(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063270
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】ロボットシステム、加工量推定方法及び加工量推定プログラム
(51)【国際特許分類】
B24B 27/00 20060101AFI20240502BHJP
B24B 49/14 20060101ALI20240502BHJP
B24B 49/16 20060101ALI20240502BHJP
B24B 47/22 20060101ALI20240502BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
B24B27/00 A
B24B49/14
B24B49/16
B24B47/22
B23Q17/00 E
B23Q17/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171058
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】原田 樹
【テーマコード(参考)】
3C029
3C034
3C158
【Fターム(参考)】
3C029EE20
3C029FF05
3C034AA13
3C034AA19
3C034BB72
3C034BB92
3C034CA11
3C034CA16
3C034CA19
3C034CB08
3C034CB13
3C034DD07
3C158AA05
3C158AA11
3C158AA14
3C158AA16
3C158AB03
3C158AB04
3C158AC02
3C158BA01
3C158BA04
3C158BA06
3C158BA07
3C158BA08
3C158BB02
3C158BB08
3C158BC01
3C158BC02
3C158BC03
3C158CB01
(57)【要約】
【課題】研磨及び研削等の加工作業の進捗を好適に推定することができる。
【解決手段】加工ロボットシステム1は、関節部24を動作させるモータ241と当該モータ241の位置情報を検出するエンコーダ242とを有し、研磨工具4及びワーク3の一方を保持して他方に接触させるロボットアーム2と、ワーク3の温度を計測する赤外線カメラ26と、表示部53と、制御装置5とを備えている。制御装置5は、赤外線カメラ26が計測した温度に基づいて、ワーク3の加工量を推定し、エンコーダ242が検出したモータ241の位置情報と、研磨工具4及びワーク3の一方に作用する力反力と、に基づいて、研磨工具4とワーク3との接触点の位置を推定し、接触点の位置と加工量とを対応付けて表示部53に表示させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節部を動作させるモータと当該モータの位置情報を検出するエンコーダとを有し、加工工具及び被加工物の一方を保持して他方に接触させるロボットアームと、
前記被加工物の温度を計測する計測手段と、
前記計測手段が計測した温度に基づいて、前記被加工物の加工量を推定する加工量推定手段と、
前記エンコーダが検出した前記モータの位置情報と、前記加工工具及び前記被加工物の一方に作用する接触反力と、に基づいて、前記加工工具と前記被加工物との接触点の位置を推定する位置推定手段と、
前記接触点の位置と前記加工量とを対応付けて表示する表示手段と、
を備えるロボットシステム。
【請求項2】
前記加工量推定手段は、前記加工工具と前記被加工物との接触点の各々について、
前記計測手段が計測した温度の時間微分に基づいて加工熱量を算出し、
前記加工熱量の時間積分に基づいて総加工熱量を算出し、
前記総加工熱量を前記加工量に換算する、
請求項1に記載のロボットシステム。
【請求項3】
前記表示手段は、前記被加工物における前記温度と前記加工量の分布を単一の分布図に重複させて表示する、
請求項1に記載のロボットシステム。
【請求項4】
前記表示手段は、前記温度の分布を色のパラメータで表示し、前記加工量の分布を模様の濃淡で表示する、
請求項3に記載のロボットシステム。
【請求項5】
前記加工量を加工深さに換算する換算手段を備え、
前記表示手段は、前記加工量に代えて前記加工深さを表示する、
請求項1に記載のロボットシステム。
【請求項6】
前記ロボットアームは、前記被加工物を保持し、
前記計測手段は、前記ロボットアームのエンドエフェクタに固定され、前記被加工物の温度を裏面側から計測する、
請求項1に記載のロボットシステム。
【請求項7】
前記計測手段は、前記ロボットアームから独立して固定され、前記加工工具が接触する前記被加工物の加工面の温度を直接計測する、
請求項1に記載のロボットシステム。
【請求項8】
関節部を動作させるモータと当該モータの位置情報を検出するエンコーダとを有し、加工工具及び被加工物の一方を保持して他方に接触させるロボットアームと、
前記被加工物の温度を計測する計測手段と、
を備えるロボットシステムの制御部が、
前記計測手段が計測した温度に基づいて、前記被加工物の加工量を推定する加工量推定工程と、
前記エンコーダが検出した前記モータの位置情報と、前記加工工具及び前記被加工物の一方に作用する接触反力と、に基づいて、前記加工工具と前記被加工物との接触点の位置を推定する位置推定工程と、
前記接触点の位置と前記加工量とを対応付けて表示する表示工程と、
を実行する加工量推定方法。
【請求項9】
関節部を動作させるモータと当該モータの位置情報を検出するエンコーダとを有し、加工工具及び被加工物の一方を保持して他方に接触させるロボットアームと、
前記被加工物の温度を計測する計測手段と、
を備えるロボットシステムのコンピュータを、
前記計測手段が計測した温度に基づいて、前記被加工物の加工量を推定する加工量推定手段、
前記エンコーダが検出した前記モータの位置情報と、前記加工工具及び前記被加工物の一方に作用する接触反力と、に基づいて、前記加工工具と前記被加工物との接触点の位置を推定する位置推定手段、
前記接触点の位置と前記加工量とを対応付けて表示する表示手段、
として機能させる加工量推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットシステム、加工量推定方法及び加工量推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
研磨や研削等の加工作業においては、加工量(研磨量、研削量)の把握が当然に重要となる。しかし、作業後に加工量を計測する手法では、加工量に過不足があった場合に手戻りが生じてしまう。そのため、加工量(すなわち加工作業の進捗)をリアルタイムに把握できることが望ましい。
【0003】
そこで、例えば特許文献1に記載の技術では、ウェハの表面を研磨する半導体装置において、ウェハの裏面側(加工面とは反対側)に複数の温度検出デバイスを配置し、この温度検出デバイスに検出された温度の情報から加工量を推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、加工面の裏面側から計測した温度を用いて単純に計算した場合、その加工位置の推定精度が良好でないおそれがある。特に、ウェハと異なり厚いワークを加工対象とする場合、加工位置の推定精度はワークの厚さが増すに連れて悪化する。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、研磨及び研削等の加工作業の進捗を好適に推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るロボットシステムは、
関節部を動作させるモータと当該モータの位置情報を検出するエンコーダとを有し、加工工具及び被加工物の一方を保持して他方に接触させるロボットアームと、
前記被加工物の温度を計測する計測手段と、
前記計測手段が計測した温度に基づいて、前記被加工物の加工量を推定する加工量推定手段と、
前記エンコーダが検出した前記モータの位置情報と、前記加工工具及び前記被加工物の一方に作用する接触反力と、に基づいて、前記加工工具と前記被加工物との接触点の位置を推定する位置推定手段と、
前記接触点の位置と前記加工量とを対応付けて表示する表示手段と、
を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、研磨及び研削等の加工作業の進捗を好適に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る加工ロボットシステムを示す図である。
【
図2】実施形態に係る加工ロボットシステムの概略の制御構成を示すブロック図である。
【
図3】実施形態に係る研磨量推定処理の手順を示すフローチャートである。
【
図4】実施形態に係る研磨量推定処理を説明するための図である。
【
図5】実施形態に係る研磨量推定処理での表示部の表示例を示す図である。
【
図6】実施形態に係る加工ロボットシステムの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
[加工ロボットシステムの構成]
図1は、本実施形態に係る加工ロボットシステム1を示す図である。
この図に示すように、加工ロボットシステム1は、ロボットアーム2でワーク(被加工物)3を把持して研磨工具4に接触させることにより、ワーク3の研磨加工を行う。具体的に、加工ロボットシステム1は、ロボットアーム2と、研磨工具(加工工具)4と、制御装置5とを備えている。
【0011】
ロボットアーム2は、本実施形態では垂直多関節ロボットであり、ベース部21と、複数のアーム22と、エンドエフェクタ23と、複数の関節部24と、コントローラ28(
図2参照)とを有している。
ただし、ロボットアーム2は垂直多関節ロボットに限定されない。
【0012】
複数のアーム22は、図示しない環境(例えば、工場の床、アーム保持台等)に固定されたベース部21を基端部として、互いに直列に連結されている。
エンドエフェクタ23は、複数のアーム22の先端に連結されている。エンドエフェクタ23には、ワーク3を把持するために当該エンドエフェクタ23を駆動するモータ231と、このモータ231の位置(速度)を検出してコントローラ28に出力するエンコーダ232と、力覚センサ233とが設けられている(
図2参照)。力覚センサ233は、エンドエフェクタ23が受ける荷重(力)及びトルク(モーメント)を検出し、コントローラ28に出力する。本実施形態の力覚センサ233は、直交3軸の荷重と各軸回りのモーメントを検出可能な6軸センサである。
複数の関節部24は、ベース部21と、複数のアーム22と、エンドエフェクタ23とを、回動可能に連結している。各関節部24には、当該関節部24の先端側に連結されたアーム22(又はエンドエフェクタ23)を駆動するモータ241と、このモータ241の位置(速度)を検出してコントローラ28に出力するエンコーダ242とが設けられている(
図2参照)。
コントローラ28は、制御装置5からの制御指令に基づいて、ロボットアーム2の各部の動作を制御する。具体的に、コントローラ28は、各モータ231、241を駆動したり、各エンコーダ232、242や力覚センサ233が検出した情報を制御装置5に出力したりする。
【0013】
また、ロボットアーム2は、赤外線カメラ26を備えている。赤外線カメラ26は、エンドエフェクタ23の基端部に先端向きに取り付けられている。赤外線カメラ26は、エンドエフェクタ23に把持されたワーク3を基端側から赤外線撮影し、取得した画像(サーモグラフィ)を制御装置5に出力する。これにより、ワーク3のうち主に研磨されるエンドエフェクタ23の先端側の面を加工面として、その反対側であるワーク3の裏面の温度分布が得られる。
【0014】
研磨対象のワーク3は、本実施形態では金属製の板状体である。ワーク3は、ロボットアーム2のエンドエフェクタ23によって所定の状態に把持され、加工面が研磨工具4に押し付けられる。
なお、ワーク3の形状や材質は、研磨工具4によって研磨加工が可能なものであれば、特に限定されない。例えば、加工面が曲面を有する形状のものであってもよい。
【0015】
研磨工具4は、工具保持ホルダ45に保持された状態で、図示しない環境に固定されている。本実施形態の研磨工具4は、例えばベルトサンダーであり、無端状ベルトの表面に砥粒を固定した研磨材41(例えばサンディングベルト)と、この研磨材41を回動させる駆動モータ42(
図2参照)とを有している。駆動モータ42は制御装置5に駆動制御される。研磨工具4は、回動した状態の研磨材41の先端側にワーク3が押し付けられることにより、研磨材41がワーク3を研磨する。
【0016】
図2は、加工ロボットシステム1の概略の制御構成を示すブロック図である。
この図に示すように、制御装置5は、加工ロボットシステム1の動作を制御するコンピュータである。具体的に、制御装置5は、操作部52、表示部53、記憶部56、制御部58を備える。
【0017】
操作部52は、ユーザが制御装置5を動作させるための各種操作を行う操作手段であり、例えばマウス等のポインティングデバイスやキーボードを含む。
表示部53は、例えば液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイその他のディスプレイであり、制御部58からの表示信号に基づいて各種情報を表示する。なお、表示部53は、操作部52の一部を兼ねるタッチパネルであってもよいし、音声出力を行ってもよい。
【0018】
記憶部56は、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等を備えて構成されるメモリであり、各種のプログラム及びデータを記憶するとともに、制御部58の作業領域としても機能する。本実施形態の記憶部56には、ワーク3に所定の研磨加工を施すためにロボットアーム2を自動制御する図示しない動作プログラムのほか、後述の研磨量推定処理(
図3参照)を実行するための研磨量推定プログラム561が予め記憶されている。
【0019】
また、記憶部56には、ワーク・工具情報データベース(DB)562と、研磨量-加工熱量データベース(DB)563とが予め記憶されている。
ワーク・工具情報DB562には、ワーク3の初期位置及び初期形状の情報と、研磨工具4の位置及び形状の情報とが、例えばワークや加工工具の種類毎に整理されて予め格納されている。ワーク3の位置は把持状態でのロボットアーム2(エンドエフェクタ23)に対する相対的な情報であり、研磨工具4の位置はロボットアーム2に対する相対的な情報である。なお、ワーク・工具情報DB562は、少なくともワーク3の初期位置及び初期形状の情報と、研磨工具4の位置及び形状の情報とを含んでいればよく、例えばこれら以外のワーク及び加工工具の情報を含んでいてもよいし、データベース化されていなくともよい。
研磨量-加工熱量DB563には、ワーク3の研磨量とそのときのワーク3の温度(表面温度)との各々の実測値が、予め対応付けられて格納されている。ワーク3の温度は、赤外線カメラ26と同様にワーク3の裏面を実測した値であり、赤外線カメラ26による実測値であるのが好ましい。
【0020】
制御部58は、例えばCPU(Central Processing Unit)等を備えて構成され、制御装置5各部の動作を制御する。具体的に、制御部58は、操作部52の操作内容に基づいて、表示部53に各種情報を表示させたり、記憶部56に予め記憶されているプログラムを展開し、展開されたプログラムと協働して各種処理を実行したりする。
【0021】
[研磨量推定処理]
続いて、研磨作業時にワーク3の研磨量を推定する研磨量推定処理について説明する。
図3は、研磨量推定処理の手順を示すフローチャートであり、
図4は、研磨量推定処理における後述のステップS3の処理内容を説明するための図であり、
図5は、研磨量推定処理における表示部53の表示例を示す図である。
研磨量推定処理は、研磨作業時にワーク3の研磨量をリアルタイムに推定して表示する処理である。この研磨量推定処理は、制御装置5へのユーザ操作に基づく研磨作業の開始に伴って、制御装置5の制御部58が記憶部56から研磨量推定プログラム561を読み出して展開することで実行される。研磨作業は、ロボットアーム2を自動制御する所定の動作プログラムの展開により開始される。研磨量推定プログラム561は、当該動作プログラムの一部であってもよい。
【0022】
図3に示すように、研磨作業が開始され、研磨量推定処理が実行されると、まず制御部58は、ワーク3と研磨工具4との接触判定を行う(ステップS1)。
このステップでは、制御部58は、ロボットアーム2の各エンコーダ242からの情報と、ワーク・工具情報DB562に格納されたワーク3の初期位置及び研磨工具4の位置の情報とに基づいて、ワーク3と研磨工具4の相対位置を算出し、これらが接触したか否かを判定する。
そして、ワーク3と研磨工具4が接触していないと判定した場合(ステップS1;No)、制御部58は、当該ステップS1を繰り返す。
【0023】
一方、ステップS1において、ワーク3と研磨工具4が接触したと判定した場合(ステップS1;Yes)、制御部58は、ワーク3上での研磨工具4の接触点の位置を推定する(ステップS2)。
このステップでは、制御部58は、ロボットアーム2の各エンコーダ242からの情報と、ワーク・工具情報DB562に格納されたワーク3の初期位置及び初期形状並びに研磨工具4の位置及び形状の情報とに基づいて、ワーク3上における研磨工具4の接触点の位置を算出する。なお、ステップS1の計算内容と重複する部分がある場合は、その部分の結果を流用してもよい。
【0024】
次に、制御部58は、研磨工具4との接触によってワーク3に作用する力反力(接触反力)とトルクに基づいて、ステップS2で推定した接触点の位置を補正する(ステップS3)。
このステップでは、まず制御部58は、
図4に示すように、力覚センサ233により、ワーク3上の接触点Pに作用する荷重(力反力)Fと、これによるトルクτとを測定する(
図4では推定値として図示)。これらの測定値から、x=τ/Fとして、ワーク3の重心Gからの距離xが求められる。力覚センサ233は6軸センサであるため、直交3軸についてこの計算を行う。そして、求めた距離xが示す接触点Pの位置に基づいて、ステップS2で推定した接触点の位置を補正する。例えば、ステップS2で推定した接触点の位置を中心に誤差範囲を持たせて、その範囲内で得られたステップS3の値(接触点Pの位置)を正とする。ただし、具体的な補正手法はこれに限定されない。
なお、ここでは、研磨工具4とワーク3が複数点において接触しているものとする。
【0025】
図3に示すように、次に、制御部58は、赤外線カメラ26によりワーク3表面(裏面)の温度を計測する(ステップS4)。
次に、制御部58は、各接触点について、計測したワーク3の温度の時間微分値に基づいて、加工熱量を計算する(ステップS5)。これにより、当該接触点への研磨加工によってワーク3に加えられた熱量が得られる。
そして、制御部58は、各接触点について、求めた加工熱量の時間積分値に基づいて、総加工熱量(加工熱量の総量)を計算する(ステップS6)。これにより、各接触点で加えられた総加工熱量が求められる。
なお、加工熱量の計算に用いるワーク3の温度は加工面とは反対側の裏面の温度であり、そこから求められる加工熱量は実際と乖離している可能性があるため、ステップS6で求めた加工熱量に適切な係数を乗じてもよい。この係数は実測により予め設定しておくのがより好ましい。
【0026】
次に、制御部58は、研磨量-加工熱量DB563に基づいて、ステップS6で求めた各接触点の総加工熱量から当該接触点での研磨量を推定する(ステップS7)。
このステップでは、研磨量-加工熱量DB563に格納されたワーク3の研磨量とそのときのワーク3の温度との実測値を用いて、各接触点について総加工熱量を研磨量に換算する。
なお、このステップでは(総)加工熱量から研磨量を換算できればよく、例えば、研磨量-加工熱量DB563の情報に基づいて、予め換算式を求めておいたり、換算用の学習モデルを機械学習により生成しておいたりしてもよい。
【0027】
次に、制御部58は、各接触点について、ステップS4で計測したワーク3の温度と、ステップS7で推定した研磨量とを対応付けて、記憶部56に記憶させる(ステップS8)。
【0028】
次に、制御部58は、ワーク3(の加工面)上での温度と研磨量の分布をマッピングして表示部53に表示させる(ステップS9)。ただし、本実施形態では、研磨量に所定の換算係数を乗じて研磨深さ(研磨による加工前表面からの加工深さ)に換算したうえで、研磨量に代えて研磨深さの分布を表示させている。
本実施形態では、例えば
図5(a)に示すように、ワーク3表面の温度分布を色で表示し、研磨深さの分布を模様(
図5(a)の例では市松模様)の濃淡で表示することで、温度と研磨量(深さ)の2つの情報を単一の分布
図M上に重複させて表示させている。分布
図Mの右側には、色と温度の対応を判別するためのカラーバーCが表示される。
図5(a)の表示例の場合、模様の薄いワーク3の右側半部が左側半部よりも研磨されており、現在は、色の濃い中央部が研磨中(のために高温)であることが分かる。
【0029】
なお、温度と研磨量の分布を重複させる表示態様は、上記のものに限定されず、温度と研磨量の分布をそれぞれ識別可能なように、互いに異なるパラメータ(図面要素)で表示させればよい。例えば、研磨量の分布を市松模様以外の模様の濃淡で表示してもよい。あるいは、
図5(b)に示すように、ワーク3表面の温度分布を色(色相)で表示し、研磨深さの分布を色の鮮やかさ(彩度)で表示してもよい。ただし、温度と研磨量の分布をユーザが直感的に理解・判別しやすい表示態様が好ましい。具体的には、温度の分布は色のパラメータ(色相、明度、彩度)で表すのが好ましく、研磨量はワーク3の表面状態(滑らかな面と凹凸のある面の違い)をユーザが直感的に理解しやすい表示態様(例えば、凹凸を表す模様の濃淡)が好ましい。
さらに言えば、温度と研磨量の分布を重複させないで表示させてもよく、温度の分布図と研磨量の分布図を並べて表示させてもよい。
また、
図5(a)、(b)では、加工面上での温度と研磨量の分布を二次元的に表示した場合を例示したが、当該分布は三次元的に表示してもよい。これにより、例えば加工面が平面でなく奥行きを有する場合(曲面を含む等)に、当該奥行きを含む面の温度や研磨量をユーザに認識しやすく表示できる。
【0030】
次に、制御部58は、研磨作業が完了したか否かを判定し(ステップS10)、完了していないと判定した場合には(ステップS10;No)、上述のステップS1へ処理を移行する。
そして、研磨作業が完了したと判定した場合には(ステップS10;Yes)、制御部58は、研磨量推定処理を終了させる。
【0031】
[本実施形態の技術的効果]
以上のように、本実施形態によれば、エンコーダ242が検出したモータ241の位置情報と、ワーク3に作用する力反力と、に基づいて、研磨工具4とワーク3との接触点の位置が推定される。
すなわち、加工面の裏面側から計測した温度を用いて単純に加工位置を推定していた従来と異なり、エンコーダ242の情報と力反力の情報とを組み合わせることで、より高精度に接触点の位置を推定することができる。したがって、研磨作業の進捗を好適に推定することができる。
さらに、高精度に接触点の位置を推定できるので、平板状のウェハを加工対象としていた従来と異なり、加工面が曲面を含む場合であっても、研磨量の分布を好適に推定することができる。また、研磨作業の進捗をリアルタイムに取得できるので、好適に加工作業を自動化できる。
また、接触点の位置と研磨量(加工量)とが対応付けられて表示部53に表示される。すなわち、研磨量の分布がリアルタイム表示される。これにより、ユーザは研磨作業の進捗をリアルタイムで把握することができ、作業後に加工量を計測する場合と異なり、加工量に過不足が生じて手戻り(工数増)が生じること等を抑制できる。
【0032】
また、本実施形態によれば、各接触点について、温度の時間微分に基づいて加工熱量が算出され、当該加工熱量の時間積分に基づいて総加工熱量が算出され、当該総加工熱量から換算して研磨量が求められる。
これにより、各接触点の研磨量、ひいては加工面上での研磨量の分布を、好適に推定することができる。
【0033】
また、本実施形態によれば、ワーク3における温度と研磨量の分布が、単一の分布
図Mに重複されて表示される。
これにより、当該表示を視認したユーザは、温度と研磨量の2つの情報を、これらの位置の対応を含めて、単一の分布
図Mから好適に認識できる。すなわち、加工作業の進捗を好適に可視化できる。
【0034】
また、本実施形態によれば、温度の分布が色のパラメータで表示され、研磨量の分布が模様の濃淡で表示される。
これにより、当該表示を視認したユーザは、現状の温度と研磨量の分布、すなわち加工作業の進捗を直感的に理解・判別できる。
【0035】
また、本実施形態によれば、ワーク3の温度は、ロボットアーム2のエンドエフェクタ23に固定された赤外線カメラ26により、裏面側(加工面とは反対側)から計測される。
これにより、ワーク(ウェハ)の裏面側に配置した複数の温度検出デバイスでワークの温度を計測していた従来と比べ、簡便な構成で好適にワークの温度を計測できる。
【0036】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限られない。
例えば、上記実施形態では、ロボットアーム2のエンドエフェクタ23に設けた赤外線カメラ26により、ワーク3の裏面の温度を計測することとした。しかし、例えば
図6に示すように、赤外線カメラ26をロボットアーム2から独立させ、ワーク3の正面(加工面)の温度を直接計測できるように周囲環境に固定してもよい。これにより、ワーク3の加工面の温度をより正確に計測できる。
また、ワーク3の温度を計測する計測手段は、赤外線カメラに限定されない。ただし、非接触の計測が可能なものであるのが望ましい。
【0037】
また、上記実施形態では、エンドエフェクタ23での力反力及びトルクを力覚センサ233により取得することとした。しかし、力反力及びトルクは、例えば外乱オブザーバ等を用い、ロボットアーム2の各エンコーダからの情報とモータ電流等に基づいて推定してもよい。さらに言えば、力反力及びトルクは、ロボットアーム2側でなく研磨工具4側で取得してもよい。
【0038】
また、上記実施形態では、研磨工具4を固定し、当該研磨工具4よりも軽量なワーク3をロボットアーム2がハンドリングする場合を例示した。しかし、ワーク3を固定し、研磨工具4をロボットアーム2がハンドリングすることとしてもよい。
【0039】
また、上記実施形態では、ロボットアーム2が自動制御される場合を例示したが、人間がロボットアーム2を操作してもよいし、研磨工具4及びワーク3のうちロボットアーム2にハンドリングされない方を人間が把持してもよい。この場合、研磨工具4及びワーク3のうち、人間が操作(又は把持)しない方において、上記ステップS3で用いる力反力及びトルクを計測できるのが好ましい。
【0040】
また、上記実施形態では、機械加工として、研磨工具によりワークを研磨する「研磨(加工)」を例に挙げて説明した。しかし、本発明は、ワークと加工工具を接触させてワークを削る(加工する)機械加工に広く適用でき、例えば「研削(加工)」等にも適用可能である。
その他、上記実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 加工ロボットシステム(ロボットシステム)
2 ロボットアーム
3 ワーク(被加工物)
4 研磨工具(加工工具)
5 制御装置
22 アーム
23 エンドエフェクタ
24 関節部
26 赤外線カメラ(計測手段)
28 コントローラ
53 表示部(表示手段)
56 記憶部
58 制御部(加工量推定手段、位置推定手段、換算手段)
233 力覚センサ
241 モータ
242 エンコーダ
561 研磨量推定プログラム(加工量推定プログラム)
562 ワーク・工具情報データベース
563 研磨量-加工熱量データベース
F 荷重(力反力)
G 重心
M 分布図
P 接触点
x 距離
τ トルク