(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063047
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】リソソーム蓄積障害の試験に関連する方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/34 20060101AFI20240501BHJP
C12N 9/38 20060101ALI20240501BHJP
C12N 9/40 20060101ALI20240501BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20240501BHJP
G01N 33/50 20060101ALN20240501BHJP
【FI】
C12Q1/34
C12N9/38
C12N9/40
G01N27/62 V
G01N33/50 Z
【審査請求】有
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024022807
(22)【出願日】2024-02-19
(62)【分割の表示】P 2022043168の分割
【原出願日】2015-09-02
(31)【優先権主張番号】14/474,524
(32)【優先日】2014-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】505359506
【氏名又は名称】パーキンエルマー・ヘルス・サイエンシズ・インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】PERKINELMER HEALTH SCIENCES, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110003007
【氏名又は名称】弁理士法人謝国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ポティエ、 アンナ エム.
(57)【要約】
【課題】リソソーム蓄積酵素などの酵素の活性を検出するのに適する添加剤化 合物を含むアッセイシステムを提供する。
【解決手段】標的酵素の酵素活性をin vitroで検出するためのアッセイシステムであって、基質および1つまたは複数のオレイン酸塩を含み、水性緩衝液を含んでよく、前記1つまたは複数のオレイン酸塩は、前記基質に作用して酵素反応生成物を生成する前記酵素の活性を向上させるのに適している、アッセイシステム。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
in vitroで酵素活性を検出する方法であって、
標的酵素を含む試料を基質およびオレイン酸アルキルと接触させるステップであって、標的酵素が基質に作用して酵素反応生成物を生成することが可能な条件下で行う、ステップと、
前記酵素反応生成物を検出するステップ
とを含む、方法。
【請求項2】
前記オレイン酸アルキルがオレイン酸C1~C4アルキルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記オレイン酸アルキルがオレイン酸C3~C4アルキルである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記オレイン酸アルキルがオレイン酸分枝状C3~C4アルキルである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記オレイン酸アルキルがオレイン酸メチルである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記検出するステップが、マススペクトロメトリーによるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記試料を内部標準と接触させるステップをさらに含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記内部標準が2Hを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記酵素が、リソソーム蓄積障害に関連するリソソーム酵素であり、前記方法が、リソソーム蓄積障害を有する対象を診断することをさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記標的酵素が、酸性α‐ガラクトシダーゼA、酸性β‐グルコセレブロシダーゼ、ガラクトセレブロシダーゼ、酸性α‐グルコシダーゼ、酸性スフィンゴミレナーゼ、α‐L‐イズロニダーゼ、またはそれらの組み合わせである、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
in vitroで酵素活性を検出する方法であって、
基質およびオレイン酸アルキルの組み合わせを含む基質成分を調製するステップと、
前記基質成分を乾燥させるステップと、
標的酵素を含む試料を水性緩衝液中の前記基質成分と接触させるステップであって、標的酵素が基質に作用して酵素反応生成物を生成することが可能な条件下で行う、ステップと、
前記酵素反応生成物を検出するステップ
とを含む、方法。
【請求項12】
前記オレイン酸アルキルが、オレイン酸C1~C4アルキルである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記オレイン酸アルキルがオレイン酸C3~C4アルキルである、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記オレイン酸アルキルがオレイン酸分枝状C3~C4アルキルである、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記オレイン酸アルキルがオレイン酸メチルである、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記水性緩衝液がコハク酸を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記水性緩衝液のpHが4.3~5.0である、請求項11~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記接触させるステップが、内部標準を前記基質および前記オレイン酸アルキルに添加した後、乾燥させるステップをさらに含む、請求項11から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記接触させるステップの前に前記基質成分と前記水性緩衝液とを組み合わせるステップをさらに含む、請求項11から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記検出するステップが、マススペクトロメトリーによるものである、請求項11から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記標的酵素が、酸性α‐ガラクトシダーゼA、酸性β‐グルコセレブロシダーゼ、ガラクトセレブロシダーゼ、酸性α‐グルコシダーゼ、酸性スフィンゴミレナーゼ、α‐L‐イズロニダーゼ、またはそれらの組み合わせである、請求項11~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記酵素が、リソソーム蓄積障害に関連するリソソーム酵素であり、前記方法が、対象を診断するステップをさらに含み、前記試料がリソソーム蓄積障害を有する対象または有しない対象から得られる、請求項11~21のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2014年9月2日に出願された米国特許出願第14/474,524号に従属しかつ優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0002】
本説明は、酵素活性を検出するための分析用試薬に関する。1つまたは複数のリソソーム蓄積障害を検出するためのスクリーニングアッセイに使用可能なリソソーム酵素活性の検出が提供される。
【背景技術】
【0003】
リソソーム蓄積障害は、体内において特定の酵素が欠損し、その結果、代謝物質が分解できない体となることを特徴とする遺伝性障害のグループである。例として、ファブリー病は、4万人に1人に認められるリソソーム蓄積障害である。この障害は、α-ガラクトシターゼ酵素の欠損によって生じ、その結果、グロボトリアオシルセラミドと称される特定の脂肪性物質を分解できない体となる。2つ目の例は、グルコシルセラミド(グルコセレブロシドとも称される)と称される脂肪性物質または脂質の分解ができないことによって生じるリソソーム蓄積障害であるゴーシェ病である。ゴーシェ病の個体は、こうした脂肪性物質の分解に必要な酵素であるグルコセレブロシダーゼを作らない。その結果、これらの脂肪性物質は、肝臓、脾臓、および骨髄の細胞中に蓄積される。3つ目の例は、グリコーゲンと称される特定の糖の分解に必要な酸α-グルコシダーゼ酵素の欠損によって生じるリソソーム蓄積障害であるポンペ病である。酸α-グルコシダーゼの酵素がない場合、グリコーゲンは体内のさまざまな組織および臓器に蓄積する。
【0004】
リソソーム蓄積障害は大部分が小児期の障害であるが、一部は成人期に発症する。その多くにおいて患者は、出生時は健康であるが、後に進行性の神経学的増悪が発症する。臨床表現型は、生化学的欠損の種類および重症度によって決まる。ポンペ病およびクラッベ病などのこれらの一部のリソソーム障害は、主に乳児期に発症する。臨床症状が発症する前に治療的介入を開始することができるように、このような障害を検出する方法の開発が継続的に取り組まれている。
【0005】
現在挙げられるリソソーム蓄積障害(LSD:lysosomal storage disorder)のスクリーニング試験の大部分は、マススペクトロメトリー法に基づいており、材料はZhangら(Methods Mol Biol.2010;603:339~350ページ)によって記載されている。本方法は、6つのLSD(ポンペ、クラッベ、ニーマンピックAおよびB、ファブリー、ゴーシェ、およびMPS-1)に対し、6つの異なる容器中で、6つの異なる条件を用いて、6つの酵素活性アッセイを実施する。同じ障害に対するマルチプレックスアッセイは記載されている(Scottら、J Pediatr.2013 Aug;163(2):498~503ページ、Spazilら、Clin Chem.2013 Mar;59(3):502~11ページ)。マルチプレックス法は実験労力および試薬が少なくて済むが、非マルチプレックス法と同質のアッセイ結果を得ることが一般的に難しく、そのアッセイ条件には、任意の交絡プロセスを抑制すると同時に、標的酵素の十分な活性を補助するという、問題の解決を示すことが必要とされる。さまざまな酵素活性のエンハンサーおよびサプレッサーをマルチプレックス緩衝液へ添加すると、最適な条件が補助され、それぞれの標的酵素がその特異的人工基質に対して計測可能に作用することを可能にする。
【0006】
オレイン酸は、GALC酵素のエンハンサーとして認識されてきたが、GALC酵素の活性の低さはクラッベ病と関連している(Zhangら、同上、Zhangら、Clin
Chem.2008;54(10):1725~1728ページ、Liら、Clin Chem.2004;50(10):1785~1796ページ)。この酸は、クラッベ病をスクリーニングするための緩衝液へ添加されていた。しかし、オレイン酸を水性緩衝液へ溶解することは非常に困難であり、結果として生じるアッセイ緩衝液の濃度のばらつきにより、再現性の低いアッセイ結果が導かれる。したがって、再現性の問題が、酵素活性を高めるという任意の潜在的な利点となる能力を上回るために、クラッベ病のスクリーニングに関して公開されているプロトコールの大部分でオレイン酸は除外されている。
【0007】
したがって、リソソーム障害を検出するための方法および組成物の改良が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
以下の概要は、提供される方法に特有のいくつかの革新的な特長を理解することを容易にするために提供されるものであって、完全な説明を意図するものではない。本方法のさまざまな態様の完全な理解は、明細書、特許請求の範囲、図面、および要約書の全体を総じて解釈することによって得ることができる。
【0009】
マススペクトロメトリーなどの検出システムを用いた酵素反応を検出するための、改良された組成物および方法が提供される。これらの組成物および方法は、標的酵素との反応性の改善をもたらし、それにより、アッセイ効率、再現性、および精度が改善される。
【0010】
試料中のリソソーム酵素活性のレベルを評価するために有用なアッセイに含まれる化学化合物が提供される。リソソーム酵素活性の試験は、例えば、新生児の代謝障害のスクリーニングをする場合、ならびに酵素活性が影響する医学的状態を有する個体、または酵素補充療法、遺伝子治療、もしくは骨髄移植などの内科療法を受けている個体を評価する場合に有用である。本明細書において記述されるオレイン酸塩またはオレイン酸アルキルを使用すると、合成基質に対する標的酵素活性が改善される。
【0011】
本説明の1つの目的は、1種または複数の添加剤を、酵素活性、例示的には欠損するとリソソーム蓄積障害をもたらす酵素活性の検出に適した反応に提供することである。添加剤は、任意でオレイン酸の塩、任意でオレイン酸ナトリウムである。添加剤は、任意でオレイン酸アルキル、任意でオレイン酸メチルである。1種または複数の添加剤は、保存用の1つまたは複数のアッセイ成分へ任意に添加してからアッセイプロセスを行うか、または可溶性材料としてアッセイに任意に添加する。したがって、酵素の、存在、欠乏、もしくはレベルを検出するための方法、または対象における酵素欠損の有無を検出するための方法が提供される。酵素は、その酵素が欠損するとリソソーム蓄積障害につながる、任意の酵素である。酵素の、存在、欠乏、またはレベルを検出するための方法にオレイン酸塩またはオレイン酸アルキルを使用すると、添加した結果として反応性および再現性が改善され、その結果、アッセイの信頼性を改善することが可能になる。酵素活性の検出方法には、標的酵素を含む試料を基質および添加剤と、標的酵素が基質に作用して酵素反応生成物を生成することが可能な条件下で接触させるステップと、酵素反応生成物を検出するステップとが含まれる。任意で、該標的酵素は、酸β-グルコセレブロシダーゼ、酸ガラクトセレブロシドβ-ガラクトシダーゼ、または酸-β-グルコセレブロシダーゼである。
【0012】
検出ステップは、任意のマススペクトロメトリーによるもの、MS/MSなどの任意の多重反応モニタリングによるものである。検出ステップは、任意で、イムノアッセイ、基質切断蛍光アッセイ(substrate cleavage fluorescence assay)、HPLC、マススペ
クトロメトリー、または1,000ダルトン未満の分子量を有する分子の検出に適する他
の方法によるものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】1つの方法のいくつかの実施形態において使用される基質および内部標準の例を示す図である。
【0014】
【
図2】低濃度の酵素の対照試料を使用したときに、オレイン酸ナトリウムを添加して得られた酵素活性と添加せずに得られた酵素活性とのグラフである。
【0015】
【
図3】中濃度の酵素の対照試料を使用したときに、オレイン酸ナトリウムを添加して得られた酵素活性と添加せずに得られた酵素活性とのグラフである。棒1はABGを表し、棒2はASMを表し、棒3はGALCを表し、棒4はIDUAを表し、棒5はGLAを表し、棒6はGAAを表す。
【0016】
【
図4】高濃度の酵素の対照試料を使用したときに、オレイン酸ナトリウムを添加して得られた酵素活性と添加せずに得られた酵素活性とのグラフである。棒1はABGを表し、棒2はASMを表し、棒3はGALCを表し、棒4はIDUAを表し、棒5はGLAを表し、棒6はGAAを表す。
【0017】
【
図5】オレイン酸ナトリウムを添加して得られた割合(中濃度の対照DBS/低濃度の対照DBS)および添加せずに得られた割合(中濃度の対照DBS/低濃度の対照DBS)とのグラフである、棒1はABGを表し、棒2はASMを表し、棒3はGALCを表し、棒4はIDUAを表し、棒5はGLAを表し、棒6はGAAを表す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
特定の実施形態の以下の説明は、本質的に単なる例示であって、本方法、その用途、または使用の範囲を限定することを意図するものではなく、当然ながらこれらを変更してよい。本組成物または本方法は、本明細書において含まれる非限定的な定義および専門用語と関連して記述される。これらの定義および専門用語は、アッセイもしくはアッセイシステムの範囲または実施の限定として機能するよう意図するものではなく、実例的かつ記述的な目的のみを示すものである。本方法または本組成物は、個々のステップの順番または特定の材料の使用を記述するが、当業者によって容易に理解されるよう、説明がさまざまに配置された複数の部分またはステップを含むことができるように、ステップまたは材料は交換可能としてよいことを理解されたい。
【0019】
本明細書において使用される専門用語は、特定の実施形態を記述することのみを目的とし、限定することを意図しない。本明細書において使用される単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、明らかに別の内容を示していない限り
、「少なくとも1つ」を含む複数形を含むことを意図する。「または」は「および/または」を意味する。本明細書において使用される「および/または」という用語は、関連する列挙された1つまたは複数の項目の、任意のかつすべての組み合わせを含む。「含む(comprises)」および/または「含む(comprising)」、あるいは「含む(includes)」
および/または「含む(including)」という用語は、本明細書で使用される場合、述べ
られた特徴、領域、整数、ステップ、操作、要素、および/または成分の存在を規定するが、1つまたは複数の他の特長、領域、整数、ステップ、操作、要素、成分、および/またはそれらの群の存在または追加を除外するものではないことがさらに理解されるであろう。「またはそれらの組み合わせ」という用語は、前述の要素のうちの少なくとも1つを含む組み合わせを意味する。
【0020】
他に定義されない限り、本明細書において使用されるすべての用語(技術用語および科
学用語を含む)は、本開示が属する技術分野の当業者によって通常理解される場合と同じ意味を有する。通常使用される辞書に定義されているような用語は、関連技術および本開示の文脈からの意味と一致する意味を有すると解釈するべきであり、本明細書において明示的に定義されない限り、理想的なまたは過度に形式的な意味と解釈されないことがさらに理解されるであろう。
【0021】
提供される組成物は、リソソーム蓄積障害と関連するリソソーム酵素活性などの加水分解酵素活性を検出するための、分析用試薬としての用途を有する。オレイン酸の塩(オレイン酸塩)またはオレイン酸アルキルを適用することによって、検出システムがより強くかつ再現可能であることが予想外に見い出され、したがって、リソソーム蓄積障害と関連する酵素活性の検出がより現実的にかつ扱いやすくなる。
【0022】
本方法は、1つまたは複数の加水分解酵素の検出を提供する。加水分解酵素の実例としては、酸α-ガラクトシダーゼA(GLA)、酸β-グルコセレブロシダーゼ(ABG)、ガラクトセレブロシダーゼ(GALC)、酸α-グルコシダーゼ(GAA)、酸スフィンゴミエリナーゼ(ASM)、およびα-L-イズロニダーゼ(IDUA)がある。これらの酵素の基質に対する作用を使用して、試料中の対応する酵素活性が計測され、それによって、本方法は次のリソソーム蓄積障害:ファブリー(GLA)、ゴーシェ(ABG)、クラッベ(GALC)、ポンペ(GAA)、ニーマンピック(AまたはB)(ASM)、およびムコ多糖症(IDUA)の検出に使用することができる。
【0023】
特定の酵素の活性は、関連する基質に作用して酵素反応生成物を生成するその能力または速度によって評価することができる。試料中の酵素反応生成物の量を測定することによって、標的酵素の活性を測定することができる。適用に対して、酵素反応生成物の定量的評価が所望され、既知量の内部標準を試料中に含むことができる。
【0024】
酵素活性を検出する方法は、標的酵素を含む試料を基質および1つまたは複数のオレイン酸塩と接触させるステップであって、標的酵素が基質へ作用し酵素反応生成物を生成することが可能な条件下で行う、ステップと、酵素反応生成物を検出するステップとを含む。本発明者らは、オレイン酸とは異なるオレイン酸の塩の使用により、酵素活性の改善、少量の酵素の検出、および優れた再現性が得られることを驚くべきことに発見した。オレイン酸が9.85のpKaを有するということは特に驚くべきことである(Kanicky JRおよびShah DO、J Colloid Interface Sci.2002 Dec 1;256(1):201~7ページ)。したがって、1つの方法では、アッセイを準備するかまたは実施する任意の時点において、オレイン酸を任意で添加しない。
【0025】
1つの方法は、1つまたは複数のオレイン酸塩あるいは1つまたは複数のオレイン酸アルキルの標的酵素との組み合わせを含む。オレイン酸塩としては、任意で一価塩または多価塩がある。いくつかの実施形態において、オレイン酸塩としては二価塩がある。オレイン酸塩の実例としては、これらに限定されるものではないが、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、オレイン酸リチウム、オレイン酸マグネシウム、オレイン酸カルシウム、オレイン酸亜鉛、または該オレイン酸塩の2つ以上の組み合わせがある。任意で、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、または6つを超えるオレイン酸塩が含まれる。任意で、1つの方法は、1つまたは複数のオレイン酸アルキルの標的酵素との組み合わせを含む。オレイン酸アルキルは任意でC1~C4オレイン酸エステルであり、C3またはC4は任意で直線状または分岐状である。残りの説明はオレイン酸塩という用語の使用を対象とするが、どの場合においてもオレイン酸アルキルをオレイン酸塩に変えてよくまたは加えてもよいことを理解されたい。
【0026】
オレイン酸塩は、任意で基質、内部標準、またはその両方と組み合わせてから、酵素と接触させる。いくつかの実施形態において、オレイン酸塩は、基質、内部標準、またはその両方と接触させ、基質成分を形成し、次いでその基質成分に乾燥ステップを行う。乾燥は、当技術分野で認められた任意の1つまたは複数の乾燥方法によって行われる。乾燥は、真空下での蒸発によって、窒素下もしくは他の不活性ガス下での蒸発によって、または凍結乾燥によって任意で行われる。試料の乾燥方法は、当技術分野においてよく知られている。
【0027】
任意で基質成分の形態である、オレイン酸塩および基質は、標的酵素と任意で組み合わせる。標的酵素の実例としては、これらに限定されるものではないが、α-ガラクトシダーゼA、酸β-グルコセレブロシダーゼ、ガラクトセレブロシダーゼ、酸α-グルコシダーゼ、酸スフィンゴミエリナーゼ、α-L-イズロニダーゼ、または2つ以上の標的酵素の組み合わせがある。任意で、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、または6つを超える標的酵素が同時にまたは連続的にアッセイされる。いくつかの実施形態において、マルチプレックスアッセイが使用され、2つ以上の酵素が同時にアッセイされる。任意で、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、または6つを超える酵素が同時にアッセイされる。任意で、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、または6つを超える酵素が個々にまたは連続的にアッセイされる。
【0028】
個体の血液中の特定のリソソーム酵素の活性は、個体がリソソーム蓄積障害を有するかどうかを試験するために使用することができる。したがって、1つまたは複数の標的酵素に対する特異的な基質が、1つの方法における基質として任意に使用される。このような基質は、医学的状態、具体的には、ゴーシェ病、クラッベ病、ニーマンピック病、ポンペ病、ファブリー病、またはムコ多糖症などのリソソーム蓄積障害の検出に任意に適する。
【0029】
提供される方法はこれらに制限されるものではないが、1つの方法に含まれることに適した例示的な基質および内部標準は、米国特許出願第14/215,885号、米国特許第8,476,414号、米国特許第8,173,784号、米国特許出願公開第2012/0190043号、国際公開第2007/106816号、Gelbら、J Inherit.Metab.Dis.、(2006)29:397~404ページ、Liら、Clinical Chemistry、50;10:1785~1796ページ(2004)にとりわけ記載される。
【0030】
1つの方法は、基質およびオレイン酸塩と任意で組み合わせてから1つまたは複数の酵素と接触させる、内部標準の使用を任意に含む。内部標準は、試料または試料容器中の酵素反応生成物の量の評価に有用な実験対照または標準として機能する。マススペクトロメトリー法において使用するために、特定の基質に対応する内部標準は、その内部標準の質量対電荷比(m/z)が異なることを除き、その酵素反応生成物と任意で構造的に同一である(例を挙げると、脂肪酸部分)。したがって、内部標準には、修飾形態の酵素反応生成物、例えば酵素反応生成物の安定な同位体標識類似体が任意で含まれており、この同位体標識類似体は、対応する酵素反応生成物と異なる検出可能な質量差を生み出すように、対応する原子同位体によって1つまたは複数の原子が置換されている。内部標準および酵素反応生成物がマススペクトロメトリーによって分析される場合、結果として生じるスペクトルは、内部標準および酵素反応生成物の空間的分離を示し、それぞれがその固有ピークによって表される。既知量の内部標準は、その既知のm/z比におけるピークの高さによって示される。酵素反応生成物の量は、その既知のm/z比におけるピークの高さの比較によって評価することができ、内部標準のピークの高さと比較する。内部標準を生成するための同位体標識の例は、1Hの2H(すなわち、重水素、D)との置換である。結果として、置換された2Hを含む「より重い」内部標準分子は、質量スペクトル上で検出されるように、酵素反応生成物とは異なるm/zを有する。特定の実施形態において、内部
標準は重水素を用いて標識され、対応する切断生成物から3~9ダルトンの質量変化を引き起こす。
【0031】
基質は、さまざまな物理的形式で、例えば、溶液で、乾燥形態で、ならびに固体支持体へ連結または固定化して使用することができる。固体支持体は、ポリマー、樹脂、金属、またはガラスなどの、天然材料または合成材料、有機材料または無機材料、およびそれらの組み合わせから構成することができる。適切な固体支持体は、さまざまな物理的形式を有することができ、これらの固体支持体としては、例えば、膜;カラム;ビーズなどの、空洞、固体、半固体、孔、または空洞を含有する粒子;ゲル;光ファイバー材料を含む繊維;マトリックス;および試料容器を挙げることができる。試料容器の非限定例としては、試料ウェル、チューブ、キャピラリー、バイアル、および試料の保持が可能な、任意の他の容器、溝、またはくぼみがある。試料容器は、マルチサンプルプラットフォーム、例えば、マイクロプレート、スライド、マイクロ流体デバイスなどの上に収容することができる。多くの適切な粒子が当技術分野において既知であり、例示的には、Luminex(登録商標)型コード化粒子、コード化光ファイバー粒子、磁気粒子、およびガラス粒子がある。基質および/またはその酵素的切断生成物の固体支持体との共有結合性相互作用は、一部のアッセイ形式で実施される洗浄手順中に基質および/または生成物を保持するために有用であり、したがって、強くかつ正確な酵素活性のシグナルが得られる。
【0032】
本明細書において記述される方法は、複数の酵素が同時にアッセイされるようなマルチプレックス形式で任意で実施される。マルチプレックス形式の実例は、いくつかの異なる基質、内部標準、試料、酵素、または他のもの、あるいはそれらの組み合わせを単一のマルチウェルプレート上に含むことである。任意で、マルチプレックス形式には、複数の酵素、試料、基質、内部標準、他のもの、またはそれらの組み合わせが単一のウェル中またはアッセイ容器中に存在することが含まれる。他の例示的なマルチプレックス形式は、物理的コード化粒子および/または化学的コード化粒子を使用することを含む。マルチプレックス形式におけるコード化粒子の使用は、例えば、US6,649,414およびUS6,939,720に記載されている。コードは粒子を互いに区別することを可能にするため、単一の反応混合物中に複数の相違する粒子を存在させることができ、複数の異なる試料または異なる酵素を同時にアッセイすることが可能になる。粒子上のコードは、例えば、試料の起源、アッセイされる特定の酵素、存在する特定の基質、および類似のものに、使用者の実験目標に応じて対応させることができる。
【0033】
提供される方法における有用な試料は、1つまたは複数の標的酵素を含むか、または含むと推測される。標的酵素は、個体から、ならびに細胞株および合成タンパク源などの、実験室材料または合成材料から得られる試料中に含まれるとすることができる。試料供給源の例としては、例示的には、組織ホモジネート;細胞培養溶解物;尿、液体形態または乾燥形態の血液、涙、唾液、および脳脊髄液を含む生体液がある。試料は、必要であれば、特定の種類の細胞を含むフラクションにさらに分画することができる。例えば、血液試料は、血清に、または赤血球細胞もしくは白血球細胞(白血球)などの特定の種類の血液細胞を含むフラクションに分画することができる。必要であれば、試料は、組織試料および体液試料、ならびに類似のものの組み合わせなど、対象から得られる試料の組み合わせとすることができる。特定の実施形態において、試料とは血液であり、その血液は例えば、全血またはその血液フラクション(例を挙げると、血漿または血清)、あるいは乾燥血液試料を再構成したものとすることができる。
【0034】
試料中の分子の活性または完全性が維持された試料を得るための方法は、当業者によく知られている。そのような方法には、適切な緩衝液、および/または、ヌクレアーゼ阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、およびホスファターゼ阻害剤を含む阻害剤の使用が含まれるが、これらは試料中の分子の変化を維持するかまたは最小限にする。そのような阻害剤とし
ては、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコールビス(P-アミノエチルエーテル)N,N,N1,N1-四酢酸(EGTA)などのキレート剤、フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)、アプロチニン、ロイペプチン、アンチパイン、および類似のものなどのプロテアーゼ阻害剤、ならびにリン酸塩、フッ化ナトリウム、バナジウム酸塩、および類似のものなどのホスファターゼ阻害剤がある。分子を単離するための適切な緩衝液および条件は当業者によく知られており、例えば、特性評価される試料中の分子の種類によって変えることができる(例えば、Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology(Supplement 47)、John Wiley & Sons、New York(1999)、HarlowおよびLane、Antibodies:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press(1988)、HarlowおよびLane、Using Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Press(1999)、Tietz Textbook of Clinical Chemistry、第3版、BurtisおよびAshwood編、W.B.Saunders、Philadelphia、(1999)を参照のこと)。干渉物質の存在を除去または最小限にするように、試料を処理することもできる。
【0035】
新生児および小児患者から得られた血液をスクリーニングする場合、乾燥血液スポット形態の試料が一般的に使用される。これらの試料を調製するため、血液をろ紙上に採取し、保持する。分析のため、乾燥血液を、ろ紙の一部分から水溶液中に任意で溶出させる。その水溶液には、リン酸緩衝生理食塩水緩衝液、HEPES緩衝液、トリス緩衝液、コハク酸緩衝液、または他の緩衝液などの緩衝液、および任意で1つまたは複数のプロテアーゼ阻害剤が通常含有される。プロテアーゼ阻害剤の条件の具体例としては、例えば、1つまたは複数の以下のもの:最終濃度が50~400μg/mlのAEBSF塩酸塩、最終濃度が0.2~25mg/mlのEDTA二ナトリウム脱水物、最終濃度が0.5~1μg/mlのロイペプチンヘミ硫酸塩、および最終濃度が0.5~1μg/mlのペプスタチンAがある。当技術分野において一般的に使用される既知のプロテアーゼ阻害剤カクテルを使用してよい。単一の乾燥血液試料または他の種類の試料を抽出し、その後の多重アッセイ反応に分配するユニバーサルアッセイ溶液(universal assay solution)の使用は、自動ハイスループットスクリーニング(automatic and high throughput screening)
に使用することができる。乾燥試料の単一の抽出により、同じ試料からいくつかの試料パンチを得る必要性、または他の試料供給源のアリコートを収集する必要性が回避され、それにより、ろ紙上での血液の不均質な分布および試料の移動における誤差によって生じる変動が減少する。乾燥試料を使用する場合、抽出効率は分析する酵素の違いで変動する可能性がある。これらの種類の試料および他の種類の試料において、異なるアッセイ溶液中に含まれる場合、標的酵素は異なるレベルの活性を有する可能性がある。ユニバーサルアッセイ溶液の組成は、試験される各酵素が作用するように任意に選ばれる。
【0036】
いくつかの実施形態において、乾燥血液スポットまたはそれから得られるパンチを、1つまたは複数の基質およびオレイン酸塩ならびに任意で内部標準を含むアッセイ緩衝液中へ直接入れ、試料中に存在する酵素が基質を生成物へ変換することを可能にするために十分な時間にわたってインキュベートしてから、1つまたは複数の検出方法によって検出する。
【0037】
得られた基質および生成物は、さまざまなアッセイ形式で使用することができる。酵素アッセイ中の基質の消費を観察することが望まれるときに、基質をアッセイで検出することができると同時に、酵素アッセイ中に生成物の形成を観察することが望まれるときに、生成物をアッセイで検出することができる。例えば生成された生成物の量が消費された基質の量と相関することを確認するため、両方の観点から酵素反応を観察することが望まれ
るときに、基質と生成物のどちらも検出することができる。
【0038】
例えば、基質または生成物の量は、確立されたタンデムマススペクトロメトリー手順を使用して任意で検出することができる。マススペクトロメトリーを使用する例示的な酵素アッセイは、以下のように任意で実施する。試料は、酵素反応生成物の形成が可能な時間にわたって、基質およびオレイン酸塩とともに水性アッセイ緩衝液中でインキュベートする。インキュベート時間中に、基質は、血液試料中に存在する標的酵素によって切断され、それぞれの生成物を形成する。次いで、タンパク質成分を沈殿させる試薬を添加することによってこの反応をクエンチする。試薬の例としては、アルコール、アセトニトリル、および希釈トリフルオロ酢酸がある。次いで、インキュベートされた混合物の一部分を、新しいアッセイ容器へ移す。任意で、メタノール、アセトニトリル、水-メタノール混合液、または水-アセトニトリルなどの希釈試薬を添加し、移動した一部分を希釈することができる。こうして希釈された試料は、タンデムマススペクトロメトリー分析の感受性が相対的に増加するように、内因性競合材料の量を減少させている。他の種類の試薬は、多種のマススペクトロメトリーまたは他の検出システムによる分析に適合するように当業者によって選択される。
【0039】
いくつかの実施形態において、希釈試料は、手動で、またはオートサンプラーおよびリキッドハンドラーを用いた自動でのどちらかで、タンデムマススペクトロメーター内へ直接注入する。必要であれば、試料は、誘導体化してから分析することができる。試薬は、MS/MSシステムに不適合にならないように選択する。例えば、適切な溶媒には、界面活性剤、およびクロロホルムなどの腐食剤は含まれない。単に機械的乾燥方法で容易に蒸発するため、純エタノールおよび純メタノールが使用されることが多い。
【0040】
タンデムマススペクトメーターは、添加された基質、結果として生じる対応する酵素反応生成物、および対応する内部標準を同時に検出するように設定することができる。このような検出は、親イオンスキャン(parent ion scans)、プリカーサーイオンスキャン、または多重反応モニタリングスキャンを用いて行われる。
【0041】
いくつかの態様において、酵素アッセイ中に消費された基質または形成された生成物の量は、基質および/または生成物からの蛍光シグナルに基づいて検出する。リソソーム蓄積障害に対するこのような蛍光ベースアッセイは、文献で報告されている(例えば、N.A.Chamolesら、Clinical Chemistry、2001;47(12):2098~2102ページ、およびN.A.Chamolesら、Clinical Chemistry、2001;47(4):780~781ページを参照のこと)。この手法の一般的な概要は、蛍光標識された基質(例えば、4-メチルウンベリフェロンで標識された基質)を、酵素を含む試験試料へ導入し、十分な時間にわたって、通常は室温または37℃でインキュベートすることである。停止液を添加し、アッセイを止め、pHを10に調節する。次いで、試料を、蛍光光度計を使用して読み取る。試験試料で記録された蛍光強度を、4-MU標準曲線を使用することによって、形成された生成物の量へ変換する。
【0042】
酵素アッセイ中に消費された基質または形成された生成物の量は、抗体および他の標的特異的結合分子を使用して検出することもできる。イムノアッセイの場合、基質、生成物、またはその両方の検出に、抗体を使用することができる。このような方法において有用な抗体は、それらが個々の基質を認識するように特異的であるとするか、またはそれらが多くのもしくはすべての基質を認識するように非特異的であるとすることができる。基質または生成物には、ビオチンまたはアビジンなどの、特異的な検出を可能にする、任意の標識が含まれる。
【0043】
抗体は、例示的には、マウス、ラット、ウサギ、ウマ、ロバ、または抗体の産生に使用される他の適切な動物を含む動物において生成される。いくつかの用途において、蛍光タグなどの検出可能なタグを用いて抗体を標識することは有用である。未標識抗体を使用する場合、一次抗体のIgG種に対して特異的である二次抗体を使用して、それを例示的にはローダミンなどの蛍光マーカーで標識することによって、検出を実施することができる。ホースラディッシュペルオキシダーゼ標識抗体またはアルカリホスファターゼ標識抗体などの他の抗体検出システムが、同様に操作可能であることは、当技術分野において理解されている。
【0044】
複数の酵素特異的基質を提供しかつ使用することによって、単一の試料中の複数の酵素を試験する場合、抗体が基質間またはそれらの生成物間を認識し区別する。酵素特異的基質またはその生成物に結合した抗体の複合体は、多くの方法を使用して互いに区別することができる。1つのシナリオにおいて、標的酵素を含有する試料を、アッセイ溶液中で粒子に連結した基質と接触させる。この例において、各粒子は特定の基質と連結し、各基質を表わす複数の粒子が存在する。次いで、特異的な生成物を識別する抗体を、アッセイ溶液と接触させる。抗体は、生成物が酵素アッセイ中に生成される場合は、そこに結合することとなり、結合抗体を有する粒子が生成される。粒子上に含まれる異なる生成物を識別するために、異なる生成物特異性を有する抗体は、異なる蛍光タグなどの異なる検出可能な部分を有することができる。酵素反応生成物を検出するための代わりのものとして、基質を認識する抗体を使用し、酵素とのインキュベート後にビーズ上に残っている基質を検出することができる。この状況において、酵素反応が生じた場合、いずれの生成物もビーズに付着したままとなる。いずれの場合にも、選択された基質特異的抗体は、ビーズに付着した生成物と有意には交差反応しない。
【0045】
他のシナリオにおいて、標的酵素を含む試料は、アッセイ溶液中でコード化粒子に連結した基質と接触させる。コード化粒子は、バーコードまたは光学プロファイルなどの特徴を有し、互いに区別することを可能にする。例えば、コード化粒子は、異なる標的酵素基質に対応する異なるバーコードを有することができる。本アッセイにおいて、標的酵素は基質へ作用し、生成物を生成する。粒子へ結合したままの生成物もあれば、溶液中に放出される他の生成物(切断された部分)もあり、またはその逆もあるであろう。次いで、特異的な生成物を識別する抗体を、アッセイ溶液と接触させる。粒子のコード化が、どの基質が粒子に付着しているのかを示すため、抗体は特定の生成物に対して特異的である必要はなく、このため1つの種類の抗体を使用して、複数の異なる基質から得られる生成物を検出することができる。そのような非特異的抗体は、生成物が酵素反応アッセイ中に生成された場合は、そこに結合し、結合した抗体を有する粒子を生成する。次いで、結合した抗体を有する粒子は、例えば、抗体上のタグまたは粒子の物理的性質を検出することによって、抗体を含まない粒子と区別する。抗体が結合した粒子上に含まれる異なる生成物は、各粒子のコード化に基づいて測定することができる。
【0046】
イムノアッセイ形式の他の例として、特定の基質を対象とする抗体を生成する。酵素反応をクエンチした後、反応溶液を、高結合マイクロタイタープレートに移すと、それによって生成物の一部分が表面へ結合することになる。酵素およびアッセイ溶液成分は、洗浄によって除去する。次いで、特異的一次抗体を、各アッセイウェル中でインキュベートし、続いて、洗浄し、結合していない抗体を除去する。二次抗体は、検出および定量のために任意に使用する。最初の反応の単位時間当たりに形成される生成物が多いほど、測定される酵素の活性が大きくなる。
【0047】
抗体は、例示的には未標識であり、マウス、ラット、ウサギ、ウマ、ロバ、または抗体の産生に使用される他の適切な動物を含む動物において生成される。一次抗体のIgG種に対して特異的である二次抗体は、例示的にはローダミンなどの蛍光マーカーを用いて標
識され、その後、残った基質を検出するために使用する。ホースラディッシュペルオキシダーゼ標識抗体またはアルカリホスファターゼ標識抗体などの他の抗体検出システムが、同様に操作可能であることは、当技術分野において理解されている。
【0048】
いくつかの実施形態において、標的酵素に対するアッセイは試料を最初に得ることによって実施するが、その試料としては例示的には、血清、血漿、全血、尿、唾液、他の生体液または組織溶解物、溶液中の組換えもしくは天然精製酵素、あるいは生体液中または液体培地中の化学的または機能的に修飾された酵素がある。次いで、ろ紙試料の一部分を切り取り、非結合性のアッセイチューブまたはマイクロタイタープレートウェル中へ沈め、そこへアッセイ溶液を添加する。アッセイ溶液には、1つまたは複数の水性緩衝液、基質、標準物質、オレイン酸塩、および任意で1つまたは複数のプロテアーゼ阻害剤が含まれる。次いで、試料混合液は所定の時間である30分~20時間の範囲内にわたって、特定の温度範囲である30~41℃でインキュベートする。インキュベートが完了した時点で、停止溶液を添加することによって、酵素反応を終了させる。溶液を停止するには、例示的には、pH10.4の0.4Mグリシン/NaOHを反応容積の6倍(6X)で添加する。Leonard Rら、J.Biol.Chem.、2006;281:4867~75ページ、Boot,RGら、J.Biol.Chem.、2006;282:1305~12ページ。生成物の形成量は、既知の容積の試料を、高結合のアッセイチューブまたはマイクロタイタープレートへ移し、5分間~2時間にわたってインキュベートすることによって測定する。結合していない材料は、洗浄によって除去する。未変化の基質または生成物の検出は、例示的には結合ペルオキシダーゼ酵素手法を使用して実施する。
【0049】
糖を含む基質を用いたさらなるシナリオにおいて、放出されたグルコース生成物またはガラクトース生成物のレベルを、結合酵素手法によってリアルタイムで計測する。非限定例には、ゴーシェ病の診断における、β-グルコセレブロシダーゼに対して特異的な基質からのグルコースの放出が含まれる。このアッセイ方法において、グルコースをグルコースオキシダーゼと反応させると、グルコラクトンが生成され、かつ過酸化水素が放出される。放出された過酸化水素は、ペルオキシダーゼと反応させ、標準的な蛍光光度計で計測される蛍光分子を生成することによって、検出する。適切なペルオキシダーゼの例は、ホースラディッシュペルオキシダーゼまたは当技術分野で既知の他のペルオキシダーゼである。グルコースオキシダーゼによって放出された過酸化水素は、検出基質分子と相互作用する。ペルオキシダーゼは、この基質の蛍光生成物への変換を触媒する。この基質との使用に適した検出分子としてはAmplex Redがあり、これが酸化されると蛍光生成物であるレゾルフィンが生成される。Amplex Redおよび遊離グルコースを検出するためのキットは、Invitrogen Corp.から入手可能である。赤色蛍光生成物の増加は、励起波長571nm、発光波長585nmに設定し、バンドパスを5nmに設定した、蛍光光度計で検出する。グリコシダーゼ活性の量が多いほど、より迅速に赤色蛍光生成物が生成される。
【0050】
いくつかの実施形態において、異なるリソソーム酵素に対する複数の基質が、固有の構造で製造される。このことは1つの酵素の生成物阻害を抑制するが、1つの基質に対する1つ酵素の触媒活性が、その同じ基質に対する他の酵素の触媒活性よりはるかに大きい場合、このことは特に重要である。このことはさらに、単一のグリコシダーゼ変異体が、6つ以上のリソソーム酵素に対する基質のパネル内でスクリーニングされる条件において重要である。他のリソソーム酵素によって形成される生成物は、その活性が正確に計測されないように、より活性が低い酵素の機能を阻害する可能性がある。したがって、各酵素に対する基質および生成物の特異性は、任意に相違すると理解される。
【0051】
基質および標準化合物を使用した酵素のアッセイについて記述する手法は、単一の反応において複数の酵素を同時にアッセイすることに発展させることができ、複数のアッセイ
の必要性を回避し、医学的障害の診断を確証する助けとなる。特異的な生化学的経路を介した化学的な流れの速度を評価するときに、または生化学的シグナル経路をモニタリングするために、本方法を使用していくつかの酵素を同時に計測することもできる。高感度のマススペクトロメトリー検出が、本明細書において記載される化合物の使用に利用可能であるため、1回のアッセイ当たりの基質試薬の量がマイクログラム未満の量しか必要とされない可能性があり、少ないグラムスケールでの数百種の基質試薬の合成が、実用的かつ経済的になる。
【0052】
種々の実施形態において、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、または6つを超えるリソソーム酵素は、提供される基質の使用によって、活性を同時に計測する。
【0053】
提供された基質を使用するための他の形式の例として、基質は同じフルオロフォアで標識することができるが、互いを識別する重要な質量特性または電荷特性を有する。酵素切断反応後に生成される生成物の量は、逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって検出される。反応は、アルコール、アセトニトリル、または希釈トリフルオロ酢酸の添加によってクエンチする。インキュベートされた混合物の一部分は、メタノール、アセトニトリル、水-メタノール混合液、または水-アセトニトリルなどのニート溶液(neat solution)が添加された新しいアッセイ容器に移す。反応生成物および未反応基質は、粒子径が5μmのC18HPLCカラムで分離し、蛍光検出器または検出器セットによって検出する。生成物の量は、関連生成物の増加量を用いて生成される標準曲線に基づいて計算される。
【0054】
複数の酵素に対する複数の基質は、クロマトグラフ法によって任意で同時に検出されることは、当技術分野において理解されている。十分に異なる質量またはリテンション特性を有する基質を使用する場合、各生成物を例えばHPLCカラムで分離することができ、単一のアッセイで定量することができる。あるいは、各基質は、異なるかまたは同じである励起特性または発光特性を有する異なるフルオロフォアを用いて標識される。検出は、個々の生成物を互いに、かつそれらに対応する標識基質を同時に定量化することができる、蛍光検出器ファミリーによって行うことができる。他の検出方法は同様に適切であり、当技術分野において既知である。
【0055】
基質、酵素生成物、および内部標準を含むすべての試薬は、任意で逆相HPLCによって精製され、そしてオンラインHPLC-MSアッセイまたは適切なフラクションの収集によるオフラインのいずれかのESI-MSによって特徴付けられる。
【0056】
1つの方法には、水性緩衝液を含む溶液中で接触させるステップが含まれる。水性緩衝液は、任意で約4から5の間のpHを有する。pHは任意で、4.5~5である。pHは任意で、4.5~4.7である。pHは任意で、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、または5.0である。所望のpH範囲内の緩衝剤として作用するように操作可能な任意の適切な緩衝剤が、水性緩衝液としての使用に適する。実例としては、コハク酸緩衝液、酢酸塩緩衝液、クエン酸塩緩衝液、PIPES緩衝液、または他の緩衝液を含む、緩衝液があり、これらが任意で使用される。
【0057】
いくつかの実施形態において、基質成分を形成してから、基質を標的酵素と接触させるステップを行う。基質成分は任意で、基質、オレイン酸塩、任意で内部標準、および水性緩衝液を含む。乾燥基質、オレイン酸塩、および任意で内部標準の組み合わせを水性緩衝液中に任意で再懸濁し、保存時間にわたって保存してから、試料または標的酵素と接触させる。保存時間は任意で、1分から8週間である。結果として生じる基質成分は、室温で光から隔離して保管するときに、8週間以上安定であることが示された。
【0058】
基質成分は、標的酵素が基質に作用して酵素生成物を生成することが可能な条件下で、試料と任意で接触させるが、試料は1つまたは複数の標的酵素を含んでよくまたは含まなくてもよい。接触ステップは任意で反応時間にわたる。反応時間は任意で1分~48時間以上である。任意で、反応時間は10~20時間である。少量の酵素を検出するとき、長い反応時間を必要とする可能性があることは理解される。反応時間後、試料は任意でクエンチし、反応を停止させる。停止溶液は任意で、50:50の酢酸エチル/メタノール、または他の適切なクエンチ溶液である。
【0059】
種々の態様が、以下の非限定例によって例示される。本実施例は例示目的のためであり、本方法の任意の実施を限定するものではない。本説明の意図および範囲から逸脱することなく、変形および改変を行うことができることは理解されるであろう。本明細書において例示される試薬は、市販のもの、または手軽な市販の前駆物質からよく知られている方法によって容易に合成されるものであり、こうした試薬をどこで入手できるかは当業者であれば容易に理解される。
【実施例0060】
(実施例1:試料中の酵素活性の検出)
【0061】
人工基質(S:substrate)および重水素化内部標準(IS:internal standards)(
図1)、ならびにオレイン酸ナトリウム(CarboSynth、97%、143-19-1)を、LC-MS級メタノール中に溶解した。この予混合ストック溶液のアリコートを40mLのガラスバイアルへ移し、SAVANT SPEEDVAC Concentrator(Thermo Fisher)で乾燥し、表1に示す量の安定な材料を含むバイアルを生成する。
【表1】
【0062】
60mLの別のボトル中に、pH4.7の85mMコハク酸緩衝液を40mL調製した。この中には、使用するコハク酸緩衝液を生成するための表2に挙げられる添加剤が含まれる。85mMの使用コハク酸緩衝液33mLを、乾燥成分を含むガラスバイアルへ添加することによって、アッセイカクテルの調製を行った。バイアルは水浴中(VWR-Model 75D)で10分間超音波処理し、続いて、すべての材料が完全に溶解するまで20分間にわたって優しく振った。アッセイカクテルのバイアルをアルミホイルで覆い、光を避けて室温で最長で8週間保存した。
【表2】
【0063】
同意した成人から静脈穿刺により血液を採取し、ろ紙上にブロットし、乾燥血液スポットを形成した。CDC対照用の乾燥血液スポットは、実質的にJesusら、Clinical Chemistry、55:1(2009)158~164ページに記載の通りに作成する。簡潔には、同意した成人から静脈穿刺により採取されたさまざまな割合の白血球減少血液を、未処理の臍帯血とさまざまなレベルで組み合わせ、標的酵素の量を調節する。このような試料は、任意で踵穿刺から採取された、未変化の成人血液または新生児血液から得てもよい。インキュベート用プレートに3mm径のディスクの乾燥血液スポット(DBS:dried blood spot)試料を入れ、所望のDBS標本試料を、所望のプレートマップに従って、DBSパンチャー(PerkinElmer 1296-071)を使用して、0.5mLの96ウェルポリプロピレンNUNCプレート(Thermo、267245)へ入れた。各ウェルへ、アッセイカクテル30μLを添加し、プレートを粘着性アルミホイル(Starseal、E2796-9792)で封をした。プレートは、TRINEST incubator shaker(PerkinElmer、1296-0050)を使用して、37℃、400RPMで18時間にわたって振とうしながらインキュベートした。18時間後、プレートは、50:50の酢酸エチル/メタノール(LC-MS級、または等価のもの)混合液のアリコート100μLを各ウェルへ添加することによってクエンチし、次いでピペットを使用して10回混合した。インキュベートされた溶液を、0.5mLのポリプロピレンプレートから1mLのディープウェルプレート(Thermo Nunc、260252)へ移し、DBSを残すと同時に、すべての溶媒混合物をディープウェルプレートへ確実に移した。
【0064】
最初に酢酸エチル(LC-MS級、または等価のもの)400μL、続いて、水(1型またはそれ以上)200μLをインキュベートされた溶液へ添加することによって、試料洗浄を行った。2つの層を20回吸引することによって、エマルジョンが観察されるまで混合した。1mLのディープウェルプレートを粘着性アルミホイルで覆い、690×gで5分間にわたり遠心分離(Rotanta 460 R)を行った。水相上に分離した有機層のアリコート75μLを0.5mLのNUNCプレート(Thermo、267245)へ移し、圧縮空気を使用して5~10分間乾燥した。0.1%のギ酸を含む84%のアセトニトリル(JT Baker、53673)および0.1%のギ酸を含む16%の水(JT Baker、52116)からなる流動溶媒150μLを添加することによって、試料を再構成した。プレートは、非粘着性アルミホイルで封をし、次いで400rpmで10分間にわたり、室温で振とうした。表3に説明される遷移、ならびに表4に示されるグローバルチューンパラメーター(global tune parameters)および入り口設定を用いて、試料をFIA-MS/MS(Waters Acquity TQD)によって分析した。
【表3】
【表4】
【0065】
生成物および表部標準のピーク面積を、NeoLynxのプログラムを使用して計算した。酵素活性(A
e、μmol/L/h)を、P/IS比を用いて以下の式(Eq.1)で計算した。式中、強度比であるP/ISはMS/MSから得られ、[IS]は使用されるISの濃度であって、V
ISは使用されるISの容積であって、tはインキュベート時間であって、かつV
DBSはアッセイに使用されるDBSから得られた血液の容積である。3mmのDBSパンチの場合、V
DBS=3μLである。
【数1】
【0066】
オレイン酸ナトリウムの添加の有無による違いのみである2つのアッセイ間の比較により、表5および
図1~4に示されるようにオレイン酸ナトリウムが存在する場合、セラミド(ABG、ASM、およびGALC)の酵素活性が改善されることが示された。
【表5】
【0067】
疾患管理センター(CDC:Center of Disease Control)から得た対照DBSを使用
するが、高濃度対照は、健常と推定される新生児から得られたプール臍帯血試料を使用して作られており、中濃度対照は、標的酵素活性が高濃度対照の50%であるように臍帯血を赤血球濃縮物で希釈することによって作られており、かつ低濃度対照は、高濃度対照の5%の標的酵素活性が得られるようにさらに希釈した。オレイン酸ナトリウムを添加すると、低濃度対照DBSと中濃度対照DBSの間のセラミドの差が約25%まで広げられる。この改善により、6-プレックスアッセイにおいて、LSD陽性(低活性)試料が健常新生児から区別される。
【0068】
本明細書において述べた特許文献または刊行物は、説明が属する技術分野の当業者のレベルを示す。これらの特許文献および刊行物は、個々の刊行物が参照により完全に組み込
まれることを具体的にかつ個々に示される場合と同程度に、参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0069】
本方法が目的を実施し、かつ述べられた結果および利点、ならびに本明細書における固有の結果および利点を得るように、よく適合することは当業者であれば、容易に理解するであろう。本実例は、本明細書において記述される方法、手順、治療、分子、および特定の化合物とともに、特定の実施形態の目下の典型であり、例示であり、かつ本方法の範囲を限定することを意図するものではない。他の実施形態が存在し、特許請求の範囲の範囲によって定義される本開示の意図に含まれることは明らかになるであろう。