(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063080
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】二重シェル歯科装置及び材料構成
(51)【国際特許分類】
B32B 25/08 20060101AFI20240501BHJP
A61C 7/08 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
B32B25/08
A61C7/08
【審査請求】有
【請求項の数】31
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024027154
(22)【出願日】2024-02-27
(62)【分割の表示】P 2019566792の分割
【原出願日】2018-05-31
(31)【優先権主張番号】62/512,786
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/590,627
(32)【優先日】2017-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】519424308
【氏名又は名称】ベイ マテリアルズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】スチュワート, レイ エフ.
(72)【発明者】
【氏名】ラールー, ジョン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】歯科装置に可撓性、強度、及び耐ステイン性を付与する層から構成されるポリマーシート構成物を提供する。
【解決手段】歯科装置及びポリマーシートは、約1,000MPa~2,500MPaの弾性率を有する(「硬い」)材料を含む外部層、及び約50MPa~500MPaの弾性率を有する(「柔らかい」)エラストマー材料(複数可)を含む内部コアを有する歯科装置を作るのに有用であり、改善された可撓性及び強度、並びに現在入手可能な材料及び歯科装置よりも良好な耐ステイン性を示す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの外部層A及びCと中間層Bとを含み、
前記A及びC層が、約1,000MPa~2,500MPaの弾性率、並びに約80℃~180℃のガラス転移温度及び/又は融点を有する、熱可塑性ポリマーをそれぞれ含み、
前記中間B層が、約50MPa~約500MPaの弾性率、並びに約90℃~約220℃のガラス転移温度及び/又は融点のうちの1つ又は複数を有するエラストマーを少なくとも含む、ポリマーシート構成物。
【請求項2】
前記A及びC層が、コポリエステル、ポリカーボネート、ポリエステルポリカーボネートブレンド、ポリウレタン、ポリアミド、又はポリオレフィンのうちの1つ又は複数を含む、請求項1に記載のポリマーシート構成物。
【請求項3】
前記中間B層が、ポリウレタンエラストマー、ポリオレフィンエラストマー、ポリエステルエラストマー、スチレン系エラストマー、ポリアミドエラストマー、環状オレフィンエラストマー、アクリル系エラストマー、芳香族又は脂肪族ポリエーテル、及びポリエステルポリウレタンのうちの1つ又は複数を含む、請求項2に記載のポリマーシート構成物。
【請求項4】
前記中間B層の材料が、25℃で22時間後、35%未満、30%未満、25%未満、20%未満、又は10%未満の圧縮永久ひずみを有する、請求項3に記載のポリマーシート構成物。
【請求項5】
前記A及びC層が、互いに対して0.05mm~0.1mm変位させられた場合に、1cm2当たり100N(ニュートン)未満、1cm2当たり50N未満、1cm2当たり25N未満、又は1cm2当たり10N未満の横方向の復元力を有する、請求項2に記載のポリマーシート構成物。
【請求項6】
前記A及びC層と、前記B層との間の層間剥離強度が、2.5cm当たり50Nを超える、請求項3に記載のポリマーシート構成物。
【請求項7】
前記A、B、及びC層の合計厚さが、約250ミクロン~約2,000ミクロンであり、
前記A及びC層の合計厚さが、25ミクロン~750ミクロン、50ミクロン~1000ミクロン、100ミクロン~700ミクロン、150ミクロン~650ミクロン、又は200ミクロン~600ミクロンである、請求項3に記載のポリマーシート構成物。
【請求項8】
前記A及びC層のうちの1つ又は複数が、50~100モル%のC6~C14脂肪族二酸部分と、約50~100モル%の4,4’-メチレン-ビス(シクロヘキシルアミン)(CAS[1761-71-3])とを含む微結晶性ポリアミドを含有し、
前記微結晶性ポリアミドが、約100℃~180℃のガラス転移、20J/g未満の融解熱、及び80%を超える光透過率を有する、請求項2に記載のポリマーシート構成物。
【請求項9】
前記A及びC層のうちの1つ又は複数が、コポリエステルを含有し、
前記コポリエステルが、
(a)70モル%~100モル%のテレフタル酸残基を含むジカルボン酸成分と、
(b)i)0~95%のエチレングリコール、
ii)5モル%~50モル%の2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール残基、
iii)50モル%~95モル%の1,4-シクロヘキサンジメタノール残基、及び
iv)3個以上のヒドロキシル基を有する0~1%のポリオール
を含むジオール成分と、を含み、
ジオール残基のi)、ii)、iii)、及びiv)のモル%の合計が、100モル%に達し、
前記コポリエステルが、80℃~150℃のガラス転移温度Tgを示す、請求項3に記載のポリマーシート構成物。
【請求項10】
前記中間B層が、約A90~D55のショア硬さ及び35%未満の圧縮永久ひずみを有する、芳香族ポリエーテルポリウレタンを含み、
前記A及びC層と、前記B層との間の層間剥離強度が、2.5cm当たり50Nを超える、請求項9に記載のポリマーシート構成物。
【請求項11】
前記A及びC層のうちの1つ又は複数が、ポリウレタンを含有し、
前記ポリウレタンが、
(a)80モル%~100モル%のメチレンジフェニルジイソシアネート残基、及び/又は水素化メチレンジフェニルジイソシアネートを含む、ジイソシアネートと
(b)i)0~100モル%のヘキサメチレンジオール、
ii)0~50モル%の1,4-シクロヘキサンジメタノール
を含むジオール成分と、を含み、
前記i)及びii)の合計が、90モル%を超え
前記ポリウレタンが、約85℃~約150℃のガラス転移温度Tgを有する、請求項3に記載のポリマーシート構成物。
【請求項12】
請求項3に記載のポリマーシート構成物から作られる、1つ又は複数の歯に共形な歯科装置。
【請求項13】
前記A、B、及びC層の合計厚さが、約250ミクロン~約2,000ミクロンであり、
前記A及びC層の合計厚さが、25ミクロン~750ミクロン、50ミクロン~1000ミクロン、100ミクロン~700ミクロン、150ミクロン~650ミクロン、又は200ミクロン~約600ミクロンである、請求項12に記載の歯科装置。
【請求項14】
請求項8に記載のポリマーシート構成物を含む、請求項13に記載の歯科装置。
【請求項15】
請求項9に記載のポリマーシート構成物を含む、請求項13に記載の歯科装置。
【請求項16】
請求項10に記載のポリマーシート構成物を含む、請求項13に記載の歯科装置。
【請求項17】
請求項11に記載のポリマーシート構成物を含む、請求項13に記載の歯科装置。
【請求項18】
請求項3に記載のポリマーシート構成物を含み、
前記エラストマー中間層及び前記外部層が、互いに対して可逆的に移動でき、且つ互いに対して0.05mm~0.1mm変位させられた場合に、1cm2当たり100N未満、1cm2当たり50N未満、1cm2当たり25N未満、又は1cm2当たり10N未満の横方向の復元力を有する、可逆的に変形可能な歯科装置。
【請求項19】
前記エラストマー中間層が、約A80~D75、A85~D65、又はA90~D55の硬度を有するポリウレタンを含む、請求項18に記載の可逆的に変形可能な歯科装置。
【請求項20】
少なくとも2つの外部層とエラストマー内部層とを含む、耐環境応力性を有するシート又は歯科装置であって、
前記外部層のうちの1つ又は複数が、約1,000MPa~2,500MPaの弾性率を有するポリエステル又はコポリエステルであり、
前記内部層が、約50MPa~約500MPaの弾性率を有するエラストマーを含み、
少なくとも1つの外部層と、前記エラストマーとの間の層間剥離強度が、約50N/インチを超える、シート又は歯科装置。
【請求項21】
前記外部A層の厚さが約175~約250ミクロンであり、
前記外部C層の厚さが約175~約250ミクロンであり、
前記中間B層の厚さが300~500ミクロンであり、
前記A、B、及びC層の合計厚さが、850~1,000ミクロンである、請求項3に記載の可逆的に変形可能な歯科装置。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
[0001]本出願は、2017年5月31日出願の米国特許仮出願第62/512,786号、及び2017年11月26日出願の米国特許仮出願第62/590,627号の利益を主張するものであり、両出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
[0002]ポリマーシート形態の構成物が開示されている。ポリマーシートは、例えば歯科装置に有用であり、当該シートから作られるデバイスに可撓性、強度、及び耐ステイン性を付与する層から構成される。
【背景】
【0003】
[0003]歯列矯正による歯の移動を円滑化すること、歯の位置を安定させること、又は損傷させる可能性のある外力から歯を保護することができる、歯列矯正及び歯科装置の改良の必要性がある。既存の材料及び製品は、限定された機能を有する単層材料、2層材料又は3層材料から構成されており、性能不足に苦しむことがある。アライナは、歯に並進又は回転力を加えるように設計されている、歯に嵌合するプラスチックシェルである。歯を正確に移動させるそれらの能力は、それらの効果的な弾性率、弾性、並びにクリープ及び応力緩和に抵抗する能力により限定される。さらに、それらは、一般には耐ステイン性及び耐環境応力亀裂性を示すべきである。
【0004】
[0004]歯を保護するための装置、例えばスポーツ用マウスガード及び歯の副子は、相反する要件を有する。一方では、それらは、衝撃力を散らすことが可能であるべきであり、他方では、薄くあるべきであり、且つヒトの歯の自然な咬合を妨害する、又は話すことを妨げるべきではない。
(簡潔な概要)
【0005】
[0005]一態様では、少なくとも2つの外部層A及びCと中間層Bとを含む構成物が提供される。A及びC層は、約1,000MPa~2,500MPaの弾性率、並びに約80℃~180℃のガラス転移温度及び/又は融点を有する熱可塑性ポリマーを個々に含み、中間B層は、約50MPa~約500MPaの弾性率、並びに約90℃~約220℃のガラス転移温度及び/又は融点のうちの1つ又は複数を有するエラストマーを少なくとも含む。
【0006】
[0006]一実施形態では、A及びC層は、コポリエステル、ポリカーボネート、ポリエステルポリカーボネートブレンド、ポリウレタン、ポリアミド、又はポリオレフィンのうちの1つ又は複数を含む。
【0007】
[0007]別の実施形態では、中間B層は、ポリウレタンエラストマー、ポリオレフィンエラストマー、ポリエステルエラストマー、スチレン系エラストマー、ポリアミドエラストマー、環状オレフィンエラストマー、アクリル系エラストマー、芳香族又は脂肪族ポリエーテル、及びポリエステルポリウレタンのうちの1つ又は複数を含む。
【0008】
[0008]さらに別の実施形態では、中間B層の材料は、25℃で22時間後、35%未満、30%未満、25%未満、20%未満、又は10%未満の圧縮永久ひずみを有する。
【0009】
[0009]さらに別の実施形態では、A及びC層は、互いに対して0.05mm~0.1mm変位させられた場合に、1cm2当たり100N(ニュートン)未満、1cm2当たり50N未満、1cm2当たり25N未満、又は1cm2当たり10N未満の横方向の復元力を有する。
【0010】
[0010]別の実施形態では、A及びC層と、B層との間の層間剥離強度は、2.5cm当たり50Nよりも大きい。
【0011】
[0011]一実施形態では、A、B、及びC層の合計厚さは、約250ミクロン~約2,000ミクロンであり、A及びC層の合計厚さは、25ミクロン~750ミクロン、50ミクロン~1000ミクロン、100ミクロン~700ミクロン、150ミクロン~650ミクロン、又は200ミクロン~600ミクロンである。
【0012】
[0012]さらに他の実施形態では、A及びC層のうちの1つ又は複数は、50~100モル%のC6~C14脂肪族二酸部分と約50~100モル%の4,4’-メチレン-ビス(シクロヘキシルアミン)(CAS[1761-71-3])とを含み、約100℃~180℃のガラス転移、20J/g未満の融解熱、及び80%を超える光透過率を有する、微結晶性ポリアミドを含有する。
【0013】
[0013]別の実施形態では、A及びC層のうちの1つ又は複数は、コポリエステルを含有し、コポリエステルは、(a)70モル%~100モル%のテレフタル酸残基を含むジカルボン酸成分と、(b)ジオール成分とを含み、ジオール成分は、i)0~95%のエチレングリコール、ii)5モル%~50モル%の2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール残基、iii)50モル%~95モル%の1,4-シクロヘキサンジメタノール残基、及び/又はiv)3個以上のヒドロキシル基を有する0~1%のポリオールを含み、ジオール残基のi)及び/又はii)及び/又はiii)及び/又はiv)のモル%の合計は、100モル%に達し、コポリエステルは、80℃~150℃のガラス転移温度Tgを示す。
【0014】
[0014]別の実施形態では、中間B層は、約A90~D55のショア硬さ、及び35%未満の圧縮永久ひずみを有する、芳香族ポリエーテルポリウレタンを含み、A及びC層と、B層との間の層間剥離強度は、2.5cm当たり50Nを超える。
【0015】
[0015]一実施形態では、A及びC層のうちの1つ又は複数は、ポリウレタンを含有し、ポリウレタンは、(a)80モル%~100モル%のメチレンジフェニルジイソシアネート残基、及び/又は水素化メチレンジフェニルジイソシアネートを含むジイソシアネートと、(b)ジオール成分とを含み、ジオール成分はi)0~100モル%のヘキサメチレンジオール、及びii)0~50モル%の1,4-シクロヘキサンジメタノールを含み、i)及びii)の合計は、90モル%を超え、ポリウレタンは、約85℃~約150℃のガラス転移温度Tgを有する。
【0016】
[0016]別の態様では、1つ又は複数の歯に共形な歯科装置が、本明細書に記載されるような構成物又はポリマーシートから作られている。
【0017】
[0017]歯科装置の一実施形態では、A、B、及びC層の合計厚さは、約250ミクロン~約2,000ミクロンであり、A及びC層の合計厚さは、25ミクロン~750ミクロン、50ミクロン~1000ミクロン、100ミクロン~700ミクロン、150ミクロン~650ミクロン、又は200ミクロン~約600ミクロンである。
【0018】
[0018]別の態様では、本明細書に記載されるような構成物又はポリマーシート材料を含む可逆的に変形可能な歯科装置であって、エラストマー中間層及び外部層が、互いに対して可逆的に移動でき、且つ互いに対して0.05mm~0.1mm変位させられた場合に、1cm2当たり100N未満、1cm2当たり50N未満、1cm2当たり25N未満、又は1cm2当たり10N未満の横方向の復元力を有する、歯科装置が提供される。
【0019】
[0019]一実施形態では、エラストマー中間層は、約A80~D75、A85~D65、又はA90~D55の硬度を有するポリウレタンを含む。
【0020】
[0020]別の態様では、耐環境応力性を有し、少なくとも2つの外部層とエラストマー内部層とを含む、構成物、ポリマーシート、又は歯科装置であって、外部層のうちの1つ又は複数が、約1,000MPa~2,500MPaの弾性率を有するポリエステル又はコポリエステルであり、内部層が、約50MPa~約500MPaの弾性率を有するエラストマーを含み、少なくとも1つの外部層と、エラストマーとの間の層間剥離強度が、約50N/インチを超える、構成物、ポリマーシート、又は歯科装置が提供される。
【0021】
[0021]別の態様では、可逆的に変形可能な歯科装置であって、外部A層の厚さが約175~約250ミクロンであり、外部C層の厚さが約175~約250ミクロンであり、中間B層の厚さが300~500ミクロンであり、A、B、及びC層の合計厚さが、850~1,000ミクロンである、歯科装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1A】単純なABC構成を有する、本発明の3層シートの断面図の概略図である。層A及び層Cは、同じ又は異なる材料であってもよく、各層は、1つ又は複数の材料、又はブレンド若しくは合金を含んでもよい。層Bは、単一材料、材料のブレンド、又は合金であってもよい。
【
図1B】多層シートの断面図の概略図である。各層A、B、及びCは、単層又は多層を含んでもよく、各層は、1つ若しくは複数の材料、又は材料のブレンドを含んでもよい。
図1Bに例示されているように、層Aは、1つより多い層、例えば層a及びa’を含んでもよく、層Bは、1つより多い層、例えば層b及びb’を含んでもよく、層Cは、1つより多い層、例えば層c及びc’を含んでもよい。
【
図2A】A、B、及びCが、シートの個々の層である、2つの剛性の外部層と内部エラストマー層とを含む単純な3層シートの、変位(
図2A)を決定するための例示的な試験試料の概略図である。この例では、層A及びCが、互いに対して可逆的に並進移動させられ、層Bが、復元力をもたらす。より具体的な一例では、ABC層は、各々厚さ約250ミクロンであり、層A、B及びCは、1つ又は複数の材料を含んでもよく、各々が1層又は複数の層を個々に含んでもよい。
【
図2B】A、B、及びCが、シートの個々の層である、2つの剛性の外部層と内部エラストマー層とを含む単純な3層シートの、復元力(並進移動;
図2B)を決定するための例示的な試験試料の概略図である。この例では、層A及びCが、互いに対して可逆的に並進移動させられ、層Bが、復元力をもたらす。より具体的な一例では、ABC層は、各々厚さ約250ミクロンであり、層A、B及びCは、1つ又は複数の材料を含んでもよく、各々が1層又は複数の層を個々に含んでもよい。
【
図3A】異なる硬度を有するエラストマーの変位/力曲線のグラフ描写である。グラフは、異なる硬度のTPUエラストマーを含む中間B層を有する、層Cに対する層Aの並進移動から生じた復元力(N/cm
2)、及びエラストマーの硬度が、変位及び復元力に影響を及ぼすことを示す。より硬い熱可塑性ウレタン(TPU)は、より大きな復元力を発生させるが、移動の量を限定することがある。
【
図3B】B層に異なる硬度のTPUエラストマーを有する中間B層を有するA層とC層との間に所与の変位に対する、時間(0~48時間)に応じる復元力(N/cm
2)のグラフ描写である。TPU 75Aは、低い圧縮永久ひずみを有し、且つ最小の初期の力を示すが、その力は、経時的にほんの少ししか衰退しない。TPU 75Dは、高い圧縮永久ひずみを有し、はるかに高い初期の復元力を示す一方で、その力は、経時的に急速に衰退している。
【
図4】48時間にわたって37℃及び水にさらされた異なる構成の、5%応力での保持力のグラフ描写である。
【0023】
[0028]
図1~4に例示されている構成及び特性が、具体的な例であって、使用される可能性のある構成及び試験の範囲を限定するようには意図されないことが理解されるべきである。他の材料、構成、及びステップの順序はまた、代替的な実施形態に従って実施されてもよい。例えば、代替的な実施形態は、タイ層、ピグメント、光学添加剤、又は補強剤を含むさらなる層を含むことがあり、平板押出し、共押出しインフレートフィルム、カレンダー加工、ラミネート加工、及び接着結合などの当技術分野で公知のあらゆる手段で構成されてもよい。構造(又はポリマーシート)及びデバイスは、いくつかの実施形態では、3D印刷又は浸漬塗工により作られてもよい。当業者は、構成の多くの変形例、修正例、及び代替案を認識及び理解するであろう。
【0024】
[0029]したがって、本明細書及び図面は、限定的な意味というよりむしろ、例示的な意味で考えられるべきである。しかしながら、特許請求の範囲に記載されるような開示のより広い趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な修正及び変更をそれらに行うことができることは明らかである。
【0025】
[0030]他の変形例は、本開示の趣旨内にある。したがって、開示されている実施形態は、様々な修正例及び代替的な構成の影響を受けやすい一方で、その特定の例示されている実施形態は、図面に示されており、本明細書に記載されている。しかしながら、本開示を、開示された具体的な形態(複数可)に限定する意図は存在しないが、これに反して、添付された特許請求の範囲に定義されているような、本開示の趣旨及び範囲内に属するすべての修正例、代替的な構成、及び同等物を包含することが意図されていることが理解されるべきである。
【詳細な説明】
【0026】
[0031]現在の歯列矯正アライナは、非常に限定された弾性域(典型的には4%~7%)を有し、変形した場合、回復力の急速な衰退を示す。その結果、装置を頻繁に交換することが必要であることもあり、これにより製造コストが増加し、歯が希望通り移動しないことがあり、患者が、過度に高い初期の力から不快感を経験することがある。エラストマー(典型的には、例えば、米国特許第9,655,693B2号に記載されるようなポリウレタン)の薄い外部層を提供することにより弾性域を改善する試みは、容易に変形する歯の接触面をもたらし、歯の移動の正確性を低減させることがあり、一般的な食品、飲料、又はたばこによる見かけの悪いステインの傾向を増大させることがある。米国特許第6,524,101号は、異なる弾性係数を有する領域を有する歯科装置、及び追加された補強要素を有する装置を記載する。Bay Materials,LLC(Fremont、CA)から入手可能なゼンデュラ(Zendura)(登録商標)Aなどの歯科装置を製作するために使用される非ステイン性ポリウレタン類は、優れた特性を有するが、吸湿性であり、熱成形前に厳密な乾燥を必要とし、最初に不快なことがあり、洗浄が困難であり、一部の用途には理想的ではないことがある。
【0027】
[0032]他の多くのポリウレタン類はまた、熱成形前に乾燥しなければならず、製造工程に時間及びコストが追加される。芳香族ポリエステル又はコポリエステルは、アライナを形成するために使用されてもよいが;それらは、乏しい耐化学性並びに低い衝突及び引裂き強さを示す。ポリエステル類又は剛性のポリウレタン類などの堅い材料から構成されているアライナは、例えば約1,000又は1,500MPaを超える高い弾性率を有し、変形した場合、歯根への不快感及び潜在的損傷の原因となる歯に対する過度な力を及ぼす可能性がある。熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)、スチレン系エラストマー(例えばSBS、SEBS、SISなど)などの高弾性ポリマーは、低い弾性率(典型的には、100MPa未満又は200MPa未満)を有し、歯を移動させるには不十分であることがあり、且つ容易にステインが付けられ、これにより、アライナを生産するための有用性が限定的なものとなる。
【0028】
[0033]本開示は、従来技術の材料、及びそれらから構成されている歯科装置における欠陥の多くは、約1,000MPa~最大2,500MPaを超える弾性率を有する材料を含む外部層と、約50MPa~500MPaの弾性率を有するエラストマー材料(複数可)を含む内部エラストマー層又はコアとを有する、シート又はデバイスを用いて低減又は排除でき、これは、非ステイン性であってもよく、剛性のウレタン類よりもコストが低く、改善された弾性特性を示し、驚くほどより大きな耐環境応力亀裂性を有するという発見に基づく。
【0029】
[0034]ポリマーシート又はデバイスは、2つより多くの剛性層を含んでもよく、例えば、第3の剛性層は、2つ以上のエラストマー層間に配されることがある。多層構成は、歯を移動させ、歯を既存の位置に保持し、又は衝突から歯を保護するように適合することができる二重シェル歯科装置を提供する。本明細書に開示されるように、歯と接触する外部シェル材料は、歯と正確に噛み合うように実質的に剛性であり得、より長い距離にわたってより一定に近い力を及ぼす能力を維持しながら的確な力を提供する。
【0030】
[0035]適切な外部及び内部材料の弾性率及び厚さを選択することにより、2つ以上の実質的に剛性のシェルは、同等の厚さ及び形状の剛性材料よりも大きい程度で、互いに対して可逆的に変位させることができ、より大きな範囲の移動により歯に所望の力を加えることができる一方で、変形した場合に過度の力を生じさせず、過度の応力緩和を示さない歯科装置を提供する。具体的な構成に本開示を限定しない一方で、シート又は歯科装置は、本明細書において「二重シェル」シート又は装置と呼ばれることがある。「二重シェル」シート又は装置は、2つ以上のシェル又は層を含むことがある。シェル又は層は、同じ又は異なる厚さを有してもよい。この「二重シェル」構成を含む一連の歯科装置は、歯を段階的に移動させるために使用されてもよく、2つ以上の装置が、同じ又は異なる材料から構成されてもよい。歯科装置は、1つ若しくは複数の歯の模型上に二重シェル材料を熱成形することにより構成されてもよいか、又は剛性及びエラストマー性の前駆体シートを連続して熱成形することにより、又はポリマー溶液若しくはポリマー形成モノマー又はオリゴマーを用いて模型を連続して浸漬塗工することにより構成されてもよく、任意選択で硬化されるか、そうでなければ後処理され得る。本発明者らは、この独自の構成が、シェル又は材料が示す応力亀裂の量を大幅に低減でき、それによって、シート又は装置に使用できる材料の範囲を拡張できることを発見した。
【0031】
定義
[0036]用語「1つの(a)」及び「1つの(an)」及び「その(the)」、並びに開示された実施形態を説明する文脈における同様な指示物(特に、以下の特許請求の範囲の文脈中の)の使用は、本明細書で別途指示がない、又は文脈により明白に否定されない限り、単数及び複数の両方を包含するように解釈されるべきである。用語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、及び「含有する(containing)」は、特に断りのない限り、非限定的用語として解釈されるべきである(すなわち、「それに限定されないが、~を含む」を意味する)。用語「接続される」は、何らかが介在する場合でも、部分的又は全体的に、内部に含まれる、結び付けられる、又は共に接合されると解釈されるべきである。句「に基づく」は、非限定的であり、決して限定することがないと理解されるべきであり、必要に応じて、「少なくとも部分的に基づく」と解釈されるか、又はそうでなければ読み取られるように意図される。本明細書における値の範囲の列挙は、本明細書で別途指示がない限り、その範囲内に属する各別々の値を個別に指す簡単な方法としての役割を果たすことを単に意図しており、各別々の値は、あたかもそれが本明細書において個々に列挙されているかのように本明細書へと組み込まれる。本明細書に記載されるすべての方法は、本明細書で別途指示がない、又は文脈により明白に否定されない限り、任意の適切な順序で実施できる。ありとあらゆる例、又は本明細書で提供される例示的な言葉(例えば「~などの」)の使用は、本開示の実施形態をより理解しやすくすることを意図したものに過ぎず、それ以外に特許請求されない限り本開示の範囲を限定するものではない。本明細書におけるいかなる言葉も、本開示の実施に不可欠であるとして、特許請求されていない任意の要素を示すものとして解釈されるべきでない。
【0032】
[0037]用語「歯科装置」は、対象の歯の中又は上に配置されるあらゆるデバイスに関連して本明細書で使用される。歯科装置は、これらに限定されるものではないが、歯列矯正、補綴、保持、いびき/気道、化粧用、治療用、保護用(例えばマウスガード)、及び癖修正のデバイスを含む。
【0033】
[0038]用語「ASTM D638」は、プラスチックの引張強さのための試験に関連して本明細書で使用される。
【0034】
[0039]用語「ASTM D1364」は、層間剥離強度のための試験に関連して本明細書で使用される。
【0035】
[0040]用語「圧縮永久ひずみ」は、力が加えられ、除去された場合の、材料の永久変形に関連して本明細書で使用される。
【0036】
[0041]用語「曲げ弾性率」は、材料の剛性、及び/又は曲げにおける材料の耐変形性に関連して本明細書で使用される。材料の曲げ弾性率が高いほど、耐曲げ性も高くなる。等方性材料に関しては、あらゆる方向で測定された弾性係数は同じである。
【0037】
[0042]用語「硬度」は、ショア硬さのスケールに関連して本明細書で使用される。ショア硬さ及び弾性率は、一般には、相関性があり、1つの値だけが分かっている場合、近似により変換できる。
【0038】
[0043]用語、「弾性率」又は「引張弾性率」は、材料の剛性、及び/又は材料の耐伸張性に関連して本明細書で使用される。材料の弾性率が高いほど、より剛性となる。材料の曲げ弾性率及び引張弾性率は、同じ又は異なってもよい。A、B、及びCなどの等方性材料に関して、曲げ弾性率及び弾性率(また引張弾性率と呼ばれることもある)は、実質的に同じであり、どちらか一方を、状況に応じて測定できる。
【0039】
[0044]用語「ポリマーシート」は、本明細書では、用語「プラスチックシート」と交換可能に使用される。
【0040】
[0045]ポリマーシートのA及びC層に関しての用語「横方向の復元力」は、適切な位置に固定された別の層に対して並進移動させられている1つの層により及ぼされる可能性がある力に関連して使用される。A及びC層を互いに無関係に移動させる場合、それらは、制止されなければ、後に原位置に戻るであろう。
【0041】
[0046]用語「剪断力」は、本明細書で使用する場合、弾性材料により接続される2つの表面に加えられる並進力を意味する。
【0042】
[0047]用語「シェル」は、歯に嵌合し、且つ歯に取り外し可能に配置可能であるポリマーシェルに関連して本明細書で使用される。
【0043】
[0048]用語「耐ステイン性」は、ステインが付けられることに耐性を示すように設計された材料に関連して本明細書で使用される。
【0044】
[0049]用語「熱可塑性ポリマー」は、熱及び圧力でポリマーが化学的に分解されなければ、具体的な温度以上で柔軟又は成形可能となり、冷却で凝固するポリマーに関連して本明細書で使用される。
【0045】
[0050]用語「歯(複数可)」は、詰め物又は歯冠により改良された天然歯、インプラントの歯、1つ又は複数の天然又はインプラントの歯に固定されている、ブリッジ又は他の取付具の一部である人工歯、及び取り外し可能な取付具の一部である人工歯を含む天然歯を含む。
【0046】
[0051]以下の記載には、様々な実施形態が記載される。説明目的のために、具体的な構成及び詳細が、実施形態の完全な理解をもたらすために記載される。しかしながら、実施形態が具体的な詳細なしで実行できることも、当業者に明白であろう。さらに、周知の特徴は、記載されている実施形態を曖昧にしないために、省略又は単純化されることがある。
【0047】
実施形態
[0052]いくつかの実施形態(本明細書で実施形態#1と呼ばれる)では、熱成形可能ポリマーシートは、少なくとも2つの外部層A及びC、並びに中間層Bを含み、A及びC層は、約1,000MPaを超える、例えば1,000MPa~1,500MPa;1,100MPa~1,600MPa;1,200MPa~1,700MPa;1,300MPa~1,800MPa;1,400MPa~1,900MPa;1,500MPa~2,000MPa;1,100MPa;1,200MPa;1,300MPa;1,400MPa;1,500MPa;1,600MPa;1,700MPa;1,800MPa、1,900MPa;2000MPa;又は最大2,500MPaの弾性率;並びに約80℃~180℃;90℃~170℃;100℃~160℃;110℃~150℃;120℃~150℃;130℃~170℃;140℃~180℃;80℃;90℃;100℃;110℃;120℃;130℃;140℃;150℃;160℃;170℃;又は180℃のガラス転移温度(Tg)及び/又は融点を有する熱可塑性ポリマーを個々に含む。
【0048】
[0053]そのような実施形態では、中間B層は、約50MPa~約500MPa;60MPa~470MPa;70MPa~440MPa;80MPa~400MPa;100MPa~350MPa;150MPa~300MPa;200MPa~400MPa;60MPa、70MPa;80MPa、90MPa;100MPa;110MPa;120MPa;130MPa;140MPa;150MPa、160MPa;170MPa;180MPa;190MPa;200MPa、250MPa、300MPa、350MPa、400MPa、450MPa、又は最大500MPaの弾性率、及び約90℃~約220℃;100℃~約200℃;120℃~約180℃;140℃~220℃;又は160℃~約220℃の(a)ガラス転移温度、又は(b)融点のうちの1つ又は複数を有するエラストマーを少なくとも含む。いくつかの実施形態では、中間B層は、エラストマー層又はシェルであり、1つ又は複数の材料及び1つ又は複数の層を含んでもよい。
【0049】
[0054]実施形態#1では、層A及びCは、ポリエステル若しくはコポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリオレフィン、(メタ)アクリルポリマー、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニルなどのビニルポリマー、又はフルオロポリマーを含んでもよい。
【0050】
[0055]実施形態#1では、層Bは、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー、スチレン系エラストマー、ポリアミドエラストマー、シロキサンエラストマー、ポリエーテルエラストマー、ポリオレフィンエラストマー、オレフィンコポリマー、アクリル系エラストマー、又はフルオロエラストマーを含んでもよい。
【0051】
[0056]実施形態#1では、B層材料は、約35%未満、30%未満、25%未満、20%未満、10%未満の、すなわち35%未満、34%未満、33%未満、32%未満、31%未満、30%未満、29%未満、28%未満、27%未満、26%未満、25%未満、24%未満、23%未満、22%未満、21%未満、20%未満、19%未満、18%未満、17%未満、16%未満、15%未満、14%未満、13%未満、12%未満、11%未満、又は10%未満の、22時間25℃での圧縮永久ひずみを有する。エラストマーが外部層として使用される米国特許第9,655,693B2号の発見に反して、本出願人らは、より高い圧縮永久ひずみではなくむしろ、より低い圧縮永久ひずみがより効果的であることを発見した。
【0052】
[0057]実施形態#1の特定の態様では、シートは、約250ミクロン~約2,000ミクロンの総厚を有する。
【0053】
[0058]実施形態#1の特定の態様では、A及びC層の合計厚さは、約25ミクロン~約1000ミクロン、50ミクロン~750ミクロン、100~750ミクロン、250ミクロン~750ミクロン、又は250ミクロン~約600ミクロンである。
【0054】
[0059]実施形態#1の特定の態様では、熱成形可能シートは、約100MPa~約2,000MPa、約250MPa~約2,000MPa、約500MPa~1,500MPa、約750MPa~約2,000MPa、又は約750ミクロン~約1,500MPaの曲げ弾性率を有する。
【0055】
[0060]実施形態#1の特定の態様では、A及びC層は、約80~150℃の間のTgを有し、B層は、約180℃~220℃の間のTg又は融点、及び約5ジュール/g~約20ジュール/g、又は5ジュール/g~15ジュール/gの融解熱を有する。
【0056】
[0061]実施形態#1の特定の態様では、A層の層間剥離強度は、約50N/インチ超、約60N/インチ超、約70N/インチ超である。
【0057】
[0062]実施形態#1の特定の態様では、A及びC層は各々、25ミクロン~約1000ミクロン、50ミクロン~750ミクロン、100~750ミクロン、125~300ミクロン、250ミクロン~750ミクロン、又は250ミクロン~約600ミクロンの厚さを有し、約250ミクロン~約600ミクロンの合計厚さを有してもよく、95℃~150℃の間のTg、1000MPa~2,500MPaの弾性率を有する剛性のコポリエステル又はポリウレタンを含み、約200ミクロン~約1,000ミクロン又は200~500ミクロンの厚さを有するエラストマーB層は、約D35~約D65の硬度、及び、約35%未満、30%未満、25%未満、20%未満、10%未満の、すなわち35%未満、34%未満、33%未満、32%未満、31%未満、30%未満、29%未満、28%未満、27%未満、26%未満、25%未満、24%未満、23%未満、22%未満、21%未満、20%未満、19%未満、18%未満、17%未満、16%未満、15%未満、14%未満、13%未満、12%未満、11%未満、又は10%未満の、22時間25℃での圧縮永久ひずみを有するポリエーテル又はポリエステルポリウレタンを含み、約50N/インチ超、約60N/インチ超、又は約70N/インチ超の層間剥離強度を有するA層を含み、当該ポリマーシートは、約750MPa~約1,500MPa;約100MPa~約2,000MPa;約250MPa~約2,000MPa;約500MPa~1,500MPa;又は約750MPa~約2,000MPaの曲げ弾性率を有する。
【0058】
[0063]実施形態#1のいくつかの態様では、さらなるポリマー類の薄層(タイ層)が、互いに自然に接着しないポリマー層の接着を改善するために存在してもよく、例えば、無水マレイン酸グラフト化ポリプロピレンの層が、ポリプロピレンA層と、ポリエステル又はポリアミドB層との間の接着を増大させるために使用されてもよい。
【0059】
[0064]いくつかの実施形態(本明細書で実施形態#2と呼ばれる)では、シート又はデバイスのA及びC層は、1cm2当たり100N未満、1cm2当たり50N未満、1cm2当たり25N未満、又は1cm2当たり10N未満の力で、互いに対して(例えば並進に)、約0.05mm~約0.1mm可逆的に移動できる。
【0060】
[0065]実施形態#2のいくつかの態様では、シート又はデバイスのA及びC層は、約500ミクロン~1,000ミクロンの総厚を有し、1cm2当たり100N未満、1cm2当たり50N未満、1cm2当たり25N未満、又は1cm2当たり10N未満の力で、互いに対して、0.05mm~0.1mmの距離だけ可逆的に移動できる。
【0061】
[0066]実施形態#2のいくつかの態様では、B層材料は、約35%未満、30%未満、25%未満、20%未満、10%未満の、すなわち35%未満、34%未満、33%未満、32%未満、31%未満、30%未満、29%未満、28%未満、27%未満、26%未満、25%未満、24%未満、23%未満、22%未満、21%未満、20%未満、19%未満、18%未満、17%未満、16%未満、15%未満、14%未満、13%未満、12%未満、11%未満、又は10%未満の、22時間25℃での圧縮永久ひずみを有する。
【0062】
[0067]いくつかの実施形態(本明細書で実施形態#3と呼ばれる)では、A及びC層のうちの1つ又は複数は、50~100、50~90、50~80、50~70、60~90、60~80、又は70~90モル%のC6~C14脂肪族二酸部分と、約50~100、50~90、50~80、50~70、60~90、60~80、又は70~90モル%の4,4’-メチレン-ビス(シクロヘキシルアミン)(CAS[1761-71-3])とを含む微結晶性ポリアミドを含有し、微結晶性ポリアミドは、約100℃~180℃の間のガラス転移温度、20J/g未満の、例えば5ジュール/g~約20ジュール/g、又は5ジュール/g~15ジュール/gの融解熱を有する。例えば、独国特許出願公開第4310970号(実施形態3)を参照されたい。実施形態#3のいくつかの態様では、A及びC層の合計厚さは、約500ミクロン未満、約400ミクロン未満、約300ミクロン未満である。
【0063】
[0068]いくつかの実施形態(本明細書で実施形態#4と呼ばれる)では、1つ又は複数の歯に共形な歯科装置は、少なくとも2つの外部層A及びCと、中間層Bとを含み、A及びC層は、約1,000MPaを超える、例えば、1,000MPa~1,500MPa;1,100MPa~1,600MPa;1,200MPa~1,700MPa;1,300MPa~1,800MPa;1,400MPa~1,900MPa;1,500MPa~2,000MPa;1,100MPa;1,200MPa;1,300MPa;1,400MPa;1,500MPa;1,600MPa;1,700MPa;1,800MPa、1,900MPa;2000MPa;最大2,500MPaを超える、特定の態様では1,500MPaを超える弾性率、並びに約80℃~180℃;90℃~170℃;100℃~160℃;110℃~150℃;120℃~150℃;130℃~170℃;140℃~180℃;80℃;90℃;100℃;110℃;120℃;130℃;140℃;150℃;160℃;170℃:又は180℃、特定の態様では80~150℃又は95~150℃のガラス転移温度及び/又は融点を有する、熱可塑性ポリマーを個々に含む。そのような実施形態では、中間B層は、約50MPa~500MPa;70MPa~450MPa;80MPa~400MPa;100MPa~350MPa;150MPa~300MPa;200MPa~400MPa;60MPa、70MPa;80MPa、90MPa;100MPa;110MPa;120MPa;130MPa;140MPa;150MPa、160MPa;170MPa;180MPa;190MPa;200MPa、最大250MPaの弾性率、及び約90℃~約220℃のガラス転移温度又は融点のうちの1つ又は複数を有するエラストマーを少なくとも含む。
【0064】
[0069]実施形態#4のいくつかの態様では、A及びC層は、特定の態様では、約25ミクロン~約600ミクロン、例えば、250ミクロン、300ミクロン、350ミクロン、400ミクロン、450ミクロン、500ミクロン、550ミクロン、又は600ミクロンの合計厚さを有し、80℃~180℃;90℃~170℃;100℃~160℃;110℃~150℃;120℃~150℃;130℃~170℃;140℃~180℃;80℃;90℃;100℃;110℃;120℃;130℃;140℃;150℃;160℃;170℃:又は180℃、例えば、80~150℃又は95~150℃のTgの、1,000MPaを超える、例えば1,000MPa~1,500MPa;1,100MPa~1,600MPa;1,200MPa~1,700MPa;1,300MPa~1,800MPa;1,400MPa~1,900MPa;1,500MPa~2,000MPa;1,100MPa;1,200MPa;1,300MPa;1,400MPa;1,500MPa;1,600MPa;1,700MPa;1,800MPa、1,900MPa;2000MPa;又は最大2,500MPaの弾性率を有する、剛性のコポリエステル又はポリウレタンを含む。
【0065】
[0070]実施形態#4のいくつかの態様では、エラストマーB層は、約200ミクロン~約1,000ミクロン、例えば100ミクロン、200ミクロン、250ミクロン、300ミクロン、350ミクロン、375ミクロン、400ミクロン、500ミクロン、750ミクロン、又は1,000ミクロンの厚さを有し、約D35~約D65の硬度、及び約35%未満、34%未満、33%未満、32%未満、31%未満、30%未満、29%未満、28%未満、27%未満、26%未満、25%未満、24%未満、23%未満、22%未満、21%未満、20%未満、19%未満、18%未満、17%未満、16%未満、15%未満、14%未満、13%未満、12%未満、11%未満、又は10%未満の、22時間25℃での圧縮永久ひずみを有する、ポリエーテル又はポリエステルポリウレタンを含み、約50N/インチ超、約55N/インチ超、約60N超、約70N超の層間剥離強度を有するA層を含み、当該ポリマーシートは、約100MPa~約2,000MPa、約250MPa~約2,000MPa、約500MPa~1,500MPa、約750MPa~約2,000MPa、例えば約750ミクロン~約1,500MPaの曲げ弾性率を有する。
【0066】
[0071]実施形態#4のいくつかの態様では、A及びC層は、1cm2当たり100N未満、1cm2当たり50N未満、1cm2当たり25N未満、又は1cm2当たり10N未満の力で、0.05mm~0.1mmの横方向の復元力を有する。
【0067】
[0072]いくつかの実施形態(本明細書で実施形態#5と呼ばれる)では、歯科装置は、歯の模型に多層シートを熱成形することにより形成され、熱成形は、外部層のガラス転移温度及び/又は融点よりも少なくとも高く、並びに少なくとも内部層エラストマー材料の上限のガラス転移温度及び/又は融点未満の温度で実施される。
【0068】
[0073]実施形態#5の一実施形態では、歯科装置は、約80℃~180℃;90℃~170℃;100℃~160℃;110℃~150℃;120℃~150℃;130℃~170℃;140℃~180℃;80℃;90℃;100℃;110℃;120℃;130℃;140℃;150℃;160℃;170℃;又は180℃のTgを有する、少なくともA及びC層を有する多層シートを熱成形することにより調製され、B層は、約90℃~220℃、例えば180℃~220℃のガラス転移温度及び/又は融点、並びに約5J/g~約20J/g、例えば約5J/g~約20ジュール/g、又は5ジュール/g~15ジュール/gの融解熱を有する。
【0069】
[0074]実施形態#5の一態様では、A及びC層は、約90℃~約120℃のTgを有するコポリエステル又はポリウレタンを含み、B層は、約50MPa~500MPaの弾性率、並びに約170℃~約220℃のガラス転移温度及び/又は融点を有するポリウレタンを含み、熱成形は、約150℃~200℃の間の温度で実施される。
【0070】
[0075]2つ以上の実施形態の要素を組み合わせることができることが理解されるべきである。
【0071】
[0076]いくつかの実施形態では、熱成形可能ポリマーシートは、少なくとも2つの外部層A及びC、並びに中間層Bを含み、A及びC層のうちの1つ又は複数は、50~100モル%のC6~C14脂肪族二酸部分と、約50~100モル%の4,4’-メチレン-ビス(シクロヘキシルアミン)(CAS[1761-71-3])とを含む微結晶性ポリアミドを含有し、微結晶性ポリアミドは、約100℃~180℃のガラス転移、20J/g未満の融解熱、及び80%を超える光透過率を有する。
【0072】
[0077]いくつかの実施形態では、熱成形可能ポリマーシートは、少なくとも2つの外部層A及びCと、中間層Bとを含み、A及びC層のうちの1つ又は複数は、コポリエステルを含有し、コポリエステルは、70モル%~100モル%のテレフタル酸残基を含むジカルボン酸成分と、ジオール成分とを含み、ジオール成分は、(i)0~95%のエチレングリコール、(ii)5モル%~50モル%の2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール残基、(iii)50モル%~95モル%の1,4-シクロヘキサンジメタノール残基、及び/又は(iv)3個以上のヒドロキシル基を有する0~1%のポリオールを含み、ジオール残基の(i)、(ii)、(iii)、及び/又は(iv)のモル%の合計は、100モル%に達し、コポリエステルは、80℃~150℃のガラス転移温度Tgを示す。この実施形態のいくつかの態様では、熱成形可能ポリマーシートは、約A90~D55のショア硬さ、及び35%未満の圧縮永久ひずみを有する芳香族ポリエーテルポリウレタンを含む中間B層を含み、A及びC層と、B層との間の層間剥離強度は、2.5cm当たり50Nを超える。
【0073】
[0078]いくつかの実施形態では、1つ又は複数の歯に共形な歯科装置は、上記の微結晶性ポリアミド又はコポリエステルから作られる。
【0074】
構成方法
[0079]多層シートは、限定されないが、ホット又はコールドラミネート加工、接着ラミネート加工、メルトラミネート加工、共押出し、多層押出し、又は他の公知の方法を含むいくつかの手段により製造されてもよい。シートは、歯列矯正装置に形成する前に完全に製造されてもよいか、又は装置は、多層を作成する一連の個々の熱成形ステップを使用して生産されてもよい。
【0075】
[0080]試験試料又は歯科装置を生産するためのシートの熱成形は、本業界で一般的に使用される手順を用いる、Great Lakes Orthodonticsから入手可能な「Biostar」圧力成形機を使用して実施されてもよい。代替的に、熱成形は、ロール供給熱成形機、真空成形機、又は他の公知の熱成形技術を使用して実施されてもよい。熱成形は、延伸比及び成形品の厚さを変更するために、異なる条件、形態、又は模型を使用して実行されてもよい。多層装置は、1つ又は複数の3D印刷プロセスを経て、又は順次的な浸漬塗工、スプレーコーティング、パウダーコーティング、若しくはフィルム、シート、及び3D構造体を生産することで知られている同様なプロセスにより製作されてもよい。
【0076】
[0081]熱成形中のシート温度は、赤外線放射温度計又は表面熱電対を使用して測定できる。
【0077】
有用性
[0082]本明細書に記載されるシート及び材料は、優れた寸法安定性、衝突緩衝作用、及び復元力を有する熱成形可能材料としての有用性を有する。シートは、例えば、歯を移動させるため、改善された耐衝撃性を有するスポーツ用マウスガードとして使用するため、及び歯列矯正リテーナーとして使用するための、いくつかのタイプの口腔内装置に転換することができる。現在入手可能な材料及び装置と比較して、本明細書に記載される材料及び装置の改善された特性は、これらに限定されるものではないが、エンドユーザの快適さの改善をもたらすより高い可撓性、歯の移動結果の改善、より高い耐ステイン性及び耐応力亀裂性、並びに優れた化粧性を含み、それらのすべてが、対象によるより着実な着用を促進する。
【0078】
試験方法
[0083]引張特性を、Instron Universal Materials Testerを使用して測定した。特に断りのない限り、ASTM D638の手順を使用した。色及び透明度を、BYK Gardner Spin比色計を使用して測定した。
【0079】
[0084]耐衝撃性を、Gardner衝撃試験機を使用して測定した。引裂き強さを、毎分250mmの速度で材料試験機を使用して測定した。
【0080】
[0085]37℃の水中での試料の応力緩和を、米国特許第8,716,425B2号に記載されている方法により測定した。
【0081】
[0086]耐ステイン性を、37℃で24時間、マスタード又はコーヒーなどのステイン付与媒体に試験物をさらすこと、及びさらす前後に白色タイル上で色を測定することにより測定した。
【0082】
[0087]並進回復力を、
図1及び2に示されるような3層構造(又はポリマーシート)を構成することにより測定した。試料を0~0.5mm変位させ、その力をN/cm
2で報告した。
【0083】
[0088]層間剥離強度は、50mm/分の速度で測定され、1インチ当たり又は2.54cm(N)当たりのニュートン(N)として報告されることがある。詳細は、試験方法ASTM D3164で発見できる。
【0084】
[0089]ガラス転移温度、融点及び凝固点を決定するための熱試験を、別途指示がない限り、毎分10℃の加熱及び冷却速度で、示差走査熱量計を使用して測定した。
【0085】
[0090]耐環境応力亀裂性は、円筒形のマンドレルの周囲にシート試料を固定して、外部表面に特定のひずみ、例えば3%又は5%のひずみをもたらし、特定の環境、例えば唾液模倣溶液、口内洗浄剤、又は他の目的の溶液に試料を規定時間さらすことにより決定されてもよい。応答は、亀裂のタイプ及び数の目視観測により半定量的に、又は引裂き強さなどの機械的特性を後に測定することにより定量的に測定できる。
【0086】
材料及び方法。
[0091]構成の材料。多数の市販されている材料は、本明細書に記載されているシート及び装置を生産する際に利用できる。表1は、A又はC成分で使用される例示的な材料のリストを提供する。表2は、B成分で使用される例示的な材料のリストを提供する。同様の又は関係する材料は、他の製造業者から得るか、又は公知の方法により生産できる。
【0087】
【0088】
【0089】
[0092]A、B又はC層のためのさらなる適切な材料は、相溶性又は非相溶性ブレンド、例えば2つ以上のコポリエステルのブレンド、ポリプロピレン及びポリエチレン及びエチレンプロピレンエラストマーのブレンド、ポリフッ化ビニリデン又はそのコポリマーなどのフルオロポリマー、スチレンアクリロニトリル樹脂、アクリロニトリルスチレンブタジエン樹脂(ABS)、ポリカーボネートソフトブロックを含有するポリウレタン、シロキサンソフトブロック、ジェニオマー(Geniomer)(商標)などのシリコーンエラストマー、シロキサン尿素コポリマー、並びに環状オレフィンコポリマー及び環状オレフィンエラストマーを含むことができる。
【実施例0090】
[0093]本開示は、以下の例によりさらに例示される。その例は、説明の目的のためだけに提供される。それらは、本発明の範囲又は内容を限定するものと決して解釈されるべきでない。
【0091】
実施例1
[0094]公称総厚が0.76mmの一連の単一層及び多層シートを、表3に示されるように準備した。試験試料1~4を、個々のフィルムを圧縮成形及び熱ラミネート加工することにより、又は押出しラミネート加工することにより調製した。従来技術の材料P1、P2、及びP3の例を、フィルムを圧縮成形すること、及び任意選択でそれらを熱ラミネート加工することにより調製した。
【0092】
[0095]プレスラミネート加工を、200~220℃で実行し、押出しラミネート加工を、210~240℃のポリウレタン融解温度を用いて行い、共押出しを、240℃~260℃のポリエステル融解温度、及び210~240℃のポリウレタン融解温度を用いて行った。時間、温度、及び圧力の条件を、構造(ポリマーシート)品質、厚さ、及び接着を最大化するように変更した。
【0093】
[0096]機械的特性、光学的特性、応力緩和、及び形状回復率を、生じた構造(ポリマーシート)の適切性を比較するために測定した。
【0094】
【0095】
[0097]従来技術の材料P1は、Bay Materials,LLC、Fremont Caにより供給された市販の熱成形可能アライナ材料である。従来技術の材料P2は、Eastar 6763という商標名の下で販売されている、Eastman Chemicalにより製造された、約90℃のガラス転移温度を有するポリエステルである。従来技術の材料P3は、米国特許第9,655,693B2号に記載されている。試験試料1~4は、多層ラミネート(本明細書に記載されるような)であり、応力緩和特性の改善、引裂き強さの増大、及び優れた耐ステイン性を実証する。
【0096】
[0098]従来技術の材料と比較して、試験試料1~4は、いくつかの予想外の特性を示した。試験試料1~4並びに従来技術の材料P1及びP2を比較すると、試験試料1~4が、応力緩和試験において実質的により小さい初期の力を示す(より良好なユーザの快適さにつながると考えられている)が、驚くべきことに、より長い時間にわたって力を維持することが分かる。これは、内部硬質層を保護するためにエラストマーの外部層が必要であると教示する米国特許第9,655,693B2号の教示に反する。要求条件下で長い時間にわたって適切な力レベルを維持する多層シートの能力は、
図4において容易に分かる。
図4の試料A及びBは、単層シートである一方で、試料1及び2は、表3に記載されるような多層シートである。
【0097】
[0099]引裂き強さは、歯科装置の重要な特性である。低い引裂き強さを有する材料は、耐久性が低く、応力が集中する位置で割れることがある。従来技術の材料P1、P2、及びP3の引裂き強さを、試験試料1~4と比較することにより、エラストマーB層を含むそのような多層構造(又はポリマーシート)が、同等の単一層構造、又は従来技術の多層構造よりも著しく高い引裂き強さを有することが示される。
【0098】
[0100]引裂き強さに対する構成の効果をさらに調査するために、別のラミネート(#5)を、86℃のTgを有する、Eastman Chemicalから入手可能なコポリエステルであるEastar 6763を含む、0.25mmのA及びC層、並びにショア50Dのウレタンエラストマーの0.2mmのB層で調製して、0.7mmの総厚を得た。この試料の引裂き強さを、従来技術の材料P1、P2、及びP3と比較した。試料#5は、従来技術の材料P3の値の200%を超える120Nの引裂き強さを示したが、ポリウレタン及びポリエステルの同様な比率を有している。
【0099】
実施例2(並進力の測定)
[0101]3層シートを、試験材料2のために、実施例1に記載されているように調製した。2.54cm×1cmの1片のシートを、幅2.54cmの2片の剛性のポリエステル間に結合させて、0.5cmの重複部分を作成した(「多層試料A2」)。対照試験試料を、2片の剛性のポリエステル間に同じサイズ及び厚さのポリエステルA(従来技術)を使用して調製した。変位/力の応答を、0.04MPa/分の速度で測定し、結果を表4に報告する。多層構成は、装置の2つの外部層(又は2つのシェル)が、適切な力で従来技術の構成よりも大きい弾性移動に適応することを可能とする。
【0100】
【0101】
[0102]歯列矯正デバイスを、本明細書に記載されている材料及び方法を使用して作り、ゼンデュラA及びEssix Plusから作られた、同じ形状及び厚さのデバイスと比較した。開示されているデバイスは、実質的に、より弾性であり、より快適に着用できた。内部及び外部シェルが互いに独立して変形できるので、それらは、不必要な不快感を患者にもたらさずに、実際の歯と装置との間のより大きなオフセットに適応でき、且つほぼ一定の力を長時間及ぼして、歯を正確に移動させることができる。
【0102】
実施例3
[0103]厚さ0.25mmの、Blue Ridge Films(Petersburg、Virginia)により供給される、BFI 257と命名された透明なポリプロピレンフィルムを、180Fのホットプレスで、Kraton GF(マレイン酸変性SEBS、Kraton Polymersから入手可能)から調製された0.25mm厚のフィルムの両側にラミネート加工し、冷却し、125mmの円へと切断した。ポリプロピレンの弾性率は、1,100MPaで報告される。SEBSエラストマーは、71Aの報告された硬度、及び25MPaの弾性率を有する。多層フィルムは少ないステインを示し、優れた弾性回復特性を備えるリテーナーを生産するために歯科模型上で熱成形可能であった。
【0103】
実施例4
[0104]歯科装置が、アルコール及び/又は界面活性剤により容易に損傷する可能性があることが知られているため、口内洗浄液の存在下でのシート材料の耐久性を調査した。0.75mmの厚さを有する試験シートを、幅2.54cm×長さ12cmで調製した。従来技術の材料P1、P2、及びP3、並びに多層シート(試験材料)#2を、十分な径のマンドレルに巻き付けて、5%のひずみを生じさせた。試料を口内洗浄剤に浸漬し、37℃に維持した。この環境が、環境応力亀裂を促進し、材料が平坦の代わりにフープ形状となるひずみを誘発することが知られている。24時間後、試料を脱イオン水ですすぎ、回復の量を、周囲温度で直ちに測定し、24及び48時間後に再び測定した。後に、試料を顕微鏡で見て、伸張下にあった側の応力亀裂の量を決定した。完全に平らに戻った試料を、100%回復を有するとして採点する。応力亀裂を1~5で評価し、5は可視の亀裂がなく、1は激しい亀裂である。試料の形状回復を表5に示す。多層シート(#2)は、従来技術の材料P1、P2、及びP3よりも、急速及び完全に回復した。
【0104】
【0105】
実施例5
[0105]3つのラミネートを、実施例1、試料2のように調製し、試料#6、#7、及び#8と命名した。試料#6は、40℃のロール温度で、未処理のポリエステルフィルムを使用してラミネート加工された押出し品であり、試料#7は、60℃のロール温度で、コロナ処理ポリエステルフィルムを使用してラミネート加工された押出し品であり、試料#8は、80℃のロール温度で、コロナ処理フィルムを使用してラミネート加工された押出し品であった。コロナ処理は、それらの極性を増大させるようにフィルム表面を活性化するために一般的に使用される。ポリエステルAの対照試料を、試料#9と命名した。3つの試料の機械的特性及び耐環境応力亀裂性を、表6に示す。
【0106】
【0107】
[0106]試料#6及び#9と比較される、試料#7及び#8で観察された耐環境性の劇的な改善は、予期されておらず、予想外である。各場合において、環境にさられている材料は、化学的に同一であり、等しい量の応力下にある。理論に縛られることは望まないが、本出願人らは、外部ポリエステル層に存在するいくらかの集中した歪み誘発性応力が、エラストマー材料に伝達され、力の伝達が、より高い層間結合強度を有する材料においてより効率的であると仮定する。しかしながら、本出願人らは、この結果に関するあらゆる先例を認識していない。
【0108】
[0107]熱可塑性非晶質コポリエステル(PETG及びPCTG)が、乏しい耐環境応力亀裂性を有し、歯科装置として使用される場合に急速に分解する傾向があることがよく知られている。米国特許第9,655,691号は、約60A~約85Dの硬度を有する熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いてそのようなコポリエステルの両側を覆うことで、驚くべきことに、そのような材料(「2つの軟質ポリマー層間に配される硬いポリマー層」として記載されている)から作られた歯のアライナの耐久性が増大したことを教示する。推測上、外部材料は、物理的及び/又は化学的な保護層を提供する。そのような材料の短所は、ポリウレタンエラストマー及び他のエラストマーが、乏しい耐ステイン性を有し、開示されている多層構造が、乏しい耐引裂き性を有することである。
【0109】
[0108]本発明者らは、非晶性ポリエステルのフィルム、シート、又はそれらから調製される熱成形部品の耐応力亀裂性が、2層のポリエステル間に、ポリウレタンなどのエラストマー材料を結合することにより劇的に改善できることを予想外に発見した。2つの硬質ポリマー層間に配された軟質ポリマー層を有する得られた構造は、優れた耐化学性、高透明性、及び優れた耐ステイン性を有する。さらに、多層構造の耐引裂き性は、ポリエステル又はエラストマー単独のいずれかを超える。本発明者らは、改善特性が、層間の高い結合強度を必要とすること、及び不十分に結合する層を有する材料が、劣る耐亀裂性及び劣る引裂き強さを有することも発見した。
【0110】
[0109]当技術分野では、剛性のポリウレタンシートは、それ自体で非常に良好な耐応力亀裂性を有することが知られている。予想外に、本出願人らは、剛性のポリウレタンA(外部)層及び優れた接着を有するエラストマーB(内部)層を有する3層ABA構造が、剛性のポリウレタン単独よりも劣る耐環境応力亀裂性を有していたことを観察し、その反対の効果が、ポリエステル外部層で観察された。
【0111】
実施例6
[0110]試験を、シートから作られたデバイスの性能に対する、熱処理及び熱成形条件の効果を調査するために実行した。試験材料2の3枚のシート(2A、2B、及び2C)(3層、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエステル)を、12時間、真空下で、60℃で乾燥させた。試料を、吸湿防止バッグに入れ、表7に示される熱処理及び熱成形条件に供した。試料2Aを22℃で維持し、試料2B及び2Cを100℃で24時間アニールした。その後、試料を、異なる熱成形温度を用いて平板を生産するように熱成形した。試料2A及び2Bを、ポリウレタンの融解範囲の上限未満の温度で熱成形した一方で、2Cを、ポリウレタンの融解範囲を超える温度で熱成形した。
【0112】
【0113】
[0111]試験試料を、熱成形試料から切断し、DSCにより分析し、水中、37℃で、応力緩和試験に供した。DSCが、試料の融点及び融解熱が、100℃でアニールすることにより上昇したこと、並びに熱成形が、融解熱及び融解範囲を低減させたことを示した。しかしながら、ポリウレタンの融解範囲の上限未満で熱成形された試料は、より多くの結晶性を保持し、応力緩和試験において十分に働いた。表7の試料2Bの条件を、歯科装置を製作するために使用した。
【0114】
実施例7
[0112]さらなる構成物を、表8に示されるような弾性率及び弾性の差を有する適切な層材料を選択することにより作ることができる。
【0115】
【0116】
実施例8
[0113]厚さ2mmのシートを、厚さ0.250mmのポリプロピレンホモポリマー(Blue Ridge Films BFI 3270、1,200MPaの弾性率)の2つの外部フィルム、及び1.50mm厚のエチレンプロピレン微結晶性エラストマー(Noito PN 2070、Mitsui Chemical、弾性率150MPa)の内部層をラミネート加工することにより調製した。シートを、径125mmの円板へと切断し、個体の上顎歯の模型に熱成形し、形を整えて、高い耐衝撃性のスポーツ用マウスガードを作った。驚くべきことに、マウスガードは、より良好な衝撃保護を提供し、Drufosoftの商標名の下でDreveにより販売されている4mm厚のエチレン酢酸ビニルコポリマーから製作される標準のデバイスよりも快適である。
【0117】
実施例9
[0114]アライナを、歯の模型に3層シートを熱成形することにより作った。2つの外部層は、約120℃のTgを有する剛性のポリウレタンを含み、内部B層は、160~195℃のハードブロック融点及び8J/グラムの融解熱を有するショアA85の芳香族ポリエーテルポリウレタンを含んだ。装置を、外部層のTg未満である100℃で24時間アニールした。変形は観察されなかった。試験により、この装置が、100℃でアニールする前よりも弾性があり、荷重クリープがより小さかったことが実証された。その改善は、ポリウレタンエラストマーの微細構造の改善によるものと思われる。
【0118】
[0115]第2の試験では、多層デバイス及び単層デバイスを比較し、各場合において、ゼンデュラA材料を、それぞれ、A/C材料として、又はA/B/C材料として使用した。デバイスを、90℃で24時間アニールした。単一層デバイスが広範に変形した一方で、多層デバイスはその形状を維持したことが観察された。多層デバイスでは、望ましくない寸法変化を防止するために、アニールの間に、エラストマーがより剛性の材料に安定化力を維持すると仮定される。