(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062933
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】船舶監視システム、船舶監視システムの制御方法、船舶監視システムの制御プログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 3/00 20060101AFI20240501BHJP
B63B 79/40 20200101ALI20240501BHJP
【FI】
G08G3/00 A
B63B79/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023121459
(22)【出願日】2023-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2022170896
(32)【優先日】2022-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003388
【氏名又は名称】東京計器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】川谷 聖
(72)【発明者】
【氏名】田中 広樹
(72)【発明者】
【氏名】榊原 隆嗣
(72)【発明者】
【氏名】川崎 直行
(72)【発明者】
【氏名】山口 涼
(72)【発明者】
【氏名】植竹 啓延
(72)【発明者】
【氏名】島田 直毅
(72)【発明者】
【氏名】阿部 健太
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA25
5H181BB04
5H181BB20
5H181FF04
5H181FF13
5H181FF33
5H181FF35
5H181LL09
5H181MA48
(57)【要約】
【課題】通信のタイムラグの影響を減らすことが可能な船舶監視システムの技術を提供することを目的とする。
【解決手段】船舶監視システム100は、船舶1に設けられ、船上通信部28と、船舶1の船体運動に関する船体運動情報を取得する情報取得部21と、を有する船上情報処理装置10と、船舶1外に設けられ、船上通信部28と通信可能な支援側通信部52と、タイムラグ特定部53と、状態予測部55と、を有する支援情報処理装置50と、を備える。タイムラグ特定部53は、船上通信部28から船体運動情報が送信されてから支援側通信部52にて当該船体運動情報が受信されるまでの時間を受信タイムラグとして特定し、状態予測部55は、船体運動情報と受信タイムラグとを船舶1の船体運動に関する船体運動モデルに入力して、船体運動情報により示される船舶1の第1運動状態から受信タイムラグに基づく期間だけ進んだ船舶1の第2運動状態を予測する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に設けられ、船上通信部と、前記船舶の船体運動に関する船体運動情報を取得する情報取得部と、を有する船上情報処理装置と、
前記船舶外に設けられ、前記船上通信部と通信可能な支援側通信部と、タイムラグ特定部と、状態予測部と、を有する支援情報処理装置と、
を備え、
前記タイムラグ特定部は、前記船上通信部から前記船体運動情報が送信されてから前記支援側通信部にて当該船体運動情報が受信されるまでの時間を受信タイムラグとして特定し、
前記状態予測部は、前記船体運動情報と前記受信タイムラグとを前記船舶の船体運動に関する船体運動モデルに入力して、前記船体運動情報により示される前記船舶の第1運動状態から前記受信タイムラグに基づく期間だけ進んだ前記船舶の第2運動状態を予測する、船舶監視システム。
【請求項2】
前記船上情報処理装置は、前記船上通信部を介して受信した操船指令に基づいて前記船舶が有する推進機又は舵機を制御する機関制御部を有し、
前記支援情報処理装置は、前記支援側通信部を介して前記操船指令を前記船上通信部に送信し、
前記タイムラグ特定部は、前記支援側通信部から前記操船指令が送信されてから前記船上通信部にて当該操船指令が受信されるまでの時間を送信タイムラグとして特定し、
前記状態予測部は、前記送信タイムラグを用いて、前記第1運動状態から前記受信タイムラグと前記送信タイムラグとの合計時間だけ進んだ前記船舶の第3運動状態を予測する、請求項1に記載の船舶監視システム。
【請求項3】
前記タイムラグ特定部は、前記支援側通信部から前記操船指令が送信されてから前記支援側通信部にて受信された当該操船指令に基づく前記機関制御部による制御が行われるまでの時間を前記送信タイムラグとして特定する、請求項2に記載の船舶監視システム。
【請求項4】
前記支援情報処理装置は、前記第2運動状態を表示する情報表示部を更に有する、
請求項1に記載の船舶監視システム。
【請求項5】
前記状態予測部は、前記船体運動モデルが更新された場合、更新された船体運動モデルを用いて、前記第2運動状態を予測する、請求項1に記載の船舶監視システム。
【請求項6】
操船指令を用いて前記船体運動モデルを更新する、請求項1に記載の船舶監視システム。
【請求項7】
船舶に設けられ、船上通信部と、前記船舶の船体運動に関する船体運動情報を取得する情報取得部と、を有する船上情報処理装置と、前記船舶外に設けられ、前記船上通信部と通信可能な支援側通信部と、タイムラグ特定部と、状態予測部と、を有する支援情報処理装置と、を備える船舶監視システムに関し、
前記船上通信部から前記船体運動情報が送信されてから前記支援側通信部にて当該船体運動情報が受信されるまでの時間を受信タイムラグとして特定するステップと、
前記船体運動情報と前記受信タイムラグとを前記船舶の船体運動に関する船体運動モデルに入力して、前記船体運動情報により示される前記船舶の第1運動状態から前記受信タイムラグに基づく期間だけ進んだ前記船舶の第2運動状態を予測するステップと、
を含む船舶監視システムの制御方法。
【請求項8】
船舶に設けられ、船上通信部と、前記船舶の船体運動に関する船体運動情報を取得する情報取得部と、を有する船上情報処理装置と、前記船舶外に設けられ、前記船上通信部と通信可能な支援側通信部と、タイムラグ特定部と、状態予測部と、を有する支援情報処理装置と、を備える船舶監視システムに関し、
前記船上通信部から前記船体運動情報が送信されてから前記支援側通信部にて当該船体運動情報が受信されるまでの時間を受信タイムラグとして特定するステップと、
前記船体運動情報と前記受信タイムラグとを前記船舶の船体運動に関する船体運動モデルに入力して、前記船体運動情報により示される前記船舶の第1運動状態から前記受信タイムラグに基づく期間だけ進んだ前記船舶の第2運動状態を予測するステップと、
をコンピュータに実行させる船舶監視システムの制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶監視システム、船舶監視システムの制御方法および船舶監視システムの制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、船舶上に設けられ、地図と自船位置とを表示する表示部を有する航行情報表示装置が記載されている。この装置は、自船位置検出装置と、方位検出装置と、これらの検出結果に応じた画像を表示する画像表示器とを備える。この画像表示器には、仮想水面上に、現在の自船位置と、目標マークと、複数の等距離線とからなる目標到達支援画像が表示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
船員不足を補うための対策として、陸上の操船センターから、陸船通信により海上・水上の船舶をコントロールする遠隔操船の実現が期待されている。しかし、通信容量が低い海域では、陸上と船舶との間の通信速度の制約から、船舶の状態の検知および操船指示から船上で実行されるまでにタイムラグがある。このように、従来の技術では、通信のタイムラグが大きいと遠隔操船が難しくなるという課題がある。
【0005】
本発明は、こうした課題に鑑みてなされたものであり、通信のタイムラグの影響を減らすことが可能な船舶監視システムの技術を提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の船舶監視システムは、船舶に設けられ、船上通信部と、船舶の船体運動に関する船体運動情報を取得する情報取得部と、を有する船上情報処理装置と、船舶外に設けられ、船上通信部と通信可能な支援側通信部と、タイムラグ特定部と、状態予測部と、を有する支援情報処理装置と、を備える。タイムラグ特定部は、船上通信部から船体運動情報が送信されてから支援側通信部にて当該船体運動情報が受信されるまでの時間を受信タイムラグとして特定し、状態予測部は、船体運動情報と受信タイムラグとを船舶の船体運動に関する船体運動モデルに入力して、船体運動情報により示される船舶の第1運動状態から受信タイムラグに基づく期間だけ進んだ船舶の第2運動状態を予測する。
【0007】
なお、以上の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、プログラム、プログラムを記録した一時的なまたは一時的でない記憶媒体、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、通信のタイムラグの影響を減らすことが可能な操船支援情報処理装置の技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る船舶監視システムが適用された船舶を概略的に示す図である。
【
図2】
図1の船舶監視システムを概略的に示すブロック図である。
【
図3】
図1の船舶監視システムのタイムラグを模式的に示す図である。
【
図4】
図1の船舶監視システムの第2運動状態を予測する動作の一例を示すタイミングチャートである。
【
図5】
図1の第2状態予測部の動作を模式的に示す説明図である。
【
図6】
図1の船上情報処理装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図7】
図1の支援情報処理装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図8】第1変形例の船舶監視システムを概略的に示すブロック図である。
【
図9】第1変形例の第3状態予測部の動作を模式的に示す説明図である。
【
図10】第1変形例の船舶監視システムの第3運動状態を予測する動作の一例を示すタイミングチャートである。
【
図11】第1変形例の船上情報処理装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図12】第1変形例の支援情報処理装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書で開示した実施形態のうち、複数の物体で構成されているものは、当該複数の物体を一体化してもよく、逆に一つの物体で構成されているものを複数の物体に分けることができる。一体化されているか否かにかかわらず、発明の目的を達成できるように構成されていればよい。
【0011】
本明細書で開示した実施形態のうち、複数の機能が分散して設けられているものは、当該複数の機能の一部または全部を集約して設けても良く、逆に複数の機能が集約して設けられているものを、当該複数の機能の一部または全部が分散するように設けることができる。機能が集約されているか分散されているかにかかわらず、発明の目的を達成できるように構成されていればよい。
【0012】
また、共通点のある別々の構成要素には、名称の冒頭に「第1、第2」等と付して区別し、総称するときはこれらを省略する。また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0013】
ある態様の船舶監視システムは、船舶に設けられ、船上通信部と、前記船舶の船体運動に関する船体運動情報を取得する情報取得部と、を有する船上情報処理装置と、前記船舶外に設けられ、前記船上通信部と通信可能な支援側通信部と、タイムラグ特定部と、状態予測部と、を有する支援情報処理装置と、を備える。前記タイムラグ特定部は、前記船上通信部から前記船体運動情報が送信されてから前記支援側通信部にて当該船体運動情報が受信されるまでの時間を受信タイムラグとして特定し、前記状態予測部は、前記船体運動情報と前記受信タイムラグとを前記船舶の船体運動に関する船体運動モデルに入力して、前記船体運動情報により示される前記船舶の第1運動状態から前記受信タイムラグに基づく期間だけ進んだ前記船舶の第2運動状態を予測する。
【0014】
この構成によれば、船体運動情報を受信したときに船舶の第2運動状態(ほぼ現在状態)を把握できるため、受信タイムラグの影響を減らせる。
【0015】
一例として、前記船上情報処理装置は、前記船上通信部を介して受信した操船指令に基づいて前記船舶が有する推進機又は舵機を制御する機関制御部を有し、前記支援情報処理装置は、前記支援側通信部を介して前記操船指令を前記船上通信部に送信し、前記タイムラグ特定部は、前記支援側通信部から前記操船指令が送信されてから前記船上通信部にて当該操船指令が受信されるまでの時間を送信タイムラグとして特定し、前記状態予測部は、前記送信タイムラグを用いて、前記第1運動状態から前記受信タイムラグと前記送信タイムラグとの合計時間だけ進んだ前記船舶の第3運動状態を予測する。この場合、送信された操船指令が船舶側で受信されたときに船舶の第3運動状態を把握できるため、送信タイムラグの影響を減らせる。
【0016】
一例として、前記タイムラグ特定部は、前記支援側通信部から前記操船指令が送信されてから前記支援側通信部にて受信された当該操船指令に基づく前記機関制御部による制御が行われるまでの時間を前記送信タイムラグとして特定する。この場合、受信タイムラグおよび送信タイムラグを支援情報処理装置側で特定できる。
【0017】
一例として、前記支援情報処理装置は、前記第2運動状態を表示する情報表示部を更に有する。この場合、支援情報処理装置の操船員は、第2運動状態を見ながら操船できる。
【0018】
一例として、前記状態予測部は、前記船体運動モデルが更新された場合、更新された船体運動モデルを用いて、前記第2運動状態を予測する。この場合、更新された船体運動モデルを用いて予測するので、船体運動モデルの変化に起因する予測精度の低下を抑制できる。
【0019】
一例として、前記船舶監視システムは、操船指令を用いて前記船体運動モデルを更新する。この場合、船体運動モデルは、操船指令に応じて変化するところ、操船指令を用いて船体運動モデルを更新するから、船体運動モデルの予測誤差を抑制できる。
【0020】
[第1実施形態]
以下、
図1~
図7を参照して、本発明の第1実施形態に係る船舶監視システム100を説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る船舶監視システム100が適用された船舶1を概略的に示す図である。
図2は、船舶監視システム100を概略的に示すブロック図である。
【0021】
図1、
図2に示すように、実施形態の船舶監視システム100は、船上情報処理装置10と、支援情報処理装置50と、を備える。船上情報処理装置10は、船舶1に設けられ、船上通信部28と、船舶1の船体運動に関する船体運動情報を取得する情報取得部21と、を有する。支援情報処理装置50は、船舶1外に設けられ、船上通信部28と通信可能な支援側通信部52と、タイムラグ特定部53と、状態予測部55と、を有する。この例の支援情報処理装置50は、陸上に設けられる。支援情報処理装置50は、例えば、船舶1以外の他の船舶、飛行体等、陸上以外に設けられてもよい。
【0022】
タイムラグ特定部53は、船上通信部28から船体運動情報が送信されてから支援側通信部52にて当該船体運動情報が受信されるまでの時間を受信タイムラグとして特定する。状態予測部55は、船体運動情報と受信タイムラグとを船舶1の船体運動に関する船体運動モデルに入力して、船体運動情報により示される船舶1の第1運動状態から受信タイムラグに基づく期間だけ進んだ船舶1の第2運動状態を予測する。受信タイムラグに基づく期間は、受信タイムラグの期間であってもよいし、受信タイムラグの期間に所定の演算を行って得た期間であってもよい。以下の説明では、受信タイムラグに基づく期間が受信タイムラグの期間である例を示す。
【0023】
船舶1は、船体90と、船上情報処理装置10と、推進機74と、舵機76とを主に備え、支援情報処理装置50を介して陸上の操船員によって遠隔操船可能に構成される。
【0024】
船上情報処理装置10は、船上通信部28を介して受信した操船指令Nに基づいて船舶1が有する推進機74又は舵機76を制御する機関制御部17を備える。機関制御部17は、支援情報処理装置50から送信された操船指令Nを用いて船舶1の推進機74の回転数と舵77の舵角の少なくとも一方を制御する。操船指令Nは、推進機74の指令回転数Ne_tと、指令舵角Ae_tとを含んでいる。機関制御部17は、推進機74の実回転数Neを指令回転数Ne_tに近づける推進機制御を行う推進機制御部18と、舵機76の実舵角Ae_tを指令舵角Ae_tに近づける操舵制御を行う舵機制御部19とを有する。
【0025】
船舶監視システム100は、船舶1側の船上情報処理装置10(以下、単に「船舶側」ということがある)から陸上側の支援情報処理装置50(以下、単に「陸上側」ということがある)にデータを送信する「船陸送信」と、陸上側から船舶側にデータを送信する「陸船送信」とを用いる。
【0026】
図2および後述する
図8のブロック図に示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのプロセッサ、CPU、メモリをはじめとする素子や電子回路、機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0027】
さらに、船上情報処理装置10は、情報取得部21と、標準時刻検知部26と、船体運動モデルMを生成するモデル生成部27と、船陸送信を行い、陸船送信されたデータを受信する船上通信部28と、送信データ、受信データを記憶する船上記憶部29とを有する。標準時刻検知部26は、船舶1の船舶側標準時刻を取得する。
【0028】
情報取得部21は、船速、回頭速度、推進機回転数、舵角の少なくとも1つを含む船体運動情報Jを取得する。情報取得部21は、船体運動情報Jに加えて、潮流速度、潮流の向き、波の向き、風速、風向の少なくとも1つを含む環境情報を更に取得してもよい。情報取得部21は、船速、回頭速度、推進機回転数、舵角の少なくとも1つに加えて、船体の揺動角度を含む船体運動情報Jを取得してもよい。船体運動情報は、船舶1の船体運動に影響を与える影響因子である。
【0029】
支援情報処理装置50は、標準時刻検知部51と、支援側通信部52と、タイムラグ特定部53と、船舶情報処理部54と、第2状態予測部55と、情報表示部58と、操船指令生成部61と、送信データ生成部62と、操船指令記憶部63と、記憶部64とを含む。支援側通信部52は、陸船送信を行い、船陸送信された船体運動情報Jを受信する。
【0030】
船舶情報処理部54は、船体運動情報Jを時系列的に記憶する。また、船舶情報処理部54は、船体運動情報Jで示される船舶1の過去の状態(以下、「第1運動状態P」という)を取得する状態取得部として機能する。第2状態予測部55は、船舶1の船体運動に関する船体運動モデルと、船体運動情報Jと、受信タイムラグΔt2とを用いて、船体運動情報Jで示される船舶1の第1運動状態Pから受信タイムラグΔt2に基づく期間だけ進んだ船舶1の状態(以下、「第2運動状態Q」という)を予測する。
【0031】
ここでタイムラグは、送信側と受信側との間に生じる時間的なずれである。送信タイムラグは、陸上側から送信指令データの送信を開始してから、船舶側で受信を完了し、操船に反映されるまでの遅延時間である。受信タイムラグは、船舶側から船体運動情報Jの送信を開始してから、陸上側で受信を完了し、情報表示に反映されるまでの遅延時間である。したがって、タイムラグは、データの送信開始から受信完了までの時間差である。
【0032】
支援情報処理装置50は、船体運動情報Jまたは第2運動状態Qを情報表示部58に表示する。操船指令生成部61は、陸上側の操船員の操船操作に基づいて操船指令Nを生成する。送信データ生成部62は、操船指令N、標準時刻およびその他のデータを含む送信データを生成する。操船指令記憶部63は、操船指令Nを時系列的に記憶する。記憶部64は、船体運動モデルMを記憶する。
【0033】
支援情報処理装置50は、船上情報処理装置10から取得した船体運動情報と受信タイムラグとを用い、船舶1を操船している時点の船舶1の状態(以下、「第2運動状態Q」という)を予測し、この第2運動状態Qを情報表示部58に表示する。この結果、陸上側の操船員は、第2運動状態Qを見ながら操船できる。なお、第2運動状態Qの「現在」は、操船時点(=現時点K)という意味であり、厳密な意味の現在に対して誤差を含むことがある。
【0034】
タイムラグを説明する。陸上側から船舶1を操船する操船指令Nを送信し、船舶1を遠隔操船する場合、船舶側と陸上側の間でデータを送る通信にはタイムラグが存在する。危急操船が必要な場合、このタイムラグに起因して操船が乱れるリスクがある。特に、船舶1が、陸から離れた外海等を航海する場合、近海等を航海する場合と比較して、良好な通信状態を得られず通信速度が低下する場合がある。通信速度が低い場合には、タイムラグが大きくなり、タイムラグに起因する操船乱れのリスクが増大する。安定的な遠隔操船を実現するためには、タイムラグの影響を小さくすることが望ましい。
【0035】
図3を参照する。
図3は、船舶監視システム100のタイムラグを説明する図である。
図3は、経過時間tに沿って、陸上側と船舶側のイベントを時系列で示している。
図3に示すように、タイムラグは、陸船送信におけるタイムラグ(以下、「送信タイムラグΔt1」という)と、船陸送信におけるタイムラグ(以下、「受信タイムラグΔt2」という)とを含む。
【0036】
送信タイムラグΔt1は、支援情報処理装置50から送信されたデータを船上情報処理装置10が受信するときにおける、データ通信の送信開始から受信完了までの間の時間である。特に、送信タイムラグΔt1は、タイムラグ特定部53は、支援側通信部52から操船指令Nが送信されてから船上通信部28にて当該操船指令Nが受信されるまでの時間である。
図3の例では、陸上側から操船指令Nを送信した場合、船舶側で受信した操船指令Nによる船舶1の操船動作Sは、操船指令Nが送信されてから送信タイムラグΔt1分だけ遅れて実行される。なお、船舶1の操船動作Sは、操船指令Nに基づいて、船舶1の推進機74の回転数と舵機76の舵角の少なくとも一方を操作する動作である。
【0037】
受信タイムラグΔt2は、船舶側の船上情報処理装置10から送信されたデータを陸上側の支援情報処理装置50が受信するときにおける、データ通信の送信開始から受信完了までの間の時間である。船舶側は、船舶1の船位、船速、船首方向など船舶1の状態を示す船体運動情報Jを随時送信する。
図3の例では、船舶側から船体運動情報Jを送信し、陸上側で受信した場合、情報表示部58には、受信タイムラグΔt2分だけ遅れた過去の船体運動情報Jが表示される。
【0038】
タイムラグの考慮がなされない場合には、陸上側の情報表示部58に、船舶1の過去状態であるの第1運動状態が表示されるため、陸上側の操船者は、船舶1について、表示された第1運動状態から受信タイムラグΔt2進んだ現在の状態を想像しながら操船することになる。そこで、支援情報処理装置50は、タイムラグを考慮し、操船時点における船舶1の第2運動状態Qを予測する第2状態予測部55を備える。
【0039】
図4を参照して第2状態予測部55の動作を説明する。
図4は、船舶監視システム100の第2状態予測部55の動作の一例を示すタイミングチャートである。
図4は、経過時間tに沿って、陸上側と船舶側の各イベントのタイミングを波形図で示している。この図では、各波形のエッジの位置がタイミングずれを示しており、波形のハイ/ローのレベルには意味はない。
【0040】
タイミングチャートにしたがって説明する。まず、陸上側は、陸船送信により、
図4(A)のタイミングで操船指令Nを送信する。次に、船舶側は、送信タイムラグΔt1分だけ遅れた
図4(B)のタイミングで、操船指令Nを受信し、この操船指令Nに基づいて操船動作Sを実行する。この操船動作Sの結果、船舶1の船位、船速、船首方向などの船体運動情報Jが
図4(C)のように変化する。船体運動情報Jは、急激には変化せず徐々に変化するので
図4(C)ではエッジを曲線で示している。この船体運動情報Jは船陸送信により陸上側に送信される。
【0041】
陸上側は、受信タイムラグΔt2分だけ遅れた船体運動情報Jを受信する。受信後の船体運動情報Jは、受信した時点(=現時点K)で、船舶側で送信してから遅れた情報であり、以下、受信後の船体運動情報Jで表される状態を第1運動状態Pという。つまり、
図4(D)に示される第1運動状態Pは、受信タイムラグΔt2分前の船舶1の過去の状態である。この結果、情報表示部58には、第1運動状態Pが表示される。
【0042】
また、第2状態予測部55は、
図4(D)に示す第1運動状態Pと、受信タイムラグΔt2を用いて、受信タイムラグΔt2後の状態である第2運動状態Qを予測する。情報表示部58は、予測された第2運動状態Qを表示する。
図4(E)は第2運動状態Qを示す。
【0043】
第2運動状態Qを予測する動作を説明する。第2運動状態Qは、船体運動モデルMと、船舶1の船体運動に影響を与える影響因子(=船体運動情報)とを用いて予測できる。船上情報処理装置10のモデル生成部27は、船舶1の船体運動に影響を与える影響因子を含む船体運動モデルMを生成する。影響因子としては、船舶1に関する、船速、回頭速度、推進機回転数、舵角の少なくとも1つを含む基礎情報と、船舶1に関する、潮流速度、潮流の向き、波の向き、風速、風向の少なくとも1つを含む環境情報と、船体の揺動角度とが挙げられる。
【0044】
船上情報処理装置10は、これらの影響因子のデータを収集し、時系列的に船上記憶部29に記憶する。モデル生成部27は、船上記憶部29に記憶されている影響因子を用いて船体運動モデルMを生成する。船体運動モデルMの生成は、影響因子のデータから求められる影響パラメータを船体運動の物理モデルを表す数式にあてはめて各影響項の係数を求めるようにしてもよいし、影響因子のデータから機械学習により船体運動の物理モデルを表す数式を生成してもよい。
【0045】
船体運動モデルMは、設計時点の情報や陸上・海上試験時の試験結果を用いて生成される。しかし、船舶1の船体運動はその時々の積荷の量、船舶1のプロペラの汚損状態、船舶1のトリム等の船体姿勢などの変化要因により変化するため、実施形態では、船体運動モデルMは、モデル生成部27により随時更新される。
【0046】
船体運動モデルMは、操船指令Nに応じて変化するため、操船指令Nの変化に応じて更新されることが望ましい。そこで、モデル生成部27は、操船指令Nを用いて船体運動モデルMを更新する。第2状態予測部55は、船体運動モデルMが更新された場合、更新された船体運動モデルMを用いて、第2運動状態Qを予測する。
【0047】
また、船体運動モデルMには、推進機74の回転数応答性を表現する推進機モデルを内蔵してもよい。また、プロペラが可変ピッチプロペラ(CPP)である場合、船体運動モデルMにCPPモデルを内蔵してもよい。また、船舶1の推進手段が推進機だけでなく、電気モータ(不図示)による電気推進機、推進機と電気推進機を組合せたハイブリッド推進機である場合、船体運動モデルMに各推進機のモデルを内蔵してもよい。船体運動モデルMの一例については後述する。
【0048】
モデル生成部27で生成された船体運動モデルMは、支援情報処理装置50に随時送信され、船舶側と陸上側とで共有される。船上情報処理装置10は、船体運動モデルMが更新されたときに更新された船体運動モデルMを支援情報処理装置50に送信する。
【0049】
タイムラグ特定部53は、船上情報処理装置10が船体運動情報Jを送信してから支援情報処理装置50が当該船体運動情報Jを受信するまでの時間差を受信タイムラグΔt2として特定する。この例のタイムラグ特定部53は、船上通信部28から船体運動情報Jが送信されてから支援側通信部52にて当該船体運動情報Jが受信されるまでの時間を受信タイムラグΔt2として特定する。
【0050】
具体的には、タイムラグ特定部53は、船上情報処理装置10から船体運動情報Jを送信したときの船舶1における標準時刻(以下、「船舶側標準時刻Tb」という)と、船体運動情報Jを受信したときの支援情報処理装置50における標準時刻(以下、「支援側標準時刻Ta」という)と、を用いて受信タイムラグΔt2を特定する。例えば、船舶側で船陸送信データに送信時の船舶側標準時刻Tbを付加し、陸上側で、船陸送信データから送信時刻を読み出し、読み出した船舶側標準時刻Tbと、受信時の支援側標準時刻Taとの時間差から受信タイムラグΔt2を特定できる。
【0051】
ここで、船舶側と陸上側は共通の標準時刻を用いることが望ましい。そこで、実施形態では、標準時刻を取得するために、船上情報処理装置10は、標準時刻検知部26を有し、支援情報処理装置50は、標準時刻検知部51を有する。標準時刻検知部26および標準時刻検知部51は、GNSS(Global Navigation Satellite System)の一種であるGPS受信機で受信した衛星電波を用いて標準時刻を取得する。別の例として、標準時刻を取得するために、互いに時刻合わせされた高精度の時計を船舶側と陸上側それぞれに備え、これらの時刻を利用することができる。
【0052】
次に、送信タイムラグΔt1は、例えば、陸上側で支援側標準時刻Taを付加した陸船送信データを送信し、船舶側で陸船送信データから支援側標準時刻Taを読み出し、この支援側標準時刻Taと船舶側標準時刻Tbの時間差から特定できる。しかし、この方法では、陸上側が送信タイムラグΔt1を使用できるのは、送信タイムラグΔt1を特定したタイミングからさらに受信タイムラグ分遅れたタイミングになるという問題がある。
【0053】
そこで、実施形態では、第1の支援側標準時刻Ta1を付加したデータを陸船送信により船舶側に送信し、当該データに船舶側標準時刻Tbを付加ししたデータを船陸送信により陸上側に送信する。タイムラグ特定部53は、受信したときの第2の支援側標準時刻Ta2と第1の支援側標準時刻Ta1の時間差から陸船送信と船陸送信のトータルのタイムラグ(以下、「往復タイムラグΔt3」という)を特定する。
【0054】
さらに、タイムラグ特定部53は、船舶側標準時刻Tbと第2の支援側標準時刻Ta2の時間差から受信タイムラグΔt2を特定し、往復タイムラグΔt3と受信タイムラグΔt2の時間差から送信タイムラグΔt1を特定する。
【0055】
図4、
図5を参照して、船体運動モデルMを説明する。
図5は、第2状態予測部55の動作を模式的に示す説明図である。支援情報処理装置50は、過去の時点から現在までの操船指令Nを時系列的に記憶する操船指令記憶部59と、船体運動モデルMを用いて第1運動状態Pから第2運動状態Qを予測する第2状態予測部55とを含む。操船指令記憶部59は、往復タイムラグΔt3(=Δt1+Δt2)だけ過去から現時点Kまでの範囲L(
図4を参照)の操船指令Nの時系列データを記憶している。
【0056】
図5に示すように、第2状態予測部55は、船体運動モデルMに、第1運動状態Pと、受信タイムラグΔt2と、記憶範囲Lのうち記憶範囲(-Δt2~0)の操船指令Nの時系列データとを入力することにより、第1運動状態Pから受信タイムラグΔt2分経過後の現時点Kにおける第2運動状態Qを予測する。
【0057】
船体運動モデルMの一例を説明する。船体運動モデルMは、船舶1の状態の変化を表す複数の多項式から構成されるマトリックス(行列式)fで表現される。モデル生成部27は、船舶1の状態変化を示すモデルマトリックス式fを生成する。船舶1の状態とは、例えば、船速、船位、回頭速度、船首方位である。
【0058】
式1~式5を参照して、船舶1の状態のうち船速に関する多項式を説明する。
A)船速Vsの変化(dVs/dt)は、最も単純に表すとプロペラ75で発生する推力Tpと船体抵抗Rの差分によって発生するため、式1で示される。
dVs/dt=f1(Tp、R) ・・(式1)
B)推力Tpはプロペラ回転数Npやプロペラ75のスリップ率Spなどで表されるため、式2で示される。
Tp=f2(Np、Sp) ・・(式2)
【0059】
C)また、プロペラ回転数Npの変化はプロペラ75の駆動トルクQpと推進機74からの駆動トルクQeの差分により発生するため、Tpは式3で示される。
Tp=f2(f3(Qp、Qe)、Sp) ・・(式3)
D)また、推進機74トルクQeは現状の推進機回転数Neと指令回転数Ne_tの偏差により求められるため、Tpは式4で示される。
Tp=f2(f3(Qp、f4(Ne、Ne_t))、Sp) ・・(式4)
【0060】
E)以上から、船速Vsの変化(dVs/dt)は、式5の多項式で表される。
dVs/dt=f(Qp、Ne、Ne_t、Sp、R) ・・(式5)
同様に、船舶1の状態のうち、船速以外の「船位、回頭速度、船首方位」の変化も多項式で表現可能であり、船体運動モデルMは、これらの多項式からマトリックス(行列式)fで表現される。
【0061】
第1運動状態Pに、マトリックスfをΔt2から0(=現時点K)まで積分した結果を補正量として補正することにより、第2運動状態Qを推定できる。
【0062】
船舶側のモデル生成部27で生成された船体運動モデルMは支援情報処理装置50に送信され、船舶1の状態の予測値の計算に使用できる。ここで、例えば操船指令Nの一つである指令回転数Ne_tについては、支援情報処理装置50の操船指令記憶部59に保存されており、現時点Kから遡って本予測計算に使用することができる。回頭速度に対する指令舵角Ae_tも同様である。
【0063】
また、船舶の周囲の環境条件等の操船指令N以外の情報については、過去データからの予測値を用いて計算できる。この予測値は、所定期間の過去データの平均値であってもよい。
【0064】
第2状態予測部55で予測した第2運動状態Qは、情報表示部58に表示され、陸上の操船者は本表示に基づき操船することで、あたかも現時点での船舶を見ながら操船することができる。
【0065】
図6、
図7を参照して船舶監視システム100の動作の一例を説明する。船舶監視システム100の動作は、船上情報処理装置10の動作S110と、支援情報処理装置50の動作S210の連係動作である。
図6は、船上情報処理装置10の動作S110を示すフローチャートである。
図7は、支援情報処理装置50の動作S210を示すフローチャートである。
【0066】
船上情報処理装置10の動作S110を説明する。動作S110が開始されると、船上情報処理装置10は、船体運動情報Jを取得する(ステップS111)。
【0067】
次に、船上情報処理装置10は、船体運動モデルMを生成する(ステップS112)。このステップで、モデル生成部27は収集された影響因子のデータを用いて船体運動モデルMを生成する。
【0068】
次に、船上情報処理装置10は、船舶側標準時刻Tbを取得する(ステップS113)。このステップで、標準時刻検知部26は、GPS受信機で受信した衛星電波を用いて標準時刻を取得する。次に、船上情報処理装置10は、船陸送信データを生成する(ステップS114)。船陸送信データは、船体運動情報Jを含む船舶関連情報と、船体運動モデルMと、船舶側標準時刻Tbを含む。
【0069】
次に、船上情報処理装置10は、船陸送信データを送信する(ステップS115)。このステップで、船上通信部28は、生成された船陸送信データを船陸送信により、支援情報処理装置50に送信する。ステップS115を実行したら、プロセスはステップS111に戻り、ステップS111-S115を繰り返す。
【0070】
支援情報処理装置50の動作S210を説明する。動作S210が開始されると、支援情報処理装置50は、船陸送信データを受信する(ステップS211)。このプロセスで、支援側通信部52は、船陸送信された船陸送信データを受信する。次に、支援情報処理装置50は、船陸送信データから船体運動モデルMを分離し、記憶部64は、分離された船体運動モデルMを記憶する(ステップS212)。
【0071】
次に、支援情報処理装置50は、支援側標準時刻Taを取得する(ステップS213)。このステップで、標準時刻検知部51は、GPS受信機で受信した衛星電波を用いて支援側標準時刻Taを取得する。このステップの支援側標準時刻Taは第2の支援側標準時刻Ta2として保持される。
【0072】
次に、支援情報処理装置50は、タイムラグを特定する(ステップS214)。このステップで、タイムラグ特定部53は、船舶側標準時刻Tbと第2の支援側標準時刻Ta2の時間差から受信タイムラグΔt2を特定する。次に、支援情報処理装置50は、船舶の第1運動状態を取得する(ステップS215)。このステップで、第1運動状態取得部56は、受信された船体運動情報Jで示される船舶1の過去の状態を第1運動状態Pとして取得し保持する。
【0073】
次に、支援情報処理装置50は、船舶1の第2運動状態を予測する(ステップS216)。このステップで、第2状態予測部55は、船体運動モデルMに、第1運動状態Pと、受信タイムラグΔt2と、操船指令Nの時系列データを入力して、第2運動状態Qを予測する。次に、支援情報処理装置50は、第2運動状態を表示する(ステップS217)。このステップで、支援情報処理装置50は、第2運動状態Qを情報表示部58に表示する。情報表示部58には、第2運動状態Qと同時に第1運動状態Pが表示されてもよい。
【0074】
次に、支援情報処理装置50は、操船指令を生成する(ステップS218)。このステップで、操船指令生成部61は、陸上側の操船員の操船操作に基づいて操船指令Nを生成する。操船指令記憶部63は、操船指令Nを時系列的に記憶する。次に、支援情報処理装置50は、支援側標準時刻Taを取得する(ステップS219)。このステップの支援側標準時刻Taは、第1の支援側標準時刻Ta1として保持される。
【0075】
次に、支援情報処理装置50は、陸船送信データを生成する(ステップS220)。このステップで、送信データ生成部62は、操船指令N、標準時刻およびその他のデータを含む陸船送信データを生成する。次に、支援情報処理装置50は、陸船送信データを送信する(ステップS221)。このステップで、支援側通信部52は、生成された陸船送信データを陸船送信により、船上情報処理装置10に送信する。ステップS221を実行したら、プロセスはステップS211に戻り、ステップS211-S221を繰り返す。
【0076】
上記の各ステップは例示であり、各種の変更が可能である。以上が第1実施形態の説明である。
【0077】
以下、本発明の第2、第3実施形態を説明する。第2、第3実施形態の図面及び説明では、第1実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第1実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0078】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態は、船舶監視システム100の制御方法である。この方法は、船舶1に設けられ、船上通信部28と、船舶1の船体運動に関する船体運動情報Jを取得する情報取得部21と、を有する船上情報処理装置10と、船舶1外に設けられ、船上通信部28と通信可能な支援側通信部52と、タイムラグ特定部53と、状態予測部55と、を有する支援情報処理装置50と、を備える船舶監視システム100に関し、船上通信部28から船体運動情報Jが送信されてから支援側通信部52にて当該船体運動情報Jが受信されるまでの時間を受信タイムラグΔt2として特定するステップ(S214)と、船体運動情報Jと受信タイムラグΔt2とを船舶1の船体運動に関する船体運動モデルMに入力して、船体運動情報Jにより示される船舶1の第1運動状態から受信タイムラグΔt2に基づく期間だけ進んだ船舶1の第2運動状態を予測するステップ(S216)と、を含む。
【0079】
第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用及び効果を奏する。
【0080】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態は、船舶監視システム100の制御プログラムP100(コンピュータプログラム)である。このプログラムP100は、船舶1に設けられ、船上通信部28と、船舶1の船体運動に関する船体運動情報Jを取得する情報取得部21と、を有する船上情報処理装置10と、船舶1外に設けられ、船上通信部28と通信可能な支援側通信部52と、タイムラグ特定部53と、状態予測部55と、を有する支援情報処理装置50と、を備える船舶監視システム100に関し、船上通信部28から船体運動情報Jが送信されてから支援側通信部52にて当該船体運動情報Jが受信されるまでの時間を受信タイムラグΔt2として特定するステップ(S214)と、船体運動情報Jと受信タイムラグΔt2とを船舶1の船体運動に関する船体運動モデルMに入力して、船体運動情報Jにより示される船舶1の第1運動状態から受信タイムラグΔt2に基づく期間だけ進んだ船舶1の第2運動状態を予測するステップ(S216)と、をコンピュータに実行させる。
【0081】
プログラムP100のこれらの機能は、支援情報処理装置50の機能ブロックに対応する複数のモジュールが実装されたアプリケーションプログラムとして支援情報処理装置50のストレージ(例えば記憶部64)にインストールされてもよい。プログラムP100は支援情報処理装置50に組み込まれたコンピュータのプロセッサ(例えばCPU)のメインメモリに読み出しされて実行されてもよい。
【0082】
第3実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用及び効果を奏する。
【0083】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。上述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除などの多くの設計変更が可能である。上述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容にも設計変更が許容される。
【0084】
[変形例]
以下、変形例を説明する。変形例の図面及び説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0085】
[第1変形例]
以下、
図8~
図12を参照して、本発明の第1変形例に係る船舶監視システム100を説明する。
図8は、第1変形例の船舶監視システム100を概略的に示すブロック図である。
図9は、第3状態予測部65の動作を模式的に示す説明図である。
図10は、第1変形例の船舶監視システム100の第3運動状態を予測する動作の一例を示すタイミングチャートである。
図11は、第1変形例の船上情報処理装置10の動作の一例を示すフローチャートである。
図12は、第1変形例の支援情報処理装置50の動作の一例を示すフローチャートである。
図8、
図9、
図10、
図11、
図12は、
図2、
図4、
図5、
図6、
図7にそれぞれ対応しており、
図2、
図4、
図5、
図6、
図7についてした説明は、矛盾しない範囲で
図8、
図9、
図10、
図11、
図12に適用される。
【0086】
第1の相違点を説明する。実施形態の説明では、船体運動モデルMを船上情報処理装置10で生成する例を示したが、これに限定されない。船体運動モデルMは、船舶1の外部で生成されてもよい。第1変形例では、
図8に示すように、陸上側の支援情報処理装置50は、モデル生成部66を有し、船上情報処理装置10は、モデル生成部27を有しない。したがって、変形例では、船体運動モデルMは、モデル生成部66で生成され、記憶部64に記憶される。
【0087】
モデル生成部66は、船体運動モデルMの生成に用いる影響因子のデータを、船陸送信により船上情報処理装置10から取得することにより、取得された影響因子のデータを用いて船体運動モデルMを生成できる。また、モデル生成部66は、新たに取得されたデータを用いて船体運動モデルMを更新できる。支援情報処理装置50で船体運動モデルMを生成、更新することにより、船上情報処理装置10が備える計算能力が小さくて済むので、船上情報処理装置10のコストを抑えることができる。
【0088】
第2の相違点を説明する。実施形態の説明では、支援情報処理装置50が、受信タイムラグΔt2を用いて予測された第2運動状態Qを表示する例を示したが、これに限定されない。変形例では、第3状態予測部65を有する。第3状態予測部65は、送信タイムラグΔt1を用いて、第1運動状態Pから受信タイムラグΔt2と送信タイムラグΔt1との合計時間(往復タイムラグΔt3)だけ進んだ船舶1の将来状態(以下、「第3運動状態R」という)を予測する。
【0089】
第1変形例のタイムラグ特定部53は、支援側通信部52から操船指令Nが送信されてから支援側通信部52にて受信された当該操船指令Nに基づく機関制御部17による制御が行われるまでの時間を送信タイムラグΔt1として特定する。第3状態予測部65は、船体運動情報J、送信タイムラグΔt1、および船体運動モデルMを用いて、第1運動状態Pから受信タイムラグΔt2と送信タイムラグΔt1の和の期間だけ進んだ船舶1の第3運動状態Rを予測する。
【0090】
タイムラグ特定部53は、所定の情報を、支援情報処理装置50から船上情報処理装置10に送信して船上情報処理装置10から支援情報処理装置50に返信したとき、所定の情報を支援情報処理装置50から送信した時刻と、所定の情報を支援情報処理装置50が受信した時刻の時間差から受信タイムラグΔt2を減算した結果を用いて送信タイムラグΔt1を特定する。
【0091】
別の例として、タイムラグ特定部53は、所定の情報を、支援情報処理装置50から送信したときの支援情報処理装置50における時刻と、所定の情報を受信したときの船上情報処理装置10における時刻との時間差を用いて送信タイムラグΔt1を特定してもよい。
【0092】
図10の例では、タイムラグ特定部53は、受信したときの第2の支援側標準時刻Ta2と第1の支援側標準時刻Ta1の時間差から往復タイムラグΔt3を特定する。第2状態予測部55は、
図10(D)に示す第1運動状態Pと、受信タイムラグΔt2を用いて
図10(E)に示す第2運動状態Qを予測する。また、第3状態予測部65は、
図10(D)に示す第1運動状態Pと、往復タイムラグΔt3を用いて
図10(F)に示す第3運動状態Rを予測する。なお、第3運動状態Rは、
図10(E)に示す第2運動状態Qと、送信タイムラグΔt1を用いて予測してもよい。
【0093】
また、第3運動状態Rの「将来」は、操船時点(=現時点K)から見て将来という意味であり、船舶側の受信時点には、送信タイムラグΔt1により遅延して、船舶側の受信時点を予測した状態である。つまり、支援情報処理装置50は、操船指令Nが船舶側に届く時点での第3運動状態Rを情報表示部58に表示できる。操船者は、船舶側に操船指令Nが受信された時点を想定しながら操船することが可能となる。
【0094】
図9に示すように、第3状態予測部65は、船体運動モデルMに、第1運動状態Pと、往復タイムラグΔt3と、記憶範囲(-Δt3~0)の操船指令Nの時系列データとを入力することにより、第1運動状態Pから往復タイムラグΔt3分経過後の第3運動状態Rを予測する。
【0095】
図11に示す船上情報処理装置10の動作S310は、
図6の動作S110に対応する。動作S310のステップS311、S312、S313、S314は、動作S110のステップS111、S113、S114、S115にそれぞれ対応する。動作S310は、船体運動モデルMを生成するステップを有しない点で動作S110と相違する。動作S110についてした説明は、矛盾しない範囲で動作S310に適用される。
【0096】
図12に示す支援情報処理装置50の動作S410は、
図7の動作S210に対応する。動作S410のステップS411、S412、S413、S415、S416、S418、S420、S421、S422、S423は、動作S210のステップS211、S213、S214、S215、S216、S217、S218、S219、S220、S221にそれぞれ対応する。動作S410は、ステップS414、S417、およびS419を有する点で動作S210と相違する。動作S210についてした説明は、矛盾しない範囲で動作S410に適用される。
【0097】
支援情報処理装置50は、ステップS414において、船体運動モデルMを生成する。このステップで、モデル生成部66は収集された影響因子のデータを用いて船体運動モデルMを生成する。記憶部64は、生成された船体運動モデルMを記憶する。
【0098】
支援情報処理装置50は、ステップS417において、船舶の第3運動状態を予測する。このステップで、第3状態予測部65は、船体運動モデルMに、第1運動状態Pと、往復タイムラグΔt3と、操船指令Nの時系列データを入力して、第3運動状態Rを予測する。
【0099】
支援情報処理装置50は、ステップS419において、第3運動状態を表示する。このステップで、支援情報処理装置50は、第3運動状態Rを情報表示部58に表示する。情報表示部58には、第3運動状態Rと同時に、第2運動状態Qと第1運動状態Pが表示されてもよい。
【0100】
[その他の変形例]
実施形態の説明では、支援情報処理装置50が、操船指令生成部61と、操船指令記憶部63を備え、操船指令Nを含むデータを船上情報処理装置10に送信する例を示したが、これに限定されない。例えば、支援情報処理装置は、操船指令生成部および操船指令記憶部を備えず、操船指令を送信しない構成であってもよい。
【0101】
実施形態の説明では、情報表示部58には船舶1の第1運動状態Pと第2運動状態Qとが表示される例を示したが、これに限定されない。例えば、情報表示部58の表示は、第1運動状態を表示し第2運動状態Qを表示しない形態、第2運動状態Qを表示し第1運動状態を表示しない形態、これらを両方表示する形態などに、手動で切り替え可能に構成されてもよい。また例えば、予測した第2運動状態Qが、受信タイムラグΔt2後の実際の船舶状態に対して乖離が大きい場合に、情報表示部58にアラートを表示してもよいし、第1運動状態を表示し第2運動状態Qを表示しない形態に自動で切り替わる構成であってもよい。
【0102】
また例えば、送信タイムラグΔt1と受信タイムラグΔt2を適時に比較し、差異が基準の差異よりも大きくなった場合には何らかの通信トラブル発生の可能性があるため、情報表示部58にアラートを表示してもよい。また例えば、タイムラグが長すぎる場合や通信が途切れたと判断できる場合にも情報表示部58にアラートを表示してもよい。
【0103】
実施形態の説明では、往復タイムラグΔt3と受信タイムラグΔt2の差分を送信タイムラグΔt1とする例を示したが、これに限定されない。送信タイムラグΔt1は、船舶側において、直接的に計測されてもよい。
【0104】
実施形態の説明では、船舶1の第2運動状態Qが陸側の支援情報処理装置50で予測される例を示したが、これに限定されない。第2運動状態Qは、船舶側の船上情報処理装置で予測されてもよい。この場合、船上情報処理装置では現時点での操船指令Nに対し受信タイムラグ分将来の操船指令Nを推定することによって、第2運動状態Qを予測できる。そこで、船上情報処理装置は、過去の操船指令Nのパターンを用いて将来の操船指令Nを予測する機能を備える。例えば、現在までの直近の操船指令Nの時系列データを基に、その時系列データの範囲の外側を推定する外挿推定により将来の操船指令Nを予測できる。また例えば、過去の操船指令Nのパターンを分類して記憶し、現在までの直近の操船指令Nのパターンと比較し、過去の操船指令Nのパターンに当てはめることにより将来の操船指令Nを予測できる。
【0105】
実施形態の説明では、推進機74がプロペラ75を回転させて推進力を得る例を示したが、これに限定されない。推進力を得るための機構は、船舶を推進させ得るものであればよく、例えば、推進機74の回転出力に基づいて気体等を吐き出し、その気体等の反力で推進力を得る構成であってもよい。
【0106】
実施形態の説明では、推進機74がディーゼルエンジンである例を示したが、これに限定されない。例えば、推進機は、ディーゼルエンジン以外の内燃機関、外燃機関であってもよい。
【0107】
上述の変形例は、各実施形態と同様の作用及び効果を奏する。
【0108】
上述した各実施形態及び変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態及び変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0109】
1 船舶、 10 船上情報処理装置、 50 支援情報処理装置、 53 タイムラグ特定部、 55 第2状態予測部、 58 情報表示部、 64 記憶部、 65 第3状態予測部。