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特開2024-62938新規単独重合体、被膜形成用組成物、積層体および物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062938
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】新規単独重合体、被膜形成用組成物、積層体および物品
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/58 20060101AFI20240501BHJP
   C09D 133/26 20060101ALI20240501BHJP
   C09D 133/14 20060101ALI20240501BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240501BHJP
【FI】
C08F20/58
C09D133/26
C09D133/14
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023141116
(22)【出願日】2023-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2022170989
(32)【優先日】2022-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000205638
【氏名又は名称】大阪有機化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 淳
(72)【発明者】
【氏名】大毛 瑞貴
(72)【発明者】
【氏名】赤石 良一
【テーマコード(参考)】
4J038
4J100
【Fターム(参考)】
4J038CG041
4J038CG201
4J038GA05
4J038KA06
4J038MA14
4J038PB08
4J100AM21P
4J100BA03P
4J100BC43P
4J100CA01
4J100DA01
4J100DA04
4J100EA03
4J100FA03
4J100FA04
4J100FA19
4J100JA01
4J100JA43
(57)【要約】
【課題】金属塩と組み合わせて使用し、基材上に金属を含む被膜を形成させるために有用な新規重合体、ならびに透明基材と被膜とを含み、被膜の露出面と、被膜の透明基材との接触面とが、色および光沢の少なくとも一方において異なる積層体を提供すること。
【解決手段】一般式(I)で示される所定の単独重合体、ならびに透明基材と、透明基材の一面に形成される被膜とを有し、被膜は、一般式(I’)で示される所定の単独重合体と、白金、銅、パラジウム、銀および金からなる群より選択される金属とを含み、被膜の露出面と、被膜の透明基材との接触面とが、色および光沢の少なくとも一方において異なる積層体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
【化1】
(式中、
1は、水素またはメチルであり、
Xは、-SC(S)R2、-SC(S)SR2、-SC(S)NR23、または-SC(S)OR2であり、
2は、C1-20アルキル、C2-20アルケニル、フェニル、ピロール、ピロリドン、ピリジン、またはジエチルアミノであり、
3は、水素、C1-20アルキル、またはフェニルであり、
Yは、-O-、-NH-、-O-(CH21-6-、-O-(CH21-6-O-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-CH2-CH2-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-CH=CH-、または-NR4-(CH21-6-であり、
4は、水素またはメチルであり、
Zは、CN-C(CH32-、Ph-C(CH32-、Ph-C(CH3)(CN)-、CH3-CH2-O-C(O)-C(CH32-、CH3-C(CH32-CH2-C(CH32-、CN-C(CH3)(H)-、Ph-C(CH3)(H)-、CH3-C(CH32-、CN-CH2-、Ph-CH2-、HO-C(O)-C(CH32-、またはHO-C(O)-(CH22-C(CN)(CH3)-であり、そして
nは20~600である)
で示される単独重合体。
【請求項2】
式(I)中、nは30~530である請求項1記載の単独重合体。
【請求項3】
重量平均分子量が、4,000~110,000であり、分子量分布が4以下である請求項1または2記載の単独重合体。
【請求項4】
請求項1記載の単独重合体と、溶媒とを含む組成物。
【請求項5】
請求項4記載の組成物を含む第1剤と、
酸化還元電位が+0.22V(vs.Ag/AgCl)よりも正側に大きい金属イオンを構成単位とする金属塩を含む第2剤と
を含む、被膜形成用組成物。
【請求項6】
透明基材と、
前記透明基材の一面に形成される被膜と、を有し、
前記被膜は、一般式(I’):
【化2】
(式中、
11は、水素またはメチルであり、
X’およびZ’は、連鎖移動剤または重合開始剤由来の構造であり、
Yは、-O-、-NH-、-O-(CH21-6-、-O-(CH21-6-O-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-CH2-CH2-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-CH=CH-、または-NR12-(CH21-6-であり、
12は、水素またはメチルであり、そして
nは20~600である)
で示される単独重合体と、白金、銅、パラジウム、銀および金からなる群より選択される金属とを含み、
前記被膜の露出面と、前記被膜の前記透明基材との接触面とが、色および光沢の少なくとも一方において異なる
積層体。
【請求項7】
前記X’は、-SC(S)R13、-SC(S)SR13、-SC(S)NR1314、または-SC(S)OR13であり、
13は、C1-20アルキル、C2-20アルケニル、フェニル、ピロール、ピロリドン、ピリジン、またはジエチルアミノであり、
14は、水素、C1-20アルキル、またはフェニルであり、そして
前記Z’は、CN-C(CH32-、Ph-C(CH32-、Ph-C(CH3)(CN)-、CH3-CH2-O-C(O)-C(CH32-、CH3-C(CH32-CH2-C-(CH32-、CN-C(CH3)(H)-、Ph-C(CH3)(H)-、CH3-C(CH32-、CN-CH2-、Ph-CH2-、HO-C(O)-C(CH32-、またはHO-C(O)-(CH22-C(CN)(CH3)-である、
請求項6記載の積層体。
【請求項8】
前記X’およびZ’はそれぞれ独立して、CN-C(CH32-、Ph-C(CH32-、Ph-C(CH3)(CN)-、CH3-CH2-O-C(O)-C(CH32-、CH3-C(CH32-CH2-C-(CH32-、CN-C(CH3)(H)-、Ph-C(CH3)(H)-、CH3-C(CH32-、CN-CH2-、Ph-CH2-、HO-C(O)-C(CH32-、またはHO-C(O)-(CH22-C(CN)(CH3)-であり、
13は、C1-20アルキル、C2-20アルケニル、フェニル、ピロール、ピロリドン、ピリジン、またはジエチルアミノであり、そして
14は、水素、C1-20アルキル、またはフェニルである、
請求項6記載の積層体。
【請求項9】
前記金属が銀である請求項6または7記載の積層体。
【請求項10】
前記被膜の露出面と、前記被膜の前記透明基材との接触面との両方が金属光沢を呈し、前記金属光沢の各々が、互いに異なる色および光沢を有する、請求項9記載の積層体。
【請求項11】
一般式(I’):
【化3】
(式中、
11は、水素またはメチルであり、
X’およびZ’は、連鎖移動剤または重合開始剤由来の構造であり、
Yは、-O-、-NH-、-O-(CH21-6-、-O-(CH21-6-O-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-CH2-CH2-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-CH=CH-、または-NR12-(CH21-6-であり、
12は、水素またはメチルであり、そして
nは20~600である)
で示される単独重合体と、白金、銅、パラジウム、銀および金からなる群より選択される金属とを含み、前記金属とは異なる金属の色および光沢を呈する被膜を備え、
前記被膜が真贋判定部である物品。
【請求項12】
印刷物である請求項11記載の物品。
【請求項13】
式(II):
【化4】
(式中、R1は、水素またはメチルであり、
Yは、-O-、-NH-、-O-(CH21-6-、-O-(CH21-6-O-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-CH2-CH2-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-CH=CH-、または-NR4-(CH21-6-であり、
4は、水素またはメチルである)
で表される化合物を、連鎖移動剤および重合開始剤と共に非プロトン性極性有機溶媒中で反応させることを特徴とする請求項1記載の単独重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規単独重合体、被膜形成用組成物、積層体および物品に関し、より詳細には、ジヒドロキシフェニル基を有するモノマーの新規単独重合体、ジヒドロキシフェニル基を有するモノマーの所定の単独重合体および所定の金属を含む被膜形成用組成物、ジヒドロキシフェニル基を有するモノマーの単独重合体および所定の金属を含む被膜を有する積層体および物品に関する。
【背景技術】
【0002】
光反射膜は、光電変換素子、発光材料や表示素子等多様な分野に応用されている。特に金属反射膜は高い反射率だけでなく、用いる金属に応じた光沢を示す事から装飾用途等にも用いられている。このような応用においてはガラスやプラスチックといった絶縁性の基材に金属膜を形成する手法が用いられる。特に無電解めっき法は大がかりな装置を必要とせず、多様な材料に応用出来るため広く用いられてきた。例えば無電解めっきによりガラス基板上に金属膜を形成することで金属光沢を示すガラスを構築することができる。
【0003】
特許文献1では、カテコール基を有する高分子をエポキシ樹脂と混合してPET等の基材上にコーティングし、金属イオンの還元剤として用いて自己触媒性の無電解めっきにより銅被膜を形成する方法が開示されている。
【0004】
一方、カテコール基を有するドーパミン高分子は多様な基材に密着性を示すことが知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-72440号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Haeshin Lee, Shara M. Dellatore, William M. Miller, Philli B. Messersmith, SCIENCE, 318, p426-430(2007).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の方法等により、ガラス基板の表面に金属膜を形成した場合、ガラスは可視領域に吸収をもたないため、表面と裏面のどちらから観察しても同様の色と光沢を示す。しかし、装飾等の用途によってはさらなるバリエーションが求められる。例えば、表裏で少なくとも色または光沢のいずれかが異なる素材を創製するには、ガラス基板の両面に異なる金属の被膜を形成するか、あるいは同一面に2種類の金属を層状に順に堆積する必要があり、プロセスの煩雑化や、使用材料を増加させ高コストになるという問題点があった。
【0008】
そこで、本発明は、金属塩と組み合わせて使用し、基材上に金属を含む被膜を形成させるために有用な新規重合体を提供すること、あるいは透明基材と被膜とを含み、被膜の露出面と、被膜の透明基材との接触面とが、色および光沢の少なくとも一方において異なる積層体を提供することを課題とする。また、別の側面において、本発明は、物品の真贋を見分ける真贋判定部を備えた物品を提供することを別の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ジヒドロキシフェニル基を有する新規単独重合体が、基材との接着のみならず金属イオンの還元剤として作用し、金属塩と組み合わせて使用する場合に基材上に金属を含む被膜を形成できることを見出した。また、ジヒドロキシフェニル基を有する単独重合体を金属塩と組み合わせて透明基材に用いることにより、透明基材と被膜とを含み、単純な工程により表裏の金属光沢が異なる積層体を創製できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、
[1]一般式(I):
【化1】
(式中、
1は、水素またはメチルであり、
Xは、-SC(S)R2、-SC(S)SR2、-SC(S)NR23、または-SC(S)OR2であり、
2は、C1-20アルキル、C2-20アルケニル、フェニル、ピロール、ピロリドン、ピリジン、またはジエチルアミノであり、
3は、水素、C1-20アルキル、またはフェニルであり、
Yは、-O-、-NH-、-O-(CH21-6-、-O-(CH21-6-O-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-CH2-CH2-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-CH=CH-、または-NR4-(CH21-6-であり、
4は、水素またはメチルであり、
Zは、CN-C(CH32-、Ph-C(CH32-、Ph-C(CH3)(CN)-、CH3-CH2-O-C(O)-C(CH32-、CH3-C(CH32-CH2-C(CH32-、CN-C(CH3)(H)-、Ph-C(CH3)(H)-、CH3-C(CH32-、CN-CH2-、Ph-CH2-、HO-C(O)-C(CH32-、またはHO-C(O)-(CH22-C(CN)(CH3)-であり、そして
nは20~600である)
で示される単独重合体、
[2]式(I)中、nは30~530である上記[1]記載の単独重合体、
[3]重量平均分子量が、4,000~110,000であり、分子量分布が4以下である上記[1]または[2]記載の単独重合体、
[4]上記[1]~[3]のいずれかに記載の単独重合体と、溶媒とを含む組成物、
[5]上記[4]記載の組成物を含む第1剤と、
酸化還元電位が+0.22V(vs.Ag/AgCl)よりも正側に大きい金属イオンを構成単位とする金属塩を含む第2剤と
を含む、被膜形成用組成物、
[6]透明基材と、
前記透明基材の一面に形成される被膜と、を有し、
前記被膜は、一般式(I’):
【化2】
(式中、
11は、水素またはメチルであり、
X’およびZ’は、連鎖移動剤または重合開始剤由来の構造であり、
Yは、-O-、-NH-、-O-(CH21-6-、-O-(CH21-6-O-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-CH2-CH2-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-CH=CH-、または-NR12-(CH21-6-であり、
12は、水素またはメチルであり、そして
nは20~600である)
で示される単独重合体と、白金、銅、パラジウム、銀および金からなる群より選択される金属とを含み、
前記被膜の露出面と、前記被膜の前記透明基材との接触面とが、色および光沢の少なくとも一方において異なる
積層体、
[7]前記X’は、-SC(S)R13、-SC(S)SR13、-SC(S)NR1314、または-SC(S)OR13であり、
13は、C1-20アルキル、C2-20アルケニル、フェニル、ピロール、ピロリドン、ピリジン、またはジエチルアミノであり、
14は、水素、C1-20アルキル、またはフェニルであり、そして
前記Z’は、CN-C(CH32-、Ph-C(CH32-、Ph-C(CH3)(CN)-、CH3-CH2-O-C(O)-C(CH32-、CH3-C(CH32-CH2-C-(CH32-、CN-C(CH3)(H)-、Ph-C(CH3)(H)-、CH3-C(CH32-、CN-CH2-、Ph-CH2-、HO-C(O)-C(CH32-、またはHO-C(O)-(CH22-C(CN)(CH3)-である、
上記[6]記載の積層体、
[8]前記X’およびZ’はそれぞれ独立して、CN-C(CH32-、Ph-C(CH32-、Ph-C(CH3)(CN)-、CH3-CH2-O-C(O)-C(CH32-、CH3-C(CH32-CH2-C-(CH32-、CN-C(CH3)(H)-、Ph-C(CH3)(H)-、CH3-C(CH32-、CN-CH2-、Ph-CH2-、HO-C(O)-C(CH32-、またはHO-C(O)-(CH22-C(CN)(CH3)-であり、
13は、C1-20アルキル、C2-20アルケニル、フェニル、ピロール、ピロリドン、ピリジン、またはジエチルアミノであり、そして
14は、水素、C1-20アルキル、またはフェニルである
上記[6]記載の積層体、
[9]前記金属が銀である上記[6]または[7]記載の積層体、
[10]前記被膜の露出面と、前記被膜の前記透明基材との接触面との両方が金属光沢を呈し、前記金属光沢の各々が、互いに異なる色および光沢を有する、上記[9]記載の積層体、
[11]一般式(I’):
【化3】
(式中、
11は、水素またはメチルであり、
X’およびZ’は、連鎖移動剤または重合開始剤由来の構造であり、
Yは、-O-、-NH-、-O-(CH21-6-、-O-(CH21-6-O-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-CH2-CH2-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-CH=CH-、または-NR12-(CH21-6-であり、
12は、水素またはメチルであり、そして
nは20~600である)
で示される単独重合体と、白金、銅、パラジウム、銀および金からなる群より選択される金属とを含み、前記金属とは異なる金属の色および光沢を呈する被膜を備え、
前記被膜が真贋判定部である物品、
[12]印刷物である上記[11]記載の物品、ならびに
[13]式(II):
【化4】
(式中、R1は、水素またはメチルであり、
Yは、-O-、-NH-、-O-(CH21-6-、-O-(CH21-6-O-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-CH2-CH2-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-CH=CH-、または-NR4-(CH21-6-であり、
4は、水素またはメチルである)
で表される化合物を、連鎖移動剤および重合開始剤と共に非プロトン性極性有機溶媒中で反応させることを特徴とする上記[1]記載の単独重合体の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の上記式(I)で表される新規単独重合体(以下、単独重合体(I)とも称す。)は、金属塩と組み合わせて使用し、基材上に金属を含む被膜を形成させるために有用に使用することができる。また、別の態様として、本発明の積層体は、透明基材と被膜とを含み、該被膜を、ジヒドロキシフェニル基を有する上記式(I’)で表される単独重合体(以下、単独重合体(I’)とも称す。)と白金、銅、パラジウム、銀および金からなる群より選択される金属とを含むものとすることにより、単純な工程により、被膜の露出面と、被膜の透明基材との接触面とが、色および光沢の少なくとも一方において異なるものとすることができる。さらに、また別の態様として、このような被膜を物品に形成することにより、その物品の真贋を見分ける真贋判定部として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1で製造した単独重合体をガラス基板にスピンコートし、真空アニールした後の薄膜表面のAFM像である。(a)が高さ像、(b)が位相像である。
図2図1の基板を硝酸銀水溶液中で浸漬コートし、アニールした後の積層体の被膜表面のAFM像である。(a)が高さ像、(b)が位相像である。
図3図2の積層体の被膜露出面(a)および基板接着面(b)の光学顕微鏡像である。
図4図2の積層体の被膜露出面のUV-Vis測定による反射スペクトルを金箔の反射率スペクトルと比較したグラフである。
図5図2の積層体の基板接着面のUV-Vis測定による反射スペクトルを銀プレートの反射率スペクトルと比較したグラフである。
図6図2の積層体の基板接着面のUV-Vis測定による吸収を示すグラフである。
図7】実施例1で製造した単独重合体をITO基板にスピンコートし、真空アニールした後の薄膜表面のAFM像である。(a)が高さ像、(b)が位相像である。
図8図7の基板を硝酸銀水溶液中で浸漬コートし、アニールした後の積層体の被膜表面のAFM像である。(a)が高さ像、(b)が位相像である。
図9図8の積層体の被膜露出面(a)および基板接着面(b)の光学顕微鏡像である。
図10】実施例5の合成におけるモノマー変換率に対する数平均分子量および分子量分布を示すグラフである。
図11】実施例5の合成における重合時間に対する擬一次動力学プロットを示すグラフである。
図12】実施例6で作製した積層体の被膜露出面(a)および基板接着面(b)の光学顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、「(メタ)アクリル」、「(メタ)アクリレート」等の用語は、それぞれ「メタクリル」と「アクリル」、「メタクリレート」と「アクリレート」の総称である。
【0014】
本明細書において、「~」を用いて数値範囲を示す場合、その両端の数値を含むものとする。
【0015】
本明細書において「置換基」の定義における炭素数の数を、例えば、「C1-20」等と表記する場合もある。具体的には、「C1-20アルキル」なる表記は、炭素数1から20のアルキル基と同義である。
【0016】
本明細書において、「単独重合体」とは、1種類の単量体(モノマー)の重合により得られる重合体を意味し、「ホモポリマー」ともいう。
【0017】
本明細書において、「重量平均分子量(Mw)」は、後述の実施例に記載するように、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定し、ポリスチレン換算した値で示す。
【0018】
本明細書において、「分子量分布」は、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表され、後述の実施例に記載するように、GPC測定により重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を導き、決定することができる。
【0019】
本明細書において、「重合度」は、単独重合体においては、重合体を構成するモノマーの繰り返し単位の数nと同義であり、1H-NMRを測定し、得られたスペクトルについてモノマーに由来するピークとポリマーに由来するピークとの積分比を求めることにより決定することができる。
【0020】
本明細書において、「色」の違いや「光沢」の違いは、UV-Vis測定の反射率法を用いることにより、色や光沢の違い(特徴的な波長における反射率の差)を観察することにより判断することができる。つまり、特定波長領域におけるそれぞれの反射スペクトルを取得し、それらを比較し、その一致度により判断することができる。例えば、本明細書において被膜の露出面と被膜の透明基材との接触面とで「色および光沢の少なくとも一方が異なる」という場合、あるいは「互いに異なる色および光沢を有する」という場合、これらの、例えば300nm~900nmの波長領域でのそれぞれの反射スペクトルの一致度が50%以下であることを指標とすることができる。また、具体的には、基板上に銀を含む被膜を形成した場合は、一方の面の450nmの反射率が800nmの反射率の半分以下であるのに対し、もう一方の面の450nmの反射率が800nmの反射率の80%以上であることを指標としてもよい。
【0021】
本明細書において、金属光沢を呈しているかどうかは、光沢が鏡面反射光の強さによって定められる視知覚の属性であることから、光源から規定された入射光(60°)で試料表面に光を入射し、鏡面反射方向に反射角(60°)で反射する光を受光器で測定することによって確認することができる。つまり、同一光源により測定された場合の60°における反射強度を標準試料と比較することで、光沢の度合いについて金属光沢を呈しているかどうかを判断することができる。標準試料としてはアルミ箔(例えば業務用クッキングホイル(30cm×50m)、東洋アルミエコープロダクツ(株)製)を用いることができ、このアルミ箔が示す反射強度(反射率)以上の場合、金属光沢を有すると定義することができる。また、本明細書において、被膜の露出面と被膜の透明基材との接触面とで「光沢が異なる」という場合、同一光源により測定された場合の60°におけるこれらの反射強度が10%以上異なることを指標とすることができる。
【0022】
<新規単独重合体(I)>
第1の実施態様において、本発明は、次の一般式(I)の構造で表される新規単独重合体(I)を提供する。この単独重合体(I)は、所定の金属と組み合わせて透明基材に使用することにより、表裏の色や光沢が異なる積層体を生み出すことができる。これは、単独重合体(I)がジヒドロキシフェニル基部分により基材に接着し、金属イオンを還元して表面に金属ナノ粒子を析出させた被膜を形成し、析出した金属ナノ粒子によるプラズモン共鳴と単独重合体(I)の吸収および屈折が組み合わされることによるものと考えられる。
【化5】
(式中、
1は、水素またはメチルであり、
Xは、-SC(S)R2、-SC(S)SR2、-SC(S)NR23、または-SC(S)OR2であり、
2は、C1-20アルキル、C2-20アルケニル、フェニル、ピロール、ピロリドン、ピリジン、またはジエチルアミノであり、
3は、水素、C1-20アルキル、またはフェニルであり、
Yは、-O-、-NH-、-O-(CH21-6-、-O-(CH21-6-O-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-CH2-CH2-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-CH=CH-、または-NR4-(CH21-6-であり、
4は、水素またはメチルであり、
Zは、CN-C(CH32-、Ph-C(CH32-、Ph-C(CH3)(CN)-、CH3-CH2-O-C(O)-C(CH32-、CH3-C(CH32-CH2-C(CH32-、CN-C(CH3)(H)-、Ph-C(CH3)(H)-、CH3-C(CH32-、CN-CH2-、Ph-CH2-、HO-C(O)-C(CH32-、またはHO-C(O)-(CH22-C(CN)(CH3)-であり、そして
nは20~600である)
【0023】
式(I)において、R1は、水素またはメチルであるが、モノマーの安定性の点から水素がより好ましい。
【0024】
式(I)において、Xは、-SC(S)R2、-SC(S)SR2、-SC(S)NR23、または-SC(S)OR2であるが、重合制御性の点から-SC(S)R2または-SC(S)SR2がより好ましい。R2は、C1-20アルキル、C2-20アルケニル、フェニル、ピロール、ピロリドン、またはピリジン、ジエチルアミノであるが、重合制御性の点からC1-20アルキルが好ましく、C6-16アルキルがより好ましく、C10~14アルキルがさらに好ましい。R3は水素、C1-20アルキル、フェニルであるが、モノマーとの反応性の点からC1-20アルキルが好ましく、R2がC10-20アルキルである場合、R3は水素であることが好ましい。
【0025】
式(I)において、Yは、-O-、-NH-、-O-(CH21-6-、-O-(CH21-6-O-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-CH2-CH2-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-CH=CH-、または-NR4-(CH21-6-であるが、製造性の点から-NR4-(CH21-6-であることが好ましく、-NR4-(CH22-4-であることがより好ましい。R4は、水素またはメチルであるが、安定性の点から水素であることが好ましい。
【0026】
式(I)において、Zは、CN-C(CH32-、Ph-C(CH32-、Ph-C(CH3)(CN)-、CH3-CH2-O-C(O)-C(CH32-、CH3-C(CH32-CH2-C(CH32-、CN-C(CH3)(H)-、Ph-C(CH3)(H)-、CH3-C(CH32-、CN-CH2-、Ph-CH2-、HO-C(O)-C(CH32-、またはHO-C(O)-(CH22-C(CN)(CH3)-であるが、重合反応の制御性の点からCN-C(CH32-、Ph-C(CH32-、Ph-C(CH3)(CN)-、HO-C(O)-C(CH32-、HO-C(O)-(CH22-C(CN)(CH3)-であることが好ましい。
【0027】
式(I)において、nは単独重合体(I)を構成するモノマーの繰り返し単位の数を示し、nは20~600である。nは、作製する薄膜の均一性の点から30~530が好ましく、40~200がさらに好ましい。
【0028】
また、式(I)において、ジヒドロキシフェニル基部分の2つのヒドロキシル基は、金属イオンとの錯体形成、酸化還元反応における反応点として利用可能であるという点からオルト位にあることが好ましく、3,4-ジヒドロキシフェニル基であることが特に好ましい。
【0029】
本発明の単独重合体(I)は、好ましい一態様では、式(I)において、R1は水素であり、Xは-SC(S)SR2であり、R2はC1-20アルキルであり、YはNR4-(CH21-6-であり、R4は水素であり、ZはCN-C(CH32-であり、そしてnは30~530であり、芳香環に結合した2つのヒドロキシル基は芳香環と共に3,4-ジヒドロキシフェニルである。
【0030】
本発明の単独重合体(I)は、別の好ましい一態様では、式(I)において、R1は水素であり、Xは-SC(S)SR2であり、R2はC10-14アルキルであり、YはNR4-(CH22-4-であり、R4は水素であり、ZはCN-C(CH32-であり、そしてnは40~200であり、芳香環に結合した2つのヒドロキシル基は芳香環と共に3,4-ジヒドロキシフェニルである。
【0031】
本発明の単独重合体(I)の重量平均分子量(Mw)は、用途に応じて適宜選択することができ、特に限定されるものではないが、薄膜の均一性の点から4,000~110,000が好ましく、10,000~110,000がより好ましく、20,000~105,000がさらに好ましく、30,000~100,000が特に好ましく、40,000~100,000がさらに特に好ましい。また、この際、分子量分布は、反応の均一性の点から4以下が好ましく、3以下がより好ましく、2以下がさらに好ましく、1.5以下が特に好ましい。
【0032】
<単独重合体(I)の製造>
本発明の新規単独重合体(I)は、当該技術分野において公知のRAFT重合(可逆的付加-開裂連鎖移動重合(Reversible Addition-Fragmentation Chain Transfer Polymerization))により得ることができる。RAFT重合は、通常のラジカル重合の系にRAFT剤と呼ばれる高い連鎖移動定数を有する連載移動剤を添加して、ビニル系モノマーを重合させる方法である。具体的には、ビニルモノマーと、RAFT剤と、重合開始剤とを共存させることで重合を進行させる。生成するラジカルがチオエステル化合物、あるいは生成したポリマー末端のC=S結合へ付加し、もとのラジカル種は同様なチオエステル型へと変換され、チオエステルへのラジカル付加と開裂を可逆的に繰り返す交換連鎖移動を介して重合が進行する。したがって、この場合、式(I)のZが開始剤、XがRAFT剤に由来する構造となる。また、式(I)中のXについては、連鎖移動剤が関与しないラジカル重合に由来する構造を有するラジカル種の再結合や水素引抜きによる停止反応で生成する単独重合体もわずかながら生成する。したがって、単独重合体(I)の製造においては、併用する重合開始剤に由来する再結合や水素引抜きによる末端(式(I)のXおよびZ)を有する重合体等も副生成物としてわずかながら生成する。また、Zが前記R2である単独重合体も生成し得る。
【0033】
また、RAFT重合では、用いるモノマーとRAFT剤の仕込み時の比率により、重合度(または分子量)や分子量分布等を自由に制御することが可能である。
【0034】
(モノマー)
モノマーとしては、上記重合体(I)の構成成分となるような(メタ)アクリル系モノマーまたは(メタ)アクリルアミド系モノマーであれば、特に限定されるものではないが、具体的には、ドーパミンアクリルアミド、ドーパミンメタクリルアミド等があげられる。合成の容易さ等の点からドーパミンアクリルアミドが好ましい。
【0035】
(RAFT剤)
RAFT剤としては、本技術分野において当業者に公知な、ジチオエステル、トリチオカーボネート、ジチオカルバメート、キサンテート等の硫黄原子を含むRAFT剤が挙げられ、なかでも(メタ)アクリル系モノマーや(メタ)アクリルアミド系モノマーの重合に適したものを使用することができる。具体的には、S-(2-シアノ-2-プロピル)-S-ドデシルトリチオ炭酸、S-(シアノメチル)-S-ドデシルトリチオ炭酸、S-(4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸、S-(2-ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロパン酸等が好ましい。
【0036】
RAFT剤の量は、目的とする重合体の分子量によって決定される。各モノマーの末端にRAFT剤が結合するため、重合度100の重合体を目的物とする場合、モノマー100モル%に対して1モル%前後(0.5~3モル%)を使用する。したがって、上述の単独重合体(I)を構成するモノマーの繰り返し単位の数nを、所望のものとするためには、モノマーとRAFT剤の比率を調整すればよい。
【0037】
(重合開始剤)
重合開始剤としては、本技術分野において当業者に公知のものを特に限定することなく使用することができ、具体的には、アゾ化合物、パーオキサイド化合物またはレドックス化合物等の中から選択される任意のタイプの重合開始剤が使用できる。
【0038】
アゾ化合物の例としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)等が挙げられる。パーオキサイド化合物の例としては、tert-ブチルペルオキシアセタート、tert-ブチルペルオキシベンゾエート(TBPO)、ジクミルパーオキサイドまたは過酸化ジベンゾイルが挙げられる。レドックス化合物の例としては、ペルオキソ硫酸塩、例えば過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムおよび過硫酸アンモニウムが挙げられ、必要に応じてメタ重亜硫酸塩、例えば、メタ重亜硫酸ナトリウムと一緒に使用することができる。
【0039】
重合開始剤は、一般に、RAFT剤に対して30~70モル%、好ましくは40~60モル%が使用される。
【0040】
RAFT重合の反応温度は、用いる重合開始剤によって決まるが、一般に40~150℃が好ましく、50~100℃がより好ましく、60~70℃がさらに好ましい。反応温度を40℃以上とすることにより、一般的な重合開始剤の重合開始温度となり、かつRAFT剤による重合末端において活性状態と休止状態とが平衡状態となる傾向があり、また反応温度を150℃以下とすることにより、副反応を抑制しやすく、使用できる開始剤や溶媒に関する制限が緩和する傾向がある。また、RAFT重合反応は、大気圧下で行うこともできるが、減圧下・加圧下においても行うことが可能である。さらにRAFT重合反応は、副反応の抑制およびモノマーの反応性を考慮すると窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
【0041】
RAFT重合は、溶媒の不存在下でも行うことができるが、溶媒の存在下で行うことが好ましい。溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、トルエン、エタノール等を使用することができ、単独重合体(I)の溶解性の点からジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、トルエンが好ましく用いられる。
【0042】
また、一態様においては、単独重合体(I)の製造は、非プロトン性極性有機溶媒の存在下で行われることが好ましい。具体的には、対応するモノマーである式(II):
【化6】
(式中、R1は、水素またはメチルであり、
Yは、-O-、-NH-、-O-(CH21-6-、-O-(CH21-6-O-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-CH2-CH2-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-CH=CH-、または-NR4-(CH21-6-であり、
4は、水素またはメチルである)
で表される化合物(以下、モノマー(II)とも称する。)を、上述のような連鎖移動剤および重合開始剤と共に非プロトン性極性有機溶媒、例えばジメチルホルムアミド、またはジメチルスルホキシド中で反応させることで、反応中に上記式(II)のベンゼン環上のヒドロキシル基が一時的に保護され、副反応が抑制されることとなり、重合が制御された反応系とすることができる。これにより、分子量分布の狭い、例えば分子量分布が1.4以下の単独重合体(I)を製造することができる。この製造方法において、分子量分布の狭い単独重合体(I)を製造することを考慮すると、反応は、60~70℃で行うことが好ましく、さらに所望の重合度を有する単独重合体(I)が得られたら、速やかに反応を停止させ、単離することが好ましい。反応の停止や単離は、本技術分野における通常の方法を使用することができる。具体的には、急冷、例えば0~-196℃に急冷することにより反応を速やかに停止させ、適切な溶媒または混合溶媒中に反応を停止させた反応混合物を滴下し、得られた単独重合体(I)を沈殿させることにより単離することができる。
【0043】
<単独重合体(I)を含む組成物>
上記単独重合体(I)は、種々の溶媒を含む組成物として利用することができる。このような溶媒としては、特に限定されるものではないが、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。なかでも、単独重合体(I)の溶解性の点から、ジメチルホルムアミドが好ましい。
【0044】
上記単独重合体(I)を含む組成物は、その用途により、種々の態様が可能である。例えば、当該組成物における単独重合体(I)の濃度は、特に限定されるものではないが、0.1~50質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましい。
【0045】
また、このような組成物には、上記単独重合体(I)、および溶媒に加え、可塑剤、塩等を含めることもできる。
【0046】
<被膜形成用組成物>
一実施形態として、本発明の単独重合体(I)は、上記単独重合体(I)を含む組成物を含む第1剤と、酸化還元電位が+0.22V(vs.Ag/AgCl)よりも正側に大きい金属イオンを構成単位とする金属塩を含む第2剤とを含む、被膜形成用組成物とすることができる。この被膜形成用組成物を用い、例えば後述する透明基材に金属光沢を付与した積層体を得ることができる。
【0047】
(第1剤)
第1剤としては、上記単独重合体(I)を含む組成物をそのまま使用することができる。使用する溶媒としては、上述の溶媒のなかでも、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が、単独重合体(I)の溶解性および安定性の点から好ましく、ジメチルホルムアミドが特に好ましい。
【0048】
第1剤における新規単独重合体(I)の濃度は、特に限定されるものではないが、適切な膜厚を達成しやすい等の点から0.1~50質量%が好ましく、5質量%が特に好ましい。
【0049】
(第2剤)
第2剤は、酸化還元電位が+0.22V(vs.Ag/AgCl)よりも正側に大きい金属イオンを構成単位とする金属塩を含むものであり、溶媒を含むことが好ましい。溶媒としては、水、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、炭酸プロピレン等を使用することができ、金属塩の溶解性の点から水が好ましい。
【0050】
金属塩は、酸化還元電位が+0.22V(vs.Ag/AgCl)よりも正側に大きい金属イオンの塩であり、具体的には、Cu+、Pd2+、Pt2+、Ag+、Au+、およびAu3+の塩等が挙げられる。容易に入手が可能であることや大気中にて酸化されにくい点から、Ag+等の銀イオンの塩を用いることが特に好ましい。これらの金属塩には、硝酸、硫酸、ハロゲン、シアン等との塩等が挙げられる。
【0051】
第2剤における金属塩の濃度は、特に限定されるものではないが、第1剤との反応性および形成される粒子の大きさ(サイズ)への影響の点から、50~500mMが好ましく、75~250mMがより好ましい。
【0052】
<積層体>
第二の実施態様において、本発明は、透明基材と、透明基材の一面に形成される被膜と、を有し、被膜は、下記一般式(I’)で示される単独重合体(I’)と、白金、銅、パラジウム、銀および金からなる群より選択される金属とを含み、前記被膜の露出面と、前記被膜の前記透明基材との接触面とが、色および光沢の少なくとも一方において異なる積層体を提供する。
【化7】
(式中、
11は、水素またはメチルであり、
X’およびZ’は、連鎖移動剤または重合開始剤由来の構造であり、
Yは、-O-、-NH-、-O-(CH21-6-、-O-(CH21-6-O-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-CH2-CH2-、-O-CH2-CH(OH)-CH2-O-C(O)-CH=CH-、または-NR12-(CH21-6-であり、
12は、水素またはメチルであり、そして
nは20~600である)
【0053】
(透明基材)
透明基材としては、基材上に積層された被膜が基材の裏面から視認できるものであれば特に限定されるものではなく、無色透明であっても着色透明であってもよく、例えば550nmでの光透過率が50%以上のプラスチック基材(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン等)やガラス基材、さらにはこれらのプラスチック基材やガラス基材にITO(酸化インジウムスズ)膜を積層したITO基材等が挙げられる。
【0054】
(被膜)
被膜は、単独重合体(I’)と、白金、銅、パラジウム、銀および金からなる群より選択される金属とを含むものである。
【0055】
単独重合体(I’)は、上述した通りであり、式(I’)において、X’およびZ’は、連鎖移動剤または重合開始剤由来の構造であり、選択する重合方法および使用する連鎖移動剤や重合開始剤によって決定される。具体的には、重合方法としては、リビング重合法、RAFT重合法、または原子移動ラジカル重合(ATRP)法等を採用することができる。
【0056】
好ましい態様においては、式(I’)中、X’およびZ’はそれぞれ独立して、-SC(S)R13、-SC(S)SR13、-SC(S)NR1314、-SC(S)OR13、CN-C(CH32-、Ph-C(CH32-、Ph-C(CH3)(CN)-、CH3-CH2-O-C(O)-C(CH32-、CH3-C(CH32-CH2-C-(CH32-、CN-C(CH3)(H)-、Ph-C(CH3)(H)-、CH3-C(CH32-、CN-CH2-、Ph-CH2-、HO-C(O)-C(CH32-、またはHO-C(O)-(CH22-C(CN)(CH3)-であり、R13は、C1-20アルキル、C2-20アルケニル、フェニル、ピロール、ピロリドン、ピリジン、またはジエチルアミノであり、そしてR14は、水素、C1-20アルキル、またはフェニルである。具体的には、X’およびZ’は、リビング重合開始剤や、RAFT剤、RAFT剤と併用する重合開始剤、ATRP試薬等使用する製造方法および試薬に由来する構造となる。なお、RAFT重合法においては、式(I)の単独重合体について上述したとおりであるが、単独重合体(I’)についてはX’およびZ’のいずれもがRAFT剤と併用する重合開始剤に由来する構造を有する重合体もその範囲に含むものである。
【0057】
より好ましい態様においては、式(I’)中、X’は、-SC(S)R13、-SC(S)SR13、-SC(S)NR1314、または-SC(S)OR13であり、R13は、C1-20アルキル、C2-20アルケニル、フェニル、ピロール、ピロリドン、またはピリジン、ジエチルアミノであり、R14は、水素、C1-20アルキル、フェニルであり、そしてZ’は、CN-C(CH32-、Ph-C(CH32-、Ph-C(CH3)(CN)-、CH3-CH2-O-C(O)-C(CH32-、CH3-C(CH32-CH2-C-(CH32-、CN-C(CH3)(H)-、Ph-C(CH3)(H)-、CH3-C(CH32-、CN-CH2-、Ph-CH2-、HO-C(O)-C(CH32-、またはHO-C(O)-(CH22-C(CN)(CH3)-である。
【0058】
また別の好ましい態様においては、式(I)において、X’およびZ’はそれぞれ独立して、CN-C(CH32-、Ph-C(CH32-、Ph-C(CH3)(CN)-、CH3-CH2-O-C(O)-C(CH32-、CH3-C(CH32-CH2-C(CH32-、CN-C(CH3)(H)-、Ph-C(CH3)(H)-、CH3-C(CH32-、CN-CH2-、Ph-CH2-、HO-C(O)-C(CH32-、またはHO-C(O)-(CH22-C(CN)(CH3)-である。
【0059】
また、式(I’)において、R11は水素が好ましく、Yは、式(I)におけるYについて上述した通りであり、R12は水素が好ましく、nも式(I)におけるnについて上述した通りである。
【0060】
また、式(I’)において、ジヒドロキシフェニル基部分の2つのヒドロキシル基は、金属イオンとの錯体形成、酸化還元反応における反応点として利用可能であるという点からオルト位にあることが好ましく、3,4-ジヒドロキシフェニル基であることが特に好ましい。
【0061】
単独重合体(I’)の重量平均分子量(Mw)は、用途に応じて適宜選択することができ、特に限定されるものではないが、薄膜の均一性の点から4,000~110,000が好ましく、10,000~110,000がより好ましく、20,000~105,000がさらに好ましく、30,000~100,000が特に好ましく、40,000~100,000がさらに特に好ましい。また、この際、分子量分布は、反応の均一性の点から4以下が好ましく、3以下がより好ましく、2以下がさらに好ましく、1.5以下が特に好ましい。
【0062】
さらに好ましい態様においては、単独重合体(I’)は、上述の単独重合体(I)であり、好ましい態様や製造方法等単独重合体(I)について記載した内容は、単独重合体(I’)についても矛盾しない限り適用される。
【0063】
単独重合体(I’)の製造において、リビング重合法やATRP法を用いる場合、当該技術分野における通常の方法により製造することができる。リビング重合法やATRP法に用いる重合開始剤やATRP試薬としては、特に限定されるものではなく、一般に当該技術分野において使用されているものを用いることができる。具体的には、重合開始剤としては、本技術分野において当業者に公知のものを特に限定することなく使用することができる。具体的には、フリーラジカル重合の場合、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)等のアゾ化合物、tert-ブチルペルオキシアセタート、tert-ブチルペルオキシベンゾエート(TBPO)、ジクミルパーオキサイドまたは過酸化ジベンゾイル等のパーオキサイド化合物またはペルオキソ硫酸塩、例えば過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムおよび過硫酸アンモニウム等のレドックス化合物(必要に応じてメタ重亜硫酸塩、例えば、メタ重亜硫酸ナトリウムを併用する)等の中から選択される任意のタイプの重合開始剤が使用でき、重合反応時の安全性やモノマーに対する安定性の点からAIBNが好ましい。ニトロキシド媒介重合の場合、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル等を使用することができ、重合制御性の観点から、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルが好ましい。ATRP試薬としては、テトラクロロメタン、トリクロロメタン、ジクロロメタン、モノクロロエタン、トリクロロフェニルメタン、ジクロロジフェニルメタン、モノブロモメタン、ヨードメタン、ヨードエタン、ヨードプロパン、ヨードブタン、ジヨードメタン、1,2-ジヨードエタン、ヨードホルム、クロロヨードメタン、1,6-ジヨードヘキサンなどのハロゲン化炭化水素化合物;2,2,2-トリクロロアセトン、2,2-ジクロロアセトフェノンなどのα-ハロゲノカルボニル化合物;2,2,2-トリクロロ酢酸メチル、2,2-ジクロロ酢酸メチル、2-クロロプロパン酸メチル、2-ブロモ-2-メチルプロパン酸エチル、2-ヨード-2-メチルプロパン酸エチル、2-ブロモ-プロパン酸エチル、2-ヨード-プロパン酸エチル、2-クロロ-2,4,4-トリメチルグルタル酸ジメチル、2-ブロモ-2,4,4-トリメチルグルタル酸ジメチル、2-ヨード-2,4,4-トリメチルグルタル酸ジメチル、1,2-ビス(2’-ブロモ-2’-メチルプロピオニルオキシ)エタン、1,2-ビス(2’-ヨード-2’-メチルプロピオニルオキシ)エタン、1,2-ビス(2’-ブロモプロピオニルオキシ)エタン、1,2-ビス(2’-ヨードプロピオニルオキシ)エタン、2-(2’-ブロモ-2’-メチルプロピオニルオキシ)エチルアルコール、2-(2’-ヨード-2’-メチルプロピオニルオキシ)エチルアルコールなどのα-ハロゲノカルボン酸エステル;ヨードアセトニトリル、ヨード酢酸、ヨードアセトアミド等を挙げることができる。これらは1種単独で使用することもでき、あるいは2種以上を併用することもできる。これらの有機ハロゲン化物の中でも、有機臭化物、有機塩化物が好ましく用いられ、重合制御性の観点から2-クロロプロパン酸メチル等が好ましい。
【0064】
被膜中に含まれる金属は、白金、銅、パラジウム、銀および金からなる群より選択されるものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、銅、銀、パラジウム、金等が挙げられ、銀がより好ましい。
【0065】
好ましい態様においては、金属は銀であり、被膜の露出面と、被膜の透明基材との接触面との両方が金属光沢を呈し、前記金属光沢の各々が、互いに異なる色および光沢を有する。この場合、例えばガラス基板を用いた一例では、互いに異なる色は金色と銀色となり、上述したようにUV-Vis測定(反射率法)を用いて確認され、例えば、800nmの反射率と500nmの反射率の比で規定すると、被膜の露出面は3/5以下(金色)であり、被膜の透明基材との接触面は4/5以上(銀色)である。また、透明基材として透明ガラス基材にITO膜を蒸着したITO基材を用いた一例では、ITO基材との干渉色が観察され、被膜露出面が金色であり、被膜の基材との接触面は光沢のある紫色である。
【0066】
単独重合体(I’)と、白金、銅、パラジウム、銀および金からなる群より選択される金属とを含む被膜は、単独重合体(I’)の薄膜の上に金属ナノ粒子が析出したものであることが好ましい。このため、被膜の露出面は、金属ナノ粒子に覆われた状態であり、具体的には高低差が100nm以内であることが好ましい。
【0067】
(積層体の製造方法)
本発明の積層体は、種々の方法により得ることができる。使用する透明基材、単独重合体(I’)、金属塩の種類等により適宜好適な条件を選択して製造することができる。
【0068】
(工程1)
上記単独重合体(I’)の溶液を準備し、上述の透明基板にスピンコート法により塗布し、製膜する。具体的には、単独重合体(I’)の溶液としては、例えば単独重合体(I’)を好ましくは0.1~10質量%の濃度で有機溶媒に溶解したものを用いる。単独重合体(I’)の溶液中の濃度は、第2剤との反応性の点から3~7質量%がより好ましく、4~6質量%がさらに好ましい。有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等を使用することができ、単独重合体(I’)の溶解性および安定性の点からジメチルホルムアミドが好ましい。もちろん、上述の新規単独重合体(I)を含む組成物や、被膜形成用組成物の第1剤を単独重合体の溶液として用いることもできる。
【0069】
スピンコートの条件としては、特に限定されるものではないが、例えば、1回目:800~1,200rpmで5~15秒、2回目:1,200~1,700rpmで90~150秒、3回目:2,000~3,000rpmで20~40秒、好ましくは1回目:900~1,100rpmで8~12秒、2回目:1,400~1,600rpmで110~130秒、3回目:2,300~2,700rpmで25~35秒が使用される。
【0070】
単独重合体(I’)の溶液中の濃度とスピンコートの条件は、後述する工程4により得られる金属を含む被膜について所望の膜厚が得られるように適宜設定される。被膜の膜厚は、おおよそ150~300nmであると、被膜の露出面と、当該被膜の透明基材との接触面とが、色および光沢の少なくとも一方において異なるものとなりやすいので好ましく、170~190nmがより好ましく、180nm付近が特に好ましい。このような所望の膜厚を得るためには、単独重合体(I’)の溶液中の濃度およびスピンコートの条件を適宜選択し、スピンコート後の単独重合体(I’)のみの膜厚が30~200nmとなるようにすることが好ましく、80~100nmとなるようにすることがより好ましい。
【0071】
(工程2)
工程1で得られた薄膜を有する透明基板を真空アニールする。具体的には、50~130℃、好ましくは60~120℃、より好ましくは70~110℃で、1~5時間、好ましくは1.5~3時間、真空(例えば1.0×10-3Pa以下)でアニールする。
【0072】
得られた単独重合体(I’)の薄膜は、後述する金属ナノ粒子が均一に析出し易いという点から、均一な表面を有することが好ましく、具体的には高低差が20nm以内であることが好ましい。
【0073】
(工程3)
金属塩の水溶液をシャーレに入れ、密閉瓶中に置き、工程2でアニール後の薄膜を基板ごとシャーレ内に浸漬させる。この際、密閉容器内の湿度を飽和状態にする。使用する金属塩の水溶液は、媒体に純水、好ましくは超純水(18MΩcm)を用い、50~500mM、好ましくは75~250mM、より好ましくは180~220mMの濃度のものが好ましい。密閉容器内の湿度を飽和状態にする手段としては、特に限定されるものではないが、例えば、水を入れたサンプル瓶を、シャーレの周りに適宜配置することで達成することができる。この際、水としては、純水、好ましくは超純水(18MΩcm)が使用される。
【0074】
(工程4)
容器を密閉した後、アルミホイルで全周を覆い、外部からの自然光を遮断し、アニールする。具体的には、50~100℃、好ましくは60~95℃、より好ましくは70~90℃で、1~5時間、好ましくは1.5~3時間アニールする。
【0075】
(工程5)
アニール後、取り出した基板を超純水(18MΩcm)にて5回洗浄し、N2ブローを行う。
【0076】
一態様として、透明基板としてガラスを、単独重合体(I’)としてドーパミンアクリルアミド単独重合体を、金属塩として銀塩を用いた場合の積層体の製造方法を説明する。なお、(工程5)は上記と同じである。
【0077】
(工程1)
ドーパミンアクリルアミド単独重合体の2~9質量%DMF溶液を親水性ガラス基板(1~4cm2)上に膜厚がおおよそ50~150nmとなるようにスピンコート法により塗布した。スピンコートの条件としては、例えば、1回目:800~1,200rpmで5~15秒、2回目:1,300~1,700rpmで90~150秒、3回目:2,000~3,000rpmで20~40秒が使用される。
【0078】
(工程2)
工程1で得られた被膜を有する透明基板を真空アニールする。具体的には、70~110℃で、1~5時間、真空(例えば1.0×10-3Pa以下)でアニールする。
【0079】
(工程3)
超純水(18MΩcm)を用いた硝酸銀水溶液(100~300mM)をシャーレに入れ、密閉瓶中に置き、工程2でアニール後の被膜を基板ごとシャーレ内に浸漬させる。この際、密閉容器内の湿度を、超純水(18MΩcm)を入れたサンプル瓶を置くことにより飽和状態にする。
【0080】
(工程4)
容器を密閉した後、アルミホイルで全周を覆い、外部からの自然光を遮断し、75℃以上、好ましくは80~90℃で、1~5時間、好ましくは1.5~3時間アニールする。アニール温度を75℃以上とすることにより、被膜の露出面と、被膜の透明基材との接触面とが、色および光沢の少なくとも一方において異なるものとなりやすい傾向がある。
【0081】
このように、本発明の積層体は、多段階なプロセスを用いる事なく表裏で異なる金属光沢を創り出すことができる。その結果、軽量、低コストでプラスチックに高級感を与えることができる。また、表裏により反射率、波長が異なるため、光学フィルターや光共振器を簡便に構築する事ができる。
【0082】
(真贋判定部を備える物品)
第三の実施態様において、本発明は、上述した一般式(I’)で示される単独重合体(I’)と、白金、銅、パラジウム、銀および金からなる群より選択される金属とを含み、前記金属とは異なる金属の色および光沢を呈する被膜を真贋判定部として備える物品を提供する。つまり、物品において、この被膜が当該物品の真贋判定部として機能するものである。本発明に係る物品は、上述したように、被膜の色および金属光沢の少なくとも一方が、その金属が本来有するものと異なることに着目した物品である。すなわち、真正品に付された被膜の露出面(視認可能な面)を、被膜を構成する金属とは異なる金属の色および光沢が視認可能となるように形成して流通させる。流通している真正品を認知し、これを模倣・偽造しようとする者は、この被膜部分も含めて模倣しようとするため、被膜の材料として露出面と同様の色や光沢を呈する金属を選択する。その結果、模倣品の被膜と真正品の被膜とは、色や光沢は同様であるものの、その被膜に用いられている金属の種類は異なるものとなる。よって、被膜に含まれる金属の種類を走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)等で分析することで、その被膜が付された物品が真正品であるか偽造品であるかを簡単に判定することができる。
【0083】
ここで、「金属の本来有する色や光沢」や、「金属の色や光沢」というのは、通常、金は金色、銀は銀色、パラジウムは白銀色、銅は赤銅色または青銅色、白金は銀白色というように一般に認識されているものであり、直接視覚的に、あるいは反射スペクトルデータを取得することにより判断することができる。具体的には、金属光沢を有する状態の対象とする金属の箔や金属プレートを参照試料として用い、金属の「色」の違いについて上述したように、参照資料のUV吸収スペクトルとの一致度により判断することもできる。
【0084】
(被膜)
被膜は、単独重合体(I’)と、白金、銅、パラジウム、銀および金からなる群より選択される金属とを含む。これらの詳細は上述した第二の実施形態に係る積層体における被膜と同様であるため説明を省略するが、被膜の少なくとも一方の面において、被膜を構成する金属とは異なる金属と同様の色および光沢を呈すればよく、被膜の表裏が異なる色および/または光沢を有する必要はない。物品において、被膜(真贋判定部)は、被膜を構成する金属と異なる金属の色および光沢を呈する面の少なくとも一部が視認可能に形成されていればよく、その位置は外観上視認できる位置であってもよく、外観上視認できない位置であっても良い。被膜の形状や大きさは特に限定されず、物品の形状やデザイン等に合わせて適時選択することができる。例えば、構成する金属としては銀が好ましく、単独重合体(I’)の表面に所定の方法により析出させることで、銀ナノ粒子が表面を覆い、銀色ではなく金色の、金の色と光沢を有する表面を形成することができる。
【0085】
(物品)
真贋判定部を設ける対象となる物品の種類は特に限定されず、一例としては、紙幣、印紙、切手、商品券、債券、株券、手形、小切手、証券、図書券、旅券(パスポート)、各種免許証、身分証、名刺、スポーツ等の観戦用チケット、観劇等用チケット、処方箋、診断書、検査票、公文書、賞状、パッケージ等の印刷物、クレジットカード、テレホンカード、鉄道やバス等の交通機関で使用される乗車券または乗車カード、ハイウェイカード、パチンコカードその他の各種機能、機構を組み込んだカード類、衣服、鞄、装飾品、時計、指輪、ネックレス、硬貨、貴金属塊、社員章、タグ、絵画、美術品、著名人の使用品、医薬品、車、CD、光ディスク、コンピュータソフト、電化製品等が挙げられる。
【0086】
(被膜・物品の製造方法)
被膜の製造方法は特に限定されず、上述した積層体を製造し、この積層体から被膜を剥離し、被膜を構成する金属と異なる金属の色や光沢を呈する面の少なくとも一部が視認可能となるように物品に張り付けて真贋判定部を有する物品を製造してもよい。この際、積層体の透明基材の代わりに、離型フィルムを用いることもできる。また、透明基材に代えて物品またはこれを構成する部品に被膜を直接形成しても良い。物品に被膜を直接形成する方法としては、例えば、ガラス製品やアクセサリー等の物品には単独重合体(I’)を一定の厚さ(100nm程度)になるように塗布する。その後、写真現像液のように金属イオン溶液に漬け込むことで塗布した部分に被膜が形成されるため、絵付けや装飾として使用することができる。また、切手や紙幣等の印刷物に用いる場合は、単独重合体(I’)を特定の厚さの薄膜としてプリントをしたのち、少なくとも薄膜形成部分を金属イオン溶液にくぐらせることで、被膜を形成させる。
【実施例0087】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および試験例において示された化合物は、必ずしもIUPAC命名法に従うものではない。
【0088】
実施例1:単独重合体(I-1)の合成
重合体I-1
【化8】
【0089】
ドーパミンアクリルアミド(大阪有機化学工業(株)製)1.5g、S-(2-シアノ-2-プロピル)-S-ドデシルトリチオ炭酸(シグマ・アルドリッチ社製)25.0mg、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(ABIN)(富士フイルム和光純薬(株)製)5.94mgを、15mlの耐圧試験管に入れ、窒素雰囲気下のグローブボックス内でさらにジメチルホルムアミド(DMF)7.24mlを加え、湯浴により60℃で24時間反応させた。その後氷浴に入れることで急冷した反応混合物をDMF:ジエチルエーテルの体積比1:10の混合溶媒(100ml)に滴下し、やや褐色で粘性のある固体生成物を得た。1H-NMR(周波数:500MHz、溶媒:重水素化DMSO、内部標準:TMS)により、芳香環のプロトンおよびメチル基の積分比から重合度を求めたところ、n=55であり、重合体I-1であることが確認された。
【0090】
実施例2:単独重合体(I-2)の合成
ドーパミンアクリルアミドとS-(2-シアノ-2-プロピル)-S-ドデシルトリチオ炭酸とのモル比を200:1とした以外は、実施例1と同様にして平均重合度74の重合体I-2を得た。
【0091】
試験例1:分子量および分子量分布
実施例1および2で得られた重合体I-1およびI-2の重量平均分子量(Mw)を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(品番:0019320、東ソー(株)製、カラム:TSKgel SuperAWM-H、検出器:RI、移動相:0.1重量%塩化リチウム/ジメチルホルムアミド溶液)を用いて測定した。なお、GPC測定の前に分析試料のうちジメチルホルムアミドに対して不溶な成分や不純物をフィルター(Millipore社製、Millex Syringe Filter Unit、品番:SLLGX13NL、ポアサイズ0.2μm)により濾別した。ポリスチレン換算により得られた重量平均分子量、数平均分子量および分子量分布を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
実施例3:被膜の形成
実施例1で得られた重合体I-1の5質量%ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を、親水性ガラス基板(NEO白縁磨スライドグラス、松浪硝子工業(株)製、1×4cm2)の親水性表面に、1回目:1,000rpmで10秒間、2回目:1,500rpmで120秒間、3回目:2,500rpmで30秒間スピンコートにより薄膜を形成した(膜厚:約100nm)。これを90℃で2時間真空アニール(1.0×10-3Pa以下)した。真空アニール後の薄膜の原子間力顕微鏡(AFM)像を図1に示す。図1において、(a)の高さ像から、高低差が1.35nm程度であることが分かり、(b)の位相像からはポリマーの偏斥等は観察されなかったことから、均一な膜を形成していることがわかる。また、真空アニール後の薄膜表面は、光学顕微鏡像(図示せず)より均一な膜であることがわかる。
【0094】
次に、密閉容器中に直径2cmのシャーレを置き、シャーレ内に超純水(18MΩcm)を用いた200mM 硝酸銀水溶液(AgNO3aq)を注ぎ、上記で得られたアニール後の薄膜を基板ごと浸漬させた。シャーレの周りに超純水(18MΩcm)を入れたサンプル瓶を6本置き、密閉容器内の湿度を飽和状態とした。容器を密閉し、アルミホイルで全周を覆うことにより、外部からの自然光を遮断した。これを80℃で24時間アニールした。その後、基板を取り出し超純水(18MΩcm)により5回洗浄し、窒素ガスをブローした。得られた積層体の被膜表面のAFM像を図2に示す。図2において、ナノ粒子様の凹凸が観察され、(a)の高さ像から、高低差が72.34nm程度であることが分かり、(b)の位相像からは、粒子が同一の組成であることがわかる。また、光学顕微鏡により、被膜の露出面(表面)は金色であり(図3(a))、被膜の基材との接触面(裏面)は銀色である(図3(b))ことが観察された。なお、被膜の厚さはおおよそ180nmであった。
【0095】
試験例2:被膜表面の解析
実施例3で得られた積層体を、UV-vis測定装置(MSV-370、日本分光(株)製)に、測定したい面を上面となるように配置し、反射スペクトルを測定した(測定波長:350~850nm)。結果を図4および図5に示す。図4には参照試料として金箔の測定結果と被膜露出面の結果を示し、図5には参照試料として銀プレートの測定結果と被膜の透明基材との接触面の結果を示す。図4より、被膜露出面は、金泊(食用金箔)の反射スペクトルと同様であり、金様の色を呈することがわかり、図5より、被膜の透明基材との接触面は、銀プレート((株)ニラコ製)の反射スペクトルと同様であり、銀様の色を呈することがわかる。また、被膜露出面と被膜の透明基材との接触面の反射スペクトルを比較すると一致度は37%であり、さらに被膜露出面の反射スペクトルの450nmの反射率は800nmの反射率の46%であり、被膜の透明基材との接触面の反射スペクトルの450nmの反射率は800nmの反射率の101%であった。これらの結果より、被膜露出面と被膜の透明基材との接触面とは異なる色および光沢を呈することがわかる。
【0096】
試験例3:吸光度
実施例3で得られた積層体について、色に関する比較を行った。使用したサンプルは、実施例3の真空アニール後であって硝酸銀水溶液に浸漬させる前の試料(真空アニール後の被膜露出面)、実施例3で最終的に得られた積層体の被膜露出面(被膜露出面(金))および被膜の基材側の面(被膜の基材との接触面)であった。各試料を、UV-Vis測定装置(UV-3150、(株)島津製作所製)に、測定したい面を測定光が垂直に当たるように配置し、吸収スペクトルを測定した(測定波長:190~800nm)。結果を図6に示す。図6より、被膜と透明基材との接触面は、被膜露出面と比較して、400~500nmの吸収が大きく、銀ナノ粒子に由来するプラズモン吸収がより大きいことがわかる。
【0097】
試験例4:光沢度
実施例3で得られた積層体について、表面光沢に関する比較を行った。実施例3で最終的に得られた積層体の被膜露出面および被膜の基材との接触面をサンプル面とした。各サンプル面に対して反射光が60°となる位置にLED光源(GP-7、GENTOS社製)を配置して、フォトダイオードセンサー(PD300、Ophir社製)で反射光強度を測定した。なお、ガラス基板およびアルミ箔(業務用クッキングホイル(30cm×50m)、東洋アルミエコープロダクツ(株)製)を基準とした。ガラス基板およびアルミ箔それぞれの反射光強度は5.76mW、22.12mWであった。被膜露出面の反射光強度は、23.34mWであり、また、被膜の透明基材との接触面の反射光強度は、31.0mWであった。これらはどちらもアルミ箔以上の反射光強度であることから、高い金属光沢を有することがわかる。
【0098】
実施例4:ITO基板への被膜の形成
実施例1で得られた重合体I-1の5質量%ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を、ITO基板(GEOMATEC社製、1.5×1.5cm2)のITO表面に、1回目:1,000rpmで10秒間、2回目:1,500rpmで120秒間、3回目:2,500rpmで30秒間スピンコートにより薄膜を形成した(膜厚:約100nm)。これを90℃で2時間真空アニール(1.0×10-3Pa以下)した。原子間力顕微鏡(AFM)による像により、アニール後の薄膜の高低差は2~5nm程度であり、ポリマーの偏斥等は観察されなかったことから、均一な膜を形成していることがわかる(図7(a)および(b))。また、真空アニール後の薄膜表面は、光学顕微鏡像より均一な膜であることがわかる。
【0099】
次に、密閉容器中に直径2cmのシャーレを置き、シャーレ内に超純水(18MΩcm)を用いた200mM 硝酸銀水溶液(AgNO3aq)を注ぎ、上記で得られたアニール後の薄膜を基板ごと浸漬させた。シャーレの周りに超純水(18MΩcm)を入れたサンプル瓶を6本置き、密閉容器内の湿度を飽和状態とした。容器を密閉し、アルミホイルで全周を覆うことにより、外部からの自然光を遮断した。これを80℃で24時間アニールした。その後、基板を取り出し超純水(18MΩcm)により5回洗浄し、窒素ガスをブローした。得られた積層体の被膜表面のAFM像より、ナノ粒子様の凹凸が観察され、高低差が60~80nm程度であることが分かり、粒子が同一の組成であることがわかる(図8(a)および(b))。また、光学顕微鏡により、被膜の露出面(表面)は金色であり(図9(a))、被膜の基材との接触面(裏面)は紫色である(図9(b))ことが観察された。なお、被膜の厚さはおおよそ180nmであった。
【0100】
実施例5:単独重合体(I-3)の合成および重合挙動
重合体I-3
【化9】
ドーパミンアクリルアミド(大阪有機化学工業(株)製)1.50g、S-(2-シアノ-2-プロピル)-S-ドデシルトリチオ炭酸(シグマ・アルドリッチ社製)25.0mg、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(ABIN)(富士フイルム和光純薬(株)製)5.94mgを、15mlの耐圧試験管に入れ、窒素雰囲気下のグローブボックス内でさらにジメチルホルムアミド(DMF)7.24mlを加え、この溶液を1mlの耐圧試験管に0.5mlずつ入れサンプルを調製し(計12本)、湯浴により60℃で反応させた。指定した時点(反応開始から0分、10分、20分、30分、60分、120分、180分、240分、360分、480分、600分および720分)にサンプルを液体窒素に入れることで急冷した反応混合物について、重合体(I-3)への変換を1H-NMR(周波数:500MHz、溶媒:重水素化DMSO、内部標準:TMS)およびGPC解析により分析した。
【0101】
単独重合体(I-3)の重量平均分子量(Mw)を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(品番:0019320、東ソー(株)製、カラム:TSKgel SuperAWM-H、検出器:UV-vis(270nm)、移動相:0.1重量%塩化リチウム/ジメチルホルムアミド溶液)を用いて測定した。なお、GPC測定の前に分析試料のうちジメチルホルムアミドに対して不溶な成分や不純物をフィルター(ADVANTEC社製、品番:03JP050AN、ポアサイズ0.50μm)により濾別した。ポリスチレン換算により得られた重量平均分子量、数平均分子量および分子量分布を表2および図10に示す。
【0102】
【表2】
【0103】
また、得られた1H NMRデータより、モノマー挙動を図11に示す。モノマーの擬一次動力学プロットが、重合時間120分以上の場合に直線的な挙動であること、ならびに各時点における分子量分布(Mw/Mn)が1.4未満であることから、本実施例の重合反応は、重合が十分に制御された系であることがわかる。
【0104】
実施例6:被膜の形成
実施例5の重合時間360分で得られた重合体I-3(n=105、重量平均分子量:27,900、数平均分子量:21,900、分子量分布:1.27)の5質量%ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を親水性ガラス基板(NEO白縁磨スライドグラス、松浪硝子工業(株)製、1.5×1.5cm2)の親水性表面に、1回目:1,000rpmで10秒間、2回目:1,500rpmで120秒間、3回目:2,500rpmで30秒間スピンコートにより薄膜を形成した(膜厚:約100nm)。これを90℃で2時間真空アニール(1.0×10-3Pa以下)した。
【0105】
次に、密閉容器中に直径2cmのシャーレを置き、シャーレ内に超純水(18MΩcm)を用いた200mM 硝酸銀水溶液(AgNO3aq)を注ぎ、上記で得られたアニール後の薄膜を基板ごと浸漬させた。シャーレの周りに超純水(18MΩcm)を入れたサンプル瓶を6本置き、密閉容器内の湿度を飽和状態とした。容器を密閉し、アルミホイルで全周を覆うことにより、外部からの自然光を遮断した。これを80℃で24時間アニールした。その後、基板を取り出し超純水(18MΩcm)により5回洗浄し、窒素ガスをブローした。光学顕微鏡により、被膜の露出面(表面)は金色であり(図12(a))、被膜の基材との接触面(裏面)は銀色である(図12(b))ことが観察された。なお、アニール後の被膜の厚さはおおよそ180nmであった。
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