(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063395
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】レーザ加工装置、及び、レーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20240502BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20240502BHJP
【FI】
H01L21/304 601Z
B23K26/53
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171307
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】坂本 剛志
(72)【発明者】
【氏名】是松 克洋
(72)【発明者】
【氏名】佐野 いく
【テーマコード(参考)】
4E168
5F057
【Fターム(参考)】
4E168AE01
4E168CB07
4E168CB15
4E168JA12
5F057AA12
5F057BA19
5F057BB03
5F057CA16
5F057DA22
5F057DA31
5F057GA01
(57)【要約】
【課題】加工品質の低下を抑制可能なレーザ加工装置、及びレーザ加工方法を提供する。
【解決手段】制御部6は、ラインAの第1領域A1にレーザ光Lを照射するとき、レーザ光Lの集光領域Cの長手方向NHを加工進行方向NDに対して(111)面K3から離れるように傾斜させると共に、ラインAの第2領域A2にレーザ光Lを照射するとき、レーザ光Lの集光領域Cの長手方向NHを加工進行方向NDに対して(111)面K4から離れるように傾斜させる。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を支持するための支持部と、
前記支持部に支持された前記対象物にレーザ光を照射するための照射部と、
前記レーザ光の集光領域を前記対象物に対して相対移動させるための移動部と、
前記移動部及び前記照射部を制御するための制御部と、
を備え、
前記対象物は、(110)面である主面、(100)面、及び(111)面を含み、前記(110)面が前記レーザ光の入射面となるように前記支持部に支持されており、
前記対象物には、前記入射面に交差するZ方向からみて、前記主面である前記(110)面に交差する別の(110)面、前記(100)面、及び、前記(111)面に交差するように円環状のラインが設定され、
前記ラインは、前記Z方向からみて、前記別の(110)面との交点を0°及び180°とし、前記(100)面との交点を90°とし、一の前記(111)面との接点を55°とし、前記一の(111)面に交差する別の前記(111)面との接点を125°としたとき、前記0°と60°との間の35°の点を含む第1領域と、120°と前記180°との間の145°を含む第2領域と、を含み、
前記照射部は、前記Z方向からみたときに前記集光領域が長手方向を有するように、前記レーザ光を成形する成形部を有し、
前記制御部は、前記照射部及び前記移動部を制御することによって、前記ラインに沿って前記集光領域を相対移動させることにより、前記ラインに沿って前記対象物に前記レーザ光を照射して改質領域を形成する加工処理を実施し、
前記制御部は、前記加工処理において、前記ラインの前記第1領域に前記レーザ光を照射するとき、前記成形部を制御して前記レーザ光を成形することによって、前記長手方向を前記集光領域の相対移動方向である加工進行方向に対して前記一の(111)面から離れるように傾斜させ、
前記制御部は、前記加工処理において、前記ラインの前記第2領域に前記レーザ光を照射するとき、前記成形部を制御して前記レーザ光を成形することによって、前記長手方向を前記加工進行方向に対して前記別の(111)面から離れるように傾斜させる、
レーザ加工装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記加工処理において、前記第1領域における前記加工進行方向と前記第2領域における前記加工進行方向とを同一とする、
請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記ラインは、50°と前記90°との間の75°を含む第3領域と、前記90°と130°との間の105°を含む第4領域と、を含み、
前記制御部は、前記加工処理において、前記ラインの前記第3領域に前記レーザ光を照射するとき、前記成形部を制御して前記レーザ光を成形することによって、前記長手方向を前記加工進行方向に対して前記一の(111)面から離れるように傾斜させ、
前記制御部は、前記加工処理において、前記ラインの前記第4領域に前記レーザ光を照射するとき、前記成形部を制御して前記レーザ光を成形することによって、前記長手方向を前記加工進行方向に対して前記別の(111)面から離れるように傾斜させる、
請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記加工処理において、前記成形部を制御することによって、前記第1領域及び前記第2領域に前記レーザ光を照射するときの前記長手方向の前記加工進行方向に対する傾斜角度を、前記第3領域及び前記第4領域に前記レーザ光を照射するときの前記長手方向の前記加工進行方向に対する傾斜角度よりも大きくする、
請求項3に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記加工処理において、前記第1領域での前記レーザ光の照射と前記第4領域での前記レーザ光の照射とを実施した後に、前記第2領域での前記レーザ光の照射と前記第3領域での前記レーザ光の照射とを実施する、
請求項3又は4に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記第1領域は、前記0°から前記55°にわたる領域であり、
前記第3領域は、前記55°から前記90°にわたる領域であって、前記第1領域との境界を有し、
前記第4領域は、前記90°から前記125°にわたる領域であって、前記第3領域との境界を有し、
前記第2領域は、前記125°から前記180°にわたる領域であって、前記第4領域との境界を有する、
請求項3又は4に記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記第1領域は、前記0°から前記60°にわたる領域であり、
前記第3領域は、前記60°から前記90°にわたる領域であって、前記第1領域との境界を有し、
前記第4領域は、前記90°から前記120°にわたる領域であって、前記第3領域との境界を有し、
前記第2領域は、前記120°から前記180°にわたる領域であって、前記第4領域との境界を有する、
請求項3又は4に記載のレーザ加工装置。
【請求項8】
前記第1領域は、前記35°を含む第1部分と、前記第1部分よりも前記0°側の第1前側部分とを含み、
前記第2領域は、前記145°を含む第2部分と、前記第2部分よりも前記180°側の第2後側部分とを含み、
前記制御部は、前記加工処理において、前記成形部を制御することによって、前記第1部分及び前記第2部分に前記レーザ光を照射するときの前記長手方向の前記加工進行方向に対する傾斜角度を、前記第1前側部分及び前記第2後側部分に前記レーザ光を照射するときの前記長手方向の前記加工進行方向に対する傾斜角度よりも大きくする、
請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項9】
前記第1領域は、前記0°と前記60°との間の一部の領域であり、
前記第3領域は、前記60°と前記90°との間の一部の領域であり、
前記第4領域は、前記90°と前記120°との間の一部の領域であり、
前記第2領域は、前記120°と前記180°との間の一部の領域であり、
前記制御部は、前記加工処理において、前記成形部を制御することによって、前記ラインの前記0°から前記180°の間における前記第1領域、前記第2領域、前記第3領域、及び、前記第4領域以外の領域に前記レーザ光を照射するときに前記長手方向を前記加工進行方向に対して傾斜させない、
請求項3に記載のレーザ加工装置。
【請求項10】
前記第1領域は、前記35°を含む第1部分と、前記第1部分よりも前記0°側の第1前側部分と、前記第1部分よりも前記60°側の第1後側部分とを含み、
前記第2領域は、前記145°を含む第2部分と、前記第2部分よりも前記120°側の第2前側部分と、前記第2部分よりも前記180°側の第2後側部分とを含み、
前記制御部は、前記加工処理において、前記成形部を制御することによって、前記第1前側部分に前記レーザ光を照射するときの前記長手方向の前記加工進行方向に対する傾斜角度、前記第1部分に前記レーザ光を照射するときの前記長手方向の前記加工進行方向に対する傾斜角度、及び、前記第1後側部分に前記レーザ光を照射するときの前記長手方向の前記加工進行方向に対する傾斜角度が、この順で大きくなるようにし、
前記制御部は、前記加工処理において、前記成形部を制御することによって、前記第2後側部分に前記レーザ光を照射するときの前記長手方向の前記加工進行方向に対する傾斜角度、前記第2部分に前記レーザ光を照射するときの前記長手方向の前記加工進行方向に対する傾斜角度、及び、前記第2前側部分に前記レーザ光を照射するときの前記長手方向の前記加工進行方向に対する傾斜角度が、この順で大きくなるようにする、
請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項11】
レーザ光の集光領域を対象物に対して相対移動させながら前記対象物にレーザ光を照射するレーザ加工方法であって、
前記対象物に設定されたラインに沿って前記集光領域を相対移動させることにより、前記ラインに沿って前記対象物に前記レーザ光を照射して改質領域を形成する加工工程を備え、
前記対象物は、(110)面である主面、(100)面、及び(111)面を含み、前記(110)面が前記レーザ光の入射面となるように支持されており、
前記ラインは、前記入射面に交差するZ方向からみて、前記主面である(110)面に交差する別の(110)面、前記(100)面、及び、前記(111)面に交差するように円環状に設定され、
前記ラインは、前記Z方向からみて、前記別の(110)面との交点を0°及び180°とし、前記(100)面との交点を90°とし、一の前記(111)面との接点を55°とし、前記一の(111)面に交差する別の前記(111)面との接点を125°としたとき、前記0°と60°との間の35°の点を含む第1領域と、120°と前記180°との間の145°を含む第2領域と、を含み、
前記加工工程では、前記ラインの前記第1領域に前記レーザ光を照射するとき、前記集光領域が長手方向を有するように前記レーザ光を成形すると共に、前記長手方向を前記集光領域の相対移動方向である加工進行方向に対して前記一の(111)面から離れるように傾斜させ、
前記加工工程では、前記ラインの前記第2領域に前記レーザ光を照射するとき、前記集光領域が長手方向を有するように前記レーザ光を成形すると共に、前記長手方向を前記加工進行方向に対して前記別の(111)面から離れるように傾斜させる、
レーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ加工装置、及び、レーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、(100)面を主面とする対象物(一例としてシリコンウェハ)のレーザ加工方法が記載されている。このレーザ加工方法では、円環状に延在するラインに沿ってレーザ光の集光領域を相対移動させながら対象物にレーザ光を照射することにより、改質領域を形成している。特に、対象物が、一の(110)面に垂直な第1結晶方位と、別の(110)面に垂直な第2結晶方位とを有している。そして、加工の際に、第1結晶方位及び第2結晶方位との位置関係に応じて、ラインの各領域においてレーザ光の集光領域の長手方向を調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載のレーザ加工方法によれば、上記のような(100)面を主面とする対象物の加工に際して、対象物の結晶構造に応じてレーザ光の集光領域を調整することで、対象物の加工面(切断面)の品質低下の抑制を図っている。
【0005】
ところで、近年、レーザ光の照射により改質領域を形成する(さらに、当該改質領域に沿っての切断を行う)加工の対象物として、(110)面が表面とされた結晶方位<110>ウェハの利用が検討されている。この場合、対象物の表面である(110)面がレーザ光の入射面とされる。このような対象物については、レーザ光の集光領域を移動させるラインと結晶方位との関係が、特許文献1に記載の対象物での場合と異なることから、別途より適切な加工を行うことにより、対象物の加工品質の低下の抑制を図ることが望まれている。
【0006】
本開示は、加工品質の低下を抑制可能なレーザ加工装置、及び、レーザ加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係るレーザ加工装置は、[1]「対象物を支持するための支持部と、前記支持部に支持された前記対象物にレーザ光を照射するための照射部と、前記レーザ光の集光領域を前記対象物に対して相対移動させるための移動部と、前記移動部及び前記照射部を制御するための制御部と、を備え、前記対象物は、(110)面である主面、(100)面、及び(111)面を含み、前記(110)面が前記レーザ光の入射面となるように前記支持部に支持されており、前記対象物には、前記入射面に交差するZ方向からみて、前記主面である前記(110)面に交差する別の(110)面、前記(100)面、及び、前記(111)面に交差するように円環状のラインが設定され、前記ラインは、前記Z方向からみて、前記別の(110)面との交点を0°及び180°とし、前記(100)面との交点を90°とし、一の前記(111)面との接点を55°とし、前記一の(111)面に交差する別の前記(111)面との接点を125°としたとき、前記0°と60°との間の35°の点を含む第1領域と、120°と前記180°との間の145°を含む第2領域と、を含み、前記照射部は、前記Z方向からみたときに前記集光領域が長手方向を有するように、前記レーザ光を成形する成形部を有し、前記制御部は、前記照射部及び前記移動部を制御することによって、前記ラインに沿って前記集光領域を相対移動させることにより、前記ラインに沿って前記対象物に前記レーザ光を照射して改質領域を形成する加工処理を実施し、前記制御部は、前記加工処理において、前記ラインの前記第1領域に前記レーザ光を照射するとき、前記成形部を制御して前記レーザ光を成形することによって、前記長手方向を前記集光領域の相対移動方向である加工進行方向に対して前記一の(111)面から離れるように傾斜させ、前記制御部は、前記加工処理において、前記ラインの前記第2領域に前記レーザ光を照射するとき、前記成形部を制御して前記レーザ光を成形することによって、前記長手方向を前記加工進行方向に対して前記別の(111)面から離れるように傾斜させる、レーザ加工装置」である。
【0008】
このレーザ加工装置の加工対象物は、レーザ光の入射面とされる(110)面を主面として有しており、当該入射面に交差するZ方向からみて、主面に交差する(110)面、(100)面、及び(111)面に交差するように円環状のラインが設定されている。また、ラインは、主面に交差するZ方向からみて、(110)面との交点を0°及び180°とし、(100)面との交点を90°とし、一の(111)面との接点を55°とし、一の(111)面に交差する別の(111)面との接点を125°としたとき、0°と60°との間の35°の点を含む第1領域と、120°と前記180°との間の145°を含む第2領域と、を含む。そして、ラインの第1領域にレーザ光を照射するとき、レーザ光の集光領域の長手方向を加工進行方向に対して一の(111)面から離れるように傾斜させると共に、ラインの第2領域にレーザ光を照射するとき、レーザ光の集光領域の長手方向を加工進行方向に対して別の(111)面から離れるように傾斜させる。このようにすると、品質悪化が顕著な傾向の35°及び145°において、加工品質の低下が抑制される。よって、このレーザ加工装置によれば、上記のようなラインと結晶方位との関係を有する対象物に対して、加工品質の低下の抑制を図ることができる。
【0009】
本開示に係るレーザ加工装置は、[2]「前記制御部は、前記加工処理において、前記第1領域における前記加工進行方向と前記第2領域における前記加工進行方向とを同一とする、上記[1]に記載のレーザ加工装置」であってもよい。この場合、第1領域の加工と第2領域の加工とで加工進行方向を変更する必要がなく、加工時間が短縮される。
【0010】
本開示に係るレーザ加工装置は、[3]「前記ラインは、50°と前記90°との間の75°を含む第3領域と、前記90°と130°との間の105°を含む第4領域と、を含み、前記制御部は、前記加工処理において、前記ラインの前記第3領域に前記レーザ光を照射するとき、前記成形部を制御して前記レーザ光を成形することによって、前記長手方向を前記加工進行方向に対して前記一の(111)面から離れるように傾斜させ、前記制御部は、前記加工処理において、前記ラインの前記第4領域に前記レーザ光を照射するとき、前記成形部を制御して前記レーザ光を成形することによって、前記長手方向を前記加工進行方向に対して前記別の(111)面から離れるように傾斜させる、上記[1]又は[2]に記載のレーザ加工装置」であってもよい。この場合、ラインのうちの品質悪化が若干顕著な傾向の75°及び105°においても、加工品質の低下の抑制が図られる。
【0011】
本開示に係るレーザ加工装置は、[4]「前記制御部は、前記加工処理において、前記成形部を制御することによって、前記第1領域及び前記第2領域に前記レーザ光を照射するときの前記長手方向の前記加工進行方向に対する傾斜角度を、前記第3領域及び前記第4領域に前記レーザ光を照射するときの前記長手方向の前記加工進行方向に対する傾斜角度よりも大きくする、上記[3]に記載のレーザ加工装置」であってもよい。この場合、第1,2領域と第3,4領域とのそれぞれにおいて、より適切に加工品質の低下の抑制が図られる。
【0012】
本開示に係るレーザ加工装置は、[5]「前記制御部は、前記加工処理において、前記第1領域での前記レーザ光の照射と前記第4領域での前記レーザ光の照射とを実施した後に、前記第2領域での前記レーザ光の照射と前記第3領域での前記レーザ光の照射とを実施する、上記[3]又は[4]に記載のレーザ加工装置」であってもよい。この場合、ラインの各領域のうち、レーザ光の集光領域の長手方向の傾斜が同方向ある領域の加工を纏めて行うことにより、成形部の制御が容易となる。
【0013】
本開示に係るレーザ加工装置は、[6]「前記第1領域は、前記0°から前記55°にわたる領域であり、前記第3領域は、前記55°から前記90°にわたる領域であって、前記第1領域との境界を有し、前記第4領域は、前記90°から前記125°にわたる領域であって、前記第3領域との境界を有し、前記第2領域は、前記125°から前記180°にわたる領域であって、前記第4領域との境界を有する、上記[3]~[5]のいずれかに記載のレーザ加工装置」であってもよい。この場合、ラインの0°から180°までの間の領域が、レーザ光の集光領域の長手方向の傾斜方向が互いに異なる2種の領域(第1,3領域と第2,4領域)から構成されることとなる。したがって、これらの領域の加工に際する条件の切り替え回数(例えば2回)が少なくなり、加工時間の短縮を図ることが可能となる。
【0014】
本開示に係るレーザ加工装置は、[7]「前記第1領域は、前記0°から前記60°にわたる領域であり、前記第3領域は、前記60°から前記90°にわたる領域であって、前記第1領域との境界を有し、前記第4領域は、前記90°から前記120°にわたる領域であって、前記第3領域との境界を有し、前記第2領域は、前記120°から前記180°にわたる領域であって、前記第4領域との境界を有する、上記[3]~[5]のいずれかに記載のレーザ加工装置」であってもよい。このように、加工品質の低下に際して、ラインを構成する各領域の境界に一定のマージンを持たせることが可能である。
【0015】
本開示に係るレーザ加工装置は、[8]「前記第1領域は、前記35°を含む第1部分と、前記第1部分よりも前記0°側の第1前側部分とを含み、前記第2領域は、前記145°を含む第2部分と、前記第2部分よりも前記180°側の第2後側部分とを含み、前記制御部は、前記加工処理において、前記成形部を制御することによって、前記第1部分及び前記第2部分に前記レーザ光を照射するときの前記長手方向の前記加工進行方向に対する傾斜角度を、前記第1前側部分及び前記第2後側部分に前記レーザ光を照射するときの前記長手方向の前記加工進行方向に対する傾斜角度よりも大きくする、上記[1]~[7]のいずれかに記載のレーザ加工装置」であってもよい。この場合、第1領域及び第2領域の加工品質の悪化が顕著な傾向の35°及び145°の加工の際に、レーザ光の集光領域の長手方向の傾斜角度を相対的に大きくすることで、加工品質の低下を確実に抑制可能である。また、第1領域のより0°側の部分や、第2領域のより180°側の部分といった、比較的に加工品質の悪化が顕著でない部分の加工の際に、レーザ光の集光領域の長手方向の傾斜角度を相対的に小さくすることで、レーザ光の集光領域の長手方向の傾斜の影響に依る加工品質の低下を抑制可能である。
【0016】
本開示に係るレーザ加工装置は、[9]「前記第1領域は、前記0°と前記60°との間の一部の領域であり、前記第3領域は、前記60°と前記90°との間の一部の領域であり、前記第4領域は、前記90°と前記120°との間の一部の領域であり、前記第2領域は、前記120°と前記180°との間の一部の領域であり、前記制御部は、前記加工処理において、前記成形部を制御することによって、前記ラインの前記0°から前記180°の間における前記第1領域、前記第2領域、前記第3領域、及び、前記第4領域以外の領域に前記レーザ光を照射するときに前記長手方向を前記加工進行方向に対して傾斜させない、上記[3]~[5]のいずれかに記載のレーザ加工装置」であってもよい。この場合、ラインのうちの加工品質の悪化が顕著な傾向の部分を含む領域以外において、レーザ光の集光領域の長手方向を傾斜しないようにすることで、比較的に加工品質の悪化が顕著でない領域の加工の際に、レーザ光の集光領域の長手方向の傾斜の影響に依る加工品質の低下を抑制可能である。
【0017】
本開示に係るレーザ加工装置は、[10]「前記第1領域は、前記35°を含む第1部分と、前記第1部分よりも前記0°側の第1前側部分と、前記第1部分よりも前記60°側の第1後側部分とを含み、前記第2領域は、前記145°を含む第2部分と、前記第2部分よりも前記120°側の第2前側部分と、前記第2部分よりも前記180°側の第2後側部分とを含み、前記制御部は、前記加工処理において、前記成形部を制御することによって、前記第1前側部分に前記レーザ光を照射するときの前記長手方向の前記加工進行方向に対する傾斜角度、前記第1部分に前記レーザ光を照射するときの前記長手方向の前記加工進行方向に対する傾斜角度、及び、前記第1後側部分に前記レーザ光を照射するときの前記長手方向の前記加工進行方向に対する傾斜角度が、この順で大きくなるようにし、前記制御部は、前記加工処理において、前記成形部を制御することによって、前記第2後側部分に前記レーザ光を照射するときの前記長手方向の前記加工進行方向に対する傾斜角度、前記第2部分に前記レーザ光を照射するときの前記長手方向の前記加工進行方向に対する傾斜角度、及び、前記第2前側部分に前記レーザ光を照射するときの前記長手方向の前記加工進行方向に対する傾斜角度が、この順で大きくなるようにする、上記[1]~[7]のいずれかに記載のレーザ加工装置」であってもよい。このように、ラインの各領域をより細分化してレーザ光の集光領域の長手方向の傾斜角度を調整することで、各部分における最適な条件の探索により品質改善を図ることが可能となる。
【0018】
本開示に係るレーザ加工方法は、[11]「レーザ光の集光領域を対象物に対して相対移動させながら前記対象物にレーザ光を照射するレーザ加工方法であって、前記対象物に設定されたラインに沿って前記集光領域を相対移動させることにより、前記ラインに沿って前記対象物に前記レーザ光を照射して改質領域を形成する加工工程を備え、前記対象物は、(110)面である主面、(100)面、及び(111)面を含み、前記(110)面が前記レーザ光の入射面となるように支持されており、前記ラインは、前記入射面に交差するZ方向からみて、前記主面である(110)面に交差する別の(110)面、前記(100)面、及び、前記(111)面に交差するように円環状に設定され、前記ラインは、前記Z方向からみて、前記別の(110)面との交点を0°及び180°とし、前記(100)面との交点を90°とし、一の前記(111)面との接点を55°とし、前記一の(111)面に交差する別の前記(111)面との接点を125°としたとき、前記0°と60°との間の35°の点を含む第1領域と、120°と前記180°との間の145°を含む第2領域と、を含み、前記加工工程では、前記ラインの前記第1領域に前記レーザ光を照射するとき、前記集光領域が長手方向を有するように前記レーザ光を成形すると共に、前記長手方向を前記集光領域の相対移動方向である加工進行方向に対して前記一の(111)面から離れるように傾斜させ、前記加工工程では、前記ラインの前記第2領域に前記レーザ光を照射するとき、前記集光領域が長手方向を有するように前記レーザ光を成形すると共に、前記長手方向を前記加工進行方向に対して前記別の(111)面から離れるように傾斜させる、レーザ加工方法」である。
【0019】
このレーザ加工方法によれば、上記のレーザ加工装置と同様に、加工品質の低下の抑制を図ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、加工品質の低下を抑制可能なレーザ加工装置、及び、レーザ加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るレーザ加工装置の構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、
図1に示された照射部の構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係るレーザ加工の対象物を示す図である。
【
図7】
図7は、本実施形態に係る加工処理(加工工程)を示す図である。
図7の(a)は平面図であり、
図7の(b)は側面図である。
【
図8】
図8は、加工処理におけるレーザ光の集光領域の形状の一例を示す図である。
図8の(a)は形状QBを示し、
図8の(b)は別の形状QAを示す。
【
図9】
図9は、加工処理における集光領域の形状の切り替わりを示す図である。
【
図10】
図10は、加工処理が完了した状態の対象物を示す図である。
図10の(a)は平面図であり、
図10の(b)は側面図である。
【
図12】
図12は、XY面内における集光領域の形状を示す図である。
【
図13】
図13は、ラインにおける各加工角度での対象物の切断面を示す写真である。
【
図14】
図14は、加工角度35°における加工結果を示す対象物の切断面の写真である。
【
図15】
図15は、加工角度35°における加工結果を示す対象物の切断面の写真である。
【
図16】
図16は、変形例に係る加工処理を示す模式図である。
【
図17】
図17は、別の変形例に係る加工処理を示す模式図である。
【
図18】
図18は、さらに別の変形例の加工処理を示す模式図である。
【
図19】
図19は、さらに別の変形例の加工処理を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、一実施形態について、図面を参照して説明する。なお、各図において、同一又は相当する部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する場合がある。また、各図には、X軸、Y軸、及びZ軸によって規定される直交座標系を示す場合がある。
【0023】
図1は、一実施形態に係るレーザ加工装置の構成を示す模式図である。
図1に示されるように、レーザ加工装置1は、ステージ(支持部)2と、照射部3と、移動部4,5と、制御部6と、を備えている。レーザ加工装置1は、対象物11にレーザ光Lを照射することにより、対象物11に改質領域12を形成するための装置である。
【0024】
ステージ2は、例えば対象物11に貼り付けられたフィルムを保持することにより、対象物11を支持する。ステージ2は、Z方向に平行な軸線を回転軸として回転可能である。ステージ2は、X方向及びY方向のそれぞれに沿って移動可能とされてもよい。なお、X方向及びY方向は、互いに交差(直交)する第1水平方向及び第2水平方向であり、Z方向は鉛直方向である。
【0025】
照射部3は、ステージ2に支持された対象物11にレーザ光Lを照射するためのものである。照射部3は、対象物11に対して透過性を有するレーザ光Lを集光して対象物11に照射する。ステージ2に支持された対象物11の内部にレーザ光Lが集光されると、レーザ光Lの集光領域C(例えば
図12に示された中心Ca)に対応する部分においてレーザ光Lが特に吸収され、対象物11の内部に改質領域12が形成される。なお、集光領域Cは、レーザ光Lのビーム強度が最も高くなる位置又はビーム強度の重心位置から所定範囲の領域である。
【0026】
改質領域12は、密度、屈折率、機械的強度、その他の物理的特性が周囲の非改質領域とは異なる領域である。改質領域12としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等がある。改質領域12は、改質領域12からレーザ光Lの入射側及びその反対側に亀裂が延びるように形成され得る。そのような改質領域12及び亀裂は、例えば対象物11の切断に利用される。
【0027】
一例として、ステージ2をX方向に沿って移動させ、対象物11に対して集光領域CをX方向に沿って相対的に移動させると、複数の改質スポット12sがX方向に沿って1列に並ぶように形成される。1つの改質スポット12sは、1パルスのレーザ光Lの照射によって形成される。1列の改質領域12は、1列に並んだ複数の改質スポット12sの集合である。隣り合う改質スポット12sは、対象物11に対する集光領域Cの相対的な移動速度及びレーザ光Lの繰り返し周波数によって、互いに繋がる場合も、互いに離れる場合もある。
【0028】
移動部4は、ステージ2をZ方向に交差(直交)する面内の一方向に移動させる第1移動部41と、ステージ2をZ方向に交差(直交)する面内の別方向に移動させる第2移動部42と、を含む。一例として、第1移動部41は、ステージ2をX方向に沿って移動させ、第2移動部42は、ステージ2をY方向に沿って移動させる。また、移動部4は、ステージ2をZ方向に平行な軸線を回転軸として回転させる。移動部5は、照射部3を支持している。移動部5は、照射部3をX方向、Y方向、及びZ方向に沿って移動させる。レーザ光Lの集光領域Cが形成されている状態においてステージ2及び/又は照射部3が移動させられることにより、集光領域Cが対象物11に対して相対移動させられる。すなわち、移動部4,5は、対象物11に対してレーザ光Lの集光領域Cを相対移動させるために、ステージ2及び照射部3の少なくとも一方を移動させる。
【0029】
制御部6は、ステージ2、照射部3、及び移動部4,5の動作を制御する。制御部6は、処理部、記憶部、及び入力受付部を有している(不図示)。処理部は、プロセッサ、メモリ、ストレージ及び通信デバイス等を含むコンピュータ装置として構成されている。処理部では、プロセッサが、メモリ等に読み込まれたソフトウェア(プログラム)を実行し、メモリ及びストレージにおけるデータの読み出し及び書き込み、並びに、通信デバイスによる通信を制御する。記憶部は、例えばハードディスク等であり、各種データを記憶する。入力受付部は、各種情報を表示すると共に、ユーザから各種情報の入力を受け付けるインターフェース部である。入力受付部は、GUI(Graphical User Interface)を構成している。
【0030】
図2は、
図1に示された照射部の構成を示す模式図である。
図2には、レーザ加工の予定を示す仮想的なラインAを示している。
図2に示されるように、照射部3は、光源31と、空間光変調器(成形部)7と、集光レンズ33と、4fレンズユニット34と、を有している。光源31は、例えばパルス発振方式によって、レーザ光Lを出力する。なお、照射部3は、光源31を有さず、照射部3の外部からレーザ光Lを導入するように構成されてもよい。空間光変調器7は、光源31から出力されたレーザ光Lを変調する。集光レンズ33は、空間光変調器7によって変調されて空間光変調器7から出力されたレーザ光Lを対象物11に向けて集光する。
【0031】
空間光変調器7では、変調パターンを示す信号が制御部6から入力されると、当該信号に応じて変調パターンが表示される。変調パターンは、レーザ光Lを変調するためのものである。空間光変調器7では、変調パターンが表示された状態で、レーザ光Lが外部から入射して反射されて外部に出射させられると、表示された変調パターンに応じてレーザ光Lが変調される。このように、空間光変調器7によれば、表示する変調パターンを適宜設定することで、レーザ光Lの変調(例えば、レーザ光Lの強度、振幅、位相、偏光等の変調)が可能である。
【0032】
以上のように、光源31から出力されたレーザ光Lが、空間光変調器7及び4fレンズユニット34を介して集光レンズ33に入射され、集光レンズ33によって対象物11内に集光されることにより、その集光領域Cにおいて対象物11に改質領域12及び改質領域12から延びる亀裂が形成される。さらに、制御部6が移動部4,5を制御することにより、集光領域Cを対象物11に対して相対移動させることにより、集光領域Cの移動方向に沿って改質領域12及び亀裂が形成されることとなる。
【0033】
図3は、本実施形態に係るレーザ加工の対象物を示す図である。
図3の(a)は平面図であり、
図3の(b)は側面図である。
図4は、
図3に示された対象物の断面図である。
図3及び
図4に示されるように、対象物100は、上述した対象物11と、対象物11とは別部材である対象物11Rと、を含む。対象物11Rは、例えばシリコンウェハである。対象物11は、複数の機能素子を含み、第2面11bに形成されたデバイス層110を含む。対象物11Rは、複数の機能素子を含み、対象物11Rの第1面11Raに形成されたデバイス層110Rを含む。対象物11と対象物11Rとは、デバイス層110とデバイス層110Rとが互いに対向するように配置されて互いに接合されることによって張り合わされており、対象物100を構成している。
【0034】
対象物11は、有効領域R及び除去領域Eを含む。有効領域Rは、取得する半導体デバイスに対応する部分である。ここでの有効領域Rは、対象物11の厚さ方向であるZ方向から見て、対象物11の中央部分を含む円板状の部分である。除去領域Eは、対象物11における有効領域Rよりも外側の領域である。除去領域Eは、対象物11における有効領域R以外の外縁部分である。ここでの除去領域Eは、有効領域Rを囲う円環状の部分である。ここでは、対象物11に改質領域12及び改質領域12から延びる亀裂を形成し、それらの改質領域12及び亀裂を境界として対象物11の除去領域Eを切除するトリミング加工を行う。したがって、対象物11には、除去領域Eと有効領域Rとの境界に、レーザ光Lの照射を行う予定の円環状のラインAが設定されている。
【0035】
なお、
図4に示されるように、対象物11は、レーザ光Lの入射面となる第1面(主面)11aの反対側の第2面11b(反対面)側からZ方向に沿って順に配列された第1部分15A及び第2部分15Bを含む。そして、第1部分15Aでは、Z方向に対して斜めに延びる亀裂(以下、「斜め亀裂」という場合がある)を形成するように改質領域12の形成を行い、第2部分15Bでは、Z方向に沿って延びる亀裂(以下、「垂直亀裂」という場合がある)を形成するように改質領域12の形成を行う。なお、
図4のラインR1は、Z方向に沿った断面における斜め亀裂を形成する予定のラインを示し、ラインR2は、Z方向に沿った断面における垂直亀裂を形成する予定のラインを示す。
【0036】
図5は、
図3,4に示された対象物の平面図である。
図5に示される対象物11は、結晶方位<110>ウェハ(例えばシリコンウェハ)である。すなわち、対象物11では、第1面11a(主面)が(110)面とされている。対象物11は、第1面11aがレーザ光Lの入射面となるようにステージ2に支持されている。対象物11は、第1面11aに交差(直交)するZ方向からみて、(110)面K1、(100)面K2、(111)面K3、及び、(111)面K3に交差する(111)面K4を含む。(110)面K1は、第1面11aに交差(直交)する(110)面である。(100)面K2と(111)面K3との角度θは約54.7°(以下では55°とする)であり、(110)面K1と(111)面K3との角度φは約35.3°である。なお、対象物11では、(100)面にノッチ11nが形成されている。
【0037】
図6に示されるように、対象物11に設定される円環状のラインAは、(110)面K1との交点P1a,P1b、(100)面K2との交点P2a,P2b、(111)面K3との接点P3a,P3b、及び、(111)面K4との接点P4a,P4bを含む。以下では、ラインA上の加工角度として、交点P1aを0°、接点P3aを55°、交点P2aを90°、接点P4aを125°、交点P1bを180°、接点P3bを235°、交点P2bを270°、接点P4bを305°とする。
【0038】
このとき、ラインAは、0°と55°との間の35°の点を含む第1領域A1と、125°と180°との間の145°を含む第2領域A2と、55°と90°との間の75°を含む第3領域A3と、90°と125°との間の105°を含む第4領域A4と、を含む。ここでは、第1領域A1は、0°から55°にわたる領域であり、第3領域A3は、55°から90°にわたる領域であって、第1領域A1との境界を有し、第4領域A4は、90°から125°にわたる領域であって、第3領域A3との境界を有し、第2領域A2は、125°から180°にわたる領域であって、第4領域A4との境界を有する。
【0039】
なお、対象物11の結晶方位は、Z方向に沿った回転軸の周りの180°の回転に対して対称的である。したがって、ラインAは、180°から360°(0°)の間においても、0°から180°の場合と同様に、順に、第1領域A5、第3領域A7、第4領域A8、及び、第2領域A6を有するが、以下では、主に0°から180°の間の各領域について説明する。
【0040】
図7に示されるように、レーザ加工装置1では、以上のようなラインAに沿って対象物11にレーザ光Lを照射する。すなわち、レーザ加工装置1では、制御部6が、照射部3及び移動部4,5を制御することにより、ラインAに沿ってレーザ光Lの集光領域Cを相対移動させることにより、ラインAに沿って対象物11にレーザ光Lを照射して改質領域12(及び亀裂)を形成する加工処理を実施する。レーザ加工装置1における加工処理は、本実施形態に係るレーザ加工方法の加工工程である。
【0041】
一例として、加工処理(加工工程(以下同様))では、レーザ光Lの集光領域Cが対象物11の内部に位置させられた状態において、ステージ2の回転に応じて、Z方向に沿った回転軸の周りに対象物11が回転させられる。これにより、集光領域Cを円環状のラインAに沿って相対移動させながらレーザ光Lを対象物11に照射することができる。このときの集光領域Cの相対移動方向(ラインAの接線方向であってここではX方向)を加工進行方向NDとする。加工処理では、ラインAの各領域に対してレーザ光Lの照射が行われることとなるが、ラインAの各領域においてレーザ光Lの集光領域Cの制御を行う。
【0042】
より具体的には、まず、
図8に示されるように、制御部6は、加工処理において、空間光変調器7の制御により、Z方向からみたときに集光領域Cが長手方向NHを有するように、Z方向に交差する面内における集光領域Cの形状を長尺状(ここでは長尺楕円状)に成形する。集光領域Cの形状を長尺状とするためには、一例として、空間光変調器7に表示させる変調パターンが、レーザ光Lに対して非点収差を付与するための非点収差パターンを含むようにすればよい。非点収差パターンを使用する場合、Z方向に2つの集光領域Cが形成されるが、ここでは、当該2つの集光領域Cのうちのレーザ光Lの入射面に近い側の形状が長尺状とされる。なお、他にも種々のパターンによって集光領域Cの形状を長尺状に成形可能であり、非点収差パターンに限定されず任意のパターンが選択され得る。
【0043】
加工処理では、さらに、長尺状とされた集光領域Cの長手方向NHを、加工進行方向NDに対して傾斜させる。具体的には、制御部6は、加工処理において、ラインAの第1領域A1にレーザ光を照射するとき、空間光変調器7を制御してレーザ光Lを成形することによって、長手方向NHを加工進行方向NDに対して(111)面K3から離れるように傾斜させる(
図8の(a)参照)。また、制御部6は、加工処理において、ラインAの第4領域A4にレーザ光を照射するとき、空間光変調器7を制御してレーザ光Lを成形することによって、長手方向NHを加工進行方向NDに対して(111)面K4から離れるように傾斜させる(
図8の(a)参照)。このように、長手方向NHを(111)面K3,K4から離れるように傾斜させるに際して、長手方向NHの傾斜方向NHaが加工進行方向NDの一方側(ここでは右側)である場合、集光領域Cの形状を形状QBと称する。第1領域A5及び第4領域A8ついても同様である。
【0044】
第1領域A1及び第4領域A4の加工の際にレーザ光Lの集光領域Cの形状を形状QBとするのは、次のような理由である。すなわち、Z方向からみたとき、ラインAにおける35°及び105°の付近でのレーザ加工の際に、改質領域12から延びる亀裂が、直近の(111)面K3,K4の方向に引っ張られることにより、切断面の蛇行量が増大して加工品質が悪化する傾向がある。これに対して、35°及び105°付近の加工の際に、集光領域Cの長手方向NHを(111)面K3,K4から離れるように傾斜させることにより、切断面の蛇行量の増大を抑制し、加工品質の低下が抑制されるのである。このため、加工処理では、第1領域A1及び第4領域A4の加工の際にレーザ光Lの集光領域Cの形状を形状QBとする。
【0045】
一方、制御部6は、加工処理において、ラインAの第2領域A2にレーザ光Lを照射するとき、空間光変調器7を制御してレーザ光Lを成形することによって、長手方向NHを加工進行方向NDに対して(111)面K4から離れるように傾斜させる(
図8の(b)参照)。また、制御部6は、加工処理において、ラインAの第3領域A3にレーザ光Lを照射するとき、空間光変調器7を制御してレーザ光Lを成形することによって、長手方向NHを加工進行方向NDに対して(111)面K3から離れるように傾斜させる(
図8の(b)参照)。このように長手方向NHを(111)面K4,K3から離れるように傾斜させるに際して、長手方向NHの傾斜方向NHaが加工進行方向NDの他方側(ここでは左側)である場合、集光領域Cの形状を形状QAと称する。第2領域A6及び第3領域A7についても同様である。
【0046】
第2領域A2及び第3領域A3の加工の際にレーザ光Lの集光領域Cの形状を形状QAとするのは、次のような理由である。すなわち、Z方向からみたとき、ラインAにおける145°及び75°の付近でのレーザ加工の際に、改質領域12から延びる亀裂が、直近の(111)面K4,K3の方向に引っ張られることにより、切断面の蛇行量が増大して加工品質が悪化する傾向がある。これに対して、145°及び75°付近の加工の際に、集光領域Cの長手方向NHを(111)面K4,K3から離れるように傾斜させることにより、切断面の蛇行量の増大を抑制し、加工品質の低下が抑制されるのである。このため、加工処理では、第2領域A2及び第3領域A3の加工の際にレーザ光Lの集光領域Cの形状を形状QAとする。
【0047】
このように、加工処理では、
図9に示されるように、ラインAの0°から55°の範囲(第1領域A1)では集光領域Cが形状QBとされ、ラインAの55°から90°の範囲(第3領域A3)では集光領域Cが形状QAとされ、ラインAの90°から125°の範囲(第4領域A4)では集光領域Cが形状QBとされ、ラインAの125°から180°の範囲(第2領域A2)では集光領域Cが形状QAとされる。なお、この例では、形状QBにおける長手方向NHの加工進行方向NDからの傾斜角度、及び、形状QAにおける長手方向NHの加工進行方向NDからの傾斜角度は、共に10°とされている。
【0048】
以上のように、ラインAの各領域において、レーザ光Lの集光領域Cの形状を変化させて加工を行うための具体的な手順としては、次のような例が挙げられる。すなわち、加工処理では、ステージ2を一定の方向に回転させながら、レーザ光Lの集光領域Cの形状を形状QBとしつつ、第1領域A1、第4領域A4、第1領域A5、及び、第4領域A8においてレーザ光Lが照射されると共に、それ以外の領域においてレーザ光Lが照射されないように、レーザ光Lの照射のON/OFFを切り替える。
【0049】
続いて、加工処理では、ステージ2を一定の方向に回転させながら、レーザ光Lの集光領域Cの形状を形状QAとしつつ、第3領域A3、第2領域A2、第3領域A7、及び、第2領域A6においてレーザ光Lが照射されると共に、それ以外の領域においてレーザ光Lが照射されないように、レーザ光Lの照射のON/OFFを切り替える。
【0050】
これらの場合のステージ2の回転方向、すなわち、加工進行方向NDは互いに同一とすることができる。すなわち、制御部6は、加工処理において、第1領域A1,A5及び第4領域A4,A8における加工進行方向NDと、第2領域A2,A6及び第3領域A3,A7における加工進行方向NDとを互いに同一とすることができる(ただし、互いに反対であってもよい)。また、この例では、制御部6は、第1領域A1,A5でのレーザ光Lの照射と第4領域A4,A8でのレーザ光Lの照射とを実施した後に、第2領域A2,A6でのレーザ光Lの照射と第3領域A3,A7でのレーザ光Lの照射とを実施することとなる。
【0051】
以上の加工処理によって、
図10,
図11に示されるように、ラインAの全体にわたって対象物11に改質領域12及び改質領域12から延びる亀裂13が形成される。その後、加工処理では、対象物11の外縁からラインAに至るように直線状に延びる別のラインAdに沿ってレーザ光Lを照射することで、ラインAdに沿って改質領域12及び亀裂を形成することができる(放射カット加工)。これにより、除去領域Eを複数の円弧状の部分に分割可能とし、有効領域Rの切り出しが容易となる。
【0052】
さらに、以上の加工処理の後に、対象物11の第1面11a側から対象物11を研削することで、第2部分15Bを除去すると共に、第1部分15Aの一部を除去することができる。第1部分15Aの除去される一部は、改質領域12a,12bが形成された部分である。したがって、第1部分15Aの残存される残部は、改質領域12a,12bを含まない。
【0053】
なお、本実施形態では、Z方向における複数の位置において加工処理を実施することにより、対象物11のZ方向の複数の位置で改質領域12及び亀裂13を形成する。上述したように、対象物11の第1部分15Aでは斜め亀裂13Fを形成し、対象物11の第2部分15Bでは垂直亀裂13c,13dを形成する。
【0054】
第1部分15Aにおける斜め亀裂13Fの形成は、一例として次のように行うことができる。すなわち、Z方向の第1位置に集光領域Cを位置させてレーザ光Lの照射を行うことで改質領域12aを形成すると共に、Z方向の第1位置よりも入射面(第1面11a)側の第2位置に集光領域Cを位置させてレーザ光Lの照射を行うことで改質領域12bを形成する。このとき、改質領域12bを形成する際の集光領域CのY方向の位置を、改質領域12aを形成する際の集光領域CのY方向の位置に対して対象物11の中心側にシフトさせる。Y方向は、Z方向及び加工進行方向NDであるX方向に交差する方向である。
【0055】
また、このとき、空間光変調器7を用いてレーザ光Lを変調することにより、
図12に示されるように、XY面内における集光領域Cの形状を、少なくとも集光領域Cの中心Caよりも第1面11a側(Z方向正側)において、Z方向に対してY方向負側(対象物11の中心側)に傾斜する傾斜形状とする。これにより、改質領域12aから延びる亀裂13aと改質領域12bから延びる亀裂13bとをつなげ、対象物11のデバイス層110側に向かうにつれて対象物11の外側に向かうように傾斜する斜め亀裂13Fが形成される。特に、ここでは、斜め亀裂13Fの第2面11b側の先端が、デバイス層110のデバイス層110Rとの接合領域の外縁110eに至るようにすることができる。
【0056】
ここで、
図8に示されるように、制御部6は、ステージ2の回転方向を制御して加工進行方向NDの順逆を制御することで、レーザ光Lの集光領域Cの長手方向NHの加工進行方向NDに対する傾斜方向NHaと、Z方向からみたときの斜め亀裂13Fの延在方向NTとを一致させることができる。この場合、加工品質の低下をさらに抑制し得る。ただし、傾斜方向NHaと延在方向NTとを一致させなくてもよい。
【0057】
以上説明したように、本実施形態に係るレーザ加工装置1及びレーザ加工方法の加工の対象物11は、レーザ光Lの入射面とされる(110)面である第1面11aを主面として有しており、当該第1面11aに交差するZ方向からみて、第1面11aに交差する(110)面K1、(100)面K2、及び(111)面K3,K4に交差するように円環状のラインAが設定されている。また、ラインAは、Z方向からみて、(110)面K1との交点を0°及び180°とし、(100)面K2との交点を90°とし、一の(111)面K3との接点を55°とし、一の(111)面K3に交差する別の(111)面K4との接点を125°としたとき、0°と55°との間の35°の点を含む第1領域A1と、125°と180°との間の145°を含む第2領域A2と、を含む。
【0058】
そして、ラインAの第1領域A1にレーザ光Lを照射するとき、レーザ光Lの集光領域Cの長手方向NHを加工進行方向NDに対して(111)面K3から離れるように傾斜させると共に、ラインAの第2領域A2にレーザ光Lを照射するとき、レーザ光Lの集光領域Cの長手方向NHを加工進行方向NDに対して(111)面K4から離れるように傾斜させる。このようにすると、品質悪化が顕著な傾向の35°及び145°において、加工品質の低下が抑制される。よって、このレーザ加工装置1及びレーザ加工方法によれば、上記のようなラインAと結晶方位との関係を有する対象物に対して、加工品質の低下の抑制を図ることができる。
【0059】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1及びレーザ加工法では、ラインAは、55°と90°との間の75°を含む第3領域A3と、90°と125°との間の105°を含む第4領域A4と、を含む。そして、制御部6は、加工処理において、ラインAの第3領域A3にレーザ光Lを照射するとき、空間光変調器7を制御してレーザ光Lを成形することによって、長手方向NHを加工進行方向NDに対して(111)面K3から離れるように傾斜させる。また、制御部6は、ラインAの第4領域A4にレーザ光Lを照射するとき、空間光変調器7を制御してレーザ光Lを成形することによって、長手方向NHを加工進行方向NDに対して(111)面K4から離れるように傾斜させる。この場合、ラインAのうちの品質悪化が若干顕著な傾向の75°及び105°においても、加工品質の低下の抑制が図られる。
【0060】
これらの効果について、具体的に説明する。
図13は、ラインにおける各加工角度での対象物の切断面を示す写真である。
図13に示される各写真は、レーザ光Lの集光領域Cの長手方向NHを加工進行方向NDに対して(111)面K3,K4から離れるように傾斜させるような制御を行っていない場合の従来の加工例である。
図13の(a),(d)に示されるように、加工角度が15°及び85°の場合には、切断面における亀裂の蛇行が顕著に現れていないのに対して、
図13の(b),(c)に示されるように、加工角度が35°及び75°の場合には、切断面における亀裂の蛇行が顕著に現れており、加工品質の低下が確認される。特に、加工角度が35°の場合に亀裂の蛇行量が8μm程度となり、最も大きな加工品質の低下が確認され、次いで、加工角度が75°の場合に亀裂の蛇行量が5μm程度となり、加工品質の低下が確認された。なお、ここでの蛇行量の評価対象となる亀裂とは、レーザ光Lの入射面と反対側の面(例えば第2面11b)に到達した亀裂である。
【0061】
図14の(a)は、加工角度が35°の場合であって、レーザ光Lの集光領域Cの形状が形状QBとされるべきところ、形状QAとされた場合、すなわち、長手方向NHが加工進行方向NDに対して35°直近の(111)面K3に近づくように傾斜させられた場合の加工結果を示している(傾斜角度は10°である)。この場合、切断面における亀裂の蛇行量が8μm程度と改善がみられず、依然として加工品質の大きな低下が確認された。
【0062】
図14の(b)及び(c)は、加工角度が35°の場合であって、レーザ光Lの集光領域Cの形状が形状QBとされた場合、すなわち、長手方向NHが加工進行方向NDに対して35°直近の(111)面K3から離れるように傾斜させられた場合の加工結果を示している。(傾斜角度はそれぞれ10°及び45°である)。この場合、切断面における亀裂の蛇行量が4μm程度に改善され、加工品質の低下の抑制が確認された。
【0063】
図15の(b),(c)は、加工角度が75°の場合であって、レーザ光Lの集光領域Cの形状が形状QAとされるべきところ、形状QBとされた場合、すなわち、長手方向NHが加工進行方向NDに対して75°直近の(111)面K3に近づくように傾斜させられた場合の加工結果を示している(傾斜角度は10°及び45°である)。この場合、切断面における亀裂の蛇行量が5μm~8μm程度と改善がみられず、依然として加工品質の大きな低下が確認された。
【0064】
図15の(a)は、加工角度が75°の場合であって、レーザ光Lの集光領域Cの形状が形状QAとされた場合、すなわち、長手方向NHが加工進行方向NDに対して75°直近の(111)面K3から離れるように傾斜させられた場合の加工結果を示している。(傾斜角度は10°である)。この場合、切断面における亀裂の蛇行量が1μm程度に改善され、加工品質の低下の抑制が確認された。
【0065】
少なくとも以上の結果から、レーザ光Lの集光領域Cの長手方向NHを、加工進行方向NDに対して、加工角度に応じた(111)面K3,K4から離れるように傾斜させるような制御を行うことにより、加工品質の低下を抑制可能であることが理解される。
【0066】
ここで、本実施形態に係るレーザ加工装置1及びレーザ加工方法では、制御部6が、加工処理において、第1領域A1における加工進行方向NDと第2領域A2における加工進行方向NDとを同一としてもよい。この場合、第1領域A1の加工と第2領域A2の加工とで加工進行方向NDを変更する必要がなく、加工時間が短縮される。
【0067】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1及びレーザ加工方法では、制御部6が、加工処理において、第1領域A1でのレーザ光Lの照射と第4領域A4でのレーザ光Lの照射とを実施した後に、第2領域A2でのレーザ光Lの照射と第3領域A3でのレーザ光Lの照射とを実施してもよい。この場合、ラインAの各領域のうち、レーザ光Lの集光領域Cの形状が共通である加工(すなわち、長手方向NHの加工進行方向NDに対する傾斜方向NHaが同一である加工)を纏めて行うことにより、空間光変調器7の制御が容易となる。
【0068】
さらに、本実施形態に係るレーザ加工装置1及びレーザ加工方法では、第1領域A1は、0°から55°にわたる領域であり、第3領域A3は、55°から90°にわたる領域であって、第1領域A1との境界を有し、第4領域A4は、90°から125°にわたる領域であって、第3領域A3との境界を有し、第2領域A2は、125°から180°にわたる領域であって、第4領域A4との境界を有する。このため、ラインAの0°から180°までの間の領域(180°から360°までの間の領域でも同様)が、レーザ光Lの集光領域Cの形状が互いに異なる2種の領域(第1,3領域と第2,4領域)から構成されることとなる。したがって、これらの領域の加工に際する条件の切り替え回数(例えば2回)が少なくなり、加工時間の短縮を図ることが可能となる。
【0069】
以上の実施形態は、本発明の一態様について説明したものである。したがって、本発明は、上記実施形態に限定されず、上記実施形態を任意に変形したものとされ得る。
【0070】
引き続いて、変形例について説明する。
図16は、変形例に係る加工処理を示す模式図である。
図16に示されるように、加工処理では、ラインAの0°から60°の範囲で集光領域Cを形状QBとし、ラインAの60°から90°の範囲で集光領域Cを形状QAとし、ラインAの90°から120°の範囲で集光領域Cを形状QBとし、ラインAの120°から180°の範囲で集光領域Cを形状QAとしてもよい。
【0071】
この場合、ラインAについて、第1領域A1は、0°と60°との間の35°の点を含む領域とされ、第2領域A2は、120°と180°との間の145°を含む領域とされ、第3領域A3は、60°と90°との間の75°を含む領域とされ、第4領域A4は、90°と130°との間の105°を含む領域とされる。特に、この例では、第1領域A1は、0°から60°にわたる領域であり、第3領域A3は、60°から90°にわたる領域であって、第1領域A1との境界を有し、第4領域A4は、90°から前記120°にわたる領域であって、第3領域A3との境界を有し、第2領域A2は、120°から180°にわたる領域であって、第4領域A4との境界を有している。
【0072】
このように、各領域の境界(集光領域Cの形状の切り替えのポイント)については、一定のマージン(例えば±5°程度)を持たせることが可能である。なお、
図16の例では、最も品質低下が顕著な傾向の35°,145°をそれぞれ含む第1領域A1、及び、第2領域A2における集光領域Cの長手方向NHの傾斜角度(ここでは20°)が、他の第3領域A3及び第4領域A4における集光領域Cの長手方向NHの傾斜角度(ここでは10°)よりも大きくされている。すなわち、制御部6は、加工処理において、空間光変調器7を制御することによって、第1領域A1及び第2領域A2にレーザ光Lを照射するときの長手方向NHの加工進行方向NDに対する傾斜角度を、第3領域A3及び第4領域A4にレーザ光Lを照射するときの長手方向NHの加工進行方向NDに対する傾斜角度よりも大きくすることができる。この場合、第1領域A1及び第2領域A2と、第3領域A3及び第4領域A4とのそれぞれにおいて、より適切に加工品質の低下の抑制が図られる。
【0073】
図17は、別の変形例に係る加工処理を示す模式図である。
図17に示されるように、加工処理では、ラインAの0°から50°の範囲で集光領域Cを形状QBとし、ラインAの50°から90°の範囲で集光領域Cを形状QAとし、ラインAの90°から130°の範囲で集光領域Cを形状QBとし、ラインAの130°から180°の範囲で集光領域Cを形状QAとしてもよい。
【0074】
この場合、ラインAについて、第1領域A1は、0°と50°との間の35°の点を含む領域とされ、第2領域A2は、130°と180°との間の145°を含む領域とされ、第3領域A3は、50°と90°との間の75°を含む領域とされ、第4領域A4は、90°と120°との間の105°を含む領域とされる。特に、この例では、第1領域A1は、0°から50°にわたる領域であり、第3領域A3は、50°から90°にわたる領域であって、第1領域A1との境界を有し、第4領域A4は、90°から前記130°にわたる領域であって、第3領域A3との境界を有し、第2領域A2は、130°から180°にわたる領域であって、第4領域A4との境界を有している。
【0075】
さらに、この例では、第1領域A1は、35°を含む第1部分A1aと、第1部分A1aよりも0°側の第1前側部分A1bとを含み、第2領域A2は、145°を含む第2部分A2aと、第2部分A2aよりも180°側の第2後側部分A2bとを含む。そして、制御部6は、加工処理において、空間光変調器7を制御することによって、第1部分A1a及び第2部分A2aにレーザ光Lを照射するときの長手方向NHの加工進行方向NDに対する傾斜角度を、第1前側部分A1b及び第2後側部分A2bにレーザ光Lを照射するときの長手方向NHの加工進行方向NDに対する傾斜角度よりも大きくする。
【0076】
この場合、第1領域A1及び第2領域A2の加工品質の悪化が顕著な傾向の35°及び145°の加工の際に、レーザ光Lの集光領域Cの長手方向NHの傾斜角度を相対的に大きくすることで、加工品質の低下を確実に抑制可能である。また、第1領域A1のより0°側の部分である第1前側部分A1bや、第2領域A2のより180°側の部分である第2後側部分A2bといった、比較的に加工品質の悪化が顕著でない部分の加工の際に、レーザ光Lの集光領域Cの長手方向NHの傾斜角度を相対的に小さくすることで、レーザ光Lの集光領域Cの長手方向NHの傾斜の影響に依る加工品質の低下を抑制可能である。
【0077】
図18は、さらに別の変形例の加工処理を示す模式図である。
図18に示されるように、第1領域A1を、0°と60°との間の一部の領域(ここでは20°から45°の領域)とし、第3領域A3を、60°と90°との間の一部の領域(ここでは65°から80°の領域)とし、第4領域A4を、90°と120°との間の一部の領域(ここでは100°から115°の領域)とし、第2領域A2を、120°と180°との間の一部の領域(ここでは135°から160°の領域)とすることができる。
【0078】
そして、制御部6は、加工処理において、空間光変調器7を制御することによって、ラインAの0°から180°の間(180°から360°についても同様)における第1領域A1、第2領域A2、第3領域A3、及び、第4領域A4以外の領域にレーザ光Lを照射するときに、レーザ光Lの集光領域Cの長手方向NHを加工進行方向NDに対して傾斜させない(傾斜角度を0°とする)。
【0079】
この場合、ラインAのうちの加工品質の悪化が顕著な傾向の部分を含む領域以外において、レーザ光Lの集光領域Cの長手方向NHを傾斜しないようにすることで、比較的に加工品質の悪化が顕著でない領域の加工の際に、レーザ光Lの集光領域Cの長手方向NHの傾斜の影響に依る加工品質の低下を抑制可能である。
【0080】
図19は、さらに別の変形例の加工処理を示す模式図である。
図19に示されるように、この例では、ラインAについて、第1領域A1は、0°と55°との間の35°の点を含む領域とされ、第2領域A2は、125°と180°との間の145°を含む領域とされ、第3領域A3は、55°と90°との間の75°を含む領域とされ、第4領域A4は、90°と125°との間の105°を含む領域とされる。特に、この例では、第1領域A1は、0°から55°にわたる領域であり、第3領域A3は、55°から90°にわたる領域であって、第1領域A1との境界を有し、第4領域A4は、90°から前記125°にわたる領域であって、第3領域A3との境界を有し、第2領域A2は、125°から180°にわたる領域であって、第4領域A4との境界を有している。
【0081】
また、この例では、第1領域A1は、35°を含む第1部分A1aと、第1部分A1aよりも0°側の第1前側部分A1bと、第1部分A1aよりも55°側の第1後側部分A1cとを含む。また、第2領域A2は、145°を含む第2部分A2aと、第2部分A2aよりも125°側の第2前側部分A2dと、第2部分A2aよりも180°側の第2後側部分A2cとを含む。
【0082】
また、この例では、第3領域A3は、75°を含む第3部分A3aと、第3部分A3aよりも55°側の第3前側部分A3bとを含む。さらに、第4領域A4は、145°を含む第4部分A4aと、第4部分A4aよりも125°側の第4後側部分A4bとを含む。
【0083】
そして、制御部6は、加工処理において、空間光変調器7を制御することによって、第1前側部分A1bにレーザ光Lを照射するときの長手方向NHの加工進行方向NDに対する傾斜角度、第1部分A1aにレーザ光Lを照射するときの長手方向NHの加工進行方向NDに対する傾斜角度、及び、第1後側部分A1cにレーザ光Lを照射するときの長手方向NHの加工進行方向NDに対する傾斜角度が、この順で大きくなるようにする。
【0084】
また、制御部6は、加工処理において、空間光変調器7を制御することによって、第2後側部分A2cにレーザ光Lを照射するときの長手方向NHの加工進行方向NDに対する傾斜角度、第2部分A2aにレーザ光Lを照射するときの長手方向NHの加工進行方向NDに対する傾斜角度、及び、第2前側部分A2dにレーザ光Lを照射するときの長手方向NHの加工進行方向NDに対する傾斜角度が、この順で大きくなるようにする。
【0085】
また、制御部6は、加工処理において、空間光変調器7を制御することによって、第3前側部分A3bにレーザ光Lを照射するときの長手方向NHの加工進行方向NDに対する傾斜角度を、第3部分A3aにレーザ光Lを照射するときの長手方向NHの加工進行方向NDに対する傾斜角度よりも大きくすると共に、第4後側部分A4bにレーザ光Lを照射するときの長手方向NHの加工進行方向NDに対する傾斜角度を、第4部分A4aにレーザ光Lを照射するときの長手方向NHの加工進行方向NDに対する傾斜角度よりも大きくする。
【0086】
この場合、ラインAの各領域をより細分化してレーザ光Lの集光領域Cの長手方向NHの傾斜角度を調整することで、各部分における最適な条件の探索により品質改善を図ることが可能となる。
【0087】
なお、上記実施形態では、張り合わせウェハである対象物11のトリミング加工を行う場合について説明したが、本開示に係るレーザ加工装置1及びレーザ加工方法は、他の加工に対して適用されてもよい。他の加工の例としては、1つの円形板状の対象物からより小さな対象物を切り出すインチダウン加工が挙げられるし、その他の任意の加工にも適用され得る。
【符号の説明】
【0088】
1…レーザ加工装置、2…ステージ(支持部)、4,5…移動部、6…制御部、7…空間光変調器(成形部)、11…対象物。