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  • 特開-飛翔体発射装置及び飛翔体発射方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063398
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】飛翔体発射装置及び飛翔体発射方法
(51)【国際特許分類】
   F41F 3/04 20060101AFI20240502BHJP
   B64G 5/00 20060101ALI20240502BHJP
   F41G 9/00 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
F41F3/04
B64G5/00 105
F41G9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171310
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 聡
(72)【発明者】
【氏名】木下 新一
(57)【要約】
【課題】海上の艦船から発射する場合にも、飛翔体を目標位置により正確に到達させ得る飛翔体発射装置を提供する。
【解決手段】装置は、飛翔体発射機と、計測システムと、制御装置とを備え、制御装置は、到達位置偏差演算部及び評価部と、角度偏差演算部及び評価部と、偏差総合評価部とを備え、到達位置偏差演算部は、計測システムにより計測された飛翔体発射機の運動パラメータと感度表とに基づき飛翔体の到達位置偏差を演算し、評価部は、到達位置偏差が許容値以下である場合に真理値1の信号を出力し、角度偏差演算部は、計測システムにより計測された飛翔体発射機の角速度と発射遅延時間とに基づき飛翔体の角度偏差を演算し、評価部は、角度偏差が許容値以下である場合に真理値1の信号を出力し、偏差総合評価部は、両評価部から出力される信号の真理値がいずれも1である場合に、飛翔体発射機に対して発射指令信号を出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛翔体発射機と、
角速度を含む前記飛翔体発射機の複数の運動パラメータを計測する計測システムと、
前記計測システムによって計測された前記運動パラメータに基づいて、所定の条件が満たされた場合に前記飛翔体発射機に対して発射指令信号を出力するように構成された制御装置と、
を備える飛翔体発射装置であって、
前記制御装置は、
到達位置偏差演算部及び到達位置偏差評価部と、
角度偏差演算部及び角度偏差評価部と、
偏差総合評価部と、
を備え、
前記到達位置偏差演算部は、それぞれの前記運動パラメータの偏差と当該偏差に起因する飛翔体の到達位置の偏差との関係が対応付けて記録された感度表と、前記計測システムによって計測された前記運動パラメータと、に基づいて、前記飛翔体の到達位置偏差を演算し、
前記到達位置偏差評価部は、前記到達位置偏差演算部によって算出された前記到達位置偏差が到達位置偏差最大許容値以下である場合に、真理値1の信号を出力するように構成され、
前記角度偏差演算部は、前記計測システムによって計測された前記角速度と、前記飛翔体発射機と前記飛翔体との組み合わせに固有の発射遅延時間とに基づいて、当該発射遅延時間に起因する前記飛翔体の角度偏差を演算し、
前記角度偏差評価部は、前記角度偏差演算部によって算出された前記角度偏差が角度偏差最大許容値以下である場合に、真理値1の信号を出力するように構成され、
前記偏差総合評価部は、前記到達位置偏差評価部から出力される信号の真理値、及び、前記角度偏差評価部から出力される信号の真理値が、いずれも1である場合に、前記発射指令信号を出力するように構成されている、飛翔体発射装置。
【請求項2】
前記複数の運動パラメータは、前記飛翔体発射機の位置及び速度を含み、
前記複数の運動パラメータは、地球に固定された座標系を基準として計測される、
ことを特徴とする、請求項1に記載の飛翔体発射装置。
【請求項3】
以下のステップを含む飛翔体発射方法。
(a)角速度を含む飛翔体発射機の複数の運動パラメータのそれぞれの基準値からの偏差と、当該偏差に起因して生じる飛翔体の到達位置の基準到達位置からの偏差である到達位置偏差と、の関係が対応付けて記録された感度表を準備するステップ
(b)前記複数の運動パラメータを計測するステップ
(c)前記感度表と、計測された前記運動パラメータの前記基準値からの偏差である実偏差と、に基づいて、前記飛翔体の実際の到達位置の前記基準到達位置からの偏差である実到達位置偏差を演算するステップ
(d)計測された前記角速度と、前記飛翔体発射機と前記飛翔体との組み合わせに固有の発射遅延時間とに基づいて、当該発射遅延時間に起因する前記飛翔体の角度偏差を演算するステップ
(e)算出された前記実到達位置偏差が、到達位置偏差最大許容値以下であるか否かを判定するステップ
(f)算出された前記角度偏差が、角度偏差最大許容値以下であるか否かを判定するステップ
(g)ステップ(e)及び(f)における判定結果が共に真である場合に、前記飛翔体発射機に対して前記飛翔体の発射を指令するステップ
【請求項4】
前記複数の運動パラメータは、前記飛翔体発射機の位置及び速度を含み、
前記複数の運動パラメータは、地球に固定された座標系を基準として計測される、
ことを特徴とする、請求項3に記載の飛翔体発射方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、飛翔体発射装置及び飛翔体発射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飛翔体を発射する場合、まず、飛翔体発射機を、飛翔体が目標位置に到達するような状態にする必要がある。具体的には、飛翔体発射機の方位角及び迎角が、飛翔体を目標位置に到達させるような値に設定される。
【0003】
飛翔体発射機の方位角及び迎角の設定値は、地球に固定された座標系(以下、地球座標系)において実行される飛翔体の弾道シミュレーションに基づいて決定される。
【0004】
飛翔体を地上から発射する場合、飛翔体発射機の方位角及び迎角を、上述した弾道シミュレーションに基づく値に設定すれば、飛翔体を目標位置に正確に到達させることができる。
【0005】
一方、飛翔体を海上の艦船から発射する場合、海上の艦船は波浪の影響により常に揺動しているため、問題が生じる。この場合、飛翔体発射機は艦船に固定されているため、その方位角及び迎角は、艦船に固定された座標系(以下、艦船座標系)において定義される角度である。艦船座標系が地球座標系と完全に一致していれば、地上から発射する場合と同様に、飛翔体発射機の方位角及び迎角を、上述した弾道シミュレーションに基づく値に設定すれば、飛翔体を目標位置に正確に到達させることができる。
【0006】
しかしながら、艦船座標系と地球座標系との完全な一致は、瞬間的に生じることはあるものの、通常、両座標系の間には、ずれが存在する。したがって、艦船座標系において定義される飛翔体発射機の方位角及び迎角を、地球座標系において実行された弾道シミュレーションに基づく値に設定しても、上述したずれの故に、飛翔体を目標位置に正確に到達させることはできない。
【0007】
このような問題に対処するために、特許文献1は、海上の艦船から発射する場合であっても、飛翔体を目標位置に正確に到達させることができるよう、艦船座標系と地球座標系とのずれ角を検出する手段を設け、検出されたずれ角に基づいて飛翔体発射機の方位角及び迎角を修正する技術を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1-312398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1が開示する技術において、飛翔体を目標位置に正確に到達させることを目的として、飛翔体発射機の方位角及び迎角を修正するために考慮されているのは、艦船座標系と地球座標系とのずれ角のみである。
【0010】
しかしながら、飛翔体発射機を搭載した艦船は、たとえ推進装置による推進が行われていない場合であっても、海流及び/又は潮流の影響により海上を並進運動し、その位置及び速度が時々刻々と変化する。この並進運動による艦船の位置及び速度の変化を考慮することなく発射した場合、飛翔体は、その分だけ目標位置からずれた位置に到達することになってしまう。
【0011】
また、飛翔体発射機が発射指令信号を受信してから、飛翔体が飛翔体発射機を離れて飛翔を開始するまでには、若干の時間が経過するため、この間に艦船が揺動していた場合には、それに起因して方位角及び迎角の更なるずれが生じてしまう。この方位角及び迎角の更なるずれを考慮することなく発射した場合にも、飛翔体は、その分だけ目標位置からずれた位置に到達することになってしまう。
【0012】
本開示は、以上のような問題に鑑みてなされたものであって、海上の艦船から発射する場合であっても、飛翔体を目標位置により正確に到達させることができる飛翔体発射装置及び飛翔体発射方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本開示の第1の態様の飛翔体発射装置は、飛翔体発射機と、角速度を含む前記飛翔体発射機の複数の運動パラメータを計測する計測システムと、前記計測システムによって計測された前記運動パラメータに基づいて、所定の条件が満たされた場合に前記飛翔体発射機に対して発射指令信号を出力するように構成された制御装置と、を備え、前記制御装置は、到達位置偏差演算部及び到達位置偏差評価部と、角度偏差演算部及び角度偏差評価部と、偏差総合評価部と、を備え、前記到達位置偏差演算部は、それぞれの前記運動パラメータの偏差と当該偏差に起因する飛翔体の到達位置の偏差との関係が対応付けて記録された感度表と、前記計測システムによって計測された前記運動パラメータと、に基づいて、前記飛翔体の到達位置偏差を演算し、前記到達位置偏差評価部は、前記到達位置偏差演算部によって算出された前記到達位置偏差が到達位置偏差最大許容値以下である場合に、真理値1の信号を出力するように構成され、前記角度偏差演算部は、前記計測システムによって計測された前記角速度と、前記飛翔体発射機と前記飛翔体との組み合わせに固有の発射遅延時間とに基づいて、当該発射遅延時間に起因する前記飛翔体の角度偏差を演算し、前記角度偏差評価部は、前記角度偏差演算部によって算出された前記角度偏差が角度偏差最大許容値以下である場合に、真理値1の信号を出力するように構成され、前記偏差総合評価部は、前記到達位置偏差評価部から出力される信号の真理値、及び、前記角度偏差評価部から出力される信号の真理値が、いずれも1である場合に、前記発射指令信号を出力するように構成されている。
【0014】
本開示の第2の態様の飛翔体発射装置において、前記複数の運動パラメータは、前記飛翔体発射機の位置及び速度を含み、前記複数の運動パラメータは、地球に固定された座標系を基準として計測される。
【0015】
本開示の第1の態様の飛翔体発射方法は、以下のステップを含む。
(a)角速度を含む飛翔体発射機の複数の運動パラメータのそれぞれの基準値からの偏差と、当該偏差に起因して生じる飛翔体の到達位置の基準到達位置からの偏差である到達位置偏差と、の関係が対応付けて記録された感度表を準備するステップ
(b)前記複数の運動パラメータを計測するステップ
(c)前記感度表と、計測された前記運動パラメータの前記基準値からの偏差である実偏差と、に基づいて、前記飛翔体の実際の到達位置の前記基準到達位置からの偏差である実到達位置偏差を演算するステップ
(d)計測された前記角速度と、前記飛翔体発射機と前記飛翔体との組み合わせに固有の発射遅延時間とに基づいて、当該発射遅延時間に起因する前記飛翔体の角度偏差を演算するステップ
(e)算出された前記実到達位置偏差が、到達位置偏差最大許容値以下であるか否かを判定するステップ
(f)算出された前記角度偏差が、角度偏差最大許容値以下であるか否かを判定するステップ
(g)ステップ(e)及び(f)における判定結果が共に真である場合に、前記飛翔体発射機に対して前記飛翔体の発射を指令するステップ
【0016】
本開示の第2の態様の飛翔体発射方法において、前記複数の運動パラメータは、前記飛翔体発射機の位置及び速度を含み、前記複数の運動パラメータは、地球に固定された座標系を基準として計測される。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、海上の艦船から発射する場合であっても、飛翔体を目標位置により正確に到達させることができるという、優れた効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本開示の実施形態の飛翔体発射装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
図1は、本開示の実施形態の飛翔体発射装置を示すブロック図である。
【0021】
飛翔体発射装置1は、飛翔体発射機10及び制御装置20を備えている。
【0022】
飛翔体発射機10は、図示は省略するが、鉛直軸の周りを回転するように構成された台座と、飛翔体を収容した状態で台座に対して上下方向に回動するように構成された発射筒(又は滑走台)と、を備えている。台座が鉛直軸の周りを回転することにより、飛翔体の発射時における方位角が調整され、発射筒が台座に対して上下方向に回動することにより、飛翔体の発射時における迎角が調整される。
【0023】
飛翔体発射機10は、計測システム15を備えている。計測システム15は、飛翔体発射機10の以下の運動パラメータ(複数の運動パラメータ)を計測するように構成されている。
(1)発射機位置
飛翔体発射機10のX方向の位置X、及び、Y方向の位置Yである。ここで、X方向、Y方向は、それぞれ、地球に固定された座標系(地球座標系)における東西方向、南北方向である。
(2)発射機速度
飛翔体発射機10の移動速度のX方向(同上)の成分Vx、及び、Y方向(同上)の成分Vyである。
(3)発射機角速度
飛翔体発射機10のロール軸(水平面上において第1の方向に延びる軸)、ピッチ軸(水平面上において第1の方向に対して垂直な第2の方向に延びる軸)及びヨー軸(鉛直軸)のそれぞれの周りの回転運動の角速度ω、ω、ωである。これらの角速度は、地球座標系を基準として計測される。
(4)発射機角度
飛翔体発射機10の方位角θ及び迎角φである。これらの角度は、飛翔体発射機10、したがって飛翔体発射装置1が搭載される艦船(図示省略)に固定された座標系(艦船座標系)において定義される。
【0024】
計測システム15は、例えばGPS/INS複合システムであることができる。GPS/INS複合システムは、GPS(Global Positioning System;全地球測位システム)とINS(Inertial Navigation System;慣性航法システム)から成るシステムである。この場合、上記(1)~(4)の運動パラメータのうち、(1)及び(2)の運動パラメータはGPSによって、(3)及び(4)の運動パラメータはINSによって、それぞれ計測される。
【0025】
なお、計測システム15は、GPS/INS複合システムに限定されず、上述した運動パラメータ(1)~(4)を計測することができる限り、任意のシステムであることができる。
【0026】
計測システム15は、計測した上記運動パラメータを、後述する制御装置20の到達位置偏差演算部21及び角度偏差演算部23へ出力する。
【0027】
制御装置20は、到達位置偏差演算部21及び到達位置偏差評価部22と、角度偏差演算部23及び角度偏差評価部24と、偏差総合評価部25と、を備え、後述するように、計測システム15から入力される運動パラメータに基づいて演算及び評価を行い、所定の条件が満たされる場合に、飛翔体発射機10に対して発射指令信号Lを出力するように構成されている。
【0028】
なお、制御装置20は、計測システム15から入力される(4)の運動パラメータ(発射機角度;飛翔体発射機10の方位角θ及び迎角φ)の計測値が、設定値(すなわち、地球座標系において実行される飛翔体の弾道シミュレーションに基づいて決定された、飛翔体を目標位置に到達させるような値)に一致するよう、飛翔体発射機10の台座及び発射筒を操作する機能も有している。
【0029】
到達位置偏差演算部21は、飛翔体発射機10の計測システム15から入力された上記運動パラメータの計測値を用いて、到達位置偏差、すなわち飛翔体の到達位置と後述する基準到達位置との偏差を演算する。
【0030】
到達位置偏差の演算は、到達位置偏差演算部21内の記憶装置(図示省略)に記憶された感度表に基づいて行われる。
【0031】
感度表は、予め行われる飛翔体の弾道シミュレーションの結果に基づいて作成される。この弾道シミュレーションを行うにあたっては、上述した運動パラメータのそれぞれについて、基準値が設定される。そして、全ての運動パラメータがそれぞれの基準値に等しいという条件の下で弾道シミュレーションが行われ、飛翔体の到達位置(基準到達位置)が算出される。次いで、運動パラメータごとに、当該運動パラメータとその基準値との間に偏差が生じたと仮定して弾道シミュレーションが行われ、飛翔体の到達位置が算出される。そして、運動パラメータごとに、仮定された偏差と、飛翔体の到達位置と基準到達位置との偏差、すなわち到達位置偏差とが、対応付けられた状態で感度表に記録される。
【0032】
例えば、運動パラメータPの基準値がPi,rであり、全ての運動パラメータP(i=1~n)がそれぞれの基準値Pi,rに等しいという条件の下で行われた弾道シミュレーションにより算出された飛翔体の到達位置(基準到達位置)が(X,Y)であったとする。また、i=1~nのそれぞれについて、運動パラメータPの値をPi,r+ΔP(ΔP:偏差)として行われた弾道シミュレーションにより算出された飛翔体の到達位置が(X+ΔX,Y+ΔY)であったとする。この場合、感度表には、運動パラメータP(i=1~n)のそれぞれについて、仮定された偏差ΔPと、到達位置偏差(ΔX,ΔY)とが、互いに対応付けられた状態で記録される。
【0033】
上述した感度表によれば、運動パラメータPが基準値Pi,rからΔPだけずれると、飛翔体は、全ての運動パラメータP(i=1~n)がそれぞれの基準値Pi,rに等しい場合に実現される基準到達位置から、(ΔX,ΔY)だけずれた位置に到達することになることが分かる。
【0034】
到達位置偏差演算部21は、計測システム15から入力された運動パラメータの計測値Pi,m(i=1~n)と、感度表に記録された各運動パラメータの基準値Pi,r(i=1~n)とに基づいて、まず、以下の式(1)により、i=1~nのそれぞれについて、両者の偏差(実偏差)ΔPi,aを算出する。
ΔPi,a=Pi,m-Pi,r(i=1~n) (1)
【0035】
次いで、到達位置偏差演算部21は、感度表に記録された偏差ΔPと到達位置偏差(ΔX,ΔY)との関係に基づいて、以下の式(2-1)及び(2-2)により、飛翔体の実際の到達位置と基準到達位置との偏差(実到達位置偏差)(ΔX,ΔY)を算出する。
ΔX=Σ[(ΔPi,a/ΔP)×ΔX] (2-1)
ΔY=Σ[(ΔPi,a/ΔP)×ΔY] (2-2)
ただし、記載を省略しているが、式(2-1)及び(2-2)における総和(Σ)は、i=1~nについて取るものとする。
【0036】
到達位置偏差演算部21において算出された実到達位置偏差(ΔX,ΔY)は、到達位置偏差評価部22へ出力される。
【0037】
到達位置偏差評価部22は、実到達位置偏差(ΔX,ΔY)の絶対値が実到達位置偏差最大許容値(ΔXa,max,ΔYa,max)以下であるか否か、すなわち以下の式(3-1)及び(3-2)が満たされるか否かを評価する(ここで、ΔXa,max>0、ΔYa,max>0である)。
|ΔX|≦ΔXa,max (3-1)
|ΔY|≦ΔYa,max (3-2)
そして、式(3-1)及び(3-2)の両方が満たされる場合、到達位置偏差評価部22は、真理値1(真)の信号を、偏差総合評価部25へ出力する。なお、式(3-1)及び(3-2)のうち少なくとも一方が満たされない場合、到達位置偏差評価部22は、真理値0(偽)の信号を偏差総合評価部25へ出力する。
【0038】
次に、角度偏差演算部23は、計測システム15から入力された発射機角速度(ω,ω,ω)の計測値に基づいて、以下の式(4-1)~(4-3)により、角度偏差(Δθ,Δθ,Δθ)を算出する。
Δθ=ω×(T+T) (4-1)
Δθ=ω×(T+T) (4-2)
Δθ=ω×(T+T) (4-3)
【0039】
ここで、Tは、飛翔体発射機10が発射指令信号Lを受信してから飛翔体の推進薬の点火までに要する時間、Tは、飛翔体の推進薬の点火から飛翔体が発射筒を離れて飛翔を開始するまでに要する時間であり、いずれも、飛翔体と飛翔体発射機10との組み合わせに固有の定数である。すなわち、(T+T)は、発射指令信号Lの受信から、飛翔体が発射筒を離れて飛翔を開始するまでの遅延時間(発射遅延時間)である。したがって、角度偏差(Δθ,Δθ,Δθ)は、発射遅延時間(T+T)の間に飛翔体発射機10が揺動していた場合(すなわち、ω、ω、ωが0でない場合)に、当該揺動に起因して生じる角度の偏差である。
【0040】
角度偏差演算部23において算出された角度偏差(Δθ,Δθ,Δθ)は、角度偏差評価部24へ出力される。
【0041】
角度偏差評価部24は、角度偏差(Δθ,Δθ,Δθ)の絶対値が角度偏差最大許容値(ΔθR,max,ΔθP,max,ΔθY,max)以下であるか否か、すなわち以下の式(5-1)~(5-3)が満たされるか否かを評価する(ここで、ΔθR,max>0、ΔθP,max>0、ΔθY,max>0である)。
|Δθ|≦ΔθR,max (5-1)
|Δθ|≦ΔθP,max (5-2)
|Δθ|≦ΔθY,max (5-3)
そして、式(5-1)~(5-3)の全てが満たされる場合、角度偏差評価部24は、真理値1(真)の信号を、偏差総合評価部25へ出力する。なお、式(5-1)~(5-3)のうち少なくとも一つが満たされない場合、角度偏差評価部24は、真理値0(偽)の信号を偏差総合評価部25へ出力する。
【0042】
上述したように到達位置偏差評価部22及び角度偏差評価部24のそれぞれから出力された信号は、偏差総合評価部25に入力される。偏差総合評価部25は、実質的に論理積(AND)演算回路として構成されており、到達位置偏差評価部22から入力される信号の真理値及び角度偏差評価部24から入力される信号の真理値が共に1(真)の場合のみ、飛翔体発射機10に対して発射指令信号Lを出力する。なお、到達位置偏差評価部22から入力される信号の真理値及び角度偏差評価部24から入力される信号の真理値のうち少なくとも一方が0(偽)である場合、偏差総合評価部25から飛翔体発射機10に対して発射指令信号Lは出力されない。
【0043】
このように、飛翔体発射機10の運動に起因する到達位置偏差の絶対値、及び、飛翔体発射機10からの飛翔体の発射遅延時間に起因する角度偏差絶対値が、共に最大許容値以下である場合にのみ飛翔体発射機10に対して発射指令信号Lが出力されるように構成されていることにより、本開示の実施形態の飛翔体発射装置1によれば、海上の艦船から発射する場合であっても、飛翔体を目標位置により正確に到達させることができるという優れた効果を得ることができる。
【0044】
なお、本開示の実施形態の飛翔体発射装置1による飛翔体発射方法は、以下のステップを含むものである。
(a)角速度を含む飛翔体発射機の複数の運動パラメータのそれぞれの基準値からの偏差と、当該偏差に起因して生じる飛翔体の到達位置の基準到達位置からの偏差である到達位置偏差と、の関係が対応付けて記録された感度表を準備するステップ
(b)角速度を含む飛翔体発射機の複数の運動パラメータを計測するステップ
(c)感度表と、計測された運動パラメータの基準値からの偏差である実偏差と、に基づいて、飛翔体の実際の到達位置の基準到達位置からの偏差である実到達位置偏差を演算するステップ
(d)計測された角速度と、飛翔体発射機と飛翔体との組み合わせに固有の発射遅延時間とに基づいて、当該発射遅延時間に起因する飛翔体の角度偏差を演算するステップ
(e)算出された実到達位置偏差が、到達位置偏差最大許容値以下であるか否かを判定するステップ
(f)算出された角度偏差が、角度偏差最大許容値以下であるか否かを判定するステップ
(g)ステップ(e)及び(f)における判定結果が共に真である場合に、飛翔体発射機に対して飛翔体の発射を指令するステップ
【0045】
本開示の実施形態は、上述したものに限定されない。例えば、制御装置20を、到達位置偏差演算部21及び到達位置偏差評価部22のみを備えるものとして構成し、到達位置偏差演算部21において算出された実到達位置偏差が到達位置偏差最大許容値以下である場合にのみ、到達位置偏差評価部22が飛翔体発射機10に対して発射指令信号Lを出力するようにしてもよい。同様に、制御装置20を、角度偏差演算部23及び角度偏差評価部24のみを備えるものとして構成し、角度偏差演算部23において算出された角度偏差が角度偏差最大許容値以下である場合にのみ、角度偏差評価部24が飛翔体発射機10に対して発射指令信号Lを出力するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 飛翔体発射装置
10 飛翔体発射機
15 計測システム
20 制御装置
21 到達位置偏差演算部
22 到達位置偏差評価部
23 角度偏差演算部
24 角度偏差評価部
25 偏差総合評価部
図1