(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063083
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】抗TIGIT抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20240501BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240501BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240501BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240501BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240501BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240501BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240501BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240501BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240501BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240501BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240501BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240501BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240501BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240501BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240501BHJP
G01N 33/536 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/28 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
C07K16/46
A61P31/00
A61P35/00
A61P37/02
A61K47/68
A61K39/395 N
A61K39/395 D
G01N33/53 D
G01N33/536 A
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024027487
(22)【出願日】2024-02-27
(62)【分割の表示】P 2020552889の分割
【原出願日】2019-07-25
(31)【優先権主張番号】201810823583.6
(32)【優先日】2018-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】518049935
【氏名又は名称】イノベント バイオロジックス (スウツォウ) カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】シー、シンチェン
(72)【発明者】
【氏名】チャン、パン
(72)【発明者】
【氏名】リウ、ジュンジャン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】新規なTIGIT抗体、特にTIGITを標的とするCD155/CD112遮断型抗体、特にヒト抗TIGIT抗体の開発、並びに疾患治療、特にがん治療のためのそれらの組み合わせ療法を提供する。
【解決手段】TIGITと特異的に結合する、特定の配列を有する新規な抗体、抗体断片、該抗体又は抗体断片を含有する組成物、該抗体又はその抗体断片をコードする核酸、該核酸を含む宿主細胞、及び関連の使用を提供する。また、これらの抗体及び抗体断片の治療・診断のための用途を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TIGITと結合する抗体又はその抗原結合断片であって、
(i)配列番号84、85、86又は87で表される重鎖可変領域のHCDR1、2及び3の配列、並びに、配列番号104で表される軽鎖可変領域のLCDR1、2及び3の配列、
(ii)配列番号88、89又は90で表される重鎖可変領域のHCDR1、2及び3の配列、並びに、配列番号105又は106で表される軽鎖可変領域のLCDR1、2および3の配列、
(iii)配列番号91、92又は93で表される重鎖可変領域のHCDR1、2及び3の配列、並びに、配列番号107で表される軽鎖可変領域のLCDR1、2及び3の配列、
(iv)配列番号94、95、96又は97で表される重鎖可変領域のHCDR1、2及び3の配列、並びに、配列番号108で表される軽鎖可変領域のLCDR1、2及び3の配列、
(v)配列番号98、99又は100で表される重鎖可変領域のHCDR1、2及び3の配列、並びに、配列番号109で表される軽鎖可変領域のLCDR1、2及び3の配列、又は、
(vi)配列番号101、102又は103で表される重鎖可変領域のHCDR1、2及び3の配列、並びに、配列番号110で表される軽鎖可変領域のLCDR1、2及び3の配列
を含む、前記抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
重鎖の3つの相補性決定領域(HCDR)と、軽鎖の3つの相補性決定領域(LCDR)とを含む、TIGITと結合する抗体又はその抗原結合断片であって、
(a)HCDR1が配列番号1、2、3、4又は5で表されるアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号6、7、8、9又は10で表されるアミノ酸配列を含み、HCDR3が配列番号11、12、13、14又は15で表されるアミノ酸配列を含み、LCDR1が配列番号16で表されるアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号17で表されるアミノ酸配列を含み、且つLCDR3が配列番号18で表されるアミノ酸配列を含み、
(b)HCDR1が配列番号19、20又は21で表されるアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号22、23又は24で表されるアミノ酸配列を含み、HCDR3が配列番号25で表されるアミノ酸配列を含み、LCDR1が配列番号26で表されるアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号27で表されるアミノ酸配列を含み、且つLCDR3が配列番号28、29又は30で表されるアミノ酸配列を含み、
(c)HCDR1が配列番号31、32又は33で表されるアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号34、35、36又は37で表されるアミノ酸配列を含み、HCDR3が配列番号38、39又は40で表されるアミノ酸配列を含み、LCDR1が配列番号41で表されるアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号42で表されるアミノ酸配列を含み、且つLCDR3が配列番号43で表されるアミノ酸配列を含み、
(d)HCDR1が配列番号44、45、46又は47で表されるアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号48、49、50、51又は52で表されるアミノ酸配列を含み、HCDR3が配列番号53、54、55又は56で表されるアミノ酸配列を含み、LCDR1が配列番号57で表されるアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号58で表されるアミノ酸配列を含み、且つLCDR3が配列番号59で表されるアミノ酸配列を含み、
(e)HCDR1が配列番号60、61又は62で表されるアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号6、63、64又は65で表されるアミノ酸配列を含み、HCDR3が配列番号66、67又は68で表されるアミノ酸配列を含み、LCDR1が配列番号69で表されるアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号17で表されるアミノ酸配列を含み、且つLCDR3が配列番号70で表されるアミノ酸配列を含み、
(f)HCDR1が配列番号71、72、73又は74で表されるアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号22、75、76又は77で表されるアミノ酸配列を含み、HCDR3が配列番号78、79又は80で表されるアミノ酸配列を含み、LCDR1が配列番号81で表されるアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号82で表されるアミノ酸配列を含み、且つLCDR3が配列番号83で表されるアミノ酸配列を含み、
(g)HCDR1が配列番号178、179、180又は181で表されるアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号6、7、8又は9で表されるアミノ酸配列を含み、HCDR3が配列番号182、183、184又は185で表されるアミノ酸配列を含み、LCDR1が配列番号16で表されるアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号17で表されるアミノ酸配列を含み、且つLCDR3が配列番号18で表されるアミノ酸配列を含み、
(h)HCDR1が配列番号186又は187で表されるアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号22又は23で表されるアミノ酸配列を含み、HCDR3が配列番号188で表されるアミノ酸配列を含み、LCDR1が配列番号26で表されるアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号27で表されるアミノ酸配列を含み、且つLCDR3が配列番号28又は29で表されるアミノ酸配列を含み、
(i)HCDR1が配列番号189又は190で表されるアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号34、35又は36で表されるアミノ酸配列を含み、HCDR3が配列番号191又は192で表されるアミノ酸配列を含み、LCDR1が配列番号41で表されるアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号42で表されるアミノ酸配列を含み、且つLCDR3が配列番号43で表されるアミノ酸配列を含み、
(j)HCDR1が配列番号193、194又は195で表されるアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号48、49、50又は51で表されるアミノ酸配列を含み、HCDR3が配列番号196、197又は198で表されるアミノ酸配列を含み、LCDR1が配列番号57で表されるアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号58で表されるアミノ酸配列を含み、且LCDR3が配列番号59で表されるアミノ酸配列を含み、
(k)HCDR1が配列番号199又は200で表されるアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号6、63又は64で表されるアミノ酸配列を含み、HCDR3が配列番号201又は202で表されるアミノ酸配列を含み、LCDR1が配列番号69で表されるアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号17で表されるアミノ酸配列を含み、且つLCDR3が配列番号70で表されるアミノ酸配列を含み、又は、
(l)HCDR1が配列番号203、204又は205で表されるアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号22、75又は76で表されるアミノ酸配列を含み、HCDR3が配列番号206又は207で表されるアミノ酸配列を含み、LCDR1が配列番号81で表されるアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号82で表されるアミノ酸配列を含み、且つLCDR3が配列番号83で表されるアミノ酸配列を含む、
前記抗体又はその抗原結合断片。
【請求項3】
(i)配列番号84、85、86又は87で表されるアミノ酸配列と少なくとも80%、85%又は90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び/又は配列番号104で表されるアミノ酸配列と少なくとも80%、85%又は90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、
(ii)配列番号88、89又は90で表されるアミノ酸配列と少なくとも80%、85%又は90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び/又は配列番号105又は106で表されるアミノ酸配列と少なくとも80%、85%又は90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、
(iii)配列番号91、92又は93で表されるアミノ酸配列と少なくとも80%、85%又は90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び/又は配列番号107で表されるアミノ酸配列と少なくとも80%、85%又は90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、
(iv)配列番号94、95、96又は97で表されるアミノ酸配列と少なくとも80%、85%又は90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び/又は配列番号108で表されるアミノ酸配列と少なくとも80%、85%又は90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、
(v)配列番号98、99又は100で表されるアミノ酸配列と少なくとも80%、85%又は90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び/又は配列番号109で表されるアミノ酸配列と少なくとも80%、85%又は90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、又は、
(vi)配列番号101、102又は103で表されるアミノ酸配列と少なくとも80%、85%又は90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び/又は配列番号110で表されるアミノ酸配列と少なくとも80%、85%又は90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含む、請求項1又は2に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項4】
(i)配列番号84、85、86又は87で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号104で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、
(ii)配列番号88、89又は90で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号105又は106で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、
(iii)配列番号91、92又は93で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号107で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、
(iv)配列番号94、95、96又は97で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号108で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、
(v)配列番号98、99又は100で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号109で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、又は、
(vi)配列番号101、102又は103で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号110で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、から選択される重鎖可変領域及び軽鎖可変領域
から選択される重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項5】
前記抗体がIgG1、IgG2又はIgG4の形態の抗体又はそれらの抗原結合断片であり、好ましくはS228P、F234A及びL235A突然変異を有するIgG4 Fc領域である、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項6】
前記抗体が完全ヒト化抗体、ヒト化抗体又はキメラ抗体である、請求項1~5のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項7】
前記抗原結合断片が、Fab、Fab’、Fab’-SH、Fv、scFvなどの単鎖抗体、(Fab’)2断片、単一ドメイン抗体、二重特異性抗体(dAb)又は線形抗体から選択される抗体断片である、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項8】
前記抗体が、下記特性の1つ以上を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片:
(i)高親和力でヒトTIGITと結合する特性、
(ii)サル及び/又はマウスTIGITとの交差免疫反応をする特性、
(iii)細胞表面のTIGITと効果的に結合する特性、
(iv)TIGITとそのリガンドであるCD155との結合を遮断する特性、
(v)下流IL-2シグナル経路におけるTIGITとCD155との結合の抑制作用を解除する特性、
(vi)T細胞におけるIL-2産生を増加させる特性、
(vii)抗腫瘍活性、例えば腫瘍の成長を抑制する特性、
(viii)抗PD-1抗体との組み合わせによる、より良好な腫瘍抑制作用、例えば、腫瘍成長をより良好に抑制できる特性。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の抗TIGIT抗体又はその抗原結合断片をコードする、単離された核酸。
【請求項10】
請求項9に記載の核酸を含むベクターであって、好ましくは発現ベクターである、前記ベクター。
【請求項11】
請求項9に記載の核酸又は請求項10に記載のベクターを含む宿主細胞であって、好ましくは原核又は真核であり、より好ましくは酵母細胞又は哺乳動物細胞(例えば、293細胞又はCHO細胞)である、前記宿主細胞。
【請求項12】
抗TIGIT抗体又はその抗原結合断片の製造方法であって、請求項1~8のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸の発現に適する条件において、請求項11に記載の宿主細胞を培養すること、必要に応じて前記抗体又はその抗原結合断片を単離することを含み、必要に応じて前記宿主細胞から前記抗TIGIT抗体又はその抗原結合断片を単離することをさらに含む、前記製造方法。
【請求項13】
治療剤又は診断剤と接合した請求項1~8のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片を含む、免疫複合体。
【請求項14】
請求項1~8のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片を含む多重特異性抗体であって、好ましくは二重特異性抗体である、前記多重特異性抗体。
【請求項15】
請求項1~8のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片と、必要に応じて医薬品添加物とを含む、医薬組成物。
【請求項16】
第2の治療剤を含む請求項15に記載の医薬組成物であって、好ましくは、前記第2の治療剤が抗PD-1抗体又は抗PD-L1抗体から選択される、前記医薬組成物。
【請求項17】
対象における腫瘍又は感染性疾患の予防又は治療方法であって、有効量の請求項1~8のいずれか一項に記載の抗TIGIT抗体又はその抗原結合断片、又は請求項15又は16に記載の医薬組成物を前記対象に投与することを含み、好ましくは、前記腫瘍が結腸がんなどの胃腸管がんである、前記方法。
【請求項18】
対象においてTIGITの免疫抑制作用を低減又は解消するようにTIGITとCD155との結合を遮断する方法であって、有効量の請求項1~8のいずれか一項に記載の抗TIGIT抗体又はその抗原結合断片、又は請求項15又は16に記載の医薬組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項19】
サンプル中のTIGITの検出方法であって、
(a)サンプルと請求項1~8のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片とを接触させること、および
(b)前記抗体又はその抗原結合断片とTIGITとによって形成された複合物を検出することとを含み、必要に応じて、前記抗体が検出可能に標識される方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TIGITと特異的に結合する新規な抗体、抗体断片、及び前記抗体又は抗体断片を含有する組成物に関する。また、本発明は、前記抗体又はその抗体断片をコードする核酸、前記核酸を含む宿主細胞、及び関連の使用に関する。また、本発明は、これらの抗体及び抗体断片の治療・診断のための使用に関する。
【背景技術】
【0002】
TIGIT(Ig及びITIMドメインを含むT細胞免疫受容体、WUCAM、Vstm3又はVsig9とも呼ばれる)は、最初、バイオインフォマティクス照合を利用する方法で、CD28ファミリーメンバーの1つとして見出された。TIGITは、様々な免疫細胞(ナチュラルキラー細胞/活性化T細胞/記憶T細胞/制御性T細胞/濾胞性ヘルパーT細胞など)の膜表面に発現する共抑制性受容体であって、免疫グロブリンスーパーファミリーメンバーの1つである。TIGIT分子は、1)TIGITが樹状細胞又はがん細胞の表面に発現している共有リガンドCD155/CD112に共刺激受容体CD226と競合的に結合し、TIGITを発現している細胞に抑制シグナルを伝達し、そのような細胞の活性化を抑制する、2)TIGITが共刺激受容体CD226と直接相互作用し、CD226のホモ二量体化を破壊し、下流への活性化シグナルを遮断する、3)TIGITが樹状細胞に発現しているCD155と結合した後、細胞内ITIM配列が抑制シグナルを伝達し、免疫抑制サイトカインを発現して免疫系の活性化を抑制する、という3つのメカニズムによって免疫系に対する調節作用を発揮する可能性があると考えられている。TIGITは、腫瘍微小環境における様々な細胞において役割を果たし得る。これらの細胞は、腫瘍浸潤CD8陽性T細胞である可能性があり、制御性T細胞である可能性があり、NK細胞である可能性もある。一般に、多くの研究は、第1のメカニズムが、TIGITがその免疫抑制作用を発揮する最も重要なメカニズムである可能性があることを示唆している。
【0003】
ヒトTIGITと結合する抗体ががんの治療に有用であることが証明されている。例えばWO2006/124667を参照する。マウスモデルでは、PD-L1及びTIGITの両方の抗体遮断は、相乗的にCD8+T細胞媒介性の腫瘍拒絶の増加をもたらし得る。Grogan et al. (2014) J. Immunol. 192(1) Suppl. 203.15; Johnston et al. (2014) Cancer Cell 26:1-15。同様の結果は、黒色腫の動物モデルにおいて得られた。Inozume et al. (2014) J. Invest. Dermatol. 134:S121 - Abstract 693。
【0004】
免疫応答におけるTIGITの役割を考慮すると、TIGITはがん免疫療法の魅力的な標的と考えられている。従って、本分野では、新規なTIGIT抗体、特にTIGITを標的とするCD155/CD112遮断型抗体、特にヒト抗TIGIT抗体の開発、並びに疾患治療、特にがん治療のためのそれらの組み合わせ療法が必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、抗TIGIT抗体及びそのコード遺伝子並びに応用を提供する。遺伝子工学手段と酵母表面ディスプレイ技術によって、本発明者は、酵母表面にディスプレイされたヒト抗体ライブラリーから抗ヒトTIGITの完全ヒト化抗体を選択し、それに基づいて親和力が成熟した高親和力抗ヒトTIGIT抗体をさらに得る。本発明の完全ヒト化抗体分子は、TIGITとそのリガンドであるCD155との結合を効果的に遮断し、細胞に伝達される抑制性シグナルを減少又は排除し、IL-2産生を増加させ、インビボ投与時に腫瘍成長を抑制することができ、特に抗PD-1抗体との併用において腫瘍抑制効果が顕著である。従って、本発明の抗体は、免疫応答の増強、腫瘍成長の抑制、抗感染、及びTIGITタンパク質の検出を含むがこれらに限定されない、様々な用途に使用することができる。
【0006】
従って、本発明は、ヒトTIGITと結合する新規な完全ヒト化抗体、及びその抗原結合断片を提供する。
【0007】
いくつかの実施形態において、本発明の抗TIGIT抗体は、以下の1つ以上の特性を有する:
(i)高親和力でヒトTIGITと結合する特性、
(ii)サル及び/又はマウスTIGITとの交差免疫反応をする特性、
(iii)細胞表面のTIGITと効果的に結合する特性、
(iv)TIGITとそのリガンドであるCD155との結合を遮断する特性、
(v)TIGIT下流IL-2シグナル経路におけるCD155とTIGITとの結合の抑制作用を解除する特性、
(vi)T細胞におけるIL-2産生を増加させる特性、
(vii)抗腫瘍活性、例えば腫瘍の成長を抑制する特性、
(viii)抗PD-1抗体との組み合わせによる、より良好な腫瘍抑制作用、例えば、腫瘍成長をより良好に抑制できる特性。
【0008】
いくつかの実施形態において、本発明は、配列番号84-103で表される重鎖可変領域の1つのHCDR1、2、及び3配列、及び/又は配列番号104-110で表される軽鎖可変領域のLCDR1、2、及び3配列、又は前記CDR配列の組み合わせの変異体を含む、TIGITと結合する抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0009】
いくつかの実施形態において、本発明はまた、本発明の例示的な抗体(例えば、表Bに示される抗体VH及びVL配列の組み合わせを有する抗体)と同じ又は重複するエピトープと結合する、及び/又はTIGITと競合的に結合する、及び/又は本発明の例示的な抗体を抑制する(例えば、競合的に抑制する)抗TIGIT抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0010】
いくつかの実施形態において、本発明は、本発明の抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸、前記核酸を含むベクター、前記ベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0011】
いくつかの実施形態において、本発明は、本発明の抗体又はその抗原結合断片の製造方法を提供する。
【0012】
いくつかの実施形態において、本発明は、本発明の抗体を含む免疫複合体、医薬組成物及び組み合わせた製品を提供する。
【0013】
本発明はまた、本発明の抗体を用いて、対象におけるCD155へのTIGITの結合(例えば、樹状細胞又はがん細胞の表面に発現されるCD155)を遮断する方法を提供する。いくつかの実施形態において、前記方法によって、TIGITを発現する細胞(特に、T細胞、ナチュラルキラー細胞)において、TIGIT媒介性の抑制シグナル伝達が低減又は排除され、T細胞及びNK細胞の活性化が刺激される。いくつかの実施形態において、前記方法によって、T細胞におけるIL-2の産生が増加される。いくつかの実施形態において、前記方法によって、CD155を発現する細胞(例えば、樹状細胞)において、CD155媒介性の抑制シグナル伝達が減少し、免疫抑制サイトカインの発現が減少する。いくつかの実施形態において、前記方法によって、免疫系の活性化が促進される。従って、本発明はまた、本発明の抗体を用いてがん又は感染を予防又は治療する方法を提供する。
【0014】
本発明はまた、サンプル中のTIGITを検出する方法に関する。
【0015】
以下、本発明を、図面及び実施形態を参照してさらに説明する。しかし、これらの図面及び実施形態は、本発明の範囲を限定するものと考えられるべきではなく、当業者が容易に想到し得る変更は、本発明の精神及び添付の特許請求の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1A-Fは、親和力成熟の前後で、酵母によって発現された抗体の、CHO細胞の表面に発現されたヒトTIGITに対する結合を示す。
【
図2】
図2は、CHO細胞の表面に発現されたヒトTIGITに対する、CHO細胞によって発現された7つの候補抗体の結合を示す。
【
図3】
図3A-Fは、親和力成熟の前後で、酵母によって発現された抗体の、CD155に対する遮断能力を示す。
【
図4】
図4は、CHO細胞によって発現された7つの候補抗体の、CD155に対する遮断能力を示す。
【
図5】
図5A-Eは、親和力成熟の前後で、酵母によって発現された抗体のMOA生物学的活性検出を示す。
【
図6】
図6は、CHO細胞によって発現された7つの候補抗体のMOA生物学的活性検出を示す。
【
図7】
図7は、ヒトTIGITノックイン-MC38マウスモデルにおける候補分子ADI-30293及びADI-30278の単独投与(10mg/kg)の薬力学的研究を示す。
【
図8】
図8A-Bは、ヒトTIGITノックイン-MC38マウスモデルにおける候補分子ADI-30293及びADI-30278と抗PD1抗体antibody C(WO2017133540A1)との併用投与(10+1mg/kg)の薬力学的研究を示す。
【
図9】
図9は、本発明の実施例において使用される例示的なヒトTIGIT配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
定義
別に定義しない限り、本明細書に用いられる全ての技術と科学用語はいずれも、当業者が通常に理解する意味と同じ意味を有する。本発明の目的のために、下記の用語を定義する。
【0018】
用語「約」は数値と共に使用されるとき、下限として記載数値より5%小さく上限として記載数値より5%大きい範囲内の数値を含むことを意味する。
【0019】
用語「及び/又は」は選択可能オプションのうちのいずれか一項又は選択可能オプションのいずれか2項又は複数項の組み合わせを指すと理解すべきである。
【0020】
本明細書に用いられるように、用語「包含する」又は「含む」とは、前記要素、整数又はステップを含むが、任意の他の要素、整数又はステップを排除しないことを意味する。本明細書において、用語「包含する」又は「含む」を用いる場合、特記しない限り、述べられた要素、整数又はステップからなる場合を含む必要がある。例えば、ある具体的な配列の抗体可変領域を「包含する」ことを言及する場合、当該配列からなる抗体可変領域を含むことを指す。
【0021】
本明細書において、用語「抗体」は、少なくとも軽鎖又は重鎖免疫グロブリン可変領域を含むポリペプチドを指し、前記免疫グロブリン可変領域は、抗原を特異的に識別して結合する。当該用語は、様々な抗体構造を含むが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単鎖抗体又は複数重鎖抗体、単特異性又は多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、完全ヒト化抗体又はキメラ抗体又はヒト化抗体、全長抗体と抗体断片を含むが、これらに限定されず、所望の抗原結合活性を表現すればよい。
【0022】
当業者は、「全抗体」(本明細書では、「全長抗体」、「完全抗体」、「完全な抗体」と切り替えて使用することができる)が少なくとも2本の重鎖(H)と2本の軽鎖(L)を包含することが明らかにする。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVHと略される)と重鎖定常領域からなる。重鎖定常領域は、CH1、CH2及びCH3の3つのドメインからなる。各軽鎖は軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略される)と軽鎖定常領域からなる。軽鎖定常領域は、1つのドメインCLからなる。可変領域は、抗体の重鎖又は軽鎖における抗体とその抗原の結合に参与するドメインである。定常領域は、抗体と抗原の結合に直接関与しないが、さまざまなエフェクター機能を示している。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて2種類のタイプ(kappa(κ)とlambda(λ)と称される)における1種類に入れることができる。抗体の重鎖は、その重鎖定常領域のアミノ酸配列に基づいて主にIgA、IgD、IgE、IgGとIgMという5種類の異なるタイプに分けることができ、これらのタイプにおける数種類はさらに、IgG1、IgG2、IgG3とIgG4、IgA1及びIgA2というサブクラスに分けることができる。この5種類の異なる抗体タイプに対応する重鎖定常領域はそれぞれ、α、δ、ε、γ及びμと称される。用語「アイソタイプ」は、抗体の重鎖定常領域によって決定される抗体のタイプを指す。例えばFundamental Immunology、Ch.7(edited by Paul,W.,2th editon,Raven Press,N.Y.(1989))(全ての目的で全体を参考としてここに引用される)。
【0023】
用語抗体の「抗原結合部分」(本明細書では、「抗体断片」、「抗原結合断片」と切り替えて使用することができる)は、完全な抗体でない分子を指し、完全な抗体における当該完全な抗体に結合される抗原を結合するための部分を包含する。当業者には理解されるように、抗体の抗原結合部分は、通常、「相補性決定領域」又は「CDR」に由来するアミノ酸残基を包含する。抗原結合断片は、組換えDNA技術、又は酵素もしくは化学的手段により完全な抗体を切断することによって調製することができる。抗原結合断片は、Fab、scFab、Fab’、F(ab’)2、Fab’-SH、Fv、単鎖Fv、二重鎖抗体(diabody)、三重鎖抗体(triabody)、四重鎖抗体(tetrabody)、ミニ抗体(minibody)、単一ドメイン抗体(sdAb)を含むが、これらに限定されない。抗体断片のより詳細な説明については、基礎免疫学(Fundamental Immunology),edited by W.E.Paul,Raven Press,N.Y.(1993)、(edited by)邵栄光 et al.,抗体薬物研究と応用,人民衛生出版社(2013)、Hollinger et al.,PNAS USA 90:6444-6448(1993)、Hudson et al.,Nat.Med.9:129-134(2003)を参照されたい。
【0024】
用語「ヒト抗体」又は「完全ヒト化抗体」は本明細書において切り替えて使用することができ、そのうちのフレームワーク領域とCDR領域の2つがいずれもヒト生殖系の免疫グロブリン配列に由来する可変領域を含む抗体を指す。そして、抗体に定常領域が含まれば、定常領域も、ヒト生殖系の免疫グロブリン配列に由来する。本発明のヒト抗体は、ヒト生殖系の免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸配列(例えば、インビトロでランダムに又はスポットにおける特異的な変異誘発又はインビボの体細胞の突然変異による突然変異)を含むことができ、例えば、CDR-特にCDR3にある。しかし、本明細書に用いられるように、用語「ヒト抗体」は、そのうちのCDR配列がその他の哺乳動物種(例えば、マウス)の生殖系に由来してヒトフレームワーク配列に移植される抗体を含むことを意図しない。
【0025】
本明細書に用いられるように、用語「組換えヒト抗体」は、組換え方式によって製造、発現、発生又は単離される全てのヒト抗体を含み、例えば、(a)ヒト免疫グロブリン遺伝子で遺伝子導入又は染色体導入する動物(例えば、マウス)又はそれによって製造されたハイブリドーマから単離された抗体と、(b)ヒト抗体を発現する宿主細胞に自己転換し、例えば、遺伝子導入腫から単離された抗体と、(c)酵母ディスプレイライブラリーのような組換えヒト抗体ライブラリー、組み合わせのヒト抗体ライブラリーから単離された抗体と、(d)ヒト免疫グロブリン遺伝子をその他DNA配列に接続することを含む任意のその他の方式によって製造、発現、発生又は単離された抗体とを含む。これらの組換えヒト抗体は、フレームワーク領域とCDR領域のヒト生殖系の免疫グロブリン配列に由来する可変領域を有する。しかし、一部の実施形態において、組換えヒト抗体をインビトロで変異誘発することができ(又は、ヒトIg配列を用いて動物に遺伝子導入する時、体内における体細胞の変異誘発である)、それによって得られる組換え抗体のVHとVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系のVHとVL配列に由来してそれに関連するにも関わらず、体内のヒト抗体生殖系のライブラリーに天然に存在しない。
【0026】
用語「キメラ抗体」は、可変領域配列が1つの生物種に由来して、定常領域配列が別の生物種に由来する抗体、例えば、可変領域配列がマウスの抗体に由来し、定常領域配列がヒト抗体に由来する抗体を指す。
【0027】
用語「ヒト化抗体」は、他の哺乳動物種、例えばマウスの生殖系に由来するCDR配列をヒトフレームワーク配列に接続する抗体を指す。ヒトフレームワーク配列に余分なフレームワーク領域修飾を行うことができる。
【0028】
「単離した」抗体は、既にその天然環境における成分と単離した抗体である。いくつかの実施形態において、抗体を95%又は99%より高い純度までに精製して、前記純度は、例えば電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)又はクロマトグラフィー(例えば、イオン交換又は逆相HPLC)によって定められる。抗体の純度を評価する方法の概述について、例えば、Flatman,S. et al.,J.Chrom.B 848(2007)79-87を参照する。
【0029】
用語「エピトープ」は、抗体の結合する抗原領域である。エピトープは、連続的なアミノ酸から形成され又はタンパク質の3級フォールディングによって並列した非連続的なアミノ酸から形成される。
【0030】
本明細書において、TIGITは、「Ig及びITIMドメインを含むT細胞免疫受容体」を指す。この表現には、TIGITの変異体、アイソタイプ、ホモログ、及び種ホモログも含まれる。用語「ヒトTIGIT」は、ヒト配列TIGITを指す。1つの特定のヒトTIGIT配列を配列番号208に示す。いくつかの実施形態において、ヒトTIGIT配列は、配列番号208のヒトTIGITアミノ酸配列と少なくとも95%、さらには少なくとも96%、97%、98%、又は99%のアミノ酸配列同一性を有する。TIGITタンパク質は、細胞外ドメインの断片のようなTIGITの断片を含むこともでき、例えば、本発明の如何なる抗体と結合する能力を保持する断片である。本明細書において、PVR(ポリオウイルス受容体)、PVS、HVED、CD155、NECL5、TAGE4、Necl-5とも称されるCD155は、TIGITと相互作用して免疫抑制シグナルを誘導する。
【0031】
用語「特異的に結合する」は、抗体が抗原と選択的に又は優先して結合することを表示する。光干渉による生体測定において、抗体が約5×10-7M又はさらに低く、約1×10-7M又はさらに低く、約5×10-8M又はさらに低く、約1×10-8M又はさらに低く、約5×10-9M又はさらに低いKDで、ヒトTIGITと結合すれば、当該抗体は「ヒトTIGITと特異的に結合する」抗体である。しかし、ヒトTIGITと特異的に結合する抗体は、他の種由来のTIGITタンパク質と交差反応性を有し得る。例えば、ヒトTIGITに特異的な抗体は、いくつかの実施形態において、非ヒト種のTIGITタンパク質と交差反応し得る。他の一部の実施形態において、ヒトTIGITに特異的な抗体は、種又は他のタイプの交差反応性を示さずにヒトTIGITに完全に特異的であってもよく、又は特定の種のTIGITに対してのみ交差反応性を示してもよい。
【0032】
本明細書に用いられるように、用語「交差反応」は、異なる種由来のTIGITに抗体が結合する能力を指す。例えば、本明細書に記載のヒトTIGITと結合する抗体は、他の種由来のTIGIT(例えば、サル及び/又はマウスTIGIT)と結合してもよい。交差反応性を測定する方法は、実施例に記載された方法と、例えば光干渉による生体測定法又はフローサイトメトリー技術の使用による、本分野の既知の標準的な測定手法とを含む。
【0033】
「親和力」又は「結合親和力」は、結合対のメンバー同士間の相互作用を反映する固有結合の親和力を指す。分子Xのその配偶子Yに対する親和力は、通常、平衡解離定数(KD)によって示され、平衡解離定数は、解離速度定数と結合速度定数(それぞれkdisとkonである)との比値である。親和力は、本分野で公知の通常の方法により測定できる。親和力を測定するための具体的な方法の1つは、本出願に記載のForteBio動力学的結合測定法である。
【0034】
用語「高親和力」は、IgG抗体に対して、当該抗体が1×10-7M又はさらに低く、好ましくは5×10-8M又はさらに低く、より好ましくは約1×10-8M又はさらに低く、ひいてはより好ましくは約5×10-9M又はさらに低いKDで、標的抗原と結合することを指す。しかし、「高親和力」結合は、抗体アイソタイプに依存して変化し得る。例えば、IgMアイソタイプに対して、「高親和力」は、抗体が1×10-6M又はさらに低く、好ましくは1×10-7M又はさらに低く、より好ましくは約1×10-8M又はさらに低いKDを有することを指す。
【0035】
TIGITなどの抗原と結合する参照抗体「競合的に結合する抗体」とは、競合検定において、参照抗体が抗原(例えばTIGIT)と結合する50%以上を遮断する抗体を指し、逆に、参照抗体は、競合検定において、当該抗体が抗原(例えばTIGIT)と結合する50%以上を遮断する。例示的な競合検定は「Antibodies」、Harlow and Lane(Cold Spring Harbor Press、Cold Spring Harbor、NY)に説明される。競合的に結合する抗体は、参照抗体と同じエピトープ領域、例えば、同じエピトープ、隣接するエピトープ又は重なるエピトープと結合することができる。
【0036】
参照抗体とその抗原の結合を抑制(例えば、競合的抑制)する抗体とは、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上又は95%以上の前記参照抗体とその抗原の結合を抑制する抗体を指す。言い換えれば、参照抗体が50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上又は95%以上の当該抗体とその抗原の結合を抑制する。抗体とその抗原の結合は親和力(例えば、平衡解離定数)として計測できる。親和力の測定方法は、本分野で既知の内容である。
【0037】
参照抗体と同じ又は類似の結合親和力及び/又は特異性を示す抗体とは、参照抗体の少なくとも50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上又は95%以上の結合親和力及び/又は特異性を有する抗体を指す。これに関しては、本分野の既知の任意の結合親和力及び/又は特異性の測定方法で測定できる。
【0038】
本明細書における用語「Fc領域」は、少なくとも一部の定常領域を含有する免疫グロブリン重鎖のC-末端領域を定義するのに用いられる。当該用語は、天然配列Fc-領域と変異体Fc-領域を含む。一実施形態において、ヒトIgG重鎖Fc-領域は重鎖のCys226から又はPro230からカルボキシル末端に延伸する。しかし、Fc-領域のC-末端のリシン(Lys447)が存在してもよく、存在しなくてもよい。本明細書では特記しない限り、Fc-領域又は定常領域におけるアミノ酸残基の番号付けは、EU番号付けシステムによるものであり、EU索引とも呼ばれる。例えば、Kabat,E.A. et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th editon,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991),NIH Publication 91-3242に記載される。
【0039】
抗体に関連する用語「変異体」は、本明細書において、参照抗体と比べ、既に少なくとも1個、例えば、1~30、1~20又は1~10個、例えば、1又は2又は3又は4又は5個のアミノ酸の置換、欠如及び/又は挿入によってアミノ酸の変化が生じた目標抗体領域を含む抗体を指し、ここで、変異体は基本的に変化前の抗体分子の少なくとも1つの生物学的特性(例えば、抗原結合能力)を保持する。目標抗体領域は、抗体全長、又は重鎖可変領域又は軽鎖可変領域又はそれらの組み合わせ、又は(1つ又は複数の)重鎖CDR領域又は(1つ又は複数の)軽鎖CDR領域又はそれらの組み合わせであり得る。本明細書において、参照抗体領域に対してアミノ酸の変化が生じた抗体領域は、当該抗体領域の「変異体」とも呼ばれる。
【0040】
本明細書において、「配列同一性」は、比較ウィンドウでヌクレオチド又はアミノ酸を1つずつ比較してその配列が同じであることの割合を指す。以下の方式によって「配列同一性パーセント」を計算することができ、2本の最適に照合する配列を比較ウィンドウで比較して、マーチング位置の数を得るように2本の配列における同じ核酸塩基(例えば、A、T、C、G、I)又は同じアミノ酸残基(例えば、Ala、Pro、Ser、Thr、Gly、Val、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、Lys、Arg、His、Asp、Glu、Asn、Gln、CysとMet)の存在する位置の数を確定して、マーチング位置の数を比較ウィンドウにおける総位置数(即ち、ウィンドウの大きさ)で割り、その結果を100に乗じて、配列同一性パーセントを生成する。配列同一性パーセントを確定するための最適な照合は、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアのような公開されているパソコンソフトウェアを使用するように本分野に既知の様々な方式に従って実現することができる。当業者は、比較している全長配列範囲内又は目標配列領域内の最大の照合に必要とする如何なるアルゴリズムを含む配列を照合するための適切なパラメータを確定することができる。
【0041】
本発明において、抗体配列にとって、アミノ酸配列同一性パーセントは、候補抗体配列を参照抗体配列と最適に照合した後、好ましい案にKabat番号付け規則に従って最適な照合を行ってから定められる。本明細書において、比較ウィンドウ(即ち、比較対象の目標抗体領域)を指定しない場合、参照抗体配列の全長で照合することに適用される。いくつかの実施形態において、抗体にとって、配列同一性は重鎖可変領域全体及び/又は軽鎖可変領域全体に分布することができ、又は配列パーセント同一性はフレームワーク領域のみに限定され、CDR領域に対応している配列は100%同じであるように保持する。
【0042】
同様に、抗体配列にとって、参照抗体に対して目標抗体領域でアミノ酸の変化が生じた候補抗体を照合に基づいて確定することができる。
【0043】
本発明において、「保存的置換」は、あるアミノ酸を化学的に類似なアミノ酸に置換することを引き起こすアミノ酸変化を指す。部位特異的突然変異誘発及びPCR媒介突然変異誘発のような本分野に既知の標準的な方法によって、アミノ酸修飾、例えば、置換を本発明の抗体に導入することができる。
【0044】
機能的に類似するアミノ酸の保存的置換表は、本分野で公知の内容として提供される。好ましい一態様において、保存的置換残基は、以下の保存的置換表Aに由来し、好ましくは表Aに示される好ましい保存的置換残基である。
【0045】
【0046】
本発明の種々の態様は、以下の各セクションにおいてさらに詳細に説明される。
【0047】
I.本発明における抗TIGIT抗体
本発明の一態様は、TIGIT、好ましくはヒトTIGITタンパク質(例えば、配列番号208のヒトTIGIT配列)と特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片、特に完全ヒト化抗体又はその抗原結合断片を提供する。いくつかの実施形態において、本発明の抗体の抗原結合断片は、Fab、Fab’、Fab’-SH、Fv、scFvなどの単鎖抗体、(Fab’)2断片、単一ドメイン抗体、二重特異性抗体(dAb)又は線形抗体から選択される抗体断片である。
【0048】
抗体の有利な生物学的特性
いくつかの実施形態において、本発明の抗TIGIT抗体又はその抗原結合断片は、高親和力でヒトTIGITと結合し、例えば、解離平衡定数(KD)が100×10-9M未満、約50×10-9M以下、より好ましくは約1-30×10-9M、より好ましくは約1×10-9M以下、より好ましくは約1-10×10-10Mである。好ましくは、KDが光干渉による生体測定法(例えば、Fortebio親和性測定手法)の測定手法により測定される。いくつかの実施形態において、KD値は、抗体Fab形態(例えば、酵母によって発現されたFab)とヒトTIGITとの一価親和力を測定することによって決定され、好ましくは、単価KD値は、1-100×10-10Mであり、より好ましくは1-50×10-10Mであり、より好ましくは1-10×10-10M又は2-5×10-10Mである。他の一部の実施形態において、KD値は、完全な抗体(例えば、CHO細胞によって発現された完全な抗体)とヒトTIGITとの一価親和力を測定することによって決定され、好ましくは、単価KD値は、1-50×10-10Mであり、より好ましくは1-30×10-10M又は1-10×10-10Mである。
【0049】
いくつかの実施形態において、本発明の抗TIGIT抗体又はその抗原結合断片は、サルTIGITと交差反応する。いくつかの実施形態において、抗体は、高親和力でサルTIGITと結合し、ここで、KD値(例えば、完全な抗体とサルTIGITとの一価親和力を測定することによって決定される)は、約0.1-100×10-9Mであり、より好ましくは0.1-50×10-9M又は1-30×10-10Mである。いくつかの実施形態において、抗体は、マウスTIGITと交差反応し、ここで、KD値(例えば、完全な抗体とマウスTIGITとの一価親和力を測定することによって決定される)は、約1-100×10-9Mであり、例えば、1-10×10-7M又は1-10×10-8M、又は1-10×10-9Mである。他の一部の実施形態において、本発明の抗TIGIT抗体はマウスTIGITと交差反応しない。
【0050】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、細胞の表面に発現されるTIGITに高親和力で結合する。一実施形態において、ヒトTIGITを表面に発現する細胞はCHO細胞である。好ましくは、抗体がヒトTIGITを発現する細胞と結合するEC50値は、フローサイトメトリー(例えば、FACS)で測定される。いくつかの実施形態において、抗体は、酵母によって発現された完全な抗体であり、EC50値は、約10nM未満、例えば0.1-1nM、好ましくは、約1nM以下、より好ましくは約0.2-0.9nM、例えば0.9nM、0.6M又は0.4nMである。他の一部の実施形態において、抗体は、CHO細胞によって発現された完全な抗体形態であり、EC50値は、約10nM未満、例えば0.1-1nM、好ましくは、約0.1-0.3nM、例えば約0.3nM、0.2M又は0.1nMである。
【0051】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、TIGITの関連活性を抑制する。いくつかの実施形態において、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、TIGITとそのリガンドであるCD155との結合を遮断する。好ましくは、ヒトTIGIT(細胞で発現されたTIGIT)とヒトCD155との結合を遮断する抗体の能力(例えば、IC50値)は、フローサイトメトリー(例えば、FACS)で測定される。いくつかの実施形態において、抗体は、酵母によって発現された完全な抗体であり、IC50値は、約10nM未満、例えば0.1-2nM、好ましくは、約0.1-1.0nM、例えば0.8nM、0.6M、0.4nM又は0.2nMである。他の一部の実施形態において、抗体は、CHO細胞によって発現された完全な抗体形態であり、EC50値は、約1nM未満、例えば0.1-0.5nM、好ましくは、約0.3nM、0.2M又は0.1nMである。
【0052】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、TIGITとCD155との結合による抑制性シグナル伝達を減少又は排除する。いくつかの実施形態において、本発明の抗体又は断片は、TIGITを発現する細胞(特にT細胞)において、TIGIT媒介性の抑制性シグナル伝達を減少又は排除する。いくつかの実施形態において、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、T細胞におけるIL2プロモーター下流遺伝子の発現を誘導し、いくつかの実施形態において、T細胞のIL-2産生を増加させる。いくつかの実施形態において、蛍光レポーター遺伝子アッセイ(例えば、実施例5のMOAアッセイ)により、TIGITとCD155との結合による抑制性シグナル伝達を減少又は排除する抗体の能力(例えば、EC50値)が検出される。いくつかの実施形態において、抗体は、酵母によって発現された完全な抗体であり、EC50値は、好ましくは約10nM未満、例えば0.1-5nM、好ましくは、約0.1-3.0nM、例えば約2.nM、1.5nM、1.0nM、又は0.5nMである。他の一部の実施形態において、抗体は、CHO細胞によって発現された完全な抗体であり、EC50値は、好ましくは5nM未満、例えば約0.1-3.0nM、例えば約1.6nM、1.2nM、1.0nM、又は約0.18-0.5nMである。
【0053】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、ヒトTIGITを発現する浸潤リンパ球を含む腫瘍の成長を抑制する。一実施形態において、腫瘍細胞は、胃腸腫瘍、好ましくは結腸直腸がんである。例えば、インビボ腫瘍移植モデル、例えばMC38マウスにおいて、結腸がん細胞の増殖が抑制される。いくつかの実施形態において、本発明の抗体を抗PD1抗体と組み合わせて使用すると、抗体単独で投与した場合よりも有意に良好な抗腫瘍効果が得られる。
【0054】
好ましくは、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、上記の特性の少なくとも1つ、より好ましくは少なくとも2つ、より好ましくは少なくとも3つ、4つ、又は5つ、さらにより好ましくは上記の全ての特性を示す。
【0055】
抗体のCDR領域
「相補性決定領域」又は「CDR領域」又は「CDR」(本明細書において超可変領域「HVR」と切り替えて使用する)は、抗体可変領域において主に抗原エピトープと結合することを担当するアミノ酸領域である。重鎖と軽鎖のCDRは通常、CDR1、CDR2とCDR3と呼ばれ、N-末端から順に番号付ける。抗体の重鎖可変ドメイン内に位置するCDRはHCDR1、HCDR2、HCDR3と呼ばれ、抗体の軽鎖可変ドメイン内に位置するCDRはLCDR1、LCDR2、LCDR3と呼ばれる。
【0056】
下記表Bに本発明のいくつかの例示的な抗体のVH及びVL配列の組み合わせを示す。
【0057】
【0058】
既定のVH又はVLアミノ酸配列にそのCDR配列を定めるための複数の方案が本分野において周知される。例えば、Kabat相補性決定領域(CDR)は、配列変異性に基づいて定められるものであるとともに、最もよく用いられるものである(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991))。Chothiaは構造リングの位置を指す(ChothiaとLesk、J.Mol.Biol.196:901-917(1987))。AbM HVRは、Kabat HVRとChothia構造リングとの間の折衷であり、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアによって使用される。「接触性」(Contact)HVRが、取得可能な複雑な結晶構造の分析に基づいたものである。異なるCDR確定案によって、これらのHVRにおける各HVR/CDRの残基は以下のとおりである。
【0059】
【0060】
HVRは、Kabat番号付けシステムに基づいて以下のようなKabat残基位置に位置付けるHVR配列である。
【0061】
VLにおける位置24-36又は24-34(LCDR1)、位置46-56又は50-56(LCDR2)と位置89-97又は89-96位置(LCDR3)と、VHにおける位置26-35又は27-35B(HCDR1)、位置50-65又は49-65(HCDR2)と、位置93-102、94-102又は95-102(HCDR3)である。
【0062】
一実施形態において、本発明の抗体のHVRは、Kabat番号付けシステムに基づいて以下のようなKabat残基位置に位置付けるHVR配列である。
【0063】
VLにおける位置24-34(LCDR1)、位置50-56(LCDR2)と、位置89-97(LCDR3)及びVHにおける位置27-35B(HCDR1)、位置50-65(HCDR2)と、位置93-102(HCDR3)である。
【0064】
一実施形態において、本発明の抗体のHVRは、Kabat番号付けシステムに基づいて以下のようなKabat残基位置に位置付けるHVR配列である。
【0065】
VLにおける位置24-34(LCDR1)、位置50-56(LCDR2)と、位置89-97(LCDR3)及びVHにおける位置26-35B(HCDR1)、位置50-65(HCDR2)と、位置95-102(HCDR3)である。
【0066】
HVRは、参照CDR配列(例えば、本発明の例示的なCDRのいずれか1つ)と同じKabat番号付け位置を有することに基づいて定めることができる。
【0067】
特記しない限り、本発明において、用語「CDR」又は「CDR配列」又は「HVR」又は「HVR配列」は上記のいずれか1つの方式で定められるHVR又はCDR配列を含む。
【0068】
特記しない限り、本発明において、抗体可変領域における残基位置(重鎖可変領域残基と軽鎖可変領域残基を含む)を言及する場合、Kabat番号付けシステム(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991))に基づいた番号付け位置を指す。
【0069】
好ましい一実施形態において、本発明のCDR配列は表2に示されるようであり、ここで、HCDR1はAbM案に基づいて定められたCDR配列であるが、残りのCDRはKabat案に基づいて定められたCDR配列である。
【0070】
別の好ましい実施形態において、本発明のCDR配列は表1に示されるようである。
【0071】
下記表Cに本発明のいくつかの例示的なCDR配列の組み合わせを示す。
【0072】
【0073】
異なる特異性(即ち、異なる抗原に対する異なる結合部位)を有する抗体は、異なるCDRを有する。しかし、抗体と抗体との間にあるCDRが異なるにもかかわらず、CDRには限られた数のアミノ酸位置のみを抗原との結合に直接参与する。Kabat、Chothia、AbMとContact方法のうちの少なくとも2つを使用することにより、最小の重なり領域を確定することができ、それによって抗原と結合するための「最小結合単位」を提供する。最小結合単位は、CDRの1つのサブ部分であることができる。当業者が明らかにしたように、抗体の構造とタンパク質のフォールディングによって、CDR配列の残り部分の残基を確定することができる。従って、本発明は、本明細書に提供される如何なるCDRの変異体も考慮する。例えば、1つのCDRの変異体において、最小結合単位のアミノ酸残基はそのまま保持することができ、Kabat又はChothiaに基づいて定義された残りのCDR残基は保存的アミノ酸残基で置換することができる。
【0074】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体は、表Bに示されるいずれか1つの抗体の可変領域配列における対応するCDRと同じである少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つのCDR又はその変異体を含む。いくつかの実施形態において、本発明の抗体は、表Bに示されるいずれか1つの抗体の可変領域配列における対応する重鎖CDRと同じである少なくとも1つ、2つ又は3つのHCDR又はその変異体を含む。いくつかの実施形態において、本発明の抗体は、表Bに示されるいずれか1つの抗体の可変領域配列における対応する軽鎖CDRと同じである少なくとも1つ、2つ又は3つのLCDR又はその変異体を含む。本明細書において、「対応するCDR」は、最適照合後、候補抗体の可変領域アミノ酸配列において、参照抗体のCDRと最も類似した位置にあるCDRを指す。本明細書において、CDR変異体は、既に少なくとも1つ、例えば、1つ又は2つ又は3つのアミノ酸の置換、欠如及び/又は挿入によって修飾されるCDRであり、CDR変異体を含む抗原結合分子は基本的に未修飾のCDRの抗原結合分子の生物学的特性を保持し、例えば、少なくとも60%、70%、80%、90%又は100%の生物学的活性(例えば抗原結合能力)を保持する。各CDRが単独で修飾されても組み合わせて修飾されてもよいことを理解できる。好ましくは、アミノ酸修飾はアミノ酸置換であり、特に保存的アミノ酸置換であり、例えば、表Aに示される好ましい保存的アミノ酸置換である。いくつかの実施形態において、アミノ酸置換は、好ましくは、本明細書に提供される共通のCDR配列(例えば、配列番号5、10、15、21、24、30、33、37、40、47、52、56、62、65、68、74、77、80)のX残基に対応するアミノ酸位置で起こる。
【0075】
また、CDR3領域は、CDR1及び/又はCDR2領域とは独立して、関連抗原に対する抗体の結合特異性を単独で決定できることが本分野で知られている。そして、共通のCDR3配列に基づいて、同じ結合特異性を有する複数の他の抗体を生成することができる。例えば、US Patents Nos. 6,951,646; 6,914,128; 6,090,382; 6,818,216; 6,156,313; 6,827,925;5,833,943; 5,762,905及び5,760,185を参照する。これらの全ての参考文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0076】
従って、一実施形態において、本発明の抗体は、ヒトTIGITと特異的に結合できる表Bに示されるいずれか1つの抗体の重鎖及び/又は軽鎖可変領域配列からのCDR3配列を含む。さらに別の実施形態において、前記抗体は、同じ抗体の重鎖及び/又は軽鎖可変領域からのCDR2、又は異なるTIGIT抗体の重鎖及び/又は軽鎖可変領域からのCDR2をさらに含むことができる。さらに別の実施形態において、前記抗体は、同じ抗体の重鎖及び/又は軽鎖可変領域からのCDR1、又は異なるTIGIT抗体の重鎖及び/又は軽鎖可変領域からのCDR1をさらに含むことができる。ヒトTIGITへの結合活性、CD155分子へのTIGITの結合を遮断する活性、及び/又は腫瘍成長を抑制する活性を含む、これらの抗体の活性は、本明細書に記載の測定手法によって特徴付けることができる。
【0077】
その他、抗原結合特異性が主にCDR1、2と3領域から提供されることを考慮すると、いくつかの実施形態において、TIGITと結合する本発明のその他の分子を生じるように、VH CDR1、2と3配列とVL CDR1、2と3配列を「混合とマッチングする」(即ち、同じTIGIT抗原と結合する異なる抗体に由来するCDRを混合とマッチングすることができ、但し、各抗体は、VH CDR1、2と3とVL CDR1、2と3を含有することが好ましい)ことができる。本分野に既知の結合測定手法(例えば、ELISA、SET、Biacore)と実施例に説明されたそれらの測定手法を使用し、これらの「混合とマッチングした」抗体とTIGITとの結合を測定することができる。VH CDR配列を混合とマッチングする時、所定のVH配列に由来するCDR1、CDR2及び/又はCDR3配列は、構造上に類似するCDR配列に切り替えることが好ましい。同様に、VL CDR配列を混合とマッチングする時、所定のVL配列に由来するCDR1、CDR2及び/又はCDR3配列は、構造上に類似するCDR配列に切り替えることが好ましい。CDRの「混合とマッチング」は、本発明の表3に示される抗体間で行うことができる。また、当業者は、本発明のその他の抗体を生じるように、その他の異なる抗体に由来する1つ又は複数のVH及び/又はVL CDR領域配列を本明細書に示される抗体の構造上に類似するCDR配列に置換することができることを明らかにする。
【0078】
従って、いくつかの実施形態において、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、重鎖相補性決定領域3(HCDR3)を含む重鎖可変領域を含み、前記HCDR3は、
(i)表Bに示されるいずれか1つの抗体の重鎖可変領域のHCDR3と同じであり、 (ii)表C又は表Dに示されるいずれか1つのHCDR3配列と同じであり、
(iii)(i)又は(ii)のHCDR3に対して、少なくとも1個(好ましくは1~2個であり、又はより好ましくは1個である)のアミノ酸変化(好ましくは置換であり、より好ましくは保存的置換である)を含む。
【0079】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含み、且つ前記抗体の重鎖相補性決定領域3(HCDR3)と軽鎖相補性決定領域3(LCDR3)は、
(i)表Bに示されるいずれか1つの抗体の重鎖と軽鎖可変領域配列のHCDR3及びLCDR3と同じであり、
(ii)表C又は表Dに示されるいずれか1つの組み合わせにおけるHCDR3及びLCDR3配列と同じであり、
(iii)(i)又は(ii)のHCDR3とLCDR3に対して、合計で少なくとも1個(好ましくは1~2個であり、又はより好ましくは1個である)のアミノ酸変化(好ましくは置換であり、より好ましくは保存的置換である)を含む。
【0080】
一実施形態において、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、重鎖可変領域(VH)を含み、ここで、前記VHは、
(i)表Bに示されるいずれか1つの抗体のVH配列に含まれるHCDR1、HCDR2とHCDR3配列、
(ii)表C又は表Dに示されるいずれか1つの組み合わせにおけるHCDR1、HCDR2とHCDR3配列、
(iii)(i)又は(ii)の配列に対して、前記3つのCDR領域に合計で少なくとも1個、且つ、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下もしくは1個以下のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換であり、好ましくは保存的置換である)が含まれた配列を含む。
【0081】
別の実施形態において、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、軽鎖可変領域(VL)を含み、ここで、前記VLは、
(i)表Bに示されるいずれか1つの抗体のVL配列に含まれるLCDR1、LCDR2とLCDR3配列、
(ii)表C又は表Dに示されるいずれか1つの組み合わせにおけるLCDR1、LCDR2とLCDR3配列、
(iii)(i)又は(ii)の配列に対して、前記3つのCDR領域に合計で少なくとも1個、且つ、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下もしくは1個以下のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換であり、好ましくは保存的置換である)が含まれた配列を含む。
【0082】
別の実施形態において、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含み、ここで、前記抗体は、
(i)表Bに示されるいずれか1つの抗体のVHとVL配列に含まれる6つのCDR配列、
(ii)表C又は表Dに示されるいずれか1つの組み合わせにおける6つのCDR配列、
(iii)(i)又は(ii)の配列に対して、6つのCDR領域に合計で少なくとも1個、且つ、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下もしくは1個以下のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換であり、好ましくは保存的置換である)が含まれた配列を含む。
【0083】
一実施形態において、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、
(i)配列番号84、85、86又は87で表される重鎖可変領域のHCDR1、2及び3の配列、並びに、配列番号104で表される軽鎖可変領域のLCDR1、2及び3の配列、
(ii)配列番号88、89又は90で表される重鎖可変領域のHCDR1、2及び3の配列、並びに、配列番号105又は106で表される軽鎖可変領域のLCDR1、2及び3の配列、
(iii)配列番号91、92又は93で表される重鎖可変領域のHCDR1、2及び3の配列、並びに、配列番号107で表される軽鎖可変領域のLCDR1、2及び3の配列、
(iv)配列番号94、95、96又は97で表される重鎖可変領域のHCDR1、2及び3の配列、並びに、配列番号108で表される軽鎖可変領域のLCDR1、2及び3の配列、
(v)配列番号98、99又は100で表される重鎖可変領域のHCDR1、2及び3の配列、並びに、配列番号109で表される軽鎖可変領域のLCDR1、2及び3の配列、
(vi)配列番号101、102又は103で表される重鎖可変領域のHCDR1、2及び3の配列、並びに、配列番号110で表される軽鎖可変領域のLCDR1、2及び3の配列を含む。
【0084】
好ましい一実施形態において、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、重鎖の3つの相補性決定領域(HCDR)と、軽鎖の3つの相補性決定領域(LCDR)とを含み、ここで、
(i)HCDR1は、配列番号1-5及び178-181から選択されるアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、HCDR2は、配列番号6-10から選択されるアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、HCDR3は、配列番号11-15及び182-185から選択されるアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、LCDR1は、配列番号16のアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、LCDR2は、配列番号17のアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、且つLCDR3は、配列番号18のアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、
(ii)HCDR1は、配列番号19-21及び186-187から選択されるアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、HCDR2は、配列番号22-24から選択されるアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、HCDR3は、配列番号25及び188から選択されるアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、LCDR1は、配列番号26のアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、LCDR2は、配列番号27のアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、且つLCDR3は、配列番号28-30から選択されるアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、
(iii)HCDR1は、配列番号31-33及び189-190から選択されるアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、HCDR2は、配列番号34-37から選択されるアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、HCDR3は、配列番号38-40及び191-192から選択されるアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、LCDR1は、配列番号41のアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、LCDR2は、配列番号42のアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、且つLCDR3は、配列番号43のアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、
(iv)HCDR1は、配列番号44-47及び193-195から選択されるアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、HCDR2は、配列番号48-52から選択されるアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、HCDR3は、配列番号53-56及び196-198から選択されるアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、LCDR1は、配列番号57のアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、LCDR2は、配列番号58のアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、且つLCDR3は、配列番号59のアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、
(v)HCDR1は、配列番号60-62及び199-200から選択されるアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、HCDR2は、配列番号6及び63-65から選択されるアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、HCDR3は、配列番号66-68及び201-202から選択されるアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、LCDR1は、配列番号69のアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、LCDR2は、配列番号17のアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、且つLCDR3は、配列番号70のアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、
(vi)HCDR1は、配列番号71-74及び203-205から選択されるアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、HCDR2は、配列番号22及び75-77から選択されるアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、HCDR3は、配列番号78-80及び206-207から選択されるアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、LCDR1は、配列番号81のアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、LCDR2は、配列番号82のアミノ酸配列を含み又はそれによって構成され、且つLCDR3は、配列番号83のアミノ酸配列を含み又はそれによって構成される。
好ましい一実施形態において、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、表Cに示される組み合わせの1つである6つのCDR配列を含む。
【0085】
別の好ましい実施形態において、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、表Dに示される組み合わせの1つである6つのCDR配列を含む。
【0086】
抗体の可変領域
「可変領域」又は「可変ドメイン」は、抗体の重鎖又は軽鎖における抗体とその抗原との結合に参与するドメインである。重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)は、さらに超可変領域(HVR、相補性決定領域(CDR)とも呼ばれる)、その間に挿入されるより保存的領域(即ち、フレームワーク領域(FR))に分けられる。VH及びVLのそれぞれは、3つのCDRと4つのFRとからなり、アミノ末端からカルボキシル末端までは、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順に配列される。一部の状況において、単独のVH又はVLドメインは抗原-結合特異性を十分に与える。その他、特定した抗原と結合する抗体は、前記抗原と結合する抗体に由来するVH又はVLドメインを使用して相補VL又はVHドメインライブラリーを選別して単離する(例えば、Portolano,S. et al.,J.Immunol.150(1993)880-887、Clackson,T. et al.,Nature 352(1991)624-628を参照する)。
【0087】
2つの可変領域の一方又は両方(即ち、VH及び/又はVL)における1つ又は複数の残基を修飾し、例えば、1つ又は複数のCDR領域及び/又は1つ又は複数のフレームワーク領域に対して残基改変、特に保存的残基置換を行うことができる一方で、修飾された抗体は、依然として、変化前の抗体分子の少なくとも1つの生物学的特性(例えば、抗原結合能力)を基本的に保持することが、本分野において知られている。例えば、CDR領域の残基を突然変異させて、抗体の1つ以上の結合特性(例えば親和性)を改善することができる。突然変異後の抗体の抗体結合特性又は他の機能特性は、インビトロ又はインビボのアッセイにおいて評価することができる。好ましくは、保存的置換が導入される。好ましくは、CDR領域に導入される残基の変化は、1個、2個、3個、4個又は5個を超えない。また、フレームワーク領域残基は、例えば、抗体の特性を改善するために突然変異させることができる。例えば、1つ又は複数のフレームワーク残基は、対応する生殖系配列残基に「復帰突然変異」され得る。
【0088】
CDR移植は、本分野で知られている別の抗体可変領域修飾方式である。CDR配列は、ほとんどの抗体-抗原相互作用を担うので、既知の抗体の特性を模倣する組換え抗体変異体を構築することができる。当該抗体変異体では、既知の抗体由来のCDR配列が、異なる特性を有する異なる抗体のフレームワーク領域に移植される。従って、一実施形態において、本発明は、表Bに示されるいずれかの抗体の重鎖及び軽鎖可変領域からのCDR配列を含むが、異なるフレームワーク領域配列を有する、抗TIGIT抗体又はその抗原結合断片に関する。切り替えのためのフレームワーク領域配列は、生殖系抗体遺伝子配列を含む公的なDNAデータベースから、又は公開文献に報告されているTIGIT抗体配列から得ることができる。例えば、ヒト重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子をコードする生殖系DNAは、GenBankデータベースから得ることができる。抗体タンパク質配列は、Gapped BLASTなどの配列類似性検索ツールを用いてデータベース中のタンパク質配列と比較することができる。好ましくは、切り替えのためのフレームワーク配列は、変化のために選択された本発明の抗体のフレームワーク配列と構造的類似性を有し、例えば、配列同一性が少なくとも80%、85%、90%、又は95%、96%、97%、98%、99%以上のフレームワーク序列である。
【0089】
さらに別の実施形態において、本発明の例示的な抗体(表Bに示されるいずれかの抗体)と他の異なる抗TIGIT抗体(好ましくは、表Bに示される別の抗体)に由来するVH及びVL配列を「混合とマッチングする」ことができ、TIGITと結合する本発明の他の抗体を産生する。これらの鎖を混合とマッチングする時、好ましくは、具体的なVH/VL対に由来するVH配列を構造が類似するVH配列に切り替える。同様に、所定のVH/VL対に由来するVL配列は、構造上に類似するVL配列に切り替えることが好ましい。本分野に既知の結合測定手法(例えば、ELISAと実施例部分に記述された他の測定手法である)を使用してこのような「混合とマッチングした」抗体とTIGITとの結合を測定することができる。
【0090】
従って、一実施形態において、本発明の抗体は、表Bに示されるいずれか1つの抗体の重鎖可変領域VH配列を含み、又は前記アミノ酸配列によって構成される。さらに別の実施形態において、本発明の抗体は、前記VH配列の変異体を含む。
【0091】
別の実施形態において、本発明の抗体は、表Bに示されるいずれか1つの抗体の軽鎖可変領域VL配列を含み、又は前記アミノ酸配列によって構成される。さらに別の実施形態において、本発明の抗体は、前記VL配列の変異体を含む。
【0092】
さらに別の実施形態において、本発明の抗体は、
(i)配列番号84、85、86又は87で表されるアミノ酸配列を含むVH配列又はその変異体、及び/又は配列番号104で表されるアミノ酸配列を含むVL配列又はその変異体、
(ii)配列番号88、89又は90で表されるアミノ酸配列を含むVH配列又はその変異体、及び/又は配列番号105又は106で表されるアミノ酸配列を含むVL配列又はその変異体、
(iii)配列番号91、92又は93で表されるアミノ酸配列を含むVH配列又はその変異体、及び/又は配列番号107で表されるアミノ酸配列を含むVL配列又はその変異体、
(iv)配列番号94、95、96又は97で表されるアミノ酸配列を含むVH配列又はその変異体、及び/又は配列番号108で表されるアミノ酸配列を含むVL配列又はその変異体、
(v)配列番号98、99又は100で表されるアミノ酸配列を含むVH配列又はその変異体、及び/又は配列番号109で表されるアミノ酸配列を含むVL配列又はその変異体、
(vi)配列番号101、102又は103で表されるアミノ酸配列を含むVH配列又はその変異体、及び/又は配列番号110で表されるアミノ酸配列を含むVL配列又はその変異体を含む。
【0093】
一実施形態において、VH配列の変異体は、アミノ酸配列において、参照VH配列と比べ、(好ましくは、全長で又はCDR1、2と3の3つの領域で)、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はさらに高い同一性を有する。一実施形態において、VH配列の変異体は、アミノ酸配列において、参照VH配列と比べ、(好ましくは、全長で又はCDR1、2と3の3つの領域で)、少なくとも1個、且つ、30個以下、10個以下、又は5個以下、4個以下、3個以下、2個以下、1個以下、0個以下のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換であり、好ましくは保存的置換である)を含む。配列の相違は、CDR領域では生じないことが好ましい。
【0094】
好ましい一実施形態において、VL配列の変異体は、アミノ酸配列において、参照VL配列と比べ、(好ましくは、全長で又はCDR1、2と3の3つの領域で)、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はさらに高い同一性を有する。好ましい一実施形態において、VL配列の変異体は、アミノ酸配列において、参照VL配列と比べ、(好ましくは、全長で又はCDR1、2と3の3つの領域で)、少なくとも1個、且つ、30個以下、10個以下、又は5個以下、4個以下、3個以下、2個以下、1個以下、0個以下のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換であり、好ましくは保存的置換である)を含む。配列の相違は、CDR領域では生じないことが好ましい。
【0095】
好ましい一実施形態において、本発明の抗体は、表Bに示されるいずれか1つの抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域VH/VL配列対を含み、又は前記アミノ酸配列対によって構成される。本発明は当該抗体の変異体、例えば、VH、VL又はVHとVLに少なくとも95~99%の同一性を有し、又は10個を超えないアミノ酸変化を含む変異体も提供する。
【0096】
上記のいずれか1つの実施形態において、好ましくは、参照抗体に対して、本発明の抗体変異体の重鎖可変領域は1つ又は複数のCDR(好ましくは全ての3つのCDRである)領域に10個を超えなく、好ましくは5個を超えない(例えば、3、2、1又は0個)アミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換であり、好ましくは保存的置換である)を含む。
【0097】
上記のいずれか1つの実施形態において、好ましくは、参照抗体に対して、本発明の抗体変異体の軽鎖可変領域VLは1つ又は複数のCDR(好ましくは全ての3つのCDRである)領域に10個を超えなく、好ましくは5個を超えない(例えば、3、2、1又は0個)アミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換であり、好ましくは保存的置換である)を含む。
【0098】
抗体の重鎖と軽鎖
いくつかの実施形態において、本発明の抗体は、重鎖Fc領域、例えば、IgG1、IgG2又はIgG4アイソタイプのFc領域を含む。一実施形態において、本発明の抗体は、IgG4-Fc領域を含み、ここで、アミノ酸残基の228位置(EU番号付け)にセリンからプロリンへの突然変異(S228P)がある。さらに別の好ましい実施形態において、本発明の抗体はIgG4-PAA Fc部分を含む。当該IgG4-PAA Fc部分は、位置228にセリンからプロリンへの突然変異(S228P)があり、位置234(EU番号付け)にフェニルアラニンからアラニンへの突然変異があり、位置235(EU番号付け)にロイシンからアラニンへの突然変異がある。S228P突然変異は、腫瘍定常領域のヒンジ領域の突然変異であり、重鎖間ジスルフィド架橋の異質性を減少又は排除することができる。F234A及びL235A突然変異は、(既に低エフェクター機能を有する)ヒトIgG4アイソタイプのエフェクター機能をさらに低下させることができる。いくつかの実施形態において、本発明の抗体は、重鎖C末端リジン(des-Lys)を除去したIgG4-PAA Fc部分を含む。いくつかの実施形態において、本発明の抗体は、κ軽鎖定常領域、例えば、ヒトκ軽鎖定常領域を含む。
【0099】
さらに別の好ましい実施形態において、Fc領域は、配列番号177のアミノ酸配列、又は配列番号177のアミノ酸配列に対して少なくとも1個、2個又は3個であるが20個以下、10個以下又は5個以下のアミノ酸変化を含むアミノ酸配列、又は配列番号177のアミノ酸配列と少なくとも95~99%の同一性を有する配列を含む。
【0100】
好ましい一実施形態において、本発明の抗体は、軽鎖定常領域を含む。好ましい一実施形態において、軽鎖定常領域は、ヒトκ軽鎖定常領域である。さらに別の好ましい実施形態において、軽鎖定常領域は、配列番号209のアミノ酸配列、又は配列番号209のアミノ酸配列に対して少なくとも1個、2個又は3個であるが20個以下、10個以下又は5個以下のアミノ酸変化を含むアミノ酸配列、又は配列番号209のアミノ酸配列と少なくとも95~99%の同一性を有する配列を含む。
【0101】
いくつかの好ましい実施形態において、本発明の抗体は、重鎖を含み、前記重鎖は、配列番号111-130から選択されるアミノ酸配列、又はそれに対して少なくとも1個、2個又は3個であるが20個以下、10個以下又は5個以下のアミノ酸変化を含むアミノ酸配列、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はさらに高い同一性を有するアミノ酸配列を含む。好ましくは、アミノ酸変化はCDR領域では起こらず、より好ましくは可変領域では起こらない。
【0102】
いくつかの好ましい実施形態において、本発明の抗体は、軽鎖を含み、前記軽鎖は、配列番号137-143から選択されるアミノ酸配列、又はそれに対して少なくとも1個、2個又は3個であるが20個以下、10個以下又は5個以下のアミノ酸変化を含むアミノ酸配列、又はそれと少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はさらに高い同一性を有するアミノ酸配列を含む。好ましくは、アミノ酸変化はCDR領域では起こらず、より好ましくは可変領域では起こらない。
【0103】
好ましい一実施形態において、本発明の抗体は、
(a)配列番号111-114から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖配列又はその変異体、及び/又は配列番号137から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖配列又はその変異体、
(b)配列番号115-117から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖配列又はその変異体、及び/又は配列番号138又は139から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖配列又はその変異体、
(c)配列番号118-120から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖配列又はその変異体、及び/又は配列番号140から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖配列又はその変異体、
(d)配列番号121-124から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖配列又はその変異体、及び/又は配列番号141から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖配列又はその変異体、
(e)配列番号125-127から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖配列又はその変異体、及び/又は配列番号142から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖配列又はその変異体、
(f)配列番号128-130から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖配列又はその変異体、及び/又は配列番号143から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖配列又はその変異体、から選択される重鎖配列及び/又は軽鎖配列を含み、
ここで、前記変異体は、対応する参照配列と比べ、少なくとも1個、2個又は3個であるが20個以下、10個以下又は5個以下のアミノ酸変化を含むアミノ酸配列、又は少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はさらに高い同一性を有するアミノ酸配列を含む。好ましくは、アミノ酸変化はCDR領域では起こらず、より好ましくは可変領域では起こらない。
【0104】
一実施形態において、残基修飾は、例えば、抗体の特性、例えばエフェクター機能を変化させるために、抗体の定常領域で行われる。
【0105】
いくつかの実施形態において、本発明の抗TIGIT抗体又はその断片の重鎖及び/又は軽鎖は、シグナルペプチド配列、例えば、METDTLLLWVLLLWVPGSTGをさらに含む。
【0106】
例示的な抗体配列
本発明は、実施例のように単離して特徴づけされる、TIGIT(例えば、ヒトTIGIT)と特異的に結合する完全ヒト化抗体を提供する。下記表3に本発明のこれらの例示的な抗体の抗体可変領域VH及びVL配列を示す。下記表1及び表2に抗体の例示的なCDR配列を示す。配列表は、本発明の例示的な抗体の重鎖及び軽鎖アミノ酸配列、ならびに本発明の例示的な抗体可変領域VH及びVLをコードするヌクレオチド配列を示す。
【0107】
抗体変異体
一態様において、本発明は、本明細書に言及される如何なる抗体、特に表Bに示される例示的な抗体の変異体を提供する。一実施形態において、抗体の変異体は変化前の抗体の少なくとも60%、70%、80%、90%、又は100%の生物学的活性(例えば、抗原結合能力)を保持する。いくつかの実施形態において、前記変化は、抗体の変異体が抗原に対する結合を失うことを引き起こさないが、高くなる抗原親和力と異なるエフェクター機能などのような性質を任意に与えることができる。
【0108】
理解すべきことは、抗体の重鎖可変領域又は軽鎖可変領域、又は各CDR領域は単独に変化し又は組み合わせて変化することができる。いくつかの実施形態において、1個又は複数個又は全ての3個の重鎖CDRにおけるアミノ酸の変化は1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個又は10個を超えない。好ましくは、前記アミノ酸の変化はアミノ酸置換であり、保存的置換が好ましい。いくつかの実施形態において、1個又は複数個又は全ての3個の軽鎖CDRにおけるアミノ酸の変化は1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個又は10個を超えない。いくつかの実施形態において、1個又は複数個又は全ての6個のCDRにおけるアミノ酸の変化は1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個又は10個を超えない。好ましくは、前記アミノ酸の変化はアミノ酸置換であり、保存的置換が好ましい。いくつかの実施形態において、抗体の変異体と参照抗体は目標抗体配列領域に少なくとも80%、85%、90%又は95%又は99%又はさらに高いアミノ酸同一性を有する。例えば、一実施形態において、本発明の抗体は、参照抗体(例えば、表3に示されるいずれかの抗体)と比べ、3つの重鎖CDR領域に少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%又はさらに高い同一性を有する。一実施形態において、本発明の抗体は、参照抗体(例えば、表3に示されるいずれかの抗体)と比べ、3つの軽鎖CDR領域に少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%又はさらに高い同一性を有する。別の実施形態において、本発明の抗体は、参照抗体(例えば、表3に示されるいずれかの抗体)と比べ、6つのCDR領域に少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%又はさらに高い同一性を有する。さらに別の実施形態において、本発明の抗体は、参照抗体(例えば、表3に示されるいずれかの抗体)と比べ、重鎖可変領域に少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%又はさらに高い配列同一性を有する。さらに別の実施形態において、本発明の抗体は、参照抗体(例えば、表3に示されるいずれかの抗体)と比べ、軽鎖可変領域に少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%又はさらに高い配列同一性を有する。さらに別の実施形態において、本発明の抗体は、参照抗体(例えば、表3に示されるいずれかの抗体)と比べ、重鎖可変領域及び/又は軽鎖可変領域に少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%又はさらに高い配列同一性を有する。
【0109】
また、抗体のFc領域を変化させることができる。Fc領域の変化は、単独で、又は上記のフレームワーク及び/又はCDR領域の変化と組み合わせて行うことができる。Fc領域を変化させることで、例えば、抗体の1つ又は複数の機能、例えば血清半減期、補体固定、Fc受容体結合、及び/又は抗原依存性細胞傷害を変化させることができる。また、本発明の抗体は、化学的に修飾され(例えば、PEGと結合され)、又はそのグリコシル化モードを変化させることができる。
【0110】
一部の実施形態において、Fc領域は、1つ又は複数のADCC活性を高めるアミノ酸置換、例えば、Fc-領域の位置298、333及び/又は334の置換(残基のEU番号付け)を有するFc-領域を含む。いくつかの実施形態において、Fc-領域を変化させることで、C1q結合及び/又は補体依存性細胞傷害(CDC)(例えば、US6,194,551、WO99/51642とIdusogie,E.E. et al.,J.Immunol.164(2000)4178-4184を参照する)の変更(即ち、向上又は低減)を引き起こすことができる。
【0111】
他の一部の実施形態において、そのグリコシル化程度を増加又は低減すること及び/又はそのグリコシル化モードを変えるようにFcを変化させることができる。Fcのグリコシル化部位の追加又は欠如に対して、アミノ酸配列を変えて1つ又は複数のグリコシル化部位を生成又は除去することによって容易に実現することができる。例えば、1つ又は複数のグリコシル化部位を解消するために1つ又は複数のアミノ酸置換を行うことができ、これによって当該部位のグリコシル化を解消することができる。種類を変えたグリコシル化抗体、例えば、フコシル残基の量を減少した低い又は無フコシル化抗体又はバイセクティングGlcNac構造を追加した抗体を製造することができる。このような変えたグリコシル化モデルは既に抗体のADCC能力の向上が示されている。本発明は、Fc領域に接続されるオリゴ糖に少なくとも1つの半乳糖残基を有する抗体変異体も考慮する。これらの抗体変異体は向上したCDC機能を有することができる。
【0112】
一部の実施形態において、本発明は、全部でないが一部のエフェクター機能を有する抗体変異体も考慮し、それをある応用の望ましい候補物になり、前記応用において抗体のインビボ半減期が重要であるが、一部のエフェクター機能(例えば、補体とADCC)が必要ではなく又は有害である。例えば、Fc領域は、エフェクター機能を解消又は軽減する突然変異、例えば、突然変異のP329G及び/又はL234AとL235Aを有するヒトIgG1 Fc領域、又は、突然変異のP329G及び/又はS228PとL235Eを有するヒトIgG4 Fc領域を含むことができる。
【0113】
一部の実施形態において、システイン操作された抗体、例えば、抗体の1つ又は複数の残基がシステイン残基で置換された「チオMAb」の産生が望ましい場合がある。例えば、抗体のヒンジ領域におけるシステイン残基の数量を変更することによって、軽鎖及び重鎖の組み立てを促進し又は抗体の安定性を向上もしくは低減させることができる。例えば、米国特許番号5,677,425を参照する。
【0114】
一部の実施形態において、本明細書で提供される抗体は、非タンパク質の部分を含有するようにさらに修飾されてもよい。抗体の誘導に適する部分は、水溶性ポリマーを含むが、これに限定されない。水溶性ポリマーの非限定的な例として、例えば、抗体(例えば、血清)の半減期を延長するために、ポリエチレングリコール(PEG)が挙げられるが、これに限定されない。タンパク質のPEG化方法は本分野で公知するものであり、本発明の抗体に適用できる。例えば、EP 0154 316及びEP 0401384を参照する。
【0115】
II.ポリヌクレオチド、ベクターと宿主
本発明は、上記の任意の抗TIGIT抗体又はその断片をコードする核酸を提供する。前記核酸を含むベクターをさらに提供する。一実施形態において、ベクターは発現ベクターである。前記核酸又は前記ベクターを含む宿主細胞をさらに提供する。一実施形態において、宿主細胞は真核細胞である。別の実施形態において、宿主細胞は、酵母細胞、哺乳動物細胞(例えば、CHO細胞もしくは293細胞)から選択される。別の実施形態において、宿主細胞は原核細胞である。
【0116】
一態様において、本発明は、上記の任意の抗TIGIT抗体又はその断片をコードする核酸を提供する。前記核酸は、抗体の軽鎖可変領域及び/又は重鎖可変領域のアミノ酸配列をコードする核酸、又は抗体の軽鎖及び/又は重鎖のアミノ酸配列をコードする核酸を含むことができる。抗体の重鎖可変領域をコードする例示的な核酸配列は、配列番号150-169から選択される核酸配列と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有する核酸配列を含み、又は配列番号150-169から選択される核酸配列を含む。抗体の軽鎖可変領域をコードする例示的な核酸配列は、配列番号170-176から選択される核酸配列と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有する核酸配列を含み、又は配列番号170-176から選択される核酸配列を含む。適切な発現ベクターが発現する時、これらのポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドは、TIGIT抗原結合能力を示すことができる。
【0117】
本発明において、上記記載されたTIGITに結合する抗体に由来する重鎖VH又は軽鎖VL配列の少なくとも1つのCDR領域と通常の全ての3つのCDR領域をコードするポリヌクレオチドをさらに提供する。さらなる一部の実施形態において、ポリヌクレオチドは、上記記載されたTIGITと結合する抗体の重鎖及び/又は軽鎖の完全又は基本的に完全な可変領域配列をコードする。
【0118】
当業者に明らかになるように、遺伝暗号の退化性のため、各抗体又はポリペプチドアミノ酸配列は、複数の核酸配列によってコードすることができる。
【0119】
好ましい一実施形態において、抗体をコードする本発明の核酸は、重鎖Fc領域をコードするヌクレオチド配列、例えば、配列番号177で表されるFc領域配列又はそれと基本的に同じ配列をさらに含む。
【0120】
好ましい一実施形態において、抗体をコードする本発明の核酸は、軽鎖定常領域配列をコードするヌクレオチド配列、例えば、配列番号209で表される配列又はそれと基本的に同じ配列をさらに含む。
【0121】
本分野でよく知られている方法を用いて、初めから固相化DNAを合成すること、又はTIGITと結合する抗体又はその抗原結合断片をコードする既存の配列(例えば、配列番号150-169で表されるVH DNA配列、配列番号170-176で表されるVL DNA配列)をPCR突然変異誘発することによって、これらのポリヌクレオチド配列を生成することができる。
【0122】
一実施形態において、本発明の核酸を含む1つ又は複数のベクターを提供する。一実施形態において、ベクターは発現ベクターで、例えば、真核発現ベクターである。ベクターの非限定的な例は、ウイルス、プラスミド、コスミド、λファージ又は酵母人工染色体(YAC)を含む。好ましい実施形態において、本発明の発現ベクターはpTT5発現ベクターである。
【0123】
一実施形態において、前記ベクターを含む宿主細胞を提供する。抗体をコードするベクターをクローニング又は発現するための適切な宿主細胞は、本出願で説明されている原核又は真核細胞を含む。例えば、抗体が細菌において生成され、特に、グリコシル化とFcエフェクター機能が不要な場合はそうである。細菌における抗体断片とポリペプチドの発現に関しては、例えば、米国特許第5,648,237号、第5,789,199号、第5,840,523号、及びCharlton,Methods in Molecular Biology,vol 248(edited by B.K.C.Lo,Humana Press,Totowa,NJ,2003),p245-254,大腸菌における抗体断片の発現)が参照される。発現後、可溶性画分における抗体が細菌細胞のペースト状物から単離して、さらに精製することができる。
【0124】
一実施形態において、宿主細胞は真核細胞である。別の実施形態において、宿主細胞は、酵母細胞、哺乳動物細胞又は抗体もしくはその抗原結合断片の製造に適する他の細胞から選択される。例えば、糸状菌又は酵母などの真核微生物は、抗体をコードするベクターに適するクローニング又は発現宿主である。例えば、グリコシル化経路が既に「ヒト化」された真菌と酵母菌株は、一部又は完全のヒトグリコシル化の形態を有する抗体の生成を引き起こす。Gerngross,Nat.Biotech.22:1409-1414(2004)、Li et al.,Nat.Biotech.24:210-215(2006)が参照される。グリコシル化抗体の発現に適する宿主細胞は、多細胞生物(無脊椎動物、脊椎動物)から誘導されてもよい。脊椎動物の細胞も宿主として用いることができる。例えば、懸濁化成長に適するように改変された哺乳類由来の細胞株を使用できる。使用可能な哺乳類由来の宿主細胞株のいくつかの例としては、SV40によって形質転換されたサル腎臓由来CV1系(COS-7)、ヒト胎児腎臓系(293HEKもしくは293細胞、例えば、Graham et al.,J.Gen Virol.36:59(1977)の説明)などが挙げられる。使用可能な他の哺乳類由来の宿主細胞株は、DHFR-CHO細胞(Urlaub et al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:216(1980))などのチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞や、Y0、NS0、Sp2/0などの骨髄腫細胞株を含む。抗体の生成に適する一部の哺乳類由来の宿主細胞株は、例えば、Yazaki&Wu,Methods in Molecular Biology,vol 248(B.K.C.Lo,ed.,Humana Press,Totowa,NJ),p255-268(2003)で概略的に説明されている。
【0125】
III.抗体の製造
一実施形態において、抗体の発現に適する条件において、前述したように、前記抗体をコードする核酸を含む宿主細胞を培養することと、必要に応じて前記宿主細胞(又は宿主細胞培地)から前記抗体を回収することとを含む抗TIGIT抗体の製造方法を提供する。組換えにより抗TIGIT抗体を生成するために、抗体(例えば、上記の抗体)をコードする核酸を単離し、宿主細胞におけるさらなるクローニング及び/又は発現のために、それを1つ又は複数のベクターに挿入する。かかる核酸は、通常のプロセスにより単離しシークエンシングすることが容易である(例えば、抗体の重鎖と軽鎖をコードする遺伝子と特異的に結合するオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって行う)。
【0126】
IV.測定手法
本分野において既知の様々な測定手法を利用して、本出願の抗TIGIT抗体に対して同定、スクリーニング、又はその物理的/化学的特性及び/又は生物学的活性の特性評価を行うことができる。
【0127】
一態様において、本発明の抗体に対してその抗原結合活性を測定する。例えば、ELISA、Westernブロットなどのような本分野において既知の方法、又は本出願の実施例に開示されている例示的な方法を利用して、ヒトTIGITとの結合を測定することができる。例えば、抗体が、ヒトTIGITを発現する細胞株、例えばトランスフェクトにより細胞表面上にヒトTIGITを発現するCHO細胞と反応する、フローサイトメトリーを用いて測定することができる。天然TIGITを発現するT細胞を含む他の細胞はフローサイトメトリーにも適している。あるいは、結合動力学(例えば、KD値)を含む抗体の結合は、組換えTIGITタンパク質を使用して光干渉による生体測定法において測定することができる。いくつかの実施形態において、例えば、Fortebio親和性測定手法が利用される。
【0128】
別の態様において、競合測定手法を利用して、本出願で開示されている任意の抗TIGIT抗体と競合的にTIGITと結合する抗体を同定することができる。一部の実施形態において、かかる競合的結合において抗体は、本出願で開示されている任意の抗TIGIT抗体が結合するエピトープと同じ又は重複するエピトープ(例えば、線形エピトープ又は立体配座エピトープ)と結合する。抗体が結合するエピトープの特定のための例示的な方法は、Morris(1996)「Epitope Mapping Protocols」,Methods in Molecular Biology vol.66(Humana Press,Totowa,NJ)で詳細に記載されている。
【0129】
本発明は、生物学的活性を有する抗TIGIT抗体を同定するための測定手法をさらに提供する。生物学的活性は、例えば、TIGIT(例えば、ヒトTIGIT)との結合、TIGIT(例えば、ヒトTIGIT)とCD155分子との結合の遮断、TIGIT媒介性の抑制性シグナル伝達の遮断、T細胞のIL2産生の増加、及び/又は腫瘍成長の抑制を含んでもよい。例えば、インビボ腫瘍抑制モデル(例えば、実施例6参照)において、腫瘍成長を抑制する抗体の能力を測定する。本発明は、インビボ及び/又はインビトロにおいて、かかる生物学的活性を有する抗体も提供する。
【0130】
なお、本発明の免疫複合体又は多重特異性抗体を利用して抗TIGIT抗体を置き換え又はそれを補足して、任意の上記の測定を実現できる。
【0131】
V.多重特異性抗体
さらに別の態様において、本発明は、TIGIT(好ましくは、ヒトTIGIT)と特異的に結合する多重特異性(二重特異性を含む)抗体分子を提供する。一実施形態において、多重特異性抗体において、本発明の抗体(又はその抗原結合断片)は、TIGITに対する第1の結合特異性を形成する。さらに別の実施形態において、前記多重特異性抗体は、第2の特異性をさらに有するか、又はさらに別の実施形態において、第2の結合特異性と第3の結合特異性をさらに含む。さらに別の実施形態において、前記多重特異性抗体は、二重特異性抗体である。
【0132】
一実施形態において、結合特異性は、抗体の「結合部位」又は「抗原結合部位」(抗体分子において抗原と実際に結合する領域)によって提供される。好ましい一実施形態において、抗原結合部位は、抗体の軽鎖可変ドメイン(VL)と抗体の重鎖可変ドメイン(VH)からなるVH/VL対からなる。従って、一実施形態において、「多重特異性」抗体は、少なくとも2つの抗原結合部位を有する抗体であり、前記少なくとも2つの抗原結合部位のうち、それぞれの抗原結合部位は、同じ抗原の異なるエピトープ又は異なる抗原の異なるエピトープと結合することができる。
【0133】
多重特異性抗体及びその製造については、例えば、WO2009/080251、WO2009/080252、WO2009/080253、WO2009/080254、WO2010/112193、WO2010/115589、WO2010/136172、WO2010/145792及びWO2010/145793の説明を参照されたい。
【0134】
VI.免疫複合体
さらに別の態様において、本発明は、本発明の抗体を異種分子に接合することによって生成した免疫複合体を提供する。一実施形態において、免疫複合体において、本発明の抗体(又はその抗原結合断片)は、治療剤又は診断剤と接合する。いくつかの実施形態において、本発明の抗体は、全長抗体又は抗体断片の形式で異種分子と接合することができる。例えば、Fab断片、Fab’断片、F(ab)’2断片、単鎖scFab抗体、単鎖scFvなどの断片の形式で接合することができる。
【0135】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体は、治療性分子と接合する。リンカーは、抗体を治療性分析に共有結合するために使用され得る。適切なリンカーは、化学リンカー又はペプチドリンカーを含む。
【0136】
他の一部の実施形態において、本発明の抗体は、診断剤又は検出可能な試薬と接合することができる。このような複合体は、臨床検査方法の一部(例えば特定療法の効能を確認する)として、疾患又は病気の発作、形成、進行及び/又は重篤性を監視又は予測することができる。抗体を検出可能な試薬と結合させることによってこのような診断及び検出を達成することができる。
【0137】
VII.医薬組成物と薬物製剤
本発明は、抗TIGIT抗体もしくはその免疫複合体又は多重特異性抗体を含む組成物(医薬組成物又は薬物製剤を含む)、抗TIGIT抗体もしくはその免疫複合体又は多重特異性抗体をコードするポリヌクレオチドを含む組成物をさらに含む。これらの組成物はまた、本分野で既知の薬用ベクター、緩衝剤を含む薬用賦形剤などの適切な医薬品添加物を必要に応じて含んでもよい。
【0138】
一実施形態において、組成物は、第2の治療剤をさらに含む。前記第2の治療剤は、例えば、抗-PD-1抗体及び抗-PD-L1抗体を含むが、これらに限定されない。好ましくは、第2の治療剤は、PD-1拮抗剤であり、特に抗PD-1抗体である。
【0139】
本発明に適する薬用ベクターは、石油、動物もしくは植物に由来する又は合成された、ピーナッツオイル、大豆油、鉱油、ごま油など、水、油などの滅菌液体であってもよい。医薬組成物を静脉内に投与する場合、水はベクターとして好ましい。さらに、生理塩水溶液、水性デキストロースとグリセリン溶液を液体ベクターとして、特に注射溶液に用いることができる。適切な薬用賦形剤は、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセリン、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセリン、プロピレン、ジオール、水、エタノールなどを含む。賦形剤の使用及びその用途に関しては、「Handbook of PharmaceuticalExcipients」,5th editon,R.C.Rowe,P.J.Seskey、S.C.Owen,PharmaceuticalPress,London,Chicagoが参照される。必要があれば、前記組成物は湿潤剤、乳化剤、又はpH緩衝剤をさらに少量に含有してもよい。これらの組成物は、溶液、懸濁液、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、粉末、持続性放出製剤などの形態を採用できる。経口製剤は、薬用マンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンなどの標準的なベクターを含んでもよい。
【0140】
所望の純度を有する本発明の抗TIGIT抗体、免疫複合体又は多重特異性抗体を任意の1つ又は複数の医薬品添加物(Remington′ s Pharmaceutical Sciences,16th edition,edited by Osol,A.(1980))と混合することによって、本発明を含む薬物製剤を製造し、好ましくは凍結乾燥製剤又は水溶液の形式で製造する。
【0141】
例示的な凍結乾燥抗体製剤に関する説明は、米国特許第6,267,958号が参照される。水性抗体製剤に関しては、米国特許第6,171,586号、世界特許WO2006/044908が参照され、後者の製剤はヒスチジン-アセテート緩衝剤を含む。
【0142】
本発明の医薬組成物又は製剤は、1種以上の他の活性成分をさらに含んでもよく、前記活性成分は、特定の適応症の治療に必要であり、好ましくは互いにマイナスの影響を与えない活性的に相補な活性成分を含む。例えば、PD-1結合拮抗剤又はPD-L1結合拮抗剤などの他の抗がん活性成分、例えば抗PD-1抗体又は抗PD-L1抗体をさらに提供することが望ましい。前記活性成分は、目的用途において有効な量で適切に組み合わせた形で存在する。
【0143】
持続性放出製剤として製造できる。持続性放出製剤の適切な例は、抗体を含有する疎水性固体ポリマーによる半透性マトリックスを含み、前記マトリックスは、フィルム又はマイクロカプセルなどのように一定の形態を有する。
【0144】
薬物製剤の他の成分については、WO2015/153513に開示されているものを参照することもできる。
【0145】
VIII.組み合わせ製品
一態様において、本発明は、本発明の抗体又はその抗原結合断片、二重特異性抗体又は免疫複合体、及び1種以上の他の治療剤(例えば、化学療法剤、他の抗体、細胞傷害剤、ワクチン、抗感染症剤など)を含む組み合わせ製品をさらに提供する。本発明の組み合わせ製品は、本発明の治療方法において使用できる。
【0146】
いくつかの実施形態において、本発明は、組み合わせ製品を提供し、ここで、前記他の治療剤が、例えば、免疫応答を刺激して対象の免疫応答をさらに増強、刺激又は上方制御するのに有効な、抗体などの治療剤である。いくつかの実施形態において、他の抗体は、例えば、抗PD-1抗体又は抗PD-L1抗体である。
【0147】
いくつかの実施形態において、前記組み合わせ製品は、腫瘍の予防又は治療に用いられる。いくつかの実施形態において、腫瘍は、がん、例えば、胃がん、直腸がん、結腸がん、結腸直腸がんなどの胃腸管がん、又は悪性黒色腫などの皮膚がんである。いくつかの実施形態において、前記組み合わせ製品は、例えば細菌感染、ウイルス感染、真菌感染、原生動物感染などの感染の予防又は治療に用いられる。
【0148】
IX.治療方法と使用
本出願では、用語「個体」又は「対象」は、互いに切り替えて用いることができ、哺乳動物を指す。哺乳動物は、家畜化された動物(例えば、乳牛、ヒツジ、ネコ、イヌとウマ)、霊長類(例えば、ヒトとサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、げっ歯類(例えば、マウスとラット)を含むが、これらに限定されない。特に、対象はヒトである。
【0149】
本明細書では、用語「治療」は、治療を受けている個体における疾病の天然過程を変化させようとする臨床介入を指す。求められる治療効果は、疾患の発生又は再発の防止、症状の軽減、疾患の任意の直接的又は間接的な病理学的結果の減少、転移の防止、疾患の進行速度の低減、疾患状態の改善又は寛解、及び予後の緩和又は改善を含むが、これらに限定されない。
【0150】
一態様において、本発明は、対象における機体の免疫応答の増強方法に関し、前記方法は、有効量の本明細書に係る任意の抗TIGIT抗体もしくはその断片、又は前記抗体もしくは断片を含む免疫複合体、多重特異性抗体、又は医薬組成物を前記対象に投与することを含む。いくつかの実施形態において、本発明の抗TIGIT抗体又はその抗原結合部分を、抗腫瘍免疫応答を刺激するように、腫瘍を携帯する対象に投与する。別の一部の実施形態において、本発明の抗体又はその抗原結合部分を、抗感染免疫応答を刺激するように、感染を携帯する対象に投与する。
【0151】
別の態様において、本発明は、対象における腫瘍、例えばがんの治療方法に関し、前記方法は、有効量の本明細書に係る任意の抗TIGIT抗体もしくはその断片、又は前記抗体もしくは断片を含む免疫複合体、多重特異性抗体、又は医薬組成物を前記対象に投与することを含む。がんは、早期、中期又は末期にあるがん又は転移性がんであってもよい。
【0152】
TIGITはヒト腫瘍浸潤性CD8+T細胞に高発現することが証明されている。いくつかの実施形態において、本発明の方法は、がん、特にTIGITを発現する腫瘍浸潤性リンパ球浸潤の固形腫瘍を治療するために使用される。
【0153】
一実施形態において、がんは、結腸がんなどの胃腸管がんである。
【0154】
いくつかの実施形態において、腫瘍又は腫瘍細胞は、結腸直腸腫瘍、卵巣腫瘍、膵臓腫瘍、肺腫瘍、肺腫瘍、肝腫瘍、乳房腫瘍、腎臓腫瘍、前立腺腫瘍、胃腸腫瘍、黒色腫、子宮頸部腫瘍、膀胱腫瘍、神経膠芽腫及び頭頸部腫瘍から選択され得る。いくつかの実施形態において、がんは、結腸直腸がん、卵巣がん、膵臓がん、肺がん、肝臓がん、乳がん、腎臓がん、前立腺がん、胃腸がん、黒色腫、子宮頸がん、膀胱がん、神経膠芽腫及び頭頸部がんから選択され得る。
【0155】
いくつかの実施形態において、本明細書は、本発明の抗-TIGIT抗体及び拮抗性抗PD-1抗体を対象に投与することを含む、腫瘍(例えば、がん)を治療する方法を提供する。いくつかの実施形態において、TIGTIとPD-1を共発現する腫瘍、例えば、TIGTIとPD-1を共発現する黒色腫(Chauvin et al. (2015) J. Clin. Invest. 125:2046)、非小細胞肺がん(NSCLC)及び腎細胞がん(RCC)を治療するために用いられる。
【0156】
別の態様において、本発明は、対象における感染性疾患、例えば慢性感染の治療方法に関し、前記方法は、有効量の本明細書に係る任意の抗TIGIT抗体もしくはその断片、又は前記抗体もしくは断片を含む免疫複合体、多重特異性抗体、又は医薬組成物を前記対象に投与することを含む。一実施形態において、前記感染はウイルス感染である。
【0157】
いくつかの実施形態において、前記感染性疾患は、ウイルス感染によって引き起こされる。病原性ウイルスのいくつかの例は、(A型、B型及びC型)肝炎ウイルス、(A型、B型及びC型)インフルエンザウイルス、HIV、ヘルペスウイルス(例えば、VZV、HSV-1、HAV-6、HSV-II、CMV、Epstein Barrウイルス+)、アデノウイルス、フラビウイルス、エコーウイルス、ライノウイルス、コクサッキーウイルス、コロナウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、ムンプスウイルス、ロタウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、パルボウイルス、ワクシニアウイルス、HTLVウイルス、デングウイルス、乳頭腫、伝染性軟属腫ウイルス、ポリオウイルス、狂犬病ウイルス、JCウイルス、アルボウイルスを含む。
【0158】
いくつかの実施形態において、本明細書に係る方法は、前記対象に1種以上の療法(例えば、治療法及び/又は他の治療剤)を組み合わせて適用することをさらに含む。いくつかの実施形態において、治療法は、手術治療及び/又は放射線治療を含む。
【0159】
いくつかの実施形態において、本発明の抗-TIGIT抗体と1種以上の治療剤との組み合わせによってT細胞応答を刺激することができる。いくつかの実施形態において、本発明の抗体を投与することに加えて、本発明の方法は、少なくとも1種の他の免疫刺激性抗体、例えば、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、を投与することをさらに含み、これらの抗体は、例えば、完全ヒト化抗体、キメラ抗体、又はヒト化抗体であり得る。
【0160】
別の一部の実施形態において、本発明の抗体と組み合わせて使用され得る他の治療剤は、PD-1結合拮抗剤及びPD-L1結合拮抗剤から選択される。「PD-1」の名称候補は、CD279、SLEB2を含む。「PD-L1」の名称候補は、B7-H1、B7-4、CD274、B7-Hを含む。いくつかの実施形態において、PD-1、PD-L1は、ヒトPD-1、ヒトPD-L1である。いくつかの実施形態において、PD-1結合拮抗剤は、PD-1とそのリガンド結合対象の結合を抑制する分子である。1つの特定の態様において、PD-1のリガンド結合対象は、PD-L1である。別の実施形態において、PD-L1結合拮抗剤は、PD-L1とその結合対象の結合を抑制する分子である。1つの特定の態様において、PD-L1の結合対象はPD-1である。拮抗剤は、抗体、抗原結合断片、イムノアドヘシン、融合タンパク質又はオリゴペプチドであってもよい。いくつかの実施形態において、PD-1結合拮抗剤は、抗PD-1抗体(例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体、又はキメラ抗体)である。いくつかの実施形態において、抗PD-1抗体は、IBI308(シンディリマブ、WO2017/025016A1)、MDX-1106(nivolumab、OPDIVO)、Merck 3475(MK-3475、pembrolizumab、KEYTRUDA)、CT-011(Pidilizumab)から選択される。いくつかの実施形態において、抗PD-1抗体はMDX-1106である。いくつかの実施形態において、抗PD-1抗体は、nivolumab(CAS登録番号:946414-94-4)である。好ましい実施形態において、抗PD-1抗体は、本明細書に記載の「Antibody C」である。
【0161】
さらなるいくつかの実施形態において、抗TIGIT抗体又はその断片は、単独で又はPD-1結合拮抗剤又はPD-L1結合拮抗剤との組み合わせとして、1種以上の他の療法、例えば、治療法及び/又は他の治療剤と組み合わせて投与することができる。いくつかの実施形態において、治療法は、外科的手術(例えば、腫瘍切除)、放射線治療(例えば、照射領域が設定された三次元原体放射線療法などの外部粒子ビーム療法)、局所照射(例えば、所定の標的もしくは器官に対する照射)又は集中的照射などを含む。
【0162】
いくつかの実施形態において、本発明の抗TIGIT抗体又はその抗原結合断片は、化学療法又は化学療法剤と併用して投与されてもよい。いくつかの実施形態において、本発明の抗TIGIT抗体又はその抗原結合断片は、放射線療法又は放射線療法剤と併用して投与されてもよい。いくつかの実施形態において、本発明の抗TIGIT抗体又はその抗原結合断片は、標的療法又は標的治療剤と併用して投与されてもよい。いくつかの実施形態において、本発明の抗TIGIT抗体又はその抗原結合断片は、免疫療法又は免疫治療剤、例えばモノクローナル抗体と併用して投与されてもよい。
【0163】
本発明の抗体(及びそれを含む医薬組成物又は免疫複合体、任意の他の治療剤)は、非経口投与、肺内投与、鼻腔内投与を含む任意の適切な方法により投与されてもよく、且つ、局所治療の場合は、病巣内に投与されてもよい。非経口注入は、筋肉内投与、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与又は皮下投与を含む。なお、投与期間の長さによって、例えば、静脈内注射投与又は皮下注射投与などの注射を含む任意の適切な経路にすることができる。本発明において、非限定的であるが、単回投与又は複数の時刻での複数回投与、ボーラス投与、パルス療法などの様々な頻度の投与が含まれる。
【0164】
本発明の抗体は、疾患の予防又は治療に用いられる場合、その適切な投与量(単独で投与される場合又は1種以上の他の治療剤と組み合わせて投与される場合)が、治療対象疾患の種類、抗体のタイプ、疾患の重症度とその経過、前記抗体の投与が予防目的であるか治療目的であるか、これまでの治療歴、患者の臨床病歴、前記抗体に対する応答、主治医の判断によって決定される。前記抗体は、単回の治療として、又は一連の治療において患者に適切に投与される。
【0165】
上記本発明の方法において、本発明の抗体又は抗原結合部分の代わりに、本発明の組成物、多重特異性抗体又は免疫複合体を投与することができる。あるいは、これらの方法において、本発明の抗体又は抗原結合部分に加えて、本発明の組成物、多重特異性抗体又は免疫複合体をさらに投与することができる。
【0166】
さらに別の態様において、本発明は、上述の方法(例えば治療のため)の医薬の製造における、本発明の抗TIGIT抗体、組成物、免疫複合体、多重特異性抗体の使用を提供する。
【0167】
X.診断と検出のための方法と組成物
さらに別の態様において、本発明は、サンプルにおけるTIGITを検出する方法とキットに関し、前記方法は、(a)前記サンプルを本発明の抗体又はその抗原結合断片又は免疫複合体と接触することと、(b)前記抗体又はその抗原結合断片又は免疫複合体とTIGITタンパクとの間の複合物の形成を検出することとを含む。いくつかの実施形態において、サンプルは皮膚がん患者などのがん患者に由来する。前記検出は、インビトロでもインビボでもよい。
【0168】
本明細書で使用される用語「検出」は、定量的検出又は定性的検出を含む。例示的な検出方法としては、免疫組織化学、免疫細胞化学、フローサイトメトリー(例えば、FACS)、抗体分子複合磁気ビーズ、ELISA測定、PCR-技術(例えば、RT-PCR)が挙げられる。一部の実施形態において、生体サンプルは血、血清又は生体に由来する他の液体サンプルである。一部の実施形態において、生体サンプルは細胞又は組織を含む。いくつかの実施形態において、生体サンプルは過剰増殖性の病巣又はがん性病巣に由来する。一部の実施形態において、検出対象のTIGITはヒトTIGITである。
【0169】
一実施形態において、抗TIGIT抗体が抗TIGIT抗体による治療に適する対象の選択に用いられ、例えば、TIGITは前記対象を選択するバイオマーカーである。一実施形態において、本発明の抗体を利用してがん又は腫瘍の診断を行い、例えば、対象における本明細書に記載の疾患(例えば、過剰増殖性の疾患又はがん性疾患)の治療又は進行、その診断及び/又は病期の評価(例えば、監視)を行うことができる。
【0170】
一部の実施形態において、標識された抗TIGIT抗体を提供する。標識の非限定的な例は、直接的に検出される標識又は部分(例えば、蛍光標識、発色団標識、高電子密度標識、化学発光標識、放射性標識)と、酵素触媒反応又は分子間の相互作用などにより間接的に検出される部分(例えば、酵素又はリガンド)とを含む。標識の非限定的な例は、放射性同位体、例えば、32P、14C、125I、3H、131Iなど、フルオロフォア、例えば、希土類キレートもしくはフルオレセインとその誘導体、ローダミンとその誘導体、ダンシル(dansyl)、ウンベリフェロン(umbelliferone)、ルシフェラーゼ(luceriferase)、例えば、ホタル由来ルシフェラーゼ、細菌由来ルシフェラーゼ(米国特許第4,737,456号)、フルオレセイン、2,3-ジヒドロフタラジンジオン、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HR)、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、炭水化物オキシダーゼ、例えば、グルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、複素環オキシダーゼ、例えば、尿酸オキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、過酸化水素染料前駆体からなる酵素、例えば、HR、ラクトペルオキシダーゼ、又はマイクロペルオキシダーゼ(microperoxidase)、ビオチン/アビジン、スピン標識、ファージ標識、安定的なフリーラジカルなどを含む。
【0171】
次に、本発明に対する一層の理解のために、実施例を用いて説明する。これらの実施例は本発明の保護範囲を制限するものとは解釈されず、何らかの形でそのような示唆をするためのものでもない。
【0172】
【0173】
【0174】
【0175】
【0176】
本発明の以下の実施例に係る20個の例示的な抗体(ADI-27238、ADI-30263、ADI-30267、ADI-30268、ADI-27243、ADI-30302、ADI-30336、ADI-27278、ADI-30293、ADI-30296、ADI-27291、ADI-30283、ADI-30286、ADI-30288、ADI-27297、ADI-30272、ADI-30278、ADI-27301、ADI-30306、ADI-30311)、及びこれらの抗体のCDR領域、軽鎖可変領域と重鎖可変領域、軽鎖と重鎖のアミノ酸配列、並びに対応するヌクレオチド配列を、本出願の表1~3及び配列表の部分に列挙し、それらの対応する配列番号を表4に要約する。
【実施例0177】
実施例1:抗体の製造
酵母ディスプレイ技術による抗TIGIT完全ヒト化抗体のスクリーニング
従来の方法(世界特許WO2009036379、WO2010105256、W02012009568)を用いて、酵母ベースの抗体ディスプレイライブラリー(Adimab)に対して、各ライブラリーの多様性が1×109になるよう増幅させた。簡単に説明すると、最初の2回のスクリーニングにおいて、Miltenyi社のMACSシステムを利用して磁気ビーズ細胞選別を行った。最初に、FACS洗浄緩衝液(リン酸塩緩衝液、0.1%ウシ血清アルブミン含有)において、ライブラリーの酵母細胞(最大1×1010個の細胞/ライブラリー)をそれぞれ室温で15minインキュベートし、緩衝液に100nMのビオチンで標識されたヒトTIGIT抗原(Acro Biosystems、TIT-H52H3)を含有する。予め冷却されたFACS洗浄緩衝液50mlで洗浄し、次に同洗浄緩衝液40mlで細胞を再懸濁し、ストレプトアビジンマイシンビーズ(Miltenyi LS)500μlを加えて4℃で15minインキュベートした。1000rpmで5min遠心分離して上清を捨て、FACS洗浄緩衝液5mlで細胞を再懸濁し、細胞溶液をMiltenyi LSカラムに加えた。サンプルをロードした後、カラムを3回洗浄し、各回にFACS洗浄緩衝液3mlを使用した。磁気領域からMiltenyi LSカラムを取り外し、成長培地5mlで溶出し、溶出された酵母細胞を回収し、37℃で一晩成長させた。
【0178】
フローサイトメーターを利用して、次回の選別を行った。具体的には、MACSシステムによってスクリーニングされた約1×108の酵母細胞に対してFACS緩衝液で3回洗浄し、室温で低濃度のビオチン(100-1nM)標識を含有するTIGIT抗原において培養した。培養液を捨て、FACS洗浄緩衝液で細胞を2回洗浄した後、細胞をLC-FITC(FITCによって標識された抗ヒト免疫グロブリンのkappa軽鎖抗体、Southern Biotech)(1:100希釈)と混合し、SA-633(ストレプトアビジン-633、Molec ular Probes)(1:500希釈)又はSA-PE(ストレプトアビジン-PE、Sigma)(1:50希釈)試薬と混合し、4℃で15min培養した。予め冷却されたFACS洗浄緩衝液で2回溶出し、緩衝液0.4mlに再懸濁し、フィルターを備える分離管に細胞を移した。FACS ARIA(BD Biosciences)を用いて細胞を選別した。
【0179】
30℃で、スクリーニングして得られた抗TIGIT抗体を発現する酵母細胞を振とうし48時間誘導することによって、抗TIGIT抗体を発現させた。誘導完了後、1300rpmで10min遠心分離して酵母細胞を除去し、上清液を得た。上清液における抗TIGIT抗体に対して、Protein Aを用いて精製し、pH2.0の酢酸溶液で溶出して、抗TIGIT抗体を得たところ、抗体純度が>95%であった。パパイン消化及びKappaSelect(GE生命医療集団)による精製を用いて対応するFab断片を得ることができる。このスクリーニングでは、抗TIGIT抗体ADI-27301、ADI-27238、ADI-27278、ADI-27243、ADI-27297、ADI-27291が得られた。
【0180】
抗ヒトTIGIT抗体の親和力の最適化
親和力がより高い抗ヒトTIGIT抗体を得るために、次の方法により抗体ADI-27301、ADI-27238、ADI-27278、ADI-27243、ADI-27297、ADI-27291に対し最適化を行った。
【0181】
VHmutスクリーニング
当該方法は、通常のミスマッチPCR方法により抗体重鎖領域に突然変異を導入することである。PCRを行った過程で、1μMの高頻度突然変異の塩基類似体dPTPと8-oxo-dGTPを利用して、塩基ミスマッチの概率を約0.01bpに上げた。
【0182】
得られたミスマッチPCR生成物に対し、相同組換えの方法により重鎖定常領域を含有するベクターに導入した。当該方法により、TIGIT抗原価を含み、非標識抗原による競合と親抗体競合を用いるスクリーニング条件において、ライブラリーの容量が1×107の二次ライブラリーを得た。FACS方法により3回のスクリーニングに成功している。
【0183】
CDRH1/CDRH2スクリーニング
VHmut方法により得られた子孫抗体のCDRH3遺伝子を、多様性が1×108のCDRH1/CDRH2遺伝子ライブラリーに導入し、それに対し3回のスクリーニングを行った。1回目でMACS方法を用い、2回目、3回目でFACS方法を用いて、抗体抗原結合物に対して親和力加圧を行って、親和力が最大の抗体をスクリーニングした。
【0184】
6株の親抗体に対する上記の親和力成熟過程を経て、14株の親和力が向上した抗ヒトTIGITモノクローナル抗体ADI-30263/ADI-30267/ADI-30268(ADI-27238子孫)、ADI-30302/ADI-30336(ADI-27243子孫)、ADI-30293/ADI-30296(ADI-27278子孫)、ADI-30283/ADI-30286/ADI-30288(ADI-27291子孫)、ADI-30272/ADI-30278(ADI-27297子孫)、ADI-30306/ADI-30311(ADI-27301子孫)が得られた。
【0185】
30℃で、スクリーニングして得られた抗TIGIT抗体を発現する酵母細胞を振とうし48時間誘導することによって、抗TIGIT抗体を発現させた。誘導完了後、1300rpmで10min遠心分離して酵母細胞を除去し、上清液を得た。上清液における抗TIGIT抗体に対して、Protein Aを用いて精製し、pH2.0の酢酸溶液で溶出して、抗TIGIT抗体を得たところ、抗体純度が>95%であった。パパイン消化及びKappaSelect(GE生命医療集団)による精製を用いて対応するFab断片を得ることができる。
【0186】
抗体の発現及び精製
本出願に係る各抗ヒトTIGIT抗体の配列情報及び番号付け情報を表1~9に示し、親抗体及び親和力成熟後の子孫抗体の両方が、上記の方法で酵母発現から精製されている。
【0187】
実施例で使用した下記対照抗体をHEK293細胞で発現し、精製した。22G2は、HEK293細胞において一過性発現された百時美施貴宝会社からの抗ヒトTIGIT抗体であり、その軽重鎖可変領域配列は、特許出願WO2016/106302 A1における抗体「22G2」の配列と同じである。31C6は、HEK293細胞において一過性発現されたMSDからの抗ヒトTIGIT抗体であり、その軽重鎖可変領域配列は、特許出願WO2016/028656 A1における抗体「31C6」の配列と同じである。10A7と1F4は、いずれもHEK293細胞において一過性発現されたGeneTech社からの抗ヒトTIGIT抗体であり、その軽重鎖可変領域配列は、特許出願WO2015009856A2における抗体「10A7」、「1F4」の配列とそれぞれ同じである。4つの対照抗体の定常領域は全て野生型IgG4配列を用いた。
【0188】
HEK293細胞における抗体の一過性発現のために、ベクターpTT5を使用した。最初に、抗体の重鎖及び軽鎖をそれぞれ単独のpTT5ベクターにクローニングした。抗体分子の重鎖及び軽鎖を有するpTT5ベクターを、化学トランスフェクション法を用いてHEK293細胞に導入した。使用した化学トランスフェクション試薬はPEI(Polysciencesから購入)であり、培養されたHEK293細胞を、製造業者によって提供されたプロトコルに従って一過性トランスフェクションした。まず、クリーンベンチにプラスミドDNAとトランスフェクション試薬を準備し、F17培地(Gibco)(体積はトランスフェクション体積の1/5)を半分ずつ50mlの遠心管に入れ、一方に濾過したプラスミド(130μg/100ml)、もう一方に濾過したPEI(1g/L、Polysciences)(質量比(プラスミド:PEI)=1:3)、5min混合し、両者を20回穏やかに混合し、15~30min静置し、30minを超えないようにした。DNA/PEI混合物をHEK293細胞に穏やかに注入して混合し、細胞を、48時間ごとに新鮮な培地を流加して37℃、8%CO2の条件下で7日間培養した。7日後又は細胞生存率≦60%まで連続培養した場合、13000rpmで20min遠心分離した。上清液を採取し、抗体の純度が95%を上回るように、Protein Aで上清液を精製した。
【0189】
また、完全な抗体ADI-30268、ADI-30278、ADI-30286、ADI-30288、ADI-30293、ADI-30306、ADI-30336をCHO細胞において発現し、精製した。
【0190】
CHO細胞における発現及び精製:HorizonのHD-BIOP1(GS Null CHO-K1)を使用して、製造者の指示に従い、抗体を発現するCHO細胞株を作製した。まず、抗体分子の重鎖及び軽鎖のDNA配列を、ATUM社からのpD2531プラスミドにそれぞれ挿入した。その後、構築したプラスミドをエレクトロトランスフェクション法を用いてCHO細胞系に移し、24時間トランスフェクションした後にForteBioを用いて抗体産生を検出し、トランスフェクション効率を判定した。トランスフェクション後の細胞を加圧スクリーニングして高発現抗体の細胞プール(pool)を得た。その後細胞プールを増幅し、抗体を大量に発現させ、細胞上清を集めて、抗体の純度が95%を上回るようにProtein A及びゲルで上清液を濾過、精製した。
【0191】
実施例2 抗体の親和力測定
光干渉による生体測定法(ForteBio)の測定手法を用いて、ヒトTIGITに対する本発明の上記20個の例示的な抗体の結合の平衡解離定数(KD)を測定した。
【0192】
ForteBio親和力測定は従来の方法(Estep,P et al.,High throughput solution Based measurement of antibody-antigen affinity and epitope binning.MAbs,2013.5(2):p.270-8)で行った。
【0193】
候補抗体FabとTIGIT-FCの単価親和力の測定:センサーを分析緩衝液の正中線の下で20分間平衡を保ち、その後、正中線の上で120秒検出して基線を立てた。ヒトTIGIT-FCをAHQセンサー(ForteBio)にロードして、ForteBio親和性測定を行った。抗原がロードされたセンサーをプラトー期間まで100nM Fabを含有する溶液に置き、その後センサーを分析緩衝液に移して少なくとも2min解離させることで解離速度を測定した。1:1結合モデルを利用して動力学的分析を行った。
【0194】
完全な候補抗体とヒト(ACRO、TIT-H52H3)、マウス(ACRO、TIT-M52E6)、サルTIGIT-his(ACRO、TIT-C5223)の単価親和力の測定:センサーを分析緩衝液の正中線の下で20分間平衡を保ち、その後、正中線の上で120秒検出して基線を立て、精製した抗体を1nmの厚さまでAHQセンサー(ForteBio)にロードして、ForteBio親和力測定を行った。抗体がロードされたセンサーを100nMのTIGIT-his抗原に置いてプラトー期間まで作用させた後、センサーを分析緩衝液に移して少なくとも2min解離させることで解離速度を測定した。1:1結合モデルを利用して動力学的分析を行った。
【0195】
上記の測定手法に従って行った実験において、20個の酵母によって発現された候補抗体(Fab)のKD値を表5に示す。
【0196】
【0197】
上記の測定手法に従って行った実験において、7個のCHOによって発現された完全な抗体のヒト、マウス、サルTIGITの単価KDを表6に示す。
【0198】
【0199】
以上のグラフの結果から、(1)親和力成熟後、各子孫抗体はその親抗体と比べて、ヒトTIGITとの親和力は全て著しく向上したこと、(2)親和力成熟後に選択した7株のCHO発現抗体とヒトTIGITの親和力は対照抗体と比べて類似又はより高いこと、7株の候補抗体は全てサルTIGITと交差反応できること、7株の候補抗体のうち4株(ADI-30268/ADI-30286/ADI-30288/ADI-30293)がマウスと交差反応できることが明らかになった。
【0200】
実施例3 抗TIGIT抗体と細胞上で発現されたヒトTIGITとの結合
フローサイトメトリーに基づく測定手法で本発明の上記20個の例示的な抗体とCHO細胞表面に発現されたヒトTIGITとの結合能力を測定した。その結合能力を、CHO細胞表面に発現されたヒトTIGITに対する異なる抗体の結合曲線を比較することによって測定した。
【0201】
具体的には、親和力成熟後、酵母を用いて親抗体及び子孫抗体を発現させた。抗体を得た後(純度が約70%)、これらの抗体とCHO細胞表面に発現されたヒトTIGITとの結合実験を行った。具体的な実験過程は、(1)pCHO1.0で構築したヒトTIGITプラスミドを用いてCHOS細胞をトランスフェクションし、トランスフェクション後の細胞をメトトレキサート及びピューロマイシンでスクリーニングして安定細胞poolを得た。(2)異なる濃度の候補抗体を用いて安定細胞poolと4℃で30minインキュベートした。PBSで3回洗浄した後、PE標識のマウス抗ヒト二次抗体を用いて、4℃で30minインキュベートした。PBSで再び3回洗浄した後、細胞を100ulのPBSで再懸濁した。(3)フローサイトメトリーを用いてその2チャネルメディアン蛍光強度値を測定した。抗体濃度の10を底とした対数を横軸、2チャネルメディアン蛍光強度値を縦軸としてプロットし、そのEC50及び曲線ピーク値を比較した。結果は下記表及び
図1に示される(EC50:nM)。
【0202】
【0203】
以上の実験結果から以下のことが分かった。(1)親和力成熟後、各子孫抗体はCHO細胞表面に発現しているヒトTIGITに対する結合能力がその親抗体よりも増強されている(結合曲線の上プラトーがより高いと表現される)。(2)CHO細胞表面に発現しているヒトTIGITに対する親和力成熟後の子孫抗体の結合能力はいずれもGeneTech社からの2分子10A7、1F4よりも強く、百時美施貴宝会社からの分子22G2及びMSDからの分子31C6の結合能力に相当する。
【0204】
また、親和力成熟後、スクリーニングした7分子をCHO系で発現精製して高純度の抗体を得て、CHO細胞表面に発現しているヒトTIGITとの結合実験を行った。上記の測定方法で行われた実験において、ADI-30268、ADI-30336、ADI-30293、ADI-30286、ADI-30288、ADI-30278及びADI-30306がCHO細胞で過発現されたヒトTIGITと結合し、EC50値はそれぞれ0.1392nM、0.1300nM、0.2288nM、0.1758nM、0.1860nM、0.1321nM及び0.1999nMで、対照抗体22G2、1F4とCHO細胞で過発現されたヒトTIGITとの結合能力よりも高く(対照抗体22G2及び1F4のEC50値はそれぞれ0.7249nM及び0.6073nMである)、対照抗体31C6と類似する(EC50値は0.1846nMである)。対照抗体10A7は7個の候補抗体と類似のEC50値(0.1949nM)を有しているが、当該抗体の結合曲線を観察すると、他の7個の候補抗体と比べ、その曲線の上プラトーが低いことが分かった。これはその速い解離特性によると考えられている(
図2参照)。従って、7個の候補抗体は、10A7よりもCHO細胞表面に発現しているヒトTIGITと結合する能力が高いとも考えられる。
【0205】
実施例4 抗TIGIT抗体のそのリガンドであるCD155に対する遮断
候補抗体のリガンド遮断能力を、フローサイトメトリーの方法を用いて測定した。具体的には、ヒトTIGITを安定的に過剰発現するCHOS細胞poolを構築し、マウスIgG2aFC断片を有する50nMのヒトCD155タンパク質(ACRO、TIT-H5253-1MG)及び異なる濃度の抗体と細胞を4℃で30min同時インキュベートした。PBSで3回洗浄した後、1%濃度のヒツジ抗マウスFC、APCフルオレセイン標識二次抗体(Biolegend、405308)を用いて、細胞上に残存するリガンドCD155を染色した。PBSで再び3回洗浄した後、フローサイトメトリーを用いて対応するチャネル(C6、4チャネル)の蛍光強度中央値を検出した。抗体濃度(nM)の10を底とした対数を横軸、各抗体濃度点に対応する蛍光強度中央値を縦軸としてプロットした。CD155に対する異なる抗体の遮断能力を、曲線のIC50を分析することによって区別した。
【0206】
IgG1を陰性対照抗体、10A7、22G2、31C6を陽性対照抗体とし、親和力成熟前後の候補分子のCD155に対する遮断能力を検出した。
図3及び下記表は、親和力成熟前後の酵母発現抗体のCD155に対する遮断能力(IC50:nM)を示す。
【0207】
【0208】
実験結果から、ほとんどの親和力成熟後の子孫抗体は、対照抗体22G2及び31C6と類似し、10A7よりも高く、その親よりもCD155を遮断する能力が向上していることが分かった。
【0209】
CD155とTIGITの遮断実験には、CHOで発現された高純度抗体7株を用いた。上記の測定方法で行われた実験において、IgG4を陰性対照とし、22G2、31C6及び10A7を陽性対照とした。実験結果から、ADI-30268、ADI-30336、ADI-30278のIC50がそれぞれ0.1402nM、0.1219nM、0.1164nMであり、22G2(0.6069nM)、31C6(0.1659nM)、10A7(0.3252nM)の3つの対照抗体よりも低いことから、これら3株の抗体が対照抗体よりも高いリガンド(CD155)遮断能力を有し、他の4つの候補抗体ADI-30293、ADI-30286、ADI-30288、ADI-30306のIC50がそれぞれ0.2510nM、0.1893nM、0.2238nM、0.2420nMであり、それぞれ対照抗体22G2及び10A7よりも小さいが31C6よりも大きいことから、これら4株の抗体が22G2及び10A7よりも強いが31C6よりも弱いリガンド(CD155)遮断能力を有することが分かった。結果は下記表及び
図4に示される(IC50:nM)。
【0210】
【0211】
実施例5 MOA方法による候補抗体の生物学的活性の検出
抗TIGIT抗体は、TIGITとCD155との結合を遮断することにより、CD155による下流IL2シグナル伝達経路の抑制を解除することができる。本実施例では、Promega社から提供されるMOA検出細胞株(J2201)を用いて、蛍光レポーター遺伝子の発現を検出し、IL2シグナルの活性化状況を反映することにより、TIGITとCD155との結合に対する抗体の抑制作用を検出した。Promegaから提供される標準的な方法に従い、ヒトTIGIT及びIL2プロモーター制御下のルシフェラーゼレポーター遺伝子を安定的に発現するJurkat細胞、ヒトCD155及びT細胞活性化エレメントを安定的に発現するCHO-K1細胞、及び異なる濃度勾配の抗ヒトTIGIT抗体を、37℃の二酸化炭素細胞培養器で同時インキュベートし、6時間後に蛍光シグナルを検出するという手順で当該検出を行った。
【0212】
実験の結果から、親和力成熟後の子孫分子(酵母から直接発現し、純度は約70%)は親分子よりもインビトロ生物学的活性が著しく向上し、ほとんどが22G2及び31C6の2つの対照抗体と類似するレベルに達したことが分かった。結果は下記表及び
図5に示される(EC50:nM)。
【0213】
【0214】
MOA生物学的活性実験には、CHOで発現された高純度抗体7株を用いた。上記の測定方法で行われた実験において、IgG4を陰性対照とし、31C6を陽性対照とした。実験結果から、当該実験における候補抗体ADI-30278のEC50が0.1856nMであり、他の候補抗体及び対照抗体31C6(0.3424nM)よりも小さく、そのより高いインビトロ生物学的活性を示し、ADI-30268、ADI-30286、ADI-30288、ADI-30306のEC50がそれぞれ0.5065nM、0.3963nM、0.3844nM、0.3984nMであり、対照抗体31C6と類似する生物学的活性を示し、ADI-30336及びADI-30293のEC50がそれぞれ1.274nM及び1.624nMであり、その弱い生物学的活性を示すことが分かった。結果は下記表及び
図6に示される(EC50:nM)。
【0215】
【0216】
実施例6 動物のインビボ薬効試験
本実験では、ヒトTIGITノックイン-MC38マウス腫瘍モデルを用いて、抗TIGIT抗体の抗腫瘍活性を研究した。
【0217】
候補分子ADI-30293及びADI-30278の単独投与(10mg/kg)の、ヒトTIGITノックイン-MC38マウスモデルにおける薬力学を研究した。マウス結腸がんMC38細胞(上海和元生物、HYC0116)が雌のTIGITトランスジェニックマウス(Beijing Biocytogen)に移植された。細胞移植後6日目、10日目、13日目、17日目に各群のマウスにそれぞれ抗体を皮下注射し、移植後6日目、10日目、13日目、17日目、21日目、25日目に腫瘍体積を測定し、その後、マウスを安楽死させた。結果は
図7に示される。
【0218】
図7の実験結果を観察し、本出願の抗TIGITモノクローナル抗体ADI-30293及びADI-30278は、Ig4陰性対照抗体と比べ、単独で使用した場合に腫瘍の成長をある程度抑制することが見出された。両方の候補抗体を単独で使用した場合、腫瘍抑制作用は、31C6陽性対照と比べ、31C6と有意な差はなかった。
【0219】
さらに、候補分子ADI-30293及びADI-30278と抗PD1抗体antibody C(WO2017133540A1)との併用投与(10+1mg/kg)の、ヒトTIGITノックイン-MC38マウスモデルにおける薬力学を研究した。
【0220】
マウス結腸がん細胞MC38(上海和元生物、HYC0116)をDMEM培地で培養した。0.2mlのDMEM基礎培地懸濁液中の1×10
6MC38細胞を雌のTIGITトランスジェニックマウス(Shanghai Model Organisms Center)の右側に移植した。腫瘍の大きさと体重を研究サイクル全体で週2回測定し、腫瘍細胞移植8日後、ノギスを使って腫瘍の長さと幅を測定し、腫瘍体積を幅2×長さ/2(mm3)という式に従って計算し、腫瘍体積平均が約71mm3のマウスを6匹ずつランダムに群分けし、腫瘍体積が検出の終点に達した場合、又はマウスの体重が20%以上減少した場合、マウスを安楽死させた。細胞移植後8日目、12日目、15日目、19日目に、各群のマウスにh-IgG(10mg/kg)、antibody C(1mg/kg)及び10mg/kgのanti-TIGIT抗体又はそのアイソタイプ抗体をそれぞれ皮下注射した。終点の腫瘍の平均体積を、細胞移植後29日目に測定し、その後、実験マウスを安楽死させた。結果は
図8に示される。
【0221】
図8の実験結果を観察すると、抗TIGIT抗体ADI-30293と抗PD1抗体antibody Cを併用投与した場合、抗TIGIT抗体又は抗PD1抗体の単独投与の場合よりも強い腫瘍抑制効果を示しており、かつADI-30293+anti-PD1抗体の併用効果が31C6+anti-PD1抗体の併用効果よりも高いことが分かった。同様に、ADI-30278は、31C6+anti-PD1抗体antibody Cとの併用効果よりも、anti-PD1抗体との併用効果が高かった。
【0222】
この研究における全ての群のマウスは、接種後29日目に、マウスの体重に有意な変化はなかった。