(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063350
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】電極触媒層及び膜電極接合体
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20240502BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20240502BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/86 B
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171220
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】稲川 ゆり
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018BB12
5H018DD05
5H018EE03
5H018EE05
5H018HH02
5H018HH05
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】電極触媒中の排水性やガス拡散性を向上し、高い発電性能を発揮することが可能な電極触媒層、膜電極接合体、および固体高分子型燃料電池を提供する。
【解決手段】電極触媒層10は、触媒物質13と、導電性担体14と、アイオノマー15と、繊維状物質16とを含む。電極触媒層10の断面の各空隙Vの重心を母点とするボロノイ図において、ボロノイ領域の面積の標準偏差をASD、ボロノイ領域の平均面積をAAVとしたときに、ASD/AAVにより定義されるボロノイ領域の面積の分散度が0.4~0.55である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒物質と、導電性担体と、アイオノマーと、繊維状物質とを含む電極触媒層であって、
前記電極触媒層の断面の各空隙の重心を母点とするボロノイ図において、ボロノイ領域の面積の標準偏差をASD、ボロノイ領域の平均面積をAAVとしたときに、ASD/AAVにより定義されるボロノイ領域の面積の分散度が0.40~0.55である、電極触媒層。
【請求項2】
前記断面の全面積に対する、前記断面の全空隙の面積の分率が4~14%である、請求項1に記載の電極触媒層。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電極触媒層を含む膜電極接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極触媒層、膜電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、脱炭素社会への関心の高まりから、燃料電池が注目を浴びている。燃料電池とは水素等の燃料を酸素等の酸化剤を用いて酸化し、これに伴う化学エネルギーを電気エネルギーに変換するシステムである。燃料電池は用いられる電解質の種類によりアルカリ型、リン酸型、高分子型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型等に分類される。固体高分子膜を用いた固体高分子型燃料電池(PEFC)は、低温で作動し、高い出力密度を維持しながら小型・軽量化が可能であることから、携帯用電源、家庭用電源、移動体用動力源としての応用が期待されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池(PEFC)は、高分子電解質膜と一対の電極を備える。一対の電極はそれぞれ燃料極(アノード)と空気極(カソード)と呼ばれ、電解質膜側から触媒層およびガス拡散層を備えた積層体である。アノード側に水素を含む燃料ガス、カソード側に酸素を含む酸化剤ガスが供給されることで、それぞれ下記の化学反応を通じて発電する。
【0004】
アノード:H2 → 2H+ + 2e-
カソード:1/2O2 + 2H+ + 2e- → H2O
上記の化学反応式に示されるように、アノード側電極触媒層に供給された燃料ガスは触媒層に含まれる触媒の作用によってプロトンと電子となる。プロトンは電極触媒層内に含まれる高分子電解質(アイオノマー)、高分子電解質膜を伝導し、カソード側電極触媒層へ移動する。電子は外部回路を通り、プロトン同様カソード電極触媒層に移動する。カソード側電極触媒層では移動してきたプロトンと電子が外部から供給された酸化剤ガスと反応し、水を生成する。これら一連の過程で電子が外部回路を通過することで電気エネルギーを取りだす仕組みである。
【0005】
燃料電池の性能向上を図るためには、酸化還元の反応場である三相界面への電子伝導性、プロトン伝導性、およびガス拡散性を高めることが重要である。電極触媒層内でのガスの拡散経路は電極触媒層内の細孔であり、この細孔は、カソード側電極触媒層内においては反応によって生成した水分の排出経路でもある。したがって、電極触媒層内の3次元的な構造を設計することは、燃料電池の性能向上のために重要である。
【0006】
アイオノマー及び高分子電解質膜はプロトン伝導性を有するが、プロトン伝導には水分が必要であるため、燃料ガスや酸化剤ガスを加湿したうえで供給することが通常行われる。
【0007】
電極触媒層の構成として、特許文献1には電極触媒層の構造が密とならないようコントロールし、発電性能を向上する手段として、例えば、異なる粒子径のカーボンまたはカーボン繊維を含む電極触媒層が提案されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10-241703号公報
【特許文献2】特許第5537178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1、2では、異なるカーボン材料を含むことにより電極触媒層内に空孔が生じ、排水性やガス拡散性の向上が期待できると記載されている。しかし、空隙率を高めると、厚みが大きくなり、電子あるいはプロトンの移動距離が長くなり、抵抗が大きくなる。このことにより、発電性能が低下する。また、カーボン材料の大きさ、形状や含有量についての記載はあるが、触媒層の構造についての記載がなく、その効果については具体的には検証されてはいない。
【0010】
本発明は上記のような点に着目してなされたものであり、電極触媒中の排水性やガス拡散性を向上し、高い発電性能を発揮することが可能な電極触媒層、膜電極接合体、および固体高分子型燃料電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[1]触媒物質と、導電性担体と、アイオノマーと、繊維状物質とを含む電極触媒層であって、前記電極触媒層の断面の各空隙の重心を母点とするボロノイ図において、ボロノイ領域の面積の標準偏差をASD、ボロノイ領域の平均面積をAAVとしたときに、ASD/AAVにより定義されるボロノイ領域の面積の分散度が0.4~0.55である、電極触媒層。
【0012】
[2]前記断面の全面積に対する、前記断面の全空隙の面積の分率が4~12%である、請求項1に記載の電極触媒層。
【0013】
[3]:[1]または[2]に記載の電極触媒層を含む膜電極接合体。
【発明の効果】
【0014】
本発明の電極触媒層によれば、電極触媒層中の物質輸送特性が向上し、高い発電性能を発揮することが可能な電極触媒層、膜電極接合体、および固体高分子型燃料電池を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る触媒層の構造を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る膜電極接合体の構造を説明する断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る固体高分子型燃料電池の単セルの内部構造を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、以下に記載する実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識を基に設計の変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も、本発明の範囲に含まれるものである。また、各図面は、理解を容易にするため適宜誇張して表現している。
【0017】
[電極触媒層の構成]
本実施形態に係る電極触媒層10は、
図1に示すように、触媒物質13、導電性担体14、アイオノマー15及び繊維状物質16を有する。
【0018】
(触媒物質)
本実施形態に係る触媒物質13としては、例えば、金族元素、金属及びこれらの合金、酸化物、複酸化物、炭化物等を用いることができる。白金族元素としては、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムがある。金属としては、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等が例示できる。その中でも、触媒物質13としては白金や白金合金が好ましい。また、これらの触媒物質の粒径は、大きすぎると触媒活性が低下し、小さすぎると触媒物質の安定性が低下するため、0.5~20nmが好ましい。さらに好ましくは1~5nmがよい。なお、触媒物質の粒径は、レーザ回折/散乱法による体積平均径D50である。
【0019】
(導電性担体)
導電性担体14としては、微粒子状で導電性を有し、触媒物質及び高分子電解質に侵されずに触媒物質を担持可能なものであれば、どのようなものでも構わないが、一般的には導電性担体としてカーボン粒子が使用される。カーボン粒子としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、フラーレンを用いることができる。
【0020】
カーボン粒子の粒径は、10~1000nm程度が好ましく、更に好ましくは、10~100nm程度がよい。小さすぎると電極触媒層において密に詰まり過ぎて電極触媒層のガス拡散性を低下させる恐れがあり、また、大きすぎると電極触媒層にひび割れが生じたり触媒の利用率が低下したりする恐れがあるため好ましくない。なお、カーボン粒子の粒径は、レーザ回折/散乱法による体積平均径D50である。また、高比表面積の導電性担体に触媒物質を担持することで、高密度な触媒物質の担持ができ、触媒活性を向上させることができる。
【0021】
(アイオノマー(高分子電解質))
高分子電解質膜や電極触媒層に含まれるアイオノマーとしては、プロトン伝導性を有するものであればどのようなものでもよく、フッ素系高分子電解質、炭化水素系高分子電解質を用いることができる。フッ素系高分子電解質としてはテトラフルオロエチレン骨格を有する高分子電解質、例えばNafion(ケマーズ社製、商標登録)等を、炭化水素系高分子電解質としては、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等を用いることができる。高分子電解質膜に含まれるアイオノマーと、電極触媒層に含まれるアイオノマーとは、高分子電解質膜と電極触媒層との界面抵抗や、湿度変化時の高分子電解質膜と電極触媒層とにおける寸法変化を考慮すると、互いに同じものであるか類似の成分のものであることが好適である。
【0022】
(繊維状物質)
繊維状物質としては、触媒物質及びアイオノマーに侵されずに繊維形状を維持可能なものであればどのようなものでも構わないが、例えば、高分子化合物、カーボン、導電性酸化物を繊維状に加工したナノファイバーを挙げることができる。繊維状物質は、以下に示す繊維のうち一種のみを単独で使用してもよいが、二種以上を併せて用いてもよい。電極触媒層の抵抗を下げるため、繊維状物質は電子伝導性またはプロトン伝導性を示すものが好ましい。電極触媒層中の物質輸送性およびプロトン伝導性を同時に向上できる点で、プロトン伝導性または塩基性を有する高分子繊維を少なくとも含むのが好ましい。
【0023】
電子伝導性の繊維状物質としては、例えば、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、導電性高分子ナノファイバー等が例示できる。特に、導電性や分散性の点でカーボンナノファイバーが好ましい。また、触媒能のある電子伝導性繊維を用いることで、貴金属からなる触媒の使用量を低減できるのでより好ましい。固体高分子型燃料電池の空気極として用いられる場合には、例えば、カーボンナノファイバーから作製したカーボンアロイ触媒が例示できる。また、酸素還元電極用の電極活物質を繊維状に加工したものであってもよく、例えば、Ta、Nb、Ti、Zrから選択される、少なくとも一つの遷移金属元素を含む物質を使用してもよい。これらの遷移金属元素の炭窒化物の部分酸化物、または、これらの遷移金属元素の導電性酸化物や導電性酸窒化物が例示できる。
【0024】
プロトン伝導性の繊維状物質としては、プロトン伝導性を有する高分子電解質を繊維状に加工したナノファイバーを挙げることができ、例えば、フッ素系高分子電解質、炭化水素系高分子電解質を用いることができる。フッ素系高分子電解質としては、例えば、デュポン社製Nafion(登録商標)、旭硝子(株)製Flemion(登録商標)、旭化成(株)製Aciplex(登録商標)、ゴア社製Gore Select(登録商標)などが挙げられる。炭化水素系高分子電解質としては、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレンなどの電解質が挙げられる。また、酸をドープすることでプロトン伝導性を発現する酸ドープ型ポリベンゾアゾール類も好適に用いることができる。
【0025】
また、繊維状物質としては、主鎖骨格、あるいは側鎖官能基に、酸性物質と相互作用可能な塩基性官能基を有する樹脂繊維も挙げられる。これらは、高分子電解質に含まれる酸性物質と相互作用することで、樹脂繊維の表面が高分子電解質に被覆されて、プロトン伝導性を示すことが可能となる。特にその分子構造中に窒素(N)原子を含む塩基性官能基を有していることで、高分子電解質が高分子繊維に均一に被覆し、電極触媒層10中の物質輸送性およびプロトン伝導性を同時に向上することが可能となる。酸性物質と相互作用可能な塩基性官能基としては、=N-基、-NH2基、>NH基、>N-基、アンモニウム基、アミン誘導体、ピリジン誘導体、イミダゾール誘導体、イミダゾリウム基等を挙げることができる。具体的な樹脂繊維としては、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチオアゾール、ポリビニルイミダゾール、ポリアリルアミン等を挙げることができ、特に、プロトン伝導性および加工の観点から、アゾール構造を有するポリベンズイミダゾール(PBI)が好ましい。
【0026】
繊維状物質の平均繊維径としては、100~400nmが好ましく、100~250nmがより好ましい。平均繊維径をこの範囲にすることにより、電極触媒層内の空隙を増加させるとともに伝導性の低下を抑制することができ、高出力化が可能になる。また、繊維状物質の平均繊維長は1~100μmが好ましく、5~50μmがより好ましい。平均繊維長をこの範囲にすることにより、電極触媒層の強度を高めることができ、ひいては、電極触媒層を形成するときにクラックが生じることを抑制できる。加えて、電極触媒層内の空隙を増加させることができ、高出力化が可能になる。
【0027】
(触媒層の構造)
電極触媒層10は、
図1に示す触媒層の構造に示すように、触媒物質13、導電性担体14、アイオノマー15、繊維状物質16のいずれも存在しない領域である空隙Vを有する。
【0028】
そして、電極触媒層10の断面における空隙Vの一つ一つの重心を母点としたボロノイ図において、ボロノイ領域の面積の標準偏差をASD、ボロノイ領域の平均面積をAAAとしたときに、ASD/AAVで表されるボロノイ領域の面積の分散度が0.40~0.55を満たす。分散度は、0.54以下であってよく、0.53以下であってもよい。
【0029】
まず、電極触媒層の断面における空隙の検出方法について説明する。電極触媒層の断面の空隙Vは、電極触媒層の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した画像に基づいて検出することができる。例えば観察倍率5000倍から20000倍程度の電極触媒層の厚み全体が収まる視野で撮像したSEM観察画像から、画像処理によって空隙部分を抽出することができる。
【0030】
電子顕微鏡画像の取得条件は、電極触媒層に含まれるアイオノマーにダメージを与えない加速電圧であれば特に限定しないが、たとえば加速電圧1kVから3kVが好ましい。また、撮像時には輝度のヒストグラムが0~255以内に収まるように像の明るさやコントラストを調整する必要がある。また、検出することのできる空隙の大きさは保存する画像のサイズと倍率に依存し、少なくとも0.02μm/px以上の解像度であることが好ましい。誤差を小さくするために、少なくとも5か所以上、好ましくは10か所以上の視野において同様に撮像し計測することが好ましい。電極触媒層の断面を露出させる方法としては、加工の際に触媒層の形状を保てる手法であれば制限はなく、例えば、イオンミリング、ウルトラミクロトーム等の公知の手法を用いることができる。断面とは、厚み方向に沿う断面である。
【0031】
次に、各空隙Vの重心を母点とするボロノイ図におけるボロノイ領域の面積の分散度の求め方について説明する。
【0032】
「ボロノイ図」とは、平面上に存在する隣接する2つの母点を結ぶ線にそれぞれ垂直二等分線(ボロノイ分割線)を引き、垂直二等分線同士を結ぶことにより、平面を各母点の最近接領域(ボロノイ領域)に分割した図である。
【0033】
本実施形態では、触媒層の断面における空隙Vの重心をそれぞれ母点としてボロノイ図を取得する。そして、ボロノイ領域の面積の分散度は、ボロノイ領域の面積の標準偏差をASD、ボロノイ領域の面積の算術平均面積をAAVとしたときに、ASD/AAVと定義される。この分散度の値が小さいほど数多くの空隙が空間的に高い分散性をもって断面内に分布していることになる。
【0034】
本明細書において、少なくとも5カ所以上の視野の上記のSEM画像のそれぞれに基づいてボロノイ図を作成し、各視野に含まれる全てのボロノイ領域の面積に基づいて、標準偏差および算術平均面積を求める。ボロノイ面積は、0.04~0.17μm2であってよい。
【0035】
また、空隙部分にもとづいて、断面全体に占める全空隙Vの面積の分率を算出することができる。断面の全面積に対する、断面の全空隙の面積の分率は、4~14%であってよい。当該分率は12%以下、11%以下であってよく、5%以上であってよい。
【0036】
(電極触媒層の厚み)
電極触媒層の厚さは1μm以上10μm以下が好ましい。厚さが10μmよりも厚い場合には、ひび割れが生じやすくなるうえに燃料電池に用いた場合にガスや生成する水分の拡散性および導電性が低下して出力が低下する。また厚さが1μmよりも薄い場合には層厚にばらつきが生じやすくなり、触媒物質や導電性担体、アイオノマーが不均一となりやすい。電極触媒層表面のひび割れや厚さ及び材料の不均一性は、燃料電池として長期運転した際の耐久性に悪影響を及ぼす。
【0037】
電極触媒層の厚さは、例えば膜電極接合体の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察することで計測することができる。例えば観察倍率1000倍から100000倍程度の触媒層全体が収まる視野内において、電極触媒層の厚みを測長することによって計測することが可能である。偏りなく厚さを把握するために、少なくとも20か所以上の観察点において同様に計測することが好ましい。膜電極接合体の断面を露出させる方法には、例えば、イオンミリング、ウルトラミクロトーム等の公知の手法を用いることができる。
【0038】
[膜電極接合体の構成]
次に、
図2を参照しつつ、本実施形態に係る電極触媒層を備えた膜電極接合体の具体的を説明する。
図2に示すように、膜電極接合体20は、高分子電解質膜1と、高分子電解質膜1のそれぞれの面に接合された電極触媒層10とを備えている。本実施形態では、高分子電解質膜1の上面に形成される電極触媒層10は、酸素極を構成するカソード側電極触媒層2であり、高分子電解質膜の下面に形成される電極触媒層10は、燃料極を構成するアノード側電極触媒層3である。以下、一対の電極触媒層は、区別する必要がない場合には、「電極触媒層」と略記する場合がある。なお、電極触媒層の外周部は、ガスケット等(図示せず)によりシールされていてもよい。
【0039】
[電極触媒層および膜電極接合体の製造方法]
以下、上述した電極触媒層および膜電極接合体の製造方法を説明する。まず、触媒インクを作製する。少なくとも上述した触媒物質、導電性担体、アイオノマー、および、繊維状物質を分散媒に混合し、その後、混合物に分散処理を施すことによって触媒インクを作製する。分散処理は、例えば、遊星型ボールミル、ビーズミル、および、超音波ホモジナイザーなどを用いて行うことができる。
【0040】
触媒インクの分散媒として使用される溶媒は、触媒物質や導電性担体、高分子電解質及び繊維状物質を浸食することがなく、流動性の高い状態で高分子電解質を溶解又は微細ゲルとして分散できるものあれば、どのようなものでもよい。一般的に用いられる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイゾブチルケトン、メチルアミルケトン、ペンタノン、へプタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトニルアセトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、メトキシトルエン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類、イソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ジエチルアミン、アニリンなどのアミン類、蟻酸プロピル、蟻酸イソブチル、蟻酸アミル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチルなどのエステル類、その他酢酸、プロピオン酸、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等を用いてもよい。また、グリコール、グリコールエーテル系溶媒としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジアセトンアルコール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノールなどが挙げられる。
溶媒は、水及びアルコールの混合物であることが好適であり、好適な水:アルコール質量比は30:70~70:30である。
【0041】
触媒インク中には、揮発性の液体有機溶媒が少なくとも含まれることが望ましいが、溶剤として低級アルコールを用いたものは発火の危険性が高いため、このような溶媒を用いる際は水との混合溶媒にするのが好ましい。水の添加量は、高分子電解質が分離して白濁を生じたり、ゲル化したりしない程度であれば特に制限はない。
【0042】
作製した触媒インクを基材に塗布した後に乾燥することによって、触媒インクの塗膜から溶媒成分が除去されて、基材上に電極触媒層が形成される。基材には、高分子電解質膜、または、転写用基材、ガス拡散層などを用いることができる。
【0043】
高分子電解質膜を基材として用いる場合には、例えば、高分子電解質膜の表面に触媒インクを直に塗布した後、触媒インクの塗膜から溶媒を除去することによって電極触媒層を形成することができる。その後、高分子電解質膜を挟んで電極触媒層と対向するように、高分子電解質膜の反対側の表面に触媒インクを直に塗布した後、触媒インクの塗膜から溶媒を除去することによって電極触媒層を形成し、膜電極接合体を得ることができる。
【0044】
転写用基材やガス拡散層を用いる場合には、例えば、転写用基材またはガス拡散層の上に電極触媒層を形成し、その後、電極触媒層の表面と高分子電解質膜とを接触させた状態で、加熱および加圧を行うことで電極触媒層と高分子電解質膜とを接合させることで膜電極接合体を製造することができる。
【0045】
高分子電解質膜に直接触媒層を形成する方法は、高分子電解質膜と触媒層との密着性が高く、触媒層が潰れる恐れがないため、好ましい。
【0046】
触媒インクを基材に塗布する方法には、様々な塗工方法を用いることができる。塗工方法には、例えば、ダイコート、ロールコート、カーテンコート、スプレーコート、および、スキージーなどを挙げることができる。塗工方法には、ダイコートを用いることが好ましい。ダイコートは、塗布期間の中間における膜厚が安定し、かつ、間欠的な塗工を行うことが可能である点で好ましい。触媒インクの塗膜を乾燥させる方法には、例えば、温風オーブンを用いた乾燥、IR(遠赤外線)乾燥、ホットプレートを用いた乾燥、および、減圧乾燥などを用いることができる。乾燥温度は、40℃以上200℃以下であり、40℃以上120℃以下程度であることが好ましい。乾燥時間は、0.5分以上1時間以下であり、1分以上30分以下程度であることが好ましい。
【0047】
転写用基材またはガス拡散層に電極触媒層を形成する場合には、電極触媒層の転写時に電極触媒層に加わる圧力や温度が膜電極接合体の発電性能に影響する。発電性能が高い膜電極接合体を得る上では、電極触媒層に加わる圧力は、0.1MPa以上20MPa以下であることが好ましい。圧力が20MPa以下であることによって、電極触媒層が過剰に圧縮されることが抑えられる。圧力が0.1MP以上であることによって、電極触媒層と高分子電解質膜との接合性の低下により発電性能が低下することが抑えられる。接合時の温度は、高分子電解質膜と電極触媒層との界面の接合性の向上や、界面抵抗の抑制を考慮すると、高分子電解質膜、または、電極触媒層が含む高分子電解質のガラス転移点付近であることが好ましい。
【0048】
転写用基材には、例えば、高分子フィルム、および、フッ素系樹脂によって形成されたシート体を用いることができる。フッ素系樹脂は、転写性に優れている。フッ素系樹脂には、例えば、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、および、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などを挙げることができる。高分子フィルムを形成する高分子には、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタラート、ポリアミド(ナイロン(登録商標))、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテル・エーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、および、ポリエチレンナフタレートなどを挙げることができる。
【0049】
ここで、電極触媒層中のアイオノマー(高分子電解質)の配合率、電極触媒中の繊維状物質の配合率、触媒インクの溶媒組成、触媒インク調整時の分散強度、塗布した触媒インクの加熱温度やその加熱速度、などを調整する事により、電極触媒層の断面における空隙の重心を母点とするボロノイ図におけるボロノイ領域の面積の分散度を0.55以下に設定することができる。
【0050】
例えば、電極触媒層中のアイオノマー(高分子電解質)の量は、導電性担体の質量に対して同程度から半分程度、すなわち、50~100質量%が好ましい。
また、電極触媒層中の繊維状物質の配合率は、導電性担体の質量に対して1~100質量%程度が好ましい。電極触媒層中の繊維状物質16の配合率が導電性担体の質量に対して1質量%よりも少ないと、プロトン伝導抵抗の低減およびガス拡散性向上の効果が十分に得られない上、電極触媒層を形成するときにクラックが生じて長期的に運転した際の耐久性が低下する。一方、電極触媒層中の繊維状物質の配合率が導電性担体の質量に対して100質量%よりも多いと、触媒反応を阻害して電池性能が低下する可能性がある。また、繊維状物質が高分子繊維である場合、予め分散液の状態としてインクに配合することで繊維状物質の電極触媒層での分散性を高め、結果として空隙のボロノイ分散度を下げることができる。
【0051】
また、触媒層用インクにおける溶媒の量は、触媒物質、導電性担体、及び、高分子電解質の合計質量が、触媒層用インクの合計質量に対して、5~20質量%となることが好適であり、10質量%以上でもよい。また、インクの塗布後の加熱温度は75~90℃とすることが好ましい。
乾燥は静置して行うことが好ましいが、炉内を移動させて乾燥してもよく、その場合の移動速度は4m/min以下であることが好適である。
また、触媒層用インクの固形分比率は、薄膜に塗工できる範囲で、高いほうが好ましい。触媒インクの静置粘度は、300~7000mPaであってよい。
【0052】
(作用効果)
すなわち、本実施形態の電極触媒層は、触媒物質と、前記触媒物質を担持する導電性担体と、高分子電解質と、繊維状物質を有し、触媒層断面において、空隙の重心を母点とするボロノイ図のボロノイ面積の分散度が0.55以下となっている。この構成によれば、空隙が空間的に均一に分散しているので、排水性やガス拡散性が向上され、高出力が可能な高分子型燃料電池用の電極触媒層を提供することができる。
また、空隙の面積分率が4~12%であると、空隙の量が適切に確保されて、物質輸送がより効率的に行われる。
【0053】
そして、本実施形態の電極触媒層は、例えば、固体高分子型燃料電池に適用して極めて好適である。
【0054】
[膜電極接合体の構成]
次に、
図3を参照して、固体高分子型燃料電池11について説明する。
図3は、本実施形態に係る電極触媒層10を備えた膜電極接合体20を装着した固体高分子型燃料電池11の構成例を示す分解斜視図である。
膜電極接合体20は、高分子電解質膜1と、高分子電解質膜1の表裏面にそれぞれ接合された電極触媒層2(10)、3(10)とを備えている。本実施形態では、高分子電解質膜1の上面(表面)に形成される電極触媒層10は、酸素極を構成するカソード側電極触媒層2であり、高分子電解質膜1の下面(裏面)に形成される電極触媒層10は、燃料極を構成するアノード側電極触媒層3である。以下、一対の電極触媒層2,3は、区別する必要がない場合には、「電極触媒層10」と略記する場合がある。本実施形態による膜電極接合体20において、電極触媒層10は、高分子電解質膜1の少なくとも一方の面に備えられていればよい。また、高分子電解質膜1の電極触媒層10が接合されていない外周部分からのガスリークを防ぐため、膜電極接合体20には酸素極側のガスケット16C及び燃料極側のガスケット16Aが配置されている。
【0055】
固体高分子型燃料電池11は、さらに、カソード(酸素極)側のガス拡散層4と、アノード(燃料極)側のガス拡散層5とを備えている。ガス拡散層4は、膜電極接合体20の酸素極側のカソード側電極触媒層2である電極触媒層10と対向して配置されている。また、ガス拡散層5は、膜電極接合体20の燃料極側のアノード側電極触媒層3である電極触媒層10と対向して配置されている。そして、電極触媒層2及びガス拡散層4から酸素極6が構成され、電極触媒層3及びガス拡散層5から燃料極7が構成されている。
【0056】
更に、固体高分子型燃料電池11は、酸素極6に対向して配置されたセパレーター30Cと、燃料極7に対向して配置されたセパレーター30Aと、を備えている。セパレーター30Cは、ガス拡散層4に対向する面に形成された反応ガス流通用のガス流路8と、ガス流路8が形成された面と反対側の面に形成された冷却水流通用の冷却水流路9とを備えている。
【0057】
また、セパレーター30Aは、セパレーター30Cと同様の構成を有しており、ガス拡散層5に対向する面に形成されたガス流路8と、ガス流路8が形成された面と反対側の面に形成された冷却水流路9とを備えている。セパレーター30C、30Aは、導電性でかつガス不透過性の材料からなる。
【0058】
そして、固体高分子型燃料電池11は、セパレーター30Cのガス流路8を通って空気や酸素等の酸化剤が酸素極6に供給され、セパレーター30Aのガス流路8を通って水素を含む燃料ガス若しくは有機物燃料が燃料極7に供給されて、発電を行う。
【実施例0059】
[実施例1]
(カソード触媒層用スラリー)
白金担持カーボン(TEC10E50E、田中貴金属社製)20g(触媒10g及びカーボン(導電性担体)10g)を容器にとり、水を加えて混合後、1-プロパノール、高分子電解質(Nafion(登録商標)分散液、和光純薬工業:カーボン(導電性担体)の質量に対して高分子電解質を60質量%)6g、繊維状物質としてカーボンナノファイバー(昭和電工社製、商品名「VGCF」、繊維径約150nm、繊維長約10μm)5g(カーボン(導電性担体)の質量に対して50質量%)を加えて撹拌して、カソード触媒層用スラリーを得た。インクの溶媒である水及び1-プロパノールの質量比は60:40であり、水及び1-プロパノールの量は、白金担持カーボン及び高分子電解質の合計質量が触媒層用スラリーの13質量%を占めるように設定した。
(アノード触媒層用スラリー)
白金担持カーボン(TEC10E50E、田中貴金属社製)20g(触媒10g及びカーボン(導電性担体)10g)を容器にとり、水を加えて混合後、1-プロパノール、高分子電解質(Nafion(登録商標)分散液、和光純薬工業:カーボン(導電性担体)の質量に対して高分子電解質を100質量%)10g、繊維状物質としてカーボンナノファイバー(昭和電工社製、商品名「VGCF」、繊維径約150nm、繊維長約10μm)5g(カーボン(導電性担体)の質量に対して50質量%)を加えて撹拌して、アノード触媒層用スラリーを得た。インクの溶媒である水及び1-プロパノールの質量比は70:30であり、水及び1-プロパノールの量は、白金担持カーボン及び高分子電解質の合計質量が触媒層用スラリーの10質量%を占めるように設定した。
得られた触媒層用スラリーを高分子電解質膜(ケマーズ社製、Nafion212)の両面にダイコーティング法で塗工し、80℃の炉内で乾燥することで実施例1の電極触媒層(カソード及びアノード)を有した膜電極接合体を得た。得られた触媒層断面におけるASD/AAVにより定義されるボロノイ領域の面積の分散度は0.51であった。
【0060】
[実施例2]
カソード触媒層用スラリーの製造において、繊維状物質としてアゾール構造を有する樹脂繊維(繊維径約300nm、繊維長約20μm)を予め分散液の状態として混合したこと、繊維状物質の配合量をカーボン(導電性担体)の質量に対して10質量%の1gとしたこと、水及び1-プロパノールの量は、白金担持カーボン及び電解質の合計質量が触媒層用スラリーの10質量%を占めるように設定した以外は、実施例1と同様の手順で実施例2の電極触媒層(カソード)を有した膜電極接合体を得た。
【0061】
[実施例3]
カソード触媒層用スラリーの製造において、繊維状物質としてアゾール構造を有する樹脂繊維(繊維径約200nm、繊維長約20μm)を用いたこと、繊維状物質の配合量をカーボン(導電性担体)の質量に対して10質量%の1gとしたこと、水及び1-プロパノールの量は、白金担持カーボン及び電解質の合計質量が触媒層用スラリーの10質量%を占めるように設定した以外は、実施例1と同様の手順で実施例3の電極触媒層(カソード)を有した膜電極接合体を得た。
【0062】
[実施例4]
カソード触媒層用スラリーの製造において、繊維状物質としてアゾール構造を有する樹脂繊維(繊維径約200nm、繊維長約20μm)を用い、繊維状物質の配合量をカーボン(導電性担体)の質量に対して5質量%の0.5gとし、水及び1-プロパノールの量は、白金担持カーボン及び電解質の合計質量が触媒層用スラリーの10質量%を占めるように設定し、インクの溶媒である水及び1-プロパノールの質量比は70:30とした以外は、実施例1と同様の手順で実施例4の電極触媒層(カソード)を有した膜電極接合体を得た。
【0063】
[実施例5]
カソード触媒層用スラリーの製造において、繊維状物質としてアゾール構造を有する樹脂繊維(繊維径約300nm、繊維長約20μm)を用い、繊維状物質の配合量をカーボン(導電性担体)の質量に対して10質量%の1gとし、高分子電解質の添加量をカーボン(導電性担体)の質量に対して45質量%のすなわち実施例1の3/4である4.5gとし、水及び1-プロパノールの量は、白金担持カーボン及び電解質の合計質量が触媒層用スラリーの10質量%を占めるように設定しインクの溶媒である水及び1-プロパノールの質量比は70:30とした以外は、実施例1と同様の手順で実施例3の電極触媒層(カソード)を有した膜電極接合体を得た。
【0064】
[比較例1]
カソード触媒層用スラリーの製造において、繊維状物質を加えず、水及び1-プロパノールの量は、白金担持カーボン及び電解質の合計質量が触媒層用スラリーの7質量%を占めるように設定し、インクの溶媒である水及び1-プロパノールの質量比は70:30とし、PET基材に塗工し、熱圧着により電解質膜に転写した以外は、実施例1と同様の手順で比較例1の電極触媒層(カソード)を有した膜電極接合体を得た。
【0065】
[比較例2]
カソード触媒層用スラリーの製造において、繊維状物質としてアゾール構造を有する樹脂繊維(繊維径約200nm、繊維長約20μm)を用い、繊維状物質の配合量をカーボン(導電性担体)の質量に対して10質量%の1gとし、水及び1-プロパノールの量は、白金担持カーボン及び電解質の合計質量が触媒層用スラリーの9質量%を占めるように設定し、高分子電解質の添加量をカーボン(導電性担体)の質量に対して120質量%すなわち実施例1の2倍である12gとしインクの溶媒である水及び1-プロパノールの質量比は70:30とした以外は実施例1と同様の手順で比較例2の電極触媒層(カソード)を有した膜電極接合体を得た。
【0066】
実施例、比較例の膜電極接合体の発電評価ならびに、断面の構造の解析を行った。発電評価では、1.5A/cm2における電圧が0.630V以上を〇、それ以下を×とした。
【0067】
断面の露出にはクライオクロスセクションポリッシャー(日本電子株式会社)を用い、電子顕微鏡は走査電子顕微鏡SU8010(日立ハイテクノロジーズ株式会社)を用いた。
【0068】
解析する画像のサイズは統一する必要があり、10000倍、1280×960 pixelの画像を用いて解析を行った。空隙の抽出は、電子顕微鏡画像の処理や解析に広く使用されるフリーソフトであるImageJ Fiji内のTrainable Weka Segmentation機能を用いた。電極触媒層断面における空隙とは触媒物質、導電性担体、アイオノマー、繊維状物質のいずれも存在しない領域であるが、空隙の抽出においては断面の最表面が空隙であり、かつその奥行きが導電性担体の一次粒子径1個に相当するよりも深い部分を空隙として抽出した。空隙の奥行きが導電性担体の一次粒子径1個程度かそれ以下の場合にはガス拡散や排水には関与しないくぼみであると見做した。具体的には導電性担体および触媒物質の領域、アイオノマーの領域、繊維状物質の領域、空隙の領域をそれぞれ15か所以上ラベリングし、セグメンテーションを実行した。
表1に空隙を母点としたボロノイ分割法による分散度、細孔断面に占める空隙の割合、および発電性能評価の結果を示す。
【0069】
【0070】
ボロノイ分割法による分散度が0.4~0.55のMEAが高い性能を示すことがわかった。また、さらに、空隙の断面全体に占める割合が4~12%のMEAが高い性能を示した。インク組成、乾燥温度等の最適化により空隙の分散性が高くなり、電極触媒層全体の物質輸送特性が改善した結果、高負荷における性能が向上したと考えられる。