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特開2024-62921リパーゼ阻害活性を有する米糠アルカロイドおよびその薬用塩またはエステル化誘導体、並びにその調製方法および応用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062921
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】リパーゼ阻害活性を有する米糠アルカロイドおよびその薬用塩またはエステル化誘導体、並びにその調製方法および応用
(51)【国際特許分類】
   C07D 215/50 20060101AFI20240501BHJP
   A61K 31/47 20060101ALI20240501BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20240501BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20240501BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
C07D215/50 CSP
A61K31/47
A61P3/04
A61P3/06
A61P43/00 105
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063573
(22)【出願日】2023-04-10
(31)【優先権主張番号】202211312127.8
(32)【優先日】2022-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】520133961
【氏名又は名称】広東省農業科学院蚕業与農産品加工研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】賈栩超
(72)【発明者】
【氏名】張名位
(72)【発明者】
【氏名】張瑞芬
(72)【発明者】
【氏名】池建偉
(72)【発明者】
【氏名】黄菲
(72)【発明者】
【氏名】董麗紅
(72)【発明者】
【氏名】馬勤
(72)【発明者】
【氏名】趙東
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086AA04
4C086BC28
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA70
4C086ZC20
4C086ZC33
(57)【要約】      (修正有)
【課題】リパーゼ阻害活性を有する米糠アルカロイドおよびその薬用塩またはエステル化誘導体、並びにその調製方法を提供する。
【解決手段】本発明は、リパーゼ阻害活性を有する米糠アルカロイドおよびその薬用塩またはエステル化誘導体、並びにその調製方法および応用を開示し、当該アルカロイドは、4,6-ジヒドロキシ-2-オキソ-1,2,3,4-テトラヒドロキノリン-4-カルボン酸であり、構造式は次の式Iに示すとおりである。当該アルカロイドは、米糠から抽出された天然物であり、毒性や副作用が少なく、活性が良好であるなどの特徴を有し、in vitro薬理試験から分かるように、そのIC50値は187.1μMであり、優れた膵リパーゼ阻害活性を有し、新規な膵リパーゼ阻害薬を開発するためのリード化合物として期待されている。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リパーゼ阻害活性を有する米糠アルカロイドは、4,6-ジヒドロキシ-2-オキソ-1,2,3,4-テトラヒドロキノリン-4-カルボン酸であり、その構造は次の式Iに示すとおりであることを特徴とする、リパーゼ阻害活性を有する米糠アルカロイドおよびその薬用塩またはエステル化誘導体。
【請求項2】
以下のステップ、つまり、
S1、油脂を除去した米糠をアルコールの水溶液で浸出し、浸出後の残渣を収集するステップと、
S2、収集した残渣をアルカリ溶液で抽出し、抽出した溶液を酸性に調整して抽出液を得、その抽出液を有機溶媒で抽出し、有機相を収集し、その有機相から有機溶媒を除去して抽出物を得るステップと、
S3、前記抽出物を順相シリカゲルカラムクロマトグラフィーにかけ、クロロホルム/メタノールを溶離液としてグラジエント溶出し、体積比(90:10)~(70:30)のクロロホルム/メタノールによる溶出画分を収集するステップと、
S4、S3で収集した溶出画分をODS-A中圧カラムクロマトグラフィーにかけ、メタノール/水を溶離液としてグラジエント溶出し、体積比(20:80)~(40:60)のメタノール/水による溶出画分を収集するステップと、
S5、ステップS4で収集した溶出画分を高速液体クロマトグラフィーで分離して精製し、4,6-ジヒドロキシ-2-オキソ-1,2,3,4-テトラヒドロキノリン-4-カルボン酸を得るステップと、を含むことを特徴とする、請求項1に記載のリパーゼ阻害活性を有する米糠アルカロイドおよびその薬用塩またはエステル化誘導体の調製方法。
【請求項3】
ステップS2において、アルカリ溶液は、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムの水溶液のいずれか、または両者の組み合わせであり、前記アルカリ溶液の濃度は0.5mol/L~3mol/Lであり、前記アルカリ溶液と残渣の体積対質量比は(10~30mL):1gであり、アルカリ溶液による抽出時間は1~5hであり、前記アルカリ溶液抽出は不活性ガス雰囲気の中で行われ、溶液を酸性に調整することは、溶液のpH値を1~2に調整することであり、溶液を酸性に調整することは、塩酸または硫酸のいずれか、または両者の組み合わせを使用し、
ステップS3において、クロロホルム/メタノールを溶離液としてグラジエント溶出し、前記クロロホルムの体積百分率は、100%から60%まで10%ずつ徐々に減少し、
ステップS4において、メタノール/水を溶離液としてグラジエント溶出し、前記メタノールの体積百分率は、20%から90%まで10%ずつ徐々に増加し、
テップS5において、高速液体クロマトグラフィーによる分離は、YMC-Pack ODS-Aクロマトグラフィーカラムを用い、クロマトグラフィーカラムのサイズは20×250mmであり、粒子径は5μmであり、移動相は、体積百分率が16%のアセトニトリル溶液であり、流速は5mL/minであることを特徴とする、請求項2に記載のリパーゼ阻害活性を有する米糠アルカロイドおよびその薬用塩またはエステル化誘導体の調製方法。
【請求項4】
請求項1に記載のリパーゼ阻害活性を有する米糠アルカロイドおよびその薬用塩またはエステル化誘導体を含む医薬組成物。
【請求項5】
リパーゼ阻害薬の製造における、請求項1に記載のリパーゼ阻害活性を有する米糠アルカロイドおよびその薬用塩またはエステル化誘導体の応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然薬物の技術分野に属し、具体的には、リパーゼ阻害活性を有する米糠アルカロイドおよびその薬用塩またはエステル化誘導体、並びにその調製方法および応用に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満症は、体内でのエネルギー吸収と消費のバランスが長期的に崩れることにより、体脂肪の過剰や異常な分布、体重増加などを引き起こす慢性代謝疾患であり、現在、過体重は深刻な公衆衛生上の問題となっている。
【0003】
膵リパーゼは、体内の脂肪吸収と代謝に関与する重要な酵素であり、膵リパーゼ阻害剤は、消化器系における脂肪の分解と吸収を効果的に抑えることができるため、肥満治療の標的として注目される。臨床で一般的に使用されているオルリスタットリパーゼ阻害剤は、多くの場合、消化器系の副作用を多く伴う。しかし、天然物は、活性が良好で毒性や副作用が少ないため、リパーゼ阻害活性を持つ天然物系活性物質の供給源となる。
【発明の概要】
【0004】
従来技術の欠点を克服するために、本発明の目的の1つは、植物米糠から抽出された、リパーゼ阻害活性を有する米糠アルカロイドおよびその薬用塩またはエステル化誘導体を提供することであり、それは、性質が安定的であり、保存しやすい特徴を備え、膵リパーゼ阻害活性が高く、新規リパーゼ阻害薬を開発するためのリード化合物として期待されている。
【0005】
本発明の目的の1つは、以下のような技術的解決手段によって達成され得る。
【0006】
リパーゼ阻害活性を有する米糠アルカロイドおよびその薬用塩またはエステル化誘導体であって、前記リパーゼ阻害活性を有する米糠アルカロイドは、4,6-ジヒドロキシ-2-オキソ-1,2,3,4-テトラヒドロキノリン-4-カルボン酸であり、その構造は、次の式Iに示すとおりである。
【0007】
本発明はさらに、上記のリパーゼ阻害活性を有する米糠アルカロイドおよびその薬用塩またはエステル化誘導体の調製方法を提供し、
リパーゼ阻害活性を有する米糠アルカロイドおよびその薬用塩またはエステル化誘導体であって、以下のステップ、つまり、
S1、油脂を除去した米糠をアルコールの水溶液で浸出し、浸出後の残渣を収集するステップと、
S2、収集した残渣をアルカリ溶液で抽出し、溶液を酸性に調整して抽出液を得、その抽出液を有機溶媒で抽出し、有機相を収集し、その有機相から溶媒を除去して抽出物を得るステップと、
S3、前記抽出物を順相シリカゲルカラムクロマトグラフィーにかけ、クロロホルム/メタノールを溶離液としてグラジエント溶出し、体積比(90:10)~(70:30)のクロロホルム/メタノールによる溶出画分を収集するステップと、
S4、S3で収集した溶出画分をODS-A中圧カラムクロマトグラフィーにかけ、メタノール/水を溶離液としてグラジエント溶出し、体積比(20:80)~(40:60)のメタノール/水による溶出画分を収集するステップと、
S5、ステップS4で収集した画分を高速液体クロマトグラフィーで分離して精製し、4,6-ジヒドロキシ-2-オキソ-1,2,3,4-テトラヒドロキノリン-4-カルボン酸を得るステップと、を含む。
【0008】
さらに、ステップS1において、油脂は亜臨界抽出によって除去され、亜臨界抽出用の溶媒はC3~C6のアルカンであり、好ましくは、本発明において抽出剤としてはブタンが選択される。アルコールの水溶液は、メタノールまたはエタノール水溶液であり、アルコールの水溶液におけるアルコールの体積は75%~95%であり、好ましくは、アルコールの水溶液におけるアルコールの体積は95%~85%であり、さらに好ましくは、アルコールの水溶液におけるアルコールの体積は90%~95%である。
【0009】
さらに、ステップS2において、アルカリ溶液は、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムの水溶液のいずれか、または両者の組み合わせであり、前記アルカリ溶液の濃度は0.5mol/L~3mol/Lであり、前記アルカリ溶液と残渣の体積対質量比は(10~30mL):1gであり、アルカリ溶液による抽出時間は1~5hであり、前記アルカリ溶液抽出は不活性ガス雰囲気の中で行われる。好ましくは、アルカリ溶液の濃度は1mol/L~2.5mol/Lであり、好ましくは、アルカリ溶液の濃度は1.5mol/L~2mol/Lであり、さらに好ましくは、アルカリ溶液の濃度は2mol/Lである。抽出残渣とアルカリ溶液の物質対液体比は1g:(10~30mL)であり、好ましくは、抽出残渣とアルカリ溶液の物質対液体比は1g:20mLである。抽出時間は1~5hであり、好ましくは、抽出時間は2~4hであり、さらに好ましくは、抽出時間は3~4hである。不活性ガス雰囲気は、好ましくは窒素雰囲気である。
【0010】
さらに、ステップS2において、溶液を酸性に調整することは、溶液のpH値を1~2に調整することであり、溶液を酸性に調整することは、塩酸または硫酸のいずれか、または両者の組み合わせを使用する。好ましくは、塩酸を使用してpHを調整する。
【0011】
さらに、有機溶媒を使用して抽出し、有機溶媒としては酢酸エチルが好ましい。
【0012】
さらに、ステップS3において、クロロホルム/メタノールを溶離液としてグラジエント溶出し、前記クロロホルムの体積百分率は、100%から60%まで10%ずつ徐々に減少し、好ましくは、体積比30:70の溶離液による溶出画分を収集する。
【0013】
ステップS4において、メタノール/水を溶離液としてグラジエント溶出し、前記メタノールの体積百分率は、20%から90%まで10%ずつ徐々に増加する。好ましくは、体積比80:20のクロロホルム/メタノールの溶離液による溶出画分を収集する。
【0014】
さらに、ステップS5において、高速液体クロマトグラフィーによる分離は、YMC-Pack ODS-Aクロマトグラフィーカラムを用い、クロマトグラフィーカラムのサイズは20×250mmであり、粒子径は5μmであり、移動相は、体積百分率が16%のアセトニトリル溶液であり、流速は5mL/minである。
【0015】
本発明はさらに、医薬組成物を提供する。
【0016】
医薬組成物であって、上記のリパーゼ阻害活性を有する米糠アルカロイドおよびその薬用塩またはエステル化誘導体を含む。
【0017】
本発明はさらに、リパーゼ阻害活性を有する米糠アルカロイドおよびその薬用塩またはエステル化誘導体の応用、すなわち、
リパーゼ阻害薬の製造における、リパーゼ阻害活性を有する米糠アルカロイドおよびその薬用塩またはエステル化誘導体の応用を提供する。
【0018】
従来技術と比較して、本発明の有益な効果は次のとおりである。
【0019】
1、本発明に係るリパーゼ阻害活性を有する米糠アルカロイドおよびその薬用塩またはエステル化誘導体は、米糠から抽出された天然物であり、毒性や副作用が少なく、活性が良好であるなどの特徴を有し、in vitro薬理試験から分かるように、優れた膵リパーゼ阻害活性を有し、その半数阻害濃度は187.1μMであり、原料の供給源が広く、抽出プロセスの条件を制御でき、抽出が便利で、環境に優しく、潜在的な経済的利益を持ち、大規模の利用や生産が可能である。
【0020】
2、本発明に係る医薬組成物は、リパーゼ阻害活性を有する米糠アルカロイドおよびその薬用塩またはエステル化誘導体の有効成分を含み、かつリパーゼ阻害薬の製造における応用を実現し、当該医薬組成物は、同様に毒性や副作用が少なく、活性が良好であるなどの特徴も有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例に係る抽出物のH NMRスペクトルである。
図2】実施例に係る抽出物の13C NMRスペクトルである。
図3】実施例に係る抽出物のH-H COSYスペクトルである。
図4】実施例に係る抽出物のHSQCスペクトルである。
図5】実施例に係る抽出物のHMBCスペクトルである。
図6】実施例に係る抽出物の主要なH-H COSYおよびHMBC関連シグナルである。
図7】実施例に係る抽出物のHR-ESI-MSスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、具体的な実施例を参照しながら、本発明の技術的解決手段を明確かつ完全に説明する。実施例では、抽出用の米糠サンプルは購入した玄米を粉砕することにより製造され、使用した玄米の品種は綏粳18(Oryza sativa subsp.Japonica)であり、その他の試薬は特に指定しない場合は購入したものである。
【0023】
実施例1:
米糠を亜臨界ブタンで抽出して油脂を除去した後、95%のエタノール水溶液で浸出し、抽出液を分離して残渣を集め、抽出後の残渣に2MのNaOH溶液を1g:20mLの質量体積比で加え、窒素雰囲気の中で4時間抽出し、次に6MのHClでpHを1に調整した後、抽出液と等体積の酢酸エチルで5回抽出し、酢酸エチル相を収集し、減圧濃縮により有機溶媒を除去して抽出物を得た。
【0024】
抽出物を順相シリカゲルカラムクロマトグラフィーにかけ、100:0から60:40までの体積比のクロロホルム/メタノールでグラジエント溶出し、体積比80:20のクロロホルム/メタノールで溶出した画分を収集し、溶媒を蒸発させた後、残留物をODS-A中圧カラムクロマトグラフィーにかけ、20:80から90:10までの体積比のメタノール/水アルコールでグラジエント溶出し、体積比30:70のメタノール/水で溶出した画分を収集した後、高速液体クロマトグラフィーにより分離し、分離条件として、YMC-Pack ODS-Aクロマトグラフィーカラムを用い、クロマトグラフィーカラムのサイズを20×250mmにし、粒子径を5μmにし、体積百分率が16%のアセトニトリル溶液を移動相とし、5mL/min流速下で分離し、保持時間が62minの物質を収集して前記4,6-ジヒドロキシ-2-オキソ-1,2,3,4-テトラヒドロキノリン-4-カルボン酸を得た。
【0025】
実施例2:
米糠を亜臨界ブタンで抽出して油脂を除去した後、90%のエタノール水溶液で浸出し、抽出液を分離して残渣を集め、抽出後の残渣に3MのNaOH溶液を1g:10mLの質量体積比で加え、窒素雰囲気の中で1時間抽出し、次に3MのHClでpHを2に調整した後、抽出液と等体積の酢酸エチルで5回抽出し、酢酸エチル相を収集し、減圧濃縮により有機溶媒を除去して抽出物を得た。
【0026】
その後のクロマトグラフィーおよび高速液体クロマトグラフィー分離条件は、実施例1と同様である。
【0027】
実施例3:
米糠を亜臨界n-ペンタンで抽出して油脂を除去した後、75%のエタノール水溶液で浸出し、抽出液を分離して残渣を集め、抽出後の残渣に0.5MのNaOH溶液を1g:30mLの質量体積比で加え、窒素雰囲気の中で5時間抽出し、次に2MのHClでpHを1に調整した後、抽出液と等体積の酢酸エチルで5回抽出し、酢酸エチル相を収集し、減圧濃縮により有機溶媒を除去して抽出物を得た。
【0028】
その後のクロマトグラフィーおよび高速液体クロマトグラフィー分離条件は、実施例1と同様である。
【0029】
化合物の特性評価:
実施例1~3で得られた最終抽出物に対して、一次元および二次元の核磁気共鳴と質量分析検出を行い、結果を図1~6に示す。
【0030】
実施例1~3で得られた最終抽出物をメタノールに溶解し、紫外吸収分光法により分析したところ、その紫外吸収スペクトルの吸収ピークは、UV(MeOH)λmax(logε):205nm(3.89)、261nm(3.47)および306nm(2.89)であった。
【0031】
H(500MHz)および13C(125MHz)核磁気データを表1に示した。
【0032】
【0033】
HR-ESI-MS:m/z 224.0554[M+H]+(理論計算C1010NO 、224.0553)、246.0373[M+Na]+(理論計算C10NNaO 246.0373)。分子量は223、分子式はC10NO、不飽和度は7と確定された。プロトン核磁気共鳴スペクトル(表1)は、1つのABX結合芳香環シグナルδ6.92(1H,d,J=2.6Hz,H-5)、6.78(1H,d,J=8.5Hz,H-8)、6.72(1H,dd,J=8.5,2.6Hz,H-7)、1つのメチレンシグナルδ3.02(1H,d,J=16.1Hz,H-3a)および2.78(1H,d,J=16.1Hz,H-3b)を示した。炭素13-核磁気共鳴炭素スペクトル(表1)は、6つの芳香環炭素シグナル(δ154.7~113.8)、1つのメチレン炭素シグナルδ42.9(C-3)、2つのカルボニル炭素シグナルδ175.9(C-11)、170.6(C-2)および1つの酸素結合四級炭素シグナルδ74.8を示し、分子式に1つの窒素原子が含まれるため、構造に1つの2-キノロン親核が存在すると推測される。H-H COSYスペクトルおよび異核単一量子コヒーレンススペクトル(HSQC)に基づいて、炭化水素シグナルを帰属させ、図6に示すように、異核多結合相関スペクトル(HMBC)では、H-3はδ74.8(C-4)、127.3(C-10)、170.6(C-2)および175.9(C-11)と相関し、H-5はδ74.8(C-4)、117.3(C-7)、130.4(C-9)および154.7(C-6)と相関し、H-7はδ113.8(C-5)、130.4(C-9)、154.7(C-6)と相関し、H-8はδ74.8(C-4)、127.3(C-10)および154.7(C-6)と相関し、以上の情報から、抽出物が有する2-キノロンの親核構造の6位のベンゼン環にヒドロキシル基置換があることが確定され、実施例1~3の抽出生成物は、次の式Iに示す構造を有し、化合物の命名規則に従って4,6-ジヒドロキシ-2-オキソ-1,2,3,4-テトラヒドロキノリン-4-カルボン酸となることが分析される。
【0034】
化合物の活性評価:
(1)機器と材料
基質4-MUO 75164(4-Methylumbelliferyl oleate)およびブタ膵臓リパーゼ(EC3.1.1.3,L3126)はSigma社から購入され、リン酸緩衝液PBSはLife社(Thermo Fisher Scientific、China)から購入された。DMSO、MeOHはいずれも分析試薬であり、天津富宇精細化工有限公司から購入され、クエン酸、クエン酸ナトリウムは、天津市福晨化学試薬工場から購入された。マイクロプレートリーダーTecan GENios(Tecan Group Ltd.,Swizerland)、96ウェルプレート(Corning Costar,Cambridge,MA,USA)。
【0035】
(2)リパーゼ阻害活性の評価
96ウェル細胞培養プレートによって、実施例1で抽出した化合物のブタ膵臓リパーゼに対する阻害率を、比色法(Ercan et al,2016)で試験した。基質4-MUOは、ブタ膵臓リパーゼの作用により蛍光性の4-メチルウンベリフェロンを生成し、反応後の各ウェルの蛍光強度を測定することにより、化合物のリパーゼに対する阻害活性を判断した。試験ステップは次のとおりである。
【0036】
a)超純水で0.1Mのクエン酸-クエン酸ナトリウム緩衝液(pH=4.2)を調製し、PBS(pH=7.4)で1mg/mLのブタ膵臓リパーゼ溶液、0.1mMの4-MUO溶液、0.2MのNaCO溶液を調製した。
【0037】
b)調製した1mg/mlのブタ膵臓リパーゼ溶液を90℃のウォーターバスで20分間加熱し、酵素を失活させた。
【0038】
c)実施例1の抽出物および陽性対照(オルリスタット)をDMSOで等比率で希釈して、初期濃度が10、5、2.5、1.25、0.625、0.3125mMの被験液サンプルを得た。
【0039】
d)次の反応系に従ってサンプルを加えた(DMSO濃度は全系の5%を超えない):
サンプル群:1μLサンプル+24μLPBS+25μL酵素;
サンプルブランク群:1μLサンプル+24μLPBS+25μL不活化酵素;
陰性群:1μLDMSO+24μLPBS+25μL酵素;
陰性ブランク群:1μLDMSO+24μLPBS+25μL不活化酵素。
【0040】
サンプルを加えて均一に混合した後、各ウェルに50μLの0.1mMの反応基質4-MUOを加え、25℃の恒温培養箱で20min反応させた後、各サンプルウェルに100μLのクエン酸-クエン酸ナトリウム溶液(0.1M、pH=4.2)を加えて反応を停止させ、各ウェルの蛍光吸収値をマイクロプレートリーダーにより測定し、励起光の波長は320nmで、検出波長は450nmであった。各サンプルは少なくとも3回繰り返し、阻害率を以下の式、つまり、
阻害率(%)=[1-(Aサンプル-Aサンプルブランク)/(A陰性-A陰性ブランク)]×100で算出し、
SPSS 19.0統計分析ソフトウェアを使用して、半数阻害濃度IC50値を算出した。
【0041】
(3)膵リパーゼ阻害活性の結果:
実施例1で抽出した化合物のブタ膵臓リパーゼに対する阻害結果を表2に示した。
【0042】
【0043】
表2の結果から分かるように、本発明の実施例で抽出したリパーゼ阻害活性を有する米糠アルカロイドである4,6-ジヒドロキシ-2-オキソ-1,2,3,4-テトラヒドロキノリン-4-カルボン酸のブタ膵臓リパーゼに対する半数阻害濃度IC50値は187.1μMであるが、臨床的に常用されている既存のリパーゼ阻害剤のオルリスタットのブタ膵臓リパーゼに対する同じ試験条件での半数阻害濃度IC50値は117nMであり、このため、本発明が提供するリパーゼ阻害活性を有する米糠アルカロイドの4,6-ジヒドロキシ-2-オキソ-1,2,3,4-テトラヒドロキノリン-4-カルボン酸は、良好な膵リパーゼ阻害活性を有することが分かるようになり、膵リパーゼ阻害剤を調製するための薬物として開発されることが期待され、広い応用の可能性や市場の見通しを有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7