(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063230
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/04 20060101AFI20240501BHJP
H01M 10/0587 20100101ALI20240501BHJP
【FI】
H01M10/04 W
H01M10/0587
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024035535
(22)【出願日】2024-03-08
(62)【分割の表示】P 2022538667の分割
【原出願日】2021-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2020124979
(32)【優先日】2020-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110003236
【氏名又は名称】弁理士法人杉浦特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100123973
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 拓真
(74)【代理人】
【識別番号】100082762
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 正知
(72)【発明者】
【氏名】西家 大貴
(57)【要約】 (修正有)
【課題】負極の膨張時に発生し得る負極集電体の破断を抑制する。
【解決手段】蓄電素子の最内周に位置する正極または負極のいずれか一方には少なくとも2つの折り返し位置P51、P52が存在し、巻回の軸方向から見て、蓄電素子の最内周に位置する正極集電体もしくは負極集電体のどちらか一方を、少なくとも2箇所通る直線を引いた時、最も長くなる直線と、正極の巻き始め端部側における正極活物質層の端部と当該正極活物質層の端部に近い折り返し位置との間の距離を距離C1とし、正極の巻き終わり端部側における正極活物質層の端部と当該正極活物質層の端部に近い折り返し位置との間の距離を距離C2とし、蓄電素子の長手方向の長さをWとしたとき、以下の関係式(1)および(2)を満たす二次電池である。
0.02≦C1/W≦0.12・・・式(1)
0.02≦C2/W≦0.12・・・式(2)
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体上に正極活物質層が形成された正極と、負極集電体上に負極活物質層が形成された負極とが巻回された長円筒形状の蓄電素子と、
外装体と、
を有し、
前記蓄電素子の最内周に位置する前記正極または前記負極のいずれか一方には少なくとも2つの折り返し位置が存在し、
前記蓄電素子は、巻回の軸方向から見て、前記蓄電素子の最内周に位置する前記正極集電体もしくは前記負極終電体のどちらか一方を、少なくとも2箇所通る直線を引いた時、最も長くなる直線と、前記少なくとも2箇所の前記正極集電体もしくは前記負極終電体の一方とが交差する位置が折り返し位置であり、
前記正極の巻き始め端部側における前記正極活物質層の端部と当該正極活物質層の端部に近い前記折り返し位置との間の距離を距離C1とし、前記正極の巻き終わり端部側における前記正極活物質層の端部と当該正極活物質層の端部に近い前記折り返し位置との間の距離を距離C2とし、前記蓄電素子の長手方向の長さをWとしたとき、以下の関係式(1)および(2)を満たす二次電池。
0.02≦C1/W≦0.12・・・式(1)
0.02≦C2/W≦0.12・・・式(2)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
帯状の正極と負極とが帯状のセパレータを介して巻回された巻回構造の二次電池が知られている。特許文献1には、係る巻回構造を有する二次電池としてリチウムイオン電池が記載されている。特許文献1に記載のリチウムイオン電池では、正極活物質層の内周端部を、巻回構造の短軸方向において、正極タブと重ならない領域に形成するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたリチウムイオン電池では、充放電サイクルに伴う蓄電素子の膨張収縮により、負極集電体に応力が集中し、負極集電体が破断してしまうという場合があった。
【0005】
本発明の目的は、負極集電体の破断を抑制することができる二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するために、本発明は、
正極集電体上に正極活物質層が形成された正極と、負極集電体上に負極活物質層が形成された負極とが巻回された長円筒形状の蓄電素子と、
外装体と、
を有し、
蓄電素子の最内周に位置する正極または負極のいずれか一方には少なくとも2つの折り返し位置が存在し、
蓄電素子は、巻回の軸方向から見て、蓄電素子の最内周に位置する正極集電体もしくは負極終電体のどちらか一方を、少なくとも2箇所通る直線を引いた時、最も長くなる直線と、少なくとも2箇所の正極集電体もしくは負極終電体の一方とが交差する位置が折り返し位置であり、
正極の巻き始め端部側における正極活物質層の端部と当該正極活物質層の端部に近い折り返し位置との間の距離を距離C1とし、正極の巻き終わり端部側における正極活物質層の端部と当該正極活物質層の端部に近い折り返し位置との間の距離を距離C2とし、蓄電素子の長手方向の長さをWとしたとき、以下の関係式(1)および(2)を満たす二次電池である。
0.02≦C1/W≦0.12・・・式(1)
0.02≦C2/W≦0.12・・・式(2)
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、負極集電体の破断を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池の構成例を示す分解斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る折り返し位置等を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態等について図面を参照しながら説明する。なお、説明は以下の順序で行われる。
<本実施形態で考慮すべき問題>
<一実施形態>
<変形例>
以下に説明する実施形態等は本発明の好適な具体例であり、本発明の内容がこれらの実施形態等に限定されるものではない。
【0010】
<本実施形態で考慮すべき問題>
始めに、本実施形態の理解を容易とするために、本実施形態で考慮すべき問題について説明する。巻回構造を有するリチウムイオン電池では、巻回構造の平坦部において正極活物質層と負極活物質層とが対向する箇所とそうでない箇所とが生じ得る。リチウムイオン電池の充電時に、正極活物質層と負極活物質層とが対向する箇所では負極活物質層にリチウムが吸蔵されることで負極が膨張するが、対向しない箇所では負極は膨張しない。このため、充電時において負極膨張に伴う応力の分布が不均一となり局所的な応力の集中が生じる。特に、巻回構造における平坦な箇所と湾曲した箇所との間の境界付近に応力の集中が生じる。応力の集中によって負極集電体の箔が破断してしまうという問題があった。係る問題を考慮しつつ、以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
【0011】
<一実施形態>
[電池の構成]
まず、
図1から
図3を参照して、本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池(以下単に「電池」という。)の構成の一例について説明する。電池は、
図1に示すように、扁平状を有している。電池は、正極タブ(正極リード)31および負極タブ(負極リード)32が取り付けられ、扁平状を有する巻回型の電極体20と、電解質としての電解液(図示せず)と、これらの電極体20および電解液を収容するケース10とを備える。電池をその主面に垂直な方向から平面視すると、電池は長方形状を有している。
【0012】
(ケース)
外装体の一例であるケース10は、直方体状の薄型の電池缶であり、金属により構成されている。金属は、例えばニッケル(Ni)のめっきがされた鉄(Fe)を用いることができる。金属ケースを用いた場合、正極または負極のいずれかと接続することで、ケース自体が電池の端子を兼用することが可能となり、電池を小型化しやすくなる。ケース10は、収容部11と、蓋部12とを備える。収容部11は、電極体20を収容する。収容部11は、主面部11Aと、主面部11Aの周縁に設けられた壁部11Bとを備える。主面部11Aは電極体20の主面を覆い、壁部11Bは電極体20の側面および端面を覆う。壁部11Bのうち、電極体20の一方の端面(正極タブ31および負極タブ32が取り出される側の端面)に対向する部分には、正極端子13が設けられている。正極タブ31は、正極端子13に接続されている。負極タブ32は、ケース10の内側面に接続されている。蓋部12は、収容部11の開口を覆う。収容部11の壁部11Bの頂部と蓋部12の周縁部とは、溶接または接着剤等により接合されている。また、ケース10は、ラミネートフィルムのような剛性のないものであってもよいが、金属を主体として構成された金属ケースであることが好ましい。金属ケースは、一定の剛性を有し、電極体20を拘束する。このため、電極体20の膨張収縮にともなう電池の変形を抑制すると共に、負極集電体の破断を抑制することができる。
【0013】
(正極タブ、負極タブ)
正極タブ31および負極タブ32は、電極体20の一方の端面から導出されている。正極タブ31および負極タブ32は、例えば、Al、Cu、Niまたはステンレス鋼等の金属材料によりそれぞれ構成されており、それぞれ薄板状等とされている。
【0014】
ケース10と正極タブ31の間、ケース10と負極タブ32の間にはそれぞれ、外気の侵入を防止するためのシーラント(密着フィルム)31A、32Aが挿入されている。シーラント31A、32Aは、正極タブ31および負極タブ32に対して密着性を有する材料、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンまたは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂により構成されている。
【0015】
(電極体)
電極体20は、正極集電体上に正極活物質層が形成された正極と、負極集電体上に負極活物質層が形成された負極とが巻回された長円筒形状の蓄電素子である。電極体20について詳細に説明する。
【0016】
図2に示すように、電極体20は、対向する一対の平坦部20Aと、この一対の平坦部20Aとの間に設けられ、対向する一対の湾曲部20Bとを有する。電極体20は、帯状を有する正極21と、帯状を有する負極22と、帯状を有する2枚のセパレータ23A、23Bと、正極21に設けられた絶縁部材25B1、25B2と、負極22に設けられた絶縁部材26B1、26B2とを備える。セパレータ23A、23Bは、正極21と負極22との間に交互に設けられている。電極体20は、正極21と負極22とをセパレータ23Aまたはセパレータ23Bを介して積層し、扁平状かつ渦巻状になるように長手方向に巻回された構成を有している。電極体20は、正極21が最内周電極となり、負極22が最外周電極となるように巻回されている。最外周電極である負極22は、巻止テープ24により固定されている。正極21、負極22およびセパレータ23A、23Bには、電解液が含浸されている。
【0017】
(正極)
正極21は、内側面21S1および外側面21S2を有する正極集電体21Aと、正極集電体21Aの内側面21S1に設けられた正極活物質層21B1と、正極集電体21Aの外側面21S2に設けられた正極活物質層21B2とを備える。本明細書において、“内側面”とは、巻回中心側に位置する面を意味し、“外側面”とは、巻回中心とは反対側に位置する面を意味する。正極集電体21Aの厚みは、例えば3μm以上20μm以下である。正極活物質層21B1、21B2の厚みは、例えば30μm以上100μm以下である。
【0018】
正極21の巻回外周側の端部(以下単に「外周側端部」という。)の内側面21S1には、正極活物質層21B1が設けられず、正極集電体21Aの内側面21S1が露出した正極集電体露出部21D1が設けられている。正極21の外周側端部の外側面21S2には、正極活物質層21B2が設けられず、正極集電体21Aの外側面21S2が露出した正極集電体露出部21D2が設けられている。正極集電体露出部21D2のうち平坦部20Aに対応する部分には、正極タブ31が接続されている。巻回方向における正極集電体露出部21D1の長さは、例えば、巻回方向における正極集電体露出部21D2の長さとほぼ同一になっている。
【0019】
正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム箔、ニッケル箔またはステンレス箔等の金属箔により構成されている。正極活物質層21B1、21B2は、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極活物質を含む。正極活物質層21B1、21B2は、必要に応じてバインダーおよび導電剤のうちの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。
【0020】
(正極活物質)
正極活物質としては、例えば、リチウム酸化物、リチウムリン酸化物、リチウム硫化物またはリチウムを含む層間化合物等のリチウム含有化合物が適当であり、これらの2種以上を混合して用いてもよい。エネルギー密度を高くするには、リチウムと遷移金属元素と酸素とを含むリチウム含有化合物が好ましい。このようなリチウム含有化合物としては、例えば、層状岩塩型の構造を有するリチウム複合酸化物、オリビン型の構造を有するリチウム複合リン酸塩等が挙げられる。リチウム含有化合物としては、遷移金属元素として、Co、Ni、MnおよびFeからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものであればより好ましい。このようなリチウム含有化合物としては、例えば、LiNi0.50Co0.20Mn0.30O2、LiCoO2、LiNiO2、LiNiaCo1-aO2(0<a<1)、LiMn2O4またはLiFePO4等がある。
【0021】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極活物質としては、これらの他にも、MnO2、V2O5、V6O13、NiS、MoS等のリチウムを含まない無機化合物を用いることもできる。
【0022】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極活物質は、上記以外のものであってもよい。また、上記で例示した正極活物質は、任意の組み合わせで2種以上混合されてもよい。
【0023】
(バインダー)
バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、およびこれら樹脂材料のうちの1種を主体とする共重合体等からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0024】
(導電剤)
導電剤としては、例えば、黒鉛、炭素繊維、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブおよびグラフェン等からなる群より選ばれる少なくとも1種の炭素材料を用いることができる。なお、導電剤は導電性を有する材料であればよく、炭素材料に限定されるものではない。例えば、導電剤として金属材料または導電性高分子材料等を用いるようにしてもよい。また、導電剤の形状としては、例えば、粒状、鱗片状、中空状、針状または筒状等が挙げられるが、特にこれらの形状に限定されるものではない。
【0025】
(負極)
負極22は、内側面22S1および外側面22S2を有する負極集電体22Aと、負極集電体22Aの内側面22S1に設けられた負極活物質層22B1と、負極集電体22Aの外側面22S2に設けられた負極活物質層22B2とを備える。負極集電体22Aの厚みは、例えば3μm以上20μm以下である。負極活物質層22B1、22B2の厚みは、例えば30μm以上100μm以下である。
【0026】
負極22の外周側端部の内側面22S1には、負極活物質層22B1が設けられず、正極集電体21Aの内側面22S1が露出した負極集電体露出部22D1が設けられている。負極22の外周側端部の外側面22S2には、負極活物質層22B2が設けられず、負極集電体22Aの外側面22S2が露出した負極集電体露出部22D2が設けられている。負極集電体露出部22D1のうち平坦部20Aに対応する部分には、負極タブ32が接続されている。なお、正極タブ31および負極タブ32は同一の平坦部20Aの側に設けられている。
【0027】
巻回方向における負極集電体露出部22D2の長さは、巻回方向における負極集電体露出部22D1の長さよりも約1周長くなっている。すなわち、負極22の外周側端部には、負極活物質層22B1および負極活物質層22B2のうち、負極活物質層22B1のみが負極集電体22Aに形成された片面活物質層形成部が、例えば約1周設けられている。
【0028】
負極22の最外周には、負極集電体22Aの内側面22S1および外側面22S2の両方が露出した部分(すなわち正極21の両面に負極集電体露出部22D1および負極集電体露出部22D2が設けられている部分)が、例えば約1周にわたって設けられている。これにより、負極集電体露出部22D2とケース10の内側面とが電気的に接触する。しがって、負極22とケース10との間を電気的に接続し、さらに抵抗を低減することができる。
【0029】
負極集電体22Aは、例えば、銅箔、ニッケル箔またはステンレス箔等の金属箔により構成されている。本実施形態では、負極集電体22Aとして銅箔が用いられている。負極集電体22Aの銅箔としては、銅箔に含まれる不純物(例えば、硫黄の成分)が20ppm(parts per million)以下であり、200℃熱処理後の伸び率が7%以上の銅箔が用いられる。200℃熱処理後の伸び率とは、200℃で3時間加熱後に常温で測定した伸び率を意味する。例えば、株式会社島津製作所製のオートグラフAG-ISを用いた試験を行い、測定試料サイズをASTM-D638-V(サイズは幅最大値9.53mm、幅最小値3.15mm、幅と直交する長さ63.50mm)、試験速度1mm/minとし、200℃で3時間加熱後に常温で測定した結果の伸び率が7%以上の銅箔が用いられる。
【0030】
負極活物質層22B1、22B2は、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極活物質を含む。負極活物質層22B1、22B2は、必要に応じてバインダーおよび導電剤のうちの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。
【0031】
(負極活物質)
負極活物質としては、例えば、難黒鉛化性炭素、易黒鉛化性炭素、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維または活性炭等の炭素材料が挙げられる。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスまたは石油コークス等がある。有機高分子化合物焼成体というのは、フェノール樹脂やフラン樹脂等の高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいい、一部には難黒鉛化性炭素または易黒鉛化性炭素に分類されるものもある。これら炭素材料は、充放電時に生じる結晶構造の変化が非常に少なく、高い充放電容量を得ることができると共に、良好なサイクル特性を得ることができるので好ましい。特に黒鉛は、電気化学当量が大きく、高いエネルギー密度を得ることができ好ましい。また、難黒鉛化性炭素は、優れたサイクル特性が得られるので好ましい。さらにまた、充放電電位が低いもの、具体的には充放電電位がリチウム金属に近いものが、電池の高エネルギー密度化を容易に実現することができるので好ましい。
【0032】
(バインダー)
バインダーとしては、正極活物質層21B1、21B2と同様のものを用いることができる。
【0033】
(導電剤)
導電剤としては、正極活物質層21B1、21B2と同様のものを用いることができる。
【0034】
(セパレータ)
セパレータ23A、23Bは、正極21と負極22とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータ23A、23Bは、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオレフィン樹脂(ポリプロピレン(PP)またはポリエチレン(PE)等)、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂またはナイロン樹脂、または、これらの樹脂をブレンドした樹脂からなる多孔質膜によって構成されており、これらの2種以上の多孔質膜を積層した構造とされていてもよい。
【0035】
中でも、ポリオレフィン製の多孔質膜は短絡防止効果に優れ、かつシャットダウン効果による電池の安全性向上を図ることができるので好ましい。特にポリエチレンは、100℃以上160℃以下の範囲内においてシャットダウン効果を得ることができ、かつ電気化学的安定性にも優れているので、セパレータ23A、23Bを構成する材料として好ましい。その中でも、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状ポリエチレンは溶融温度が適当であり、入手が容易なので好適に用いられる。他にも、化学的安定性を備えた樹脂を、ポリエチレンまたはポリプロピレンと共重合またはブレンド化した材料を用いることができる。あるいは、多孔質膜は、ポリプロピレン層と、ポリエチレン層と、ポリプロピレン層を順次に積層した3層以上の構造を有していてもよい。例えば、PP/PE/PPの三層構造とし、PPとPEの質量比[wt%]が、PP:PE=60:40~75:25とすることが望ましい。あるいは、コストの観点から、PPが100wt%またはPEが100wt%の単層基材とすることもできる。セパレータ23A、23Bの作製方法としては、湿式、乾式を問わない。
【0036】
セパレータ23A、23Bとしては、不織布を用いてもよい。不織布を構成する繊維としては、アラミド繊維、ガラス繊維、ポリオレフィン繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、またはナイロン繊維等を用いることができる。また、これら2種以上の繊維を混合して不織布としてもよい。
【0037】
(電解液)
電解液は、いわゆる非水電解液であり、有機溶媒(非水溶媒)と、この有機溶媒に溶解された電解質塩とを含む。電解液が、電池特性を向上するために、公知の添加剤を含んでいてもよい。なお、電解液に代えて、電解液と、この電解液を保持する保持体となる高分子化合物とを含む電解質層を用いるようにしてもよい。この場合、電解質層は、ゲル状となっていてもよい。
【0038】
有機溶媒としては、炭酸エチレンまたは炭酸プロピレン等の環状の炭酸エステルを用いることができ、炭酸エチレンおよび炭酸プロピレンのうちの一方、特に両方を混合して用いることが好ましい。サイクル特性をさらに向上させることができるからである。
【0039】
有機溶媒としては、また、これらの環状の炭酸エステルに加えて、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルまたは炭酸メチルプロピル等の鎖状の炭酸エステルを混合して用いることが好ましい。高いイオン伝導性を得ることができるからである。
【0040】
有機溶媒としては、さらにまた、2,4-ジフルオロアニソールまたは炭酸ビニレンを含むこと好ましい。2,4-ジフルオロアニソールは放電容量をさらに向上させることができ、また、炭酸ビニレンはサイクル特性をさらに向上させることができるからである。よって、これらを混合して用いれば、放電容量およびサイクル特性をさらに向上させることができるので好ましい。
【0041】
これらの他にも、有機溶媒としては、炭酸ブチレン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル、N,N-ジメチルフォルムアミド、N-メチルピロリジノン、N-メチルオキサゾリジノン、N,N-ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、ジメチルスルフォキシドまたはリン酸トリメチル等が挙げられる。
【0042】
なお、これらの有機溶媒の少なくとも一部の水素をフッ素で置換した化合物は、組み合わせる電極の種類によっては、電極反応の可逆性を向上させることができる場合があるので、好ましい場合もある。
【0043】
電解質塩としては、例えばリチウム塩が挙げられ、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4、LiB(C6H5)4、LiCH3SO3、LiCF3SO3、LiN(SO2CF3)2、LiC(SO2CF3)3、LiAlCl4、LiSiF6、LiCl、ジフルオロ[オキソラト-O,O']ホウ酸リチウム、リチウムビスオキサレートボレート、またはLiBr等が挙げられる。中でも、LiPF6は高いイオン伝導性を得ることができると共に、サイクル特性をさらに向上させることができるので好ましい。
【0044】
(絶縁部材)
絶縁部材25B1、25B2、26B1、26B2は、例えば矩形のフィルム状を有し、一方の面に接着面を有している。より具体的には、絶縁部材25B1、25B2、26B1、26B2は、基材と、基材上に設けられた接着層とを備える。なお、本明細書において、粘着(pressure sensitive adhesion)は接着(adhesion)の一種と定義する。この定義に従えば、粘着層は接着層の一種と見なされる。また、フィルムには、シートも含まれるものと定義する。絶縁部材25B1、25B2、26B1、26B2としては、例えば、絶縁テープが用いられる。絶縁部材25B1、25B2、26B1、26B2の材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、ポリエチレン(PE)またはポリプロピレン(PP)等が挙げられる。
【0045】
(正極に設けられた絶縁部材)
絶縁部材25B1は、正極集電体露出部21D1および正極活物質層21B1間の境界にある段差部と、正極集電体露出部21D1とを覆っている。絶縁部材25B2は、正極集電体露出部21D2および正極活物質層21B2間の境界にある段差部と、正極集電体露出部21D2とを覆っている。なお、絶縁部材25B2は、正極集電体露出部21D2と共に正極タブ31も覆っている。正極集電体露出部21D1および正極活物質層21B1間の境界、および正極集電体露出部21D2および正極活物質層21B2間の境界は、電極体20の巻回軸方向に平行に形成されている。
【0046】
絶縁部材25B1は、正極集電体露出部21D1と負極活物質層22B2が対向する領域、および正極集電体露出部21D1と負極集電体露出部22D2が対向する領域に設けられている。絶縁部材25B2は、正極集電体露出部21D2と負極活物質層22B1が対向する領域、および正極集電体露出部21D2と負極集電体露出部22D1が対向する領域に設けられている。
【0047】
正極21は、正極集電体露出部21D1の外周側端部が絶縁部材25B1により覆われずに露出した正極集電体露出部21D3、および正極集電体露出部21D2の外周側端部が絶縁部材25B2により覆われずに露出した正極集電体露出部21D4を有している。
【0048】
(負極に設けられた絶縁部材)
絶縁部材26B1は、負極集電体露出部22D1のうち、負極タブ32が設けられている部分および正極集電体露出部21D4に対向する部分を覆っている。絶縁部材26B1が、負極集電体露出部22D1のうち一つの平坦部20Aに対応する部分のほぼ全体を覆っていてもよい。
【0049】
絶縁部材26B2は、負極集電体露出部22D2および負極活物質層22B2間の境界22P(すなわち片面活物質層形成部および負極活物質層22B2間の境界22P)にある段差部と、負極集電体露出部22D2とを覆っている。負極集電体露出部22D2および負極活物質層22B2間の境界22Pは、電極体20の巻回軸方向に平行に形成されている。絶縁部材26B2は、負極集電体露出部22D2のうち、正極集電体露出部21D3に対向する部分も覆っていることが好ましい。正極集電体露出部21D3は、境界22Pよりも電極体20の巻回外周側に位置し、負極タブ32は正極集電体露出部21D3よりも電極体20の巻回外周側に位置している。正極集電体露出部21D3は、例えば、境界22Pが設けられた平坦部20Aとは反対側の平坦部20Aに位置している。
【0050】
(折り返し位置)
蓄電素子の最内周に位置する正極または負極のいずれか一方には少なくとも2つの折り返し位置が存在する。例えば、
図3に示すように、本実施形態に係る電極体20の最内周に位置する正極21には2つの折り返し位置P51、P52が存在する。電極体20の巻回構造によっては、最内周に負極22が存在し、負極22の折り返し位置が存在し得る。
【0051】
また、電極体20を構成する正極21は、巻回構造の始点である巻き始め端部と、巻回構造の終点である巻き終わり端部を有している。正極21の巻き始め端部側には、正極活物質層21B1の端部41Aが存在する。また、正極21の巻き終わり端部側には、正極活物質層21B1の端部41Bが存在する。正極活物質層21B1の端部41Aと、当該正極活物質層21B1の端部41Aに近い折り返し位置P51との間の距離(電極体20の長軸方向の距離)をC1(mm)とする。また、正極21の巻き終わり端部側における正極活物質層21B2の端部41Bと、当該正極活物質層の端部41Bに近い折り返し位置P52との間の距離(電極体20の長軸方向の距離)を距離C2(mm)とする。なお、本実施形態のように、正極集電体21Aの両面に正極活物質層が形成されている場合には、折り返し位置に近い方の正極活物質層の端部によって、距離C1または距離C2が規定される。
【0052】
また、電極体20の長手方向(長軸方向)の長さをW(mm)とする。この場合、電池は、以下の関係式(1)および(2)を満たす。
0.02≦C1/W≦0.12・・・式(1)
0.02≦C2/W≦0.12・・・式(2)
距離C1、C2は、等しい(C1=C2)長さであってもよい。
【0053】
図2に示すように本実施形態に係る電極体20では、正極タブ31および負極タブ32が電極体20の最外周に接続されている。具体的には、最外周に位置する正極集電体21Aに正極タブ31が接続されており、最外周に位置する負極集電体22Aに負極タブ32が接続されている。
【0054】
より具体的には、正極タブ31および負極タブ32が最外周の平坦部(
図2における上側の平坦部20A)に位置する。そして、上述した正極活物質層21B1の端部41Aと正極活物質層21B2の端部41Bとが、正極タブ31および負極タブ32とが位置する側の平坦部とは反対側の平坦部(
図2における下側の平坦部20A)に位置している。
【0055】
[電池の製造方法]
次に、本発明の一実施形態に係る電池の製造方法の一例について説明する。
【0056】
(正極の作製工程)
正極21は次のようにして作製される。まず、例えば、正極活物質と、バインダーと、導電剤とを混合して正極合剤を調製し、この正極合剤をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーを作製する。次に、この正極合剤スラリーを正極集電体21Aの両面に塗布し溶剤を乾燥させ、ロールプレス機等により圧縮成型することにより正極活物質層21B1、21B2を形成し、正極21を得る。この際、正極21の一端に正極集電体露出部21D1、21D2が形成されるように、正極合剤スラリーの塗布位置を調整する。
【0057】
次に、正極21の一端に設けられた正極集電体露出部21D2に正極タブ31を溶接により取り付ける。次に、正極21の一端に設けられた正極集電体露出部21D1、21D2にそれぞれ絶縁部材25B1、25B2をそれぞれ貼り合わせる。
【0058】
(負極の作製工程)
負極22は次のようにして作製される。まず、例えば、負極活物質と、バインダーとを混合して負極合剤を調製し、この負極合剤をN-メチル-2-ピロリドン等の溶剤に分散させてペースト状の負極合剤スラリーを作製する。次に、この負極合剤スラリーを負極集電体22Aの両面に塗布し溶剤を乾燥させ、ロールプレス機等により圧縮成型することにより負極活物質層22B1、22B2を形成し、負極22を得る。この際、負極22の一端に負極集電体露出部22D1、22D2が形成されるように、負極合剤スラリーの塗布位置を調整する。
【0059】
次に、負極22の一端に設けられた負極集電体露出部22D1に負極タブ32を溶接により取り付ける。次に、負極22の他端に設けられた正極集電体露出部21D1、21D2にそれぞれ絶縁部材26B1、26B2をそれぞれ貼り合わせる。
【0060】
(巻回工程)
正極21、負極22およびセパレータ23A、23Bを巻芯により規定の長さ巻き取ることで電極体20を作製する。なお、正極21および負極22は予め規定の長さにカットされている。
【0061】
(負極端部の曲げ工程)
図示しない治具により、負極22の外周側端部を所定方向(例えば下方)に倒す。このようにして倒される負極22の外周側端部には、負極集電体露出部22D2および負極活物質層22B2間の境界22Pが含まれる。絶縁部材26B2は境界22Pを覆っているので、境界22Pにおける負極22の剛性を高めることができ、負極22の外周側端部が境界22Pを起点として折れ曲がることを抑制することができる。したがって、負極活物質層22B1のうち、境界22Pの裏面側に位置する部分から負極活物質が脱落することを抑制することができる。よって、負極活物質の脱落に起因する微小ショートの発生を抑制することができる。なお、治具以外の手段により負極22の外周側端部を倒すようにしてもよい。
【0062】
負極タブ32が負極22の外周側端部に予め取り付けられていることで、負極22の外周側端部を倒すときに負極タブ32を重りとして機能させることができる。したがって、負極22の外周側端部を容易に倒すことができる。よって、“負極端部の曲げ工程”の後工程である“セパレータカット工程”において、セパレータ23A、23Bと共に負極22もカットされることを抑制することができる。
【0063】
(セパレータカット工程)
図示しない支持部材により、電極体20の上方にてセパレータ23A、23Bを支持したのち、カッターによりセパレータ23A、23Bをカットする。カット後、最外周電極である負極22の外周側端部を巻止テープ24により固定する。これにより、電極体20が得られる。
【0064】
なお、巻回後の状態では、負極22は、静電気によりセパレータ23Aに引き付けられている。この状態でセパレータ23A、23Bをカットすると、セパレータ23A、23Bと共に負極22もカットされてしまい、負極22が規定の長さよりも短くなってしまう虞がある。上述のように負極22の外周側端部を倒したのち、セパレータ23A、23Bをカットすることで、セパレータ23A、23Bと共に負極22もカットされることを抑制することができる。
【0065】
(封止工程)
電極体20はケース10により次のようにして封止される。まず、収容部11に電極体20と電解液を収容する。続いて、正極タブ31を、ケース10に設置された正極端子13に接続し、負極タブ32をケース10の内側面に接続する。次に、蓋部12で収容部11の開口を覆い、収容部11と蓋部12の周縁部を溶接または接着剤等により接合する。これにより、電池が得られる。
【0066】
[効果]
本実施形態では、下記の効果を得ることができる。
距離C1、C2の範囲を実施形態で説明した範囲、すなわち、関係式(1)、(2)の両方を満たす範囲に設定する。これにより、2個の平坦部のそれぞれにおいて、正極の正極活物質層と負極の正極活物質層とを広い範囲で対向させることが可能となる。したがって、充電時における負極の膨張が全方位にわたって均一に発生することになり、電極体において局所的な応力の集中が発生してしまうことを抑制することができる。また、局所的な応力の集中に起因する負極集電体の破断を抑制することができる。
また、最外周に正極タブおよび負極タブがあることにより、各リードの段差が存在する分だけ正極および負極のゆがみが顕著になるところ、距離C1および距離C2がそれぞれ関係式(1)および(2)を満たすことで破断を起こしにくくなる。
また、正極タブおよび負極タブが接続される平坦部と反対側の平坦部に正極活物質層の2個の端部を位置するようにしている。これにより、段差により生じる正極および負極のゆがみ箇所が電極の平面視で対称になる。これにより、ゆがみを分散し破断をさらに抑制できる。
また、距離C1=C2とすることにより、負極の破断を効果的に抑制できる。
さらに負極集電体の銅箔として、銅箔に含まれる不純物(例えば、硫黄の成分)が20ppm以下であり、200℃熱処理後の伸び率が7%以上の銅箔を用いることにより膨張時に銅箔が伸びることで、銅箔が破断してしまうことを抑制することができる。
【実施例0067】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0068】
[実施例1~4]
(正極の作製工程)
正極は次のようにして作製された。まず、正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)91質量部と、導電剤としてグラファイト6質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合することにより正極合剤としたのち、N-メチル-2-ピロリドンに分散させることにより、ペースト状の正極合剤スラリーとした。
【0069】
次に、正極集電体として厚み19μmの帯状のアルミニウム箔を準備し、このアルミニウム箔の両面に正極合剤スラリーを塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機で圧縮成型し、正極活物質層を形成することにより、正極を得た。この際、正極の一方の端部の両面に正極集電体露出部が形成されるように、正極合剤スラリーの塗布位置を調整した。次に、正極の一方の端部の両面に形成された正極集電体露出部のうち、巻回後に外周側端部の外側面となる正極集電体露出部にアルミニウム製の正極タブを溶接して取り付けた。次に、正極の一方の端部の両面に形成された正極集電体露出部にそれぞれ絶縁テープを貼り付けた(
図2参照)。
【0070】
(負極の作製工程)
負極は次のようにして作製された。まず、負極活物質として人造黒鉛粉末97質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合して負極合剤としたのち、N-メチル-2-ピロリドンに分散させることにより、ペースト状の負極合剤スラリーとした。
【0071】
次に、負極集電体として厚み6μmの帯状の銅箔を準備し、銅箔の両面に負極合剤スラリーを塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機で圧縮成型し、負極活物質層を形成することにより、負極を得た。この際、負極の一方の端部の両面に負極集電体露出部が形成されるように、負極合剤スラリーの塗布位置を調整した。次に、負極の一方の端部の両面に形成された負極集電体露出部のうち、巻回後に外周側端部の内側面となる負極集電体露出部にニッケル製の負極タブを溶接して取り付けた。次に、負極の一方の端部の両面に形成された負極集電体露出部にそれぞれ絶縁テープを貼り付けた(
図2参照)。
【0072】
(電解液の調製工程)
電解液は次のようにして調製された。まず、炭酸エチレン(EC)と炭酸プロピレン(PC)とを、質量比がEC:PC=1:1となるようにして混合して混合溶媒を調製した。次に、この混合溶媒に、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1.0mol/kgとなるように溶解させて電解液を調製した。
【0073】
(電池の作製工程)
電池は次のようにして作製された。まず、正極、負極および2枚のセパレータを巻芯により巻回して、扁平形状を有する巻回型の電極体を得た。セパレータとしては、厚み25μmの微孔性ポリエチレンフィルムを用いた。続いて、治具により負極の外周側端部を倒した。次に、支持部材により、電極体の上方にてセパレータを支持したのち、カッターによりセパレータをカットした。その後、最外周電極である負極の外周側端部を巻止テープにより固定した。これにより、電極体が得られた。次に、金属缶の収容部に電極体と電解液を収容し、蓋部で収容部の開口を覆い、収容部と蓋部の周縁部を接合することにより、金属缶を封止した。これにより、目的とする電池が得られた。
【0074】
なお、電極体の長手方向の長さを25mmとした。そして、正極の作製工程において、正極集電体の巻き始め位置と巻き終わり位置を適宜、調整した。また、正極合剤スラリーの塗布位置を調整することにより、正極の巻き始め端部側における正極活物質層の端部および正極の巻き終わり端部側における正極活物質層の端部の位置を適宜、調整した。以上の調整は、関係式(1)、(2)を満たすようになされた。
【0075】
[比較例1~4]
関係式(1)、(2)を満たさないように調整された以外は、実施例1と同様にして電池を得た。
【0076】
(破断発生率)
破断発生率は以下のようにして評価された。電池のSOC(State of Charge)が150%になるまで電池を過充電し、過充電後の電池を解体した。その際、負極集電体の銅箔の破断を目視で確認して、電池の製造個数(評価個数)に対する、破断が発生した電池の合計個数の割合を破断発生率とした。なお、電池の製造個数は、100個とした。
【0077】
(サイクル充放電後の破断発生率)
サイクル充放電後の破断発生率は以下のようにして評価された。40℃の環境下で、電池を1C(Capacity)/1Cでの充放電を1サイクルの充放電としてサイクル回数10000回の充放電を行った。サイクル充放電後の電池を解体した。その際、負極集電体の銅箔の破断を目視で確認して、電池の製造個数に対する、破断が発生した電池の合計個数の割合をサイクル充放電後の破断発生率とした。なお、電池の製造個数は、100個とした。
【0078】
表1は、実施例1~4、比較例1~4の電池の構成および評価結果を示す。
【0079】
【0080】
表1から以下のことがわかる。
C1/WおよびC2/Wが関係式(1)、(2)を満たす実施例1~4の電池では、破断発生率を0%にすることができた。これに対して、C1/WおよびC2/Wが関係式(1)、(2)を満たさない比較例1~4の電池では、破断発生率が20%以上になった。
また、実施例1~4の電池では、サイクル充放電後の破断発生率を10%以下にすることができた。これに対して、比較例1~4の電池では、サイクル充放電後の破断発生率が60%以上になった。
また、実施例4のように、C1=C2の場合も破断発生率が0%となり、サイクル充放電後の破断発生率も8%と低い値になった。
また、比較例1~3のように、関係式(1)および(2)の何れか一方のみを満たす電池においても破断発生率が21%~32%と高くなり、サイクル充放電後の破断発生率も69%~90%と高くなった。
【0081】
[実施例5~11]
次に、C1/W=0.10、C2/W=0.10とし、関係式(1)、(2)を満たす電池を作製した。電池の作製方法は実施例1と同様である。負極集電体の銅箔に含まれる硫黄分および銅箔伸び率を変化させながら、実施例1等と同様の評価をおこなった。
【0082】
表2は、実施例5~11の電池の構成および評価結果を示す。
【0083】
【0084】
表2から以下のことがわかる。
C1/WおよびC2/Wが関係式(1)、(2)を満たす実施例5~11の電池では、破断発生率を0%にすることができた。また、サイクル充放電後の破断発生率を12%以下にすることができた。
さらに、負極集電体の銅箔に含まれる銅箔硫黄分が20ppm以下であり、銅箔伸び率が7%以上である実施例7~10では、破断発生率を1桁(8%以下)にすることができた。
【0085】
[比較例5~11]
次に、C1/W=0.40、C2/W=0.48とし、関係式(1)、(2)を満たさない電池を作製した。電池の作製方法は実施例1と同様である。負極集電体の銅箔に含まれる硫黄分および銅箔伸び率を変化させながら、実施例1等と同様の評価をおこなった。
【0086】
表3は、比較例5~11の電池の構成および評価結果を示す。
【0087】
【0088】
表3から以下のことがわかる。
C1/WおよびC2/Wが関係式(1)、(2)を満たさない比較例5~11の電池では、破断発生率が69%以上と高い値になった。また、サイクル充放電後の破断発生率が全て100%になった。このように、C1/WおよびC2/Wが関係式(1)、(2)を満たさない電池では、銅箔硫黄分および銅箔伸び率を変化させても、破断発生率およびサイクル充放電後の破断発生率が共に高い値となった。
【0089】
<変形例>
以上、本発明の実施形態および実施例について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0090】
例えば、上述の実施形態および実施例において挙げた構成、方法、工程、形状、材料および数値等はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料および数値等を用いてもよい。また、上述の実施形態および実施例の構成、方法、工程、形状、材料および数値等は、本発明の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0091】
また、上述の実施形態にて例示した化合物等の化学式は代表的なものであって、同じ化合物の一般名称であれば、記載された価数等に限定されない。また、上述の実施形態で段階的に記載された数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値または下限値は、他の段階の数値範囲の上限値または下限値に置き換えてもよい。また、上述の実施形態に例示した材料は、特に断らない限り、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。