IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ KeePer技研株式会社の特許一覧

特開2024-62846水回り保護剤、下塗剤、水回り設備の塗装方法及び再塗装方法
<>
  • 特開-水回り保護剤、下塗剤、水回り設備の塗装方法及び再塗装方法 図1
  • 特開-水回り保護剤、下塗剤、水回り設備の塗装方法及び再塗装方法 図2
  • 特開-水回り保護剤、下塗剤、水回り設備の塗装方法及び再塗装方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062846
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】水回り保護剤、下塗剤、水回り設備の塗装方法及び再塗装方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20240501BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20240501BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20240501BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240501BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20240501BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240501BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
C09D183/04
E04G23/02 C
C09D5/00 D
C09D7/63
B05D1/36 Z
B05D7/24 302Y
B05D5/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170956
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】397016828
【氏名又は名称】KeePer技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188765
【弁理士】
【氏名又は名称】赤座 泰輔
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100163164
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 敏之
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】谷 好通
【テーマコード(参考)】
2E176
4D075
4J038
【Fターム(参考)】
2E176BB04
4D075AA01
4D075AC52
4D075AC57
4D075AE03
4D075BB02X
4D075BB20X
4D075BB65X
4D075BB68X
4D075BB79X
4D075CA03
4D075CA13
4D075CA34
4D075CA36
4D075CA47
4D075CA48
4D075CB04
4D075DA06
4D075DA27
4D075DB04
4D075DB31
4D075DB61
4D075DC01
4D075EA05
4D075EA25
4D075EB43
4D075EB51
4D075EB56
4D075EC07
4D075EC08
4D075EC30
4D075EC37
4J038DL031
4J038JC32
4J038KA03
4J038KA04
4J038NA05
4J038NA07
4J038PA07
4J038PB02
4J038PB06
(57)【要約】
【課題】浴室、台所、洗面所、トイレなどの水回りに生じる汚れの付着を抑制することができる水回り保護剤を提供すること。
【解決手段】水回り保護剤は、三次元的に架橋する硬質の結合構造単位に式(R1SiO3/2)で示されるシリコーンレジンと、二次元的に架橋する軟質の結合構造単位に式(R2 2SiO2/2)で示されるシリコーンレジンとの混合物が主成分として含有される。水回り保護剤から形成される保護被膜30は、その表面が撥水性を有するR1SiとR2Siのアルキルシランで被覆されているため、水回り設備1の汚れの付着を抑制することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浴室、台所、洗面所、トイレなどの水回りに生じる汚れの付着を抑制する水回り保護剤であって、
結合構造単位に式(R1SiO3/2)で示されるシリコーンレジンと結合構造単位に式(R2 2SiO2/2)で示されるシリコーンレジンとの混合物が30~75質量%、結合構造単位に式((R3O)3SiY3)で示されるアルコキシシランが10~30質量%、及び、結合構造単位に式((R4O)2SiCH34)で示されるアルコキシシランが10~30質量%、を含有することを特徴とする水回り保護剤。
【請求項2】
請求項1に記載の水回り保護剤の下塗剤であって、
結合構造単位に式(SiO4/2)で示されるシリコーンが5~20質量%、結合構造単位に式((R6O)3SiR7)で示されるアルキルトリアルコキシシランが5~20質量%、希釈剤が60~85質量%、を含有することを特徴とする下塗剤。
【請求項3】
水回り設備に、請求項2に記載の下塗剤を塗装して下塗被膜を形成する下塗剤塗装工程と、該下塗被膜に、請求項1に記載の水回り保護剤を塗装して保護被膜を形成する保護剤塗装工程と、を有し、該下塗被膜と該保護被膜からなる複層保護層を形成することを特徴とする水回り設備の塗装方法。
【請求項4】
請求項3に記載の水回り設備の塗装方法によって形成された前記複層保護層の再塗装方法であって、
アルカリ洗浄剤を用いて洗浄する洗浄工程と、
該洗浄工程の後に行われ、洗浄された該複層保護層に、請求項1に記載の水回り保護剤を塗装して、前記保護被膜を再形成させる保護剤再塗装工程と、
を有することを特徴とする水回り設備の再塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の技術分野は、建物の水を使う設備である、浴室、台所、洗面所、トイレなどの水回りに生じる汚れの付着を抑制する、水回り保護剤、下塗剤、水回り設備の塗装方法及び再塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の水を使う設備として、浴室、台所、洗面所、トイレなどの水回りがある。水回りには、様々な汚れが付着する。水回りに付着した汚れの洗浄を容易にする水回り保護剤として、特許文献1に、光触媒粉末を含有する水回り保護剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-132790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載された水回り保護剤は、付着した有機分が光触媒粉末によって分解され、水洗浄がされることにより、分解された有機分が洗浄されるものである。このため、水回りに対して、有機分を含めた汚れの付着を抑制させたいという要望が従来からあった。
【0005】
本明細書の技術が解決しようとする課題は、上述の点に鑑みてなされたものであり、浴室、台所、洗面所、トイレなどの水回りに生じる汚れの付着を抑制することができる水回り保護剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書の実施形態に係る水回り保護剤は、浴室、台所、洗面所、トイレなどの水回りに生じる汚れの付着を抑制する水回り保護剤であって、
結合構造単位に式(R1SiO3/2)で示されるシリコーンレジンと結合構造単位に式(R2 2SiO2/2)で示されるシリコーンレジンとの混合物が30~75質量%、結合構造単位に式((R3O)3SiY3)で示されるアルコキシシランが10~30質量%、及び、結合構造単位に式((R4O)2SiCH34)で示されるアルコキシシランが10~30質量%、を含有することを特徴とする。
【0007】
本明細書の実施形態に係る水回り保護剤によれば、三次元的に架橋する硬質の結合構造単位に式(R1SiO3/2)で示されるシリコーンレジン(以下、「T単位シリコーンレジン」ということがある。)と、二次元的に架橋する軟質の結合構造単位に式(R2 2SiO2/2)で示されるシリコーンレジン(以下、「D単位シリコーンレジン」ということがある。)との混合物が主成分として含有されている。このため、実施形態に係る水回り保護剤から形成される保護被膜は、T単位シリコーンレジンの硬質な三次元的な架橋を主としてD単位シリコーンレジンの二次元的な架橋が加えられた可撓性を有する硬質な保護被膜を形成する。この被膜は、その表面が撥水性を有するR1SiとR2Siのアルキルシランで被覆されているため、汚れの付着を抑制することができる。また、実施形態に係る水回り保護剤は、結合構造単位に式((R3O)3SiY3)で示されるアルコキシシラン(以下、「T単位アルコキシシラン」ということがある。)と結合構造単位に式((R4O)2SiCH34)で示されるアルコキシシラン(以下、「D単位アルコキシシラン」ということがある。)を含有しているため、T単位アルコキシシランがシリコーンレジンに架橋するとともに立体的(三次元的)に下地に密着し、D単位アルコキシシランがシリコーンレジンに架橋するとともに直線的(二次元的)に下地に追従するように密着する。つまり、実施形態に係る水回り保護剤は、追従するように下地に密着し、耐久性を有する保護被膜を形成し、その表面がアルキルシランで被覆されているため、汚れの付着を抑制することができる。
【0008】
また、上記の水回り保護剤の下塗剤であって、
結合構造単位に式(SiO4/2)で示されるシリコーンが5~20質量%、結合構造単位に式((R6O)3SiR7)で示されるアルキルアルコキシシランが5~20質量%、希釈剤が60~85質量%、を含有するものとすることができる。
【0009】
これによれば、下塗剤は、希釈剤によって希釈されているため、下地となる基材の表面の微細な凹凸形状に入り込むことができ、微細な凹凸形状に入り込んだ結合構造単位に式(SiO4/2)で示されるシリコーン(以下、「Q単位シリコーン」ということがある。)が、アンカー効果によって強固に下地に密着する。下塗剤から形成される下塗被膜は、結合構造単位に式((R6O)3SiR7)で示されるアルキルアルコキシシラン(以下、「T単位アルキルアルコキシシラン」ということがある。)を含有することによって、可撓性を有し、下地に強固かつ追従するように密着することができる。また、下塗剤から形成される下塗被膜に、水回り保護剤が塗装されることによって、水回り保護剤から形成される保護被膜は、水回り保護剤に含有されるT単位シリコーンレジン、D単位シリコーンレジン、T単位アルコキシシラン及びD単位アルコキシシランが下塗被膜のQ単位シリコーン及びT単位アルキルアルコキシシランと架橋するため、強固かつ追従するように下塗被膜に密着することができる。
【0010】
ここで、実施形態に係る水回り設備の塗装方法は、
水回り設備に、上記の下塗剤を塗装して下塗被膜を形成する下塗剤塗装工程と、該下塗被膜に、上記の水回り保護剤を塗装して保護被膜を形成する保護剤塗装工程と、を有し、該下塗被膜と該保護被膜からなる複層保護層を形成することを特徴とする。
【0011】
これによれば、下塗剤が水回り設備に強固かつ追従するように密着する下塗被膜を形成し、水回り保護剤が下塗被膜に強固かつ追従するように密着する。下塗被膜と保護被膜からなる複層保護層は、その表面がR1SiとR2Siのアルキルシランで被覆され、汚れの付着を抑制することができる。
【0012】
また、複層保護層を備える水回り設備の再塗装方法は、上記の水回り設備の塗装方法によって形成された前記複層保護層の再塗装方法であって、
アルカリ洗浄剤を用いて洗浄する洗浄工程と、
該洗浄工程の後に行われ、洗浄された該複層保護層に、上記の水回り保護剤を塗装して、前記保護被膜を再形成させる保護剤再塗装工程と、
を有するものとすることができる。
【0013】
これによれば、アルカリ洗浄剤が、下塗被膜に密着した保護被膜のアルコキシシランを加水分解することによって、保護被膜を剥離することができる。洗浄されて保護被膜が剥離された複層保護層は、下塗被膜が残存し、下塗被膜に水回り保護剤を塗装することによって、保護被膜を再形成させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本明細書の実施形態に係る水回り保護剤によれば、下地に強固かつ追従するように密着する可撓性を有する硬質な保護被膜を形成し、その表面がR1SiとR2Siのアルキルシランで被覆され、汚れの付着を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本明細書の実施形態に係る下塗剤から形成された下塗被膜と水回り保護剤から形成された保護被膜からなる複層保護層を備える水回り設備の拡大図付きのモデル断面図である。
図2】実施形態に係る再塗装方法のイメージ工程図であって、(A)は複層保護層を備える水回り設備にアルカリ洗浄剤を用いて洗浄する図、(B)はアルカリ洗浄剤によって保護被膜を剥離させる状態を示す図、(C)は保護被膜が剥離した下塗被膜に水回り保護剤を塗布する図である。
図3】シリコーンレジンの結合構造単位を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本明細書の実施形態に係る水回り保護剤、下塗剤、水回り設備の塗装方法及び再塗装方法について説明する。なお、本発明の範囲は、実施形態で開示される範囲に限定されるものではない。実施形態の水回り保護剤は、浴室、台所、洗面所、トイレなどの水回りに塗装され、水回りに生じる汚れの付着を抑制する保護被膜を形成する保護剤である。もちろん、本明細書の実施形態は、住宅などの建物の水回り用途に限定されるものではなく、商業施設、オフィスビルなどの建築物、鉄道車両、バスなどの車両、船舶、航空機などの水回りに対しても適用することができるものである。なお、本明細書において、水回り保護剤の配合量や配合比を表す際は、特に断らない限り、質量単位であり、揮発分を含む塗料状態で表すものとする。また、配合単位を表す「%」は、特に断らない限り、「質量%」を意味するものとする。
【0017】
水回り保護剤が塗装される水回り設備1の材質は、陶器、セラミックス、石材、金属、合成樹脂などがある。石材としては、大理石や花崗岩(御影石)などが使用される。金属としては、ガラス質の釉薬を金属表面に被覆して焼きつけた琺瑯やステンレス鋼板などが使用される。合成樹脂としては、合成樹脂とフィラーを成型した合成樹脂成型体、繊維強化プラスチックのFRPなどがある。水回り保護剤が塗装される水回り設備1の材質は、特に限定されるものではないが、被密着性に劣る、琺瑯やステンレス鋼板であっても、適用することができるものである。
【0018】
実施形態に係る水回り部位を構成する水回り設備1の基材に形成される複層保護層10は、水回り設備1に塗装された下塗剤から形成される下塗被膜20と、下塗被膜20に塗装された水回り保護剤から形成される保護被膜30と、から構成される。
【0019】
下塗被膜20を形成する水回り保護剤の下塗剤は、結合構造単位に式(SiO4/2)で示されるシリコーン(Q単位シリコーン)を5~20質量%、結合構造単位に式((R6O)3SiR7)で示されるアルキルアルコキシシラン(T単位アルキルアルコキシシラン)を5~20質量%、希釈剤を60~85質量%、含有するものである。水回り保護剤の下塗剤は、下塗被膜20を形成する成分としてQ単位シリコーンとT単位アルキルアルコキシシランとから構成される。
【0020】
Q単位シリコーン(SiO4/2)は、ケイ素に4つのシロキサン結合の結合点を有することができるシリコーンであり、単一の構造単位としては「(R5O)4Si」の構造であり、4つのアルコキシ基(R5O)が他のQ単位シリコーンやT単位アルキルアルコキシシランのアルコキシ基と加水分解と脱水縮合反応(重合)を起こすことにより、三次元網目構造の硬いシロキサン結合からなる被膜を形成する。Q単位シリコーンは、重合度の低いQ単位シリコーンが水回り設備1の基材の表面の微細な凹凸形状に入り込み、アンカー効果によって強固に水回り設備1の基材に密着することができる。Q単位シリコーンのアルコキシ基(R5O)は、加水分解と脱水縮合反応が早いメトキシ基、エトキシ基とすることができ、より早いメトキシ基とすることができる。
【0021】
Q単位シリコーンは、市販品を使用することもできる。市販品のQ単位シリコーンとして、MKCシリケートMS51、MS56、MS57、MS56S(三菱ケミカル株式会社製)、XIAMETER OFS-6697 Silane(ダウ・東レ株式会社製)などを使用することができる。
【0022】
T単位アルキルアルコキシシランは、ケイ素に3つのアルコキシ基と1つのアルキル基を有するシラン化合物であり、アルコキシ基(R6O)によって、シリコーンやシリコーンレジンと共重合(脱水縮合反応)が可能であり、単体としては「(R6O)3SiR7」の構造である。T単位アルキルアルコキシシランがQ単位シリコーンと共重合することにより、下塗剤から形成される下塗被膜2は、T単位アルキルアルコキシシランの有するアルキル基(R7)によって、可撓性を有し、水回り設備1の基材の変形に対して割れることなく追従することができる。T単位アルキルアルコキシシランのアルコキシ基(R6O)は、加水分解と脱水縮合反応が早いメトキシ基、エトキシ基とすることができ、より早いメトキシ基とすることができる。T単位アルキルアルコキシシランのアルキル基(R7)は、適度な可撓性を付与することができるC8~C12の中鎖アルキル基とすることができる。なお、T単位アルキルアルコキシシランのアルキル基(R7)がC7以下の短鎖アルキル基の場合には、下塗剤から形成される下塗被膜20が十分な可撓性を有さず水回り設備1の基材の変形に対して割れるおそれがある。一方、T単位アルキルアルコキシシランのアルキル基(R7)がC13以上の長鎖アルキル基の場合には、下塗剤から形成される下塗被膜20が過度な可撓性を有し、下塗被膜20の強度が劣るおそれがある。
【0023】
T単位アルキルアルコキシシランは、市販品を使用することもできる。市販品のT単位アルキルアルコキシシランとして、DOWSIL Z-6341 Silane(n-C817Si(OC253)、DOWSIL Z-6210 Silane(n-C1021Si(OCH33)(ダウ・東レ株式会社製)、KBE-3083(n-C817Si(OC253)、KBM-3103C(n-C1021Si(OCH33)(信越化学工業株式会社製)などを使用することができる。
【0024】
下塗剤は、希釈剤を60~85質量%、含有するものである。希釈剤は、より詳しくは、揮発性シリコーンオイルとアルコールとから構成され、下塗剤の全体量に対して、揮発性シリコーンオイルが20~60質量%、アルコールが20~60質量%、含有するものである。下塗剤が希釈剤を含有することにより、重合度の低いQ単位シリコーンが希釈剤で希釈されて水回り設備1の基材の表面の微細な凹凸形状に入り込み、アンカー効果によって強固に水回り設備1に密着することができる。
【0025】
下塗剤に含有させる揮発性シリコーンオイルとして、環状シロキサン、ジメチルポリシロキサンを使用することができる。別の実施形態として、揮発性に長ける環状シロキサンのデカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)を使用することができ、さらに別の実施形態として、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)を使用することができる。
【0026】
下塗剤に含有させるアルコールとして、C2~C12のアルコールの混合物を使用することができる。希釈剤の揮発性を適したものとすることができるためである。下塗剤に含有させるアルコールがC1のアルコール(メタノール)である場合には、希釈剤の揮発が早く、下塗剤の作業性が劣るおそれがある。一方、下塗剤に含有させるアルコールがC12のアルコール(ドデカノール)を超える分子量のアルコールである場合には、希釈剤の揮発が遅く、下塗剤の作業性が劣るおそれがある。
【0027】
下塗剤には、硬化を促進させるために、硬化触媒を添加させることができる。硬化触媒は、シリコーンレジンの硬化反応を促進させることができるものであればよく、酸化物類、アミン類又は金属類を使用することができる。別の実施形態として、硬化触媒は、硬化特性に優れる金属類触媒を使用することができる。さらに別の実施形態として、金属類触媒の中でもチタン系触媒を使用することができ、チタン系触媒の中でもチタン有機金属化合物系触媒(テトラブチルチタネート)を使用することができる。
【0028】
硬化触媒は、下塗剤に対して、0.5~5質量%を添加させることができる。下塗剤の硬化性を好適に向上させることができるためである。下塗剤に対する硬化触媒の添加量が0.5質量%未満である場合には、下塗剤の硬化性を好適に向上させることができないおそれがある。一方、5質量%を超える場合には、過剰な添加量となり、不経済となるおそれがある。別の実施形態として、下塗剤に対する硬化触媒の含有量は、0.8~2質量%とすることができる。
【0029】
下塗剤は、硬化触媒を含有させる場合には、塗布直前に、硬化触媒を下塗剤に混合させることができる、2剤型の材料(主剤と硬化剤)とすることができる。2剤型の材料とすることで、下塗剤は、材料の保管時における硬化の促進を抑制することができる。この場合、主剤はシリコーンとアルキルアルコキシシランの混合物、硬化剤は硬化触媒と希釈剤の混合物とすることができる。
【0030】
保護被膜30を形成する水回り保護剤は、結合構造単位に式(R1SiO3/2)で示されるシリコーンレジンと、結合構造単位に式(R2 2SiO2/2)で示されるシリコーンレジンとの混合物が30~75質量%、結合構造単位に式((R3O)3SiY3)で示されるアルコキシシランが10~30質量%、及び、結合構造単位に式((R4O)2SiCH34)で示されるアルコキシシランが10~30質量%、を含有する。
【0031】
結合構造単位に式(R1SiO3/2)で示されるシリコーンレジン(T単位シリコーンレジン)は、ケイ素に3つのシロキサン結合の結合点と1つのアルキル基(R1)を有するレジンであり、3つのシロキサン結合の結合点を有しているため、三次元網目構造の硬い被膜を形成する。
【0032】
結合構造単位に式(R2 2SiO2/2)で示されるシリコーンレジン(D単位シリコーンレジン)は、ケイ素に2つのシロキサン結合の結合点と2つのアルキル基(R2)を有するレジンであり、2つのシロキサン結合の結合点を有しているため、線状(二次元的)構造の柔軟性を有する被膜を形成する。
【0033】
保護被膜30を形成する水回り保護剤は、三次元網目構造のT単位シリコーンレジンと線状構造のD単位シリコーンレジンの混合物を主成分として含有し、形成される保護被膜は可撓性を有する硬質な被膜を形成する。形成される保護被膜の表面は、撥水性を有するR1SiとR2Siのアルキルシランで被覆され、汚れの付着を抑制することができる。
【0034】
保護被膜30を形成する水回り保護剤におけるT単位シリコーンレジン/D単位シリコーンレジンの含有比率は、モル比で、T単位シリコーンレジン/D単位シリコーンレジン=50/50~90/10とすることができる。可撓性を有した硬質な被膜を形成することができるためである。T単位シリコーンレジン/D単位シリコーンレジンの含有比率が50/50より小さいと、形成される保護被膜30が柔らかくなり被膜強度が劣るおそれがある。一方、T単位シリコーンレジン/D単位シリコーンレジンの含有比率が90/10を超えると、形成される保護被膜30が硬くなりすぎ水回り設備1の基材の動きに対して追従できずに保護被膜30にひび割れなどが発生するおそれがある。別の実施形態として、T単位シリコーンレジン/D単位シリコーンレジンの含有比率は、55/45~75/25、とすることができ、さらに別の実施形態として、60/40~70/30、とすることができる。なお、被膜の硬度として、T単位シリコーンレジン/D単位シリコーンレジン=80/20~90/10はハード、70/30~80/20はミドル、60/40~70/30はソフトとなる。
【0035】
T単位シリコーンレジンとD単位シリコーンレジンのアルキル基(R1、R2)は、メチル基又はエチル基とすることができる。R1SiとR2Siを撥水性に優れるものとすることができるためである。なお、アルキル基(R1、R2)がプロピル基以上の長さのものである場合には、形成される保護被膜30が柔らかくなり被膜強度が劣るおそれがある。別の実施形態として、T単位シリコーンレジンとD単位シリコーンレジンのアルキル基(R1、R2)は、メチル基とすることができる。
【0036】
T単位シリコーンレジンとD単位シリコーンレジンは混合物を使用することができ、T単位シリコーンレジンとD単位シリコーンレジンとの混合物(以下、DT単位シリコーンレジンと表現することがある。)は、市販品を使用することができる。市販品のDT単位シリコーンレジンとして、KR-300、KR-255、KR-500、X-40-9218、X-40-9246、X-40-9250、X-40-9227、X-40-9238、X-40-2667A、X-40-2756、X-41-1056、KR-112、KR-282、KR-242A、KR-9218(信越化学工業株式会社製)などを使用することができる。
【0037】
結合構造単位に式((R3O)3SiY3)で示されるアルコキシシラン(T単位アルコキシシラン)は、1分子中に、1つの有機官能基(Y3)、加水分解性と縮合性とを有する基(アルコキシシリル基)、を含有する化合物である。3つのアルコキシ基(R3O)を有するアルコキシシリル基が、空気中の水分などによって加水分解とシリコーンレジンと共重合するとともに、下塗被膜20と化学的・物理的に結合することにより、三次元的に下塗被膜20に密着し、水回り保護剤から形成される保護被膜30は、耐久性を有する強固な被膜を形成する。
【0038】
一方、結合構造単位に式((R4O)2SiCH34)で示されるアルコキシシラン(D単位アルコキシシラン)は、1分子中に、有機官能基(Y4)、加水分解性と縮合性とを有する基(アルコキシシリル基)、を含有する化合物である。2つのアルコキシ基(R4O)を有するアルコキシシリル基が、空気中の水分などによって加水分解とシリコーンレジンと共重合するとともに、下塗被膜20と化学的・物理的に結合することにより、二次元的に下塗被膜20に密着し、水回り保護剤から形成される保護被膜30は、下塗被膜20に追従するように被膜を形成する。
【0039】
T単位アルコキシシラン及びD単位アルコキシシランのアルコキシ基(R3O、R4O)は、加水分解と脱水縮合反応が早いメトキシ基、エトキシ基とすることができ、より早いメトキシ基とすることができる。
【0040】
T単位アルコキシシラン及びD単位アルコキシシランの有機官能基(Y3、Y4)は、T単位シリコーンレジンとD単位シリコーンレジンのアルキル基(R1、R2)と相溶するアルキル基、ビニル基又はエポキシ基とすることができる。別の実施形態としてアルキル基とすることができる。また、水回り保護剤は、下塗被膜20を介さずに水回り設備1の基材に直接塗装する場合には、基材に密着可能なビニル基を有するものとすることができる。
【0041】
保護被膜30を形成する水回り保護剤は、T単位アルコキシシランを10~30質量%含有し、D単位アルコキシシランを10~30質量%含有するが、T単位アルコキシシランの含有量がD単位アルコキシシランの含有量より多いものとすることができる。これにより、タックフリーまでの時間を短くすることができるためである。
【0042】
T単位アルコキシシランとして、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、ヘプチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ノニルトリメトキシシラン、ノニルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ウンデシルトリメトキシシラン、ウンデシルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどを使用することができる。
【0043】
また、D単位アルコキシシランとして、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、エチルメチルジメトキシシラン、エチルメチルジエトキシシラン、プロピルメチルジメトキシシラン、プロピルメチルジエトキシシラン、ブチルメチルジメトキシシラン、ブチルメチルジエトキシシラン、ペンチルメチルジメトキシシラン、ペンチルメチルジエトキシシラン、ヘキシルメチルジメトキシシラン、ヘキシルメチルジエトキシシラン、ヘプチルメチルジメトキシシラン、ヘプチルメチルジエトキシシラン、オクチルメチルジメトキシシラン、オクチルメチルジエトキシシラン、ノニルメチルジメトキシシラン、ノニルメチルジエトキシシラン、デシルメチルジメトキシシラン、デシルメチルジエトキシシラン、ウンデシルメチルジメトキシシラン、ウンデシルメチルジエトキシシラン、ドデシルメチルジメトキシシラン、ドデシルメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランなどを使用することができる。
【0044】
水回り保護剤は、希釈剤を1~10質量%、含有するものである。希釈剤は、C10~C14の炭化水素を使用することができる。希釈剤の揮発性を適したものとすることができるためである。水回り保護剤に含有させる炭化水素がC10の炭化水素(デカン)より分子量が小さい炭化水素である場合には、希釈剤の揮発が早く、水回り保護剤の作業性が劣るおそれがある。一方、下塗剤に含有させるアルコールがC14の炭化水素(テトラデカン)より分子量が大きい炭化水素である場合には、希釈剤の揮発が遅く、下塗剤の作業性が劣るおそれがある。
【0045】
水回り保護剤には、硬化を促進させるために、硬化触媒を添加させることができる。硬化触媒は、シリコーンレジンの硬化反応を促進させることができるものであればよく、酸化物類、アミン類又は金属類を使用することができる。別の実施形態として、硬化触媒は、硬化特性に優れる金属類触媒を使用することができる。さらに別の実施形態として、金属類触媒の中でもチタン系触媒を使用することができ、チタン系触媒の中でもチタン有機金属化合物系触媒(テトラブチルチタネート)を使用することができる。
【0046】
硬化触媒は、水回り保護剤に対して、0.5~5質量%を添加させることができる。水回り保護剤の硬化性を好適に向上させることができるためである。水回り保護剤に対する硬化触媒の添加量が0.5質量%未満である場合には、水回り保護剤の硬化性を好適に向上させることができないおそれがある。一方、5質量%を超える場合には、過剰な添加量となり、不経済となるおそれがある。別の実施形態として、水回り保護剤に対する硬化触媒の含有量は、0.8~2質量%とすることができる。
【0047】
水回り保護剤は、硬化触媒を含有させる場合には、塗布直前に、硬化触媒を水回り保護剤に混合させることができる、2剤型の材料(主剤と硬化剤)とすることができる。2剤型の材料とすることで、水回り保護剤は、材料の保管時における硬化の促進を抑制することができる。この場合、主剤はシリコーンレジンとアルコキシシランの混合物、硬化剤は硬化触媒と希釈剤の混合物とすることができる。
【0048】
水回り保護剤は、下塗被膜20に塗装することによって、T単位及びD単位のアルコキシシランのアルコキシ基(R3O、R4O)が加水分解をして形成されたシラノール基が、下塗被膜20に結合するとともに、T単位及びD単位のシリコーンレジンと脱水縮合反応を起こすことにより、三次元網目構造の硬いシロキサン結合からなる保護被膜30を形成する。保護被膜30は、その表面が撥水性を有するR1SiとR2Siのアルキルシランで被覆されているため、汚れの付着を抑制することができると推測される。
【0049】
また、水回り保護剤は、T単位アルコキシシラン及びD単位アルコキシシランの有機官能基(Y3、Y4)をビニル基又はエポキシ基とすることによって、水回り設備1の基材に直接塗装することもできる。ビニル基又はエポキシ基を有する水回り保護剤は、水回り設備1の基材に塗装することによって、T単位及びD単位のアルコキシシランのビニル基又はエポキシ基が水回り設備1の基材に密着する。T単位及びD単位のアルコキシシランのアルコキシ基(R3O、R4O)が加水分解をして形成されたシラノール基が、T単位及びD単位のシリコーンレジンと脱水縮合反応を起こすことにより、三次元網目構造の硬いシロキサン結合からなる保護被膜30を形成する。
【0050】
次に、水回り保護剤の塗布方法について説明する。水回り保護剤の塗布方法は、脱脂工程、下塗剤塗装工程、保護剤塗装工程の順に行われる。
【0051】
脱脂工程は、被塗装面である水回り設備1について、油脂分などを取り除き、清掃する工程である。脱脂工程は、洗浄剤を用いて、ウエスなどで油脂分などを拭き取ることによって行なう。洗浄剤は、汚れがほとんどない(指紋程度の汚れがある)場合にはエタノール、汚れが少ない(油脂分などの汚れ成分の付着がある)場合には洗浄用シンナー(ラッカー薄め液)、汚れがある(既に使用されている水回りであって、油脂、タンパク質、シリカなどの付着がある)場合には後に述べるアルカリ洗浄剤、を用いる。
【0052】
下塗剤塗装工程は、清掃された水回り設備1に下塗剤を塗装する工程であり、水回り設備1に下塗剤をスプレーや刷毛などを用いて塗装し、ウエスなどで塗り広げる。水回り設備1に塗布された下塗剤は、下塗剤に含まれるQ単位シリコーンが水回り設備1の表面の微細な凹凸形状に入り込み、アンカー効果によって強固に密着する下塗被膜20が形成される。
【0053】
保護剤塗装工程は、下塗被膜20が形成された水回り設備1に水回り保護剤を塗装する工程であり、下塗被膜20が形成された水回り設備1に水回り保護剤をスプレーや刷毛などを用いて塗装し、ウエスなどで塗り広げる。水回り保護剤から形成される保護被膜30は、水回り保護剤に含有されるT単位シリコーンレジン、D単位シリコーンレジン、T単位アルコキシシラン及びD単位アルコキシシランが下塗被膜20のQ単位シリコーン及びT単位アルキルアルコキシシランと架橋するため、強固かつ追従するように下塗被膜20に密着する。水回り保護剤から形成される保護被膜30は、その表面がアルキルシランで被覆されているため、汚れの付着を抑制する。
【0054】
次に、水回り設備1の再塗装方法について説明する。水回り設備1の再塗装方法では、複層保護層10の保護被膜30を剥離するアルカリ洗浄剤を使用する。
【0055】
アルカリ洗浄剤は、複層保護層10をアルカリ洗浄剤によって洗浄することにより、下塗被膜20に結合した、保護被膜30のT単位及びD単位のアルコキシシランのシラノールによる結合を加水分解させて、保護被膜30を下塗被膜20から剥離するものである。アルカリ洗浄剤は、アルカリ(アルカリ性の化合物)、研磨剤、増粘剤及び水から構成される。
【0056】
アルカリ洗浄剤は、アルカリとして、水酸化ナトリウム(NaOH、12.8)、オルトケイ酸ナトリウム(Na4SiO4、12.6)、メタケイ酸ナトリウム(Na2SiO3・5H2O、11.4)、炭酸ナトリウム(Na2CO3、11.2)、リン酸ナトリウム(Na3PO4・12H2O、11.2)などを使用することができる。なお、括弧内は、構造式と5質量%水溶液のpHを記載した。別の実施形態として、アルカリ洗浄剤のアルカリは、メタケイ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウムとすることができる。水酸化ナトリウムとオルトケイ酸ナトリウムは、5質量%水溶液のpHが高く、下塗被膜20のシリコーンレジンのシロキサン結合まで加水分解させてしまうおそれがあるためである。
【0057】
アルカリ洗浄剤は、アルカリの2~10質量%水溶液として使用することができる。好適に保護被膜30を下塗被膜20から剥離することができるためである。アルカリの濃度が2質量%未満である場合には、保護被膜30のT単位及びD単位のアルコキシシランのシラノールによる結合を加水分解することができないおそれがある。一方、アルカリの濃度が10質量%を超えると、下塗被膜20のシリコーンレジンのシロキサン結合まで加水分解させてしまうおそれがある。別の実施形態として、アルカリ洗浄剤のアルカリの濃度は、3~5質量%とすることができる。
【0058】
研磨剤は、複層保護層10を洗浄する際に、保護被膜30を研磨して保護被膜30の剥離を促進するものである。研磨剤は、市販品を使用することができ、材質として、アルミナ、炭化ケイ素、セリウム、ダイヤモンドなどを使用することができる。研磨剤の平均粒子径(メジアン径d50)は、0.2~10μmとすることができ、別の実施形態として0.8~3μmとすることができる。また、研磨剤は、アルカリ洗浄剤に10~30質量%含有させることができ、別の実施形態として、アルカリ洗浄剤に20~25質量%含有させることができる。
【0059】
増粘剤は、アルカリ洗浄剤における研磨剤の沈降を防止するとともに、アルカリ洗浄剤の拭き取り作業性を改善する粘性を付与する添加剤である。増粘剤は、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどの市販品を使用することができ、アルカリ洗浄剤に1~3質量%含有させることができる。別の実施形態として、増粘剤は、アルカリ洗浄剤に1~2質量%含有させることができる。
【0060】
実施形態の複層保護層10を備える水回り設備1の再塗装方法は、下塗被膜20と保護被膜30からなる複層保護層10を備える上記の水回り設備に、アルカリ洗浄剤を用いて洗浄する洗浄工程と、洗浄工程の後に行われ、洗浄された複層保護層10に、水回り保護剤を塗装して、保護被膜30を再形成させる保護剤再塗装工程と、を有する。水回り設備1に形成された複層保護層10は、その表面がアルキルシランで被覆されているため、汚れの付着を抑制することができるものの、長期間の使用により、傷などから汚れが付着したり、摩耗したり、再塗装が必要となることがあるためである。
【0061】
洗浄工程は、図2(A)に示すように、アルカリ洗浄剤を用いて、下塗被膜20に密着した保護被膜30のアルコキシシランを加水分解することによって、保護被膜30を剥離する工程である。洗浄工程は、アルカリ洗浄剤を用いて、ウエスなどで複層保護層10を上から拭き取ることによって行なう。このとき、アルカリ洗浄剤に含まれる研磨剤が下塗被膜20に密着した保護被膜30を研磨して物理的に除去するとともに、アルカリが保護被膜30のアルコキシシランを加水分解し、下塗被膜20を残したまま、保護被膜30のみを剥離することができる(図2(B))。
【0062】
保護剤再塗装工程は、図2(C)に示すように、下塗被膜20が残存している水回り設備1に水回り保護剤を塗装する工程であり、下塗被膜20が残存している水回り設備1に水回り保護剤をスプレーや刷毛などを用いて塗装し、ウエスなどで塗り広げる。水回り保護剤から形成される保護被膜30は、水回り保護剤に含有されるT単位シリコーンレジン、D単位シリコーンレジン、T単位アルコキシシラン及びD単位アルコキシシランが下塗被膜のQ単位シリコーン及びT単位アルキルアルコキシシランと架橋するため、強固かつ追従するように下塗被膜に密着する。水回り保護剤から形成される保護被膜30は、その表面がアルキルシランで被覆されているため、再び、汚れの付着を抑制する。
【実施例0063】
実施例で使用する、下塗剤の配合を表1に、水回り保護剤Aの配合を表2に、水回り保護剤Bの配合を表3に、アルカリ洗浄剤の配合を表4に、水回り保護剤に使用されているDT単位シリコーンレジンの詳細を表5に、それぞれ記載する。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
【表5】
【0069】
実施例では、光沢度試験、撥水性試験及び汚れ付着性試験を実施して、その評価を行った。各試験の評価方法は、以下の通りである。
【0070】
<光沢度試験>
光沢度試験は、試験体の光沢について、ブランク(施工前の水回り設備1)との相違を目視で判断した。そして、光沢がブランクより優れるものを◎、光沢がブランク同等であるものを○、光沢がブランクより僅かに劣るものを△、光沢がブランクより明らかに劣るものを×、として評価した。
【0071】
<撥水性試験>
撥水性試験は、スプレーを用いて試験体に水道水を散布し、撥水性について、ブランクとの相違を目視で判断した。そして、撥水性がブランクより優れるものを◎、撥水性がブランク同等であるものを○、撥水性がブランクより僅かに劣るものを△、撥水性がブランクより明らかに劣るものを×、として評価した。
【0072】
<汚れ付着性試験>
汚れ付着性試験は、ラー油(エスビー食品株式会社製)5gを刷毛で試験体(水回り設備1)に塗り広げ、水で流したのちに、ティッシュペーパを用いて試験体の表面を拭き取り、残存している汚れ(ラー油)の有無を目視で確認した。そして、汚れが残っていないものを○、汚れが残っているものを×、として評価した。
【0073】
表6は、各実施例について、施工対象とした水回り設備1、施工手順、上記の試験の評価結果を記載したものである。
【0074】
【表6】
【0075】
(実施例1)
実施例1は、約1年間使用されたステンレス鋼板製の台所シンクに水回り保護剤を施工した。施工手順は以下の通りである。
1 アルカリ洗浄剤Aによる洗浄
2 下塗剤A塗装
3 水回り保護剤A塗装
1年間使用された台所シンクは、傷が多く生じ、傷に汚れが付着していたが、アルカリ洗浄剤Aによって、汚れは洗浄された。下塗剤Aを塗装することによって、下塗剤Aがアンカー効果によって傷の中まで入り込み、下地に強固かつ追従するように密着する下塗被膜20が形成された。水回り保護剤Aを塗装することによって、水回り保護剤に含有されるT単位シリコーンレジン、D単位シリコーンレジン、T単位アルコキシシラン及びD単位アルコキシシランが下塗被膜のQ単位シリコーン及びT単位アルキルアルコキシシランと架橋するため、強固かつ追従するように下塗被膜に密着する保護被膜30が形成された。保護被膜30は、その表面が撥水性を有するR1SiとR2Siのアルキルシランで被覆されているため、汚れの付着を抑制することができ、高い光沢を有するものであった。
【0076】
(実施例2)
実施例2は、実施例1で水回り保護剤が施工されたステンレス鋼板製の台所シンクを約1年間使用したものについて、水回り保護剤を再塗装した。施工手順は以下の通りである。
1 アルカリ洗浄剤Aによる洗浄
2 水回り保護剤A塗装
実施例1の水回り保護剤が施工された台所シンクは、高い光沢を有し、撥水性、汚れ付着防止性に優れるものであったが、1年間使用されることにより、多くの擦り傷が生じていた。水回り保護剤が施工された台所シンクにアルカリ洗浄剤Aを用いて洗浄することにより(図2(A))、下塗被膜20に結合した、保護被膜30のT単位及びD単位のアルコキシシランのシラノールによる結合を加水分解させて、保護被膜30を下塗被膜20から剥離させた(図2(B))。このとき、下地に強固かつ追従するように密着する下塗被膜20は、剥がれることなく、ステンレスの基材に残存していた。再度、水回り保護剤Aを施工することにより、高い光沢を有し、撥水性、汚れ付着防止性に優れる保護被膜30を形成することができた。
【0077】
(実施例3)
実施例3は、未使用の繊維強化プラスチック(FRP)製の浴槽に水回り保護剤を施工した。施工手順は以下の通りである。
1 エタノールを使用した脱脂
2 下塗剤A塗装
3 水回り保護剤B塗装
脱脂されたFRP浴槽に、下塗剤Aを塗装することによって、下塗剤Aがアンカー効果によってFRPに強固かつ追従するように密着する下塗被膜20が形成された。水回り保護剤Aを塗装することによって、実施例1同様に、高い光沢を有し、撥水性、汚れ付着防止性に優れる保護被膜30が形成された。
【0078】
(実施例4)
実施例4は、実施例3で水回り保護剤が施工された繊維強化プラスチック(FRP)製の浴槽を約1年間使用したものについて、水回り保護剤を再塗装した。施工手順は以下の通りである。
1 アルカリ洗浄剤Aによる洗浄
2 水回り保護剤B塗装
実施例2同様に、アルカリ洗浄剤Aを用いて洗浄することによって、保護被膜30を下塗被膜20から剥離させた。下塗被膜20は、剥がれることなく、FRPの基材に残存していた。再度、水回り保護剤Bを施工することにより、高い光沢を有し、撥水性、汚れ付着防止性に優れる保護被膜30を形成することができた。
【0079】
(実施例5)
実施例5は、未使用の琺瑯製の浴槽に水回り保護剤を施工した。施工手順は以下の通りである。
1 エタノールを使用した脱脂
2 水回り保護剤A塗装
実施例5は、下塗剤を省略したものである。脱脂された琺瑯製浴槽に水回り保護剤Aを塗装することによって、T単位アルコキシシラン及びD単位アルコキシシランが琺瑯の釉薬に密着し、高い光沢を有し、撥水性、汚れ付着防止性に優れる保護被膜30を形成することができた。
【0080】
(実施例6)
実施例6は、約1年間使用された合成樹脂成型体製の浴槽に水回り保護剤を施工した。施工手順は以下の通りである。
1 アルカリ洗浄剤Aによる洗浄
2 水回り保護剤B塗装
実施例6は、下塗剤を省略したものである。施工する浴槽は、約1年間使用された合成樹脂成型体であるため、アルカリ洗浄剤Aによって洗浄し、洗浄された合成樹脂成型体製浴槽に水回り保護剤Aを塗装することによって、T単位アルコキシシラン及びD単位アルコキシシランが琺瑯の釉薬に密着し、高い光沢を有し、撥水性、汚れ付着防止性に優れる保護被膜30を形成することができた。
【0081】
実施形態の水回り保護剤によれば、三次元的に架橋する硬質の結合構造単位に式(R1SiO3/2)で示されるシリコーンレジン(T単位シリコーンレジン)と、二次元的に架橋する軟質の結合構造単位に式(R2 2SiO2/2)で示されるシリコーンレジン(D単位シリコーンレジン)との混合物が主成分として含有されている。このため、実施形態に係る水回り保護剤から形成される保護被膜30は、T単位シリコーンレジンの硬質な三次元的な架橋を主としてD単位シリコーンレジンの二次元的な架橋が加えられた可撓性を有する硬質な保護被膜30を形成する。この被膜は、その表面が撥水性を有するR1SiとR2Siのアルキルシランで被覆されているため、汚れの付着を抑制することができる。また、実施形態に係る水回り保護剤は、結合構造単位に式((R3O)3SiY3)で示されるアルコキシシラン(T単位アルコキシシラン)と結合構造単位に式((R4O)2SiCH34)で示されるアルコキシシラン(D単位アルコキシシラン)を含有しているため、T単位アルコキシシランがシリコーンレジンに架橋するとともに立体的(三次元的)に水回り設備1に密着し、D単位アルコキシシランがシリコーンレジンに架橋するとともに直線的(二次元的)に下地に追従するように密着する。つまり、実施形態に係る水回り保護剤は、追従するように水回り設備1に密着し、耐久性を有する保護被膜30を形成し、その表面がアルキルシランで被覆されているため、汚れの付着を抑制することができる。
【0082】
以上のように構成された実施形態の水回り保護剤から把握されるその他の技術的思想について、以下に記載する。
【0083】
水回り保護剤の塗装方法であって、上記下塗剤が硬化触媒を含有せず、上記水回り保護剤が硬化触媒を含有しているものとすることができる。
【0084】
これによれば、下塗剤の硬化時間を長くすることができ、下塗剤の硬化途中に水回り保護剤を塗装することによって、水回り保護剤に含有されるT単位シリコーンレジン、D単位シリコーンレジン、T単位アルコキシシラン及びD単位アルコキシシランを下塗剤のQ単位シリコーン及びT単位アルキルアルコキシシランと強固に架橋させることができる。
【符号の説明】
【0085】
1…水回り設備、10…複層保護層、20…下塗被膜、30…保護被膜。
図1
図2
図3