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特開2024-63220エネルギーに関してスケーラブルなテラヘルツ放射を生成する方法および機構
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063220
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】エネルギーに関してスケーラブルなテラヘルツ放射を生成する方法および機構
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/35 20060101AFI20240501BHJP
【FI】
G02F1/35
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024035155
(22)【出願日】2024-03-07
(62)【分割の表示】P 2019144584の分割
【原出願日】2019-08-06
(31)【優先権主張番号】18187615.2
(32)【優先日】2018-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】518110741
【氏名又は名称】ペーチ チュードマニゲエテム
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エブリン ヤノス
(72)【発明者】
【氏名】アルマシ ガボル
(72)【発明者】
【氏名】パールファルヴィ ラスロ
(72)【発明者】
【氏名】フュレプ ヨーゼフ アンドラス
(72)【発明者】
【氏名】クリジャーン ジェーゴ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】テラヘルツ放射を生成する新規な技法を提供する。
【解決手段】新ポンプビーム(12)はポンプビームにパルスフロント傾斜を施すことによって事前傾斜され、得られた傾斜パルスフロントポンプビームは次いで非線形光学媒体に結合され、光学媒体において、ポンプビームを用いた非線形光学過程によって、特に光整流によって、THz放射が生成される。速度整合条件を満足するポンプビームのパルスフロント傾斜は、複数のパルスフロント傾斜の合計としてもたらされ、各パルスフロント傾斜は、続くステップにおいてポンプビームの部分的なパルスフロント傾斜として個別に誘導され、ポンプビームのパルスフロント傾斜の最後のステップは、ポンプビームを、非線形光学媒体の出射表面(52)とゼロ以外の所定のサイズの角度(Γ)を形成している非線形光学媒体の入射表面(51)に形成された階段構造(40)を介して、非線形光学媒体に結合する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非線形光学媒体(50)においてテラヘルツ放射(60)を生成するための方法であって、
ポンプビーム(12)は前記ポンプビームにパルスフロント傾斜を施すことによって事前傾斜され、このようにして得られた傾斜パルスフロントポンプビームは前記非線形光学媒体に結合され、前記光学媒体において、前記ポンプビームを用いた非線形光学過程によって、特に光整流によって、THz放射が生成され、
p,cscos(γ)=vTHz,fの速度整合条件を満足するために必要な前記ポンプビームのパルスフロント傾斜は、複数のパルスフロント傾斜の合計としてもたらされ、各パルスフロント傾斜は、続くステップにおいて前記ポンプビームの部分的なパルスフロント傾斜として個別に誘導され、ここでvp;csは前記ポンプビームの群速度であり、vTHz;fはTHzパルスの位相速度であり、γは前記ポンプビーム(12)のパルスフロントと位相フロントとの間に形成される角度であり、
前記ポンプビーム(12)のパルスフロント傾斜の最後のステップは、階段構造(40)を介して前記ポンプビーム(12)を前記非線形光学媒体に結合することによって行われ、
前記非線形光学媒体は、ゼロ以外の所定のサイズの角度(Γ)を互いと形成している、前記ポンプビームの伝播方向において前記非線形光学媒体の境界となる入射表面(51)および出射表面(52)を備え、
前記階段構造(40)は前記入射表面(51)に形成されていることを特徴とする、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記ポンプビーム(12)は、少なくとも5フェムト秒、最大で数百フェムト秒のパルス長を有する、可視、近赤外、または中赤外領域内のレーザパルスであることを特徴とする、方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法であって、前記ポンプビーム(12)のパルスフロント傾斜の一番最初のステップは、前記ポンプビーム(12)を角分散誘導特性を有する光学素子(20)を通して導くことによって行われ、角分散誘導特性を有する前記光学素子は、回折ベースの光学素子、屈折ベースの光学素子、前記回折ベースの素子と屈折ベースの素子の組み合わせとして実装される光学素子を含む群から選択されることを特徴とする、方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の方法であって、角分散誘導特性を有する前記光学素子(20)から出て行く前記ポンプビーム(12)は、イメージング光学系を通って前記階段構造(40)へと導かれることを特徴とする、方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の方法であって、前記事前傾斜を行う角分散誘導特性を有する前記光学素子(20)は透過格子であり、前記事前傾斜の程度は、前記透過格子がリトロー型構成でまたは前記リトロー型構成に近い構成で使用される場合に、前記透過格子と前記非線形光学媒体(50)の前記入射表面(51)が互いに実質的に平行に配置されるように定められ、この結果最大の回折効率がもたらされることを特徴とする、方法。
【請求項6】
ポンプビーム(12)を発するためのポンプ源(10)と、THzパルスを生成するための非線形光学媒体と、を備え
前記ポンプ源(10)および前記非線形光学媒体(50)は共に光経路を画定し、前記光経路は、前記ポンプ源(10)から前記光経路の境界となる前記非線形光学媒体(50)の入射表面(51)へと前記ポンプビーム(12)を導くように配置されており、
前記光経路内には角分散誘導特性を有する光学素子(20)が配置されている、
テラヘルツ放射源(100)であって、
前記非線形光学媒体は、前記入射表面と共に前記ポンプビームの伝播方向において前記非線形光学媒体の境界となる出射表面を更に備え、前記入射表面および出射表面は互いとゼロ以外の所定のサイズの角度(Γ)を形成しており、
前記非線形光学媒体(50)の前記入射表面(51)に階段構造(40)が形成されていることを特徴とする、テラヘルツ放射源(100)。
【請求項7】
請求項6に記載の放射源(100)であって、前記階段構造は第1の方向に沿って前記階段構造の表面上に周期的に次々と配置された段(41)よって形成されており、前記段(41)の各々は2つの短手縁部(41b、41c)と1つの長手縁部(41a)とを有し、前記長手縁部は両短手縁部に対して垂直に延在することを特徴とする、放射源(100)。
【請求項8】
請求項6または7に記載の放射源(100)であって、角分散誘導特性を有する前記光学素子(20)と前記非線形光学媒体(50)の前記入射表面との間の前記光経路内に、イメージング光学系が配置されていることを特徴とする、放射源(100)。
【請求項9】
請求項6から8のいずれか1項に記載の放射源(100)であって、角分散誘導特性を有する前記光学素子(20)は、回折ベースの光学素子、屈折ベースの光学素子、ならびに前記回折ベースの光学素子および屈折ベースの光学素子の組み合わせとして実装される光学素子を含む群から選択され、好ましくは角分散誘導特性を有する前記光学素子は透過格子であることを特徴とする、放射源(100)。
【請求項10】
請求項6、7、または9に記載の放射源(100)であって、角分散誘導特性を有する前記光学素子(20)は、前記ポンプビームの事前傾斜を行うように構成された透過格子であり、前記事前傾斜の程度は、前記透過格子がリトロー型構成でまたは前記リトロー型構成に近い構成で使用される場合に、前記透過格子と前記非線形光学媒体(50)の前記入射表面(51)が互いに実質的に平行に配置されるように定められ、この結果最大の回折効率がもたらされることを特徴とする、放射源(100)。
【請求項11】
請求項6から8および10のいずれか1項に記載の放射源(100)であって、前記階段構造を形成している前記段(41)の境界面は互いに垂直であり、前記境界面は前記短手縁部の一方(41b)および前記長手縁部(41a)によってならびに前記短手縁部の他方(41c)および前記長手縁部(41a)によって画定されていることを特徴とする、放射源(100)。
【請求項12】
請求項6から8および10から11のいずれか1項に記載の放射源(100)であって、前記階段構造を形成する前記段(41)の前記2つの短手縁部(41b、41c)の寸法(w、h)は、前記ポンプビーム(12)の波長よりも数桁、好ましくは少なくとも1桁または2桁大きいことを特徴とする、放射源(100)。
【請求項13】
請求項12に記載の放射源(100)であって、各段(41)の前記2つの短手縁部(41b、41c)の前記寸法(w、h)は、少なくとも数十マイクロメートルの範囲内にあることを特徴とする、放射源(100)。
【請求項14】
請求項6から13のいずれか1項に記載の放射源(100)であって、前記非線形光学媒体は格別に高い非線形光学係数を有する材料から作製され、その屈折率はテラヘルツ領域および可視領域において著しく異なることを特徴とする、放射源(100)。
【請求項15】
請求項6から14のいずれか1項に記載の放射源(100)であって、前記非線形光学媒体は、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)結晶またはタンタル酸リチウム(LiTaO3)結晶を含むことを特徴とする、放射源(100)。
【請求項16】
請求項6から15のいずれか1項に記載の放射源(100)であって、前記ポンプビームは、少なくとも5フェムト秒、最大で数百フェムト秒のパルス長を有する、可視、近赤外、または中赤外領域内のレーザパルスであることを特徴とする、放射源(100)。
【請求項17】
請求項15に記載の放射源(100)であって、前記非線形光学媒体(50)はニオブ酸リチウムから作製され、前記事前傾斜の程度は実質的にγ=69°であることを特徴とする、放射源(100)。
【請求項18】
請求項1から5のいずれか1項に記載の方法であって、ゼロ以外の所定のサイズである前記角度(Γ)の値は、最大で20°であり、より好ましくは最大で15°であり、最も好ましくは最大で10°であることを特徴とする、方法。
【請求項19】
請求項6から17のいずれか1項に記載の放射源であって、ゼロ以外の所定のサイズである前記角度(Γ)の値は、最大で20°であり、より好ましくは最大で15°であり、最も好ましくは最大で10°であることを特徴とする、放射源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ放射を生成するための方法および機構に関する。特に、本発明は、生成されるテラヘルツパルスのビーム特性およびエネルギースケーラビリティが向上している、テラヘルツパルスを生成するための効率の向上した新規な方法および機構に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、例えば電子または陽子などの荷電粒子の加速は、実質的に0.1から10THz(契約内容による)の範囲内に収まる周波数を有する高強度のテラヘルツ(THz)パルスの、新しい有望な応用分野である。テラヘルツパルスは通常、超短光パルス、すなわちフェムト秒(fs)からピコ秒(ps)領域のパルス長を有する光パルスを、全体に非線形光学特性を有する結晶に結合することにより、その結晶内での光整流によって生成される。この目的のために、通常は、数百フェムト秒のパルス長を有する可視または近赤外のポンプパルスが使用される。
【0003】
効率的なテラヘルツ放射生成を実現するためには、いわゆる速度整合条件を満たさなければならない。このことは、生成に使用されるポンプパルスの群速度が、このように生成されるTHzパルスの位相速度と等しくなければならないことを意味する。前記速度が互いに近ければ、すなわち、非線形結晶のポンピングの周波数での群屈折率とTHz領域における屈折率との差が妥当に小さい程度のみであれば、既知の手段によってこの条件の充足が達成可能である。
【0004】
(結晶)材料の2次非線形光学係数は、テラヘルツ放射生成の効率に決定的な影響を与える。前記係数が大きく(典型的には数10pm/V’sを上回り)上述した屈折率の差もまた大きい、一部の材料では、速度整合でのテラヘルツ放射生成は達成できなくなる。これはいくつかの材料、例えば燐化ガリウム(GaP)、テルル化亜鉛(ZnTe)などの一部の半導体、ならびに、格別に高い(160から170pm/V)非線形光学係数を有するニオブ酸リチウム(LN)およびタンタル酸リチウム(LT)の場合に当てはまり、このとき、ポンプ周波数での群屈折率とTHz領域内での位相屈折率との比は、2よりも大きい。この問題の解決法が、傾斜パルスフロント技法である(J.ヘブリングら(J.Hebling et al.)による、Optics Express、10巻、21号、1161~1166ページ(2002)、「Velocity matching by pulse front tilting for large-area THz-pulse generation」と題する論文を参照)。これによれば、テラヘルツ放射の生成は、パルスフロント(強度フロント)が波面に対して所望の角度(γ)を成している光パルスによって実行される。生成されるTHzビームは、前記速度整合条件に起因して傾斜パルスフロントに対して垂直に伝播するので、THz放射伝播の方向に沿ったポンピング群速度vp,csの投影は、THzビームの位相速度vTHz,fと等しくなければならない、すなわち、
p,cscos(γ)=vTHz,f (1)
の関係を満たさねばならない。特に、近赤外領域内のポンプ波長に関して、約100Kから約293~298Kすなわち室温までの範囲の温度において、LNについてはγ≒62°から63°、LTについてはγ≒68°から69°、およびZnTeについてはγ≒22°から29°で、この関係がそれぞれ満足される。
【0005】
現在のところ、粒子加速に適した(すなわち約0.2から1.0THzの)周波数を有する最高のエネルギーのTHzパルスは、LN結晶によっておよび傾斜パルスフロント技法を活用することによって生成可能である(J.A.フュレプら(J.A.Fulop et al.)による、Optics Express、22巻、17号、20155~20163ページ(2014)、「Efficient generation of THz pulses with 0.4 mJ energy」と題する論文を参照)。この刊行物に記載されている、0.43mJのパルスエネルギーを生じさせる高エネルギーTHz放射源は、非線形光学結晶としてプリズム形状のLN結晶を常時使用する。この理由は、一方では、反射損失を最小にするためには、ポンプパルスが結晶に垂直に入射しなければならず、また生成されるTHzパルスがそこから同じく垂直に出射しなければならないことである。他方では、THzビームを直角に出力結合することによって、このビームに角分散が生じないことを保証でき、このことは更なる利用の観点からは非常に重要な要件である。したがって、上記の速度整合条件(1)を満たすためには、LN結晶の出射面は、LN結晶の入射面と、角度γに等しいくさび角度を形成しなければならない。
【0006】
LN結晶の場合のくさび角度は大きいので(γ≒63°)、高エネルギーTHz生成において、この媒体をTHz放射を生成するためのプリズムの形態で使用することは、このように生成されるTHzビームの品質にとって非常に弊害がある。その理由は、高エネルギーTHzパルスを生成するのに必要な幅広のポンプビームに関して、ポンプビームの断面視して互いに反対側にある2つの側に形成されているTHzパルスは著しく異なる長さにわたって生成され、したがって吸収および分散を受ける程度が様々であり、更に、LN結晶の前記生成の位置における非線形効果もまた異なるからである。したがって、ポンプパルスの上記2つの側に対称に位置付けられた部分において生成されるTHzパルスの強度ならびに一時的電界プロファイルは著しく異なる、すなわち、得られるTHzビームは非常に非対称的で品質が悪い。効率的な粒子加速を実現するための重要な基準は、加速される粒子と、加速のために使用される制御可能な一時的プロファイルの電界強度を有するパルスとの間で、精確な同期を維持することである。このため、このようにして得られる低いビーム品質の非対称なTHzビームは、同期に適さず、したがって効率的な粒子加速に適さない。
【0007】
従来の傾斜パルスフロント技法では、ポンプビームのパルスフロント傾斜は一般に、前記ポンプビームをビーム経路内に配置されている(反射または透過)光学格子上で回折させることによって得られる。次いで、このビームがレンズまたはテレスコープを通してテラヘルツ放射生成用の非線形結晶内へとイメージングによって導かれる。結晶の内側に、格子の表面上のビームスポットの像が作り出される。従来の傾斜パルスフロントTHz放射源のイメージング誤差は、ポンプパルスのひずみを引き起こす、すなわち、前記誤差は結果的にポンプパルス長の局所的な増大をもたらす(L.パルファルヴィら(L.Palfalvi et al.)による、Applied Physics Letters、92巻、1号、171107~171109ページ(2008)、「Novel setups for extremely high power single-cycle terahertz pulse generation by optical rectification」と題する論文、および、フュレプら(Fulop et al.)による、「Design of high-energy terahertz sources based on optical rectification」(Optics Express、18巻、12号、12300~12327ページ(2010)を参照)と題する論文を参照。断面の大きいポンプビーム(すなわち幅広のビーム)の場合、この効果はテラヘルツ放射生成の効率にとって非常に弊害がある。これを是正するために、上掲した科学誌は、どのようなイメージング光学系も含まず、したがってイメージング光学系に起因するイメージング誤差のない、いわゆる接触格子スキームの使用を提案している。このスキームでは、パルスフロントの傾斜は、非線形結晶の表面に(例えばエッチングによって)直接形成された透過光学格子上でポンプビームを回折させることによって得られる。形成される格子の周期の大きさ(一般にはマイクロメートルまたはサブマイクロメートル領域内)は、非線形結晶の材料およびポンピングの波長によって決定される。LNについて典型的に約1μmのポンプ波長を想定すると、接触格子は典型的には少なくとも2500~3000 1/mmの線密度を有さなければならない。(ナガシマら(Nagashima et al.)による、Japanese Journal of Applied Physics、49巻、122504-1から122504-5ページ(2010)、「Design of Rectangular Transmission Gratings Fabricated in LiNbO3 for High-Power Terahertz-Wave Generation」と題する論文、および、Japanese Journal of Applied Physics、51巻、122504-1ページ(2012)、「Erratum:Design of Rectangular Transmission Gratings Fabricated in LiNbO3 for High-Power Terahertz-Wave Generation」と題する修正論文、ならびに、オールマンら(Ollmann et al.)による、Applied Physics B、108巻、4号、821~826ページ(2012)、「Design of a contact grating setup for mJ-energy THz pulse generation by optical rectification」と題する論文を参照)。現時点では、そのような線密度を有する光学格子の製作は、可能ではあるとしても、実際には自明ではない。更に、テスト実験では、格子の線密度が閾値(LNでは約2000 1/mm)を上回る場合、得られる格子のプロファイルが不明確になることが示されている。結果的に、得られる格子の回折効率は理論上予測される値よりも大きく下回ることになり、この結果、ポンプパルスの結合の効率が大きく低下することに起因して、テラヘルツ放射生成の効率が劇的に低下する。
【0008】
接触格子スキームの更なる重大な欠点は、面平行な構造が使用される場合に、テラヘルツ放射を効率的に生成することが可能ではないということにある。入射面および出射面を互いに対して(LNについては約30°の角度で)傾斜させること、およびこれにより、プリズム形状の素子の形態のテラヘルツ放射生成のために使用される媒体を提供すること(上で言及した2012のOllmannらによる論文を参照)は、不可避である。
【0009】
「41th International Conference on Infrared, Millimeter and Terahertz Waves (IRMMW-THz)」(2016年9月25~30日)の会議録で発表された、ツボウチら(Tsubouchi et al.)による「Compact device for intense THz light generation: Contact grating with Fabry-Perot resonator」と題する論文は、接触格子によってテラヘルツパルスを生成する方法を開示している。面平行な素子の形態で提供される非線形結晶における結合の効率を高めるために、結晶の表面と回折格子との間に、ファブリ-ペロー共振器として機能する2重被覆層が形成される。前記面平行な構造から得られるTHzビームの出射面における出力結合は、垂直以外の方向で行われる。数サイクルのみから成りかつ広帯域幅を有するTHzパルスの場合、このことは非常に不利である、すなわち、個々のスペクトル成分の分離により、こうして得られたTHzパルスの実用は不可能になる。
【0010】
オフォリ-オケイら(Ofori-Okai et al.)による、「THz generation using a reflective stair-step echelon」と題する論文(Optics Express、24巻、5号、5057~5067ページ(2016)を参照)は、テラヘルツ放射生成用の傾斜パルスフロント技法を開示しており、この技法では、マイクロメートル領域内に収まる周期を有する回折格子の代わりに、大きさ約100マイクロメートルの周期を有する段状構造上での反射を介して、ポンプビームのパルスフロント傾斜が実現される(反射エシェル格子に基づく生成用のスキーム)。反射されるとき、パルスフロントは平均的な傾斜となっており、その程度は、段状構造の段の高さおよび幅によって決定される。パルスフロントの微細構造もまた段状になり、前記微細構造の幅は段状格子の幅の2倍であり、一方その高さは、段状格子の高さと等しくなる。速度整合に必要なパルスフロント傾斜は、ポンプパルスの伝播経路内に配置されたイメージング光学系によって定められる。このように生成されるTHz放射は、結晶内を段状のパルスフロントの包絡面に対して垂直な方向に沿って伝播する。したがって、結晶からのTHz放射を出力結合するには、従来のスキームの場合(上記を参照)と同じくさび角度(LN結晶では約63°)を有するプリズムが必要となる。この結果、特に高エネルギーテラヘルツ放射生成のために必要な幅広のポンプビームを使用する場合、得られるTHz放射は非対称になり、したがって例えば粒子加速には適さない。
【0011】
国際公開第2017/081501A2号パンフレット、および、パルファルヴィら(Palfalvi et al.)による、「Hybrid tilted-pulse-front excitation scheme for efficient generation of high-energy terahertz pulses」と題する論文(Optics Express、24巻、8号、8156~8169ページ(2016)を参照)には、テラヘルツ放射を生成するための方法および放射源が開示されている。開示される解決法は、従来の傾斜パルスフロントスキーム(上記を参照)を接触格子と組み合わせることによって得られる。パルスフロント傾斜は好ましくは、2つ(またはそれ以上)の別個の段において、ポンプビームのパルスフロント傾斜が従来の機構と接触格子との間で分散されるような様式で生じる。したがって、このスキームで生じるイメージング誤差は、従来のスキームの誤差と比較して大きく低減される。更に、LN結晶について行ったモデル計算によれば、有利には、一般的な接触格子スキームにおいて必要な線密度よりも低い(すなわち約2000 1/mm未満の)線密度の場合であってさえも、良好な効率のテラヘルツ放射生成が達成可能である。この方法を実現するために、放射源は、ポンプパルスを発するためのポンプ源とTHzパルスを生成するための非線形光学媒体とを備え、ポンプ源および非線形光学媒体は共に光経路を画定し、前記ポンプパルスはこの光経路に沿ってポンプ源から非線形光学媒体へと移動する。前記光経路内には、角分散誘導特性を有する第1の光学素子とイメージング光学系とが、ポンプパルスの伝播方向に沿って順次配置されている。更に、2つ以上の段においてポンプパルスのパルスフロント傾斜を誘導するために、光経路内の角分散誘導特性を有する第1の素子およびイメージング光学系よりも後ろに、角分散誘導特性を有する少なくとも1つの更なる素子も配置される。テラヘルツ放射を生成するための媒体は、プリズム形状の素子の形態で提供される。ポンプビームのパルスフロント傾斜を分散させる結果、適用されるプリズムのくさび角度は、従来の技術的解決法が必要とするくさび角度よりも小さくなるが(LNではγ≒30°、LTではγ≒45°)、それでもこれは、結果的に非対称なビームが生成されるのに十分な大きさであり、得られるテラヘルツ放射の利用の観点からは不利である。
【0012】
L.パルファルヴィら(L.Palfalvi et al.)による、「Numerical investigation of a scalable setup for efficient terahertz generation using a segmented tilted-pulse-front excitation」と題する論文(Optics Express、25巻、24号、29560~29573ページ(2017)を参照)、および、欧州特許条約第57条(3)に基づき先行技術に属する、欧州出願第17177757.6号は、面平行な構造のテラヘルツパルス源(基本的にはLNかLTのいずれかをベースとし、次善として非線形光学特性を有する更なる媒体をベースとする)を提案している。前記パルス源は、幅広なポンプビームの場合であっても、対称なテラヘルツパルスを生成する。速度整合条件の充足に基づく、高いテラヘルツ生成効率を有するこのスキームでは、ポンプビーム源の下流の、前記ポンプビーム源が発したポンプビームの伝播経路内に、角分散誘導特性を有する第1の光学素子と、イメージング光学系と、テラヘルツ放射を生成するための非線形光学特性を有する媒体と、が配置されており、非線形光学特性を有する媒体は、互いに平行な入射面および出射面によって画定される、光を透過する(すなわちポンプビームに対して透明な)面平行な結晶の形態で提供され、入射面自体は階段構造として形成されている。階段構造の周期は、ポンプビーム源のポンプ波長よりも桁違いに、好ましくは少なくとも1桁または2桁大きい。以降では、平行な入射面および出射面を有し、更にその入射面には階段構造を有する素子を、「面平行なエシュロン(または段状/階段)接触格子」と呼ぶ。
【0013】
階段構造を通過すると、パルスフロントは区分けされ、平均傾斜角度によって記述することが可能になる。速度整合した最大効率のテラヘルツ生成を実現するために、特定の幾何的条件を満たさなければならない。すなわち、一方で、面平行なエシュロン接触格子は、ポンプビームの伝播経路内に、個々の階段の長手縁部に接するように配された仮想平面(すなわち前記面平行なエシュロン接触格子の包絡面)が、伝播方向に対して垂直な平面と角度γNMを形成するような様式で配置されている。他方で、非線形光学特性を有する媒体内に入射する直前は、前記ポンプビームのパルスフロントは、面平行なエシュロン接触格子の包絡面と平行である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2017/081501号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】J.ヘブリングら(J.Hebling et al.)、Optics Express、10巻、21号、1161~1166ページ(2002)、「Velocity matching by pulse front tilting for large-area THz-pulse generation」
【非特許文献2】J.A.フュレプら(J.A.Fulop et al.)、Optics Express、22巻、17号、20155~20163ページ(2014)、「Efficient generation of THz pulses with 0.4 mJ energy」
【非特許文献3】L.パルファルヴィら(L.Palfalvi et al.)、Applied Physics Letters、92巻、1号、171107~171109ページ(2008)、「Novel setups for extremely high power single-cycle terahertz pulse generation by optical rectification」
【非特許文献4】フュレプら(Fulop et al.)、「Design of high-energy terahertz sources based on optical rectification」(Optics Express、18巻、12号、12300~12327ページ(2010))
【非特許文献5】ナガシマら(Nagashima et al.)、Japanese Journal of Applied Physics、49巻、122504-1から122504-5ページ(2010)、「Design of Rectangular Transmission Gratings Fabricated in LiNbO3 for High-Power Terahertz-Wave Generation」
【非特許文献6】Japanese Journal of Applied Physics、51巻、122504-1ページ(2012)、「Erratum:Design of Rectangular Transmission Gratings Fabricated in LiNbO3 for High-Power Terahertz-Wave Generation」
【非特許文献7】オールマンら(Ollmann et al.)、Applied Physics B、108巻、4号、821~826ページ(2012)、「Design of a contact grating setup for mJ-energy THz pulse generation by optical rectification」
【非特許文献8】ツボウチら(Tsubouchi et al.)、「Compact device for intense THz light generation: Contact grating with Fabry-Perot resonator」、「41th International Conference on Infrared, Millimeter and Terahertz Waves (IRMMW-THz)」(2016年9月25~30日)
【非特許文献9】オフォリ-オケイら(Ofori-Okai et al.)、「THz generation using a reflective stair-step echelon」、Optics Express、24巻、5号、5057~5067ページ(2016)
【非特許文献10】パルファルヴィら(Palfalvi et al.)、「Hybrid tilted-pulse-front excitation scheme for efficient generation of high-energy terahertz pulses」、Optics Express、24巻、8号、8156~8169ページ(2016)
【非特許文献11】L.パルファルヴィら(L.Palfalvi et al.)、「Numerical investigation of a scalable setup for efficient terahertz generation using a segmented tilted-pulse-front excitation」、Optics Express、25巻、24号、29560~29573ページ(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
面平行なエシュロン接触格子に基づくスキームは、完全な対称性を有するテラヘルツビームを生成することを主たる目的としている。しかしながら、必要となる面平行な構造、ならびに上で検討したようなテラヘルツ生成のために独自に設定される幾何形状は、テラヘルツ生成の達成可能な効率自体を大きく制限する。したがって、技術的解決法、すなわち、優れたビーム特性を維持しつつテラヘルツ生成の効率の改善をもたらす、テラヘルツ放射を生成するための方法および機構を用意することが、好ましいであろう。
【0017】
上述した内容に照らして、本発明の目的は、(特に、最も重要なビーム特性に関する限りは対称なビームプロファイルを有する)優れたビーム特性のテラヘルツパルスをスケーラブルな様式で生成することを可能にする、実地で適用可能なテラヘルツ放射を生成するための方法および機構-以降、技法-を提供することである。本明細書においておよびこれ以降、「スケーラブルな(scalable)」という用語は、本発明に係るテラヘルツ放射源において適用されるポンプビームの断面ビームスポットの半径-これは所望のテラヘルツパルスエネルギーの平方に比例する-を、生成されるテラヘルツ放射の優れたビーム特性を維持しつつ、比較的広い限度の間で調整できることを指す。特に、ビームスポットの前記半径は、mm領域内の値から数センチメートルの範囲内の値まで変更可能である。
【0018】
本発明の更なる目的は、今日利用可能なTHzパルスのパルスエネルギーおよび生成効率を向上させるテラヘルツ放射生成用の技法を提供することである。
【0019】
本発明の別の更なる目的は、単波長エネルギーの荷電粒子を生じさせるためのテラヘルツ放射を生成するための技法を提供すること、および、前記粒子を同期させて効率的に加速することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは自身の研究により、上述した目的が、速度整合条件を充足することに基づくテラヘルツ放射生成用の新規な機構であって、ポンプビーム源の下流のポンプビーム源が発するポンプビームの伝播経路内には、角分散誘導特性を有する第1の光学素子と、非線形光学特性を有する、光を透過する(すなわちポンプビームに対して透明な)媒体から作製される光学素子と、が配置されており、前記光学素子は、階段構造自体として形成される入射面を有する、機構、によって、達成可能であるとの結論に至った。ここで、および以降では、その入射面に階段構造(階段エシュロンとも呼ばれる)の形成された非線形光学特性の結晶を、「エシュロン接触格子」と呼ぶ。階段エシュロンの周期は、ポンプビーム源の波長よりも桁違いに、好ましくは少なくとも1桁または2桁大きい。前記エシュロン接触格子は、階段エシュロンの表面にわたって仮想の第1の方向に沿って周期的に次々と形成された階段から成り、各段は、2つの短手縁部と、短手縁部の各々に対して垂直な1つの長手縁部と、を備え、前記長手縁部は、仮想の第1の方向に対して直角に延びる階段エシュロンの表面にわたる、仮想の第2の方向と実質的に平行である。更に、エシュロン接触格子の入射面および出射面を(所定の)ゼロ以外の角度(いわゆるくさび角度)を形成するように構築することが可能となっているか、またはこのことは、生成されるテラヘルツ放射の特定の特性を最適化するために妥当でさえある。あるいはこれを別様に表現すると、前記エシュロン接触格子の入射面および出射面は、互いに平行ではない。本発明者らの研究によれば、前記くさび角度の値は最大で20°であり、より好ましくは最大で15°であり、最も好ましくは最大で10°である。ただし、前記くさび角度の精確な値は、所定のポンピング条件(例えば波長、パルス長、ビーム径)に対して、所定の非線形光学媒体において、使用者の要求(すなわち、大きなテラヘルツ生成効率、最高品質のTHzビーム像)を満足する実際の生成幾何形状によって、曖昧に定められる。
【0021】
更に、エシュロン接触格子は、伝播方向においてこれに対して横断方向に延在するように、階段の長手縁部に接するように配された仮想平面(すなわち前記エシュロン接触格子の包絡面)が伝播方向に対して垂直な平面と所定の傾斜角度(γNM)を成すような様式で、配置されている。傾斜角度γNMは、エシュロン接触格子の個々の階段の幾何パラメータによって決定される(すなわち、階段の短手縁部の一方の幅wおよび前記階段の短手縁部の他方の高さh、ならびに階段の傾斜を特徴付ける段角度α、前記段角度αは、各階段の短手縁部の一方と長手縁部とによって画定される第1の平面と、前記階段の他方短手縁部と長手縁部とによって画定される第2の平面とが、交差する角度である)。直角の階段の場合、すなわちα=90°である場合、γNM=atan(h/w)の関係が成り立つ。非線形光学媒体内で速度整合条件を満足するために、前記傾斜角度は適切な幾何的基準を満たす。すなわち、エシュロン接触格子を介して非線形光学媒体に結合されこの入力結合中にそのパルスフロントに関して区分けされるポンプビームのパルスフロントの平均傾斜(γ)、エシュロン接触格子の包絡面の傾斜角度(γNM)、および非線形光学媒体内に入射する直前の(すなわちポンプビームが階段エシュロンに到達するときの)ポンプビームの初期パルスフロント傾斜(γ)が、tg(γNM)=(np,cstg(γ)-tg(γ))/(np,cs-1)の関係を満足し、上式において、np,csは、関与する非線形媒体のポンプ波長における群屈折率を表す。これ以降、上述した幾何特性を有する生成機構を、くさび状のスキーム/機構と呼ぶこととする。
【0022】
実際の用途で使用できるテラヘルツ放射を生成するための方法を提供するという目的は、請求項1に記載の方法を精緻化することによって達成される。本発明に係る方法の更なる好ましい変形が、請求項2から5に、および請求項18に記載されている。実際の用途で使用できるテラヘルツ放射を生成するためのテラヘルツパルス源を提供するという目的は、請求項6に記載のテラヘルツ放射源によって達成される。本発明に係る放射源の好ましい実施形態が、請求項7から17に、および請求項19に記載されている。
【0023】
LN(またはLT)結晶が必然的に大きなくさび角度を有して形成される、上述したテラヘルツ生成機構と比較すると、本発明に係る解決法は、著しい利点を有している。特に、本発明により、小さいくさび角度(すなわち最大で20°、より好ましくは最大で10°、または更に小さい値を有する)に対して、優れたビーム品質のテラヘルツ放射を高い効率で生成することが可能になる。本発明に係る技法は、ポンプビームのパルスフロント傾斜γを自由に設定することにその主要な特徴があり、上で言及した面平行なエシュロン接触格子よりも有利でもある。使用者の要求(高エネルギーのテラヘルツ放射/および良好なビーム品質)ならびにポンピング過程の特性(パルス長/ビームサイズ/波長)の知見を踏まえて、達成されるべき目的と調和するように実行される最適化を介して、γの値の設定が行われる。γの値を適切に設定することによって、テラヘルツエネルギーおよびTHz生成効率(すなわち、THzパルスのエネルギーとポンプパルスのエネルギーの比)の両方が、既に提案した面平行なエシュロン接触格子を適用する場合に達成できる程度よりも著しく高い程度までスケーラブルになる。最適なビーム品質におよび最高のTHz生成効率に適した、機構の幾何形状は、互いに異なる場合があり、違いの程度は、非線形光学媒体の材料およびポンピングパラメータによって決定される。したがって、最も有望な機構を、常に合理的な折り合いの下で得ることができる。
【0024】
既存の知られている実用的な技法および概念上の技法に対する、本発明の技法の更なる重要な利点は、特定の実施形態において、この技法が、光学イメージングを使用しない場合であってさえも、優れたビーム品質を有する高エネルギーのテラヘルツビームを生成するのに適しているということである。このようにして、一方では、イメージングの欠陥に起因する効率の低下を回避することができ、他方では、機構がより簡単になる。
【0025】
本発明の技法の別の更なる重要な利点は、ポンプビームのパルスフロント傾斜が、相互に独立した2つの重要な基準を満たすことができるような初期パルスフロント傾斜γを有していることである。一方で、角分散誘導特性を有する第1の光学素子の入射面およびエシュロン接触格子の入射面を、互いに平行となるように位置決めすることができ、この場合、これら2つの素子を互いに恣意的な密な近さに配置することができる。このようにして、前記第1の光学素子の下流でポンプパルスが実際にエシュロン接触格子の入射面に到達する瞬間に、角分散を有するポンプビームの横断方向両側にある縁部におけるパルス長の間に著しい差が形成される可能性を回避できる。このことはまた、特定の実施形態ではイメージングが全く必要ないことも意味している。他方で、角分散誘導特性を有する第1の光学素子(例えば透過光学格子)を、可能な最高の回折効率が得られる(いわゆるリトロー型の)構成で使用することができる。LNの場合、角分散誘導特性を有する第1の光学素子の入射面とエシュロン接触格子が平行であること(すなわちイメージング光学系の排除が可能になる条件)と、リトロー型構成における第1の光学素子上での回折と、の両方が、例えばγ=69°の初期パルスフロント傾斜について(またはより精確には、γ=68.9°について1030nmのポンプ波長において、およびγ=68.9°について800nmのポンプ波長において)、一緒に達成される。したがって、γ=69°の初期のフロントパルス傾斜を利用する本発明の実施形態は、LNにとって非常に好ましい実施形態を表している。
【0026】
以下では、添付の図面を参照して本発明について詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】ゼロ以外の所定のくさび角度の非線形光学結晶を含む、エシュロン接触格子を用いて実装された、本発明に係るテラヘルツ放射を生成するための機構の実施形態の長手断面図であり、ポンプビームの初期パルスフロント傾斜γは透過格子上での回折によって生成される。
図2図1に示す本発明に係る機構において使用される、エシュロン接触格子を備えた非線形光学結晶内への入射時のその入射表面におけるポンプビームのパルスフロント傾斜を示す図である。
図3】1030nmの波長のポンプパルスで励起されるニオブ酸リチウムから作製されたエシュロン接触格子に関して、本発明の機構のくさび角度(Γ、実線)と、角分散誘導特性を有する第1の光学素子の入射面がエシュロン接触格子の入射面と成す角度(ε、破線)とを、ポンプビームの初期パルスフロント傾斜角度γの関数として示す図であり、ここで挿入図は、62°から77°の範囲の角度γについての同じ内容を示し、γ=62°、69°、および76.7°における、エシュロン接触格子を有して作製された第1の光学素子のくさび角度の値(実線の正方形)および入射面の角度(実線の円)もまた示されている。
図4A図1の平面に対して垂直な縁部に沿って角分散誘導特性を有する第1の光学素子と接触しているくさび状のエシュロン接触格子の直径20mmのスポットを照射する、前記縁部に隣接する接触格子に当たるポンプビームのパルス長を、くさび状のエシュロン接触格子の入射面の前記縁部から最も遠くに位置する極値位置において異なるポンプ波長(λ)[図4A、4B:λ=1030nm、図4C:λ=800nm]および異なるパルス長(τ)[図4A:τ=500fs、図4B:τ=100fs、図4C:τ=30fs]を有する、変形を制限されたポンプパルスの場合の、ポンプビームの初期パルスフロント傾斜角度γの関数として示す図であり、ここで、プロット(c)中の挿入図は、初期パルスフロント傾斜角度γ~69°の近傍を拡大図で示している。
図4B図1の平面に対して垂直な縁部に沿って角分散誘導特性を有する第1の光学素子と接触しているくさび状のエシュロン接触格子の直径20mmのスポットを照射する、前記縁部に隣接する接触格子に当たるポンプビームのパルス長を、くさび状のエシュロン接触格子の入射面の前記縁部から最も遠くに位置する極値位置において異なるポンプ波長(λ)[図4A、4B:λ=1030nm、図4C:λ=800nm]および異なるパルス長(τ)[図4A:τ=500fs、図4B:τ=100fs、図4C:τ=30fs]を有する、変形を制限されたポンプパルスの場合の、ポンプビームの初期パルスフロント傾斜角度γの関数として示す図であり、ここで、プロット(c)中の挿入図は、初期パルスフロント傾斜角度γ~69°の近傍を拡大図で示している。
図4C図1の平面に対して垂直な縁部に沿って角分散誘導特性を有する第1の光学素子と接触しているくさび状のエシュロン接触格子の直径20mmのスポットを照射する、前記縁部に隣接する接触格子に当たるポンプビームのパルス長を、くさび状のエシュロン接触格子の入射面の前記縁部から最も遠くに位置する極値位置において異なるポンプ波長(λ)[図4A、4B:λ=1030nm、図4C:λ=800nm]および異なるパルス長(τ)[図4A:τ=500fs、図4B:τ=100fs、図4C:τ=30fs]を有する、変形を制限されたポンプパルスの場合の、ポンプビームの初期パルスフロント傾斜角度γの関数として示す図であり、ここで、プロット(c)中の挿入図は、初期パルスフロント傾斜角度γ~69°の近傍を拡大図で示している。
図5A】テラヘルツ放射生成の効率(η)を、異なるポンプパルス強度(I)(それぞれのポンプパルス長における破壊閾値強度を上回らない)[図5A:50GW/cm図5B:250GW/cm、および図5C:833GW/cm]における、ならびに固定された温度100Kおよび固定された段の幅w=50μmにおけるポンプパルスの様々な初期パルスフロント傾斜角度(γ)に関する、異なるポンプ波長(λ)[図5A、5B:λ=1030nm、図5C:λ=800nm]および異なるパルス長(τ)[図5A:τ=500fs、図5B:τ=100fs、図5C:τ=30fs]を有する、変形を制限されたポンプパルスの場合の、光学媒体の平均厚さ(L)の関数として表す図であり、図5A、5B、および5Cでは、実線および破線はそれぞれγ=62°およびγ=69°の場合を表し、一方点線は、最高のテラヘルツ生成効率を得ることのできる最適なγ[すなわち、図5A:γ=76.2°、図5B:γ=75°、および図5C:γ=68°]の場合を示す。
図5B】テラヘルツ放射生成の効率(η)を、異なるポンプパルス強度(I)(それぞれのポンプパルス長における破壊閾値強度を上回らない)[図5A:50GW/cm図5B:250GW/cm、および図5C:833GW/cm]における、ならびに固定された温度100Kおよび固定された段の幅w=50μmにおけるポンプパルスの様々な初期パルスフロント傾斜角度(γ)に関する、異なるポンプ波長(λ)[図5A、5B:λ=1030nm、図5C:λ=800nm]および異なるパルス長(τ)[図5A:τ=500fs、図5B:τ=100fs、図5C:τ=30fs]を有する、変形を制限されたポンプパルスの場合の、光学媒体の平均厚さ(L)の関数として表す図であり、図5A、5B、および5Cでは、実線および破線はそれぞれγ=62°およびγ=69°の場合を表し、一方点線は、最高のテラヘルツ生成効率を得ることのできる最適なγ[すなわち、図5A:γ=76.2°、図5B:γ=75°、および図5C:γ=68°]の場合を示す。
図5C】テラヘルツ放射生成の効率(η)を、異なるポンプパルス強度(I)(それぞれのポンプパルス長における破壊閾値強度を上回らない)[図5A:50GW/cm図5B:250GW/cm、および図5C:833GW/cm]における、ならびに固定された温度100Kおよび固定された段の幅w=50μmにおけるポンプパルスの様々な初期パルスフロント傾斜角度(γ)に関する、異なるポンプ波長(λ)[図5A、5B:λ=1030nm、図5C:λ=800nm]および異なるパルス長(τ)[図5A:τ=500fs、図5B:τ=100fs、図5C:τ=30fs]を有する、変形を制限されたポンプパルスの場合の、光学媒体の平均厚さ(L)の関数として表す図であり、図5A、5B、および5Cでは、実線および破線はそれぞれγ=62°およびγ=69°の場合を表し、一方点線は、最高のテラヘルツ生成効率を得ることのできる最適なγ[すなわち、図5A:γ=76.2°、図5B:γ=75°、および図5C:γ=68°]の場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、本発明に係るいわゆるくさび状のテラヘルツビームを生成する機構、およびテラヘルツ放射を生成するための放射源100の好ましい例示的な実施形態を示す。放射源100は、ポンプビーム12を提供するためのポンプ源10と、テラヘルツ放射60を生成するための非線形光学特性を有する媒体によって形成される光学素子50と、を備える。光透過光学素子50は、出射表面として機能する出射面52および入射表面の役割を果たす入射面51を境界としており、前記入射面は前記出射面と;所定の角度を成しており、この結果、光学素子50は好ましくは、くさび角度Γを有するくさび構造を有する素子として構築され、くさび角度Γは好ましくは最大で20°であり、より好ましくは最大で15°であり、最も好ましくは最大で10°である。これを別様に表現すると、非線形光学媒体およびしたがって光学素子50は、互いとゼロ以外の所定のサイズの角度であるくさび角度Γを成す、入射表面および出射表面を有する。テラヘルツ放射60は、ポンプビーム12と光学素子50の材料との間で光学素子50の平均厚さLにおいて生じる非線形光学相互作用、好ましくは光整流の結果として生成される。次いで放射60は、光学素子50からその出射面52を通って外に出るが、その後更なる使用に供される場合がある。所定の幾何パラメータを有する個々の段41の周期的な階段(エシュロン)構造の形態で、入射面51自体の表面/内部にエシュロン接触格子40が形成される。
【0029】
ポンプ源10および光学素子50-それぞれ開始素子および終了素子としての-は、ポンプ源10の出射位置と入射面51との間に延在する、連続的な光経路を画定する。ポンプビーム12の伝播方向に沿って、すなわち入射面51に向かって、放射源100は、前記光経路内に、角分散誘導特性を有する光学素子20と、非線形光学特性を有する前記テラヘルツ生成素子50と、を備え、前記光経路に沿って、光学素子20およびエシュロン接触格子40は、互いから所定の距離に配置され、互いと角度εを成している。任意選択的に、特定の実施形態では、光学素子20とエシュロン接触格子40との間には、イメージングを行うイメージング光学系(図面には示されていない)もまた配置され得る。
【0030】
ポンプ源10は好ましくは、最大で数百fsのパルス長を有する可視、近赤外、または中赤外領域のレーザパルス-ポンプビーム12-を生じさせるのに好適なレーザ源であり、例えば1030nmの中心発光波長を有するダイオードポンプ式Ybレーザ、または800nmの中心発光波長を有するTi:サファイアレーザである。様々な他のレーザを同様にポンプ源10として使用することができる。
【0031】
光学素子20は、そこに入射しそれを通過するポンプビーム12の角分散を誘導し、このことによりまた、ポンプビーム12のパルスフロント(好ましくは初期の傾斜はゼロである)の所望の傾斜も提供する(以下を参照)、光学素子である。したがって、光学素子20は、例えば、透過または反射光学格子、屈折ベースの光学素子(好ましくは1つ以上のプリズム)、またはこれらの組み合わせ(例えばプリズムと回折格子の組み合わせ、すなわちいわゆるグリズム)として構築される。図1に示す放射源100の例示的な実施形態では、光学素子20は好ましくは、所定の格子定数を有する透過格子であるが、-当業者には明らかなように-これは他の角分散光学素子、例えば反射格子、次善としてプリズム、等として形成されてもよい。
【0032】
所望の程度の初期パルスフロント傾斜を有するポンプビーム12は、図1に見ることができるように、エシュロン接触格子40を通って、前記エシュロン接触格子40の段41の幅wの境界面(limiting plane)に対して直角に、光学素子50に入る。特に、ポンプビーム12は、放射源100の光軸に沿って、光学素子50と関連付けられたエシュロン接触格子40であって前記光軸を横断する方向に配置され光学素子50と所定の角度を成している前記エシュロン接触格子40上へと当たり、この接触格子を通過して光学素子50の体積内に入り、このとき平均パルスフロント傾斜γによって特徴付けられる区分けされたパルスフロント46を有している。区分けされたパルスフロント46のパルスフロント傾斜γは、速度整合条件が要求する傾斜と等しい。テラヘルツ放射60は、区分けされたパルスフロント46の平均パルスフロント傾斜の包絡面47と平行な位相フロントを有する光学素子50内で生成される。この結果、テラヘルツ放射60の伝播方向は、光学素子の出射面52に対して必然的に垂直になる。上で検討したようなエシュロン接触格子40内へのポンプビーム12の入射、および前記エシュロン接触格子からの格子に対して垂直な方向へのテラヘルツ放射60の出射によって、条件に応じて、くさび角度Γのサイズγ-γNMが曖昧に決定される。
【0033】
エシュロン接触格子40は好ましくは、当業者に知られている任意の機械加工方法によって(例えばエッチングによって)、周期的な階段構造として構築される。階段エシュロン構造の各段41は、第1の短手縁部41bと、第2の短手縁部41cと、縁部41b、41cの各々に対して垂直な長手縁部41aと、を備える。段41は、図1の拡大部Aに示すように、縁部41bの高さhと、縁部41cの幅wと、縁部41bおよび41aによって定まる境界面と縁部41cおよび41aによって定まる境界面との間に形成される段角度αと、によって特徴付けられる。エシュロン接触格子40の段41の長手縁部41aは、以降で包絡面42と呼ぶことになる共通の平面内に位置付けられている。図1に示す放射源100の実施形態では、段角度αは、実質的に(すなわち、エシュロン接触格子40を用意するのに使用される製造工程の公差内で)90°であり、したがってこの場合、各段41のそれぞれの2つの境界面は互いに垂直であり、すなわち段41は直角の段として形成される。更なる実施形態の場合、段角度αは、90°よりも僅かに(最大で約15°、好ましくは最大で約10°、より好ましくは最大でほんの数度)大きくてもよく、すなわち、これは鈍角であってもよく、得られる周期構造、すなわちエシュロン接触格子40の光透過特性、またはテラヘルツ放射生成の効率が大きく低下するまで、各段を「傾斜」させてもよい。直角の段41に関して、前記包絡面42は個々の段41の幅wを有する各縁部41bと角度γNMを成し、基本的な幾何学的考察に基づき、γNM=atan(h/w)の関係によって、角度γNMのサイズを計算できる。エシュロン接触格子40の段の方向における周期、すなわち個々の段41の幅wは、テラヘルツ放射を生成するために使用されるポンプビーム12の波長よりも数桁、好ましくは少なくとも1桁または2桁大きい。より好ましくは、エシュロン接触格子40の前記周期、すなわち幅wは、ポンプビーム12の波長の少なくとも数十倍から最大で数百倍までの範囲である。これらの周期に対応するマイクロ構造を有する光学構造を用意するのは、2000~3000 1/mmの線密度を有する光学格子を用意するよりも、はるかに簡単である。光の入力結合の効率を改善するために、エシュロン接触格子40の段41の外側の境界面には、任意選択的に反射防止コーティングを設けてもよい。
【0034】
光学素子50は、実際には少なくとも1pm/Vであり典型的には数10pm/Vを上回る、著しく高い非線形光学係数を有し、かつ、テラヘルツ領域および可視領域において著しく異なる屈折率を有する、すなわち、2つの領域の屈折率の比が実際上1よりも大きい、好ましくは1.1よりも大きい、より好ましくは1.2よりも大きい、材料から作製される。光学素子50は好ましくは、好ましくは非線形光学的な相互作用の効率にとって、したがって例えば光整流によるテラヘルツ放射生成にとって最も有利な結晶軸配向を有する、ニオブ酸リチウム(LN)またはタンタル酸リチウム(LT)、および半導体材料、例えばGaPまたはZnTeから作製される。更に、反射損失を低減するために、および生成されるテラヘルツ放射60の角分散を回避するために、光学素子50の出射表面を形成する出射面52は、光学素子50から出射面52を通して出射面52に対して垂直に放射を発するように構成されている。
【0035】
図2およびその拡大部Bは、テラヘルツ放射生成過程における、エシュロン接触格子40に到達する前の、テラヘルツ放射を生成するためのポンプビーム12のパルスフロント15と、エシュロン接触格子40の通過後の、同ポンプビーム12のパルスフロント46と、を示す。パルスフロント15は、ポンプビーム12の位相フロントに対する角度γである初期パルスフロント傾斜を有する、すなわち、ポンプビーム12は、そのパルスフロントに関して特定の程度まで事前傾斜されているビームである。本発明に係るテラヘルツ放射源100の光学素子50を小さいくさび角度Γの結晶として形成することを、およびしたがって物理特性に関して実質的に対称であるTHzビームを生成することを可能にするのは、パルスフロント15の事前傾斜、および前記事前傾斜(すなわちγの値)の適切な程度である。本発明に係る放射源100の場合、ポンプビーム12のパルスフロント15の(所望の程度の)事前傾斜は、好ましくは、角分散特性を有する光学素子20によって誘導される。光学素子50に結合されるポンプビーム12のパルスフロント46は、結晶内でポンプビーム12の位相フロントに対して傾斜される。入力結合のために使用されるエシュロン接触格子40が階段構成である結果、前記パルスフロント46は区分けされることになり、その傾斜は、パルスフロント46に沿った位置に応じて(同じく周期的に)異なっている。このため、パルスフロント46の傾斜は、平均傾斜角度γによって特徴付けることができる。この場合、平均傾斜角度γは、結晶内でのポンプビーム12の位相フロントと、部分Bに示すパルスフロント46の包絡面47との間の角度として決定される。
【0036】
テラヘルツ放射60の優れたビーム品質を実現する目的で、光学素子50内でテラヘルツ放射を生成するために、
-ポンプビーム12は、エシュロン接触格子40に、エシュロン接触格子の段41の幅wを有する境界面に対して垂直に結合され、
-速度整合条件、すなわちvp,cscos(γ)=vTHz,fは、光学素子50内で充足され、上式において、vp;csはポンプビーム12の群速度であり、vTHz;fはテラヘルツ放射60の位相速度であり、γはポンプビーム12の位相フロントに対するポンプビーム12のパルスフロントの傾斜であり、
-こうして生成されたテラヘルツ放射60は、光学素子50からその出射面52に対して直角に出射し(図1を参照)、このことにより反射損失が最低限まで低減され、角分散を生じないテラヘルツ放射60が得られる。
【0037】
上述した内容を保証するために、適切な幾何的条件、すなわちエシュロン接触格子40の包絡面42の角度γNM=atan(h/w)を満たさなければならず、区分けされたパルスフロント46の包絡面47の角度γおよび角度γが表すポンプビームの初期のフロントパルス傾斜(すなわち事前傾斜)は、tg(γNM)=(np,cstg(γ)-tg(γ))/(np,cs-1)の関係を満足しなければならない。更に、光学素子50から生成されるテラヘルツ放射60を前記光学素子50の出射面52に対して垂直な方向に出力結合するためには、エシュロン接触格子40のくさび角度Γを、ちょうど差γ-γNMに定めなければならない。
【0038】
上記の幾何学的条件が満たされかつ角度γが最適に選択される場合、テラヘルツ放射生成は、典型的には小さいくさび角度(好ましくは最大で20°、より好ましくは最大で15°、最も好ましくは最大で10°である)を有して形成されるくさび状の非線形光学結晶を使用することによって、高いテラヘルツ生成効率およびほぼ完全なテラヘルツビーム品質(パルス特性は非対称性を実質的に有さない)で行われる。更に、こうして得られたTHz放射には角分散が生じない。
【0039】
明らかなことであるが、非線形光学媒体の材料およびポンプ源10を選択することによって、上述した幾何パラメータは曖昧さ無しに決定されることになる。光学素子50がLN結晶となるように選択される場合、(テラヘルツ領域にわたる吸収を低減するために100Kの温度を想定すると)、γ≒62°が当てはまり、この場合γ≒69°であるので、エシュロン接触格子40の段41のパラメータであるh/w特性は、h/w≒1.3となる。ここでポンプ源の波長を約1μmとなるように選択すると、幅wの絶対長さは約30から100μmに設定できる。こうして、今やエシュロン接触格子40を要求される寸法で製造することができる。
【0040】
図5は、例として、テラヘルツ生成の効率ηを、異なるポンプパルス強度I(それぞれのポンプパルス長における破壊閾値強度を上回らない)[図5A:50GW/cm図5B:250GW/cm、および図5C:833GW/cm]における、ならびに固定された温度100Kおよび固定された段の幅w=50μmにおけるポンプパルスの様々な初期パルスフロント傾斜角度γに関する、異なるポンプ波長λ図5A、5B:λ=1030nm、図5C:λ=800nm]および異なるパルス長τ図5A:τ=500fs、図5B:τ=100fs、図5C:τ=30fs]を有する、変形を制限されたポンプパルスの場合の、光学媒体の平均厚さLの関数として示す。図5A、5B、および5Cでは、実線および破線は、γ=62°およびγ=69°である場合をそれぞれ表し、点線は、最高のテラヘルツ生成効率を得ることができる最適なγ[すなわち、図5A:γ=76.2°、図5B:γ=75°、;および図5C:γ=68°]の場合を示す。γ=62°の選択(これはいずれにしても、LNから作製される面平行なエシュロン接触格子によるテラヘルツ生成に対応している)は、L.パルファルヴィら(L.Palfalvi et al.)による、「Numerical investigation of a scalable setup for efficient terahertz generation using a segmented tilted-pulse-front excitation」と題する論文(Optics Express、25巻、24号、29560~29573ページ(2017)を参照)との、直接の比較が可能になるように行われる。γ=69°を選択することは、実用的な実現の観点から非常に重要である。このようなケースでは、ポンプビームの初期パルスフロント傾斜(事前傾斜)を誘導するために透過光学格子が使用される場合には、非線形光学素子50を透過格子から恣意的な近さに配置することができ(図3にも示されているように、2つの素子が成す角度εがゼロであるため)、したがって、ポンプビームの直径方向両側にある縁部において、パルス長同士の間に差が形成されない(図4を参照)。
【0041】
ここに示す曲線の導出に関する適切な背景を提供する数学モデルの詳細な説明は、今後刊行される本発明者らによる別の科学誌に見出すことができるが、本出願の範囲を超えている。しかしながら、図5は、テラヘルツ生成の観点から最も効果的である本発明に係るくさび状の機構の実際の構成に関して行われる理論的な計算(点線で表す)が、面平行なエシュロン接触格子を使用することによって達成可能な効率(実線で表す)と比較した場合のテラヘルツ生成効率ηの向上を予測していることを、はっきりと示している。前記効率の向上は、50fsから1psの間のポンプパルス長に関して著しく高く、このようなケースは図5Aおよび5Bにも示されている。実際の実装がイメージングの適用を伴わず単純かつ容易である場合(破線、γ=69を参照)、(実線によって表される)面平行なエシュロン接触格子を使用することによって達成可能な効率と比較して、テラヘルツ生成効率ηの向上もまた予想できる。ここで、本発明の機構(破線を参照)は、適用されると(点線によって表される)可能な最高の効率にほぼ到達するので、短いパルスに関しても非常に有望である(図5Cを参照)ことにも、留意するべきである。
【0042】
ここで、本特許出願で提案されているくさび状の機構が、アブガリアンら(Abgaryan et al.)による、「Investigation of parameters of terahertz pulses generated in single-domain LiNbO3 crystal by step-wise phase mask」と題する論文(Journal of Contemporary Physics(Armenian Academy of Sciences)、51巻、1号、35~40ページ(2016)を参照)で開示されている機構とは大きく異なることに留意することも重要である。当該論文は、ポンプビームが階段構造を介して非線形光学媒体に結合されるテラヘルツ生成技法を開示しているが、当該論文に従って構築されるこの階段構造は、本発明の機構の場合に非線形光学過程に寄与するプリズムのLN材料とは異なる材料から作製されており(したがって、アブガリアンらの階段構造の屈折率もまた、LNの屈折率とは異なる)、これは、個々の階段およびしたがってエシュロン接触格子自体がLN媒体の入射表面に形成されしたがってLNから作製されている本発明とは対照的であり、このことは大きな違いをもたらす。更なる違いは、アブガリアンらに従うLNプリズムのくさび角度は、従来の知られている機構/スキームにおいて一般に使用される63°のくさび角度と一致するが、これとは対照的に、本発明に係る機構/スキームにおいて使用されるLNから作製される光学素子のくさび角度は(事前傾斜の可能性に起因して)はるかに小さい、ということにある。別の更なる基本的な違いは、アブガリアンらによるテラヘルツ生成スキームは、初期パルスフロント傾斜を有さないポンプビームに適用されるが、これとは対照的に、初期のポンプビームのパルスフロント傾斜の程度は、本発明のテラヘルツ生成スキームの自由に調節可能なパラメータを表していることである。結論として、アブガリアンらによる論文で開示されているテラヘルツ生成技法は、THzエネルギーのスケーラビリティおよび達成可能なTHzビーム品質の両方に関して、厳しく制限される。
【0043】
要約:従来のパルスフロント傾斜技法を、ポンプパルスを非線形光学結晶に結合するための、階段構造の周期がポンプビームの波長の数十倍から数百倍の間の範囲にわたる透過エシュロン接触格子と組み合わせることによって、高エネルギーテラヘルツ放射を生成するための新規なテラヘルツ生成スキームを開発した。この新規なスキームの最大の利点は、スキームにおいて、特定の単純な幾何的基準が満たされる場合に、小さいくさび角度を有する素子の形態の光学結晶を使用できることである。この結果、優れたビーム品質を有しかつ物理特性が実質的に対称なTHzビームを、改善された生成効率で生成することができる。ポンプビームの初期パルスフロント傾斜(すなわち事前傾斜)を特定の程度で適用する場合、事前傾斜後にイメージングを適用する必要がない。このようにして、ポンプビームのサイズを、およびこのことにより生成されるテラヘルツパルスのエネルギーを、同様に増大させることができる。前記新規なスキームに基づく本発明に係るテラヘルツ放射源および方法は、幅広のポンプビームの適用を必要とする高エネルギーTHz放射を生成するのに、特に有利である。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
【手続補正書】
【提出日】2024-04-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非線形光学媒体(50)においてテラヘルツ放射(60)を生成するための方法であって、
ポンプビーム(12)は前記ポンプビームにパルスフロント傾斜を施すことによって事前傾斜され、このようにして得られた傾斜パルスフロントポンプビームは前記非線形光学媒体に結合され、前記光学媒体において、前記ポンプビーム(12)の光整流によって、THz放射が生成され、
p,cscos(γ)=vTHz,fの速度整合条件を満足するために必要な前記ポンプビームのパルスフロント傾斜は、複数のパルスフロント傾斜の合計としてもたらされ、各パルスフロント傾斜は、続くステップにおいて前記ポンプビームの部分的なパルスフロント傾斜として個別に誘導され、ここでvp;csは前記ポンプビームの群速度であり、vTHz;fはTHzパルスの位相速度であり、γは前記ポンプビーム(12)のパルスフロントと位相フロントとの間に形成される角度であり、
前記ポンプビーム(12)のパルスフロント傾斜の最後のステップは、階段構造(40)を介して前記ポンプビーム(12)を前記非線形光学媒体に結合することによって行われ、
前記階段構造(40)は第1の方向に沿って前記階段構造(40)の表面上に周期的に次々と配置された段(41)よって形成されており、前記段(41)の各々は2つの短手縁部(41b、41c)と1つの長手縁部(41a)とを有し、前記長手縁部(41a)は両短手縁部(41b、41c)に対して垂直に延在し、前記階段構造(40)は、伝播方向においてこれに対して横断方向に延在するように、前記段(41)の前記長手縁部(41a)に接するように配された仮想平面が前記伝播方向に対して垂直な平面と所定の傾斜角度(γ NM )を成すような様式で配置され、前記光学媒体(50)内の前記ポンプビーム(12)の前記パルスフロントの平均傾斜(γ)、前記傾斜角度(γ NM )、および前記ポンプビーム(12)が前記非線形光学媒体内に入射する直前の前記ポンプビーム(12)の初期パルスフロント傾斜(γ )が、tg(γ NM )=(n p,cs tg(γ)―tg(γ ))/(n p,cs -1)の関係を満足し、ここで、n p,cs は、前記非線形媒体のポンプ波長における群屈折率を表し、
前記非線形光学媒体は、前記ポンプビームの伝播方向において前記非線形光学媒体の境界となる入射表面(51)および出射表面(52)を備え、
前記階段構造(40)は前記入射表面(51)に形成されており、
前記入射表面(51)および前記出射表面(52)は互いとゼロ以外の角度(Γ)を形成していることを特徴とする、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記ポンプビーム(12)は、少なくとも5フェムト秒、最大で数百フェムト秒のパルス長を有する、可視、近赤外、または中赤外領域内のレーザパルスであることを特徴とする、方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法であって、前記ポンプビーム(12)のパルスフロント傾斜の一番最初のステップは、前記ポンプビーム(12)を角分散誘導特性を有する光学素子(20)を通して導くことによって行われ、角分散誘導特性を有する前記光学素子は、回折ベースの光学素子、屈折ベースの光学素子、前記回折ベースの素子と屈折ベースの素子の組み合わせとして実装される光学素子を含む群から選択されることを特徴とする、方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の方法であって、前記ポンプビーム(12)のパルスフロント傾斜の一番最初のステップは、前記ポンプビーム(12)を角分散誘導特性を有する光学素子(20)を通して導くことによって行われ、前記事前傾斜を行う角分散誘導特性を有する前記光学素子(20)は透過格子であり、前記事前傾斜の程度は、前記透過格子がリトロー型構成でまたは前記リトロー型構成に近い構成で使用される場合に、前記透過格子と前記非線形光学媒体(50)の前記入射表面(51)が互いに対してある角度(ε)で配置されるように定められ、この結果最大の回折効率がもたらされることを特徴とする、方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の方法であって、前記ゼロ以外の角度(Γ)が最大で20°であることを特徴とする、方法。
【請求項6】
ポンプビーム(12)を発するためのポンプ源(10)と、THzパルスを生成するための非線形光学媒体と、を備える、テラヘルツ放射源(100)であって、
前記ポンプ源(10)および前記非線形光学媒体(50)は共に光経路を画定し、前記光経路は、前記ポンプ源(10)から前記光経路の境界となる前記非線形光学媒体(50)の入射表面(51)へと前記ポンプビーム(12)を導くように配置されており、
前記光経路内には角分散誘導特性を有する光学素子(20)が配置されており
前記非線形光学媒体(50)は、前記入射表面(51)と共に前記ポンプビームの伝播方向において前記非線形光学媒体(50)の境界となる出射表面(52)を備え、
前記非線形光学媒体(50)の前記入射表面(51)に階段構造(40)が形成されており、
前記入射表面(51)および前記出射表面(52)は互いとゼロ以外の角度(Γ)を形成しており、
前記階段構造(40)は第1の方向に沿って前記階段構造の表面上に周期的に次々と配置された段(41)よって形成されており、前記段(41)の各々は2つの短手縁部(41b、41c)と1つの長手縁部(41a)とを有し、前記長手縁部(41a)は両短手縁部(41b、41c)に対して垂直に延在し、前記階段構造(40)は、伝播方向においてこれに対して横断方向に延在するように、前記段(41)の前記長手縁部(41a)に接するように配された仮想平面が前記伝播方向に対して垂直な平面と所定の傾斜角度(γ NM )を成すような様式で配置され、前記光学媒体(50)内の前記ポンプビーム(12)の前記パルスフロントの平均傾斜(γ)、前記傾斜角度(γ NM )、および前記ポンプビーム(12)が前記非線形光学媒体(50)内に入射する直前の前記ポンプビーム(12)の初期パルスフロント傾斜(γ )が、tg(γ NM )=(n p,cs tg(γ)―tg(γ ))/(n p,cs -1)の関係を満足し、ここで、n p,cs は、前記非線形媒体のポンプ波長における群屈折率を表すことを特徴とする、テラヘルツ放射源(100)。
【請求項7】
請求項6に記載の放射源(100)であって、角分散誘導特性を有する前記光学素子(20)は、回折ベースの光学素子、屈折ベースの光学素子、ならびに前記回折ベースの光学素子および屈折ベースの光学素子の組み合わせとして実装される光学素子を含む群から選択され、好ましくは角分散誘導特性を有する前記光学素子は透過格子であることを特徴とする、放射源(100)。
【請求項8】
請求項6から7のいずれか1項に記載の放射源(100)であって、角分散誘導特性を有する前記光学素子(20)は、前記ポンプビームの事前傾斜を行うように構成された透過格子であり、前記事前傾斜の程度は、前記透過格子がリトロー型構成でまたは前記リトロー型構成に近い構成で使用される場合に、前記透過格子と前記非線形光学媒体(50)の前記入射表面(51)が互いに対してある角度(ε)で配置されるように定められ、この結果最大の回折効率がもたらされることを特徴とする、放射源(100)。
【請求項9】
請求項6から8のいずれか1項に記載の放射源(100)であって、前記階段構造を形成している前記段(41)の境界面は互いに垂直であり、前記境界面は前記短手縁部の一方(41b)および前記長手縁部(41a)によってならびに前記短手縁部の他方(41c)および前記長手縁部(41a)によって画定されていることを特徴とする、放射源(100)。
【請求項10】
請求項6からのいずれか1項に記載の放射源(100)であって、前記階段構造を形成する前記段(41)の前記2つの短手縁部(41b、41c)の寸法(w、h)は、前記ポンプビーム(12)の波長よりも数桁、好ましくは少なくとも1桁または2桁大きいことを特徴とする、放射源(100)。
【請求項11】
請求項10に記載の放射源(100)であって、各段(41)の前記2つの短手縁部(41b、41c)の前記寸法(w、h)は、少なくとも数十マイクロメートルの範囲内にあることを特徴とする、放射源(100)。
【請求項12】
請求項6から11のいずれか1項に記載の放射源(100)であって、前記非線形光学媒体は格別に高い非線形光学係数を有する材料から作製され、その屈折率はテラヘルツ領域および可視領域において著しく異なることを特徴とする、放射源(100)。
【請求項13】
請求項6から12のいずれか1項に記載の放射源(100)であって、前記非線形光学媒体は、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)結晶またはタンタル酸リチウム(LiTaO3)結晶を含むことを特徴とする、放射源(100)。
【請求項14】
請求項6から13のいずれか1項に記載の放射源(100)であって、前記ゼロ以外の角度(Γ)が最大で20°であることを特徴とする、放射源(100)。
【請求項15】
請求項6から14のいずれか1項に記載の放射源(100)であって、前記ポンプビーム(12)は、少なくとも5フェムト秒、最大で数百フェムト秒のパルス長を有する、可視、近赤外、または中赤外領域内のレーザパルスであることを特徴とする、放射源(100)。
【請求項16】
請求項15に記載の放射源(100)であって、角分散誘導特性を有する前記光学素子(20)は、透過格子であり、前記非線形光学媒体(50)はニオブ酸リチウムから作製され、前記事前傾斜の程度は実質的にγ=69°であることを特徴とする、放射源(100)。