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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062840
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】樹脂粒子分散体
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/00 20140101AFI20240501BHJP
【FI】
C09D11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170948
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝洋
(72)【発明者】
【氏名】竹野 泰陽
(72)【発明者】
【氏名】百田 博和
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AD10
4J039AD11
4J039AD12
4J039AD15
4J039BA04
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE22
4J039BE25
4J039CA06
4J039DA02
4J039EA43
4J039GA03
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】低吸水性印刷基材への印刷においても、指擦り耐久性に優れた印刷物を得ることができる、樹脂粒子分散体、該樹脂粒子分散体を含有する水系インク、及び該樹脂粒子分散体の製造方法を提供する。
【解決手段】[1]樹脂粒子が水系媒体に分散されてなる樹脂粒子分散体であって、該樹脂粒子が、炭素数6又は7のアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルである(メタ)アクリル酸エステル(a-1)由来の構成単位と、(メタ)アクリルアミド系モノマー(a-2)由来の構成単位とを含む共重合体(A)、及びカルボキシ基末端ブタジエン/アクリロニトリル共重合体(B)を含有する、樹脂粒子分散体、[2]前記[1]に記載の樹脂粒子分散体を含有する水系インク、及び[3]前記[1]に記載の樹脂粒子分散体の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂粒子が水系媒体に分散されてなる樹脂粒子分散体であって、
該樹脂粒子が、炭素数6又は7のアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルである(メタ)アクリル酸エステル(a-1)由来の構成単位と、(メタ)アクリルアミド系モノマー(a-2)由来の構成単位とを含む共重合体(A)、及びカルボキシ基末端ブタジエン/アクリロニトリル共重合体(B)を含有する、樹脂粒子分散体。
【請求項2】
共重合体(A)がイオン性モノマー(a-3)由来の構成単位を更に含む、請求項1に記載の樹脂粒子分散体。
【請求項3】
樹脂粒子分散体が更に中和剤を含有し、該樹脂粒子分散体中の共重合体(A)のイオン性基のモル数と共重合体(B)のカルボキシ基のモル数の合計モル数に対する、中和剤のモル数の比が50モル%以上200モル%以下である、請求項2に記載の樹脂粒子分散体。
【請求項4】
共重合体(B)中のアクリロニトリル由来の構成単位の含有量が5質量%以上50質量%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂粒子分散体。
【請求項5】
樹脂粒子中の共重合体(A)及び共重合体(B)の合計含有量100質量部に対する共重合体(B)の含有量が5質量部以上60質量部以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂粒子分散体。
【請求項6】
(メタ)アクリルアミド系モノマー(a-2)の溶解度パラメータが17(MPa)0.5以上23(MPa)0.5以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂粒子分散体。
【請求項7】
共重合体(A)中の(メタ)アクリルアミド系モノマー(a-2)由来の構成単位の含有量が5質量%以上30質量%以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂粒子分散体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂粒子分散体を含有する、水系インク。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂粒子分散体の製造方法であって、
共重合体(A)及び共重合体(B)を含有する有機溶媒溶液に水系媒体を添加して転相乳化する工程を含む、樹脂粒子分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂粒子分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の印刷業界を取り巻く状況下においては、作業環境、印刷環境、職場環境の意識の高まりを受けて、低臭気性、安全性等の観点から、ビヒクル成分として水が最大割合を占める水系インクが求められている。しかしながら、水系インクは、印刷基材として樹脂フィルムのような吸水し難い低吸水性印刷基材に対しては、印刷品質の更なる向上が求められている。その中でも特に、水系インクにより形成されるインク塗膜と印刷基材との密着性の改善が求められている。このような要求に対して、樹脂粒子を含有する水系インクが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、基材密着性等に優れた水性インクとして用いることができる樹脂粒子分散体の提供を目的として、コアシェル型樹脂粒子と水とを含有する樹脂粒子分散体であって、該コアシェル型樹脂粒子のシェル部樹脂が特定の(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含み、該コアシェル型樹脂粒子のコア部樹脂が特定のアクリルアミド系モノマー由来の構成単位を特定量含み、該コア部樹脂のガラス転移温度及び該コアシェル型樹脂粒子の酸価が特定の範囲である、樹脂粒子分散体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-84977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、ポリオレフィン樹脂フィルム基材に印刷された印刷物のテープ剥離試験による基材密着性が優れると記載されている。
しかしながら、特許文献1では、テープ剥離試験による基材密着性は改善するものの、特にポリオレフィン樹脂フィルム等の低吸水性印刷基材への印刷においては、指による擦りに対するインク塗膜の耐久性(以下、「指擦り耐久性」ともいう)が十分でないことが判明した。そのため、近年では、指擦り耐久性にも優れることが求められている。
本発明は、低吸水性印刷基材への印刷においても、指擦り耐久性に優れた印刷物を得ることができる、樹脂粒子分散体、該樹脂粒子分散体を含有する水系インク、及び該樹脂粒子分散体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、樹脂粒子が水系媒体に分散されてなる樹脂粒子分散体であって、該樹脂粒子が、炭素数6又は7のアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルである(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位と(メタ)アクリルアミド系モノマー由来の構成単位とを含む共重合体、及びカルボキシ基末端ブタジエン/アクリロニトリル共重合体を含有する樹脂粒子分散体により、上記課題を解決し得ることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の[1]~[3]を提供する。
[1]樹脂粒子が水系媒体に分散されてなる樹脂粒子分散体であって、
該樹脂粒子が、炭素数6又は7のアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルである(メタ)アクリル酸エステル(a-1)由来の構成単位と、(メタ)アクリルアミド系モノマー(a-2)由来の構成単位とを含む共重合体(A)、及びカルボキシ基末端ブタジエン/アクリロニトリル共重合体(B)を含有する、樹脂粒子分散体。
[2]前記[1]に記載の樹脂粒子分散体を含有する、水系インク。
[3]前記[1]に記載の樹脂粒子分散体の製造方法であって、
共重合体(A)及び共重合体(B)を含有する有機溶媒溶液に水系媒体を添加して転相乳化する工程を含む、樹脂粒子分散体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低吸水性印刷基材への印刷においても、指擦り耐久性に優れた印刷物を得ることができる、樹脂粒子分散体、該樹脂粒子分散体を含有する水系インク、及び該樹脂粒子分散体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[樹脂粒子分散体]
本発明の樹脂粒子分散体は、樹脂粒子が水系媒体に分散されてなる樹脂粒子分散体であって、該樹脂粒子が、炭素数6又は7のアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルである(メタ)アクリル酸エステル(a-1)由来の構成単位と、(メタ)アクリルアミド系モノマー(a-2)由来の構成単位とを含む共重合体(A)、及びカルボキシ基末端ブタジエン/アクリロニトリル共重合体(B)を含有する、樹脂粒子分散体である。
本発明において、「水系媒体」とは、樹脂粒子分散体に含まれる液体成分において、水が質量基準で最大の比率を占めているものであることを意味する。
また、「水系インク」とは、インクに含まれる液体成分において、水が質量基準で最大の比率を占めているものであることを意味する。
本発明において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を示し、「(メタ)アクリルアミド系モノマー」は、アクリルアミド構造を有するモノマー及び/又はメタクリルアミド構造を有するモノマーを示す。
また、「低吸水性」とは、低吸水性、非吸水性を含む概念であり、印刷基材と純水との接触時間100m秒における該印刷基材の吸水量が0g/m以上10g/m以下であることを意味する。また、「高吸水性」とは、印刷基材と純水との接触時間100m秒における該印刷基材の吸水量が10g/m超であることを意味する。
本発明の樹脂粒子分散体は、指擦り耐久性に優れた印刷物を得ることができる水系インクとして用いることができ、顔料等を更に含有させて印刷用、特にグラビア印刷用やインクジェット印刷用の水系インクとして用いることができる。また、本発明の樹脂粒子分散体に顔料を含有させない場合は、クリアインクとして用いることができる。
【0010】
本発明によれば、低吸水性印刷基材の印刷においても、指擦り耐久性に優れた印刷物を得ることができるという格別の効果を奏する。その理由は定かではないが、以下のように推察される。
本発明においては、共重合体(A)のモノマー成分として、(メタ)アクリル酸エステル(a-1)が炭素数6又は7のアルコール由来の基を含み、また、共重合体(B)はアクリロニトリル由来の構成単位を含むことにより、良好な分散性を有する樹脂粒子分散体とすることができる。
また、本発明に係る樹脂粒子は、アミド構造を有する(メタ)アクリルアミド系モノマー(a-2)由来の構成単位を含む共重合体(A)を含有する。アミド構造は大きな双極子モーメントを有することから、樹脂粒子間に強い凝集力(分子間相互作用)を発現させて、強い剥離力に抗することができるインク塗膜となるため、低吸水性印刷基材の物理的変形に対する抵抗性が向上し、指擦り耐久性を向上させることができると考えられる。
さらに、本発明に係る樹脂粒子は、カルボキシ基末端ブタジエン/アクリロニトリル共重合体(B)も含有する。共重合体(B)はアクリロニトリルがブタジエンと共重合した形態を有し、このアクリロニトリルも大きな双極子モーメントを有することから、(メタ)アクリルアミド系モノマー(a-2)由来の構成単位と同様に、指擦り耐久性の向上に寄与していると考えられるが、共重合体(A)の(メタ)アクリルアミド系モノマー(a-2)由来の構成単位との高い相互作用が発現していることも推定され、それらの相乗効果で、優れた指擦り耐久性を発現すると考えられる。さらに、共重合体(B)は、ブタジエン由来の構成単位が柔軟性を発現できる部位として作用することから良好な柔軟性も発現でき、インク塗膜に作用する応力をしなやかに受け流す効果を奏することで、指擦り耐久性を向上させることができると考えられる。
【0011】
<樹脂粒子>
本発明の樹脂粒子分散体に含まれる樹脂粒子は、炭素数6又は7のアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(a-1)(以下、単に「(メタ)アクリル酸エステル(a-1)」ともいう)由来の構成単位と、(メタ)アクリルアミド系モノマー(a-2)由来の構成単位とを含む共重合体(A)(以下、単に「共重合体(A)」ともいう)、及びカルボキシ基末端ブタジエン/アクリロニトリル共重合体(B)(以下、単に「共重合体(B)」ともいう)を含有する。
【0012】
〔共重合体(A)〕
本発明に係る共重合体(A)は、炭素数6又は7のアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(a-1)由来の構成単位と、(メタ)アクリルアミド系モノマー(a-2)由来の構成単位とを含み、好ましくは炭素数6又は7のアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(a-1)由来の構成単位と、(メタ)アクリルアミド系モノマー(a-2)由来の構成単位とを含むビニル系ポリマーである。
【0013】
((メタ)アクリル酸エステル(a-1))
(メタ)アクリル酸エステル(a-1)は、炭素数6又は7のアルコールと(メタ)アクリル酸とによって構成されるエステルであれば特に制限はない。
本発明において、(メタ)アクリル酸エステル(a-1)を構成する炭素数6又は7のアルコールは酸素や窒素のようなヘテロ原子を含む他の官能基を有していてもよい。前記アルコールがヘテロ原子を含む他の官能基を有する場合、ヘテロ原子を含む他の官能基が有する炭素も前記アルコールの炭素数に算入する。本発明においては、印刷物の指擦り耐久性の観点からは、前記アルコールはヘテロ原子を含む他の官能基を有さないことが好ましい。
【0014】
(メタ)アクリル酸エステル(a-1)を構成する炭素数6又は7のアルコールは、直鎖構造、分岐構造、及び環式構造のいずれの構造を有するものであってもよい。環式構造としては、脂環構造及び芳香環構造のいずれであってもよい。これらの中でも、前記アルコールは、得られる印刷物の指擦り耐久性を向上させる観点から、好ましくは環式構造を有する。
また、(メタ)アクリル酸エステル(a-1)を構成する炭素数6又は7のアルコールは、1級アルコール、2級アルコール、及び3級アルコールのいずれであってもよい。
これらの中でも、(メタ)アクリル酸エステル(a-1)を構成する炭素数6又は7のアルコールは、好ましくは1級アルコール及び2級アルコールからなる群から選ばれる1種以上である。
(メタ)アクリル酸エステル(a-1)を構成する炭素数6又は7のアルコールとしては、n-へキシル基、n-へプチル基、4-メチル-2-ペンチル基、シクロへキシル基、4-メチルシクロヘキシル基、ヘキサヒドロベンジル基、又はベンジル基を有するものが好ましく挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸エステル(a-1)を構成する炭素数6又は7のアルコールは、より好ましくはシクロへキシル基又はベンジル基を有するものである。
(メタ)アクリル酸エステル(a-1)は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
(メタ)アクリル酸エステル(a-1)としては、n-へキシル(メタ)アクリレート、n-へプチル(メタ)アクリレート、4-メチル-2-ペンチル(メタ)アクリレート、シクロへキシル(メタ)アクリレート、4-メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ヘキサヒドロベンジル(メタ)アクリレート、及びベンジル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられる。これらの中でも、得られる印刷物の指擦り耐久性を向上させる観点から、より好ましくはシクロへキシル(メタ)アクリレート及びベンジル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる1種以上である。
本発明に係る共重合体(A)中の(メタ)アクリル酸エステル(a-1)由来の構成単位の含有量は、共重合体(A)の共重合体(B)に対する親和性を高めて、樹脂粒子の良好な分散性を確保し、得られる印刷物の指擦り耐久性を向上させる観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは55質量%以上であり、そして、好ましくは75質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは67質量%以下である。
【0016】
((メタ)アクリルアミド系モノマー(a-2))
(メタ)アクリルアミド系モノマー(a-2)としては、特に制限はないが、印刷物の指擦り耐久性を向上させる観点から、該(メタ)アクリルアミド系モノマー(a-2)の溶解度パラメータ(以下、「SP値」ともいう)が、17(MPa)0.5以上23(MPa)0.5以下であるものが好ましい。(メタ)アクリルアミド系モノマー(a-2)のSP値が該範囲内であると、共重合体(A)に適度な極性を与え、共重合体(A)と共重合体(B)との相互作用により、共重合体(A)及び共重合体(B)を含有する樹脂粒子と樹脂フィルム、特にポリオレフィン樹脂フィルムとの相互作用を良好に発現させて、印刷物の指擦り耐久性を向上させることができると考えられる。
本発明において、溶解度パラメータ(SP値)は、Hansenの溶解度パラメータ(HSP値)であり、計算ソフトウェア「Hansen Solubility Parameter in Practice(HSPiP) Version 5.2.02」を用いて算出した値を用いる。本発明における溶解度パラメータの単位は、「(MPa)0.5」である。
【0017】
(メタ)アクリルアミド系モノマー(a-2)としては、N-tert-オクチルアクリルアミド(SP値:17.9)、N-ドデシルアクリルアミド(SP値:18.5)N-(2-エチルヘキシル)アクリルアミド(SP値:19.4)、N-n-オクチルアクリルアミド(SP値:19.8)、N-tert-ブチルアクリルアミド(SP値:20.2)、N-n-ヘプチルアクリルアミド(SP値:20.3)、N-ヘキシルアクリルアミド(SP値:20.6)、N-シクロヘキシルメタクリルアミド(SP値:20.6)等の直鎖、分岐又は環状のアルキル基を有するN-アルキル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジベンジルアクリルアミド(SP値:20.4)等の芳香族基含有(メタ)アクリルアミド;N-イソブトキシメチルアクリルアミド(SP値:20.8)等のN-アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド;ジアセトンアクリルアミド(SP値:22.0)等が挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリルアミド系モノマー(a-2)は、共重合体(A)と共重合体(B)との相互作用を向上させて、印刷物の指擦り耐久性を向上させる観点から、好ましくは直鎖、分岐又は環状のアルキル基を有するN-アルキル(メタ)アクリルアミド及びジアセトンアクリルアミドからなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは分岐のアルキル基を有するN-アルキル(メタ)アクリルアミド及びジアセトンアクリルアミドからなる群から選ばれる1種以上であり、更に好ましくはN-tert-オクチルアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、及びジアセトンアクリルアミドからなる群から選ばれる1種以上である。
(メタ)アクリルアミド系モノマー(a-2)は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
共重合体(A)中の(メタ)アクリルアミド系モノマー(a-2)由来の構成単位の含有量は、樹脂粒子を構成する共重合体(B)との親和性を高めて、樹脂粒子の良好な分散性を確保し、得られる印刷物の指擦り耐久性を向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上、更に好ましくは10質量%以上、より更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは23質量%以下である。
【0019】
(イオン性モノマー(a-3))
共重合体(A)は、樹脂粒子の良好な分散性を確保し、得られる印刷物の指擦り耐久性を向上させる観点から、(メタ)アクリル酸エステル(a-1)由来の構成単位及び(メタ)アクリルアミド系モノマー(a-2)由来の構成単位に加えて、イオン性モノマー(a-3)由来の構成単位を更に含むことが好ましく、共重合体(A)が(メタ)アクリル酸エステル(a-1)由来の構成単位、(メタ)アクリルアミド系モノマー(a-2)由来の構成単位、及びイオン性モノマー(a-3)由来の構成単位を有するビニル系ポリマーであることがより好ましい。
イオン性モノマー(a-3)としては、アニオン性モノマー及びカチオン性モノマーが挙げられ、アニオン性モノマーが好ましい。
アニオン性モノマーとしては、カルボン酸モノマー、スルホン酸モノマー、リン酸モノマー等が挙げられる。これらの中でも、イオン性モノマー(a-3)は、樹脂粒子の分散性を向上させる観点から、カルボン酸モノマーがより好ましい。
カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2-メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられるが、アクリル酸及びメタクリル酸からなる群から選ばれる1種以上が好ましく、アクリル酸がより好ましい。
【0020】
共重合体(A)中のイオン性モノマー(a-3)由来の構成単位の含有量は、樹脂粒子の良好な分散性を確保し、得られる印刷物の指擦り耐久性を向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは13質量%以上、より更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは32質量%以下である。
【0021】
共重合体(A)は、本発明の効果を損なわない範囲で、(メタ)アクリル酸エステル(a-1)、(メタ)アクリルアミド系モノマー(a-2)、及びイオン性モノマー(a-3)以外の他のモノマーを含んでもよい。かかる他のモノマーの具体例としては、炭素数6又は7のアルコール以外の他のアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル;スチレン等の付加重合性官能基を有する芳香族化合物;酢酸ビニル等のビニルエステル;SP値が17(MPa)0.5未満又は23(MPa)0.5を超える(メタ)アクリルアミド系モノマー等が挙げられる。
【0022】
共重合体(A)中の(メタ)アクリル酸エステル(a-1)、(メタ)アクリルアミド系モノマー(a-2)、及びイオン性モノマー(a-3)以外の他のモノマー由来の構成単位の含有量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、より更に好ましくは5質量%以下、より更に好ましくは1質量%以下であり、より更に好ましくは実質的に0質量%である。
ここで、「実質的に0質量%」とは、共重合体(A)を構成する(メタ)アクリル酸エステル(a-1)、(メタ)アクリルアミド系モノマー(a-2)、及びイオン性モノマー(a-3)に存在する不純物成分を含有し得ることを許容することを意味する。
【0023】
共重合体(A)の重量平均分子量は、樹脂粒子の良好な分散性を確保し、得られる印刷物の指擦り耐久性を向上させる観点から、好ましくは5,000以上、より好ましくは7,000以上、更に好ましくは9,000以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは50,000以下、より好ましくは30,000以下、更に好ましくは25,000以下、より更に好ましくは20,000以下である。
共重合体(A)の重量平均分子量は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0024】
共重合体(A)の酸価は、樹脂粒子の良好な分散性を確保し、得られる印刷物の指擦り耐久性を向上させる観点から、好ましくは100mgKOH/g以上、より好ましくは130mgKOH/g以上、更に好ましくは150mgKOH/g以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは360mgKOH/g以下、より好ましくは300mgKOH/g以下、更に好ましくは270mgKOH/g以下、より更に好ましくは250mgKOH/g以下である。
共重合体(A)の酸価は、構成するモノマーの質量比から算出することができる。
【0025】
共重合体(A)の製造方法は特に制限はなく、共重合体(A)を構成する原料モノマー(a)を公知の任意の重合方法により重合させて得ることができる。それらの中では、溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる有機溶媒に制限はないが、炭素数1以上3以下の脂肪族アルコール、炭素数3以上8以下のケトン類、エーテル類、エステル類等の極性有機溶媒が好ましい。極性有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトンが挙げられ、これらの中でもメチルエチルケトンがより好ましい。
重合の際には、重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることができる。重合開始剤としては、アゾ化合物が好ましく、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)がより好ましい。重合連鎖移動剤としては、メルカプタン類が好ましく、3-メルカプトプロピオン酸、2-メルカプトエタノールがより好ましい。
好ましい重合条件は、重合開始剤の種類等によって異なるが、重合温度は50℃以上90℃以下が好ましい。また、重合雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成した共重合体(A)を単離することができる。また、得られた共重合体(A)は、再沈澱、膜分
離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去することができる。
共重合体(A)は、樹脂粒子分散体の生産性を向上させる観点から、重合反応に用いた溶媒を除去せずに、そのまま共重合体(A)の溶液として用いることが好ましい。
【0026】
〔カルボキシ基末端ブタジエン/アクリロニトリル共重合体(B)〕
本発明の樹脂粒子分散体に含まれる樹脂粒子は、共重合体(A)と共に、カルボキシ基末端ブタジエン/アクリロニトリル共重合体(B)(共重合体(B))を含有する。
共重合体(B)は、ブタジエンとアクリロニトリルとの共重合体であり、その分子鎖の末端にカルボキシ基を有するものであれば特に制限はない。共重合体(B)は、前述のとおり、アクリロニトリル由来の大きな双極子モーメントとブタジエン由来の柔軟性とによって、本発明の樹脂粒子分散体の指擦り耐久性の向上に寄与していると考えられる。
【0027】
共重合体(B)中のアクリロニトリル由来の構成単位の含有量は、特に制限はないが、樹脂粒子の良好な分散性を確保し、得られる印刷物の指擦り耐久性を向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、より更に好ましくは27質量%以下である。
【0028】
共重合体(B)の数平均分子量は、樹脂粒子の良好な分散性を確保し、得られる印刷物の指擦り耐久性を向上させる観点から、好ましくは2,000以上、より好ましくは2,500以上、更に好ましくは3,000以上であり、そして、好ましくは5,000以下、より好ましくは4,000以下である。
【0029】
共重合体(B)は、その分子鎖の末端にカルボキシ基を有する。共重合体(B)のカルボキシ基は、共重合体(A)との相互作用による樹脂粒子の分散性の向上に寄与していると考えられる。
共重合体(B)の酸価は、樹脂粒子の良好な分散性を確保し、得られる印刷物の指擦り耐久性を向上させる観点から、好ましくは20mgKOH/g以上、より好ましくは25mgKOH/g以上、更に好ましくは28mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは40mgKOH/g以下、より好ましくは38mgKOH/g以下、更に好ましくは35mgKOH/g以下である。
【0030】
共重合体(B)は公知の方法で製造してもよいし、市販品を用いてもよい。
共重合体(B)の市販品としては、Huntsman社製の「Hypro 1300X13 CTBN」、「Hypro 1300X8 CTBN」、「Hypro 1300X31 CTBN」、「Hypro 1300X9 CTBNX」、「Hypro 1300X18 CTBNX」等が挙げられる。
【0031】
本発明の樹脂粒子分散体に含まれる樹脂粒子は、共重合体(A)と共重合体(B)とを一粒子内に含有する。
樹脂粒子中の共重合体(A)及び共重合体(B)の合計含有量100質量部に対する共重合体(B)の含有量は、本発明の効果を損なわない限り任意であるが、樹脂粒子の良好な分散性を確保し、得られる印刷物の指擦り耐久性を向上させる観点から、好ましくは5質量部以上、より好ましくは7質量部以上、更に好ましくは15質量部以上、より更に好ましくは20質量部以上、より更に好ましくは25質量部以上であり、そして、好ましくは60質量部以下、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは45質量部以下、より更に好ましくは35質量部以下である。
【0032】
本発明の樹脂粒子分散体に含まれる樹脂粒子は、本発明の効果を損なわない限り、共重合体(A)及び共重合体(B)以外の他の成分を含有していてもよい。かかる他の成分の具体例としては、共重合体(A)及び共重合体(B)以外の他のポリマー、水系媒体との親和性が低い有機溶媒が挙げられる。かかる有機溶媒は、樹脂粒子に含まれた状態で水系媒体に分散しているものが挙げられる。
本発明の樹脂粒子分散体に含まれる樹脂粒子において、共重合体(A)と共重合体(B)の合計含有量に対する共重合体(A)と共重合体(B)以外の成分の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは1質量%以下、より更に好ましくは実質的に0質量%である。
ここで、「実質的に0質量%」とは、共重合体(A)及び共重合体(B)に存在する、意図して用いているものではない成分、いわゆる不純物成分を含有することを許容することを意味する。
本発明の樹脂粒子分散体に含まれる樹脂粒子中の共重合体(A)及び共重合体(B)の合計含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは99質量%以上、より更に好ましくは実質的に100質量%である。
ここで、「実質的に100質量%」とは、共重合体(A)及び共重合体(B)に含まれる意図して用いているものではない成分、いわゆる不純物成分を含有することを許容することを意味する。
【0033】
本発明の樹脂粒子分散体に含まれる樹脂粒子中の(メタ)アクリルアミド系モノマー(a-2)由来の構成単位の含有量は、樹脂粒子の良好な分散性を確保し、得られる印刷物の指擦り耐久性を向上させる観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは8質量%以上、より更に好ましくは10質量%以上、より更に好ましくは13質量%以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下、更に好ましくは16質量%以下、より更に好ましくは15質量%以下である。
【0034】
本発明の樹脂粒子分散体に含まれる樹脂粒子におけるアクリロニトリル由来の構成単位の含有量は、樹脂粒子の良好な分散性を確保し、得られる印刷物の指擦り耐久性を向上させる観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上、より更に好ましくは5質量%以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは17質量%以下、更に好ましくは12質量%以下、より更に好ましくは11質量%以下、より更に好ましくは9質量%以下である。
【0035】
本発明の樹脂粒子分散体に含まれる樹脂粒子の酸価は、樹脂粒子の良好な分散性を確保し、得られる印刷物の指擦り耐久性を向上させる観点から、好ましくは50mgKOH/g以上、より好ましくは70mgKOH/g以上、更に好ましくは90mgKOH/g以上、より更に好ましくは100mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは240mgKOH/g以下、より好ましくは200mgKOH/g以下、更に好ましくは180mgKOH/g以下、より更に好ましくは160mgKOH/g以下、より更に好ましくは140mgKOH/g以下である。
本発明の樹脂粒子分散体に含まれる樹脂粒子の酸価は、共重合体(A)の酸価及び共重合体(B)の酸価、並びに共重合体(A)及び共重合体(B)の比率によって算出される。
【0036】
本発明の樹脂粒子分散体中の樹脂粒子の平均粒子径は、得られる印刷物の指擦り耐久性を向上させる観点から、好ましくは5nm以上、より好ましくは8nm以上、更に好ましくは10nm以上、より更に好ましくは15nm以上、より更に好ましくは20nm以上であり、そして、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、更に好ましくは40nm以下、より更に好ましくは35nm以下、より更に好ましくは32nm以下である。
樹脂粒子分散体中の樹脂粒子の平均粒子径は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0037】
本発明の樹脂粒子分散体の水系媒体は、水を質量基準で最大の比率で含むものであるが、本発明の効果を損なわない限り、水以外の他の成分を有していてもよい。かかる他の成分としては、水と任意の割合で混和できる水溶性有機溶媒が挙げられる。
また、本発明の樹脂粒子分散体は、樹脂粒子及び水系媒体を含有するものであるが、樹脂粒子及び水系媒体以外の他の成分を含有してもよい。かかる他の成分の具体例としては、防腐剤、保湿剤、粘度調整剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0038】
[樹脂粒子分散体の製造方法]
本発明の樹脂粒子分散体は、共重合体(A)と共重合体(B)とを一粒子内に含有する樹脂粒子を水系媒体に分散させたものであるが、本発明の樹脂粒子分散体の製造方法の具体例としては、共重合体(A)及び共重合体(B)を水系媒体の存在下で混合して分散処理する方法が好ましく挙げられる。また、共重合体(A)及び共重合体(B)を混合して分散処理する際には、共重合体(A)及び共重合体(B)の混合に有機溶媒を用い、分散処理後に該有機溶媒を留去する方法で製造することがより好ましい。また、共重合体(A)及び共重合体(B)の混合は、撹拌だけで行ってもよく、超音波ホモジナイザ、高圧ホモジナイザ等の分散機を用いて行うこともできる。
これらの中でも、操作の簡便性の観点から、共重合体(A)及び共重合体(B)を、共重合体(A)及び共重合体(B)をいずれも溶解する有機溶媒に溶解させて共重合体(A)及び共重合体(B)を含有する有機溶媒溶液を調製し、該有機溶媒溶液に水系媒体を添加して転相乳化する方法、又は該有機溶媒溶液を水系媒体に添加して転相乳化する方法が更に好ましく、該有機溶媒溶液に水系媒体を添加して転相乳化する方法がより更に好ましい。
【0039】
共重合体(A)及び共重合体(B)を溶解させる有機溶媒としては、共重合体(A)及び共重合体(B)を溶解し、乳化物からの除去が容易である観点から、アセトン、メチルエチルケトン等の炭素数1以上3以下のアルキル基を有するジアルキルケトンが好ましく、メチルエチルケトンがより好ましい。
有機溶媒に溶解する前に、共重合体(A)及び共重合体(B)を予め混合した後、有機溶媒に添加してもよいが、共重合体(A)及び共重合体(B)をそれぞれ有機溶媒に溶解させた後、共重合体(A)の有機溶媒溶液と共重合体(B)の有機溶媒溶液とを混合してもよい。
有機溶媒と共重合体(A)及び共重合体(B)との質量比〔有機溶媒/(共重合体(A)及び共重合体(B)〕は、樹脂を溶解し水系媒体への転相を容易にする観点、樹脂粒子分散体の分散性を向上させる観点から、好ましくは30/100以上、より好ましくは40/100以上、更に好ましくは50/100以上であり、そして、好ましくは500/100以下、より好ましくは300/100以下、更に好ましくは200/100以下、より更に好ましくは100/100以下である。
共重合体(A)及び共重合体(B)の有機溶媒への溶解操作、及び後述する中和工程における塩基性化合物の添加は、通常、有機溶媒の沸点以下の温度で行う。
【0040】
水系媒体としては、水を水が質量基準で最大の比率を占めているものが好ましい。水以外の成分としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等の炭素数1以上5以下の脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の炭素数1以上3以下のアルキル基を有するジアルキルケトン;テトラヒドロフラン等の環状エーテル等の水に溶解する有機溶媒が挙げられる。
水系媒体中の水の含有量は、樹脂粒子の良好な分散性を確保する観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、より更に好ましくは100質量%である。水は、イオン交換水又は蒸留水が好ましい。
共重合体(A)及び共重合体(B)を含有する有機溶媒溶液に水系媒体を添加する際の温度は、樹脂粒子分散体の良好な分散性を確保する観点から、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、更に好ましくは25℃以上であり、そして、好ましくは80℃以下、より好ましくは75℃以下である。
水系媒体の添加速度は、樹脂粒子の良好な分散性を確保する観点から、転相が終了するまでは、樹脂粒子を構成する共重合体(A)及び共重合体(B)の合計量100質量部に対して、好ましくは0.5質量部/min以上、より好ましくは1質量部/min以上、更に好ましくは3質量部/min以上、より更に好ましくは5質量部/min以上であり、そして、好ましくは100質量部/min以下、より好ましくは50質量部/min以下、更に好ましくは30質量部/min以下である。転相後、樹脂粒子が得られた後の水系媒体の添加速度には制限はない。
水系媒体の添加量は、樹脂粒子分散体の生産性を向上させる観点から、樹脂粒子を構成する共重合体(A)及び共重合体(B)の合計量100質量部に対して、好ましくは100質量部以上、より好ましくは300質量部以上、更に好ましくは500質量部以上であり、そして、好ましくは1500質量部以下、より好ましくは1000質量部以下、更に好ましくは700質量部以下である。
【0041】
本発明の樹脂粒子分散体の製造方法においては、共重合体(B)に含まれるカルボキシ基の一部、及び共重合体(A)がイオン性モノマー(a-3)由来の構成単位を含み、該イオン性モノマー(a-3)のイオン性基がアニオン性基である場合には該アニオン性基の一部を中和する中和工程を含むことが好ましい。すなわち、樹脂粒子分散体は更に中和剤を含有することが好ましい。
共重合体(A)及び共重合体(B)の中和工程は、中和剤として、共重合体(A)に含まれるイオン性基と共重合体(B)に含まれるカルボキシ基と中和反応し得る塩基性化合物を用いて行うことが好ましい。塩基性化合物としては、アルカリ金属の水酸化物及び水溶性アミンからなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
【0042】
本発明の樹脂粒子は、好ましくは、炭素数6又は7のアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルである(メタ)アクリル酸エステル(a-1)由来の構成単位と、(メタ)アクリルアミド系モノマー(a-2)由来の構成単位とを含む共重合体(A)、及びカルボキシ基末端ブタジエンアクリロニトリル共重合体(B)を含有し、該共重合体(B)のカルボキシ基の一部がカルボキシラートアニオンとなっている樹脂粒子であり、より好ましくは、炭素数6又は7のアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルである(メタ)アクリル酸エステル(a-1)由来の構成単位と、(メタ)アクリルアミド系モノマー(a-2)由来の構成単位と、イオン性モノマー(a-3)由来の構成単位とを含む共重合体(A)、及びカルボキシ基末端ブタジエンアクリロニトリル共重合体(B)を含有し、該イオン性モノマー(a-3)由来の構成単位のイオン性基の一部と共重合体(B)のカルボキシ基の一部とがそれぞれカルボキシラートアニオンとなっている樹脂粒子である。
【0043】
本発明の樹脂粒子分散体中の共重合体(A)のイオン性基のモル数及び共重合体(B)のカルボキシ基のモル数の合計モル数に対する、中和剤のモル数の比、すなわち樹脂粒子の中和度は、樹脂粒子の良好な分散性を確保し、得られる印刷物の指擦り耐久性を向上させる観点から、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは70モル%以上、より更に好ましくは80モル%以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは200モル%以下、より好ましくは150モル%以下、更に好ましくは140モル%以下、より更に好ましくは130モル%以下である。
なお、本発明の樹脂粒子分散体において中和剤は、「樹脂粒子分散体における樹脂粒子以外の成分」にも、「樹脂粒子分散体の水系媒体を構成する成分」にも該当しないものとして扱う。
【0044】
本発明の樹脂粒子分散体の固形分濃度は、得られる印刷物の指擦り耐久性を向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、樹脂粒子の分散性の観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。固形分濃度は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0045】
[水系インク]
本発明の樹脂粒子分散体は、印刷用インクに配合して、水系インクを構成する成分となる。すなわち、本発明の水系インク(以下、「本発明のインク」又は「水系インク」ともいう)は、本発明の樹脂粒子分散体を含有する。
本発明のインク中の樹脂粒子分散体の含有量は、得られる印刷物の指擦り耐久性を向上させる観点から、固形分換算で、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上、より更に好ましくは4質量%以上、より更に好ましくは5質量%以上、より更に好ましくは6質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、より更に好ましくは9質量%以下、より更に好ましくは8質量%以下である。
【0046】
<顔料>
本発明のインクは、顔料を含有することができる。顔料の種類は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物等が挙げられる。黒色インクにおいては、顔料としてカーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。白色インクにおいては、顔料として酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム等の金属酸化物等が挙げられる。これらの中でも、酸化チタンが好ましい。
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。有彩色インクにおいては、有機顔料が好ましい。色相は特に限定されず、イエロー、マゼンタ、シアン、レッド、ブルー、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
顔料は、1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0047】
本発明に用いられる顔料は、自己分散型顔料及び高分子分散剤で分散された顔料からなる群から選ばれる1種以上の顔料の形態で用いることが好ましい。これらの中でも、高分子分散剤で分散された顔料が好ましい。すなわち、本発明のインクは、好ましくは高分子分散剤で分散された顔料を含有する。
自己分散型顔料とは、分散剤を用いずに分散されてなる顔料である。自己分散型顔料としては、親水性官能基(カルボキシ基、スルホン酸基等のアニオン性親水基、又は第4級アンモニウム基等のカチオン性親水基)の1種以上を直接、又は炭素数1以上12以下のアルカンジイル基等の他の原子団を介して顔料の表面に結合することで、界面活性剤、高分子分散剤等の分散剤を用いることなく水系媒体に分散可能である顔料が挙げられる。
【0048】
本発明のインク中の顔料の含有量は、得られる印刷物の画像濃度を確保する観点から、好ましくは2質量%以上、より好ましくは4質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、そして、水系インクの粘度を低下させて、連続吐出性を向上させ、かつ色移りや印刷媒体の変形がない良好な印刷物を得る観点、並びに得られる印刷物の指擦り耐久性を向上させる観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下、より更に好ましくは10質量%以下である。
【0049】
<高分子分散剤>
高分子分散剤としては、国際公開2017/138438号の段落[0015]及び[0016]に記載のものを用いることが好ましく、ビニル単量体(ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物)の付加重合により得られるビニル系ポリマーがより好ましい。
高分子分散剤で分散された顔料としては、水系インクの保存安定性を向上させる観点、並びに得られる印刷物の指擦り耐久性を向上させる観点から、該高分子分散剤が架橋剤で架橋されたもの、すなわち、架橋構造を有する高分子分散剤(以下、「架橋高分子分散剤」ともいう)で分散された顔料が好ましい。すなわち、本発明のインクは、架橋高分子分散剤で分散された顔料を含有するものであることがより好ましい。
架橋剤としては、高分子分散剤が有する官能基と反応できる官能基を2以上有する化合物が挙げられる。例えば、高分子分散剤がカルボキシ基を有する場合、架橋剤としては、多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物が好ましく挙げられる。
本発明のインク中の高分子分散剤(架橋高分子分散剤)の含有量は、得られる印刷物の指擦り耐久性を向上させる観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは2.5質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
【0050】
<有機溶媒>
本発明のインクは、有機溶媒を含有することが好ましい。有機溶媒としては、国際公開2017/138438号の段落[0020]~[0023]に記載の有機溶媒を用いることが好ましく、多価アルコール及びグリコールエーテルからなる群から選ばれる1種以上がより好ましい。グリコールエーテルとしては、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、アルキレングリコールジアルキルエーテル等が好ましく挙げられる。
有機溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明のインク中の有機溶媒の含有量は、水系インクの連続吐出性を向上させる観点から、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上であり、そして、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。
【0051】
<界面活性剤>
本発明のインクは、界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤としては、国際公開2017/138438号の段落[0024]~[0026]に記載の界面活性剤が挙げられる。これらの中でも、アセチレングリコール系界面活性剤及びポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤からなる群から選ばれる1種以上が好ましく、アセチレングリコール系界面活性剤とポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤とを併用することがより好ましい。
界面活性剤は、1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
アセチレングリコール系界面活性剤としては、日信化学工業株式会社及びAir Products & Chemicals社製のサーフィノールシリーズが挙げられる。
ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤の具体例としては、信越化学工業株式会社製のKFシリーズ、日信化学工業株式会社製のシルフェイスSAG005、ビックケミー・ジャパン株式会社製のBYK-348等が挙げられる。
本発明のインク中の界面活性剤の含有量は、良好な指擦り耐久性を得る観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であり、そして、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下、更に好ましくは2質量%以下である。
【0052】
本発明のインク中の水の含有量は、良好な指擦り耐久性を得る観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは45質量%以上、より更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
【0053】
本発明のインクは、本発明の樹脂粒子分散体に、必要に応じて、顔料、高分子分散剤、有機溶媒、界面活性剤、水等を加えて製造することができる。顔料は、高分子分散剤で水系媒体中に分散された顔料の分散体(以下、「顔料分散体」ともいう)として用いることが好ましい。ここで、「水系媒体」とは、顔料分散体に含まれる液体成分において、水が質量基準で最大の比率を占めているものであることを意味する。
本発明のインクの製造においては、任意の公知の製造方法、製造装置を用いることができる。
【0054】
(印刷方法)
本発明の水系インクを用いる印刷方法は、該水系インクを用いて印刷基材に印刷する方法である。
本発明の水系インクを用いる印刷方法において用いられる印刷基材としては特に制限はなく、低吸水性印刷基材及び高吸水性印刷基材のいずれも用いることができる。印刷基材としては、普通紙、フォーム用紙、コート紙、写真用紙、樹脂フィルム等が挙げられる。これらの中でも、指擦り耐久性の観点から、低吸水性印刷基材が好ましい。
低吸水性印刷基材としては、コート紙及び樹脂フィルムからなる群から選ばれる1種以上が好ましく、樹脂フィルムがより好ましい。樹脂フィルムは、好ましくはポリオレフィン樹脂フィルム、ポリエステル樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル樹脂フィルム、及びナイロン樹脂フィルムからなる群から選ばれる1種以上、より好ましくはポリオレフィン樹脂フィルムである。ポリオレフィン樹脂フィルムとしてはポリプロピレン樹脂フィルムが好ましい。これらのフィルムは、二軸延伸フィルム、一軸延伸フィルム、無延伸フィルムであってもよい。また、樹脂フィルムは、コロナ処理されたものが好ましい。これらの中では、印刷基材は、コロナ放電処理等の表面処理がされてなる二軸延伸ポリプロピレン樹脂フィルムがより好ましい。
【0055】
本発明の水系インクを用いる印刷方法としては、好ましくはグラビア印刷方法及びインクジェット印刷方法からなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくはインクジェット印刷方法である。
前記インクジェット印刷方法は、水系インクをピエゾ方式のインクジェット記録装置で印刷基材に印刷することが好ましい。ピエゾ方式は、印刷時にインクの加熱や揮発が少なく、水系インクの組成を損なうことなく印刷することができる。
【実施例0056】
以下の製造例、実施例及び比較例において、「部」は特記しない限り「質量部」である。なお、各種物性の測定は、以下の方法で行った。
【0057】
(1)共重合体(A)の重量平均分子量の測定
ゲル浸透クロマトグラフィー法により求めた。測定条件を下記に示す。
GPC装置:東ソー株式会社製「HLC-8320GPC」
カラム:東ソー株式会社製の「TSKgel SuperAWM-H」、「TSKgel SuperAW3000」、及び「TSKgel guardcolumn Super AW-H」
溶離液:N,N-ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液
流速:0.5mL/min
標準物質:分子量既知の単分散ポリスチレンキット「PStQuick B(F-550、F-80、F-10、F-1、A-1000)」、及び「PStQuick C(F-288、F-40、F-4、A-5000、A-500)」(以上、東ソー株式会社製)
測定試料:ガラスバイアル中に共重合体(A)0.1gを前記溶離液10mLと混合し、25℃で10時間、マグネチックスターラーで撹拌し、シリンジフィルター「DISMIC-13HP」(メンブレンフィルター材質:親水性PTFE、孔径0.2μm、アドバンテック株式会社製)で濾過したものを用いた。
【0058】
(2)樹脂粒子分散体中の樹脂粒子の平均粒子径の測定
レーザー粒子解析システム「ELS-8000」(大塚電子株式会社)を用いてキュムラント解析を行い測定した。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力し、得られたキュムラント平均粒子径を、樹脂粒子の平均粒子径とした。測定試料には、測定する樹脂粒子の濃度が約5×10-3質量%になるよう水で希釈した分散液を用いた。
【0059】
(3)樹脂粒子分散体の固形分濃度の測定
赤外線水分計(株式会社ケツト科学研究所製、商品名:FD-230)を用いて、樹脂粒子分散体5gを乾燥温度150℃、測定モード96(監視時間2.5分/変動幅0.05%)の条件にて乾燥させ、樹脂粒子分散体の水分(質量%)を測定した。固形分濃度は下記の式に従って算出した。
固形分濃度(質量%)=100-樹脂粒分散体の水分(質量%)
【0060】
(4)共重合体(A)の溶液及び顔料分散体の固形分濃度の測定
30mLのポリプロピレン製容器(φ=40mm、高さ=30mm)にデシケーター中で恒量化した硫酸ナトリウム約10gを量り取り、容器と硫酸ナトリウムを合わせた質量(質量M1とする)を精秤した。そこへサンプル約1gを添加してよく混合した後に容器と硫酸ナトリウムとサンプルとを合わせた質量(質量M2とする)を精秤し、105℃で2時間維持して揮発分を除去し、更にデシケーター内で15分間放置した後に質量(質量M3とする)を精秤した。揮発分除去後のサンプルの質量を固形分として、固形分濃度を下記の式に従って算出した。
固形分濃度(質量%)=[(質量M3-質量M1)/(質量M2-質量M1)]×100
【0061】
(共重合体(A)の製造)
製造例1-1
シクロヘキシルメタクリレート59.4部(構成するアルコールの炭素数6、富士フイルム和光純薬株式会社製 試薬)、N-tert-ブチルアクリルアミド(三菱ケミカル株式会社製、SP値:20.2(MPa)0.5)20.0部、及びアクリル酸20.6部を混合し、モノマー混合液を調製した。
反応容器内に、メチルエチルケトン(富士フイルム和光純薬株式会社製 試薬、以下「MEK」と表記する)5部、重合連鎖移動剤として2-メルカプトエタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製 試薬)2.5部、前記モノマー混合液の10質量%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
別途、滴下ロートに、前記モノマー混合液の残り(前記モノマー混合液の90質量%)、前記重合連鎖移動剤2.25部、MEK75部、及びアゾ系ラジカル重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(富士フイルム和光純薬株式会社製)2.0部の混合液を入れた。
次いで、窒素雰囲気下、反応容器内の混合液を撹拌しながら77℃まで昇温し、滴下ロート中の混合液を5時間かけて滴下した。滴下終了後、前記重合開始剤0.5部をMEK5部に溶解させた溶液を加え、さらに77℃で2時間反応させ、最後に固形分濃度40質量%となるようにMEKを加え、共重合体A1のMEK溶液を得た。共重合体A1の酸価は160mgKOH/g、重量平均分子量は11,000であった。
【0062】
製造例1-2
製造例1-1において滴下ロートに入れるアゾ系ラジカル重合開始剤を2.0部から2.5部に変更し、反応容器の昇温温度を77℃から80℃に変更し、滴下ロート中の混合液滴下終了後に2時間反応させる温度を77℃から82℃に変更した以外は、製造例1-1と同様の手順で、共重合体A2のMEK溶液を得た。共重合体A2の酸価は160mgKOH/g、重量平均分子量は13,000であった。
【0063】
製造例1-3~1-9及び比較製造例1-1~1-4
製造例1-1において、原料モノマー(a)を表1に記載の種類及び量とした以外は、製造例1-1と同様の手順で、共重合体A3~A9及びAC1~AC4のMEK溶液をそれぞれ得た。各共重合体の酸価及び重量平均分子量を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
(樹脂粒子分散体の製造)
実施例1-1
1000mLセパラブルフラスコに、共重合体(A)として共重合体A1の40質量%MEK溶液150部を仕込み、室温下、撹拌羽根で200rpmで撹拌を行いながら、共重合体(B)として予め調製したカルボキシ基末端ブタジエン/アクリロニトリル共重合体B1(Huntsman社製「Hypro 1300X13 CTBN」)の40質量%MEK溶液を64.3部加え、更に5Nの水酸化ナトリウム水溶液40.6部(水酸化ナトリウム6.86部)を滴下した後、イオン交換水495.1部を10mL/minで滴下した。その後、エバポレーターにて脱溶剤して転相乳化し、更に脱水を行い、固形分濃度21質量%の樹脂粒子分散体EM1を得た。樹脂粒子分散体中の樹脂粒子の平均粒子径を表2に示す。
【0066】
実施例1-2~1-11及び比較例1-1
実施例1-1において、共重合体(A)、共重合体(B)、及び水酸化ナトリウムを表2に記載の種類又は量となるように変更し、全体の量が750部になるようにイオン交換水の量を調整した以外は、実施例1-1と同様の手順で、樹脂粒子分散体EM2~EM11及びEMC1をそれぞれ得た。樹脂粒子分散体中の樹脂粒子の平均粒子径を表2に示す。
【0067】
比較例1-2~1-5
実施例1-1において、共重合体(A)、共重合体(B)、及び水酸化ナトリウムを表2に記載の種類又は量となるように変更し、全体の量が750部になるようにイオン交換水の量を調整した以外は、実施例1-1と同様の手順で行い、樹脂粒子分散体EMC2~EMC5を得ようとした。しかしながら、エバポレーターにて脱溶剤及び脱水する操作において凝集、分相が生じ、樹脂粒子分散体を得ることができなかった。そのため、比較例1-2~1-5では、樹脂粒子分散体中の樹脂粒子の平均粒子径の測定は行わなかった。
【0068】
表2中の共重合体(B)は以下のとおりである。
共重合体B1:Huntsman社製「Hypro 1300X13 CTBN」(カルボキシ基末端ブタジエン/アクリロニトリル共重合体、Mn:3,150(カタログ値))
共重合体B2:Huntsman社製「Hypro 1300X8 CTBN」(カルボキシ基末端ブタジエン/アクリロニトリル共重合体、Mn:3,550(カタログ値))
共重合体B3:Huntsman社製「Hypro 1300X31 CTBN」(カルボキシ基末端ブタジエン/アクリロニトリル共重合体、Mn:3,800(カタログ値))
重合体BC1:Huntsman社製「Hypro 2000X162 CTB」(カルボキシ基末端ブタジエン重合体、Mn:4,200(カタログ値))
【0069】
【表2】
【0070】
比較例1-2~1-4は、(メタ)アクリル酸エステル(a-1)を構成するアルコールの炭素数が6又は7でなかったため、樹脂粒子分散体を得ることができなかった。比較例1-5は、カルボキシ基末端ブタジエン/アクリロニトリル共重合体(B)に代えて、アクリロニトリル由来の構成単位を含まないカルボキシ基末端ブタジエン重合体であったため、樹脂粒子分散体を得ることができなかった。
実施例1-1~1-11及び比較例1-1の樹脂粒子分散体を用いて水系インクを調製し、後述する指擦り耐久性の評価を行った。
【0071】
(顔料分散体の製造)
製造例2-1
高分子分散剤としてスチレン/アクリル酸共重合体(BASF社製の「ジョンクリル(JONCRYL)690」、Mw16,500、酸価240mgKOH/g)514.3部を5N水酸化ナトリウム水溶液(固形分濃度16.9質量%)262.4部(高分子分散剤の中和度50モル%)及びイオン交換水4760部の混合液に加え、200rpmで撹拌しながら90℃で8時間加熱した後、シアン顔料(P.B.15:3、DIC株式会社製、FASTOGEN BLUE TGR-SD)1200部を加え、プライミクス株式会社製のホモディスパーを用い、15℃、6400rpmで1時間撹拌し、混合液を得た。
次いで、Microfluidics社製のマイクロフルイダイザーを用いて、15℃、圧力150MPaで分散処理を10パス行い、シアン顔料が高分子分散剤で分散されてなる顔料分散体を得た。
次いで、架橋剤としてトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製「EX―321」、エポキシ当量140)123.4部(架橋度40モル%)を添加して混合し、200rpmで撹拌しながら90℃で90分間加熱を行った。25℃に冷却した後、遠心分離し、5μmのアセチルセルロース製メンブランフィルターでろ過し、イオン交換水を加えて、固形分濃度25質量%のシアン顔料が架橋高分子分散剤で分散されてなる顔料分散体P1を得た。
【0072】
(水系インクの製造)
実施例2-1
実施例1-1の樹脂粒子分散体EM1 33.3部(樹脂粒子の含有量:7部)、及び、製造例2-1で得た顔料分散体P1 30.7部(顔料の含有量:5部、架橋高分子分散剤の含有量:2.7部)、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(富士フイルム和光純薬株式会社製 試薬)9部、1,2-プロパンジオール(富士フイルム和光純薬株式会社製 試薬)19部、アセチレングリコール系界面活性剤「サーフィノール440」(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエチレンオキシド(3.5モル)付加物、日信化学工業株式会社製)1部、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤「KF6011」(PEG-11メチルエーテルジメチコン、信越化学工業株式会社製)1部、水系インクの全量が100部となるようにイオン交換水6部を混合し、水系インク1を得た。
(印刷物の作製)
温度25±1℃、相対湿度30±5%の環境で、インクジェットヘッド「KJ4B-HD06MHG-STDV」(京セラ株式会社製、ピエゾ式)を装備した印刷評価装置(株式会社トライテック製)に水系インク1を充填し、ヘッド電圧26V、周波数10kHz、吐出液適量12pL、ヘッド温度32℃、解像度600dpi、吐出前フラッシング回数200発、負圧-4.0kPaを設定し、印刷基材の長手方向と搬送方向が同じになる向きに、印刷基材としてコロナ放電処理OPPフィルム(FOR-AQ、#20(厚み20μm))、フタムラ化学株式会社製)を搬送台に減圧で固定した。前記印刷評価装置に印刷命令を転送し、Duty100%のベタ画像(4cm×4cm)を印刷し、その後、60℃で1時間乾燥して印刷物を得た。
【0073】
実施例2-2~2-11及び比較例2-1
実施例2-1において、樹脂粒子分散体EM1を樹脂粒子分散体EM2~EM11及びEMC1にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様の手順で、水系インク2~11及びC1を得た後、各印刷物を得た。
【0074】
[評価]
実施例及び比較例で得られた各印刷物を用いて、以下の方法により、指擦り耐久性の評価を行った。
【0075】
〔指擦り耐久性(耐擦過試験)〕
25℃の環境下において、実施例及び比較例で得られた各印刷物のDuty100%のベタ画像部を親指末節部(指紋部)で押さえ、更に該ベタ画像部のフィルム裏側部分(画像が印刷されていない面)を人差し指末節部(指紋部)で挟みこんでつまみ、インク塗膜を剥ぎ取るようにフィンガースナップ(指鳴らし)の要領で印刷物に対して強く押圧しながら親指末節部(指紋部)と人差し指末節部(指紋部)とをずらして指で擦り、インク塗膜の耐擦過試験を行った。インク塗膜の剥離の有無を観察し、以下の基準で指擦り耐久性を評価した。結果を表3に示す。
A:インク塗膜の剥離が全くない。
B:インク塗膜の剥離は殆どないか、細いひっかき傷状の剥離がある(剥離面積の割合が10%未満である)。
C:インク塗膜の剥離がある(剥離面積の割合が10%以上である)。
上記の評価でBであれば印刷物のインク塗膜があまり擦過されない用途において実用に供することができ、上記の評価でAであれば、印刷物のインク塗膜が擦過される用途においても実用に供することができる。
【0076】
【表3】
【0077】
表3から、実施例2-1~2-11の水系インクは、比較例2-1の水系インクに比べて、指擦り耐久性に優れることが分かる。