体運動に関する船体運動モデルと、を用いて、船舶1が受ける外力ベクトルVeを推定するステップ(S213)と、航路指令Esと、船舶情報Jsと、外力ベクトルVeと、に基づいて船舶1の主機の回転数と舵角の少なくとも一方を制御するステップ(S214)と、を含む。
【0063】
第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用及び効果を奏する。
【0064】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態は、船舶制御システム100の制御プログラムP100(コンピュータプログラム)である。このプログラムP100は、船舶1の目標船位E1および目標船首方向E2を含む航路指令Esを出力するステップ(S211)と、船舶1の実船位J1と実船首方向J2を含む船舶情報Jsを検知するステップ(S212)と、船舶情報Jsと、船舶1の船体運動に関する船体運動モデルと、を用いて、船舶1が受ける外力ベクトルVeを推定するステップ(S213)と、航路指令Esと、船舶情報Jsと、外力ベクトルVeと、に基づいて船舶1の主機の回転数と舵角の少なくとも一方を制御するステップ(S214)と、をコンピュータに実行させる。
【0065】
プログラムP100のこれらの機能は、情報処理部10の機能ブロックに対応する複数のモジュールが実装されたアプリケーションプログラムとして情報処理部10のストレージ(例えば記憶部29)にインストールされてもよい。プログラムP100は情報処理部10に組み込まれたコンピュータのプロセッサ(例えばCPU)のメインメモリに読み出しされて実行されてもよい。
【0066】
第3実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用及び効果を奏する。
【0067】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。上述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除などの多くの設計変更が可能である。上述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。
【0068】
[変形例]
以下、変形例を説明する。変形例の図面及び説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0069】
実施形態の説明では、外力ベクトルVeに特別な処理を施さずに用いる例を示したが、これに限定されない。例えば、外力ベクトルVeに平均化処理を施して用いてもよいし、外力ベクトルVeの高周波数成分をフィルタリングして用いてもよい。この場合、外力ベクトルが、信号ノイズや海象状況によって頻繁に変化するときに、これらの影響を小さくできる。
【0070】
実施形態の説明では、船体運動モデルの生成および更新の処理を船舶1の装置で処理する例を示したが、これに限定されない。例えば、船舶制御システムは外部と通信可能な通信手段を備え、外力ベクトル推定部は、当該通信手段を介して、船体運動モデルを生成または更新する処理の一部または全部を船舶外の装置を用いて実行するようにしてもよい。船舶外の装置は、例えば、陸上の情報処理システムである。船体運動モデルの同定には大きな演算能力を要するところ、演算能力の一部または全部を外部で処理することにより、船舶上の機器の処理能力を削減可能でコスト的に有利になる。
【0071】
実施形態の説明では、外力ベクトル推定部28が、外力として潮流と風を用いて外力ベクトルVeを推定する例を示したが、これに限定されない。例えば、外力ベクトル推定部は、これらに加え、外力として波(有義波高、うねりなど)を用いて外力ベクトルを推定してもよい。この場合、波を定量的に計測する方法として、船舶上に波高計や波浪計を備えるようにしてもよい。
【0072】
実施形態の説明では、潮流センサ13および風向風速センサ14の検知結果により、潮流の影響と風の影響とを分離する例を示したが、これに限定されない。例えば、外力ベクトル推定部は、外力ベクトルの時系列データに対する周波数分析を用いて、風および潮流の少なくとも1つの成分を分離するようにしてもよい。この場合、風、潮流のうち分離された成分毎に異なる係数を乗じて用いることができる。また、風による旋回モーメントの影響を把握できる。
【0073】
実施形態の説明では、船舶1の実船位の変化を時間で微分して実船速を取得する例を示したが、これに限定されない。例えば、船舶の実船速を検知する船速センサを備え、この船速センサの検知結果を用いて実船速を取得してもよい。
【0074】
実施形態の説明では、主機74がプロペラ75を回転させて推進力を得る例を示したが、これに限定されない。推進力を得るための機構は、船舶を推進させ得るものであればよく、例えば、主機74の回転に基づいて気体等を吐き出し、その気体等の反力で推進力を得る構成であってもよい。
【0075】
実施形態の説明では、主機74がディーゼルエンジンである例を示したが、これに限定されない。例えば、主機は、ディーゼルエンジン以外の内燃機関、外燃機関であってもよい。
【0076】
上述の変形例は、各実施形態と同様の作用及び効果を奏する。
【0077】
上述した各実施形態及び変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態及び変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0078】
1 船舶、 10 情報処理部、 15 制御指令部、 18 主機制御部、 19 操舵制御部、 21 情報検知部、 22 船舶情報検知部、 26 船体運動モデル同定部、 50 航路指令部、 60 外力ベクトル推定装置、 74 主機、 76 操舵機、 100 船舶制御システム。
【手続補正書】
【提出日】2023-06-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の目標船位および目標船首方向を含む航路指令を出力する航路指令部と、
前記船舶の実船位と実船首方向を含む船舶情報を検知する情報検知部と、
前記船舶情報と、前記船舶の船体運動に関する船体運動モデルと、を用いて、前記船舶が受ける外力ベクトルを推定する外力ベクトル推定部と、
前記航路指令と、前記船舶情報と、前記外力ベクトルと、に基づいて前記船舶の主機の回転数及び舵角の両方を制御する制御指令部と、
を備える船舶制御システム。
【請求項2】
前記外力ベクトル推定部は、外力がかかっていない状態の船体運動モデルを用いて前記外力ベクトルを推定する、請求項1に記載の船舶制御システム。
【請求項3】
前記外力ベクトル推定部は、前記船舶の前後方向の実船速と実加減速度を用いて外力ベクトルを推定する、請求項2に記載の船舶制御システム。
【請求項4】
前記外力ベクトル推定部は、前記船舶の前後方向に直交する方向の実船速と実加減速度を用いて外力ベクトルを推定する、請求項2に記載の船舶制御システム。
【請求項5】
前記船舶が、風、および潮流の少なくとも一つから受ける外力の計測結果を用いて前記外力ベクトルを推定する、請求項1に記載の船舶制御システム。
【請求項6】
前記外力ベクトル推定部は、外力ベクトルの時系列データに対する周波数分析を用いて、風、潮流の少なくとも1つの成分を分離する、請求項1に記載の船舶制御システム。
【請求項7】
前記外力ベクトル推定部は、通信手段を介して、前記船体運動モデルを生成または更新する処理の一部または全部を船舶外の装置を用いて実行する、請求項1に記載の船舶制御システム。
【請求項8】
船舶の実船位と実船首方向を含む船舶情報と、前記船舶の船体運動に関する船体運動モデルと、を用いて、前記船舶が受ける外力ベクトルを推定する外力ベクトル推定部を備える外力ベクトル推定装置。
【請求項9】
船舶の目標船位および目標船首方向を含む航路指令を出力するステップと、
前記船舶の実船位と実船首方向を含む船舶情報を検知するステップと、
前記船舶情報と、前記船舶の船体運動に関する船体運動モデルと、を用いて、前記船舶が受ける外力ベクトルを推定するステップと、
前記航路指令と、前記船舶情報と、前記外力ベクトルと、に基づいて前記船舶の主機の回転数及び舵角の両方を制御するステップと、
を含む船舶制御システムの制御方法。
【請求項10】
船舶の目標船位および目標船首方向を含む航路指令を出力するステップと、
前記船舶の実船位と実船首方向を含む船舶情報を検知するステップと、
前記船舶情報と、前記船舶の船体運動に関する船体運動モデルと、を用いて、前記船舶が受ける外力ベクトルを推定するステップと、
前記航路指令と、前記船舶情報と、前記外力ベクトルと、に基づいて前記船舶の主機の回転数及び舵角の両方を制御するステップと、
をコンピュータに実行させる船舶制御システムの制御プログラム。