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特開2024-62803船舶制御システム、船舶制御システムの制御方法、船舶制御システムの制御プログラム
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  • 特開-船舶制御システム、船舶制御システムの制御方法、船舶制御システムの制御プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062803
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】船舶制御システム、船舶制御システムの制御方法、船舶制御システムの制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   B63H 21/21 20060101AFI20240501BHJP
   B63H 25/04 20060101ALI20240501BHJP
   B63B 79/40 20200101ALI20240501BHJP
【FI】
B63H21/21
B63H25/04 D
B63B79/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170898
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003388
【氏名又は名称】東京計器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】川谷 聖
(72)【発明者】
【氏名】田中 広樹
(72)【発明者】
【氏名】榊原 隆嗣
(72)【発明者】
【氏名】川崎 直行
(72)【発明者】
【氏名】山口 涼
(72)【発明者】
【氏名】植竹 啓延
(72)【発明者】
【氏名】島田 直毅
(72)【発明者】
【氏名】阿部 健太
(57)【要約】
【課題】旋回時の主機の不要な負荷変動を減らすことが可能な船舶制御システムの技術を提供することを目的とする。
【解決手段】ある態様の船舶制御システム10は、船舶1の目標船速に基づいて主機74の回転数を制御する際に、船舶の実船速をフィードバック制御して、実船速を目標船速に近づける船速制御を実行する主機制御部18と、船舶1が旋回するかどうかを判定する旋回判定部21と、旋回判定部21で、船舶1が旋回すると判定された場合、船速制御の応答性を低下させる低下処理を行う制御変更部22と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の目標船速に基づいて主機の回転数を制御する際に、前記船舶の実船速をフィードバック制御して、前記実船速を前記目標船速に近づける船速制御を実行する主機制御部と、
前記船舶が旋回するかどうかを判定する旋回判定部と、
前記旋回判定部で、前記船舶が旋回すると判定された場合、前記船速制御の応答性を低下させる低下処理を行う制御変更部と、
を備える船舶制御システム。
【請求項2】
前記低下処理は、前記船舶が旋回すると判定された場合、前記船速制御を中止し、当該判定時点の前記主機の回転数を維持するように制御する、請求項1に記載の船舶制御システム。
【請求項3】
前記低下処理は、前記フィードバック制御のループゲインを前記船舶が旋回すると判定される前よりも小さくする、請求項1に記載の船舶制御システム。
【請求項4】
前記旋回判定部は、前記船舶の実舵角を用いて前記船舶が旋回するかどうかを判定する、請求項1に記載の船舶制御システム。
【請求項5】
前記旋回判定部は、前記低下処理の実行中に、前記船舶の実舵角が所定値以下になった場合、前記船舶の旋回は終了したと判定する、請求項4に記載の船舶制御システム。
【請求項6】
前記旋回判定部は、前記船舶付近の潮流の速度、前記船舶付近の潮流の方向、前記船舶付近の風速、及び前記船舶付近の風向の少なくとも1つを含む外乱情報を更に用いて前記船舶の旋回を判定する、請求項4に記載の船舶制御システム。
【請求項7】
前記制御変更部は、前記低下処理の実行中に、前記旋回判定部で前記船舶の旋回は終了したと判定された場合、前記低下処理を無効にする、請求項1に記載の船舶制御システム。
【請求項8】
前記旋回判定部は、前記船舶の実船位と、前記船舶の航海計画上の変針点と、を用いて前記船舶が旋回するかどうかを判定する、請求項1に記載の船舶制御システム。
【請求項9】
前記旋回判定部は、前記船舶の実船位と、前記実船速と、前記目標船速と、前記船舶が航海計画上の変針点と、を用いて、前記船舶が前記変針点に到達する予定時刻を予測し、前記予定時刻の所定時間前に前記船舶が旋回すると判定する、請求項1に記載の船舶制御システム。
【請求項10】
船舶の目標船速に基づいて主機の回転数を制御する際に、前記船舶の実船速をフィードバック制御して、前記実船速を前記目標船速に近づける船速制御を実行するステップと、
前記船舶が旋回するかどうかを判定する判定ステップと、
前記判定ステップで前記船舶が旋回すると判定された場合、前記船速制御の応答性を低下させる低下処理を行うステップと、
を含む船舶制御システムの制御方法。
【請求項11】
船舶の目標船速に基づいて主機の回転数を制御する際に、前記船舶の実船速をフィードバック制御して、前記実船速を前記目標船速に近づける船速制御を実行するステップと、
前記船舶が旋回するかどうかを判定する判定ステップと、
前記判定ステップで前記船舶が旋回すると判定された場合、前記船速制御の応答性を低下させる低下処理を行うステップと、
を含む船舶制御システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶制御システム、船舶制御システムの制御方法、および船舶制御システムの制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、船舶に搭載される推進機と、推進機の推進力を制御するコントローラとを備える船舶の制御システムが記載されている。このシステムは、オートクルーズ指令装置と、目標船速を設定する装置と、船舶の実船速を検出する装置とを有し、コントローラは、目標船速と実船速との差分が所定の速度範囲内となるように推進機の推進力を制御する。コントローラは、割り込み条件が成立している場合に通常時と異なる推進力で制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-094945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、舵を切ったことを検知して、もしくは船のヨーレートを検知して、船速制御時の主機トルクを増大させる提案がなされている。ここで、主機負荷の変動は回頭速度に影響するため、オートパイロットを使用している場合に不要な舵動作が必要になる。また、旋回時に船速制御と舵角制御が干渉して主機の不要な負荷変動が生じる可能性がある。主機の負荷変動は、主機の燃料消費量の増加につながる。
【0005】
本発明は、こうした課題に鑑みてなされたものであり、旋回時の主機の不要な負荷変動を減らすことが可能な船舶制御システムの技術を提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の船舶制御システムは、船舶制御システムは、船舶の目標船速に基づいて主機の回転数を制御する際に、船舶の実船速をフィードバック制御して、実船速を目標船速に近づける船速制御を実行する主機制御部と、船舶が旋回するかどうかを判定する旋回判定部と、旋回判定部で、船舶が旋回すると判定された場合、船速制御の応答性を低下させる低下処理を行う制御変更部と、を備える。
【0007】
なお、以上の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、プログラム、プログラムを記録した一時的なまたは一時的でない記憶媒体、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、旋回時の主機の不要な負荷変動を減らすことが可能な船舶制御システムの技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1実施形態に係る船舶制御システムが適用された船舶を概略的に示す図である。
図2図1の船舶制御システムを概略的に示すブロック図である。
図3】旋回時の船速制御と舵角制御の干渉による船速変動の推移を示す図である。
図4】船速制御の変形例による船速変化を示すタイミングチャートである。
図5図1の船舶制御システムの動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書で開示した実施形態のうち、複数の物体で構成されているものは、当該複数の物体を一体化してもよく、逆に一つの物体で構成されているものを複数の物体に分けることができる。一体化されているか否かにかかわらず、発明の目的を達成できるように構成されていればよい。
【0011】
本明細書で開示した実施形態のうち、複数の機能が分散して設けられているものは、当該複数の機能の一部または全部を集約して設けても良く、逆に複数の機能が集約して設けられているものを、当該複数の機能の一部または全部が分散するように設けることができる。機能が集約されているか分散されているかにかかわらず、発明の目的を達成できるように構成されていればよい。
【0012】
また、共通点のある別々の構成要素には、名称の冒頭に「第1、第2」等と付して区別し、総称するときはこれらを省略する。また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0013】
ある態様の船舶制御システムは、船舶の目標船速に基づいて主機の回転数を制御する際に、前記船舶の実船速をフィードバック制御して、前記実船速を前記目標船速に近づける船速制御を実行する主機制御部と、前記船舶が旋回するかどうかを判定する旋回判定部と、
前記旋回判定部で、前記船舶が旋回すると判定された場合、前記船速制御の応答性を低下させる低下処理を行う制御変更部と、を備える。
【0014】
この構成によれば、船舶が旋回する際に低下処理を行うことができる。この結果、旋回時の主機の不要な負荷変動を減らし、燃料消費量の増加を抑制できる。
【0015】
一例として、前記低下処理は、前記船舶が旋回すると判定された場合、前記船速制御を中止し、当該判定時点の前記主機の回転数を維持するように制御する。この場合、船速制御を中止することにより低下処理を実行できる。
【0016】
一例として、前記低下処理は、前記フィードバック制御のループゲインを前記船舶が旋回すると判定される前よりも小さくする。この場合、この場合、ループゲインを低下させることにより低下処理を実行できる。
【0017】
一例として、前記旋回判定部は、前記船舶の実舵角を用いて前記船舶が旋回するかどうかを判定する。この場合、実舵角により容易に旋回するかどうかを判定できる。
【0018】
一例として、前記旋回判定部は、前記低下処理の実行中に、前記船舶の実舵角が所定値以下になった場合、前記船舶の旋回は終了したと判定する。この場合、実舵角により容易に旋回の終了を判定できる。
【0019】
一例として、前記旋回判定部は、前記船舶の目標舵角と前記実舵角との比較結果を用いて前記船舶が旋回するかどうかを判定する。この場合、舵角の比較結果を用いて先行判定できるため、低下処理を早期に開始できる。このため、旋回時の主機負荷変動を抑制できる。
【0020】
一例として、前記旋回判定部は、前記船舶付近の潮流の速度、前記船舶付近の潮流の方向、前記船舶付近の風速、及び前記船舶付近の風向の少なくとも1つを含む外乱情報を更に用いて前記船舶の旋回を判定する。この場合、外乱情報を用いて先行判定できるため、低下処理を早期に開始できる。このため、旋回時の主機負荷変動を抑制できる。
【0021】
一例として、前記制御変更部は、前記低下処理の実行中に、前記旋回判定部が前記船舶の旋回は終了したと判定された場合、前記低下処理を無効にする。この場合、船舶の旋回が終了した後に船速制御を低下処理モードから通常モードに戻すことができる。
【0022】
一例として、前記旋回判定部は、前記船舶の実船位と、前記船舶の航海計画上の変針点と、を用いて前記船舶が旋回するかどうかを判定する。この場合、船舶が、舵を切ってから実船速に影響が表れるまでに遅れがある場合でも、早期に低下処理を開始できるので、旋回時の主機負荷変動を抑制できる。
【0023】
一例として、前記旋回判定部は、前記船舶の実船位と、前記実船速と、前記目標船速と、前記船舶が航海計画上の変針点と、を用いて、前記船舶が前記変針点に到達する予定時刻を予測し、前記予定時刻の所定時間前に前記船舶が旋回すると判定する。この場合、変針点に接近したときに旋回判定できるため、早期に低下処理を開始できる。
【0024】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態及び変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0025】
[第1実施形態]
以下、図1図5を参照して、本発明の第1実施形態に係る船舶制御システム10を説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る船舶制御システム10を概略的に示す図である。図2は、船舶制御システム10を概略的に示すブロック図である。
【0026】
図2のブロック図に示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのプロセッサ、CPU、メモリをはじめとする素子や電子回路、機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0027】
実施形態では、船舶1は、船体90と、情報処理部12と、主機74と、操舵機76と、GPS受信機14と、ジャイロ15とを備える。船舶制御システム10は、船舶1に設けられる。主機74は、船舶1を推進させるエンジンであって、プロペラ75を回転させて船体90を推進させる推進力を発生させる推進機構である。主機74は、船体90を推進させ得るものであればよく、この例ではディーゼルエンジンである。主機74は、主機74を運転するために、主機74の回転数やトルクに応じた量の燃料を消費する。主機74には、主機74の負荷変動に対する回転速度の変動を抑制するために燃料投入量を微調整するガバナ(不図示)が設けられてもよい。
【0028】
操舵機76は、船舶1を旋回するために船体に設けられた舵77を回転させる動力操舵機構である。操舵機76は、油圧アクチュエータや電動機などの動力源の動力を用いて舵角を変化させる。操舵機76は、実舵角を検知する舵角検知部31を有し、舵角検知部31は、検出した実舵角を情報処理部12へ提供する。
【0029】
GPS受信機14は、衛星電波を用いて受信機の現在位置を算出し、算出された現在位置を実船位として情報処理部12へ提供する。GPS受信機14は、衛星電波を用いて受信機の現在位置を算出可能なものであればよく、特定のシステムに限定されない。実施形態のGPS受信機14は、複数個の衛星のうち、上空にある数個の衛星からの測位用の信号を受信して、受信機の現在位置を算出する全地球測位システム(Global Positioning System)である。ジャイロ15は、船舶1の姿勢を取得し、取得した姿勢から船舶1の実船首方向を特定し情報処理部12へ提供する。
【0030】
情報処理部12は、航海情報装置16と、自動操舵部25と、旋回判定部21と、制御変更部22と、補正部26と、通信部28と、推進制御部17と、記憶部29とを主に含む。通信部28は、船舶1の外部との間で情報を送受信する。記憶部29は、目標船速、実船速、目標舵角、実舵角などを時系列的に記憶する。記憶部29は、船舶制御システム10の制御プログラムP100を格納する。本明細書において、目標船速、実船速等の船速は、対地船速であってもよいし、対水船速であってもよいし、主機74の回転速度であってもよい。
【0031】
旋回判定部21は、船舶1が旋回するかどうかを判定する(以下、「旋回判定」ということがある)。また、旋回判定部21は、船舶1の旋回は終了したかどうかを判定する(以下、「終了判定」ということがある)。制御変更部22は、旋回判定部21が、船舶1が旋回すると判定した場合、船速制御の応答性を低下させる低下処理を行う。また、制御変更部22は、旋回判定部21が終了判定した場合、低下処理を無効にする。
【0032】
補正部26は、船体運動モデル27を用いて主機74の回転数を補正するための補正情報を主機制御部18に提供する。旋回判定部21、制御変更部22、および補正部26については後に詳述する。
【0033】
航海情報装置16は、航海計画に基づいて、船舶1の現在位置(以下、「実船位」ということがある)、目的位置、実船位から目的位置までの航路上の変針点(以下、「ウエイポイント」ということがある)、到達予定時刻、航路及び目標船速を取得して海図情報を生成し、この海図情報をディスプレイ55に表示する。航海情報装置16は、船舶1の航行開始前に、航海計画を予め取得できる。また、航海情報装置16は、船舶1の航行中に、通信部28を介して、陸上に設けられた航海計画装置50から気海象情報を考慮したウェザールーティングによる航海計画を取得できる。
【0034】
実施形態の航海情報装置16は、電子海図表示情報システム(ECDIS:Electronic Chart Display and Information System)を含む。一例として、航海情報装置16には、GPS受信機14とジャイロ15から実船位および実船首方向が入力される。一例として、ディスプレイ55には、変針点とその予定通過時刻、実船位および実船首方向などの情報が表示される。
【0035】
この例の航海情報装置16は、実船位の変化を時間で微分して現在の船速(以下、「実船速」という)と、次の変針点を予定通過時刻通りに通過するために必要な目標船速と目標船首方向を算出できる。航海情報装置16は、実船位、実船首方向、実船速、目標船速、目標船首方向、変針点の位置を、推進制御部17に提供する。特に、実船速および目標船速は、主機制御部18に提供される。また、航海情報装置16は、目標船首方向を自動操舵部25に提供する。
【0036】
この例では、自動操舵部25は、オートパイロットとして機能する。自動操舵部25は、航海情報装置16から提供された次の変針点に関する情報を用いて目標船首方向および目標舵角を算出する。一例として、自動操舵部25は、常に次の変針点に船首が向くように舵77を制御する(Heading Control)、次の変針点までの想定航路をトレースする(Tracking Control)等の手法により目標舵角を算出してもよい。自動操舵部25は、算出された目標舵角を操舵制御部19に提供する。
【0037】
推進制御部17は、主機74を制御する主機制御部18と、操舵機76を制御する操舵制御部19を含む。主機制御部18は、提供された目標船速を用いて船舶1の主機74の回転数を制御し、前記船舶1の実船速を目標船速に近づける船速制御を実行する。この船速制御は、例えば、目標船速に対する実船速の偏差を計算し、この偏差が解消されるように主機74を制御するフィードバック制御を含んでもよい。
【0038】
情報処理部12には、舵77の実舵角を検知する舵角検知部31から実舵角が提供される。操舵制御部19は、提供された目標舵角および実舵角を用いて船舶1の操舵機76を制御し、舵77の実舵角を目標舵角に近づける舵角制御を実行する。この舵角制御は、例えば、目標舵角に対する実舵角の偏差を計算し、この偏差が解消されるように主機74を制御するフィードバック制御を含んでもよい。
【0039】
発明者は、変針点において船舶1が旋回するとき船速制御と舵角制御との干渉に起因して、不要な船速変動(以下、「旋回時船速変動」という)が発生するとの知見を得た。図3の旋回時船速変動例を示す図を参照して旋回時船速変動を説明する。
【0040】
船舶1が、変針点に差し掛かり、旋回開始のために舵77が切られると実舵角が増加する。実舵角が増加すると、舵切りによる推進抵抗が増えるため実船速は低下する(ステップS111)。
【0041】
旋回時に実船速が低下すると、主機制御部18は、船速制御により、実船速の低下を修正するように主機74の回転数を増加させる(ステップS112)。主機74の回転数が増加すると、実船速が上昇する(ステップS113)。この結果、舵効きが改善し船舶1の回頭速度が上昇する(ステップS114)。これにより、自動操舵部25は、回頭速度の上昇を修正するために目標舵角を減少させる。
【0042】
目標舵角が減少すると、操舵制御部19は、舵角制御により、実舵角を減少させる(ステップS115)。実舵角が減少すると、舵切りによる推進抵抗が減って実船速が上昇する(ステップS116)。
【0043】
実船速が上昇すると、主機制御部18は、船速制御により、実船速の上昇を修正するように主機74の回転数を減少させる(ステップS117)。この結果、実船速が低下し、船舶1の旋回時の実速度が下がる(ステップS118)。
【0044】
旋回時の実速度が下がると、舵効きが悪くなり船舶1の回頭速度が低下する(ステップ119)。回頭速度が下がると、自動操舵部25は、回頭速度の低下を修正するため目標舵角を増加させる。目標舵角が増加すると、操舵制御部19は、舵角制御により、実舵角を増加させる(ステップS120)。実舵角が増加すると、ループはステップS111に戻り、ステップS111~S120を繰り返す。
【0045】
このように、旋回時には、船舶1の船速制御と舵角制御とが互いに干渉し、船速変動と舵角変動とが繰り返される旋回時船速変動が発生する。旋回時船速変動により加速と減速とが繰り返される状況下では、主機74の加減速のために無駄な燃料が消費される。また旋回時の船舶1の航路が安定しない。
【0046】
船舶制御システム10は、旋回時船速変動を抑制するために、船舶1が旋回するかどうかを判定する旋回判定部21と、旋回判定部21が、船舶1が旋回すると判定した場合、船速制御の応答性を低下させる低下処理を行う制御変更部22とを備える。この場合、船速制御の応答性が低くなるため、船速制御による実船速の変動が小さくなり、旋回時船速変動が抑制される。
【0047】
制御変更部22は、低下処理を行うか否かの指令(以下、「低下処理指令」という)を主機制御部18に提供する。低下処理指令は、低下処理を行う場合にオンであり、低下処理を行わない場合にオフである。主機制御部18は、制御変更部22の低下処理指令がオンの場合に、制御モードを変更する。低下処理していない場合の制御モードを通常モードといい、低下処理している場合の制御モードを低下処理モードをという。
【0048】
低下処理の一例として、船速制御の応答を停止する第1処理や船速制御のループゲインを小さくする第2処理を採用できる。第1処理は、船舶1が旋回すると判定された場合、船速制御を中止し、当該判定時点の主機74の回転数を維持するように制御する処理である。この処理では、主機制御部18は、制御変更部22の低下処理指令がオンの場合に、船速制御の応答を停止する。第1処理は、実船速が変化して目標船速との船速偏差が大きくなった場合にも、主機74の回転数を変化させない処理で、主機74の回転数を実船速が変化する前の状態を維持する。したがって、舵切りにより推進抵抗が変化して実船速が変化しても、主機制御部18は、主機74の回転数を変化させないので旋回時船速変動を大幅に抑制できる。
【0049】
第2処理は、フィードバック制御のループゲインを船舶1が旋回すると判定される前よりも小さくする処理である。この処理では、主機制御部18のフィードバック制御の制御パラメータを変更して、船速制御の一巡伝達関数のループゲインを小さくする処理である。第2処理では、制御変更部22の低下処理指令がオンの場合に、主機制御部18は、フィードバック制御の制御パラメータを変更して、船速制御のループゲインを小さくする。第2処理によって、船速制御のループゲインが小さくなった場合、通常モード時よりも実船速の変化に対する主機74の回転数の変化が緩やかになり、実船速の目標船速に対する追従性が低くなり、実船速が目標船速に近づく時間が長くなる。したがって、舵切りにより推進抵抗が変化して実船速が変化しても、主機制御部18は、主機74の回転数変化を小さく抑えることができるので、旋回時船速変動を抑制できる。
【0050】
旋回判定部21は、旋回判定をする方法の一例として、実舵角を用いて判定する第1方法や、実船位と変針点とを用いて判定する第2方法を採用できる。旋回判定部21は、第1方法および第2方法以外の方法によって、旋回判定をしてもよい。
【0051】
第1方法では、旋回判定部21は、舵角検知部31で検知した実舵角を用いて船舶1が旋回すると判定する。例えば、旋回判定部21は、実舵角が閾値R1を超えた場合に船舶1が旋回すると判定できる。制御変更部22は、旋回判定部21の当該判定に基づいて低下処理を行う。
【0052】
旋回が終了して船舶が直進状態になった場合は、主機制御部18は、通常モードに戻ることが望ましい。そこで、実施形態では、制御変更部22は、低下処理の実行中に、旋回判定部21で船舶1の旋回は終了したと判定された場合、低下処理を無効にし、主機制御部18を通常モードに戻す。低下処理指令をオフにすることによって低下処理を無効することができる。旋回判定部21は、実舵角を用いて旋回終了を判定できる。
【0053】
旋回終了判定の一例として、旋回判定部21は、低下処理の実行中に、実舵角が閾値R1よりも小さな所定値R2以下になった場合を旋回終了と判定する。所定値R2と閾値R1との間にヒステリシスを設けることにより、実舵角の変動による旋回判定部21の判定結果のハンチングを回避できる。制御変更部22は、旋回判定部21が旋回終了と判定した場合に低下処理指令をオフにする。
【0054】
第2方法を説明する。旋回判定部21は、船舶1の実船位と、船舶1の航海計画上の変針点と、を用いて船舶1が旋回するかどうかを判定できる。船舶1の実船位は、GPS受信機で取得できる。自動操舵部25は、船舶1が変針点の近くの領域に到達すると、次の変針点に応じて目標舵角を変更し、船舶1を旋回させる。したがって、旋回判定部21は、実船位と変針点の間の距離が所定の距離以下になったら、船舶1が旋回すると判定してもよい。
【0055】
旋回判定部21は、実船位と変針点とを用いて旋回の終了を判定できる。例えば、旋回判定部21は、低下処理の実行中に、実船位と変針点の間の距離が所定の距離以上になった場合を旋回終了と判定できる。
【0056】
低下処理の開始が遅れると、遅れた時間に応じて旋回時船速変動が発生することがある。そこで、旋回判定部21は、船舶1の実船位と、実船速と、目標船速と、船舶が航海計画上の変針点と、を用いて、船舶1が変針点に到達する予定時刻を予測し、予定時刻の所定時間前に船舶が旋回すると判定できる。予定時刻は、現在時刻に、実船位と変針点の間の距離を実船速で除算した時間を加えることにより算出できる。この場合、旋回動作前に低下処理を開始できるので、旋回時船速変動を殆ど回避できる。
【0057】
旋回判定の別の一例として、旋回判定部21は、船舶1付近の潮流の速度、船舶1付近の潮流の方向、船舶1付近の風速、及び船舶1付近の風向の少なくとも1つを含む外乱情報を更に用いて船舶の旋回を判定するようにしてもよい。旋回判定に外乱情報を加味することによって、より正確に旋回を判定できる。
【0058】
次に、低下処理の変形例を説明する。上述の説明では、主機制御部18は、目標船速と実船速との船速偏差に対して主機74の回転数を線形的に変化させる例を示したが、本変形例では、主機制御部18は、船速偏差に対して非線形的に主機74の回転数を変化させる。より詳細には、主機制御部18は、船舶1の旋回開始から旋回終了までの間、目標船速と実船速との船速偏差を量子化した結果に基づいて主機74の回転数を変化させる。即ち、本系例では、目標船速と実船速とが一定以上変動しないと主機の回転数が変化しないように制御することで、船速制御の応答性を低下させる。
【0059】
図4は、変形例の船速変化を示すタイミングチャートである。この図は、船速偏差を量子化した結果に基づいて主機74の回転数を変化させる例を示している。この図の横軸は経過時間を示し、縦軸は、船速偏差Jと、量子化船速偏差Rと、主機制御指令Sと、操舵機制御指令Dとを示す。船速偏差Jは、目標船速と実船速との船速偏差であり、連続的に曲線状に変化する。量子化船速偏差Rは、船速偏差Jを所定のステップで量子化したもので、非連続的に階段状に変化する。主機制御指令Sは、主機制御部18が主機74に出力する指令信号で、量子化船速偏差Rの変化と逆方向に階段状に変化する。操舵機制御指令Dは、操舵制御部19が操舵機76に出力する指令信号で、量子化船速偏差Rの変化と同方向に階段状に変化する。
【0060】
このように、旋回中は、船速偏差Jが所定の範囲内であれば、主機制御指令Sに変化が現れないため、主機74の回転数の変動を抑えることが可能になり、また、操舵機制御指令Dのステップ状の変化の回数である舵77の修正頻度を減らせる。これらの結果、旋回中における主機74の頻繁な負荷変動が抑制され、燃料消費量の増加を抑制できる。
【0061】
船舶1が大型船である場合、舵77を切ってから実船速に影響が表れるまでに遅れがある。上記の変形例における船速偏差Jに代えて、目標舵角を用いてもよい。主機制御部18は、目標舵角に対して非線形的に主機74の回転数を変化させる。より詳細には、主機制御部18は、船舶1の旋回開始から旋回終了までの間、目標舵角を量子化した結果である量子化目標舵角が所定舵角を超えた場合に主機74の回転数を変化させてもよい。これにより、舵77を切ってから実船速が低下するまでに遅れがある場合でも、旋回開始前に主機74の回転数を上昇できるので、主機回転数の変動を抑制することができる。
【0062】
実施形態の船舶制御システム10の動作の一例を説明する。図5は、船舶制御システム10の動作S120を示すフローチャートである。動作S120が開始されると、船舶制御システム10は、船舶1の実船速を目標船速に近づける船速制御を実行する(ステップS121)。
【0063】
次に、船舶制御システム10は、船舶1が旋回するかどうかを判定する(ステップS122)。旋回判定は、上述した第1方法、第2方法等により実行できる。
【0064】
船舶1は旋回しないと判定された場合(ステップS122のN)、プロセスはステップS121に戻る。
【0065】
船舶1は旋回すると判定された場合(ステップS122のY)、船舶制御システム10は、低下処理を実行する(ステップS123)。低下処理は、上述した第1処理、第2処理等により実行できる。
【0066】
次に、船舶制御システム10は、船舶1の旋回は終了したかどうかを判定する(ステップS124)。旋回終了判定は、上述した実舵角を用いる方法、実船位と変針点を用いる方法等により実行できる。
【0067】
旋回は終了しないと判定された場合(ステップS124のN)、プロセスはステップS123に戻る。
【0068】
旋回は終了したと判定された場合(ステップS124のY)、船舶制御システム10は、低下処理を無効にする(ステップS125)。低下処理を無効にしたら、プロセスはステップS121に戻る。
【0069】
動作S120は、繰り返し実行されてもよい。この動作S120は、あくまでも一例であり各種の変形が可能である。
【0070】
以上が第1実施形態の説明である。
【0071】
以下、本発明の第2、第3実施形態を説明する。第2、第3実施形態の図面及び説明では、第1実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第1実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0072】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態は、船舶制御システム10の制御方法である。この方法は、船舶1の目標船速に基づいて主機74の回転数を制御する際に、船舶1の実船速をフィードバック制御して、前記実船速を前記目標船速に近づける船速制御を実行するステップ(ステップS121)と、船舶1が旋回するかどうかを判定する判定ステップ(ステップS122)と、判定ステップで船舶1が旋回すると判定された場合、船速制御の応答性を低下させる低下処理を行うステップ(ステップS123)と、を含む。
【0073】
第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用及び効果を奏する。
【0074】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態は、船舶制御システム10の制御プログラムP100(コンピュータプログラム)である。このプログラムP100は、船舶1の目標船速に基づいて主機74の回転数を制御する際に、船舶1の実船速をフィードバック制御して、前記実船速を前記目標船速に近づける船速制御を実行するステップ(ステップS121)と、船舶1が旋回するかどうかを判定する判定ステップ(ステップS122)と、判定ステップで船舶1が旋回すると判定された場合、船速制御の応答性を低下させる低下処理を行うステップ(ステップS123)と、をコンピュータに実行させる。
【0075】
プログラムP100のこれらの機能は、情報処理部12の機能ブロックに対応する複数のモジュールが実装されたアプリケーションプログラムとして情報処理部12のストレージ(例えば記憶部29)にインストールされてもよい。プログラムP100は情報処理部12に組み込まれたコンピュータのプロセッサ(例えばCPU)のメインメモリに読み出しされて実行されてもよい。
【0076】
第3実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用及び効果を奏する。
【0077】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。上述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除などの多くの設計変更が可能である。上述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。
【0078】
[変形例]
以下、変形例を説明する。変形例の図面及び説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0079】
実施形態の説明では、航海計画装置50が、陸上に設けられる例を示したが、これに限定されない。例えば、航海計画装置は、他の船舶、飛行体等に設けられてもよい。
【0080】
実施形態の説明では、船舶1の実船位の変化を時間で微分して実船速を取得する例を示したが、これに限定されない。例えば、船舶の実船速を検知する船速センサを備え、この船速センサの検知結果を用いて実船速を取得してもよい。
【0081】
実施形態の説明では、主機74がプロペラ75を回転させて推進力を得る例を示したが、これに限定されない。推進力を得るための機構は、船舶を推進させ得るものであればよく、例えば、主機74の回転に基づいて気体等を吐き出し、その気体等の反力で推進力を得る構成であってもよい。
【0082】
実施形態の説明では、主機74がディーゼルエンジンである例を示したが、これに限定されない。例えば、主機は、ディーゼルエンジン以外の内燃機関、外燃機関であってもよい。
【0083】
上述の変形例は、各実施形態と同様の作用及び効果を奏する。
【0084】
上述した各実施形態及び変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態及び変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0085】
1 船舶、 10 船舶制御システム、 14 GPS受信機、 18 主機制御部、 21 旋回判定部、 22 制御変更部、 26 補正部、 27 船体運動モデル、 74 主機、 77 舵、 90 船体。
図1
図2
図3
図4
図5