(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063294
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】髪のうねり予防又は改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20240502BHJP
A61Q 5/12 20060101ALI20240502BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240502BHJP
A61K 8/9794 20170101ALI20240502BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240502BHJP
A61K 36/65 20060101ALI20240502BHJP
A61K 36/896 20060101ALI20240502BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240502BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q5/12
A61P17/00
A61K8/9794
A61P43/00 111
A61K36/65
A61K36/896
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171094
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】谷 優治
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018ME14
4B018MF14
4C083AA111
4C083AA112
4C083CC33
4C083DD08
4C083DD14
4C083DD15
4C083DD16
4C083DD17
4C083DD22
4C083DD23
4C083DD27
4C083DD31
4C083DD39
4C083DD41
4C083EE28
4C083EE29
4C083FF01
4C088AB58
4C088AB85
4C088AC11
4C088AC12
4C088BA08
4C088BA10
4C088CA03
4C088CA06
4C088CA08
4C088MA13
4C088MA16
4C088MA17
4C088MA23
4C088MA28
4C088MA35
4C088MA37
4C088MA41
4C088MA43
4C088MA52
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA92
4C088ZC02
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、加齢による髪のうねり予防又は改善剤、及びLPAR6産生促進剤を提供すること。
【解決手段】
発明者らは鋭意検討した結果、老化処置した毛包ケラチノサイトを用いた実験により、LPAR6が老化により減少することを見出した。そして、シャクヤク抽出物、ボタンピ抽出物、及びユリ抽出物からなる群より選択される少なくとも一種が、加齢による髪のうねりの予防又は改善剤に有効であること、LPAR6産生促進剤として使用できることを見出した。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャクヤク抽出物、ボタンピ抽出物、及びユリ抽出物からなる群より選択される少なくとも一種を有効成分とする、加齢による髪のうねりの予防又は改善剤。
【請求項2】
シャクヤク抽出物、ボタンピ抽出物、及びユリ抽出物からなる群より選択される少なくとも一種を有効成分とする、LPAR6産生促進剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の剤を含むことを特徴とする医薬品、医薬部外品、化粧品又は飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、髪のうねり予防又は改善剤、及びLPAR6産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪に関する悩みの一つに「髪のうねり・くせ毛」がある。毛髪の外観を美しく保つために、髪のうねりを改善するには、パーマ施術といった化学薬品を用いた方法が一般的であるが、毛髪を構成するタンパク質の立体構造を化学的に変容させるため、毛髪にダメージを与えてしまい、毛髪の強度低下や枝毛・切れ毛の発生の原因になっていた。さらに、頭皮へのダメージも生じることから、フケやかゆみ、炎症などに繋がる恐れもある。このような点から、パーマ施術に代わる髪のうねりに対する改善方法が望まれていた。
【0003】
髪のうねりは加齢とともに増加することや、髪のうねりの毛髪内部の構造観察から、毛包内における毛髪の形成過程で曲がった毛髪ができている可能性が示されている(非特許文献1)。毛包内の毛髪形状を制御する因子はいくつか知られている。LPAR6は細胞膜に局在するLPA(リゾホスファチジン酸)受容体の一つをコードしている遺伝子で、LPA遺伝子の発現はヒトにおける毛包の分化や毛髪の成長に重要な役割を担っている。LPAR6遺伝子が正常に機能している場合はまっすぐな髪の毛を作成できるが、機能低下又は機能不全の場合は髪のうねりのような毛髪異常を発症することが知られている(非特許文献2)。
【0004】
今までに、センレンシン又はその抽出物にインボルクリン発現抑制作用があり、くせ毛改善に有用であること、スベリヒユ、ブッソウゲ、グンバイナズナ、ブクリョウ、ワイルドインディゴ、ハマツゲ、ドクサンラン、サイハイランに優れたIGFBP-5発現抑制があり、毛髪形状制御に有用であることが報告されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-218157号公報
【特許文献2】特開2014-1248号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】長瀬忍ら 粧技誌 43, 201-208 (2009)
【非特許文献2】M Kurban et al., J Eur Acad Dermatol Venereol. 2013;27(5):545-9.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、髪のうねり予防又は改善剤、及びLPAR6産生促進剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは鋭意検討した結果、老化処置した毛包ケラチノサイトを用いた実験により、LPAR6が老化により減少することを見出した。さらに、シャクヤク抽出物、ボタンピ抽出物、及びユリ抽出物がLPAR6産生促進作用を有し、加齢による髪のうねり予防又は改善に有効であることを見出した。
【0009】
すなわち本発明は、
(1)シャクヤク抽出物、ボタンピ抽出物、及びユリ抽出物からなる群より選択される少なくとも一種を有効成分とする、加齢による髪のうねり予防又は改善剤、
(2)シャクヤク抽出物、ボタンピ抽出物、及びユリ抽出物からなる群より選択される少なくとも一種を有効成分とする、LPAR6産生促進剤、
(3)(1)又は(2)に記載の剤を含むことを特徴とする医薬品、医薬部外品、化粧品又は飲食品、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のシャクヤク抽出物、ボタンピ抽出物、又はユリ抽出物は、加齢による髪のうねりの予防又は改善に用いることができる。また、素材スクリーニング等に際してポジティブコントロールとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、試験例1における、p21及びLPAR6発現量を示すグラフである。
【
図2】
図2は、試験例2における、シャクヤク抽出物、ボタンピ抽出物、及びユリ抽出物が毛包ケラチノサイトにおいてLPAR6遺伝子発現促進作用を有することを示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に用いるシャクヤク抽出物は、ボタン科のシャクヤク(学名Paeonia lactiflora Pallas)又はその他近縁植物(Paeoniaceae) の根から得られる抽出物である。
【0013】
本発明に用いるシャクヤク抽出物は、水、低級脂肪族アルコール(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなど)、多価アルコール(プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコールなど)、低級脂肪族ケトン(アセトンなど)などの溶媒又はこれらの混液により抽出したものを使用することができるが、1,3-ブチレングリコールで抽出することが最も好ましい。または、エタノールと水の混液、又は多価アルコールと水の混液、又はエタノールと多価アルコールと水の混液で抽出することが好ましく、多価アルコールは1,3-ブチレングリコールが好ましい。また、エキスの形態は特に制限されるものではなく、加熱処理、凍結乾燥あるいは減圧乾燥などの処理により、乾燥エキス末、エキス末、軟エキス、流エキスなどにすることができる。また、種々の試薬原料メーカーから購入したものを用いることも可能である。このようなシャクヤク抽出物の市販品としては、シャクヤク抽出液-J(丸善製薬製)、ファルコレックス シャクヤク B(一丸ファルコス製)、シャクヤク抽出液 BG-50(香栄興業製)等が挙げられる。
【0014】
本発明におけるボタンピ抽出物は、ボタン科のボタン (学名 Paeonia suffruticosa、Paeonia moutan) の根皮から得られる抽出物である。
【0015】
本発明に用いるボタンピ抽出物は、水、低級脂肪族アルコール(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなど)、多価アルコール(プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコールなど)、低級脂肪族ケトン(アセトンなど)などの溶媒により抽出したものを使用することができるが、エタノールと水の混液、または多価アルコールと水の混液で抽出することが好ましく、エタノールと水の混液が最も好ましい。水とエタノールからなる溶媒で抽出する場合、溶媒中におけるエタノールの含有量は、50~95体積%が好ましい。また、エキスの形態は特に制限されるものではなく、加熱処理、凍結乾燥あるいは減圧乾燥などの処理により、乾燥エキス末、エキス末、軟エキス、流エキスなどにすることができる。また、種々の試薬原料メーカーから購入したものを用いることも可能である。また、 種々の試薬原料メーカーから購入したも のを用いることも可能である。 このようなボタンピ抽出物の市販品としては、丸善製薬の「ボタンピ抽出液」や「ボタンピ抽出液BG」、一丸ファルコスの「ファルコレックスボタンB」、「ファルコレックス ボタンピE」等が挙げられる。
【0016】
本発明に用いるユリ抽出物は、ユリ科のマドンナリリー (学名 Lilium candidum L.(Liliaceae))の球根から得られる抽出物である。
【0017】
本発明に用いるユリ抽出物は、水、低級脂肪族アルコール(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなど)、多価アルコール(プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコールなど)、低級脂肪族ケトン(アセトンなど)などの溶媒又はこれらの混液により抽出したものを使用することができるが、エタノールと水の混液、又は多価アルコールと水の混液、又はエタノールと多価アルコールと水の混液で抽出することが好ましく、多価アルコールと水の混液が最も好ましい。多価アルコールはプロピレングリコール及び/又は1,3-ブチレングリコールが好ましく,1,3-ブチレングリコールが最も好ましい。水と1,3-ブチレングリコールからなる溶媒で抽出する場合、溶媒中における1,3-ブチレングリコールの含有量は、50~95体積%が好ましい。また、エキスの形態は特に制限されるものではなく、加熱処理、凍結乾燥あるいは減圧乾燥などの処理により、乾燥エキス末、エキス末、軟エキス、流エキスなどにすることができる。また、種々の試薬原料メーカーから購入したものを用いることも可能である。このようなユリ抽出物の市販品としては、丸善製薬の「ユリ抽出液」や「ユリ抽出液BG」、香栄興業の「ユリ抽出液」等が挙げられる。
【0018】
本発明の髪のうねりとは、うねったりねじれたり、縮れたりして生えてくる形状異常の状態の髪を指し、髪のうねり予防又は改善とは、生えてくる髪が上記とは逆の形状、つまりは直毛に近づけることをいう。
【0019】
本発明におけるLPAR6産生促進とは、LPAR6 mRNA又はLPAR6タンパク質の発現促進作用のことである。LPAR6産生促進作用は、細胞や臓器におけるLPAR6発現量を評価することで確認できるが、その方法は特に限定されるものではない。
【0020】
投与形態としては、特に限定されるものではないが、外用や内服が挙げられる。本発明を外用で適用する場合の剤形としては、例えば、ローション剤、液剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、スプレー剤、シャンプー、コンディショナー、石鹸等が挙げられ、内服で適用する場合の剤形としては、錠剤、粉末剤、散剤、顆粒剤、液剤、カプセル剤、ドライシロップ剤、ゼリー剤、液状食品、半固形食品、固形食品等が挙げられる。
【0021】
これらは、公知の方法で製造することができる。製造に際しては、本発明の効果を損なわない範囲で、化粧品、医薬部外品、医薬品、飲食品又は試薬に含有可能な種々の添加物を配合することができる。
【0022】
本発明の髪のうねり改善又は予防剤は、加齢による髪のうねりを改善又は予防するための、医薬品、医薬部外品、化粧品又は飲食品として提供することが可能である。また、LPAR6産生促進剤は、特に限定されるものではないが、例えば髪のうねり予防又は改善するため、あるいは、LPAR6産生を促進するための試薬として用いることも可能であり、好適には素材スクリーニング等を行なうに際し陽性対照薬として利用可能である。また、本発明のLPAR6産生促進剤は、これを含む製品(医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品、又は試薬)又はその説明書に、LPAR6の産生を促進するために用いられる旨の表示を付することができる。ここで、「製品またはその説明書に表示を付した」とは、製品の本体、容器、包装などに表示を付したこと、あるいは製品の情報を開示する説明書、添付文書、宣伝物、申請資料、その他の印刷物又は広告などに表示を付したことを意味する。また、これら表示においては、LPAR6産生促進に起因する疾患や症状の予防又は治療のために用いられることに関する情報を含むことができる。
【0023】
本発明におけるシャクヤク抽出物の配合量、ボタンピ抽出物の配合量、或いはユリ抽出物の配合量は、化粧品、医薬部外品、医薬品、飲食品又は試薬で提供する場合、それぞれ、組成物全体に対して0.000001~10質量%、好ましくは0.0001~5質量%、より好ましくは0.001~1質量%である。
【実施例0024】
以下に実施例および試験例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0025】
(試験例1)老化処置した毛包ケラチノサイトにおけるLPAR6遺伝子発現変動の評価
ヒト毛包ケラチノサイト(コスモバイオ)を用いて、繰り返し継代を行って老化を誘導した細胞(継代数7)と、未処置の細胞(継代数4)をそれぞれ培養プレートに播種し、37℃、CO2 5%にセットしたインキュベーター内で3日間培養した。培地には、 Humedia-KG2(倉敷紡績)を用いた。培養後、ライセートバッファーを添加して細胞を溶解し、細胞溶解液を回収した。細胞溶解液より、RNeasy Mini Kit(キアゲン)を用いて、添付のプロトコールに従いRNAを回収し、これを鋳型として、Prime Script RT Master mix(タカラバイオ)を用いた逆転写反応によりcDNAを合成した。合成したcDNAから、リアルタイムPCRシステム(Step One Plus、サーモフィッシャーサイエンティフィック)により、RPLP2、p21及びLPAR6それぞれのmRNAの発現量を測定し(SYBR Green法)、p21及びLPAR6の発現量をRPLP2発現量により補正した。プライマーは、次の型番のものを用いた。RPLP2:HA067804(タカラバイオ)、p21(CDKN1A):HA166672(タカラバイオ)、LPAR6:HA163114(タカラバイオ)。
【0026】
<試験結果>
図1は老化を誘導した細胞と、未処置の細胞のLPAR6遺伝子発現量を評価した結果である。未処置群の発現量を1としたときの各群のp21及びLPAR6相対発現量を示す。老化を誘導した細胞で、老化マーカーであるp21発現量を有意に増加させたことから老化誘導ができていることを確認した。さらに、老化を誘導した細胞では、LPAR6の発現量を有意に減少させた。
【0027】
(試験例2)シャクヤク抽出物、ボタンピ抽出物、及びユリ抽出物のLPAR6遺伝子発現促進作用の評価
ヒト毛包ケラチノサイト(コスモバイオ)を培養プレートに播種し、37℃、CO
2 5%にセットしたインキュベーター内で培養した。培地には、Humedia-KG2(倉敷紡績)を用いた。培養後、被験物質(シャクヤク抽出物、ボタンピ抽出物またはユリ抽出物)を添加してさらに2日間培養した。その後、ライセートバッファーを添加して細胞を溶解し、細胞溶解液を回収した。細胞溶解液より、Maxwell(登録商標) RSC simplyRNA Cells Kit(プロメガ)を用いて、添付のプロトコールに従いRNAを回収し、これを鋳型として、Prime Script RT Master mix(タカラバイオ)を用いた逆転写反応によりcDNAを合成した。合成したcDNAから、リアルタイムPCRシステム(Step One Plus、サーモフィッシャーサイエンティフィック)により、RPLP2及びLPAR6それぞれのmRNAの発現量を測定し(SYBR Green法)、LPAR6の発現量をRPLP2発現量により補正した。プライマーは、次の型番のものを用いた。RPLP2:HA067804(タカラバイオ)、LPAR6:HA163114(タカラバイオ)。被験物質であるシャクヤク抽出物、ボタンピ抽出物、及びユリ抽出物の終濃度は
図2に記載通りである。
図2に記載のコントロールは、シャクヤク抽出物、ボタンピ抽出物、及びユリ抽出物添加群から当該エキスを除いたもの(溶媒等の他の条件は全てシャクヤク抽出物、ボタンピ抽出物、及びユリ抽出物と同一)とした。
【0028】
<試験結果>
図2はシャクヤク抽出物、ボタンピ抽出物、及びユリ抽出物のLPAR6産生促進作用を評価した結果である。コントロール群の発現量を1としたときの各群のLPAR6相対発現量を示す。シャクヤク抽出物、ボタンピ抽出物、及びユリ抽出物は、LPAR6発現量を有意に増加させた。試験例1~2の結果より、シャクヤク抽出物、ボタンピ抽出物、及びユリ抽出物が加齢による髪のうねりの予防又は改善に有効であることが分かった。
本発明の加齢による髪のうねり予防又は改善剤、及びLPAR6産生促進剤は、LPAR6産生促進作用を有するため、これらの作用を必要とする化粧品、医薬部外品、医薬品又は飲食品の分野に利用可能である。