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特開2024-63196太陽電池モジュール用の封止材シート及びそれを用いた太陽電池モジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063196
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】太陽電池モジュール用の封止材シート及びそれを用いた太陽電池モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/048 20140101AFI20240501BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240501BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
H01L31/04 560
B32B27/32 E
C09K3/10 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024033863
(22)【出願日】2024-03-06
(62)【分割の表示】P 2022083149の分割
【原出願日】2016-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2015255337
(32)【優先日】2015-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 康佑
(72)【発明者】
【氏名】米田 伸也
(72)【発明者】
【氏名】田中 潤
(72)【発明者】
【氏名】薙野 晋介
(72)【発明者】
【氏名】玉木 啓晶
(72)【発明者】
【氏名】小保内 直博
(72)【発明者】
【氏名】白髭 靖史
(57)【要約】
【課題】ポリエチレン系樹脂を用いた封止材シートでありながら、架橋工程が不要で生産性が高く、且つ、耐熱性とモールディング耐久性を高い水準で兼ね備えた太陽電池モジュール用の封止材シートを提供すること。
【解決手段】コア層11は、融点が100℃以上120℃以下の高融点ポリエチレン系樹脂をベース樹脂とし、融点が55℃以上95℃以下の低融点ポリエチレン系樹脂を5質量%以上50質量%以下含有し、スキン層12は、融点が100℃以下のポリエチレン系樹脂をベース樹脂とし、スキン層12の総厚さが、封止材シート1の総厚さの1/20以上1/3以下である太陽電池モジュール用の封止材シートとする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア層と、封止材シートの両最外層に配置されるスキン層と、を含む複数の層によって構成される多層の封止材シートであって、
前記コア層は、融点が100℃以上120℃以下の高融点ポリエチレン系樹脂をベース樹脂とし、融点が55℃以上95℃以下の低融点ポリエチレン系樹脂を5質量%以上50質量%以下含有し、
前記スキン層は、いずれも、融点が100℃以下のポリエチレン系樹脂をベース樹脂とし、該スキン層の総厚さが、前記封止材シートの総厚さの1/20以上1/3以下である太陽電池モジュール用の封止材シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュール用の封止材シート及びそれを用いた太陽電池モジュールに関する。詳しくは、薄膜系の太陽電池素子を実装した太陽電池モジュール(以下、「薄膜系の太陽電池モジュール」とも言う)に好適に用いることができる封止材シート及びそれを用いた太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する意識の高まりから、クリーンなエネルギー源としての太陽電池が注目されている。現在、種々の形態からなる太陽電池モジュールが開発され、提案されている。一般に太陽電池モジュールは、ガラス等からなる透明前面基板と太陽電池素子と裏面保護シートとが、封止材シートを介して積層された構成である。
【0003】
太陽電池モジュールに使用される封止材シートとしては、その加工性、施工性、製造コスト、その他等の観点から、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)が、旧来一般的なものとして使用されていたが、EVA樹脂は、長期間の使用に伴って徐々に分解する傾向があり、太陽電池素子に影響を与える酢酸ガスを発生させたりする可能性がある。このため、近年では、EVA樹脂に代えてポリエチレン系樹脂系の樹脂を使用した太陽電池モジュール用の封止材シートの需要が拡大しつつある(特許文献1参照)。
【0004】
一般的にポリエチレン系樹脂をベース樹脂とする太陽電池モジュール用の封止材シートでは、その密度を低密度にすることによって透明性や柔軟性を向上することができる。しかし、低密度化は、一方で耐熱性の不足という問題を引き起こす。一方、耐熱性に優れる高密度ポリエチレン(HDLD)を用いた場合には、モジュール化の際に、対面する部材の表面の凹凸への追従性(以下、「モールディング特性」と言う)が維持できなくなるという問題、更には、初期状態でのモールディング状態(回り込み)を、上記のような長期にわたる高温下での使用においても十分に維持することまではできないという問題があった。本明細書では、上記のような過酷な環境におけるモールディング状態の維持に必要な物性を、以下「モールディング耐久性」と言う。
【0005】
特許文献1の封止材シートにおいては、架橋剤によって低密度のポリエチレン系樹脂に耐熱性や難燃性を付与している。この場合、確かに耐熱性は向上するが、長期にわたる高温下での使用に耐えうるだけの十分な耐熱性を備えさせるために必要十分な程度の架橋処理を行うと、多量の架橋剤の分解物による太陽電池素子の劣化や、封止材層内での気泡の発生による不具合等の問題が生じる。又、架橋処理を必須とする製造工程においては、成形中に架橋が進行すると製膜性が低下するため、成形を低温で行なって架橋反応を成形後に再度行なう等の配慮が必要であり、生産性の面でも更なる改善が求められていた。
【0006】
ここで、太陽電池素子には、単結晶シリコン基板や多結晶シリコン基板を用いて作製する結晶シリコン太陽電池の他、アモルファスシリコンや微結晶シリコンをガラス等の基板上に1μm程度若しくはそれ以下の極薄のシリコン膜を成形して作成する薄膜系の太陽電池素子がある。近年需要拡大傾向にある薄膜系の太陽電池素子を用いた太陽電池モジュールにおいては、この耐熱性と上記のモールディング耐久性との両立が特に高い水準で要求される。この耐熱性とモールディング耐久性との両立に係る問題は、あらゆる太陽電池モジュールに共通の解決課題ではあったが、とりわけ、薄膜系の太陽電池モジュールにおいて深刻な問題となっていた。
【0007】
例えば、架橋処理を経ずに耐熱性とモールディング特性とを両立させることを企図したものとして、融点の異なる2種以上の樹脂を混合したスキン層と、無機粒子等の結晶核剤を添加した封止材組成物からなるコア層と、を組合せた多層シートとすることによって、架橋処理が不要でありながら、柔軟性と耐熱性を兼ね備えたものとすることを企図した太陽電池モジュール用の封止材シートが開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009-10277号公報
【特許文献2】国際公開第2012/073971号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の封止材シートのように、密度0.900g/cm程度以下の低密度のポリエチレン系樹脂をベース樹脂とする封止材シートの製造においては、架橋処理によって耐熱性の不足を補う製法が広く行われており、このとき、架橋の進行の制御は、架橋剤の添加量の調整や、加熱温度や電離照射線の照射量等の架橋処理条件の最適化によって行われている。
【0010】
しかしながら、例えば、密度が0.910g/cm程度以上である相対的に密度が高いポリエチレン系樹脂を封止材組成物のベース樹脂とすることにより、架橋処理を経ずに必要な耐熱性を確保することを前提とする熱可塑系の封止材シートにおいては、材料樹脂の選択の段階で、完成品の耐熱性とモールディング耐久性との両立を担保する必要があり、このような要求に応えるための材料樹脂の選択についての汎用性のある選択基準は未だ確立されていなかった。
【0011】
一方、特許文献2に記載の封止材シートは、多層構造の積層体とすることを必須とし、更にそれらの各層の組合せを、特殊な構成に限定することにより、上記課題の解決を企図したものである。そのスキン層に用いる封止材組成物は、一般に広く流通する汎用タイプのポリエチレン系樹脂とは耐熱特性の異なる特殊なエチレン-α-共重合体が選択されており、又、そのコア層には結晶核剤の添加を必須としている。このように材料とその組合せ、及び、多層体としての積層構造を汎用品とは異なる特殊な範囲に限定することにより、封止材シート全体として、柔軟性と耐熱性のバランスを確保しているものである。
【0012】
よって、特許文献2に記載の封止材シートは、上記課題を克服することができるとしても、それに伴う生産コストの上昇も不可避である。エネルギー問題に対する貢献を目指しての太陽電池の普及のためには、太陽電池モジュールに対するコストダウンの要請は尚強く、ポリエチレン系樹脂を用いた封止材シートについても、必要な物性を備えさせるだけではなく、生産性についても十分に高いものであることが強く求められている。この点、特許文献3に記載の封止材シートは、生産性の面で問題があり、コストダウンのための抜本的な改善策が模索されていた。又、特許文献2に記載の封止材シートは、製造後の初期段階におけるモールディング特性を備えるものであったとしても、上記のような過酷な条件での使用時における信頼性を高めるモールディング耐久性を十分に維持することができるか否かという点については、未だ改良の余地があるものであった。
【0013】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、ポリエチレン系樹脂を用いた封止材シートでありながら、架橋工程が不要で生産性が高く、且つ、耐熱性とモールディング耐久性とを高い水準で兼ね備えた太陽電池モジュール用の封止材シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、封止材シートをスキン層とコア層とスキン層とがこの順に積層された3層構造の多層シートとし、所定の融点のポリエチレン系樹脂をベース樹脂とし、そのベース樹脂よりも融点の低いポリエチレン系樹脂を所定量以下含有するコア層と、所定の融点のポリエチレン樹脂をベース樹脂とするスキン層とを、特定の厚さ比で積層した構成とすることで、架橋処理によることなく好ましい耐熱性を保持したまま、優れたモールディング耐久性を発揮する封止材シートとすることができることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0015】
(1) コア層と、封止材シートの両最外層に配置されるスキン層と、を含む複数の層によって構成される多層の封止材シートであって、前記コア層は、融点が100℃以上120℃以下の高融点ポリエチレン系樹脂をベース樹脂とし、融点が55℃以上95℃以下の低融点ポリエチレン系樹脂を5質量%以上50質量%以下含有し、前記スキン層は、いずれも、融点が100℃以下のポリエチレン系樹脂をベース樹脂とし、該スキン層の総厚さが、前記封止材シートの総厚さの1/20以上1/3以下である太陽電池モジュール用の封止材シート。
【0016】
(2) 前記スキン層のベース樹脂であるポリエチレン系樹脂の融点が50℃以上70℃以下である(1)に記載の封止材シート。
【0017】
(3) 前記低融点ポリエチレン系樹脂の融点が80℃以上95℃以下であって、該低融点ポリエチレン系樹脂の前記コア層における含有量が5質量%以上30質量%以下である(1)又は(2)に記載の封止材シート。
【0018】
(4)前記低融点ポリエチレン系樹脂の融点が55℃以上70℃以下であって、該低融点ポリエチレン系樹脂の前記コア層における含有量が5質量%以上25質量%以下である(1)又は(2)に記載の封止材シート。
【0019】
(5)前記コア層の85℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上5.0×10Pa以下である(1)から(4)のいずれかに記載の封止材シート。
【0020】
(6)(1)から(5)のいずれかに記載の封止材シートと、ガラス基板上に積層配置されている薄膜系の太陽電池素子と、を備える薄膜系の太陽電池モジュールであって、
前記封止材シートの同一面に、前記ガラス基板及び前記太陽電池素子が密着している構成を含んでなる太陽電池モジュール。
【0021】
(7)前記太陽電池素子の表面には集電用のリード線が形成されていて、該リード線が前記封止材シートの内部に埋まり込んでいて、前記リード線の厚さが、前記太陽電池素子の表面上における封止材シートの厚さの50%以上90%以下となっている、(6)に記載の太陽電池モジュール。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ポリエチレン系樹脂を用いた封止材シートでありながら、架橋工程が不要で生産性が高く、且つ、耐熱性とモールディング耐久性とを高い水準で兼ね備えた太陽電池モジュール用の封止材シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の封止材シートの層構成を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の封止材シートと、薄膜系の太陽電池素子を用いた太陽電池モジュールの層構成の一例を模式的に示す断面図である。
図3図2の部分拡大図であり、薄膜系の太陽電池モジュールに用いた場合における本発明の封止材シートのモールディング耐久性の説明に供する図面である。
図4】モールディング耐久性に劣る従来の封止材シートを薄膜系の太陽電池モジュールに用いた、従来の太陽電池モジュールの部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の太陽電池モジュール用の封止材シートに好ましく用いることができる封止材組成物、太陽電池モジュール用の封止材シート、及び、本発明の封止材シートを用いた太陽電池モジュールについて順次説明する。尚、本明細書において、スキン層とは、多層の封止材シートの両最表面側に配置される層のことをいい、コア層とは当該スキン層以外の中間層のことをいう。コア層が単層構造からなる3層構造が本発明の代表的な実施形態であるが、コア層自体が複数の層からなる多層構造を有するものであってもよい。
【0025】
<封止材組成物>
本発明の封止材シートは、以下に詳細を説明する封止材組成物を溶融成形することによって製造することができる。封止材組成物は、コア層用の封止材組成物とスキン層用の封止材組成物とを、それぞれ各層の形成に使い分ける。そして、これらコア層用、スキン層用の各封止材組成物により、所定の層厚さ及び厚さ比で、両最表面にスキン層が配置されている3層構造の多層シートを成形することにより、例えば図1に示す封止材シート1に代表される本発明の封止材シートを製造することができる。尚、本明細書において、スキン層とは、多層の封止材シートの両最表面側に配置される層のことをいい、コア層とは多層の封止材シートにおける上記スキン層以外の内層のことをいう。コア層自体が更に多層の内部構造を有するものであってもよいが、単層構造のコア層の両面にスキン層が積層されている3層構造の封止材シート1が本発明の代表的な実施形態であり、以下、この封止材シート1を中心に本発明の説明を行う。
【0026】
[コア層用の封止材組成物]
コア層用の封止材組成物は、本発明の封止材シートのコア層を成形するために用いる樹脂組成物である。コア層用の封止材組成物の樹脂としては、低密度ポリエチレン系樹脂(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン系樹脂(LLDPE)、又はメタロセン系直鎖低密度ポリエチレン系樹脂(M-LLDPE)を好ましく用いることができる。中でも、太陽電池モジュールの長期信頼性の観点から、低密度ポリエチレン系樹脂(LDPE)をコア層用の組成物として特に好ましく用いることができる。
【0027】
コア層用の封止材組成物は、所定の融点のポリエチレン系樹脂をベース樹脂とする。具体的には、融点が100℃以上120℃以下の高融点ポリエチレン樹脂をベース樹脂として用いる。又、そのベース樹脂よりも融点の低いポリエチレン系樹脂を所定量含有する。具体的には、融点が55℃以上95℃以下の低融点ポリエチレン樹脂を5質量%以上50質量%以下含有する。尚、本明細書中、ベース樹脂とは、封止材組成物中の全樹脂成分の50質量%以上100質量%以下含有される樹脂をいう。
【0028】
上記の高融点ポリエチレン樹脂に更に低融点ポリエチレン樹脂を含有したコア層を用いた封止材シートであれば、耐熱性とモールディング耐久性とが、極めて高い水準で両立されたものとすることができる。本願発明のように、架橋処理が不要な相対的に高融点ポリエチレン樹脂が含有された封止材組成物を用いる場合において、更に融点が55℃以上95℃以下の低融点ポリエチレン樹脂を5質量%以上50質量%以下含有させることによって、最適化が困難であった耐熱性とモールディング耐久性との両立とを極めて高い水準で実現することができるという知見は、本願発明者ら独自の新たな知見である。
【0029】
(高融点ポリエチレン系樹脂)
高融点ポリエチレン系樹脂とは、融点が100℃以上120℃以下のポリエチレン系樹脂であり、コア層のベース樹脂となる樹脂である。コア層用の封止材組成物に含まれるコア層用のベース樹脂である高融点ポリエチレン樹脂の含有量は、コア層用の封止材組成物中の全樹脂成分に対して、好ましくは60質量%以上99質量%以下、より好ましくは65質量%以上99質量%以下であり、更に好ましくは70質量%以上99質量%以下である。これらは、例えば添加用樹脂として用いてもよく、その他の添加成分をマスターバッチ化するための他の樹脂として使用してもよい。尚、本明細書において全樹脂成分という場合は、上記の他の樹脂を含む。尚、このコア層用の封止材組成物は、架橋剤を含有せず、封止材シートの成形時に架橋工程を必要としない熱可塑系の封止材組成物である。
【0030】
コア層用の封止材組成物のベース樹脂として用いる高融点ポリエチレン系樹脂は、0.910g/cm以上0.930g/cm以下のポリエチレン系樹脂を用いることが好ましく、0.910g/cm以上0.920g/cm以下のポリエチレン系樹脂を用いることがより好ましい。コア層用の封止材組成物のベース樹脂の密度を上記範囲とすることにより、封止材シートの耐熱性を十分に向上させることができる。
【0031】
コア層用の封止材組成物のベース樹脂として用いるポリエチレン系樹脂の融点については、融点100℃以上120℃以下であり、融点100℃以上110℃以下であることが好ましい。コア層用の封止材組成物のベース樹脂の融点を上記融点範囲とすることにより、封止材シートの耐熱性とモールディング耐久性とを、概ね好ましい範囲内に保持することができる。
【0032】
コア層用の封止材組成物のベース樹脂として用いる高融点ポリエチレン樹脂のメルトマスフローレート(MFR)は、190℃、荷重2.16kg、において2.0g/10分以上7.5g/10分以下であることが好ましく、3.0g/10分以上6.0g/10分以下であることがより好ましい。コア層用の封止材組成物のベース樹脂のMFRを上記範囲とすることにより、封止材シートの耐熱性とモールディング耐久性とを、概ね好ましい範囲内に保持することができる。又、製膜時の加工適性を十分に高めて封止材シートの生産性の向上に寄与することができる。
【0033】
尚、本明細書中におけるMFRとは、特に断りのない限り、以下の方法により得られた値である。
MFR(g/10min):JIS K7210に準拠して測定。具体的には、ヒーターで加熱された円筒容器内で合成樹脂を、190℃で加熱・加圧し、容器底部に設けられた開口部(ノズル)から10分間あたりに押出された樹脂量を測定した。試験機械は押出し形プラストメータを用い、押出し荷重については2.16kgとした。
尚、多層の封止材シートのMFRは、全ての層が一体積層された多層状態のまま、上記処理による測定を行い、得た測定値を当該多層の封止材シートのMFR値とした。
【0034】
(低融点ポリエチレン系樹脂)
低融点ポリエチレン系樹脂とは、融点が55℃以上95℃以下のポリエチレン系樹脂であり、コア層の貯蔵弾性率(E´)を低下させる目的で含有される樹脂である。低融点ポリエチレン系樹脂の含有量は、コア層用の封止材組成物中の全樹脂成分に対して、5質量%以上50質量%以下であり、好ましくは8質量%以上30質量%以下であり、最も好ましくは、10質量%以上20質量%以下である。これらは、例えば添加用樹脂として用いてもよく、その他の添加成分をマスターバッチ化するための他の樹脂として使用してもよい。
【0035】
コア層用の封止材組成物の低融点ポリエチレン系樹脂の融点は、融点55℃以上95℃以下であり、好ましくは、融点60℃以上90℃以下である。コア層用の封止材組成物の低融点ポリエチレン系樹脂の融点を上記融点範囲とすることにより、封止材シートの耐熱性とモールディング耐久性とを、概ね好ましい範囲内に保持することができる。
【0036】
コア層用の封止材組成物の低融点ポリエチレン系樹脂の融点と含有量とは適宜調整することにより、封止材シートの耐熱性とモールディング耐久性とを、概ね好ましい範囲内に保持することができる。例えば、融点が80℃以上95℃以下のポリエチレン系樹脂を低融点ポリエチレン系樹脂として用いた場合には、低融点ポリエチレン系樹脂のコア層における含有量がコア層用の封止材組成物中の全樹脂成分に対して、5質量%以上30質量%以下であることが好ましく、8質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。又、融点が55℃以上70℃以下のポリエチレン系樹脂を低融点ポリエチレン系樹脂として用いた場合には、低融点ポリエチレン系樹脂のコア層における含有量がコア層用の封止材組成物中の全樹脂成分に対して、5質量%以上25質量%以下であることが好ましく、10質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
【0037】
低融点ポリエチレン系樹脂の密度は、0.870g/cm以上0.900g/cm以下であることが好ましく、0.880g/cm以上0.900g/cm以下であることがより好ましい。コア層用の封止材組成物の低融点ポリエチレン系樹脂の密度を上記範囲とすることにより、コア層の貯蔵弾性率(E´)を低下させ、封止材シートのモールディング耐久性を十分に向上させることができる。
【0038】
コア層用の封止材組成物の低融点ポリエチレン系樹脂のメルトマスフローレート(MFR)は、190℃、荷重2.16kg、において2.0g/10分以上7.5g/10分以下であることが好ましく、3.0g/10分以上6.0g/10分以下であることがより好ましい。コア層用の封止材組成物の低融点ポリエチレン系樹脂のMFRを上記範囲とすることにより、封止材シートの耐熱性とモールディング耐久性とを、概ね好ましい範囲内に保持することができる。又、製膜時の加工適性を十分に高めて封止材シートの生産性の向上に寄与することができる。
【0039】
[スキン層用の封止材組成物]
スキン層用の封止材組成物は、本発明の封止材シートのスキン層を成形するために用いる樹脂組成物である。スキン層用の封止材組成物としては、従来太陽電池モジュール用の封止材組成物としては、通常、架橋処理等によって耐熱性を向上させる処理を行うことによって用いられていた融点が100℃以下、より好ましくは融点が50℃以上70℃以下の、相対的に融点が低いポリエチレン系樹脂をベース樹脂として用いる。
【0040】
スキン層用の封止材組成物に含まれるスキン層用のベース樹脂の含有量は、スキン層用の封止材組成物中の全樹脂成分に対して、好ましくは60質量%以上99質量%以下、より好ましくは70質量%以上99質量%以下であり、更に好ましくは80質量%以上99質量%以下である。これらは、例えば添加用樹脂として用いてもよく、その他の添加成分をマスターバッチ化するための他の樹脂として使用してもよい。尚、本明細書において全樹脂成分という場合は、上記の他の樹脂を含む。尚、このスキン層用の封止材組成物は、架橋剤を含有せず、封止材シートの成形時に架橋工程を必要としない熱可塑系の封止材組成物である。
【0041】
スキン層用の封止材組成物のベース樹脂として用いるポリエチレン系樹脂としては、低密度ポリエチレン系樹脂(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン系樹脂(LLDPE)、又はメタロセン系直鎖低密度ポリエチレン系樹脂(M-LLDPE)を好ましく用いることができる。
【0042】
スキン層用の封止材組成物のベース樹脂として用いるポリエチレン系樹脂の密度は、好ましくは、密度0.890g/cm以上0.910g/cm以下であり、より好ましくは、0.890g/cm以上0.900g/cm以下である。スキン層用の封止材組成物のベース樹脂の密度を上記範囲とすることにより、太陽電池モジュールとしての一体化時における十分な密着性を封止材シートに付与することができる。
【0043】
又、スキン層用の封止材組成物のベース樹脂として用いる低融点ポリエチレン樹脂の融点については、融点100℃以下であればよく、融点50℃以上70℃以下であることが好ましく、融点55℃以上65℃以下であることがより好ましい。スキン層用の封止材組成物のベース樹脂の融点を100℃以下とすることにより、太陽電池モジュールとしての一体化時における十分な密着性とモールディング耐久性とを封止材シートに付与することができる。又、上記融点を更に50℃以上70℃以下とすることにより、封止材シートのガラス歪み防止性を著しく向上させて、モールディング耐久性を更に良好な範囲にまで向上させることができる。
【0044】
スキン層用の封止材組成物のベース樹脂として用いるポリエチレン系樹脂のメルトマスフローレート(MFR)は、190℃、荷重2.16kg、において2.0g/10分以上7.5g/10分以下であることが好ましく、3.0g/10分以上6.0g/10分以下であることがより好ましい。スキン層用の封止材組成物のベース樹脂のMFRを上記範囲とすることにより、封止材シートの密着性を好ましい範囲内に保持することができる。又、製膜時の加工適性を十分に高めて封止材シートの生産性の向上に寄与することができる。
【0045】
スキン層用の封止材組成物のベース樹脂として用いるポリエチレン系樹脂のメルトマスフローレート(MFR)は、190℃、荷重2.16kg、において1.0g/10分以上40g/10分以下であることが好ましく、2g/10分以上40g/10分以下であることが更に好ましい。MFRが上記の範囲であることにより、製膜時の加工適性に優れた封止材組成物とすることができる。
【0046】
[その他の材料]
コア層用の封止材組成物及びスキン層用の封止材組成物(以下、併せて「封止材組成物」とも言う)ともに、α-オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物とをコモノマーとして共重合してなるシラン共重合体(以下、「シラン変性ポリエチレン系樹脂」とも言う)を、必要に応じて、各封止材組成物に一定量含有させることがより好ましい。シラン変性ポリエチレン系樹脂は、主鎖となる直鎖低密度ポリエチレン系樹脂(LLDPE)等に、エチレン性不飽和シラン化合物を側鎖としてグラフト重合してなるものである。このようなグラフト共重合体は、接着力に寄与するシラノール基の自由度が高くなるため、太陽電池モジュールにおける他の部材への封止材シート1の接着性を向上することができる。このシラン変性ポリエチレン系樹脂の封止材組成物中の含有量は、コア層用の封止材組成物においては、コア層用の封止材組成物中の全樹脂成分に対して2質量%以上20質量%以下、スキン層用の封止材組成物においては、スキン層用の封止材組成物中の全樹脂成分に対して5質量%以上40質量%以下であることが好ましい。特にスキン層用の封止材組成物には、10質量%以上のシラン変性ポリエチレン系樹脂が含有されていることがより好ましい。尚、上記のシラン変性ポリエチレン系樹脂におけるシラン変性量は、1.0質量%以上3.0質量%以下程度であることが好ましい。上記の封止材組成物中における好ましいシラン変性ポリエチレン系樹脂の含有量範囲は、上記シラン変性量がこの範囲内であることを前提としており、この変性量の変動に応じて適宜微調整することが望ましい。
【0047】
シラン変性ポリエチレン系樹脂は、例えば、特開2003-46105号公報に記載されている方法で製造でき、当該樹脂を太陽電池モジュール用の封止材組成物の成分として用いることにより、強度、耐久性等に優れ、且つ、耐候性、耐熱性、耐水性、耐光性、耐風圧性、耐降雹性、その他の諸特性に優れ、更に、太陽電池モジュールを製造する加熱圧着等の製造条件に影響を受けることなく極めて優れた熱融着性を有し、安定的に、低コストで、種々の用途に適する太陽電池モジュールを製造しうる。
【0048】
封止材組成物には、適宜、密着性向上剤を添加することが好ましい。密着性向上剤の添加により、他基材との密着耐久性をより高いものとすることができる。密着性向上剤としては、公知のシランカップリング剤を用いることができるが、エポキシ基を有するシランカップリング剤(以下、エポキシ系シランカップリング剤とも言う。)又はメルカプト基を有するシランカップリング(以下、メルカプト系シランカップリング剤とも言う。)を、特に好ましく用いることができる。
【0049】
エポキシ系シランカップリング剤又はメルカプト系シランカップリング剤については、いずれを用いても、太陽電池モジュール用の封止材シートのガラス、金属、及びポリアミド系樹脂への密着性を同時に高めることができる。この目的を達成するために、いずれのシランカップリング剤も好ましく用いることができる。
【0050】
エポキシ系シランカップリング剤とは、一般式[R3-Si-R4(3-m)R5](mは1~3の整数を表し、R3はエポキシ基を表し、R4はアルキル基を表し、R5はアルコキシ基を表す)で表されるものであり、例としては、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。これらは単独又は2種以上使用してもよい。尚、エポキシ系のシランカップリング剤は特に限定されず、公知のシランカップリング剤を好ましく用いることができる。例えば、「KBM303」、「KBM-403」(いずれも「信越シリコーン株式会社」製)があり、市場から容易に入手できる。
【0051】
メルカプト系シランカップリング剤とは、一般式[R1-Si(OR2)](R1はメルカプトアルキル基を、R2はアルキル基をそれぞれ表わす)で表されるものであり、例としては、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトメチルトリメトキシシラン及びγ-メルカプトエチルトリメトキシシラン等があげられる。尚、メルカプト系のシランカップリング剤は特に限定されず、公知のシランカップリング剤を好ましく用いることができる。例えば、「KBM802」(信越シリコーン株式会社製)があり、市場から容易に入手できる。
【0052】
封止材シートの金属との密着性については、上述した通り、主として、シランカップリング剤の添加によって向上するが、その際、シラン共重合体が封止材組成物中に含有されていると、ガラス密着性も併せて十分に向上する。封止材組成物中に、シラン共重合体と特定のシランカップリング剤を適切に組合せて添加することにより、金属とガラスに対する密着性を同時に好ましい範囲に向上することができる。
【0053】
密着性向上剤として、シランカップリング剤を添加する場合、その含有量は、封止材組成物の全樹脂成分に対して0.1質量%以上10.0質量%以下であり、上限は好ましくは5.0質量%以下である。シランカップリング剤の含有量が上記範囲にあり、且つ、封止材組成物を構成するポリオレフィン系の樹脂に適量のエチレン性不飽和シラン化合物の含量されているときには、密着性がより好ましい範囲へと向上する。尚、この範囲を超えると、製膜性が低下したり、又、シランカップリング剤が経時により凝集固化し封止材シート表面で粉化する、所謂ブリードアウトが発生する場合があり好ましくない。
【0054】
封止材組成物には、更にその他の成分を含有させることができる。例えば、封止材シートに耐候性を付与するための耐候性マスターバッチ、各種フィラー、光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等の成分が例示される。これらの含有量は、その粒子形状、密度等により異なるものではあるが、それぞれ封止材組成物中に0.001質量%以上5質量%以下程度の範囲内であることが好ましい。これらの添加剤を含むことにより、封止材シートに、長期に亘る安定した機械強度や、黄変やひび割れ等の防止効果等を付与することができる。
【0055】
<封止材シート>
封止材シート1は、コア層11を有し、コア層11の両面にスキン層12が配置されている。但し、コア層が多層構造を有し当該コア層内にその他の機能層が配置されている封止材シートであっても、本発明の構成要件を備えるコア層とスキン層を備え、且つ、本発明のその他の構成要件を備える封止材シートである限り本発明の範囲内である。
【0056】
コア層11とスキン層12を含む3層構造の封止材シート1の総厚さは250μm以上600μm以下であることが好ましく、300μm以上550μm以下であることがより好ましい。総厚さが250μm未満であると充分に衝撃を緩和することができないが、総厚さが250μm以上であれば、例えば、総厚さ250μm程度に封止材シート1を薄膜化した場合においても、モールディング耐久性と耐熱性とを十分に好ましい水準において兼ね備えるものとすることができる。尚、総厚さが600μmを超えた場合、それ以上の衝撃緩和効果向上の効果は得がたく、太陽電池モジュールの薄膜化の要請にも対応できず、且つ、不経済であるので好ましくない。
【0057】
又、封止材シート1におけるコア層11の厚さは、好ましくは、200μm以上400μm以下であり、より好ましくは、250μm以上350μm以下である。又、スキン層12の各層毎の厚さは、好ましくは、30μm以上100μm以下であり、より好ましくは、35μm以上80μm以下である。又、コア層の両面に積層されている2層のリード線32スキン層12の総厚さは、封止材シート1の総厚さの1/20以上1/3以下であり、好ましくは、1/15以上1/4以下である。封止材シート1の各層の厚さをこのような範囲とすることにより、封止材シート1の耐熱性とモールディング耐久性を良好な範囲に保持することができる。
【0058】
又、封止材シート1は、コア層の11の貯蔵弾性率(E´)が、1.0×10Pa以上1.0×10Pa以下の範囲であることが好ましく、1.0×10Pa以上5.0×10Pa以下の範囲であることがより好ましい。封止材シート1の成形後のコア層11の貯蔵弾性率(E´)が、上記範囲となるようにすることにより、封止材シート1を、耐熱性とモールディング耐久性とが、極めて高い水準で両立されたものとすることができる。
【0059】
上記封止材シートのシート化は、通常の熱可塑性樹脂において通常用いられる成形法、即ち、射出成形、押出成形、中空成形、圧縮成形、回転成形等の各種成形法により行われる。封止材シートが多層フィルムである場合のシート化の方法としては、一例として、3種の溶融混練押出機による共押出により成形する方法が挙げられる。
【0060】
但し、上記いずれの成形方法においても、封止材シート1の製造における溶融成形温度は、当該封止材組成物に含有されるコア層用の封止材組成物のベース樹脂の融点+30℃以上であることが好ましい。具体的には175℃以上230℃以下の高温とすることが好ましく、190℃以上210℃以下の範囲の高温とすることがより好ましい。封止材シート1に用いる封止材組成物は、架橋剤を含有しない熱可塑系の組成物であるため、溶融成形中の不都合な架橋進行の制御を考慮する必要がない。これにより、ポリエチレン系樹脂をベース樹脂とする封止材シートの製造においては、従来一般的であった架橋処理を必須とする熱硬化型の封止材組成物を用いた場合の温度制限から解法され、生産性を向上させるために、より高い高温度域に溶融成形温度を設定することができる。これにより、封止材シート1は、従来の熱硬化型の封止材シートよりも高い生産性の下で製造することができる。
【0061】
本実施形態の封止材シートは、融点が特定の高融点範囲にあるコア層用の封止材組成物のベース樹脂とし、融点が特定の低融点範囲にあるスキン層用の封止材組成物の樹脂を、本願特有の配合比で含有するものとすることにより、入手容易な汎用性の高い樹脂からなるものでありながら、従来品において両立が困難であった、耐熱性とモールディング耐久性を、太陽電池用の封止材シートとして極めて好ましい水準において、両立させたものである。又、この封止材シートは、架橋処理が不要であり、且つ、入手容易な汎用性の高い樹脂によって製造可能であり、生産性向上の観点においても極めて好ましいものである。
【0062】
<太陽電池モジュール>
封止材シート1を用いた太陽電池モジュール10の基本構成について、図2を参照しながら説明する。太陽電池モジュール10は、入射光の受光面側から、透明前面基板2、透明前面基板2の表面上に配置された薄膜系の太陽電池素子3、封止材シート1、及び裏面保護カバー4が順に積層された構成である。封止材シート1は、太陽電池素子3の非受光面側に積層されている。
【0063】
ここで、太陽電池モジュール10には、図3に示す通り、太陽電池素子3の非受光面側の表面上には、金属電極31や集電用のリード線32による凹凸が存在する。従来のポリエチレン系樹脂をベース樹脂とする封止材シートを用いた場合、架橋処理や単なる高密度化によって耐熱性を担保しようとすると、図4に示すように、モールディング耐久性の不足によって、過酷な環境での長期使用後に空隙Vの形成が起こる場合があり、これが問題となっていた。
【0064】
しかし、耐熱性とモールディング耐久性とを高い水準で両立させた封止材シート1を、この凹凸面に配置した場合には、封止材シート1は、図3に示す通り、太陽電池素子3の非受光面側の表面上に存在する金属電極31や集電用のリード線32による凹凸にも十分に回り込み、この状態を維持するモールディング耐久性にも優れるため、上記の空隙Vの形成を防ぐことができる。
【0065】
より具体的には、リード線32が厚さ(d)250μm程度以上の肉厚のリード線である場合に、封止材シート1は、従来品とは顕著に異なる特段の効果を発揮する。例えば、図4に示すように、肉厚のリード線32が配置されている場合に、従来の一般的なポリエチレン樹脂からなる封止材シート1Aを、当該凹凸面上に配置したとき、一般的には、封止材シート1Aの厚さ(d)に対するリード線32の厚さ(d)が、大凡の目安として、50%を超えた場合に、上記の空隙Vの形成が問題となることが多かった。しかし、図2に示すように、封止材シート1をこのような凹凸面に配置した場合においては、封止材シート1の厚さ(d)に対するリード線32の厚さ(d)が90%以下であれば、上記の空隙Vの形成を十分に防ぐことができる。尚、本発明においては、リード線が交差して配置されている場合等、複数のリード線が積層されている状態が存在する場合においては、積層されている部分におけるそれらの複数のリード線の厚さの合計を、上記に言うところの「リード線の厚さ」と考えるものとする。
【0066】
透明前面基板2は、太陽電池モジュール10の耐候性、耐衝撃性、耐久性を維持しつつ、且つ、太陽光線を高い透過率で透過させるものであれば特定の材料からなるものに限定されないが、透明前面基板2がガラス基板である場合に、封止材シート1は、その優れたガラス及び金属密着性に基づいて、従来品とは顕著に異なる特段の効果を発揮する。
【0067】
太陽電池素子3としては、例えば、アモルファスシリコン型、結晶シリコン型、CdTe型、CIS型、GaAs型、その他、特に限定なく従来公知の様々な太陽電池素子を用いることができる。
【0068】
裏面保護カバー4は、水蒸気バリア性や耐候性等太陽電池モジュールの最外層に配置される保護層に通常求められる物性を有する樹脂シートを用いることができる。又、裏面保護カバー4は、透明前面基板2と同様のガラス基板であってもよい。封止材シート1は、金属及びガラスのいずれにも良好な密着性を有するものであるため、裏面保護カバー4がガラス製の基板である場合にも好ましく用いることができる。
【0069】
又、太陽電池モジュール10の層構成は、上記実施形態に限られない。封止材シート1は、ガラスと金属の両方に対して密着性を有するため、その特性を生かして、ガラス基材と金属性の太陽電池モジュールを含む様々な構成の太陽電池モジュールに好ましく用いることができる。例えば、太陽電池モジュールにおいて、封止材シートの一方の面が金属面と対向し、もう一方の面がガラス層と対向する構成となる場合においても、封止材シート1を好ましく用いることができる。
【0070】
更に、本発明の太陽電池モジュールの好ましい他の実施形態として、集電シートと、封止材シート1と、が一体化されている構成を含む太陽電池モジュールを挙げることができる。集電シートとは、一般にはバックコンタクト型の太陽電池素子からの集電を目的として配置される太陽電池モジュールの構成部材であり、樹脂基材の表面に集電用の導電性の回路が形成されているものである。この集電シートの回路及び太陽電池素子上に積層する封止材シートには、衝撃緩衝機能や、更には絶縁機能まで求められるため、集電シート上の凹凸形状に対するモールディング耐久性については、特段に高い水準の物性が要求される。上述の通り、本発明の封止材シートは、極めて良好なモールディング耐久性を有するものであるため、上記構成を含む太陽電池モジュールにおいても、好ましく用いることができる。
【0071】
太陽電池モジュール10は、例えば、太陽電池素子3を形成した透明前面基板2、封止材シート1、及び裏面保護カバー4からなる部材を順次積層してから真空吸引等により一体化し、その後、ラミネーション法等の成形法により、上記の部材を一体成形体として加熱圧着成形して製造することができる。
【0072】
以上、実施形態を示して本発明を具体的に説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲において、適宜変更を加えて実施することができる。
【実施例0073】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
<太陽電池モジュール用の封止材シートの製造>
以下において説明する封止材組成物原料を下記表1の割合(質量部)で混合し、それぞれ実施例、比較例の封止材シートのコア層用の封止材組成物及びスキン層用の封止材組成物とした。それぞれの封止材組成物をφ30mm押出し機、200mm幅のTダイを有するフィルム成形機を用いて、押出し温度210℃、引き取り速度1.1m/minでコア層用及びスキン層用とするための各樹脂シートを作製し、これらの各樹脂シートを積層して、コア層と両最表面に配置されるスキン層とを備える実施例及び比較例の3層構造の封止材シートを製造した。実施例及び比較例の各封止材シートの厚さは、いずれも、総厚さ450μmとした。実施例及び比較例の3層構造の封止材シートの各層の厚さの比については、いずれの封止材シートについてもスキン層:コア層:スキン層の厚さ比が、1:8:1(スキン層(2層の合計)の総厚さが、封止材シートの総厚さの1/4)となるようにした。
【0075】
封止材シート用の各樹脂シートを成形するための封止材組成物原料としては、以下の原料を使用した。
【0076】
(コア層用の封止材組成物用のベース樹脂)
樹脂1(表中にて「1」と表記、以下同様):密度0.919g/cm、融点105℃、190℃でのMFRが3.5g/10分であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(M-LLDPE)。
樹脂2:密度0.880g/cm、融点60℃、190℃でのMFRが3.5g/10分であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(M-LLDPE)。
樹脂3:密度0.898g/cm、融点90℃、190℃でのMFRが3.5g/10分であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(M-LLDPE)。
【0077】
(スキン層用の封止材組成物用のベース樹脂)
樹脂3:実施例1~5の封止材シートのスキン層用の封止材組成物のベース樹脂として、上記の樹脂3(融点90℃)を用いた。
樹脂2:実施例6~8の封止材シートのスキン層用の封止材組成物のベース樹脂として、上記の樹脂2(融点60℃)を用いた。
【0078】
(その他の添加剤)
耐候剤マスターバッチ:樹脂(密度0.919g/cm、融点105℃、190℃でのMFRが3.5g/10分の低密度ポリエチレン系樹脂)100質量部に対して、KEMISTAB62(HALS):0.6質量部。KEMISORB12(UV吸収剤):3.5質量部。KEMISORB79(UV吸収剤):0.6質量部。CHIMASORB202(UV吸収剤):0.07質量部添加。耐候剤マスターバッジは、全ての実施例、比較例のコア層用及びスキン層用の組成物に10質量部ずつ添加した。
シラン変性ポリエチレン系樹脂:密度0.900g/cm、MFRが2.0g/10分であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂100質量部に対して、ビニルトリメトキシシラン2質量部と、ラジカル発生剤(反応触媒)としてのジクミルパーオキサイド0.15質量部とを混合し、200℃で溶融、混練して得たシラン変性ポリエチレン系樹脂。密度0.900g/cm、MFR1.0g/10分。融点90℃。シラン変性ポリエチレン系樹脂は、全ての実施例、比較例のコア層用の組成物に3質量部ずつ、同スキン層用の組成物に15質量部ずつ添加した。
【0079】
<各層の貯蔵弾性率(E´)>
実施例、比較例のコア層の貯蔵弾性率(E´)をそれぞれ単膜にて以下の測定方法により、DMA測定し、85℃時点での貯蔵弾性率(E´)を各試料毎に比較した。
(測定方法) 実施例、比較例の封止材シートを5mm×20mmに切り出したものを試料とし、UBM社製レオゲル・E-4000で測定を実施。引っ張りモードにて下記条件のもと測定した。
初期荷重100g、連続加振モード、波形:正弦波、周波数10hz、昇温速度3℃/min.
結果を表1に示す。
【0080】
尚、コア層の貯蔵弾性率(E´)は、多層の封止材シートの全層の貯蔵弾性率(E´)と、各層の組成や各層の厚さ比からも推定可能である。具体的な例として、上記測定方法によって、実施例1の多層の封止材シートについて全層での貯蔵弾性率(E´)を測定したところ、同封止材シートのコア層単膜の貯蔵弾性率(E´)が、1.50×10Pa(表1参照)であるのに対して、全層における貯蔵弾性率(E´)は、1.40×10Paであった。スキン層の厚さ比が所定の厚さ比内に限定されている本発明の封止材シートにおいて、スキン層の物性の影響によって全層の貯蔵弾性率(E´)が微減しているが、その変動量は、上記程度のごく僅かな変動であることが確認されている。
【0081】
<評価例1:ガラス歪み防止性>
表面がフラットな370mm×370mm×3.2mmtのソーダライムガラスの面上に、リード線(幅25mm、長さ350mm、高さ350μm)を配置し、更に当該リード線を覆って、370mm×370mmにカットした実施例、比較例の各封止材シートを積層し、更に370mm×370mm×3.2mmtのソーダライムガラスを積層したものを、設定温度165℃、真空引き3分、大気圧加圧7分で真空加熱ラミネータ処理を行い、それぞれの実施例、比較例について太陽電池モジュール評価用サンプルを得た。評価基準は下記の通りとした。
マイクロメーターを用いてリード線端部から150mmの位置の直上における上記評価用サンプルの総厚さと、リード線の直上から60mm横方向に離れた位置における同サンプルの総厚さを測定し、それらの厚さの差分を求め、下記の評価基準により、ガラス歪み防止性を評価した。
尚、上記太陽電池モジュール評価用サンプルについて50℃に恒温したオーブンに48時間保管試験後の状態を目視観察したところ、ガラス歪み防止性が85μm未満(評価A)の場合、50℃保管試験後のリード線凹凸周辺の空隙の形成は観察されなかった。85μm以上100μm未満(評価B)の場合、2mm以内の気泡が5個以内観察された。100μm以上(評価C)の場合、リード線凹凸周辺に空隙が観察された。
(評価基準) A:85μm未満
B:85μm以上100μm未満
C:100μm以上
評価結果を「ガラス歪み」として表1に記す。
【0082】
<評価例2:モールディング耐久性>
表面がフラットな白板強化ガラスの面上に、リード線(250μm径)を配置し、更に当該リード線を覆って、150mm×150mmにカットした実施例、比較例の各封止材シートを積層したものを設定温度165℃、真空引き3分、大気圧加圧7分で真空加熱ラミネータ処理を行い、それぞれの実施例、比較例について太陽電池モジュール評価用サンプルを得た。この加熱処理中におけるラミネート中の封止材シートの樹脂温度(到達温度)は162℃であった。これらの太陽電池モジュール評価用サンプルについて、下記ダンプヒート(D.H.)試験後の状態を目視観察し、下記の評価基準により、モールディング耐久性を評価した。D.H.試験は、JIS C8917に準拠し、試験槽内温度85℃、湿度85%の条件下で評価用サンプルモジュールの耐久性試験を500時間行った。
(評価基準) A:封止材シートが対面する基材面の凹凸に完全に追従。空隙の形成は観察されなかった。
B:2mm以内の気泡が5個以内観察された。
C:封止材シートの一部が対面する基材面の凹凸に完全に追従せず、リード線の近辺に一部ラミネート不良部分(空隙)が形成された。
評価結果を「モールディング耐久性」として表1に記す。
【0083】
<評価例3:耐熱性試験>
耐熱性試験として耐熱クリープ試験を行った。評価例1と同じガラス板に5cm×7.5cmに切り出した実施例、比較例の封止材シートを1枚重ね置き、その上から5cm×7.5cmの評価例1と同じガラス板を重ね置き、上記評価例1と同条件で真空加熱ラミネータ処理を行い評価用試料を作成した。この後、大判ガラスを垂直に置き、105℃で12時間放置し、放置後の5cm×7.5cmのガラス板の移動距離(mm)を測定し、評価した。評価は以下の基準で行った。
(評価基準) A:0.00mm
B:0.00mm超え1.0mm未満
C:1.0mm以上
評価結果を「耐熱性」として表1に記す。
【0084】
【表1】
【0085】
表1より、実施例の封止材シートは、モールディング耐久性、耐熱性を高い水準で備えた封止材シートであることが分かる。以上より、本発明の封止材シートは、架橋工程が不要で生産性が高く、且つ、耐熱性とモールディング耐久性を高い水準で兼ね備えた太陽電池モジュール用の封止材シートであることが分かる。
【0086】
又、表1からは、スキン層のベース樹脂であるポリエチレン系樹脂の融点を50℃以上70℃以下の範囲に特定した実施例6から8の封止材シートは、ガラス歪み防止性に極めて優れるものであることも分かる。これらの封止材シートは、その高水準のモールディング耐久性、耐熱性と併せて、特に、太陽電池素子の金属電極や集電用のリード線等による凹凸が存在する太陽電池素子の非受光面側へこれを配置し、尚且つ、裏面保護カバーがガラス製の保護カバーである構成の太陽電池モジュールに用いる封止材シートとして極めて優れたものであることが分かる。
【符号の説明】
【0087】
1 封止材シート
11 コア層
12 スキン層
2 透明前面基板
3 太陽電池素子
31 金属電極
32 リード線
4 裏面保護カバー
10 太陽電池モジュール
図1
図2
図3
図4