(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063337
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】包餡食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 35/00 20160101AFI20240502BHJP
A21D 13/31 20170101ALI20240502BHJP
A23L 7/10 20160101ALI20240502BHJP
A23G 3/34 20060101ALI20240502BHJP
A23L 29/269 20160101ALI20240502BHJP
【FI】
A23L35/00
A21D13/31
A23L7/10 Z
A23G3/34
A23L29/269
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171184
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松山 勇介
(72)【発明者】
【氏名】並木 政人
【テーマコード(参考)】
4B014
4B023
4B032
4B036
4B041
【Fターム(参考)】
4B014GE02
4B014GK08
4B014GK12
4B014GL01
4B014GL11
4B014GP01
4B014GP14
4B014GQ15
4B014GY03
4B014GY04
4B023LE26
4B023LK01
4B023LK08
4B023LP07
4B023LP20
4B032DB01
4B032DB24
4B032DE06
4B032DK01
4B032DK14
4B032DK67
4B032DP30
4B032DP40
4B032DP80
4B036LE04
4B036LF11
4B036LH01
4B036LH11
4B036LK02
4B036LP01
4B036LP14
4B036LP24
4B041LC10
4B041LD01
4B041LE05
4B041LH18
4B041LK02
4B041LP01
4B041LP12
(57)【要約】
【課題】
本発明の課題は、加熱工程を伴う包餡食品の製造方法であって、包餡食品の生地と該生地に内包される餡の間の空隙の発生が抑制された包餡食品の製造方法を提供することにある。
【解決手段】
本発明は、包餡食品の餡にカードランを配合することで、加熱しても餡と生地の空隙が生じにくい包餡食品を提供することができる。また、包餡食品の餡にカードランを含有させることで加熱しても生地と餡の間の空隙を生じにくくする方法を提供できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
餡にカードランを含有させ次いで80℃以上に加熱する工程と、該餡を生地で包餡する工程と、包餡後の生地を加熱する工程とを有する、包餡食品の製造方法。
【請求項2】
包餡される餡100重量部に対して、カードランを0.05~1重量部配合する請求項1に記載の包餡食品の製造方法。
【請求項3】
餡にカードランを含有させる工程において、あらかじめカードランとアルカリ剤を共存させる請求項1または2のいずれかに記載の包餡食品の製造方法。
【請求項4】
カードラン1重量部に対して、アルカリ剤を0.01~1重量部含有させる、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
包餡前の餡にカードランを含有させ80℃以上に加熱することを特徴とする、包餡食品の生地と餡の間の空隙発生の抑制方法。
【請求項6】
さらにアルカリ剤を含有させることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項7】
カードラン1重量部に対して、アルカリ剤0.01~1重量部を含有させることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包餡食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
市販の包餡食品の製造方法において、生地を加熱してから内部に餡を充填する製造方法と、餡を加熱前の生地に内包させてから加熱工程を行う製造方法が知られている。
【0003】
前者の製造方法では、生地中にすき間なく餡を充填することができるものの、加熱後の生地に餡を充填するための穴や断面を設けてから餡を充填するため、手作業では手間がかかり、効率的な製造が困難であった。また、機械充填では柔らかい生地への充填の際に生地がつぶれてしまい、商品価値が損なわれてしまうことが問題となっていた。
【0004】
後者の製造方法では、加熱前の生地にあらかじめ餡を包んでから加熱を行うため、加熱後の生地への餡の充填作業は不要であるものの、加熱後の生地と餡の間に空隙が生じてしまうことが問題となっていた。
【0005】
このため、包餡後に加熱しても生地と餡との間に空隙の生じにくい包餡食品の製造方法が求められていた。
【0006】
加熱前の生地の餡を包む包餡食品の製造方法として、豆類やイモ類などを煮て練った餡に油脂を添加する方法が知られている(特許文献1)。また、カードランを含有する粘稠性風味物質を、小麦粉を主体とする生地で包み加熱することを特徴とする包餡食品の製造方法が開示されている(特許文献2)。
【0007】
しかしながら、特許文献1の方法では、豆類やイモ類などを煮て練った餡に、所定の量の油脂を添加することで効果が得られるため、所定の濃度以上の油脂を含む餡に使用することはできない。また、特許文献2には、包餡食品の空隙の発生についての記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2018-196347
【特許文献2】特開平03-168048
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、加熱工程を伴う包餡食品の製造方法であって、包餡食品の生地と該生地に内包される餡の間の空隙の発生が抑制された包餡食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、包餡食品の餡にカードランを含ませることで、加熱しても餡と生地の空隙が生じにくいことを見出し、鋭意検討した結果、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は下記のとおりである。
第一に、餡にカードランを含有させ次いで80℃以上に加熱する工程と、該餡を生地で包餡する工程と、包餡後の生地を加熱する工程とを有する、包餡食品の製造方法である。
第二に、包餡される餡100重量部に対して、カードランを0.05~1重量部配合する上記第一に記載の包餡食品の製造方法である。
第三に、餡にカードランを含有させる工程において、あらかじめカードランとアルカリ剤を共存させる上記第一または第二のいずれかに記載の包餡食品の製造方法である。
第四に、カードラン1重量部に対して、アルカリ剤を0.01~1重量部含有させる、上記第三に記載の製造方法である。
第五に、包餡前の餡にカードランを含有させ80℃以上に加熱することを特徴とする、包餡食品の生地と餡の間の空隙発生の抑制方法である。
第六に、さらにアルカリ剤を含有させることを特徴とする、上記第六に記載の方法である。
第七に、カードラン1重量部に対して、アルカリ剤0.01~1重量部を含有させることを特徴とする、上記第七に記載の方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、生地と餡に間の空隙の発生が低減された包餡食品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明における包餡食品は、穀粉を主体とした生地で餡を包み、次いで、蒸し、焼成または油ちょうなどの加熱処理を経て得られる食品を指すものである。例えばパン類(クリームパン、チョコパン、ジャムパン、アンパン、カレーパン、あんドーナツ、揚げたパンなど)、饅頭類、中華まん類(肉まん、あんまん、ピザまんなど)などが挙げられるが、これに限定されない。
【0015】
また、穀粉を主体とした生地は、上記包餡食品の製造において、常法にしたがって製造された生地を用いることができる。穀粉として小麦粉や米粉が挙げられる。
【0016】
本発明における包餡食品の餡は、一般に市販されている包餡食品に内包される餡をさす。例えば、あんこ類、クリーム類、マヨネーズ類、トマトソース類、カレー類、シチュー類、グラタン類、ハチミツ類、果実を加工したジャム類などが挙げられ、クリーム類が好ましく、カスタードクリームがより好ましい。
【0017】
本発明の包餡食品の餡はカードランを含有する。カードランは、アルカリゲネス属またはアグロバクテリウム属に属する微生物によって生産される、D-グルコースがβ-1,3結合した非イオン性の直鎖状の多糖類である。カードランは加熱でゲルを形成する点で他の多くのゲル化剤と異なり、さらに無味、無臭、無色であるという優れた性質も有することから、食品の物性改良剤として広く利用されている。カードランは一般に入手可能なものを用いることができ、平均粒子径が5~150μmのものが挙げられる。平均粒子径が5~150μmのカードランとしては、例えば、「カードラン」、「カードラン微粉砕品」(いずれも三菱商事ライフサイエンス社製)を好適に用いることができる。
【0018】
本発明の包餡食品の餡には、カードランのほか、アルカリ剤を用いることができる。アルカリ剤は、食品の製造に適していれば特に限定されず、リン酸塩三ナトリウム、リン酸三カリウムなどのリン酸塩や水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等、水溶液がアルカリ性であるものが挙げられる。リン酸塩が好ましく、リン酸塩三ナトリウムまたはリン酸三カリウムがさらに好ましい。
【0019】
アルカリ剤を配合する場合の配合量は、カードラン1重量部に対して0.01~1重量部が好ましい。また、カードランとアルカリ剤をあらかじめ製剤化したものを用いてもよい。この場合、カードランとアルカリ剤は粉体混合されたものでもよく、顆粒化されたものでもよい。あらかじめ調製したアルカリ剤溶液にカードランを添加したものを用いてもよい。
【0020】
本発明の包餡食品の製造に、カードラン以外の増粘多糖類を用いてもよい。カードラン以外の増粘多糖類は、水に溶解または分散して粘性を示すものなら、天然由来でもよく、合成によって得られたものでもよい。通常、食品添加物として用いられる増粘多糖類であれば、本発明に用いることができ、例えば、グアーガム、ローストビーンガム、タラガム、アラビアガム、ジェランガム、サイリウムシードガム、タマリンドシードガム、キサンタンガム、カラギーナン、メチルセルロース等が挙げられる。これらのうち、グアーガム、ローストビーンガム、タラガム、アラビアガム、ジェランガムが好ましい。また、これらのカードラン以外の増粘多糖類は、1種であっても2種以上の併用であってもよい。
【0021】
空隙の発生が低減された包餡食品は、カードランを含有する餡を、穀粉を主体とする生地で包み、加熱することで得られる。加熱の方法は、一般的な包餡食品の製造に用いられる方法であればよく、蒸し、焼成または油ちょうが挙げられ、好ましくは焼成が挙げられる。包餡は手作業でもよく、機械充填でもよい。
【0022】
餡の製造に用いられるカードランは一般に入手できるものであればよく、微粉砕品や製剤化されたものを用いることができる。あらかじめアルカリ剤とともに製剤化されたものを用いてもよい。
【0023】
カードランを含有する餡の製造方法は、製造工程中に、カードランを添加したのち80℃以上に加熱しながら撹拌混合する工程を含む。カードランは、餡製造工程において粉体原料等と同時に添加してもよく、液体原料の添加と同時でもよく、加熱混合時に添加してもよい。また、添加する際のカードランの形態は粉体や顆粒でもよく、事前に水に分散または溶解させてもよい。カードランは、餡100重量部に対して0.05~1重量部となるよう添加することが好ましく、0.1~0.5重量部がより好ましい。
【0024】
こうして得られる包餡食品は、餡と生地の間の空隙が生じにくいものである。すなわち、餡と生地の間の空隙の発生を抑制することができる。
【0025】
【実施例0026】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0027】
(カスタードフィリングの調製)
カスタードフィリングは、表1の組成に従い調製した。使用した材料のうち、カードラン微粉砕品、カードラン・アルカリ剤顆粒化製剤および還元水飴は、いずれも出願人会社のものを使用した。なおカードラン・アルカリ剤顆粒化製剤は、製剤中に70重量%のカードランおよび20重量%のリン酸塩(カリウム塩およびナトリウム塩の合計値)を含むものである。
比較例1の試料は、次の手順で調製した。まず、卵黄、加工澱粉、上白糖、還元水飴を混合撹拌した。続いて、牛乳、水を加えて混合したのち、80℃以上となるようIHヒーターで30分間加熱混合した。この後、60℃になるまで撹拌しながら氷冷し、カスタードフィリングを得た。
実施例1の試料は、最初の混合撹拌の工程でカードラン微粉砕品を添加すること以外は、比較例1と同様の手順で調製した。
実施例2の試料は、混合撹拌の工程までは比較例1と同様の手順にて調製した。続く加熱混合の工程において、品温が60℃に達した時点でカードラン・アルカリ剤顆粒化製剤を溶液にしたものを添加し、80℃以上になるようにさらに加熱した。なお、実施例2における水の量は、カードラン・アルカリ剤顆粒化製剤の溶解に使用した量を含めたものである。
【0028】
(包餡食品の製造)
それぞれ調製したカスタードフィリング20gを、一般的な方法で調製されたパン生地20gで包餡して成形したのち、二次発酵(ホイロ)してから、一般的なパンの焼成条件にて焼成した。焼成後のパンは室温程度まで放冷した。
【0029】
(評価方法)
得られたパンを半分にカットし、内部の空隙の有無および大きさを確認した。
【0030】
(結果)
結果を表2に示した。カードラン含有フィリングの試験区では空隙発生率がコントロールより低かった。また実施例2および比較例1のパンで発生したそれぞれの空隙の大きさを比較したところ、実施例2で見られた空隙は、比較例1で見られた空隙と比較して小さかった。
【0031】
【0032】
以上の結果から、本発明により生地と餡との間に空隙の発生しにくい包餡食品を提供できることが明らかとなった。