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特開2024-6292ゼオライトガス分離膜の製造方法及びゼオライトガス分離膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006292
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ゼオライトガス分離膜の製造方法及びゼオライトガス分離膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20240110BHJP
   C01B 39/36 20060101ALI20240110BHJP
   C01B 39/02 20060101ALI20240110BHJP
   C01B 32/182 20170101ALI20240110BHJP
   C01B 32/198 20170101ALI20240110BHJP
【FI】
B01D71/02 500
C01B39/36
C01B39/02
C01B32/182
C01B32/198
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022107043
(22)【出願日】2022-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本間 信孝
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 順三
(72)【発明者】
【氏名】金子 克美
(72)【発明者】
【氏名】大塚 隼人
【テーマコード(参考)】
4D006
4G073
4G146
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006MA03
4D006MB04
4D006MC03X
4D006MC05X
4D006NA50
4D006NA51
4D006NA54
4D006PA01
4D006PB17
4D006PB62
4D006PB63
4G073BA02
4G073BA62
4G073BA69
4G073BA81
4G073BD15
4G073CZ50
4G073DZ02
4G073DZ08
4G073FF02
4G073GA28
4G073GA40
4G073UA06
4G073UB40
4G146AA01
4G146AB07
4G146AC19B
4G146AC30B
4G146AD17
4G146AD31
4G146BA02
4G146BC01
4G146BC32B
4G146BC41
4G146CA11
4G146CA15
4G146CA16
4G146CB01
4G146CB11
4G146CB12
4G146CB13
4G146CB32
4G146CB37
(57)【要約】
【課題】本開示の目的は、酸素と比較して窒素の透過性に優れるゼオライトガス分離膜及び該ゼオライトガス分離膜の製造方法を提供することである。
【解決手段】本実施形態の一つは、ゼオライト微結晶体と酸化グラフェンと電荷調整剤とを含む水分散液(I)中で、ゼオライト微結晶体を酸化グラフェンで被覆する被覆工程を有し、前記水分散液(I)と同濃度の酸化グラフェン及び電荷調整剤を含む水分散液(II)のゼータ電位が-5mV~8mVである、ゼオライトガス分離膜の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト微結晶体と酸化グラフェンと電荷調整剤とを含む水分散液(I)中で、ゼオライト微結晶体を酸化グラフェンで被覆する被覆工程を有し、
前記水分散液(I)と同濃度の酸化グラフェン及び電荷調整剤を含む水分散液(II)のゼータ電位が-5mV~8mVである、ゼオライトガス分離膜の製造方法。
【請求項2】
被覆工程の後に、酸化グラフェンをグラフェンへ還元する還元工程を有する、請求項1に記載のゼオライトガス分離膜の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のゼオライトガス分離膜の製造方法で製造された、ゼオライトガス分離膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ゼオライトガス分離膜の製造方法及びゼオライトガス分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からガス分離膜として、様々な検討が行われている。例えば、特許文献1には、ゼオライト微結晶体が相互に結合してなるゼオライト分離膜であって、前記各々のゼオライト微結晶体の表面が酸化グラフェンにより被覆され、前記酸化グラフェンを介してゼオライト微結晶体が隙間なく結合されてなることを特徴とするゼオライト分離膜、並びにゼオライト微結晶体が相互に結合してなるゼオライト分離膜であって、前記各々のゼオライト微結晶体の表面がグラフェンにより被覆され、前記グラフェンを介してゼオライト微結晶体が隙間なく結合されてなることを特徴とするゼオライト分離膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-192378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、ヘリウムと窒素の混合ガスを用いた場合、特許文献1に開示されたゼオライト分離膜は、ヘリウムを選択的に透過させることが開示されている。一般にヘリウム分子のサイズが0.256nmであり、窒素分子のサイズは、0.363nmであり、特許文献1の分離作用は、ゼオライトの細孔を利用した分子サイズによる分子ふるい効果によるものと考えられる。
【0005】
一方、大気には、主に窒素が約78%、酸素が約21%含まれており、これらのガスを分離することは、工業用途、ヘルスケア用途等において、極めて有用である。しかしながら、窒素分子のサイズは0.363nmであり、酸素分子のサイズは0.338nmであり、分子サイズがかなり近いため、特許文献1に開示されたゼオライト分離膜を用いた場合であっても、分子サイズによる分子ふるい効果によって分離作用を得ることは困難であると考えられる。特に、分子サイズの大きい窒素を酸素よりも優先的に透過させ、分離することは極めて困難であると考えられる。
【0006】
そこで、本開示は、酸素と比較して窒素の透過性に優れるゼオライトガス分離膜及び該ゼオライトガス分離膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行ったところ、特定の条件でゼオライトガス分離膜を製造することにより、得られたゼオライトガス分離膜は、酸素と比較して窒素の透過性に優れることを見出し、本開示に至った。
【0008】
本実施形態の態様例は、以下の通りに記載される。
【0009】
(1) ゼオライト微結晶体と酸化グラフェンと電荷調整剤とを含む水分散液(I)中で、ゼオライト微結晶体を酸化グラフェンで被覆する被覆工程を有し、
前記水分散液(I)と同濃度の酸化グラフェン及び電荷調整剤を含む水分散液(II)のゼータ電位が-5mV~8mVである、ゼオライトガス分離膜の製造方法。
(2) 被覆工程の後に、酸化グラフェンをグラフェンへ還元する還元工程を有する、(1)に記載のゼオライトガス分離膜の製造方法。
(3) (1)又は(2)に記載のゼオライトガス分離膜の製造方法で製造された、ゼオライトガス分離膜。
【発明の効果】
【0010】
本開示により、酸素と比較して窒素の透過性に優れるゼオライトガス分離膜及び該ゼオライトガス分離膜の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施形態のゼオライトガス分離膜の製造方法、及びゼオライトガス分離膜について詳細に説明する。
【0012】
(ゼオライトガス分離膜の製造方法)
本実施形態のゼオライトガス分離膜の製造方法は、ゼオライト微結晶体と酸化グラフェンと電荷調整剤とを含む水分散液(I)中で、ゼオライト微結晶体を酸化グラフェンで被覆する被覆工程を有し、前記水分散液(I)と同濃度の酸化グラフェン及び電荷調整剤を含む水分散液(II)のゼータ電位が-5mV~8mVである、ゼオライトガス分離膜の製造方法である。
【0013】
本実施形態のゼオライトガス分離膜の製造方法では、ゼオライト微結晶体と酸化グラフェンと電荷調整剤とを含む水分散液(I)中で、ゼオライト微結晶体を酸化グラフェンで被覆する被覆工程を行うが、水分散液(I)における酸化グラフェンと電荷調整剤との量(濃度)を調整することにより、水分散液(II)のゼータ電位を-5mV~8mVとすることに特徴がある。本発明者らの検討によると、水分散液(II)のゼータ電位が前記範囲となる場合には、酸素と比較して窒素の透過性に優れるゼオライトガス分離膜が得られることが見出された。なお、本実施形態において、別に規定した場合を除き、酸素は酸素ガスと同義であり、窒素は窒素ガスと同義である。また、酸素又は窒素の分子に着目する場合には、それぞれ酸素分子又は窒素分子と記す。
【0014】
本実施形態において、水分散液(II)は、水分散液(I)と同濃度の酸化グラフェン及び同濃度の電荷調整剤を含む水分散液であり、水、酸化グラフェン、電荷調整剤以外の成分を意図的に添加することなく、調製された水分散液である。なお、水分散液(II)に含まれる酸化グラフェン、電荷調整剤としては、水分散液(I)と同種のものが使用される。また、水分散液(II)は、水、酸化グラフェン、電荷調整剤以外の成分を不純物として少量含むことは許容される。
【0015】
(ゼオライト微結晶体)
本実施形態に用いられるゼオライト微結晶体を構成するゼオライトとしては、特に制限はなく、MFI、BEA、F9、13X等のゼオライトであればよい。ゼオライト微結晶体の粒子径としては、特に制限されるものではないが、複数枚のグラフェン(10nm~数十nm程度の大きさ)で包接できるものであればよい。ゼオライト微結晶体の粒子径としては、一次粒子径が、例えば0.1μm~3μm、好ましくは1μm~2μmである。
【0016】
(酸化グラフェン)
本実施形態のゼオライトガス分離膜は、通常ゼオライト微結晶体がグラフェンに包接された構造を有する。ゼオライト微結晶体を包接するグラフェンは、通常はゼオライト微結晶体を酸化グラフェンで包接し、包接後に酸化グラフェンを還元することにより得られる。
【0017】
本実施形態に用いられる酸化グラフェンとしては特に制限はないが、酸化グラフェンとして、一般的に市販されているものでもよく、改良ハマーズ法、例えば「Daniela C. Marcano, Dmitry V. Kosynkin, Jacob M. Berlin, Alexander Sinitskii, Zhengzong Sun, Alexander Slesarev, Lawrence B. Alemany, Wei Lu, and James M. Tour Improved Synthesis of Graphene Oxide. ACS Nano 2010, 4, 8, 4806-4814」に開示されている方法や、実施例に開示されている方法で作製したものでもよい。
【0018】
(電荷調整剤)
本実施形態に用いられる電荷調整剤は、共に負の帯電を有するゼオライト微結晶体と、酸化グラフェン又はグラフェンとの静電反発を防ぎ、ゼオライト微結晶体の表面に酸化グラフェン又はグラフェンが被覆されやすいようにする役割がある。電荷調整剤としては、水に可溶な塩がよく、具体的には塩化アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、シュウ酸ナトリウム等の有機塩が好ましい。
【0019】
(ゼータ電位)
ゼータ電位は例えば、Malvern Instruments社製 Zetasizer nano ZS90を用い電気泳動法にて測定することができる。水分散液(I)と同濃度の酸化グラフェン及び電荷調整剤を含む水分散液(II)のゼータ電位は、水分散液(I)を調製する度に、水分散液(II)を調製し、測定してもよい。また、酸化グラフェンの濃度を一定にし、電荷調整剤の濃度を変化させた水分散液を複数調製し、各水分散液のゼータ電位を測定することにより、ある酸化グラフェン濃度における、電荷調整剤の濃度とゼータ電位との関係を求めた検量線を作成し、該検量線を、複数の酸化グラフェン濃度について作成することにより、計算により、水分散液(II)のゼータ電位を算定してもよい。
【0020】
水分散液(II)のゼータ電位は、-5mV~8mVであり、好ましくは-5mV~7mVであり、より好ましくは-5mV~6mVである。ゼータ電位が前記範囲内であると窒素分離能向上の観点で好ましい。
【0021】
(被覆工程)
本実施形態のゼオライトガス分離膜の製造方法は、ゼオライト微結晶体と酸化グラフェンと電荷調整剤とを含む水分散液(I)中で、ゼオライト微結晶体を酸化グラフェンで被覆する被覆工程を有する。
被覆工程に用いるゼオライト微結晶体、酸化グラフェン、電荷調整剤及び水の量としては、水分散液(II)のゼータ電位が、前記範囲内になる量であればよく、特に制限はない。
【0022】
本検討においては、ゼオライトの重量(例えば50mg)に対し、後述する酸化グラフェンの見掛け層数に合わせて0.1wt%程度、実施例、比較例では0.0289wt%の酸化グラフェンの水分散液の量を決定し、また適切なゼータ電位に合わせるように電荷調整剤の量を水溶液として0.0001mol/L~1mol/L、例えば0.0320mol/L~0.080mol/Lの範囲で調整して混合させることにより被覆工程を行った。
【0023】
被覆工程を行う前に、ゼオライト微結晶体の凝集を解消する工程を設けてもよい。例えば、市販のゼオライト微結晶体は粒子同士が凝集(2次凝集)している場合があるが、このような場合には凝集体をほぐすことが好ましい。例えば、市販のゼオライト微結晶体に少量の水を加え、超音波を照射することで好適に凝集をなくし、ゼオライト微結晶体分散液を得ることができる。超音波を照射する場合には、ゼオライト微結晶体の量にもよるが超音波強度は100W~200W程度、照射時間は5~20分程度が好ましい。
【0024】
被覆工程は、例えば上述の超音波処理により得られたゼオライト微結晶体分散液に、所定濃度の電荷調整剤及び酸化グラフェンを添加することにより行うことができる。添加から時間が経つと電荷調整剤の効果によりゼオライト微結晶体の周りに酸化グラフェンが被覆されていく。被覆工程においてゼオライト微結晶体の量と酸化グラフェンの添加量を調整することによりゼオライト微結晶体に被覆される酸化グラフェンの見掛け層数を調整することができる。ここで、酸化グラフェンの見掛け層数は下記式により算出することができる。
【0025】
見掛け層数=SGO/Szeolite
GO:酸化グラフェンの表面積
GO=[酸化グラフェンの添加量(g)]/[グラフェン密度(2.05g/cm)×グラフェン層厚み(0.35nm)]
zeolite:ゼオライト微結晶体の外表面積
【0026】
(還元工程)
本実施形態のゼオライトガス分離膜の製造方法は、通常被覆工程の後に、酸化グラフェンをグラフェンへ還元する還元工程を有する。還元工程を行うことにより、グラフェンで被覆されたゼオライト微結晶体(グラフェン包接ゼオライト微結晶体)を得ることができる。
【0027】
酸化グラフェンをグラフェンへ還元する方法としては、例えばドライ法及びウエット法が挙げられ、いずれも酸化グラフェンで被覆されたゼオライト微結晶体を、還元雰囲気下に晒すことで、グラフェンの還元を行うことができる。
【0028】
ドライ法では被覆工程で得られた酸化グラフェン包接ゼオライト微結晶体(酸化グラフェンで被覆されたゼオライト微結晶体)を乾燥させ、その後加熱処理することにより還元を行う。加熱処理時の雰囲気は真空又は不活性ガス(窒素、アルゴン等)が好ましいが、酸素が少ない状態ならば特に問題なく、グラフェンが燃焼・消失しないように乾燥空気を流しながら加熱してもよい。加熱温度は300℃~400℃が好ましく、更に好ましくは340℃~380℃である。また還元前の乾燥処理は、還元処理における還元作用が進行しやすいように嵩密度が低い方がよく、例えばフリーズドライ法やスプレードライ法が好ましい。
【0029】
ウエット法では被覆工程で得られた酸化グラフェン包接ゼオライト微結晶体の分散液中に還元剤を添加する。分散液中に投入する還元剤は例えばヒドラジン、ギ酸、シュウ酸、没食子酸等の有機物、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ジイソブチルアルミニウム等の無機物を使用することができる。
【0030】
(成形工程)
本実施形態のゼオライトガス分離膜の製造方法は、通常還元工程の後に、グラフェン包接ゼオライト微結晶体を成形し、ゼオライトガス分離膜を得る工程を有する。
【0031】
グラフェン包接ゼオライト微結晶体を成形する方法としては、特に制限はなく、各種成形方法により所望の形状に成形することができる。例えば、乾燥後のグラフェン包接ゼオライト微結晶体をそのまま圧縮して平板状に成形したり、又は、ろ紙などのポーラス状の担持物(フィルタ)で分散体をろ過することでシート状に成形したりすることが可能である。
【0032】
(ゼオライトガス分離膜)
本実施形態のゼオライトガス分離膜は、上述のゼオライトガス分離膜の製造方法により製造される。本実施形態のゼオライトガス分離膜は、通常ゼオライト微結晶体の表面がグラフェンにより被覆され、前記グラフェンを介してゼオライト微結晶体が隙間なく結合された構造を有する。本実施形態のゼオライトガス分離膜は、酸素と比較して窒素の透過性に優れるため、酸素及び窒素を含む混合ガス、例えば大気、から酸素と窒素とを分離するために用いることが可能である。また、上述のゼオライトガス分離膜の製造方法により製造されるため、ゼオライトガス分離膜にはクラック等の欠陥がなく、好ましい。
【0033】
分子サイズの近い酸素と窒素とを分離可能な膜、しかも分子サイズの大きい窒素を透過させることにより分離することが可能な膜は、従来技術では極めて実現が困難であり、本実施形態のゼオライトガス分離膜は、有用性が高い。この理由は明らかではないが、本発明者らは、酸化グラフェンを還元させて得られた被覆グラフェンは多数のホール(ナノウインドウ)が存在するが、ホールの周囲(エッジ部)に存在する極性官能基によってホール内には電荷の偏りが存在する。窒素分子と、酸素分子とでは、瞬間的な分極(瞬間双極子)が窒素分子の方が大きく、このため、窒素分子の方がグラフェンの電荷の偏りが存在するホールを透過することが容易であるため、また本発明のゼータ電位範囲を発現する電荷調整剤が窒素分子の選択性に最適な範囲となるようにホール内の電荷量を調整しているためと、推測した。
【0034】
本実施形態のゼオライトガス分離膜のガス透過性は、例えば、平板状に成形したゼオライトガス分離膜を用いてガス透過量測定を行うことにより評価することができる。分離膜に窒素及び酸素をそれぞれ単独で流し、単位量のガスが分離膜を透過したときの透過時間を計測することにより、各ガス種の透過速度(例えば、透過率、透過係数)を算出することができる。
【0035】
また、本実施形態のゼオライトガス分離膜の透過ガスの選択率は下記式により算出することができる。なお、透過ガスの選択率を、「ガス選択率」、又は単に「選択率」とも記す。
ゼオライトガス分離膜のガス選択率(O/N)=[酸素の透過速度]/[窒素の透過速度]
【実施例0036】
以下、実施例を挙げて本実施形態を説明するが、本開示はこれらの例によって限定されるものではない。なお、酸化グラフェンをGOとも記す。また、製造例、実施例、比較例において、分散液と記載した場合には、水分散液を意味する。
【0037】
[製造例1]
酸化グラフェンの作製
酸化グラフェンは、マダガスカル産のグラファイトを使用し、改良ハマーズ法により以下の方法で作製した。
【0038】
1. ビーカーにグラファイト(2g)を入れた。
2. ビーカーに硫酸(98%、80mL)とリン酸(9mL)を加えた。
3. ビーカーに過マンガン酸カリウム(10g)を加えた。
4. 約38℃で4時間、250rpmで攪拌した。
5. 攪拌後、水で希釈した。
6. 過酸化水素(15%、40mL)を添加した。
7. 5%塩酸水で5回洗浄した。
8. 水で5回洗浄した。
9. 上澄み液中の酸化グラフェン分散液(GO分散液)(GOD)を回収した。
【0039】
[実施例1~4、比較例1~10]
(ゼオライトガス分離膜(グラフェン包接ゼオライトから形成される分離膜)の製造)
1. ゼオライト(東ソー製MFI)50mgを水4mlに分散させ、150Wで1分間超音波洗浄した。
2. 超音波処理したゼオライト分散液(ゼオライト微結晶体分散液)に、NHClを加えた。
3. GO分散液を加え、速やかに激しく振った。
4. 数日間放置した。
5. 析出物をデカンテーションにより回収し、フリーズドライを行った。
6. フリーズドライを行った析出物中の酸化グラフェンを、熱還元(昇温速度1℃/min、350℃で30分間保持、アルゴン雰囲気)した。
7. グラフェン/ゼオライト微結晶体10mgを18kNでプレス(φ=5mm)し、ゼオライトガス分離膜を得た。
8. ゼオライトガス分離膜を孔が開いたアクリル板に載せ、ゼオライトガス分離膜の周囲をエポキシ系接着剤で固定した。
【0040】
(ガス透過速度、選択率量測定)
ゼオライトガス分離膜をアクリル板に接着剤で固定したものを測定サンプルとして使用した。測定ガスがアクリル板の孔を通じ、ゼオライトガス分離膜に通じることでガス透過測定を行った。
【0041】
分離膜に窒素および酸素をそれぞれ単独で流し、単位量のガスが分離膜を透過したときの透過時間を計測して各ガス種の透過率、透過係数等を算出した。なお、測定雰囲気の温度(実施例は15~25℃で実施)、気圧を測定し、更にゼオライトガス分離膜の面積を測定し、これらからガス透過率、透過係数等を算出した。
透過ガスの選択率は下記式により算出した。
ゼオライトガス分離膜のガス選択率(O/N)=[酸素の透過速度]/[窒素の透過速度]
【0042】
ゼオライトガス分離膜の詳細な製造条件及び得られたゼオライトガス分離膜の物性を表1、2に示す。なお、以下の表1、2において、E+n、E-nは、それぞれ10のn乗及び10の-n乗を意味する。すなわち、表1、2において、例えばE-05は10の-5乗を意味し、E+04は10の4乗を意味する。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
[参考]
参考文献1~13に開示された膜の透過率(R(O))(GPU)、透過係数(P(O))(Barrer)及び選択率(O/N)(α(O/N))を表3に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
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参考文献13: de Vos, R. M. & Verweij, H. High-Selectivity, High-Flux Silica Membranes for Gas Separation. Science 279, 1710-1711 (1998).
【0048】
表1~3より、比較例に記載の分離膜及び従来の分離膜は、選択率(O/N)が1より大きい又は1近傍であり、すなわち、酸素を優先的に透過させるか、窒素の選択性に乏しいが、本発明のゼオライトガス分離膜は選択率(O/N)が1より十分に小さく、窒素を優先的に透過させることが分かる。一般に酸素分子のサイズは0.338nmであり、窒素分子のサイズは0.363nmであり、窒素分子の方が酸素分子よりも大きい。本発明のゼオライトガス分離膜は、分子サイズの大きな窒素を優先的に透過させることができる極めて特殊な性質を有することが表1~3より示唆された。
【0049】
本明細書中に記載した数値範囲の上限値及び/又は下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。例えば、数値範囲の上限値及び下限値を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、数値範囲の上限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、また、数値範囲の下限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
【0050】
以上、本実施形態を詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本開示に含まれるものである。