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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062834
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】誘電体材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/00 20060101AFI20240501BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20240501BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
C01G23/00 C
H01B3/12 304
H01G4/30 201J
H01G4/30 311
H01G4/30 517
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170938
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】立川 貴士
(72)【発明者】
【氏名】隈部 佳孝
【テーマコード(参考)】
4G047
5E001
5E082
5G303
【Fターム(参考)】
4G047CA02
4G047CA07
4G047CB06
4G047CB08
4G047CC02
4G047CD04
5E001AE01
5E001AE02
5E001AE03
5E001AJ02
5E082FF05
5E082FG26
5E082FG41
5E082PP06
5G303AA01
5G303AB01
5G303AB06
5G303AB14
5G303CA01
5G303CB03
5G303CB32
5G303CB35
(57)【要約】
【課題】本発明は、誘電特性に優れた誘電体材料を製造することができる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る誘電体材料の製造方法は、金属アルコキシドおよび鉱化剤を含む反応液をソルボサーマル合成に付すことより未焼成金属酸化物メソ結晶を得る工程、及び、前記未焼成金属酸化物メソ結晶を400℃以上、1200℃未満で焼成する工程を含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体材料を製造するための方法であって、
金属アルコキシドおよび鉱化剤を含む反応液をソルボサーマル合成に付すことより未焼成金属酸化物メソ結晶を得る工程、及び、
前記未焼成金属酸化物メソ結晶を400℃以上、1200℃未満で焼成する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記焼成温度が500℃以上、950℃以下である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
焼成前の前記未焼成金属酸化物メソ結晶の長辺長さが300nm以上、400nm以下である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記鉱化剤1モルに対する前記金属アルコキシドのモル比が1.9以上、5以下である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ソルボサーマル合成の温度が150℃以上、400℃以下であり、且つ時間が1時間以上、72時間以下である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
更に、前記未焼成金属酸化物メソ結晶および金属化合物を含む反応液を水熱合成に付すことにより未焼成複合金属酸化物メソ結晶を得る工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記金属がTiを含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記未焼成複合金属酸化物が、SrTiO3、BaTiO3、又はこれらの混合物である請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記鉱化剤として含フッ素化合物を用いる請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電特性に優れた誘電体材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高度IoT社会の実現へ向け、電子機器の小型化、高機能化、省エネルギー化などが進んでいる中、主力電子部品のひとつである積層セラミックコンデンサ(MLCC)や誘電体アンテナの小型化が一層求められている。例えば、MLCCの小型大容量化のために、主に金属酸化物からなる誘電体材料を微粒子化することが行われている。しかし微粒子化操作により、構造相転移による比誘電率の低下や表面欠陥に起因する絶縁劣化などが生じ、素子の性能や安定性の低下を引き起こすという課題がある。
【0003】
よって、所謂ナノ粒子ではなく、粒径が数百nmでも優れた誘電特性を有する金属酸化物誘電体の開発が望まれている。
【0004】
ところで、本発明者らは、光触媒能に優れた酸化チタンメソ結晶を開発している(特許文献1,2)。また、非特許文献1~3にも、光触媒として用いられる酸化チタンメソ結晶が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2013/115213号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2019/54474号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Jiangyao Chenら,Catalysis Today,224(2014),216-224
【非特許文献2】Xinxin Fu,Journal of Alloys and Compounds,680(2016),80-86
【非特許文献3】Yuhan Liら,Applied Surface Science,594(2022),153519
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、コンデンサなどの電子部品の小型大容量化が求められているが、小型化のために誘電体材料を微粒子化すると、構造相転移により比誘電率が低下したり、表面欠陥により絶縁性が劣化して、素子の性能や安定性が低下することがあった。
そこで本発明は、誘電特性に優れた誘電体材料を製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、金属酸化物メソ結晶を適切な温度で焼成することにより、誘電特性に優れた誘電体材料が得られることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0009】
[1] 誘電体材料を製造するための方法であって、
金属アルコキシドおよび鉱化剤を含む反応液をソルボサーマル合成に付すことより未焼成金属酸化物メソ結晶を得る工程、及び、
前記未焼成金属酸化物メソ結晶を400℃以上、1200℃未満で焼成する工程を含むことを特徴とする方法。
[2] 前記焼成温度が500℃以上、950℃以下である前記[1]に記載の方法。
[3] 焼成前の前記未焼成金属酸化物メソ結晶の長辺長さが300nm以上、400nm以下である前記[1]または[2]に記載の方法。
[4] 前記鉱化剤1モルに対する前記金属アルコキシドのモル比が1.9以上、5以下である前記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 前記ソルボサーマル合成の温度が150℃以上、400℃以下であり、且つ時間が1時間以上、72時間以下である前記[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6] 更に、前記未焼成金属酸化物メソ結晶および金属化合物を含む反応液を水熱合成に付すことにより未焼成複合金属酸化物メソ結晶を得る工程を含む前記[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 前記金属がTiを含む前記[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8] 前記未焼成複合金属酸化物が、SrTiO3、BaTiO3、又はこれらの混合物である前記[6]に記載の方法。
[9] 前記鉱化剤として含フッ素化合物を用いる前記[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明方法によれば、誘電特性に優れた誘電体材料を製造することが可能になる。よって本発明は、特に小型化や大容量化が求められているコンデンサや誘電体アンテナの小型化などに利用できる誘電体材料を製造できる技術として、産業上非常に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1(1)~(6)は、500~1200℃で焼成したTiO2メソ結晶のFE-SEM写真である。
図2図2は、反応液における原料化合物の濃度や比率を違えて製造した未焼成TiO2メソ結晶のFE-SEM写真である。
図3図3は、TiO2メソ結晶の焼成温度と比誘電率および誘電正接との関係を示すグラフである。
図4図4は、未焼成TiO2メソ結晶の長辺長さと焼成TiO2メソ結晶の比誘電率および誘電正接との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る誘電体材料の製造方法を工程毎に説明するが、本発明は以下の具体例などに限定されるものではない。
【0013】
1.ソルボサーマル合成工程
本工程では、金属アルコキシドおよび鉱化剤を含む反応液をソルボサーマル合成に付すことにより未焼成金属酸化物メソ結晶を得る。
【0014】
金属アルコキシドとしては、目的化合物である金属酸化物を構成する金属のアルコキシド化合物を用いればよい。例えば、目的化合物がTiO2であればチタンアルコキシド(Ti(OR14)を用い、SrTiO3であればチタンアルコキシドとストロンチウムアルコキシド(Sr(OR12)を用い、BaTiO3であればチタンアルコキシドとバリウムアルコキシド(Ba(OR12)を用いればよい。
【0015】
金属アルコキシドに含まれるアルキル基R1としては、一般的に、置換基を有していてもよいC1-20アルキル基が挙げられる。C1-20アルキル基とは、炭素数1以上、20以下の直鎖状または分枝鎖状の一価飽和脂肪族炭化水素基をいう。例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、t-ペンチル、n-ヘキシル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、デカニル、ドデカニル、ヘキサデカニル、オクタデカニル等である。置換基としては、C1-6アルコキシ基が挙げられる。C1-6アルコキシ基に置換されているC1-20アルキル基としては、例えば、2-メトキシエチル、2-エトキシエチル、2-ブトキシエチル、1-メトキシ-2-プロピル、1-エトキシ-2-プロピル、1-ブトキシ-2-プロピル、2-(2-メトキシエトキシ)エチル、2-(2-エトキシエトキシ)エチル、2-(2-ブトキシエトキシ)エチル等が挙げられる。
【0016】
2種以上の金属アルコキシドを併用することにより、2種以上の金属元素を含む未焼成複合金属酸化物メソ結晶を製造できる可能性がある。但し、未焼成複合金属酸化物メソ結晶を製造する場合には、本工程の後、後記の水熱合成を実施することができる。
【0017】
鉱化剤とは、金属酸化物の結晶化を促進させるため添加する物質をいう。鉱化剤としては、目的の金属酸化物の結晶化を促進する物質であれば特に制限されないが、例えば、含フッ素化合物鉱化剤が挙げられる。
【0018】
鉱化剤として用い得る含フッ素化合物としては、例えば、フッ化アンモニウム、テトラメチルフッ化アンモニウム、テトラエチルフッ化アンモニウム、ベンジルトリメチルフッ化アンモニウム、ジプロピルフッ化アンモニウム、イソプロピルフッ化アンモニウム、ヒドロカルビルアンモニウムフルオリド等、フッ化アンモニウムおよびその誘導体;フッ化水素;フッ化ナトリウム、二フッ化ナトリウム等のフッ化物塩;及び、アンモニウムヘキサフルオロシリケート等が挙げられる。特に、フッ化アンモニウムまたはアルキルアンモニウムフルオライド(NR2 4 +-,式中、R2は、独立して、水素原子またはC1-6アルキル基を示す。)が好ましい。
【0019】
本工程では、金属アルコキシドおよび鉱化剤を含む反応液をソルボサーマル合成に付すことにより未焼成金属酸化物メソ結晶を得る。ソルボサーマル合成とは、溶媒の沸点超の高温高圧化で原料化合物の相互作用を促進する方法をいう。加熱手段としては、炉を使う方法など、特に制限されない。
【0020】
金属酸化物メソ結晶とは、ナノ結晶が三次元的に高密度で規則正しく配列した多孔質の結晶体であり、一般的に数百nmの粒子径を有するものをいう。金属酸化物メソ結晶は、構成粒子同士が密にパッキングされているため、素子内部の誘電体層を薄くできる、焼成時に結晶相転移が起こり難い、粒界の多くが内部に存在するため、絶縁劣化の要因である酸素空孔の電界マイグレーションを抑制できる、一次粒子金属酸化物メソ結晶と二次粒子、即ちメソ結晶を構成するナノ結晶間の界面をパラメータとする物性のチューニングが可能であるといった特性を有する。本発明に係る金属酸化物メソ結晶は、金属酸化物ナノ結晶に比べて、比誘電率が同等または高く、また、誘電正接が同等または低い。
【0021】
溶媒としては、反応の促進のために酸性を示し且つ反応温度で液体であるものを用いることができる。例えば、蟻酸や酢酸を用いることができるが、安全性の観点から酢酸が好ましい。
【0022】
未焼成金属酸化物メソ結晶の長辺長さとしては、50nm以上、1μm以下が好ましい。当該長辺長さが1μm以下であれば、未焼成金属酸化物メソ結晶のサイズは十分に小さく、電子部品の小型化に十分に寄与することができる。一方、50nm以上であれば、未焼成金属酸化物メソ結晶を構成するナノ結晶同士が接触できる面積を十分に確保できる。前記長辺長さとしては、100nm以上または200nm以上がより好ましく、300nm以上がより更に好ましく、また、800nm以下または500nm以下がより好ましく、400nm以下がより更に好ましい。なお、本発明者らの知見によれば、金属酸化物メソ結晶のサイズと誘電特性とには相関があるが、温度によっては焼成により結晶粒子同士の結着のおそれがあり得、また焼成前後で結晶サイズにはそれ程の差異は認められないので、本発明においては未焼成金属酸化物メソ結晶の長辺長さ等のサイズを基準にすることがある。
【0023】
未焼成金属酸化物メソ結晶の長辺長さは、未焼成金属酸化物メソ結晶を電子顕微鏡で拡大観察し、その画像を画像解析ソフトで解析し、画像中に含まれる20個以上、100個以下の結晶の画像中の最大長さ、例えば、画像中の結晶が方形または略方形であれば最大辺の長さをいい、円形または楕円形などの略円形であれば長径をいうものとする。
【0024】
未焼成金属酸化物メソ結晶の長辺長さ等のサイズは、反応液における金属アルコキシドおよび鉱化剤の濃度、金属アルコキシドと鉱化剤の比率、加熱温度、及び加熱時間などにより調整することができる。例えば、反応液における金属アルコキシドの濃度を0.01mmol/mL以上、1mmol/mL以下程度にすることができる。当該濃度としては、0.05mmol/mL以上が好ましく、0.1mmol/mL以上がより好ましく、また、0.5mmol/mL以下が好ましく、0.2mmol/mL以下がより好ましい。一般的に、反応液における未焼成金属アルコキシドの濃度が高いほど、得られる未焼成金属酸化物メソ結晶の粒子径は小さくなる傾向がある。
【0025】
反応液における鉱化剤の濃度は、0.01mmol/mL以上、1mmol/mL以下程度にすることができる。当該濃度としては、0.025mmol/mL以上が好ましく、0.05mmol/mL以上がより好ましく、また、0.5mmol/mL以下が好ましく、0.1mmol/mL以下がより好ましい。一般的に、反応液における鉱化剤の濃度が高いほど、得られる未焼成金属酸化物メソ結晶の形状が方形のプレート状になる傾向がある。
【0026】
反応温度は、使用する溶媒の沸点などに応じて適宜調整すればよいが、例えば、100℃以上、500℃以下とすることができる。当該温度としては、150℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましく、また、400℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましい。なお、反応圧力が1気圧を超えるように、反応容器は密閉することが好ましい。一般的に、反応温度が高い程、得られる未焼成金属酸化物メソ結晶の純度と結晶性が高くなる傾向がある。
【0027】
反応時間は、使用した金属アルコキシドが全て消費されるまでとしたり、予備実験などにより適宜調整すればよいが、例えば、10分間以上、100時間以下とすることができる。当該反応時間としては、1時間以上または5時間以上が好ましく、10時間以上または20時間以上がより好ましく、また、72時間以下が好ましく、50時間以下または30時間以下がより好ましい。一般的に、反応液における金属アルコキシドおよび/または鉱化剤の濃度が低いほど、反応時間を長くすることが好ましい。
【0028】
反応終了後、一般的な後処理を行ってもよい。例えば、反応液を常温まで放冷などにより冷却した後、生じた未焼成金属酸化物メソ結晶を、デカンテーション、濾過、遠心分離などにより分離し、洗浄と分離を繰り返せばよい。洗浄に用いる洗浄液は、未焼成金属酸化物メソ結晶を溶解しないものであれば特に制限されないが、例えば、蒸留水などの精製水や、メタノール、エタノール、2-プロパノール等の低級アルコールが挙げられる。洗浄操作は、適宜繰り返せばよいが、洗浄操作回数としては、例えば、2回以上、10回以下とすればよい。洗浄後は、未焼成金属酸化物メソ結晶を乾燥してもよい。乾燥手段は特に制限されないが、例えば、加熱乾燥、減圧乾燥、真空乾燥などを用いることができる。また、所望の粒子径の未焼成金属酸化物メソ結晶を得るために、分級してもよい。
【0029】
2.水熱合成工程
本工程では、前記ソルボサーマル合成工程1で得られた未焼成金属酸化物メソ結晶および金属化合物を含む反応液を水熱合成に付すことにより、2種以上の金属元素を含む未焼成複合金属酸化物メソ結晶を得る。本工程は、1種の金属元素を含む未焼成複合金属酸化物メソ結晶が目的化合物である場合や、前記ソルボサーマル合成工程1で未焼成複合金属酸化物メソ結晶が得られる場合には、必ずしも実施する必要はない。
【0030】
本工程で用いる金属化合物は、ソルボサーマル合成工程1で得られた未焼成金属酸化物メソ結晶に追加したい金属元素の化合物である。例えば、当該金属元素を含む金属元素源として、水酸化物、塩化物、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硝酸塩などを用いることができる。
【0031】
本工程で追加する金属元素としては、BaやSr等のアルカリ土類金属が好ましい。
【0032】
金属化合物の使用量は、本工程の目的化合物である未焼成複合金属酸化物メソ結晶における金属元素の比率に応じて適宜調整すればよい。例えば、目的化合物である未焼成複合金属酸化物メソ結晶における、ソルボサーマル合成工程1で得られた未焼成金属酸化物メソ結晶に含まれる金属元素に対する本工程により追加すべき金属元素のモル比の1.0倍モル以上、1.5倍モル以下程度用いればよい。当該比率としては、1.2倍モル以下が好ましく、1.1倍モル以下が好ましい。当該比率が高いほど反応効率が高められる一方で、当該比率が低いほど過剰の金属化合物による固溶体の生成をより確実に抑制することができる。
【0033】
本工程では、水熱合成により未焼成複合金属酸化物メソ結晶を得る。水熱合成とは、溶媒として水を用いるソルボサーマル合成である。
【0034】
溶媒としては、反応を阻害しない限り、反応液における原料化合物の溶解性や分散性を高めるために、水に加えて水混和性有機溶媒を用いてもよい。水混和性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール等の低級アルコール溶媒や、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール等の多価アルコール溶媒を用いることができる。
【0035】
溶媒として水と水混和性有機溶媒との混合溶媒を用いる場合、水混和性有機溶媒の割合は適宜調整すればよいが、例えば、混合溶媒における水混和性有機溶媒の割合として5質量%以上、50質量%以下とすることができる。
【0036】
本工程で用いる溶媒の量は、特に限定はされないが、例えば、ソルボサーマル合成工程1で得られた未焼成金属酸化物メソ結晶と金属化合物の合計のモル数に対しモル比で、5以上、1000以下とすることができる。当該モル比としては、10以上が好ましく、50以上がより好ましく、100以上がより更に好ましく、また、500以下が好ましく、200以下がより好ましい。
【0037】
水熱反応時には、反応液にpH調整剤を添加してもよい。反応液のpHを比較的高く調整することにより、反応を促進することができ得る。pH調整剤としては、反応を促進できるものであれば特に制限されないが、例えば、目的の未焼成複合金属酸化物メソ結晶を構成する金属元素以外のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物が挙げられる。
【0038】
触媒の使用量は特に制限されないが、例えば、反応液における金属化合物に対して1倍モル以上、5倍モル以下とすることができる。
【0039】
水熱合成の条件は、目的の未焼成複合金属酸化物メソ結晶が得られる範囲で適宜調整すればよい。例えば、反応温度としては、使用する溶媒の沸点以上の温度とすることができる。具体的には、例えば、100℃以上、300℃以下に調整すればよい。当該温度としては、150℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましく、また、250℃以下が好ましい。
【0040】
水熱合成は、特に限定されないが、通常、自己発生圧下または気体加圧下で行われるため、耐圧容器内で行う。耐圧容器は特に限定はされないが、例えば、反応スケール等に応じたオートクレーブ等が用いられる。
【0041】
水熱合成の反応時間は、目的の未焼成複合金属酸化物メソ結晶が得られる範囲において特に限定されないが、通常3時間以上、240時間以下に調整することができる。おそらく、先ず結晶積層体が生成し、引き続き反応させていくと、結晶積層体の表面上に金属酸アルカリ土類金属ナノ粒子などが成長し、未焼成複合金属酸化物メソ結晶が生成すると考えられる。上記反応時間としては、5時間以上または10時間以上が好ましく、24時間以上または36時間以上がより好ましく、48時間以上がより更に好ましい。
【0042】
本工程においては、ソルボサーマル合成工程1で得られた未焼成金属酸化物メソ結晶をテンプレートとして金属化合物に含まれる金属元素を含む結晶がエピタキシャル成長したものが得られると考えられる。そして得られた結晶積層体は、その結晶が{100}面方向に配向している。また、水熱反応の進行により、結晶積層体の表面に金属化合物に含まれる金属元素を含む結晶が同一方向に配向して生成し、未焼成複合金属酸化物メソ結晶が得られる。なお、本工程で得られる未焼成複合金属酸化物メソ結晶は、未焼成金属酸化物メソ結晶の内、2以上の金属元素を含むものである。
【0043】
水熱反応終了後、一般的な後処理を行ってもよい。例えば、生成した未焼成複合金属酸化物メソ結晶を反応液から分離する。分離の方法は特に限定されないが、例えば、濾過、遠心分離、デカンテーションが挙げられる。分離した未焼成複合金属酸化物メソ結晶は、水洗などにより洗浄したり、常温以上の温度で乾燥してもよい。
【0044】
3.焼成工程
本工程では、未焼成金属酸化物メソ結晶を400℃以上、1200℃未満で焼成する。金属酸化物メソ結晶を焼成することにより、フッ素化合物や窒素化合物などの不純物を除去したり、酸素欠陥を軽減したり、結晶性を高める。その結果、コンデンサ等のための誘電体材料としては、高比誘電率であり且つ低誘電正接であることが求められるところ、前記温度範囲で焼成することにより、高比誘電率であり且つ低誘電正接である金属酸化物メソ結晶が得られる。
面積S[m2]の2つの電極板を距離d[m]離して平行に置いたコンデンサの静電容量[F]は面積Sに比例し距離dに反比例するが、式C=εS/d[F]の比例定数εを誘電率といい、真空の誘電率ε0=8.854×10-12[F/m]に対する比を比誘電率という。誘電率および比誘電率が大きい程、誘電体材料として優れているといえる。本発明に係る金属酸化物メソ結晶は、同じ条件で焼成した同金属酸化物からなる、例えば数十nmのナノ結晶に比べて、比誘電率が同等またはより高いといえる。
【0045】
誘電正接は、誘電体に電場が加わった場合にその一部が熱となって失われる比率を表す基準である。容量成分のみを考慮した理想的な誘電体に交流電場を加えた場合、電場の位相と分極・電荷反転による電流の位相には90°の位相差があるため、交流の電力消費はゼロになるが、実際の誘電体ではリーク電流が発生したり、誘電分極や部分放電のために位相差は90°からずれており、その角度をδとすると、tanδは電場と電流が同位相となる成分に相当し、電力消費、即ち損失に関与する。この正接(tanδ)のことを誘電正接という。本発明に係る金属酸化物メソ結晶は、同じ条件で焼成した同金属酸化物からなる、例えば数十nmのナノ結晶に比べて、誘電正接が同等またはより低いといえる。
【0046】
金属酸化物メソ結晶の焼成温度が高い程、上述した通り結晶性が高まり、酸素欠陥が低減される等して、比誘電率が高まり且つ誘電正接が低くなり、誘電特性が高まるといえる。しかし焼成温度が高い程、結晶同士の結着の可能性が高くなる。結晶が結着すると、結晶の微細化のために粉砕処理が必要となる場合があり、かかる粉砕処理により誘電特性が低下する恐れがあり得る。これらのバランスから、焼成温度としては、450℃以上が好ましく、500℃以上がより好ましく、また、1100℃以下が好ましく、1000℃以下がより好ましく、950℃以下がより更に好ましい。なお、比較的低温度での焼成でも、メソ結晶同士で一部結着することがあり得るが、高温での焼成のように完全に結着しない限り、その場合には誘電特性を損なわないような軽い条件でメソ結晶を分離することができる。
【0047】
本発明に係る金属酸化物メソ結晶は、優れた誘電特性を有するため、コンデンサや誘電体アンテナ等の誘電体材料として有用である。例えば、本発明に係る金属酸化物メソ結晶を成形し、コンデンサの誘電体として利用することが可能である。金属酸化物メソ結晶の成形方法は特に制限されないが、例えば、圧縮成形や、溶媒やバインダーと混合してスラリーを調製し、成形や外部電極を形成した後に焼成することにより溶媒とバインダーを除去する方法が挙げられる。また、樹脂にフィラーとして金属酸化物メソ結晶を混合することで、比誘電率と誘電正接が調整された誘電体アンテナを製造することができる。
【実施例0048】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0049】
実施例1: TiO2メソ結晶の合成
フッ化アンモニウム(NH4F,富士フイルム和光純薬社製,4.0mmol)に酢酸(CH3COOH,富士フイルム和光純薬社製,50mL)を加え、溶解するまで超音波照射した。次に、チタン(IV)n-ブトキシド(Ti(OnBu)4,富士フイルム和光純薬社製,7.3mmol)を素早く加え、5分間撹拌し混合溶液を得た。この混合溶液を、100mL容のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の内筒を備えたステンレス製反応容器(三愛科学社製)に入れ、オーブンを用いて210℃で24時間加熱した。その後、常温になるまで冷却し、白色の沈殿物を得た。上澄み液を除去した後、メタノール(CH3OH,富士フイルム和光純薬社製,30mL)を用いて当該沈殿物を50mL容の遠沈管に移し、9000rpmで10分間遠心分離した。得られた沈殿物を蒸留水(30mL)に分散後、9000rpmで10分間遠心分離した。同様の洗浄作業を、更に蒸留水で1回、メタノールで3回行った。洗浄後の沈殿物を、オーブンを用いて70℃で乾燥させることで、TiO2メソ結晶を得た。
【0050】
得られたTiO2メソ結晶を、電気炉を用い、大気下、500~1200℃の温度で1時間焼成した。電気炉としては、1000℃以下の焼成温度の場合は小型電気炉(「ハイセラキルンNHK-120H」日陶科学社製)を用い、1100℃以上の焼成温度の場合は高速昇温電気炉(「SUPER-C」モトヤマ社製)を用いた。
また、比較のために、市販の酸化チタンナノ粒子(「触媒担体用チタニアSSP-N」堺化学社製,アナターゼ型結晶,X線粒子径:9nm,比表面積:>270m2/g)も同様の条件で焼成した。
【0051】
実施例2
フッ化アンモニウムの使用量を10.5mmol、チタン(IV)n-ブトキシドの使用量を21mmolに変更した以外は実施例1と同様にしてTiO2メソ結晶を得た後、実施例1と同様に500℃で1時間焼成した。
【0052】
実施例3
フッ化アンモニウムの使用量を3.5mmol、チタン(IV)n-ブトキシドの使用量を7.0mmolに変更した以外は実施例1と同様にしてTiO2メソ結晶を得た後、実施例1と同様に500℃で1時間焼成した。
【0053】
実施例4
フッ化アンモニウムの使用量を7.0mmol、チタン(IV)n-ブトキシドの使用量を14mmolに変更した以外は実施例1と同様にしてTiO2メソ結晶を得た後、実施例1と同様に500℃で1時間焼成した。
【0054】
実施例5
フッ化アンモニウムの使用量を1.75mmol、チタン(IV)n-ブトキシドの使用量を3.5mmolに変更し、また加熱時間を48時間に変更した以外は実施例1と同様にしてTiO2メソ結晶を得た後、実施例1と同様に500℃で1時間焼成した。
【0055】
試験例1: 電子顕微鏡観察
(1)実施例1の焼成TiO2メソ結晶
焼成した実施例1のTiO2メソ結晶を、電界放出型走査型電子顕微鏡(「JSM-7100F」日本電子社製)を用いて、5000倍で拡大観察した。結果を図1に示す。
図1に示される結果の通り、1100℃で焼成すると一部で結晶同士の結着が認められ、1200℃で焼成すると結晶同士の結着が明確に認められた。結着した粒子を誘電体材料として用いるには微細に粉砕する必要があり、粉砕により表面欠陥に起因する絶縁劣化などが起こるおそれがある。
よって、誘電体材料として用いるTiO2メソ結晶は、少なくとも1200℃未満で焼成する必要があることが明らかになった。
また、得られた焼成TiO2メソ結晶をX線回折で分析したところ、焼成温度が高いほどXRDピークがブロードからシャープに変わっており、結晶形が明確になり、また、1000℃以下ではアナターゼ型結晶が主であるのに対して、1100℃でルチル型結晶のピークが現れ始め、1200℃以上ではルチル型結晶となった。
【0056】
(2)実施例2~5の未焼成TiO2メソ結晶
実施例2~5の焼成前のTiO2メソ結晶を、前記試験例1(1)と同様にして拡大観察した。結果を図2に示す。
電界放出型走査型電子顕微鏡(「JSM-7100F」日本電子社製)を用いて拡大観察した。拡大倍率は、最も小さい実施例2のメソ結晶に対しては50000倍とし、その他のメソ結晶に対しては25000倍とした。画像処理ソフト(「ImageJ」アメリカ国立衛生研究所)でメソ結晶の拡大画像に含まれる50個の粒子の長辺長さを求め、その平均値を算出した。但し、実施例5の未焼成TiO2メソ結晶の粒径は比較的大きかったため、拡大画像に含まれる30個の粒子の長辺長さを求め、その平均値を算出した。結果を図2と表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
図2と表1に示される結果の通り、反応液における金属アルコキシドと鉱化剤の濃度、及びそれらの比率により、得られるメソ結晶のサイズを調整できることが示された。
【0059】
試験例2: 誘電特性測定
(1)実施例1の焼成TiO2メソ結晶
焼成した実施例1のTiO2メソ結晶(約3mL)を石英管に充填し、空洞共振器に設置し、10GHzでの比誘電率と誘電正接を、ネットワークアナライザーを使って測定した。結果を図3に示す。
図3に示される結果の通り、本発明に係るメソ結晶は、同温度で焼成したナノ結晶に比べて、比誘電率が高く、且つ誘電正接が低い傾向があることが分かった。特に、700℃および900℃で焼成したメソ結晶は結晶同士が結着しておらず、比誘電率が比較的高く、且つ誘電正接が低い。また、1100℃で焼成したメソ結晶は比誘電率が特に高く、且つ誘電正接が低かった。更に、500℃で焼成したメソ結晶は、同温度で焼成したナノ結晶に比べて比誘電率が高く、且つ誘電正接が低かった。
【0060】
(2)実施例2~5の焼成TiO2メソ結晶
実施例2~5の焼成TiO2メソ結晶の比誘電率と誘電正接を、前記試験例2(1)と同様にして測定した。結果を図4に示す。
図4に示される結果の通り、平均長辺長さが300~400nmの未焼成TiO2メソ結晶を焼成した結晶の比誘電率が高く且つ誘電正接が低く、誘電特性に特に優れることが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4