(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063371
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】モニタリング装置、スポット溶接装置、及び、プログラム
(51)【国際特許分類】
B23K 11/25 20060101AFI20240502BHJP
B23K 11/24 20060101ALI20240502BHJP
B23K 11/11 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
B23K11/25
B23K11/25 511
B23K11/25 512
B23K11/25 513
B23K11/24 336
B23K11/11 540
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171261
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】堀川 裕史
(72)【発明者】
【氏名】岡田 徹
(72)【発明者】
【氏名】古迫 誠司
(72)【発明者】
【氏名】児玉 真二
【テーマコード(参考)】
4E165
【Fターム(参考)】
4E165AA02
4E165AB02
4E165BB02
4E165BB12
4E165CA02
4E165CA05
4E165CA06
4E165CA13
4E165CA22
4E165CA24
4E165CA25
4E165EA14
4E165EA18
(57)【要約】
【課題】本発明は、散りの発生するタイミングによって溶接の良否を判定し、品質保証の精度を向上させることができるモニタリング装置、スポット溶接装置、及び、プログラムを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の一態様に係るモニタリング装置は、溶接継手を製造するスポット溶接時に板組を構成する金属板に発生する散りをモニタリングするモニタリング装置であって、スポット溶接において散りの発生を検出する検出部と、板組の構成に応じて設定された時間内に散りが発生した場合に、溶接継手の品質を不良と判定する判定部と、を備える。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接継手を製造するスポット溶接時に板組を構成する金属板に発生する散りをモニタリングするモニタリング装置であって、
前記スポット溶接において散りの発生を検出する検出部と、
前記板組の構成に応じて設定された時間内に散りが発生した場合に、前記溶接継手の品質を不良と判定する判定部と、を備える、モニタリング装置。
【請求項2】
前記検出部は、電圧値、抵抗値、電極変位量、加圧力、ひずみ量、及び、外観のうちのいずれか一つ以上を用いて散りの発生を検出する、請求項1に記載のモニタリング装置。
【請求項3】
前記板組の構成に応じて設定された時間内に散りが発生した場合に警報を出すアラート部をさらに有する、請求項1又は2に記載のモニタリング装置。
【請求項4】
前記アラート部は、前記散りの発生が、前記板組の構成に応じて設定された時間外で生じた場合は、前記警報を出さない、請求項3に記載のモニタリング装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のモニタリング装置を備える、スポット溶接装置。
【請求項6】
コンピュータを、
スポット溶接において散りの発生を検出する検出部と、
板組の構成に応じて設定された時間内に散りが発生した場合に、前記スポット溶接によって製造された溶接継手の品質を不良と判定する判定部と、して機能させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モニタリング装置、スポット溶接装置、及び、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
スポット溶接装置を用いたスポット溶接継手の製造方法では、対向する一対の電極で金属の板組を挟み込み、当該一対の電極で板組を通電加熱し、板組の重ね面を加熱及び溶融して溶接金属(ナゲット)を形成させることで金属板同士を接合する。ナゲット径を大きくすることで溶接継手の強度は上昇するが、ナゲット径を大きくしようとすると、散りが発生しやすくなる。散りとは、電極による加圧によって重ね面のうちの圧接されている領域よりも溶融金属が大きくなり、加圧による拘束を受けない領域から溶融した金属が飛び出る現象をいう。スポット溶接時の散りの発生は、継手強度を低下させる懸念がある。そのため、製造ラインによっては、散りが発生した溶接継手の品質が不良と判断されることがあり、溶接施工性が低下することがある。また、新規の材料では、散りの発生条件が不明であるため、スポット溶接が適用されないことがある。したがって、スポット溶接における散りの発生を把握することが重要であり、様々な技術が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、一対の電極の離間距離に基づいて散り発生を判定する散り検知方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、電極間抵抗もしくは電極間電圧を検出する手順と、前記検出値が閾値以下となったか否かを判定する手順と、前記検出値が閾値以下になったときに、散り現象が発生したと判定し、被溶接部材の板合いの悪さを解消すべく、馴染ませ通電を実施する手順と、前記馴染ませ通電前の溶接電流で再通電して溶接を継続する手順と、を有する抵抗溶接の溶接制御方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、めっきの溶融(蒸発)する振動と散りが発生する振動を発生時間で区別し、溶接の良否と散りの発生を判定する装置が開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、散りが発生するまで定電力制御し、散りが発生したときに定電流制御に切り替えることで、散り発生後の電流過剰変化を抑制する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-141851号公報
【特許文献2】特開2015-13302号公報
【特許文献3】特開2001-170777号公報
【特許文献4】特開2000-301348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載の技術では、馴染ませ通電及びその後の再通電が必要であるため、施工時間が長くなる。
【0009】
詳細は後述するが、本発明者らは、散りが発生して継手強度が低下する主な要因はナゲット径の低下であり、散りが発生してもナゲット径が低下しなければ継手強度は低下しないという知見を得た。更に、本発明者らの検討により、散りによるナゲット径の低下は、散りが発生するタイミングに依存しており、通電初期に散りが発生すると最終的なナゲット径が小さくなり、ナゲット径のばらつきも大きくなるが、通電後期に散りが発生してもナゲット径の低下は見られず、ナゲット径のばらつきも小さくなることが分かった。
【0010】
一方で、特許文献3には、良否判定で否となった場合に溶接電流を増加させるなどのナゲット形成を促進する溶接条件に基づく溶接制御も行うとの記載はあるが、具体的な条件については言及されていない。また、特許文献1、及び特許文献4には、散り発生にタイミングによって最終ナゲット径がばらつくことについて何ら言及されていない。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、散りが発生するタイミングによって溶接の良否を判定し、品質保証の精度を向上させることができる、モニタリング装置、スポット溶接装置、及び、プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨は以下の通りである。
[1] 本発明の一態様に係るモニタリング装置は、溶接継手を製造するスポット溶接時に板組を構成する金属板に発生する散りをモニタリングするモニタリング装置であって、上記スポット溶接において散りの発生を検出する検出部と、上記板組の構成に応じて設定された時間内に散りが発生した場合に、上記溶接継手の品質を不良と判定する判定部と、を備える。
[2] 上記[1]に記載のモニタリング装置では、上記検出部は、電圧値、抵抗値、電極変位量、加圧力、ひずみ量、及び、外観のうちのいずれか一つ以上を用いて散りの発生を検出してもよい。
[3] 上記[1]又は[2]に記載のモニタリング装置は、上記板組の構成に応じて設定された時間内に散りが発生した場合に警報を出すアラート部をさらに有していてもよい。
[4] 上記[3]に記載のモニタリング装置では、上記アラート部は、上記散りの発生が、上記板組の構成に応じて設定された時間外で生じた場合は、上記警報を出さなくてもよい。
【0013】
[5] また、本発明の別の態様に係るスポット溶接装置は、上記[1]~[4]の何れかに記載のモニタリング装置を備える。
【0014】
[6] また、本発明の更に別の態様に係るプログラムは、コンピュータを、スポット溶接において散りの発生を検出する検出部と、板組の構成に応じて設定された時間内に散りが発生した場合に、上記スポット溶接によって製造された溶接継手の品質を不良と判定する判定部と、して機能させる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、散りが発生するタイミングによって溶接の良否を判定し、品質保証の精度を向上させることができる、モニタリング装置、スポット溶接装置、及び、プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】電流値と十字引張強さ(Cross tension strength;CTS)の関係を示すグラフである。
【
図2】ナゲット径とCTSの関係を示すグラフである。
【
図3】電流値とナゲット径の関係を示すグラフである。
【
図4】電流値を8.2kAとしてスポット溶接したときの、電流、電極間距離(変位)、加圧力、及び電圧の経時変化を示すグラフである。
【
図5】電流値を8.6kAとしてスポット溶接したときの、電流、電極間距離(変位)、加圧力、及び電圧の経時変化を示すグラフである。
【
図6】散り発生のタイミングとナゲット径との関係の検討のために行った、スポット溶接時の通電電流の経時変化を示すグラフである。
【
図7】スポット溶接後の溶接部断面の写真をまとめた表である。
【
図8】ナゲット径の平均値とナゲット径のばらつきの一例を示すグラフである。
【
図9】散りの発生タイミングとナゲット径の関係を示すグラフである。
【
図10】散りの発生のタイミングとナゲットの成長との関係についての本発明者らの推察を説明するための概念図である。
【
図11】本発明の一実施形態に係るスポット溶接装置の外観を示す側面図である。
【
図12】同実施形態に係るスポット溶接装置の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<背景>
本発明の実施形態の説明に先立ち、本発明者らが本発明をするに至った経緯を説明する。
図1は、電流値と十字引張強さ(Cross tension strength;CTS)の関係を示すグラフであり、
図2は、ナゲット径とCTSの関係を示すグラフである。
図1及び
図2は、以下の条件で行われたスポット溶接により得られたグラフである。すなわち、
図1に示すように、電流値を5.2kA、5.4kA、6.4kA、又は7.4kAとし、板厚が1.6mmの980MPa級のTRIP(Transformation Induced Plasticity;変態誘起塑性)鋼板を2枚重ね、加圧力を4.0kN、通電時間を18cycles(50Hz)、保持時間を10cycles(50Hz)としてスポット溶接し、CTS測定用の試験片を作製した。CTSは、JIS Z 3137:1999に準拠して測定した。
【0018】
図1に示すように、電流値が同程度である場合、散りが発生するとCTSが低下することが分かった。また、
図2に示すように、同程度の電流値で比較した場合、散りが発生するとナゲット径が小さくなる傾向にあることが分かった。
【0019】
図3に、電流値とナゲット径の関係を示す。
図3は、以下の条件で行われたスポット溶接により得られたグラフである。すなわち、3.5kAから9.5kAまでの各電流値で一定とし、板厚が1.6mmの980MPa級のTRIP鋼板を2枚重ね、加圧力を4.0kN、通電時間を18cycles(50Hz)、保持時間を10cycles(50Hz)とした。
【0020】
図3に示すように、散りが発生した場合、電流値が大きくてもナゲット径が小さくなることがあることが分かった。すなわち、ナゲット径を大きくして溶接継手の強度を大きくするために電流値を大きくしても、散りが発生するとナゲット径は大きくならず、溶接継手の強度を高めることができないことがある。
【0021】
本発明者らは散りの発生とナゲット径との関係について更に検討を行った。
図4は、電流値を8.2kAとしてスポット溶接したときの、電流、電極間距離(変位)、加圧力、及び電圧の経時変化を示すグラフである。
図5は、電流値を8.6kAとしてスポット溶接したときの、電流、電極間距離(変位)、加圧力、及び電圧の経時変化を示すグラフである。
図4のグラフが得られたスポット溶接では通電後期に散りが発生し、
図5のグラフが得られたスポット溶接では通電初期に散りが発生した。
【0022】
通電中に散りが発生すると、電極間距離は短くなり、加圧力及び電圧は低下することが知られている。
図4に示す通電後期に散りが発生した例では、ナゲット径は6.6mmであり、
図5に示す通電初期に散りが発生した例では、ナゲット径は4.8mmであった。
図4、5から分かる通り、通電初期に散りが発生すると、ナゲット径が小さくなることが分かった。
【0023】
本発明者らは、更に、以下の実験を行い、散り発生のタイミングとナゲット径との関係を詳細に調査した。単相交流式のスポット溶接機を用いて、散り発生タイミングをコントロールして板組を溶接し、ナゲット径を測定した。板厚が1.6mmの980MPa級のTRIP鋼板を2枚重ね、加圧力を4.0kN、通電時間を18cycles(50Hz)、保持時間を10cycles(50Hz)とした。No.1の例として、
図6の(A)に示すように、18cycleの全てを7.4kAとして通電した。No.2の例として、
図6の(B)に示すように、通電開始後2cycleの電流値は7.4kAとし、3~4cycleでは電流値を10kAとし、5~18cycleでは、電流値を7.4kAとして通電した。No.3の例として、
図6の(C)に示すように、通電開始後16cycleの電流値は7.4kAとし、17~18cycleでは電流値を10kAとして通電した。各条件のサンプル数は10とした。No.2の例及びNo.3の例では、10kAの電流を流したタイミングで散りが発生した。
【0024】
図7は、各条件でのスポット溶接後の溶接部断面の写真をまとめた表であり、
図8は、各条件でのナゲット径の平均値とナゲット径のばらつきを示すグラフである。
図7、8に示すように、No.2の例ではナゲット径が小さく、そのばらつきが大きいことが分かった。また、No.1の例とNo.3の例を比較すると、ナゲット径は同程度であり、そのばらつきも小さいことが分かった。すなわち、散りの発生が早い程、ナゲット径が小さく、そのばらつきが大きいことが分かった。
【0025】
本発明者らは、更に、通電電流条件を変更してスポット溶接試験を行った。通電条件を表1の通りとし、通電電流以外の条件は上記実験と同様とした。各条件のサンプル数は5とした。
【0026】
【0027】
図9は、各試験例のナゲット径を示すグラフである。なお、
図9に示す白抜きのプロットは、電流値を7.4kAとした単通電で、散りが発生する前に通電を停止したときのナゲット径を示している。
図9に示すように、電流値を上げたタイミングが早い程、言い換えると、散りの発生タイミングが早い程、ナゲット径のばらつきが大きいことが分かった。
【0028】
散りの発生タイミングが早い程、ナゲット径が小さくなる理由について、本発明者らは以下のように推察している。すなわち、溶接条件が適切である場合、通電及び加圧の進行に伴い、圧接領域の内側で金属が溶融し、ナゲットが形成、成長する。
図10の上段に示すように、通電後期に散りが発生した場合であっても、ナゲットが十分成長している。溶接条件が適当でない場合、
図10の下段に示すように、金属の溶融が速くなり、圧接領域の外側においても金属が溶融する。圧接領域の外側では溶融金属を拘束する加圧力が作用しないため、溶融金属が飛散する。すなわち、散りが発生する。散りが発生すると溶融部の体積が減少し、電極の押し込み量が大きくなる。これにより、金属板同士の界面での接触面積が増えるため、散り発生後の電流密度が低下してしまい、発熱量が低くなる。その結果、ナゲットが成長しない。
【0029】
したがって、散りの発生タイミングが早い程、ナゲット径が小さくなり、CTSに大きな影響を及ぼすが、散りが発生しても、そのタイミングが遅ければ、比較的大きなナゲットが形成しているため、CTSへの影響は大きくない。よって、散りの発生タイミングをモニタリングし、通電初期に散りが発生した場合の品質を不良と判定することで、品質保証の精度を向上させることができる。
【0030】
以下、本発明の実施形態に係るスポット溶接装置、モニタリング装置、及び、プログラムについて説明する。
【0031】
<スポット溶接装置>
図11、12を参照して、本発明の一実施形態に係るスポット溶接装置を説明する。
図11は本発明の一実施形態に係るスポット溶接装置10の外観を示す側面図であり、
図12はスポット溶接装置10の機能ブロック図である。
【0032】
スポット溶接装置10は、重ね合わされた2枚以上の鋼板(例えば
図11に示す金属板100a、100b)をスポット溶接する装置であり、制御部11と、記憶部12と、駆動部13(電極の駆動装置)と、通電部14と、可動電極15aと、固定電極15bと、入力部16と、モニタリング部17と、を備える。スポット溶接装置10は、CPU、ROM、RAM、散り検出装置(例えば、スポット溶接中の板組の抵抗を測定する抵抗器、電極が板組に作用させる加圧力測定するためのロードセル、ひずみセンサ、又はハイスピードカメラ等)、駆動装置、通電装置、電極及び電極駆動機構、入力装置(キーボード、入力スイッチ等)を備える。スポット溶接装置10は、これらのハードウェア構成を用いて、上述した制御部11と、記憶部12と、駆動部13と、通電部14と、可動電極15aと、固定電極15bと、入力部16と、モニタリング部17と、を実現する。
【0033】
制御部11は、スポット溶接装置10の各構成要素を制御する。制御部11は、例えば、可動電極15a、固定電極15bが一定の加圧力で金属板100a、100bを加圧するように駆動部13を制御する。具体的には、制御部11は、駆動部13に駆動情報を出力する。また、制御部11は、例えば、予め設定された通電の期間や電流値で通電部14を制御する。具体的には、通電期間では、制御部11は、通電部14に通電開始情報を出力する。
【0034】
記憶部12は、スポット溶接装置10が行う処理に必要なデータや散りの発生を検出するための各種情報を記憶する。スポット溶接装置10が行う処理に必要なデータとしては、制御部11の動作に必要なプログラム等が挙げられる。散りの発生を検出するための情報は、例えば、スポット溶接時の各時刻における各種データであり、具体的には、時刻ごとの、電圧値、抵抗値、電極間距離、加圧力、ひずみ量、及び、外観写真等が挙げられる。
【0035】
駆動部13は、制御部11が出力した駆動情報に基づいて可動電極15aを駆動する。これにより、可動電極15a、固定電極15bが金属板100a、100bに押し込まれる。駆動部13は、例えば、サーボモータやエアシリンダー等であってよい。
【0036】
通電部14は、制御部11が出力した通電開始情報に基づいて、予め設定された通電条件に従って、可動電極15a、固定電極15bの通電を開始する。
【0037】
駆動部13は、制御部11が出力する駆動情報に基づいて可動電極15aを駆動し、可動電極15a及び固定電極15bにより金属板100a、100bが加圧される。通電部14は、制御部11が出力した通電開始情報に基づいて、予め設定された通電条件に従って、可動電極15a、固定電極15bの通電を開始する。これにより、可動電極15a、固定電極15bは重ね合わされた2枚以上の金属板(例えば
図11に示す金属板100a、100b)を挟持し、これらの重ね面を通電することで当該重ね面を加熱し、溶融する。
【0038】
入力部16は、操作者による入力操作が可能であり、操作者は、入力部16を用いて各種情報、例えば、電流値や加圧力等を入力する。また、入力部16により、通電や電極の移動の開始及び停止が行われてもよい。
【0039】
モニタリング部17は、溶接継手を製造するスポット溶接時に板組を構成する金属板に発生する散りをモニタリングする。モニタリング部17は、検出部171と、判定部172と、を備える。
【0040】
検出部171は、スポット溶接において散りの発生を検出する。散りの発生の検出方法は、特段制限されないが、例えば、電圧値、抵抗値、電極変位量、加圧力、ひずみ量、及び、外観のうちのいずれか一つ以上を指標として用いて散りの発生を検出することができる。例えば、電流値を一定にしてスポット溶接を行う場合、散りが発生すると被溶接領域の板厚が急激に減少し、固有抵抗値が著しく低下する。固有抵抗値が低下すると、電流値を一定にするために、電圧が著しく低下することになる。また、散りが発生すると、圧接部における金属板内部の溶融金属が著しく減少するため、電極による鋼板表面の押し込み量が大きくなる。言い換えると、散りが発生すると電極変位量が急激に大きくなる。また、加圧力が大きく変化しないようにスポット溶接を行った場合でも、散りが発生すると、加圧力が著しく低下する。ひずみ量も、散りの発生により著しく変化する。また、散りは溶融金属の飛散現象であるため、溶接時の溶接部の外観を観察することでも、散りの発生をモニタリングすることができる。したがって、検出部171は、例えば、電圧値、抵抗値、電極変位量、加圧力、ひずみ量、及び外観のうちのいずれか一つ以上を用いて散りの発生を検出することができる。抵抗値の測定にはスポット溶接装置に複雑な構成を設ける必要がない。また、電圧値は、スポット溶接装置に予め設けられた電圧計、又は、外部から電極に取り付けた電圧計等により測定することができる。そのため、スポット溶接装置に予め設けられた電圧計であれば複雑な構成を設ける必要がなく、装置構成を比較的単純にすることができる。したがって、散りの検出には電圧値又は抵抗値を用いることが好ましい。また、電圧値、抵抗値、電極間距離、加圧力、ひずみ量、及び外観のうちの複数の指標を用いることで、より正確に、溶接継手の強度の低下をもたらす散りの発生を検出することができる。
【0041】
散りが発生したと判断するときの、電圧値、抵抗値、電極変位量、加圧力、又はひずみ量の閾値は、スポット溶接条件に応じて定められれば良く、当該閾値は、予めテスト溶接を行って定められることが好ましい。ここでいう、スポット溶接条件とは、例えば、金属板の強度、板厚、スポット溶接部分の金属板の形状、電流値、加圧力、通電時間、保持時間、電極形状等である。例えば、鋼板強度が980MPaであり、板厚1.6mmである、2枚の金属板を板厚方向に重ね、電流値を8.5kAとし、加圧力を4.0kNとし、通電時間を18cycles(50Hz)とし、保持時間を10cycles(50Hz)とし、先端径φ6mmのCrCu電極を用いてスポット溶接する場合、電圧降下量が20V/sec以上となるときに散りが発生したとし、散りを検出することができる。
【0042】
電極変位量は公知の方法で測定又は算出されてよい。例えば、駆動部14がサーボモータで構成される場合、スポット溶接装置の電極を駆動するサーボモータの回転量を基に算出することができる。また、レーザ変位計を用いて電極変位量を測定してもよい。
【0043】
加圧力は、駆動部14の駆動に関する情報を基に算出される。例えば、駆動部14がサーボモータで構成される場合、サーボモータのトルクを基に加圧力が算出される。また、駆動部14がエアシリンダーで構成される場合、ロードセルにより、エアシリンダーが板組に作用させる圧力を基に加圧力が算出される。
【0044】
ひずみ量は、電極15a、15bを支持する支持部に取り付けられたひずみゲージやひずみセンサによって算出されればよい。
【0045】
外観は、例えば、公知のハイスピードカメラにより観察されればよい。溶融した金属の飛散をより正確に観察するために、サーモビューア付きのハイスピードカメラが用いられることが好ましい。
【0046】
判定部172は、板組の構成に応じて設定された時間内に散りが発生した場合に、溶接継手の品質を不良と判定する。溶接継手の品質を不良と判断するための、板組の構成に応じて設定された時間は、上述したスポット溶接条件に応じて定められればよい。なお、以下では、板組の構成に応じて設定された時間内に発生した散りを初期散りと呼称することがある。
【0047】
例えば、鋼板強度が980MPaであり、板厚1.6mmである、2枚の金属板を板厚方向に重ね、電流値を8.5kAとし、加圧力を4.0kNとし、通電時間を18cycles(50Hz)とし、保持時間を10cycles(50Hz)とし、先端径φ6mmのCrCu電極を用いた条件でスポット溶接する場合は、スポット溶接開始から、(2枚の板組の平均値)×20msec以上、(2枚の板組の平均値)×120msec以下までの時間に散りが発生した場合、溶接継手の品質を不良と判断する。
【0048】
上述したスポット溶接装置10は、初期散りが発生した際に警報を出すアラート部173を備えていてもよい。アラート部173が出す警報は、特段制限されず、例えば、ディスプレイ(図示せず)上への初期散りが発生した旨の表示、ブザー(図示せず)による警告音の発音、又は警告灯(図示せず)の点灯等であってよい。アラート部173が出す警報が出た場合は、スポット溶接条件を変更して、初期散りが発生しない条件でスポット溶接を行うことができる。例えば、警報を受信した制御部11が電流値や加圧力を変更してもよいし、操作者が入力部16を操作してスポット溶接条件を変更してもよい。アラート部173が出す出力を受けて、スポット溶接条件を変更可能であるため、品質不良の溶接継手の発生を抑制することができる。
【0049】
アラート部173は、散りの発生が、板組の構成に応じて設定された時間外で生じた場合は、警報を出さなくてもよい。
【0050】
<モニタリング装置>
本発明の実施形態に係るモニタリング装置は、上述したモニタリング部の機能を有する。すなわち、本実施形態に係るモニタリング装置は、溶接継手を製造するスポット溶接時に板組を構成する金属板に発生する散りをモニタリングするモニタリング装置であって、スポット溶接において散りの発生を検出する検出部と、板組の構成に応じて設定された時間内に散りが発生した場合に、前記溶接継手の品質を不良と判定する判定部と、を備える。
【0051】
<プログラム>
上述した検出部及び判定部によって、散りが発生するタイミングによって溶接の良否を判定し、品質保証の精度を向上させることができる。したがって、本発明の別の実施形態は、コンピュータを、スポット溶接において散りの発生を検出する検出部と、板組の構成に応じて設定された時間内に散りが発生した場合に、スポット溶接によって製造された溶接継手の品質を不良と判定する判定部と、して機能させる、プログラムであると言える。
【0052】
ここまで、本発明の実施形態に係るスポット溶接装置、モニタリング装置、及び、プログラムを説明した。ただし、本発明の技術的範囲は上記実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0053】
例えば、スポット溶接では、一定の電流値で行われる定電流溶接中に電流値を変更する多段通電が行われる場合がある。多段通電では通電中に溶接条件(電流値)が変更されるため、多段通電における散りの判定は、電流値の変更前後に区分して行われてよい。また、溶接継手の品質を不良と判定するために設定される時間も、電流値の変更前後に区分して設定されてよい。
【0054】
また、スポット溶接では、通電途中に加圧力を変更する場合がある。このような場合も、多段通電と同様に、加圧力変更前後に区分して、散りの判定及び溶接継手の品質を不良と判定するために設定される時間の設定がされてよい。
【0055】
多段通電及び加圧力が変更される場合も、予めテスト溶接して、散りが発生したと判断するときの、電圧値、抵抗値、電極変位量、加圧力、又はひずみ量の閾値、及び、初期散りと定義する時間を定めればよい。
【0056】
また、通電の期間や電流値は溶接条件として予め設定されるが、通電中のフィードバック制御で電流値が逐次変更されてもよい。この場合も、予めテスト溶接して、散りが発生したと判断するときの、電圧値、抵抗値、電極変位量、加圧力、又はひずみ量の閾値、及び、初期散りと定義する時間を定めればよい。
【実施例0057】
続いて、本発明の実施例を説明する。ただし、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
引張強さが980MPa級であり、板厚が1.6mmであるTRIP鋼を2枚重ね、表2に示す各条件でスポット溶接を行った。具体的には、通電開始から表2の「通電時間1」に示す時間だけ「通電電流1」に示す電流値とし、次いで、「通電時間2」に示す時間、「通電電流2」に示す電流値とし、その後、「通電時間3」に示す時間、「通電電流3」に示す電流値としてスポット溶接を行った。各試験例において、散りを意図的に発生させるため、表2に示す時間で通電電流を10kAとした。各試験例の狙いナゲット径を表2に示す。各試験は3回行い、ナゲット径の平均値を算出した。
【0059】
ナゲット径は以下の方法で算出された。すなわち、溶接された試験片を溶接部中心で切断し、切断面を鏡面研磨したのち、腐食液で溶接部を観察し計測した。
【0060】
【0061】
検出部が散りの発生を以下の基準で判断した。電圧値を用いた判断では、5msecの間の電圧降下量が20V/sec以上となったときに散りが発生したと判断した。電圧値は、電極に電圧計を取り付けて計測された。電極変位量を用いた判断では、5msecの間の電極変位量が10(mm/sec)以上となったときに散りが発生したと判断した。電極変位量は、レーザ変位計を用いて算出された。加圧力を用いた判断では。5msecの間の加圧力の低下量が80(kN/sec)以上となったときに散りが発生したと判断した。加圧力は、スポット溶接装置に組み込まれているロードセルにより計測された。
【0062】
また、通電開始から32~192msec(鋼板の平均板厚×20~鋼板の平均板厚×120msec)の範囲に発生した散りを初期散りとした。
【0063】
スポット溶接装置にアラート部を設け、初期散りが発生した場合に警報を出力させた。
【0064】
狙いナゲット径に対する算出されたナゲット径の平均値の差が2%以下である場合、評価結果を優(◎)とし、2%超5%以下である場合、評価結果を良(〇)とし、5%超である場合、評価結果を不可(×)とした。評価結果が×である場合、ナゲット径が小さくなり過ぎ、溶接継手の所望の強度が得られない。かかる評価は判定部によって行われた。結果を表3に示す。
【0065】
【0066】
表2、3の発明例1~12に示すように、電圧降下量、電極変位量、又は加圧力低下量の少なくともいずれかにより、検出部は、散りの発生を検出することができた。言い換えると、電圧値、電極変位量、又は加圧力の少なくともいずれかにより散りの発生を検出することができた。なお、抵抗値、ひずみ量、及びスポット溶接部の外観も、散りの発生により変化するものであるため、これらによって検出部は散りの発生を検出することができる。
【0067】
また、通電開始から散り発生までの経過時間が、32~192msec(鋼板の平均板厚×20~鋼板の平均板厚×120msec)の範囲にある発明例2~6、10では、狙いナゲット径に対するナゲット径の平均値の減少量が5%超(評価結果が不可)となった。これらの例では、狙いナゲット径に比べて得られたナゲット径の平均値が小さすぎたため、溶接継手の強度が小さくなりすぎるものであった。
【0068】
また、発明例11及び発明例12では、5msecの間の電圧降下量が散り発生を示す値となったが、電極変位量及び加圧力低下量は、散り発生を示す値にはならず、発明例11及び12の評価結果は◎であった。発明例11及び発明例12に示されるように、散り発生の判断に複数の指標を用いることで、より高精度で、溶接継手の強度を低下させる散りの発生を検出することができることが分かった。なお、発明例11及び発明例12では、電圧降下量の閾値を最適化することで、電圧値のみを用いて溶接継手の強度を低下させる散りの発生を検出することができる。
【0069】
上記の通り、単に散りの発生を検出するのではなく、初期散りを検出することで、溶接継手の品質を高精度に判定することができることが分かった。