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特開2024-63187バイオチップ用基体、バイオチップ、バイオチップの製造方法およびその保存方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063187
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】バイオチップ用基体、バイオチップ、バイオチップの製造方法およびその保存方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/545 20060101AFI20240501BHJP
【FI】
G01N33/545
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024033499
(22)【出願日】2024-03-06
(62)【分割の表示】P 2019541037の分割
【原出願日】2018-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2017172453
(32)【優先日】2017-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017172454
(32)【優先日】2017-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.BRIJ
3.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100135943
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 規樹
(72)【発明者】
【氏名】澤野 恵梨香
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 雄希
(72)【発明者】
【氏名】田代 英夫
(72)【発明者】
【氏名】田代 朋子
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、バイオチップ用基体、バイオチップ、バイオチップの製造方法、およびその保存方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、親水性の反応エリアを有する基体と、前記反応エリアに配置された、生体物質を含む被固定化物質のスポットとを有し、前記反応エリアは、その内側に液体を保持することが可能な境界で包囲されており、前記スポットは増粘剤および/または界面活性剤をさらに含む、バイオチップおよびその製造方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性の反応エリアを含む樹脂製の表面を有する、バイオチップ用基体。
【請求項2】
前記反応エリアが、前記反応エリア内に液体を保持することが可能な境界で包囲されており、前記樹脂の炭素に関わる結合が切断され、当該切断箇所が酸素と結合して生成した極性を有する官能基で覆われている請求項1に記載のバイオチップ用基体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のバイオチップ用基体の前記反応エリアに、生体物質を含む被固定化物質が固定されているバイオチップ。
【請求項4】
被固定化物質が、前記反応エリアに存在する、増粘剤および/または界面活性剤を含むスポット中に存在する、請求項3に記載のバイオチップ。
【請求項5】
親水性の反応エリアを有する基体と、前記反応エリアに配置された、生体物質を含む被固定化物質のスポットとを有し、
前記反応エリアは、その内側に液体を保持することが可能な境界で包囲されており、
前記スポットは増粘剤および/または界面活性剤をさらに含む、バイオチップ。
【請求項6】
前記被固定化物質は被固定化物質を保持するコート層を介して前記基体上に固定されている、請求項5に記載のバイオチップ。
【請求項7】
前記コート層が水溶性ポリマーからなる請求項6に記載のバイオチップ。
【請求項8】
前記水溶性ポリマーがポリエチレングリコールメタクリレートである請求項7に記載のバイオチップ。
【請求項9】
前記被固定化物質が、1分子中に少なくとも2個の光反応性基を有する光架橋剤により前記反応エリアに固定されている請求項3~8のいずれか1項に記載のバイオチップ。
【請求項10】
前記被固定化物質がペプチド、核酸、糖鎖またはこれらより選ばれる1種類以上の混合物であることを特徴とする請求項3~9のいずれか1項に記載のバイオチップ。
【請求項11】
被固定化物質が固定化担体に固定化され、被固定化物質を固定化した固定化担体が反応エリアに固定されている、請求項3~10のいずれか1項に記載のバイオチップ。
【請求項12】
前記増粘剤がジェランガム、キサンタンガム、カードラン、プルラン、グァーガム誘導体、ローカストビーンガム、カラギーナン、ペクチン、タマリンドガム、サイリウムシードガム、デキストラン、グリセリン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルプロピルセルロース、ラノリン、メチルセルロース、ワセリン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシルビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、デキストリン酸脂肪エステル、イヌリン酸脂肪エステル、またはこれらより選ばれる2種類以上の混合物である、請求項4~11のいずれか1項に記載のバイオチップ。
【請求項13】
前記界面活性剤が、TritonX-100、Tween20、Tween80、またはこれらより選ばれる2種類以上の混合物である請求項4~12のいずれか1項に記載のバイオチップ。
【請求項14】
前記基体がポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂のいずれかの樹脂材料であることを特徴とする請求項3~13のいずれか1項に記載のバイオチップ。
【請求項15】
バイオチップ用基体の樹脂製の表面を親水化処理する工程
を含む、請求項1または2に記載のバイオチップ用基体の製造方法。
【請求項16】
前記親水化処理が、UV-オゾン処理、プラズマ処理、コロナ処理およびフレーム処理から選択される請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
反応エリアを包囲する境界を形成する工程をさらに含む、請求項15または16に記載の製造方法。
【請求項18】
請求項1または2に記載のバイオチップ用基体の反応エリアに、被固定化物質と、1分子中に少なくとも2個の光反応性基を有する光架橋剤と、増粘剤および/または界面活性剤と、を含む液体を格子目状のスポットとして付着させる工程と、
反応エリアに付着させた被固定化物質を固定化する工程と、
を含む請求項3~4、9~14のいずれか1項に記載のバイオチップを製造する方法。
【請求項19】
請求項5~14のいずれか1項に記載のバイオチップの製造方法であって、
親水性の反応エリアを形成する工程と、
前記反応エリアに生体物質を含む前記被固定化物質のスポットを形成する工程と、
を含み、前記スポットが増粘剤および/または界面活性剤を含む、方法。
【請求項20】
前記スポットを形成する工程が、
被固定化物質と、1分子中に少なくとも2個の光反応性基を有する光架橋剤と、増粘剤および/または界面活性剤と、を含む液体を基体上に格子目状のスポットとして付着させる工程と、
基体上に付着させた被固定化物質を固定化する工程と、
を含む請求項19に記載の製造方法。
【請求項21】
請求項3~14のいずれか1項に記載のバイオチップを、以下の(a)~(d)の少なくとも1以上の様式で包装した包装体:
(a)真空包装する、
(b)不活性ガスと共に包装する、
(c)脱酸素剤と共に包装する、および
(d)脱酸素機能を有する包材により包装する。
【請求項22】
脱湿剤が封入されている、請求項21に記載の包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基体に固定された生体物質等を利用して、生化学反応の検出や分析等に用いるバイオチップ、バイオチップに用いる基体、バイオチップの製造方法およびバイオチップの保存方法に関し、特に、アレルギー検査や腫瘍マーカー検査等に用いられる抗原抗体反応を利用した検査診断用チップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、抗体または抗原をプレート上に固定化した、免疫測定のためのイムノプレートや、核酸をチップ上に固定化したDNAチップ等が広く用いられている。これらのチップでは基体表面にスポット状に被固定化物質であるタンパク質や核酸等の生体物質をマイクロアレイ状に固定化している。
【0003】
基体上にタンパク質等を固定化する方法として、アクリル樹脂基板上にポリエチレングリコール部分子量350のポリエチレングリコールモノメタクリレートのビニル重合体を塗布して得たポリマー層にBSAをスポットし、4,4’-ジアジドスチルベン-2,2’-ジスルホン酸ナトリウムによる光架橋反応でBSAを基板に固定化する方法(特許文献1)や、アクリル樹脂基板上にポリエチレングリコール部分子量350のポリエチレングリコールモノメタクリレートのビニル重合体を塗布して得た膜に、N-[4-[3-(トリフルオロメチル)-3H-ジアジリン-3-イル]フェニル]オキシランおよびペプチドをスポットしてペプチドを固定化する方法(特許文献2)が開示されている。
【0004】
一方、生化学反応の検出や分析を行う方法としては、クロムおよび金を蒸着させたガラススライドに結合させたPEG-OHアルカンチオールに、8-AOTおよびSSMCCによりマレイミド基をスポット状に導入し、これを介してペプチドをスポット状に配列させて固定化したアレイを用いて、検査試料をSPR装置に流すことにより、cSrcキナーゼのリン酸化検出する方法が開示されている(特許文献3)。
【0005】
特許文献4には、ダイヤモンド/ダイヤモンドライクカーボンをコーティングしたシリコン製またはステンレス製の微小なチップに活性化処理を施し、そこにアレルゲンをスポットした後、チップ上に残存する未反応基を不活性化させ、さらにBSAでブロッキングしてから、検査試料と反応させる方法が開示されている。
【0006】
少量の検査試料で検出できるチップとして、基材に複数の反応室(ウェル)と、各前記ウェルに繋がる流路と、前記流路に溶液を注入するための注入口とを備えた、複数の検査試料の解析や少量の検査試料での反応が可能なチップが開示されている(特許文献5)。また、液状の検査試料を収容可能な収容部に配置された、検出対象の成分と反応する成分が固定されたスポットと、検査試料と洗浄液とを遠心力により排出する排液部と、分離部とを備えたチップが開示されている(特許文献6)。
【0007】
また、タンパク質をプレート上に固定化したプロテインチップなどは一般にDNAチップの延長線上に位置付けられて開発がなされているため、ガラス基板上にタンパク質、またはそれを捕捉する分子等(被固定化物質)をチップ表面に固定化する検討がなされている(特許文献7)。
【0008】
被固定化物質を基板上に固定化した後、該表面上で他の生理活性物質(被検出物質:タンパク質や抗原等)と反応させ、さらに、標識されたタンパク質を反応させ最終的に検出機等で検出する場合、捕捉分子が固定されていない部分に該分子以外の被検出物質が固定されると、検出時にノイズとなり信号対雑音比(S/N比)を低下させる原因となり、検出精度を低下させる。特に、臨床診断等で用いられる血清や血漿においては、夾雑タンパク質の非特異的吸着が多くノイズが高く出てしまい、S/N比が低くなる傾向にあった。
【0009】
このため、チップ表面へ抗体を固定化した後に抗原および二次抗体の非特異的吸着を防止するため、非特異的吸着防止剤のコーティングが行われる。例えば、アクリル樹脂基板上にポリエチレングリコール部分子量350のポリエチレングリコールモノメタクリレートのビニル重合体を塗布する方法(特許文献2)や、クロムおよび金を蒸着させたガラススライドにPEG-OHアルカンチオールを結合させる方法(特許文献3)が開示されている。
【0010】
一方、飽和環状ポリオレフィン樹脂基板上に、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、n-シクロヘキシルメタクリレート、N-[2-[2-[2-(t-ブトキシカルボニルアミノオキシアセチルアミノ)エトキシ]エトキシ]エチル]-メタクリルアミドから構成されるポリマーを含む層を導入して、表面にアルデヒド基またはマレイミド基を設け、ペプチドを固定化した後に、該基板表面に残っているアルデヒド基またはマレイミド基を失活させることにより、吸着防止剤をコーティングすることなく、被検出物質の非特異的な吸着・結合を抑制した生理活性物質固定化用基板が開示されている(特許文献8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006-322708
【特許文献2】特開2010-101661
【特許文献3】特開2007-24729
【特許文献4】特許第5322240号
【特許文献5】特許第4962658号
【特許文献6】特開2016-6414
【特許文献7】特開2001-116750
【特許文献8】特開2010-117189
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1~2の方法は、被固定化物質の固定化部位を制御できないため、被検出物質の検出効率が低く、さらに均一なスポットが得られにくく検出感度が高くないという問題があった。また、特許文献3の方法は少量の検査試料で検査することが難しいという問題がある。一方、特許文献4のチップは、少量の検査試料で検査することが可能かもしれないが、ダイヤモンド/ダイヤモンドライクカーボンをコーティングした特殊な基板が必要となるうえ、チップに活性化処理を施した後、アレルゲンをスポットし、その後チップ上に残存する未反応基を不活性化させ、さらにBSAでブロッキングしなければならず、チップの調製が煩雑である。特許文献5~6のチップは複雑な形状であるために、チップの成型工程が煩雑になるという課題があり、さらに製造不良が生じやすくなるという懸念があった。
【0013】
また、特許文献2~3の方法は、基体と被検出物質との非特異的吸着を防止し、生体物質を固定化するためのコート層を基体上に形成する工程が必要となるが、基体上に前記コート層を形成する工程は、手間やコストがかかるうえ、不良品が生じやすいことから必ずしも満足できるものではない。一方、特許文献8の基板は非特異的吸着を防止するコート層は形成していないが、被固定化物質を固定化するための層を形成し、被固定化物質を固定化後に疎水処理を施して非特異的吸着を防止しており、工程としては特許文献2~3よりも複雑になっている。
【0014】
さらに、これらのチップは生体物質を固定化しているために、チップの保存には冷蔵または冷凍が必要であった。
このため、以上のような従来技術の問題点が改善されたバイオチップが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0015】
一態様において、本発明は、例えば以下の通りである。
[1-1] 親水性の反応エリアを含む樹脂製の表面を有する、バイオチップ用基体。
[1-2] 前記反応エリアが、前記反応エリア内に液体を保持することが可能な境界で包囲されており、前記樹脂の炭素に関わる結合が切断され、当該切断箇所が酸素と結合して生成した極性を有する官能基で覆われている[1-1]に記載のバイオチップ用基体。
[1-3] [1-1]または[1-2]に記載のバイオチップ用基体の前記反応エリアに、生体物質を含む被固定化物質が固定されているバイオチップ。
[1-4] 被固定化物質が、前記反応エリアに存在する、増粘剤および/または界面活性剤を含むスポット中に存在する、[1-3]に記載のバイオチップ。
【0016】
[1-5] 親水性の反応エリアを有する基体と、前記反応エリアに配置された、生体物質を含む被固定化物質のスポットとを有し、
前記反応エリアは、その内側に液体を保持することが可能な境界で包囲されており、
前記スポットは増粘剤および/または界面活性剤をさらに含む、バイオチップ。
[1-6] 前記被固定化物質は被固定化物質を保持するコート層を介して前記基体上に固定されている、[1-5]に記載のバイオチップ。
[1-7] 前記コート層が水溶性ポリマーからなる[1-6]に記載のバイオチップ。
[1-8] 前記水溶性ポリマーがポリエチレングリコールメタクリレートである[1-7]に記載のバイオチップ。
【0017】
[1-9] 前記被固定化物質が、1分子中に少なくとも2個の光反応性基を有する光架橋剤により前記反応エリアに固定されている[1-3]~[1-8]のいずれか1項に記載のバイオチップ。
[1-10] 前記被固定化物質がペプチド、核酸、糖鎖またはこれらより選ばれる1種類以上の混合物であることを特徴とする[1-3]~[1-9]のいずれか1項に記載のバイオチップ。
[1-11] 被固定化物質が固定化担体に固定化され、被固定化物質を固定化した固定化担体が反応エリアに固定されている、[1-3]~[1-10]のいずれか1項に記載のバイオチップ。
【0018】
[1-12] 前記増粘剤がジェランガム、キサンタンガム、カードラン、プルラン、グァーガム誘導体、ローカストビーンガム、カラギーナン、ペクチン、タマリンドガム、サイリウムシードガム、デキストラン、グリセリン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルプロピルセルロース、ラノリン、メチルセルロース、ワセリン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシルビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、デキストリン酸脂肪エステル、イヌリン酸脂肪エステル、またはこれらより選ばれる2種類以上の混合物である、[1-4]~[1-11]のいずれか1項に記載のバイオチップ。
[1-13] 前記界面活性剤が、TritonX-100、Tween20、Tween80、またはこれらより選ばれる2種類以上の混合物である[1-4]~[1-12]のいずれか1項に記載のバイオチップ。
[1-14] 前記基体がポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂のいずれかの樹脂材料であることを特徴とする[1-3]~[1-13]のいずれか1項に記載のバイオチップ。
【0019】
[1-15] バイオチップ用基体の樹脂製の表面を親水化処理する工程
を含む、[1-1]または[1-2]に記載のバイオチップ用基体の製造方法。
[1-16] 前記親水化処理が、UV-オゾン処理、プラズマ処理、コロナ処理およびフレーム処理から選択される[1-15]に記載の製造方法。
[1-17] 反応エリアを包囲する境界を形成する工程をさらに含む、[1-15]または[1-16]に記載の製造方法。
[1-18] [1-1]または[1-2]に記載のバイオチップ用基体の反応エリアに、被固定化物質と、1分子中に少なくとも2個の光反応性基を有する光架橋剤と、増粘剤および/または界面活性剤と、を含む液体を格子目状のスポットとして付着させる工程と、
反応エリアに付着させた被固定化物質を固定化する工程と、
を含む[1-3]~[1-4]、[1-9]~[1-14]のいずれか1項に記載のバイオチップを製造する方法。
【0020】
[1-19] [1-5]~[1-14]のいずれか1項に記載のバイオチップの製造方法であって、
親水性の反応エリアを形成する工程と、
前記反応エリアに生体物質を含む前記被固定化物質のスポットを形成する工程と、
を含み、前記スポットが増粘剤および/または界面活性剤を含む、方法。
[1-20] 前記スポットを形成する工程が、
被固定化物質と、1分子中に少なくとも2個の光反応性基を有する光架橋剤と、増粘剤および/または界面活性剤と、を含む液体を基体上に格子目状のスポットとして付着させる工程と、
基体上に付着させた被固定化物質を固定化する工程と、
を含む[1-19]に記載の製造方法。
【0021】
[1-21] [1-3]~[1-14]のいずれか1項に記載のバイオチップを、以下の(a)~(d)の少なくとも1以上の様式で包装した包装体:
(a)真空包装する、
(b)不活性ガスと共に包装する、
(c)脱酸素剤と共に包装する、および
(d)脱酸素機能を有する包材により包装する。
[1-22] 脱湿剤が封入されている、[1-21]に記載の包装体。
【0022】
別の態様において、本発明は、例えば以下の通りである。
[2-1] 反応エリアを有する基体と、前記反応エリアに配置された、生体物質を含む被固定化物質のスポットとを有し、
前記反応エリアは、その内側に液体を保持することが可能な境界で包囲されており、
前記被固定化物質は被固定化物質を保持するコート層を介して前記基体上に固定されているバイオチップ。
[2-2] 前記スポットが増粘剤および/または界面活性剤をさらに含み、前記被固定化物質が、1分子中に少なくとも2個の光反応性基を有する光架橋剤により前記基体上に固定されている[2-1]に記載のバイオチップ。
[2-3] 前記被固定化物質がペプチド、核酸、糖鎖またはこれらより選ばれる1種類以上の混合物であることを特徴とする[2-1]または[2-2]に記載のバイオチップ。
[2-4] 被固定化物質が固定化担体に固定化され、被固定化物質を固定化した固定化担体が基体上に固定されている、[2-1]~[2-3]のいずれか1項に記載のバイオチップ。
【0023】
[2-5] 前記増粘剤がジェランガム、キサンタンガム、カードラン、プルラン、グァーガム誘導体、ローカストビーンガム、カラギーナン、ペクチン、タマリンドガム、サイリウムシードガム、デキストラン、グリセリン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルプロピルセルロース、ラノリン、メチルセルロース、ワセリン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシルビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、デキストリン酸脂肪エステル、イヌリン酸脂肪エステル、またはこれらより選ばれる2種類以上の混合物である、[2-2]~[2-4]のいずれか1項に記載のバイオチップ。
[2-6] 前記界面活性剤が、TritonX-100、Tween20、Tween80、またはこれらより選ばれる2種類以上の混合物である[2-2]~[2-5]のいずれか1項に記載のバイオチップ。
[2-7] 前記コート層が水溶性ポリマーからなる[2-1]~[2-6]のいずれか1項に記載のバイオチップ。
[2-8] 前記水溶性ポリマーがポリエチレングリコールメタクリレートである[2-7]に記載のバイオチップ。
【0024】
[2-9] 前記基体が光透過性材料で形成されていることを特徴とする[2-1]~[2-8]のいずれか1項に記載のバイオチップ。
[2-10] 前記基体がポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂のいずれかの樹脂材料であることを特徴とする[2-9]に記載のバイオチップ。
[2-11] [2-1]~[2-10]のいずれか1項に記載のバイオチップの製造方法であって、前記反応エリアを形成する工程と、
前記基体上の前記反応エリアに前記被固定化物質を保持するためのコート層を設ける工程と、
前記コート層に生体物質を含む前記被固定化物質のスポットを形成する工程と、
を有する方法。
[2-12] 前記スポットを形成する工程が、被固定化物質と、1分子中に少なくとも2個の光反応性基を有する光架橋剤と、増粘剤および/または界面活性剤と、を含む液体を基体上に格子目状のスポットとして付着させる工程と、
基体上に付着させた被固定化物質を固定化する工程と、
を含む[2-11]に記載の製造方法。
【0025】
[2-13] [2-1]~[2-10]のいずれか1項に記載のバイオチップを、以下の(a)~(d)の少なくとも1以上の様式で包装した包装体:
(a)真空包装する、
(b)不活性ガスと共に包装する、
(c)脱酸素剤と共に包装する、および
(d)脱酸素機能を有する包材により包装する。
[2-14] 脱湿剤がさらに封入された[2-13]に記載の包装体。
[2-15] [2-1]~[2-10]のいずれか1項に記載のバイオチップを、以下の(a)~(d)の少なくとも1以上の様式で保存する工程を含む、バイオチップの保存方法
(a)包装に入れた後に包装内を真空にして封入して保存する、
(b)包装に入れて不活性ガスを置換して封入して保存する、
(c)脱酸素剤と共に包装に封入して保存する、および
(d)脱酸素機能を有する包材により包装して保存する。
[2-16] バイオチップが脱湿剤とともに保存される、[2-15]に記載の保存方法。
【0026】
別の態様において、本発明は、例えば以下の通りである。
[3-1] 親水性の反応エリアを含む樹脂製の表面を有する、バイオチップ用基体。
[3-2] 前記反応エリアが、前記反応エリア内に液体を保持することが可能な境界で包囲されている、[3-1]に記載のバイオチップ用基体。
[3-3] 光透過性材料で形成されている、[3-1]または[3-2]に記載のバイオチップ用基体。
[3-4] 前記反応エリアが、前記樹脂の炭素に関わる結合が切断され、当該切断箇所が酸素と結合して生成した極性を有する官能基で覆われている[3-1]~[3-3]のいずれか1項に記載のバイオチップ用基体。
[3-5] [3-1]~[3-4]のいずれか1項に記載のバイオチップ用基体の前記反応エリアに、生体物質を含む被固定化物質が固定されているバイオチップ。
[3-6] 被固定化物質が光架橋剤により前記反応エリアに固定されている、[3-5]に記載のバイオチップ。
[3-7] 被固定化物質が、前記反応エリアに存在する、増粘剤および/または界面活性剤を含むスポット中に存在する、[3-5]または[3-6]に記載のバイオチップ。
[3-8] 前記被固定化物質が固定化担体に固定化されている、[3-5]~[3-7]のいずれか1項に記載のバイオチップ。
【0027】
[3-9] [3-1]~[3-4]のいずれか1項に記載のバイオチップ用基体の表面を親水化処理する工程
を含む、バイオチップ用基体の製造方法。
[3-10] 前記親水化処理が、UV-オゾン処理、プラズマ処理、コロナ処理およびフレーム処理から選択される[3-9]に記載の製造方法。
[3-11] 反応エリアを包囲する境界を形成する工程をさらに含む、[3-9]または[3-10]に記載の製造方法。
[3-12] [3-1]~[3-4]のいずれか1項に記載のバイオチップ用基体の反応エリアに、被固定化物質と、1分子中に少なくとも2個の光反応性基を有する光架橋剤と、増粘剤および/または界面活性剤と、を含む液体を格子目状のスポットとして付着させる工程と、
反応エリアに付着させた被固定化物質を固定化する工程と、
を含む[3-5]~[3-8]のいずれか1項に記載のバイオチップを製造する方法。
【0028】
[3-13] [3-5]~[3-8]のいずれか1項に記載のバイオチップを、以下の(a)~(d)の少なくとも1以上の様式で包装した包装体:
(a)真空包装する、
(b)不活性ガスと共に包装する、
(c)脱酸素剤と共に包装する、および
(d)脱酸素機能を有する包材により包装する。
[3-14] 脱湿剤が封入されている、[3-13]に記載の包装体。
[3-15] [3-5]~[3-8]のいずれか1項に記載のバイオチップを、以下の(a)~(d)の少なくとも1以上の様式で保存する工程を含む、バイオチップの保存方法:
(a)包装に入れた後に包装内を真空にして封入して保存する、
(b)包装に入れて不活性ガスを置換して封入して保存する、
(c)脱酸素剤と共に包装に封入して保存する、および
(d)脱酸素機能を有する包材により包装して保存する。
[3-16] バイオチップが脱湿剤と共に保存される、[3-15]に記載の保存方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明のバイオチップは、以下の1または2以上の効果を有する。
(1)少量の検査試料で分析が可能である。
(2)被固定化物質の結合部位を制御することができる。
(3)スポット内の被固定化物質の分布の均一性が高い。
(4)S/N比が優れている。
(5)検出感度が優れている。
(6)高速分析が可能である。
(7)ポリマー等のコート層をコーティングすることなく、被固定化物質を固定化することが可能である。
(8)発光強度に優れる。
(9)被検出物質の非特異的吸着を抑制することができる。
(10)感度が高い。
(11)常温保存が可能である。
(12)製造工程が簡易である。
(13)分析費用が安価である。
(14)取り扱いが容易である。
(15)ポイントオブケアテスト解析への適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は本発明のバイオチップの一様態を示した説明図である。(a)は平面図であり、(b)は(a)のA-A’線における断面図である。
図2図2は本発明のバイオチップの別の様態を示した説明図である。(a)は平面図であり、(b)は(a)のA-A’線における断面図である。
図3図3は本発明のバイオチップの別の様態を示した説明図である。(a)は平面図であり、(b)は(a)のA-A’線における断面図である。
図4図4は本発明のバイオチップの別の様態を示した説明図である。(a)は平面図であり、(b)は(a)のA-A’線における断面図である。
図5図5は例3のバイオチップの各スポットの顕微鏡写真を示した写真図である。各写真左上の番号はスタンプ液の番号を示す。
図6図6は、例4におけるバイオチップを用いた検出の発光強度の測定結果を示した図である。左はチップの各スポットの発光強度を示した写真図、右はスポット番号を示す。同じ番号のスポットには、同じスタンプ液が適用してある。
図7図7は、図6の「1」で示されたスポットのレーザー顕微鏡による観察結果を示した図である。左は平面像、中央は3D画像、右はプロファイルグラフである。
図8図8は、図6の「2」で示されたスポットのレーザー顕微鏡による観察結果を示した図である。左は平面像、中央は3D画像、右はプロファイルグラフである。
図9図9は、図6の「3」で示されたスポットのレーザー顕微鏡による観察結果を示した図である。左は平面像、中央は3D画像、右はプロファイルグラフである。
図10図10は、図6の「4」で示されたスポットのレーザー顕微鏡による観察結果を示した図である。左は平面像、中央は3D画像、右はプロファイルグラフである。
図11図11は、図6の「5」で示されたスポットのレーザー顕微鏡による観察結果を示した図である。左は平面像、中央は3D画像、右はプロファイルグラフである。
図12図12は、図6の「6」で示されたスポットのレーザー顕微鏡による観察結果を示した図である。左は平面像、中央は3D画像、右はプロファイルグラフである。
図13図13は、図6の「7」で示されたスポットのレーザー顕微鏡による観察結果を示した図である。左は平面像、中央は3D画像、右はプロファイルグラフである。
図14図14は、図6の「8」で示されたスポットのレーザー顕微鏡による観察結果を示した図である。左は平面像、中央は3D画像、右はプロファイルグラフである。
図15図15は、例5におけるバイオチップを用いた検出の発光強度の測定結果を示した図である。左はチップの各スポットの発光強度を示した写真図、右はスポット番号を示す。同じ番号のスポットには、同じスタンプ液が適用してある。
図16】保存例1~3のバイオチップを用いた検出の発光強度の測定結果を示した図である。左側および右上はチップの各スポットの発光強度を示した写真図、右下はスポット番号を示す。同じ番号のスポットには、同じスタンプ液が適用してある。
【0031】
図17図17は、バイオチップ用基体1~7を用いて作製したバイオチップで検出した発光強度の測定結果を示した図である。
図18図18は、保存例4~5のバイオチップを用いた検出の発光強度の測定結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、各図において、同様または類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。また、以下に説明する材料、構成等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
本明細書において引用した全ての文献、および公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込むものとする。また、本明細書は、いずれも2017年9月7日に出願された本願優先権主張の基礎となる2件の日本国特許出願(特願2017-172453号および特願2017-172454号)の明細書および図面に記載の内容を包含する。
【0033】
1.バイオチップ
本発明のバイオチップは、少なくともバイオチップ用基体と被固定化物質とから構成され、基体上面に検査試料を生化学反応させる反応エリアを有している。本発明のバイオチップの一態様は、親水性の反応エリアを含む表面、好ましくは親水性の反応エリアを含む樹脂製の表面を有するバイオチップ用基体の前記反応エリアに、生体物質を含む被固定化物質が固定されているバイオチップである。本発明のバイオチップの別の態様は、反応エリア、好ましくは親水性の反応エリアを有する基体と、前記反応エリアに配置された、生体物質を含む被固定化物質のスポットとを有し、前記反応エリアは、その内側に液体を保持することが可能な境界で包囲されているバイオチップである。
本発明のバイオチップを適用可能な検査試料としては特に限定されないが、アレルギーや腫瘍診断等の対象となる血液、血漿、血清、唾液、尿、リンパ液、脳脊髄液、関節液、鼻汁、腹水、眼房水、涙液などの体液、喀痰、生検試料などを挙げることができる。
【0034】
本発明のバイオチップ用の基体としては、検査試料や生化学反応に過度の悪影響を与えないものであれば特に制限はないが、例えば、樹脂材料等を使用することができる。樹脂材料としては、限定されずに、例えば、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を使用することができる。特にポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリル、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマーなどの光透過性樹脂材料を用いれば、良好な可視光透過性を確保することができる。ポリプロピレンとしては、限定されずに、例えば、ホモポリプロピレンやポリプロピレンとポリエチレンとのランダム共重合体を使用することができる。また、アクリルとしては、限定されずに、例えば、ポリメタクリル酸メチル、または、メタクリル酸メチルとその他のメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、スチレンなどのモノマーとの共重合体を使用することができる。なお本発明における「透明」および「光透過性」とは、検出光の波長領域での平均透過率が70%以上であるものとする。可視光領域(波長350~780nm)で光透過性材料の材料を用いれば、チップ内での試料状態の視認が容易であるが、これに限られるわけではない。基体の厚さとしては特に制限されないが、製造工程である程度の非変形性を有することが望ましいことから、0.3mm~3.0mmが好ましく、0.5mm~1.5mmがより好ましく、0.7mm~1.0mmが特に好ましい。
【0035】
一部の態様において、本発明のバイオチップ用基体に用いられる樹脂材料は疎水性である。一部の態様において、前記樹脂材料は水不溶性のポリマーから形成される。一部の態様において、前記樹脂材料はデキストラン、ポリエチレングリコールまたはその誘導体を含まない。
【0036】
前記基体に親水化処理を施すことができる。親水化処理により、前記基体への非特異的吸着を防止し、かつ、基体と被固定化物質とを強固に固定化することができる。本明細書でいう固定化とは、被固定化物質と基体表面との間で共有結合などの強い化学結合が形成されていることをいい、水素結合などの弱い化学結合(化学吸着ともいう)やファンデルワールス力などによる物理吸着とは区別される。また、本明細書でいう非特異的吸着とは、基体表面の被固定化物質が固定化されていない領域へ、被固定化物質および/または被固定化物質と特異的に反応する物質が吸着することをいう。被固定化物質と特異的に反応する物質の具体例としては、例えば、被固定化物質が抗原である場合には抗体が、被固定化物質が抗体である場合には抗原がそれぞれ挙げられる。
【0037】
親水化処理は、基体表面の1または複数の部分に行ってもよいし、基体表面全体に行ってもよい。基体表面の部分を親水化処理する場合、例えば、基体の上表面の全体または、基体の上表面の1または複数の部分に行ってもよい。親水化処理する面積は、基体の総表面積、または、基体上面の総表面積の10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上などであってよい。また、親水化処理を施される部分は、種々の形状を有していてもよい。例えば、親水化処理を施される部分は、円形、楕円形、多角形などの形状を有していてもよく、それにより、例えば、基体表面に複数の円形の親水性部分をスポット状に形成することが可能となる。
【0038】
親水化処理としては特に限定されないが、親水性をもつシリカなど無機材料や界面活性剤による表面のコーティング、プラズマ処理やUV-オゾン処理、コロナ処理やフレーム処理などの化学的な親水化処理、微細なナノ構造を物理的に形成することによる親水性の付与(WO2011/024947)などを挙げることができる。基体が樹脂製の場合、樹脂表面の分子の化学結合を切断し、樹脂の種類に応じて極性を有する官能基、例えば、OH(水酸基)、CO(カルボニル基)、COOH(カルボキシル基)、メトキシ基、ぺルオキシド基、極性エーテル基等を生成させることができるプラズマ処理やUV-オゾン処理、コロナ処理やフレーム処理などによる化学的な親水化処理がより好ましく、UV-オゾン処理がとくに好ましい。また、一態様において、本発明における親水化処理は、ポリマー、特に水溶性ポリマーによるコート層の形成を伴わない。したがって、この態様における基体は親水性の表面を有するが、コート層は有しない。なお本発明における「親水性」とは、静的接触角測定法(液適法)で測定した接触角(θ/2法)において、1°以上80°未満であり、5°以上75°未満であることが好ましく、10°以上70°未満であることがより好ましい。
【0039】
一態様において、本発明のバイオチップ用基体は、親水性の反応エリアを含む表面、好ましくは親水性の反応エリアを含む樹脂製の表面を有する。反応エリアは、その上に被固定化物質を固定化し、検出対象物質と反応させる基体上の領域を意味する。反応エリアは、基体表面の一部であっても全体であってもよい。反応エリアが基体表面の一部である場合、反応エリア以外の基体表面は親水性であっても疎水性であってもよい。反応エリアが基体表面の一部である場合、反応エリアは、種々の形状、例えば、円形、楕円形、多角形またはこれらの組合せであってよい。反応エリアは、連続していても不連続であってもよい。例えば、反応エリアは、複数の、互いに接触しないスポットを形成していてもよい。反応エリアは、その内側に液体を保持することが可能な境界で包囲されていてもよい。また、反応エリアは、基体表面を形成する樹脂の炭素に関わる結合が切断され、当該切断箇所が酸素と結合して生成した極性を有する官能基で覆われていてもよい。かかる官能基としては、限定されずに、例えば、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、メトキシ基、ぺルオキシド基、極性エーテル基等が挙げられる。
【0040】
基体上に、非特異的吸着を防止し、被固定化物質を固定化するためのコート層を設けることができる。コート層を介して基体上に物質を固定化することにより、非特異的吸着を防止し、検出感度を高めることができる。さらに、コート層を介して基体上に被固定化物質を固定化する手法により、ポリマー、被固定化物質および光架橋剤を混合して基体上に塗布する方法に比べ、最表層に露出する被固定化物質量が多いため、S/N比および検出感度の優れたバイオチップ用基体を得ることができる。
【0041】
前記コート層は、被固定化物質の固定化の促進、および/または、非特異的吸着の抑制を可能にするものであれば特に限定されず、例えば、種々のポリマーで構成することができる。ポリマーのうち、水溶性ポリマーが好ましい。水溶性のポリマーを使用することで、被固定化物質を変性させることのある、水やアルコール以外の非水系溶媒の使用を回避することができる。そこで、本発明では、被固定化物質の変性防止のために、水溶性ポリマーを使用することが好ましい。さらに、水溶性ポリマーは、非特異的吸着抑制効果にも優れるという利点がある。ここで、「水溶性」とは、例えば、前記ポリマーの水に対する溶解度(水100gに溶解するグラム数)が、5以上であることをいう。
【0042】
前記ポリマーの数平均分子量は、特に限定されず、通常、350~500万程度である。ポリマーの分子量を500~数10万程度とすることで、ポリマー同士の架橋数を適度に維持することができ、被固定化物質と、被固定化物質との反応に供される物質(光架橋剤等)との反応に進めることができる。
【0043】
水溶性ポリマーとしては、ホスホリルコリン含有ポリマーなどの両極性ポリマーおよびノニオン性ポリマーが挙げられる。ノニオン性ポリマーとしては、ポリエチレングリコール(PEG)やポリプロピレングリコールのようなポリアルキレングリコール;ビニルアルコール、メチルビニルエーテル、ビニルピロリドン、ビニルオキサゾリドン、ビニルメチルオキサゾリドン、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、N-ビニルサクシンイミド、N-ビニルホルムアミド、N-ビニル-N-メチルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニル-N-メチルアセトアミド、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、メチロールアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、アクリロイルピロリジン、アクリロイルピペリジン、スチレン、クロロメチルスチレン、ブロモメチルスチレン、酢酸ビニル、メチルメタクリレート、ブチルアクリレート、メチルシアノアクリレート、エチルシアノアクリレート、n-プロピルシアノアクリレート、イソプロピルシアノアクリレート、n-ブチルシアノアクリレート、イソブチルシアノアクリレート、tert-ブチルシアノアクリレート、グリシジルメタクリレート、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、tert-ブチルビニルエーテルなどのモノマー単位を単独か混合物を構成成分とするノニオン性のビニル系高分子;ゼラチン、カゼイン、コラーゲン、アラビアガム、キサンタンガム、トラガントガム、グァーガム、プルラン、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、ヒアルロン酸、キトサン、キチン誘導体、カラギーナン、澱粉類(カルボキシメチルデンプン、アルデヒドデンプン)、デキストリン、サイクロデキストリン等の天然高分子、メチルセルロース、ビスコース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースのような水溶性セルロース誘導体等の天然高分子を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。また、これらのポリマーをベースにした光架橋型水溶性ポリマーの市販品、例えばポリビニルアルコールをベースにした東洋合成工業社製「BIOSURFINE-AWP」などを使用することも可能である。これらのうち、特に好ましいものは、ポリエチレングリコール系ポリマーであり、さらにはポリエチレングリコール(メタ)アクリレートのビニル重合体である。
【0044】
コート層と、前記基体との接着性を高めるために基体に表面処理を施すことができる。表面処理としては特に限定されないが、例えば、基体の樹脂表面の分子の化学結合を切断し、樹脂の種類に応じて親水性の官能基OH(水酸基)、CO(カルボニル基)、COOH(カルボキシル基)、メトキシ基、ぺルオキシド基、極性エーテル基等を生成させる処理、例えば、プラズマ処理やUV-オゾン処理、コロナ処理やフレーム処理などが挙げられる。
【0045】
本発明のバイオチップは、少なくとも上記基体と被固定化物質とから構成され、基体上面に検査試料を生化学反応させる反応エリアを有している。被固定化物質は生体物質を含み、生体物質としてはペプチド、核酸、糖鎖、またはこれらより選ばれる1種類以上の混合物を挙げることができる。なお、ここでいうペプチドとは、2個以上のアミノ酸がペプチド結合した物質の総称である。ペプチドには、オリゴペプチドおよびポリペプチドが含まれ、ポリペプチドにタンパク質が含まれる。
【0046】
上記生体物質としては特に制限されないが、免疫原性を有する卵類、牛乳類、肉類、魚類、甲殻類および軟体動物類、穀類、豆類およびナッツ類、果実類、野菜類、ビール酵母、ゼラチンなどの食物アレルゲンや、花粉、ダニ、ハウスダストなどの非食物アレルゲンや、肝臓がん、乳がんなどの腫瘍マーカーを好適に例示することができ、中でも牛乳アレルゲンの主要成分としてのαs1-カゼイン、αs2-カゼイン、β-カゼイン、κ-カゼイン、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンや、卵白アレルゲンの主要成分としてのオボムコイド、オボアルブミン、コンアルブミンや、小麦アレルゲンの主要成分としてのグリアジンや、そばの主要タンパク質である分子量24kDaと76kDaのタンパク質や、落花生の主要タンパク質であるAra h1を具体的に例示することができ、とりわけ、カゼインナトリウム、α-カゼイン、β-カゼイン、κ-カゼイン、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン、オボムコイド、オボアルブミン、コンアルブミンから選ばれる少なくとも1種以上のアレルゲンを用いることが望ましい。上記生体物質にはまた、各種アレルゲンに対する抗体、各種バイオマーカー(例えば、腫瘍マーカー、感染症マーカー、遺伝子疾患マーカー、内分泌疾患マーカー、炎症マーカー、疲労マーカー、ストレスマーカー、栄養マーカー)と反応する生体物質(抗原、抗体、アプタマー、レクチン、ポリヌクレオチド、酵素、基質など)、病原体や自己免疫疾患等に関する抗原などが含まれる。
【0047】
前記固定化担体としては特に限定されず、例えば、有機微粒子、無機微粒子などの微粒子担体が挙げられる。微粒子担体は磁性微粒子であってもよい。磁性微粒子の非限定例としてはγFeおよびFeなどの可磁化物質が一様に親水性を有するポリマー(例えば、グリシジルメタクリレートなどの水溶性ポリマー)で覆われた粒径が均一なビーズが挙げられ、市販品としてはサーモフィッシャーサイエンティフィック社製のダイナビーズや多摩川精機社製のFGビーズ、GEヘルスケア社製のSera-Mag磁気ビーズ、JSRライフサイエンス社製のMagnosphereなどを挙げることができる。
【0048】
図1中の(a)は本発明のバイオチップの一様態(以下、バイオチップ(A)と称することがある)を示した平面図である。バイオチップ(A)10は、基体101の上面101Aにリング状の境界102が形成されている。前記境界102は、予め設定された幅を有する円環状に形成され、基体101から所定の高さで突出しており、基体101の上面101Aと境界102で包囲された空間内に液体を保持するための反応エリア103を形成している。境界はリング状のものを図示したが、これに限らず、楕円形や多角形(例えば、四角形、五角形、六角形、八角形)など種々の形状とすることができる。前記反応エリア103には、前記検査試料の成分と反応する成分(被固定化物質)が固定されたスポット104が配置されている。前記スポット104は、複数配置することができ、予め設定された位置に予め設定された間隔を空けて、複数の独立したスポットとして配置されている。
【0049】
図1中の(b)はバイオチップ(A)10をA-A’線(図1中の(a)参照)で切断した断面構造を示す断面図である。基体101の上面101Aからの境界102の高さの下限は特に限定されないが、1mm以上であることが好ましく、2mm以上であることがさらに好ましい。基体101の上面101Aからの境界102の高さの上限も特に限定されないが、チップとしての用途を考慮すると10mm以下であることが好ましい。境界102の幅も特に限定されないが、構造的安定性や、チップの大きさを考慮すると、0.5mm~5.0mmの範囲であることが好ましく、1.0mm~3.0mmの範囲であることがさらに好ましい。境界102の材質としては検査試料や生化学反応に影響を与えないものであれば特に制限はないが、天然ゴム、合成ゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴムなどのゴム組成物や前記基体として使用できる樹脂材料から適宜選択することができる。
【0050】
スポット104には、前記被固定化物質または被固定化物質が固定化された固定化担体が固定される。スポット104の数や配置は特に限定されず、任意の数や配置が可能である。その上で、多項目の同時検査の点から、スポット104の数の下限は3個以上が好ましく、12個以上がより好ましく、18個以上がとくに好ましい。また、反応エリアの大きさに制限があり、検出時に近傍とのスポットとの信号が重ならないようにする点から、スポット104の数の上限は168個以下が好ましく、144個以下がより好ましい。
【0051】
図2中の(a)は本発明のバイオチップの別の様態(以下、バイオチップ(B)と称することがある)を示した平面図である。バイオチップ(B)11は、境界がなく、基体101の上面101A全体が反応エリア103となっている点でバイオチップ(A)と異なるが、それ以外の構成はバイオチップ(A)と同じである。バイオチップ(B)は、境界を設置する必要がないため、製造工程が簡易であり、製造コストも低いというメリットがある。
【0052】
図3中の(a)は本発明のバイオチップの一様態(以下、バイオチップ(C)と称することがある)を示した平面図である。バイオチップ(C)12は、基体101の上面101Aにリング状の境界102が形成されている。前記境界102は、予め設定された幅を有する円環状に形成され、基体101から所定の高さで突出しており、基体101の上面101Aと境界102で包囲された空間内に液体を保持するための反応エリア103を形成している。境界はリング状のものを図示したが、これに限らず、楕円形や多角形(例えば、四角形、五角形、六角形、八角形)など種々の形状とすることができる。前記反応エリア103には、非特異的吸着を防止し、生体物質を固定化するためのコート層104が形成され、コート層104を介して、前記検査試料の成分と反応する成分(被固定化物質)が固定されたスポット105が複数配置されている。前記スポット105は、コート層104に、予め設定された位置に予め設定された間隔を空けて、複数の独立したスポットとして配置されている。
【0053】
図3中の(b)はバイオチップ(C)12をA-A’線(図3中の(a)参照)で切断した断面構造を示す断面図である。基体101の上面101Aからの境界102の高さの下限は特に限定されないが、1mm以上であることが好ましく、2mm以上であることがさらに好ましい。基体101の上面101Aからの境界102の高さの上限も特に限定されないが、チップとしての用途を考慮すると10mm以下であることが好ましい。境界102の幅も特に限定されないが、構造的安定性や、チップの大きさを考慮すると、0.5mm~5.0mmの範囲であることが好ましく、1.0mm~3.0mmの範囲であることがさらに好ましい。境界102の材質としては検査試料や生化学反応に影響を与えないものであれば特に制限はないが、天然ゴム、合成ゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴムなどのゴム組成物や前記基体として使用できる樹脂材料から適宜選択することができる。
【0054】
コート層104の厚さとしては特に制限されず任意の厚さを形成することが可能であるが、1nm~10μmであることが好ましく、2nm~1μmであることがより好ましく、10nm~100nmであることが特に好ましい。
【0055】
スポット105には、前記被固定化物質または被固定化物質が固定化された固定化担体が固定される。スポット105の数や配置は特に限定されず、任意の数や配置が可能である。その上で、多項目の同時検査の点から、スポット105の数の下限は3個以上が好ましく、12個以上がより好ましく、18個以上が特に好ましい。また、反応エリアの大きさに制限があり、検出時に近傍とのスポットとの信号が重ならないようにする点から、スポット105の数の上限は168個以下が好ましく、144個以下がより好ましい。
【0056】
図4中の(a)は本発明のバイオチップの別の様態(以下、バイオチップ(D)と称することがある)を示した平面図である。バイオチップ(D)13は、基体101の上面全体に、非特異的吸着を防止し、生体物質を固定化するためのコート層104が形成されている点で、バイオチップ(C)と異なっている。したがって、リング状の境界102はコート層104上に形成されている。前記境界102は、予め設定された幅を有する円環状に形成され、コート層104から所定の高さで突出しており、コート層104と境界102で包囲された空間内に液体を保持するための反応エリア103を形成している。この態様における境界102の断面はかまぼこ状となっているが、境界102の断面形状は、境界102で包囲された空間内に液体を保持することができれば特に限定されず、バイオチップAのような長方形のほか、三角形、台形、L字型など種々の形状とすることができる。前記反応エリア103のコート層104上には、前記検査試料の成分と反応する成分(被固定化物質)が固定されたスポット105が複数配置されている。前記スポット105は、コート層104に、予め設定された位置に予め設定された間隔を空けて、複数の独立したスポットとして配置されている。
【0057】
図4中の(b)はバイオチップ(D)13をA-A’線(図4中の(a)参照)で切断した断面構造を示す断面図である。コート層104からの境界102の高さの範囲は、バイオチップ(C)における基体101の上面101Aからの境界102の高さの範囲と同様である。また、境界102の幅、材質、コート層104の厚さ、スポット105についてもバイオチップ(C)と同様である。
【0058】
2.バイオチップの製造方法
親水性の反応エリアを含む本発明のバイオチップの製造は、基体を親水化処理する工程(以下、「工程1-1」という)によりバイオチップ用基体を製造し、次いで、
前記バイオチップ用基体に、少なくとも被固定化物質と、1分子中に少なくとも2個の光反応性基を有する光架橋剤と、増粘剤および/または界面活性剤をスポットし、光照射する工程(以下、「工程1-2」という)、
を含むものとしてよい。
【0059】
以下、本発明の製造方法の各構成要素について順に説明する。
工程1-1
工程1-1では、基体を親水化処理する工程を含むものとしてよい。基体の親水化処理は、基体の表面を親水化する処理であれば特に限定されるものではない。例えば、液体に溶解または懸濁したシリカ、界面活性剤等をスピンコート、塗布、噴霧、浸漬等により基体上にコートした後に乾燥する方法、基体をプラズマ処理やUV-オゾン処理、コロナ処理やフレーム処理などで化学的に親水化処理する方法、基体に微細なナノ構造を転写する、または基体を薬液により粗化して物理的にナノ構造を形成して親水性を付与する方法、基体を親水性ポリマーでコートする方法などを挙げることができる。樹脂表面の分子の化学結合を切断し、樹脂の種類に応じて親水性の極性を有する官能基OH(水酸基)、CO(カルボニル基)、COOH(カルボキシル基)、メトキシ基、ぺルオキシド基、極性エーテル基等を生成させることができるプラズマ処理やUV-オゾン処理、コロナ処理やフレーム処理などで化学的に親水化処理する方法がより好ましく、UV-オゾン処理によるものがとくに好ましい。
【0060】
基体上へ境界を形成し、反応エリアを形成する工程を設けることができる。反応エリアの形成方法としては特に制限されないが、前記ゴム組成物または前記樹脂材料により予め形成されたリングを接着剤などを用いて基体に接着する方法、前記樹脂材料から構成される基体を射出成形、真空成形等の各種樹脂成形法や、機械切削などでリングを成型する方法を用いることができる。接着剤としては検査試料や生化学反応に影響を与えないものであれば特に制限はなく、市販の接着剤から適宜選択することができる。
【0061】
工程1-2
工程1-2では、前記バイオチップ用基体上に、少なくとも被固定化物質と、1分子中に少なくとも2個の光反応性基を有する光架橋剤と、増粘剤および/または界面活性剤とを格子目状のスポットする工程と、光照射する工程と、を含むものとしてよい。
【0062】
コート層と、その内側に液体を保持することが可能な境界で包囲された反応エリアとを有する本発明のバイオチップの製造は、非特異的吸着を防止し、生体物質を固定化するためのコート層を基体に設ける工程と、基体に境界を形成して反応エリアを設ける工程と、から選ばれる工程によりバイオチップ用基体を製造し(以下、「工程2-1」という)、次いで、
前記バイオチップ用基体上に、少なくとも被固定化物質と、1分子中に少なくとも2個の光反応性基を有する光架橋剤と、増粘剤および/または界面活性剤をスポットし、光照射する工程(以下、「工程2-2」という)、
を含むものとしてよい。
【0063】
以下、コート層と、その内側に液体を保持することが可能な境界で包囲された反応エリアとを有する本発明のバイオチップの製造方法の各構成要素について順に説明する。
工程2-1
工程2-1では、基体に非特異的吸着を防止し、生体物質を固定化するためのコート層を設ける工程と、基体に境界を形成して反応エリアを設ける工程と、から選ばれる工程を含むものとしてよい。これらの上記から選ばれる工程を含めば、任意に工程の順番を入れ替えることができる。また、コート層を設ける工程の前に、基体を表面処理する工程を含んでもよい。
【0064】
基体に表面処理を施す工程における表面処理の方法としては、基体と前記コート層の密着性を上げるものであれば特に限定されるものではない。例えば、プラズマ処理やUVオゾン処理、コロナ処理など既知の表面改質方法を挙げることができる。
【0065】
基体への非特異的吸着を防止し、生体物質を固定化するためのコート層の形成は、水溶性ポリマーを含むコート液のスピンコート、塗付、噴霧、コート液への浸漬など既知の方法により行うことができる。例えばコート液は水溶性ポリマーを溶媒に溶解して調製することができる。溶媒としては、水、水と任意の割合で混じり合う低級アルコールおよびこれらの混合物を用いることができる。低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノールが好ましい。中でも、溶媒としてエタノールと水の混合溶媒を用いることが好ましい。
【0066】
前記コート液中のポリマーの濃度は特に限定されないが、ポリマーの濃度は、例えば0.0001~10質量部、好ましくは0.001~1質量部、光架橋剤の濃度は、例えば、前記ポリマーに対して1~20質量部、好ましくは2~10質量部とすることができる。
【0067】
前記ポリマーを含有する塗布液は、1分子中に少なくとも2個の光反応性基を有する光架橋剤を含むことが好ましい。本発明において、「光反応性基」とは、光を照射することによりラジカルを生じる基を意味する。
前記光架橋剤は、光照射により光反応性基がラジカルを生じることにより、アミノ基やカルボキシル基、有機化合物を構成する炭素原子等と共有結合を形成することができる。これにより、前記光架橋剤を含む塗布液を基体上に塗布した後に光を照射することによって、光架橋剤を介して基体とポリマーを結合させることができ、基体上に非特異的吸着防止効果を有するポリマー層を形成することができる。なお、本発明では、前記光架橋剤を使用せずに、または、前記光架橋剤とともに、前記ポリマーに光反応性基および/または基体表面と共有結合または配位結合可能な基を導入することにより、該ポリマーが有する基を利用して、基体とポリマーを結合することも可能である。
【0068】
本発明のコート層に含まれる水溶性ポリマー、光架橋剤は、それ自体公知であり、公知の製造方法により製造可能であり、また、市販されているものである。前記コート層の膜厚に特に制限はないが、1nm~10μmであることが好ましく、2nm~1μmであることがより好ましく、10nm~100nmであることが特に好ましい。
【0069】
本発明では、前述のようにコート層をコーティングした後、恒温・恒湿条件でエージングすることによりコート層を安定化することが好ましい。温度は5℃~40℃が好ましく、温度20℃~30℃がより好ましい。湿度は40%~80%が好ましく、湿度50%~70%がより好ましい。エージング期間は1日~1ヵ月が好ましく、3日~2週間がより好ましい。
【0070】
基体への境界の形成方法としては特に制限されないが、前記ゴム組成物または前記樹脂材料により予め形成されたリングを接着剤などを用いて基体に接着する方法、前記樹脂材料から構成される基体を射出成形、真空成形等の各種樹脂成形法や、機械切削などでリングを成型する方法を用いることができる。接着剤としては検査試料や生化学反応に影響を与えないものであれば特に制限はなく、市販の接着剤から適宜選択することができる。
【0071】
工程2-2
工程2-2では、前記バイオチップ用基体上に、少なくとも被固定化物質と、1分子中に少なくとも2個の光反応性基を有する光架橋剤と、増粘剤および/または界面活性剤とを格子目状にスポットする工程と、光照射する工程と、未反応成分を除去する工程と、を含むものとしてよい。
【0072】
工程1-2または2-2において、前記被固定化物質を予め固定化担体に固定化する場合、固定化方法は既知の方法を用いることができる。固定化方法としては、例えば、固定化担体として前記磁性微粒子と、予め調製した被固定化物質とを適宜選択される公知の緩衝液などの溶液中で反応させ、被固定化物質を固定化した磁性微粒子を回収する方法を挙げることができるが、これに限定されるものではない。例えば、前記磁性微粒子を予め公知の緩衝液を用いて洗浄してもよく、また、被固定化物質を固定化した磁性微粒子を回収する際に公知の緩衝液を用いて洗浄してもよい。
【0073】
工程1-2または2-2に用いる、1分子中に少なくとも2個の光反応性基を有する光架橋剤としては特に限定されない。前記光架橋剤が有する光反応性基としては、アジド基(-N)、アセチル基、ベンゾイル基、ジアジリン基などを挙げることができる。特に、アジド基は、光を照射することにより窒素分子が離脱すると共に窒素ラジカルが生じ、この窒素ラジカルは、アミノ基やカルボキシル基等の官能基のみならず、有機化合物を構成する炭素原子とも結合することが可能であり、ほとんどの有機物と共有結合を形成し得るため好ましい。アジド基を有する光架橋剤としては、例えば、ジアジドスリルベンなどが挙げられる。
前記光架橋剤は、水溶性であることが好ましい。光架橋剤についての「水溶性」とは、0.5mM以上、好ましくは2mM以上の濃度の水溶液を与えることができることを意味する。
【0074】
前記被固定化物質または被固定化物質が固定化された固定化担体と前記光架橋剤とは溶液に分散または溶解していることが好ましい。溶液としては特に限定されないが、公知の緩衝液を用いることができる。緩衝液組成は、PBS緩衝液、HEPES緩衝液、トリス緩衝液、MES緩衝液などを挙げることができ、被固定化物質をそのまま用いる際はリン酸緩衝生理食塩水が好ましく、被固定化物質を固定化担体に固定化させて用いる際には固定化担体の凝集を防ぐため、HEPES緩衝液が好ましい。前記被固定化物質と前記光架橋剤が分散または溶解した溶液を、スタンプ液と称する場合がある。
【0075】
前記被固定化物質の濃度は特に限定されないが、被固定化物質が固定化担体に固定化されていない場合には0.05mg/mL~2mg/mLが好ましく、0.1mg/mL~1mg/mLがより好ましい。被固定化物質が固定化担体に固定化されている場合には被固定化物質を0.5mg/mL~50mg/mLで固定化担体に反応させることが好ましく、1mg/mL~25mg/mLがより好ましく、被固定化物質を固定化した固定化担体を1mg/mL~10mg/mLで使用するのが好ましく、2.5mg/mL~7.5mg/mLがより好ましい。
前記光架橋剤の濃度は特に限定されないが、0.01mg/mL~1g/mLが好ましく、0.2mg/mL~0.2g/mLがより好ましい。
【0076】
前記被固定化物質または被固定化物質が固定化された固定化担体と前記光架橋剤とが溶液に分散または溶解している溶液にはさらに増粘剤および/または界面活性剤を含むことが好ましい。増粘剤を含ませることで前記溶液をバイオチップ用基体上へスポットする際に、スポットの大きさを調整することができる。より具体的には、溶液中の増粘剤の濃度が高いほど、同じ体積の溶液をスポットした場合に、スポットの大きさ(基体との接触面積)は小さくなる傾向にある。また、界面活性剤を含ませることで前記被固定化物質が気-液界面に集積してスポットにおける前記被固定化物質がスポットの辺縁に局在化するのを抑制することができる。界面活性剤はまた、基体との親和性向上に寄与し、溶液中の界面活性剤の濃度が高いほど、同じ体積の溶液をスポットした場合に、スポットの大きさ(基体との接触面積)は大きくなる傾向にある。したがって、増粘剤と界面活性剤の濃度を調整することで、任意の大きさのスタンプを形成することができる。
【0077】
前記増粘剤としては、検査試料や生化学反応に影響を与えないものであれば特に制限されず、市販のものを使用することができる。例えば、セルロース系およびその誘導体、多糖類、ビニル系化合物、ビニリデン系化合物、ポリグリコール系化合物、ポリビニルアルコール系化合物、ポリアルキレンオキサイド系化合物などを挙げることができ、具体的にはジェランガム、キサンタンガム、カードラン、プルラン、グァーガム誘導体、ローカストビーンガム、カラギーナン、ペクチン、βグルカン、タマリンドガム、サイリウムシードガム、デキストラン、グリセリン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルプロピルセルロース、ラノリン、メチルセルロース、ワセリン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシルビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、デキストリン酸脂肪エステル、イヌリン酸脂肪エステルなどを用いることができ、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールより選ばれる1種以上を用いることが好ましく、ポリビニルアルコールを用いることがより好ましい。
【0078】
前記増粘剤の濃度は特に限定されないが、例えばポリビニルアルコールを用いる場合は、前記溶液100重量部に対し、0.01重量部~1重量部が好ましく、0.02重量部~0.5重量部がより好ましく、0.03重量部~0.3重量部が特に好ましい。
【0079】
前記界面活性剤としては、検査試料や生化学反応に影響を与えないものであれば特に制限されず、市販の非イオン性界面活性剤を使用することができ、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル[Triton X-100]、ポリオキシエチレン(8)オクチルフェニルエーテル[Triton X-114]、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート[Tween20]、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート[Tween80]、ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル[Brij35]、ポリオキシエチレン(20)ラウリルエーテル[Brij58]、プルロニック F-68、ポリエチレングリコール等あるいはこれらを2種類以上混合したものを用いることができ、Triton X-100、Tween20、Tween80から選ばれる1種類以上を用いることが好ましく、Tween20を用いることがより好ましい。
【0080】
前記界面活性剤の濃度は特に限定されないが、例えばTween20を用いる場合は、前記溶液100重量部に対し、0.001重量部~1重量部が好ましく、0.005重量部~0.5重量部がより好ましく、0.01重量部~0.3重量部が特に好ましい。
【0081】
スタンプ液の粘度は、所望の形状のスポットが形成されるものであれば特に限定されないが、例えば、25℃において0.4mPa・s~40mPa・s、好ましくは0.5mPa/s~10mPa・s、より好ましくは0.6mPa・s~4mPa・s、特に好ましくは0.8mPa・s~2mPa・s、特に約1.3mPa・sであってよい。また、スタンプ液の粘度は、25℃において、0.6mPa/s~10mPa・s、0.8mPa・s~4mPa・s、1.0mPa・s~2mPa・s、1.12mPa・s~2mPa・s、1.13mPa・s~2mPa・s、1.14mPa・s~2mPa・s、1.15mPa・s~2mPa・s、1.16mPa・s~2mPa・s、1.17mPa・s~2mPa・s、1.18mPa・s~2mPa・s、1.19mPa・s~2mPa・s、1.2mPa・s~2mPa・s等であってもよい。
【0082】
前記バイオチップ用基体への被固定化物質または被固定化物質が固定化された固定化担体と光架橋剤とをスポットする方法は特に限定されず、例えば、マイクロピペット等によってスポットする方法、ピン方式によるスポッティングや圧電方式によるスポッティング等の方法を用いることができ、微粒子のサイズの制限を受けないマイクロピペット等によってスポットする方法、ピン方式によるスポッティングが好ましい。そのスポットの直径は、例えば400μm~800μm、好ましくは500μm~700μmとすることができる。
【0083】
被固定化物質または被固定化物質が固定化された固定化担体の固定化は、塗布後、好ましくは塗布した溶液を乾燥した後、光を照射することにより行うことができる。光は、用いる光反応性基がラジカルを生じさせることができる光であればよく、特に、光反応性基としてアジド基を用いる場合には、紫外線(例えば波長10~400nm)が好ましい。照射時間は、例えば、10秒~120分、好ましくは30秒~60分、より好ましくは1分~30分とすることができる。照射により被固定化物質は迅速に固定化するため、照射時間は固定化に要する時間とほぼ等しい。照射する光線の線量は、特に限定されないが、通常、1cm当たり1mW~100mW程度である。この光照射によって光架橋剤に含まれる光反応性基(また、ポリマーが光反応性基を有する場合には、該光反応性基)がラジカルを生じ、被固定化物質が固定化担体に固定化されていない場合にはポリマー層と被固定化物質とを光架橋剤を、被固定化物質が固定化担体に固定化している場合にはポリマー層と被固定化物質および/または固定化担体とを介して結合させることができる。
【0084】
本発明では、前述のように所望の物質を固定化した後、公知の方法によって基体を洗浄して未反応成分等を除去することができるが、かかる洗浄は必須ではなく、スタンプ液を残したまま製品化してもよい。こうして、所望の被固定化物質が固定化されたバイオチップを得ることができる。洗浄を行わなかった場合、バイオチップのスポット上には、固定化された被固定化物質のほか、増粘剤および/または界面活性剤などのスタンプ液の成分が付着していることがある。かかるスタンプ液の残留物は、バイオチップの使用前に適宜洗浄して除去することができる。
【0085】
3.バイオチップの保存方法
本発明においては、酸化の影響を受ける被固定化物質、特にタンパク質中のアミノ酸などを、脱酸素手段を講じることにより、被固定化物質の酸化防止および/またはバイオチップ上での好気性菌および菌類の増殖抑制の効果を得ることができる。
脱酸素手段としては、限定されずに、例えば、バイオチップを以下の(a)~(d)の少なくとも1以上の様式で包装することが挙げられる:(a)真空包装する、(b)不活性ガスと共に包装する、(c)脱酸素剤と共に包装する、(d)脱酸素機能を有する包材により包装する。したがって、脱酸素手段には、上記(a)~(d)の包装様式のそれぞれに加え、例えば、(a)と(c)との組合せ(すなわち、脱酸素剤と共に真空包装する)、(b)と(c)との組合せ(すなわち、不活性ガスおよび脱酸素剤と共に包装する)、(b)~(d)の組合せ(すなわち、不活性ガスおよび脱酸素剤と共に脱酸素機能を有する包材により包装する)などが含まれる。
【0086】
このような脱酸素手段の具体例としては、上述したバイオチップの包装時に窒素やアルゴンなどの不活性ガス置換を行う方法、包装体内に脱酸素剤を封入する方法、包材自体に脱酸素機能を有する包材、例えば包材フィルムを使用する方法などが挙げられる。
【0087】
包装体中に共存させる脱酸素剤としては、鉄や酸化セリウムなど無機系の脱酸素剤、有機系の脱酸素剤などが挙げられる。そのような脱酸素剤としては、特に限定されるものではなく、医療用途に使用できる市販の脱酸素剤、例えば、三菱瓦斯化学社製の「エージレス」、三菱瓦斯化学社製の「ファーマキープ」などが挙げられる。
【0088】
脱酸素機能を有する包材としては、特に限定されるものではないが、脱酸素剤を含有する包装フィルムが好ましい。このような包装フィルムは、具体的には、鉄や酸化セリウムなどの無機系の脱酸素剤を含有するもの、あるいは有機系の脱酸素剤含有フィルムに分類することができる。これらのフィルムとしては、特に限定されるものではなく、医療用途に使用できる市販のフィルム、例えば、酸化セリウムを包含する包材として、共同印刷社製の「オキシキャッチ」、スタープラスチック工業社製の「ハイスター02」など、また鉄を包含する包材として、三菱瓦斯化学社製の「エージレスオーマック」、東洋製罐社製の「オキシガード」などを用いることができる。
【0089】
さらに、本発明のバイオチップは、脱酸素手段のみでは、バイオチップ上の被固定化物質を十分安定に保つことができない場合でも、脱湿剤を併用することで、バイオチップ上の被固定化物質を安定に保つことができる場合がある。このような場合には、脱湿剤を併用することが好ましい。もちろん、脱湿機能のみを有する脱湿剤を包装体中に共存させ、脱酸素機能を有する包材にて包装した包装体とすることも可能であり、そのような脱湿剤は医薬品の分野において一般的なものを使用することができる。
【0090】
4.バイオチップを包装した包装体
本発明は、上記の保存方法に従ってバイオチップを包装した包装体にも関する。本発明の包装体は、本発明のバイオチップを、以下の(a)~(d)の少なくとも1以上の様式で包装したものであってよい:(a)真空包装する、(b)不活性ガスと共に包装する、(c)脱酸素剤と共に包装する、(d)脱酸素機能を有する包材により包装する。また、本発明の包装体には、脱湿剤がさらに封入されていてもよい。本発明の包装体に係る上記の各構成は、本発明の保存方法について上記したとおりである。本発明の包装体は、本発明のバイオチップの品質を損なわずに長期の保存が可能であり、実用性に優れている。
【0091】
5.バイオチップによる生体試料の検査
本発明は、上記バイオチップを用いて生体試料を検査する方法、対象の健康状態を検査する方法、対象における疾患を検査または診断する方法、これらの検査・診断用途に使用するための上記バイオチップ、上記バイオチップを含む、これらの検査・診断用途に使用するためのキットにも関する。
【0092】
本発明のバイオチップを用いて生体試料を検査する方法は、
(i)標的物質と反応する物質を被固定化物質として含む上記バイオチップを提供する工程、
(ii)前記バイオチップを生体試料と反応させる工程、および
(iii)前記被固定化物質と、生体試料中に含まれる標的物質との反応を検出する工程、
を含み、前記反応の検出は、生体試料における標的物質の存在を示し、不検出は、生体試料における標的物質の不在を示す。
【0093】
標的物質としては、限定されずに、抗体、抗原、酵素、ホルモン、サイトカイン等のタンパク質、RNA、DNA等の核酸分子、糖鎖等が挙げられる。
標的物質と反応する物質としては、限定されず、抗原、抗体、アプタマー、レクチン、ポリヌクレオチド、酵素、基質等が挙げられる。
被固定化物質と、標的物質との反応の検出は既知の種々の手法で行うことができる。例えば、標的物質がタンパク質である場合は、同タンパク質に対する標識された抗体と反応させ、同タンパク質と結合した標識された抗体の標識を、その標識の検出に適した手法で検出することができる。また、標的物質が核酸分子である場合は、同核酸分子とハイブリダイズする標識されたプローブと反応させ、同核酸分子と結合した標識されたプローブの標識を、その標識の検出に適した手法で検出することができる。標識としては、限定されずに、例えば、蛍光物質、発酵物質、酵素、放射性同位体等が挙げられ、標識を検出する手法としては、限定されずに、例えば、分光光度法、吸光光度法、蛍光光度法、比色法、オートラジオグラフィー等が挙げられる。検出は定性的であっても、定量的であってもよく、定量的に検出する場合は、生体試料中の標的物質の濃度等の情報を得ることができる。
【0094】
本発明のバイオチップを用いて対象の健康状態を検査する方法は、
(i)標的物質と反応する物質を被固定化物質として含む上記バイオチップを提供する工程、
(ii)前記バイオチップを対象に由来する生体試料と反応させる工程、および
(iii)前記被固定化物質と、生体試料中に含まれる標的物質との反応を検出する工程、
を含み、前記反応の検出または不検出は、対象の健康状態に関する情報を提供する。
健康状態に関する情報としては、例えば、疲労、ストレス、栄養状態等が挙げられ、標的物質としては、これらの情報に係る生体物質、例えば、タンパク質、核酸分子、糖鎖等が挙げられ、被固定化物質としては、これらの生体物質と反応する物質、例えば、抗原、抗体、アプタマー、レクチン、ポリヌクレオチド、酵素、基質等が挙げられる。疲労、ストレス、栄養状態などの指標になるバイオマーカーは知られている。
【0095】
本発明のバイオチップを用いて対象における疾患を検査または診断する方法は、
(i)標的物質と反応する物質を被固定化物質として含む上記バイオチップを提供する工程、
(ii)前記バイオチップを対象に由来する生体試料と反応させる工程、および
(iii)前記被固定化物質と、生体試料中に含まれる標的物質との反応を検出する工程、
を含み、前記反応の検出または不検出は、対象における疾患の存在または不在を示す。
疾患としては、生体試料中の物質を検出することにより検査・診断が可能な疾患が挙げられ、限定されずに、例えば、アレルギー性疾患、内分泌疾患、感染症、遺伝子異常を伴う疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患、腫瘍性疾患などが挙げられる。標的物質としては、これらの疾患に係る生体物質、例えば、タンパク質、核酸分子、糖鎖等が挙げられ、被固定化物質としては、これらの生体物質と反応する物質、例えば、抗原、抗体、アプタマー、レクチン、ポリヌクレオチド、酵素、基質等が挙げられる。腫瘍マーカー、感染症マーカー、遺伝子疾患マーカー、内分泌疾患マーカー、炎症マーカー等の各種疾患マーカーは知られている。
【0096】
本発明のバイオチップは、上記の各用途、すなわち、生体試料の検査、対象の健康状態(例えば、疲労、ストレス、栄養状態など)の検査、対象における疾患(例えば、アレルギー性疾患、内分泌疾患、感染症、遺伝子異常を伴う疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患、腫瘍性疾患など)の検査または診断に用いることができる。上記の各用途に用いるための本発明のバイオチップは、各用途に適した被固定化物質を含むことが好ましい。
【0097】
本発明のキットは、上記の各用途、すなわち、生体試料の検査、対象の健康状態(例えば、疲労、ストレス、栄養状態など)の検査、対象における疾患(例えば、アレルギー性疾患、内分泌疾患、感染症、遺伝子異常を伴う疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患、腫瘍性疾患など)の検査または診断に用いることができる。本発明のキットは、本発明のバイオチップ、好ましくは、上記各用途に適した被固定化物質を含む本発明のバイオチップを含む。本発明のキットは、本発明のバイオチップのほか、被固定化物質と、生体試料中に含まれる標的物質との反応を検出するための試薬、標準試料、キットの使用方法等が示された指示、例えば、使用説明書や、使用方法に関する情報を記録した媒体、例えば、フレキシブルディスク、CD、DVD、ブルーレイディスク、メモリーカード、USBメモリー等を含んでいてもよい。
【実施例0098】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明の内容がこれにより限定されるものではない。
<例1:バイオチップ用基体の製造(1)>
ポリカーボネートシート(三菱瓦斯化学社製、MU58U、厚さ0.8mm)にUV-オゾン照射装置(セン特殊光源社製、SSP16-110、UVランプ:SUV110GS-36L)を用いて照射距離50mmで2分照射した。次に、75%エタノール水溶液にポリエチレングルコールモノメタクリレートの重合体(三友化学研究所社製、ポリエチレングリコール部分子量350)を0.5重量部、4,4’-ジアジドスチルベン-2,2’-ジスルホン酸(東京化成工業社製、98%、以下、ビスアジドとする)を0.025重量部となるようにそれぞれ溶解し、非特異的吸着防止剤の塗付液を得た。スピンコーター(MIKASA社製、MS-A100)を用いて、この塗付液15μLを前記UV照射処理したポリカーボネートに800rpmで5秒、5000rpmで10秒の条件でコーティングした。コーティング後、UV照射装置(UVP社製、CL-1000)を用いて120mW/cmで10分照射した。コーティングした基体にシリコンゴム製のOリング(14φ)を接着剤で接着し、反応エリアを形成した。温度25℃、湿度65%で4日間エージングを施し、バイオチップ用基体1を得た。
【0099】
シリコンゴムで反応エリアを形成しなかったこと以外はバイオチップ用基体1と同様にしてバイオチップ用基体2を得た。
【0100】
<例2:スタンプ液の調製>
(1)(スタンプ液1-1)
塩化ナトリウムを0.8重量部、塩化カリウムを0.02重量部、リン酸水素二ナトリウム十二水和物を0.29重量部、リン酸二水素カリウムを0.02重量部となるようにそれぞれ超純水に溶解し、PBS溶液を得た。4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸を0.59重量部となるように超純水に溶解し、HEPES溶液を得た。HEPES溶液に、ポリビニルアルコール(和光純薬工業社製、160-03055)およびTween20(Sigma-Aldrich社製、P7949-100ML)を、それぞれ0.1重量部および0.05重量部となるように溶解し、スタンプ液用溶媒を得た。被固定化物質として、αs1-カゼインの部分ペプチド(15アミノ酸残基からなる)の末端をビオチン化したビオチン化ペプチドをそれぞれPBS溶液中でStreptavidin beads(多摩川精機社製)と4℃で、1.5時間反応させた後、精製してスタンプ液用溶媒に分散し、スタンプ液1-1を得た。
【0101】
スタンプ液1-1の粘度を測定した。測定はB型粘度計DV2T(Brookfield社製)を用い、20℃、200rpmの条件下で行った。サンプル測定前に、水と粘度計校正用標準液JS2.5(日本グリース株式会社製)で、校正を行った。測定を3回行いその平均値を求めた結果、スタンプ液1-1の粘度は1.31mPa・sであった。
【0102】
(スタンプ液1-2)
スタンプ液用溶媒にポリビニルアルコールを加えなかったこと以外はスタンプ液1-1と同様にして、スタンプ液1-2を得た。スタンプ液1-1と同様に粘度を求めた結果、スタンプ液1-2の粘度は1.21mPa・sであった。
(スタンプ液1-3)
スタンプ液用溶媒にTween20を加えなかったこと以外はスタンプ液1-1と同様にして、スタンプ液1-3を得た。スタンプ液1-1と同様に粘度を求めた結果、スタンプ液1-3の粘度は1.22mPa・sであった。
(スタンプ液1-4)
スタンプ液用溶媒にポリビニルアルコールとTween20を加えなかったこと以外はスタンプ液1-1と同様にして、スタンプ液1-4を得た。スタンプ液1-1と同様に粘度を求めた結果、スタンプ液1-4の粘度は1.11mPa・sであった。
【0103】
(スタンプ液1-5)
モルホリンエタンスルホン酸、一水和物を0.53重量部となるように超純水に溶解し、MES溶液を得た。HEPES溶液に、ポリビニルアルコール(和光純薬工業社製、160-03055)およびTween20(Sigma-Aldrich社製、P7949-100ML)を、それぞれ0.1重量部および0.05重量部となるように溶解し、スタンプ液用溶媒を得た。被固定化物質として、αs1-カゼイン(Sigma-Aldrich社製、C6780-250MG)をMES緩衝液中でLinker beads(多摩川精機社製)と40℃で、20時間反応させた後、精製してスタンプ液用溶媒に分散し、スタンプ液1-5を得た。
【0104】
(スタンプ液1-6)
スタンプ液用溶媒にポリビニルアルコールを加えなかったこと以外はスタンプ液1-5と同様にして、スタンプ液1-6を得た。
(スタンプ液1-7)
スタンプ液用溶媒にTween20を加えなかったこと以外はスタンプ液1-5と同様にして、スタンプ液1-7を得た。
(スタンプ液1-8)
スタンプ液用溶媒にポリビニルアルコールとTween20を加えなかったこと以外はスタンプ液1-5と同様にして、スタンプ液1-8を得た。
【0105】
(スタンプ液1-9)
PBS溶液に、ポリビニルアルコール(和光純薬工業社製、160-03055)を0.1重量部、Tween20(Sigma-Aldrich社製、P7949-100ML)を0.05重量部となるようにそれぞれ溶解し、スタンプ液用溶媒を得た。被固定化物質として、αs1-カゼイン(Sigma-Aldrich社製、C6780-250MG)を0.1mg/mLとなるようにスタンプ液用溶媒に溶解し、スタンプ液1-9を得た。
(スタンプ液1-10)
スタンプ液用溶媒にポリビニルアルコールを加えなかったこと以外はスタンプ液1-9と同様にして、スタンプ液1-10を得た。
(スタンプ液1-11)
スタンプ液用溶媒にTween20を加えなかったこと以外はスタンプ液1-9と同様にして、スタンプ液1-11を得た。
(スタンプ液1-12)
スタンプ液用溶媒にポリビニルアルコールとTween20を加えなかったこと以外はスタンプ液1-9と同様にして、スタンプ液1-12を得た。
各スタンプ液の調製条件を表1にまとめた。
【0106】
【表1】
【0107】
<例3:バイオチップの製造(1)>
ビスアジドを超純水に溶解し、10mg/mLビスアジド溶液を調製した。10mg/mLビスアジド溶液を5倍希釈(ビスアジド溶液A)、または5000倍希釈した(ビスアジド溶液B)。スタンプ液1-1~1-8にビスアジド溶液Bを4.8重量部になるように溶解した。スタンプ液1-9~1-12にビスアジド溶液Aを4.8重量部になるように溶解した。
各スタンプ液をスタンパー(Geneqs社製、Genex Arrayer)を用いて、例1で作製したバイオチップ用基体1または2に12種類のスタンプ液の各々につき3スポット、計36スポットを6×6となるように格子点型多点分注スポット法でスポットした(スタンプ液1-12からスタンプ液1-1の順)。スポットの直径は0.36~0.54μm、スポット間の間隔は約1.1mmであった。スポット後、真空乾燥器を用いて、0.09MPaで10分乾燥した。乾燥後、被固定化物質を光架橋剤で固定化するため、UV照射装置(UVP社製、CL-1000)を用いて120mW/cmで10分照射し、バイオチップ1または2を得た。
【0108】
<例4:チップを用いた測定>
例3で製造したバイオチップを用いて、カゼイン陽性ヒト血清(PlasmaLab)におけるIgE抗体の測定を行った。チップをTBS-T溶液(137mM塩化ナトリウム、2.68mM塩化カリウム、25mMトリスヒドロキシメチルアミノメタン、pH7.4、0.1重量%Tween20)で3回洗浄した。バイオチップ1の反応エリアに検査試料として8倍に希釈した血清を130μL添加し、振とうしながら、室温で8分間反応させた。検査試料を吸引除去し、TBS-T溶液で洗浄した。洗浄後、Can Get Signal Immunoreaction Enhancer Solution 2(東洋紡社製、NKB-301)で2000倍に希釈した抗ヒトIgE抗体(セラケアライフサイエンシーズ社製、0751-1004)を130μL添加し、振とうしながら、室温で4分間反応させた。抗体を吸引除去し、TBS-Tで洗浄した。発光試薬(Dynalight Substrate with Rapid Glow Enhancer、Molecular Probes、4475406)を130μL添加し、1分間振とう後、ダイナコム社製のSpotSolverおよびアメリカ国立衛生研究所製のImageJを用いてスポットが存在しない部分をバックグラウンドとして発光部分のピクセル数をカウントすることにより発光強度を測定した。光学顕微鏡(オリンパス社製、IX71)による測定画像を図5に、発光強度の画像を図6に、レーザー顕微鏡(キーエンス社製、VK-X250)による平面画像、3D画像およびプロファイルグラフを図7~14にそれぞれ示す。また、図6の画像から得られた発光信号強度(発光部分のピクセル数)を表2に、図7~14の3D画像から得られた固定化された固形物(被固定化物質+固定化担体)の体積の平均値(n=3)を表3にそれぞれ示す。
【0109】
【表2】
【0110】
【表3】
【0111】
図5、7~14の結果より、増粘剤と界面活性剤を両方とも含まない場合はスポットが丸くならず、増粘剤および/または界面活性剤を含むことでスポットの形状を安定化できることが分かる。図7~14および表3の結果より、増粘剤および/または界面活性剤を含むスポットにおいては、チップ上に存在する固形物の体積が増粘剤と界面活性剤を両方とも含まないスポットより大きく、被固定化物質が結合した固定化担体がより多く固定化されていることが分かる。また図6および表2の結果より、増粘剤と界面活性剤を両方とも含まないスポットは発光強度が安定せず検出の感度が低下するが、増粘剤および/または界面活性剤を含むことでスポットの発光強度を安定化させ、検出感度を向上させることができる。さらに、本発明のバイオチップは、16μLというごく少量の検査試料で分析可能である。また、本発明のバイオチップの製造方法によれば、被固定化物質の結合部位を制御でき、かつスポットの形状が安定したバイオチップを得ることができる。
【0112】
<例5:バイオチップの製造(2)>
Streptavidin beadsの代わりにStreptavidin Mag Sepharose(GEヘルスケア社製)を、Linker beadsの代わりにSera-Mag Carboxylate-Modified Magnetic Particles (Hydrophylic)(GEヘルスケア社製)をそれぞれ用いたこと以外は例2と同様にして、スタンプ液2-1~2-8を調製した。各スタンプ液の調製条件を表4にまとめた。なお、表中、固定化担体「A」は、Streptavidin Mag Sepharoseを、「B」はSera-Mag Carboxylate-Modified Magnetic Particlesをそれぞれ示す。
【0113】
【表4】
【0114】
スタンプ液2-1~2-8および1-9~1-12の各々を例3と同様にして、例1で作製したバイオチップ用基体1または2にスポットし、同様に乾燥、UV照射を行い、バイオチップ3または4を得た。これらのバイオチップを用いて、例4と同様の測定を行った。発光強度の画像を図15に、図15の画像から得られた発光信号強度を、表5にそれぞれ示す。また、光学顕微鏡およびレーザー顕微鏡による観察も行ったが、例4と同様の結果が得られた。なお、表5において、スポット4の数値がスポット1~2の数値に比べて高く、同様の関係にあるスポット12とスポット9~10およびスポット8とスポット5~6とは異なる結果となっているが、これは、スタンプ液を、スタンプ液1-12からスタンプ液1-9、次いで、スタンプ液2-8からスタンプ液2-1の順にスポットする過程で、スタンパーにわずかに残っていたスタンプ液2-5が、次にスポットされるスタンプ液2-4に混入し、そのままスポット4にスポットされたことによると考えられる。
【0115】
【表5】
【0116】
<例6:バイオチップの保存(1)>
(1)緩衝液の調製
塩化ナトリウムを0.8重量部、塩化カリウムを0.02重量部、リン酸水素二ナトリウム十二水和物を0.29重量部、リン酸二水素カリウムを0.02重量部となるようにそれぞれ超純水に溶解し、PBS溶液を得た。
4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸を0.59重量部となるように超純水に溶解し、HEPES溶液を得た。
モルホリンエタンスルホン酸、一水和物を0.53重量部となるように超純水に溶解し、MES溶液を得た。
【0117】
(2)固定化反応液の調製
t-ブチルアルコール(和光純薬工業社製、028-03386)とジメチルスルホキシドを体積比で4:1になるように混合し、Tris「(1-ベンジル-1H-1,2,3-トリアゾール-4-イル)メチル」アミン(Sigma-Aldrich社製、678937-50MG)を0.27重量部となるように溶解し、TBTA溶液を得た。
【0118】
(3)スタンプ用溶媒の調製
PBS溶液に、ポリビニルアルコール(和光純薬工業社製、160-03055)およびTween20(Sigma-Aldrich社製、P7949-100ML)を、それぞれ0.1重量部および0.05重量部となるように溶解し、溶液Aを得た。
25mM HEPES溶液に、ポリビニルアルコール(和光純薬工業社製、160-03055)およびTween20(Sigma-Aldrich社製、P7949-100ML)を、それぞれ0.1重量部および0.05重量部となるように溶解し、溶液Bを得た。
【0119】
被固定化物質として、αs1-カゼイン(Sigma-Aldrich社製、C6780-250MG)、β-カゼイン(Sigma-Aldrich社製、C6905-250MG)をそれぞれ0.1mg/mL、α-ラクトアルブミン(Sigma-Aldrich社製、L5385-25MG)、β-ラクトグロブリン(Sigma-Aldrich社製、L3908-250MG)、オボムコイド(Sigma-Aldrich社製、T2011-250MG)、オボアルブミン(Sigma-Aldrich社製、A2512-250MG)を用いた。被固定化物質をそれぞれ溶液Aに溶解し、スタンプ液3-1~3-6を得た。被固定化物質として、αs1-カゼイン、α-ラクトアルブミン、オボムコイドをそれぞれMES緩衝液中でLinker beadsと40℃で、20時間反応させた後、精製して溶液Bに分散し、スタンプ液3-7~3-9を得た。また、被固体化物質を固定化していないLinker beadsのみを溶液Bに分散し、スタンプ液3-10を得た。被固定化物質として、αs1-カゼインの異なる部分ペプチドAおよびB(それぞれ15アミノ酸残基から成る)の末端をビオチン化したビオチン化ペプチドA、ビオチン化ペプチドBをそれぞれPBS溶液中でStreptavidin beadsと4℃で、1.5時間反応させた後、精製して溶液Bに分散し、スタンプ液3-11~3-12を得た。同様にペプチドAおよびBの末端をアジド化したアジド化ペプチドA、アジド化ペプチドBをそれぞれHEPES溶液中、Alkyne beads(多摩川精機社製)と25℃で、20時間反応させた後、精製して溶液Bに分散し、スタンプ液3-13~3-14を得た。各スタンプ液の調製条件を表6にまとめた。
【0120】
【表6】
【0121】
(4)バイオチップの製造
ビスアジドを超純水に溶解し、10mg/mLビスアジド溶液を調製した。10mg/mLビスアジド溶液を5倍希釈(ビスアジド溶液A)、5000倍希釈した(ビスアジド溶液B)。スタンプ液3-1~3-6にビスアジド溶液Aを4.8重量部になるように溶解した。スタンプ液3-7~3-14はビーズを分散させ、ビスアジド溶液Bを4.8重量部になるように溶解した。
各スタンプ液をスタンパー(Geneqs社製、Genex Arrayer)を用いて、例1で作製したバイオチップ基体1に14種スタンプ液の各々につき3スポット、計42スポットを6×7になるように格子点型多点分注スポット法でスポットした。スポット後、真空乾燥器を用いて、0.09MPaで10分乾燥した。乾燥後、被固定化物質を光架橋剤で固定化するため、UV照射装置(UVP社製、CL-1000)を用いて120mW/cmで10分照射し、バイオチップ3を得た。
【0122】
(5)バイオチップの保存
作製したバイオチップ3を、以下の条件で保存した。
・保存例1:バイオチップを脱酸素剤(三菱瓦斯化学社製のエージレス)と共に三菱ガス化学社製アルミ袋に封入し、25℃の恒温器に入れて2週間保存した。
・保存例2:バイオチップを、包装に入れた後に脱酸素剤を封入せずに包装内を真空にして封入したこと以外は保存例1と同様にして、保存した。
・保存例3:バイオチップを、脱酸素剤を封入しなかったこと以外は保存例1と同様にして、保存した。
【0123】
保存例1~3で得られたバイオチップを用いて、例4と同様の測定を行った。発光強度の測定結果を図16に、図16の画像から得られた発光信号強度を表7にそれぞれ示す。
【表7】
【0124】
図16および表7の保存例1~2の結果から、本発明のバイオチップは、脱酸素状態でまたは真空中に保存することにより、長期保存してもバイオチップの安定性が保たれることが分かる。一方、図16および表7の保存例3の結果より、本発明の保存方法を用いなかったバイオチップは、チップ表面が変質し、発光強度を読み取ることができなかった。
【0125】
<例7:バイオチップ用基体の製造(2)>
<基体1>
ポリカーボネートシート(三菱瓦斯化学社製、MR58U、厚さ0.8mm)にUV-オゾン照射装置(セン特殊光源社製、SSP16-110、UVランプ:SUV110GS-36L)を用いて照射距離50mmで2分照射し、シートの上面全体を親水化した。親水化したシートにシリコンゴム製のOリング(14φ)を接着剤で接着して反応エリアを形成し、バイオチップ用基体1を得た。
【0126】
<基体2>
UV-オゾン照射装置による処理を1分とした以外は基体1と同様にしてバイオチップ用基体2を得た。
【0127】
<基体3>
UV-オゾン照射装置による処理を30秒とした以外は基体1と同様にしてバイオチップ用基体3を得た。
【0128】
<基体4>
UV-オゾン照射装置による処理を8分とした以外は基体1と同様にしてバイオチップ用基体4を得た。
【0129】
<基体5>
UV-オゾン照射装置による処理に代えて卓上型セミオート大気圧プラズマ表面改質装置(ウェル社製、MyPL-Auto100)を用いて100W、50mm/秒で1回処理をした以外は基体1と同様にしてバイオチップ用基体5を得た。
【0130】
<基体6>
UV-オゾン処理を行わなかった以外は実施例1と同様にしてバイオチップ用基体6を得た。
【0131】
<基体7>
UV-オゾン照射装置による処理に代えて、ポリカーボネートシートに、75%エタノール水溶液にポリエチレングルコールモノメタクリレート(三友化学研究所社製、ポリエチレングリコール部分子量350)を0.5重量部、4,4’-ジアジドスチルベン-2,2’-ジスルホン酸(東京化成工業社製、98%、以下、ビスアジドとする)を0.025重量部となるようにそれぞれ溶解した塗付液15μLをスピンコーター(MIKASA社製、MS-A100)を用いて、800rpmで5秒、5000rpmで10秒の条件でコーティングした後、UV照射装置(UVP社製、CL-1000)を用いて120mW/cmで10分照射してビスアジドを架橋して非特異的吸着防止剤のコート層を形成したこと以外は基体1と同様にして、バイオチップ用基体7を得た。
【0132】
樹脂表面の官能基は、赤外分光光度計(日本分光社製、FT/IR-4200)を用いて測定した。樹脂表面の状態は、基体の主構造であるCHの特性吸収(2900~3100cm-1)の吸収強度(DCH)に対する水酸基およびカルボキシル基に含まれる-OHの特性吸収(3200~3600cm-1)の吸収強度(DOH)およびカルボキシル基およびカルボニル基に含まれるC=Oの特性吸収(1600~1950cm-1)の吸収強度(DCO)の比を用いて示す。
【0133】
バイオチップ用基体1~6のDOH/DCHおよびDCO/DCHを表8に示す。
【表8】
【0134】
<接触角の測定>
接触角は、接触角計測定装置(協和界面科学社製、Drоp Master 500)を用いて測定し、θ/2法(θ/2=arctan(h/r)で計算した。θは接触角を示し、rは液滴の半径を示し、hは液滴の高さを示す)で測定される、3箇所の接触角の平均値を示す。ここで、1箇所目の測定点としては、試料の中央部分を選択し、2および3箇所目の測定点としては、1箇所目の測定点から20mm以上離れ、かつ、1箇所目の測定点に対して互いに点対称な位置にある2点を選択した。
【0135】
バイオチップ用基体1~7の接触角を表2に示す。
【表9】
【0136】
表8および表9よりバイオチップ用基体1~5は、バイオチップ用基体6と比較して表面の水酸基および/またはカルボキシル基および/またはカルボニル基が増加し、接触角が増大している。
【0137】
<例8:バイオチップの製造(3)>
例6で調製したスタンプ液3-1~3-14をスタンパー(Geneqs社製、Genex Arrayer)を用いて、バイオチップ用基体1~7に14種類のスタンプ液の各々につき3スポット、計42スポットを6×7になるように格子点型多点分注スポット法でスポットした。スポット後、真空乾燥器を用いて、0.09MPaで10分乾燥した。乾燥後、被固定化物質を光架橋剤で固定化するため、UV照射装置(UVP社製、CL-1000)を用いて120mW/cmで10分照射し、バイオチップを得た。
【0138】
得られたバイオチップを用いて、例4と同様に発光強度を測定した。バイオチップ用基体1~7でそれぞれ作製したバイオチップの発光強度の測定結果を図17に、図17の画像から得られた発光信号強度を表10にそれぞれ示す。発光信号強度は、発光部分のピクセル数を表す。
【表10】
【0139】
図17および表10より、バイオチップ用基体6を用いたバイオチップでは十分な発光強度を得ることができないが、親水性の反応エリアを含む樹脂製の表面を有するバイオチップ用基体1~5は、コート層を用いることなく被固定化物質を固定化することができ、かつ、水溶性ポリマーをコートしたバイオチップ用基体7と比べ、同等またはそれ以上の発光強度を示している。したがって、親水性の反応エリアを含む樹脂製の表面を有するバイオチップ用基体を用いることにより水溶性ポリマー等の非特異的吸着防止層をコーティングすることなく、非特異的吸着防止層をコーティングした場合と同量の光架橋剤を用いて被固定化物質を固定化し、発光強度に優れ、かつ、被検出物質の非特異的吸着を抑制した高感度なバイオチップを提供することができる。
【0140】
<例9:バイオチップの保存(2)>
保存例4
バイオチップ用基体1と、表6に示したスタンプ液とを用いて、例8と同様に製造したバイオチップを、脱酸素剤(三菱瓦斯化学社製のエージレス)と共に封入し、25℃の恒温器に入れて2週間保存した。
【0141】
保存例5
保存例4と同様にして製造したバイオチップを、保存期間を8週間としたこと以外は保存例4と同様にして、保存した。
【0142】
保存例4および5で得られたバイオチップの発光強度を、例4と同様に測定した。発光強度の測定結果を図18に、図18の画像から得られた発光信号強度を表11にそれぞれ示す。
【表11】
【0143】
図18および表11より、本発明のバイオチップは、脱酸素状態に保存することにより、長期保存してもバイオチップの安定性が保たれたことが分かる。
【0144】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明によれば、例えば、種類の異なる生体分子を複数個のスポットとして固定したバイオチップを用いて、少量の検査試料で、高速に、安価にかつ取り扱い容易に、多項目にわたる分析を同時にでき、臨床現場等での利用に供するポイントオブケアテスト解析に利用できる。
また、本発明によれば、水溶性ポリマー等のコート層をコーティングすることなく、被固定化物質を固定化し、発光強度に優れ、かつ、被検出物質の非特異的吸着を抑制するバイオチップ用基体を得ることができる。これにより、簡便な製造工程で安価にバイオチップを製造することが可能になる。
【符号の説明】
【0146】
10 :バイオチップ(A)
11 :バイオチップ(B)
12 :バイオチップ(C)
13 :バイオチップ(D)
101 :基体
101A:基体上面
102 :境界
103 :反応エリア
104 :コート層
105 :スポット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
【手続補正書】
【提出日】2024-04-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書または図面に記載の発明。