(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062832
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】転がり軸受、ピボットアッシー軸受、およびディスク駆動装置
(51)【国際特許分類】
C10M 105/18 20060101AFI20240501BHJP
C10M 115/08 20060101ALI20240501BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20240501BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20240501BHJP
G11B 19/20 20060101ALI20240501BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20240501BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20240501BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20240501BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240501BHJP
【FI】
C10M105/18
C10M115/08
F16C19/06
F16C33/66 Z
G11B19/20 E
C10N50:10
C10N20:02
C10N40:02
C10N30:00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170936
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】綱 基次郎
(72)【発明者】
【氏名】新海 孝則
【テーマコード(参考)】
3J701
4H104
【Fターム(参考)】
3J701AA01
3J701BA80
3J701CA12
3J701EA63
3J701GA60
3J701XE32
3J701XE33
3J701XE50
4H104BB08A
4H104BE13B
4H104EA02A
4H104LA20
4H104PA01
4H104QA18
(57)【要約】
【課題】特定のグリース組成物が封入された転がり軸受を提供すること、並びに該軸受をピボットアッシー軸受装置に組みこむことにより、該軸受に封入されたグリース組成物が揮発した場合でも揮発成分の磁気ディスク等への付着が抑制され、ひいてはHDDの読み書きエラー発生を抑制できる、ピボットアッシー軸受装置及びそれを備えたディスク駆動装置を提供すること。
【解決手段】グリース組成物を含む転がり軸受であり、前記グリース組成物は、エーテル結合(-O-)に結合する少なくとも1つの基が炭素原子数12以上16以下の主鎖を含む分岐状アルキル基であるエーテル化合物である基油と、増ちょう剤とを含む転がり軸受、前記転がり軸受を備えたピボットアッシー軸受装置、前記ピボットアッシー軸受装置を備えた、ディスク駆動装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受であって、
内輪と、
前記内輪の外周側に前記内輪と同軸に配置された外輪と、
前記内輪と前記外輪との間に配置される複数の転動体と、
前記転動体を保持する保持器と、
前記内輪と前記外輪との間に保持されるグリース組成物を含み、
前記グリース組成物は、エーテル結合(-O-)に結合する少なくとも1つの基が炭素原子数12以上16以下の主鎖を含む分岐状アルキル基であるエーテル化合物を含む基油と、増ちょう剤とを含む、
転がり軸受。
【請求項2】
前記グリース組成物は、
前記増ちょう剤が、式(1)で表されるジウレア化合物からなるウレア系増ちょう剤を含み、
R1-NHCONH-R2-HNOCHN-R3 ・・・式(1)
(式(1)中、R1およびR3は一価の脂環式炭化水素基または一価の脂肪族炭化水素基であって、脂環式炭化水素基:脂肪族炭化水素基がモル比で6:4~8:2であり、
R2は二価の芳香族炭化水素基を表す。)
前記グリース組成物は、
膜厚1mmでせん断歪み1%の条件で測定した25℃における貯蔵弾性率が1,200~3,000Paであり、
25℃における離油量が200~270mm2/mgである、
請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記基油が、前記エーテル結合(-O-)に結合する少なくとも1つの基が炭素原子数12以上16以下の主鎖を含む分岐状アルキル基であるエーテル化合物を含む、エーテル化合物からなる、請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記エーテル結合(-O-)に結合する少なくとも1つの基が炭素原子数12以上16以下の主鎖を含む分岐状アルキル基であるエーテル化合物が、脂肪族エーテル化合物である、請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記基油が、前記エーテル結合(-O-)に結合する少なくとも1つの基が炭素原子数12以上16以下の主鎖を含む分岐状アルキル基である脂肪族エーテル化合物を含む、脂肪族エーテル化合物からなる、請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項6】
前記基油の40℃における動粘度が40~100mm2/sである、請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のうち何れか一項に記載の転がり軸受を備えたピボットアッシー軸受装置。
【請求項8】
請求項7に記載のピボットアッシー軸受装置を備えた、ディスク駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグリース組成物が封入されている転がり軸受及び該転がり軸受を備えたピボットアッシー軸受装置に関する。更に本発明は、該ピボットアッシー軸受装置を備えたディスク駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスク駆動装置(HDD)のアクチュエータの支点部分に使用されるピボットアセンブリや、スピンドルモータに内蔵される軸受には、これら部品の動作や装置の駆動を円滑にするために、グリースやオイルなどの種々の潤滑剤が用いられている。
例えばディスク駆動装置のアクチュエータに組み込まれる転がり軸受において、芳香族エステル油を含有する基油に、増ちょう剤として脂環族炭化水素基及び脂肪族炭化水素基の少なくとも1種を骨格中に有するジウレア化合物を配合してなるグリースを封入した転がり軸受の提案がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
HDDの読み書きエラーの発生原因として、上記アクチュエータやスピンドルモータに内蔵される軸受に封入された潤滑剤の一成分である、基油の揮発が挙げられる。揮発した基油が冷却されて磁気ディスク表面や磁気ヘッド上で凝結し、液体又は固体としてこれらに付着した場合、磁気ディスクと磁気ヘッドが吸着を起こすなどして正常な読み書きができなくなり、これが読み書きエラーの一原因になると考えられている。
HDD駆動時の温度上昇に伴う潤滑剤基油の揮発に対して、例えば低揮発性の基油の選択によって揮発量の抑制を図ったとしても、成分の揮発を完全に無くすことは難しい。
【0005】
本発明は、特定のグリース組成物が封入された転がり軸受を提供すること、並びに該軸受をピボットアッシー軸受装置に組みこむことにより、該軸受に封入されたグリース組成物が揮発した場合においても揮発した基油成分の記録ディスク等への付着が抑制され、ひいてはHDDの読み書きエラー発生を抑制できる、ピボットアッシー軸受装置及びそれを備えたディスク駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、転がり軸受であって、内輪と、前記内輪の外周側に前記内輪と同軸に配置された外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置される複数の転動体と、前記転動体を保持する保持器と、前記内輪と前記外輪との間に保持されるグリース組成物を含み、前記グリース組成物は、エーテル結合(-O-)に結合する少なくとも1つの基が炭素原子数12以上16以下の主鎖を含む分岐状アルキル基であるエーテル化合物を含む基油と、増ちょう剤とを含む、
転がり軸受に関する。
また本発明は、前記転がり軸受を備えたピボットアッシー軸受装置に関する。
更に本発明は、前記ピボットアッシー軸受装置を備えた、ディスク駆動装置に関する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の転がり軸受の構造の一例を説明する模式図である。
【
図2】本発明のディスク駆動装置の構造の一例を説明する模式図である。
【
図3】本発明のピボットアッシー軸受装置の構造の一例を説明する模式図である。
【
図4】本発明のピボットアッシー軸受(転がり軸受)に使用される冠形保持器を示す図である。
【
図5】スラッジ発生評価における高速四級試験後のボールの撮影画像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
上述したように、HDDのアクチュエータやスピンドルモータに使用される潤滑剤においては、HDDの読み書きエラーの一要因と考えられている潤滑剤成分の揮発(アウトガス発生等)の抑制を図った提案がなされてきた。
一般的に用いられる潤滑成分の揮発を抑制しても、揮発それ自体を無くすことはできない。従来のディスク駆動装置では、フライハイト(磁気ヘッドとディスクとの距離)が十分大きかった。そのため、揮発成分を抑制できれば、読み書きエラーを回避することが可能であった。しかし、記録密度の向上に伴い、フライハイトは数nm程度まで小さくなっている。この場合、磁気ヘッドとディスクとの間が負圧状態となると考えられる。これにより周囲の気体が磁気ヘッドとディスクとの間に向かい、圧縮される。そうするとその気体が凝縮され、微量な揮発成分も液化する可能性がある。また近年HDD1台当たりの記録容量の増大に伴い、装置内のディスク枚数が増え、3.5インチ径のディスクを9枚以上備えたディスク駆動装置も発売されるようになっている。このような装置では、装置内の空間容積がさらに小さくなっている。このように空間容積が小さく、さらにはフライハイトが数nmオーダーの環境下では、微量のコンタミネーションでさえ読み書きエラーにつながる可能性がある。
また、空気よりも密度の小さい気体(例えばヘリウム等)で内部空間が満たされているディスク駆動装置も普及し始めている。このようなディスク駆動装置では、装置内部の気圧が1気圧よりも小さいことがある。その場合は、潤滑剤成分の揮発の抑制がより難しくなる。さらに、次世代記録技術である熱アシスト磁気記録(HAMR)方式が採用されたHDDの場合、アクチュエータのヘッド部の温度が局所的に400℃もの高温となり得る。これにより、HDD内部温度が上昇し、低揮発性の基油を用いた場合でも潤滑剤成分の揮発量を低減できない可能性がある。
以上のように、潤滑剤成分の揮発がより一層問題視されるなか、本発明者らは、潤滑剤の構成成分を低揮発性とするという従来の課題にさらに踏み込んだ。本発明者らは、仮に揮発が生じたとしても、当該揮発成分がディスク等に付着しづらい(付着したとしても留まらない)という新たな発想に基づき、構成成分の検討を進めた。そして、エーテル結合(酸素原子)に結合するアルキル鎖長が一定以上の長さを有するエーテル化合物を基油として採用したところ、上記の発想を実現するグリース組成物が得られることを見出した。
【0009】
さらに本発明者らは、ピボットアッシー軸受装置に搭載される転がり軸受において、軸受に封入されたグリースが転がり軸受の転動溝に巻き込まれると、トルクの増大や発塵につながる可能性があることに着目した。特にディスク駆動装置においては、転がり軸受からの発塵粒子が記録ディスクや読み書きヘッドに付着した場合、上記揮発成分同様、それが読み書きエラー発生につながる可能性がある。上述したように磁気ヘッドと磁気ディスク間の距離は数nm程度にまで狭まっており、グリースの発塵そしてそれに伴う付着がもたらし得る不具合対しても懸念が高まっている。
こうした軸受に封入されたグリースが転がり軸受の転動溝に巻き込まれた際に生ずるとされる発塵問題に対して、本発明者らは転がり軸受に封入されたグリースの形状に着目した。そしてグリース形状が維持されることで、転動溝へのグリース本体の移動を抑制し、転動溝から生じ得るグリースの発塵を抑制するための構成として、後述する特定のウレア系増ちょう剤の採用に至った。
以下具体的に説明する。
【0010】
[転がり軸受]
まず以下に添付図面を参照して、本発明に係る転がり軸受の好ましい実施形態について詳細に説明する。なお、以下の実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0011】
図1は、本発明の好ましい実施形態の転がり軸受10の径方向の断面図である。転がり軸受10は、従来技術の転がり軸受と同様の基本構造を有するものであって、環状の内輪11と外輪12と複数の転動体13と保持器14とシール部材15とを具備する。
内輪11は、図示を省略するシャフトの外周側に、その中心軸と同軸に設置される円筒形の構造体である。外輪12は、内輪11の外周側で、内輪11と同軸に配置される円筒形の構造体である。複数の転動体13の各々は、内輪11と外輪12との間に形成される環状の軸受空間16内の軌道に配置された玉である。すなわち、本実施形態における転がり軸受10は玉軸受である。
保持器14は、軌道内に配置されて複数の転動体13を保持する。保持器14は、シャフトの中心軸と同軸に設置される環状体であり、中心軸の方向における一方の側に、転動体13を保持するための複数のポケット部を備え、各ポケット部内に転動体13が収容された構造を有する。転動体13は、保持器14により、内輪11及び外輪12の周方向に所定の間隔で保持され、転動体13の脱落や隣接する転動体13間の接触が抑制される。なお、保持器14の形状(冠形や波形等)や材質(鋼板製あるいは樹脂製等)は任意であるが、本発明に係る転がり軸受では、冠形の保持器(
図4参照)が好ましく使用される。
図4に示すように、冠形の保持器60は、転がり軸受10(図示せず)の中心軸(回転軸)を中心とする円筒形の環状部材61を有する。環状部材61は外周面及び内周面と、外周面及び外周面を連結する2つの端面61aを有する。環状部材61の一方の端面61aには、玉(転動体13、図示せず)を回転可能に収容する複数のボールポケット(凹部)62が、周方向に沿って所定間隔で形成される。更に、環状部材60は、各ボールポケット62の両端部に、上記一方の端面61aから延びる一対の爪63(63a、63b)を備える。一対の爪63は、各ボールポケット62に収容される玉の曲面に沿うように、互いに近づくように湾曲しており、これにより、各ボールポケット62に収容される玉の脱落を防止することができる。また2つのボールポケット62の間には、爪63の存在によりグリースポケット64が形成される。後述するグリース組成物G(図示せず)は該グリースポケット64に収容され、ボールポケット62とそこに収容される玉(転動体13)との間の潤滑に寄与する。
シール部材15は、外輪12の内周面に固定されて内輪11側に延在し、軸受空間16を密封する。シール部材15により密封された軸受空間16には、グリース組成物Gが封入されている。すなわちグリース組成物Gは、内輪11と外輪12との間に保持される。該グリース組成物Gは、後述するグリース組成物が用いられる。なお、軸受空間16内部へのグリース組成物Gの封入量は、例えばその容積の2%~30%である。特に低トルクが要求される後述するピボットアッシー軸受装置においては3%~10%がより好ましい。グリース組成物Gの封入量をこの範囲とすることで、グリース組成物Gは、転がり軸受10の軸受空間16内の転動体13と内輪11及び外輪12を十分に潤滑して摩擦抵抗を低減し、摩擦トルクを軽減できる。
シール部材15は、例えば鋼板又はゴムにより形成され、内輪11の外周と非接触である鋼板シールド、内輪11の外周と非接触である非接触式ゴムシールが挙げられる。本発明にあっては前記鋼板シールド又は非接触式ゴムシールの何れのシール部材でも使用することができる。アウトガス抑制の観点では、鋼板シールドを使用することが好ましい。なお本図はシール部材15を具備する態様であるが、本発明の転がり軸受はシール部材を具備しない転がり軸受の態様も対象とする。
以上の構成を有する転がり軸受10において、グリース組成物Gは、転動体13と保持器14との間、および、転動体13と内輪11ないし外輪12との間における摩擦を低減するように作用する。摩擦の低減により摩擦トルクが軽減されると共に摩擦熱の発生も抑制され、内輪11及び外輪12の円滑な回転が促進される。
図1に示される構成から解る
ように、転がり軸受10に封入されたグリース組成物Gは、転がり軸受10が回転する際に、転動体13と内輪11ないし外輪12との間を潤滑する。
【0012】
本実施形態の転がり軸受10は、ピボットアッシー軸受装置に備えられる転がり軸受として用いることができる。本実施形態の転がり軸受10は、後述する特定のグリース組成物を用いることによって駆動時に揮発成分が生じた場合においても該揮発成分のディスクへの付着が生じ難く、該揮発成分の付着が一因とされる磁気ディスクの読み書きエラーの発生を抑制できるという利点がある。
なお本実施形態の転がり軸受10は、ピボットアッシー軸受装置に用いるのに好適であるが、用途はこれに限られず、例えば、自動車、家電機器、情報機器等に用いられる小型モータ(例えば、ブラシレスモータ、ステッピングモータ、ファンモータ)の転がり軸受として使用することができる。
【0013】
[ピボットアッシー軸受装置及びディスク駆動装置]
以下に添付図面を参照して、前述の実施形態の転がり軸受を備えたピボットアッシー軸受装置、及び該ピボットアッシー軸受装置を備えたディスク駆動装置について説明する。なお、以下の実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0014】
図2は、本発明の好ましい実施形態のディスク駆動装置20の全体構成を示す斜視図である。
図2に示すように、本実施形態であるディスク駆動装置20は、略矩形箱状の基台(ベースプレート)21と、この基台21に載置されたスピンドルモータ22と、このスピンドルモータ22により回転する磁気ディスク23と、磁気ディスク23の所定の位置に情報を書き込むと共に、任意の位置から情報を読み出す磁気ヘッド25を有するスイングアーム24と、スイングアーム24を揺動可能に支持するピボットアッシー軸受装置30と、スイングアーム24を駆動するアクチュエータ26と、これらの機器を制御する制御部27を備える。
【0015】
本発明のディスク駆動装置は、例えば、3.5インチ径の磁気ディスクを9枚以上備えたディスク駆動装置とすることができる。このようなディスク枚数の大きい装置では、装置内の空間容積がさらに小さくなっている。前記ディスク駆動装置は、その内部空間が空気よりも密度の小さい気体により満たされているものとすることができる。このような低密度気体で内部空間が満たされたディスク駆動装置では、装置内部の気圧が1気圧よりも小さいことがある。また前記ディスク駆動装置は、記録方式として、熱アシスト磁気記録(HAMR)方式を採用したものとすることができる。熱アシスト磁気記録(HAMR)方式が採用されたディスク駆動装置では、アクチュエータのヘッド部の温度が局所的に400℃もの高温となり得る。
【0016】
図3は、本発明の好ましい実施形態のピボットアッシー軸受装置30の断面図である。
本実施形態のピボットアッシー軸受装置30は、シャフト(軸)31と、所定長さのスペースSを空けてシャフト31に嵌装される2つの転がり軸受である第1の軸受40及び第2の軸受50と、2つの転がり軸受40、50を外装するスリーブ32(外周部材)とから主に構成される。スリーブ32には、軸方向に所定長さのスペースSを空けて2つの転がり軸受40、50を配置するために設けられたスペーサ部32aを有する。
このようにシャフト31は、第1の軸受40と第2の軸受50により、回転自在な状態で保持されている。
なおスペーサ部32aは、
図3に示す実施形態のようにスリーブ32と一体成形されたものに限定されず、スリーブとスペーサとを別々の部品にて構成してもよい。
【0017】
第1の軸受40及び第2の軸受50には、上述の本発明の実施形態の転がり軸受10を
用いる。
第1の軸受40は、第1の内輪41と、第1の外輪42と、第1の内輪41と第1の外輪42との間に形成される軌道内に配置される複数の転動体であるボール43と、軌道内に配置されてボール43を保持する保持器(リテーナ)44と、軌道を外界から遮断するシール部材45と、軌道内に封入される本発明で使用するグリース組成物(不図示)から主に構成される。
第2の軸受50も同様に、第2の内輪51と、第2の外輪52と、第2の内輪51と第2の外輪52との間に形成される軌道内に配置される複数の転動体であるボール53と、軌道内に配置されてボール53を保持する保持器(リテーナ)54と、軌道を外界から遮断するシール部材55と、軌道内に封入される本発明で使用するグリース組成物(不図示)から主に構成される。
シャフト31は、筒状のシャフト本体31aと、シャフト本体31aの一端側に形成されたフランジ部31bを有し、フランジ部31bをディスク駆動装置20の基台21(
図2参照)側に位置させて基台21に取り付けられる。第2の軸受の第2の内輪51の一端部は、シャフトのフランジ部31bに接している。
【0018】
本実施形態のピボットアッシー軸受装置30には、後述するグリース組成物が封入された転がり軸受である第1及び第2の軸受40、50が用いられている。
一般的な転がり軸受は一方向に連続的に回転するが、ピボットアッシー軸受装置30は、ディスク駆動装置20の磁気ヘッド25を磁気ディスク23上で移動させるため、微小角度で正転と逆転を繰り返す揺動運動を高速で行う。そして、高い応答速度で磁気ヘッド25を正確な位置に移動させる必要がある。
【0019】
本実施形態で用いるグリース組成物は、高温下において基油の揮発が生じた場合においても、揮発した基油の磁気ディスク等への付着が少なく、ディスク駆動装置のディスク読み書きエラーの抑制を可能とすることができる。
また本実施形態で用いるグリース組成物は、適切な範囲の離油量を実現できるとともに、優れたグリースの形状安定性を示す。そのため、潤滑剤の供給不足やオイル漏れを防止することができる。この結果、本実施形態のディスク駆動装置20は、転がり軸受(第1及び第2の軸受40、50)を安定に長時間駆動させることができる。これは、ディスク駆動装置のディスク読み書きエラーの抑制につながるとともに、ピボットアッシー軸受装置及びディスク駆動装置の長寿命化を可能にする。
【0020】
[グリース組成物]
本発明に係る転がり軸受に封入されるグリース組成物(以降、単に“グリース組成物”と称する)は特定のエーテル系基油を配合してなることを特徴とする。前述したように、このグリース組成物の配合は、低揮発性を実現し、さらには当該揮発成分がディスク等に付着しづらいという特性を有する。
以下、本発明の転がり軸受に封入されるグリース組成物について説明する。
【0021】
<基油>
本実施形態に係る転がり軸受に封入されるグリース組成物において、基油として特定構造を有するエーテル系基油を使用する。後述する特定の構造を有するエーテル化合物を基油として採用することにより、該基油が高温下に晒され揮発した場合においても、磁気ディスク等の表面に揮発した基油が付着し難いという特性を有するグリース組成物が得られる。
【0022】
本発明において基油として用いられるエーテル系基油は、エーテル結合(-O-)に結合する少なくとも1つの基が炭素原子数12以上16以下の主鎖を含む分岐状アルキル基であるエーテル化合物(以下、エーテル化合物Aとも称する)、すなわち-O-RX基(
RXは、炭素原子数12以上16以下の主鎖を含む分岐状のアルキル基を表す)を含むエーテル化合物Aを含む基油であれば特に限定されない。
前記エーテル化合物Aにおいて、エーテル結合(-O-)の数は特に限定されず、例えばモノエーテル、或いはジエーテル、トリエーテル、テトラエーテル等のポリエーテルの態様など、様々であってよい。一態様において、前記エーテル化合物Aはジエーテルの態様とすることができる。
また前記炭素原子数12以上16以下の主鎖を含む分岐状アルキル基において、主鎖に結合する枝分かれ鎖の位置や枝分かれ鎖の数も特に限定されない。なお、前記分岐状アルキル基において「炭素原子数12以上16以下の主鎖」とは、エーテル結合の酸素原子に結合する炭素原子から数えて、最長鎖となる炭素鎖の炭素原子数が12以上16以下であることを意味し、当該主鎖に結合する枝分かれ鎖の炭素原子数は、例えば1乃至12程度とすることができ、例えば4乃至12、あるいはまた8~12とすることができる。また、エーテル結合に結合する前記炭素原子数12以上16以下の主鎖を含む分岐状アルキル基の総炭素原子数は、例えば13乃至30程度とすることができ、例えば16乃至28、あるいはまた20乃至28とすることができる。
前記分岐状アルキル基における炭素原子数12以上16以下の主鎖は、例えば炭素原子数14以上16以下の主鎖、炭素原子数12以上14以下の主鎖、或いはまた炭素原子数14の主鎖とする態様とすることができる。
【0023】
本発明の実施態様において、前記基油はエーテル系基油のみからなる態様であってよく、すなわち前記基油は、前記エーテル結合(-O-)に結合する少なくとも1つの基が炭素原子数12以上16以下の主鎖を含む分岐状アルキル基であるエーテル化合物Aを含む、エーテル化合物のみからなる態様であってよい。
前記エーテル化合物は、前記エーテル結合(-O-)に結合する少なくとも1つの基が炭素原子数12以上16以下の主鎖を含む分岐状アルキル基であるエーテル化合物Aを含むものであれば特に限定されるものではなく、潤滑剤の基油として通常用いられるエーテル化合物を好適に用いることができる。
なお、例えばエーテル化合物としてアルキル化ジフェニルエーテルを使用したグリース組成物は、アルキル化ジフェニルエーテルの種類によっては硬く離油量も少ないことから多量に用いることには注意を要し得、グリース組成物の基油としての採用は少量とするなど検討を要する。
【0024】
本発明の実施態様において、前記エーテル結合(-O-)に結合する少なくとも1つの基が炭素原子数12以上16以下の主鎖を含む分岐状アルキル基であるエーテル化合物Aは、エーテル結合(-O-)に結合する少なくとも1つの基が炭素原子数12以上16以下の主鎖を含む分岐状アルキル基である脂肪族エーテル化合物(以下、エーテル化合物A1とも称する)であってよい。
またこの脂肪族エーテル化合物(エーテル化合物A1)において、分岐状アルキル基における炭素原子数12以上16以下の主鎖は、例えば炭素原子数14以上16以下の主鎖、炭素原子数12以上14以下の主鎖、或いはまた炭素原子数14の主鎖とする態様とすることができる。
この脂肪族エーテル化合物(エーテル化合物A1)は、脂肪族ジエーテルの態様とすることができる。エーテル化合物A1が脂肪族ジエーテルの態様であるとき、エーテル結合に結合するアルキル基のいずれも(いわば化合物両端のアルキル基)が、炭素原子数12以上16以下の主鎖を含む分岐状アルキル基の態様とすることができ、また前記主鎖は例えば炭素原子数14以上16以下の主鎖、炭素原子数12以上14以下の主鎖、或いはまた炭素原子数14の主鎖とする態様とすることができる。
またエーテル化合物A1が脂肪族ジエーテルの態様であるとき、エーテル結合同士をつなぐ連結基の種類は特に限定されず、例えば炭素原子1乃至30の二価の炭化水素基などを挙げることができる。一態様において、この連結基はアルキレン基とすることができ、
該アルキレン基の炭素原子数は、例えば1~30、2~20、2~10、5~10、5~7、あるいは6の態様とすることができる。
【0025】
また本発明の実施態様において、エーテル系基油は、脂肪族エーテル化合物を含む態様、あるいはまた脂肪族エーテル化合物からなる態様とすることができる。
例えば、本発明の実施態様において、前記基油として、前記エーテル結合(-O-)に結合する少なくとも1つの基が炭素原子数12以上16以下の主鎖を含む分岐状アルキル基である脂肪族エーテル化合物A1を含む、脂肪族エーテル化合物からなる基油の態様を用いることができる。
前記脂肪族エーテル化合物は、前記エーテル結合(-O-)に結合する少なくとも1つの基が炭素原子数12以上16以下の主鎖を含む分岐状アルキル基である脂肪族エーテル化合物A1を含むものであれば特に限定されるものではなく、潤滑剤の基油として通常用いられる脂肪族エーテル化合物を好適に用いることができる。
本発明の実施態様において、前記脂肪族エーテル化合物は、前記脂肪族エーテル化合物A1を単独で用いてもよいし、前記脂肪族エーテル化合物A1とその他の脂肪族エーテル化合物との2種以上の混合物にて用いることができる。
【0026】
前記脂肪族エーテル化合物の態様において、例えば一分子中の炭素原子数が8~300であり、また一分子中の酸素原子数が1~150である脂肪族エーテル化合物を挙げることができる。前述の一分子中の炭素原子数および一分子中の酸素原子数が前記範囲内であることにより、粘性、低蒸発性、低温流動性のバランスが良好であることが期待できる。
また、前記脂肪族エーテル化合物は、例えば一分子中の炭素原子数が8~80であり、酸素原子数が1~40の範囲である態様を挙げることができ、さらにまた、一分子中の炭素原子数が8~60であり、酸素原子数が1~30の範囲である態様を挙げることができる。
【0027】
前記脂肪族エーテル化合物の一態様として、例えば下記式(E1)で表される態様を挙げることができる。
【化1】
上記式(E1)中、n1およびn4のうち少なくとも1方が8~12の整数を表し、また例えばn1およびn4はそれぞれ独立して8~12の整数を表すものとすることができる。あるいはまたn1およびn4は、それらの平均値が8~12の範囲となる、整数とすることができる。一態様において、n1およびn4のうち少なくとも1方が、或いはn1およびn4はそれぞれ独立して、あるいはn1およびn4はそれらの平均値において、8~10、10~12とすることができ、或いはまたn1およびn4がいずれも10である態様とすることができる。
上記式(E1)中、n2およびn3のうち少なくとも1方が6~10の整数を表し、また例えばn2およびn3はそれぞれ独立して6~10の整数を表すものとすることができる。あるいはまたn2およびn3は、それらの平均値が6~10の範囲となる、整数とすることができる。
上記式(E1)中、n5は1~2の整数とすることができる。一態様においてn5は2
とすることができる。
【0028】
また前記脂肪族エーテル化合物の別の態様として、例えば下記式(E2)で表される態様を挙げることができる。すなわち、エーテル結合が3以上である脂肪族エーテル化合物の態様とすることができる。
【化2】
前記式中、R
a及びR
cは、それぞれ独立して、総炭素原子数8~28のアルキル基を表し、R
bは炭素原子数2~28のアルキレン基を表し、mは平均値で1~6の整数を表す。式中、(R
b-O)は構成単位ごとに同一の基であっても異なる基であっていてもよい。式(E2)で表される化合物の一態様において、R
aとR
cの少なくとも一方が炭素原子数12以上16以下の主鎖を含む分岐状アルキル基である態様とすることができる。
R
a、R
bおよびR
cは、直鎖状であっても分岐状であってもよく、一態様においてR
aとR
cの少なくとも一方は分岐状とすることができる。分岐状であるときの枝分かれ鎖の位置や枝分かれ鎖の数は特に限定されない。
R
aおよびR
cのアルキル基において、その炭素原子数は、例えば8~26、或いはまた10~24とすることができる。R
aおよびR
cが分岐状である場合、その主鎖の炭素原子数は、それぞれ独立して例えば8~16、或いはまた10~14とすることができる。
【0029】
なお、RaおよびRcの少なくとも一方のアルキル基が炭素原子数12以上16以下の主鎖を含む分岐状アルキル基を表す態様であるとき、該分岐状アルキル基の総炭素原子数は13~26、或いはまた13~24とすることができ、このときの枝分かれ鎖の炭素原子数は1~10とすることができる。また前記分岐状アルキル基における炭素原子数12以上16以下の主鎖は、例えば炭素原子数14以上16以下の主鎖、炭素原子数12以上14以下の主鎖、或いはまた炭素原子数14の主鎖とする態様とすることができる。
また、Rbの炭素原子数は、例えば2~12、或いはまた2~8とすることができる。
【0030】
RaおよびRcの炭素原子数が8以上、すなわち当該エーテル化合物において、分子構造の末端がアルコキシ基であることにより、水との分離性が良くなり得る。
またRbの炭素原子数が2以上、すなわちアセタール構造を含むことのないエーテル化合物となることで耐湿性や耐ルイス酸性に優れることが期待でき、また炭素原子数が18以下とすることで、低温流動性を大きく損なわないことが期待できる。
mを平均値で1~6の整数とすることで、粘性、低蒸発性、低温流動性のバランスが良好となることが期待できる。例えばmの平均値は1~4、あるいは1~2とすることができる。
【0031】
上記式(E2)で表される脂肪族エーテル化合物の具体例として、例えば下記式(i)~(iv)で表される化合物を挙げることができるが、これらに限定されない。
【化3】
【0032】
また本発明で使用するエーテル系基油として、40℃における動粘度が例えば40~100mm2/sの範囲にあるもの、特に40~70mm2/sの範囲にあるエーテル化合物を使用することができる。
動粘度が上記所定範囲にあるエーテル系基油は特に限定されないが、例えば上述したエーテル結合(-O-)に結合する少なくとも1つの基が炭素原子数12以上16以下の分岐状アルキル基であるエーテル化合物を挙げることができる。
【0033】
本発明の態様において、基油は上記特定のアルキル基を有するエーテル化合物Aを含みてなり、例えば上記特定のアルキル基を有する脂肪族エーテル化合物A1を含みてなる。
また本発明の別の態様において、基油は上記特定のアルキル基を有するエーテル化合物Aを含む、エーテル系基油のみからなり、また例えば上記特定のアルキル基を有する脂肪族エーテル化合物A1を含む脂肪族エーテル系基油のみからなる。
例えば本発明の態様において、脂肪族エーテル系基油以外の別の基油を含むことができる。この場合、当該別の基油は、基油全量に対して10質量%以下、あるいはまた5質量%下とすることができるがこれらに限定されない。
【0034】
また例えば基油として、アルキル鎖長が一定以上の長さを有する芳香族エステル化合物を用いることができる。
前記芳香族エステル系基油は、例えば環上の置換基としてエステル基を有し、該エステル基の酸素原子に総炭素原子数8以上のアルキル基が結合した芳香族エステル化合物とすることができる。
上記構造を有する芳香族エステル化合物もまた、基油として採用することにより、該基油が高温下に晒され揮発した場合においても、磁気ディスク等の表面に揮発した基油が付着し難いという特性を有するグリース組成物が得られる。
【0035】
上述の芳香族エステル化合物は、芳香環にエステル基※-(CO)O-(※は芳香環との結合箇所)を介して、総炭素原子数8以上のアルキル基が結合した化合物である。言い換えると、芳香環上の水素原子が炭素原子数8以上のアルキルエステル基(ここでの炭素原子数はアルキル基部分の炭素原子数を指す)にて置換された化合物である。
上記芳香環としては、ベンゼン環やナフタレン環が挙げられ、中でもベンゼン環を挙げることができる。
上記芳香環上のアルキルエステル基の置換数は特に限定されず、1以上3個程度のアルキルエステル置換された化合物を挙げることができる。また芳香族エステル化合物が2個以上のアルキルエステル基で置換されている化合物である場合、該アルキルエステル基は同一であっても異なっていてもよい。なお芳香族エステル化合物が2個以上のアルキルエステル基で置換されている化合物である場合、少なくとも1個が炭素原子数8以上のアルキルエステル基であり、全てのアルキルエステル基が炭素原子数8以上のアルキルエステル基(ここでの炭素原子数はアルキル基部分の炭素原子数を指す)であることが好ましい(後述する直鎖状、分岐状アルキル基の例示においても同様であり、芳香族エステル化合物が2個以上のアルキルエステル基を有する場合、少なくとも1個のアルキルエステル基におけるアルキル基が例示された基を有し、好ましくは全てのアルキルエステル基におけるアルキル基が例示された基を有する)。
【0036】
上記総炭素原子数8以上のアルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。分岐状アルキル基は、枝分かれ鎖を複数有していてもよく、また分岐の箇所は特に限定されない。
【0037】
上記芳香族エステル化合物における総炭素原子数8以上の直鎖状アルキル基は、例えば炭素原子数8以上11以下の直鎖状アルキル基であり、あるいはまた炭素原子数9以上11以下の直鎖状アルキル基とすることができる。
また、総炭素原子数8以上の分岐状アルキル基は、総炭素原子数が9以上16以下、また例えば総炭素原子数11以上16以下とすることができる。
なお、総炭素原子数8以上の分岐状アルキル基は、例えば炭素原子数8以上11以下の
直鎖状アルキル基に、枝分かれ鎖が結合してなる分岐状アルキル基とすることができる。上記分岐状アルキル基は、すなわちエステル基の酸素原子に結合する炭素原子から数えて、最長鎖となる炭素鎖の炭素原子数が8以上11以下となるアルキル基である。なお、分岐状アルキル基は、総炭素原子数が8以上であれば、例えば炭素原子数6以上11以下の直鎖状アルキル基に枝分かれ鎖が複数結合してなる分岐状アルキル基であってもよい。
【0038】
上記芳香族エステル化合物としては、例えばトリメリット酸(1,2,4-ベンゼントリカルボン酸)のトリエステルを挙げることができる。
【0039】
好ましい芳香族エステル化合物として、下記式で表されるトリメリット酸のトリエステル化合物を挙げることができる。
【化4】
式中、Rは、それぞれ独立して、総炭素原子数8以上の直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、例えば炭素原子数8以上11以下の直鎖状アルキル基であり、また例えば炭素原子数8以上11以下の直鎖状アルキル基に枝分かれ鎖が結合してなる分岐状アルキル基であり、また例えば炭素原子数6以上11以下の直鎖状アルキル基に枝分かれ鎖が2以上結合してなる分岐状アルキル基であり、該分岐状アルキル基の総炭素原子数は例えば9以上16以下とすることができる。
【0040】
上記芳香族エステル系基油として、40℃における動粘度が例えば40~130mm2/sの範囲にあるもの、特に50~80mm2/sの範囲にある芳香族エステル化合物を使用することができる。
動粘度が上記所定範囲にある芳香族エステル系基油は特に限定されないが、例えば上述した環上の置換基としてエステル基を有し、該エステル基の酸素原子に総炭素原子数8以上のアルキル基が結合する、芳香族エステル化合物を挙げることができる。
【0041】
上記基油は、本発明で用いるグリース組成物の総質量に基づいて例えば80質量%以上の割合で含むことができ、例えばグリース組成物の総質量に基づいて80質量%乃至98質量%の割合にて上記基油を含む。
【0042】
<増ちょう剤>
本発明で使用するグリース組成物は、増ちょう剤としてウレア化合物を好ましく用いることができる。
ウレア化合物は、耐熱性、耐水性ともに優れ、特に高温での安定性が良好なため、高温環境下での適用箇所において増ちょう剤として好適に用いられている。
本発明で使用するグリース組成物にあっては、後述する特定のウレア系増ちょう剤を配合してなることで低発塵を実現することが期待できる。
【0043】
本発明で使用するグリース組成物はウレア系増ちょう剤として、例えば脂環式脂肪族ジウレア化合物を使用することができ、具体例として、下記式(1)で表されるジウレア化合物を挙げることができる。
R1-NHCONH-R2-NHCONH-R3・・・式(1)
(式(1)中、R1およびR3は一価の脂環式炭化水素基または一価の脂肪族炭化水素基
であって、脂環式炭化水素基:脂肪族炭化水素基がモル比で6:4~8:2であり、
R2は二価の芳香族炭化水素基を表す。)
【0044】
上記R1及びR3は、同一すなわち双方が一価の脂環式炭化水素基又は一価の脂肪族炭化水素基であってよく、あるいは一方が一価の脂環式炭化水素基であり、他方が一価の脂肪族炭化水素基であってもよい。
ただし、式(1)で表されるジウレア化合物(ジウレア化合物総量中)において、脂環式炭化水素基と脂肪族炭化水素基はモル比で6:4~8:2の範囲にあるジウレア化合物を用いることが好ましい。脂環式炭化水素基と脂肪族炭化水素基のモル比を上記範囲とすることで、当該ジウレア化合物を含むグリース組成物の貯蔵弾性率や離油量を所定の範囲とすることができる。
後述するようにグリース組成物の貯蔵弾性率や離油量を考慮したジウレア化合物の採用により、該グリース組成物を転がり軸受に封入して該転がり軸受を駆動させた際、封入されたグリース組成物の形状が維持され、且つ適正量の油分(基油)が転動体に供給されるため、適切な潤滑性能を有しつつ発塵が抑制されたグリース組成物とすることができる。
【0045】
上記一価の脂環式炭化水素基としては、例えば炭素原子数5乃至12の脂環式炭化水素基が挙げられる。
上記一価の脂肪族炭化水素基としては、例えば炭素原子数6乃至26の直鎖状又は分岐状の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基が挙げられる。
上記二価の芳香族炭化水素基としては、例えば炭素原子数6乃至20の二価の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0046】
本発明で使用する脂環式脂肪族ジウレア化合物は、アミン化合物とイソシアネート化合物を用いて合成可能である。例えばアミン原料として脂環式アミンと脂肪族アミンを用い、これと芳香族ジイソシアネートとを用いて合成し、得られる。アミン原料である脂環式アミンと脂肪族アミンは、例えば仕込み量を脂環式アミン:脂肪族アミン=6:4~8:2とし、これを芳香族ジイソシアネートと反応させることにより、ジウレア化合物総量中の脂環式炭化水素基:脂肪族炭化水素基がモルで6:4~8:2である化合物を得ることができる。
上記アミン化合物としては、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン(ステアリルアミン)、ベヘニルアミン、オレイルアミンなどに代表される脂肪族アミン、並びに、シクロヘキシルアミンなどに代表される脂環式アミンが挙げられる。
またイソシアネート化合物として、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ジメチルビフェニルジイソシアネート(TODI)等の芳香族ジイソシアネートが用いられる。
【0047】
上記増ちょう剤は、本発明で用いるグリース組成物の総質量に基づいて、例えば10質量%乃至15質量%の割合で含む。増ちょう剤を15質量%を超えて使用した場合、グリース組成物は離油量が少なすぎるものとなり潤滑不良となることが懸念される。一方、10質量%未満にて使用すると離油量が多すぎるものとなり装置の汚染が懸念されるだけでなく、保持器のグリースポケットからグリースが流れ出し、軸受の転動体と軌道輪との間に巻き込まれて回転トルクが上昇することが懸念される。
なかでも、離油量が適正であり且つ流動特性及び寿命特性に特に優れたグリース組成物を得られる観点から、例えば10質量%乃至13質量%の割合にて増ちょう剤を含むことが好ましい。
【0048】
<その他添加剤>
また、グリース組成物には、上記必須成分に加えて、必要に応じてグリース組成物に通常使用される添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲において含むことができる。
このような添加剤の例としては、酸化防止剤、防錆剤、極圧添加剤(極圧剤)、金属不活性剤、摩擦防止剤(耐摩耗剤)、油性向上剤、粘度指数向上剤、増粘剤などが挙げられる。
これらその他の添加剤を含む場合、その添加量(合計量)は、通常、グリース組成物の全量に対して0.1~10質量%である。
【0049】
例えば上記酸化防止剤としては、例えばオクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4-ビス-(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナミド)、オクチル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロケイ皮酸等のヒンダードフェノール系酸化防止剤;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、および4,4-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)等のその他のフェノール系酸化防止剤;ジフェニルアミン、アルキル化ジフェニルアミン、トリフェニルアミン、ヒンダードアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化フェニル-α-ナフチルアミン、フェノチアジン、アルキル化フェノチアジン等のアミン系酸化防止剤等が挙げられる。
これらの中でも、ディスク付着性の観点からフェノール系酸化防止剤、中でも、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,4-ビス-(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、及びオクチル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロケイ皮酸からなる群から選択されるヒンダードフェノール系酸化防止剤や、ジフェニルアミン、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化フェニル-α-ナフチルアミン等のジアリールアミン化合物のアミン系酸化防止剤が好適であり、さらにはスラッジ抑制の観点から、上記のヒンダードフェノール系酸化防止剤が好適である。
【0050】
また極圧添加剤としては、例えばリン系化合物、塩素系化合物、高分子エステル等が挙げられる。
これらの中でも、リン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩などのリン酸エステル系化合物、すなわちリン系化合物を好適に用いることができる。
好適なリン酸エステル系化合物としては、例えばトリクレジルホスフェート(CAS No.1330-78-5)、トリフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリオレイルホスフェートなどのリン酸トリエステル;ジラウリルハイドロゲンホスファイト(CAS No.21302-09-0)、トリクレジルホスファイト(Cas No.25586-42-9)、トリス(2-エチルヘキシル)ホスファイト(CAS No.301-13-3)、トリイソデシルホスファイト(CAS No.25448-25-3)、トリラウリルホスファイト(CAS No.3076-63-9)、トリス(トリイソデシル)ホスファイト(CAS No.77745-66-5)、トリオレイルホスファイト(CAS No.13023-13-7)などの
亜リン酸ジエステル及び/又は亜リン酸トリエステル;2-エチルヘキシルアシッドホスフェート(CAS No.12645-31-7)、アルキル(C12,C14,C16,C18)アシッドホスフェート、イソトリデシルアシッドホスフェート(CAS No.52933-07-0)、オレイルアシッドホスフェート(CAS No.37310-83-1)などのリン酸モノエステル及び/又はリン酸ジエステル(酸性リン酸エステル);が挙げられ、これらは市販品としても入手可能である。
これらの中でも、スラッジ抑制の観点から上記リン酸トリエステル、リン酸モノエステル及び/又はリン酸ジエステルが好ましく、中でもリン酸トリエステルが好ましい。具体例としては、トリクレジルホスフェート(CAS No.1330-78-5)、トリフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリオレイルホスフェート、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート(CAS No.12645-31-7)、アルキル(C12,C14,C16,C18)アシッドホスフェート、イソトリデシルアシッドホスフェート(CAS No.52933-07-0)、及びオレイルアシッドホスフェート(CAS No.37310-83-1)からなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。特に腐食抑制の観点から、トリクレジルホスフェート(CAS No.1330-78-5)、トリフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリオレイルホスフェートからなる群から選択される1種が好適であり、中でも、トリクレジルホスフェートが好適である。
なお、従来、極圧添加剤として使用されている硫黄含有添加剤、例えば硫黄系化合物の金属塩(カルシウムスルホネートなど)や、リン系化合物としても分類され得るトリフェノキシホスフィンスルフィド(TPPS)などのチオリン酸トリエステルは、スラッジ抑制の観点から使用を避けることが望ましい。
【0051】
金属不活性剤としては、ベンゾトリアゾール、亜硝酸ソーダ等が挙げられる。
【0052】
また耐摩耗剤はトリクレジルホスフェートや高分子エステルを挙げることができる。
上記高分子エステルとしては、例えば脂肪族1価カルボン酸及び2価カルボン酸と、多価アルコールとのエステルが挙げられる。上記高分子エステルの具体例としては、例えばクローダジャパン社製のPRIOLUBE(登録商標)シリーズなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
本発明で用いるグリース組成物は、前記基油と、前記増ちょう剤、そして所望によりその他添加剤を配合して得ることができる。
また、例えば前記基油と前記ウレア系増ちょう剤からなるウレア系グリース(ベースグリース)に対して、所望によりその他添加剤とを配合し、グリース組成物を得ることもできる。
通常、ベースグリースに対する増ちょう剤の含有量は10~30質量%程度であり、例えば上記のウレア系グリースに対するジウレア化合物(ウレア系増ちょう剤)の含有量は例えば10~25質量%程度、また10~20質量%程度とすることができる。
【0054】
<貯蔵弾性率について>
本発明で用いるグリース組成物は、貯蔵弾性率が適正な範囲にあることが好適である。すなわち、膜厚1mmでせん断歪み1%の条件で測定した25℃における貯蔵弾性率が1,200~3,000Paであることが好適である。
【0055】
貯蔵弾性率はグリースの形状安定性を示す値であり、軸受装置へのグリース封入直後や、軸受装置の揺動時における、グリースの形状安定性を把握するために、有効なパラメータである。
例えばピボットアッシー軸受装置では、グリースを冠形リテーナ(保持器)のグリースポケット上にのみ封入するため、グリースの形状が封入時の形状から変化すると、グリー
スがボール(転動体)等に絡み、転がり軸受のトルク上昇やトルク荒れにつながるだけでなく、発塵の要因になり得る。そのため、初期及び長期的なトルク安定性や発塵を抑制するには、グリースの形状維持能力(形状安定性)が重要な要素である。
こうしたグリースの形状安定性の観点から、本発明で用いるグリース組成物においては、上記測定条件(膜厚1mm、せん断ひずみ1%)における25℃の貯蔵弾性率が1,200Pa以上であることが好適である。ただし、貯蔵弾性率が高くなり過ぎると、グリース組成物が形状を維持したまま冠形リテーナ(保持器)のグリースポケットから落下する可能性がある。この場合、グリースが転動体の公転軌道上に位置するためにボールがグリースを超える際の抵抗が上がり、トルク上昇が懸念される。そのため、貯蔵弾性率は3,000Paを超えない値とするのが望ましい。
【0056】
<離油量について>
本発明で用いるグリース組成物は、離油量が適正な範囲、すなわち25℃における離油量が200~270mm2/mgであることが好適である。
【0057】
従来より、グリースから滲み出す油分(基油および添加剤)の量を評価する手法として離油量測定試験がある。離油量の大小によってグリースの寿命が変化するため、離油量の把握はグリースの寿命特性の把握に重要であるのみならず、適切な潤滑性能を得るためにも重要である。例えば、グリースを冠形リテーナ(保持器)のボールポケット間のグリースポケットに塗布するピボットアッシー軸受装置では、離油量が少なすぎると、経時的にボール(転動体)に供給される潤滑成分(基油および添加剤)が不足することとなり、トルク荒れや焼き付きの発生につながる可能性がある。一方、離油量が多過ぎるとオイル漏れによる汚染が起こりやすくなるという問題もある。
【0058】
本発明で使用するウレア系増ちょう剤を配合したグリースは、一般的に離油量が少ないため、離油度の測定方法を規定するJIS K2220等の公知規格の離油測定手法を用いて離油量を測定した場合に、測定結果に明確な差が生じ難いことがある。
そのため、本発明においては離油量の差がより明確となる独自の手法を採用した。具体的には、薬包紙の薬をのせる側の面上に9mgのグリース組成物をφ3mm円柱状に静置し、これを80℃環境下で24時間放置した時点において、薬包紙に生じた油にじみ(基油のにじみ)部分の面積を計測した。そしてグリースの質量当たりの油にじみ部分の面積を離油量(mm2/mg)として定義した。なお本試験において、薬包紙は(株)博愛社の「純白模造(中)」(サイズ:105mm×105mm、厚さ:42μm、目付:30g/m2)を用い、上述のように、薬をのせる側の面(光沢面)上にグリース組成物を静置させた。
上記の定義に基づき、潤滑不良が発生していない従来のグリースをこの独自方法で評価したところ、その離油量が概ね230~280mm2/mg程度であったことが確認された。なお離油量が200mm2/mg以下となった従来のグリースでは潤滑不良による焼き付きが確認された。また、離油量が多すぎる場合には油漏れの原因になる点を考慮し、その上限値は300mm2/mg程度である。
【0059】
以上の結果を踏まえ、本発明で使用するグリース組成物においては、薬包紙上にグリース組成物9mgをφ3mm円柱状に静置し、80℃の環境下で24時間放置した時点において、薬包紙に生じた油にじみ部分の面積を計測し、グリース組成物の質量当たりの該油にじみ部分の面積である離油量が200mm2/mg乃至270mm2/mgで好適であると評価するものである。
【0060】
以上、本実施形態で用いるグリース組成物は、貯蔵弾性率を所定の範囲とすることにより、リテーナ(保持器)のボールポケット(グリースポケット)に封入したグリース組成物の形状が崩れにくく、また適度な離油量を有することでボールポケット(グリースポケ
ット)からグリース組成物自体が転がり軸受の軌道面に落下することがなく、パーティクル発生の原因となる発塵を抑制することが期待できる。
また、基油として所定の炭素原子数のアルキル基を有するエーテル化合物を採用することで、前記発塵や、高温環境下の駆動で基油の揮発が発生した場合においても、発塵成分や揮発成分の磁気ディスク等への付着を抑制することができる。
以上の構成により、発塵や揮発成分が一因とされるディスク駆動装置のディスク読み書きエラーの抑制を可能とすることができる。
【0061】
本発明は、本明細書に記載された実施形態や具体的な実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内で種々の変更、変形が可能である。
【実施例0062】
以下、本発明を実施例により、さらに詳しく説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0063】
下記各表に示す配合量にて実施例、比較例、参考例及び参考比較例に使用するグリース組成物を調製した。なお下記表1及び表2中の「硬質化処理」とは、調製したグリース組成物を75℃で40%RHで5時間静置する処理を指す。本処理は、グリースの配合条件によって当該硬質化処理後と同様の性状となる可能性や、より硬いグリースが求められる場合を考慮したものである。
なお実施例、参考例、比較例及び参考比較例のグリース組成物の調製に使用した各成分の詳細及びその略称は以下のとおりである。
<増ちょう剤>
・脂環式脂肪族ジウレア化合物:脂環式炭化水素基:脂肪族炭化水素基のモル比は5:5~8:2(表1及び表2参照)
<基油>
・エーテル(脂肪族エーテル化合物):
炭素原子数8:下記式(E1)中、n1およびn4が10であり、n2およびn3が8であり、n5が2である化合物
・アルキル化ジフェニルエーテル:製品名「モレスコハイルーブLB-60」、(株)MORESCO
【化5】
・(参考)芳香族エステル(トリメリット酸エステル):
炭素原子数9:トリメリット酸の炭素原子数9のアルキルエステル(下記式[A]中、RがK1で表される化合物)
炭素原子数11:トリメリット酸の炭素原子数11のアルキルエステル(下記式[A]中、RがK2で表される化合物)
炭素原子数8:トリメリット酸の炭素原子数8のアルキルエステル(下記式[A]中、RがK3で表される化合物)
・(参考)鉱油+PAO:鉱油とポリアルファオレフィン油との混合油
【化6】
<添加剤>
・酸化防止剤:
フェノール系:ヒンダードフェノール系酸化防止剤(2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、製品名「Irganox L115」、BASFジャパン(株))
アミン系:ヒンダードアミン系酸化防止剤(セバシン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)、製品名「アデカスタブ LA-72」、(株)ADEKA)
・極圧添加剤:
リン酸エステル系極圧添加剤 富士フィルム和光純薬(株)、製品名「りん酸トリトリル」
【0064】
得られたグリース組成物に関する貯蔵弾性率、離油量、パーティクル数(発塵量)、また基油のディスク付着性について、それぞれ以下の手順を用いて評価した。また合わせて各グリース組成物の混和ちょう度を測定した。得られた結果を表1及び表2に示す。
【0065】
<(1)貯蔵弾性率(単位:Pa)測定 及び 評価>
アントンパール社製の回転式粘度計により、各グリース組成物の貯蔵弾性率G’を測定した。測定モードはひずみ分散法(ひずみを100%から0.01%に可変)にて、治具はパラレルプレートφ25mm(PP25)、プレートギャップ1mm、温度25℃にて測定を行った。ひずみが1%であるときの測定値を貯蔵弾性率G’(Pa)とし、以下の判定基準にて貯蔵弾性率(N=3の平均値)を評価した。
<判定基準>
N:貯蔵弾性率が1,200Pa未満
A:貯蔵弾性率が1,200Pa以上 3,000Pa以下
N:貯蔵弾性率が3,000Pa超
【0066】
<(2)離油量(単位:mm2/mg)測定 及び 評価>
薬包紙の薬をのせる側の面上に調製した各グリース組成物9mgをφ3mm円柱状に静置し、80℃環境下にて24時間放置した。24時間経過後、薬包紙に生じた油にじみ部分の面積を計測した。グリース組成物の質量当たりの油にじみ部分の面積を離油量(mm2/mg)として算出し、以下の判定基準にて離油量(N=3の平均値)を評価した。
なお本試験において、薬包紙は(株)博愛社の「純白模造(中)」(サイズ:105mm×105mm、厚さ:42μm、目付:30g/m2)を用い、上述のように、薬をのせる側の面(光沢面)上にグリース組成物を静置させた。
<判定基準>
N:離油量が200mm2/mg未満
A:離油量が200mm2/mg以上 270mm2/mg以下
N:離油量が270mm2/mg超
【0067】
<(3)パーティクル数(発塵量)測定>
外部から塵等が混入することの無いように構成された閉鎖空間内に揺動試験機を設置し、該揺動試験機に各グリース組成物を封入した玉軸受を備えたピボットアッシー軸受装置を設置し、揺動角度20度、揺動周波数20Hz、温度20~30℃にて7時間揺動させた。
揺動中の閉鎖空間内のパーティクル数を、気中パーティクルカウンタ(リオン(株)製:KC22-A)を用いて測定し、粒径ごとのパーティクルの個数よりパーティクルの総体積[μm3]を算出し、これを各例のパーティクル数(発塵量:N=3の平均値)として評価した。
【0068】
<(4)ディスク付着性(1)>
実施例、参考例、比較例及び参考比較例で使用した各基油について、以下の手順にてディスク付着性を評価した。
無電解ニッケルメッキされたアルミ製の磁気ディスクを、純度99%以上のn-ヘキサンおよびイソプロピルアルコールにて、それぞれ2回ずつ洗浄した後、完全に乾燥させた。このディスクに、ヘキサンで10vol%に希釈した基油(サンプルオイル)を5μL滴下し、そのまま1時間静置した。
滴下後の液滴の状態をディスク上方に固定したカメラにて撮影した。滴下直後(約5秒後)および滴下1時間静置後の液滴の総面積を画像解析ソフトにより算出し、滴下直後の面積値に対する滴下1時間静置後の面積値[滴下1時間後の面積値(最終面積)/滴下直後の面積値(初期面積)]の百分率(%)(ディスク付着性)を求めた(静置前後の面積値が全く変化しない場合、ディスク付着性は100%となる)。
なお本試験は温度:20~30℃、湿度:30~70%RHにて、1サンプルについて複数回繰り返して実施し、再現性(面積値の結果:±5%以内となる結果、N=4以上)が得られた際の値の平均値を試験結果として採用した。
得られた結果に基づき、以下の判定基準にて評価した。
<ディスク付着性 判定基準>
A:ディスク付着性が30%未満
N:ディスク付着性が30%以上
【0069】
【0070】
【0071】
まず参考例及び参考比較例により、貯蔵弾性率と離油量の適正範囲が以下の通り確認された。
すなわち表1に示すように、貯蔵弾性率(1,200Pa以上3,000Pa以下)及び離油量(200mm2/mg以上270mm2/mg以下)が好適(A)範囲にある参考例1~5のグリース組成物は、後述する参考比較例と比べてパーティクル数の値が小さく、発塵が抑制されているとする結果が得られた。またこれら参考例のグリース組成物に使用した基油はディスク付着性がA判定(ディスクに付着し辛い)であった。
参考比較例1~5のグリース組成物は、すべてにおいて貯蔵弾性率が不適(N)判定であり、参考比較例3及び5のグリース組成物に至っては、離油量についても不適(N)判定となった。その結果、参考例と比べてパーティクル数の値が大きい結果となった。また参考比較例4及び5のグリース組成物に使用した基油はディスク付着性がN判定であった。
【0072】
また表1に示すように、特定のエーテル系基油を用いた実施例1のグリース組成物は、貯蔵弾性率(1,200Pa以上3,000Pa以下)及び離油量(200mm2/mg以上270mm2/mg以下)が好適(A)範囲にあり、前述の参考例と同様にパーティ
クル数の値が小さく、発塵が抑制されているとする結果、また実施例1のグリース組成物に使用した基油はディスク付着性がA判定(ディスクに付着し辛い)であった。
一方、表2に示す比較例1のグリース組成物は硬すぎるために、グリース組成物としての使用が不適であり、混和ちょう度、貯蔵弾性率、離油量、パーティクル数のいずれも測定できず、また比較例1のグリース組成物に使用した基油はディスク付着性がN判定となった。
【0073】
<(5)ディスク付着性(2)>
上記<(4)ディスク付着性(1)>と同様の手順・試験手順にて、グリース組成物に使用する、表3に示す酸化防止剤のディスク付着性を評価した。
なお表3中の略号は以下のとおりである。
<ヒンダードフェノール系酸化防止剤>
・Irganox L115:2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、BASFジャパン(株)
・Irganox L135:オクチル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロケイ皮酸
・Irganox 1076FD:オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、BASFジャパン(株)
・Irganox 245:トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、BASFジャパン(株)
・Irganox 565:2,4-ビス-(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、BASFジャパン(株)
<アミン系酸化防止剤>
〈ジアリールアミン系酸化防止剤〉
・Irganox L57:下記式[B]で表されるジフェニルアミン
・Irganox L67:下記式[B]で表されるジフェニルアミン
【化7】
(式中、R’及びR”はそれぞれ独立してオクチル基、水素原子、又はtert-ブチル基を表す。)
・Irganox L06:オクチル化フェニル-α-ナフチルアミン、BASFジャパン(株)
〈ヒンダードアミン系酸化防止剤〉
・アデカスタブLA-72:セバシン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)、(株)ADEKA
・Irgalube Base10:ドデカン酸(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)、BASFジャパン(株)
【0074】
無電解ニッケルメッキされたアルミ製の磁気ディスクを、純度99%以上のn-ヘキサンおよびイソプロピルアルコールにて、それぞれ2回ずつ洗浄した後、完全に乾燥させた。
表3に示す各酸化防止剤を、トリメリット酸の炭素原子数11のアルキルエステル(上記式[A]中、RがK2で表される化合物)により10vol%に希釈し、さらにヘキサンで10vol%に希釈して酸化防止剤サンプルを調製した。
この酸化防止剤防止剤サンプルを上記洗浄・乾燥したディスクに5μL滴下し、そのま
ま1時間静置した。
滴下後の液滴の状態を上記<(4)ディスク付着性>と同様に観察し、滴下1時間静置前後の液滴の面積値からディスク付着性[%]を求めた。
得られた結果に基づき、以下の判定基準に評価した。
<ディスク付着性 判定基準>
A:ディスク付着性が30%未満
N:ディスク付着性が30%以上
【0075】
【0076】
表3に示すように、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、並びに、ジアリールアミン系酸化防止剤は、ディスクに付着し難い酸化防止剤であることが確認された。
一方、ヒンダードアミン系酸化防止剤は、ディスクに付着しやすいと評価され、本発明の課題に係るグリース組成物への添加には適さないことが確認された。
【0077】
<(6)スラッジ発生評価>
グリース組成物に使用する、表4に示す極圧添加剤のスラッジ発生について評価した。
表4に示す極圧添加剤を、トリメリット酸の炭素原子数11のアルキルエステル(上記式[A]中、RがK2で表される化合物)で、それぞれ1~2vol%となるように希釈した。
この極圧添加剤サンプルそれぞれについて、ASTM D 4172に準拠し、回転数:1,200rpm、荷重:392N、温度:75℃、時間:5分にてシェル式高速四級試験機を運転した。
【0078】
高速四球試験後のボールの画像を光学顕微鏡により撮影した(倍率200倍)。参考画像として、後述の判定基準においてE評価、A評価、N評価となったボールの撮影画像を
図5にそれぞれ示す[
図5(a):E評価、
図5(b):A評価、
図5(c):N評価](
図5に示すような撮影画像に基いて、後述の画像解析を行った)。以下、撮影した画像の解析には、画像解析ソフトImageJ 1.53fを用いた。
撮影した画像をグレースケール16bit(65536階調)に変換した後に、色調が0~100である領域を黒色部としてモノクロ二階調に変換した。この黒色部はスラッジ
の発生部に相当する。変換後の画像について、光量の安定しない左右両端をそれぞれ、画像の幅に対して15%ずつ除外した。
左右両端除外後のモノクロ二階調画像を解析対象画像とし、画像解析ソフトImageJ 1.53fの粒子解析(Analyze Particles)機能により、解析対象画像の黒色部の面積の総和を求めた。
当該解析対象画像全体の面積に対する、黒色部の面積の総和の比[黒色部の面積の総和/解析対象画像全体の面積](百分率(%))を面積率とし、以下の判定基準により評価した。
<判定基準>
E(Very good):面積率が0.1%未満
A(Good) :面積率が0.1%以上10%未満
N(Not Good) :面積率が10%以上
【0079】
【0080】
表4に示すように、リン酸トリエステル、リン酸モノエステル及び/又はリン酸ジエステルはスラッジ判定がE(非常に良好)であり、また亜リン酸ジエステル及び/又は亜リン酸トリエステルも判定A(良好)であり、リン酸エステル系極圧添加剤はスラッジが抑制されることが確認された。
一方、硫黄含有添加剤はスラッジ判定がN(不適)であり、グリース組成物には適さないとする結果となった。
【0081】
以上、最良の実施形態について詳細に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定され
るものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれものである。