(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063353
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】糸掛け装置及び紡糸処理設備
(51)【国際特許分類】
D01D 7/00 20060101AFI20240502BHJP
D01D 11/00 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
D01D7/00 C
D01D11/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171224
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】井上 玲
(72)【発明者】
【氏名】杉山 研志
【テーマコード(参考)】
4L045
【Fターム(参考)】
4L045AA05
4L045BA03
4L045DA23
4L045DB07
4L045DC32
4L045DC37
4L045DC41
4L045DC43
(57)【要約】
【課題】コンパクトな糸掛け装置を提供する。
【解決手段】糸掛けロボット2は、紡糸装置3と、巻取装置と、糸吸引部53と、を備える紡糸巻取ユニットに用いられる。紡糸装置3は、糸Yを連続的に紡出する。巻取装置は、紡糸装置3から連続的に紡出された糸Yの引取り又は巻取りを行う。糸吸引部53は、紡糸装置3から連続的に紡出されている糸Yを一時的に吸引して受け取っておく。糸掛けロボット2は、糸掛け部材23と、モータと、ロボット制御部と、を備える。モータは、糸掛け部材23を移動する。ロボット制御部は、モータの動作を制御する。糸掛け部材23は、紡糸装置3から紡出されて糸吸引部53に吸引されている糸Yを引っ掛ける。ロボット制御部は、紡糸巻取ユニットに備えられた糸吸引部53により糸Yが吸引されている状態で、糸掛け部材23により糸Yを巻取装置に掛けるようにモータの動作を制御する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸を連続的に紡出する紡糸装置と、当該紡糸装置から連続的に紡出された糸の引取り又は巻取りを行う糸処理装置と、前記紡糸装置から連続的に紡出されている糸を一時的に吸引して受け取っておくための糸吸引装置と、を備える紡糸巻取ユニットに用いられる糸掛け装置であって、
糸を引っ掛けるための糸引掛け部と、
前記糸引掛け部を移動する駆動装置と、
前記駆動装置の動作を制御する制御装置と、
を備え、
前記糸引掛け部は、前記紡糸装置から紡出されて前記糸吸引装置に吸引されている糸を引っ掛け、
前記制御装置は、前記紡糸巻取ユニットに備えられた前記糸吸引装置により糸が吸引されている状態で、前記糸引掛け部により糸を前記糸処理装置に掛けるように前記駆動装置の動作を制御することを特徴とする糸掛け装置。
【請求項2】
請求項1に記載の糸掛け装置であって、
前記紡糸巻取ユニットには、前記糸引掛け部が前記駆動装置により駆動されて前記糸処理装置に糸を掛けている動作中に、前記糸引掛け部と前記糸吸引装置との間、又は前記紡糸装置と前記糸引掛け部との間の糸部分に接触して、当該糸部分の糸道を変更する糸道変更部材が設けられていることを特徴とする糸掛け装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の糸掛け装置であって、
前記糸処理装置が第1の高さレベルの第1フロア空間に設けられ、
前記紡糸装置及び前記糸吸引装置が前記第1の高さレベルより高い第2の高さレベルの第2フロア空間に設けられ、
前記紡糸巻取ユニットに、前記紡糸装置から紡出されて前記糸吸引装置に吸引されている糸の中途箇所を第2フロア空間から第1フロア空間に降ろす糸降ろし装置が設けられることを特徴とする糸掛け装置。
【請求項4】
糸を連続的に紡出する紡糸装置と、
当該紡糸装置から連続的に紡出された糸の引取り又は巻取りを行う糸処理装置と、
前記紡糸装置から連続的に紡出されている糸を一時的に吸引して受け取っておくための糸吸引装置とを備える紡糸巻取ユニットと、
糸掛け装置と、
を備える紡糸処理設備であって、
前記糸掛け装置は、
糸を引っ掛けるための糸引掛け部と、
前記糸引掛け部を移動する駆動装置と、
前記駆動装置の動作を制御する制御装置と、
を備え、
前記糸引掛け部は、前記紡糸装置から紡出されて前記糸吸引装置に吸引されている糸を引っ掛け、
前記制御装置は、前記紡糸巻取ユニットに備えられた前記糸吸引装置により糸が吸引されている状態で、前記糸引掛け部により糸を前記糸処理装置に掛けるように前記駆動装置の動作を制御することを特徴とする紡糸処理設備。
【請求項5】
請求項4に記載の紡糸処理設備であって、
前記紡糸巻取ユニットには、前記糸引掛け部が前記駆動装置により駆動されて前記糸処理装置に糸を掛けている動作中に、前記糸引掛け部と前記糸吸引装置との間、又は前記紡糸装置と前記糸引掛け部との間の糸部分に接触して、当該糸部分の糸道を変更する糸道変更部材が設けられていることを特徴とする紡糸処理設備。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の紡糸処理設備であって、
前記糸処理装置が第1の高さレベルの第1フロア空間に設けられ、
前記紡糸装置及び前記糸吸引装置が前記第1の高さレベルより高い第2の高さレベルの第2フロア空間に設けられ、
前記紡糸装置から紡出されて前記糸吸引装置に吸引されている糸の中途箇所を第2フロア空間から第1フロア空間に降ろす糸降ろし装置が設けられることを特徴とする紡糸処理設備。
【請求項7】
請求項6に記載の紡糸処理設備であって、
前記紡糸巻取ユニットを複数備え、
前記第1フロア空間にガイドレールが設けられ、
前記糸掛け装置が前記ガイドレールに沿って前記複数の紡糸巻取ユニット間を移動することを特徴とする紡糸処理設備。
【請求項8】
請求項7に記載の紡糸処理設備であって、
前記紡糸巻取ユニットの数よりも前記糸掛け装置の数が少ないことを特徴とする紡糸処理設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸掛け装置、及び当該糸掛け装置を備える紡糸処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、合成繊維を製造する紡糸処理設備が知られている。特許文献1は、この種の紡糸処理設備において、紡出した糸条を引取りローラに導く糸掛け方法を開示する。特許文献2は、この種の紡糸処理設備である溶融紡糸装置を開示する。
【0003】
特許文献1の糸掛け方法においては、ウエストロールに巻き取られつつある糸条が、オペレータの手にした糸かけ具によって供給ローラ等に巻き掛けられる。
【0004】
特許文献2の溶融紡糸装置は、自動操作装置を備える。自動操作装置は、ロボットアームの端部に設けられたサクションインジェクタにより糸群を保持しながら、ゴデットユニット及び巻取りユニットに糸掛けし挿通するために案内している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭50-138116号公報
【特許文献2】特表2020-526675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
オペレータの負担軽減及び生産効率等の追求のため、特許文献2のようなロボットアームによる作業で、特許文献1のようなオペレータの手作業が代替されてきた。しかし、特許文献2の溶融紡糸装置において、ロボットアームが、糸群を保持するサクションインジェクタ及び圧縮空気を供給する圧縮空気管路等の重量を支持する必要があり、小型化が難しかった。
【0007】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、コンパクトな糸掛け装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0009】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の糸掛け装置が提供される。即ち、この糸掛け装置は、紡糸巻取ユニットに用いられる。前記紡糸巻取ユニットは、紡糸装置と、糸処理装置と、糸吸引装置と、を備える。前記紡糸装置は、糸を連続的に紡出する。前記糸処理装置は、当該紡糸装置から連続的に紡出された糸の引取り又は巻取りを行う。前記糸吸引装置は、前記紡糸装置から連続的に紡出されている糸を一時的に吸引して受け取っておくために用いられる。前記糸掛け装置は、糸引掛け部と、駆動装置と、制御装置と、を備える。前記糸引掛け部は、糸を引っ掛けるために用いられる。前記駆動装置は、前記糸引掛け部を移動する。前記制御装置は、前記駆動装置の動作を制御する。前記糸引掛け部は、前記紡糸装置から紡出されて前記糸吸引装置に吸引されている糸を引っ掛ける。前記制御装置は、前記紡糸巻取ユニットに備えられた前記糸吸引装置により糸が吸引されている状態で、前記糸引掛け部により糸を前記糸処理装置に掛けるように前記駆動装置の動作を制御する。
【0010】
これにより、糸掛け装置に、重量が大きいサクションガン等の吸引装置を搭載する必要がなくなり、糸掛け装置の小型化及び低出力を実現することができる。
【0011】
前記の糸掛け装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記紡糸巻取ユニットには、糸道変更部材が設けられている。前記糸道変更部材は、前記糸引掛け部が前記駆動装置により駆動されて前記糸処理装置に糸を掛けている動作中に、前記糸引掛け部と前記糸吸引装置との間、又は前記紡糸装置と前記糸引掛け部との間の糸部分に接触して、当該糸部分の糸道を変更する。
【0012】
これにより、糸処理装置への糸掛け作業を容易に行うことができる。
【0013】
前記の糸掛け装置においては、下記の構成とすることが好ましい。即ち、前記糸処理装置が第1の高さレベルの第1フロア空間に設けられている。前記紡糸装置及び前記糸吸引装置が前記第1の高さレベルより高い第2の高さレベルの第2フロア空間に設けられている。前記紡糸巻取ユニットに、前記紡糸装置から紡出されて前記糸吸引装置に吸引されている糸の中途箇所を第2フロア空間から第1フロア空間に降ろす糸降ろし装置が設けられる。
【0014】
これにより、第1フロア空間における騒音を低減することができる。
【0015】
本発明の第2の観点によれば、以下の構成の紡糸処理設備が提供される。即ち、この紡糸処理設備は、紡糸装置と、糸処理装置と、糸吸引装置と、糸掛け装置と、を備える紡糸処理設備に用いられる。前記紡糸装置は、糸を連続的に紡出する。前記糸処理装置は、当該紡糸装置から連続的に紡出された糸の引取り又は巻取りを行う。前記糸吸引装置は、前記紡糸装置から連続的に紡出されている糸を一時的に吸引して受け取っておくために用いられる。前記糸掛け装置は、糸引掛け部と、駆動装置と、制御装置と、を備える。前記糸引掛け部は、糸を引っ掛けるために用いられる。前記駆動装置は、前記糸引掛け部を移動する。前記制御装置は、前記駆動装置の動作を制御する。前記糸引掛け部は、前記紡糸装置から紡出されて前記糸吸引装置に吸引されている糸を引っ掛ける。前記制御装置は、前記紡糸巻取ユニットに備えられた前記糸吸引装置により糸が吸引されている状態で、前記糸引掛け部により糸を前記糸処理装置に掛けるように前記駆動装置の動作を制御する。
【0016】
これにより、紡糸処理設備の簡素化を図ることができる。
【0017】
前記の紡糸処理設備においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記紡糸処理設備に糸道変更部材が設けられている。前記糸道変更部材は、前記糸引掛け部が前記駆動装置により駆動されて前記糸処理装置に糸を掛けている動作中に、前記糸引掛け部と前記糸吸引装置との間、又は前記紡糸装置と前記糸引掛け部との間の糸部分に接触して、当該糸部分の糸道を変更する。
【0018】
これにより、糸処理装置への糸掛け作業を容易に行うことができる。
【0019】
前記の紡糸処理設備においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記糸処理装置が第1の高さレベルの第1フロア空間に設けられている。前記紡糸装置及び前記糸吸引装置が前記第1の高さレベルより高い第2の高さレベルの第2フロア空間に設けられている。前記紡糸処理設備に、前記紡糸装置から紡出されて前記糸吸引装置に吸引されている糸の中途箇所を第2フロア空間から第1フロア空間に降ろす糸降ろし装置が設けられる。
【0020】
これにより、第1フロア空間における騒音を低減することができる。
【0021】
前記の紡糸処理設備においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記紡糸処理設備は、前記紡糸巻取ユニットを複数備える。前記第1フロア空間にガイドレールが設けられる。前記糸掛け装置が前記ガイドレールに沿って前記複数の紡糸巻取ユニット間を移動する。
【0022】
これにより、糸掛け装置が複数の紡糸巻取ユニットの間を移動して作業することができるので、糸掛け装置を効率良く運用することができる。
【0023】
前記の紡糸処理設備においては、前記紡糸巻取ユニットの数よりも前記糸掛け装置の数が少ないことが好ましい。
【0024】
これにより、糸掛け装置を効率良く運用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態に係る紡糸巻取システムの概略な構成を示す斜視図である。
【
図2】紡糸巻取ユニットの構成を示す模式図である。
【
図4】糸掛けロボットが糸降ろし装置から糸を引き取る様子を示す部分斜視図である。
【
図5】糸掛けロボットによって糸が糸案内ガイドに掛けられた状態を示す図である。
【
図6】糸掛けロボットによって糸降ろし装置から糸を引き出す様子を示す図である。
【
図7】紡糸巻取システムの制御構成を簡略的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0027】
図1に示す紡糸巻取システム(紡糸処理設備)100は、生成した合成繊維の糸Yを巻き取ってパッケージPを形成するシステムである。紡糸巻取システム100において、合成繊維の糸Yは、溶融された化合繊原料を押し出すことにより生成される。紡糸巻取システム100は、プラントにおいて、複数階層を有する建物内に設置されている。
【0028】
紡糸巻取システム100は、
図1に示すように、複数の紡糸巻取ユニット1を備える。複数の紡糸巻取ユニット1は、左右方向に配列される。それぞれの紡糸巻取ユニット1が、合成繊維の糸Yの生成及びパッケージPの生成を行う。紡糸巻取システム100は、システム全体の制御を行うための集中制御装置101を備える。集中制御装置101は、
図7に示すように、紡糸巻取システム100が備える各紡糸巻取ユニット1及び後述の糸掛けロボット2等の動作を制御する。
【0029】
図2に示す糸掛けロボット(糸掛け装置)2は、複数の紡糸巻取ユニット1で共用されるように備えられる。糸掛けロボット2は、集中制御装置101の制御指令に応じて、複数の紡糸巻取ユニット1の間で、図示しないレールに沿って走行することができる。
【0030】
以下の説明において「上流」及び「下流」とは、生成された糸Yの巻取時における、糸Yの走行方向での上流及び下流を意味する。左右方向とは、複数の紡糸巻取ユニット1が並べられる方向を意味する。左右方向及び上下方向の何れに対しても垂直な方向を「前後方向」と称する。
【0031】
紡糸巻取ユニット1のそれぞれは、紡糸装置3と、紡糸引取装置4と、紡糸巻取ユニット制御装置102と、を備える。紡糸巻取ユニット制御装置102は、集中制御装置101からの制御指令に応じて、紡糸巻取ユニット1が備える各装置を駆動するモータ等の駆動装置の動作を制御する。紡糸引取装置4は、紡糸装置3の下流側に配置されている。紡糸引取装置4は、糸降ろし装置5と、引取部6と、巻取装置7と、を主として備える。糸降ろし装置5は、後述の糸降ろし作業のために用いられる。引取部6は、紡糸装置3からの糸Yを適宜の経路に沿って巻取装置7へ送り出す処理を行う。巻取装置7は、糸Yを巻き取ってパッケージPを形成する処理を行う。本発明の糸処理装置は、引取部6及び巻取装置7を主として備える。
【0032】
紡糸引取装置4は、糸処理装置である引取部6及び巻取装置7以外に、例えば、油剤ガイド11、糸保持装置14等を備える。油剤ガイド11及び糸保持装置14の詳細については後述する。
【0033】
紡糸巻取システム100が設置されている建物は、仕切床9によって、上側の階層(第2フロア空間)と下側の階層(第1フロア空間)とに仕切られている。上側の階層は、下側の階層の第1の高さより高い第2の高さを有する。上側の階層には、紡糸装置3が設置される。また、上側の階層には、紡糸引取装置4の一部である糸降ろし装置5が設置される。下側の階層には、紡糸引取装置4の一部である、引取部6及び巻取装置7等が設置される。
【0034】
仕切床9には、糸通過孔9aが形成されている。糸通過孔9aは、各紡糸巻取ユニット1に対応して1つずつ設けられている。紡糸装置3により紡出された複数の糸Yは、糸通過孔9aを通過することができる。糸通過孔9aは、複数の糸Yを下側の階層に送るための通路を構成する。
【0035】
糸通過孔9aに接続するように、ダクト状のインターフロアチューブ8が仕切床9に固定されている。インターフロアチューブ8は、複数の糸Yが上側の階層から下側の階層へ走行する過程で、風等の外部要因により糸揺れが発生することを防止する。
【0036】
上側の階層において、仕切床9に形成された糸通過孔9aの近傍には、糸保持装置14が設けられている。糸保持装置14は、吸引装置14a、及び図略のカッタを備える。下流側の紡糸引取装置4の部分(例えば引取部6又は巻取装置7)等において、糸Y又は各装置に何らかの異常が発生した場合に、糸保持装置14は、紡糸装置3から下流側へ走行する複数の糸Yをカッタによって切断する。更に、糸保持装置14は、切断された上流側(紡糸装置3側)の複数の糸Yを吸引装置14aで吸引することによって一時的に保持する。このように、紡糸装置3により紡出された複数の糸Yは、糸保持装置14の吸引装置14aの内部に吸引され、引取部6及び巻取装置7へ走行せず、保持される。糸保持装置14による糸の保持は、異常が解消されるまで継続される。
【0037】
紡糸装置3は、図示しないが、複数(例えば、12個)の紡糸口を備える。紡糸口には、高温状態の溶融ポリマーが、ギアポンプ等からなる図略のポリマー供給装置によって供給される。紡糸装置3は溶融ポリマーを、それぞれの紡糸口から連続的に押し出す。これにより、糸Yが紡糸装置3のそれぞれの紡糸口から連続的に紡出される。紡糸口の数(言い換えれば、紡糸装置3において紡糸される糸Yの数)は、12個に限定されない。
【0038】
紡糸巻取システム100の上側の階層には、冷却装置10と、油剤ガイド11と、が設置されている。
【0039】
冷却装置10は、紡糸装置3のすぐ下側に設置されている。冷却装置10は、図略の複数の冷却筒を備える。それぞれの冷却筒には、図示しない冷却空気配管を通じて、冷却空気が供給される。冷却筒を通過する糸Yは、冷却空気によって冷却されて固化する。
【0040】
油剤ガイド11は、冷却装置10の下方に配置される。油剤ガイド11は、紡糸装置3で紡出される糸Yの本数と同じ数だけ設置されている。複数の油剤ガイド11のそれぞれは、通過する糸Yのそれぞれに油剤を付与する。油剤が付与された複数の糸Yは、仕切床9に形成された糸通過孔9aを通って下側の階層に至る。
【0041】
糸降ろし装置5は、糸掛け作業において、複数の糸Yを、上側の階層から、巻取装置7等が設置されている下側の階層へ降ろすために用いられる。糸掛け作業とは、紡糸装置3からの糸Yを所定の経路に沿ってセットした後、巻取装置7のボビンBに固定する作業を意味する。この糸掛け作業により、紡糸引取装置4が糸Yを巻き取ってパッケージPを形成することができる状態になる。
【0042】
糸降ろし装置5は、
図3に示すように、本体50と、ガイド部材51と、昇降部52と、糸吸引部(糸吸引装置)53と、を主として備える。なお、糸降ろし装置5が、複数の紡糸巻取ユニット1の間を走行可能な台車を備えるように構成されても良い。例えば、複数の紡糸巻取ユニット1が並ぶ方向(左右方向)に沿って延びる図略のガイドレールを上側の階層に設け、このガイドレールに沿って前記台車が走行する構成とすることができる。
【0043】
本体50には、糸降ろし装置5の各部材が搭載されている。
【0044】
ガイド部材51は、昇降部52が昇降するとき、昇降部52を上下方向に案内するために用いられる。ガイド部材51は、例えば、多数の要素部品を1列に並べてそれぞれ回転可能に連結したチェーン状の部材によって構成される。
【0045】
糸降ろし作業を行わないとき、ガイド部材51は、巻き取られた状態で、本体50に収納されている。糸降ろし作業を行うとき、ガイド部材51は、仕切床9に形成された糸通過孔9aを通過し、上側の階層と下側の階層とに跨って上下方向に延びるように位置する。ガイド部材51は、昇降部52を上下方向に案内する機能を有する限り、上記の構成に限定されない。例えば、ガイド部材51を、上下方向に延びる細長い部材から構成することもできる。
【0046】
昇降部52は、ガイド部材51に沿って上下方向に昇降可能に取り付けられている。
図3に示すように、昇降部52は、支持部54と、保持部55と、を備える。支持部54は、細長い板状に形成され、上下方向に延びるように設置されている。支持部54の下端部には、保持部55が取り付けられている。昇降部52を昇降させるための昇降モータ59が本体50に設けられている。昇降モータ59は、
図7に示す紡糸巻取システム100の集中制御装置101の制御指令に応じて動作する。
【0047】
保持部55は、2つの糸掛けローラ55a,55bを備える。糸掛けローラ55a,55bは、紡糸巻取システム100の左右方向に並んで配置されている。それぞれの糸掛けローラ55a,55bは、回転可能となるように支持部54によって支持されている。糸掛けローラ55a,55bの軸は、前後方向に延びるように配置される。2つの糸掛けローラ55a,55bは、支持部54を挟んで、左右方向における支持部54の両側に位置する。
【0048】
それぞれの糸掛けローラ55a,55bの外周面には、断面が略V字状に形成されたリング状の溝部が形成される。2つの糸掛けローラ55a,55bは、実質的に水平状に案内された糸Yの部分に対して上から下降することで、糸Yを溝部に入り込ませる。2つの糸掛けローラ55a,55bに掛けられた糸Yは、V字状の溝の案内によって、適宜集束させることができる。
【0049】
以下の説明においては、紡糸装置3により紡出された複数の糸Yが糸吸引部53によって吸引保持されている状態で、糸Yの走行方向において上流側に位置する糸掛けローラを「第1糸掛けローラ55a」と称し、下流側に位置する糸掛けローラを「第2糸掛けローラ55b」と称する。
【0050】
糸吸引部53は、糸降ろし作業時において、紡糸装置3から紡出された複数の糸Yを一時的に吸引保持するために用いられる。糸吸引部53は、本体50に対して着脱可能に取り付けられている。糸吸引部53は、例えばサクションガンから構成される。糸吸引部53によって吸引された複数の糸Yは、当該糸吸引部53に連結された図略の吸引ホースを通って、図略の廃糸ボックス等に廃棄される。
【0051】
この構成において、複数の糸Yの中途部が2つの糸掛けローラ55a,55bに掛けられた状態で、昇降モータ59の駆動により、昇降部52が上側の階層の待機位置から下側の階層の引渡位置まで移動する。これにより、複数の糸Yのうち2つの糸掛けローラ55a,55bの間の部分を、下方へ降ろすことができる。糸降ろし作業が完了した状態で、糸Yの走行経路は、紡糸装置3から下方へ延びた後、第1糸掛けローラ55aの部分で実質的に垂直に屈曲し、第2糸掛けローラ55bへ向かって水平に延びる。続いて、糸Yの走行経路は、第2糸掛けローラ55bの部分で実質的に垂直に屈曲し、上方へ延びる。糸Yの走行経路は、最終的に糸吸引部53へ至り、終了する。
【0052】
図2に示すように、引取部6よりも上流側には、糸規制ガイド12が設置されている。糸規制ガイド12は、例えば、糸Yの数に応じて12個の案内溝が形成された櫛歯状の部材とすることができる。糸規制ガイド12は、下側の階層であって、引取部6の近傍に位置する。糸規制ガイド12は、複数の紡糸巻取ユニット1が並ぶ方向と平行な方向において移動可能に設けられている。糸規制ガイド12は、例えばシリンダからなる図略のガイド駆動部により駆動される。
【0053】
引取部6は、上側の階層から下方へ走行する複数の糸Yを引き取り、巻取装置7へ案内する。引取部6は、引取フレーム60と、2つのゴデットローラ61,62と、を備える。以下の説明では、糸Yの走行方向において、上流側に位置するゴデットローラを上流ゴデットローラ61と称し、下流側に位置するゴデットローラを下流ゴデットローラ62と称する。
【0054】
糸Yの巻取り時、糸規制ガイド12は実質的に、上流ゴデットローラ61の真上に位置する。以下の説明においては、当該位置を「動作位置」と称する。
【0055】
糸掛け作業のとき、糸規制ガイド12は、上流ゴデットローラ61の真上から左右方向にずれた位置に位置する。これにより、糸掛け作業を容易に行うことができる。以下の説明においては、糸掛け作業時における糸規制ガイド12の位置を「準備位置」と称する。
【0056】
上流ゴデットローラ61は、糸規制ガイド12の動作位置のほぼ真下に位置するように、引取フレーム60に配置されている。上流ゴデットローラ61は、上流ゴデットモータ61aにより駆動される。一方、下流ゴデットローラ62は、
図2の鎖線矢印で示すように、上流ゴデットローラ61に近接した糸掛け位置と、巻取装置7の直上に位置するパッケージ形成位置と、の間で移動可能である。下流ゴデットローラ62は、下流ゴデットモータ62aにより駆動される。上流ゴデットモータ61a及び下流ゴデットモータ62aは、紡糸巻取ユニット制御装置102の制御指令に応じて動作する。
【0057】
糸掛け作業時、下流ゴデットローラ62は、上流ゴデットローラ61の近傍の糸掛け位置に下降する。糸掛け作業が終了すると、下流ゴデットローラ62は、パッケージ形成位置まで上昇する。
【0058】
巻取装置7は、引取部6から走行してくる複数の糸Yを巻き取ってパッケージPを形成する。巻取装置7は、ターレット71と、2本のボビンホルダ72と、トラバース装置73と、接触ローラ74と、を主として備える。
【0059】
ターレット71は、回転可能に設置されている。ターレット71には、2本のボビンホルダ72のそれぞれが回転可能に支持されている。2本のボビンホルダ72は、ターレット71の回転軸を挟んで互いに反対側に配置されている。ターレット71が回転することによって、2本のボビンホルダ72の位置が入れ替わる。
【0060】
具体的には、2本のボビンホルダ72は、上側の巻取位置と、下側の待機位置と、のそれぞれに位置する。巻取位置にあるボビンホルダ72は接触ローラ74と近接しており、待機位置にあるボビンホルダ72は接触ローラ74から離れている。各ボビンホルダ72には、複数のボビンBが装着されている。複数のボビンBは、ボビンホルダ72の長手方向に並べられている。
【0061】
トラバース装置73は、複数のボビンBに対応して、複数のトラバースガイド73aを備える。各トラバースガイド73aは、それぞれのボビンBに対応するように配置される。トラバースガイド73aは、紡糸巻取ユニット制御装置102の制御指令に応じて動作するトラバースモータ73bにより駆動される。各トラバースガイド73aがボビンホルダ72の長手方向と平行な方向に往復移動することで、糸YがトラバースされつつボビンBに巻き取られる。
【0062】
接触ローラ74は、それぞれのボビンBに形成された複数のパッケージPの外周面に接触して、当該複数のパッケージPのそれぞれに接圧を付与する。接触ローラ74は、紡糸巻取ユニット制御装置102の制御指令に応じて動作する巻取モータ70により駆動される。
【0063】
糸掛けロボット2は、
図2に示すように、建屋の下側の階層に配置されている。糸掛けロボット2の数は任意であるが、紡糸巻取ユニット1の数よりも少ないことが好ましい。糸掛けロボット2は、複数の紡糸巻取ユニット1の間で走行可能であり、各紡糸巻取ユニット1に対する糸掛け作業を自動的に行う。
【0064】
糸掛けロボット2は、ロボット本体21と、ロボットアーム22と、糸掛け部材(糸引掛け部)23と、を主として備える。糸掛けロボット2の各部の動作は、
図7に示すロボット制御部(制御装置)20により制御される。ロボット本体21に搭載されるロボット制御部20は、CPU、ROM、RAM等を備える公知のコンピュータである。ロボット制御部20は、有線又は無線によって集中制御装置101と通信可能に接続されている。
【0065】
下側の階層には、図略のガイドレールが設けられている。ガイドレールは、複数の紡糸巻取ユニット1が並ぶ方向(左右方向)に沿って延びている。ロボット本体21は、移動モータ21aを備える。移動モータ21aを駆動することにより、ロボット本体21はガイドレールに沿って、複数の紡糸巻取ユニット1の間で移動することができる。
【0066】
ロボットアーム22は、多関節型に構成され、ロボット本体21に取り付けられている。ロボットアーム22は、アーム駆動モータ(駆動装置)22aにより駆動され、3次元的な動作を行うことができる。ロボットアーム22の先端部には、糸掛け部材23が取り付けられている。移動モータ21a及びアーム駆動モータ22aの動作は、
図7に示すように、ロボット制御部20により制御される。即ち、ロボット本体21の移動及びロボットアーム22の動作は、ロボット制御部20により制御される。
【0067】
糸掛け部材23は、複数の糸Yを引っ掛け易い形状に形成されている。糸掛け部材23は、例えば、フック状に形成することができる。糸掛け部材23は、複数の糸Yを引っ掛けて拘束する。糸掛け部材23が移動することで、糸掛け部材23に引っ掛けられた複数の糸Yを案内することができる。
【0068】
次に、
図4から
図6を参照して、糸掛けロボット2による糸掛け作業について説明する。
図4から
図6は、糸掛けロボット2が糸降ろし装置5から糸Yを引き取る様子を示す図である。
【0069】
紡糸巻取ユニット1において、例えばパッケージPの形成開始前の準備段階、又は、何らかの原因により糸切れが発生した場合等に、巻取装置7による糸Yの巻取りを開始(再開)する前に、上方の紡糸装置3から紡出された複数の糸Yを引取部6等に引っ掛ける糸掛け作業を行う必要がある。
【0070】
本実施形態においては、紡糸装置3からの複数の糸Yを上側の階層から下側の階層まで降ろす糸降ろし作業が、糸降ろし装置5及びオペレータの操作によって行われる。下側の階層における糸掛け作業が、糸掛けロボット2によって自動的に行われる。
【0071】
糸降ろし作業を開始する前に、オペレータは、糸降ろし装置5を対象の紡糸巻取ユニット1まで移動する。その後、オペレータは、糸降ろし装置5から糸吸引部53を取り外し、それと同時に又はその前に糸吸引部53を動作させる。オペレータは、糸吸引部53を用いて、油剤ガイド11より上流側において、紡糸装置3から紡出された複数の糸Yを吸引保持する。
【0072】
そして、オペレータは、糸吸引部53により吸引保持された複数の糸Yを油剤ガイド11に掛ける。オペレータは、複数の糸Yを油剤ガイド11に掛けた後、又は、糸降ろし装置5を対象の紡糸巻取ユニット1まで移動した後、適切なタイミングで、糸降ろし装置5のガイド部材51を、糸通過孔9aを通過して2つの階層に跨った状態とする。
【0073】
その後、オペレータは、例えばフック状の糸掛け用工具(図示しない)を適宜の場所から取り出し、糸吸引部53と油剤ガイド11との間で、糸吸引部53によって吸引保持された糸Yを糸掛け用工具に掛ける。複数の糸Yが糸掛け用工具に掛けられた後、オペレータは、糸吸引部53と糸掛け用工具との間の複数の糸Yが、糸降ろし装置5の保持部55が備える2つの糸掛けローラ55a,55bの真下に位置するように、糸掛け用工具を移動する。
【0074】
この状態で、オペレータが糸掛け用工具を外すと、油剤ガイド11と、糸吸引部53と、の間の複数の糸Y(即ち糸Yの中途部)が2つの糸掛けローラ55a,55bに掛けられる。これに伴って、複数の糸Yは2つの糸掛けローラ55a,55bにより集束される。
【0075】
糸降ろし準備作業が完了した後、オペレータは図略の操作スイッチ等を操作して、糸降ろし装置5の糸降ろし動作の開始を指示する。糸降ろし動作が開始すると、糸降ろし装置5の昇降部52は、ガイド部材51に沿って、下側の階層の引渡位置まで移動する。この結果、2つの糸掛けローラ55a,55bに掛けられた複数の糸Yが、下方の位置まで移動する。このように、糸吸引部53により吸引保持されている複数の糸Yの中途部が、糸降ろし装置5により、糸規制ガイド12の近傍まで搬送される。
【0076】
糸掛けロボット2は、上記糸降ろし作業中又は作業後において、集中制御装置101の動作指令に応じて、対象の紡糸巻取ユニット1まで移動する。対象の紡糸巻取ユニット1に到着した糸掛けロボット2は、ロボットアーム22を動作させる。これにより、ロボットアーム22の先端の糸掛け部材23は、糸降ろし装置5の糸掛けローラ55a,55bに掛けられた複数の糸Yに近接する。
【0077】
図5に示すように、糸掛けロボット2は、糸吸引部53よりも上流側、かつ、第2糸掛けローラ55bよりも下流側において、第2糸掛けローラ55bによって集束された複数の糸Yの束を糸掛け部材23に引っ掛ける。糸Yが引っ掛けられる場所は、第2糸掛けローラ55bの近傍である。このようにして、糸掛けロボット2は糸降ろし装置5から糸Yを受け取る。
【0078】
本実施形態の紡糸巻取ユニット1においては、一例として
図5等に示すように、インターフロアチューブ8の下側における糸Yの出口において、第2糸掛けローラ55bに近い側に糸案内ガイド(糸道変更部材)81が設置されている。糸案内ガイド81は、例えば、フック状の部材から構成される。しかし、これに限定されない。糸案内ガイド81は、インターフロアチューブ8の下側のどの位置に設置されても良く、また、糸案内ガイド81を例えばローラから構成することもできる。
【0079】
糸案内ガイド81は、糸掛けロボット2が糸Yを糸掛け部材23で捕捉した後、糸吸引部53と糸掛け部材23との間の糸Yを規制するために用いられる。具体的には、糸案内ガイド81は、糸吸引部53と糸掛け部材23との間の糸Yにおけるインターフロアチューブ8内の部分の経路を規制して、糸道を変更する。あるいは、糸案内ガイド81が油剤ガイド11と糸掛け部材23との間の糸Yをインターフロアチューブ8内で規制する構成としても良い。
【0080】
糸掛けロボット2は、糸掛け部材23により引っ掛けた複数の糸Yを、
図5に示すように糸案内ガイド81に掛ける。糸掛けロボット2は、糸案内ガイド81に糸Yを掛けた後、2つの糸掛けローラ55a,55bから糸Yを外すように糸掛け部材23を移動させる。続いて、糸掛けロボット2は、
図6に示すように、インターフロアチューブ8の下端の開口から糸Yを引き出す。糸掛けロボット2は、複数の糸Yを糸掛け部材23により引っ掛けている状態で、糸規制ガイド12、引取部6(上流ゴデットローラ61及び下流ゴデットローラ62)、複数の支点ガイド13の順に糸Yを掛けていくように、ロボットアーム22を移動させる。
【0081】
その後、糸掛けロボット2は、上側に位置するボビンホルダ72よりも下方の所定位置に糸掛け部材23が位置するように、ロボットアーム22を移動させ、複数の糸YのそれぞれをそれぞれのボビンBに接触させる。
【0082】
ロボットアーム22による糸YのボビンBへの案内と同時に、又はその少し前に、巻取装置7の巻取動作が開始されている。回転するボビンBの端部に糸Yを巻き付けることで、糸Yの端部をボビンBに固定することができる。巻取動作が開始すると、ボビンBが回転するのに連動して、トラバースガイド73aがボビンBの軸方向と平行な方向に往復移動する。トラバースガイド73aの往復移動中に、それぞれのトラバースガイド73aに糸Yが掛けられる。その後は、トラバースガイド73aの案内によって、糸YをボビンBにトラバースしながら巻き取ることができる。この結果、パッケージPを形成することができる。
【0083】
糸掛けロボット2は、複数の糸Yを複数のボビンBに固定した後、図略のカッタによって、糸吸引部53との間の糸YをボビンBに近い位置で切断する。切断箇所から糸吸引部53までの間の複数の糸Yは、糸吸引部53によって吸引して廃糸ボックスまで廃棄される。その後、紡糸装置3によって紡出された複数の糸Yは、ボビンBに巻き取られてパッケージPを形成する。
【0084】
糸掛け作業時においては、紡糸装置3の紡糸は停止しないので、上流側から糸Yが継続的に供給される。本実施形態の糸掛けロボット2は、糸降ろし装置5に設けられている糸吸引部53が糸Yを吸引するので、負圧による吸引口をロボットアーム22に設けることなく、ロボットアーム22の糸掛け部材23で捕捉した糸Yを弛ませないようにすることができる。従って、可撓性の負圧配管をロボットアーム22に取り付ける必要がないので、ロボットアーム22が支持しなければならない重量が小さくなる。この結果、ロボットアーム22の構成の簡素化、低コスト化を実現することができる。ロボットアーム22の先端部において空気音が生じないので、下側の階層において糸掛け作業時の騒音を良好に低減することができる。
【0085】
以上に説明したように、本実施形態の糸掛けロボット2は、紡糸巻取ユニット1に用いられる。紡糸巻取ユニット1は、紡糸装置3と、引取部6及び巻取装置7と、糸吸引部53と、を備える。紡糸装置3は、糸Yを連続的に紡出する。引取部6及び巻取装置7のそれぞれは、当該紡糸装置3から連続的に紡出された糸Yの引取り又は巻取りを行う。糸吸引部53は、紡糸装置3から連続的に紡出されている糸を一時的に吸引して受け取っておくために用いられる。糸掛けロボット2は、糸掛け部材23と、アーム駆動モータ22aと、ロボット制御部20と、を備える。糸掛け部材23は、糸Yを引っ掛けるために用いられる。アーム駆動モータ22aは、糸掛け部材23を移動する。ロボット制御部20は、アーム駆動モータ22aの動作を制御する。糸掛け部材23は、紡糸装置3から紡出されて糸吸引部53に吸引されている糸Yを引っ掛ける。ロボット制御部20は、紡糸巻取ユニット1に備えられた糸吸引部53により糸Yが吸引されている状態で、糸掛け部材23により糸Yを引取部6及び巻取装置7に掛けるようにアーム駆動モータ22aの動作を制御する。
【0086】
これにより、ロボットアーム22の先端に、重量が大きいサクションガン等の吸引装置を搭載する必要がなくなり、ロボットアーム22の小型化及び低出力を実現することができる。
【0087】
本実施形態の糸掛けロボット2において、紡糸巻取システム100が備える紡糸巻取ユニット1には、糸案内ガイド81が設けられている。糸案内ガイド81は、糸掛け部材23がアーム駆動モータ22aにより駆動されて引取部6及び巻取装置7に糸を掛けている動作中に、糸掛け部材23と糸吸引部53との間の糸部分に接触して、当該糸部分の糸道を変更する。
【0088】
これにより、引取部6及び巻取装置7への糸引掛け作業を容易に行うことができる。
【0089】
本実施形態の糸掛けロボット2において、引取部6及び巻取装置7が、第1の高さレベルである下側の階層に設けられている。紡糸装置3及び糸吸引部53が、第1の高さレベルより高い第2の高さレベルである上側の階層に設けられている。紡糸巻取システム100に、糸降ろし装置5が設けられる。糸降ろし装置5は、紡糸装置3から紡出されて糸吸引部53に吸引されている糸Yの中途箇所を上側の階層から下側の階層に降ろす。
【0090】
これにより、下側の階層における騒音を低減することができる。
【0091】
本実施形態の紡糸巻取システム100は、紡糸巻取ユニット1と、糸掛けロボット2と、を備える。紡糸巻取ユニット1は、紡糸装置3と、引取部6及び巻取装置7と、糸吸引部53と、を備える。紡糸装置3は、糸Yを連続的に紡出する。引取部6及び巻取装置7のそれぞれは、当該紡糸装置3から連続的に紡出された糸Yの引取り又は巻取りを行う。糸吸引部53は、紡糸装置3から連続的に紡出されている糸を一時的に吸引して受け取っておくために用いられる。糸掛けロボット2は、糸掛け部材23と、アーム駆動モータ22aと、ロボット制御部20と、を備える。糸掛け部材23は、糸Yを引っ掛ける。アーム駆動モータ22aは、糸掛け部材23を移動する。ロボット制御部20は、アーム駆動モータ22aの動作を制御する。糸掛け部材23は、紡糸装置3から紡出されて糸吸引部53に吸引されている糸Yを引っ掛ける。ロボット制御部20は、紡糸巻取ユニット1に備えられた糸吸引部53により糸Yが吸引されている状態で、糸掛け部材23により糸Yを引取部6に掛けるようにアーム駆動モータ22aの動作を制御する。
【0092】
これにより、紡糸巻取システム100の簡素化を図ることができる。
【0093】
本実施形態において、紡糸巻取システム100には、糸案内ガイド81が設けられている。糸案内ガイド81は、糸掛け部材23がアーム駆動モータ22aにより駆動されて引取部6及び巻取装置7に糸を掛けている動作中に、糸掛け部材23と糸吸引部53との間の糸部分に接触して、当該糸部分の糸道を変更する。
【0094】
これにより、引取部6及び巻取装置7への糸引掛け作業を容易に行うことができる。
【0095】
本実施形態の紡糸巻取システム100において、引取部6及び巻取装置7が、第1の高さレベルである下側の階層に設けられている。紡糸装置3及び糸吸引部53が、第1の高さレベルより高い第2の高さレベルである上側の階層に設けられている。紡糸巻取システム100に、糸降ろし装置5が設けられる。糸降ろし装置5は、紡糸装置3から紡出されて糸吸引部53に吸引されている糸Yの中途箇所を上側の階層から下側の階層に降ろす。
【0096】
これにより、下側の階層における騒音を低減することができる。
【0097】
本実施形態の紡糸巻取システム100は、紡糸巻取ユニット1を複数備える。下側の階層にガイドレールが設けられる。糸掛けロボット2がガイドレールに沿って複数の紡糸巻取ユニット1間を移動する。
【0098】
これにより、糸掛けロボット2が複数の紡糸巻取ユニット1の間を移動して作業することができるので、糸掛けロボット2を効率良く運用することができる。
【0099】
本実施形態の紡糸巻取システム100において、紡糸巻取ユニット1の数よりも糸掛けロボット2の数が少ない。
【0100】
これにより、糸掛けロボット2を効率良く運用することができる。
【0101】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。変更は単独で行われても良いし、複数の変更が任意に組み合わせて行われても良い。
【0102】
糸降ろし作業において、糸吸引部53の代わりに、糸保持装置14の吸引装置14aによって複数の糸Yを吸引保持しても良い。
【0103】
昇降部52を案内するガイド部材51は、紡糸巻取ユニット1のそれぞれに設置されていても良い。
【0104】
第2糸掛けローラ55bよりも下流側の糸Yを糸掛け部材23で引っ掛ける代わりに、第2糸掛けローラ55bと第1糸掛けローラ55aとの間の糸Yを糸掛け部材23で引っ掛けることもできる。この場合、糸案内ガイド81を省略して、糸案内ガイド81の糸規制機能を第2糸掛けローラ55bに発揮させる構成とすることができる。第1糸掛けローラ55aよりも直ぐ上流側の糸Yを、糸掛け部材23で引っ掛けることもできる。
【0105】
糸掛け作業が完了したときの糸Yの切断は、糸降ろし装置5が備えるカッタ、又は、糸保持装置14が備えるカッタによって行われても良い。
【0106】
上記実施形態の糸掛けロボット2は、糸Yの巻取り作業が一時的停止され、糸規制ガイド12の近傍に設置されたアスピレータによって複数の糸Yが吸引保持されているとき、糸Yを当該アスピレータ又は糸規制ガイド12から引き取って糸掛け作業を行う場合に適用することもできる。この構成では、アスピレータが糸吸引機に相当する。
【符号の説明】
【0107】
2 糸掛けロボット(糸掛け装置)
3 紡糸装置
5 糸降ろし装置
6 引取部(糸処理装置)
7 巻取装置(糸処理装置)
20 ロボット制御部(制御装置)
22a アーム駆動モータ(駆動装置)
23 糸掛け部材(糸引掛け部)
53 糸吸引部(糸吸引装置)
81 糸案内ガイド(糸道変更部材)
100 紡糸巻取システム(紡糸処理設備)
Y 糸