(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000629
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】作業車
(51)【国際特許分類】
F16H 61/00 20060101AFI20231226BHJP
F16D 25/06 20060101ALI20231226BHJP
B60K 17/06 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
F16H61/00
F16D25/06
B60K17/06 D
B60K17/06 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099420
(22)【出願日】2022-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】陣内 篤史
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 竜馬
(72)【発明者】
【氏名】那花 優将
(72)【発明者】
【氏名】荒木 陸人
(72)【発明者】
【氏名】久保田 誠
【テーマコード(参考)】
3D039
3J057
3J552
【Fターム(参考)】
3D039AB12
3D039AC54
3D039AC80
3D039AD44
3J057AA03
3J057AA09
3J057BB02
3J057CA11
3J057HH04
3J057JJ02
3J552MA02
3J552MA10
3J552MA13
3J552MA26
3J552NA05
3J552NB01
3J552PA58
3J552QA42B
3J552RA02
3J552SA53
(57)【要約】
【課題】回転駆動される伝動軸の内部に形成された供給油路を介して、作動油を油圧作動部に供給する場合、油圧作動部の作動不良を抑える。
【解決手段】伝動軸38に、軸溝部71~74と、入口ポート75~78と、供給油路81~84とが設けられる。軸支持部30に、軸溝部71~74を取り囲むようにリング状に形成された外部流路85~88と、外部流路85~88に接続されるように設けられ、作動油が供給される第1供給ポート30a~30dと、外部流路85~88と軸支持部30の内周部30e,44aとに亘って設けられ、軸溝部71~74に連通する第2供給ポート55~58とが設けられる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動される伝動軸と、前記伝動軸を回転可能に支持する軸支持部と、作動油が供給されることにより作動する油圧作動部とが備えられ、
前記伝動軸に、
前記伝動軸の円周方向に沿って、前記伝動軸の外周部の全周に亘って形成された軸溝部と、
前記伝動軸の半径方向に沿って前記伝動軸の内部に形成され、前記軸溝部に接続された入口ポートと、
前記伝動軸の長手方向に沿って前記伝動軸の内部に形成され、前記伝動軸の内部で前記入口ポートに接続された供給油路とが設けられ、
前記軸支持部に、
前記軸溝部を取り囲むようにリング状に形成された外部流路と、
前記外部流路に接続されるように設けられ、作動油が供給される第1供給ポートと、
前記外部流路と前記軸支持部の内周部とに亘って設けられ、前記軸溝部に連通する第2供給ポートとが設けられ、
前記第1供給ポートに供給された作動油が、前記第1供給ポートから前記外部流路、前記第2供給ポート、前記軸溝部、前記入口ポート及び前記供給油路を通って、前記油圧作動部に供給される作業車。
【請求項2】
複数の前記第2供給ポートが、前記軸支持部の内周部の円周方向に沿って、互いに間隔を空けながら設けられている請求項1に記載の作業車。
【請求項3】
前記第1供給ポートと前記第2供給ポートとが、前記軸支持部の内周部の円周方向で、互いに異なる位置に設けられている請求項2に記載の作業車。
【請求項4】
前記外部流路における前記軸支持部の内周部の円周方向と直交する面での断面積が、前記軸溝部における前記伝動軸の円周方向と直交する面での断面積よりも、大きなものに形成されている請求項3に記載の作業車。
【請求項5】
前記軸支持部の内周部に取り付けられ、前記伝動軸を回転可能に支持することにより、前記伝動軸が前記軸支持部に回転可能に支持されるようにする円筒部材が備えられ、
前記円筒部材に、
前記軸支持部の内周部の円周方向に沿って、前記円筒部材の外周部の全周に亘って形成され、前記軸支持部の内周部とにより前記外部流路を形成する外部溝部と、
前記外部溝部と前記円筒部材の内周部とに亘って設けられ、前記軸溝部に連通する前記第2供給ポートとが設けられている請求項1~4のうちのいずれか一項に記載の作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車において、油圧クラッチ等の油圧作動部に、回転駆動される伝動軸の内部に形成された供給油路を介して作動油を供給する構成に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ポンプや制御弁からの作動油を、伝動軸の内部の供給油路を介して油圧作動部に供給する構成において、油圧ポンプや制御弁からの作動油が伝動軸の内部の供給油路に供給される部分の構成が、特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1では、作動油が供給される供給ポートが、伝動軸を回転可能に支持する軸支持部に設けられている。伝動軸において、軸溝部が伝動軸の外周部に円周方向に沿って形成され、入口ポートが軸溝部と供給油路とに亘って伝動軸の内部に形成されている。
これにより、作動油が、軸支持部の供給ポートから、伝動軸の軸溝部に供給され、伝動軸において軸溝部から入口ポートを介して供給油路に供給される。軸支持部の供給ポートと伝動軸の軸溝部とが連通していることにより、伝動軸が回転駆動されていても、作動油が軸支持部の供給ポートから伝動軸の供給油路に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-149769号公報(
図13の符号96の付近を参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、伝動軸が回転駆動されることにより、軸支持部の供給ポートに対して伝動軸の入口ポートが回転駆動されるので、伝動軸の入口ポートと軸支持部の供給ポートとが同じ位置で対向した状態と、伝動軸の入口ポートが軸支持部の供給ポートから離れた状態とが繰り返される。
【0006】
作動油が軸支持部の供給ポートから伝動軸の入口ポートに入る際の作動油の圧力損失について着目すると、伝動軸の入口ポートが軸支持部の供給ポートと同じ位置で対向した位置から少し進行した位置において、作動油の圧力損失は比較的大きくなる傾向があり、伝動軸の入口ポートが軸支持部の供給ポートから最も離れた状態では、作動油の圧力損失は比較的小さくなる傾向がある。
【0007】
これにより、伝動軸が回転駆動されると、作動油の圧力が高い状態(圧力損失が小さい状態)と、作動油の圧力が低い状態(圧力損失が大きい状態)とが繰り返されることになり、作動油の圧力に脈動が発生して、作動油が供給される油圧作動部の作動不良に発展する可能性が懸念される。
【0008】
本発明は、作業車において、回転駆動される伝動軸の内部に形成された供給油路を介して、作動油を油圧作動部に供給する場合、油圧作動部の作動不良を抑えることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の作業車は、回転駆動される伝動軸と、前記伝動軸を回転可能に支持する軸支持部と、作動油が供給されることにより作動する油圧作動部とが備えられ、前記伝動軸に、前記伝動軸の円周方向に沿って、前記伝動軸の外周部の全周に亘って形成された軸溝部と、前記伝動軸の半径方向に沿って前記伝動軸の内部に形成され、前記軸溝部に接続された入口ポートと、前記伝動軸の長手方向に沿って前記伝動軸の内部に形成され、前記伝動軸の内部で前記入口ポートに接続された供給油路とが設けられ、前記軸支持部に、前記軸溝部を取り囲むようにリング状に形成された外部流路と、前記外部流路に接続されるように設けられ、作動油が供給される第1供給ポートと、前記外部流路と前記軸支持部の内周部とに亘って設けられ、前記軸溝部に連通する第2供給ポートとが設けられ、前記第1供給ポートに供給された作動油が、前記第1供給ポートから前記外部流路、前記第2供給ポート、前記軸溝部、前記入口ポート及び前記供給油路を通って、前記油圧作動部に供給される。
【0010】
本発明によると、作動油が軸支持部の第1供給ポートに供給されると、作動油は、軸支持部の第1供給ポートから外部流路に入り、外部流路から第2供給ポートを通って、伝動軸の軸溝部に入る。伝動軸の軸溝部に入った作動油は、軸溝部から入口ポート及び供給油路を通って、油圧作動部に供給される。
【0011】
本発明によると、作動油の流れにおいて、軸支持部の第1供給ポートと伝動軸の軸溝部との間に、軸支持部の外部油路が存在する。軸支持部の外部流路は、伝動軸の軸溝部を取り囲むようにリング状に形成されているので、円周方向の長さが比較的長いものであり、比較的大きな容積を備えている。これにより、軸支持部の外部油路は、作動油の圧力損失を抑えて、作動油の圧力の急速な変化を緩和する機能を発揮すると考えられる。
【0012】
従って、作動油の圧力が高い状態(圧力損失が小さい状態)と、作動油の圧力が低い状態(圧力損失が大きい状態)とが繰り返される状態において、作動油の圧力が低い状態(圧力損失が大きい状態)から高い状態(圧力損失が小さい状態)に移行する際、作動油の圧力の急速な上昇が外部油路により緩和され、作動油の圧力が高い状態(圧力損失が小さい状態)が抑えられる。
同様に、作動油の圧力が高い状態(圧力損失が小さい状態)から低い状態(圧力損失が大きい状態)に移行する際、作動油の圧力の急速な下降が外部油路により緩和され、作動油の圧力が低い状態(圧力損失が大きい状態)が抑えられる。
【0013】
本発明によると、作動油の圧力が高い状態(圧力損失が小さい状態)及び作動油の圧力が低い状態(圧力損失が大きい状態)が抑えられることにより、作動油の圧力が高い状態(圧力損失が小さい状態)と低い状態(圧力損失が大きい状態)との差を小さくすることができるので、作動油の圧力の脈動が抑えられ、油圧作動部の作動不良を抑えることができる。
【0014】
本発明において、複数の前記第2供給ポートが、前記軸支持部の内周部の円周方向に沿って、互いに間隔を空けながら設けられていると好適である。
【0015】
本発明によると、軸支持部に複数の第2供給ポートが設けられているので、伝動軸の入口ポートと軸支持部の第2供給ポートとが同じ位置で対向した状態が、伝動軸の1回転のうちで複数回生じる。
【0016】
これにより、伝動軸の入口ポートが軸支持部の一つの第2供給ポートを通過して、作動油の圧力が高い状態(圧力損失が小さい状態)から低い状態(圧力損失が大きい状態)に移行する際、作動油の圧力があまり低下しないうちに、伝動軸の入口ポートが軸支持部の次の第2供給ポートに対向して、作動油の圧力が高い状態(圧力損失が小さい状態)となる。
【0017】
本発明によると、作動油の圧力が高い状態(圧力損失が小さい状態)からの圧力の低下が抑えられることにより、作動油の圧力が高い状態(圧力損失が小さい状態)と低い状態(圧力損失が大きい状態)との差を小さくすることができるので、作動油の圧力の脈動を抑えるという面で有利であり、油圧作動部の作動不良を抑えるという面で有利である。
【0018】
本発明において、前記第1供給ポートと前記第2供給ポートとが、前記軸支持部の内周部の円周方向で、互いに異なる位置に設けられていると好適である。
【0019】
本発明によると、軸支持部の第1供給ポートと第2供給ポートとが互いに異なる位置に設けられているので、作動油が軸支持部の第1供給ポートから外部油路に入った後、作動油が直ちに外部油路から第2供給ポートに入るような状態を防止することができる。
【0020】
これにより、軸支持部の第1供給ポートから外部油路に入った作動油を、外部油路に留め易くすることができ、外部油路において作動油の圧力の急速な変化を緩和する機能を発揮させ易くなるので、作動油の圧力の脈動を抑えるという面で有利であり、油圧作動部の作動不良を抑えるという面で有利である。
【0021】
本発明において、前記外部流路における前記軸支持部の内周部の円周方向と直交する面での断面積が、前記軸溝部における前記伝動軸の円周方向と直交する面での断面積よりも、大きなものに形成されていると好適である。
【0022】
本発明によると、軸支持部の外部油路の断面積が、伝動軸の軸溝部の断面積よりも大きなものに設定されており、軸支持部の外部流路の容積が大きなものとなっている。
これにより、軸支持部の外部油路において作動油の圧力の急速な変化を緩和する機能を発揮させ易くなるので、作動油の圧力の脈動を抑えるという面で有利であり、油圧作動部の作動不良を抑えるという面で有利である。
【0023】
本発明において、前記軸支持部の内周部に取り付けられ、前記伝動軸を回転可能に支持することにより、前記伝動軸が前記軸支持部に回転可能に支持されるようにする円筒部材が備えられ、前記円筒部材に、前記軸支持部の内周部の円周方向に沿って、前記円筒部材の外周部の全周に亘って形成され、前記軸支持部の内周部とにより前記外部流路を形成する外部溝部と、前記外部溝部と前記円筒部材の内周部とに亘って設けられ、前記軸溝部に連通する前記第2供給ポートとが設けられていると好適である。
【0024】
本発明によると、軸支持部に第1供給ポートが設けられており、軸支持部とは別部材の円筒部材が設けられて、円筒部材に外部溝部と第2供給ポートとが設けられている。
円筒部材が軸支持部の内周部に取り付けられることによって、軸支持部の内周部と円筒部材の外部溝部とにより軸支持部の外部流路が形成されるのであり、第2供給ポートが軸支持部に設けられる。
外部溝部及び第2供給ポートを円筒部材に設けることは比較的容易に行うことができるので、第1供給ポート及び第2供給ポート、外部油路を比較的容易に軸支持部に設けることができて、生産コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図2】ミッションケースの内部の伝動系を示す概略図である。
【
図3】出力軸の回転速度と無段変速装置の変速位置との関係を示す図である。
【
図4】出力軸、軸支持部及び円筒部材の付近の縦断側面図である。
【
図5】
図4において、V―V方向から視た断面図である。
【
図8】出力軸における軸溝部の付近の側面図である。
【
図9】出力軸における軸溝部の付近の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1~
図9に、作業車の一例であるトラクタが示されている。
図1において、Fは前方向を示し、Bは後方向を示し、Uは上方向を示し、Dは下方向を示している。
【0027】
(トラクタの全体構成)
図1に示すように、右及び左の前輪6と右及び左の後輪7とにより、機体5が支持されており、機体5の前部にボンネット8が設けられ、機体5の後部に運転部9が設けられている。
【0028】
機体5は、エンジン1、エンジン1の後部に連結されたフライホイルハウジング2、フライホイルハウジング2の後部に連結されたミッションケース3、エンジン1の前部に連結された前部フレーム4等を有している。
【0029】
前輪6が前部フレーム4に支持され、後輪7がミッションケース3の後部に支持されており、ボンネット8によりエンジン1が覆われている。運転部9はキャビン12により覆われており、運転座席10と前輪6を操向操作する操縦ハンドル11とが、運転部9に設けられている。
【0030】
各種の作業装置(図示せず)を連結可能なリンク機構13が、機体5の後部に設けられており、作業装置に動力を伝達するPTO軸14が、ミッションケース3の後部に設けられている。
【0031】
(ミッションケースの内部の概要)
図2に示すように、ミッションケース3に、第1遊星装置50、第2遊星装置60、無段変速装置18、伝動装置19、前後進切換装置20、後輪デフ装置22、前輪変速装置26、PTOクラッチ15及びPTO変速装置21等が設けられている。
【0032】
エンジン1の出力軸1aの動力が、クラッチ16を介して、ミッションケース3の入力軸17に伝達され、入力軸17から伝動軸31及び伝動軸32に伝達される。伝動軸32の動力が、PTOクラッチ15に伝達され、PTO変速装置21により変速操作されて、PTO軸14に伝達される。
【0033】
エンジン1の出力軸1aの動力が、クラッチ16を介して、第1遊星装置50、第2遊星装置60、無段変速装置18及び伝動装置19に伝達され変速されて、出力軸38(伝動軸に相当)に伝達される。
【0034】
出力軸38の動力は、伝動軸40から前後進切換装置20に伝達され、伝動軸32に回転可能に取り付けられた円筒状の伝動軸42から伝動軸23に伝達され、後輪デフ装置22に伝達されて、右及び左の後輪7に伝達される。
【0035】
伝動軸23の動力が、伝動軸24に伝達され、伝動軸43を介して前輪変速装置26に伝達される。前輪変速装置26の動力が、前輪出力軸45から伝動軸27を介して前輪デフ装置28に伝達され、右及び左の前輪6に伝達される。
【0036】
(第1遊星装置及び第2遊星装置、無段変速装置の構成)
図2に示すように、第1遊星装置50及び第2遊星装置60は、太陽ギヤ51,61、18a、複数の遊星ギヤ52,62、リングギヤ53,63及び共通のキャリア54を有している。第1遊星装置50の遊星ギヤ52と第2遊星装置60の遊星ギヤ62とは、キャリア54に取り付けられた円筒状の伝動軸64により互いに連結されており、第1遊星装置50及び第2遊星装置60は複合遊星装置に構成されている。
【0037】
入力軸17の動力が、伝動軸34を介して、第1遊星装置50のリングギヤ53に伝達される。
入力軸17の動力が、伝動軸31と伝動軸32とを連結する伝動ギヤ29から伝動軸35を介して無段変速装置18に伝達される。無段変速装置18は、静油圧式に構成されており、正転動力及び逆転動力を出力する。無段変速装置18の正転動力及び逆転動力が、伝動軸36を介して第1遊星装置50の太陽ギヤ51に伝達される。
【0038】
エンジン1から無段変速装置18を介して第1遊星装置50の太陽ギヤ51に伝達された動力と、エンジン1から無段変速装置18を介さずに第1遊星装置50のリングギヤ53に伝達された動力とが、第1遊星装置50及び第2遊星装置60により合成される。
【0039】
第1遊星装置50及び第2遊星装置60により合成された動力が、第2遊星装置60のリングギヤ63から出力軸37に伝達され、キャリア54から出力軸39に伝達され、第2遊星装置60の太陽ギヤ61から出力軸41に伝達される。
【0040】
(伝動装置の構成)
図2に示すように、伝動装置19は、第1クラッチCL1(油圧作動部に相当)、第2クラッチCL2(油圧作動部に相当)、第3クラッチCL3(油圧作動部に相当)、第4クラッチCL4(油圧作動部に相当)及び出力軸38等を有している。
【0041】
出力軸37の動力が第1クラッチCL1に伝達され、出力軸39の動力が第3クラッチCL3に伝達され、出力軸41の動力が第2クラッチCL2及び第4クラッチCL4に伝達される。
【0042】
第1クラッチCL1~第4クラッチCL4は、油圧多板式に構成されて、遮断状態に付勢されており、作動油が供給されることにより伝動状態に操作される。第1クラッチCL1~第4クラッチCL4が伝動状態に操作されことにより、第1クラッチCL1~第4クラッチCL4の動力が出力軸38に伝達される。
【0043】
(無段変速装置及び伝動装置による変速状態)
図3に、無段変速装置18と第1クラッチCL1~第4クラッチCL4との関係が示されており、出力軸38の回転速度V、無段変速装置18の中立位置N、無段変速装置18の正転動力の最高速度「+MAX」、無段変速装置18の逆転動力の最高速度「-MAX」が示されている。
【0044】
図2に示すように、第1クラッチCL1が伝動状態に操作されると、第1遊星装置50及び第2遊星装置60により合成された動力が、第2遊星装置60のリングギヤ63、出力軸37及び第1クラッチCL1を介して、出力軸38に伝達される。
この状態において、
図3の1速レンジに示すように、無段変速装置18が逆転動力の最高速度「-MAX」と正転動力の最高速度「+MAX」とに亘って操作されると、出力軸38の回転速度Vが零速度と速度V1との間で無段階に変速操作される。
【0045】
図2に示すように、第2クラッチCL2が伝動状態に操作されると、第1遊星装置50及び第2遊星装置60により合成された動力が、第2遊星装置60の太陽ギヤ61、出力軸41及び第2クラッチCL2を介して、出力軸38に伝達される。
この状態において、
図3の2速レンジに示すように、無段変速装置18が逆転動力の最高速度「-MAX」と正転動力の最高速度「+MAX」とに亘って操作されると、出力軸38の回転速度Vが速度V1と速度V2との間で無段階に変速操作される。
【0046】
図2に示すように、第3クラッチCL3が伝動状態に操作されると、第1遊星装置50及び第2遊星装置60により合成された動力が、キャリア54、出力軸39及び第3クラッチCL3を介して、出力軸38に伝達される。
この状態において、
図3の3速レンジに示すように、無段変速装置18が逆転動力の最高速度「-MAX」と正転動力の最高速度「+MAX」とに亘って操作されると、出力軸38の回転速度Vが速度V2と速度V3との間で無段階に変速操作される。
【0047】
図2に示すように、第4クラッチCL4が伝動状態に操作されると、第1遊星装置50及び第2遊星装置60により合成された動力が、第2遊星装置60の太陽ギヤ61、出力軸41及び第4クラッチCL4を介して、出力軸38に伝達される。
この状態において、
図3の4速レンジに示すように、無段変速装置18が逆転動力の最高速度「-MAX」と正転動力の最高速度「+MAX」とに亘って操作されると、出力軸38の回転速度Vが速度V3と速度V4との間で無段階に変速操作される。
【0048】
(前後進切換装置の構成)
図2に示すように、前後進切換装置20は、前進クラッチCLF及び後進クラッチCLR、伝動軸40,42、中継ギヤ46等を有しており、出力軸38の動力が伝動軸40に伝達される。
【0049】
前後進切換装置20において、前進クラッチCLFが伝動状態に操作されると、伝動軸40の動力が、前進クラッチCLFを介して前進状態で伝動軸42に伝達され、伝動軸42から伝動軸23を介して後輪デフ装置22に伝達される。
【0050】
前後進切換装置20において、後進クラッチCLRが伝動状態に操作されると、伝動軸40の動力が、後進クラッチCLR及び中継ギヤ46を介して後進状態で伝動軸42に伝達され、伝動軸42から伝動軸23を介して後輪デフ装置22に伝達される。
【0051】
(前輪変速装置の構成)
図2に示すように、前輪変速装置26は、標準クラッチCLT、増速クラッチCLH、伝動軸43及び前輪出力軸45等を有している。
【0052】
前輪6が直進位置から右及び左の設定角度の範囲内に操作されていると、前輪変速装置26において、標準クラッチCLTが伝動状態に操作される。
伝動軸23の動力が、伝動軸24,43及び標準クラッチCLTを介して前輪出力軸45に伝達され、伝動軸27及び前輪デフ装置28を介して前輪6に伝達されるのであり、前輪6及び後輪7が同じ速度で駆動される。
【0053】
前輪6が右及び左の設定角度を越えて右又は左に操向操作されると、前輪変速装置26において、増速クラッチCLHが伝動状態に操作される。
伝動軸23の動力が、伝動軸24,43及び増速クラッチCLHを介して前輪出力軸45に伝達され、伝動軸27及び前輪デフ装置28を介して前輪6に伝達されるのであり、前輪6が後輪7よりも高速で駆動される。
【0054】
(出力軸を支持する軸支持部の構成)
図2,4,5に示すように、出力軸38と伝動軸40とが、円筒状の連結部材25により連結されており、出力軸38の端部の付近に軸支持部30が設けられている。
【0055】
出力軸38の長手方向に沿って、軸支持部30に円筒状の開口部が開口されており、4個の供給ポート30a,30b,30c,30d(第1供給ポートに相当)が、軸支持部30に開口されて、軸支持部30の開口部の内周部30eに臨んでいる。
【0056】
軸支持部30において、供給ポート30a~30dは、軸支持部30の内周部30eの長手方向に沿って等間隔を空けて設けられている。軸支持部30の内周部30eの円周方向において、供給ポート30a,30cが同じ位相に設けられ、供給ポート30b,30dが同じ位相に設けられており、供給ポート30a,30cと供給ポート30b,30dとは異なる位相に設けられている。
【0057】
(出力軸を支持する円筒部材の構成)
図4及び
図5に示すように、円筒部材33が、軸支持部30の開口部の内周部30eに取り付けられている。
図6及び
図7に示すように、円筒部材33は、本体部44、リング部47、供給ポート55,56,57,58(第2供給ポートに相当)等を有している。
【0058】
図6及び
図7に示すように、円筒部材33において、本体部44は円筒状に構成されている。複数個のリング部47が、長手方向に沿って間隔を空けて本体部44の外周部に形成されており、本体部44の外周部とリング部47の横面部とにより、複数個の外部溝部65,66,67,68が、円筒部材33の外周部の全周に亘って形成されている。
【0059】
4個の供給ポート55が外部溝部65に設けられており、4個の供給ポート55が、本体部44の円周方向に沿って互いに等間隔を空けて配置され、外部溝部65と本体部44の内周部44aとに亘って開口されている。
【0060】
供給ポート55と同様に、4個の供給ポート56が外部溝部66に設けられ、4個の供給ポート57が外部溝部67に設けられ、4個の供給ポート58が外部溝部68に設けられている。供給ポート55~58は、本体部44の円周方向に沿って互いに同じ位相に設けられている。
【0061】
図4及び
図5に示すように、円筒部材33が軸支持部30の内周部30eに取り付けられることにより、軸支持部30の供給ポート30aが、円筒部材33の外部溝部65に接続され、円筒部材33の円周方向において、円筒部材33の隣接する供給ポート55の間に配置される。
【0062】
軸支持部30の供給ポート30bが、円筒部材33の外部溝部66に接続され、円筒部材33の円周方向において、円筒部材33の隣接する供給ポート56の間に配置される。
軸支持部30の供給ポート30cが、円筒部材33の外部溝部67に接続され、円筒部材33の円周方向において、円筒部材33の隣接する供給ポート57の間に配置される。
軸支持部30の供給ポート30dが、円筒部材33の外部溝部68に接続され、円筒部材33の円周方向において、円筒部材33の隣接する供給ポート58の間に配置される。
【0063】
(出力軸の構成)
図8及び
図9に示すように、出力軸38の端部において、複数個のリング部48が、出力軸38の長手方向に沿って間隔を空けて出力軸38の外周部に形成されている。リング部48によって、複数個の軸溝部71,72,73,74が、出力軸38の円周方向に沿って、出力軸38の外周部の全周に亘って形成されている。
【0064】
図4,8,9に示すように、複数個の入口ポート75,76,77,78が、出力軸38の半径方向に沿って、出力軸38の内部に形成されている。入口ポート75が軸溝部71に接続され、入口ポート76が軸溝部72に接続され、入口ポート77が軸溝部73に接続され、入口ポート78が軸溝部74に接続されている。
【0065】
図4及び
図5に示すように、入口ポート75,76は、出力軸38の円周方向で小さな間隔を空けて、互いに近接する位相に設けられている。入口ポート77,78は、出力軸38の円周方向で小さな間隔を空けて、互いに近接する位相に設けられている。入口ポート75,78は、出力軸38の円周方向で正反対の位相に設けられ、入口ポート76,77は、出力軸38の円周方向で正反対の位相に設けられている。
【0066】
図4及び
図5に示すように、潤滑油を各部に供給する油路49が、出力軸38の長手方向に沿って出力軸38の内部に形成されている。
複数の供給油路81,82,83,84が、出力軸38の長手方向に沿って出力軸38の内部に形成されている。供給油路81は、出力軸38の内部で入口ポート75に接続されており、第1クラッチCL1(
図2参照)に接続されている。
【0067】
供給油路82は、出力軸38の内部で入口ポート76に接続されており、第4クラッチCL4(
図2参照)に接続されている。
供給油路83は、出力軸38の内部で入口ポート77に接続されており、第2クラッチCL2(
図2参照)に接続されている。
供給油路84は、出力軸38の内部で入口ポート78に接続されており、第3クラッチCL3(
図2参照)に接続されている。
【0068】
(出力軸、軸支持部及び円筒部材の関係)
図6及び
図7に示すように、円筒部材33において、外部溝部65~68が、軸支持部30の内周部30eの円周方向に沿って、円筒部材33の外周部の全周に亘って形成されている。
【0069】
図4及び
図5に示すように、円筒部材33が軸支持部30の内周部30eに取り付けられることによって、軸支持部30の内周部30eと円筒部材33の外部溝部65~68とにより、複数の外部流路85,86,87,88が形成される。これにより、出力軸38(伝動軸)の軸溝部71~74を取り囲むようにリング状に形成され外部流路85~88が、軸支持部30に設けられる。
【0070】
軸支持部30の供給ポート30a~30d(第1供給ポート)が、外部流路85~88(円筒部材33の外部溝部65~68)に接続される。
円筒部材33の供給ポート55~58(第2供給ポート)が、外部流路85~88(円筒部材33の外部溝部65~68)と、円筒部材33(本体部44)の内周部44aとに亘って設けられる。
【0071】
円筒部材33が軸支持部30の内周部30eに取り付けられることによって、円筒部材33(本体部44)の内周部44a(
図7参照)が軸支持部30の内周部30eとなる。
これにより、円筒部材33の供給ポート55~58(第2供給ポート)が、外部流路85~88(円筒部材33の外部溝部65~68)と、軸支持部30の内周部30e(円筒部材33(本体部44)の内周部44a)とに亘って設けられる。
【0072】
円筒部材33の供給ポート55(第2供給ポート)が、出力軸38(伝動軸)の軸溝部71に連通する。円筒部材33の供給ポート56(第2供給ポート)が、出力軸38(伝動軸)の軸溝部72に連通する。
【0073】
円筒部材33の供給ポート57(第2供給ポート)が、出力軸38(伝動軸)の軸溝部73に連通する。円筒部材33の供給ポート58(第2供給ポート)が、出力軸38(伝動軸)の軸溝部74に連通する。
【0074】
図5,6,7に示すように、円筒部材33において、複数の供給ポート55~58(第2供給ポート)が、軸支持部30の内周部30eの円周方向に沿って、互いに間隔を空けながら設けられている。
【0075】
図5に示すように、軸支持部30の供給ポート30a~30d(第1供給ポート)が、円筒部材33の円周方向において、円筒部材33の隣接する供給ポート55~58(第2供給ポート)の間に配置されることによって、軸支持部30の供給ポート30a~30d(第1供給ポート)と、円筒部材33の供給ポート55~58(第2供給ポート)とが、軸支持部30の内周部30eの円周方向で、互いに異なる位置に設けられている。
【0076】
図4に示すように、外部流路85~88(円筒部材33の外部溝部65~68)における軸支持部30の内周部30eの円周方向と直交する面での断面積が、出力軸38の軸溝部71~74における出力軸38(伝動軸)の円周方向と直交する面での断面積よりも、大きなものに形成されている。
【0077】
(第1クラッチ~第4クラッチへの作動油の供給状態)
図4及び
図5に示すように、軸支持部30の供給ポート30a~30d(第1供給ポート)に作動油が供給されると、以下のような状態となる。
【0078】
軸支持部30の供給ポート30a(第1供給ポート)に供給された作動油が、軸支持部30の供給ポート30a(第1供給ポート)から、外部流路85(円筒部材33の外部溝部65)、円筒部材33の複数の供給ポート55(第2供給ポート)、出力軸38(伝動軸)の軸溝部71、入口ポート75及び供給油路81を通って、第1クラッチCL1(油圧作動部)(
図2参照)に供給されて、第1クラッチCL1が伝動状態に操作される。
【0079】
軸支持部30の供給ポート30b(第1供給ポート)に供給された作動油が、軸支持部30の供給ポート30b(第1供給ポート)から、外部流路86(円筒部材33の外部溝部66)、円筒部材33の複数の供給ポート56(第2供給ポート)、出力軸38(伝動軸)の軸溝部72、入口ポート76及び供給油路82を通って、第4クラッチCL4(油圧作動部)(
図2参照)に供給されて、第4クラッチCL4が伝動状態に操作される。
【0080】
軸支持部30の供給ポート30c(第1供給ポート)に供給された作動油が、軸支持部30の供給ポート30c(第1供給ポート)から、外部流路87(円筒部材33の外部溝部67)、円筒部材33の複数の供給ポート57(第2供給ポート)、出力軸38(伝動軸)の軸溝部73、入口ポート77及び供給油路83を通って、第2クラッチCL2(油圧作動部)(
図2参照)に供給されて、第2クラッチCL2が伝動状態に操作される。
【0081】
軸支持部30の供給ポート30d(第1供給ポート)に供給された作動油が、軸支持部30の供給ポート30d(第1供給ポート)から、外部流路88(円筒部材33の外部溝部68)、円筒部材33の複数の供給ポート58(第2供給ポート)、出力軸38(伝動軸)の軸溝部74、入口ポート78及び供給油路84を通って、第3クラッチCL3(油圧作動部)(
図2参照)に供給されて、第3クラッチCL3が伝動状態に操作される。
【0082】
(発明の実施の第1別形態)
円筒部材33において、1個の外部溝部65~68(外部流路85~88)に対して、供給ポート55~58を、2個又は3個設けてもよく、5個又は6個設けてもよい。
【0083】
(発明の実施の第2別形態)
円筒部材33の外部溝部65~68(外部流路85~88)の各々において、供給ポート55~58の数が異なるものであってもよい。
円筒部材33の外部溝部65~68(外部流路85~88)の各々において、円筒部材33の円周方向で、供給ポート55~58を互いに異なる位相に設けてもよい。
円筒部材33の供給ポート55~58を、円筒部材33の円周方向で、不等間隔に設けてもよい。
【0084】
(発明の実施の第3別形態)
図4~
図9に示す構成、(発明の実施の第1別形態)(発明の実施の第2別形態)を、前後進切換装置20の前進クラッチCLF及び後進クラッチCLRに対して適用してもよく、前輪変速装置26の標準クラッチCLT及び増速クラッチCLHに適用してもよい。
【0085】
この場合、油圧作動部が2個になるので、軸支持部30に2個の供給ポート30a,30bが設けられる。円筒部材33に、2個の外部溝部65,66(外部流路85,86)及び2組の供給ポート55,56が設けられる。伝動軸40,43に、2個の軸溝部71,72、2個の入口ポート75,76及び2個の供給油路81,82が設けられる。
【0086】
(発明の実施の第4別形態)
図4~
図9に示す構成、(発明の実施の第1別形態)(発明の実施の第2別形態)を、PTOクラッチ15に対して適用してもよい。
【0087】
この場合、油圧作動部が1個になるので、軸支持部30に1個の供給ポート30aが設けられる。円筒部材33に、1個の外部溝部65(外部流路85)及び1組の供給ポート55が設けられる。伝動軸32に、1個の軸溝部71、1個の入口ポート75及び1個の供給油路81が設けられる。
【0088】
(発明の実施の第5別形態)
円筒部材33を廃止してもよい。この構成によると、軸支持部30に供給ポート30a~30dが設けられることに加えて、外部流路85~88及び供給ポート55~58が、軸支持部30に直接に開口される。
【0089】
作動油を供給油路81~84から油圧クラッチに供給する構成ではなく、ギヤ変速装置の変速ギヤをスライド操作する油圧操作部(油圧作動部に相当)に、供給油路81~84を介して作動油を供給するように構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、トラクタばかりではなく、コンバインや乗用型田植機等の農業用の作業車にも適用でき、バックホウやホイルローダ等の建設用の作業車にも適用できる。
【符号の説明】
【0091】
30 軸支持部
30a~30d 供給ポート(第1供給ポート)
30e 内周部
33 円筒部材
38 出力軸(伝動軸)
44a 内周部
55~58 供給ポート(第2供給ポート)
65~68 外部溝部
71~74 軸溝部
75~78 入口ポート
81~84 供給油路
85~88 外部流路
CL1 第1クラッチ(油圧作動部)
CL2 第2クラッチ(油圧作動部)
CL3 第3クラッチ(油圧作動部)
CL4 第4クラッチ(油圧作動部)