(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063385
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】セラミック多孔体、マイクロ波発熱体、および触媒体
(51)【国際特許分類】
C04B 38/06 20060101AFI20240502BHJP
B01J 35/50 20240101ALI20240502BHJP
B01J 35/56 20240101ALI20240502BHJP
C04B 35/26 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
C04B38/06 D
B01J35/02 G
B01J35/04 331Z
C04B35/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171282
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100167232
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 みな
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 和浩
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA01
4G169AA02
4G169AA03
4G169AA09
4G169AA11
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BA13A
4G169BA13B
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC16A
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BC68B
4G169DA06
4G169EB11
4G169EB12X
4G169EB12Y
4G169EB15X
4G169EB15Y
4G169EC21X
4G169EC21Y
4G169EC24
4G169ED03
4G169EE03
4G169FA01
4G169FB23
4G169FB36
4G169FC05
4G169FC08
(57)【要約】
【課題】より簡素な構成で、3次元網目構造を有する鉄含有酸化物の多孔体の強度を向上させる。
【解決手段】
連通気孔が形成された3次元網目構造を有するセラミック多孔体は、アルミニウムを含む鉄含有酸化物によって構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連通気孔が形成された3次元網目構造を有するセラミック多孔体であって、
アルミニウムを含む鉄含有酸化物によって構成されていることを特徴とする
セラミック多孔体。
【請求項2】
請求項1に記載のセラミック多孔体であって、
前記鉄含有酸化物は、スピネルフェライトであることを特徴とする
セラミック多孔体。
【請求項3】
請求項2に記載のセラミック多孔体であって、
前記鉄含有酸化物は、アルミニウム(Al)を酸化物換算で1.0wt%以上含むことを特徴とする
セラミック多孔体。
【請求項4】
請求項3に記載のセラミック多孔体であって、
前記3次元網目構造における骨格太さの平均値が1500μm以下であることを特徴とする
セラミック多孔体。
【請求項5】
請求項4に記載のセラミック多孔体であって、
嵩密度が、0.2~2.2g/cm3であることを特徴とする
セラミック多孔体。
【請求項6】
請求項5に記載のセラミック多孔体であって、
前記3次元網目構造におけるセル数が、5~50個/25.4mmであることを特徴とする
セラミック多孔体。
【請求項7】
マイクロ波照射により発熱するマイクロ波発熱体であって、
請求項1から6までのいずれか一項に記載のセラミック多孔体を備えることを特徴とする
マイクロ波発熱体。
【請求項8】
請求項1から6までのいずれか一項に記載のセラミック多孔体と、
前記セラミック多孔体の表面に配置された触媒金属と、
を備えることを特徴とする触媒体。
【請求項9】
請求項8に記載の触媒体であって、
前記鉄含有酸化物の構成成分として、前記触媒金属を含むことを特徴とする
触媒体。
【請求項10】
請求項1から6までのいずれか一項に記載のセラミック多孔体と、
前記セラミック多孔体の表面に配置された酸化物触媒と、
を備えることを特徴とする触媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セラミック多孔体、マイクロ波発熱体、および触媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、触媒等の担体として多孔体を用いる種々の構成が知られている。多孔体の中でも、特に3次元網目構造を有する多孔体は、流体が流れる際の圧力損失を小さく抑えることができる担体として知られている。このような多孔体の例として、例えば、特許文献1には、磁場の作用により磁気分極する粒子が発泡体材料に分散されている磁気応答性材料が開示されている。また、特許文献2には、フェライト層がガラス層で補強された3次元網目構造のフェライト多孔体が開示されている。さらに特許文献3には、炭化ケイ素を含有するセラミックスからなるスポンジ状の立体骨格部を有する多孔質構造体と、上記立体骨格部の表面に形成された金属シリコン層等とを備える流体昇温用フィルターが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-102411号公報
【特許文献2】特開2004-323259号公報
【特許文献3】特開2011-236070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような3次元網目構造を有する多孔体の材料の中でも、フェライト等の鉄含有酸化物は、優れた磁性特性を有しており有用である。しかしながら、鉄含有酸化物は比較的強度が弱く、鉄含有酸化物によって3次元網目構造の多孔体を形成することは困難であった。具体的には、例えば特許文献2に記載のフェライト多孔体のように、ガラス等の他の材料を用いて多孔体を補強する必要があった。そのため、より簡素な構成で、鉄含有酸化物によって構成される3次元網目構造を有する多孔体の強度を向上させる技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本開示の一形態によれば、連通気孔が形成された3次元網目構造を有するセラミック多孔体が提供される。このセラミック多孔体は、アルミニウムを含む鉄含有酸化物によって構成されている。
この形態のセラミック多孔体によれば、3次元網目構造を有するセラミック多孔体がアルミニウムを含む鉄含有酸化物によって構成されるため、セラミック多孔体を補強するための特別な構造等を設けることなく、簡素な構成でセラミック多孔体の強度を高めることができる。
(2)上記形態のセラミック多孔体において、前記鉄含有酸化物は、スピネルフェライトであることとしてもよい。このような構成とすれば、スピネルフェライトによって構成されるセラミック多孔体の強度を高めることができる。
(3)上記形態のセラミック多孔体において、前記鉄含有酸化物は、アルミニウム(Al)を酸化物換算で1.0wt%以上含むこととしてもよい。このような構成とすれば、アルミニウムが鉄含有酸化物の結晶構造中に固溶することによりセラミック多孔体の強度を高める効果を確保することが容易になる。
(4)上記形態のセラミック多孔体において、前記3次元網目構造における骨格太さの平均値が1500μm以下であることとしてもよい。このような構成とすれば、セラミック多孔体が有する3次元網目構造における骨格太さを太くすることを抑えつつ、セラミック多孔体の強度を確保することができる。
(5)上記形態のセラミック多孔体において、嵩密度が、0.2~2.2g/cm3であることとしてもよい。このような構成とすれば、セラミック多孔体が強度不足となることを抑えつつ、セラミック多孔体内部における流路抵抗を抑えることができる。
(6)上記形態のセラミック多孔体において、前記3次元網目構造におけるセル数が、5~50個/25.4mmであることとしてもよい。このような構成とすれば、セラミック多孔体が強度不足となることを抑えつつ、セラミック多孔体内部における流路抵抗を抑えることができる。
(7)本開示の他の一形態によれば、マイクロ波照射により発熱するマイクロ波発熱体が提供される。このマイクロ波発熱体は、(1)から(6)までのいずれか一項に記載のセラミック多孔体を備える。
この形態のマイクロ波発熱体によれば、マイクロ波発熱体が備えるセラミック多孔体において、簡素な構成で強度を高めることが可能になる。
(8)本開示の他の一形態によれば、触媒体が提供される。この触媒体は、(1)から(6)までのいずれか一項に記載のセラミック多孔体と、前記セラミック多孔体の表面に配置された触媒金属と、を備える。
この形態の触媒体によれば、簡素な構成により、触媒体が備えるセラミック多孔体の強度および触媒体全体の強度を高めることが可能になる。
(9)上記形態の触媒金属において、前記鉄含有酸化物の構成成分として、前記触媒金属を含むこととしてもよい。このような構成とすれば、鉄含有酸化物が触媒金属と同種の成分を有することにより、鉄含有酸化物によって構成されるセラミック多孔体に対する触媒金属の固着状態を安定化することができる。また、鉄含有酸化物が触媒金属と同種の成分を有することにより、セラミック多孔体の表面における触媒金属の配置を、鉄含有酸化物を還元雰囲気下で焼成するという簡便な方法により行うことが可能になる。
(10)本開示のさらに他の一形態によれば、触媒体が提供される。この触媒体は、(1)から(6)までのいずれか一項に記載のセラミック多孔体と、前記セラミック多孔体の表面に配置された酸化物触媒と、を備える。
この形態の触媒体によれば、簡素な構成により、触媒体が備えるセラミック多孔体の強度および触媒体全体の強度を高めることが可能になる。
本開示は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、セラミック多孔体の製造方法や、セラミック多孔体の酸化還元反応を利用した水熱分解用水素製造装置や、セラミック多孔体を触媒担体とする排ガス浄化装置等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図2】アルミニウムの添加によるXRDチャートの変化を示す説明図。
【
図3】セラミック多孔体の製造方法を表すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0007】
A.セラミック多孔体の構成:
図1は、本実施形態のセラミック多孔体10の外観を表す説明図である。セラミック多孔体10は、連通気孔が形成された3次元網目構造を有しており、アルミニウムを含む鉄含有酸化物によって構成されている。
【0008】
本実施形態では、セラミック多孔体10を構成する鉄含有酸化物としてスピネルフェライトを用いている。スピネルフェライトは、MeFe2O3の組成式で表される。上記組成式において、Meは、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、コバルト(Co)等の遷移金属あり、さらに他の元素を含んでいてもよい。
【0009】
本実施形態のセラミック多孔体10を構成するスピネルフェライトは、アルミニウムを含む複合酸化物である。アルミニウムは、スピネルフェライトの結晶構造中に固溶しており、スピネルフェライトの結晶構造におけるAサイトとBサイトの少なくとも一方に含まれている。本実施形態では、このようにスピネルフェライトにアルミニウムを添加することにより、セラミック多孔体10の強度を高めている。鉄含有酸化物におけるアルミニウムの添加量は、3次元網目構造の強度を高めるためには、酸化物換算で0.5wt%以上とすることができ、1.0wt%以上とすることが望ましい。また、鉄含有酸化物におけるアルミニウムの添加量は、33wt%以下とすることができ、25wt%以下とすることが好ましく、20wt%以下とすることがより好ましい。ただし、アルミニウムの添加量は、鉄含有酸化物の結晶中にアルミニウムが固溶して鉄含有酸化物全体の強度を高めることができる範囲であれば、上記した範囲とは異なる量であってもよい。
【0010】
図2は、スピネルフェライトに加えたアルミニウムスピネルフェライトの結晶構造中に固溶することを示す説明図である。具体的には、「フェライト粉末」としてMgFe
2O
4の粉末を用意し、「Al添加フェライト粉末」として、酸化物換算で5.0wt%のアルミニウムを含むMgFe
2O
4の粉末を用意して、両者について、X線回折法(X‐ray diffraction:XRD)による解析を行った結果である。上記「フェライト粉末」は、フェライト原料としてFe
2O
3の粉末とMgOの粉末とを用意してこれらを混合した後、得られた混合粉末からプレス成形によりペレットを成形して焼成し、得られたセラミックペレットを粉砕することにより作製した。「Al添加フェライト粉末」は、上記した「フェライト粉末」の製造工程において、Fe
2O
3の粉末とMgOの粉末との混合粉末を作製する際に、さらに、最終的なアルミニウムの含有量が酸化物換算で5.0wt%となるようにAl
2O
3粉末を加えることによって同様にして製造した。
【0011】
図2(A)に示すXRDチャートにおけるピークのうち、一例として50~55度の範囲(
図2中、一点鎖線で囲んで示した範囲)で認められるピークシフトの様子を拡大して
図2(B)に示した。50~55度のように比較的高角側のピークの方が、ピークシフト量が大きく出て分かり易く、また、原料として用いたMgOのピークと被り難いため、上記のように50~55度の範囲を代表例として示している。
図2に示すように、スピネルフェライトのピークが、アルミニウムの添加によりピークシフトすることが確認された。したがって、アルミニウムは、スピネルフェライトの結晶構造中に固溶することにより、セラミック多孔体10の強度を向上させると考えられる。
【0012】
本実施形態のセラミック多孔体10が有する3次元網目構造において、骨格太さに特に制限はないが、骨格太さの平均値が1500μm以下であることが望ましい。セラミック多孔体10を、アルミニウムを含む鉄含有酸化物によって構成することにより、セラミック多孔体10の強度が高められるため、3次元網目構造の骨格太さを、より細くすることが可能になる。骨格太さをより細くすることにより、セラミック多孔体10の気孔率を高めることが容易になり、セラミック多孔体10内を流体が流れる際の流路抵抗をより低くすることができる。また、骨格太さを細くすることにより、セラミック多孔体10の気孔率を高めることが容易になり、後述するようにセラミック多孔体10をマイクロ波照射により発熱するマイクロ波発熱体として用いる場合には、マイクロ波がセラミック多孔体10の内部に届きやすくなって、発熱性を高めることができる。なお、骨格太さの平均値は、100μm以上であることが望ましい。
【0013】
セラミック多孔体10の嵩密度は、特に制限はないが、0.2~2.2g/cm3であることが望ましい。セラミック多孔体10の嵩密度が0.2g/cm3未満であると、セラミック多孔体10の気孔率が高くなって強度不足となり、セラミック多孔体10の形状を維持することや、セラミック多孔体10の作製が困難になる可能性がある。また、セラミック多孔体10の嵩密度が2.2g/cm3を超えると、セラミック多孔体10の気孔率が低くなり、流路抵抗が高くなって流体が流れ難くなるため、上記範囲とすることが望ましい。
【0014】
セラミック多孔体10において、3次元網目構造におけるセル数は、特に制限はないが、5~50個/25.4mmであることが望ましい。ここで、セル数とは、単位長さ(25.4mm)の線分をセラミック多孔体10の切断面上で仮想したときに、この線分上に存在する気泡(セル)の数である。セラミック多孔体10におけるセル数が5個/25.4mm未満であると、セラミック多孔体10に形成される個々の気泡が大きくなって強度不足となり、セラミック多孔体10の形状の維持およびセラミック多孔体10の作製が困難になる可能性がある。また、セラミック多孔体10におけるセル数が50個/25.4mmを超えると、セラミック多孔体10に形成される個々の気泡が小さくなって、流路抵抗が高くなる影響が大きくなるため、上記範囲とすることが望ましい。
【0015】
B.セラミック多孔体の製造方法:
図3は、セラミック多孔体10の製造方法を表すフローチャートである。セラミック多孔体10を製造するには、まず、スピネルフェライトを含有する原料粉末を用意する(工程T100)。そして、工程T100で用意した原料粉末に無機バインダを添加して、スラリを作製する(工程T110)。
【0016】
ここで、セラミック多孔体10に添加するアルミニウムの少なくとも一部は、工程T100において、原料粉末に含まれるスピネルフェライトの結晶構造中に固溶する状態で用意してもよい。また、セラミック多孔体10に添加するアルミニウムの少なくとも一部は、工程T100において、酸化アルミニウム(Al2O3)等の形態でスピネルフェライトと共に原料粉末に含ませることとしてもよい。あるいは、セラミック多孔体10に添加するアルミニウムの少なくとも一部は、工程T100において原料粉末に添加するのではなく、工程T110において、無機バインダ(アルミナ系バインダ)として原料粉末に加えてもよい。セラミック多孔体10を構成する鉄含有酸化物におけるアルミニウムの含有量は、原料粉末に加えるアルミニウムの量と、無機バインダとして加えるアルミニウムの量とによって調節することができる。なお、本実施形態における「アルミニウムを含む鉄含有酸化物によって構成されたセラミック多孔体10」は、例えば無機バインダに含まれる成分に起因して、スピネルフェライト本来の成分とアルミニウム以外の微量成分を含有していてもよい。
【0017】
無機バインダとしてアルミナ系バインダ以外のバインダを用いる場合には、用いる無機バインダは、後述する焼成工程における焼成温度下において、バインダとしての機能を維持できる程度の耐熱性を有していればよい。無機バインダとしては、ガラス系バインダを用いることも可能であり、ガラス系バインダを用いることにより、より低い温度での焼成が可能になる。ただし、ガラス系バインダを用いる場合には、得られるセラミック多孔体10の耐熱温度が低下し易いため、セラミック多孔体10を比較的高い温度域で使用する場合には、金属酸化物系の無機バインダを用いることが望ましい。
【0018】
次に、工程T110で作製したスラリを用いて、樹脂製フォームをコーティングする(工程T120)。工程T120で用いる樹脂製フォームは、3次元的に連通した細孔を有する網目構造を有する多孔体であり、焼成の工程で焼失する樹脂材料によって形成されている。樹脂製フォームとしては、例えば、ポリウレタンフォームを用いることができる。セラミック多孔体10の3次元網目構造におけるセル数は、スラリのコーティング対象である樹脂製フォームのセル数によって定まる。そのため、工程T120では、例えば、3次元網目構造におけるセル数が5~50個/25.4mmである樹脂製フォームを用いることが望ましく、製造すべきセラミック多孔体10の気孔径等の形状に応じて、所望のセル数を有する樹脂製フォームを適宜選択すればよい。また、セラミック多孔体10の嵩密度、および、セラミック多孔体10が有する3次元網目構造における骨格太さは、工程T120において樹脂製フォームをコーティングするスラリ量と、コーティングの回数とにより調整することができる。
【0019】
その後、スラリでコーティングした樹脂製フォームを焼成し、樹脂製フォームを焼失させて(工程T130)、セラミック多孔体10を完成する。工程T130における焼成温度は、スピネルフェライトが焼結可能な温度であればよく、例えば1200℃以上の温度とすることができる。
【0020】
以上のように構成された本実施形態のセラミック多孔体10によれば、3次元網目構造を有するセラミック多孔体10がアルミニウムを含む鉄含有酸化物によって構成されるため、セラミック多孔体10を補強するための特別な構造等を設けることなく、簡素な構成でセラミック多孔体10の強度を高めることができる。このとき、アルミニウムが鉄含有酸化物の結晶中に固溶する状態で鉄含有酸化物全体の強度を高めることができるため、アルミニウムの含有量を、鉄含有酸化物に固溶可能な量に抑えつつ、鉄含有酸化物の強度を高めることができる。そのため、アルミニウムが添加されることに起因して鉄含有酸化物本来の特性(例えば、後述する磁気特性や、種々の反応を促進する反応性等)が損なわれることを抑えつつ、鉄含有酸化物の強度を高めることができる。上記のようにセラミック多孔体10の強度を高めることができるため、セラミック多孔体10において、骨格太さをより細くし、あるいは嵩密度をより低くすることができる。その結果、セラミック多孔体10の強度を確保しつつ、セラミック多孔体10の気孔率を高めて、セラミック多孔体10内を流体が流れる際の流路抵抗を抑えることができる。
【0021】
C.セラミック多孔体の使用態様:
本実施形態のセラミック多孔体10は、例えば、触媒担持用担体として用いることができる。また、セラミック多孔体10は、鉄含有酸化物がスピネルフェライト等の強磁性体である場合には、磁気特性を利用して、マイクロ波照射により発熱するマイクロ波発熱体として用いることができる。またセラミック多孔体10は、鉄含有酸化物がスピネルフェライトのような、種々の反応性を示す機能性セラミックである場合には、その反応性を利用して、例えば、水熱分解水素生成において酸化還元反応の促進に用いることができる。
【0022】
(C-1)触媒担持用担体としての利用:
セラミック多孔体10を触媒担持用担体として用いて、セラミック多孔体10と、セラミック多孔体10の表面に配置された触媒と、を備える触媒体を形成する場合には、セラミック多孔体10の表面に配置する触媒は、触媒金属であってもよく、酸化物触媒であってもよい。セラミック多孔体10の表面に配置する触媒の種類は、触媒体を用いて促進すべき反応の種類に応じて適宜選択すればよい。
【0023】
触媒として触媒金属を用いる場合には、触媒金属としては、例えば、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)等の貴金属であってもよく、また、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、銅(Cu)等の卑金属であってもよい。セラミック多孔体10上に触媒金属を担持させる方法は特に制限はなく、例えば、触媒金属を含む養液にセラミック多孔体10を含浸させた後に焼成する含浸法や、共沈法やイオン交換法など、公知の種々の方法を用いることができる。
【0024】
触媒として触媒金属を用いる場合には、鉄含有酸化物の構成成分として、触媒金属が含まれていることが好ましい。このように、鉄含有酸化物が触媒金属と同種の成分を有することにより、鉄含有酸化物によって構成される触媒担持用担体に対する触媒金属の固着状態を安定化することができる。また、鉄含有酸化物が触媒金属と同種の成分を有する場合には、セラミック多孔体10上に触媒金属を配置する際に、上記した含浸法や共沈法などによって担体上に触媒金属を担持させる動作を不要にすることができる。具体的には、鉄含有酸化物を還元雰囲気下で焼成するという簡便な方法により、鉄含有酸化物中に含まれる触媒金属をセラミック多孔体10表面に析出させて、触媒体を製造することができる。上記した還元雰囲気下での焼成は、例えば、水素や水蒸気を含有する雰囲気中にて、300~1000℃で加熱することにより行えばよい。例えば、本実施形態のセラミック多孔体10を構成する鉄含有酸化物が、MeFe2O3の組成式で表されるスピネルフェライト(ただし、Meはニッケルあるいはマグネシウム)の場合には、上記した還元焼成によって、セラミック多孔体10の表面に、触媒金属として鉄(Fe)を析出させることができる。また、上記Meがニッケルの場合には、セラミック多孔体10の表面に、触媒金属としてさらにニッケル(Ni)を析出させることができる。
【0025】
また、触媒として酸化物触媒を用いる場合には、酸化物触媒としては、例えば、種々の金属酸化物触媒や、ペロブスカイト型酸化物触媒などの複合酸化物触媒を用いることができる。セラミック多孔体10上に酸化物触媒を担持させる方法は特に制限はなく、公知の種々の方法を用いることができる。例えば、酸化物触媒として複合酸化物触媒を用いる場合には、固相反応法、共沈法、pechini法、クエン酸錯体法、ゾルゲル法などの方法を用いることができる。
【0026】
(C-2)マイクロ波発熱体としての利用:
セラミック多孔体10を、マイクロ波照射により発熱するマイクロ波発熱体として用いる場合には、セラミック多孔体10を構成する強磁性体である鉄含有酸化物は、透磁率が大きい軟磁性材料であることが望ましく、また、磁気損失が大きいほど、マイクロ波照射時の発熱効率が高まるため望ましい。このような観点から、セラミック多孔体10を構成する強磁性体である鉄含有酸化物は、本実施形態のようにスピネルフェライトとすることが望ましい。スピネルフェライトを用いることで、セラミック多孔体10の透磁率が向上し、セラミック多孔体10にマイクロ波を照射したときの昇温速度がより速くなり、急速加熱することが容易になる。
【0027】
本実施形態のセラミック多孔体10をマイクロ波発熱体として用いる場合には、鉄含有酸化物におけるアルミニウムの添加量は、セラミック多孔体10がマイクロ波発熱体として機能する範囲において、任意に設定可能である。このとき、アルミニウムの添加量によって鉄含有酸化物のキュリー温度が変化して、マイクロ波照射時におけるセラミック多孔体10の最高発熱温度が変化する。そのため、マイクロ波発熱体として用いる際の使用温度域に応じて、セラミック多孔体10が所望のキュリー温度を示すように、鉄含有酸化物におけるアルミニウムの添加量を調整すればよい。
【0028】
(C-3)機能性セラミックとしての利用:
スピネルフェライトは、酸化還元反応を促進する機能を有する機能性セラミックである。そのため、本実施形態のセラミック多孔体10は、例えば水熱分解水素生成に用いることができる。具体的には、例えば、スピネルフェライトを加熱してスピネルフェライトから酸素を放出させる反応と、酸素を放出したスピネルフェライトに水蒸気を供給して水素を発生させる反応と、を行わせることにより水素を製造する技術に、本実施形態のセラミック多孔体10を用いることができる。そのため、上記した酸化還元反応を促進する活性を十分に得られるように、鉄含有酸化物におけるアルミニウムの添加量を調整すればよい。
【0029】
D.他の実施形態:
上記した各実施形態では、セラミック多孔体10を構成する鉄含有酸化物がスピネルフェライトである場合について説明したが、アルミニウムを含む鉄含有酸化物は、スピネルフェライトの他、六方晶フェライトやガーネット型フェライトなどの他種のフェライトや、FeOやFe2O3(ヘマタイト)などの酸化鉄であってもよい。アルミニウムを加えることにより、アルミニウムが鉄含有酸化物の結晶中に固溶して、鉄含有酸化物全体の強度を向上させることができればよい。なお、ガーネットフェライトは、RFe5O12の組成式で表される複合酸化物であり、上記組成式において、Rは、イットリウム(Y)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)等の希土類元素であり、さらに他の元素を含んでいてもよい。六方晶フェライトとしては、MeFe12O19の組成式で表されるM型フェライトを挙げることができる。上記組成式において、Meは、鉛(Pb)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)等とすることができ、さらに他の元素を含んでいてもよい。
【実施例0030】
<3次元網目構造を有するサンプルの作製>
図4は、サンプルS1~S7の組成と、各サンプルについての測定結果を示す説明図である。以下に示すように、3次元網目構造を有すると共に種々の組成を有するセラミック多孔体のサンプルS1~S7を、
図3に示した製造方法に従って作製し、強度を比較した。サンプルS1~S7のセラミック多孔体のうち、サンプルS1、S2、S7の間、および、サンプルS3~S6の間では、それぞれ、工程T120において用いる樹脂製フォームとして、共通する気孔率および平均細孔径を有するポリウレタンフォームを用いた。
【0031】
[サンプルS1]
工程T100では、原料粉末として、スピネルフェライトであるNiFe2O4の粉末を用意した。工程T110では、無機バインダとしてアルミナ系バインダを用いてスラリを作製することにより、上記スピネルフェライトにアルミニウムを添加した。このとき、セラミック多孔体全体におけるアルミニウムの含有量が、酸化物換算で1.0wt%となるように、アルミナ系バインダを添加した。工程T120における樹脂製フォームのコーティングを容易にするために、スラリに適宜水を追加して、スラリの粘度を調節した。樹脂製フォームをスラリでコーティングした後、60℃で乾燥させ、1500℃で焼成し(工程T130)、サンプルS1のセラミック多孔体を得た。
【0032】
[サンプルS2]
工程T110で用いたアルミナ系バインダの量を、セラミック多孔体全体における酸化アルミニウムの含有量が7.0wt%となるように変更したこと以外は、サンプルS1と同様にして、サンプルS2のセラミック多孔体を作製した。
【0033】
[サンプルS3]
工程T100において、原料粉末としてスピネルフェライトであるMgFe2O4を用意し、工程T110で用いたアルミナ系バインダの量を、セラミック多孔体全体における酸化アルミニウムの含有量が5.0質量%となるように変更し、工程T120で樹脂製フォームをコーティングするスラリ量とコーティングの回数を変更したこと以外は、サンプルS1と同様にして、サンプルS3のセラミック多孔体を作製した。
【0034】
[サンプルS4~S6]
工程T120で樹脂製フォームをコーティングするスラリ量とコーティングの回数を変更したこと以外は、サンプルS3と同様にして、サンプルS4~S6のセラミック多孔体をそれぞれ作製した。
【0035】
[サンプルS7]
工程T100において、原料粉末としてスピネルフェライトであるNiFe2O4を用意し、工程T110において、無機バインダとしてアルミナ系バインダを用いることなくセリア系バインダを用いたこと以外は、サンプルS6と同様にして、サンプルS7のセラミック多孔体を作製した。
【0036】
<アルミニウム含有量>
各サンプルのアルミニウム含有量は、誘導結合プラズマ質量分析法(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry:ICP-MS)により、酸化物換算した値として測定した。
図4では、各サンプルのアルミニウム含有量は、「Al
2O
3含有量」として示している。
【0037】
<骨格太さ>
各サンプルの骨格太さは、各サンプルを樹脂に埋め込んだ後の断面をマイクロスコープにより20倍で撮像後、各々のサンプルの画像において骨格太さを30点測定した平均値として求めた。
【0038】
<嵩密度の測定>
各サンプルの嵩密度は、各サンプルの外形の寸法と重量とを測定することにより算出した。
【0039】
<セル数の測定>
各サンプルのセル数は、各サンプルを樹脂に埋め込んだ後の断面の像において、単位長さ(25.4mm)の線分を任意の位置に設定し、この線分上にある気泡(セル)の数を測定した。
【0040】
<圧縮強度の測定>
各サンプルとして、一辺30mmの矩形で厚みが10mmのサンプルを用意し、上下面から圧縮した際の強度を、オートグラフにて測定した。具体的には、ストローク速度0.5mm/minにて圧縮した際に、破壊時の応力を特定することにより、圧縮強度を算出した。
【0041】
<評価結果>
図4に示すように、スピネルフェライトにアルミニウムを添加することにより、3次元網目構造を有するセラミック多孔体の強度を高めることができることが確認された(サンプルS1~S6とサンプルS7との比較)。より具体的には、例えば、鉄含有酸化物として同じNiFe
2O
4を用いたサンプルS1およびS2とサンプルS7とを比較すると、アルミニウムを添加していないサンプルS7は、骨格太さを1000μmにしても、圧縮強度が0.05MPaであった。これに対して、アルミニウムを添加したサンプルS1およびS2は、骨格太さを500μmにしても、圧縮強度が0.2MPaであり、アルミニウムの添加によりセラミック多孔体の強度が大きく向上した。また、このようなセラミック多孔体において、骨格太さや嵩密度の違いはセラミック多孔体の強度に影響するが(サンプルS3~S6の比較)、スピネルフェライトにおけるアルミニウムの含有量の違いがセラミック多孔体の強度に与える影響は、小さいことが確認された(サンプルS1とS2との比較)。
【0042】
本開示は、上述の実施形態等に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0043】
本開示は、以下の形態としても実現することが可能である。
[適用例1]
連通気孔が形成された3次元網目構造を有するセラミック多孔体であって、
アルミニウムを含む鉄含有酸化物によって構成されていることを特徴とする
セラミック多孔体。
[適用例2]
適用例1に記載のセラミック多孔体であって、
前記鉄含有酸化物は、スピネルフェライトであることを特徴とする
セラミック多孔体。
[適用例3]
適用例1または2に記載のセラミック多孔体であって、
前記鉄含有酸化物は、アルミニウム(Al)を酸化物換算で1.0wt%以上含むことを特徴とする
セラミック多孔体。
[適用例4]
適用例1から3までのいずれか一項に記載のセラミック多孔体であって、
前記3次元網目構造における骨格太さの平均値が1500μm以下であることを特徴とする
セラミック多孔体。
[適用例5]
適用例1から4までのいずれか一項に記載のセラミック多孔体であって、
嵩密度が、0.2~2.2g/cm3であることを特徴とする
セラミック多孔体。
[適用例6]
適用例1から5までのいずれか一項に記載のセラミック多孔体であって、
前記3次元網目構造におけるセル数が、5~50個/25.4mmであることを特徴とする
セラミック多孔体。
[適用例7]
マイクロ波照射により発熱するマイクロ波発熱体であって、
適用例1から6までのいずれか一項に記載のセラミック多孔体を備えることを特徴とする
マイクロ波発熱体。
[適用例8]
適用例1から6までのいずれか一項に記載のセラミック多孔体と、
前記セラミック多孔体の表面に配置された触媒金属と、
を備えることを特徴とする触媒体。
[適用例9]
適用例8に記載の触媒体であって、
前記鉄含有酸化物の構成成分として、前記触媒金属を含むことを特徴とする
触媒体。
[適用例10]
適用例1から6までのいずれか一項に記載のセラミック多孔体と、
前記セラミック多孔体の表面に配置された酸化物触媒と、
を備えることを特徴とする触媒体。