(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063304
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】サイアロン焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/599 20060101AFI20240502BHJP
【FI】
C04B35/599
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171115
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】313004414
【氏名又は名称】株式会社燃焼合成
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100174528
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 晋朗
(74)【代理人】
【識別番号】100121049
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 正義
(72)【発明者】
【氏名】原田 和人
(72)【発明者】
【氏名】鏡 好晴
(72)【発明者】
【氏名】和泉 博明
(57)【要約】
【課題】使用原料を簡素化し、α/β比を容易に制御できるサイアロン焼結体の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のサイアロン焼結体の製造方法は、α-SiAlONに酸化物を混ぜて反応焼結させる、ことを特徴とする。このとき、酸化物は、金属酸化物であることが好ましく、前記金属酸化物には、SiO2あるいは、Al2O3を選択し、該金属酸化物を、前記α-SiAlONに対して、10wt%以下添加することが好ましい。または、本発明のサイアロン焼結体の製造方法は、α-SiAlONを、粒子表面の酸化膜を酸素源として、反応焼結させる、ことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイアロン焼結体の製造方法であって、
α-SiAlONに酸化物を混ぜて反応焼結させる、ことを特徴とするサイアロン焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記酸化物は、金属酸化物である、ことを特徴とする請求項1に記載のサイアロン焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記金属酸化物には、SiO2、Al2O3、Y2O3、MgO、CaO、La2O3、Yb2O3あるいは、CeO2のうち少なくも1種を選択する、ことを特徴とする請求項2に記載のサイアロン焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記酸化物を、前記α-SiAlONに対して、20wt%以下添加する、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のサイアロン焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記金属酸化物には、SiO2あるいは、Al2O3を選択し、該金属酸化物を、前記α-SiAlONに対して、10wt%以下添加する、ことを特徴とする請求項3に記載のサイアロン焼結体の製造方法。
【請求項6】
サイアロン焼結体の製造方法であって、
α-SiAlONを、粒子表面の酸化膜を酸素源として、反応焼結させる、ことを特徴とするサイアロン焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイアロン焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サイアロン焼結体は、耐食性及び耐摩耗性に優れるため、摺動部材などの構造材料に使用される。
【0003】
サイアロンは、結晶構造により、α型とβ型とがある。また、α-SiAlONとβ-SiAlONとを複合した複合サイアロンも存在する。
【0004】
従来のサイアロン焼結体は、β-SiAlONが主流であったが、複合サイアロンは、β―サイアロン焼結体よりも優れた高温特性及び機械的強度を示し、使用条件がより過酷な切削工具等に応用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭56-129667号公報
【特許文献2】特開平2-44066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、α-サイクロン焼結体の製造法が開示されているが、使用する原料は、窒化ケイ素(α-Si3N4)、窒化アルミニウム(AlN)、及び金属酸化物又は金属塩であり、このように、多数の原料を使用することで配合比が複雑化する。また、添加するAlNなどは高価な材料であり、製造コストが高い。さらに、α-SiAlONの単相構造の焼結体は、硬度は高いが強度に劣る問題があった。
【0007】
特許文献2には、窒化珪素質焼結体に関する発明が開示されており、例えば、Si3N4粉末、酸化イットリウム(Y2O3)粉末、AlN粉末を用いて、α-SiAlONとβ-SiAlONとを複合した複合サイアロンを製造する方法(実施例1)や、α-SiAlON粉末及びβ-SiAlON粉末を混合した混合粉末と、さらには、Si3N4粉末、Y2O3粉末、AlN粉末等を添加して、複合サイアロンを製造する方法(実施例3)などが開示されている。このように、特許文献2には、複合サイアロンを得る方法が記載されているが、特許文献1と同様に多数の原料を使用しており、配合比が複雑となり、これにより、α/β比の調整も困難となり、また製造コストが高くなる問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、使用原料を簡素化し、α/β比を容易に制御できるサイアロン焼結体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、サイアロン焼結体の製造方法であって、α-SiAlONに酸化物を混ぜて反応焼結させる、ことを特徴とする。
【0010】
本発明では、前記酸化物は、金属酸化物であることが好ましい。本発明では、前記金属酸化物には、SiO2、Al2O3、Y2O3、MgO、CaO、La2O3、Yb2O3あるいは、CeO2のうち少なくも1種を選択することが好ましい。
【0011】
本発明では、前記酸化物を、前記α-SiAlONに対して、20wt%以下添加することが好ましい。
【0012】
本発明では、前記金属酸化物には、SiO2あるいは、Al2O3を選択し、該金属酸化物を、前記α-SiAlONに対して、10wt%以下添加することが好ましい。
本発明は、サイアロン焼結体の製造方法であって、α-SiAlONを、粒子表面の酸化膜を酸素源として、反応焼結させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のサイアロン焼結体の製造方法によれば、使用原料を簡素化し、α/β比を容易に制御でき、切削工具から摺動部材及び構造体材料まで幅広い技術分野に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施例4のSEMによる反射電子像である。
【
図2】
図2は、実施例12のSEMによる反射電子像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。なお、「~」の表記は、下限値及び上限値の双方の数値を含む。
【0016】
<本実施の形態のサイアロン焼結体の製造方法に至る経緯>
従来におけるサイアロン焼結体の製造方法について説明する。
【0017】
[β-SiAlON焼結体の製造方法]
一般的には、α-窒化ケイ素(Si3N4)に、焼結助剤として、酸化イットリウム(Y2O3)及び酸化アルミニウム(Al2O3)を加えて反応焼結させる。「反応焼結」とは、焼結により、結晶の相転移を起こさせる焼結を示す。
しかしながら、β-SiAlONは、固相反応を起こさないため、液相焼結法で焼結する必要がある。
【0018】
[α-SiAlON焼結体の製造方法]
一般的には、反応焼結法で、複合サイアロン焼結体を作製する。反応焼結法としては、例えば、α-窒化ケイ素(Si3N4)に、金属酸化物又は金属塩、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al2O3)、及び酸化ケイ素(SiO2)を混合して焼結する。
【0019】
あるいは、特許文献2に記載されているように、α-SiAlON粉末及びβ-SiAlON粉末を混合した混合粉末に、Y2O3や、AlNを添加し、通常焼結にて複合サイアロンを製造できる。
【0020】
しかしながら、これらの製造方法は、いずれも原料が多数になり、しかも、AlNやY2O3などの高価な材料も含まれることから配合比の複雑さ、及びそれに伴うα/β比の調整の困難さに加えて、製造コストが高くなる問題があった。
【0021】
<第1の実施の形態におけるサイアロン焼結体の製造方法>
そこで本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、α-SiAlONに、酸化物を混合して反応焼結させることで、使用原料を簡素化でき、従来の反応焼結に比べて、容易にサイアロン焼結体のα/β比を調整でき、用途に合わせて、硬度と機械強度の双方を合わせ持つサイアロン焼結体を得ることができる。
【0022】
[α-SiAlON]
α-SiAlONは、α型Si3N4の結晶構造を有した酸窒化物系セラミックスであり、一般式は、MxSi12-(m+n)Alm+nOnN16-nで示される。Mは、侵入型固溶する金属元素であり、例えば、Li、Ca、Mg、Y等である。Si-N結合を置換したAl-Nの結合数はm、Al-Oの結合数は、nである。電気的中性を保つため、mの値は、x=m/ν(金属元素の価数)となり、金属元素の固溶量xに影響する。0.3≦x<2、0≦n≦1.7で表すことができる。
【0023】
使用原料としてのα-SiAlONは、粉末状である。α-SiAlONの平均粒径は、限定されるものではないが、0.1μm~2.0μmの範囲内であり、0.3μm~1μmの範囲内であることが好ましい。
【0024】
また、α-SiAlONには、既存製品を使用することができる。例えば、品番:CSAN-S005LG、YSAN-S005LG(いずれも株式会社燃焼合成製)などを使用できる。
【0025】
[酸化物]
酸化物は、α-SiAlONの酸素源であり、特に材質を限定するものではないが、金属酸化物が好ましく適用される。金属酸化物には、SiO2、Al2O3、Y2O3、MgO、CaO、La2O3、Yb2O3あるいは、CeO2のうち少なくも1種を選択することが好ましい。酸素源の添加により、α-SiAlONの少なくとも一部を相転移でき、あるいは、相転移の有無にかかわらず機械強度の向上を効果的に図ることができる。
【0026】
本実施の形態では、酸化物を、α-SiAlONに対して、0wt%より大きく20wt%以下添加することが好ましい。すなわち、α-SiAlONの全量100wt%として、酸化物を0wt%を超えて20wt%以下で添加する。酸化物は、15wt%以下であることが好ましく、10wt%以下であることがより好ましく、7wt%以下であることがさらに好ましい。酸化物量の下限値は、0wt%より大きいことが好ましく、1wt%以上であることがより好ましい。
【0027】
特に、本実施の形態では、金属酸化物には、SiO2あるいは、Al2O3を選択し、該金属酸化物を、0wt%を超えて10wt%以下添加することが好ましく、1wt%~10wt%に設定することがより好ましく、1wt%~7wt%とすることがさらに好ましい。
【0028】
[焼結条件]
焼結条件は、特に限定されるべきものではなく、従来からの焼結条件を適用できる。ただし、本実施の形態では、酸窒化物であるα-SiAlONを出発原料として焼結するため、従来のように、窒化物としてのα-窒化ケイ素を出発原料して焼結するよりも焼結性が高く(反応速度が速い)、通常の焼結温度より低温設定を期待できる。
【0029】
例えば、焼結温度は、1500℃~2000℃程度(好ましくは、1700℃~1800℃程度)、保持時間は、1時間~3時間程度、ホットプレス焼結の場合のプレス圧は、30MPa~50MPa程度であり、不活性ガス雰囲気(N2ガス雰囲気やアルゴンガス雰囲気など)で行う。
【0030】
<第2の実施の形態におけるサイアロン焼結体の製造方法>
第2の実施の形態では、α-SiAlONを、粒子表面の酸化膜を酸素源として、反応焼結させることを特徴とする。
【0031】
すなわち、第2の実施の形態では、第1の実施の形態と異なって、α-SiAlONとは別に酸化物を用意することなく、α-SiAlON単体を焼結する。このとき、粒子表面に形成された酸化膜が酸素源として作用し、反応焼結が促進される。したがって、第2の実施の形態では、第1の実施の形態に適用した酸化物の量は、0wt%である。
【0032】
第2の実施の形態に使用されるα-SiAlONには、第1の実施の形態に使用されるα-SiAlONと同じ原料を用いることができる。このことから、第1の実施の形態においても、酸化物とともに、α-SiAlONの粒子表面の酸化膜も酸素源として作用する。
【0033】
<本実施の形態における反応焼結のメカニズムについて>
α-窒化ケイ素やβ-SiAlONは、固相反応を起こさないため、液相焼結法で焼結することが必要とされ、そのため、焼結助剤を必要としたが、今回、本発明者らは、α-SiAlONが焼結時にβ-SiAlONへ相転移するにあたり、酸素が影響を与えていることを見出し、焼結助剤がなくても焼結が可能であり、かつ酸素源の量により、α/β比を容易に制御できるに至った。
【0034】
α-SiAlONの焼結時のメカニズムについては、β-SiAlONへ相転移する際、α-SiAlONに固溶する金属元素Mや、α-SiAlONに含まれるAl元素が結晶外に放出される(例えば、結晶粒界に現れる)と考えられる。これら放出された元素は、粒子表面に、もともと存在する酸化膜や、粒子表面に付着した酸化物と結合して化合物を形成し、該化合物が焼結助剤と同様の作用をすると推測される。その結果、α-SiAlONに対する酸素源を有することで、新たな焼結助剤を添加することなく、焼結を促進できる。
【0035】
<本実施の形態の製造方法により製造されたサイアロン焼結体について>
本実施の形態におけるサイアロン焼結体は、α-SiAlONの少なくとも一部がβ相に相転移しており、製造方法に使用されるα-SiAlON及び酸化物の種類や、酸化物の添加量により、α/β比の設定範囲は変わるが、後述する実験結果によれば、α率を、0wt%~99wt%程度、あるいは、0wt%~75wt%程度、または、5wt%~80wt%程度に設定できる。
【0036】
本実施の形態では、α-SiAlONの少なくとも一部がβ相に相転移しているため、SEMによる反射電子像では、針状結晶を確認できる。
【0037】
また、密度(g/cm3)を、3.0~3.5程度の範囲内にでき、好ましくは、3.1~3.4程度に調整できる。
【0038】
通常、α-SiAlONは、硬度が高く、一方、β-SiAlONは機械強度が高いため、α/β比を調整することで、用途に応じて、適切な硬度及び機械強度を併せ持つサイアロン焼結体を容易かつ効果的に得ることができる。
【0039】
<本実施の形態におけるサイアロン焼結体の製造方法の効果について>
本実施の形態によれば、α-SiAlONに酸素源を供給して焼結するだけのシンプルな構成で、β相への相転移を促進でき、使用原料を簡素化でき、従来の反応焼結に比べ容易にサイアロン焼結体の組成を制御できる。また、本実施の形態では、α-SiAlONに混合する酸化物の量を適切に調整することで、得られたサイアロン焼結体のα/β比を容易に制御できる。
【0040】
本実施の形態におけるサイアロン焼結体は、α-SiAlONの少なくとも一部がβ相に相転移しており、この結果、α-SiAlON単相に比べて、硬度(耐摩耗性)は多少低下するものの、破壊靭性値及び4点曲げ強度といった機械強度を向上させることができ、α/β比の制御により、用途に応じて必要とされる硬度及び機械強度を備えたサイアロン焼結体を容易に得ることができる。
【実施例0041】
以下、本発明の効果を明確にするために実施した実施例により、本発明を詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0042】
[使用原料]
実験には、以下の原料を用いた。
(1) Caα-SiAlON
CSAN-S005LG(株式会社燃焼合成製) α率>99wt%
平均粒径:0.5μm
組成式:Ca0.5Si10.5Al1.5O0.5N15.5
(2) Yα-SiAlON
YSAN-S005LG(株式会社燃焼合成製)α率>99wt%
平均粒径:0.5μm
組成式:Y0.4Si10.2Al1.8O0.6N15.4
(3)Al2O3
アルファアルミナ(株式会社高純度化学製)
(4) SiO2
スノーマークSP-10(丸釜釜戸陶料株式会社製)
平均粒径:4μm
(5)β-SiAlON
BSAN-S005LG(株式会社燃焼合成製)
組成式:Si5.5Al0.5O0.5N7.5(Z=0.5)
(6)β-SiAlON
BSAN1-S005LG(株式会社燃焼合成製)
組成式:Si5Al1O1N7(Z=1)
(7)Y2O3
日本イットリウム株式会社製
平均粒径:3μm
【0043】
[混合方法]
上記した原料と溶媒としてのエタノールとを樹脂ポットに入れ、ボールミルにて10時間混合した。
得られたスラリーを乾燥させ、乾燥後に目開き150μmの篩にて解砕した。
【0044】
[焼結条件]
上記混合方法にて解砕した試料を、ホットプレスにて、焼結温度を1800℃、保持時間を2時間、プレス圧を40MPaとし、N2雰囲気(1atm)にて焼結させた。
【0045】
[評価実験]
各実験例に対し、以下の評価を行った。
(1)4点曲げ強度
JIS R1601に基づき、室温にて、4点曲げ強度を求めた。
(2)ビッカース硬度(HV)
JIS R1610に基づき、圧力98.07Nとし室温にて、ビッカース硬度を求めた。
(3)破壊靱性値(K1c)
室温にてIF法により測定し、破壊靱性値をNiihara Median Crackの式にて求めた。
(4)密度
アルキメデス法にて求めた。
(5)サイアロン焼結体の組成解析
XRD分析後のピーク強度にて、α率を以下の式(1)により求めた。
【数1】
式中、α(102)、α(210)、β(101)及びβ(210)は、α相及びβ相の括弧内の各結晶面におけるピーク強度を示す。
(6)サイアロン焼結体の組織観察
SEMによる反射電子像にて観察した。
【0046】
以下の表1に示す実施例1~実施例6は、Caα-SiAlON(原料(1))とAl2O3(原料(3))とを混合し焼結した実験例である。
【0047】
【0048】
表1に示す実施例1は、Al2O3を添加することなく、Caα-SiAlONを焼結した実験例である。Al2O3を添加しなくても、α率は100wt%を下回っており、β相が少しだけ混じった混合型であることがわかった。実施例2~実施例6は、Al2O3を、Caα-SiAlON100質量%に対して、1wt%~10wt%にて添加した。
【0049】
表1に示すように、Al2O3の添加により、α率は徐々に低下し、α-SiAlONからβ-SiAlONに相転移していることがわかった。
【0050】
α-SiAlONからβ-SiAlONの相転移により、ビッカース硬度(HV)は徐々に低下する一方、4点曲げ強度及び破壊靱性値(K1c)は、Al2O3量が3wt%~5wt%程度をピークに高い値を示した。
【0051】
次に、以下の表2に示す実施例7~実施例10は、Caα-SiAlON(原料(1))とSiO2(原料(4))とを混合し焼結した実験例である。
【0052】
【0053】
表2に示す実施例7~実施例10は、SiO2を、Caα-SiAlON100質量%に対して、1wt%~7wt%にて添加した。
【0054】
表2に示すように、SiO2の添加により、α率は徐々に低下し、α-SiAlONからβ-SiAlONに相転移していることがわかった。表2に示すように、SiO2を7wt%添加すると、α率はほぼ0%になり(β相が100%)、表1のように、Al2O3を添加する場合に比べて、α率が急激に低下(β相への転移が急激に上昇)することがわかった。相転移については、焼結過程にて、α-SiAlON中の金属元素及びAl元素が結晶外に放出されることで、粒子表面の酸化物と結合し焼結が進行すると考えられるが、酸化物としてSiO2を添加した場合は、Al2O3添加に比べ粒界のAl濃度が低く、濃度差拡散により結晶外に効果的にAl元素が放出されるため、α-SiAlONからβ-SiAlONに急速に相転移されたと推測される。
【0055】
実施例1~6及び実施例7~10では、出発原料としてのα-SiAlONに同じものを使用したが、酸素源としてSiO2を添加した実施例7~10のほうが、酸素源としてAl2O3を添加した実施例1~実施例6と比べて4点曲げ強度及び破壊靱性値(K1c)を高くできることがわかった。例えば、4点曲げ強度について考察すると、実施例8~実施例10では、800MPa以上にでき、好ましくは900MPa以上にできることがわかった。
【0056】
次に、以下の表3に示す実施例11~実施例14は、Yα-SiAlON(原料(2))とSiO2(原料(4))とを混合し焼結した実験例である。
【0057】
【0058】
表3に示す実施例11は、SiO2を添加することなく、Yα-SiAlONを焼結した実験例である。SiO2を添加しなくても、α率は100wt%を下回っており、β相が混じった混合型であることがわかった。実施例12~実施例14は、SiO2を、Yα-SiAlON100質量%に対して、1wt%~5wt%にて添加した。
【0059】
表3に示すように、SiO2の添加により、α率は徐々に低下し、α-SiAlONからβ-SiAlONに相転移していることがわかった。
【0060】
α-SiAlONからβ-SiAlONの相転移により、ビッカース硬度(HV)は徐々に低下する一方、4点曲げ強度及び破壊靱性値(K1c)は、SiO2量が1wt%~3wt%程度をピークに高い値を示した。
【0061】
次に、比較例として、β-SiAlONにY2O3を5wt%添加して、上記の焼結条件にて焼結した実験例を示す。比較例1は、β-SiAlONとして、上記(5)の原料を用い、比較例2は、β-SiAlONとして、上記(6)の原料を用いた。その実験結果を以下の表4に示す。
【0062】
【0063】
表4に示す比較例は、β-SiAlONを出発原料としているため、ビッカース硬さ(HV)は低くなり、硬度と機械強度を互いにバランスよく高い値に調整できなかった。また、β-SiAlONは固相反応を起こさないため液相反応で焼結することが必要であり、コストの高いY2O3を焼結助剤として使用する必要があった。
【0064】
これに対して、各実施例では、α-SiAlONに、酸化物を添加する簡素な原料配合で、液相反応でなく固相反応を起こすことができ、製造コストを低く抑えることができる。そして、実施例では、酸化物の添加量により、α/β比(α率)を調整して、硬度及び機械強度の双方を適度な範囲にわたって得ることができた。これにより、用途に合わせた硬度及び機械強度を有するサイアロン結晶体を得ることができた。
【0065】
α-SiAlONと混合する酸化物は、金属酸化物であることが好ましく、金属酸化物としては、SiO2、Al2O3、Y2O3、MgO、CaO、La2O3、CeO2、Yb2O3を例示できる。本実施例では、金属酸化物を20wt%以下添加することが好ましく、10wt%以下添加することがより好ましいとした。また、金属酸化物としては、SiO2あるいはAl2O3を選択することが好ましく、特に、表2に示す、Caα-SiAlONにSiO2を混合し焼結させて得られたサイアロン焼結体では、機械強度が非常に高くなり、切削工具等の用途に好ましく適用できることがわかった。
【0066】
また、実施例1及び実施例11は、α-SiAlONに、酸化物を添加せずに、焼結させた実験例である。実施例1及び実施例11は、比較例1、2と比較すると、ビッカース硬さ(HV)を高くできるとともに、機械強度はほぼ同等にできることがわかった。なお、比較例では、液相焼結法で焼結する必要があり、焼結助剤として高価なY2O3の添加が必要とされる。一方、実施例1及び実施例11では、酸化物も必要とせず、α-SiAlON単体を焼結するプロセスで足り、製造工程をより簡素化でき且つ、製造コストの低減を効果的に図ることができる。
【0067】
図1は、実施例4のSEMによる反射電子像であり、
図2は、実施例12のSEMによる反射電子像である。
【0068】
図1及び
図2に示す反射電子像では、重元素は白っぽく写り、軽元素は黒っぽく写る。
図1及び
図2に示すように細長い結晶が写っており、β相へ相転移した際の針状結晶がみられた。
【0069】
結晶粒界やα-SiAlON粒子は、重元素を多く含むため、白く写っていることを確認できた。
【0070】
また、
図2の実施例12では、Yを含むためコントラストの影響により、
図1の実施例4に比べて、α-SiAlON粒子が区別しにくいことがわかった。
本発明のサイアロン焼結体の製造方法によれば、α/β比を制御し、用途に合わせた硬度及び機械強度を有するサイアロン焼結体を得ることができる。このため、切削工具から摺動部材及び構造体材料まで幅広い技術分野に適用できる。