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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063351
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】観察装置および観察方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/52 20060101AFI20240502BHJP
   G02B 21/06 20060101ALI20240502BHJP
   G02B 21/36 20060101ALI20240502BHJP
   G02B 21/18 20060101ALI20240502BHJP
   G02F 1/11 20060101ALI20240502BHJP
   G01N 21/45 20060101ALI20240502BHJP
   G01N 15/1434 20240101ALI20240502BHJP
   G02F 1/01 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
G02B27/52
G02B21/06
G02B21/36
G02B21/18
G02F1/11 503
G01N21/45 A
G01N15/14 D
G02F1/01 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171221
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100110582
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 昌聰
(72)【発明者】
【氏名】藤森 勇気
(72)【発明者】
【氏名】安彦 修
(72)【発明者】
【氏名】山田 秀直
【テーマコード(参考)】
2G059
2H052
2K102
【Fターム(参考)】
2G059AA02
2G059BB06
2G059DD12
2G059EE02
2G059EE09
2G059FF01
2G059GG01
2G059JJ22
2G059JJ30
2G059KK04
2G059MM01
2H052AB01
2H052AB24
2H052AB26
2H052AC05
2H052AC16
2H052AC18
2H052AC34
2H052AF04
2H052AF14
2H052AF25
2K102AA30
2K102BA05
2K102BA07
2K102BC07
2K102BD09
2K102DA01
2K102DB04
2K102DC08
2K102EA21
2K102EB02
2K102EB08
2K102EB10
2K102EB20
2K102EB22
2K102EB26
(57)【要約】
【課題】移動している観察対象物を安価な構成で容易に観察することができる装置および方法を提供する。
【解決手段】観察装置1は、光源11、分岐部12、合波部15、第1変調部21、第2変調部22、撮像部23および処理部24等を備える。第1変調部21は、ミラー13から到達した第1分岐光L1を入力し、互いに異なる複数の変調周波数それぞれで第1分岐光L1を変調し、その周波数変調後の第1分岐光L1を出力する。レンズ31~33は、第1変調部21により変調された第1分岐光L1を変調周波数Ωに応じた照射方向に沿って観察対象物Sに照射する。撮像部23は、観察対象物Sの像が形成される撮像面(P3面)において、第1分岐光L1による観察対象物Sの像の移動方向と交差する方向に1次元配列された複数の画素を有する。撮像部23は、合波光を受光して、1次元干渉画像を表す検出信号を繰り返し出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動している観察対象物を観察する装置であって、
光を出力する光源と、
前記光を第1分岐光と第2分岐光とに分岐する分岐部と、
互いに異なる複数の変調周波数それぞれで前記第1分岐光を変調する第1変調部と、
前記第1変調部により変調された前記第1分岐光を変調周波数に応じた照射方向に沿って前記観察対象物に照射する照射部と、
前記観察対象物を通過した後の前記第1分岐光と前記第2分岐光とを合波して合波光を出力する合波部と、
前記観察対象物の像が形成される撮像面において前記観察対象物の像の移動方向と交差する方向に配列された複数の画素を有し、これら複数の画素により前記合波光を受光して、1次元干渉画像を表す検出信号を繰り返し出力する撮像部と、
前記撮像部から繰り返し出力される検出信号から生成される前記1次元干渉画像の時系列データに基づいて、前記複数の変調周波数に対応する前記観察対象物への複数の照射方向それぞれについて複素振幅画像を生成し、これら複数の照射方向それぞれの複素振幅画像に基づいて前記観察対象物の3次元屈折率分布画像を生成する処理部と、
を備える観察装置。
【請求項2】
前記分岐部と前記第1変調部との間の前記第1分岐光の光路上、または、前記分岐部と前記合波部との間の前記第2分岐光の光路上に設けられ、前記第1分岐光と前記第2分岐光との間に周波数差を与える第2変調部を更に備える、
請求項1に記載の観察装置。
【請求項3】
前記第1変調部は、ブラッグ回折により光を周波数変調する音響光学素子を含み、互いに異なる複数の周波数成分を有するRF信号を前記音響光学素子に与えるとともに、前記音響光学素子に前記第1分岐光を入射させることで、RF信号の各周波数成分に応じた変調周波数で前記第1分岐光を変調する、
請求項1または2に記載の観察装置。
【請求項4】
前記第1変調部は、ラマンナス回折により光を周波数変調する音響光学素子を含み、単一の周波数のRF信号を前記音響光学素子に与えるとともに、前記音響光学素子に前記第1分岐光を入射させることで、互いに異なる複数の変調周波数それぞれで前記第1分岐光を変調する、
請求項1または2に記載の観察装置。
【請求項5】
前記第1変調部は、互いに異なる複数の空間周波数成分を有する回折格子が重ね合わされて記録された板状物体を含み、前記板状物体を移動させるとともに、前記板状物体に前記第1分岐光を通過させることで、互いに異なる複数の変調周波数それぞれで前記第1分岐光を変調する、
請求項1または2に記載の観察装置。
【請求項6】
前記第1変調部は、位相変調型の空間光変調器を含み、前記空間光変調器の変調面の領域によって互いに異なる速さで位相変調量を変化させるとともに、前記空間光変調器の変調面に前記第1分岐光を入射させることで、前記空間光変調器の変調面の各領域の位相変調量の変化の速さに応じた変調周波数で前記第1分岐光を変調する、
請求項1または2に記載の観察装置。
【請求項7】
前記第1変調部は、強度変調型の空間光変調器を含み、前記空間光変調器の変調面の所定方向に沿った強度変調量分布を、互いに異なる複数の空間周波数成分を有するものとし、前記空間光変調器の変調面において前記強度変調量分布を前記所定方向に移動させるとともに、前記空間光変調器の変調面に前記第1分岐光を入射させることで、互いに異なる複数の変調周波数それぞれで前記第1分岐光を変調する、
請求項1または2に記載の観察装置。
【請求項8】
前記観察対象物の移動経路上の前記第1分岐光の照射位置を検出する照射位置検出部と、
前記照射位置検出部により検出された照射位置に基づいて、前記撮像部の前記複数の画素により前記合波光を受光することができるように前記観察対象物から前記撮像部までの光学系または前記撮像部の位置を制御する制御部と、
を更に備える請求項1または2に記載の観察装置。
【請求項9】
移動している観察対象物を観察する方法であって、
分岐部を用いて、光源から出力された光を第1分岐光と第2分岐光とに分岐する分岐ステップと、
第1変調部を用いて、互いに異なる複数の変調周波数それぞれで前記第1分岐光を変調する第1変調ステップと、
前記第1変調部により変調された前記第1分岐光を変調周波数に応じた照射方向に沿って前記観察対象物に照射する照射ステップと、
合波部を用いて、前記観察対象物を通過した後の前記第1分岐光と前記第2分岐光とを合波して合波光を出力する合波ステップと、
前記観察対象物の像が形成される撮像面において前記観察対象物の像の移動方向と交差する方向に配列された複数の画素を有する撮像部を用いて、これら複数の画素により前記合波光を受光して、1次元干渉画像を表す検出信号を繰り返し出力する撮像ステップと、
前記撮像部から繰り返し出力される検出信号から生成される前記1次元干渉画像の時系列データに基づいて、前記複数の変調周波数に対応する前記観察対象物への複数の照射方向それぞれについて複素振幅画像を生成し、これら複数の照射方向それぞれの複素振幅画像に基づいて前記観察対象物の3次元屈折率分布画像を生成する処理ステップと、
を備える観察方法。
【請求項10】
前記分岐部と前記第1変調部との間の前記第1分岐光の光路上、または、前記分岐部と前記合波部との間の前記第2分岐光の光路上に設けられた第2変調部を用いて、前記第1分岐光と前記第2分岐光との間に周波数差を与える第2変調ステップを更に備える、
請求項9に記載の観察方法。
【請求項11】
前記第1変調ステップにおいて、ブラッグ回折により光を周波数変調する音響光学素子を含む前記第1変調部を用いて、互いに異なる複数の周波数成分を有するRF信号を前記音響光学素子に与えるとともに、前記音響光学素子に前記第1分岐光を入射させることで、RF信号の各周波数成分に応じた変調周波数で前記第1分岐光を変調する、
請求項9または10に記載の観察方法。
【請求項12】
前記第1変調ステップにおいて、ラマンナス回折により光を周波数変調する音響光学素子を含む前記第1変調部を用いて、単一の周波数のRF信号を前記音響光学素子に与えるとともに、前記音響光学素子に前記第1分岐光を入射させることで、互いに異なる複数の変調周波数それぞれで前記第1分岐光を変調する、
請求項9または10に記載の観察方法。
【請求項13】
前記第1変調ステップにおいて、互いに異なる複数の空間周波数成分を有する回折格子が重ね合わされて記録された板状物体を含む前記第1変調部を用いて、前記板状物体を移動させるとともに、前記板状物体に前記第1分岐光を通過させることで、互いに異なる複数の変調周波数それぞれで前記第1分岐光を変調する、
請求項9または10に記載の観察方法。
【請求項14】
前記第1変調ステップにおいて、位相変調型の空間光変調器を含む前記第1変調部を用いて、前記空間光変調器の変調面の領域によって互いに異なる速さで位相変調量を変化させるとともに、前記空間光変調器の変調面に前記第1分岐光を入射させることで、前記空間光変調器の変調面の各領域の位相変調量の変化の速さに応じた変調周波数で前記第1分岐光を変調する、
請求項9または10に記載の観察方法。
【請求項15】
前記第1変調ステップにおいて、強度変調型の空間光変調器を含む前記第1変調部を用いて、前記空間光変調器の変調面の所定方向に沿った強度変調量分布を、互いに異なる複数の空間周波数成分を有するものとし、前記空間光変調器の変調面において前記強度変調量分布を前記所定方向に移動させるとともに、前記空間光変調器の変調面に前記第1分岐光を入射させることで、互いに異なる複数の変調周波数それぞれで前記第1分岐光を変調する、
請求項9または10に記載の観察方法。
【請求項16】
前記観察対象物の移動経路上の前記第1分岐光の照射位置を検出し、この検出された照射位置に基づいて、前記撮像部の前記複数の画素により前記合波光を受光することができるように前記観察対象物から前記撮像部までの光学系または前記撮像部の位置を制御する、
請求項9または10に記載の観察方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動している観察対象物を観察する装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、移動している観察対象物を観察する装置および方法の発明が開示されている。この文献に記載された観察装置は、光源から出力された光を分岐して第1分岐光および第2分岐光とし、移動している観察対象物を経ることでドップラーシフトした第1分岐光と、光周波数をヘテロダイン周波数だけシフトさせた第2分岐光とを合波して、第1分岐光と第2分岐光とをヘテロダイン干渉させる。そして、この観察装置は、カメラの撮像面に到達した干渉光の強度画像(2次元干渉画像)の時系列データに基づいて、撮像面における第1分岐光の複素振幅画像の時系列データを取得することができる。この観察装置は、移動している観察対象物を非染色・非侵襲でイメージングすることができ、例えば、フローサイトメータで移動している細胞を観察するのに用いられ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2013/065796号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】W. Choi, C. Fang-Yen, K.Badizadegan, S. Oh, N. Lue, R. R. Dasari, and M. S. Feld, "Tomographicphase microscopy," Nat Meth 4(9), 717-719 (2007).
【非特許文献2】Y. Sung, W. Choi, C. Fang-Yen, K.Badizadegan, R. R. Dasari, and M. S. Feld, "Optical diffraction tomographyfor high resolution live cell imaging," Optics Express 17(1), 266 (2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された発明をフローサイトメータに適用する場合を考えると、干渉光の強度画像を取得するカメラは、撮像面において複数の画素が2次元(例えば1280×800)に配列されたエリアカメラであってフレームレートが高いもの(例えば25kfps)である必要がある。このようなカメラは非常に高価であり、それ故、観察装置も高価なものとなる。
【0006】
また、特許文献1に開示された発明では、観察対象物からカメラまでの光学系が特殊であることから、この光学系の調整が容易でなく、観察対象物の観察も容易でない。
【0007】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、移動している観察対象物を安価な構成で容易に観察することができる装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の観察装置は、移動している観察対象物を観察する装置である。
本発明の観察装置の第1態様は、(1) 光を出力する光源と、(2) 光を第1分岐光と第2分岐光とに分岐する分岐部と、(3) 互いに異なる複数の変調周波数それぞれで第1分岐光を変調する第1変調部と、(4) 第1変調部により変調された第1分岐光を変調周波数に応じた照射方向に沿って観察対象物に照射する照射部と、(5) 観察対象物を通過した後の第1分岐光と第2分岐光とを合波して合波光を出力する合波部と、(6) 観察対象物の像が形成される撮像面において観察対象物の像の移動方向と交差する方向に配列された複数の画素を有し、これら複数の画素により合波光を受光して、1次元干渉画像を表す検出信号を繰り返し出力する撮像部と、(7) 撮像部から繰り返し出力される検出信号から生成される1次元干渉画像の時系列データに基づいて、複数の変調周波数に対応する観察対象物への複数の照射方向それぞれについて複素振幅画像を生成し、これら複数の照射方向それぞれの複素振幅画像に基づいて観察対象物の3次元屈折率分布画像を生成する処理部と、を備える。
【0009】
本発明の観察装置の第2態様は、第1態様に加えて、分岐部と第1変調部との間の第1分岐光の光路上、または、分岐部と合波部との間の第2分岐光の光路上に設けられ、第1分岐光と第2分岐光との間に周波数差を与える第2変調部を更に備える。
【0010】
本発明の観察装置の第3態様では、第1態様または第2態様に加えて、第1変調部は、ブラッグ回折により光を周波数変調する音響光学素子を含み、互いに異なる複数の周波数成分を有するRF信号を音響光学素子に与えるとともに、音響光学素子に第1分岐光を入射させることで、RF信号の各周波数成分に応じた変調周波数で第1分岐光を変調する。
【0011】
本発明の観察装置の第4態様では、第1態様または第2態様に加えて、第1変調部は、ラマンナス回折により光を周波数変調する音響光学素子を含み、単一の周波数のRF信号を音響光学素子に与えるとともに、音響光学素子に第1分岐光を入射させることで、互いに異なる複数の変調周波数それぞれで第1分岐光を変調する。
【0012】
本発明の観察装置の第5態様では、第1態様または第2態様に加えて、第1変調部は、互いに異なる複数の空間周波数成分を有する回折格子が重ね合わされて記録された板状物体を含み、板状物体を移動させるとともに、板状物体に第1分岐光を通過させることで、互いに異なる複数の変調周波数それぞれで第1分岐光を変調する。
【0013】
本発明の観察装置の第6態様では、第1態様または第2態様に加えて、第1変調部は、位相変調型の空間光変調器を含み、空間光変調器の変調面の領域によって互いに異なる速さで位相変調量を変化させるとともに、空間光変調器の変調面に第1分岐光を入射させることで、空間光変調器の変調面の各領域の位相変調量の変化の速さに応じた変調周波数で第1分岐光を変調する。
【0014】
本発明の観察装置の第7態様では、第1態様または第2態様に加えて、第1変調部は、強度変調型の空間光変調器を含み、空間光変調器の変調面の所定方向に沿った強度変調量分布を、互いに異なる複数の空間周波数成分を有するものとし、空間光変調器の変調面において強度変調量分布を所定方向に移動させるとともに、空間光変調器の変調面に第1分岐光を入射させることで、互いに異なる複数の変調周波数それぞれで第1分岐光を変調する。
【0015】
本発明の観察装置の第7態様は、第1~第7の態様の何れかに加えて、(1) 観察対象物の移動経路上の第1分岐光の照射位置を検出する照射位置検出部と、(2) 照射位置検出部により検出された照射位置に基づいて、撮像部の複数の画素により合波光を受光することができるように観察対象物から撮像部までの光学系または撮像部の位置を制御する制御部と、を更に備える。
【0016】
本発明の観察方法は、移動している観察対象物を観察する方法である。
本発明の観察方法の第1態様は、(1) 分岐部を用いて、光源から出力された光を第1分岐光と第2分岐光とに分岐する分岐ステップと、(2) 第1変調部を用いて、互いに異なる複数の変調周波数それぞれで第1分岐光を変調する第1変調ステップと、(3) 第1変調部により変調された第1分岐光を変調周波数に応じた照射方向に沿って観察対象物に照射する照射ステップと、(4) 合波部を用いて、観察対象物を通過した後の第1分岐光と第2分岐光とを合波して合波光を出力する合波ステップと、(5) 観察対象物の像が形成される撮像面において観察対象物の像の移動方向と交差する方向に配列された複数の画素を有する撮像部を用いて、これら複数の画素により合波光を受光して、1次元干渉画像を表す検出信号を繰り返し出力する撮像ステップと、(6) 撮像部から繰り返し出力される検出信号から生成される1次元干渉画像の時系列データに基づいて、複数の変調周波数に対応する観察対象物への複数の照射方向それぞれについて複素振幅画像を生成し、これら複数の照射方向それぞれの複素振幅画像に基づいて観察対象物の3次元屈折率分布画像を生成する処理ステップと、を備える。
【0017】
本発明の観察方法の第2態様は、第1態様に加えて、分岐部と第1変調部との間の第1分岐光の光路上、または、分岐部と合波部との間の第2分岐光の光路上に設けられた第2変調部を用いて、第1分岐光と第2分岐光との間に周波数差を与える第2変調ステップを更に備える。
【0018】
本発明の観察方法の第3態様では、第1態様または第2態様に加えて、第1変調ステップにおいて、ブラッグ回折により光を周波数変調する音響光学素子を含む第1変調部を用いて、互いに異なる複数の周波数成分を有するRF信号を音響光学素子に与えるとともに、音響光学素子に第1分岐光を入射させることで、RF信号の各周波数成分に応じた変調周波数で第1分岐光を変調する。
【0019】
本発明の観察方法の第4態様では、第1態様または第2態様に加えて、第1変調ステップにおいて、ラマンナス回折により光を周波数変調する音響光学素子を含む第1変調部を用いて、単一の周波数のRF信号を音響光学素子に与えるとともに、音響光学素子に第1分岐光を入射させることで、互いに異なる複数の変調周波数それぞれで第1分岐光を変調する。
【0020】
本発明の観察方法の第5態様では、第1態様または第2態様に加えて、第1変調ステップにおいて、互いに異なる複数の空間周波数成分を有する回折格子が重ね合わされて記録された板状物体を含む第1変調部を用いて、板状物体を移動させるとともに、板状物体に第1分岐光を通過させることで、互いに異なる複数の変調周波数それぞれで第1分岐光を変調する。
【0021】
本発明の観察方法の第6態様では、第1態様または第2態様に加えて、第1変調ステップにおいて、位相変調型の空間光変調器を含む第1変調部を用いて、空間光変調器の変調面の領域によって互いに異なる速さで位相変調量を変化させるとともに、空間光変調器の変調面に第1分岐光を入射させることで、空間光変調器の変調面の各領域の位相変調量の変化の速さに応じた変調周波数で第1分岐光を変調する。
【0022】
本発明の観察方法の第7態様では、第1態様または第2態様に加えて、第1変調ステップにおいて、強度変調型の空間光変調器を含む第1変調部を用いて、空間光変調器の変調面の所定方向に沿った強度変調量分布を、互いに異なる複数の空間周波数成分を有するものとし、空間光変調器の変調面において強度変調量分布を所定方向に移動させるとともに、空間光変調器の変調面に第1分岐光を入射させることで、互いに異なる複数の変調周波数それぞれで第1分岐光を変調する。
【0023】
本発明の観察方法の第8態様は、第1~第7の態様の何れかに加えて、観察対象物の移動経路上の第1分岐光の照射位置を検出し、この検出された照射位置に基づいて、撮像部の複数の画素により合波光を受光することができるように観察対象物から撮像部までの光学系または撮像部の位置を制御する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、移動している観察対象物を安価な構成で容易に観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、観察装置1の構成を示す図である。
図2図2は、レンズ33の前焦点面(P1面)に形成される変調周波数Ω毎の第1分岐光の点像を示す図である。
図3図3は、レンズ33による観察対象物Sへの第1分岐光の照射を説明する図である。
図4図4は、観察装置1Aの構成を示す図である。
図5図5は、観察装置1Bの構成を示す図である。
図6図6は、観察装置1Cの構成を示す図である。
図7図7は、第1変調部21Aおよび周辺の光学系の構成を示す図である。
図8図8は、第1変調部21Aおよび周辺の光学系の構成を示す図である。
図9図9は、第1変調部21Aの板状物体に記録される回折格子を説明する図である。図9(a)は、複数の空間周波数成分k(kmin~kmax)を有する回折格子それぞれの変調分布を示す。図9(b)は、複数の空間周波数成分を有する回折格子が重ね合わされた後の変調分布を示す。
図10図10(a)は、第1変調部21Bおよび周辺の光学系を示す図である。図10(b)は、第1変調部21Bの空間光変調器の変調面における各領域の変調周波数を濃淡で示す図である。
図11図11(a)は、第1変調部21Cおよび周辺の光学系を示す図である。図11(b)は、第1変調部21Cの空間光変調器の変調面における各領域の変調周波数を濃淡で示す図である。
図12図12(a)は、第1変調部21Dおよび周辺の光学系を示す図である。図12(b)は、第1変調部21Dの空間光変調器の変調面における各領域の強度変調量を濃淡で示す図である。図12(c)は、第1変調部21Dの空間光変調器の変調面におけるy方向に沿った各領域での強度変調量を示すグラフである。
図13図13は、撮像部23の周辺の構成の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0027】
図1は、観察装置1の構成を示す図である。観察装置1は、移動している観察対象物Sを観察する装置であって、光源11、分岐部12、合波部15、第1変調部21、第2変調部22、撮像部23および処理部24等を備える。また、この観察装置1を用いた観察方法は、分岐ステップ、合波ステップ、第1変調ステップ、第2変調ステップ、撮像ステップおよび処理ステップ等を備える。
【0028】
光源11は、光を出力する。好適には、光源11は、単一の光周波数ωを有するレーザ光を出力するレーザ光源である。光源11は例えばHe-Neレーザ光源である。分岐部12は、光源11と光学的に接続されている光学系である。分岐部12は、光源11から出力された光を入力し、その光を2分岐して第1分岐光L1および第2分岐光L2とする(分岐ステップ)。分岐部12は、第1分岐光L1をミラー13へ出力し、第2分岐光L2を第2変調部22へ出力する。分岐部12は、ビームスプリッタであり、ハーフミラーであってもよい。
【0029】
ミラー13は、分岐部12と光学的に接続されている。ミラー13は、分岐部12から出力された第1分岐光L1を入力し、その第1分岐光L1を反射させて第1変調部21へ出力する。ミラー14は、第2変調部22と光学的に接続されている。ミラー14は、分岐部12から出力されて第2変調部22を経た第2分岐光L2を入力し、その第2分岐光L2を反射させてレンズ36へ出力する。
【0030】
合波部15は、ミラー13で反射されて第1変調部21および観察対象物S等を経た第1分岐光L1を入力するとともに、ミラー14で反射されてレンズ36等を経た第2分岐光L2を入力する光学系である。合波部15は、これら入力した第1分岐光L1と第2分岐光L2とを合波して合波光をレンズ35へ出力する(合波ステップ)。合波部15は、ビームスプリッタであり、ハーフミラーであってもよい。
【0031】
撮像部23は、合波部15から出力されてレンズ35を経た合波光を受光して、第1分岐光L1と第2分岐光L2との干渉画像を表す検出信号を処理部24へ出力する(撮像ステップ)。処理部24は、撮像部23から繰り返し出力される検出信号に基づいて、観察対象物Sの3次元屈折率分布画像を生成する(処理ステップ)。
【0032】
分岐部12からミラー13,14を経て合波部15に至るまでの光学系は、マッハツェンダ干渉計を構成している。観察対象物Sは、ミラー13から合波部15に至るまでの第1分岐光L1の光路と交差するように移動する。観察対象物Sは、例えば、断面サイズが250×250μmであるフローサイトメータの流路を平均速さ20mm/sで一列に整列して移動している細胞である。以下では、xyz直交座標系を設定し、観察対象物Sの移動方向をy方向とし、観察対象物Sの後段にあるレンズ34の光軸に平行な方向をz方向とし、これらy方向およびz方向の双方に直交する方向をx方向とする。
【0033】
ミラー13から観察対象物Sに至るまでの第1分岐光L1の光路上に、第1変調部21、レンズ31、レンズ32およびレンズ33が順に配置されている。観察対象物Sから合波部15に至るまでの第1分岐光L1の光路上に、レンズ34が配置されている。分岐部12からミラー14を経て合波部15に至るまでの第2分岐光L2の光路上に、第2変調部22、レンズ36、レンズ37およびレンズ38が順に配置されている。合波部15から撮像部23に至るまでの合波光の光路上に、レンズ35が配置されている。
【0034】
第1変調部21は、ミラー13から到達した第1分岐光L1を入力し、互いに異なる複数の変調周波数それぞれで第1分岐光L1を変調し、その周波数変調後の第1分岐光L1を出力する(第1変調ステップ)。第1変調部21は、ブラッグ回折により光を周波数変調する音響光学素子を含む構成とすることができる。この場合、第1変調部21は、互いに異なる複数の周波数成分を有するRF信号を音響光学素子に与えるとともに、この音響光学素子に第1分岐光L1を入射させることで、RF信号の各周波数成分に応じた変調周波数で第1分岐光L1を変調することができる。
【0035】
第1分岐光L1の波長をλとし、音響光学素子における音響波の速度をVaとし、RF信号のN個の周波数成分Ω~Ωのうちの第nの周波数成分をΩとすると、周波数Ωで変調された第1分岐光L1の回折角θは、下記(1)式で表される。第1変調部21は、各周波数Ωで変調された光周波数ω+Ωの第1分岐光L1を回折角θの方向に出力することができる。すなわち、第1変調部21は、N個の周波数成分Ω~Ωそれぞれで変調した第1分岐光L1を互いに異なる方向へ出力することができる。
【0036】
【数1】
【0037】
例えば、正の回折次数を有する回折光(音響波の進行方向と同じ方向に出力される回折光)を用いることとする。観察対象物Sの移動速度Vsを20mm/sとし、光学分解能Δyを0.2μmとして、バンド幅BWを100kHz(=Vs/Δy)とする。変調周波数の間隔を100kHzとし、N=100とし、Ω=(195+0.1n)MHzとする。すなわち、最小の変調周波数Ωを195.1MHzとし、最大の変調周波数Ωを205.0MHzとする。
【0038】
レンズ31~33は、照射部を構成している光学系であり、第1変調部21により変調された第1分岐光L1を変調周波数Ωに応じた照射方向に沿って観察対象物Sに照射する(照射ステップ)。レンズ31およびレンズ32はシリンドリカルレンズである。レンズ33は球面レンズである。この図では、yz面内(紙面内)における第1分岐光L1の光束が実線で示され、xz面内(紙面に対して垂直面内)における第1分岐光L1の光束が破線で示されている(第2分岐光L2についても同様であり、以降の図でも同様である)。また、破線で示されたシリンドリカルレンズのレンズ形状は、xz面内(紙面に対して垂直面内)のレンズ形状を示す。
【0039】
レンズ32は、レンズ33の前焦点面(P1面)においてy方向に沿った離散的な位置に、変調周波数Ω毎に第1分岐光L1の点像を形成する。レンズ33の後焦点面(P2面)は、観察対象物Sの移動経路を含む面である。図2は、レンズ33の前焦点面(P1面)に形成される変調周波数Ω毎の第1分岐光の点像を示す図である。各点像が黒丸で示されている。P1面はP2面のフーリエ面であるから、P1面の横軸(x軸)はP2面のx方向の空間周波数kに相当し、P1面の縦軸(y軸)はP2面のy方向の空間周波数kに相当する。レンズ33は、図2に示される変調周波数Ω毎の第1分岐光L1の点像からの光を入力して、変調周波数Ω毎の第1分岐光L1を平面波として変調周波数Ωに応じた照射方向に沿って観察対象物Sに照射することができる。
【0040】
図3は、レンズ33による観察対象物Sへの第1分岐光の照射を説明する図である。この図は、周波数Ωで変調された光周波数ωmin(=ω+Ω)の第1分岐光L1がP2面へ平面波として入射するときの波数ベクトルのy成分がkminであることを示し、周波数Ωで変調された光周波数ωmax(=ω+Ω)の第1分岐光L1がP2面へ平面波として入射するときの波数ベクトルのy成分がkmaxであることを示している。
【0041】
レンズ34およびレンズ35は、観察対象物Sを通過した第1分岐光L1を入力して、観察対象物Sの像を撮像部23の撮像面(P3面)上に形成する結像光学系を構成している。撮像面(P3面)は、観察対象物Sの移動経路を含む面(P2面)に対し光学的な共役関係にある。例えば、レンズ34は倍率60倍の対物レンズであり、レンズ35は焦点距離200mmの結像レンズである。レンズ34とレンズ35との間の光路上に合波部15が配置されている。
【0042】
第2変調部22は、第1分岐光L1と第2分岐光L2との間に周波数差を与える(第2変調ステップ)。第2変調部22は、第2分岐光L2の光路上に配置されている。第2変調部22は、第2分岐光L2を入力し、その第2分岐光L2を周波数変調して出力する。第2変調部22は、例えば、音響光学周波数シフタ(Acousto Optic Frequency Shifter、AOFS、例えばISOMET社の型番1250C)、ファンクションジェネレータ(例えばTektronics社製AFG3252C)および高速アンプを含む構成とすることができる。この場合、ファンクションジェネレータから出力された正弦波信号を高速アンプにより例えば+25dBの増幅率で増幅し、その増幅により例えば振幅25dBmとされた正弦波信号をAOFSに与える。このAOFSに第2分岐光L2を入射させることで、周波数ΩLOで第2分岐光L2を変調することができる。正の回折次数を有する回折光(音響波の進行方向と同じ方向に出力される回折光)を用いれば、変調後の第2分岐光L2の光周波数ωLOはω+ΩLOとなる。例えば、ΩLO=195MHzとする。
【0043】
第2変調部22は、光ヘテロダイン周波数ΔΩ(合波部15による合波の際の第1分岐光L1と第2分岐光L2との間の光周波数差)が撮像部23のサンプリング周波数Ωの2分の1以下となるように調整をする為に設けられる。したがって、第1分岐光L1の変調周波数Ωが十分に小さく、ΩLO=0であっても光ヘテロダイン周波数ΔΩが撮像部23のサンプリング周波数Ωの2分の1以下であれば、第2変調部22は設けられなくてもよい。
【0044】
レンズ36~38は、第2変調部22による変調後の第2分岐光L2を合波部15へ入射させる光学系を構成している。レンズ36,37は、それぞれ球面レンズであり、第2分岐光L2のビーム径を拡大するビームエキスパンダを構成している。レンズ38はシリンドリカルレンズである。レンズ36~38は、レンズ35とともに、撮像部23の撮像面においてライン状に第2分岐光L2を集光する。
【0045】
撮像部23は、観察対象物Sの像が形成される撮像面(P3面)において、第1分岐光L1による観察対象物Sの像の移動方向と交差する方向に1次元配列された複数の画素を有する。撮像部23として例えばラインセンサ等のセンサを用いることができる。第2分岐光L2は、これら1次元配列された複数の画素に沿ってライン状に集光される。撮像部23は、1次元配列された複数の画素により合波光を受光して、1次元干渉画像を表す検出信号を繰り返し出力する。
【0046】
第1変調部21により周波数変調された第1分岐光L1のうちで最も低い光周波数ωmin(=ω+Ω)、第1変調部21により周波数変調された第1分岐光L1のうちで最も高い光周波数ωmax(=ω+Ω)、および、第2変調部22により周波数変調された第2分岐光L2の光周波数ωLO(=ω+ΩLO)の間で、下記(2)式の関係が満たされることが好ましい。ωは、光源11から出力された光の光周波数である。また、撮像部23のサンプリング周波数Ωは、下記(3)式または下記(4)式の条件を満たすのが好ましい。
【0047】
【数2】
【0048】
【数3】
【0049】
【数4】
【0050】
第1分岐光L1の最大変調周波数Ωを205MHzとし、第2分岐光L2の変調周波数ΩLOを195MHzとした場合、光ヘテロダイン周波数の最大値は10MHzであるので、撮像部23のサンプリング周波数Ωを20MHzとすればよい。
【0051】
処理部24は、撮像部23から繰り返し出力される検出信号から生成される1次元干渉画像の時系列データに基づいて、複数の変調周波数に対応する観察対象物Sへの複数の照射方向それぞれについて複素振幅画像を生成する。処理部24は、例えばプロセッサであるCPU(Central Processing Unit)あるいはGPU(Graphics Processing Unit)、記憶媒体であるRAM(Random Access Memory)又はROM(Read Only Memory)、通信モジュール、及び入出力モジュール等を内蔵する演算装置(コンピュータ等)である。また例えば、処理部24は、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)によって構成されていてもよい。そして、処理部24は、これら複数の照射方向それぞれの複素振幅画像に基づいて観察対象物Sの3次元屈折率分布画像を生成する。具体的には以下のとおりである。
【0052】
撮像部23から繰り返し出力される検出信号から生成される1次元干渉画像の時系列データをI(x,t)と表す。xは、撮像部23の撮像面において1次元配列された複数の画素それぞれの位置(x方向位置)を表す変数である。tは、撮像部23が1次元干渉画像を撮像した時刻を表す変数である。処理部24は、この時系列データI(x,t)に対して時刻tに関するフーリエ変換を行う。このフーリエ変換の結果をJ(x,f)と表す。fは、周波数を表す変数である。
【0053】
処理部24は、このJ(x,f)のデータのうちから光ヘテロダイン周波数ΔΩを中心とするバンド幅BWの周波数範囲(ΔΩ-BW/2<f<ΔΩ+BW/2)のデータを抽出し、その抽出した周波数範囲のデータに対して周波数fに関するフーリエ変換を行う。このフーリエ変換の結果をI(x,t)と表す。ここで、観察対象物Sがy方向に移動しているので、時刻を表す変数tは、y方向位置を表す変数yに変換することができる。したがって、I(x,t)はI(x,y)と表すことができる。
【0054】
(x,y)は、光ヘテロダイン周波数ΔΩに応じた照射方向(すなわち、変調周波数Ωに応じた照射方向)に沿って第1分岐光L1を観察対象物Sに照射したときに、撮像部23の撮像面に到達した第1分岐光L1による観察対象物Sの2次元複素振幅画像を表す。処理部24は、各変調周波数Ωに対応する観察対象物Sへの照射方向について複素振幅画像I(x,y)を生成する。
【0055】
そして、処理部24は、複数の照射方向それぞれの複素振幅画像I(x,y)~I(x,y)に基づいて、観察対象物Sの3次元屈折率分布画像を生成する。複素振幅画像I(x,y)~I(x,y)に基づいて3次元屈折率分布画像を生成する際に、非特許文献1または非特許文献2に記載された手法を用いることができる。非特許文献1に記載された手法は、フーリエ断層定理(Fourier Slice theorem)を用いるものであり、観察対象物Sにおける光の散乱を無視することができる場合に適用可能なものである。非特許文献2に記載された手法は、フーリエ回折定理(Fourier Diffraction theorem)を用いるものであり、観察対象物Sにおける光の散乱を考慮して観察対象物Sの3次元屈折率分布画像を生成するものである。
【0056】
以上のように、観察装置1は、撮像部23としてエリアセンサではなくラインセンサを用いることができるので、ラインレート(サンプリング周波数Ω)を高くすることができ、また、安価な構成とすることができる。さらに、観察対象物Sから撮像部23までの光学系を通常の結像光学系とすることができるので、この光学系を容易に調整することができ、観察対象物Sを容易に観察することができる。
【0057】
次に、観察装置1の全体構成の変形例について図4図6を用いて説明する。
図4に示される第1変形例の観察装置1Aは、観察装置1(図1)の構成と比べると、第2変調部22が配置されている位置の点で相違する。観察装置1(図1)では、第2変調部22は第2分岐光L2の光路上に配置されていた。これに対して、観察装置1A(図4)では、第2変調部22は、分岐部12と第1変調部21との間の第1分岐光L1の光路上に配置されている。この構成においても、第2変調部22は、光ヘテロダイン周波数ΔΩ(合波部15による合波の際の第1分岐光L1と第2分岐光L2との間の光周波数差)が撮像部23のサンプリング周波数Ωの2分の1以下となるように調整をすることができる。
【0058】
図5に示される第2変形例の観察装置1Bは、観察装置1(図1)および観察装置1A(図4)の各構成と比べると、第2変調部22が設けられていない点で相違する。前述したとおり、第1分岐光の変調周波数Ωが十分に小さく、ΩLO=0であっても光ヘテロダイン周波数ΔΩが撮像部23のサンプリング周波数Ωの2分の1以下であれば、第2変調部22は設けられなくてもよい。
【0059】
図6に示される第3変形例の観察装置1Cは、観察装置1(図1)の構成と比べると、合波部15、レンズ34およびレンズ35の配置の点で相違する。観察装置1(図1)では、レンズ34とレンズ35との間の光路上に合波部15が配置されていた。これに対して、観察装置1C(図6)では、レンズ35の後段に合波部15が配置されている。また、これに伴い、観察装置1C(図6)では、レンズ36は球面レンズであり、レンズ37,38はシリンドリカルレンズである。
【0060】
なお、図6に示される第3変形例の観察装置1Cにおいて、第2変調部22は、第2分岐光L2の光路上ではなく、分岐部12と第1変調部21との間の第1分岐光L1の光路上に配置されていてもよい。また、図6に示される第3変形例の観察装置1Cにおいて、第1分岐光の変調周波数Ωが十分に小さく、ΩLO=0であっても光ヘテロダイン周波数ΔΩが撮像部23のサンプリング周波数Ωの2分の1以下であれば、第2変調部22は設けられなくてもよい。
【0061】
次に、第1変調部21の構成例について図7図12を用いて説明する。
既に説明した第1変調部21は、ブラッグ回折により光を周波数変調する音響光学素子を含む構成としたものであった。この第1変調部21は、互いに異なる複数の周波数成分を有するRF信号を音響光学素子に与えるとともに、この音響光学素子に第1分岐光L1を入射させることで、RF信号の各周波数成分に応じた変調周波数で第1分岐光L1を変調することができる。第1変調部21は、N個の周波数成分Ω~Ωそれぞれで変調した第1分岐光L1を互いに異なる方向へ出力することができる。
【0062】
第1変形例の第1変調部は、ラマンナス回折により光を周波数変調する音響光学素子を含む構成としてもよい。この場合、第1変調部は、単一の周波数(例えば3MHz)のRF信号を音響光学素子に与えるとともに、この音響光学素子に第1分岐光L1を入射させることで、回折次数に応じて互いに異なる複数の変調周波数それぞれで第1分岐光L1を変調することができる。第1変調部は、N個の周波数成分Ω~Ωそれぞれで変調した第1分岐光L1を、回折次数に応じて互いに異なる方向へ出力することができる。この第1変調部と観察対象物Sとの間の照射部の光学系は、図1と同様の構成とすることができる。
【0063】
図7および図8に示される第2変形例の第1変調部21Aは、互いに異なる複数の空間周波数成分を有する回折格子が重ね合わされて記録された板状物体を含む。これらの図に示される第1変調部21Aの板状物体は、xy面に平行な円盤形状のものであり、z方向に平行な中心軸Oの周りに回転可能であって、周方向に沿って複数の空間周波数成分を有する回折格子が重ね合わされて記録されている。第1変調部21Aは、この板状物体を中心軸の周りに一定速度で回転させるとともに、この板状物体に第1分岐光L1を通過させる。このとき、板状物体の回転の中心軸Oを含む略xz平面内の位置に第1分岐光L1を入射させ、その入射位置では板状物体がy方向に移動しているようにする。これにより、互いに異なる複数の変調周波数それぞれで第1分岐光L1を変調することができる。
【0064】
図7に示される構成では、第1変調部21Aと観察対象物Sとの間の照射部の光学系は、2個のシリンドリカルレンズ41,42を含む。図8に示される構成では、第1変調部21Aと観察対象物Sとの間の照射部の光学系は、1個のシリンドリカルレンズ43を含む。何れの場合にも、照射部は、第1変調部21Aにより変調された第1分岐光L1を変調周波数Ωに応じた照射方向に沿って観察対象物Sに照射する。
【0065】
図9は、第2変形例の第1変調部21Aの板状物体に記録される回折格子を説明する図である。この図で、横軸は周方向の位置であり、縦軸は変調量を表す。図9(a)は、複数の空間周波数成分k(kmin~kmax)を有する回折格子それぞれの変調分布を示す。図9(b)は、複数の空間周波数成分を有する回折格子が重ね合わされた後の変調分布を示す。
【0066】
図7および図8に示された第1変調部21Aの板状物体は円盤形状のものであったが、互いに異なる複数の空間周波数成分を有する回折格子が重ね合わされて記録される板状物体は帯状のものであってもよい。この場合、第1変調部21Aの帯状の板状物体は、y方向に移動可能であって、その移動方向に沿って複数の空間周波数成分を有する回折格子が重ね合わされて記録されている。第1変調部21Aは、この帯状の板状物体をy方向に移動させるとともに、この板状物体に第1分岐光L1を通過させることで、互いに異なる複数の変調周波数それぞれで第1分岐光L1を変調することができる。帯状の板状物体の両端を互いに接続してリング形状とし、そのリング形状とした板状物体を回転させることで、板状物体をy方向に長時間に亘って移動させることができる。
【0067】
図10に示される第3変形例の第1変調部21Bは、位相変調型の空間光変調器(Spatial Light Modulator、SLM)を含む。この図では、反射型の空間光変調器が示されている。図10(a)は、第1変調部21Bおよび周辺の光学系を示す。図10(b)は、第1変調部21Bの空間光変調器の変調面における各領域の変調周波数を濃淡で示す。
【0068】
第1変調部21Bの空間光変調器は、変調面(P1面)のうちx方向について幅が限られた領域において、y方向に沿って区分された複数の領域それぞれで互いに異なる速さで位相変調量を変化させる。すなわち、各領域の位相変調量φを時刻tに対しφ=Ωtなる関係で時間的に連続的に変化させる。第1分岐光L1は、シリンドリカルレンズ52,53を経た後にビームスプリッタ51で反射されて、空間光変調器の変調面に入射する。シリンドリカルレンズ52は凹レンズであり、シリンドリカルレンズ53は凸レンズである。空間光変調器の変調面のうちy方向に延在する領域(x方向については幅が限られた領域)に第1分岐光L1を入射させることで、空間光変調器の変調面のy方向に沿った各領域において変調周波数Ωで第1分岐光L1を変調することができる。変調された第1分岐光L1は、ビームスプリッタ51を透過した後に、シリンドリカルレンズ54により変調周波数Ωに応じた照射方向に沿って観察対象物Sに照射される。なお、位相変調量が時間的に連続的に変化していない変調面で反射される光は、マスク等によって観察対象物Sには照射されないようにする(不図示)。
【0069】
図11に示される第4変形例の第1変調部21Cも、位相変調型の空間光変調器(SLM)を含む。この図でも、反射型の空間光変調器が示されている。図11(a)は、第1変調部21Cおよび周辺の光学系を示す。図11(b)は、第1変調部21Cの空間光変調器の変調面における各領域の変調周波数を濃淡で示す。
【0070】
第1変調部21Cの空間光変調器は、変調面(P1面)のx方向の全体に亘る領域において、y方向に沿って区分された複数の領域それぞれで互いに異なる速さで位相変調量を変化させる。すなわち、各領域の位相変調量φを時刻tに対しφ=Ωtなる関係で時間的に連続的に変化させる。第1分岐光は、レンズ62,63によりビーム径が拡大された後にビームスプリッタ61で反射されて、空間光変調器の変調面の略全体に入射する。空間光変調器の変調面の略全体に第1分岐光L1を入射させることで、空間光変調器の変調面のy方向に沿った各領域において変調周波数Ωで第1分岐光L1を変調することができる。変調された第1分岐光L1は、ビームスプリッタ61を透過した後に、レンズ64,65により変調周波数Ωに応じた照射方向に沿って観察対象物Sに照射される。なお、位相変調量が時間的に連続的に変化していない変調面で反射される光は、マスク等によって観察対象物Sには照射されないようにする(不図示)。
【0071】
図12に示される第5変形例の第1変調部21Dは、強度変調型の空間光変調器(SLM)を含む。この図でも、反射型の空間光変調器が示されている。図12(a)は、第1変調部21Dおよび周辺の光学系を示す。図12(b)は、第1変調部21Dの空間光変調器の変調面における各領域の強度変調量を濃淡で示す。図12(c)は、第1変調部21Dの空間光変調器の変調面におけるy方向に沿った各領域での強度変調量をグラフで示す。
【0072】
第1変調部21Dの空間光変調器は、変調面(P0面)のうちx方向について幅が限られた領域において、y方向に沿って区分された複数の領域それぞれで強度変調量を設定し、その強度変調量のy方向分布をy方向に移動させる。その強度変調量分布が周期kの正弦波形状であってy方向移動速度がVであると、変調面(P0面)に対するフーリエ面(P1面)では、exp(ikVt)で位相シフトが生じ、Ω=kVの周波数変調が生じる。第5変形例では、このことを利用する。
【0073】
空間光変調器の変調面のy方向に沿った強度変調量分布を、互いに異なる複数の空間周波数成分を有するものとし、空間光変調器の変調面において強度変調量分布をy方向に一定速度で移動させる。第1分岐光L1は、シリンドリカルレンズ72,73を経た後にビームスプリッタ71で反射されて、空間光変調器の変調面に入射する。シリンドリカルレンズ72は凹レンズであり、シリンドリカルレンズ73は凸レンズである。シリンドリカルレンズ74の前焦点面が空間光変調器の変調面(P0面)であって、シリンドリカルレンズ74の後焦点面がP1面である。シリンドリカルレンズ75の前焦点面がP1面であって、シリンドリカルレンズ75の後焦点面が観察対象物Sの移動経路を含む面(P2面)である。
【0074】
空間光変調器の変調面(P0面)のうちy方向に延在する領域(x方向については幅が限られた領域)に第1分岐光L1を入射させると、図2と同様に、P1面においてy方向に沿った各領域において変調周波数Ωで変調された第1分岐光L1の点像を形成することができる。そして、レンズ75は、P1面における変調周波数Ω毎の第1分岐光L1の点像からの光を入力して、変調周波数Ω毎の第1分岐光L1を平面波として変調周波数Ωに応じた照射方向に沿って観察対象物Sに照射することができる。
【0075】
なお、第3~第5の変形例の第1変調部21B~21Dは、反射型の空間光変調器を含む構成であったが、透過型の空間光変調器を含む構成としてもよい。また、反射型で強度変調型の空間光変調器としてDMD(Digital Mirror Device)を用いてもよく、この場合には、PWM(Pulse Width Modulation)変調により多段階の強度変調を光に与えることができる。
【0076】
次に、撮像部23の周辺の構成の変形例について図13を用いて説明する。この図に示される変形例の構成では、レンズ81、照射位置検出部82、制御部83および移動部84が更に設けられる。レンズ34とレンズ35との間の光路上に配置されている合波部15は、第1分岐光L1と第2分岐光L2とを合波して、合波光をレンズ35へ出力するとともに、合波光をレンズ81へも出力する。
【0077】
レンズ81は、合波部15と照射位置検出部82との間の合波光の光路上に配置されている。レンズ34およびレンズ81は、観察対象物Sを通過した第1分岐光L1を入力して、観察対象物Sの像を照射位置検出部82の撮像面(P4面)上に形成する結像光学系を構成している。照射位置検出部82は、観察対象物Sの移動経路上の第1分岐光L1の照射位置を検出するものであり、例えば2次元像を撮像することができるエリアカメラである。このエリアカメラは高速撮像が可能である必要はない。
【0078】
制御部83は、照射位置検出部82により検出された照射位置に基づいて移動部84を駆動することで、撮像部23の1次元配列された複数の画素により合波光を受光することができるように撮像部23のy方向位置を制御する。移動部84は、制御部83による駆動に従って、撮像部23の撮像面(P3面)上の観察対象物Sの像の移動方向(y方向)に撮像部23を移動させるものであり、例えば電動アクチュエータ付きの一軸ステージである。
【0079】
このような構成とすることにより、観察対象物Sの移動経路上の第1分岐光L1の照射位置がy方向に時間的にドリフトする場合であっても、撮像部23の撮像面(P3面)への第1分岐光L1の入射位置を固定することができるので、撮像部23は1次元干渉画像を常に安定して取得することができる。
【0080】
なお、撮像部23の1次元配列された複数の画素により合波光を安定して受光することができるようにするために、撮像部23のy方向位置を制御することに加えて又は替えて、観察対象物Sから撮像部23までの光学系を制御することにしてもよい。後者の場合、例えば、観察対象物Sから撮像部23までの光学系の途中に反射面の方位が可変であるミラーを配置して、このミラーの反射面の方位を制御部83により制御すればよい。
【0081】
また、照射位置検出部82は、観察対象物Sの移動経路上の第1分岐光L1の照射位置を検出することができればよいので、合波光を受光するのではなく、第1分岐光L1のみを受光することができればよい。例えば、図6に示された構成において、レンズ34とレンズ35との間にビームスプリッタを配置し、このビームスプリッタにより分岐された第1分岐光L1による観察対象物Sの像を、レンズ81により照射位置検出部82の撮像面(P4面)上に形成してもよい。
【0082】
また、照射位置検出部82として、スポット光入射位置検出用の重心演算回路付プロファイルセンサ(例えば浜松ホトニクス株式会社製S15366-512)を用いてもよいし、PSD(Position Sensitive Detector、例えば浜松ホトニクス株式会社製S2044)を用いてもよい。
【符号の説明】
【0083】
1,1A~1C…観察装置、11…光源、12…分岐部、13,14…ミラー、15…合波部、21,21A~21D…第1変調部、22…第2変調部、23…撮像部、24…処理部、31~38…レンズ。

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