(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063397
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】茶の製造方法及び茶飲料の番茶臭の低減方法
(51)【国際特許分類】
A23F 3/06 20060101AFI20240502BHJP
A23F 3/20 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
A23F3/06 A
A23F3/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171309
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000104375
【氏名又は名称】カワサキ機工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100205914
【弁理士】
【氏名又は名称】堀越 総明
(74)【代理人】
【識別番号】100162189
【弁理士】
【氏名又は名称】堀越 真弓
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 昌志
(72)【発明者】
【氏名】畑 英季
(72)【発明者】
【氏名】中村 守伸
(72)【発明者】
【氏名】平野 智久
【テーマコード(参考)】
4B027
【Fターム(参考)】
4B027FB01
4B027FB13
4B027FC01
4B027FP01
4B027FP85
4B027FR20
(57)【要約】
【課題】簡便かつ低コストな方法により、三番茶等の番茶臭を低減することができる新たな茶の製造方法を提供する。
【解決手段】茶の製造方法は、摘採後の生茶葉を葉の部分と茎の部分とに分離する分離工程と、分離工程により分離された葉の部分を茶の原料として選別する選別工程と、選別工程により選別された葉の表面を加圧する加圧工程と、を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
摘採後の生茶葉を葉の部分と茎の部分とに分離する分離工程と、
前記分離工程により分離された葉の部分を茶の原料として選別する選別工程と、
前記選別工程により選別された葉の表面を加圧する加圧工程と、を有することを特徴とする茶の製造方法。
【請求項2】
さらに、前記加圧工程後の葉を静置する静置工程を有することを特徴とする請求項1に記載の茶の製造方法。
【請求項3】
前記分離工程における分離処理が、生葉カッター又は回転打圧装置で行われることを特徴とする請求項1又は2に記載の茶の製造方法。
【請求項4】
前記選別工程における選別処理が、風力、振動又は回転を利用した選別装置で行われることを特徴とする請求項1又は2に記載の茶の製造方法。
【請求項5】
前記加圧工程における加圧処理が、ローラープレス、ローターバン機又はCTC機で行われることを特徴とする請求項1又は2に記載の茶の製造方法。
【請求項6】
前記加圧処理における前記ローラープレスの荷重が、100N以上であることを特徴とする請求項5に記載の茶の製造方法。
【請求項7】
前記静置工程における静置時間が、0.5時間~4時間であることを特徴とする請求項2に記載の茶の製造方法。
【請求項8】
前記生茶葉が三番茶又は秋冬番茶となる摘採時期の生茶葉であり、
前記分離工程、前記選別工程、前記加圧工程及び前記静置工程を経て製造されていない茶の茶飲料と比較して、得られた茶の茶飲料中に含まれる2,4-ヘプタジエナールの含有量が30%以上減少していることを特徴とする請求項2に記載の茶の製造方法。
【請求項9】
前記生茶葉が三番茶又は秋冬番茶となる摘採時期の生茶葉であり、
前記分離工程、前記選別工程、前記加圧工程及び前記静置工程を経て製造されていない茶の茶飲料と比較して、得られた茶の茶飲料中に含まれる1-ペンテン-3-オールの含有量が40%以上減少していることを特徴とする請求項2に記載の茶の製造方法。
【請求項10】
前記生茶葉が三番茶又は秋冬番茶となる摘採時期の生茶葉であり、
前記分離工程、前記選別工程、前記加圧工程及び前記静置工程を経て製造されていない茶の茶飲料と比較して、得られた茶の茶飲料中に含まれるリナロール、ネロリドール又はジャスモンの含有量が増加していることを特徴とする請求項2に記載の茶の製造方法。
【請求項11】
摘採後の生茶葉を葉の部分と茎の部分とに分離する分離工程と、
前記分離工程により分離された葉の部分を茶の原料として選別する選別工程と、
前記選別工程により選別された葉の表面を加圧する加圧工程と、を有することを特徴とする茶飲料の番茶臭の低減方法。
【請求項12】
さらに、前記加圧工程後の葉を静置する静置工程を有することを特徴とする茶飲料の番茶臭の低減方法。
【請求項13】
前記生茶葉が三番茶又は秋冬番茶となる摘採時期の生茶葉であり、
前記分離工程、前記選別工程、前記加圧工程及び前記静置工程を経て製造されていない茶飲料と比較して、得られた茶飲料中に含まれる2,4-ヘプタジエナールの含有量が30%以上減少していることを特徴とする請求項12に記載の茶飲料の番茶臭の低減方法。
【請求項14】
前記生茶葉が三番茶又は秋冬番茶となる摘採時期の生茶葉であり、
前記分離工程、前記選別工程、前記加圧工程及び前記静置工程を経て製造されていない茶飲料と比較して、得られた茶飲料中に含まれる1-ペンテン-3-オールの含有量が40%以上減少していることを特徴とする請求項12に記載の茶飲料の番茶臭の低減方法。
【請求項15】
前記生茶葉が三番茶又は秋冬番茶となる摘採時期の生茶葉であり、
前記分離工程、前記選別工程、前記加圧工程及び前記静置工程を経て製造されていない茶の茶飲料と比較して、得られた茶の茶飲料中に含まれるリナロール、ネロリドール又はジャスモンの含有量が増加していることを特徴とする請求項12に記載の茶飲料の番茶臭の低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茶の製造方法及び茶飲料の番茶臭の低減方法に関し、具体的には、番茶臭を低減させることができる茶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
茶は、茶葉の摘採時期の順に、一番茶、二番茶、三番茶、秋冬(しゅうとう)番茶に分類される。このうち、一番茶は、摘採年の最初の茶葉の新芽を用いて製造した茶であり、香りが高く、旨味成分が多く含まれていること等から、市場において人気があり高価格で取引されている。
【0003】
他方、三番茶及び秋冬番茶(以下、「三番茶等」という。)は、一番茶や二番茶と比較すると品質が劣るため、市場での価格も安く、それゆえ、三番茶等の原料となる茶葉の多くが刈り捨てられている状況にある。この品質に劣る大きな要因には、三番茶等ではフレッシュな香りが減少し、いわゆる「番茶臭」と呼ばれる好ましくない香気を有する点にある。ここで「番茶臭」とは、硬葉臭、木茎臭、夏茶臭等とも呼ばれ、複数の成分からなる複合香であると考えられており、番茶臭の要因となる成分として、E-2-ヘキセナール(特許文献1参照)、1-ペンテン-3-オール(特許文献2参照)及びメトキシピラジン(非特許文献1参照)等が報告されている。
【0004】
近年、ペットボトルや缶等に充填されて流通する、容器詰め茶飲料の生産量は増加傾向にあるところ、容器詰め茶飲料の生産にはまとまった量の茶が必要となる。そのため、三番茶等が有する番茶臭を低減させることができれば、三番茶等を容器詰め茶飲料の生産に有効活用できるため、品質向上を図る意義は極めて大きい。
【0005】
そこで、特許文献1では、硬葉臭の少ない荒茶を製造する方法として、三番茶、秋冬番茶となる茶期の茶樹に、被覆資材を、遮光率が10%から50%となるように、かつ、茶畝摘採部分の被覆期間における最高気温が無被覆の場合と比較して低下するように、生茶葉の摘採前に3日間以上被覆する工程が提案されている。
【0006】
また、特許文献3には、硬葉化した原料を使用した場合であっても硬葉臭の発生を防ぐことができる方法として、生茶葉を蒸熱させる工程において、最初の蒸熱処理を行った茶葉を冷却せずに連続して追加蒸熱処理を1回若しくは繰り返し行う方法が記載されている。
【0007】
さらに、非特許文献1には、夏場に14~19℃の低温下で茶の生葉を保管することにより、揮発性成分の発生とともに、不快な夏茶臭が軽減することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015-29492号公報
【特許文献2】特開2021-108567号公報
【特許文献3】特開2001-54354号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】“チャの生葉の低温保管による夏茶臭改善効果の解明”、[online]、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 ウェブサイト、[2022年8月1日検索]、インターネット<URL:https://www.naro.go.jp/project/results/4th_laboratory/nifts/2016/nifts16_s23.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、昨今の茶農家一戸当たりの栽培面積が増加傾向にあることも鑑みると、茶畑に植えられた茶樹を被覆資材で被覆する作業は生産者にとって負担が大きいという問題があった。また、特許文献3に記載された製造方法では、従来の茶の製造工程に、追加蒸熱処理の工程が付加されるため、追加の蒸気導入分のエネルギーコストが生じるという問題があった。さらに、非特許文献1に記載された方法では、生茶葉を低温保管するための冷蔵設備が必要となるため、設備投資や暑い夏場時期における低温保管処理に係るコストが負担となるといった課題を有している。
【0011】
したがって、本発明は上述した点に鑑みてなされたもので、その目的は、簡便かつ低コストな方法により、三番茶等の番茶臭を低減することができる新たな茶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
茶の原料となる生茶葉は、茶樹から摘み取られたままの状態であるため、葉の部分と茎の部分とが一体となった状態で供給されるところ、三番茶等の原料として摘採された生茶葉における葉の部分は硬く厚みが増して硬葉化している。この葉の部分の硬葉化が番茶臭を引き起こしているとされているが、本発明者らは、生茶葉における茎の部分に新たに着目し、生茶葉の茎の部分について何らかの処理を施すことにより、番茶臭の低減に寄与するのではないかと仮説を立て、鋭意検討を行った。その結果、殺青処理を行う前に、摘採後の生茶葉の茎の部分から葉の部分を切り離して分離し、葉の部分を選別して茶の原料に用いることにより番茶臭が弱まることを見出した。この知見に基づき、本発明を完成させた。
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の茶の製造方法は、摘採後の生茶葉を葉の部分と茎の部分とに分離する分離工程と、分離工程により分離された葉の部分を茶の原料として選別する選別工程と、選別工程により選別された葉の表面を加圧する加圧工程と、を有している。本発明の分離工程において、殺青処理を行う前に、生茶葉の葉の部分と茎の部分とを分離させ、選別工程で茶の原料として葉の部分を選別することにより、茶の原料から茎の部分が除かれる。このようにして、生茶葉の茎の部分を出来るだけ茶の原料に含めないようにすることにより、番茶臭を低減させることができる。また、厚みのある茎の部分を選別工程で除くことにより、次工程の葉の表面への加圧処理の際に茎の厚みに妨げられることがなくなるため、葉への加圧が均一に行われる。そして、選別された葉の表面を加圧することにより、葉の細胞が損傷して発酵が促進されるところ、発酵によってフローラル臭又は果実臭と呼ばれる多種多様の香気成分が発生する。これにより、残存する番茶臭があっても多種多様の香気成分によりマスキングされ得るため、番茶臭がさらに低減された茶を得ることができる。また、本発明に係る分離工程、選別工程及び加圧工程は、茶葉の加温又は冷却が必須でないため、エネルギーコストを低コストとすることができる。
【0014】
上記課題を解決するため、本発明の茶の製造方法は、さらに、加圧工程後の葉を静置する静置工程を有することも好ましい。前工程の加圧処理により、葉の細胞が損傷して発酵が促進されるところ、その葉を静置すると、その静置時間に応じて葉の発酵が進み、発酵の度合いに応じてフローラル臭又は果実臭と呼ばれる多種多様の香気成分が発生する。これにより、残存する番茶臭があってもフローラル臭等のよい香りの香気成分によりマスキングされるため、番茶臭がさらに低減された茶を得ることができる。また、本発明に係る静置工程は、茶葉の加温又は冷却が必須でないため、エネルギーコストを低コストとすることができる。
【0015】
また、本発明の茶の製造方法は、分離工程における分離処理が、生葉カッター又は回転打圧装置で行われることも好ましい。これにより、生茶葉を葉の部分と茎の部分とに分離するために好適な分離処理装置が選択される。
【0016】
また、本発明の茶の製造方法は、選別工程における選別処理が、風力、振動又は回転を利用した選別装置で行われることも好ましい。これにより、葉の部分と茎の部分とに分離された茶葉から、葉の部分を選別するために好適な選別処理装置が選択される。
【0017】
また、本発明の茶の製造方法は、加圧工程における加圧処理が、ローラープレス、ローターバン機又はCTC機で行われることも好ましい。これにより、選別された葉の部分に対し、葉を細粒化させることなく、葉の表面を加圧できる加圧処理装置として好適なものが選択される。
【0018】
また、本発明の茶の製造方法は、加圧処理におけるローラープレスの荷重が、100N以上であることも好ましい。加圧処理装置として、ローラープレスを選択することにより、加圧条件の設定が容易であるため、葉の表面細胞の損傷レベル、すなわち、茶葉の発酵レベルの調整がし易く、加圧処理後の放置時間を適宜調整することで、所望の発酵度の茶を製造することができる。また、ローラープレスの荷重を100N以上とすることにより、茶葉の発酵が好適に促進されるため、放置時間が短時間でもフローラル臭等が生じるため、番茶臭がさらに低減されて良い香味の茶を得ることができる。
【0019】
また、本発明の茶の製造方法は、静置工程における静置時間が、0.5時間~4時間であることも好ましい。これにより、静置時間として好適な時間が選択される。前工程の加圧処理により葉の表面細胞が損傷された茶葉が静置されることにより発酵するため、番茶臭が低減されるとともに、香り豊かな茶が得られる。
【0020】
また、本発明の茶の製造方法は、生茶葉が三番茶又は秋冬番茶となる摘採時期の生茶葉であり、分離工程、選別工程、加圧工程及び静置工程を経て製造されていない茶の茶飲料と比較して、得られた茶の茶飲料中に含まれる2,4-ヘプタジエナールの含有量が30%以上減少していることも好ましい。本発明の各工程を経ることにより、本発明の各工程を経ていない既存の製造方法で得られた茶飲料と比較して、茶飲料に含まれる2,4-ヘプタジエナールを30%以上減少させることができる。2,4-ヘプタジエナールは、上級茶には含まれていないが下級茶には含まれる成分であり、「生ぐさ臭」と表現される成分である。本発明によれば、三番茶又は秋冬番茶となる摘採時期の生茶葉を原料に用いた場合であっても、2,4-ヘプタジエナールをはじめとした不快な番茶臭が低減された茶が得られる。なお、2,4-ヘプタジエナールには2つの立体異性体があるが、本発明においては、異性体の両方であっても、いずれか一方の異性体のみであってもよい。
【0021】
また、本発明の茶の製造方法は、生茶葉が三番茶又は秋冬番茶となる摘採時期の生茶葉であり、分離工程、選別工程、加圧工程及び静置工程を経て製造されていない茶の茶飲料と比較して、得られた茶の茶飲料中に含まれる1-ペンテン-3-オールの含有量が40%以上減少していることも好ましい。本発明の各工程を経ることにより、本発明の各工程を経ていない既存の製造方法で得られた茶飲料と比較して、茶飲料に含まれる1-ペンテン-3-オールを40%以上減少させることができる。1-ペンテン-3-オールは、番茶臭の要因となる成分であるところ(先行技術文献の特許文献2参照)、本発明によれば、三番茶又は秋冬番茶となる摘採時期の生茶葉を原料に用いた場合であっても、1-ペンテン-3-オールをはじめとした不快な番茶臭が低減された茶が得られる。
【0022】
また、本発明の茶の製造方法は、生茶葉が三番茶又は秋冬番茶となる摘採時期の生茶葉であり、分離工程、選別工程、加圧工程及び静置工程を経て製造されていない茶の茶飲料と比較して、得られた茶の茶飲料中に含まれるリナロール、ネロリドール又はジャスモンの含有量が増加していることも好ましい。本発明の各工程を経ることにより、本発明の各工程を経ていない既存の製造方法で得られた茶飲料と比較して、茶飲料に含まれるリナロール、ネロリドール又はジャスモンの含有量を増加させることができる。リナロール、ネロリドール又はジャスモンは、フローラル臭又は果実臭を呈する香気成分であるため、これらの香気成分により残存する番茶臭がマスキングされ、三番茶又は秋冬番茶となる摘採時期の生茶葉を原料に用いた場合であっても、番茶臭がさらに低減された茶が得られる。
【0023】
また、本発明の茶飲料の番茶臭の低減方法は、殺青処理を行う前に、摘採後の生茶葉を葉の部分と茎の部分とに分離する分離工程と、分離工程により分離された葉の部分を茶の原料として選別する選別工程と、選別工程により選別された葉の表面を加圧する加圧工程と、を有している。本発明の分離工程において、生茶葉の葉の部分と茎の部分とを分離させ、選別工程で茶の原料として葉の部分を選別することにより、茶の原料から茎の部分が除かれる。このようにして、生茶葉の茎の部分を出来るだけ茶の原料に含めないようにすることにより、番茶臭を低減させた茶飲料が得られる。また、厚みのある茎の部分を選別工程で除くことにより、次工程の葉の表面への加圧処理の際に茎の部分に妨げられることがなくなるため、葉への加圧処理が効率的に行われる。そして、選別された葉の表面を加圧することにより、葉の表面細胞が損傷して発酵が促進されるところ、発酵によってフローラル臭又は果実臭と呼ばれる多種多様の香気成分が発生する。これにより、残存する番茶臭があっても多種多様の香気成分によりマスキングされ得るため、番茶臭がさらに低減された茶飲料を得ることができる。
【0024】
また、本発明の茶飲料の番茶臭の低減方法は、さらに、加圧工程後の葉を静置する静置工程を有することも好ましい。前工程の加圧処理により、葉の細胞が損傷して発酵が促進されるところ、その葉を静置すると、その静置時間に応じて葉の発酵が進み、発酵の度合いに応じてフローラル臭又は果実臭と呼ばれる多種多様の香気成分が発生する。これにより、残存する番茶臭があってもフローラル臭等のより香りの香気成分によりマスキングされるため、番茶臭がさらに低減された茶飲料を得ることができる。
【0025】
また、本発明の茶飲料の番茶臭の低減方法は、生茶葉が三番茶又は秋冬番茶となる摘採時期の生茶葉であり、分離工程、選別工程、加圧工程及び静置工程を経て製造されていない茶飲料と比較して、得られた茶飲料中に含まれる2,4-ヘプタジエナールの含有量が30%以上減少していることも好ましい。本発明の各工程を経ることにより、本発明の各工程を経ていない既存の製造方法で得られた茶飲料と比較して、茶飲料に含まれる2,4-ヘプタジエナールを30%以上減少させることができる。2,4-ヘプタジエナールは、上級茶には含まれていないが下級茶には含まれる成分であり、その臭いが「生ぐさ臭」と表現される成分である。本発明によれば、三番茶又は秋冬番茶となる摘採時期の生茶葉を原料に用いた場合であっても、2,4-ヘプタジエナールをはじめとした不快な番茶臭が低減された茶飲料が得られる。
【0026】
また、本発明の茶飲料の番茶臭の低減方法は、生茶葉が三番茶又は秋冬番茶となる摘採時期の生茶葉であり、分離工程、選別工程、加圧工程及び静置工程を経て製造されていない茶飲料と比較して、得られた茶飲料中に含まれる1-ペンテン-3-オールの含有量が40%以上減少していることも好ましい。本発明の各工程を経ることにより、本発明の各工程を経ていない既存の製造方法で得られた茶飲料と比較して、茶飲料に含まれる1-ペンテン-3-オールを40%以上減少させることができる。1-ペンテン-3-オールは、番茶臭の要因となる成分であるところ、本発明によれば、三番茶又は秋冬番茶となる摘採時期の生茶葉を原料に用いた場合であっても、1-ペンテン-3-オールをはじめとした不快な番茶臭が低減された茶飲料が得られる。
【0027】
また、本発明の茶飲料の番茶臭の低減方法は、生茶葉が三番茶又は秋冬番茶となる摘採時期の生茶葉であり、分離工程、選別工程、加圧工程及び静置工程を経て製造されていない茶飲料と比較して、得られた茶飲料中に含まれるリナロール、ネロリドール又はジャスモンの含有量が増加していることも好ましい。本発明の各工程を経ることにより、本発明の各工程を経ていない既存の製造方法で得られた茶飲料と比較して、茶飲料に含まれるリナロール、ネロリドール又はジャスモンの含有量を増加させることができる。リナロール、ネロリドール又はジャスモンは、フローラル臭又は果実臭を呈する香気成分であるため、これらの香気成分により残存する番茶臭がマスキングされ、三番茶又は秋冬番茶となる摘採時期の生茶葉を原料に用いた場合であっても、番茶臭がさらに低減された茶飲料が得られる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、以下のような優れた効果を有する茶の製造方法及び茶飲料の番茶臭の低減方法を提供することができる。
(1)簡便かつ低コストな方法により、番茶臭が低減された茶を製造することができる。
(2)加圧工程における加圧条件及び静置工程における静置時間を調整することにより、緑茶・半発酵茶・発酵茶を選択的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】第一の実施形態に係る茶の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
【
図2】第二の実施形態に係る茶の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
【
図3】第三の実施形態に係る茶の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
【
図4】実施例7のGC/MS分析における、比較例1で得られた茶のGC/MSスペクトルである。
【
図5】実施例7のGC/MS分析における、比較例1で得られた茶のGC/MSスペクトルの部分拡大図である。
【
図6】実施例7のGC/MS分析における、比較例1で得られた茶のGC/MSスペクトルの部分拡大図である。
【
図7】実施例7のGC/MS分析における、実施例4で得られた茶のGC/MSスペクトルである。
【
図8】実施例7のGC/MS分析における、実施例4で得られた茶のGC/MSスペクトルの部分拡大図である。
【
図9】実施例7のGC/MS分析における、実施例4で得られた茶のGC/MSスペクトルの部分拡大図である。
【
図10】実施例7のGC/MS分析における、実施例5で得られた茶のGC/MSスペクトルである。
【
図11】実施例7のGC/MS分析における、実施例5で得られた茶のGC/MSスペクトルの部分拡大図である。
【
図12】実施例7のGC/MS分析における、実施例5で得られた茶のGC/MSスペクトルの部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の各実施形態に係る茶の製造方法及び茶飲料の番茶臭の低減方法について詳細に説明する。
【0031】
まず、
図1を参照し、本発明の第一の実施形態に係る緑茶の製造方法について説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る緑茶P1の製造方法は、摘採された生茶葉を準備する工程S0、この生茶葉を葉の部分と茎の部分とに分離する分離工程S1、分離された葉の部分を選別する選別工程S2、選別された葉の表面を加圧する加圧工程S3及び加圧工程後の葉を静置する静置工程S4と、従来の緑茶の製造工程である蒸熱工程S5、葉打工程S6、粗揉工程S7、揉捻工程S8、中揉工程S9、精揉工程S10及び乾燥工程S11から概略構成されている。なお、本実施形態における「緑茶」とは、いわゆる不発酵茶とされる緑茶以外にも、微発酵タイプ又は弱発酵タイプの緑茶も含まれる概念である。
【0032】
[生茶葉の準備]
まず、
図1に示す生茶葉を準備するS0について説明する。本発明において「生茶葉」とは、茶樹から摘採された状態の茶葉のことをいう。そのため、生茶葉は葉の部分と茎の部分を有している。本発明に用いられる生茶葉は、チャノキ(Camellia sinensis)から摘み取られた生の茶葉であり、具体的には、本工程S0ではチャノキから摘採された生茶葉を準備する。なお、生茶葉は、生茶葉に付着した砂塵等を落とすための洗浄処理が施されたものであってもよい。生茶葉に用いられるチャノキの品種、産地などは特に限定されないが、本実施形態においては緑茶P1を得るため、品種としては、緑茶向け品種のやぶきた、ゆたかみどり、おくみどり、さえみどり、さやまかおり、あさつゆ、おくひかり、さみどり等が好ましく用いられ得る。また、生茶葉の摘採時期としては、産地により異なるが、二番茶以降の摘採時期の生茶葉が好ましく、三番茶及び秋冬番茶となる摘採時期の生茶葉がより好ましく用いられる。
【0033】
[分離工程]
次に、分離工程S1について説明する。本工程S1では、前工程S0で準備された生茶葉を葉の部分と茎の部分とに分離する分離処理が行われる。本発明において「分離」とは、葉の部分と茎の部分とが一体となっている生茶葉に対し、切断や引張等の分離処理を施すことによって、葉の部分と茎の部分とが別体となるように分けることをいう。従来の製茶方法では、茶樹から摘採された生茶葉はそのままの状態で蒸熱工程における蒸熱処理が施され、製茶工程が進行する。これは、生茶葉の状態で葉の部分と茎の部分とに分離する分離処理を行うと、粉茶が発生し易くなり、葉の形状も消失し易くなるためである。そのため、茶葉を葉の部分と茎の部分とに分離するのは、乾燥工程後に行われる荒茶の仕上げ工程等であるのが通常である。しかしながら、本発明においては、このような従来工程の既成概念にとらわれず、摘採された生茶葉について、蒸熱処理を行う前に、生茶葉を葉の部分と茎の部分とに分離する分離工程S1を設けている。
【0034】
分離処理に係る手段は、生茶葉を葉の部分と茎の部分とに分離することができる手段であれば、どのような手段であってもよく、茎から葉の部分のみを手で摘み取ったり、刃物で裁断することで葉の部分と茎の部分とに手作業で分離することも、装置を用いて両者を分離することも可能である。作業効率の観点によれば、分離処理に適した装置を用いることが好ましく、特に限定されないが、一例として、回転打圧装置(特開2021-114908号公報参照)や茶葉切断機(特開2002-125592号公報参照)、碾茶の製造の際に一般的に用いられる木茎分離機等が挙げられる。本工程S1で生茶葉を葉の部分と茎の部分とに分離させることにより、次工程の選別工程S2において、番茶臭の発生要因の一つと推測される茎の部分を除去し、葉の部分を茶の原料として選別することができる。なお、本発明における分離工程S1では、生茶葉を葉の部分と茎の部分とに完全に分離することまでは求められず、少なくとも、分離処理S1が施される生茶葉の半量以上が葉の部分と茎の部分とに分離されればよく、より好ましくは、生茶葉の6~7割以上が葉の部分と茎の部分とに分離されればよい。
【0035】
上述した回転打圧装置(特開2021-114908号公報参照)は、硬くなった茶葉を柔らかくし、蒸し工程後の揉み込みを良好にするとともに、炭そ病等により脆くなった部分を細かく粉砕して取り除くことを目的として、通常は、緑茶製造時における蒸し工程後に使用される装置である。この回転打圧装置が備える機能のうち、「脆くなった茶葉を取り除くため、装置内で茶葉を掻き上げると共に打圧を加えて茶葉の脆くなった部分を細かく粉砕して取り除く」という機能については、被処理物が蒸し工程後の茶葉に限定されず、あらゆる工程での使用が可能であるところ、本発明においては、生茶葉を葉の部分と茎の部分に分離させるために、この回転打圧装置を使用することができる。この回転打圧装置は具体的には、生茶葉を投入可能な投入口が形成されるとともに、投入口に投入された生茶葉を収容する収容空間が形成された投入部と、収容空間に収容された生茶葉を搬送可能なスクリュー状部材と、スクリュー状部材で搬送された生茶葉を受け入れ可能な内部空間を有するとともに、軸周りに回転可能とされた胴部と、該胴部の内部空間に受け入れた生茶葉を掻き上げて攪拌しつつ当該胴部の内周面に叩き付けて打圧する複数の羽根状部材とを具備したものであり、投入された生茶葉はスクリュー状部材(搬送手段)により胴部の内部空間に搬送され、胴部の内部空間に搬送された茶葉は複数の羽根状部材(撹拌手段)により掻き上げられて撹拌されつつ打圧される。これにより、装置内に供給された生茶葉がスクリュー状部材により搬送される際や、生茶葉が羽根状部材で掻き上げられて撹拌される際に、生茶葉どうしが交絡するために葉の部分が引っ張られたり、羽根状部材で打圧される際に葉と茎の間が切断されることから、茎の部分から葉の部分が切り離され、葉の部分と茎の部分とが分離される。ここで、この回転打圧装置を蒸し工程後に通常使用する際の羽根状部材(撹拌手段)の攪拌回転数は300~700rpmであるところ、本発明においては、生茶葉の葉の部分と茎の部分とをよく分離させる観点から、羽根状部材の攪拌回転数を通常使用される回転数(300~700rpm)よりも高めに設定することが好ましい。具体的には、羽根状部材の撹拌回転数を700rpm超とすることが好ましく、800rpm以上とすることがより好ましく、900rpm以上とするのが更に好ましい。
【0036】
他方、上述した茶葉切断機(特開2002-125592号公報参照)は、通常は、荒茶の仕上げ加工時に使用される装置である。本発明においては、生茶葉を葉の部分と茎の部分に分離させるためにこの茶葉切断機を使用することができる。この茶葉切断機は具体的には、生茶葉を投入することが可能な投入口と、投入された生茶葉を葉の部分と茎の部分とに分離することが可能な柱状の切断刃を円盤状板の外周で挟持したローターと、このローターを水平軸に回転させる駆動手段と、ローターの切断刃との間隔を調整可能に支持された半円形状の浮動スクリーンとから構成されたものである。投入口に投入された生茶葉は、浮動スクリーン上に供給されると、回転するローターに取り付けられた切断刃の角部に生茶葉が入り込むことにより、葉の部分と茎の部分とに切断される。これにより、生茶葉から葉の部分と茎の部分とを分離することができる。
【0037】
[選別工程]
次に、選別工程S2について説明する。本工程S2では、分離工程S1で分離された葉の部分と茎の部分とのうち、茶の原料として葉の部分を選別することが行われる。これにより、茎の部分が茶の原料から除去される。また、この工程により、生茶葉に混入していた茎や小枝、前工程S1の分離処理により生じた分離滓も除去される。選別処理に係る手段は、生茶葉の葉の部分を選別できる手段であれば、どのような手段であってもよく、手作業で選別することも、装置を用いて選別することも可能である。作業効率の観点によれば、このような葉の部分と茎の部分の選別処理に適した装置を用いることが好ましく、特に限定されないが、一例として、風力、振動又は回転を利用して、葉の部分を選別する装置が挙げられる。より具体的な例としては、風力を利用する選別装置としては、風力選別装置(特開2001-104889号公報及び特開平10-28528号公報参照)、碾茶の製造の際に一般的に用いられる風選機等が挙げられ、振動を利用する選別装置としては、振動コンベヤ(実開平6-72954号公報参照)等が挙げられ、回転を利用する選別装置としては、篩い装置(特開2002-272368号公報参照)等が挙げられる。本工程S2で、茶葉の原料として葉の部分を選別することにより、番茶臭の発生要因の一つと推測される茎の部分を茶の原料から除去することができ、番茶臭が低減された茶が得られる。また、厚みのある茎の部分をこの選別工程S2で除去することにより、次工程S3において行われる葉の表面への加圧の際に、茎の厚みに妨げられて、葉の表面への加圧が不十分となることが無くなり、葉への加圧を均一に効率よく行うことができる。そのため、静置工程S4での発酵ムラを防ぐことができる。なお、本発明における選別工程S2では、茶の原料として葉の部分のみを完全に選別することまでは求められず、少なくとも、選別された茶の原料のうち、7~8割以上が葉の部分であればよく、茎の部分が少量含まれていてもよい。
【0038】
上述した風力を利用する風力選別装置(特開2001-104889号公報参照)は、通常、緑茶製造時における中揉工程の後工程において使用される装置である。この風力選別装置は、中揉工程後の製茶処理中の茶葉を風力によって葉の部分と茎の部分とに分離・選別するものである。本発明においては、従来の茶の製造工程前、すなわち、蒸熱工程前の生茶葉の葉の部分を選別し、茎の部分を除去するためにこの風力選別装置を使用することができる。この風力選別装置は具体的には、被選別材料を投入可能な投入口と後述するバケットコンベアに被選別材料を供給する供給口とを有するホッパー、供給された被選別材料を所定の角度上昇傾斜して選別フードまで搬送するバケットコンベア、バケットコンベアにより搬送された被選別材料を風力により選別するための送風ファン、及び選別された各々の材料を回収する吐出口が具備されたものである。分離工程S1後の生茶葉をホッパーに投入すると、ホッパー下部よりバケットコンベアの下部に供給され、所定の角度上昇傾斜を有するバケットコンベアの終端である選別フードまで搬送される。搬送された生茶葉は、バケットコンベアの終端から落下するところ、ファンによる送風によって葉の部分が選別される。これは、葉の部分と茎の部分の比重の違いを利用したものであり、単体の重量が軽い葉の部分は送風を受けるとその風力で遠くに飛ばされるが、単体の重量が重い茎の部分はそのままコンベアの終端から落下する。これにより、葉の部分と茎の部分とを容易に選別することができる。
【0039】
また、上述した回転を利用する篩い装置(特開2002-272368号公報参照)は、所定径の網目を有する篩いであり、篩いが同一平面内で回転動作することにより生茶葉に対する選別が行われるものである。これにより、分離工程S1後の生茶葉のうち、葉の部分に比べて面積が小さい茎の部分は網目から抜け落ちて除去され、面積が大きい葉の部分は網目上に残存する。これにより、葉の部分と茎の部分とを容易に選別することができる。さらに、上述した振動を利用する振動コンベヤ(実開平6-72954号公報参照)は、底面が網状となったコンベヤであり、コンベヤ上を生茶葉が通過する際の振動によって茎が網目から抜け落ちて除去され、葉の部分を選別することができる装置である。
【0040】
[加圧工程]
次に、加圧工程S3について説明する。本工程S3では、選別工程S2で選別された葉の部分について、葉の表面を加圧することで葉の細胞を損傷させることが行われる。本工程S3での加圧手段は、葉の表面を加圧することで葉の細胞を損傷させることができれば、どのような手段であってもよく、手作業で加圧することも、装置を用いて加圧することも可能である。作業効率の観点によれば、このような加圧処理に適した装置を用いることが好ましく、特に限定されないが、具体的な例としては、ローラープレス(実開昭54-101000号公報参照)の他、紅茶製造の際に用いられるローターバン機又はCTC機等が挙げられる。このうち、葉を細粒化させることなく葉の細胞に損傷を与えることができ、加圧荷重等の調整によって葉の細胞損傷のレベルを容易に設定できるため、次工程の放置工程S4における放置時間による葉の発酵度合いも予測し易くなる観点から、本実施形態における加圧工程S3にはローラープレスを用いることが好ましい。さらに、ローラープレスを加圧処理装置として選択した際においても、前工程S2で厚みのある茎の部分が茶の原料から除去されているため、葉の加圧の際に茎の厚みに妨げられるようなことがなく、葉への加圧を均一に効率よく行うことができる。このように、本工程S3で、選別された葉の表面を加圧することにより、葉の細胞が損傷して葉の発酵が促進される。
【0041】
上述したローラープレス(実開昭54-101000号公報参照)は、通常は、緑茶製造時における蒸熱工程前に葉の茎部のみを押圧して偏平形状にするために使用される装置である。このローラープレスは一対のローラーから構成され、一方のローラーを駆動ローラー、他方を従動ローラーとし、この従動ローラーの軸受を左右移動自在とすることにより、一対のローラー間隙が調節自在とされている。本発明においては、葉の形状を保持しつつ、葉の細胞を損傷させるためにこのローラープレスを使用することができる。例えば、駆動ローラーの表面に凹凸形状のエンボスを施しておき、ローラー間隙を適宜調節することで、ローラープレスの間隙に葉を供給すると、葉がローラーの回転に引き込まれ、ローラーで押圧されながら葉が間隙を通過する。これにより、選別工程S2後の葉の表面に、ローラー表面の凹凸形状に対応した傷が形成されるため、葉の形状は保持されつつ、葉の細胞が損傷される。また、上述した構成のローラープレスの他に、茶の原料として選別された葉を搬送するコンベアの上側に、コンベアの搬送方向に駆動する1つ以上のローラーが配設されたローラープレスを用いることも可能である。ローラープレスとコンベアとの間隙及びローラー荷重等を適宜調節することで、コンベア上に葉を供給すると、ローラーで押圧されながら葉が間隙を通過する。これにより葉の表面がローラーで加圧され、葉の細胞が損傷される。本実施形態におけるローラープレスによる加圧処理の荷重は、後述する静置工程S4における静置時間による茶の発酵度合いの調整が容易であり、かつ、静置時間も短く設定できる観点から、ローラーの間隙を0.5mm以下、好ましくは0.3mm以下、さらに好ましくは実質的に間隙が無く(略0mm)、対向するローラー又は対向するコンベアの搬送面と軽く当接した状態、とした場合には、100N以上とすることが好ましく、200N以上とすることがより好ましく、200N~1000Nとすることがさらに好ましい。ローラープレスによる加圧処理の荷重を大きくするに従い、葉が間隙を通過する際のローラーの逃げが小さくなるため、葉はより加圧されることになるが、これらの値に限定することで、駆動ローラーの表面に施した凹凸形状のエンボスの形状が葉の表面に残る程度に加圧され、前述の「葉の形状を保持しつつ、葉の細胞を損傷させる」ことが可能となる。
【0042】
[静置工程]
次に、静置工程S4について説明する。本工程S4では、加圧工程S3で加圧処理された葉を静置することが行われる。静置工程は室温下にて行われ、特に限定されないが、23~28℃の室温下で葉を静置することが好ましい。本工程S4により、葉に含まれているポリフェノールと酸化酵素とが反応し、静置時間に応じて葉の発酵が進行する。静置時間としては、上述した加圧工程S3における葉の加圧条件や茶の品種によっても異なるが、本実施形態においては緑茶P1を得る観点から、発酵度が高くなると香味や水色が発酵茶寄りになることから、10分~6時間程度とすることが好ましく、20分~4時間程度とすることがより好ましく、30分~4時間程度とすることがさらに好ましい。葉を静置する時間に応じて葉の発酵が進み、フローラル臭又は果実臭と呼ばれる多種多様の香気成分が発生する。この香気成分により、残存する番茶臭がマスキングされるため、番茶臭がさらに低減された茶を得ることができる。
【0043】
他方、本実施形態は緑茶P1の製造方法であることから、発酵度を小さくするため、上述した静置工程S4は行わず(静置処理時間なし)、加圧工程S3後に、後述する従来の緑茶の製造工程と同様の工程を行うことも可能である。分離工程S1、選別工程S2及び加圧工程S3を行うことにより、三番茶等に相当する時期に摘採された生茶葉を用いた場合であっても、番茶臭が低減された茶を得ることができる。
【0044】
[静置工程後の製造工程]
静置工程S4後の製造工程は、従来の緑茶の製造工程と同様の工程で行うことができる。
本実施形態においては、
図1のフローチャートに示すように、蒸熱工程S5、葉打工程S6、粗揉工程S7、揉捻工程S8、中揉工程S9、精揉工程S10及び乾燥工程S11が例示されている。なお、これらの工程のうち、1つ又は複数の工程が省略、変更又は追加されてもよい。例えば、後述する実施例にて行った製造方法のように、揉捻工程後S8に、中揉工程S9と精揉工程S10を行わずに、再乾機による乾燥(再乾)工程S11による乾燥処理を行ってもよい。
【0045】
[緑茶]
得られた緑茶P1は、三番茶等に相当する時期に摘採された生茶葉を用いた場合であっても、番茶臭が低減されており、静置工程S4に進行する発酵によって香気成分が生じるため、残存する番茶臭がこの香気成分によりマスキングされ、番茶臭がさらに低減された緑茶となっている。より詳細には、本実施形態により得られた茶の茶飲料は、分離工程、選別工程、加圧工程及び静置工程を経て製造されていない茶の茶飲料と比較して、得られた茶の茶飲料中に含まれる2,4-ヘプタジエナールの含有量が30%以上減少していることが好ましく、40%以上減少していることがより好ましい。また、本実施形態により得られた茶の茶飲料は、分離工程、選別工程、加圧工程及び静置工程を経て製造されていない茶の茶飲料と比較して、得られた茶の茶飲料中に含まれる1-ペンテン-3-オールの含有量が40%以上減少していることが好ましく、50%以上減少していることがより好ましい。本発明の各工程を経ることにより、2,4-ヘプタジエナール及び/又は1-ペンテン-3-オールをはじめとした不快な番茶臭が低減された茶が得られる。このように、本実施形態の方法によれば、緑茶飲料の番茶臭を低減することができる。さらに、本実施形態により得られた茶の茶飲料は、分離工程、選別工程、加圧工程及び静置工程を経て製造されていない茶の茶飲料と比較して、得られた茶の茶飲料中に含まれるリナロール、ネロリドール及びジャスモンから選択される香気成分のうち、1つ以上の香気成分の含有量が増加していることがより好ましい。本実施形態の方法により得られる「緑茶」は、静置工程S4において茶葉の発酵が促されているため、発酵度合いにもよるが、いわゆる微発酵タイプ又は弱発酵タイプの緑茶のカテゴリーに属しており、容器詰めの茶飲料の生産に有効に活用し得る。
【0046】
次に、
図2を参照し、本発明の第二の実施形態に係る半発酵茶の製造方法について説明する。
図2に示すように、本実施形態に係る半発酵茶P2の製造方法は、摘採された生茶葉を準備する工程S20、この生茶葉を葉の部分と茎の部分とに分離する分離工程S21、分離された葉の部分を選別する選別工程S22、選別された葉の表面を加圧する加圧工程S23及び加圧工程後の葉を静置する静置工程S24と、従来の半発酵茶の製造工程である蒸熱工程S25、揉捻工程S26及び乾燥工程S27から概略構成されている。本実施形態は、主に、第一の実施形態における静置工程S4以降の工程が上述した第一の実施形態と異なっているが、これら以外の工程についても一部異なる構成を有している。よって、上述した第一の実施形態と同じ構成に関する説明は省略し、異なる構成について以下説明する。
【0047】
本実施形態における生茶葉を準備するS20について、上述した第一の実施形態と異なる構成を説明する。本実施形態においては半発酵茶P2を得るため、品種としては、ウーロン茶向け品種の大葉烏龍、鉄観音、青心烏龍等の他、緑茶向け品種のやぶきた、ゆたかみどり等も好ましく用いられ得る。
【0048】
次に、本実施形態における加圧工程S23について、上述した第一の実施形態と異なる構成を説明する。本実施形態では半発酵茶P2を製造するにあたり、従来の半発酵茶の製造工程のうちの「萎凋工程」を省略している。そのため、萎凋工程が無い分、葉の発酵をより促進するために、第一の実施形態における加圧工程S3よりも、加圧の強度を高めることが好ましい。具体的には、例えば、ローラープレスを用いた際の加圧処理の荷重は、ローラーの間隙を0.5mm以下、好ましくは0.3mm以下、さらに好ましくは実質的に間隙が無く(略0mm)、対向するローラー又は対向するコンベアの搬送面と軽く当接した状態、とした場合には、200N以上とすることが好ましく、200N~1000Nとすることがより好ましい。
【0049】
[静置工程]
次に、本実施形態における静置工程S24について説明する。本工程S24では、加圧工程S23で加圧処理された葉を静置させることが行われる。本実施形態に係る半発酵茶の製造方法では、従来の半発酵茶の製造工程のうちの「萎凋工程」を省略しているため、葉の発酵をより促進する必要がある。そこで、静置工程S24における静置時間を長くとり、葉の発酵度を高めることが好ましい。静置時間としては、0.5時間~6時間程度とすることが好ましく、0.5時間~4時間程度とすることがより好ましく、1~4時間程度とすることがさらに好ましい。静置時間に応じて葉の発酵度が高まり、フローラル臭又は果実臭と呼ばれる多種多様の香気成分が発生する。この香気成分により、残存する番茶臭がマスキングされるため、番茶臭がさらに低減された茶を得ることができる。
【0050】
[静置工程後の製造工程]
静置工程S24後の製造工程は、従来の半発酵茶の製造工程のうち、萎凋工程後に行われる工程と同様の工程で行うことができる。本実施形態においては、
図2のフローチャートに示すように、静置工程S24の後、蒸熱工程S25、揉捻工程S26及び乾燥工程S27が例示されている。なお、これらの工程のうち、1つ又は複数の工程が省略、変更又は追加されてもよい。このように、本実施形態では、通常1日弱(15~20時間程度)を要する萎凋工程を必要としないため、短時間で半発酵茶P2を得ることができるという効果も有する。
【0051】
[半発酵茶]
得られた半発酵茶P2は、三番茶等に相当する時期に摘採された生茶葉を用いた場合であっても、番茶臭が低減されており、静置工程S24に進行する発酵によって香気成分が生じるため、残存する番茶臭がこの香気成分によりマスキングされ、番茶臭がさらに低減された半発酵茶となっている。より詳細には、本実施形態により得られた茶の茶飲料は、分離工程、選別工程、加圧工程及び静置工程を経て製造されていない茶の茶飲料と比較して、得られた茶の茶飲料中に含まれる2,4-ヘプタジエナールの含有量が30%以上減少していることが好ましく、40%以上減少していることがより好ましい。また、本実施形態により得られた茶の茶飲料は、分離工程、選別工程、加圧工程及び静置工程を経て製造されていない茶の茶飲料と比較して、得られた茶の茶飲料中に含まれる1-ペンテン-3-オールの含有量が40%以上減少していることが好ましく、50%以上減少していることがより好ましい。本発明の各工程を経ることにより、2,4-ヘプタジエナール及び/又は1-ペンテン-3-オールをはじめとした不快な番茶臭が低減された茶が得られる。さらに、本実施形態により得られた茶の茶飲料は、分離工程、選別工程、加圧工程及び静置工程を経て製造されていない茶の茶飲料と比較して、得られた茶の茶飲料中に含まれるリナロール、ネロリドール及びジャスモンから選択される香気成分のうち、1つ以上の香気成分の含有量が増加していることがより好ましい。このように、本実施形態の方法によれば、ウーロン茶等の半発酵茶飲料の番茶臭を低減することができ、容器詰めの茶飲料の生産に有効に活用し得る。また、本実施形態の方法により得られる半発酵茶は、加圧工程S23及び静置工程S24で茶葉の発酵処理を行っているため、通常の半発酵茶の製造工程のうちの萎凋工程を省略させることができ、それゆえ、短時間で半発酵茶P2が得られ、製造にかかるコストも低コストとすることができる。
【0052】
生茶葉を準備する工程S20、分離工程S21、選別工程S22、加圧工程S23及び静置工程S24についてのその他の説明は、上述した第一の実施形態での説明と各々同様であり、その作用効果も同様である。
【0053】
次に、
図3を参照し、本発明の第三の実施形態に係る発酵茶の製造方法について説明する。
図3に示すように、本実施形態に係る発酵茶P3の製造方法は、摘採された生茶葉を準備する工程S30、この生茶葉を葉の部分と茎の部分とに分離する分離工程S31、分離された葉の部分を選別する選別工程S32、選別された葉の表面を加圧する加圧工程S33及び加圧工程後の葉を静置する静置工程S34と、従来の発酵茶の製造工程である揉捻工程S35、発酵工程S36及び乾燥工程S37から概略構成されている。本実施形態は、主に、第一の実施形態における静置工程S4以降の工程が上述した第一の実施形態と異なっているが、これら以外の工程についても一部異なる構成を有している。よって、上述した第一の実施形態と同じ構成に関する説明は省略し、異なる構成について以下説明する。
【0054】
本実施形態における生茶葉を準備するS30について、上述した第一の実施形態と異なる構成を説明する。本実施形態においては発酵茶P3を得るため、品種としては、紅茶向け品種のべにひかり、べにほまれ、べにふうき、べにふじ、べにかおり、ただにしき等の他、緑茶向け品種のやぶきた、ゆたかみどり等が好ましく用いられ得る。
【0055】
次に、本実施形態における加圧工程S33について、上述した第一の実施形態と異なる構成を説明する。本実施形態では発酵茶P3を製造するにあたり、従来の発酵茶の製造工程のうちの「萎凋工程」を省略している。そのため、萎凋工程が無い分、葉の発酵をより促進するために、第一の実施形態における加圧工程S3よりも、加圧の強度を高めることが好ましい。具体的には、例えば、ローラープレスを用いた際の加圧処理の荷重は、ローラーの間隙を0.5mm以下、好ましくは0.3mm以下、さらに好ましくは実質的に間隙が無く(略0mm)、対向するローラー又は対向するコンベアの搬送面と軽く当接した状態、とした場合には、200N以上とすることが好ましく、200N~1000Nとすることがより好ましい。また、本実施形態における揉捻工程S35では、紅茶製造の際に用いられるローターバン機やCTC機を用いて加圧処理することも好適に行われる。
【0056】
[静置工程]
次に、本実施形態における静置工程S34について説明する。本工程S34では、加圧工程S33で加圧処理された葉を静置させることが行われる。本実施形態に係る発酵茶の製造方法では、従来の発酵茶の製造工程のうちの「萎凋工程」を省略しているため、葉の発酵をより促進する必要がある。そこで、静置工程S34における静置時間を長くとり、葉の発酵度を高めることが好ましい。静置時間としては、0.5時間~6時間程度とすることが好ましく、0.5時間~4時間程度とすることがより好ましく、1~4時間程度とすることがさらに好ましい。静置時間に応じて葉の発酵度が高まり、フローラル臭又は果実臭と呼ばれる多種多様の香気成分が発生する。この香気成分により、残存する番茶臭がマスキングされるため、番茶臭がさらに低減された茶を得ることができる。
【0057】
[静置工程後の製造工程]
静置工程S34後の製造工程は、従来の発酵茶の製造工程のうち、萎凋工程後に行われる工程と同様の工程で行うことができる。本実施形態においては、
図3のフローチャートに示すように、静置工程S34の後、揉捻工程S35、発酵工程S36及び乾燥工程S37が例示されている。また、揉捻工程S35においては、紅茶製造の際に用いられるローターバン機やCTC機を用いて揉捻処理されてもよいが、緑茶製造の際に用いられる揉捻機による揉捻処理であってもよい。なお、これらの工程のうち、1つ又は複数の工程が省略、変更又は追加されてもよい。このように、本実施形態では、通常1日弱(15~20時間程度)を要する萎凋工程を必要としないため、短時間で発酵茶P3を得ることができるという効果も有する。
【0058】
生茶葉を準備する工程S30、分離工程S31、選別工程S32、加圧工程S33及び静置工程S34についてのその他の説明は、上述した第一の実施形態での説明と各々同様であり、その作用効果も同様である。
【0059】
[発酵茶]
得られた発酵茶P3は、三番茶等に相当する時期に摘採された生茶葉を用いた場合であっても、番茶臭が低減されており、静置工程S34に進行する発酵によって香気成分が生じるため、残存する番茶臭がこの香気成分によりマスキングされ、番茶臭がさらに低減された発酵茶となっている。より詳細には、本実施形態により得られた茶の茶飲料は、分離工程、選別工程、加圧工程及び静置工程を経て製造されていない茶の茶飲料と比較して、得られた茶の茶飲料中に含まれる2,4-ヘプタジエナールの含有量が30%以上減少していることが好ましく、40%以上減少していることがより好ましい。また、本実施形態により得られた茶の茶飲料は、分離工程、選別工程、加圧工程及び静置工程を経て製造されていない茶の茶飲料と比較して、得られた茶の茶飲料中に含まれる1-ペンテン-3-オールの含有量が40%以上減少していることが好ましく、50%以上減少していることがより好ましい。本発明の各工程を経ることにより、2,4-ヘプタジエナール及び/又は1-ペンテン-3-オールをはじめとした不快な番茶臭が低減された茶が得られる。さらに、本実施形態により得られた茶の茶飲料は、分離工程、選別工程、加圧工程及び静置工程を経て製造されていない茶の茶飲料と比較して、得られた茶の茶飲料中に含まれるリナロール、ネロリドール及びジャスモンから選択される香気成分のうち、1つ以上の香気成分の含有量が増加していることがより好ましい。このように、本実施形態の方法によれば、紅茶等の発酵茶飲料の番茶臭を低減することができ、容器詰めの茶飲料の生産に有効に活用し得る。また、本実施形態の方法により得られる発酵茶は、加圧工程S33及び静置工程S34で茶葉の萎凋処理と代替可能な処理を行っているため、通常の発酵茶の製造工程のうちの萎凋工程を省略させることができ、それゆえ、短時間で発酵茶P3が得られ、製造にかかるコストも低コストとすることができる。
【実施例0060】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0061】
以下の実施例及び比較例で得られた茶の評価方法は下記の通りである。これらの評価は、茶に関し知見をもつ者3名により行われた。
(1)水色
実施例及び比較例により製造された茶3gに対し、100℃の湯を150mL加え香蘭社製テイスティングポット内で3分間抽出し、その抽出液を視認して水色を評価した。
(2)番茶臭
実施例及び比較例により製造された茶3gに対し、100℃の湯を150mL加え香蘭社製テイスティングポット内で3分間抽出し、その抽出液を試飲して番茶臭の有無を評価した。番茶臭が感じられた場合には「有り」とし、その強度を「強」、「中」及び「弱」で評価した。また、番茶臭が感じられなかった場合には、「無し」と評価した。
(3)フローラル臭又は果実臭
実施例及び比較例により製造された茶3gに対し、100℃の湯を150mL加え香蘭社製テイスティングポット内で3分間抽出し、その抽出液を試飲してフローラル臭又は果実臭の有無を評価した。フローラル臭又は果実臭が感じられた場合には「有り」とし、フローラル臭又は果実臭が感じられなかった場合には、「無し」と評価した。
(4)香味評価
実施例及び比較例により製造された茶3gに対し、100℃の湯を150mL加え香蘭社製テイスティングポット内で3分間抽出し、その抽出液を試飲して、番茶臭が強く感じられるものを「-3」、番茶臭が感じられるものを「-2」、番茶臭がやや感じられるものを「-1」、番茶臭が感じられず、緑茶臭が感じられるものを「0」、番茶臭が感じられず、フローラル臭又は果実臭がやや感じられるものを「+1」、番茶臭が感じられず、フローラル臭又は果実臭が感じられるものを「+2」、番茶臭が感じられず、フローラル臭又は果実臭が強く感じられるものを「+3」として評価した。
【0062】
[実施例1]
10月12日に摘採された秋冬番茶に相当する生茶葉を用い、実施例1の茶を製造した。摘採したやぶきたの生茶葉を、回転打圧装置(特開2021-114908号公報参照、製品名「スーパーグリーン」、カワサキ機工株式会社製品)に供給し、茶葉流量150kg/hで800rpmの条件にて処理し、装置胴部内に供給された生茶葉を掻き上げて攪拌しつつ胴部の内周面に叩き付けて打圧することにより、生茶葉を葉の部分と茎の部分とに分離する分離処理を行った。その後、回転打圧装置にて分離処理された茶葉を風力選別装置(特開2001-104889号公報参照、製品名「中火茶選別機」、カワサキ機工株式会社製品)に供給し、風力により葉の部分を選別する選別処理を行った。続いて、ローラープレス(実開昭54-101000号公報参照)のローラーの間隙を実質的に間隙が無く(略0mm)、対向するローラーに軽く当接した状態に設定し、選別された葉をローラープレスに導入して加圧荷重100Nで葉の表面を弱めに加圧し、葉の細胞に軽い損傷を与えた。加圧処理された葉をコンテナに入れ、23~28℃の室温で2~4時間静置し、葉の発酵を促した。なお、葉を静置してから蒸熱処理が完了するまでの時間に幅があったため、静置時間は2~4時間となっている。静置処理後の葉については、常法に従って蒸熱工程(処理条件:葉流量150kg/h、蒸気量80kg/h、傾斜4度、胴回転40rpm、攪拌回転300rpm)、粗揉工程(処理条件:処理時間60分、茶温36.5℃)、揉捻工程(処理条件:処理時間15分、分銅位置5/10)及び再乾処理(処理条件:処理時間40分、熱風70℃)を行い、実施例1の茶を21kg得た。得られた茶を用いて水色及び香味等の評価を行った。結果を表1に示す。
【0063】
[実施例2]
10月12日に摘採された秋冬番茶に相当する生茶葉を用い、本実施例に係る茶を製造した。本試験では、加圧工程におけるローラープレスでの加圧荷重を600Nと実施例1よりも強めに設定し、静置工程における静置時間を1時間に変更した以外は、実施例1の製造方法と同様の手順及び方法にて茶を製造し、実施例2の茶を5.5kg得た。得られた茶を用いて水色及び香味等の評価を行った。結果を表1に示す。
【0064】
[実施例3]
10月12日に摘採された秋冬番茶に相当する生茶葉を用い、本実施例に係る茶を製造した。本試験では、実施例2で用いた品種「やぶきた」に替えて品種「ゆたかみどり」を用いた以外は、実施例2の製造方法と同様の手順及び方法にて茶を製造し、実施例3の茶を5.3kg得た。得られた茶を用いて水色及び香味等の評価を行った。結果を表1に示す。
【0065】
[実施例4]
9月29日に摘採されたやぶきたの秋冬番茶に相当する生茶葉を用い、本実施例に係る茶を製造した。本試験では、加圧工程におけるローラープレスでの加圧荷重を200Nと実施例1よりもやや強めに設定し、静置工程における静置時間を2時間に変更したほか、再乾工程を設けずに、揉捻工程後に中揉工程、精揉工程及び乾燥工程(処理条件:処理時間15分、熱風75℃)を設けたこと以外は、実施例1の製造方法と同様の手順及び方法にて茶を製造し、実施例4の茶を3.5kg得た。得られた茶を用いて水色及び香味等の評価を行った。結果を表1に示す。
【0066】
[実施例5]
9月29日に摘採されたやぶきたの秋冬番茶に相当する生茶葉を用い、本実施例に係る茶を製造した。本試験では、加圧工程におけるローラープレスでの加圧荷重を1000Nとこれまでで最も強めに設定したほかは、実施例4の製造方法と同様の手順及び方法にて茶を製造し、実施例5の茶を3.5kg得た。得られた茶を用いて水色及び香味等の評価を行った。結果を表1に示す。
【0067】
[実施例6]
10月6日に摘採されたやぶきたの秋冬番茶に相当する生茶葉を用い、本実施例に係る茶を製造した。本試験では、加圧工程におけるローラープレスでの加圧に替えて、ローターバン機を用いて葉の加圧処理を行い、静置工程における静置時間を30分間に変更したほか、中揉工程を行わなかったこと以外は、実施例4の製造方法と同様の手順及び方法にて茶を製造し、実施例6の茶を2.5kg得た。得られた茶を用いて水色及び香味等の評価を行った。結果を表1に示す。
【0068】
[比較例1]
10月10日に摘採されたやぶきたの秋冬番茶に相当する生茶葉を用い、本比較例に係る茶を製造した。本比較例では、表1に示すように、本発明に係る分離工程、選別工程、加圧工程及び静置工程を経ていない茶を製造した。なお、摘採された生茶葉の蒸熱工程からの製茶工程は、実施例4の製造方法と同様の手順及び方法である。得られた茶を用いて水色及び香味等の評価を行った。結果を表1に示す。
【0069】
[比較例2]
10月10日に摘採されたやぶきたの秋冬番茶に相当する生茶葉を用い、本比較例に係る茶を製造した。本比較例では、表1に示すように、本発明に係る分離工程、選別工程、加圧工程及び静置工程を経ていない茶を製造した。なお、摘採された生茶葉の蒸熱工程からの製茶工程は、実施例1の製造方法と同様の手順及び方法である。得られた茶を用いて水色及び香味等の評価を行った。結果を表1に示す。
【0070】
【0071】
上述した実施例1~6及び比較例1、2の結果を表1に示す。各抽出液の水色については、従来の製造方法で得られた茶(比較例1、2)では緑黄色を示したのに対し、本発明の製造方法により得られた茶では、黄褐色(実施例1、2)、薄赤褐色(実施例3、4)及び赤褐色(実施例5、6)を示した。一般的に水色は、葉の発酵が進むに従い、緑黄色から赤褐色へと変化することから、実施例1、2の茶より実施例3、4の茶は発酵が進んでおり、さらには、実施例5、6の茶は、実施例3、4の茶よりも発酵度が高くなっていることが明らかとなった。この結果は、加圧工程における加圧荷重と静置工程における静置時間の選択により、所望の発酵度の茶を製造できることを示している。そのため、緑茶のみならず、半発酵茶や発酵茶についても、本発明における分離工程~静置工程を経ることで、萎凋工程を経ずに製造できることが分かった。また、実施例2と実施例3の結果によれば、同じ試験条件であっても、やぶきた品種よりもゆたかみどり品種の方が発酵度が高いことから、品種の違いにより発酵度に差が生じることが分かった。
【0072】
香味評価については、従来の製造方法で得られた茶(比較例1、2)では、強い番茶臭が感じられ、フローラル臭又は果実臭は感じられず、香味評価は最も低い「-3」であった。他方、本発明の製造方法で得られた茶(実施例1~6)では、番茶臭は失われており、実施例1、2で得られた茶ではスッキリとした緑茶様の香りが感じられるとの良い評価であった。また、実施例3~6で得られた茶ではフローラル臭又は果実臭が加わり、香味評価もプラスの点数となった。この結果は、上述した水色の評価とも同様に、茶の発酵が進行するに伴い、フローラル臭又は果実臭と呼ばれるネロリドールやリナロールなどの香気成分が発生したことによるものと推測される。これらのことから、加圧工程における加圧荷重と静置工程における静置時間の選択により、所望の香りの茶を製造できることを示している。加圧荷重としては、100N以上で番茶臭が低減されるところ、600Nとすると、発酵し難い品種であるやぶきたを用いた場合であっても静置時間1時間で番茶臭が低減され、緑茶タイプの茶飲料が得られることが明らかとなった(実施例2)。
【0073】
[実施例7]
本実施例7では、上述した比較例及び実施例で得た茶に含まれる香気成分について、以下の試験方法にてGC/MSによる分析を行った。
【0074】
上述した比較例1、実施例4及び実施例5で得た茶を試験サンプルとした。試験サンプルである茶3gに対し、80℃の湯を200mL加え3分間抽出した。得られた抽出液10mLを20mLバイアル瓶に移し、直ぐに蓋を締めた。バイアル内の揮発性成分をSPMEファイバー(DVB/CAR/PDMS)に10分間常温で吸着させ、吸着した成分をGC/MSに導入した。分析条件は以下の通りである。
・測定装置:アジレント7890A GCシステム、アジレント5975C inert MSD(アジレント・テクノロジー株式会社製品)
・カラム:DB-WAX UI(60m×0.25mm×0.25μm、アジレント・テクノロジー株式会社製品)
・キャリアガス:He
・イオン化法:EI法
・GC昇温条件:40℃(4min保持)→7℃/min昇温→250℃(2min保持)
【0075】
比較例1に係るサンプルのGC/MSのスペクトルを
図4~6に、実施例4に係るサンプルのGC/MSのスペクトルを
図7~9に、実施例5に係るサンプルのGC/MSのスペクトルを
図10~12に示す。測定して得られたスペクトルについてライブラリー検索を行い、香気成分を推定してピーク面積を算出した。比較例1の香気成分をみると、ピーク面積の大きな香気成分としては、ジメチルスルフィド(ピーク番号:1)、ヘキサナール(ピーク番号:11)、2,4-ヘプタジエナール(ピーク番号:25)及びインドール(ピーク番号:43)が挙げられるが、このうち、ジメチルスルフィドは玉露の香り、ヘキサナールは緑茶のグリーン臭、インドールは花の香りとされているのに対し、2,4-ヘプタジエナールは「生ぐさ臭」や「古い油様臭」とも表現される不快臭を呈する。2,4-ヘプタジエナールは、低級茶には含まれているが高級茶には含まれない成分ともされており(原利男・久保田悦郎、“緑茶と紅茶の香気成分の比較”、農林水産省茶業試験場、茶業技術研究、第50号、1976年7月、pp.68-73参照)、それゆえ、この2,4-ヘプタジエナールが番茶臭の主要因と推測された。
【0076】
比較例1、実施例4及び実施例5に係るサンプル間で共通する香気成分のうち、茶の香味評価に関連すると推測される香気成分について、比較例1に係るサンプルのピーク面積を100としたときの、実施例4、5に係るサンプルのピーク面積の相対比(%)を求めた。比較例1に係るサンプルにおいて検出されず、実施例4、5では検出された香気成分については、実施例4又は実施例5に係るピーク面積のいずれか大きい方を100とし、ピーク面積の相対比(%)を求めた。結果を下記表2に示す。なお、下記表2におけるNO.は、
図4~12に記載されている矢印が指し示すピーク番号と対応している。
【0077】
【0078】
表2に示すように、実施例4及び実施例5で得られた茶では、比較例1の茶と比べると、2,4-ヘプタジエナールが約40%減少していることが明らかとなった。2,4-ヘプタジエナールは、上述したように「生ぐさ臭」や「古い油様臭」とも表現される成分であり、番茶臭をもたらす主な成分であると考えられる。さらに、実施例4及び実施例5で得られた茶では、比較例1の茶と比べると、番茶臭の要因となる成分とされている(先行技術文献の特許文献2参照)、1-ペンテン-3-オールも約50%減少していることが確認された。その一方で、すずらん様のフローラルな香りとして知られている香気成分リナロールについては、比較例1の茶と比べると、実施例4で得られた茶は5倍、実施例5で得られた茶では2.2倍増加していた。さらに、フローラルな香りを呈する香気成分ネロリドールについても、比較例1の茶と比較すると、実施例4で得られた茶では約2.3倍、実施例5で得られた茶では約2.7倍増加していることが確認された。そして、ジャスミン様のフローラルな香りを呈する香気成分ジャスモンは、比較例1の茶では検出されず、実施例4及び実施例5で得られた茶では比較的大きなピークとして検出されていることが確認された。
【0079】
これらのことから、本発明に係る分離工程及び選別工程において、茶の原料から茎を除去し、葉を選別することで番茶臭の要因となる香気成分が減少すること、及び本発明に係る加圧工程及び静置工程により葉の発酵が促進されることで、リナロール、ネロリドール及びジャスモンといったフローラル臭又は果実臭を呈する香気成分の生成が増加し、残存する番茶臭がマスキングされると共に、快い香りを供するようになることが明らかとなった。
本発明に係る茶の製造方法は、低コストかつ簡便に番茶臭を低減させることができるため、食品産業に貢献することができる。また、本発明によって製造された茶は、特に容器詰め茶飲料の製造において幅広く利用され得る。