(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063067
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】絶縁層を含む多層構造体
(51)【国際特許分類】
B32B 15/085 20060101AFI20240501BHJP
B32B 15/088 20060101ALI20240501BHJP
C08F 210/18 20060101ALI20240501BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20240501BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240501BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
B32B15/085
B32B15/088
C08F210/18
C08L23/08
H05K1/03 610H
H01B5/14 Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024025889
(22)【出願日】2024-02-22
(62)【分割の表示】P 2023530919の分割
【原出願日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2021169042
(32)【優先日】2021-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】荒井 亨
(72)【発明者】
【氏名】菅藤 諒介
(57)【要約】 (修正有)
【課題】銅箔平滑面と高い接着強度を示す絶縁層を有する多層基板として有用な多層構造体の提供。
【解決手段】一層以上の絶縁層と、一層以上の樹脂層と、平滑面及び粗化面を有する一枚以上の銅箔とを含む多層構造体であって、前記絶縁層は、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体と表面変性剤とを含み、前記樹脂層は、ポリイミド(PI)、液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、多官能芳香族ビニル樹脂(ODV)、エポキシ樹脂、及び前記絶縁層と同じ組成からなる群から選択される一種以上を含み、前記絶縁層のそれぞれが有する少なくとも一方の面は、前記銅箔の平滑面と接着し、前記樹脂層のそれぞれについて、前記樹脂層が有する少なくとも一方の面は前記銅箔の粗化面と接着しかつ前記樹脂層は前記銅箔の平滑面と接着しないか、又は前記樹脂層の有する両方の面が前記銅箔と接着しないことを特徴とする、多層構造体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一層以上の絶縁層と、
一層以上の樹脂層と、
平滑面及び粗化面を有する一枚以上の銅箔と
を含む多層構造体であって、
前記絶縁層は、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体と表面変性剤とを含み、
前記樹脂層は、ポリイミド(PI)、液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、多官能芳香族ビニル樹脂(ODV)、エポキシ樹脂、及び前記絶縁層と同じ組成からなる群から選択される一種以上を含み、
前記絶縁層のそれぞれが有する少なくとも一方の面は、前記銅箔の平滑面と接着し、
前記樹脂層のそれぞれについて、前記樹脂層が有する少なくとも一方の面は前記銅箔の粗化面と接着しかつ前記樹脂層は前記銅箔の平滑面と接着しないか、又は、前記樹脂層の有する両方の面が前記銅箔と接着しない
ことを特徴とする、多層構造体。
【請求項2】
前記絶縁層の少なくとも一方の面が、積層方向に対して凹んだ箇所を有し、その凹んだ箇所に前記銅箔が収まるように接着することで、当該面の一部が前記銅箔の平滑面に接着し、かつ当該面の別の一部が前記樹脂層に接着する構成を有する、請求項1に記載の多層構造体。
【請求項3】
前記表面変性剤がシランカップリング剤である、請求項1又は2に記載の多層構造体。
【請求項4】
前記オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体が下記(1)~(4)の条件をすべて満たす、請求項1~3のいずれか一項に記載の多層構造体。
(1)共重合体の数平均分子量が500以上10万未満である。
(2)芳香族ビニル化合物単量体が、炭素数8以上20以下の芳香族ビニル化合物であり、芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が0~98質量%以下である。
(3)芳香族ポリエンが、分子内にビニル基及び/又はビニレン基を複数有する炭素数5以上20以下のポリエンから選ばれる一種以上であり、かつ芳香族ポリエン単位に由来するビニル基及び/又はビニレン基の含有量が数平均分子量あたり1.5個以上20個未満である。
(4)オレフィンが炭素数2以上20以下のオレフィンから選ばれる単数又は複数であり、オレフィン単量体単位の含量が10質量%以上であり、前記オレフィン単量体単位と芳香族ビニル化合物単量体単位と芳香族ポリエン単量体単位の合計が100質量%である。
【請求項5】
前記絶縁層がさらに、以下の(a)~(c)から選ばれる単数、又は複数を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の多層構造体。
(a)硬化剤
(b)炭化水素系エラストマー、ポリフェニレンエーテル系樹脂、芳香族ポリエン系樹脂から選ばれる単数又は複数の樹脂
(c)極性単量体
【請求項6】
前記絶縁層中の前記表面変性剤の含有量は、前記オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体100質量部に対して0.001~10質量部である、請求項1~5のいずれか一項に記載の多層構造体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の多層構造体を硬化してなる硬化多層構造体。
【請求項8】
請求項7に記載の硬化多層構造体を含む、高周波伝送ライン、多層CCL基板、多層FCCL基板、アンテナ、又はカバーレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅箔平滑面と高い接着性を有する組成物からなる絶縁層を有する多層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
通信周波数がギガヘルツ帯及びそれ以上の高周波帯に移行することにともない、低誘電特性を有する絶縁材料を含むCCLやFCCLからなる多層基板に対するニーズが高まっている。パーフルオロエチレン等のフッ素系樹脂は優れた低誘電率、低誘電損失性と耐熱性に優れた特徴を有するが成形加工性、膜成形性が困難であり、また、配線の銅箔との接着性にも課題があるため、多層基板への適用が難しい。一方、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂等の後硬化樹脂を用いた基板、絶縁材料はその耐熱性、易取り扱い性から広く用いられてきているが、誘電率、誘電損失が比較的高く、高周波用の絶縁材料としては改善が望まれている(特許文献1)。
【0003】
そこで本質的に低誘電特性を有する炭化水素系樹脂に注目が集まっている。本来は熱可塑性樹脂である炭化水素系樹脂を硬化性樹脂とするためには官能基を導入する必要があるが、一般的にラジカル、又は熱に反応する官能基は極性を有し、そのため低誘電特性が悪化してしまう。炭化水素からのみ構成される官能基、例えば芳香族ビニル基を導入しようとすると、高価な炭化水素系単量体間の分子間反応を利用する場合が多く(特許文献2)、経済的ではない場合が多い。特許文献3には、特定の配位重合触媒から得られ、特定の組成と配合を有するエチレン-オレフィン(芳香族ビニル化合物)-芳香族ポリエン共重合体、非極性ビニル化合物共重合体からなる硬化体が示されている。本技術の場合、芳香族ポリエン(ジビニルベンゼン)の2つのビニル基のうち一つのみが選択的に共重合され残りのビニル基が保存されるため、容易に芳香族ビニル基の官能基を有する炭化水素系共重合体マクロモノマーを得ることができる。同様なオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体、及び副原料等との組成物から得られる硬化体は低誘電率、低誘電正接という特徴を有し、組成や適当な副原料の選択により、軟質~硬質までの幅広い物性を与えることが可能となる(特許文献4、5)。またこれら材料は実施例に示されるように銅箔粗化面と高い接着性(接着強度)を示すことができる。そのため高周波信号用の各種基板材料、絶縁材料に適すると考えられる。
【0004】
しかし、特に、マイクロストリップライン等の高周波伝送ライン、アンテナ、多層基板用の層間絶縁材やカバーレイとしての用途の場合等は、絶縁材料は銅箔の平滑面と接しており、銅箔平滑面との高い接着強度(剥離強度)が求められている。特にシート形状、フィルム形状の層間絶縁材は少なくともその一部、又は少なくとも一面が銅箔の平滑面と接しており、これとの高い接着強度が求められている。しかし公開されている特許文献には、銅箔平滑面に対する高い接着性(接着強度)を絶縁材に付与する技術の開示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6-192392号公報
【特許文献2】特開2004-087639号公報
【特許文献3】特開2007-217706号公報
【特許文献4】国際公開第2021/112087号
【特許文献5】国際公開第2021/112088号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来技術に対し、銅箔平滑面と高い接着強度を示す絶縁層I(本明細書中では「層間絶縁材」とも記載される)を有する多層基板として有用な多層構造体の提供が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本願では、上記課題を解決する下記の態様を提供できる。
【0008】
態様1.
一層以上の絶縁層と、
一層以上の樹脂層と、
平滑面及び粗化面を有する一枚以上の銅箔と
を含む多層構造体であって、
前記絶縁層は、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体と表面変性剤とを含み、
前記樹脂層は、ポリイミド(PI)、液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、多官能芳香族ビニル樹脂(ODV)、エポキシ樹脂、及び前記絶縁層と同じ組成からなる群から選択される一種以上を含み、
前記絶縁層のそれぞれが有する少なくとも一方の面は、前記銅箔の平滑面と接着し、
前記樹脂層のそれぞれについて、前記樹脂層が有する少なくとも一方の面は前記銅箔の粗化面と接着しかつ前記樹脂層は前記銅箔の平滑面と接着しないか、又は、前記樹脂層が有する両方の面が前記銅箔と接着しない
ことを特徴とする、多層構造体。
【0009】
態様2.
前記絶縁層の少なくとも一方の面が、積層方向に対して凹んだ箇所を有し、その凹んだ箇所に前記銅箔が収まるように接着することで、当該面の一部が前記銅箔の平滑面に接着し、かつ当該面の別の一部が前記樹脂層に接着する構成を有する、態様1に記載の多層構造体。
【0010】
態様3.
前記表面変性剤がシランカップリング剤である、態様1又は2に記載の多層構造体。
【0011】
態様4.
前記オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体が下記(1)~(4)の条件をすべて満たす、態様1~3のいずれか一項に記載の多層構造体。
(1)共重合体の数平均分子量が500以上10万未満である。
(2)芳香族ビニル化合物単量体が、炭素数8以上20以下の芳香族ビニル化合物であり、芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が0~70質量%以下若しくは0~98質量%以下である。
(3)芳香族ポリエンが、分子内にビニル基及び/又はビニレン基を複数有する炭素数5以上20以下のポリエンから選ばれる一種以上であり、かつ芳香族ポリエン単位に由来するビニル基及び/又はビニレン基の含有量が数平均分子量あたり1.5個以上20個未満である。
(4)オレフィンが炭素数2以上20以下のオレフィンから選ばれる単数又は複数であり、オレフィン単量体単位の含量が10質量%以上であり、前記オレフィン単量体単位と芳香族ビニル化合物単量体単位と芳香族ポリエン単量体単位の合計が100質量%である。
【0012】
態様5.
前記絶縁層がさらに、以下の(a)~(c)から選ばれる単数、又は複数を含む、態様1~4のいずれか一項に記載の多層構造体。
(a)硬化剤
(b)炭化水素系エラストマー、ポリフェニレンエーテル系樹脂、芳香族ポリエン系樹脂から選ばれる単数又は複数の樹脂
(c)極性単量体
【0013】
態様6.
前記絶縁層中の前記表面変性剤の含有量は、前記オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体100質量部に対して0.001~10質量部である、態様1~5のいずれか一項に記載の多層構造体。
【0014】
態様7.
態様1~6のいずれか一項に記載の多層構造体を硬化してなる硬化多層構造体。
【0015】
態様8.
態様7に記載の硬化多層構造体を含む、高周波伝送ライン、多層CCL基板、多層FCCL基板、アンテナ、又はカバーレイ。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、低い誘電率、誘電正接と低い吸水率、高い絶縁性を示す絶縁層を、高い接着強度(剥離強度)を以って銅箔平滑面と接着することで、高周波多層基板として有用な多層構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る多層構造体の一部又は全部が含んでよい基本単位の構造を示す。
【
図2】本発明に係る多層構造体の一部又は全部が含んでよい構造の具体例を示す。
【
図3】本発明に係る多層構造体の一部又は全部が含んでよい構造の具体例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本多層構造体は、銅箔と、その銅箔の粗化面に接着する樹脂層と、その銅箔の平滑面に接着する絶縁層とを含む構造(
図1に示す)を基本単位とする。本多層構造体は、当該基本単位を一個以上含んでよく、基本単位と別の層の組み合わせを含んでいてもよい。
【0019】
本多層構造体が含む(一層以上の)絶縁層とは、層間絶縁材やカバーレイを包含する概念である。また、層間絶縁材とは層間接着材、ボンディングシートの概念を包含する概念である。シートとは、フィルムの概念をも包含するものとする。また、本明細書においてフィルムと記載されていても、シートの概念をも包含するものとする。本発明に係る組成物を以下にさらに詳細に説明する。本明細書において組成物とは、ワニスを包含する概念である。すなわち、組成物のうち特に液状であるものをワニスと記載している。
【0020】
<銅箔及び粗化面>
本多層構造体が含む(一枚以上の)銅箔とは、配線や基板に用いることができる銅箔であれば何れでも良い。厚さは特に限定されないが、一般的には1~500μm、好ましくは5~50μmの範囲である。好ましくは高周波対応の銅箔であり、圧延銅箔でも電解銅箔でも良い。本銅箔は粗化面(別名マット面、M面と表記される場合がある)と平滑面(光沢面又はシャイン面、S面と表記される場合がある)とを有する。例えば銅箔の粗化面は、JIS B0601:2001に規定される表面粗さ(最大高さ)Rzが好ましくは5μm以下、特に好ましくは3μm以下の銅箔であってよい。例えば銅箔の粗化面は、JIS B0601:2001に規定される表面粗さ(最大高さ)Rzが好ましくは0.5μmを超える銅箔であってよい。このような銅箔は、古河電気工業株式会社やJX金属株式会社、三井金属鉱業株式会社等から入手することができる。
【0021】
<銅箔平滑面>
銅箔の平滑面とは、配線や基板に用いる銅箔が有する、粗化面ではない面であり、粗化面に比べて相対的に平滑な面である。本平滑面は、一般的にはJIS B0601:2001に規定される表面粗さ(最大高さ)Rzが0.5μm以下であるが、前記のごとく粗化面に比べて相対的に平滑な面、あるいは相対的に高い光沢を有する面であるので特に限定はされない。当業者は容易に銅箔の平滑面と粗化面を認識し区別することができる。銅箔の粗化面は基材フィルムや基板と接着するために使用されるので、残る平滑面に対して多層基板の層間絶縁材は高い接着性が求められる。
【0022】
<樹脂層>
本多層構造体が含む(一層以上の)樹脂層とは、ポリイミド(PI)、液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、多官能芳香族ビニル樹脂(ODV)、エポキシ樹脂、又は上記絶縁層と同じ樹脂(組成)から選ばれる樹脂層であり、一般的には多層構造体の一部分をなす基板の構成要素であって、銅箔の粗化面と接着するものであり、かつ銅箔の平滑面とは接着しないか、又は銅箔とは全く接着しないことで、上記絶縁層と区別されるものである。ここで、本樹脂層が上記絶縁層と同じ組成である場合とは、本樹脂層が絶縁層と同様に「オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体と表面変性剤とを含む」ことを示す。本樹脂層の厚みは任意であり、好ましくは10μm~1mmである。また構造体の強度を向上させ、線膨張率(CTE)を低減させる観点からは、樹脂層はフィラーやガラスクロス等の補強材を含むことが好ましい。樹脂層の一つの面はあらかじめ銅箔の粗化面と接着していてもよい。また前記ポリイミド(PI)は、誘電率や誘電正接、吸水率がより低減されたモディファイドポリイミド(MPI)を含む概念である。また上記のポリフェニレンエーテルとしては、官能基を有する硬化性PPEが好ましい。
【0023】
<好ましい構造>
好ましい実施形態においては、本多層構造体の一部又は全部が、
図1に示す基本単位、若しくはその繰り返し構造を有し、さらに前記絶縁層、樹脂層、又は銅箔を有していてもよい。具体例としては、
図2や
図3に示す構造(1)~(5)のうちの一種又はその組み合わせからなっていてよい。
【0024】
或る実施形態では、上記基本単位の一部若しくは全部が、
図4に示す基本単位の変形例に置換されていてもよい。また或る実施形態では、上記構造(1)~(5)の一部若しくは全部が、
図4に示す基本単位の変形例に置換されていてもよい。即ち、絶縁層の少なくとも一方の面が、積層方向に対して凹んだ箇所を有し、その凹んだ箇所に前記銅箔が収まるように接着することで、当該面の一部が前記銅箔の平滑面に接着し、かつ当該面の別の一部が前記樹脂層に接着する構成を有してもよいということである。つまりこのように、樹脂層が絶縁層と部分的に直接接着する構成が採られてもよい。このような置換は例えば、その銅箔がエッチングで部分的に除去され、その部分を絶縁層が置き換える等によって行える。換言すれば、本多層構造体が含む各層の面積は一定でなくてもよく、例えば島状に分割されていたり、凹部を設けたりしていてもよいということである。また、本多層構造体の有する層のうちのひとつ以上が、スルーホール又はビアホール(スルーホールビア、インタースティシャルビア、ブラインドビア、べリッドビア等)を有していてもよいが、本明細書においては、これらの孔は本多層構造体の層構成の定義上は除外して考えるものとする(上記図面では孔の存在は省略して描いている)。
【0025】
<絶縁層>
本多層構造体が含む絶縁層の厚さは任意であるが、一般的には1μm~500μm、好ましくは5μm~100μmである。本多層構造体が含む絶縁層をなす組成物は、その主要成分としてオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体を含み、さらに当該オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体100質量部に対して表面変性剤、好ましくはシランカップリング剤を0.01~5質量部含むのが好ましい。当該絶縁層は少なくともその一部が銅箔平滑面と接している。当該絶縁層が複数層存在する場合には、そのすべての絶縁層の、その有する少なくとも一方の面が、銅箔平滑面と接する(言い換えれば、複数の絶縁層が在る場合には、それぞれが銅箔平滑面と接する、ということである)。或る実施形態においては、絶縁層の有するいずれの面も銅箔の粗化面に接着しないことが好ましい。オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体は組成物全体に対し30質量%以上含まれてよく、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上含まれてよい。本オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体は、オレフィン、芳香族ビニル化合物、及び芳香族ポリエンの各単量体を共重合することで得ることができる。
【0026】
オレフィン単量体とは、炭素数2以上20以下のαオレフィン及び炭素数5以上20以下の環状オレフィンから選ばれる一種以上であり、実質的に酸素や窒素、ハロゲンを含まず、炭素と水素から構成される化合物である。炭素数2以上20以下のαオレフィンとしては、例えばエチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デカン、1-ドデカン、4-メチル-1-ペンテン、3,5,5-トリメチル-1-ヘキセンが例示できる。炭素数5以上20以下の環状オレフィンとしては、ノルボルネン、シクロペンテンが例示できる。オレフィンとして好ましく使用できるのは、エチレンとエチレン以外のαオレフィンや環状オレフィンとの組み合わせか、又はエチレン単独である。エチレン単独、又は含まれるエチレン以外のαオレフィン成分/エチレン成分の質量比が好ましくは1/7以下、さらに好ましくは1/10以下の場合は、得られる硬化体の銅箔や銅配線との接着強度を高くでき、好ましい。より好ましくは、共重合体に含まれるエチレン以外のαオレフィン単量体成分の含量が6質量%以下、さらに最も好ましくは4質量%以下、又はオレフィンがエチレン単独である。また好ましい、エチレンとエチレン以外のαオレフィンの組み合わせでは、最終的に得られる硬化体のエチレン-αオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体のガラス転移温度はαオレフィンの種類、含量により、概ね-60℃~-10℃の範囲で自由に調整できる。
【0027】
芳香族ビニル化合物単量体は、炭素数8以上20以下の芳香族ビニル化合物であり、例えばスチレン、パラメチルスチレン、パライソブチルスチレン、各種ビニルナフタレン、各種ビニルアントラセンが例示できる。
【0028】
芳香族ポリエン単量体としては、その分子内にビニル基及び/又はビニレン基を複数有する炭素数5以上20以下のポリエンであり、好ましくは、オルト、メタ、パラの各種ジビニルベンゼン又はこれらの混合物、ジビニルナフタレン、ジビニルアントラセン、p-2-プロペニルスチレン、p-3-ブテニルスチレン等の芳香族ビニル構造を有し、実質的に酸素や窒素、ハロゲンを含まず、炭素と水素から構成される化合物である。また、特開2004-087639号公報に記載されている二官能性芳香族ビニル化合物、例えば1,2-ビス(ビニルフェニル)エタン(略称:BVPE)を用いることもできる。この中で好ましくは、オルト、メタ、パラの各種ジビニルベンゼン、又はこれらの混合物が用いられ、最も好ましくはメタ及びパラジビニルベンゼンの混合物が用いられる。本明細書ではこれらジビニルベンゼンをジビニルベンゼン類と記す。芳香族ポリエンとしてジビニルベンゼン類を用いた場合、硬化処理を行う際に硬化効率が高く、硬化が容易であるため好ましい。
【0029】
以上のオレフィン、芳香族ビニル化合物、芳香族ポリエンの各単量体としては、他に極性基、例えば酸素原子、窒素原子等を含むオレフィン、酸素原子や窒素原子等を含む芳香族ビニル化合物、又は、酸素原子や窒素原子等を含む芳香族ポリエンを含んでいてもよいが、これら極性基を含む単量体の総質量は、本組成物の総質量の10質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、極性基を含む単量体を含まないことが最も好ましい。10質量%以下にすることにより、本組成物を硬化して得られる硬化体の誘電特性(低誘電率/低誘電損失)を向上できる。
【0030】
本オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体は、下記(1)~(4)の条件をいずれか一種以上満たすことが好ましく、すべて満たすことがより好ましい。
(1)共重合体の数平均分子量が500以上10万未満である。
(2)芳香族ビニル化合物単量体が、炭素数8以上20以下の芳香族ビニル化合物であり、芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が0~98質量%以下、好ましくは0~70質量%以下である。
(3)芳香族ポリエンが、分子内にビニル基及び/又はビニレン基を複数有する炭素数5以上20以下のポリエンから選ばれる一種以上であり、かつ芳香族ポリエン単位に由来するビニル基及び/又はビニレン基の含有量が数平均分子量あたり1.5個以上20個未満である。
(4)オレフィンが炭素数2以上20以下のオレフィンから選ばれる単数又は複数であり、オレフィン単量体単位の含量が10質量%以上であり、前記オレフィン単量体単位と芳香族ビニル化合物単量体単位と芳香族ポリエン単量体単位の合計が100質量%である。
【0031】
共重合体の数平均分子量(Mn)は500以上10万未満であってよい。本発明において数平均分子量が500以上10万未満であるということは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー;ゲル浸透クロマトグラフィー)法により得られる、標準ポリスチレン換算の分子量がその範囲に入る値であるということである。
【0032】
本共重合体に含まれる芳香族ビニル化合物単量体単位の含量は0質量%以上98質量%以下であってよく、さらに好ましくは0質量%以上70質量%以下、最も好ましくは10質量%以上60質量%以下である。芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が70質量%以下である場合には、最終的に得られる組成物の硬化体のガラス転移温度が室温付近より低くなり、低温での靱性や伸びを改善できるため好ましい。芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が10質量%以上であると、本共重合体の芳香族性が向上し、難燃剤やフィラーとのなじみが良くなり、難燃剤のブリードアウトを回避でき、フィラーの充填性を向上できるという効果が得られる。また芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が10質量%以上であると、銅箔や銅配線からの接着強度が高い組成物の硬化体を得ることもできる。
【0033】
本共重合体において、芳香族ポリエン単位に由来するビニル基及び/又はビニレン基の含有量(好ましくはビニル基の含有量)は数平均分子量あたり1.5個以上20個未満であってよく、好ましくは2個以上20個未満、最も好ましくは3個以上20個未満である。当該ビニル基及び/又はビニレン基の含有量が1.5個以上だと架橋効率が高くなり、十分な架橋密度の硬化体を得ることができる。共重合体中の数平均分子量あたりの芳香族ポリエン単位(ジビニルベンゼン単位)に由来するビニル基含有量は、当業者に公知のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法により求める標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)と、1H-NMR測定により得られる芳香族ポリエン単位に由来するビニル基含有量とを比較することで得ることができる。例として、1H-NMR測定により得られる各ピーク面積の強度比較により、共重合体中の芳香族ポリエン単位(ジビニルベンゼン単位)に由来するビニル基含有量が0.45質量%であり、GPC測定による標準ポリスチレン換算数平均分子量が36000の場合、本数平均分子量中の芳香族ポリエン単位に由来するビニル基の分子量は、これらの積である162となり、これをビニル基の式量27で割ることで、6.0となる。すなわち、本共重合体中の数平均分子量あたりの芳香族ポリエン単位に由来するビニル基含有量は6.0個であると求められる。共重合体の1H-NMR測定で得られるピークの帰属は文献により公知である。また、1H-NMR測定で得られるピーク面積の比較から共重合体の組成を求める方法も公知である。さらに本1H-NMR測定による方法に、公知の定量モードで測定した13C-NMRスペクトルのピーク面積やその比率のデータを加えて、組成の精度を向上させることも可能である。また本明細書では共重合体中のジビニルベンゼン単位の含量をジビニルベンゼン単位に由来するビニル基のピーク強度(1H-NMR測定による)から求めている。すなわちジビニルベンゼン単位に由来するビニル基含有量から、当該ビニル基1個は共重合体中のジビニルベンゼンユニット1個に由来するとしてジビニルベンゼン単位の含量を求めている。
【0034】
本共重合体において、好ましいオレフィン単量体単位の含量は10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、最も好ましくは30質量%以上である。前記オレフィン単量体単位と芳香族ビニル化合物単量体単位と芳香族ポリエン単量体単位の合計は100質量%である。オレフィン単量体単位の含量が10質量%以上だと、最終的に得られる硬化体の靱性(伸び)や耐衝撃性が向上し、硬化途中での割れや、硬化体のヒートサイクル試験中での割れが発生しづらくなる。本共重合体において、好ましいオレフィン単量体単位の含量は90質量%以下である。
【0035】
好ましい物性を得る目的で、本共重合体は、複数種類の共重合体の混合物としてもよい。本共重合体において、芳香族ビニル化合物単量体単位を含まない、オレフィン-芳香族ポリエン共重合体として、具体的にはエチレン-ジビニルベンゼン共重合体、エチレン-プロピレン-ジビニルベンゼン共重合体、エチレン-1-ブテン-ジビニルベンゼン共重合体、エチレン-1-ヘキセン-ジビニルベンゼン共重合体、エチレン-1-オクテン-ジビニルベンゼン共重合体が好適なものとして例示できる。
【0036】
本共重合体において、芳香族ビニル化合物単量体単位を含む、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体としては、エチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、エチレン-プロピレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、エチレン-1-ヘキセン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、エチレン-1-オクテン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体が例示できる。
【0037】
<表面変性剤>
本発明の組成物は、配線用の銅箔との接着性向上を目的に、表面変性剤を含む。特に銅箔の平滑面との接着強度(剥離強度)を高めることが目的である。オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体100質量部に対して表面変性剤の使用量(含有量)は0.001~10質量部が好ましく、0.01~5質量部の範囲がより好ましく、0.01~1質量部の範囲が最も好ましい。表面変性剤の使用量が10質量部以下だと、組成物から得られる硬化体の誘電率や誘電正接が低くなり、本発明の目的を満たす。
【0038】
本発明においては、公知の表面変性剤を用いることができる。このような表面変性剤としては、シラン系表面変性剤(別名シランカップリング剤)、チタネート系表面変性剤、イソシアネート系表面変性剤が挙げられるが、好ましくはシラン系表面変性剤を用いる。これら表面変性剤は単数、又は複数を用いても良い。このようなシラン系表面変性剤は信越化学工業株式会社やダウコーニング社、エボニック社から入手することができる。シラン系表面変性剤は分子内に官能基と加水分解縮合性基を有するシラン化合物である。官能基としては、ビニル、メタクリロキシ、アクリロキシ、スチリル等のビニル基、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基、ハロゲン等が例示できる。ガラスとの高い接着性を考慮すると、官能基としてビニル基、アミノ基、エポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基から選ばれる一種以上が好ましく、アミノ基、メタクリロキシ基、エポキシ基から選ばれる一種以上が最も好ましい。これらの官能基は、分子内に単数又は複数有してもよい。これらの表面変性剤は一種又は二種以上を用いることができる。官能基としてビニル基を有するシラン系表面変性剤としては、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが例示できる。官能基としてスチリル基を有するシランカップリング剤としては、p-スチリルトリメトキシシランが例示できる。官能基としてアクリロキシ基を有するシランカップリング剤としては、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランが例示できる。官能基としてメタクリロキシ基を有するシランカップリング剤としては、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシランが例示できる。官能基としてエポキシ基を有するシランカップリング剤としては3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが例示できる。官能基としてアミノ基を有するシランカップリング剤としては、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルエチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)アミン、N-(n-ブチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランが例示できる。以上は加水分解縮合性基としてメトキシ基、エトキシ基を有する例であるが、トリイソプロポキシ基やアセトキシ基も使用できる。特に好ましくは、官能基としてメタクリロキシ、アクリロキシ、スチリル等のビニル基、アミノ基、エポキシ基、及びメルカプト基から選ばれる単数又は複数を有するシラン系表面変性剤が用いられる。
【0039】
上記共重合体と表面変性剤とを含んだ組成物(以下、単に「組成物」とも略記する)の調製は下記のように行える。共重合体成分が樹脂状である場合にはこれら表面変性剤は公知の混練法、例えば二軸混練機や各種ロール、各種ニーダー等により混合することができる。共重合体成分がワニス状である場合には、ワニスへ添加し攪拌することで混合、溶解させることができる。
【0040】
本発明の組成物は、前記本共重合体、及び表面変性剤に加えてさらに、(a)硬化剤、(b)炭化水素系エラストマー、ポリフェニレンエーテル系樹脂、芳香族ポリエン系樹脂から選ばれる単数又は複数の樹脂、(c)極性単量体から選ばれる単数又は複数を含むことができる。
【0041】
<(a)硬化剤>
本発明の組成物に用いることができる硬化剤としては、従来芳香族ポリエン、芳香族ビニル化合物の重合、又は硬化に使用できる公知のラジカル発生剤や硬化剤を用いることが可能である。このような硬化剤には、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、アニオン重合開始剤が例示できるが、好ましくはラジカル重合開始剤を用いることができる。好ましくは、有機過酸化物系(パーオキサイド)、アゾ系重合開始剤等であり、用途、条件に応じて自由に選択できる。有機過酸化物が掲載されたカタログは日油社ホームページ、例えばhttps://www.nof.co.jp/business/chemical/chemical-product01からダウンロ-ド可能である。また有機過酸化物は富士フイルム和光純薬社や東京化成工業社のカタログ等にも記載されている。本発明に用いられる硬化剤はこれらの会社より入手できる。また公知の光、紫外線、放射線を用いる光重合開始剤を硬化剤として用いることもできる。光重合開始剤を用いる硬化剤としては、光ラジカル重合開始剤、光カチオン重合開始剤、又は光アニオン重合開始剤が挙げられる。このような光重合開始剤は例えば東京化成工業社から入手できる。さらに、放射線あるいは電子線そのものによる硬化も可能である。また、硬化剤を含まず、含まれる原料の熱による架橋、硬化を行うことも可能である。
【0042】
硬化剤の使用量に特に制限はないが、一般的には組成物100質量部に対し、0.01~10質量部が好ましい。組成物は、硬化剤や溶剤を除くことが好ましい。過酸化物(パーオキサイド)、アゾ系重合開始剤等の硬化剤を用いる場合には、その半減期を考慮し、適切な温度、時間で硬化処理を行う。この場合の条件は、硬化剤に合わせて任意であるが、一般的には50℃から200℃程度の温度範囲が適当である。
【0043】
本発明のワニスは、(b)成分こと「炭化水素系エラストマー、ポリフェニレンエーテル系樹脂、芳香族ポリエン系樹脂から選ばれる単数又は複数の樹脂」の合計を、好ましくは共重合体100質量部に対し1~200質量部の範囲で含むことができる。これら(b)成分の添加により、本ワニスから得られる硬化体の力学物性が向上する効果が得られる。
【0044】
<炭化水素系エラストマー>
本発明の組成物に用いる炭化水素系エラストマーの使用量は、共重合体100質量部に対し、1~200質量部が好ましく、1~100質量部がより好ましく、1~50質量部が最も好ましい。本発明の組成物に好適に用いることができる炭化水素系エラストマーは、数平均分子量が100以上100000以下であることが好ましく、1000以上4500以下であることがより好ましい。本発明の組成物に好適に用いることができる炭化水素系エラストマーとしては、好ましくは、エチレン系やプロピレン系のエラストマー、共役ジエン系重合体や芳香族ビニル化合物-共役ジエン系のブロック共重合体又はランダム共重合体、及びこれらの水素化物(水添物)から選ばれる単数又は複数のエラストマーである。エチレン系エラストマーとしては、エチレン-オクテン共重合体やエチレン-1-ヘキセン共重合体等のエチレン-αオレフィン共重合体、EPR、EPDMが挙げられ、プロピレン系エラストマーとしては、アタクティックポリプロピレン、低立体規則性のポリプロピレン、プロピレン-1-ブテン共重合体等のプロピレン-αオレフィン共重合体が挙げられる。これらの炭化水素系エラストマーは、無水マレイン酸等の化合物と反応させることにより官能基を導入する等の変性がされていてもよい。
【0045】
共役ジエン系重合体としては、ポリブタジエンや1,2-ポリブタジエン等が挙げられる。芳香族ビニル化合物-共役ジエン系のブロック共重合体又はランダム共重合体、及びこれらの水素化物(水添物)としては、SBS、SIS、SEBS、SEPS、SEEPS、SEEBS等が例示できる。好適に用いることができる1,2-ポリブタジエンは、例えば、日本曹達株式会社から、液状ポリブタジエン:製品名B-1000、2000、3000の製品名で入手できる。また、好適に用いることができる1,2-ポリブタジエン構造を含む共重合体としては、TOTAL CRAY VALLEY社の「Ricon100」が例示できる。これらの共役ジエン系重合体やその水素化物は、無水マレイン酸等の化合物で官能基を導入する等の変性がされていてもよい。これら炭化水素系エラストマーから選ばれる単数又は複数の樹脂が、特に室温(25℃)で液状(概ね300000mPa・s以下)の場合、未硬化状態での取扱性や成形加工性(熱可塑性樹脂としての取り扱い性)の観点から、その使用量は、共重合体100質量部に対し、好ましくは150質量部以下、より好ましくは1~30質量部、最も好ましくは1~20質量部の範囲である。
【0046】
<ポリフェニレンエーテル>
ポリフェニレンエーテル(「ポリフェニレンエーテル系樹脂」とも称する)としては、市販の公知のポリフェニレンエーテルを用いることができる。ポリフェニレンエーテルの数平均分子量は任意であり、組成物の成形加工性を考慮すると数平均分子量は好ましくは1万以下、最も好ましくは5000以下である。数平均分子量は好ましくは500以上である。
【0047】
また、本発明の組成物の硬化を目的とした添加の場合、分子末端が官能基で変性されていることが好ましい。また、本発明の組成物の硬化を目的とした添加の場合、一分子内に複数の官能基を有していることが好ましい。例えば、変性ポリフェニレンエーテルとすることが好ましい。官能基としては、ラジカル重合性の官能基、エポキシ基等の官能基が挙げられ、好ましくは、ラジカル重合性の官能基である。ラジカル重合性の官能基としては、ビニル基が好ましい。ビニル基としては、アリル基、(メタ)アクリロイル基、芳香族ビニル基からなる群の一種以上が好ましく、(メタ)アクリロイル基、芳香族ビニル基からなる群の一種以上がより好ましく、芳香族ビニル基が最も好ましい。つまり、本発明の組成物においては、分子鎖の両末端がラジカル重合性の官能基で変性されている二官能性ポリフェニレンエーテルが特に好ましい。このようなポリフェニレンエーテルとしてはSABIC社のNoryl(商標)SA9000(両末端にメタクリロイル基を有する変性ポリフェニレンエーテル、数平均分子量2200)や三菱ガス化学社製二官能ポリフェニレンエーテルオリゴマー(OPE-2St、両末端にビニルベンジル基を有する変性ポリフェニレンエーテル、数平均分子量1200)等が挙げられる。また、旭化成社のアリル化PPEも用いることができる。これらの中で好ましくは三菱ガス化学社製二官能ポリフェニレンエーテルオリゴマー(OPE-2St)を用いることができる。本発明の組成物に用いるポリフェニレンエーテルの使用量は、共重合体100質量部に対し、1~200質量部が好ましく、1~100質量部がより好ましい。
【0048】
<芳香族ポリエン系樹脂>
芳香族ポリエン系樹脂とは、日鉄ケミカル&マテリアル社製、ジビニルベンゼン系反応性多分岐共重合体(PDV、ODV)を包含する。このような多分岐共重合体は、例えば文献「多官能芳香族ビニル共重合体の合成とそれを用いた新規IPN型低誘電損失材料の開発」(川辺正直他、エレクトロニクス実装学会誌 p125-129、Vol.12 No.2(2009))、米国特許第8404797号明細書、国際公開第2018/181842号に記載されている。また芳香族ポリエン系樹脂としては、上述した芳香族ポリエン単量体を主構成単位とする芳香族ポリエン重合体樹脂も挙げられる。本発明の組成物に用いる芳香族ポリエン系樹脂の使用量は、共重合体100質量部に対し、1~200質量部が好ましく、1~100質量部がより好ましく、1~50質量部が最も好ましい。芳香族ポリエン系樹脂のこれら範囲内の量の使用は、組成物から得られる硬化体の力学物性の調整に有効であり、他の部材との接着性の低下や靱性の低下を防ぐために好ましい。200質量部以下だと脆性を発現せず、他の部材との接着性を向上させる。
【0049】
<(c)極性単量体>
本発明の組成物に用いることができる極性単量体は、好ましくは共重合体100質量部に対し100質量部以下である。なお本組成物は実質的に単量体を含まなくても良い。極性単量体とは、分子内に酸素、窒素、リン、硫黄から選ばれる単数又は複数の原子を有する単量体であり、好適に用いることができる極性単量体は、分子量5000未満が好ましく、1000未満がより好ましく、500未満がさらに好ましい。本発明の組成物に好適に用いることができる極性単量体は、ラジカル重合開始剤により重合させることが可能な極性単量体が好ましい。極性単量体としては、各種のマレイミド類、ビスマレイミド類、無水マレイン酸、トリアリルイソシアヌレート、グリシジル(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。本発明に使用可能なマレイミド類、ビスマレイミド類は例えば国際公開第2016/114287号や特開2008-291227号公報に記載されており、例えば大和化成工業株式会社、日本化薬株式会社、Designer molecules inc社から購入できる。また信越化学工業社製ビスマレイミド系樹脂「SLK」も用いることができる。これらマレイミド基含有化合物は、有機溶剤への溶解性、高周波特性、導体との高接着性、プリプレグの成形性等の観点から、ビスマレイミド類が好ましい。これらマレイミド基含有化合物は、有機溶媒への溶解性、高周波特性、導体との高接着性、プリプレグの成形性等の観点から、ポリアミノビスマレイミド化合物として用いてもよい。ポリアミノビスマレイミド化合物は、例えば、末端に2個のマレイミド基を有する化合物と分子中に2個の一級アミノ基を有する芳香族ジアミン化合物とをマイケル付加反応させることにより得られる。少量の添加で高い架橋効率を得ようとする場合、二官能基以上の多官能基を有する極性単量体の使用が好ましく、ビスマレイミド類、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが例示できる。本発明の組成物に用いる極性単量体の量は、共重合体100質量部に対し、0.1~20質量部が好ましく、0.1~10質量部がより好ましい。この範囲の量の使用により、得られる硬化体の誘電率や誘電正接が高くなりすぎない効果が得られ、例えば誘電率は4.0以下、好ましくは3.0以下に、誘電正接は0.005以下、好ましくは0.002以下に抑えることが可能となる。
【0050】
また本発明の組成物は必要に応じて、前記スチレン等の「芳香族ビニル化合物」や、前記ジビニルベンゼン等の「芳香族ポリエン」や、「芳香族ビニレン化合物」も適宜添加することができる。これらの添加量は任意であるが、好ましくは共重合体100質量部に対し100質量部以下である。なお芳香族ビニレン化合物は、炭素数9~30の単数の芳香族環又は複数の縮合した芳香族環と、ビニレン基とを共に有する化合物を指す。このような芳香族ビニレン化合物としては、インデン類、ベータ置換スチレン類、アセナフチレン類等が挙げられる。インデン類としては、インデン、各種アルキル置換インデンやフェニル置換インデン類等が挙げられる。ベータ置換スチレン類としては、βメチルスチレン等のβアルキル置換スチレン、又はフェニル置換スチレン等が挙げられる。アセナフチレン類としては、アセナフチレン、各種アルキル置換アセナフチレン、各種フェニル置換アセナフチレン類等が挙げられる。芳香族ビニレン化合物としては、前記例示の化合物を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。前記芳香族ビニレン化合物は常圧で175℃以上の沸点を有するものが好ましい。工業的な入手性やラジカル重合性の観点からは、芳香族ビニレン化合物としてアセナフチレンが最も好ましい。
【0051】
本発明の組成物は、さらに(d)充填剤、(e)難燃剤から選ばれる単数又は複数を含んでよい。
【0052】
<充填剤>
必要に応じて公知の無機、あるいは有機充填剤を添加することができる。これら充填剤は、熱膨張率コントロール、熱伝導性のコントロール、低価格化を目的として添加され、その使用量は目的により任意である。特に無機充填剤の添加の際には、公知の表面変性剤、例えばシランカップリング剤等を用いることが好ましい。特に、本発明の目的の一つである、低誘電率、低誘電損失性に優れた組成物を目的とする場合、無機充填剤としてはボロンナイトライド(BN)又はシリカからなる一種以上が好ましく、シリカがより好ましい。シリカとしては、溶融シリカが好ましい。低誘電特性という観点からは、大量に添加配合すると特に誘電率が高くなってしまうため、好ましくは共重合体100質量部に対して500質量部未満、さらに好ましくは400質量部未満の充填剤を用いる。さらには低誘電特性(低誘電率、低誘電損失正接)を改善、向上させるために中空の充填剤や空隙の多い形状の充填剤を添加しても良い。
充填剤の平均粒子径(d50)は0.01~100μmが好ましく、0.1~10μmがより好ましく、0.3~1μmが最も好ましい。d50は累積体積50%の値である。平均粒子径(d50)は、レーザー回折式粒度測定器(ベックマン・コールター社「モデルLS-230」型)から得られる体積粒度分布曲線より求められる。
比表面積は1~30m2/gが好ましく、3~10m2/gがより好ましい。
比表面積は以下の方法により測定される。測定用セルに試料を1g充填し、Mountech社製 Macsorb HM model-1201全自動比表面積系測定装置(BET一点法)により比表面積を測定する。測定前の脱気条件は、200℃-10分である。吸着ガスは窒素とする。
当該樹脂成分と充填剤の体積比は98~15:2~85の範囲であり、好ましくは85~15:15~85の範囲であり、より好ましくは85~30:15~70の範囲であり、さらに好ましくは80~60:20~40の範囲であってよい。
【0053】
また、無機充填剤の替わりに、高分子量ポリエチレン又は超高分子量ポリエチレン等の有機充填剤を用いることも可能である。有機充填剤はそれ自身架橋していることが耐熱性の観点からは好ましく、微粒子あるいは粉末の状態で配合されるのが好ましい。これら有機充填剤は、誘電率、誘電正接の上昇を抑えることができる。
【0054】
一方、本発明の組成物に1GHzにおける誘電率が好ましくは4~10000、より好ましくは5~10000の高誘電率絶縁体充填剤を混合し分散することによって誘電正接(誘電損失)の増大を抑制しつつ、誘電率が好ましくは4~20の高誘電率絶縁層を有する絶縁硬化体を作成できる。絶縁硬化体からなるフィルムの誘電率を高くすることによって回路の小型化、コンデンサの高容量化が可能となり高周波用電気部品の小型化等に寄与できる。高誘電率、低誘電正接の絶縁層はキャパシタ、共振回路用インダクタ、フィルター、アンテナ等の用途に適する。本発明に用いる高誘電率絶縁体充填剤としては、無機充填剤、又は、絶縁処理を施した金属粒子が挙げられる。具体的な例は、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等公知の高誘電率無機充填剤であり、他の例は例えば特開2004-087639号公報に具体的に記載されている。
【0055】
<難燃剤>
本発明の組成物には難燃剤を使用できる。好ましい難燃剤は、低誘電率、低誘電正接を保持する観点から、リン酸エステル又はこれらの縮合体等の有機リン系、臭素系難燃剤、赤リンから選ばれる一種以上である。特にリン酸エステルの中でも、分子内にキシレニル基を複数有する化合物が、難燃性と低誘電正接性の観点から好ましい。
【0056】
さらに難燃剤以外に難燃助剤として三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ等のアンチモン系化合物又はメラミン、トリアリル-1,3,5-トリアジン-2,3,4-(1H,3H,5H)-トリオン、2,4,6-トリアリロキシ1,3,5-トリアジン等の含窒素化合物を添加しても良い。これら難燃剤、難燃助剤の合計は、組成物100質量部に対して通常は1~100質量部が好ましい。また、前記ポリフェニレンエーテル(PPE)系の低誘電率かつ難燃性に優れる樹脂を難燃剤100質量部に対し、30~200質量部使用してもよい。
【0057】
本発明の組成物は、さらに、(f)溶剤を含むことができる。また、本発明の組成物のうち、溶剤を含むことで特に液状であるものをワニスと呼ぶ。
【0058】
<溶剤>
本発明の組成物に対し、必要に応じて適切な溶剤を添加してもよい。またその使用量は、特に限定されない。溶剤は、組成物の粘度、流動性を調節するために用いる。特に、本発明の組成物がワニス状の場合、溶剤が好ましく使用される。溶剤としては、大気圧下での沸点が低すぎると、すなわち揮発性が高すぎると、塗布した膜の厚さが不均一になってしまう恐れがあるため、ある程度以上の沸点の溶剤が好ましい。好ましい沸点は大気圧下で概ね100℃以上、さらに好ましくは110℃以上300℃以下である。溶剤としては例えば、シクロヘキサン、トルエン(沸点110℃)、エチルベンゼン、キシレン、メシチレン、テトラリン、アセトン、リモネン、混合アルカン、混合芳香族系溶媒等が用いられる。本発明の組成物に用いる溶剤の使用量は任意であるが、共重合体100質量部に対し、5~500質量部が好ましく、10~300質量部がより好ましく、50~150質量部が最も好ましい。
【0059】
本発明の組成物やワニスは、本発明の効果、目的を阻害しない範囲で、通常樹脂に用いられる添加剤、例えば酸化防止剤、耐候剤、光安定剤、滑剤、相溶化剤、帯電防止剤等を含むことができる。本発明の組成物やワニスは、前記の各種添加物を混合・溶解又は溶融して得られるが、混合、溶解、溶融の方法は任意の公知の方法が採用できる。
【0060】
<ワニス>
本発明のワニスは、用いる共重合体の組成や分子量の調整や本発明の範囲内での液状単量体や溶剤の一定量以上の添加、あるいは液状の難燃剤の添加により室温、又は100℃以下の加温により粘稠な液状を示すことが可能で、例えば室温で数十万mPa・s以下、好適には2000mPa・s以下、より好適には1000mPa・s以下、最も好適には500mPa・s以下の粘度を有する。ここで、粘度は、例えば、回転式粘度計により測定される。具体的には適当な方法で他の素材に塗布、含浸、充填、あるいは滴下し、溶剤を除くことで成形体とすることができる。さらに熱や光により硬化させて目的の硬化体を得ることができる。このような性状は、各種トランスファー成形(圧入成形)したり、基板や半導体デバイス材料の上又は間に塗布したり、押出ラミネーション、又はスピンコートでシート、フィルムに成形し、その後に硬化したりすることで、絶縁層Iを含む多層構造を形成できる。
【0061】
<絶縁層を含む多層構造体>
本発明の組成物から得られる絶縁層の成形体は、シート形状である。その厚さは任意であるが、好ましくは10μm~1mmの範囲である。これら組成物は、熱可塑性樹脂の性状を示すことができる。そのため、架橋を起こさない条件下、熱可塑性樹脂としての公知の成形加工方法、例えば押出成形、射出成形、プレス成形、インフレーション成形等により、実質的に未硬化の状態でシート等の形状に成形でき、その後に他の層と積層して架橋(硬化)させることができる。また、例えば組成物がワニスの場合、他の基材の例えば銅箔平滑面上に塗布した後に溶剤を加熱、減圧、風乾等により除去し、シートやフィルム形状の成形体とし、その後積層して架橋(硬化)させることができる。多孔性の基材や織布、不織布に、本発明のワニスを含浸させ溶剤を除去し、複合体シートを得てこれを前記多層構造体とすることも可能である。これらシートは、シート形状を維持できる程度に未硬化(半硬化)であるか、又は完全硬化後のものであってもよい。組成物の硬化の程度は、公知の動的粘弾性測定法(DMA、Dynamic Mechanical Analysis)により定量的に測定可能である。
【0062】
<硬化>
上述した多層構造体の硬化は、含まれる原料や硬化剤の硬化条件(温度、時間、圧力、光)を参考に、公知の方法で硬化を行うことができる。用いられる硬化剤が過酸化物の場合は、一般には過酸化物ごとに開示されている半減期温度等を参考に、加熱条件等の硬化条件を決定することができる。
【0063】
<多層構造体の硬化体>
本発明の多層構造体の硬化体は十分に硬化させることができ、その絶縁層の硬化体のASTMに準拠して測定したゲル分は90質量%以上であってよい。また本絶縁層の硬化体は10~50GHzの測定範囲において、特に好ましくは10GHzにおいて、誘電率は3.0以下2.0以上が好ましく、2.8以下2.0以上がより好ましく、2.5以下2.0以上が最も好ましい。誘電正接は0.003以下0.0005以上が好ましく、0.002以下0.0008以上がより好ましい。また、得られる本絶縁層の硬化体の体積抵抗率は、好ましくは1×1015Ω・cm以上、吸水率は0.1質量%以下であると、電気絶縁材として好ましい。これらの値は、例えば、3GHz以上の高周波用電気絶縁材料として特に好ましい値である。
【0064】
本多層構造体に含まれる絶縁層の硬化体は、配線用の銅箔の平滑面に対しても高い接着性を有する。その接着強度は、好ましくは0.8N/mm以上、さらに好ましくは1.0N/mm以上である。そのため、特に層間絶縁材やカバーレイとして好ましい。多層のCCLやFCCLに用いられる層間絶縁材は、少なくともその一部、又は少なくとも一面が銅箔の平滑面に接着する必要がある。上記組成物の硬化体は銅箔平滑面と高い接着性を示すためにその用途として好ましい。またカバーレイはその下面が基板上の銅箔平滑面と接着する必要があるので、やはり本組成物の硬化体は銅箔平滑面と高い接着性を示すために好ましいと言える。
【0065】
本発明の多層構造体を有する高周波伝送ライン、アンテナ、多層基板(CCL、FCCL)の製造方法としては、例えば以下の様な方法がある。銅箔粗化面と接着することで上面に開放された銅箔平滑面を有するようにした基板(樹脂層)の上に、ワニスとして組成物を塗布し溶剤を除去し、絶縁層を形成した後にさらに別の樹脂層の面を重ねて多層構造を形成し、これを適切な温度、加圧条件下で処理し硬化、接着させ、多層基板を作成する方法が挙げられる。あるいは、銅箔粗化面と接着することで上面に開放された銅箔平滑面を有するようにした基板(樹脂層)の上に、あらかじめ作成しておいた未硬化シートを絶縁層として設置し、さらに別の樹脂層の面を重ねて多層構造を形成し、これを適切な温度、加圧条件下で処理し硬化、接着させ、多層基板を作成する方法も例示できる。
【0066】
カバーレイを有する基板の製造方法としては、例えば以下の様なプロセスがある。銅箔粗化面と接着することで上面に開放された銅箔平滑面を有するようにした基板の上に、ワニスとして組成物を塗布し溶剤を除去したのちに所定の条件で加圧、加熱して絶縁層を硬化し、カバーレイを形成する方法が挙げられる。又は、銅箔粗化面と接着することで上面に開放された銅箔平滑面を有するようにした基板の上に、あらかじめ作成した組成物の未硬化シートを重ね、加圧、加熱することで、絶縁層を硬化、接着する方法も例示できる。
【0067】
本発明は別な観点からは、主要成分としてオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体を含み、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体に対しシランカップリング剤を0.001~10質量部含む組成物の硬化体を含む層間絶縁材であり、また本層間絶縁材を含む、マイクロストリップライン等の高周波伝送ライン、アンテナ、多層CCL基板又は多層FCCL基板を提供できる。本層間絶縁材層は、少なくともその一部又はその一つの面が銅箔平滑面と接している層間絶縁材である。本層間絶縁材からなる層は、良好な低誘電性能と耐熱性、そして基板の銅箔平滑面との高い接着性が特徴である。
【0068】
本発明は別な観点からは、主要成分としてオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体を含み、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体に対しシランカップリング剤を0.001~10質量部含む組成物の硬化体を含むカバーレイであり、また本カバーレイを含む基板である。本カバーレイは、少なくともその下面が基板の銅箔平滑面と接している。本カバーレイは、前記良好な低誘電性能と耐熱性、そして基板の銅箔平滑面との高い接着性が特徴である。
【0069】
また、本発明の絶縁層と、CCLやFCCLに使用される他の樹脂系材料である樹脂層との接着は、公知の方法を用いることができる。例えば、あらかじめ樹脂層に対しコロナ処理やプラズマ処理を行い、表面を活性化する方法や、表面に凹凸を形成し粗化させる方法が例示できる。さらに本発明の組成物からなる絶縁層は、例えばポリイミド(PI)、液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、多官能芳香族ビニル樹脂(ODV)、エポキシ樹脂、又は絶縁層Iと同じ組成物の各樹脂やそのシートに対しても、表面変性剤を添加しない場合と比較し、高い接着強度を示すことが可能である。特に、前記のようにこれら樹脂シートの表面がコロナ処理やプラズマ処理等の表面処理により処理されている場合に、より高い接着性を期待することができる。
【実施例0070】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。合成例、比較合成例で得られた共重合体の分析は以下の手段によって実施した。
【0071】
共重合体中のエチレン、ヘキセン、スチレン、及びジビニルベンゼン由来のビニル基単位の含有量の決定は、1H-NMRで、それぞれに帰属されるピーク面積強度から行った。サンプルは重1,1,2,2-テトラクロロエタンに溶解し、測定は、50~130℃で行った。
【0072】
分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)を求めた。測定は以下の条件で行った。
【0073】
カラム:TSK-GEL MultiporeHXL-M φ7.8×300mm(東ソー社製)を2本直列に繋いで用いた。
カラム温度:40℃
溶媒:THF
送液流量:1.0ml/min.
検出器:RI検出器
【0074】
<ゲル分>
ASTM D2765-84に従い、沸騰トルエン不溶分としてのゲル分を求めた。
【0075】
<吸水率>
ASTM D570-98に準拠し、純水中に23℃、24時間浸漬後の吸水率を測定した。
【0076】
<誘電率及び誘電損失(誘電正接)>
誘電率、誘電正接は空洞共振器摂動法(アジレント・テクノロジー社製8722ES型ネットワークアナライザー、関東電子応用開発社製空洞共振器)を使用し、シートから切り出した1mm×1.5mm×80mmのサンプルを用い、23℃、10GHzでの値を測定した。
【0077】
<体積抵抗率>
厚さ約0.5mmのフィルムを用い、JIS K6911:2006に従い室温で測定した。
【0078】
<絶縁層と銅箔の平滑面との接着強度(ピール強度)>
銅箔は、三井金属鉱業社製(VSP series、TQ-M7-VSP、厚み12μm、粗化面表面粗さRz1.1μm)を使用した。
テフロン(登録商標)シート上に銅箔平滑面を上に設置し、絶縁層Iである未硬化シートを数枚その平滑面上に重ね、その上にSUS製型枠(厚さ0.2mm)を設置し、さらにテフロンシートを重ね、プレス機にて5MPaの荷重をかけ、120℃30分、150℃30分、その後200℃120分加熱処理し硬化させた。ここで、絶縁層Iは後述する実施例や比較例の未硬化シートである。硬化後、テフロンシート及び型枠を外し、シートと銅箔を接着硬化させた多層構造体を得た。銅箔との接着強度測定は日本工業規格(JIS)C6471:1995に準じ、剥離は180°剥離にて評価した。参考として、上記方法で、テフロンシート上に銅箔粗化面を上に設置し、未硬化シートを数枚その粗化面に重ねることで、銅箔粗化面と接着硬化させた積層体を得て同様に接着強度測定を行った。
【0079】
<共重合体の製造>
合成例P-1、P-2
特開2009-161743号公報、特開2010-280771号公報記載の製造方法を参考に、触媒として、Rac-ジメチルメチレンビス(4,5-ベンゾ-1-インデニル)ジルコニウムジクロライド(構造は下記式(1)参照)、助触媒としてモディファイドメチルアルミノキサン(東ソー・ファインケム社製、MMAO-3Aトルエン溶液)、溶媒としてシクロヘキサン、原料としてスチレン、ジビニルベンゼン、エチレン、必要に応じて1-ヘキセンを用い、容量10L、攪拌機及び加熱冷却用ジャケット付のオートクレーブを使用して重合を行った。得られた重合液に、1-イソプロパノールを投入し、その後、大量のメタノールを投入して共重合体を回収した。この共重合体を風乾し、さらに30℃で1昼夜真空乾燥し共重合体P-1、P-2を得た。表1に共重合体の組成、数平均分子量を示す。
【0080】
【0081】
合成例P-3
特開平9-40709号公報、特開平9-309925号公報、特開2009-161743号公報、及び特開2010-280771号公報記載の製造方法を参考に、触媒としてジメチルメチレンビスシクロペンタジエニルジルコニウムジクロライド(構造は下記式(2)参照)、助触媒として修飾メチルアルミノキサン(東ソー・ファインケム社製、MMAO-3Aトルエン溶液)、溶媒としてシクロヘキサン、原料としてスチレン、ジビニルベンゼン、エチレンを用い、容量10L、攪拌機及び加熱冷却用ジャケット付のオートクレーブを使用して重合を行った。得られた重合液に、1-イソプロパノールを投入し、その後、大量のメタノールを投入して共重合体を回収した。この共重合体を、大きな容器に薄く拡げ30℃で2昼夜真空乾燥した。表1に共重合体P-3の組成、数平均分子量を示す。
【0082】
【0083】
また、他の原料は以下の通りである。
二官能ポリフェニレンエーテルオリゴマー(OPE-2St、数平均分子量1200)は、三菱ガス化学社製のトルエン溶液製品を、さらにトルエンで希釈し、さらに大量のメタノールを加えメタノール析出を行い、風乾後、減圧乾燥することで、粉末状のポリフェニレンエーテルオリゴマーを得て用いた。1,2-ポリブタジエンとして、日本曹達社製「B-3000」、数平均分子量3200、粘度210Poise(21000mPa・s、45℃)を用いた。BMIは大和化成工業社製BMI-5100(3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド)を用いた。シランカップリング剤は、信越シリコーン社製KBM-503(3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)、KBM-403(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)、KBM-1403(p-スチリルトリメトキシシラン)を用いた。硬化剤は、日油社製パーヘキシン25B(有機過酸化物、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3)を用いた。
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
実施例1
加熱、冷却ジャケット、攪拌翼付きの容器を用い、合成例で得られたP-1(エチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体)と溶剤(トルエン)、シランカップリング剤KBM-503を表2の割合で約40℃に加熱して攪拌し共重合体を溶解した。さらに、硬化剤(ジクミルパーオキシド)を、硬化剤、溶剤、シランカップリング剤を除く樹脂成分100質量部に対して1質量部加えて溶解し攪拌混合しワニス状の組成物を得た。得られた組成物をガラス板上に設置したテフロンシート上のシリコン製型枠(枠部分長さ7cm、幅7cm、厚さ0.5mm、1.0mm、又は2.0mm)に流し込み、風乾後、さらに真空乾燥機中にて60℃で3時間以上乾燥させ、未硬化のシートを得た。さらに、得られた未硬化シートを、プレス機にて5MPaの荷重下、テフロンシートとSUS製型枠を設置し、120℃30分、150℃30分、その後200℃120分加熱処理し、テフロンシートとSUS製型枠を除いて硬化シートを得た。
【0088】
実施例2~9、比較例1、2
実施例1と同様の手順で、表2又は表3の配合(表中の単位は質量部)で硬化性組成物を調製し、同様の手順で、実施例、比較例の組成物の未硬化シート及び硬化シートを得た。
【0089】
硬化シートのゲル分、誘電率、誘電正接、吸水率、体積抵抗率を表2及び表3に示す。
また前記方法で求めた、銅箔平滑面と絶縁層Iからなる多層構造体の硬化体の界面の接着強度を測定しその結果を表2及び表3に示す。ここで、絶縁層Iは実施例や比較例の未硬化シートである。実施例の場合、銅箔平滑面と絶縁層Iの界面の接着強度を測定したところ、接着強度が高すぎ、1N/mm以上の値を示したところで樹脂部分の破断(材破)や伸びきり、又は銅箔の破断(材破)が起こった。すなわちこれらの場合、接着強度は1N/mm以上であった。これに対し、比較例1、2はそれぞれ0.4N/mm、0.3N/mmの値を示した。参考として、同様に銅箔の粗化面と絶縁層Iの界面の接着強度を同様に測定したが、実施例、比較例すべてのサンプルで前記同様、接着強度は1N/mm以上を示した。すなわち本実施例に関わる組成物は、銅箔平滑面と粗化面両面に対し共に高い接着強度を示す硬化体を与えることができる。
【0090】
実施例10
実施例1と同様の装置を用い、P-1(エチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体)とトルエン、シランカップリング剤KBM-503、硬化剤(ジクミルパーオキシド)を、本樹脂成分100質量部に対して1質量部加えて溶解し、攪拌混合し、ワニス状の組成物を得た。これにシリカフィラー(デンカ社製SFP-130MC、d50=0.6μm、比表面積6.2m2/g、密度2.2g/cm3)を加え攪拌しスラリー状のワニスとした。樹脂成分70vol%(体積%)に対し30vol%のシリカフィラーを用いた。硬化剤は、硬化剤、溶媒、シランカップリング剤、フィラー以外の樹脂原料の合計100質量部に対し1質量部添加した。
【0091】
実施例11
図2に示す構造(2)を作成した。ここでは、樹脂層Aがポリイミドからなり、絶縁層I及び樹脂層Bが本発明の共重合体を含む組成物からなるようにした。
ポリイミド(PI)シート上に銅箔の粗化面が接着している多層シート(市販品、ユピセルN、ポリイミドフィルム25μm、電解銅箔18μm、片面銅張タイプ)を準備した。さらに、実施例10と同様にして得られた厚さ500μmの未硬化シートを用意した。銅箔は、三井金属鉱業株式会社製(VSP series、TQ-M7-VSP)を用いた。ポリイミド(PI)シート上に銅箔の粗化面が接着している多層シートが有する開放銅箔平滑面上に、実施例5と同様にして得られた未硬化シート、厚さ100μm(絶縁層I)を載せ、さらにその未硬化シート上に前記実施例10で得られた厚さ100μmの未硬化シート(樹脂層B)を載せ、さらにその上に銅箔の粗化面が樹脂層Bと接するように銅箔を載せた。薄いテフロンシートを上記銅箔平滑面と実施例5の未硬化シート(絶縁層I)との間に一部分差し込み、実施例1と同様にプレス機で加圧下、同条件で硬化し、下から樹脂層A(ポリイミド)/銅箔/絶縁層I/樹脂層B(実施例10)/銅箔の順で積層、接着された多層構造シートを得た。硬化後、差し込んだテフロンシートを抜き取ることで引張試験のきっかけを作り、銅箔平滑面と絶縁層I間での接着強度を求めた。同様に薄いテフロンシートを絶縁層Iと樹脂層Bとの間に一部分差し込み、同様に硬化して得られた多層構造シートの絶縁層Iと樹脂層B間の接着強度を求めた。何れのサンプルも1N/mm以上の接着強度を示したところで樹脂部分の破断(材破)や伸びきり、又は銅箔の破断(材破)が起こった。すなわちこれらの場合、銅箔平滑面と絶縁層I間、絶縁層Iと樹脂層B間の接着強度は何れも1N/mm以上であった。また別途測定した市販品のポリイミド(PI)と銅箔粗化面間の接着強度も1N/mm以上であった。以上から本発明の多層構造体は各界面間で強固な接着強度を有することがわかる。
【0092】
実施例12
図3に示す構造(4)を作成した。ここでは、絶縁層Iが本発明の共重合体を含む組成物、樹脂層A、Bがともにポリイミド(PI)からなるようにした。ポリイミド(PI)シート上に銅箔の粗化面が接着している多層シート(市販品、実施例11と同じ)の開放銅箔平滑面上に、実施例6と同様にして得られた未硬化シート、厚さ100μm(絶縁層I)を載せ、さらにその上にポリイミド(PI)シート上に銅箔の粗化面が接着している多層シート(市販品)を、開放銅箔平滑面が接するように載せ、実施例1と同様にプレス機で加圧下、同条件で硬化し、下から樹脂層A(ポリイミド)/銅箔/絶縁層I/銅箔/樹脂層B(ポリイミド)の順で積層、接着された多層構造シートを得た。実施例11と同様に、あらかじめ硬化前に薄いテフロンシートを上記銅箔平滑面と実施例6の未硬化シート(絶縁層I)の間に一部分差し込んでおき、薄いテフロンシートを抜き取ることで引張試験のきっかけを作り、銅箔平滑面と絶縁層I間での接着強度を求めた。その結果、1N/mm以上の接着強度を示したところで樹脂部分の破断(材破)が起こった。すなわち本銅箔平滑面と絶縁層I間の接着強度は1N/mm以上であった。
【0093】
実施例13
図1に示す基本単位構造を作成した。ここでは、絶縁層Iが本発明の共重合体の組成物からなり、樹脂層Aがポリイミドであるようにした。ポリイミド(PI)シート上に銅箔の粗化面が接着している多層シート(市販品、実施例11と同じ)の開放銅箔平滑面上に、実施例2と同様にして得られた未硬化シート、厚さ500μm(絶縁層I)を載せ、薄いテフロンシートを銅箔平滑面と未硬化シート(絶縁層I)の間に一部分差し込み、実施例1と同様にプレス機で加圧下、同条件で硬化接着し、樹脂層A(ポリイミド)/銅箔/絶縁層Iからなる多層構造の硬化シートを得た。差し込んだテフロンシートを抜き取ることで引張試験のきっかけを作り、銅箔平滑面と絶縁層I間の接着強度を求めた。その結果1N/mm以上の接着強度を示したところで樹脂部分の破断(材破)や伸びきり、又は銅箔の破断(材破)が起こった。すなわち、平滑面と絶縁層I間での接着強度は1N/mm以上であった。
【0094】
実施例14
図1に示す基本単位構造を作成した。銅箔は、三井金属鉱業株式会社製(VSP series、TQ-M7-VSP)を用いた。ここでは、絶縁層Iと樹脂層Aが共に本発明の共重合体の組成物からなるようにした。実施例10と同様にして得られた未硬化シート、厚さ500μm(樹脂層A)上に粗化面が接するように銅箔を載せ、その平滑面上にさらに実施例2と同様にして得られた未硬化シート、厚さ500μm(絶縁層I)を載せ、薄いテフロンシートを銅箔平滑面と未硬化シート(絶縁層I)の間に一部分差し込み、実施例1と同様にプレス機で加圧下、同条件で硬化接着し、樹脂層A(実施例10)/銅箔/絶縁層Iからなる多層構造の硬化シートを得た。差し込んだテフロンシートを抜き取ることで引張試験のきっかけを作り、銅箔平滑面と絶縁層I間の接着強度を求めた。その結果1N/mm以上の接着強度を示したところで樹脂部分の破断(材破)や伸びきり、又は銅箔の破断(材破)が起こった。すなわち、平滑面と絶縁層I間での接着強度は1N/mm以上であった。
【0095】
本発明の組成物からなる絶縁層の硬化体は、高いゲル分を示し十分に硬化しており、かつ低い誘電率、低い誘電正接、低い吸水率、高い抵抗率を示すことができる。本発明の多層構造の硬化体は銅箔粗化面に加え、銅箔平滑面に対しても高い接着強度を示すことができる。そのため、各層間は高い接着性を有することが可能で、本多層構造の硬化体は、高周波伝送ライン、多層CCL、多層FCCL、又はアンテナの層間絶縁層(層間絶縁材)やカバーレイとして有用である。