(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062948
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】高周波用途のための磁性官能化ポリマー基板
(51)【国際特許分類】
H01F 1/37 20060101AFI20240501BHJP
H01F 1/26 20060101ALI20240501BHJP
H01F 1/34 20060101ALI20240501BHJP
C08K 3/11 20180101ALI20240501BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240501BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240501BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20240501BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240501BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20240501BHJP
B22F 1/052 20220101ALI20240501BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20240501BHJP
B22F 1/10 20220101ALI20240501BHJP
B22F 10/18 20210101ALI20240501BHJP
H01Q 1/40 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
H01F1/37
H01F1/26
H01F1/34 180
H01F1/34 140
C08K3/11
C08K3/22
C08L101/00
C08J5/00 CER
C08J5/00 CEZ
B22F1/00 W
B22F1/05
B22F1/052
B22F1/102 100
B22F1/10
B22F10/18
H01Q1/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023174661
(22)【出願日】2023-10-06
(31)【優先権主張番号】10 2022 125 940.4
(32)【優先日】2022-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】502451568
【氏名又は名称】テューリンギッシェス・インスティトゥート・フューア・テクスティル-ウント・クンストストッフ-フォルシュング・エー・ファウ
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ギュンター、プフルーク
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル、グラディツ
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン、ライネマン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】MHzおよび隣接するGHzの周波数範囲でアンテナを小型化するための、屈折率を高め、減衰損失を大幅に低減した磁気誘電体ポリマー複合材料を提供する。
【解決手段】磁気誘電体ポリマー複合材料は、当該ポリマー中に高度に分岐したポリマー化合物を使用することにより、磁性充填剤成分は、加工中により効率的に分散され、また、前記ポリマー化合物のスペーサー機能により、周囲のポリマーマトリックスとともに0-3構造により良好に組み込まれる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性の性質を有し、平均粒子径d
50が0.05~10μmである分散粒子を収容する1以上の無極性ポリマーのマトリックスを含む磁気誘電体ポリマー複合材料であって、前記軟磁性の性質を有する粒子は、両親媒性超分岐スペーサー分子によって囲まれているため、前記磁気誘電体ポリマー基板の誘電減衰損失tanδ
εは0.1未満、磁気減衰損失tanδ
μは0.1未満であり、屈折率nは両親媒性超分岐スペーサー分子を含まない磁気誘電体ポリマー複合材料と比較して増加し、前記屈折率nは以下の通り定義される:
【数1】
(式中、ε’は磁気誘電体ポリマー複合材料の誘電率であり、μ’は透磁率である)
ことを特徴とする磁気誘電体ポリマー複合材料。
【請求項2】
軟磁性の性質を有する前記粒子が、コバルト、鉄、マンガンおよび/またはニッケルの元素を含有するセラミックまたは金属酸化物化合物を含んでなり、式Ba3Co2Fe24O41のZ型のコバルトヘキサフェライト、一般式NiaZn(1-a)Fe2O4のニッケル亜鉛フェライトおよび/またはマグネタイト(Fe3O4)の粒子が好ましい、請求項1に記載の磁気誘電体ポリマー複合材料。
【請求項3】
軟磁性の性質を有する前記粒子が、平均粒子径d50が0.1~10.0μmであるNiZnフェライト型のマイクロスケール/サブミクロンのスピネルフェライトであるか、または、平均粒子径d50が0.1~10.0μmである前記式Ba3Co2Fe24O41のCo2Z型のマイクロスケール/サブミクロンのヘキサフェライトであるか、または平均粒子径d50が0.05~10.0μmである式Fe3O4のサブミクロン/ナノスケールマグネタイトである、請求項1に記載の磁気誘電体ポリマー複合材料。
【請求項4】
軟磁性の性質を有する前記粒子が、異なる組成および異なる平均粒子径d50を有する混合物を含み、同一組成の前記粒子の各々の前記平均粒子径d50が異なる組成のものとは少なくとも1μm、好ましくは少なくとも2μm、より好ましくは少なくとも3μm異なっている、請求項3に記載の磁気誘電体ポリマー複合材料。
【請求項5】
無極性基を有する前記両親媒性超分岐スペーサー分子が、官能化ポリエチレンイミンであり、前記無極性基が好ましくはn≧6の式-CO-CnH2n+1のアシル基、好ましくは、n=16のヘキサデカノイル基またはn=18のオクタデカノイル基であり、ポリエチレンイミンの第一級アミノ基とアミド結合を形成する、請求項1~4のいずれか一項に記載の磁気誘電体ポリマー複合材料。
【請求項6】
前記ポリマーマトリックスが、誘電減衰tanδε<0.02、好ましくは、δε<0.01を有する1以上の無極性ポリマーを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の磁気誘電体ポリマー複合材料。
【請求項7】
前記マトリックスの前記無極性ポリマーが、ポリオレフィン、好ましくは、環状オレフィンポリマー(COP)、環状オレフィン共重合体(COC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、スチレン含有ポリマー、好ましくは、ポリスチレン(PS)、耐衝撃性改質ポリスチレン(ハイ・インパクト・ポリスチレン、HIPS)およびアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリエステル、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)およびポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、フッ素含有ポリマー、好ましくは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ペルフルオロ(エチレン-プロピレン)(FEP)およびエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、熱可塑性エラストマー、好ましくは、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)、1成分固形シリコーンエラストマー、好ましくは、室温架橋(RTV)または高温架橋(HTV)シリコーンゴム、液状2成分シリコーンゴム(液状シリコーンゴム、LSR)、好ましくは、ポリジメチルシロキサン、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、エポキシ樹脂注型用コンパウンド(常温もしくは加熱硬化型)および/またはアクリル酸エステル含有エポキシ樹脂である、請求項1~6のいずれか一項に記載の磁気誘電体ポリマー複合材料。
【請求項8】
前記個々の成分が、配合することによって、好ましくは押出機または混錬機で混合することによって互いに混合されること、または、少なくとも1つの無極性ポリマー、軟磁性の性質を有する前記粒子および前記両親媒性超分岐スペーサー分子の溶液から構成される分散液を提供し、その後に前記溶媒を除去することによって製造される、請求項1~7のいずれか一項に記載の磁気誘電体ポリマー複合材料。
【請求項9】
10~80重量%の前記少なくとも1つの無極性ポリマー、20~90重量%の軟磁性の性質を有する前記粒子、および0.1~10重量%の両親媒性超分岐ポリエチレンイミンからなる、請求項5に記載の磁気誘電体ポリマー複合材料。
【請求項10】
50MHz~4GHzの周波数範囲で動作するアンテナを内包する、請求項1~9のいずれか一項に記載の磁気誘電体ポリマー複合材料。
【請求項11】
プラスチックの成形プロセスによって、好ましくは、射出成形、射出圧縮成形、圧縮成形もしくは押出によって、または樹脂注型プロセスによって加工可能である、請求項1~10のいずれか一項に記載の磁気誘電体ポリマー複合材料。
【請求項12】
3D印刷に好適な形態、好ましくは、フィラメント、ペレット、粉末、液体樹脂または液体シリコーンエラストマーを有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の磁気誘電体ポリマー複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許は、MHzおよび隣接するGHzの周波数範囲でアンテナを小型化するための、屈折率を高め、減衰損失を大幅に低減した磁気誘電体ポリマー複合材料を記載する。この磁気誘電体ポリマー複合材料では、高度に分岐したポリマー化合物を当該ポリマー中に使用することにより、磁性充填剤成分が、加工中に効率的に分散され、また前記化合物のスペーサー機能によって周囲のポリマーマトリックスとともに0-3構造に良好に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
磁気誘電体ポリマー複合材料は、誘電性プラスチックマトリックス中の1以上の磁性充填剤成分の異種混合物であり、磁性材料と誘電性材料の両方の特性をプラスチックに統合するものである。
【0003】
MosallaeiおよびSarabandiによる“Magneto-Dielectrics in Electromagnetics: Concepts and Applications”, IEEE Transactions on Antennas and Propagation Vol. 52, No. 6 (2004) pp. 1558-1569、ならびにJuutiおよびTeirikangasによる“Thermoplastic 0-3 Ceramic-Polymer Composites with Adjustable Magnetic and Dielectric Characteristics for Radio Frequency Applications”, International Journal of Applied Ceramic Technology Vol. 7, No. 4 (2010) pp. 452-460の研究によれば、磁気誘電体ポリマー複合材料は、アンテナなどの高周波デバイスを小型化するための基板として使用されることがある。
【0004】
2008年10月にアムステルダムで開催された第38回欧州マイクロ波会議の議事録に記載される、Yangらによる研究“Comprehensive Study on the Impact of Dielectric and Magnetic Loss on Performance of a Novel Flexible Magnetic Composite Material”は、高周波識別システム(RFID)における磁気誘電体ポリマー複合材料の応用に関係する。
【0005】
LeeおよびChoらは、2020年の論文“Flexible Magnetic Polymer Composite Substrate with Ba1.5Sr1.5Z Hexaferrite Particles of VHF/Low UHF Patch Antennas for UAVs and Medical Implant Devices”, Materials 2020, 13, 1021 pp. 1-10において、数百MHzの周波数範囲で、特にドローンまたは医療用インプラントにおいて、400MHzで使用することのできるポリウレタン/ヘキサフェライトの統合された柔軟なポリマー複合材料を用いるアンテナの小型化について報告した。
【0006】
磁気誘電体ポリマー複合材料を使用すると、屈折率nおよび小型化係数kを用いるストリップラインアンテナの文脈における小型化の関係は、誘電率ε’および透磁率μ’の実数成分に関して以下の通りとなる:
【数1】
【0007】
磁気誘電体ポリマー基板を用いたストリップラインアンテナは、純粋に誘電体が充填されたポリマー複合材料と比較して、μ>1であるため、屈折率が高く、式2によればインピーダンス整合IMも良好である。
【数2】
【0008】
インピーダンス整合IM=(μ’/ε’)1/2=1またはインピーダンス差ID=0の理想的な場合では、ストリップラインアンテナの反射および表面波は消失するが、このような現象は、それ自体がアンテナの動作中に一定の電力損失を生じる可能性がある。
【0009】
磁気誘電体ポリマー基板が不利に選択された場合、特に強く減衰する磁性充填剤およびポリマーマトリックスの場合には、かなりの磁気減衰損失と誘電減衰損失、従って、アンテナによる受信および送信中に吸収および出力される電力の損失が、MHzおよびGHzの周波数範囲で発生する可能性がある。共振周波数f
rの範囲で放射効率が高く、アンテナ利得が比較的大きいアンテナでは、使用されるポリマー複合材料の誘電減衰損失と磁気減衰損失は極めて小さいことが必要である。損失正接値は、虚数成分μ”およびε”と、関連する実数成分ε’およびμ’の商からそれぞれ計算され、減衰損失はそれでも0.1未満と十分に小さい。
【数3】
【0010】
磁気誘電体が充填されたポリマー複合材料の製造において、目的は、ポリマーマトリックスとの0-3環境における磁性充填剤粒子の高度な分散と実質的な個別化である。セラミック成分のポリマー相への3次元接続性を持つ、純粋に誘電的に充填された、また磁気的にも充填されたポリマー-セラミック複合材料の概要は、SebastianおよびJantunenの研究, “Polymer-Ceramic Composites of 0-3 Connectivity for Circuits in Electronics: A Review”, International Journal of Applied Ceramic Technology, Vol. 7, No. 4, (2010) pages 415-434に記載されている。
【0011】
ファンデルワールス力は、原子間および分子間の弱い相互作用力であり、2010年11月にVincentz社から出版されたWinklerの論文“Dispergieren von Pigmenten und Fuellstoffen, Farben und Lacke”, SBN-10:3866309090では、充填剤粒子間を含め、距離が増加するにつれて6乗ずつ減少する。
【0012】
2015年のカイザースラウテルン工科大学のDamavandiによる学位論文、“Effect of internal surfaces on the structural and mechanical properties of polymer-metalcomposites”のセクション2.5.5“Internal surface of the fillers”の研究によれば、ファンデルワールス力および凝集体を形成する傾向は、充填密度の増加とともに、特に充填剤の粒子径が数マイクロメートルからサブミクロンまたはナノスケールの寸法の粒子に縮小された場合に、大幅に増加する。
【0013】
ポリマー基板中の磁性充填剤成分の分散度の低下および不十分な個別化により、誘電率ε’および透磁率μ’は低下し、これは高周波範囲ではポリマー複合材料の屈折率の低下を伴う。
【0014】
超分岐または樹枝状ポリマー化合物の使用は、磁性充填剤粒子をポリマーマトリックスに分散させ、これらをポリマー成分とともに理想的な0-3環境に組み込むことを目的としている。高度に充填された磁気誘電体ポリマー複合材料の超分岐ポリマーの特殊なスペーサー機能により、誘電率ε’および透磁率μ’を上昇させることができ、従って、ポリマーベースのアンテナ基板の屈折率を上げることができる。
【0015】
“Applied Plastics Engineering Handbook”, Myer Kutz編, Elsevier Inc. 2017, ISBN: 978-0-323-39040-8の25章“Dispersants and Coupling”によれば、充填剤および顔料をプラスチックに組み込むのに好適な化学カップリング効果を持つ代表的な分散添加剤には、有機シラン、有機金属化合物(チタン酸塩、ジルコン酸塩およびアルミン酸塩など)、不飽和カルボン酸、アクリル酸およびマレイン酸の官能基を有するポリマーが含まれ、これらは、アンカー-バッファー構造のために、磁気誘電体ポリマー複合材料中の磁性粒子の立体的安定化と良好な凝集にも寄与する可能性がある。
【0016】
しかし、これらの分散アジュバントの極性の性質のため、充填されたポリマー複合材料の誘電減衰損失と磁気減衰損失は急速に増大する。
【0017】
ポリオレフィンワックス、アミドワックスおよびモンタンワックスなどの特定のカップリング機能を持たない無極性または極性ワックス添加剤は、ポリマーマトリックスとの相溶性に応じて、外部滑沢剤(非相溶性)および内部滑沢剤(相溶性)として作用し、加工中の溶融加工性を改善する可能性があり、特に粘度を低下させる可能性がある。
【0018】
易流動性ワックス添加剤の分散効果は、焼結フェライトの場合、セラミック粒子の多孔性により、そして開孔フェライト表面でのポリマー溶融物の吸収が大きくなることにより低下する。
【0019】
2015年の南フロリダ大学の米国特許出願公開第20150255196号、“Magneto-Dielectric Polymer Nanocomposites and Method of Making”では、ブタジエン共重合体溶液中のCoFe2O4およびFe3O4ナノ粒子が特許請求されており、界面活性物質であるオレイルアミンおよびオレイン酸を使用して、特に酸化に関してナノ粒子を安定化させている。しかし、超分岐ポリマーまたはデンドリマーの高度に分岐した分子構造の空間的な広がりがない場合、記載された界面活性物質は、ポリマー複合材料中の磁性粒子間に適切な個別化およびスペーサー効果を発現することができない。
【0020】
2018年のLGエレクトロニクス社の特許KR20180060496号、“Magnetic and Dielectric Composite Structure and Method for Fabricating the same and Antenna for Using the same”では、ポリビニルピロリドン、ポリジメチルシロキサン、PMMA、PET、シクロオレフィン共重合体、ポリスチレン、およびポリエチレンナフタレートなどのポリマーマトリックスに組み込まれ、700MHzから3GHzのアンテナ(例えば、PIFA)の磁気誘電体基板として用いられる、SiO2、Al2O3、TiO2およびZrO2などの電気絶縁性酸化物を1~30nmの厚さの層で用いる、粒子径10~500nmのFe、Co、Ni、Mnおよびそれらの合金の軟磁性金属粒子の被覆について報告されている。しかし、調査対象の周波数範囲内のアンテナ基板の誘電減衰値と磁気減衰値(tanδε約0.25およびtanδμ約0.9~1.0)は、式3の上限値をはるかに上回っているため、これらのアンテナ系では放射効率および利得が大幅に低下する。
【0021】
ロジャースコーポレーションの2019年の特許である国際公開第2019143502号、“Core-Shell Particles, Magneto-Dielectric Materials, Methods of Making, and Uses thereof”は、1GHz付近およびそれ以上の周波数範囲用のコア・シェル構造(コア・シェル粒子)を有する磁気誘電体ポリマー複合材料中の磁性粒子の製造と使用の両方を特許請求しており、Fe、Ni、またはCo粒子のシェルは、酸素などの化学酸化剤を使用する酸化、またはプラズマ中での酸化をはじめとする方法によって形成され、別の工程段階では窒化物からも形成される。この工程段階が追加されることによる欠点は、KMnO4、K2Cr2O7およびHNO3などの酸化剤を使用することであり、その反応生成物は作業から、そして処理済み磁性粒子から除去する必要がある。
【0022】
近年、充填ポリマー複合材料のために確立されたナノスケールの分散添加剤には、多面体オリゴシルセスキオキサン(POSS化合物)が含まれていた。
【0023】
これらの半有機構造体のケイ酸塩の具体的な特性および用途は、Xanthosの“Functional Fillers for Plastics”, Chapter 23: Polyhedral Oligomeric Silsesquioxanes. WILEY-VCH, Weinheim, 2010 および2019年のBlancoらによる研究“POSS-Based Polymers”、Polymers 11, 1727 pp. 1-5に記載されている。
【0024】
Lee, Hwangらによる論文“Low Dielectric Materials for Micro-electronics in Dielectric Materials”, Silaghi編, Chapter: 3, pp. 59-76、INTECH Open Access Publisher from January 2012によれば、ポリマー-POSS複合材料の誘電率、従って屈折率は、POSS化合物のかご構造のナノキャビティによって低下する。
【0025】
従って、フェライト成分をより効果的に分散させるためにこれらの半有機半有機構造体のケイ酸塩を磁気誘電体ポリマー複合材料に挿入することは、意図した屈折率の増加とアンテナ基板の小型化に逆行する。
【0026】
Blueshift Materials社の2019年の特許である国際公開第2019006184号、“Hyperbranched POSS based Polymer Aerogels”は、連続気泡構造をもつポリマーマトリックスと、有機修飾されたPOSSポリマーからなる超分岐ポリマーエアロゲルを特許請求している。
【0027】
密度が低下するため、このポリマー材料は、高周波用途、具体的には誘電率の低下したアンテナ基板として使用される。密度の低下はエアロゲルの屈折率の低下も伴うため、これらの材料はアンテナの小型化には不向きである。
【0028】
GaoおよびYanは、“Hyperbranched Polymers: from Synthesis to Applications”, Progress in Polymer Science, 29, (2004) pp. 183-275の研究で、プラスチック加工における加工性を改善するための超分岐/樹枝状ポリマー化合物の可能性と、特に充填ポリマーの分散添加剤としてのその適合性を述べている。
【0029】
Douloudiらによる総説論文、“Dendritic Polymers as promising Additives for the Manufacturing of Hybrid Organoceramic Nanocomposites with ameliorated Properties suitable for an extensive Diversity of Applications”, Nanomaterials 2021, 11, 19, pp. 1-36における超分岐および樹枝状結晶ポリマーは、分析(クロマトグラフィー)用の添加剤として、エレクトロニクスおよびセンサ技術の機能性コーティングに、化学触媒用に、医療用途(遺伝子導入、抗菌ポリマー複合材料として、有効成分の投与用)にも使用されている。
【0030】
また、磁気誘電体材料の文脈では、2018年のロジャースコーポレーションの特許、国際公開第2018119341号“Multi-Layer Magneto-Dielectric Materials”および国際公開第2018140588号“Method of Making a Multi-Layer Magneto-Dielectric Material”では、熱可塑性プラスチックおよび熱硬化性プラスチックの大きなクラスのポリマーマトリックスの使用と同様に、その他の点では特定されていないデンドリマーの使用が言及されているが、これらは積層体の誘電性中間層にのみ用いられるため、強磁性層の磁性充填剤粒子間の0-3構造のスペーサーとして機能することはできない。
【0031】
2009年のアリゾナABOR大学の特許である米国特許出願公開第20090053512号、“Multifunctional Polymer coated Magnetic Nanocomposite Material”は、金属強磁性コア、特にコバルトと、ポリマーシェルから構成されるポリマー被覆ナノ粒子を記載している。これらのポリマー被覆ナノ粒子は、樹枝状/超分岐ポリマーシェルを含むこともある。シェルで覆われた粒子は、磁場の作用下で鎖状構造に配向させることもできる。
【0032】
米国特許出願公開第20090053512号(段落番号0155)の特許の知見によれば、シェルで覆われたコバルトナノ粒子は、マイクロ波吸収体としてコーティングまたは使用することができるが、低減衰のポリマーベースのアンテナ基板としての使用は除外される。
【0033】
Shenzhen Halcyon New Materials Co.,Ltd.社の2020年の中国特許CN111548612号、“PCT/LCP Resin Composition for 5G Antenna Oscillator Base Materials as well as Preparation Method and Application thereof”は、PCT(シクロヘキサンジメタノール-ジメチルテレフタレート-CHDM-DMT)およびTLCP(熱可塑性LCP)のポリマーブレンドとガラスもしくは珪灰石繊維または鉱物成分を5G周波数範囲のアンテナ基板として特許請求している。
【0034】
PCT/TLCPポリマー複合材料に使用される分散添加剤としては、特に超分岐ポリマーが含まれる。しかし、記載されるPCT/TLCPポリマー複合材料は、純粋に誘電体が充填されたポリマー配合物としてのみ存在する。使用される誘電性ガラス繊維または鉱物成分は、慣用されるチタン酸塩、ニオブ酸塩またはジルコン酸塩と比較して充填剤の誘電率が低いため、2017年のSebastian、UbicおよびJantunenによる総説研究、“Microwave Materials and Application”, ISBN 9871119208525, First Edition, John Wiley & Sons, pp. 855 ff.に一致して、ポリマー複合材料の屈折率を上げるのにわずかしか貢献しておらず、特に非磁性充填剤の透磁率μ’は1しかない。
【0035】
Menezes and Fechine et al., “From Magneto-Dielectric Biocomposite Films to Microstrip Antenna Devices”, Journal of Composite Science, 2020, 4, 144, pp. 1-20による研究では、キトサン、セルロースおよびコラーゲンの生体ポリマーへの超常磁性酸化鉄ナノ粒子(SPIONS)の組み込みが見られた。磁性鉄粒子のポリマーマトリックスへの分散を改善し、酸化に対する安定性を高めるために、ナノ粒子の表面は超分岐ポリエチレンイミン(bPEI)で官能化された。その後、得られる磁気誘電体バイオ複合材料のポリマー基板としての適性がパッチアンテナで調査された。
【0036】
この場合、μ’は実数成分について1に設定されているため、複素透磁率(μ*=μ’-iμ”)および磁気減衰損失tanδμの影響は無視される。しかし、0.4~4.5GHzの間の周波数範囲では、調査した生体ポリマーSPIONSに関して、0.15~0.4というかなりの誘電減衰損失が見出された。磁気減衰損失が捕捉されていないことと合わせて、これらの高減衰ポリマー基板をパッチアンテナに使用すると、アンテナ利得と放射効率が急激に低下する可能性が高い。
【0037】
以下で使用される超分岐スペーサー分子の概念は、多数の官能基およびナノキャビティを備えたランダムな3次元の空間分岐を特徴とし、疑似中心を有するポリマー化合物の有機分子構造に関連する。そのため、これらの分子が充填ポリマー複合材料に使用されると、空間占有機能(スペーサー効果)も明らかになる。
【発明の開示】
【0038】
以下の本発明では、アミド化後の超分岐ポリエチレンイミン(PEI)のパルミチン酸C15H31COOHとの反応生成物をPEI-C16と命名し、ステアリン酸C17H35COOHとの反応生成物をPEI-C18と命名し、略語PEIAを総称として導入する。
【0039】
例えばMHzおよび隣接するGHzの周波数領域用の、パッチ型、ダイポール型および板状逆F型アンテナ(PIFA)型のアンテナの小型化を改善することが本発明の目的である。
【0040】
この目的は、超分岐スペーサー分子を組み込み、存在させることによって達成される。これらの分子は、磁性成分の特定の充填剤の範囲内または一定の充填剤の割合で、使用されるポリマー基板の屈折率を上昇させ、それに伴って誘電率ε’および透磁率μ’も上昇させる。
【0041】
アンテナの小型化に使用される超分岐ポリマー化合物を含むポリマー基板は、磁性充填剤を含む磁気誘電体ポリマー複合材料、または2つ以上の磁性充填剤成分を含むポリマーハイブリッドの形をとる。
【0042】
これらの磁気誘電体ポリマー基板は、誘電減衰損失と磁気減衰損失が低いことを特徴としており、tanδε=ε”/ε’<0.1およびtanδμ=μ”/μ’<0.1を満たす。
【0043】
磁気誘電体ポリマー基板は、超分岐スペーサー分子の添加によって、純粋に誘電体が充填されたポリマー複合材料のμ’=1と比較してμ’>1であることにより、インピーダンス整合IMの改善を達成し、表面波および反射によるアンテナの損失も低減される。
【0044】
本発明の目的は、両親媒性超分岐スペーサー分子に囲まれた磁性粒子を充填した磁気誘電体ポリマー基板を使用することにより達成される。スペーサー分子が両親媒性であることにより、スペーサー分子はその極性側で磁性粒子の高エネルギー表面に付着し、その一方でスペーサー化合物分子の無極性領域は無極性の低エネルギーポリマーマトリックス中に広がることができる。結果として、磁性粒子は超分岐スペーサー分子によってミセル状に被覆され、マトリックスに0-3接続性で組み込まれる。
【0045】
磁性粒子の分散および個別化の改善により、磁気誘電体ポリマー複合材料の誘電率ε’および透磁率μ’、従って屈折率が増加し、一方、誘電減衰損失と磁気減衰損失は、tanδε<0.1およびtanδμ<0.1の値まで低下する。
【0046】
使用される磁性粒子は、低い保磁力Hc<1000A/mおよび低い残留磁気(残留磁化)のような軟磁性の性質を有しており、その結果、透磁率の実数成分の値はμ’>1またはμ’>>1となる。
【0047】
軟磁性粒子は、コバルト、鉄、マンガン、またはニッケルの元素を含有するセラミックまたは合金である。MHzおよび隣接するGHzの周波数範囲のアンテナの小型化のためのポリマー基板での使用に特に好適なものは、Z型バリウムコバルトヘキサフェライト(Ba3Co2Fe24O41)、一般式NiaZn(1-a)Fe2O4のニッケル亜鉛フェライト、またはマグネタイト(Fe3O4)あるいはこれらの物質のその他の組合せである。軟磁性の性質をもつ粒子の平均粒子径d50は、0.05~10.0μmの範囲である。
【0048】
使用されるスペーサー分子は、無極性基でさらに官能化された超分岐ポリエチレンイミンである。これにより、両親媒性物質は磁性粒子の極性表面と相互作用することも、無極性マトリックス中に広がることもできる。磁性粒子は超分岐スペーサー分子でミセル状に被覆されているため、より効果的に個別化され、マトリックス中でより均一に分散される。
【0049】
超分岐スペーサー分子は、好ましくは脂肪酸、より好ましくはパルミチン酸およびステアリン酸で官能化される。
【0050】
ポリマーマトリックスは、アンテナ構造における磁気誘電体ポリマー基板の主成分である。マトリックスは、使用されるプラスチックの強度と構造あるいは柔軟性を担っている。
【0051】
マトリックス材料は、低い誘電減衰tanδε<0.02、より詳しくは、tanδε<0.01を有する無極性の低エネルギーポリマーからなり、例えば、環状オレフィンポリマー(COP)、環状オレフィン共重合体(COC)、ポリエチレン(PE)およびポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン、ポリスチレン(PS)、耐衝撃性改質ポリスチレン(HIPS)およびアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)などのスチレン含有ポリマー、ポリオキシメチレン(POM)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)およびポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル(PPO)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ペルフルオロ(エチレン-プロピレン)(FEP)およびエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)などのフッ素含有ポリマー、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)などの熱可塑性エラストマー(TPE)、室温架橋(RTV)または高温架橋(HTV)シリコーンゴムなどの1成分固形シリコーンエラストマー、ポリジメチルシロキサンなどの液状2成分シリコーンゴム(液状シリコーンゴム、LSR)、または、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM、エチレン-プロピレン-ジエン;Mグループ)、エポキシ樹脂注型用コンパウンド(常温もしくは加熱硬化型)またはアクリル酸エステル含有エポキシ樹脂からなる。
【0052】
本発明のポリマー複合材料は、熱可塑性マトリックスポリマーの押出成形または混練による配合によって、または両親媒性超分岐スペーサー分子および磁性粒子の混合物を含む溶解ポリマーの液体粒子分散体から製造される。磁気誘電体ポリマー複合材料は、溶媒を除去した後のさらなる工程段階で、溶解したポリマーの磁性粒子分散体から得られる。「ポリマー基板」および「ポリマー複合材料」は、本発明の文脈では同義であり、交換可能である。
【0053】
磁気充填ポリマー複合材料はペレット化され、射出成形機で加工されて、アンテナ用のポリマー基板としての板状中間体、またはアンテナ構造を収容するためのハウジングが得られる。
【0054】
磁気誘電体ポリマー複合材料のペレットから製造されたフィラメントは、溶融フィラメント作製(FFF)の付加製造法を使用して加工されて、特定中間体を得ることができる。
【0055】
フィラメントから、アンテナを収容するハウジングが印刷されるか、またはFFFプロセスによって磁気誘電体ポリマー複合材料でアンテナ構造が直接被覆される。
【0056】
1成分固形シリコーンエラストマーまたはEPDMから磁気充填ポリマー複合材料を製造するには、混錬機でゴムを両親媒性超分岐スペーサー分子および磁性粒子と混合し、その後、混合物をロールミルで加工する。磁気充填ゴム混合物はプレスされて、アンテナの小型化のためのポリマー基板として使用することができる板状中間体が得られる。
【0057】
磁性粒子および両親媒性超分岐スペーサー分子は、高速均質化と超音波の複合処理により、液状2成分シリコーンエラストマーまたはその他のエポキシ樹脂混合物に分散によって組み込まれる。
【0058】
液体マトリックス/磁性粒子分散体は、キャビティに流し込み、硬化させて板状中間体を得ることができ、これはその後アンテナ構造のポリマー基板として用いられる。液体マトリックス/磁性粒子分散体は、注型によってアンテナを内包し、アンテナ構造を小型化させることもできる。
【0059】
磁気誘電体ポリマー複合材料およびハイブリッドのペレットは、水浴によって溶融物をストランドとして引き出し、ストランドのペレット化を行った後に、二軸押出機でポリマーとフェライト系充填剤を配合することにより得ることができる。その後、射出成形機でペレットを成形して板状中間体が得られる。
【0060】
PEI-C16およびPEI-C18などのアミド化ポリエチレンイミン(PEIA)の製造は、2015年3月12日付のマルティン・ルター大学ハレ・ヴィッテンベルクの学位論文である、Gladitzによる研究、“Untersuchungen zur Herstellung, Charakterisierung und Applikation von antimikrobiellen Metall-Hybriden fuer Beschichtungen und Compounds”に記載されている。
【0061】
PEIA成分は、押出機内での配合中にポリマー溶融物中に計量される。PEIAはまた、磁性フェライト粒子と一緒にアセトンポリマー溶液中で、剪断によってポリマー/フェライト分散体に組み込まれ、その後減圧下で乾燥される。
【0062】
有機溶媒を蒸発させて除去し、フィルム状の残留物をペレット化した後、磁気充填ポリマー材料を射出成形して板状中間体にすることができる。
【0063】
フェライト充填剤とアミド化ポリエステルイミンを含む別のポリマー複合材料は、カテーテル押出ラインで加工されて厚さ1.75mmのフィラメントをもたらし、その後印刷されて板状中間体を得ることができる、また、溶融フィラメント作製(FFF)を用いてダイポール型アンテナを被覆するために使用することもできる。
【0064】
多面体オリゴシルセスキオキサンオクタメチル-POSS(OMP)およびトリシラノールイソブチル-POSS(TSP)からなるポリマーアジュバントと、ハードワックスベースのポリマー-充填剤濃縮物の分散用の両親媒性共重合体Tegomer P121からなるポリマーアジュバントを、磁気誘電体ポリマー-フェライト複合材料中のアミド化ポリエチレンイミン(PEIA)と基準添加剤として比較する。ポリマー複合材料の誘電率ε’および透磁率μ’、従って屈折率nは、十分に小さい減衰損失、tanδε<0.1およびtanδμ<0.1を有する、両親媒性修飾された超分岐PEIAを使用した場合にのみ増加させることができる。
【0065】
好ましい使用形態
磁気誘電体ポリマー複合材料およびハイブリッドは、低い誘電減衰損失と磁気減衰損失、tanδε=ε”/ε’<0.1およびtanδμ=μ”/μ’<0.1を条件として、MHzおよび隣接するGHzの範囲のアンテナの小型化のための基板材料として使用することができる。
【0066】
両親媒性超分岐ポリマーPEIAは、磁気誘電体複合材料が押出によって加工されるかまたは液体ポリマー-フェライト粒子分散体への組み込みで加工される場合に、分散補助剤として機能し、想定される基準添加剤OMP、TSPおよびP121とは異なり、ポリマー複合材料中の磁性充填剤粒子間の効果的なスペーサー分子としても機能する。
【0067】
磁気誘電体ポリマー複合材料およびハイブリッドの誘電率ε’と透磁率μ’はともにPEIA成分とともに上昇するので、屈折率はかなり上昇し、このことは、例えば、アンテナ構造のさらなる小型化に、あるいは磁性充填剤を節約すると同時に減衰損失を低減するのに利用することができる。
【0068】
小型アンテナにおいてスペーサー化合物PEIAを含む本発明の磁気誘電体ポリマー複合材料の使用可能な周波数として利用されるのは、緊急周波数の400MHzおよび移動通信規格LTE(Long Term Evolution)/4Gの800MHzまたは下位の700から900MHzの5G範囲の特定の範囲であるが、それよりも大きい50MHz~4GHzの周波数範囲がポリマー基板に好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【
図1】
図1は、超分岐PEIと、一般式R-COOHの脂肪酸による修飾により、両親媒性超分岐PEI(PEIA)が得られることを示す。
【
図2】
図2は、無極性領域(101)と極性領域(102)からなるPEIA(100)と、磁性粒子(103)との相互作用により、PEIAで被覆された磁性粒子(104)が得られることを模式的に示す。PEIAで被覆された磁性粒子(104)とマトリックスポリマー(106)のポリマー複合体(105)では、被覆によって磁性粒子が個別化される。
【
図3】
図3は、例えば、400および800MHzの実際に関連する周波数を使用して、追加の添加剤を含まず、OMPを含み、PEIAスペーサー化合物を含む、COC-ヘキサフェライト複合材料の誘電率ε’、透磁率μ’および屈折率を比較している。
【
図4】
図4は、400および800MHzでの、追加の添加剤を含まず、POSS添加剤OMPおよびTSPを含み、PEIA化合物を含む、ABS-スピネルフェライト複合材料の誘電率ε’、透磁率μ’および屈折率を比較している。
【
図5】
図5は、例えば、800MHzの周波数を使用して、追加の添加剤を含まず、POSS添加剤OMPおよびTSPを含み、PEIA化合物を含む、ABS-スピネルフェライト複合材料の誘電減衰損失と磁気減衰損失を対比している。
【
図6】
図6は、400および800MHzでPEIAスペーサー化合物を使用した場合の、ABS-マグネタイトヘキサフェライトとABS-スピネルヘキサフェライトのハイブリッドの誘電率ε’、透磁率μ’および屈折率の増加を示している。
【
図7】
図7は、フラットアンテナダイポールの周囲の磁気誘電体材料による共振周波数のシフトの測定のための実験設定を示している。フラットアンテナダイポール(700)は、磁気誘電体基板層(701)によって2つの面に埋め込まれている。S11散乱パラメーターは、ネットワークアナライザ(703)のポート1(702)を介して測定される。
【
図8】
図8は、様々な磁気誘電体環境における長さ9.4cmのダイポール型アンテナの共振周波数のシフトを周波数と屈折率の関数として示している。(800)空気環境のアンテナ(801)ABSを含むアンテナ(802)ABS-65gFi130複合材料を含むアンテナ(803)ABS-65gFi130-2OMP複合材料を含むアンテナ(804)ABS-65gFi130-2TSP複合材料を含むアンテナ(805)ABS-65gFi130-2PEIA複合材料を含むアンテナ
【
図9】
図9は、磁気誘電体ポリマー複合材料UBE-65gFi130-2PEIAおよび両親媒性修飾されたポリエステル-イミン成分を用いる3D印刷プロセスによる被覆後の2つのダイポールを有するアンテナ構造の、空気誘電体(900)で被覆する前とポリマー基板(901)の適用後の、共振周波数シフトを表している。
【
図10】
図10は、被覆前(1000)と磁気誘電体ポリマー複合材料UBE-65gFi130-2PEIAの適用後(1001)のアンテナ構造の写真を示している。
【実施例0070】
実施例
方法
Agilent E4991Aインピーダンスアナライザを使用して、10MHz~1GHzの周波数範囲で、測定ソケット16454Aおよび16453Aを介して複素透磁率μ*(μ’、μ”およびtanδμ)および複素誘電率ε*(ε’、ε”およびtanδε)を測定した。複素透磁率μ*は、外径19mm、内径6mm、厚さ2mmの有孔ディスクで、複素誘電率ε*は、磁気誘電体ポリマー複合材料およびハイブリッドからミリングによって得られた直径19mm、厚さ2mmのクーポンで周波数に応じて測定された。
【0071】
化学薬品
APEL(商標)APL5014DPは、Mitsu Chemicals America,Inc.の環状オレフィン共重合体であり、ASTM D1238に準拠して測定したMFIは36g/10分、260℃/2.16kgである。
【0072】
ELIX ABS 3D GPは、タラゴナ所在のELIX Polymers社のアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体で、ISO 1133に準拠して測定されたMVRは18cm3/10分、220℃/10kgである。
【0073】
UBE68 UBESTA XPA 9068X1は、日本の宇部興産株式会社のポリアミド12エラストマーであり、ISO 1133-2に準拠して測定されたMFRは4g/10分、190℃/2.16kgである。
【0074】
Co2Zは、Trans-TechのZ型Ba3Co2Fe24O41ヘキサフェライトであり、d50は約5.1μmである。
【0075】
gFi130は、Sumida AGのフェロカライト(ferrocarite)型NiZnフェライトであり、粉砕後のd50は約0.7μmである。
【0076】
Fe3O4は、LanxessのE8707Hマグネタイトであり、dmeanは約0.2μmである。
【0077】
オクタメチル-ポリオリゴシルセスキオキサン(オクタメチル-POSS、OMP)およびトリシラノールイソブチル-ポリオリゴシルセスキオキサン(トリシラノール-イソブチル-POSS、TSP)は、ハッティズバーグ所在のハイブリッド・プラスチックス社より入手した。
【0078】
分散添加剤Tegomer(登録商標)P121は、Evonik Nutrition & Care GmbHの両親媒性共重合体である。
【0079】
PEIAは、アミド化されたポリエチレンイミンである。調製は、2015年3月12日付のマルティン・ルター大学ハレ・ヴィッテンベルクの学位論文である、Gladitzによる研究、“Untersuchungen zur Herstellung, Charakterisierung und Applikation von antimikrobiellen Metall-Hybriden fuer Beschichtungen und Compounds”に記載されている。
【0080】
使用したポリマー、磁性充填剤および特殊な添加剤、ならびに磁気誘電体ポリマー複合材料の詳細な加工条件を表1に示す。
【0081】
【0082】
列挙した例では、平均分子量25,000、含水率1%以下、粘度(50℃)13,000~18,000mPa・sのBASFのポリエチレンイミンLupasol(登録商標)WFが使用され、その後、融点62.5℃、分子量256.4g/molのRothのパルミチン酸でアミド化された。
【0083】
実施例1
環状オレフィン共重合体APELTM APL5014DPに、押出によって60および65質量%のCo2Zヘキサフェライト(Ba3Co2Fe24O41)と、いずれの場合も2%の粉末状PEIAが組み込まれた。
【0084】
60および65質量%のCo2Zヘキサフェライトを含む2つの配合物については、比較のためにPEIAを含めず、さらに対応する2つの配合物については、押出によって2%のPOSS化合物OMPをCOCマトリックスに導入した。
【0085】
PEIAを含まずPOSS化合物OMPを含む比較配合物と比較して、アミド化ポリエチレンイミン(PEIA)を含む磁気誘電体ポリマー複合材料の誘電率ε’と透磁率μ’が増加し、その結果としての屈折率が高くなることは、400MHzと800MHzの両方で
図3のように確認される。
【0086】
実施例2
押出加工により、ポリマーELIX ABS 3D GPに、65および69質量%の微粉砕スピネルフェライトgFi130(NiZn-Fe2O4)と、いずれの場合も2%の粉末状PEIAが組み込まれた。
【0087】
65および69質量%のスピネルフェライトgFi130を含む2つの配合物については、比較のためにPEIAを含めず、65質量%のgFi130を含む2つの配合物については、いずれの場合も2%のPOSS化合物OMPおよびTSPを含め、さらなる基準配合物については、2%の分散添加剤Tegomer P121を組み込んだ。
【0088】
アミド化ポリエチレンイミン(PEIA)を使用すると、PEIAを含まずPOSS化合物OMPおよびTSPを含む試験配合物と比較して、磁気誘電体ポリマー複合材料の誘電率ε’と透磁率μ’が増加し、その結果としての屈折率が高くなることは、
図4の400MHzと800MHzでも見られる。
【0089】
実施例3
誘電減衰損失と磁気減衰損失を比較するために、PEIAを含まない60、65および69質量%の微粉砕スピネルフェライトgFi130(NiZn-Fe2O4)を、ポリマーELIX ABS 3D GPに組み込んだ。
【0090】
65質量%のスピネルフェライトgFi130、2質量%のPOSS化合物OMPおよびTSPを含むさらなる配合物中と、65質量%のgFi130を含む配合物中に、2%の分散添加剤Tegomer P121を、押出によって基準配合物として組み込んだ。
【0091】
次に、これらの基準試料の誘電減衰損失と磁気減衰損失を、スピネルフェライトgFi130の充填レベルが65および69質量%で、いずれの場合も2質量%のPEIA成分を含む押出ABS-フェライト複合材料の対応する損失正接値と比較した。
【0092】
アミド化ポリエチレンイミンのより効果的な分散およびより優れたスペーサー効果のために、特にABS-65gFi130-2PEIAおよびABS-69gFi130-2PEIA配合物の誘電減衰損失は、PEIAを含まない配合物と比較して、それぞれ25.8および51.5%減少する。
【0093】
図5に一致して、POSS化合物OMPおよびTSPを含むABS-フェライト複合材料と比較して、PEIAを使用すると、また分散添加剤Tegomer P121を使用するときにも、より低い誘電減衰損失が一貫して達成された。65および69質量%のフェライトと2質量%のPEIAを含むABS-gFi130複合材料の場合、400MHzと800MHzの両方で、誘電減衰損失と磁気減衰損失は、tanδ
ε=ε”/ε’<0.1およびtanδ
μ=μ”/μ’<0.1を達成した。
【0094】
実施例4
PEIAを液体アセトンABS-フェライト粒子分散体に導入し、これを表1に即してUltraturraxと超音波による複合処理によって強力に剪断した。アセトンを減圧下で除去し、ABS-フェライト複合材料のフィルム状の残留物を粉砕した後、射出成形によって板状中間体を製造した。
【0095】
表2は、溶融配合を介し、アセトンABS溶液へのフェライトの分散プロセスを経て得られた充填ABS-gFi130複合材料間の800MHzでの誘電率ε’および透磁率μ’と、減衰損失tanδεおよびtanδμを比較している。
【0096】
分散プロセスで得たABS-フェライト複合材料は、従来の溶融配合で得たABS-フェライト配合物よりも、誘電率ε’および透磁率μ’の実数成分の値が大幅に低いことが特徴である。
【0097】
ε’およびμ’の低下は、分散プロセスによって生成されたABS-フェライト複合材料の密度の低下と相関している。
【0098】
これらのABS-フェライト複合材料の誘電率ε’および透磁率μ’の低下は、複合材料の射出成形中にアセトンの溶媒残渣が蒸発することによって形成されたキャビティによって引き起こされる。
【0099】
しかし、PEIA成分をアセトンABS-フェライト分散体に挿入すると、PEIAを含まない複合材料と比較して、誘電率 ε’、透磁率μ’および屈折率nが同時に増加する。
【0100】
特に興味深いのは、高充填ABS-フェライト複合材料構造の中に微細孔を設けることによる誘電減衰損失と磁気減衰損失の低下である。PEIAスペーサー化合物の存在下では、損失正接値はさらにまた低下する。
【0101】
【0102】
実施例5
ポリマー複合材料中の磁性粒子の粒子分布と混合の質を改善するために、磁気誘電体ポリマー系の屈折率、誘電率ε’および/または透磁率μ’を増加させるための第2の磁性成分を使用した。一次磁性成分の充填レベルc1は、二次成分c2に対して、c1>c2となる。
【0103】
ここで、一次磁性充填剤の平均直径d1と二次成分の平均直径d2との大きさの差は、d1>>d2またはd1>d2の条件を満たすものとする。
【0104】
続いて、PEIAスペーサー化合物を添加しない場合と添加後の三元磁性充填ポリマーハイブリッドの400および800MHzでの誘電率ε’と透磁率μ’、さらに屈折率nを互いに比較した。
【0105】
図6のハイブリッドABS-10Fe
3O
4-55Co
2ZおよびABS-10gFi130-59Co
2Zの誘電率ε’および透磁率μ’は、PEIAを添加して結果として大幅に増加し、このことは、式1に一致して、屈折率を高め、そのため磁気誘電体基板を有するアンテナの小型化係数を低下させる。
【0106】
PEIA成分を有するハイブリッドの誘電減衰損失と磁気減衰損失については、400MHzと800MHzの両方で、tanδε=ε”/ε’<0.1およびtanδμ=μ”/μ’<0.1である。
【0107】
実施例6
ZVB14ネットワークアナライザでS11散乱パラメータ(リターンフローの減衰)を測定するために、空気中での共振周波数が1335MHzの長さ9.4cmのダイポール型アンテナの周囲に、純粋なABS、添加剤を含まないABS-65gFi130、異なる2種類のPOSS化合物を含むABS-65gFi130-2OMPおよびABS-65gFi130-2TSP、さらにPEIAスペーサー添加剤を含むABS-65gFi130-2PEIAの厚さ2mmの射出成形板の層をそれぞれ対称に配置した。使用した実験装置を
図7に示す。
【0108】
ダイポール型アンテナの共振周波数f
rのシフトは、
図8の選択されたポリマー基板について、周波数と屈折率の関数として表される。
【0109】
PEIA成分を含む試料ABS-65gFi130-2PEIA(805)を用いたダイポール型アンテナは、空気環境(800)に対しても、試料ABS(801)、添加剤を含まないABS-65gFi130(802)、POSS化合物を含むABS-65gFi130-2OMP(803)およびABS-65gFi130-2TSP(804)と比較しても、共振周波数の最大のシフトを示す。
【0110】
ダイポール型アンテナの共振周波数の低周波数範囲へのシフトは、研究対象のポリマー複合材料の屈折率に相関するため、式1に従う最大の屈折率をもつアンテナ基板として試料ABS-65gFi130-2PEIA(805)を使用すると、小型化係数は最小になる。
【0111】
実施例7
長さが10.7mmと5.5mmの2つのダイポールを備え、空中での共振周波数が1158MHzと2022MHzのアンテナ構造を、溶融フィラメント作製(FFF)の3D印刷プロセスを使用して、マトリックスUBE68、フェライト充填剤gFi130およびPEIA添加剤からなるポリアミドエラストマー複合材料で被覆した。3D印刷では、65質量%のスピネルフェライトと2質量%のPEIAを含む磁気誘電体ポリマー複合材料UBE68-65gFi130-2PEIAから直径1.75mmのフィラメントを製造した。アンテナ構造に印刷した層材料の厚さは片面あたり3mmであった。
【0112】
図9から、アンテナ構造の両側の周囲にポリマー複合材料 UBE68-65gFi130-2PEIAを印刷すると、1158および2022MHz(900)の元の共振周波数が805および1295MHz(901)の領域にシフトし、f
r1
*/f
r1=805/1158 約0.69およびf
r2
*/f
r2=1295/2022 約0.64で、31%および36%のビルドサイズの縮小に相当することが明らかである。