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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063070
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】組織脱細胞化の方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20240501BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240501BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20240501BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240501BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20240501BHJP
   A61F 2/02 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
C12N5/071
C12Q1/02
A61L27/36 100
A61L27/36 130
A61P43/00 111
A61K35/12
A61F2/02
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024026243
(22)【出願日】2024-02-26
(62)【分割の表示】P 2020563767の分割
【原出願日】2019-05-14
(31)【優先権主張番号】1807788.3
(32)【優先日】2018-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】507299817
【氏名又は名称】ユーシーエル ビジネス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118256
【弁理士】
【氏名又は名称】小野寺 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】ボンファンティ パオラ
(72)【発明者】
【氏名】ジノヴチ アスラン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】総頸動脈のない小葉臓器の少なくとも一部の脱細胞化された細胞外マトリックス(ECM)骨格を作製する方法を提供する。
【解決手段】以下を含む方法を提供する。a)輸入血管を閉鎖して、非ヒトドナーまたは死/脳死ヒトドナー内の総頸動脈および/または主要動脈を伴わずに標的小葉臓器またはその一部を実質的に密封するステップ;b)任意に:(i)閉鎖された輸入血管の少なくとも一部からの凝血および/もしくは血液を洗浄するステップ;ならびに/または(ii)臓器もしくはその部分を潅流して輸入血管の閉鎖を確認するステップ;c)密封された臓器またはその一部をドナーから除去するステップ;ならびにd)密封された臓器またはその一部を洗浄剤および酵素溶液で潅流して脱細胞化されたECM骨格を得るステップ。人工臓器を作製する方法、およびその方法で作製した人工臓器も提供する。
【選択図】図5C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
総頸動脈のない小葉臓器の少なくとも一部の脱細胞化細胞外マトリックス(ECM)骨格を作製する方法であって、前記方法が以下:
a)輸入血管を閉鎖して、非ヒトドナーまたは死/脳死ヒトドナー内の総頸動脈および/または主要動脈を伴わずに標的小葉臓器またはその一部を実質的に密封するステップ;
b)任意に:(i)前記閉鎖された輸入血管の少なくとも一部からの凝血および/もしくは血液を洗浄するステップ;ならびに/または(ii)前記臓器またはその一部を潅流して前記輸入血管の閉鎖を確認するステップ;
c)前記密封された臓器またはその一部を前記ドナーから除去するステップ;ならびに
d)前記密封された臓器またはその一部を洗浄剤および酵素溶液で潅流して脱細胞化されたECM骨格を得るステップ
を含む方法。
【請求項2】
前記洗浄剤が、デオキシコール酸ナトリウム(SDC)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)およびTriton X-100の1つ以上から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記SDC濃度が約1%~約10%(w/v)であるか、または前記SDS濃度が約0.05%~約1%(w/v)であるか、または前記Triton X-100濃度が約0.05%~約5%(w/v)である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記密封された臓器またはその一部を、約1~約4時間洗浄剤で潅流する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記密封された臓器またはその一部を、約0.2ml/分~約1ml/分の速度で洗浄剤で潅流する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記密封された臓器またはその一部が、単一サイクルの間潅流される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記密封された臓器またはその一部が潅流中に溶液中に自由に浮遊している、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
総頸動脈を有しない前記小葉臓器またはその一部が、胸腺またはその葉、甲状腺またはその葉、副甲状腺または唾液腺である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記胸腺を密封するために閉鎖された血管が、右または左総頸動脈、右鎖骨下動脈、右内乳動脈、右肋頸動脈、右大動脈弓、左大動脈弓、左肋頸動脈、左内乳動脈および左鎖骨下動脈、左内乳動脈、左肋頸動脈および左大動脈弓を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記右総頸動脈が閉鎖され、前記胸腺が前記左総頸動脈を介して潅流されるか、または前記左総頸動脈が閉鎖され、前記胸腺が前記右総頸動脈を介して潅流される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記甲状腺を密封するために閉鎖された血管が、上甲状腺動脈との接合後に前記右または左総頸動脈を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
各甲状腺葉が前記右または左総頸動脈を介して潅流される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の方法によって得られるかまたは得ることができる、脱細胞化されたECM骨格。
【請求項14】
人工臓器を作製する方法であって、前記方法が、請求項13に記載の脱細胞化されたECM骨格を、間質細胞、例えば上皮細胞および間葉細胞の組合せとともに再増殖させ、前記再増殖した骨格を約4~約7日間インビトロで培養し、その後、任意に前記再増殖した骨格をドナー細胞とともに播種するステップを含む方法。
【請求項15】
前記脱細胞化されたECM骨格が、約2:1~約5:1の比率で上皮細胞および間葉細胞で再増殖される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項13記載の脱細胞化されたECM骨格を含むか、または請求項14~15のいずれか一項に記載の方法によって得られるかもしくは得ることができる、人工臓器。
【請求項17】
療法に使用するための、請求項16に記載の人工臓器。
【請求項18】
前記人工臓器が胸腺であり、ディジョージ症候群の処置に使用するためのものである、請求項16に記載の人工臓器。
【請求項19】
化合物が薬理学的、免疫学的または毒物学的応答を誘発する能力を試験するためのin vitro方法であって、前記方法が請求項16に記載の人工臓器を前記化合物と接触させることを含む方法。
【請求項20】
臓器移植の方法であって、前記方法が、請求項16に記載の人工臓器を患者に外科的に移植することを含む、方法。
【請求項21】
疾患を処置する方法であって、前記方法が、請求項16に記載の人工臓器をそれを必要とする患者に外科的に移植することを含む、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、総頸動脈および/または主要動脈を持たない小葉臓器の脱細胞化された細胞外マトリックス(ECM)骨格を作製するための方法、そのような方法によって得られるかまたは得ることができる骨格、当該骨格を再増殖するための方法および当該骨格を含む人工臓器に関する。
【背景技術】
【0002】
臓器移植は、多くの患者にとって不可欠な救命処置である。しかし、臓器ドナーの数が増加しているにもかかわらず、臓器の需要を満たすことは依然として可能ではない。全国保健局からの数値は、2016年3月から2017年3月の間に、積極的な移植待機リストに登録されている間に英国で411人の患者が死亡したことを示している。移植拒絶反応の可能性を減らすためには、ドナーおよびレシピエントを組織適合させなければならず、それでもレシピエントの大多数は生涯の残りにわたって免疫抑制を必要とし、その結果、感染症または他の臓器への損傷の危険性が増大するなどの合併症を引き起こし得る。
【0003】
支持骨格上に細胞を播種することを含む臓器バイオエンジニアリングは、臓器移植の分野における発展途上の領域である。現在、血管、膀胱、気道および尿道のような単純な臓器の成功した構築および移植が、可能であった。典型的には、これらの臓器の構築には、自家細胞を単純な生体材料の骨格上に播種することが含まれる。それらの構造的単純性(中空のコアおよび薄肉壁を含む)のために、一旦患者に移植されると、これらの人工臓器は、血管新生が起こるまで、隣接組織からの酸素および栄養素物の拡散によって支持され得る。しかし、より複雑な臓器は拡散によって支持できず、レシピエントの血液供給への接続を必要とし、輸入および遠心性血管を含む人工臓器の開発が課題となっている。
【0004】
腎移植に関連して示唆されているこの問題に対する1つの可能な解決策は、ヒトまたは動物の腎臓の細胞外マトリックス(ECM)から産生される無傷の骨格の使用である。ドナー腎臓を、腎動脈を介する洗浄剤潅流を用いて脱細胞化し、無傷の血管網を有するほか、様々な構造タンパク質および三次元構造を保存するECM骨格を作製した(非特許文献1)。骨格は人工腎臓の開発に有望であることを示す一方、当該著者らは、骨格上の細胞の播種および成長は、移植のための人工腎臓を生産するのを可能にするレベルまではまだ十分に可能になっていないと結論づけた。膵臓の潅流-脱細胞化は、脾静脈および上腸間膜静脈の合流によって形成される前肝門脈のカテーテル挿入により行われている(非特許文献2)。当該著者らは、膵管などの他の循環系を介して臓器を潅流しようと試みても、生存可能な脱細胞化ECM骨格の産生に成功しなかったと述べている。
【0005】
脱細胞化ECM骨格は、人工臓器の開発において有望であることを示すが、特に小葉構造を有し、総頸動脈および/または主要動脈を欠くもののような複雑な構造を有する臓器に対しては、重大な技術的課題が残されている。そのような臓器の1つは胸腺であり、胸腺は2つの葉から形成され、その各々は、甲状腺下動脈および内部胸乳動脈に由来する枝から血液供給を受ける。臓器に供給する総または主要動脈または静脈または管がないため、腎臓または膵臓などの臓器に関連して利用される灌流脱細胞化アプローチを使用することは可能ではない。これまでのところ、臓器を洗浄剤溶液中で機械的に振り混ぜるかまたは回転させることによって胸腺骨格を得ることが可能であったに過ぎず、骨格全体の特徴付けが乏しく、微細な網状構造および血管構造の維持ができなかった(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Katari R.,Peloso A.,Zambon JP.,Sokeer S.,Stratta RJ.,Atala A.,Orlando G.Renal Bioengineering with Scaffolds Generated from Human Kidneys,Nephron Exp.Nephrol.2014;126:119-124
【非特許文献2】Goh SK.,Bertera S.,Olsen P.,Candiello J.,Halfter W.,Uechi G.,Balasubramani M.,Johnson S.,Sicari B.,Kollar E.,Badylak SF.,Banerjee I.Perfusion-decellularised pancreas as a natural 3D scaffold for pancreatic tissue and whole organ engineering.Biomaterials 2013;34(28):6760-6772
【非特許文献3】Fan Y.,Tajima A.,Goh SK.,Geng X.,Gualtierottii G.,Grupillo M.,Coppola A.,Bertera S.,Rudert WA.,Banerjee I.,Bottino R.,Trucco M.Bioengineering Thymus Organoids to Restore Thymic Function and Induce Donor-Specific Immune Tolerance to Allografts,Molecular Therapy 2015;23:1262-1277
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
総頸動脈のない小葉臓器は、典型的には別々の葉として発達し、それらは独立した血管新生した構造として最終的な位置に移動し、その後、葉は結合組織の層を介して互いに接着し得る。臓器全体への、または実際に時々その葉への共通の総頸動脈供給が欠如しているため、これらの臓器からECM骨格を得るために潅流-脱細胞化アプローチを適用することは可能ではなかった。しかし、本発明者らは、このような小葉臓器の全臓器潅流を可能にする技術を開発した。本発明の方法は、輸入血管を閉鎖することにより人工潅流系を作成し、これにより潅流-脱細胞化アプローチを臓器に適用することが可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、第1の態様において、本発明は、総頸動脈を持たない小葉臓器の少なくとも一部の脱細胞化された細胞外マトリックス(ECM)骨格を産生する方法を提供する;この方法は、a)輸入血管を閉鎖して、非ヒトドナーまたは死/脳死ヒトドナー内の総頸動脈および/または主要動脈を伴わずに標的小葉臓器またはその一部を実質的に密封するステップ;b)任意に:(i)閉鎖された輸入血管の少なくとも一部からの凝血および/もしくは血液を洗浄するステップ;ならびに/または(ii)臓器もしくはその部分を潅流して輸入血管の閉鎖を確認するステップ;c)密封された臓器またはその一部をドナーから除去するステップ;ならびにd)密封された臓器またはその一部を洗浄剤および酵素溶液で潅流して脱細胞化されたECM骨格を得るステップを含む。本発明の方法によって提供される新規な人工潅流系アプローチは、血管網を含むECMの微細な網状構造を保存しながら、総頸動脈のない小葉臓器から脱細胞化されたECM骨格を得ることを可能にする。本発明の実施形態において、ECM骨格は、1つの葉または腺などの小葉臓器の一部から得られ、前記葉または腺は、総頸動脈供給を欠いている。
【0009】
本発明の実施形態において、標的臓器またはその一部は、上記実施されているステップa~dの前に、生きたヒトドナーから取り出すことができる。本発明のこの実施形態で得られる脱細胞化ECM骨格は、以下に概説するように利用することができる。
【0010】
標的臓器、またはその一部を実質的に密封することは、臓器または葉に供給する重要な血管が閉鎖され、それにより人工潅流システムが作られることを意味する。典型的には、臓器の潅流を可能にするために、1つまたは2つの血管が、その後のカニューレ挿入のために開いたままにされるであろう。好ましくは、1つの血管のみが、続くカニューレ挿入のために開いたままにされる。血管を閉鎖するための適切な技術は、当業者が熟知している。例えば、輸入血管を、クランプ、縫合または栓をすることができる。本発明の好ましい態様において、輸入血管は結紮される。
【0011】
ドナーは、非ヒトドナー、好ましくはブタのような非ヒト哺乳動物であってもよい。あるいは、ドナーは、脳死、心拍動、呼吸可能な臓器ドナーなどの死/脳死のヒトドナーであってもよい。ヒトドナーは、小児ドナー、成人ドナーまたは老人ドナーであり得る。骨格の供給源は、同種または異種であり得るので、最大脱細胞化が望ましい。しかしながら、ECMが細胞移動、増殖および分化に影響することが示されているので、これは、ECMの完全性および生物活性を保存する必要性と釣り合っていなければならない。ECMの三次元構造、表面トポロジーおよび組成はすべて、これらの効果に寄与している。脱細胞化という用語は、定量的なメトリックによって完全には定義されていない一方、いくつかの最小の基準が提案されており、それらには、ECM乾燥重量1mg当たり50ng未満のdsDNA、200bp未満のDNA断片長、および/または組織の組織学的染色における可視核物質の欠如が含まれる。本発明の方法によって製造された脱細胞化ECMは、これらの基準のうちの任意の1つ以上を満たすことができる。
【0012】
上述のように、本発明の方法は、任意に、閉鎖された輸入血管の少なくとも一部から凝血塊および/または血液を洗浄するステップを含む。これは、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などの不活性緩衝液で血管を洗浄することによって行うことができる。閉鎖された輸入血管から凝血塊および/または血液を除去することは、作成された人工潅流システムがいかなる閉塞もなく、続いて洗浄剤で自由に潅流できることを保証するのに役立つ。
【0013】
この方法は、追加的または代替的に、密封された器官またはその一部を灌流して、輸入血管の閉鎖を確認するステップを含むことができる。典型的には、この潅流は、臓器またはその一部を密封するステップの間に閉鎖されていない輸入血管のカニューレ挿入によって行われる。この潅流ステップは、PBSのような不活性緩衝液を用いて行うことができ、例えば、個々のドナー間の解剖学的変異のために、依然として閉鎖される必要がある任意の追加の輸入血管を同定するために使用することができる。灌流ステップは、血管のあらゆる不完全な閉鎖を特定するのにさらに有益である可能性があり、これは、血管の閉鎖によって作成された人工灌流に有害であり、それによって、標的器官またはその一部の灌流-脱細胞化の前にこれを修正することを可能にする。
【0014】
標的臓器またはその一部の潅流-脱細胞化には、多くの適切な洗浄剤および酵素溶液を用いることができる。特に、洗浄剤は、デオキシコール酸ナトリウム(SDC)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)およびTriton X-100の1つ以上から選択され得る。本発明の好ましい実施形態において、洗浄剤は、ECMの微細な天然の網状構造および脈管構造を保持する脱細胞化ECM骨格を生成することが示されているSDCである。さらに、この洗浄剤は有毒ではなく、潅流-脱細胞化サイクル(単数)またはサイクル(複数)が完了した後に、単に水で洗い流すことができる。対照的に、SDSはさらなる洗浄剤による除去を必要とすることがある。
【0015】
洗浄剤濃度は、潅流される臓器またはその一部の体積、潅流周期または周期の持続時間および潅流速度に基づいて最適化することができる。例えば、臓器またはその一部を、約1%~約10%(w/v)のSDC、好ましくは約1%~約7%(w/v)、より好ましくは約2%~約6%(w/v)のSDCで潅流してもよい。本発明の好ましい態様において、臓器またはその一部は、約4%(w/v)のSDCで潅流され得る。代わりに、臓器またはその一部を、約0.05%~約1%(w/v)のSDS、好ましくは約0.05%~約0.5%(w/v)で潅流してもよく、より好ましくはその臓器または一部を、約0.1%(w/v)のSDSで潅流してもよい。臓器またはその一部を、約0.05%~約5%(w/v)のTriton X-100、好ましくは約0.1%~約2%(w/v)で潅流してもよく、より好ましくは臓器またはその一部を、約1%(w/v)のTriton X-100で潅流してもよい。臓器またはその一部の潅流-脱細胞化のために使用される洗浄剤がSDSである本発明の実施形態において、臓器またはその一部は、潅流-脱細胞化ステップが完了すると、Triton X-100などの別の洗剤で洗浄され得る。
【0016】
本発明において使用されるような洗剤および酵素溶液は、好ましくは、エンドヌクレアーゼ(例えば、デオキシリボヌクレアーゼI)またはプロテアーゼ(例えば、トリプシン)などの1つ以上の酵素を含む。洗浄剤および酵素は、別々の溶液で提供され得るか、または単一の溶液中で組み合わせられ得る。
【0017】
臓器またはその一部の潅流-脱細胞化は、好ましくは、熟練者が熟知するであろう洗浄剤-酵素処理(DET)を利用する。上述したように、対象小葉臓器またはその一部に総頸動脈を持たない重要な輸入血管は、臓器またはその一部を実質的に密封するために閉鎖され、臓器またはその一部の潅流のためのその後のカニューレ挿入のために、1つまたは2つの血管が開いたままにされている。それゆえ、洗浄剤および酵素は、開いた血管(複数可)を通って臓器またはその一部に潅流される。典型的には、臓器またはその一部を、約1~約4時間、好ましくは約1~約2時間潅流する。本発明の実施形態において、臓器またはその一部は、わずか約1.5時間の洗浄剤潅流を必要とすることができる。
【0018】
密封された臓器またはその一部は、約0.2ml/分~約1ml/分の速度で洗浄剤で潅流されてもよく、好ましくは約0.5ml/分~約0.9ml/分で潅流されてもよい。本発明の好ましい実施態様において、臓器またはその一部は、約0.6~約0.8ml/分の速度で潅流され得る。
【0019】
本発明の実施態様において、密封された臓器またはその一部は、微細な血管における沈殿物の形成を回避することが示されている、単一サイクルについて潅流され得る。例えば、臓器またはその一部を、約1.5時間の単一サイクルの間、洗浄剤で潅流することができる。代わりに、洗浄剤潅流の第2サイクルを用いて、臓器またはその一部を、各約1.5時間の2サイクル潅流することができる。
【0020】
密封された臓器またはその一部は、潅流の間、溶液中に自由に浮遊することができ、これは、張力を減少させ、血管壁に接触するカテーテルまたはカニューレのリスクを回避することが示されている。しかしながら、本発明の代替的な実施形態では、臓器またはその一部は、単に適切な容器に浸漬してもよく、自由に浮遊していなくてもよい。臓器またはその一部は、バイオリアクター内または閉鎖系内で潅流することができる。
【0021】
前述したように、総頸動脈および/または主要動脈がない小葉臓器は、独立した血管新生構造として最終的な位置に移動する別々の葉として発達する臓器である。このような臓器には、胸腺、甲状腺、副甲状腺および唾液腺が含まれる。臓器全体、または実際に葉もしくは腺のようなその特定部位への共通の動脈供給がないため、これらの臓器またはその一部からECM骨格を得るために潅流-脱細胞化アプローチを適用することは、これまで不可能であった。
【0022】
胸腺は2つの葉からなり、中間部で合流し、内部へ血管とともに伸びる被膜で囲まれている。葉は、外側の皮質が密集し、内側の低密度髄質からなる。2つの肺葉では、胸腺細胞と呼ばれる骨髄由来の造血前駆細胞が、T細胞に成熟する。いったん成熟すると、T細胞は胸腺から遊出し、適応免疫系の多くの部分を指揮する役割を担う末梢T細胞を構成する。染色体異常(ディジョージ症候群のように)を介して若い時期に胸腺が失われると、重度の免疫不全およびそれに続く易感染性が生じる。胸腺には臓器全体に血液を供給する総頸動脈がなく、その代わりに内乳動脈(内乳動脈としても知られる)および下甲状腺動脈の分枝から血液供給を受け、ときに上甲状腺動脈からの分枝がみられる。胸腺を密封するために閉じた血管は、右または左総頸動脈、右鎖骨下動脈、右内乳動脈、右肋頸動脈幹、右大動脈弓、左大動脈弓、左肋頸動脈幹、左内乳動脈を含み得る。先に説明したように、1本または2本の血管は、その後の臓器の潅流のために開いたままである。本発明の好ましい実施態様では、1つの血管のみが開いたままである。例えば、右総頸動脈が閉鎖されると胸腺が左総頸動脈を介して潅流され得、または左総頸動脈が閉鎖されると胸腺が右総頸動脈を介して潅流され得る。
【0023】
甲状腺は、蝶のような形をした臓器であり、ヒトでは首の前方に位置している。それは、左右の2つの葉から構成され、狭い峡部でつながっている。甲状腺の主な機能は、ヨウ素を含む甲状腺ホルモン、トリヨードチロニン(T3)およびチロキシン(T4)ならびにペプチドホルモンであるカルシトニンの産生である。甲状腺ホルモンは、代謝、心血管、発達への影響のほか、正常な性機能、睡眠および思考パターンを維持する役割を果たすなど、人体に多岐にわたる影響を及ぼす。甲状腺には臓器全体に血液を供給する総頸動脈がなく、代わりに鎖骨下動脈の甲状頸動脈幹の分枝である下甲状腺動脈から、および上甲状腺動脈、外頸動脈の分枝から、およびときには甲状腺Ima動脈から血液供給を受けており、これは非常に小さいものから下甲状腺動脈の大きさまで様々な大きさになりうる。甲状腺を密閉するために閉じた血管には、上甲状腺動脈との接合後に左右の総頸動脈が含まれ得る。甲状腺の2つの葉が峡部を通る血管によって連結される場合、本発明の方法を利用して、臓器全体のECM骨格を脱細胞化することができる可能性がある。代わりに、この方法を甲状腺の単一葉に適用して、葉の脱細胞化ECM骨格を作製してもよい。各々の甲状腺葉は、右または左の総頸動脈を介して潅流され得る。
【0024】
ヒトには典型的に4つの副甲状腺があり、通常は甲状腺の左側および右葉の後ろに位置する2対の腺に分けられる。上方に位置する両側の2つの副甲状腺は、上副甲状腺と呼ばれ、一方下部の2つは、下副甲状腺と呼ばれる。副甲状腺の主な機能は、体内のカルシウムおよびリン酸の濃度を非常に狭い範囲に維持することであり、神経系と筋肉系が適切に機能できるようにする。副甲状腺への血液供給は、その上を覆う甲状腺に相当し、各々の副甲状腺は、総頸動脈または主要な動脈を欠いている。本発明の脱細胞化方法は、個々の副甲状腺に適用することができる。
【0025】
哺乳動物の唾液腺は、導管の系を介して唾液を産生する外分泌腺である。ヒトには、3対の大唾液腺(耳下腺、顎下腺、および舌下腺)のほか、数百の小唾液腺がある。大唾液腺には、各々総頸動脈または大動脈が存在しない。本発明の脱細胞化方法は、耳下腺、顎下腺または舌下腺に適用することができる。
【0026】
本発明はまた、本発明の方法によって得られ、または得られ得る脱細胞化ECM骨格を提供する。本発明の方法は、ECMの構造および脈管構造の高度の保存をもたらし、一方総頸動脈を持たない小葉臓器の脱細胞化に成功することが実証されている。この方法は、臓器全体に、または葉もしくは腺などのその一部に適用され得る。
【0027】
さらなる態様において、本発明は、人工臓器を産生するための方法を提供し、この方法は、本発明の方法によって得られ、または得られ得る脱細胞化ECM骨格を、上皮細胞および間葉細胞の組合せなどの間質細胞とともに再増殖させ、再増殖した骨格を約4~約7日間インビトロで培養し、その後、任意に再増殖した骨格をドナー細胞とともに播種することを含む。
【0028】
脱細胞化されたECM骨格は、約2:1~約5:1の比率で、上皮細胞および間葉細胞で再増殖され得る。好ましくは、骨格は、約5:1の比率で上皮細胞および間葉細胞で再増殖される。間質細胞は、典型的には、臓器組織ドナー(すなわち、同種または異種細胞)からの細胞のex vivo膨張によって得られ、直接針注射によって骨格に送達され得、これは、骨格上および/または内側に細胞の成功した分布を提供する。しかしながら、本発明の実施態様において、間質細胞は、自己細胞によることができる。細胞は、別々に、同時に、または連続的に送達され得る。連続送達は、互いに少なくとも1、2、5、10、20、30、40、50もしくは60分以内に、または互いに1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、36もしくは48時間以内に細胞集団を送達することを含み得る。しかしながら、本発明の好ましい実施態様では、上皮細胞および間葉細胞は、別々の供給源から、または上記のように適当な比率で一緒にあらかじめ混合されて、同時に送達される。典型的には、細胞は、細胞懸濁液の形態で注射され、これは、約2:1~約5:1の比率で上皮細胞および間葉細胞の混合物を含み、かつ約10μl~約100μl、好ましくは約10μl~約60μl、より好ましくは約30μl~約40μlの体積を有し得る。例えば、1回の注射は、約30μl~約40μlの体積の約2×10の上皮細胞および約0.4×10の間葉細胞の懸濁液を含むことができる。
【0029】
脱細胞化されたECM骨格の内皮細胞との再増殖は、場合によっては間葉細胞と組み合わせて、骨格の血管再生における重要なステップである。例えば、内皮細胞(好ましくは周皮細胞様細胞を含む)および間葉細胞を、骨格の複数の部位に注射してもよい。代わりに、内皮細胞(好ましくは周皮細胞様細胞を含む)および間葉細胞を1つまたはそれ以上の輸入血管に注射して、骨格を血管再生することができる。細胞は組成物として注射され、注射(複数可)の体積は、骨格の体積を満たすために最適化される。同様に、組成物中の細胞の濃度は、骨格を完全に血管再生するために十分な数の細胞を注射することを保証するために、組成物の体積に基づいて最適化され得る。
【0030】
再増殖した骨格は、典型的には、約4~約7日間にわたって、骨格の網状ECM上での細胞移動および初期分化(例えば、細胞の極性化、接着分子のアップ/ダウンレギュレーション)を可能にするために、インビトロで維持される。次に、異なる起源からのドナー細胞(典型的には同種異系または異種細胞であるが、場合により自家であり得る)を、例えば以前に注射された骨格領域への、またはその上への直接針注射により送達することができる。例えば、ドナー細胞は、生後胸腺由来のLin/CD45/CD3/CD4/CD8a胸腺細胞、胎児肝臓由来のCD34細胞、臍帯血(CBC)由来のCD34細胞、成人骨髄由来のCD34細胞または動員された末梢血(成人)由来のCD34細胞を含む造血幹細胞(HSC)であってよい。ドナー細胞は、iPSC由来間質細胞および/または内皮細胞であってよく、任意にHSCまたはT細胞前駆細胞と組み合わせて、患者特異的(すなわち、自己)であり得る。代わりに、ドナー細胞は、任意の系統(例えば、内胚葉、中胚葉または神経堤)に由来してもよく、胸腺細胞、胸腺上皮細胞、間葉細胞、樹状細胞、内皮細胞、周皮細胞、マクロファージまたはB細胞を含み得る。典型的には、臓器は、ドナー幹細胞の送達後およびレシピエントへの移植前に、さらに24時間またはそれ以上インビトロで維持される。骨格は、対象への移植のために有用であるために、播種された細胞で完全に集団化する必要がない場合があることが認識されるであろう。例えば、骨格は、その表面の少なくとも70、80、90、95または99%にわたって細胞を播種した可能性がある。
【0031】
任意に、インビトロで増殖した内皮細胞を、レシピエントに移植する前に、さらに臓器に送達することができる。理論に束縛されることなく、このような細胞は、移植後の臓器の血管新生の加速に寄与すると考えられる。実際、このような内皮細胞は、骨格を作製する際に作成される人工潅流システムを介して臓器に送達することができる。このような内皮細胞の送達は、臓器の血管樹の再内皮化を助けることができる。任意に、ドナー幹細胞は、同じ経路により送達され得る。
【0032】
本発明の別の実施形態では、脱細胞化されたECM骨格を間質細胞とともに再増殖させて、レシピエントに移植できる再増殖骨格を形成することができる。レシピエントに一旦移植されると、再増殖された骨格は血管新生され、その後、血液循環から直接インビボでHSCなどの自己幹細胞で再増殖され得る。移植の部位に常在する間葉細胞および/または免疫細胞はまた、骨格に侵入し、リモデリングおよび/または播種細胞の生存および/または分化および機能性を支持するのを助けることができる。再増殖した骨格は、移植前にその表面の少なくとも70、80、90、95または99%にわたって細胞を播種した場合がある。
【0033】
上記のような脱細胞化されたECM骨格または再増殖されたECM骨格は、さらに、骨格への細胞の接着および/または骨格上の細胞の成長を増強するために処理され得る。このような処置には、例えばコラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、ラミニン、またはプロテオグリカンの1つ以上を含む、成長因子または細胞外マトリックスタンパク質などのタンパク質の適用が含まれ得る。本発明の実施形態において、骨格上に播種された細胞は、より速い血管新生を可能にするVEGFなどの成長因子を産生するように改変され得る。細胞の改変は、典型的には細胞の遺伝子改変を指し、当該技術分野で公知の標準技術を利用することができる。
【0034】
また、本発明の方法により得られ、または得られ得る脱細胞化されたECM骨格を構成する人工臓器も提供する。人工臓器は、本発明の脱細胞化されたECM骨格を上記のように間質細胞で再増殖させることによって製造することができる。人工臓器は、例えば、先天性または後天性の状態を処置するために移植用臓器を提供する療法に使用することができる。
【0035】
上述のように、本発明の脱細胞化されたECM骨格を再増殖させるために使用される細胞は、所望の細胞型を提供するために培養され、骨格上に播種される前にインビトロで増殖させることができるドナー組織から得ることができる。このようにして、単一の組織ドナーが、複数の人工臓器を提供することができる。骨格上で成長した細胞は、人工臓器の潜在的な免疫原性の鍵となるので(骨格から細胞が除去されたので、骨格自体は免疫原性がなく、したがって組織適合ドナーから得られる必要がない)、このことは、適切な組織ドナーが特に不足している場合に重要な利点を提供する。
【0036】
本発明の方法によって得られる、または得られる脱細胞化ECM骨格を含む人工臓器は、胸腺であってよく、重度の免疫不全を導く、欠損または低形成胸腺を含む多くの症状を引き起こす先天性染色体疾患であるディジョージ症候群のような状態を処置するために使用され得る。本発明の人工臓器は、養子細胞移入のための成熟細胞の供給源として、すなわち、T細胞などの治療用細胞の産生のために、代替的に使用され得る。
【0037】
さらなる態様において、本発明は、化合物を薬理学的、免疫学的または毒物学的応答を誘発する能力について試験するためのインビトロ方法を提供し、この方法は、本発明の脱細胞化ECM骨格を含む人工臓器を化合物と接触させることを含む。
【0038】
人工臓器は、インビトロで1、2、3、4、5または6日まで培養することができる。本発明の実施態様において、人工臓器は、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10週間までインビトロで培養され得る。好ましくは、人工臓器は、インビトロで最長8週間培養される。人工臓器は、標準的な培養条件下で培養してもよい。しかしながら、本発明の好ましい態様において、人工臓器は、培養期間中、例えばバイオリアクター中で臓器を培養することによって、細胞培養培地で潅流される。
【0039】
さらに本発明は、臓器移植の方法を提供し、この方法は、本発明の脱細胞化ECM骨格を含む人工臓器を患者に外科的に移植することを含む。疾患を処置する方法であって、本発明の脱細胞化されたECM骨格を含む人工臓器をそれを必要とする患者に外科的に移植することを含む方法も提供される。特に、本発明の脱細胞化ECM骨格を含む人工臓器は、通常の臓器移植において免疫寛容を誘導するために使用することができる。
【0040】
本明細書中で使用される用語「患者」または「レシピエント」は、ヒトを含む任意の哺乳動物を含み得る。特に、患者は、新生児または乳児のような小児患者であり得る。患者は、臓器の置換を必要とする後天性または先天性障害を患っている可能性がある。たとえば、臓器は、欠損、病気、損傷していることがあるか、またはその機能が他の方法で損なわれることがある。患者は、本発明の脱細胞化されたECM骨格を含む人工臓器を受け取る前または同時に、別の臓器の移植を受けていてもよい。理論に拘束されることなく、脱細胞化されたECM骨格(例えば、AIRE+細胞)を再増殖する細胞は、Treg細胞を提供し、ドナー-臓器耐性を誘導し得ると考えられる。
【0041】
本発明は、ここで、図を参照して、例のみによって詳細に記述される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1図1は、胸腺周囲の人工潅流システムの形成を可能にする特定の動脈分枝を結紮するための外科的手順の模式図を示す。結節1~9は輸入血管に形成され(この段階では左大動脈弓上の結節6はきつくしてはならない)、次にカテーテルを左総頸動脈に挿入する。左内頸静脈を切開し、続いて左大動脈弓を結節6の下で切開し、次いで右内頸静脈を切断する。PBSなどの緩衝液を、カテーテルを通してゆっくりフラッシュして、大動脈弓を洗浄し、凝血塊を除去した後、左大動脈弓上の結節6をしっかりと閉鎖する。次に、カニューレ挿入/カテーテル挿入された胸腺を、結節1~9付近の閉鎖動脈を切断することにより除去し、次いで、関連静脈を、鎖骨下静脈から始めて切断する。
図2A図2は、顕微鏡検査(B、D)および組織学的検査(ヘマトキシリンおよびエオシン、H&E;A、C)の両方での、洗浄剤および酵素溶液(DET)の潅流による脱細胞化の前(A、B)および後(C、D)のラット胸腺を示す。
図2B図2は、顕微鏡検査(B、D)および組織学的検査(ヘマトキシリンおよびエオシン、H&E;A、C)の両方での、洗浄剤および酵素溶液(DET)の潅流による脱細胞化の前(A、B)および後(C、D)のラット胸腺を示す。
図2C図2は、顕微鏡検査(B、D)および組織学的検査(ヘマトキシリンおよびエオシン、H&E;A、C)の両方での、洗浄剤および酵素溶液(DET)の潅流による脱細胞化の前(A、B)および後(C、D)のラット胸腺を示す。
図2D図2は、顕微鏡検査(B、D)および組織学的検査(ヘマトキシリンおよびエオシン、H&E;A、C)の両方での、洗浄剤および酵素溶液(DET)の潅流による脱細胞化の前(A、B)および後(C、D)のラット胸腺を示す。
図3A図3は、本発明の脱細胞化された胸腺骨格の組織学を示す:ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)(A)、ピクロシリウスレッド(コラーゲン、B)およびマッソンのトリクロム(ECM、C)染色は、細胞核の欠如ならびに胸腺の莢膜および細網ECMの保存を実証する。
図3B図3は、本発明の脱細胞化された胸腺骨格の組織学を示す:ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)(A)、ピクロシリウスレッド(コラーゲン、B)およびマッソンのトリクロム(ECM、C)染色は、細胞核の欠如ならびに胸腺の莢膜および細網ECMの保存を実証する。
図3C図3は、本発明の脱細胞化された胸腺骨格の組織学を示す:ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)(A)、ピクロシリウスレッド(コラーゲン、B)およびマッソンのトリクロム(ECM、C)染色は、細胞核の欠如ならびに胸腺の莢膜および細網ECMの保存を実証する。
図4図4は、本発明の方法による脱細胞化の前(パネルA)および後(パネルB)のラット胸腺骨格の肉眼的顕微鏡検査を示す。低い拡大率での(4X、パネルC)、および高い拡大率での(パネルD、スケールバー=100um)胸腺でのH&E染色は、実質の小葉および血管構造の保存を示す。
図5A図5は、間質細胞の注射の前(A)、直後(B)および4日間の培養後(C)に、本発明の方法によって得られた胸腺骨格の外観を示す。余分な胸腺組織(画像の中のより濃い部分)は、カニューレへの接続を可能にする。
図5B図5は、間質細胞の注射の前(A)、直後(B)および4日間の培養後(C)に、本発明の方法によって得られた胸腺骨格の外観を示す。余分な胸腺組織(画像の中のより濃い部分)は、カニューレへの接続を可能にする。
図5C図5は、間質細胞の注射の前(A)、直後(B)および4日間の培養後(C)に、本発明の方法によって得られた胸腺骨格の外観を示す。余分な胸腺組織(画像の中のより濃い部分)は、カニューレへの接続を可能にする。
図6図6は、4日間培養した再増殖した骨格の組織像(H&E)を示している(パネルA)。免疫組織化学(IHC)画像は、カスパーゼ3陰性であり、ほとんどが前駆細胞/幹細胞マーカーp63について陽性である健常な間質細胞を実証している(パネルB)。カスパーゼ3陽性であり、アポトーシスを示す細胞はわずか(黄色*)である(パネルC)。再増殖性間質細胞は、サイトケラチン5(CK5)、CK8およびα6インテグリン(CD49f)を発現する(パネルE)。さらに、大部分の上皮細胞(EpCAM陽性)は、増殖している(Ki67陽性)(パネルD)ことから、間質細胞は骨格を再増殖しており、3D構造内で前駆細胞表現型を維持していることが示される(スケールバー=50um)。
図7図7は、NSGマウスに生着し、in vivoでそれぞれ8週間(B)、11週間(C)、および21週間(D)成熟した再増殖した骨格の肉眼的肉眼検査(パネルA、スケールバー=2mm)および組織学(H&E)を示す。H&E染色は、組織化された間質細胞と相互作用する造血起源の小円形細胞の存在を実証する。特に、11週時点での骨格内のHassall小体の存在によって示されるように、進行性間質細胞成熟が存在する。スケールバー=50μm。
図8A図8は、in vivoで成熟したNSGマウスに移植した再増殖した骨格の免疫組織化学を示し、HLA-DR(緑色)(A)などの機能的マーカーを発現するヒト間質(EpCAMおよびECadherin陽性細胞、赤色)の成熟を実証する。抗ヒトビメンチン(緑色)は組織化したヒト間葉細胞(B)を認識し、一方抗ヒトCD3(緑色)はヒト胸腺間質細胞(C)と接触した成熟胸腺細胞の存在を実証する。移植された筋骨格におけるAIRE-1陽性細胞の検出(3,3’-ジアミノベンジジン、DAB染色)は、自己反応性のT細胞(D)を除去する役割において重要である胸腺細胞の機能的成熟を実証する。
図8B図8は、in vivoで成熟したNSGマウスに移植した再増殖した骨格の免疫組織化学を示し、HLA-DR(緑色)(A)などの機能的マーカーを発現するヒト間質(EpCAMおよびECadherin陽性細胞、赤色)の成熟を実証する。抗ヒトビメンチン(緑色)は組織化したヒト間葉細胞(B)を認識し、一方抗ヒトCD3(緑色)はヒト胸腺間質細胞(C)と接触した成熟胸腺細胞の存在を実証する。移植された筋骨格におけるAIRE-1陽性細胞の検出(3,3’-ジアミノベンジジン、DAB染色)は、自己反応性のT細胞(D)を除去する役割において重要である胸腺細胞の機能的成熟を実証する。
図8C図8は、in vivoで成熟したNSGマウスに移植した再増殖した骨格の免疫組織化学を示し、HLA-DR(緑色)(A)などの機能的マーカーを発現するヒト間質(EpCAMおよびECadherin陽性細胞、赤色)の成熟を実証する。抗ヒトビメンチン(緑色)は組織化したヒト間葉細胞(B)を認識し、一方抗ヒトCD3(緑色)はヒト胸腺間質細胞(C)と接触した成熟胸腺細胞の存在を実証する。移植された筋骨格におけるAIRE-1陽性細胞の検出(3,3’-ジアミノベンジジン、DAB染色)は、自己反応性のT細胞(D)を除去する役割において重要である胸腺細胞の機能的成熟を実証する。
図8D図8は、in vivoで成熟したNSGマウスに移植した再増殖した骨格の免疫組織化学を示し、HLA-DR(緑色)(A)などの機能的マーカーを発現するヒト間質(EpCAMおよびECadherin陽性細胞、赤色)の成熟を実証する。抗ヒトビメンチン(緑色)は組織化したヒト間葉細胞(B)を認識し、一方抗ヒトCD3(緑色)はヒト胸腺間質細胞(C)と接触した成熟胸腺細胞の存在を実証する。移植された筋骨格におけるAIRE-1陽性細胞の検出(3,3’-ジアミノベンジジン、DAB染色)は、自己反応性のT細胞(D)を除去する役割において重要である胸腺細胞の機能的成熟を実証する。
図9図9は、再増殖した脱細胞化したECM骨格内の細胞が正しいリンパ系列に分化することを示している。A.in vivoで成熟した解離したヒトの遺伝子操作した胸腺骨格のFACS分析は、CD34+前駆細胞から発達したCD45+細胞の大部分(80%)がCD3+、リンパ系系統であることを示す;B.単一の陽性CD4およびCD8細胞は、CD3+およびTCRab+のような成熟マーカーを発現する。
図10図10は、単一および二重CD4+およびCD8+胸腺細胞が、正常組織と同等の割合で作られることを示している。A.CD4+およびCD8+胸腺細胞の単一および二重陽性を示す解離新鮮ヒト胸腺のFACS分析。B.遺伝子操作した胸腺骨格(ラット)内のTN前駆細胞からin vitroで発生した胸腺細胞のFACS分析、6日の時点;これは、遺伝子操作したヒト胸腺がex vivoでT細胞発生を支持することを実証する。
図11図11は、潅流脱細胞化の前(左パネル)および後(右パネル)のブタ胸腺の肉眼的顕微鏡検査を示す(0.6~0.8ml/分の4%SDCで4時間潅流の2サイクル)。
図12図12は、ECMおよび血管構造の保存を実証する潅流-脱細胞化後のブタ胸腺の組織学的分析を示す:H&E左パネル;マッソントリクロム(MT);ピクロシリウスレッド(PS)は、ECMタンパク質および血管構造の保存を実証する。
図13図13は、潅流脱細胞化の前(左パネル)および後(右パネル)のヒト胸腺の肉眼的顕微鏡検査を示す(0.6~0.8ml/分の4%SDCで4時間潅流の2サイクル)。
図14図14は、潅流脱細胞化後のヒト胸腺骨格のH&E染色を示し、細胞成分の除去および大小の血管構造の保存を実証する。
【実施例0043】
実施例1
ラット胸腺を、右総頸動脈、右鎖骨下動脈、右内乳動脈、右肋頸動脈幹、右大動脈弓、左大動脈弓、左肋頸動脈幹、左内乳動脈および左鎖骨下動脈を結紮することによって密封し(図1参照)、対象から摘出した。密封した胸腺を、溶液中で自由に浮遊させる間の左総頸動脈のカニューレ挿入によって潅流する以下の洗浄剤-酵素潅流処理(DET)を用いて並行して脱細胞化した:
a.MilliQH2Oで96時間、0.2mL/分、4℃で潅流;
b.4%SDCで0.2mL/分、RTで1.5時間潅流;
c.MilliQH2Oで24時間、0.2mL/分、RTで潅流;
d.0.1mg/mlのDNA分解酵素(温37℃)で0.2mL/分で30分間潅流;および
e.PBSで0.2mL/分で1時間、RTで潅流。
【0044】
その後、骨格を滅菌のために処理した(ガンマ照射、1782Gy)。
【0045】
胸腺の平行な脱細胞化は、本発明の方法の効率および再現性を例示する。図2に示すように、脱細胞化により透明な胸腺組織が形成され、一方被膜が維持される。図2Cおよび3Aに示すように、H&E染色による脱細胞化した胸腺の組織学的分析は、いかなる細胞核、DNAまたは細胞破片も存在しないことを実証する。図3BおよびCは、胸腺構造の被膜および網状ECMの保存を示している。胸腺ECMは、均質な網状組織として検出され、染色強度は、臓器のカプセルでより高いECMの存在量を反映している(図3Bでは赤色および図3Cでは青色)。
【0046】
実施例2
実施例1に概説したプロトコルに従って、ラット胸腺を抽出し、脱細胞化した。ラット重量は、173gであった。
【0047】
脱細胞化した胸腺の肉眼顕微鏡像を、脱細胞化の前(4A)および後(4B)にH&E染色を用いて図4に示す。低倍率(図4C)および高倍率(図4D)の領域は、実質小葉のほか、臓器組織全体にわたって血管構造が保存されていることを示している。DNAまたは細胞破片は、検出されなかった。これは、組織学的レベルでの単一カニューレを介した全臓器(両小葉)脱細胞化を示す。
【0048】
実施例3
実施例1のプロトコル概略に従って胸腺骨格を得た。次に、組織胸腺ドナーからのex vivo膨張に続いて、胸腺上皮細胞(TEC)および胸腺間葉細胞(TMC)の5:1(それぞれ)組合せを、直接針注射により同時に送達して、胸腺を再増殖させた。図5A~Cに透明組織として示した胸腺葉に、針シリンジ(1ローブあたり1回注射、各40μl、2MのTEC:1回注射あたり0.4MのTMC)を細胞に注射した。胸腺外組織(図5A~Cのより濃い部分)は、培養中に維持されたカニューレに接続することを可能にした。
【0049】
再増殖した骨格をin vitro条件下で維持して、骨格の網状ECM上での細胞移動および初期分化(例えば、細胞分極、接着分子のアップ/ダウンレギュレーション)を4日間にわたって可能にした。インビトロ培養のために、骨格をカニューレに接続し、10%のウシ胎児血清(FBS)、インスリン(5μg/mL)、3,3,5-トリヨード-L-チロニン(T3)(2×10-9M)、ヒドロコルチゾン(0.4μg/mL)、コレラ毒素(1×10-10M)、および1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加した、DMEMおよびHam’s F12培地(v/v 3:1)からなるcFAD(上皮)培地に浸漬したペトリ皿に置いた。
【0050】
図5は、TECおよびTMC細胞の注射前(図5A)、直後(図5B)、および培養の4日後(図5C)の骨格の外観を示す。培養の4日後のH&E染色による骨格の組織学的分析を、図6Aに示し、これは、細胞が骨格ECMに接着し、そこに沿っていることを明らかにしている。骨格のわずかな領域のみがまだ再増殖していないが、骨格内に無傷のマトリックスが存在することを実証する(黒色*)。免疫組織化学(IHC)画像は、健常な間質細胞がカスパーゼ3について陰性であり、大部分が前駆細胞/幹細胞マーカーp63について陽性であったことを実証している(図6B)。ごく少数の細胞(黄色*)のみがカスパーゼ3陽性であり、アポトーシスを示した(図6C)。再増殖する間質細胞は、サイトケラチン5(CK5)、CK8およびα6インテグリン(CD49f)を発現した(図6E)。さらに、より多くの上皮細胞(EpCAM陽性)が増殖していた(Ki67陽性)(図6D)ことから、間質細胞は骨格を再増殖し、3D構造内で前駆細胞の表現型を維持していることが示された。
【0051】
実施例4
上記実施例3に概説したプロトコルに従って、反復されたラット胸腺骨格を調製した。間質細胞を用いた4日間のin vitro培養後、再増殖した骨格を、8週間および11週間NSGマウスに皮下移植した。
【0052】
8週間(図7B)、11週間(図7C)および21週間(図7D)in vivoで成熟した2つの胸腺骨格の組織学的分析(H&E)により、組織化された胸腺間質細胞と相互作用する造血起源の小円形細胞の存在が実証された。特に、11週時点での骨格内のHassall小体の存在(図7C)および胸腺細胞密度の増加(図7D)によって示されるように、進行性の間質細胞の成熟が認められた。
【0053】
実施例5
上記実施例3に概説したプロトコルに従って、反復されたラット胸腺骨格を調製し、EpCAMおよびECアドヘリン陽性細胞によって同定されたヒト間質細胞で再増殖させた。間質細胞との4日間のin vitro培養後、再増殖した骨格を、11週間NSGマウスに皮下移植した。
【0054】
免疫組織化学分析は、EpCAMおよびECアドヘリン陽性細胞により同定された再増殖性ヒト間質の存在を実証した。間質細胞の機能的成熟は、MHCクラスII表面受容体(HLA-DR陽性細胞)のアップレギュレーションによって示された(図8A)。抗ヒトビメンチン免疫染色により間葉系細胞の存在が検出され(図8B)、一方抗ヒトCD3免疫染色では同領域内に成熟胸腺細胞の存在が示された(図8C)。移植した胸腺骨格における自己免疫応答要素1(AIRE-1)陽性細胞の検出は、自己反応性T細胞を排除し、それによって寛容を誘導する役割において重要である胸腺細胞の機能的成熟を実証する(図8D)。これは、ヒト培養間質細胞が、インビボで長期間生存し、ヒト天然胸腺に類似した機能的構造(すなわち、Hassallの体およびHLA-DRの発現)を組織化する能力を実証する。
【0055】
実施例6
in vivoでNSGマウスに再増殖および移植された胸腺骨格の一部を解離させ、FACS分析により分析したところ、ヒト細胞の高い生存率が示された(63.9%、中央パネル図9A);生細胞の大部分はCD45+であった(92.9%、右パネル図9A)。重要なことに、CD45+細胞の80%はCD3+でもあった(図9B、左パネル)ことから、胸腺骨格はリンパ系の誘導性微小環境であることが実証された。TCRabを発現する単一の陽性CD4+細胞およびCD8+細胞の存在は、成熟した機能性T細胞がin vivoで骨格内に産生されていることを実証している(図9B、中央および右パネル)。
【0056】
実施例7
胸腺骨格を、in vitroで間質細胞とともに再増殖させ、7日間培養に維持した後、未成熟トリプルネガティブ胸腺細胞(TN)を注射した。胸腺細胞を胸腺骨格に注射した7日後にFACSで分析したところ、CD4+細胞およびCD8+細胞の単一および二重陽性の両方に成熟した(図10B)。重要なことは、骨格における単一の陽性CD4/CD8の比率が天然の胸腺と類似していることである(図10A、B)。
【0057】
本出願に至るプロジェクトは、助成契約番号639429に基づくEUのHorizon 2020研究およびイノベーションプログラムから資金提供を受けている。
【0058】
参考文献
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図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【手続補正書】
【提出日】2024-03-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載された発明。
【外国語明細書】