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特開2024-63049ニトロソアミンを低減させた合成ポリイソプレンラテックスコンドーム
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  • 特開-ニトロソアミンを低減させた合成ポリイソプレンラテックスコンドーム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063049
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】ニトロソアミンを低減させた合成ポリイソプレンラテックスコンドーム
(51)【国際特許分類】
   A61F 6/04 20060101AFI20240501BHJP
   C08L 7/02 20060101ALI20240501BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240501BHJP
   C08K 5/39 20060101ALI20240501BHJP
   C08K 3/06 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
A61F6/04
C08L7/02
C08K3/22
C08K5/39
C08K3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024023051
(22)【出願日】2024-02-19
(62)【分割の表示】P 2021173439の分割
【原出願日】2021-10-22
(31)【優先権主張番号】17/077,453
(32)【優先日】2020-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】521463322
【氏名又は名称】タイ ニッポン ラバー インダストリー パブリック カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パトムポン チュパヤク
(72)【発明者】
【氏名】セラフォル ピアチャン
(72)【発明者】
【氏名】スパラット ピアチャン
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン ヨウイチ ケンピムック
(72)【発明者】
【氏名】パニャワット チュパヤク
(72)【発明者】
【氏名】ワラニュ ダララタナロイ
(72)【発明者】
【氏名】デイブ ナラシムハン
(72)【発明者】
【氏名】スダルシャン ナラシムハン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】伸縮性の高いニトロソアミンを低減させた合成ポリイソプレンラテックスコンドームの製造方法を提供する。
【解決手段】前加硫組成物は不溶性の無定形硫黄を含み、20℃でジチオカルバメート亜鉛触媒で抽出され硫黄鎖を形成し、合成ポリイソプレン粒子の内部へ輸送され、活性部位への硫黄の物理的付着を形成する。前加硫の度合いは、膨潤指数試験を用い、キャスト及び乾燥後のラテックス膜をトルエン中で20分間拡張させることにより確認される。ラテックスエマルションは90℃~120℃で3~5分間加硫される。促進剤を含む後加硫組成物は合成ポリイソプレン粒子間を架橋し、粒子間及び粒子内領域の両者で均一に硬化し、高い架橋密度、二重結合の均一な分布、及び、元の粒子の境界における亜鉛の分離をもたらす。コンドームは高い引張り強さ、引張り係数、及び伸びを示し、優れた引裂き強度を有し、ニトロソアミンの放出は10ppb未満である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高い伸縮性と引き裂き抵抗性とを有する合成ポリイソプレンラテックスコンドーム製品であって、
a. 前記コンドームが、前記コンドームを装着した利用者に対して、または製造過程において、ニトロソアミンを少量しかまたは全く放出せず、作業者の発がん物質に対する曝露が防止されていること;
b. 前記製造過程において、合成ポリイソプレンラテックスが、ジエチルジチオカルバメート亜鉛(ZDEC)、ジベンジルジチオカルバメート亜鉛(ZBEC)、およびジブチルジチオカルバメート亜鉛(ZDBC)からなる促進剤の組み合わせと混合し、15%Hostapur陰イオン界面活性剤を含む界面活性剤を加え、20℃~40℃の温度で12時間混合されていること;
c. 前記ラテックス中の合成ポリイソプレン粒子が無定形硫黄の添加によって前加硫され、前記無定形硫黄はZDBC触媒によって一度に1個ずつの硫黄原子が触媒的に切断されて硫黄の鎖が形成されたものであり、前記硫黄鎖はHostapur SASおよび他の界面活性剤を用いて合成ポリイソプレンラテックス粒子の内部空間に輸送されていること;
d. ラテックス浴における合成ポリイソプレン粒子の内部への硫黄鎖の前記組み込みは20℃~40℃の範囲の温度で1分間から12時間の時間で生じ、輸送された硫黄の鎖から合成ポリイソプレン分子内の活性部位への硫黄の物理的な付着を形成して前記合成ラテックス粒子の前加硫が形成されていること;
e. 前記合成ラテックスの内部における全ての活性部位が枯渇したとき、残ったZDBCおよび他の促進剤によってより多くの硫黄が抽出され、Hostapur SASおよび他の界面活性剤の使用により前記合成ポリイソプレン粒子の外部へと輸送され、それにより全ての合成ポリイソプレン粒子が前加硫されていること;
f. 前記合成ポリイソプレンラテックスの前加硫状態が、ラテックスの膜をキャストして乾燥し、既知の直径のディスクに切断し、それをトルエン中に膨潤指数試験プロトコルあたり20分間浸漬し、前記ディスクの直径の増加を調べ、この増加が切断直径の130%だった場合に前記ラテックスはコンドームの浸漬の準備ができているものと決定されること;および
g. 20~30℃に制御された前加硫合成ポリイソプレンラテックス中にいくつかのコンドーム型を浸漬し、90~120℃で5~20分間硬化して硬化ラテックスコンドームが連続的な製造ラインで形成されること;
を含み、
前記合成ポリイソプレンラテックスコンドームが高い強度を有し、かつ伸縮性が高く、コンドームの利用者に対し、または製造現場において、ニトロソアミンを放出しない;
合成ポリイソプレンラテックスコンドーム製品。
【請求項2】
前記合成ポリイソプレンラテックスコンドームが、49mm~60mmの幅と、最小で160mmの長さと、0.045mm~0.090mmの厚さとを有する、請求項1に記載の合成ポリイソプレンラテックス製品。
【請求項3】
前記合成ポリイソプレンラテックスコンドームが、22リットルを超える破裂容量(burst volume)、および1kPaを超える破裂圧(burst pressure)を有する、請求項1に記載の合成ポリイソプレンラテックス製品。
【請求項4】
前記コンドームが、酸化亜鉛活性化剤、ZDEC促進剤、ZBEC促進剤、およびZDBC促進剤を含む促進剤の組み合わせを含んだ低温前加硫ラテックス中にラテックスコンドームを浸漬し、ニトロソアミンが産生されない90℃と120℃の間の低温のみで加硫することによって製造された、請求項1に記載の合成ポリイソプレンラテックス製品。
【請求項5】
合成コンドームの前加硫のための硫黄が無定形硫黄の形態で提供され、これが20℃~40℃の処理温度で合成ラテックス中に不溶であり、4原子ジブチルジチオカルバメート亜鉛(ZDBC)触媒環中に硫黄の個々の原子として抽出され、輸送されて硫黄鎖を形成し、界面活性剤によりポリイソプレン粒子の内部へと輸送され、それにより、前記合成ポリイソプレン分子内の活性部位に硫黄が物理的に付着し、前記ポリイソプレン粒子が前加硫される、合成ポリイソプレンコンドームを製造するための方法。
【請求項6】
前記前加硫組成物促進剤が、ジエチルジチオカルバメート亜鉛(ZDEC)促進剤、ジベンジルジチオカルバメート亜鉛(ZBEC)促進剤、およびZDBC促進剤、ならびにそれらの組み合わせ、からなる群より選択される、請求項5に記載の合成ポリイソプレンコンドームを製造するための方法。
【請求項7】
前記界面活性剤が、Hostapur SAS陰イオン界面活性剤、カプリル酸カリウム、ポリオキシエチレンセチル/ステアリルエーテル、アルキルアリールスルホネート、アルキルスルホネート、オレフィンスルホネート、アルコールスルホネート、および/またはそれらの組み合わせを含む、請求項5に記載の合成ポリイソプレンコンドームを製造するための方法。
【請求項8】
合成プローブカバーの前加硫のための硫黄が無定形硫黄の形態で提供され、これが20℃~40℃の処理温度で合成ラテックス中に不溶であり、4原子ジブチルジチオカルバメート亜鉛(ZDBC)触媒環中に硫黄の個々の原子として抽出され、輸送されて硫黄鎖を形成し、界面活性剤によりポリイソプレン粒子の内部へと輸送され、それにより、前記合成ポリイソプレン分子内の活性部位に硫黄が物理的に付着し、前記ポリイソプレン粒子が前加硫される、合成ポリイソプレンプローブカバーを製造するための方法。
【請求項9】
前記界面活性剤が、Hostapur SAS陰イオン界面活性剤、カプリル酸カリウム、ポリオキシエチレンセチル/ステアリルエーテル、アルキルアリールスルホネート、アルキルスルホネート、オレフィンスルホネート、アルコールスルホネート、またはそれらの組み合わせを含む、請求項8に記載の合成ポリイソプレンプローブカバーを製造するための方法。
【請求項10】
伸縮性が高く、装着が容易で、強度の高い合成ポリイソプレンコンドームのための製造方法であって、前記合成ポリイソプレンコンドームは、前記ラテックス組成物に添加された促進剤の組み合わせによって前加硫された合成ポリイソプレンラテックスから製造され、前記ポリイソプレンラテックスの前加硫は20℃~40℃で12時間まで温度を上昇させることにより行われる、製造方法。
【請求項11】
活性酸化亜鉛活性化剤、ジエチルジチオカルバメート亜鉛(ZDEC)促進剤、ジベンジルジチオカルバメート亜鉛(ZBEC)促進剤、およびZDBC促進剤を含む促進剤の組み合わせを有する、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
各温度と時間において特定の促進剤化合物が活性化されて無定形硫黄から硫黄原子が抽出され、界面活性剤によって輸送され、硫黄が前記ポリイソプレンの特定の位置を前加硫する、請求項10に記載の製造方法。
【請求項13】
ZDBCによって20℃で無定形硫黄から硫黄原子が抽出され、S8結合が切断されて硫黄の直鎖が産生され、それが界面活性剤によってポリイソプレン鎖へと輸送され、前記ラテックス粒子の内部で前加硫を生成する、請求項10に記載の製造方法。
【請求項14】
20℃~40℃の温度で活性化を行い、他の促進剤を前記ポリイソプレンラテックスに加え、抽出された硫黄原子を前記ポリイソプレン粒子の外部表面に付着させて前加硫を生成する、請求項10に記載の製造方法。
【請求項15】
合成ポリイソプレンラテックスを必要な値まで前加硫し、前記値はキャストされた20mmのディスクをトルエン膨潤指数試験あたり20分間トルエン中に浸漬することで測定し、130%の拡張が測定された場合に前記ラテックスがコンドーム浸漬のための準備ができているものとする、請求項10に記載の製造方法。
【請求項16】
合成ポリイソプレンラテックス粒子がすでに前加硫されており、ラテックス中の浸漬コンドーム型が90℃~120℃で加硫される、請求項10に記載の製造方法。
【請求項17】
低いラテックス前加硫温度と加硫温度とを有し、ニトロソアミンの産生が10ng/gmもしくは10ppb未満か、または極めて低く、癌のリスクが最小限であるかまたは排除される、請求項10に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮性の高い、ニトロソアミンを低減させた合成ポリイソプレンラテックスコンドームの製造と方法に関する。
【0002】
技術分野
本発明は、コンドームの型(former)を、前加硫合成ポリイソプレンラテックスエマルション中に低温で浸漬することによって、発がん性のあるニトロソアミンの形成を低減または防止することを含む、浸漬成形合成ポリイソプレンコンドームの製造に関する。https://www.who.int/ipcs/publications/cicad/en/cicad38.pdfを参照。それにより、ラテックスコンドーム製造環境はニトロソアミンが存在せず、典型的にはSen et al. 1984(Sen NP, Seaman S, Clarkson S, Garrod F, Lalonde P (1984) Volatile N-nitrosamines in baby bottle rubber nipples and pacifiers. Analysis, occurrence and migration. IARC scientific npublications, 57:51-57)
のゴム製乳首の8.6mg/kgを下回り、利用者の肌に接触する部分へのニトロソアミンによる汚染は最小限または検出限界以下である。
【背景技術】
【0003】
浸漬成形法においては、天然ポリイソプレンを用いた研究の大半で、浸漬法を使用したポリイソプレンコンドームや手袋の開発に重点が置かれてきた。この種類の方法においては、手袋の形を有する型がまず、ラテックス配合物を不安定化させることが知られる凝固剤溶液に浸漬される。次いで、この凝固剤層を乾燥させ、その後、型を調合済ラテックス配合物の槽に浸漬する。凝固した湿潤なラテックスゲルが、典型的には水中で濾過され、調合済ラテックス配合物中に残留する界面活性剤が除かれる。その後、比較的高温における乾燥を経て、ゴム膜の架橋が完成する。コンドームの型は凝固剤なしに浸漬される。
【0004】
ゴム製品の製造における加硫または硫黄架橋剤の使用は周知である。硫黄架橋剤の有効性は、ジチオカルバメート、チアゾール類、グアニジン類、チオ尿素類、アミン類、ジスルフィド類、チウラム類、キサンテート類、およびスルホンアミド類などの従来の促進剤によって改善される。ポリイソプレンゴムの製造における加硫剤の使用は、D’Sidocky et al.による米国特許第5,744,552号、およびRauchfuss et al.による米国特許第6,114,469号に開示されている。
【0005】
複数の促進剤をポリイソプレンラテックスの加硫に用いる試みが行われてきた。
【0006】
Stevensonに対する米国特許第4,695,609号には、100重量部のゴムあたり0.4重量部未満のニトロソ化可能材料を含んだ、キサントゲンポリスルフィドおよびキサンテート化合物の、加硫可能なゴム組成物が開示されている。このゴム組成物は、ジヒドロカルビルキサントゲンポリスルフィドと、金属ヒドロカルビルキサンテートおよびジヒドロカルビルキサンテートから選択されるキサンテートとを含む。水性ラテックスエマルション9Eは、硫黄、酸化亜鉛、およびジエチルジチオカルバメート亜鉛を含み、4日間しか安定ではなく、破断点引張強さが低いため、製造過程に適していない。
【0007】
Stevensonに対する米国特許第5,254,635号には、ジベンジルチウラムスルフィドを含んだゴム組成物が開示されている。テトラベンジルチウラムジスルフィ
ド等のジベンジルチウラムスルフィド類は、ジヒドロカルビルキサントゲンポリスルフィドおよび/またはキサンテートとの組み合わせにより、有害なニトロソ化可能材料を生成することなく天然ゴムを120~180℃で架橋させる組成物が得られる。しかし、この天然ラテックス組成物は硫黄を含まず、立体規則性の低い合成シス-1,4-ポリイソプレンの粒子内領域が架橋しない。従って、これらの架橋剤を天然ポリイソプレンラテックスに使用した場合、特性の劣る、不均一な製品が得られることになる。
【0008】
Dzikowiczに対する米国特許第6,653,380号および7,048,977号には、引き裂き抵抗性が改善されたラテックス膜化合物が開示されている。この方法は、抗酸化剤とともに抗酸化協力剤(antioxidant synergist)をラテックス化合物に添加することによって、ラテックス製品の引き裂き抵抗性、引張り強さ、および耐劣化特性を強化する。このラテックス化合物は、ポリマーと、安定化系と、膜表面調整剤(film surface conditioner)と、活性化剤、架橋剤、および促進剤を含んだ硬化系とを含む。抗酸化協力剤としては、2-メルカプトベンズイミダゾール(MBI)、2-メルカプトトルイミダゾール(2-mercaptotoluimidazole)(MTI)、2-メルカプトベンズイミダゾール亜鉛(ZMBI)、および2-メルカプトトルイミダゾール亜鉛(zinc 2-mercaptotoluimidazole)(ZMTI)が挙げられる。成形されるラテックス製品は手袋であってもよいが、糸、バルーン、および他のラテックス関連製品も含まれる。抗酸化剤を添加して使用するラテックスはポリイソプレンラテックスを前加硫しない。
【0009】
Wang et al.に対する米国特許第6,828,387号には、ポリイソプレン製品およびその製造方法が開示されている。この方法で製造されるポリイソプレン製品は、天然ゴムラテックスを使用した、溶剤を用いる方法の製品と類似した引張り強さ特性を示す。この方法では、合成ラテックスに、硫黄と、酸化亜鉛と、ジチオカルバメート、チアゾール、およびグアニジン化合物(3者全てが存在する必要がある)を含んだ促進剤組成物と、を予備硬化段階で組み合わせる。好ましい一実施形態において、前記促進剤組成物は、ジエチルジチオカルバメート亜鉛(ZDEC)、2ーメルカプトベンゾチアゾール亜鉛(ZMBT)、およびジフェニルグアニジン(DPG)を、主にカゼインナトリウムなどの乳タンパク塩である安定化剤とともに、含む。ポリイソプレンラテックス(典型的には60%固形物)と前記安定化剤(カゼインナトリウム等)とを環境温度(約20~25℃)で混合する。一定時間混合した後、混合物を水で希釈して40%固形物とする。その後、Wingstay Lを加え、混合物を約15分間撹拌する。この時点でpHを約8.5~9.0の範囲に調整できる。酸化亜鉛を加えた後、硫黄および促進剤化合物を加える。この方法で作成される弾性ポリイソプレン産物は、凝固剤で被覆された型を浸漬した外科手術用手袋である。前記水性ラテックスエマルションの安定性は最小限でしかなく、8日間の最大安定性である。得られる前記外科手術用手袋製品の引張り強さは、およそ3000psi、すなわち20.6MPaしかない。前記促進剤が前記ラテックスエマルションに添加されるが、8日間まで低温で維持される。この水性ラテックス組成物の安定性はStevenson(米国特許第4,695,609号)のものより良いが、製造過程に対しては依然適さない。手袋の型は硝酸カルシウムを含む凝固剤溶液中に浸漬されるが、これは、凝固剤を用いずに行うコンドームの浸漬には適していない。
【0010】
Dzikowiczに対する米国特許第7,041,746号には、合成ポリイソプレンラテックスのための促進剤系が開示されている。この促進剤系はジチオカルバメートおよびチオ尿素を含み、引張り強さ約3000psi~約5000psiの合成ポリイソプレン膜を低い硬化温度で生成することができる。これらの促進剤については、ポリイソプレン粒子を前加硫することは示唆されておらず、製造されるラテックス製品は300%伸長において1.5MPaという極めて低い係数を有する。
【0011】
米国特許出願公開第2002/0173563号には、ジエチルジチオカルバメート亜鉛(「ZDEC」)、2ーメルカプトベンゾチアゾール亜鉛(「ZMBT」)、およびジフェニルグアニジン(「DPG」)を含有する促進剤系の使用を含む、ラテックスから浸漬製品を製造するための方法が記載されている。ZDECをZMBTと併用したものは、天然ゴムラテックスのための一般的な促進剤系である。3000psi(20MPa)超の引張り強さを有する硬化膜を達成するには、この促進剤系にDPGを加える必要がある。
【0012】
Attrill et al.に対する英国特許出願公開第2,436,566号には、ポリイソプレンラテックスの前加硫を最小限にすることが開示されている。ポリイソプレンラテックスを製造するための本方法は、配合成分を用いて合成ポリイソプレンラテックスを配合し、前加硫を最小限にするために低温でラテックスを熟成させることを含む。コンドームの浸漬も典型的には15℃~20℃未満の低温で行われる。前加硫が起こっていないことを確認するため、製造されたリングの強度が、前加硫物緩和係数(prevulcanisate relaxed modulus)として、前加硫が起こっていない指標となる0.1MPa未満の値を有することを確認する。前記ラテックスエマルションはジチオカルバメート等の促進剤を含んでいてよい。前記‘566特許出願の教示においては、ラテックス製品の浸漬に先立つ前加硫は排除されている。
【0013】
ゴムラテックスが高温で加硫され、亜硝酸塩が二級アミンと反応することによってニトロソアミン類が生成する。
【0014】
Lou et al.に対する米国特許第6,495,065号には、フリーラジカルエマルション重合の停止のためのニトロソアミン阻害組成物が開示されている。フリーラジカルエマルション重合を停止するこの方法は、ニトロソアミン類の生成を阻害する。前記組成物は、ニトロソアミン阻害剤と従来のアルキルヒドロキシアミン重合停止剤との組み合わせを含む。このようなニトロソアミン阻害剤は、一級アミン類、アミン含有ポリマー類、ピロール類、ヒドロキノン類、一部のフェノール類、アスコルビン酸、および他の周知のニトロソ化阻害剤をベースとしたものであり、これらを個々に、または混合物として使用してよい。前記組成物は、ゴムラテックス製造およびゴム製品作成のためのエマルション法への適用対象となる。
【0015】
Gibbs et al.に対する国際公開第97/32927号においては、ゴムにおけるニトロソアミン生成の阻害が開示されている。加硫可能なゴムにおいてニトロソアミン生成を低減または阻害するためのこの方法は、アルカリ土類金属カルボキシレートまたはフェネートの組み込みを含む。これら化合物は130℃未満の融点を有する。
【0016】
IARC Sci Publ 1982;(41):231-43の文献は、ニトロソアミンおよびゴムについて論じている。ゴム産業におけるN-ニトロソアミン類への職業曝露は、Fajen et al.(1979)により最初に報告された。この産業におけるニトロソアミン類の起源と生成を研究するため、化学物質および工業製品、ならびに各種作業領域における空気が分析された(Spiegelhalder et al.,1980)。ゴム配合物に使用される全ての化学物質は、それらが、テトラメチルチウラム、ジエチルジチオカルバメート亜鉛、またはN-オキシジエチレンベンゾチアゾリルスルフェンアミド等の二級アミンの誘導体である場合、ニトロソアミン類を含んでいる。これらのジアルキルアミン誘導体を含む全てのゴム製品では、対応するニトロソアミン類がかなりの量見いだされた。結果として、ゴム製品の製造または保管場所において、空中ニトロソアミン類が様々な濃度で検出された。見いだされたニトロソアミン類は配合化学物質と対応するものである。ゴム化学物質における本来のニトロソアミン濃度は、ゴム製品および空中で見いだされた量を説明できるほど十分な高さではない。従って、さらなるニ
トロソ化が起こったはずである。原因となるニトロソ化剤が記載されている。予備的な結果が示すところによると、ほとんどの場合、ニトロソ化剤の排除または別のゴム化学物質の使用によって、ゴム製品および作業領域でのニトロソアミン濃度を著しく減少させることができる。
【0017】
従って、凝塊形成や凝集が起こらず、使用に適したエマルション寿命を有した安定なポリイソプレンラテックスエマルション組成物、に型を浸漬して製造される合成ポリイソプレンコンドームなどの、伸張性の高い伸縮性ラテックス製品に対する需要が存在する。これらコンドームの製造では、製造環境中へのニトロソアミンの放出がなく、コンドーム中のニトロソアミン類濃度が最小限であり、そのため、利用者に対する発がん性化合物の放出を防止できる。前記組成物は、最終製品において、粒子内および粒子間架橋を達成する必要がある。このような組成物によって、凝固剤使用の有無を問わず製品の浸漬成形が可能となり、より薄く連続的で欠陥の無い層を有する、高い強度と改善された伸縮性を有した製品が得られる。このような製品は長期にわたり劣化せず、その物理的な完全性を保つ。本発明は、このような組成物と、このような組成物を調製し、コンドームおよび手袋などの合成ポリイソプレン製品の浸漬成形に使用するための方法と、それにより製造された製品と、を提供することを目的とする。これらおよび他の目的と利点、ならびにさらなる発明の特徴を、本明細書において提供される詳細な説明によって明らかにする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、伸縮性の高い、ニトロソアミンを低減させた合成ポリイソプレンラテックスコンドームの製造と方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
合成ポリイソプレンから高品質コンドームを製造するための前記方法は、異なる温度で効果的に活性化する複数の促進剤を使用し、ポリイソプレン分子と、提供される硫黄との間に結合を生成することを含む。提供される全ての硫黄は前記ポリイソプレン分子と物理的結合を生成することで枯渇し、硫黄とポリイソプレンとの間の化学結合を形成するそれぞれの温度において結合の過硬化(over curing)を引き起こさない。
【0020】
利用可能な硫黄の量は制限され、混合温度が20℃~40℃で上昇するにつれて、ラテックス浴中に提供される異なる促進剤が硫黄を活性化し、全ての結合部位が枯渇するまでポリイソプレンラテックスが前加硫される。この前加硫によって、硫黄原子がポリイソプレンポリマー分子の適した部位に物理的に配置され、加硫サイクル中に化学結合を形成しながら完全に反応する。
【0021】
前加硫の温度が低く、加硫が90℃~120℃の温度範囲で行われるため、ニトロソアミン類は生成されない。製造されるコンドームの原料組成物は、ニトロソアミン類に対する試験が行われる。
【0022】
前記ラテックスコンドームは、20℃から40℃にラテックスの温度が上昇するにつれて個々に活性化される複数の促進剤によって前加硫された合成ポリイソプレンラテックスの、制御された前加硫粒子を有する。前記の前加硫水性ラテックスエマルションを用いて薄いラテックスコンドームを浸漬成形し、90℃~120℃という低い温度で短時間加硫する。前記硬化させたラテックスコンドームは伸縮性が高い合成ゴム体であり、約900%の伸びを示し、極めて引き裂き抵抗性が高い。
【0023】
高温で加硫したラテックス製品の製造は、発がん性のあるニトロソアミンの生成をもたらす。ニトロソアミンはラテックス製造現場に一般的に存在しており、作業者にとって潜
在的に有害である。また、このように製造されたラテックス製品は、発がん性のあるニトロソアミンを含有しており、これが利用者の肌の接触部位に移行する可能性がある。従って、作業環境と、このように製造されるラテックス製品と、の両者においてニトロソアミンの生成を最小限にする、合成ポリイソプレン製品の製造方法に対する需要が存在する。
【0024】
このように製造された製品は、この前加硫手順を印象づけるいくつかの際立った特徴を有する。ラテックスの合成ポリイソプレン薄膜は改善された架橋密度で硬化されるため、架橋間分子量は低い値を示す。ジチオカルバメートの亜鉛錯体は硫黄のS環を触媒的に切断するため、触媒としての再利用が可能であり、さらに、分子サイズが大きいため容易には合成ポリイソプレンに浸透しない。ジブチルジチオカルバメート亜鉛の分子サイズは、ジメチルジチオカルバメート亜鉛よりも大きな分子サイズを有するジエチルジチオカルバメート亜鉛より大きい。ジベンジルジチオカルバメート亜鉛およびジフェニルジチオカルバメート亜鉛はさらに大きな分子であり、天然ポリイソプレンラテックス粒子への浸透に抵抗性があると考えられる。従って、ラテックスエマルションにおける合成ラテックス粒子の前加硫のための好ましいジチオカルバメートの亜鉛錯体は、ジブチルジチオカルバメート亜鉛(ZDBC)またはジエチルジチオカルバメート亜鉛(ZDEC)である。もとの合成ポリイソプレン粒子それぞれをとりまく亜鉛含有化合物の蓄積が存在し、この微細構造上の特徴は、電子顕微鏡を用いたマイクロプローブ元素分析によって容易に観察することができる。生成した合成ポリイソプレン膜は典型的には許容範囲の引張り強さ、高い引張り係数、および破断伸度を有し、破断面は粒子間および粒子内領域の両者を通過していることから、生成した天然ラテックス膜内部の粒子内領域および粒子間領域が実質的に等しい強度を有していることがわかる。
【0025】
前記合成ポリイソプレンコンドームを製造するための方法は、前加硫された組成物である合成ラテックスエマルションの使用を含む。好ましくは、前記合成ポリイソプレン粒子は、cis-1,4-ポリイソプレンであり、約0.2~2マイクロメートルの範囲の径を有し、前記ラテックスエマルションの水性媒体中に維持される。前記の前加硫された組成物は無定形硫黄源からZDBCの触媒により抽出された硫黄を含む硫黄を有し、これは典型的にはS硫黄環構造を破壊するジチオカルバメート亜鉛促進剤によって切断されたS環構造のものである。Hostapur SASなどの界面活性剤の組み合わせを用いて、切断された硫黄分子をラテックスへ送達する。前記合成ラテックスエマルション中の合成ラテックス粒子の前加硫は、混合過程において12時間、それに加えて熟成槽において12~24時間にわたって起こるが、一般に20℃~40℃の範囲であるラテックスエマルションの温度に依存する。合成ラテックス粒子の前加硫の度合いについては、膨潤指数試験を用い、トルエン上の乾燥膜の直径の20分間の変化を測定する。
【0026】
100重量部の乾燥ゴム(phr)に対する、典型的な合成ポリイソプレンラテックスエマルションの組成を提供する。硫黄架橋剤は0.6~1.8wt%の範囲であり;ZDECおよび/またはZDBC促進剤は0.3~1.0wt%の範囲であり;SDBC促進剤は0.05~0.5wt%の範囲であり;DXP促進剤は0.2~0.8wt%の範囲である。反応性酸化亜鉛活性化剤は0~0.5wt%の範囲であり;Hostapur SASは0.1~0.5wt%の範囲であり;SDBS界面活性剤は0.1~0.35wt%の範囲であり;ポリオキシエチレンセチル/ステアリルエーテル界面活性剤は0.1~0.5wt%の範囲であってよく;Winsgtay Lまたはp-クレゾールとジシクロペンタジエンのブチル化反応産物の抗酸化防腐剤は0.3~1wt%の範囲であり;水酸化アンモニウムは0~0.36wt%の範囲である。前述の通り、前記合成ポリイソプレンラテックス組成物の前加硫組成物は、ZDECおよび/またはZDBC促進剤によって無定形硫黄から抽出された硫黄、Hostapur SASおよび/またはカプリル酸カリウム界面活性剤、およびSDBS界面活性剤、およびポリオキシエチレンセチル/ステアリルエーテル界面活性剤を含む。前記前加硫組成物は、前記水性合成ポリイソプレ
ンエマルション中の合成ポリイソプレンラテックス粒子に対する硫黄のアベイラビリティを提供し、次いで、加硫硬化サイクル中に合成ポリイソプレンの粒子全体を架橋する。前記後加硫組成物は、合成ポリイソプレンの粒子間の領域を架橋する能力を提供し、それによって、高品質の、実質的に均一に硬化した、合成ポリイソプレン産物を保証する。
【0027】
本方法は合成ポリイソプレンコンドームの製造に有効であるが、プローブカバーの製造に用いることもできる。プローブはコンドームに類似するが、コンドームにおける先端の貯留部を有しない。ニトロソアミンが含まれないことから、本プローブは発がん性のある成分を利用者に何ら移行させない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、合成ポリイソプレンからコンドームを製造するための本方法において使用される工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
コンドームは合成ポリイソプレンゴムから製造され、異なる連続的に上昇する温度で硬化する促進剤の組み合わせを有する。そのため、各部位で硫黄加硫剤が枯渇することにより、促進剤硬化ポリイソプレンを何ら過加硫することなく、ポリイソプレンコンドームの完全な硬化が保証される。
【0030】
加硫温度は低いため、ニトロソアミン類の生成は限定的である。ニトロソアミン類は亜硝酸塩が二級アミンと反応することで生成し、高度に温度依存性である。ニトロソアミン類のうち、N-ニトロソジエチルアミン(NDEA)は最も強力な発がん物質である。
【0031】
合成ポリイソプレンコンドームの製造方法は次の通りである。まず、15% Hostapur SAS陰イオン界面活性剤を、50℃で脱イオン水に混合することで調製する。次いで、10%オレイン酸カリウム溶液を調製する。
【0032】
この方法に使用する化学物質、およびそれらの機能の詳細は次の通りである。
硫黄:加硫剤
活性酸化亜鉛:活性化剤
p-クレゾールとジシクロペンタジエンのブチル化反応産物:抗酸化剤
ジエチルジチオカルバメート亜鉛(ZDEC):促進剤
ジベンジルジチオカルバメート亜鉛(ZBEC):促進剤
ジブチルジチオカルバメート亜鉛(ZDBC):促進剤
水酸化カリウム:安定化剤
これら化学物質を添加する手順の詳細は次の通りである。
600kgのポリイソプレンラテックスを混合タンクに移し、15分間撹拌する。
7.8kgのコロイド硫黄を15分間撹拌する。
6.48kgの15%Hostapur SAS界面活性剤溶液を加える。
3.78kgの10%オレイン酸カリウム溶液を加える。
7.68kgの15%Eumulgin溶液を加える。
0.36kgの酸化亜鉛活性化剤を15分間かけて加える。
3.89kgの抗酸化剤を15分間かけて加える。
3.89kgのZDECを15分間かけて加える。
0.79kgのZBECを15分間かけて加える。
1.2kgの15%Hostapur SAS溶液を加える。
0.72kgのZDBCを15分間かけて加える。
28.8kgの1.23%水酸化カリウム水溶液+0.38kgのKOHを加える。
12時間撹拌する。
【0033】
この時間中、ZDBCの触媒活性でコロイド硫黄との反応が起こり、S8環が破壊され、硫黄の直鎖が生成する。これが、Hostapur SAS界面活性剤により、合成ポリイソプレンの絡まり合った鎖の内部へと運ばれる。前記硫黄鎖の硫黄原子が、ポリイソプレン粒子内の合成ポリイソプレンの鎖に付着し、前加硫を生ずる。
【0034】
全ての促進剤が混合され、合成ポリイソプレンに加えられるため、それらは全て処理温度条件に基づいて反応する。低温、例えば20℃で、ZDBCは触媒的にコロイド硫黄と反応してS8環を切断し、硫黄の直鎖を形成する。これが、存在する界面活性剤の補助によって、絡まり合った合成ポリイソプレン粒子に入る。ZDECはまた、ポリイソプレン分子内の活性部位へ硫黄直鎖からの硫黄の付着を可能にし、前加硫を生じさせる。ポリイソプレン浴の温度をおよそ20℃~40℃に上昇させると、全ての促進剤がポリイソプレン粒子の外部表面と反応し、硫黄原子を合成ポリイソプレン粒子外部表面に付着させ、前加硫を提供する。
【0035】
コンドームの浸漬の前に、トルエン中のラテックスの膨潤指数によって前加硫の度合いを測定する。ラテックスゴム膜の直径20mmの乾燥ディスクを作成し、それをトルエン中に20分間浸漬してディスクを拡張し、測定を行う。未加硫のゴムはもとのサイズの160%に拡張する。軽度に加硫したゴムは100%から160%に膨潤する。中程度に加硫したゴムは80%~100%に膨潤する。完全に加硫したゴムは75%に膨潤する。発明者らの方法において、膨潤指数が130%であった場合に、ラテックスは熟成しており、コンドーム浸漬に対して準備ができていると考えられる。
【0036】
浸漬タンク1 ラテックス温度<40℃
【0037】
浸漬タンク2 ラテックス温度<40℃
【0038】
ラテックス浸漬温度 20℃~30℃
【0039】
加硫オーブン 90℃~120℃
【0040】
本発明は、硫黄のS環等の無定形硫黄が、Hostapur SAS界面活性剤と組み合わせたジチオカルバメートの亜鉛錯体によって触媒され、ラテックス組成物中に前加硫合成ポリイソプレン粒子を生成するという発見に基礎を置くものである。このラテックス組成物により、凝固剤を含まない型を該ラテックス組成物中に浸漬することによるコンドームラテックス膜製品の製造が可能となる。前記界面活性剤パッケージは合成ポリイソプレン粒子の凝塊形成や凝集を阻害する。前記ラテックス浸漬膜は架橋される合成ポリイソプレン粒子を有し、前記粒子間の領域は加硫硬化中に架橋するため、粒子内架橋および粒子間架橋結合が形成される。得られる製品は高品質で均一なラテックス膜を含む。
【0041】
前記ラテックス安定化組成物は、水性媒体中で合成ポリイソプレンの粒子を互いに分離した状態に保つものである。前記ポリイソプレン粒子は互いに接触しないため、凝塊形成や凝集が起こりえない。粒子が凝塊形成を始めると、ファンデルワールス力によって粒子同士が分離しなくなる可能性があるため、これは重要なことである。好ましくは、前記ラテックス安定化組成物はHostapur SAS界面活性剤パッケージを含む。陰イオン界面活性剤が好ましく、特に、1ヶ月を大幅に超えて2ヶ月またはそれ以上まで安定に維持できるものが好ましい。このような界面活性剤の例として、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)が挙げられる。他の例としては、他のアルキルアリールスルホネート類、アルキルスルホネート類(例えばCalsoft AOS-40(Pilot Chem. Co., Red Bank, NJ)の商品名で販売されるC14オ
レフィンスルホネート)、オレフィンスルホネート類、およびアルコールスルホネート類(例えばラウリル硫酸ナトリウム)が挙げられるが、それらに限定されない。SDBSまたは他のアルキルアリールスルホネートは、好ましくは、ポリイソプレンの乾燥重量に対し約0.1~0.35wt%の量存在する。SDBSまたは他のアルキルアリールスルホネートを、1つまたは複数の他の界面活性剤、例えばカプリル酸カリウムおよびポリオキシエチレンセチル/ステアリルエーテル等と組み合わせてもよい。例えば、SDBSまたは他のアルキルアリールスルホネートを、カプリル酸カリウムのみと組み合わせてもよく、あるいはポリオキシエチレンセチル/ステアリルエーテルとさらに組み合わせてもよい。SDBSまたは他のアルキルアリールスルホネートを、1つまたは複数の他の界面活性剤と組み合わせて使用する場合、好ましくは、各界面活性剤は、合成ポリイソプレンの乾燥重量に対し約0.05~1.2wt%の量存在し、界面活性剤パッケージの総量は、ポリイソプレンの乾燥重量に対し約0.4~1.2wt%である。SDBSまたは他のアルキルアリールスルホネートを、カプリル酸カリウムおよびポリオキシエチレンセチル/ステアリルエーテルと組み合わせて用いる場合、好ましくは、前記ポリオキシエチレンセチル/ステアリルエーテルは、ポリイソプレンの乾燥重量に対し約0.1~0.5wt%の量存在する。
【0042】
以上のことから、本発明は、界面活性剤で安定化され、前加硫された合成ポリイソプレンラテックス組成物であって、キャストおよび乾燥後の合成ポリイソプレンの膜をトルエン中に20分間浸漬した際に約130%の拡張を有する、組成物を提供する。凝塊の稠度は、ラテックスの前加硫の度合いを示す。ラテックスの前加硫が進むにつれ、凝塊は粘着性を失い、もろくなってくる。約130%の拡張は、合成ポリイソプレンがコンドームの浸漬に対して準備ができていることを示す。前加硫した合成ポリイソプレンは、20℃~30℃で無期限に保存できる。
【0043】
前加硫組成物は、カプリル酸カリウムおよびSDBSまたは他のアルキルアリールスルホネート界面活性剤を、ジチオカルバメート亜鉛およびZDBCによって抽出された無定形硫黄とともに含む。界面活性剤を含む前記ラテックスエマルションが合成ポリイソプレン粒子を湿潤にし、ジチオカルバメート亜鉛の触媒作用が無定形S分子の環を切断して硫黄の直鎖を形成し、これが合成ポリイソプレンの粒子を前加硫する。後加硫組成物は、硫黄と、加硫硬化中に粒子間架橋を生じさせる他の促進剤と、を有する。このような架橋によって、より高い強度、伸長特性、および架橋密度を有する、より均一なラテックス膜が得られる。
【0044】
好ましくは,前記前加硫組成物は、(i)ジエチルジチオカルバメート亜鉛またはジブチルジチオカルバメート亜鉛促進剤、および硫黄、を含む架橋パッケージ;ならびに、(ii)湿潤剤;を含む。前加硫中に、環構造を有する硫黄がジチオカルバメート亜鉛促進剤の触媒作用によって切断される。該促進剤はポリイソプレン粒子に浸透し、まずその中のイソプレン二重結合と相互作用する。ジチオカルバメート亜鉛の触媒反応性の詳細は、J. Am. Chem. Soc., 121 (1), 163-168, 1999に公開されている、Nieuwenhuizen, et al.による「The Mechanism of Zinc(II)-Dithiocarbamate-Accelerated Vulcanization Uncovered; Theoretical and Experimental Evidence」と題する文献に記載されている。他の文献としては、Nieuwenhuizenによる、「Zinc accelerator complexes. Versatile homogeneous catalysts in sulfur vulcanization」と題する文献が、Applied Catalysis A: General 207 (2001) 55-68に公開されている。これら2つの文献は、ジチオカルバメート亜
鉛類、特にジメチルジチオカルバメート亜鉛の硫黄に対する触媒作用の仕組みを論じてい
る。硫黄は前記促進剤分子内の亜鉛の4原子に捕捉され、触媒作用により内外に移動する。ウェブアドレス files.hanser.de/hanser/docs/20040401_244515439-6683_3-446-21403-8.pdfで第2章が入手可能な、Akron大学のGarry R. Hamed教授発表の書籍の2.3.1.1章で、硫黄が可溶性であるためにはS環を有する必要があることが明記されている。無定形または重合体の硫黄は不溶性である。合成ポリイソプレン粒子内に硫黄が拡散するためには、硫黄が可溶性でなくてはならない。同章には、ZDBCが超高速促進剤(ultrafast accelerator)であることから、ZDBCを用いれば少量の硫黄しか必要ないと示されている。Zhong et al.による、「Effect of adding pyridine ligand on the structure and properties of complex Zn(SCNBz」と題したhttp://www.chemistrymag.org/cji/2007/097032pe.htmにおけるウェブ記事では、ジベンジルジチオカルバメート亜鉛およびジピリジンジチオカルバメート亜鉛も、硫黄に対し同様な触媒活性の機能性を有することが示されている。湿潤剤は、ポリイソプレン粒子の湿潤化を促進し、ジチオカルバメート亜鉛の触媒作用によって環構造が切断された可溶性硫黄をポリイソプレン粒子の表面に接触させ、所定の処理時間中に硫黄の浸透が起こる。前記水性ラテックスエマルションの前加硫構造は、水性ラテックスエマルション保持温度において長期間、例えば2ヶ月間、凝集やラテックスエマルションの不安定性の問題を生ずることなく安定であり、これは、Wangに対する米国特許第6,828,387号の「予備硬化」手順が提供するラテックスエマルションが最大で8日間しか安定でなく、コンドーム製造に不適であることとは対照的である。
【0045】
硫黄は好ましくは、前記合成ポリイソプレンラテックスエマルション中に、ポリイソプレンの乾燥重量に対し約0.8~1.8wt%の量存在する。酸化亜鉛が用いられる場合、それはポリイソプレンの乾燥重量に対し好ましくは約0~0.5wt%の量存在し、一方、ジエチルジチオカルバメート亜鉛またはジブチルジチオカルバメート亜鉛が用いられる場合、それはポリイソプレンの乾燥重量に対し好ましくは約0.3~1.0wt%、より好ましくは約0.3~0.45wt%の量存在する。
【0046】
適した湿潤剤の例としては、アニオン性の、脂肪酸の塩類(ナトリウム塩またはカリウム塩など)、例えばステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、およびカプリル酸カリウムなど挙げられるが、これらに限定されない。カプリル酸カリウムは短鎖脂肪酸の塩、SDBS、およびポリオキシエチレンセチル/ステアリルエーテルとともに有利に用いられる。カプリル酸カリウムは、ポリイソプレンの乾燥重量に対し、0.1~0.5wt%の量で用いられる。
【0047】
前記前加硫組成物の成分のポリイソプレン粒子への浸透は、ポリイソプレンの粒径およびサイズ分布と強い関係がある。典型的には、小さい粒子はより大きな表面積を有し、前記前加硫組成物の成分はこれらの小さな粒子に、より速やかに浸透する。しかし、この大きな表面積が原因となり、粒子間領域が粒子内領域と比較して増加する。なぜなら、それら小さな粒子は大きな粒子よりも速やかに前加硫される傾向があるためである。すなわち、大きな粒子は大きな粒子であるだけでなく、小さな粒子の凝集体でもあり、前加硫されにくい。一方、大きな粒子はより小さな表面積を有し、前記前加硫組成物の成分はこれらの大きな粒子に、より遅く浸透する。表面積が小さいと、粒子間領域が少なくなる。従って、前加硫粒子内架橋と後加硫粒子間架橋のバランスのとれた最適な強度特性を生成するためには、ポリイソプレン粒子のサイズとサイズ範囲分布の選択において繊細なバランスをとる必要がある。上述の通り、約0.2~2マイクロメートルの範囲の粒子が最適な結果をもたらす。前記前加硫組成物の成分のポリイソプレン粒子への浸透は、拡散過程そのものとも関係がある。これは時間に対する一次関数であり、また、熱的活性化過程を反映
した、温度に対する指数関数でもある。従って、前加硫工程における温度のわずかな増加で前加硫速度が有意に増加する。例えば、室温での前加硫には、混合過程の後に約12時間の熟成が必要となる。しかし、大きな凝集体の周囲のみで前加硫が生じて膜の最終的な強度特性が悪化すること、すなわち表面硬化反応を防止するため、より急速な前加硫は典型的には回避される。カプリル酸カリウムの使用は、それが硬化剤の粒子内への運搬を促進し、前加硫を加速させることを示した。
【0048】
本方法は、ラテックス安定化組成物、例えば15%Hostapur陰イオン界面活性剤等の少なくとも1種の界面活性剤の界面活性剤パッケージを含む組成物、を加えることを含む。前記界面活性剤は、合成ポリイソプレンの乾燥重量に対し、約0.1~0.5wt%の量存在する。前記ラテックス安定化組成物の添加時、エマルションを、例えば約12時間撹拌し、合成ポリイソプレン粒子同士が接触しないように維持する。
【0049】
本方法はさらに、後加硫組成物を、前記合成ポリイソプレンラテックスエマルションに、反応性酸化亜鉛、亜鉛含有促進剤:ZDEC、ZBEC、およびZDBC、からなる群より選択される促進剤とともに加える工程を含む。反応性酸化亜鉛が存在する場合、それは、好ましくは、合成ポリイソプレンの乾燥重量に対し、約0~0.5wt%の量存在する。このように製造された組成物は25℃で約60日間まで安定であり、製造ラインに使用することができる。
【0050】
本方法により、合成ポリイソプレンプローブカバーの製造も可能である。本プローブカバーはニトロソアミンを何ら含まないため、発がん性の薬剤が利用者に移行することがなく、癌のリスクが最小限となる。
【0051】
以下の表1は、前加硫作用を示す組成物の例である。前記水性合成ラテックスエマルションの典型的な混合順を示す。表中に各工程およびそれらにかかる時間を列挙する。
【表1】
【0052】
上述のように、本発明はさらに、合成ポリイソプレンラテックスコンドーム製品を形成するための方法を提供する。型は、当該分野で公知の任意の適した型であってよい。本方法は、上記の固形分40~60%、粘度20~30秒の前加硫合成ポリイソプレン水性ラテックスエマルション組成物中にコンドーム型を浸漬し、前記型の表面上で前加硫合成ポリイソプレンの個々の粒子が互いに接触する25~35ミクロンの厚さのラテックス膜の薄層を形成することを含む。トルエン中の膨潤指数は、合成ポリイソプレンのキャストディスクを20分間曝露した後に100~130%である。
【0053】
ラテックス膜の最初の層は典型的には25~35ミクロンの厚さであり、柔らかすぎない。その後、再度コンドーム型を前加硫合成ポリイソプレンエマルションに浸漬し、より厚い、約45~80ミクロンの複合ラテックス層を形成する。ラテックス層の厚さをこのように増加させることにより、コンドームが着用された際の破れを防止する。
【0054】
製造されたコンドームの引張り特性を以下の表2に示す。
【表2】
【0055】
ニトロソアミン含量をいくつかの試料で測定した。以下の表3AおよびBに示す。
【表3A】

【表3B】
【0056】
図1は、ニトロソアミンを含有しない合成ポリイソプレンラテックスの生成に伴う工程を示す。これは、浸漬硬化合成ポリイソプレンコンドームの製造のためのプロセスフローチャートを示す。このプロセスは、先に作成されたコンドーム型を剥ぎ取るところから始まる。型を硝酸浴に浸漬し、次いで2つの酸浴に浸漬する。その後、型をオーブン中で乾燥する。その後、型を20~30℃で、約50~55%の全固形分を有する前加硫合成ラテックス#1に浸漬する。前記ラテックスの粘度はフォードカップ#4を使用した際に約18~22秒である。形成されるラテックス層の厚さは約25~35ミクロンである。ラテックス層で被覆された型を乾燥し、ラテックスが柔らかすぎない状態を確保する。次い
で、ラテックスで被覆されたコンドーム型を第2の前加硫合成ラテックス溶液に浸漬する。該溶液は50~55%の固形分を有するが、フォードカップ#6で25~30秒の粘度を有する。第2のラテックス浸漬により、より厚い合成ラテックス層が生成し、典型的には全厚が45~80ミクロンとなる。この、より厚い層は、コンドームの破れを防止する。
【0057】
本明細書中に引用される刊行物、特許出願、および特許を含む全ての参考文献は、参照により、各参考文献が個々に具体的に参照により本明細書に組み込まれるように示され、その全体が明記された場合と同程度に本明細書に組み込まれるものとする。
【0058】
本発明を記載する文脈における、「a」、「an」および「the」ならびに類似の指示対象の用語の使用(特に下記特許請求の範囲の文脈おいて)は、特に断りのない限り、または文脈と明確に矛盾しない限り、単数形および複数形の両者を包含するものと解釈される。本願明細書における値の範囲についての記述は、特に断りのない限り、単に、その範囲に含まれる個々の別々の値を言及するための省略化された方法としての役割を果たすことを意図したものであり、個々の別々の値は本明細書に個々に記載された場合と同様に本明細書に組み込まれるものとする。本明細書に記載される全ての方法は、本明細書において特に断りのない限り、または文脈と明確に矛盾しない限り、任意の適した順番で行ってよい。本明細書で提供される任意および全ての例、または、例示的な語(「~など」等)の使用は、特に断りのない限り、単に本発明をより明確にすることを意図したものであり、本発明の範囲を限定するためのものではない。本明細書中のどのような語も、任意の請求されない要素が本発明の実施に対して重要であることを示すと解釈されるべきではない。
図1