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  • 特開-潤滑剤用基油 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062851
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】潤滑剤用基油
(51)【国際特許分類】
   C10M 105/18 20060101AFI20240501BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20240501BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20240501BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240501BHJP
【FI】
C10M105/18
C10N50:10
C10N40:02
C10N30:00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170971
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000146180
【氏名又は名称】株式会社MORESCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】三谷 博之
(72)【発明者】
【氏名】山下 孝平
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BB08A
4H104LA20
4H104PA01
4H104QA18
(57)【要約】
【課題】低アウトガス性、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)との低親和性、長期安定性、および低残渣性に優れる潤滑剤用基油を実現する。
【解決手段】本発明の一態様に係る潤滑剤用基油は、下記式(1)で表されるジエーテル化合物を含有する:
【化1】
式(1)中、Rは炭素数5以上のアルキレンであり、RおよびRは炭素数20~24のアルキル鎖であり、同じでも異なっていてもよく、RおよびRのうち少なくともどちらか一方は1つ以上の分岐を有し、R、R、およびRの炭素数の合計は50~60である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるジエーテル化合物を含有する、潤滑剤用基油:
【化1】
式(1)中、Rは炭素数5以上のアルキレンであり、RおよびRは炭素数20~24のアルキル鎖であり、同じでも異なっていてもよく、RおよびRのうち少なくともどちらか一方は1つ以上の分岐を有し、R、R、およびRの炭素数の合計は50~60である。
【請求項2】
前記RおよびRは、それぞれ少なくとも1つ以上の分岐を持つ炭素数20~24のアルキル鎖である、請求項1に記載の潤滑剤用基油。
【請求項3】
ハロゲンの合計含有量が、1500ppm以下である、請求項1または2に記載の潤滑剤用基油。
【請求項4】
塩素の含有量が900ppm以下であり、かつ臭素の含有量が900ppm以下である、請求項1または2に記載の潤滑剤用基油。
【請求項5】
磁気ヘッド駆動装置のグリースに用いられる、請求項1または2に記載の潤滑剤用基油。
【請求項6】
下記式(1)で表されるジエーテル化合物を含有する、潤滑剤用基油の製造方法であって、
前記ジエーテル化合物を含む溶液を合成する合成工程と、前記溶液を精製する精製工程とを含み、
前記精製工程において蒸留を2回行い、1回目の蒸留温度は2回目の蒸留温度よりも高いことを特徴とする、製造方法:
【化2】
式(1)中、Rは炭素数5以上のアルキレンであり、RおよびRは炭素数20~24のアルキル鎖であり、同じでも異なっていてもよく、RおよびRのうち少なくともどちらか一方は1つ以上の分岐を有し、R、R、およびRの炭素数の合計は50~60である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑剤用基油に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(HDD)は磁気ディスク上にデータを記録し、データの読み出しを行う磁気ヘッドが搭載されている。磁気ヘッドは転がり軸受を備えたピボットアッシー軸受装置により駆動されている。ピボットとは、磁気ヘッドを取り付けたアクチュエーターの支点部分に使用される部品である。転がり軸受には摩擦抵抗低減のためにグリース組成物が注入されている。従来、磁気ヘッド駆動装置に使用するための種々の基油、またはグリース組成物が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、基油と増ちょう剤と極圧剤を含むグリース組成物が開示されており、基油としては鉱油(ナフテン系鉱油、パラフィン系鉱油、高精製鉱油)および合成炭化水素油の混合物が開示されている。特許文献2には、モノエステル油とエステル油との混合物からなる基油と、脂環式脂肪族ウレア化合物からなる増ちょう剤と、を含むことを特徴とするグリース組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-239954号公報
【特許文献2】特開2019-52200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年、HDDは、使用環境温度の上昇といった、より過酷な条件の下で使用されるようになっており、上述のような従来技術は、低アウトガス性、長期安定性、および低残渣性の観点から改善の余地があった。さらに、従来の基油を用いたHDDでは磁気記録エラーなどの不具合が発生していた。本発明者らは、従来の基油とハードディスク表面のダイヤモンドライクカーボン(DLC)との親和性が高く、蒸発した基油の液滴がディスク上にぬれ広がることが不具合の原因であることを初めて見出した。
【0006】
そこで、本発明の一態様は、長期安定性に優れる潤滑剤用基油を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る潤滑剤用基油は、以下の構成を含む。
<1>下記式(1)で表されるジエーテル化合物を含有する、潤滑剤用基油:
【0008】
【化1】
【0009】
式(1)中、Rは炭素数5以上のアルキレンであり、RおよびRは炭素数20~24のアルキル鎖であり、同じでも異なっていてもよく、RおよびRのうち少なくともどちらか一方は1つ以上の分岐を有し、R、R、およびRの炭素数の合計は50~60である。
<2>前記RおよびRは、それぞれ少なくとも1つ以上の分岐を持つ炭素数20~24のアルキル鎖である、<1>に記載の潤滑剤用基油。
<3>ハロゲンの合計含有量が、1500ppm以下である、<1>または<2>に記載の潤滑剤用基油。
<4>塩素の含有量が900ppm以下であり、かつ臭素の含有量が900ppm以下である、<1>または<2>に記載の潤滑剤用基油。
<5>磁気ヘッド駆動装置のグリースに用いられる、<1>~<4>のいずれか1つに記載の潤滑剤用基油。
<6>下記式(1)で表されるジエーテル化合物を含有する、潤滑剤用基油の製造方法であって、
前記ジエーテル化合物を含む溶液を合成する合成工程と、前記溶液を精製する精製工程とを含み、
前記精製工程において蒸留を2回行い、1回目の蒸留温度は2回目の蒸留温度よりも高いことを特徴とする、製造方法:
【0010】
【化2】
【0011】
式(1)中、Rは炭素数5以上のアルキレンであり、RおよびRは炭素数20~24のアルキル鎖であり、同じでも異なっていてもよく、RおよびRのうち少なくともどちらか一方は1つ以上の分岐を有し、R、R、およびRの炭素数の合計は50~60である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、長期安定性に優れる潤滑剤用基油を提供することができる。特に、低アウトガス性、DLCとの低親和性、および低残渣性にも優れるため、磁気ヘッド駆動装置用グリース基油に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】モデル化合物のスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について、以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0015】
〔1.潤滑剤用基油〕
本発明の一実施形態に係る潤滑剤用基油は、下記式(1)で表されるジエーテル化合物を含有する。
【0016】
【化3】
【0017】
式(1)中、Rは炭素数5以上のアルキレンであり、RおよびRは炭素数20~24のアルキル鎖であり、同じでも異なっていてもよく、RおよびRのうち少なくともどちらか一方は1つ以上の分岐を有し、R、R、およびRの炭素数の合計は50~60である。
【0018】
前記基油は、式(1)で表されるジエーテル化合物1種類のみを含有してもよく、複数種類を含む混合物を含有してもよい。グリース基油が前記ジエーテル化合物を複数種類含む混合物を含有する場合、前記混合物は複数種類の前記ジエーテル化合物を任意の割合で含有してもよい。
【0019】
前記基油は、式(1)で表されるジエーテル化合物のみからなってもよく、その他の基油を含んでいてもよい。その他の基油としては、鉱油、ポリα-オレフィン、エステル油、アルキルジフェニルエーテル油、モノエーテル油、ポリエーテル油等が挙げられる。前記基油中の式(1)で表されるジエーテル化合物の含有量は、50重量%超であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましく、90重量%以上であることがさらに好ましい。
【0020】
本発明の一態様に係る基油は、電子機器駆動、精密機械駆動、磁気ヘッド駆動等に用いられる転がり軸受、ピボット軸受などに好適に用いられる。特に、磁気ヘッド駆動装置用グリース基油として好適に用いられる。
【0021】
〔ジエーテル化合物〕
本発明の一実施形態に係るジエーテル化合物は、下記式(1)で表される。
【0022】
【化4】
【0023】
前記式(1)中、Rは炭素数5以上のアルキレンであり、炭素数が5以上であることにより、得られる化合物が室温(20℃)で液体となり、基油として適した状態となる。また、Rの炭素数が大きくなるほど極性が低下するため、DLCとの低親和性の観点から好ましい。Rの炭素数の上限値は、RおよびRの炭素数が20~24であり、かつR、R、およびRの炭素数の合計が50~60の範囲であれば特に限定されない。Rの炭素数は、20以下であり、好ましくは18以下、より好ましくは16以下、さらに好ましくは12以下、よりさらに好ましくは8以下である。
【0024】
さらに、前記アルキレンは直鎖状または分岐状のいずれであってもよい。前記アルキレンが分岐状の場合、分岐の数は特に限定されず、例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つであってもよい。前記アルキレンは直鎖状であり、かつ炭素数が奇数であることが、DLCとの低親和性の観点からより好ましい。
【0025】
前記式(1)中、RおよびRは炭素数が20~24であれば、同じでも異なっていてもよく、少なくともどちらか一方は1つ以上の分岐を有する。RおよびRは、基油の物性の観点から、同じであることが好ましい。RおよびRの炭素数が20以上であることにより、得られる化合物の動粘度および粘度指数がグリース用基油として用いるのに適した値となる。さらに、RおよびRの炭素数が20以上であることにより、極性が高くならず、DLCとの低親和性を有するため、磁気ヘッド駆動装置用グリース基油として用いるのに適する。また、RおよびRの炭素数が24以下であることにより、得られる化合物が室温(20℃)で液体となる。基油が室温で液体であれば、基油と他の成分を混合して生成したグリースにおいて、基油成分の析出や固化による増粘が発生しないため、グリース基油として好適である。
【0026】
およびRは少なくともどちらか一方が1つ以上の分岐を有する。Rおよび/またはRの分岐の数は、1つ以上であれば特に限定されず、例えば、2つ、3つ、4つ、5つであってもよい。RおよびRの少なくともどちらか一方が1つ以上の分岐を有することにより、得られる化合物が液体となりやすい。ここで、RおよびRがそれぞれ少なくとも1つ以上の分岐を有することが好ましい。さらには、粘度が低くなりやすいことから、RおよびRが、それぞれ1つの分岐を有することが好ましい。
【0027】
材料の入手が容易であることから、Rおよび/またはRが有する分岐のうち、少なくとも1つがβ炭素の位置にあることが好ましい。分岐したアルキル鎖の炭素数の下限値は1以上であり、6以上が好ましく、8以上がより好ましい。分岐したアルキル鎖の炭素数の上限値は21以下が好ましく、16以下がより好ましい。Rおよび/またはRにおいて、主鎖と分岐鎖との炭素数の差分は、2~6であることが好ましく、2~4であることがより好ましい。
【0028】
前記式(1)中、R、R、およびRの炭素数の合計は、50~60である。R、R、およびRの炭素数の合計が50以上であることにより、アウトガス分検出量を低減することができ、DLCに対する低親和性を発現する。また、R、R、およびRの炭素数の合計が60以下であることにより、得られる化合物が室温(20℃)で液体であるため、グリース基油として適する。
【0029】
前記ジエーテル化合物は、芳香環を有さないため、蒸発しても残渣が生じにくい。また、前記ジエーテル化合物は、エステル結合を有さないため、加水分解等を起こさず、それゆえ長期安定性に優れる。
【0030】
〔2.潤滑剤用基油の物性〕
(アウトガス分検出量)
前記基油のアウトガス分検出量を測定する方法は、例えば、ガスクロマトグラフ質量分析計により測定することができる。
【0031】
前記基油のアウトガス分検出量は、1.0ng/mg以下であることが好ましく、0.7ng/mg以下であることがより好ましく、0.4ng/mg以下であることがさらに好ましい。
【0032】
(DLCとの親和性)
前記基油のDLCとの親和性の評価方法は、例えば、接触角計を用いて測定することができる。具体的には、表面がDLCから構成される基板と基油との接触角(「ぬれ性」ともいう)によって評価することができる。
【0033】
前記基油のDLCとの親和性は、基板へサンプルを滴下し60秒後の接触角が、5.0°以上であることが好ましく、5.5°以上であることがより好ましく、6.0°以上であることがさらに好ましい。接触角が5.0°以上であれば、蒸発した基油が液滴となり、ディスクの回転によって前記液滴がディスク上から飛ばされるため、ディスク上に滞留しにくくなる。
【0034】
(40℃動粘度、100℃動粘度、粘度指数(VI))
前記基油の40℃動粘度、100℃動粘度、および粘度指数(VI)を測定する方法は、例えば、JIS K 2283に従って測定、算出することができる。なお、本願明細書に記載の40℃動粘度、100℃動粘度、および粘度指数の値は、JIS K 2283に従って測定、算出した値である。
【0035】
前記基油の40℃動粘度は、38.0~71.0mm/sであることが好ましく、39.0~70.8mm/sであることがより好ましく、40.0~70.6mm/sであることがさらに好ましい。40℃動粘度が38.0~71.0mm/sの範囲であれば、グリース化が容易であり、また、ピボット等の軸受にかかる負荷を低減することができるため長期安定性に優れ、製品の寿命向上が期待できる。
【0036】
前記基油の100℃動粘度は、7.0mm/s以上であることが好ましく、7.2mm/s以上であることがより好ましく、7.4mm/s以上であることがさらに好ましい。100℃動粘度が7.0mm/s以上であれば、高い粘度指数を維持でき、ピボット等の軸受にかかる負荷を低減することができるため長期安定性に優れ、製品の寿命向上が期待できる。前記基油の100℃動粘度の上限値は特に限定されないが、例えば38.0mm/s以下であってもよい。
【0037】
前記基油の粘度指数は、160以上であることが好ましく、162以上であることがより好ましく、165以上であることがさらに好ましい。粘度指数が160以上であれば、幅広い温度域において基油の粘度変化を小さくすることができる。
【0038】
(残渣率)
前記基油は、高温で使用すると分解する場合がある。基油の分解により残渣が生じた場合、残渣がHDDの稼働を妨げる恐れがある。したがって、基油の残渣は少ないことが好ましい。すなわち、高温における基油の残渣率が低いことが好ましい。残渣率の測定方法は、例えば、示差熱-熱重量同時測定装置を用いて測定することができる。
【0039】
前記基油の残渣率は、10.0%未満であることが好ましく、8.0%未満であることがより好ましく、6.0%未満であることがさらに好ましい。
【0040】
(ハロゲンの含有量)
前記基油に含まれるハロゲンの合計含有量は、1500ppm以下であることが好ましく、1000ppm以下であることがより好ましく、600ppm以下であることがさらに好ましい。
【0041】
また、塩素および臭素の含有量は、それぞれ900ppm以下であることが好ましく、750ppm以下であることがより好ましく、600ppm以下であることがさらに好ましい。
【0042】
〔3.潤滑剤用基油の製造方法〕
本発明の一実施形態に係る潤滑剤用基油としては、前記ジエーテル化合物を用いることができる。また、上述したように、前記基油は、前記ジエーテル化合物のみからなってもよく、その他の基油を含んでいてもよい。
【0043】
前記基油の製造方法は、前記ジエーテル化合物を含む溶液を合成する合成工程と、前記合成工程で得られた前記溶液を精製する精製工程とを含み、前記精製工程では、蒸留が2回行われる。製造方法の一例を以下に説明する。
【0044】
(合成工程)
まず、Rの由来となるアルコール、およびRの由来となるアルコールを、塩基の存在下、60~120℃で30~60分間加熱攪拌し、中間体を得る。塩基としては水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、t-ブトキシカリウム、水素化ナトリウム等が挙げられる。得られた中間体にRの由来となるジハロゲン化炭化水素を滴下し、滴下完了後、130~170℃まで昇温して5~25時間加熱攪拌する。その後、室温まで放冷した後、溶媒を加えて溶液を得る。合成工程における、RおよびRそれぞれの由来となるアルコールの合計、塩基、およびジハロゲン化炭化水素の添加量の比は、2.0~8.0:2.0~8.0:1.0であることが好ましい。
【0045】
上記の合成工程において、Rの由来となるジハロゲン化炭化水素は、炭素数が5以上であり、例えば、1,1-ジクロロペンタン、1,2-ジクロロペンタン、1,3-ジクロロペンタン、1,4-ジクロロペンタン、1,5-ジクロロペンタン、2,2-ジクロロペンタン、2,3-ジクロロペンタン、2,4-ジクロロペンタン、3,3-ジクロロペンタン、1,2-ジクロロヘキサン、1,3-ジクロロヘキサン、1,4-ジクロロヘキサン、1,5-ジクロロヘキサン、1,6-ジクロロヘキサン、2,2-ジクロロヘキサン、2,3-ジクロロヘキサン、2,4-ジクロロヘキサン、2,5-ジクロロヘキサン、3,3-ジクロロヘキサン、3,4-ジクロロヘキサン、1,7-ジクロロヘプタン、1,8-ジクロロオクタン、1,9-ジクロロノナン、1,10-ジクロロデカン、1,11-ジクロロウンデカン、1,12-ジクロロドデカン、1,13-ジクロロトリデカン、1,14-ジクロロテトラデカン、1,15-ジクロロペンタデカン、1,16-ジクロロヘキサデカン、1,17-ジクロロへプタデカン、1,18-ジクロロオクタデカン、1,19-ジクロロノナデカン、1,20-ジクロロイコサン等が挙げられる。ここでは塩素を含むジハロゲン化炭化水素を例示したが、塩素の代わりに臭素またはヨウ素を含むジハロゲン化炭化水素を用いてもよい。すなわち、ここでは、ジハロゲン化炭化水素としてジクロロアルカンを例示したが、ジブロモアルカンまたはジヨードアルカンであってもよい。また、Rの由来となるジハロゲン化炭化水素は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。
【0046】
上記の合成工程において、RおよびRの由来となるアルコールは、同じでも異なっていてもよく、少なくともどちらか一方は1つ以上の分岐を有し、炭素数が20~24である。複数種類のアルコールを用いることで、RおよびRが異なるアルキル鎖であるジエーテル化合物を合成することができる。また、複数種類のアルコールを用いることで、上記式(1)で表されるジエーテル化合物を複数種類含むジエーテル混合物を合成することができる。ジエーテル混合物を合成する場合、複数種類のアルコールは任意の割合で使用することができる。
前記アルコールとしては、例えば、2-オクチルドデカン-1-オール、2-デシルドデカン-1-オール、2-ドデシルドデカン-1-オール、2-デシルデカン-1-オール、2-デシルテトラデカン-1-オール、3-デシルテトラデカン-1-オール、4-デシルテトラデカン-1-オール、5-デシルテトラデカン-1-オール、6-デシルテトラデカン-1-オール、7-デシルテトラデカン-1-オール、8-デシルテトラデカン-1-オール、9-デシルテトラデカン-1-オール、10-デシルテトラデカン-1-オール、11-デシルテトラデカン-1-オール、12-デシルテトラデカン-1-オール、13-デシルテトラデカン-1-オール、2-ブチル-3-ヘキシルテトラデカン-1-オール等が挙げられる。材料の入手が容易であることから、前記アルコールが有する分岐のうち、少なくとも1つがβ炭素の位置にあることが好ましい。
【0047】
溶媒としては、例えば、ヘキサン、へプタン、トルエン等を用いることができる。
【0048】
(精製工程)
続いて、上記の合成工程で得られた溶液を蒸留(蒸留1)し、未反応の物質および副生成物(モノエーテル化合物等)を除去する。蒸留1の温度条件としては、未反応物および副生成物を十分除去できれば特に限定されず、通常、200~350℃である。目的物の分解が加速するため、蒸留1の温度はできる限り低温であることが好ましい。蒸留1の圧力の条件としては、20~200Paであることが好ましく、20~140Paであることがより好ましく、20~80Paであることがさらに好ましい。
【0049】
蒸留1の前に、溶液の洗浄、吸着剤による処理、ろ過による固形物の除去、およびエバポレーターによる溶媒の除去等を行ってもよい。溶液の洗浄には塩酸および/または水等を用いてもよい。吸着剤としてはMgSO、活性白土、および/またはキョーワード(登録商標)等を用いてもよい。
【0050】
その後、蒸留1の釜残を蒸留(蒸留2)し、軽沸分を除去することにより、蒸留2の釜残として目的のジエーテル化合物を得ることができる。蒸留2の温度条件としては、未反応物および副生成物を十分除去できれば特に限定されず、通常150~250℃であり、200℃程度が好ましい。目的物の分解が加速するため、蒸留2の温度の上限値は、軽沸分を除去可能な温度以上であって、かつできる限り低温であることが好ましい。蒸留2の圧力の条件としては、200Pa以下であることが好ましく、140Pa以下であることがより好ましく、80Pa以下であることがさらに好ましい。蒸留2の圧力の下限値は例えば20Paであってもよい。
【0051】
蒸留2の前に、吸着剤による処理、ろ過による固形物の除去等を行ってもよい。吸着剤としては活性白土および/またはキョーワード(登録商標)等を用いてもよい。
【0052】
上述したように、上記の精製工程においては、蒸留が2回行われる。2回目の蒸留は1回目の蒸留よりも低い温度で実施される。2回目の蒸留により、1回目の蒸留工程において熱分解等で発生した夾雑物を除去することができる。後述するが、純度はH-NMRを用いて測定される。1回目の蒸留工程で純度は高くなり、2回目の蒸留工程を行っても、純度の大幅な向上は見られない。しかし、当該工程において蒸留を2回行うことにより、アウトガス分検出量が低減される。ここでは、モデル化合物のGC-MSスペクトルを用いて、アウトガス分検出量が精製工程における2回の蒸留によって低減することを説明する。図1において、a~fを付したスペクトルは蒸留1を行うことにより得られた本発明の一実施形態に係るモデル化合物のGC-MSスペクトルであり、a’~f’を付したスペクトルは蒸留1の後に蒸留2を行うことにより得られたモデル化合物のGC-MSスペクトルである。a~fで示す成分とa’~f’で示す成分とは、それぞれ同じ成分を指す。それぞれの成分についてピークの大きさを比較すると、a~fに比べてa’~f’でピークの大きさが小さくなっている。これは、アウトガスに含まれる成分量が減少していることを示す。さらに、前記モデル化合物のアウトガス分検出量を、後述するアウトガス分検出量の測定方法に基づいて測定すると、蒸留1を行うことにより得られたモデル化合物のアウトガス分検出量は1.17ng/mgである一方で、蒸留1の後に蒸留2を行うことにより得られたモデル化合物のアウトガス分検出量は0.55ng/mgであり、蒸留2を行うことによりアウトガス分検出量が低減することが分かる。
【0053】
本発明の一実施形態に係る潤滑剤用基油は、その性能をさらに向上させる目的で、または、必要に応じてさらなる性能を付与するために、本発明の効果を損なわない範囲で酸化防止剤、着色剤等の各種添加剤を単独または複数を組み合わせて添加してもよい。酸化防止剤としては、例えばフェノール系酸化防止剤(IRGANOX L-135)またはアミン系酸化防止剤(IRGANOX L-57)等があげられる。各種添加剤を添加する場合、添加量は特に制限されないが、基油総量に対して3%程度以下の少量が添加される。
【0054】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0055】
本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】
〔測定・評価方法〕
<純度>
JNM-ECX400(日本電子社製)を使用して、溶媒として重クロロホルムを用いて希釈した各化合物について、H-NMRの測定を行った。標準物質は、TMS(テトラメチルシラン)を用いた。TMSを基準として、3~4ppmにある化合物中のエーテル結合に隣接する炭素のプロトンのピークと、それ以外の3~5ppmにある夾雑物ピークとの比から純度を求めた。
【0057】
<アウトガス分検出量の測定>
アウトガス分検出量は、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC:7890B GCシステム(Agilent Technologies製)、MS:5977Bシリーズ GC/MSDシステム(Agilent Technologies製)、試料導入:MPS-DHS(GERSTER製))を用い、ダイナミックヘッドスペース法(加熱温度:100℃、加熱時間:3時間、捕集管へのパージガス流量:50mL/min、吸着剤:tenaxTA(ジーエルサイエンス社製)、補集成分のGCへの流入:スプリット注入法)に基づいて測定した。GCにおけるキャピラリーカラムには、内径0.25mm、5%フェニル/95%ジメチルポリシロキサンコーティング(コーティング厚0.25μm)、長さ30mのものを使用した。実施例および比較例の各化合物1mgを試料として使用した。標準物質としてヘキサデカンを用いた。GC-MSのクロマトグラムから面積値を算出し、標準物質の測定値より補正し、アウトガス量を算出した。
【0058】
<DLCとの親和性>
DLCとの親和性は、接触角計DM-500(協和界面科学社製)を用いて測定した接触角によって評価した。実施例および比較例の各化合物をサンプルとして使用した。温度27.8℃、湿度24%の条件下で、表面がDLCから構成された基板に0.8μLのサンプル液滴を滴下し、滴下後60秒後の接触角を評価した。なお、サンプルが室温(20℃)で固体である場合、製造後固化するまでの間にDLCとの親和性を評価した。
【0059】
<動粘度および粘度指数>
40℃動粘度、100℃動粘度、および粘度指数(VI)は、JIS K 2283に従って測定、算出した。
【0060】
<残渣率>
残渣率は、示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA)STA7200RV(日立ハイテクサイエンス社製)を用いて、下記の条件および算出式により求めた。実施例および比較例の各化合物をサンプルとして使用した。
条件
・サンプル量:5mg
・温度:室温~400℃
・昇温率:10℃/min
・ガス:混合空気
・ガス流量:200mL/min
算出式
残渣率=400℃時における残渣量/初期サンプル量×100
<塩素濃度>
2mLの試料をサンプル容器に加え、蛍光X線装置(WED-100 Authentic(オイルカスタマーサポート社製))を用いて測定した。実施例および比較例の各化合物を試料として使用し、検量線より塩素濃度を算出した。
【0061】
<臭素濃度>
6mLの試料をサンプル容器に加え、蛍光X線装置(WED-100 Authentic(オイルカスタマーサポート社製))を用いて測定した。実施例および比較例の各化合物を試料として使用し、検量線より臭素濃度を算出した。
【0062】
〔比較例1:isoC24-O-nC4-O-isoC24〕
1.合成工程
窒素置換を行った500mLのナスフラスコに、2-デシルテトラデカン-1-オール(328.5g)とKOH(71.0g)とを入れ、100℃で30分間加熱攪拌し、黄色~褐色の溶液を得た。得られた溶液に1,4-ジブロモブタン(50.0g)を滴下し、滴下が完了した後に140℃まで昇温して18時間加熱攪拌した。その後、室温まで放冷した後、前記ナスフラスコにヘキサンを加え、ヘキサン溶液を得た。
【0063】
2.精製工程
上記の合成工程で得られた、ヘキサン溶液を3MのHCl水溶液を用いて洗浄し、次いで水を用いて洗浄した。次に、MgSOおよび活性白土を加え、室温で30分間攪拌した。その後、ろ過によって固形物を除去し、エバポレーターを用いてヘキサンを除去した。得られた残留物を、315℃、20Paの条件で蒸留する(蒸留1)ことにより、未反応物およびモノエーテル体を除去した。次に、蒸留1の釜残に対し、活性白土を加えて100℃で2時間攪拌した後、キョーワード(登録商標)1000sを加えて100℃で1.5時間攪拌した。
【0064】
さらに続けて、上記の工程を経た蒸留1の釜残をろ過することによって固形物を除去し、黄色透明の生成物を得た。得られた生成物を、200℃、80Paの条件で2時間蒸留し(蒸留2)、軽沸分を除去することにより、蒸留2の釜残として74.0gの化合物1(収率42.1%)を得た。
【0065】
得られた化合物1は、淡黄色透明の液体であり、H-NMRにより純度が99.1%であることが確認された。化合物1の構造を以下に示す。
【0066】
【化5】
【0067】
〔実施例1:isoC24-O-nC-O-isoC24
1.合成工程
窒素置換を行った1Lのナスフラスコに、2-デシルテトラデカン-1-オール(553.0g)とKOH(93.2g)とを入れ、100℃で30分間加熱攪拌し、黄色~褐色の溶液を得た。得られた溶液に1,5-ジクロロペンタン(92.4g)を滴下し、滴下が完了した後に160℃まで昇温して23時間加熱攪拌した。その後、室温まで放冷した後、前記ナスフラスコにヘキサンを加え、ヘキサン溶液を得た。
【0068】
2.精製工程
蒸留1の条件を300℃、190Paに変更したこと以外は、比較例1と同様の手順で43.4gの化合物2(収率8.5%)を得た。
【0069】
得られた化合物2は、淡黄色透明の液体であり、H-NMRにより純度は99.1%であることが確認された。化合物2の構造を以下に示す。
【0070】
【化6】
【0071】
〔実施例2:isoC24-O-bC-O-isoC24
1.合成工程
窒素置換を行った1Lのナスフラスコに、2-デシルテトラデカン-1-オール(308.4g)とKOH(66.9g)とを入れ、100℃で30分間加熱攪拌し、黄色~褐色の溶液を得た。得られた溶液に1,4-ジブロモペンタン(50.0g)を滴下し、滴下が完了した後に140℃まで昇温して18時間加熱攪拌した。その後、室温まで放冷した後、前記ナスフラスコにヘキサンを加え、ヘキサン溶液を得た。
【0072】
2.精製工程
蒸留1の条件を325℃、80Pa、蒸留2の条件を200℃、170Paに変更したこと以外は、比較例1と同様の手順で43.4gの化合物3(収率8.5%)を得た。
【0073】
得られた化合物3は、淡黄色透明の液体であり、H-NMRを使用することにより純度は99.1%であることが確認された。化合物3の構造を以下に示す。
【0074】
【化7】
【0075】
〔実施例3:isoC24-O-nC-O-isoC24
1.合成工程
窒素置換を行った1Lのナスフラスコに、2-デシルテトラデカン-1-オール(3001.0g)とKOH(631.9g)とを入れ、100℃で60分間加熱攪拌し、黄色~褐色の溶液を得た。得られた溶液に1,6-ジブロモヘキサン(666.1g)を滴下し、滴下が完了した後に140℃まで昇温して18時間加熱攪拌した。その後、室温まで放冷した後、前記ナスフラスコにヘキサンを加え、ヘキサン溶液を得た。
【0076】
2.精製工程
蒸留1の条件を325℃、80Paに変更したこと以外は、比較例1と同様の手順で1145.0gの化合物4(収率42.1%)を得た。
【0077】
得られた化合物4は、薄黄色透明の液体であり、NMRおよびGCにより純度が94.3%であることが確認された。化合物4の構造を以下に示す。
【0078】
【化8】
【0079】
〔実施例4:isoC24-O-nC12-O-isoC24
1.合成工程
窒素置換を行った500mLのナスフラスコに、2-デシルテトラデカン-1-オール(216.2g)とKOH(47.0g)とを入れ、100℃で30分間加熱攪拌し、黄色~褐色の溶液を得た。得られた溶液に1,12-ジブロモドデカン(50.0g)を滴下し、滴下が完了した後に140℃まで昇温して18時間加熱攪拌した。その後、室温まで放冷した後、前記ナスフラスコにヘキサンを加え、ヘキサン溶液を得た。
【0080】
2.精製工程
蒸留1の条件を340℃、80Pa、蒸留2の条件を200℃、200Paに変更したこと以外は、比較例1と同様の手順で13.6gの化合物5(収率10.4%)を得た。
【0081】
得られた化合物5は、薄黄色透明の液体であり、NMRにより純度が97.1%であることが確認された。化合物5の構造を以下に示す。
【0082】
【化9】
【0083】
〔比較例2:isoC16-O-nC-O-isoC16
1.合成工程
窒素置換を行った500mLのナスフラスコに、2-へキシルデカン-1-オール(224.3g)とKOH(71.0g)とを入れ、100℃で30分間加熱攪拌し、黄色~褐色の溶液を得た。得られた溶液に1,4-ジブロモブタン(50.0g)を滴下し、滴下が完了した後に140℃まで昇温して18時間加熱攪拌した。その後、室温まで放冷した後、前記ナスフラスコにヘキサンを加え、ヘキサン溶液を得た。
【0084】
2.精製工程
蒸留1の条件を200℃、80Pa、蒸留2の条件を200℃、100Paに変更したこと以外は、比較例1と同様の手順で45.8gの化合物6(収率37.0%)を得た。
【0085】
得られた化合物6は、薄黄色透明の液体であり、NMRにより純度が99.1%であることが確認された。化合物6の構造を以下に示す。
【0086】
【化10】
【0087】
〔比較例3:isoC28-O-nC-O-isoC28
1.合成工程
窒素置換を行った500mLのナスフラスコに、2-ドデシルヘキサデカン-1-オール(250.0g)とKOH(47.0g)とを入れ、100℃で30分間加熱攪拌し、黄色~褐色の溶液を得た。得られた溶液に1,4-ジブロモブタン(32.9g)を滴下し、滴下が完了した後に140℃まで昇温して8時間加熱攪拌した。その後、室温まで放冷した後、前記ナスフラスコにヘキサンを加え、ヘキサン溶液を得た。
【0088】
2.精製工程
蒸留1の条件を310℃、60Pa、蒸留2の条件を200℃、100Paに変更したこと以外は、比較例1と同様の手順で51.4gの化合物7(収率38.6%)を得た。
【0089】
得られた化合物7は、黄色透明の液体であり、NMRにより純度が99.5%であることが確認された。化合物7の構造を以下に示す。
【0090】
【化11】
【0091】
〔比較例4:isoC16-O-nC-O-isoC16
1.合成工程
窒素置換を行った500mLのナスフラスコに、2-へキシルデカン-1-オール(198.8g)とKOH(62.9g)とを入れ、100℃で30分間加熱攪拌し、黄色~褐色の溶液を得た。得られた溶液に1,6-ジブロモヘキサン(50.0g)を滴下し、滴下が完了した後に140℃まで昇温して24時間加熱攪拌した。その後、室温まで放冷した後、前記ナスフラスコにヘキサンを加え、ヘキサン溶液を得た。
【0092】
2.精製工程
蒸留1の条件を250℃、100Pa、蒸留2の条件を200℃、100Paに変更したこと以外は、比較例1と同様の手順で26.5gの化合物8(収率22.9%)を得た。
【0093】
得られた化合物8は、無色透明の液体であり、NMRにより純度が97.8%であることが確認された。化合物8の構造を以下に示す。
【0094】
【化12】
【0095】
〔比較例5:isobC16-O-nC-O-isobC16
1.合成工程
窒素置換を行った500mLのナスフラスコに、ファインオキソコール160N(日産化学社製)(198.8g)とKOH(62.9g)とを入れ、100℃で30分間加熱攪拌し、黄色~褐色の溶液を得た。得られた溶液に1,6-ジブロモヘキサン(50.0g)を滴下し、滴下が完了した後に140℃まで昇温して24時間加熱攪拌した。その後、室温まで放冷した後、前記ナスフラスコにヘキサンを加え、ヘキサン溶液を得た。
【0096】
2.精製工程
蒸留1の条件を250℃、100Pa、蒸留2の条件を200℃、100Paに変更したこと以外は、比較例1と同様の手順で6.8gの化合物9(収率5.9%)を得た。
【0097】
得られた化合物9は、無色透明の液体であり、NMRにより純度が99.5%であることが確認された。化合物9の構造を以下に示す。なお、下記式中、C16は分岐を1つ以上含むが、分岐の正確な位置および数は不明である。
【0098】
【化13】
【0099】
〔実施例5:isoC20またはisoC24-O-nC-O-isoC20またはisoC24
1.合成工程
窒素置換を行った500mLのナスフラスコに、2-デシルテトラデカン-1-オール(142.5g)と、2-オクチルドデカン-1-オール(120.0g)と、KOH(63.1g)とを入れ、100℃で30分間加熱攪拌し、黄色~褐色の溶液を得た。得られた溶液に1,6-ジブロモヘキサン(43.4g)を滴下し、滴下が完了した後に140℃まで昇温して18時間加熱攪拌した。その後、室温まで放冷した後、前記ナスフラスコにヘキサンを加え、ヘキサン溶液を得た。
【0100】
2.精製工程
蒸留1の条件を310℃、20Pa、蒸留2の条件を200℃、70Paに変更したこと以外は、比較例1と同様の手順で59.2gの化合物10(収率40.0%)を得た。
【0101】
得られた化合物10は、無色透明の液体であり、NMRにより純度が99.1%であることが確認された。化合物10は以下に示す物質を含む混合物である。
【0102】
【化14】
【0103】
【化15】
【0104】
【化16】
【0105】
〔比較例6:isoC28-O-nC-O-isoC28
1.合成工程
窒素置換を行った500mLのナスフラスコに、2-ドデシルヘキサデカン-1-オール(250.0g)とKOH(46.9g)とを入れ、100℃で30分間加熱攪拌し、黄色~褐色の溶液を得た。得られた溶液に1,6-ジブロモヘキサン(37.1g)を滴下し、滴下が完了した後に140℃まで昇温して21時間加熱攪拌した。その後、室温まで放冷した後、前記ナスフラスコにヘキサンを加え、ヘキサン溶液を得た。
【0106】
2.精製工程
上記の合成工程で得られた、ヘキサン溶液を3MのHCl水溶液を用いて洗浄し、次いで水を用いて洗浄した。次に、MgSOおよび活性白土を加え、室温で15分間攪拌した。その後、ろ過によって固形物を除去し、エバポレーターを用いてヘキサンを除去した。得られた残留物を、320℃、80Paの条件で蒸留することにより、未反応物およびモノエーテル体を除去した。蒸留釜残に対し、活性白土を加えて100℃で2時間攪拌した後、キョーワード(登録商標)1000sを加えて100℃で1.5時間攪拌した。その後、ろ過することによって固形物を除去し、38.4gの化合物11(収率28.0%)を得た。
【0107】
得られた化合物11は、黄色透明の液体であったが、室温(20℃)で固化した。H-NMRにより純度が96.8%であることが確認された。化合物11の構造を以下に示す。
【0108】
【化17】
【0109】
〔比較例7:nC20-O-nC-O-nC20
1.合成工程
窒素置換を行った200mLのナスフラスコに、1-エイコサノール(50.0g)とKOH(12.9g)とを入れ、100℃で30分間加熱攪拌し、黄色~褐色の溶液を得た。得られた溶液に1,6-ジブロモヘキサン(37.1g)を滴下し、滴下が完了した後に140℃まで昇温して21時間加熱攪拌した。その後、室温まで放冷した後、前記ナスフラスコにヘキサンを加え、ヘキサン溶液を得た。
【0110】
2.精製工程
比較例6と同様の手順で3.0gの化合物12(収率7.9%)を得た。
【0111】
得られた化合物12は、黄色透明の液体であったが、室温(20℃)で固化した。H-NMRにより純度が99.9%であることが確認された。化合物12の構造を以下に示す。
【0112】
【化18】
【0113】
〔比較例8:isoC24-O-isoC24
1.合成工程
窒素置換を行った500mLのナスフラスコに、2-デシルテトラデカン-1-オール(100.0g)とp-トルエンスルホン酸一水和物(1.01g)とを入れ、200℃まで昇温し18時間加熱攪拌した。
【0114】
2.精製工程
上記の合成工程で得られた溶液に、活性白土とキョーワード(登録商標)1000sを加え、室温で30分間攪拌した。その後、ろ過によって固形物を除去し、次いで、310℃、20Paの条件で蒸留することにより未反応物を除去した。蒸留釜残に対し、活性白土を加えて100℃で2時間攪拌した後、キョーワード(登録商標)1000sを加えて100℃で1.5時間攪拌した。その後、ろ過することによって固形物を除去し、46.2gの化合物13(収率23.7%)を得た。
【0115】
得られた化合物13は、黄色透明の液体であったが、室温で固化した。H-NMRにより純度が99.9%であることが確認された。化合物13の構造を以下に示す。
【0116】
【化19】
【0117】
〔比較例9〕
ポリα-オレフィン(PAO)8(ExxonMobil社製のSpectrasyn8)を、化合物14として使用した。
【0118】
〔比較例10〕
PAO10(ExxonMobil社製のSpectrasyn10)を、化合物15として使用した。
【0119】
【表1】
【0120】
表1より、実施例は室温(20℃)で液体であり、かつ、比較例と比較して、40℃動粘度、100℃動粘度、VI、低アウトガス性、低残渣性、塩素濃度、臭素濃度、およびDLCとの低親和性に優れていることが確認できた。より具体的には以下に説明する。
【0121】
比較例9および比較例10は従来磁気ヘッド駆動装置用グリース基油として用いられていたPAOである。比較例9、10と比較して実施例1~5は、VI、低残渣性に優れるため、潤滑剤基油として適することが確認できた。さらに、従来よりも低アウトガス性、DLCとの低親和性、長期安定性、および低残渣性に優れる磁気ヘッド駆動装置用グリース基油であることが分かった。
【0122】
比較例1はR~Rの炭素数の合計は条件を満たしているが、Rの炭素数が5未満である。比較例1は室温で固体となったことから、磁気ヘッド駆動装置用グリース基油として不適であった。
【0123】
実施例1と比較例1とを比較すると、Rの炭素数が5以上であることにより、室温で液体であることが確認できた。また、比較例1~比較例3の結果から、RおよびRの炭素数が多いと室温で固体になりやすくなることが推定される。しかし、Rの炭素数が5以上であることにより、RおよびRの炭素数がそれぞれ20以上であっても室温で液体となり、グリース基油として好適であることが確認できた。また、Rが直鎖である実施例1と、Rに分岐がある実施例2は、共に良好な結果を示すことが確認できた。
【0124】
比較例4、5はRおよびRの炭素数が20未満であり、R~Rの炭素数の合計が50未満である。比較例4、5の結果から、RおよびRの分岐の数に関わらず、RおよびRの炭素数およびR~Rの炭素数の合計が条件を満たしていない場合、40℃動粘度、100℃動粘度、およびVIが低く、アウトガス分検出量が大きくなることが確認された。さらに、DLCとの親和性が高く、DLC上で液滴を形成しないことが確認できた。
【0125】
比較例2はRの炭素数が5未満であり、RおよびRの炭素数が20未満であり、R~Rの炭素数の合計が50未満である。R~Rの炭素数が条件を満たしていない場合、40℃動粘度、100℃動粘度、VI、アウトガス分検出量、およびDLCに対する低親和性を満たさないことが確認できた。
【0126】
比較例6はRおよびRの炭素数が24超である。比較例6は室温で固体となったことから、磁気ヘッド駆動装置用グリース基油として不適であることが確認できた。
【0127】
の炭素数が同じである実施例3と比較例4~6とを比較すると、実施例3はRおよびRの炭素数がそれぞれ20~24であることにより、40℃動粘度、100℃動粘度、およびVIに優れ、またアウトガス分検出量が低減することが確認できた。
【0128】
比較例3はR~Rの炭素数の合計は条件を満たしているが、Rの炭素数が5未満であり、RおよびRの炭素数が24超である。比較例3は室温で固体となったことから、磁気ヘッド駆動装置用グリース基油として不適であることが確認できた。ゆえに、R~Rの炭素数の合計が条件を満たしていても、R~Rのそれぞれの炭素数が条件を満たさなければ物性を満足しないことが確認できた。
【0129】
比較例7はRおよびRが直鎖状である。比較例7は室温で固体となったことから、磁気ヘッド駆動装置用グリース基油として不適であることが確認できた。よって、その他の条件を満たしていたとしても、RおよびRの少なくともどちらか一方が分岐状でなければ、磁気ヘッド駆動装置用グリース基油として不適であると示唆される。
【0130】
比較例8はモノエーテル化合物である。比較例8は室温で固体となったことから、モノエーテル化合物は磁気ヘッド駆動装置用グリース基油として不適であることが確認できた。
【0131】
実施例5の結果から、RおよびRの炭素数が異なっていても、R~Rが条件を満たせば良好な物性を示すことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明の一態様は、潤滑剤用基油、グリース基油等の分野で使用可能である。
図1